特許異議申立
2023-701276
トイレットロール
- 審判番号
- 2023-701276
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-064970
- 登録番号
- 7287532
- 請求日
- 2023年12月04日
- 審決日
- 2024年09月26日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】金山 愼一
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 加藤 範久
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.121-YAA(A47K) / P1651.536-YAA(A47K) / P1651.537-YAA(A47K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第4項、特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7287532号発明「トイレットロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7287532号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5、6〕について訂正することを認める。
特許第7287532号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7287532号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成28年8月9日に出願された特願2016-156380号の一部を令和2年7月9日に新たな特許出願とした特願2020-118216号の一部をさらに令和2年8月4日に新たな特許出願とした特願2020-132409号の一部をさらに令和4年4月11日に新たな特許出願としたものであって、令和5年5月29日にその特許権の設定登録がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年12月 4日 :
特許異議申立人 金山愼一(以下「申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年 2月 8日付け:取消理由通知書
同年 4月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 6月13日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年4月19日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許第7287532号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットロールの巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーは、エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有し、
前記トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが75μm以上110μm以下である、トイレットロール。」
と記載されているのを、
「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットロールの巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上であり、
前記トイレットペーパーは、エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有し、
前記トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが75μm以上110μm以下である、トイレットロール。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に、
「1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスを形成する工程であり、
前記エンボス加工を施す工程では、前記エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押しし、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットロールの巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが75μm以上110μm以下である、トイレットロールの製造方法。」
と記載されているのを、
「1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスを形成する工程であり、
前記エンボス加工を施す工程では、前記エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押しし、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットロールの巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上であり、
前記トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが75μm以上110μm以下である、トイレットロールの製造方法。」
に訂正する(請求項5の記載を直接的に引用する請求項6も同様に訂正する。)。
2 訂正の目的、特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項等について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1に係る発明の発明特定事項である「トイレットペーパー」について、その幅方向の引張強度を「前記トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上」とする限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
訂正事項1は、上記アのとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
ウ 新規事項の有無について
願書に添付された明細書の段落【0032】には、「トイレットペーパーの幅方向の引張強度は0.30N/15mm以上であることが好ましく、0.40N/15mm以上であることがより好ましい。」と記載されている。また段落【0062】の表1には、「実施例1」~「実施例3」の「幅方向(Y)」の「引張強度」(単位はN/15mm)が、それぞれ0.77、0.63、0.67と記載されている。
以上のことからみて、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載されたすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項5に係る発明の発明特定事項である「トイレットペーパー」について、その幅方向の引張強度を「前記トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上」とする限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
訂正事項2は、上記アのとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項5に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
ウ 新規事項の有無について
願書に添付された明細書の段落【0032】には、「トイレットペーパーの幅方向の引張強度は0.30N/15mm以上であることが好ましく、0.40N/15mm以上であることがより好ましい。」と記載されている。また段落【0062】の表1には、「実施例1」~「実施例3」の「幅方向(Y)」の「引張強度」(単位はN/15mm)が、それぞれ0.77、0.63、0.67と記載されている。
以上のことからみて、訂正事項2は、願書に添付した明細書等に記載されたすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)独立特許要件について
本件の特許異議の申立てにおいては、請求項1~6について特許異議の申立てがされているところ、本件訂正後における請求項1~6に記載されている事項により特定される発明について、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
(5)訂正の単位について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、直接または間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項5及び6について、請求項6は、請求項5を引用するものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項5及び6に対応する訂正後の請求項5及び6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同条9項により準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5、6〕についての訂正を認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、請求項番号に対応して、「本件発明1」等といい、全体の発明を「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットロールの巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上であり、
前記トイレットペーパーは、エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有し、
前記トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが75μm以上110μm以下である、トイレットロール。
【請求項2】
前記エンボスパターンでは、1個のエンボス直径は0.5mm以上2.0mm以下である請求項1に記載のトイレットロール。
【請求項3】
前記エンボスパターンでは、エンボス深さが0.85mm以下である請求項1又は2に記載のトイレットロール。
【請求項4】
前記トイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が65.0以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のトイレットロール。
【請求項5】
1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスを形成する工程であり、
前記エンボス加工を施す工程では、前記エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押しし、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットロールの巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上であり、
前記トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが75μm以上110μm以下である、トイレットロールの製造方法。
【請求項6】
前記凸構造の高さが0.85mm以下である請求項5に記載のトイレットロールの製造方法。」
第4 証拠一覧、特許異議申立理由の要旨、及び、取消理由通知に記載した取消理由の要旨
1 証拠一覧
(1)申立人により提出された証拠
申立人により提出された証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。
甲第1号証:特開2014-233363号公報
甲第2号証:特開2009-34278号公報
甲第3号証:特開2003-70678号公報
甲第4号証:特開平7-268800号公報
甲第5号証:特開2006-284366号公報
甲第6号証:特表2006-524093号公報
甲第7号証:特開2009-28457号公報
甲第8号証:特開2013-202346号公報
甲第9号証:特開平2-167695号公報
甲第10号証:特開2013-189728号公報
甲第11号証:特開2013-217004号公報
甲第12号証:
「ティシューソフトネス測定装置 Tissue Softness Analyzer Model TSA ティシューの柔らかさを分析するための新しくて客観的な測定技術」、2010年9月24日、独国emtec社日本総代理店 日本ルフト株式会社
甲第13号証:
「JIS P4501-1993 トイレットペーパー」、JISハンドブック2009 ○32 紙・パルプ、第791頁-第795頁、2009年1月30日発行、日本規格協会(当審注:「○32」は「○」の中に「32」を示す。)
甲第14号証:特開2003-61860号公報
甲第15号証:特開2015-66250号公報
甲第16号証:特開2014-198090号公報
甲第17号証:特開2013-208297号公報
甲第18号証:特開平10-234614号公報
甲第19号証:特開平5-278909号公報
甲第20号証:
株式会社吉田印刷所、「コラム(70)<資料>巻取紙に関する算式」、[online]、2013年3月19日更新、インターネット<URL:https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/column/formula-about-rolling-up-paper.html>
甲第21号証:
武祐一郎・鈴木 豊・藁科珍郎・竹下 寛、「紙の厚さに関する研究(第3報)測定圧による厚さの変化」、紙パ技協誌第16巻第134号、第421頁-第430頁、昭和37年5月、紙パルプ技術協会
甲第22号証:「報告書」、金山 慎一作成、2023年7月10日、写し
甲第23号証:異議2021-700100号の異議の決定
甲第24号証:異議2021-700100号の取消理由通知書(決定の予告)
甲第25号証:異議2021-700100号の取消理由通知書
甲第26号証:特願2023-084365号の拒絶理由通知書
2 特許異議申立理由の要旨
申立人が特許異議申立書において主張する特許申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)進歩性欠如
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲1に記載された発明、甲2に記載された技術的事項、甲3~甲22に記載された周知技術に基いて、又は、甲4に記載された発明、甲2、甲15、甲3、甲10に記載された技術事項、及び甲1、甲5~甲9、甲11~14、甲16~甲22に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)実施可能要件違反
本件特許の請求項1~6に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載をしたものではないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)サポート要件違反
本件特許の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)明確性要件違反
本件特許の請求項3及び6に係る発明は、明確でないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 取消理由通知に記載した取消理由の要旨
本件特許の請求項1~6に係る発明に対して、当審が令和6年2月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(進歩性欠如)
請求項1~6に係る発明は、甲1に記載された発明と甲2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1~6に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)理由2(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1(進歩性欠如)について
(1)甲号証の記載
事案に鑑み、甲1、甲2、甲4、甲6、甲10、甲11の記載についてみる。
ア 甲1
(ア) 甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下同様。)
a「【0001】
この発明は、トイレットティシュー等のロール状をなる衛生薄葉紙ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパーは、主に4ロール又は12ロール等を単位として包装されたものが市販されている。これらの包装体は嵩張るため、購入時に持ち運べる量は限られており、一度に購入できる量は自ずと限度がある。また、家庭や職場、公共施設などにおいても保管スペースが限られている。
このようなことから、ロール製品を構成する衛生薄葉紙の1枚当りの坪量を13g/m2未満に下げ、さらに紙厚を60μm未満に薄くすることで、巻長を長くしたロール製品が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-87703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロール製品を構成する紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下する。一方、これらの不具合を補うために紙の嵩を高くするため、カレンダー処理を弱めると、柔らかさや滑らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホルダーに収まり難くなる問題がある。また、エンボス処理を強めると、紙厚が高くなりすぎたり、紙の表裏の使用感の差が大きくなるなどの問題がある。また、坪量を下げずに、カレンダー処理を強くして紙厚を薄くすると、ロール径を小さくすることはできるが、柔らかさがなく、品質が劣る問題がある。
従って本発明は、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、衛生薄葉紙ロールは、1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.6~1.1mm/10枚以下であり、当該衛生薄葉紙ロールの巻長が120~185m、巻直径が100~132mmである。」
b「【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態につき説明するが、これらは例示の目的で掲げたものでこれらにより本発明を限定するものではない。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る衛生薄葉紙ロール10は、1枚の衛生薄葉紙10xをロール状に巻き取ってなり、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.6~1.1mm/10枚以下であり、ロールの巻長(巻き取り長さ)が120~185m、巻直径DRが100~132mmである。巻長は、好ましくは145~185mmである。巻直径DRは、好ましくは100~125mmである。
1枚当りの衛生薄葉紙の坪量及び紙厚を上記範囲に調整する方法としては、詳しくは後述するが、衛生薄葉紙の原紙ウェブのカレンダー条件(カレンダー処理後の紙厚及び比容積、カレンダー処理前後の紙厚差)及びエンボス条件(エンボス処理後の紙厚及び比容積、エンボス処理前後の紙厚差)を規定する。
【0012】
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5g/m2未満であるか、又は紙厚が0.6mm/10枚未満であると、強度が低下すると共に使用感(嵩高さ)も低下する。衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が21.5g/m2を超えるか、又は紙厚が1.1mm/10枚を超えると、積層体が厚くなり、これを120m以上巻いたロールの巻直径が132mmを超え、トイレットペーパーホルダーに収まり難くなったり、紙の表裏の使用感の差が大きくなる。
ロールの巻長が120m未満であると、1ロール当りの巻長が短くなり、保管時の省スペースが図れない。ロールの巻長が185mを超えるものは、巻直径DR(ロールの外径)が132mmを超えてしまい、トイレットペーパーホルダー等に収まり難くなる。
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が好ましくは17.5~20.5g/m2であり、紙厚が好ましくは0.60~0.80mm/10枚である。
【0013】
ティシューソフトネス測定装置TSA(Tissue Softness Analyzer)により、試料台に設置した1枚の衛生薄葉紙10xのロール外側の表面10aを上にしたサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、試料台の振動を振動センサで測定したとき、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が好ましくは12~30dBV2rms、より好ましくは12~25dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が好ましくは14~26dBV2rms、より好ましくは14~23dBV2rmsである。又、衛生薄葉紙の表面を上にした上記TS750の値(これを「TS750t」と表記する)を1とした時、衛生薄葉紙10xのロール内側の裏面10bを上にして試料台に設置したときのTS750の値(これを「TS750b」と表記する)で表される比R(TS750b/TS750t)が好ましくは1.06~2.30、より好ましくは1.06~1.70である。
衛生薄葉紙の表面を上にしたサンプルについて、TS7の数値が上記範囲より高いと、十分なやわらかさが得られず、上記範囲より低いと、柔らかさだけが際立ち、良好な触感を得ることができない場合がある。TS750(TS750t)の数値が上記範囲より高いと、滑らかさに劣り、上記範囲より低いと、滑らかではあっても、エンボス処理が十分ではなく、比容積が小さくなる場合がある。
【0014】
衛生薄葉紙にはエンボスが付与され、ロール外側となる表面のTS750tは、ロール内側となる裏面のTS750bより低くなる。これは、表面のエンボスが凹になっており、裏面のエンボスが凸になっているため、裏面の方が粗く感じてTS750の値が高くなるためである。
そして、上記比Rは衛生薄葉紙の表裏面の触感の差を表し、比Rが2.30を超えると、表裏面の触感の差(滑らかさの表裏差)が大きくなり過ぎる。一方、比Rが1.06未満であると、エンボス深さが浅くなってエンボスが弱くなり、エンボスの見た目が悪くなる。
【0015】
剛性(D)は、TSAにより、試料台に設置したサンプルに対し、ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、それぞれ押し込み圧力100mNと600mNの間での前記サンプルの上下方向の変形変位量で表される。
Dが2.4~3.5mm/Nであることが好ましく、2.7~3.5mm/Nであることがより好ましい。
Dが上記範囲の下限値より低いと、しなやかさに劣り、上記範囲の上限値より高いとしなやかさが際立ちすぎる一方、DMDTが低くて破れやすく、又、滑らかさが劣り、全体の品質のバランスを欠く。」
c「【0017】
なお、試料台205はベースプレート201上に設置され、試料台205とベースプレート201の間には、力センサ202が配置されている。そして、力センサ202の検出値により、ブレード付きロータ204の押し込み圧力を制御する。又、ブレード付きロータ204はモータ209によって回転する。
又、振動解析してパラメータ化(TS値)するソフトウェアは、emtec measurement systemを用いる。本ソフトウェアには、各種アルゴリズム(例えば、Base Tissue、Facial、TP等)が備えられ、TS7、TS750、D(剛性)をソフトウェア上で自動的に取得し、これらTS7、TS750、Dおよび、坪量、厚さ、Ply数等から各種アルゴリズムの種類によって、HF(ハンドフィール)値が計算される。本発明では、HF値ではなく、TS7、TS750、Dのみを規定しており、上記測定条件を満たせば、アルゴリズムは何を使用しても良く、TS7、TS750、Dの値はアルゴリズムの種類によって変わることはない。
」
d「【0020】
1枚の衛生薄葉紙のJIS P8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さをDMDT(Dry Machine Direction Tensile strength)、乾燥時の横方向の引張強さをDCDT(Dry Cross Direction Tensile strength)としたとき、DMDTが好ましくは2.2~4.8N/25mm、より好ましくは2.7~3.8N/25mm、DCDTが好ましくは0.80~2.2N/25mm、より好ましくは1.0~1.5N/25mmである。
DMDT及びDCDTが上記値未満であると、やぶれ易くて実用に適さないことがある。DMDT及びDCDTが上記値より高いと硬くなり、柔らかさが損なわれることがある。
なお、衛生薄葉紙の抄紙の流れ方向を「縦方向」とし、流れ方向に直角な方向を「横方向」とする。」
e「【0024】
衛生薄葉紙は、例えば以下のように、(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造することができる。」
f「【0030】
カレンダー処理後でエンボス処理前の原反4のウェブの坪量を1枚当たり17.5~22.0g/m2とすることが好ましい。後述するロール巻取り加工においてウェブは若干伸びて坪量も低くなるので、最終形態の衛生薄葉紙ロール10の目標坪量より若干高い17.5~22.0g/m2とすると好ましく、より好ましくは18.5~21.0g/m2とする。
【0031】
(3)エンボス処理及びロール巻取り加工
図6はロール巻取り加工機150の一例を示す。原反4は、ロール巻取り加工機150にセットされ、エンボスユニット(エンボスロール)151によってエンボス処理された後、巻取り機構153によって巻直径が100~132mmの幅広衛生薄葉紙原ロール10Wに巻き取られる。その後、原ロール10Wを所定幅(114mm等)に切り、衛生薄葉紙ロール10となる。
ロール巻取り加工機150は、大別するとサーフェイス方式とセンター方式の2種類がある。サーフェイス方式は巻取るロールを外側から別の複数の駆動ロールで支持しながら巻取る方法であり、巻取られた衛生薄葉紙ロール10は、巻き径のコントロールがし易く、生産速度がより高速となる。センター方式は巻取りロールの中心に通したシャフトの駆動により巻取る方法で、巻取られた衛生薄葉紙ロール10は、比較的柔らかな製品となり、デリケートなエンボスを施した製品に適している。本発明においては、いずれの方法でも巻き取ることができるが、好ましくはサーフェイス方式である。
なお、ロール巻取り加工機150にマシンワインダー100を組み込み、ロール巻取り加工機にて、カレンダー処理、エンボス処理をこの順で行ってもよい。
【0032】
ロール巻取り加工機150においてエンボスを施すことで、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2の範囲であっても、嵩を高くして柔らかさと、ほぐれ易さを向上させることができる。
エンボス処理前後の衛生薄葉紙の紙厚の差ΔE(エンボス処理前の紙厚-エンボス処理後の紙厚)を好ましくは-0.20~0.15mm/10枚、より好ましくは-0.10~0.10mm/10枚とする。ΔEが上記範囲を超えると、エンボス処理が十分でなく、柔らかさが劣る場合がある。ΔEが上記範囲未満であると、エンボス処理が強すぎて、滑らかさの表裏差が大きくなる場合がある。ここで、エンボス処理前とは、カレンダー処理後と同じ意味である。
なお、エンボス処理を行うと、エンボス処理後の紙厚は、エンボス処理前より高くなり、ΔEはマイナスになる。しかし、ロール加工機では、紙を引っ張りながら巻き取るため、紙が伸びて紙厚が低くなる。従って、ロール加工機では、エンボスと紙の伸びの影響を考慮しながら、ΔEが-0.20~0.15mm/10枚となるよう、巻き取ることが好ましい。
エンボスの強さは、エンボスロールとゴムロールのニップ幅を適宜調整して制御することができる。ニップ幅は、ロールの特性によっても異なるが、好ましくは20~40mm、より好ましくは25~35mmである。ニップ幅が40mmを超えると、エンボスが強くなりすぎて表裏差が大きくなったり、紙厚が高くなってロールの巻直径DRが大きくなってしまう。一方、ニップ幅が20mm以下であると、エンボスが弱くなって見た目が悪くなったり、比容積が小さくなる場合がある。ニップ幅は、カーボン紙を用いて測定することができる。測定方法としては、まず、エンボスロールのニップを逃がし、カーボン紙と一般的なコピー用紙を重ねてセットする。次に、エンボスロールにニップをかける。その後、ニップを逃がし、カーボン紙とコピー用紙を取り外す。エンボスロールでニップがかかっていた部分のカーボン紙の色がコピー用紙に転写されるので、ニップ幅を測定することができる。」
g「【0035】
パルプ組成(質量%)をNBKP10%、LBKP90%とし、この原料に対して、牛乳パック由来の古紙原料を35%配合し、図5、図6に示す装置により、表1に示す衛生薄葉紙及びそのロールを製造した。
【0036】
以下の評価を行った。
乾燥時の縦方向引張り強さDMDTと乾燥時の横方向引張り強さDCDT:JIS P8113に基づいて、1枚の衛生薄葉紙につき、破断までの最大荷重をN/25mmの単位で測定した。
坪量:JISP8124に基づいて測定し、衛生薄葉紙1枚当たりに換算した。
紙厚:シックネスゲージ(尾崎製作所製のダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK」)を用いて測定した。測定条件は、測定荷重3.7kPa、測定子直径30mmで、測定子と測定台の間に試料を置き、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろしたときのゲージを読み取った。なお、カレンダー処理前のウェブについては、衛生薄葉紙を10枚重ねて測定を行い、カレンダー処理後およびロールについては、衛生薄葉紙を10枚重ねて行った。又、測定を10回繰り返して測定結果を平均した。そして、得られた1回当りの平均値を枚数で割って衛生薄葉紙1枚当りの紙厚とした。
比容積:衛生薄葉紙1枚当たりの厚さを1枚当たりの坪量で割り、単位gあたりの容積cm3で表した。
吸水度:旧JIS-S3104法に従い、温度23±1℃、湿度50±2%の状態で、0.01ml精製水を滴下し、水滴が1枚の衛生薄葉紙に吸収される時間(秒)を測定した。
ほぐれ易さ:JISP4501に従い、衛生薄葉紙1枚のほぐれやすさを測定した。
ロールの巻直径DR:ムラテックKDS株式会社製ダイヤメータールールを用いて測定した。測定は、10個のロールを測定し、測定結果を平均した。
【0037】
DTS7、TS750の測定は、上記ティシューソフトネス測定装置TSAを用いて行った。測定条件も上記のとおりである。
官能評価は、モニター20人によって行った。評価基準は5点満点で行った。評価基準が3点以上であれば良好である。なお、「エンボスの見た目」は、モニターの目視により、エンボスの形状が視認できるか否かの評価である。
なお、坪量、引張強さ、厚さ、比容積、及びティシューソフトネス測定装置TSAによる測定は、JIS-P8111に規定する温湿度条件下(23±1℃、50±2%RH)で平衡状態に保持後に行った。
【0038】
得られた結果を表1、表2に示す。」
h「【0039】
【表1】
[図:0001417629000001.jpg]
i「【0040】
【表2】
[図:0001417629000002.jpg]
」
j「【0041】
表1、表2から明らかなように、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.60~1.1mm/10枚以下である各実施例の場合、衛生薄葉紙ロールの巻長が120~185m、巻直径が100~132mmの範囲となり、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くすることができた。
【0042】
一方、紙厚が0.6mm/10枚未満である比較例1の場合、柔らかさに劣った。これは、カレンダーの線圧が8.5kg/cmを超えると共に、カレンダー処理前後の紙厚差ΔCが0.40mm/10枚を超え、比容積が3.0cm3/g未満となったためと考えられる。又、比較例1の場合、エンボス処理前後の紙厚差ΔEが0.18mm/10枚以上であったため、エンボス処理が弱くなった。
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5g/m2未満である比較例2~4の場合、破れにくさが劣った。
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が21.5g/m2を超えた比較例5,6の場合、ロールの巻直径が132mmを超え、ペーパホルダに装着し難くなった。なお、比較例5は、エンボス処理前後の紙厚差ΔEが0.15mm/10枚を超え、エンボス処理が弱いため、柔らかさが劣った。又、比較例6は、カレンダー処理前後の紙厚差ΔCが0.40mm/10枚を超え、カレンダー処理が強すぎたために柔らかさが劣った。」
k 上記iの表2から、比較例3において、「エンボス条件」の「ニップ幅」45mmであり、「衛生薄葉紙」の「坪量」12.2g/m2、「紙厚」0.95mm/10枚であり、「DCDT」0.72N/25mmであり、衛生薄葉紙ロールの「巻長」150m、「巻直径」109mmであるものと読み取れる。
(イ) 甲1に記載された発明
a 甲1発明
【表2】に示される「比較例2」~「比較例4」のうち、紙厚と巻直径の値が最も大きい値をとる「比較例3」に着目すると、甲1には、上記(ア)より次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造される、1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取ってなる、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールであって、
エンボス処理及びロール巻取り加工において、カレンダー処理後の原反がエンボスユニット(エンボスロール)によってエンボス処理された後、巻取り機構によって巻き取られ、その後、所定幅に切られた衛生薄葉紙ロールであり、
エンボスの強さを制御するエンボスロールとゴムロールのニップ幅は、45mmであり、
衛生薄葉紙の坪量は、12.2g/m2であり、
衛生薄葉紙の紙厚は、測定荷重3.7kPaで、0.95mm/10枚であり、
衛生薄葉紙ロールの巻長は、150mであり、
衛生薄葉紙ロールの巻直径は、109mmであり、
1枚の衛生薄葉紙の乾燥時の流れ方向に直角な方向である横方向の引張強さをDCDTとしたとき、DCDTは0.72N/25mmである、
衛生薄葉紙ロール。」
b 甲1方法発明
上記aにおいて、甲1の記載から認定した甲1発明は、「(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造」される「衛生薄葉紙ロール」であるから、甲1には、「衛生薄葉紙ロール」の「製造」について、次の方法の発明(以下、「甲1方法発明」という。)も記載されている。
「甲1発明の衛生薄葉紙ロールを製造する方法。」
イ 甲2
(ア)甲2の記載事項
甲2には以下の記載がある。
a「【0017】
本実施形態のエンボス10におけるエンボス凸部11は、平面視形状が楕円形であり、平面視面積が0.3~2.0mm2の範囲にある。なお、エンボス凸部は円形であってもよい。平面視面積とは真上から見たときのエンボス凸部の面積を示す。
楕円形とする場合、長辺と短辺の比率(長辺L1:短辺L2)を1:1~3:1とするのがよい。エンボス10が明瞭となる。また、一方の辺が長くなりすぎると形状が線に近づき、長辺の端が尖ってくるため、肌触りが悪くなる。
本実施形態の衛生薄葉紙X1では、この楕円形のエンボス凸部11が1cm2あたり10~30個の範囲で規則的に配されている。
なお、本実施形態はシングルエンボスであるから、対応するエンボス凹部12も同形状、同個数である。」
b「【0021】
本発明では、プライ数については特に限定されないが、ティシュペーパー用途であれば1~3プライ程度、好適には2プライである。図示の形態は2プライである。
他方、本発明では衛生薄葉紙の坪量は、特に限定されない。ただし、本発明はティシュペーパーのような比較的低坪量の衛生薄葉紙において特に効果的であり、JISP8124による坪量が、プライ数に関係なく、全体として10~40g/m2である場合により効果的となる。なお、複数プライ数とする場合には、前記坪量の範囲内に収まるように、各プライの坪量を調整する。」
c「【0028】
エンボス付与は、図4に示されるように、ニップロール30とエンボスパターンを有するエンボスロール40とで構成される一対のエンボス付与ロール間に被加工衛生薄葉紙Y1を通し、前記エンボスパターンを被加工衛生薄葉紙Y1に押しつけて付与する。
本実施形態のエンボロール40(当審注:「エンボスロール40」の誤記と認める。)は、図5に示すような楕円錐台の頂縁が面取りされた立体形状のエンボス付与凸部4,4…が、1cm2あたり10~30個形成されている。図5中、面取り部分は符号4rで示す。エンボス付与凸部4の個数が、10個/cm2未満であると、付与されるエンボスが少なくなり嵩高とならず、厚さを感じにくいものとなり。さらに、非エンボス部分との差が感じられやすく肌触りが悪いものとなる。30個/cm2を超えると、所望の高さのエンボスを得ることが困難となり嵩高さを発現させ難くなる。
【0029】
なお、エンボス付与凸部4は、頂縁が面取りされている円錐台、頂縁が面取りされていない円錐台及び楕円錐台をも採用できる。好適な例は、図示例の楕円錐台の頂縁を面取りした立体形状である。頂縁が面取りされていると、付与されるエンボス凸部にエッジが形成されなくなり、似半球状のエンボス凸部が形成される。これにより、エンボス凸部形成面の滑らかさの発現性が向上する。なお、面取り部分4rの曲率半径Rは、0.1~0.8であるのが望ましい。
【0030】
さらに、エンボス付与凸部4は、頂面部4tの面積が0.2~1.0mm2、テーパー角θが10~50度、より好ましくはθが13~45度、高さ4hが0.3~1.5mmであるのがよい。これらの範囲とすると厚さ感、嵩高感の発現性に優れる。なお、面取りした形状の場合の頂面部の面積は、面取り前の頂面の面積とする。
他方、本実施の形態におけるエンボス付与凸部4は、その一つの平面視面積、すなわちエンボス付与凸部の底面部4bの面積は、付与するエンボスの大きさと同等又はそれ以上の大きさを基本とするが、特に限定されない。ニップ圧に応じて適宜定めることができる。」
d「【0033】
エンボス付与するにあたってのニップ圧(エンボス圧、線圧とも言われる)は、5~30kgf/cm、好ましくは10~25kgf/cmとなるように行う。ニップ圧が低すぎると、エンボスが薄くなりすぎ厚み感、嵩高さ感が十分に得られないおそれがある。他方、ニップ圧が高すぎると、被加工衛生薄葉紙がちぎれてしまうおそれがある。
他方、エンボス付与するにあたっては、2プライでこれを1組とし5組重ねたときの厚さが、エンボス付与後に1.1~1.8倍となるように、ニップ圧の調整と被加工衛生薄葉紙の厚さを選択するのがよい。嵩高感、厚さ感がより感じられるようになる。」
ウ 甲4
(ア)甲4の記載事項
甲4には以下の記載がある。
a「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、1プライまたは2プライのトイレットぺーパー、ボックス収容または携帯用ティッシュペーパーなどに供するエンボス付与ウェブおよびその製造用ロールに関する。」
b「【0011】
【作用】本発明者らは、トイレットペーパー等として好適に使用できるウェブを得るために、ウェブに形成するエンボスについて鋭意研究を重ねた。その結果、ウェブに形成するエンボスの大きさおよび量によってそれらの性質が著しく異なることを知見した。
【0012】この知見に基づき、さらなる研究を続けた結果、坪量が15~60g/m2である1プライの、または1プライの坪量が10~30g/m2でありこれが2枚重ね合わされた2プライの紙ウェブにエンボスを形成するに際し、一つのエンボスの最小径が0.2mm以上、最大径が1.0mm以下であり、エンボス深さが0.2~1mmである小さいエンボスを、ウェブ10mm四方あたり30個~150個形成することにより、後の実施例の欄で説明するように、滑らかさなどのウェブの各性質が向上することが判った。」
c「【0033】(実験例2)次に、表2に示すとおり、ウェブの坪量、エンボスの最小径、エンボスの最大径、エンボス深さ、縦横ピッチ、ウェブ10mm四方あたりの頂面の面積比率、エンボス個数を変化させ、物性実験と官能評価を行った。その両者の綜合評価結果を本発明例については表3示す。綜合結果の評価は、次記のとおりである。◎:きわめて優れる、○:良い、△:普通、×:悪い、××:著しく悪い。」
d「【0034】
【表2】
[図:0001417629000003.jpg]
」
エ 甲6
本件特許の出願前に頒布された甲6には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0016】
本発明は、消費者が望む巻き硬さ値で比較的高い嵩を持つティッシュ製品のような、らせん状に巻かれた紙製品の製造に向けられている。例えば、1つの実施形態においては、本発明はらせん状にロールに巻かれたベースシートから成るロール状ティッシュ製品に向けられている。ベースシートは、約40gsmより小さい、例えば約10gsmから約40gsmのような基本重量を持つ少なくとも1つのプライを含む。プライはパルプ繊維を含み、通気乾燥をせずに製造された。」
(イ)「【0068】
比較の目的で、商業的に入手可能な様々なトイレット用ティッシュが、様々な目的のためにテストされた。ここに挙げられているすべてのトイレット用ティッシュは、1,400g/3インチより小さい幾何平均引張強度を持つ。いずれの試料も、通気乾燥ウエブを含まなかった。以下のような結果が得られた。
表3-世界的規模でのトイレット用ティッシュ製品設計
[図:0001417629000004.jpg]
」
オ 甲10
本件特許の出願前に頒布された甲10には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオルなどの衛生用紙製品の原紙(ウェッブ)及びその製造方法に関する。」
(イ)「【0008】
しかしながら、上記特許文献4記載の技術を用いても、ウェッブの強度、バルク(比容積)、柔らかさを両立することは十分とはいえなかった。
従って本発明は、強度、バルク(比容積)、柔らかさを両立した衛生用紙ウェッブ及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の衛生用紙ウェッブは、坪量10~25g/m2で、比容積が7~25cm3/gであって、JIS P8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さDMDTが1.0N/25mm以上、JIS P8113に基づく乾燥時の横方向の引張強さDCDTが0.3N/25mm以上である。」
(ウ)「【0017】
本発明の実施形態に係るウェッブをティッシュソフトネス測定装置(TSA:Tissue Softness Analyzer)により測定したとき、周波数1000Hz以下の領域におけるパワースペクトルの最大値(TS7)が20dBV2rms以下であり、周波数6700Hz領域におけるパワースペクトルの値(TS750)が20dBV2rms以下であることが好ましい。
又、TSAによる、こわさ(D)測定値が2.5mm/N以上であることが好ましい。
【0018】
ここで、ティッシュソフトネス測定装置(TSA)は、紙試料をロータで回転させたときの各種センサで検知した振動データを、振動解析してパラメータ化(TS値)することにより、紙のソフトネス(手触り感)を定量評価するものであり、ドイツのエムテック(emtec Electronic GmbH、日本代理店は日本ルフト株式会社)社製の商品名である。
TSAを用いた具体的な測定は、試料台に設置したウェッブサンプル(10cm角)に対し、(i)回転体の付いている可動測定ヘッドが、指定した圧力でサンプルを押し込み、(ii)指定した速度で回転体が作動し、(iii)結果として生じる振動をセンサーで検出し、振動周波数を解析する。(iv)次に指定した圧力でサンプルを変形し、変形時の特性から、弾性、粘弾性、及び塑性変形を計算する。(i)~(iii)の手順により、ウェッブの総合的なハンドフィール及びハンドフィールの要素(滑らかさ、しなやかさ、ボリューム感)が各々数値化できる。測定は1サンプルについて5回繰り返し、平均化する。
又、パワースペクトルとは、信号のパワー(dB)を一定の周波数帯域毎に分割し、各帯域毎のパワーを周波数の関数として表したものである。
【0019】
TS7の値が低いほど、ふんわり感に優れ、TS750の値が低いほど、滑らかさに優れる。又、Dの値が大きいほど、しなやかさに優れる。
さらに、TS7、TS750、及びDの関数に基づき、総合的なハンドフィールHFを算出することができる。
例えば、(HF)=A×(TS7)+B×(TS750)+C×(D)+αという関数を設定することで、総合的なハンドフィールを客観的(定量的)に数値化できる。ここで、A,B,C及びαは係数であり、これら係数を適宜設定することで、HFを構成するファクター(つまり、TS7、TS750、及びDにそれぞれ対応する、滑らかさ、ふんわり感、こわさ)の重み付けを調整し、実際のHFの官能評価に合致させることができる。
なお、A及びBを負の値とし、Cを正の値とした場合、HFの値が大きくなるほど、総合的なハンドフィールに優れる。
(エ)「【実施例】
【0028】
パルプ組成(質量%)をNBKP30%、LBKP70%とし、表1に示す特性を有するウェッブを図1に示すファブリックプレス方式の製紙機50を用い、凹凸付けしたウェッブ103を製造した。次に、図2に示すプルユニットカレンダーパート60を用い、抄紙及び乾燥後のウェッブ103をカレンダー加工した。カレンダー加工の条件を表1に示す。
【0029】
さらに、カレンダー加工後の最終ウェッブを所定の大きさの試験片に切断し、以下の評価を行った。
引張強さDMDT及びDCDT:JIS P8113に基づいて測定した。
坪量:JIS P8124に基づいて測定した。
ウェッブ厚:シックネスゲージ(尾崎製作所製のダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK」)を用いて測定した。測定条件は、測定荷重250gf、測定子直径30mmで、測定子と測定台の間に試料を置き、測定子をゆっくりと下ろしたときのゲージを読み取った。このとき、測定子をのせるだけとした。なお、1回の測定は試料を5組(1プライ×5)重ねて行い、測定を10回繰り返して測定結果を平均した。そして、得られた1回当りの平均値を枚数で割ってウェッブ(1プライ)当りの紙厚とした。
比容積:ウェッブ厚さを坪量で割り、単位gあたりの容積cm3で表したもの。
吸水度:旧JIS-S3104法に従い、温度23±1℃、湿度50±2%の状態で、0.1ml精製水を滴下し、水滴がウェッブに吸収される時間(秒)を測定した。
【0030】
TS7、TS750、Dの測定は、上記TSA装置を用いて行った。表裏を測定した値の平均値であり、測定条件も上記のとおりである。
総合的なハンドフィールHFは、(HF)=-2×(TS7)-0.5×(TS750)+10×(D)+100の式に基づいて算出した。ブランク材との比較で、HF=0.5~1ポイント高い場合、ハンドフィール(手触り)が良くなる。
ブランク材との比較で、HF=1を超えて3以下の場合、ハンドフィールが明らかに良くなる。ブランク材との比較で、HF=3を超えて高い場合、ハンドフィールが著しく良くなる。
なお、坪量、引張強さ、ウェッブ厚、密度、及びTSA装置による測定は、JIS-P8111に規定する温湿度条件下(23±1℃、50±2%RH)で平衡状態に保持後に行った。
【0031】
得られた結果を表1に示す。表1のT/Bは、カレンダー加工のトップロールとボトムロールの回転スピード差(%)を表す。表1の「従来PM」は、一般の抄紙機で製造したウェッブを表す。
【0032】
【表1】
[図:0001417629000005.jpg]
」
カ 甲11
本件特許の出願前に頒布された甲11には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0008】
しかしながら、上記特許文献5記載の技術を用いても、トイレットペーパーウェブ、及びトイレットペーパー製品の強度、バルク(比容積)、柔らかさのすべてを満たすには十分とはいえなかった。
従って本発明は、強度、バルク(比容積)、柔らかさの3つを満たしたトイレットペーパー製品及びその製造方法の提供を目的とする。」
(イ)「【0014】
以下に本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係るトイレットペーパー製品は、シート(ウェブ)を1枚又は2枚重ねしてなり、1枚のシートの坪量が10~40g/m2、比容積が8~25cm3/gであり、かつJISP8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さDMDT(Dry Machine Direction Tensile strength)乾燥時の横方向の引張強さDCDT(Dry Cross Direction Tensile strength)の積の平方根である(DMDT×DCDT)1/2(GMT:Geometric Tensile Strength)が1.47~3.92N/25mmであり、ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した前記トイレットペーパー製品のサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したとき、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が5~23dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が10~20dBV2rmsであり、前記TSAにより、前記試料台に設置した前記トイレットペーパー製品のサンプルに対し、前記ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、それぞれ押し込み圧力100mNと600mNの間での前記サンプルの上下方向の変形変位量で表される、剛性(D)の測定値が2.5~4.5mm/Nである。トイレットペーパー製品の、JISP4501法によるほぐれ易さが100秒未満であると好ましい。
なお、トイレットペーパーウェブ、及びその製品の抄紙の流れ方向を「縦方向」とし、流れ方向に直角な方向を「横方向」とする。」
(ウ)「【0034】
【表1】
[図:0001417629000006.jpg]
【0035】
【表2】
[図:0001417629000007.jpg]
」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における、「1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取ってなる、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロール」は、本件発明1における、「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロール」に相当する。
また、甲1発明において、「衛生薄葉紙ロールの巻長は、150mであ」ることは、本件発明1において、「前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下で」あることに相当する。
そして、甲1発明の「衛生薄葉紙の坪量は、12.2g/m2であ」ることは、本件発明1の「前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下で」あることに相当する。
甲1発明の「衛生薄葉紙ロール」の「衛生薄葉紙」が「エンボス処理」されて製造されたものであることは、「エンボス処理」により「エンボスパターンを有」するものとなることは自明であるから、本件発明1の「前記トイレットペーパーにはエンボス加工により形成されたエンボスパターンを有」することに相当する。
さらに、甲1発明の「流れ方向に直角な方向である横方向の引張強さ」である「DCDT」は、本件発明1の「幅方向の引張強度」に相当する。
以上を整理すると、本件発明1と甲1発明とは、
「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーは、エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有したものである、トイレットロール。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
トイレットロールの巻径について、本件発明1は、「110mm以上120mm以下であ」るのに対し、甲1発明は、109mmである点。
<相違点2>
トイレットペーパーの幅方向の引張強度について、本件発明1は、「0.63N/15mm以上であ」るのに対し、甲1発明は、0.72N/25mmである点。
<相違点3>
トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みについて、本件発明1は、「75μm以上110μm以下であ」るのに対し、甲1発明は、そのような際の厚みに関する特定がない点。
イ 判断
事案に鑑みて、上記相違点2について検討する。
甲1発明は、甲1における比較例3に着目して認定した発明であって、DCDTは、0.72N/25mmであり、換算すると、0.43N/15mmとなり、本件発明1の「0.63N/15mm以上」には満たないものである。ちなみに、甲1における比較例2、4のDCDTを換算すると、0.44N/15mm(比較例2)、0.57N/mm(比較例4)となり、いずれも、本件発明1の「0.63N/15mm以上」には満たないものである。
甲1の段落【0004】には、「ロール製品を構成する紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下する。」(上記(1)ア(ア)a)と記載されているところ、「強度」を上げようとすると「坪量」をも上げることとなる。
この点、前記(1)ア(ア)h、iで示した甲1の【表1】及び【表2】の実施例及び比較例における「坪量」と「強度」の指標の一つである「DCDT」の関係に着目すると、「坪量」の値が高い方が「DCDT」の値も高くなっており、特に、「DCDT」の値を1.05N/25mm以上(換算すると、0.63N/15mm以上)のものは「坪量」は17.0g/m2以上となっていることが分かる。
一方、甲1には、衛生薄葉紙の坪量を17.0g/cm2とした実施例1(【表1】参照)が記載されるとともに、甲1の段落【0012】に「衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5g/m2未満であるか、又は紙厚が0.6mm/10枚未満であると、強度が低下すると共に使用感(嵩高さ)も低下する。衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が21.5g/m2を超えるか、又は紙厚が1.1mm/10枚を超えると、積層体が厚くなり、これを120m以上巻いたロールの巻直径が132mmを超え、トイレットペーパーホルダーに収まり難くなったり、紙の表裏の使用感の差が大きくなる。」(上記(1)ア(ア)b)と記載されているように、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量が16.5g/m2未満または21.5g/m2を超えたものとすることは避けるべきことが記載されていると認められる。
上記の甲1の記載を踏まえれば、甲1において、甲1発明を認定する基礎とした比較例3は、坪量については16.5~21.5g/m2の範囲が好ましいことを前提として、当該好適範囲より坪量を下げると、破れにくさが劣ることを示す趣旨で(【0041】及び【0042】参照)、実施例と同程度の具体的構成を備える衛生薄葉紙として説明がなされているものである。
そのため、甲1発明において、比較例としての性質を示すために採用された具体的パラメータであって「強度」の指標の一つである「DCDT」と関連がある「坪量」を維持したまま、「DCDT」のみを変更する動機付けがあったということはできない。
さらに、DCDTに関し、甲1には、衛生薄葉紙の坪量を17.0g/cm2とした実施例1(上記(1)ア(ア)hの【表1】参照)が記載され、当該実施例1では「DCDT」が1.08N/25mm(換算すると、0.648N/15mm)であるところ、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量として16.5g/m2未満または21.5g/m2を超えることは避けるべきことが、記載されている(【0012】)と認められる。
甲1のこれらの記載を考慮して、DCDTについて好適な値を採用するのであれば、実施例1ないし9で特定される値とするか、少なくとも坪量において好適範囲とされる16.5g/m2~21.5g/m2の範囲とすることが、甲1の記載に基づく自然な選択である。この点、比較例3を出発点としながら、「DCDT」の値について、比較例3で特定される値を離れてそれを相違点2に係る本件発明1の「0.63N/15mm以上」まで増加させようとすると、自ずと「坪量」も増加させることとなる。そして、前記したように、甲1の実施例及び比較例における「坪量」と「DCDT」との関係から、坪量は12.2g/m2から大きく増加して、17.0g/m2程度以上の値になり、「10g/m2以上16g/m2以下」に該当しない値となって、本件発明1とは新たな相違点を生じることとなる。
してみれば、甲1発明において、「DCDT」の値のみを「0.63N/15mm以上」へと変更することは、甲1における全ての記載を総合しても、動機付けがあったということができず、むしろ、坪量について避けるべき数値範囲に変更することになる点で阻害要因が存在すると言わざるを得ない。
坪量と幅方向の引張強度に関し、甲6には、「9Irving Tissue」として、「BD基本重量」が15.31(gsm)、「CD乾燥引張」が497(gmf/76.2mm)のものが、「12Irving Tissure」として、「BD基本重量」が14.27(gsm)、「CD乾燥引張」が496(gmf/76.2mm)のものが記載されており(【0068】、表3)、これらの「CD乾燥引張」を換算すると、「9Irving Tissue」は0.958N/15mm、「12Irving Tissue」は0.956N/15mmである。
しかしながら、甲6における上記記載は、世界的規模でのトイレット用ティッシュ製品の諸元として、坪量とCD乾燥引張の強度は、様々な数値範囲があり得ることを示す中の一例として挙げられたものに過ぎず、ティシュペーパーも含む各種の衛生薄葉紙について、一般的に広い坪量や引張強度の範囲をとることがあり得るからといって、甲1発明に甲6の記載を組み合わせる動機付けがあったというものではない。そして、甲1の比較例3を出発点として、同比較例において採用された具体的な坪量やその他の値は維持したまま幅方向の引張強度のみを増加させて特定の引張強度を採用することについては、前記のとおり、動機付けがあったということはできない。
また、坪量とDCDTに関し、甲10には、坪量10~25g/m2で、DCDTが0.3N/25mm以上のものが記載されている。しかし、DCDTの値を換算すると、0.18N/15mm以上であって、本件発明1の「0.63N/15mm以上」が記載されているとはいえず、甲10の記載を考慮しても、相違点2に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易であったものではない。また、甲10には、「パルプ繊維の叩解処理にて強度調整を行うことができる。又、ウェッブの用途に合わせて湿潤紙力増強剤を使用することができる。」(段落【0016】)と記載され、叩解処理や湿潤紙力増強剤の使用によって、トイレットペーパーの強度を上げることが示唆されているが、上記示唆を考慮しても、甲1の比較例3を出発点として、同比較例において採用された具体的な坪量やその他の値は維持したまま幅方向の引張強度のみを増加させて特定の引張強度を採用することについては、前記のとおり、動機付けがあったということはできない。
さらに、坪量とDCDTに関し、甲11には、「実施例1」として、坪量が15.8(g/m2)、DCDTが1.08(N/25mm)、「実施例7」として、坪量が14.3(g/m2)、DCDTが1.09(N/25mm)、「実施例9」として、坪量が15.8(g/m2)、DCDTが1.30(N/25mm)、「実施例10」として、坪量が15.8(g/m2)、DCDTが1.22(N/25mm)のものが記載されている。これらのDCDTを換算すると、実施例1:0.648(N/15mm)、実施例7:0.654(N/15mm)、実施例9:0.78(N/15mm)、実施例10:0.732(N/15mm)となる。
甲11における上記記載は、トイレットペーパーの諸元として、坪量とDCDTの数値範囲が本件発明と同程度であり得ることを示す根拠として挙げられたものであるが、トイレットペーパーについて、所定の坪量と引張強度の範囲をとることがあり得るからといって、甲1の比較例3を出発点として、同比較例において採用された具体的な坪量やその他の値は維持したまま幅方向の引張強度のみを増加させて特定の引張強度を採用することについて、動機付けがあったということはできない。
したがって、甲1発明において、DCDTの値を変更して上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、たとえ甲1における実施例の記載、その他の比較例の記載、及び甲6、10、11に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易であったものではない。
また、摘記は省略するが、甲2~甲5、甲7~甲9、甲12~甲22にも、甲1の比較例3に基づく甲1発明を出発点として、同比較例において採用された具体的な坪量やその他の値は維持したまま幅方向の引張強度のみを増加させて特定の引張強度を採用することについて、記載も示唆もない。
以上のことから、仮に、上記相違点2に係る「トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上である」との構成が公知のトイレットロールに使用されるトイレットペーパーであれば満たしうる事項であるとしても、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、相違点1、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び、甲6、甲10、甲11又はその他の証拠に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(2)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明、及び、甲6、甲10、甲11又はその他の証拠に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明の「衛生薄葉紙ロールを製造する方法」は、本件発明5の「トイレットロールの製造方法」に相当する。
甲1方法発明が、「1枚の衛生薄葉紙」をロール状に巻き取ってなる、「トイレットティシュー」等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールを製造するうえで、「エンボスユニット(エンボスロール)」による「エンボス処理」を含む構成は、「エンボス処理」を行った衛生薄葉紙にはエンボスのパターンが形成されることが技術常識であることをふまえると、本件発明5が、「1プライのトイレットペーパー」に「エンボスロールでエンボスパターンを形成する工程」である「エンボス加工を施す工程」を含む構成に相当する。
また、「エンボスロール」は、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたことが技術常識であるから、甲1方法発明が、「1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取ってなる」ものであることを踏まえると、甲1方法発明の「エンボス処理」において「カレンダー処理後の原反がエンボスユニット(エンボスロール)によってエンボス処置され」ることは、本件発明5の「前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスを形成する工程であ」ることに相当する。
甲1方法発明における「巻長」については、上記2(1)で甲1発明と本件発明1とを対比したのと同様に、甲1方法発明は、本件発明5における「前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下で」あることに相当する構成を有する。
甲1方法発明における「坪量」については、上記2(1)で甲1発明と本件発明1とを対比したのと同様に、甲1方法発明は、本件発明5における「前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であ」る構成を有する。
さらに、甲1方法発明の「流れ方向に直角な方向である横方向の引張強さ」である「DCDT」は、本件発明5の「幅方向の引張強度」に相当する。
以上を整理すると、本件発明5と甲1方法発明とは、
「1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスを形成する工程であり、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下である、トイレットロールの製造方法。」
で一致し、次の点で相違する。
<相違点4>
「エンボス加工を施す工程」における「圧力」に関し、
本件発明5では、「エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押し」するのに対し、
甲1方法発明では、「エンボスの強さを制御するエンボスロールとゴムロールのニップ幅」が「45mm」と特定されているものの、「エンボスロール」に加える「圧力」は不明である点。
<相違点5>
トイレットロールの巻径について、本件発明5は、「110mm以上120mm以下であ」るのに対し、甲1発明は、109mmである点。
<相違点6>
トイレットペーパーの「幅方向の引張強度」に関し、
本件発明5は、「0.63N/15mm以上であ」るのに対し、甲1方法発明は、0.72N/25mmである点。
<相違点7>
トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みについて、本件発明5は、その「75μm以上110μm以下である」のに対し、甲1方法発明は、そのような際の厚みの特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点6について検討する。
相違点6は、上記(2)アで示した相違点2と同じであるから、上記(2)イで検討した理由と同じ理由により、甲1方法発明において、上記相違点6に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、相違点4、5、7について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1方法発明、及び、甲6、甲10、甲11又はその他の証拠に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(4)で検討した理由と同じ理由により、甲1方法発明、及び、甲6、甲10、甲11又はその他の証拠に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 取消理由2(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)発明の詳細な説明における記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。
(ア)「【背景技術】
【0002】
トイレットペーパー製品は、トイレットペーパーウェブを1枚又は2枚以上に重ねたトイレットペーパーを所定の大きさに切断して製造される。一般的には長尺のトイレットペーパーがロール状に巻回されてなるトイレットロール(ロール状トイレットペーパー)が多用されている。1枚のトイレットペーパーウェブからなるトイレットペーパーは1プライのトイレットペーパーと称され、2枚重ねのトイレットペーパーウェブからなるトイレットペーパーは2プライのトイレットペーパーと称されている。
【0003】
トイレットペーパーは、例えば、12ロールや16ロールといった単位で包装されたものが広く流通している。しかし、これらの包装体は嵩張るため、持ち運べる量は限られている。また、公共施設等においてはトイレットロールの保管スペースも不足しがちである。このため、トイレットロールを構成するトイレットペーパーの紙厚を調整したり、ロール状に巻き取る際の巻き締め力を強くすることで巻長を長くしたロール製品の利用も進んでいる(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
特許文献1には、1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.6~1.1mm/10枚以下であり、衛生薄葉紙ロールの巻長が120~185m、巻直径が100~132mmである衛生薄葉紙ロールが開示されている。ここでは、坪量を下げずに、風合いや使用感を向上させることが検討されている。
また、特許文献2には、フィルムからなる包装袋にロール製品を複数個収納してなるロール製品パッケージが開示されている。特許文献2には、ロール製品が1プライの場合、坪量が16.5~21.5g/m2であることが好ましいと記載されている。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の巻長を長くしたトイレットロールにおいては、巻長を長くするために、トイレットペーパーをきつく巻き締めるため、トイレットペーパーの強度を高める必要があった。しかしながら、巻き締めに耐え得るトイレットペーパーにおいては、強度が高められている一方で、それ自体の柔らかさや肌触りが悪化する傾向にあった。
【0007】
また、1プライのトイレットロールにおいては、巻長を長くするために、巻き取り工程で得られる巻取が固くなり、所定の幅に断裁する際に、コア芯(紙管)が潰れる場合があった。コア芯(紙管)が潰れたトイレットロールは、外観が悪化するだけでなく、使用時にトイレットペーパーをスムーズに引き出すことができないという問題も引き起こす。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、良好な肌触りを有するトイレットペーパーから構成されたトイレットロールを提供することを目的として検討を進めた。また、本発明者らは、コア芯潰れのないトイレットロールを提供することも目的として検討を進めた。」
(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、1プライのトイレットロールにおいて、トイレットロールを構成するトイレットペーパーの坪量を所定の範囲とし、かつトイレットペーパーにエンボスを形成することで、巻長の長いトイレットロールを構成するトイレットペーパーにおいてもその肌触りを高め得ることを見出した。さらに、本発明者らは、このようなトイレットロールにおいては、コア芯潰れの発生がないことを発見し、本発明を完成するに至った。」
(エ)「【0017】
本発明のトイレットロールの巻長(巻き長さ)は95m以上150m以下である。このような巻長を有するトイレットロールは、いわゆる長巻トイレットロールと呼ばれることもある。また、2倍巻トイレットロールもしくは3倍巻トイレットロールと称されることもある。
【0018】
本発明のトイレットロールの巻径(外径)は、110mm以上120mm以下であることが好ましい。ここで、トイレットロールの巻径は、図2においてRで表される長さである。トイレットロールの巻径を上記範囲内とすることにより、あらゆるトイレットロールホルダーにトイレットロールを設置することができ、使用場面が制限されることはない。
【0019】
本発明のトイレットロールを構成するトイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上16g/m2以下である。トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上であればよく、11g/m2以上であることが好ましく、12g/m2以上であることがより好ましい。また、トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、16g/m2以下であればよく、15.5g/m2以下であることが好ましい。
本発明においては、トイレットペーパーの坪量を上記範囲内とすることにより、所望の巻径を有するトイレットロールを製造しやすくなる。通常、巻長の長いトイレットロールを製造する際には、ロール状に巻き取る際の巻き締め力を強くすることによって巻径をコントロールしている。しかし、本発明においては、ロール状に巻き取る際の巻き締め力を従来法における強さまで強くしなくても所望の巻径を有するトイレットロールを製造することができる。また、巻取の固さを抑えることで所定の幅に断裁する際にコア芯(紙管)潰れの発生をより効果的に抑制することができる。
【0020】
本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーにはエンボス加工が施されている。本発明においては、1プライのトイレットペーパーの幅方向に略均一にエンボスが形成される。ここで、幅方向に略均一にエンボスが形成された場合、長さ方向の任意点から±0.5cm(長さ1cm)の長さを有する領域において、幅方向に略均一密度のエンボスが観測される。また、本発明においては、エンボスは長さ方向にも略均一にエンボスが形成されることが好ましい。すなわち、1プライのトイレットペーパーの全領域にわたって、略均一にエンボスが形成される。図1に示されたトイレットロールにおいて、巻きとかれたトイレットペーパーに施されているエンボスの様子は黒点で図示されている。図1のトイレットペーパーのエンボス加工の様子からもわかるように、本発明においては、トイレットペーパー
の全領域にわたって、略均一にエンボスが形成されている。
【0021】
ここで、トイレットペーパーを幅方向に3分割した際に、隣り合う領域のエンボス密度の差は、それぞれ10%以下であることが好ましい。具体的には、長さ方向の任意点から±0.5cm(長さ1cm)の長さを有する領域をサンプルとして切り出し、このサンプルを幅方向に3分割する。この場合、端縁から順に第1領域、第2領域、第3領域とに分割される。本発明においては、第1領域と第2領域のエンボス密度の差が10%以下であることが好ましく、第2領域と第3領域のエンボス密度の差も10%以下であることが好ましい。なお、第1領域と第3領域のエンボス密度の差も10%以下であることが好ましい。
【0022】
トイレットペーパーのエンボスパターンでは、1個のエンボス直径は0.5mm以上2mm以下が好ましく、0.7mm以上1.3mm以下がより好ましい。またエンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下が好ましく、15個/cm2以上25個/cm2以下がより好ましい。
【0023】
エンボス加工は、エンボスの付与されたエンボスロールを幅方向の全域に当てて、加圧することで行う。エンボスロールの押し込み量は、トイレットペーパーの厚みが後述する条件を満たすように調整することが好ましい。
【0024】
本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(Tm)は75μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがより好ましい。また、厚み(Tm)は110μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。厚み(Tm)を上記範囲内とすることにより、トイレットペーパーの厚み感をしっかりと感じとることができ、肌触りや使用感に優れたトイレットペーパーを得ることができる。
【0025】
また、本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(T0)は180μm以上であることが好ましく、190μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましく、210μm以上であることが特に好ましい。また、厚み(T0)は300μm以下であることが好ましく、280μm以下であることがより好ましく、260μm以下であることがさらに好ましく、240μm以下であることが特に好ましい。厚み(T0)を上記範囲内とすることによっても、トイレットペーパーの肌触りを高めることができる。
【0026】
ここで、上述した厚み(T0)及び厚み(Tm)の値はKES FB3-AUTO-A自動化圧縮試験機(カトーテック株式会社製)を用いて測定することができる。具体的には、KES FB3-AUTO-A自動化圧縮試験機の2cm2の加圧板と受圧板間に10cm×20cmの大きさにカットしたサンプルを設置し、50秒/mmの速さで加圧板を下降させ、その際に変化する圧力とその時のサンプルの厚みを測定する。T0は圧力が0.5gf/cm2におけるサンプルの厚み(mm)であり、Tmは圧力が50gf/cm2におけるサンプルの厚み(mm)である。T0及びTmの値はエンボスの凹面(エンボスロールを押し当てた面)を加圧板側として10回の測定を行い、得られた測定データからHampel identifierの方法で異常値を除外し、平均値として算出した値である。なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±%)で行う。
本発明のトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均は65.0以上であることが好ましく、66.0以上であることがより好ましい。なお、HF値の上限は特に限定されるものではないが、一般的に95.0以下であることが好ましい。」
(オ)「【0031】
ここで、ハンドフィール値(HF値)は、ティシューソフトネスアナライザー(Emtec Electronic GmbH社製)を用いて、以下の測定方法によって測定することができる。
まず、ティシューソフトネスアナライザーのサンプル台に、直径112.8mmの円形にカットしたサンプルを設置する。このサンプルに対し、ブレード付きローターを100mNの押し込み圧力をかけて上方から押し込む。その後、ブレード付きローターを回転数が2.0回転/秒となるように回転させ、その時の振動周波数を測定する。
また、直径112.8mmの円形にカットした別のサンプルに対し、ブレード付きローターを100mNと、60mNの圧力で押し込んだ際の上下方向の変形変位量を算出する。HF値は、振動周波数と変形変位量から算出される値であり、計算のアルゴリズムはTP IIを用いることができる。
HF値を算出する際は、表裏面について測定をそれぞれ10回ずつ行い、得られた測定データからHampel identifierの方法で異常値を除外する。そして、各表面のHF値の平均値から、トイレットペーパーのHF値の平均値を算出する。
なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行う。また、測定の際には、付属の説明書に従い標準サンプル(emetec ref.2X(nn.n))で校正し、アルゴリズムをTP IIに設定する。計算ソフトウェアとしてはemetec measurement system ver.3.22を使用する。」
(カ)「【0034】
(繊維原料)
トイレットペーパーは、繊維原料を含むスラリーを抄紙することによって得られる。繊維原料としては、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹パルプ(広葉樹クラフトパルプ(LKP))、針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NKP))、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。パルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0035】
繊維原料としては、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプから選択される少なく
とも1種を用いることが好ましく、針葉樹パルプを用いることが好ましい。
中でも、本発明においては、針葉樹パルプと広葉樹パルプを併用することが好ましく、針葉樹クラフトパルプ(NKP)と広葉樹クラフトパルプ(LKP)を併用することがより好ましい。
【0036】
繊維原料として針葉樹パルプが用いられる場合は、針葉樹パルプの含有量は、トイレットペーパーに含まれるパルプ成分の全質量に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、針葉樹パルプの含有量は、トイレットペーパーに含まれるパルプ成分の全質量に対して、80質量%以下であることが好ましい。針葉樹パルプの含有量を上記範囲内とすることにより、トイレットペーパーの坪量やHF値等を所望の範囲内とすることが容易になる。
【0037】
繊維原料としては、針葉樹パルプと広葉樹パルプを併用することが好ましい。すなわち、トイレットペーパーには、針葉樹パルプの他に広葉樹パルプがさらに含まれることが好ましい。広葉樹パルプの含有量は、トイレットペーパーに含まれるパルプ成分の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、広葉樹パルプの含有量は、トイレットペーパーに含まれるパルプ成分の全質量に対して、70質量%以下であることが好ましい。広葉樹パルプの含有量を上記範囲内とすることにより、トイレットペーパーの坪量やHF値等を所望の範囲内とすることが容易になる。
【0038】
トイレットペーパー中に含有される繊維成分(パルプ成分)のカナディアン・フリーネス・スタンダード(C.F.S)で表されるフリーネスは400ml以上であることが好ましく、450ml以上であることがより好ましく、500ml以上であることがさらに好ましい。また、フリーネスは700ml以下であることが好ましい。繊維成分のフリーネスを上記範囲内とすることにより、トイレットペーパーの坪量やHF値等を所望の範囲内とすることが容易になり、手触り感に優れたトイレットペーパーが得られる。なお、繊維成分のフリーネスは後述するように、叩解条件を制御することにより調整することができる。
【0039】
(任意成分)
トイレットペーパーには、繊維原料の他に任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、柔軟剤等を挙げることができる。乾燥紙力剤としては、例えば、カチオン化澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を挙げることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン、尿素、メラミン、熱架橋性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。柔軟剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を挙げることができる。上記の任意成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
トイレットペーパーに乾燥紙力剤が含まれている場合は、乾燥紙力剤の含有量は、トイレットペーパーに含まれる繊維成分の100質量部に対して、0.01質量部以上0.50質量部以下であることが好ましい。
トイレットペーパーに湿潤紙力剤が含まれている場合は、湿潤紙力剤の含有量は、トイレットペーパーに含まれる繊維成分の100質量部に対して、0.001質量部以上0.10質量部以下であることが好ましい。
また、トイレットペーパーに柔軟剤が含まれている場合は、柔軟剤の含有量は、トイレットペーパーに含まれる繊維成分の100質量部に対して、0.01質量部以上0.50質量部以下であることが好ましい。
本発明においては、上記のような任意成分の添加量を適宜調整することによって、坪量を下げた場合であっても、トイレットペーパーの強度を維持している。
【0041】
(トイレットロールの製造方法)
本発明のトイレットロールの製造方法は、1プライのトイレットペーパーウェブを得る工程と、トイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程と、を含む。
なお、トイレットロールの製造方法の全工程中において、上記のエンボス加工を施す工程は1回のみ設けられる。
【0042】
1プライのトイレットペーパーウェブを得る工程は、繊維原料を含むスラリーを得る工程を含む。スラリーを得る工程においては、繊維原料を叩解する工程を含むことが好ましい。叩解工程においては、例えば、ダブルディスクリファイナー等を用いて叩解処理を施すことができる。この時、針葉樹パルプと広葉樹パルプをそれぞれ単独で叩解してもよいし、混合させた後に叩解してもよい。
【0043】
1プライのトイレットペーパーウェブを得る工程は、繊維原料を含むスラリーを抄紙する工程を含む。抄紙する工程で用いられる抄紙機としては、例えば、サクションブレストフォーマー(円網タイプ、長網タイプ)、ツインワイヤーフォーマー、円網フォーマー(Cラップ、Sラップ)、クレセントフォーマー等の抄紙機を挙げることができる。
【0044】
抄紙する工程では、網状のワイヤー上に繊維原料を含むスラリーが供給されてパルプの薄層が形成される。その後、プレスパートに向かって移送されながら、パルプの薄層の水分が網の下へ抜かれることでパルプの薄層は脱水される。このような工程を脱水工程と呼ぶこともある。一般に、ワイヤーは、金属またはプラスチック製の網を環にしたものである。
【0045】
抄紙する工程では、例えば、針葉樹パルプと広葉樹パルプを混合したパルプスラリーを抄紙して均一な1つの層として湿紙を形成する方法、もしくは、針葉樹パルプ層と広葉樹パルプ層を抄き合わせて1枚の湿紙を形成する方法があるが、いずれの手法を採用してもよい。
【0046】
脱水工程の後、湿紙はワイヤーからフェルトへと移動する。フェルトを介してプレスロールで圧力を加えることにより、湿紙はさらに機械的に搾水される。これを、プレス工程あるいは搾水工程と呼ぶこともある。
【0047】
抄紙する工程は、搾水工程の後に、さらに乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥工程は、例えば、湿紙に向かって熱風を吹き付ける工程、もしくは、ドライヤシリンダーを外周面に圧着させる工程であることが好ましい。
【0048】
エンボス加工を施す工程では、1プライのトイレットペーパーウェブにエンボス加工が施される。エンボス加工は、エンボスパターンを構成する凸構造が設置されたエンボスロールとラバーロールとの間に1プライのトイレットペーパーウェブを通し、エンボスパターンを型押しすることによって行われる。エンボスロールのエンボス高さや、押し込み量、押し込み圧を変更することによって、所望のエンボス高さを有するエンボスを形成することができる。
ここで、エンボス加工に用いるエンボスロールには凸構造高さ0.75mm以上0.85mm以下の凸構造が設置されていることが好ましい。また、エンボスロールには凸構造密度(エンボス密度)が10個/cm2以上30個/cm2以下の略均一な凸構造が設置されていることが好ましい。そして、エンボス加工では、上記のエンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押しすることが好ましい。」
(キ)「【実施例】
【0051】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0052】
(実施例1)
針葉樹クラフトパルプ(NKP)23質量部、広葉樹クラフトパルプ(LKP)77質量部となるように混合したパルプスラリーを、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解電力200Kwで叩解した。上記パルプスラリーに柔軟剤(星光PMC株式会社製)0.02質量部、湿潤紙力剤(星光PMC株式会社製)0.05質量部を添加して、抄紙用パルプスラリーを調製した。
調製した抄紙用パルプスラリーを、ツインワイヤーヤンキーマシンにより抄紙し、トイレットペーパーウェブ巻取を得た。なお、トイレットペーパーの坪量(1プライ)が表1に記載の通りとなるように抄紙条件を調整した。 得られた原紙巻取を加工機にかけ、巻き解いた後、エンボス加工を施した。その後、コア芯径39mmのコア芯に、サーフェイス方式で上記トイレットペーパーを巻き取った。サーフェイス方式の巻き取り工程では、表1の巻径になるようにライダーロールの押し付け圧を調整し、表1の長さになるように再度巻き取った。得られた巻取を所定の幅に断裁することで1プライのトイレットロールを得た。
【0053】
(実施例2)
坪量が表1に記載の通りとなるように、針葉樹クラフトパルプ(NKP)15質量部、広葉樹クラフトパルプ(LKP)85質量部となるように混合したパルプスラリーを叩解電力150Kwで叩解した以外は、実施例1と同様にして1プライのトイレットロールを得た。
【0054】
(実施例3)
坪量が表1に記載の通りとなるように、針葉樹クラフトパルプ(NKP)20質量部、広葉樹クラフトパルプ(LKP)75質量部となるように混合したパルプスラリーを叩解電力150Kwで叩解した以外は実施例1と同様にして1プライのトイレットロールを得た。
【0055】
(比較例1)
坪量が表1に記載の通りとなるように、針葉樹クラフトパルプ(NKP)23質量部、広葉樹クラフトパルプ(LKP)77質量部となるように混合したパルプスラリーを叩解電力250Kwで叩解し、柔軟剤の添加量を0.05質量部に変更した以外は実施例1と同様にして1プライのトイレットロールを得た。
(比較例2及び3)
比較例2及び3は、市販されている既知の製品である。
【0056】
(評価)
(坪量)
実施例及び比較例で得たトイレットペーパーの坪量はJIS P 8124に準拠して測定した。
【0057】
(引張強度)
実施例及び比較例で得たトイレットペーパーの引張強度は、サンプル幅15mm、引張速度50mm/分、スパン長100mmの条件で、横型引張試験機(熊谷理器社製)を用いて測定した。なお、引張強度は、1プライのトイレットペーパーの縦方向と横方向の両方向の強度を測定した。各々の方向について6サンプルの平均値を算出してそれぞれの引張強度とした。また、引張強度の測定は、ISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行った。
【0058】
(HF値の測定)
実施例及び比較例で得られたトイレットペーパーのHF値は、ティシューソフトネスアナライザー(Emtec Electronic GmbH社製)を用いて測定した。サンプル台に、直径112.8mmの円形にカットしたサンプルを設置し、このサンプルに対し、ブレード付きローターを100mNの押し込み圧力をかけて上方から押し込んだ。その後、ブレード付きローターを回転数が2.0回転/秒となるように回転させ、その時の振動周波数を測定した。また、直径112.8mmの円形にカットした別のサンプルに対し、ブレード付きローターを100mNと、60mNの圧力で押し込んだ際の上下方向の変形変位量を算出した。HF値は、振動周波数と変形変位量から、算出される値であり、計算のアルゴリズムはTPIIを用いた。なお、上記の測定は、各サンプルの表面(外面)と裏面(内面)についてそれぞれ10回ずつ行い、得られた測定データからHampel identifierの方法で異常値を除外し、表面及び裏面について各々平均値を算出した。さらにこのようにして算出した2つの面のHF値の平均値を算出し、それをHF値として評価に用いた。
なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行った。また、測定の際には、付属の説明書に従い標準サンプル(emetec ref.2X(nn.n))で校正し、アルゴリズムをTP IIに設定した。計算ソフトウェアにはemetec measurement system ver.3.22を使用した。
【0059】
(圧縮性)
実施例及び比較例で得たトイレットペーパーの圧縮性について、KES FB3-AUTO-A自動化圧縮試験機(カトーテック株式会社製)を用いて測定した。2cm2の加圧板と受圧板間に10cm×10cmにカットしたサンプルを設置し、50秒/mmの速さで加圧板を下降させ、その際に時々刻々と変化する圧力とその時のサンプルの厚みを測定することで、下記の項目を算出した。
T0:圧力0.5gf/cm2下におけるサンプルの厚み
Tm:圧力50gf/cm2下におけるサンプルの厚み
上記の項目の値は、各サンプルについて10回の測定を行い、得られた測定データからHampel identifierの方法で異常値を除外し、平均値として算出した値である。なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行った。
【0060】
(加工適性)
エンボス加工工程の後には、巻き取り工程が設けられる。巻き取り工程においては、所定長さ分の巻き取りを行い、その後、得られた巻取を所定の幅に断裁する。この断裁後の断面の状態を50ロール分観察し、トイレットロールのコア芯(紙管)の状態について3段階で評価を行った。表1に示した記号は下記の意味を示す。
<コア芯潰れ>
○:コア芯の潰れが発生せず正常
△:コア芯の潰れが1個以上10個未満において発生
×:コア芯の潰れが10個以上で発生
【0061】
(官能評価)
実施例及び比較例で得たトイレットペーパーについて、水準を隠した状態で官能評価を実施した。50人に製品を触ってもらい、製品の肌触りについて3段階で評価を行った。表1に示した記号は下記の意味を示す。
<肌触り>
○:優れている
△:やや劣る
×:劣る
【0062】
【表1】
[図:0001417629000008.jpg]
」
以上の発明の詳細な説明の記載から、本件発明の課題は、巻長の長いトイレットロールにおいて、「良好な肌触りを有するトイレットペーパーから構成されたトイレットロールを提供すること」及び、「コア芯潰れのないトイレットロールを提供すること」と把握される。
(3)本件発明が課題を解決できるかについて
本件発明1は、前記第3で示したとおりの発明であって、巻長、巻径、1プライ当たりの坪量、幅方向の引張強度、50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みについて、それぞれ数値範囲を特定するものである。
上記の特定について、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
ア 巻長について
「本発明のトイレットロールの巻長(巻き長さ)は95m以上150m以下である。このような巻長を有するトイレットロールは、いわゆる長巻トイレットロールと呼ばれることもある。また、2倍巻トイレットロールもしくは3倍巻トイレットロールと称されることもある。」(【0017】)
イ 巻径について
「本発明のトイレットロールの巻径(外径)は、110mm以上120mm以下であることが好ましい。・・・トイレットロールの巻径を上記範囲内とすることにより、あらゆるトイレットロールホルダーにトイレットロールを設置することができ、使用場面が制限されることはない。」(【0018】)
ウ 1プライ当たりの坪量について
「本発明のトイレットロールを構成するトイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上16g/m2以下である。トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上であればよく、11g/m2以上であることが好ましく、12g/m2以上であることがより好ましい。また、トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、16g/m2以下であればよく、15.5g/m2以下であることが好ましい。
本発明においては、トイレットペーパーの坪量を上記範囲内とすることにより、所望の巻径を有するトイレットロールを製造しやすくなる。通常、巻長の長いトイレットロールを製造する際には、ロール状に巻き取る際の巻き締め力を強くすることによって巻径をコントロールしている。しかし、本発明においては、ロール状に巻き取る際の巻き締め力を従来法における強さまで強くしなくても所望の巻径を有するトイレットロールを製造することができる。また、巻取の固さを抑えることで所定の幅に断裁する際にコア芯(紙管)潰れの発生をより効果的に抑制することができる。」(【0019】)
エ エンボスパターンの形成について
「本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーにはエンボス加工が施されている。本発明においては、1プライのトイレットペーパーの幅方向に略均一にエンボスが形成される。・・・また、本発明においては、エンボスは長さ方向にも略均一にエンボスが形成されることが好ましい。すなわち、1プライのトイレットペーパーの全領域にわたって、略均一にエンボスが形成される。・・・」(【0020】)
「トイレットペーパーのエンボスパターンでは、1個のエンボス直径は0.5mm以上2mm以下が好ましく、0.7mm以上1.3mm以下がより好ましい。またエンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下が好ましく、15個/cm2以上25個/cm2以下がより好ましい。」(【0022】)
オ 50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みについて
「本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(Tm)は75μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがより好ましい。また、厚み(Tm)は110μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。厚み(Tm)を上記範囲内とすることにより、トイレットペーパーの厚み感をしっかりと感じとることができ、肌触りや使用感に優れたトイレットペーパーを得ることができる。」(【0024】)
「また、本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(T0)は180μm以上であることが好ましく、190μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましく、210μm以上であることが特に好ましい。また、厚み(T0)は300μm以下であることが好ましく、280μm以下であることがより好ましく、260μm以下であることがさらに好ましく、240μm以下であることが特に好ましい。厚み(T0)を上記範囲内とすることによっても、トイレットペーパーの肌触りを高めることができる。」(【0025】)
「ここで、上述した厚み(T0)及び厚み(Tm)の値はKES FB3-AUTO-A自動化圧縮試験機(カトーテック株式会社製)を用いて測定することができる。具体的には、KES FB3-AUTO-A自動化圧縮試験機の2cm2の加圧板と受圧板間に10cm×20cmの大きさにカットしたサンプルを設置し、50秒/mmの速さで加圧板を下降させ、その際に変化する圧力とその時のサンプルの厚みを測定する。T0は圧力が0.5gf/cm2におけるサンプルの厚み(mm)であり、Tmは圧力が50gf/cm2におけるサンプルの厚み(mm)である。T0及びTmの値はエンボスの凹面(エンボスロールを押し当てた面)を加圧板側として10回の測定を行い、得られた測定データからHampel identifierの方法で異常値を除外し、平均値として算出した値である。なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±%)で行う。」(【0026】)
カ 幅方向の引張強度について
「トイレットペーパーの幅方向の引張強度は0.30N/15mm以上であることが好ましく、0.40N/15mm以上であることがより好ましい。また、トイレットペーパーの幅方向の引張強度は2.00N/15mm以下であることが好ましく、1.50N/15mm以下であることがより好ましく、1.20N/15mm以下であることがさらに好ましい。」(【0032】)
以上の記載からみて、上記特定の数値範囲を有する本件発明1は、上記(1)の課題を解決しようとする発明であることが理解できる。
そして、明細書の段落【0051】~【0063】には、本件発明1の実施例及び比較例が記載されており、特に段落【0062】の【表1】によれば、
実施例1、2、3は、それぞれ
巻長が、すべて120cm、
巻径が、すべて114mm、
1プライ当たりの坪量が、15.20g/m2、14.00g/m2、15.30g/m2、
トイレットペーパーの幅方向の引張強度が、0.77N/15mm、0.63N/15mm、0.67N/15mm、
トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(Tm)が、97μm、85μm、83μm
であるから、上記特定の数値範囲に含まれており、すべてにおいて、加工適正としてコア芯潰れが発生せず、官能評価として肌触りが優れていることが示された(【0060】、【0061】、【0062】の表1)。
また、1プライ当たりの坪量について、最小14.0g/m2、最大15.3g/m2の範囲にとどまるものであって、上記本件発明1の「10g/m2以上16g/m2以下」のうちの10.00g/m2以上14.00g/m2未満の範囲については、上記表1に記載されていないものの、トイレットペーパーの肌触りやコア芯潰れの発生等の性質は、坪量のみによって決まるものではなく、その他の諸元と複合的に関連して決まるものであって、本件訂正によって付加された「幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上である」という特定によって、実質的に課題を解決できるものとなっている。
なお、令和6年4月19日付け意見書で追加データとして示されたものによって、本件特許の発明の詳細な説明の記載を補うことはできないが、同追加データの実施例4、5は、坪量が10.5g/m2、13.0g/m2であるものが、幅方向の引張強度は0.63N/15mm、0.67N/mmとなっており、それらがいずれも加工適正としてコア芯潰れが発生せず、官能評価として肌触りが優れていることが示されていることから、上記「幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上である」という特定を付加することによって、本件発明の課題を解決できるという理解と矛盾しないものである。
さらに、本件発明2、3の「50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(Tm)」についても、上記本件発明1の坪量と同様であって、本件訂正によって付加された「幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上である」という特定によって、実質的に課題を解決できるものとなっている。
また、本件発明4~6についても同様である。
よって、本件発明1から6に係る特許は、取消理由2によって取り消されるべきものではない。
第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
1 進歩性違反(甲4主引例)について
(1)申立人の具体的主張
申立人は特許異議申立書において、
ア 本件発明1~3は、甲4を主たる証拠とした上で、甲15、甲3及び周知技術(甲1、甲2、甲5~甲14、甲16~甲22等)に基づき、進歩性がない旨、
イ 本件発明4は、甲4を主たる証拠とした上で、甲15、甲10、甲3及び周知技術(甲1、甲2、甲5~甲9、甲11~甲14、甲16~甲22等)に基づき、進歩性がない旨、
ウ 本件発明5、6は、甲4を主たる証拠とした上で、甲2、甲15、甲3及び周知技術(甲1、甲5~甲14、甲16~甲22等)に基づき、進歩性がない旨、主張している。(特許異議申立書70頁下から6行~89頁1行)
(2)甲4を主たる証拠とした進歩性について
甲4は、「1プライまたは2プライのトイレットぺーパー、ボックス収容または携帯用ティッシュペーパーなどに供するエンボス付与ウェブおよびその製造用ロール」に関するから(【0001】)、試験した多数のウェブの中に「坪量g/m2」が「16」の「試験No.1」のウェブが示されているからといって(【0034】の【表2】)、当該「試験No.1」のウェブは、「エンボス付与ウェブおよびその製造用ロール」である蓋然性が高く、トイレットロールとして巻長が整えられたものとはいえない。
そして、トイレットロールにおいて、巻長、幅方向の引張強度、厚み等について、それぞれ個別のパラメータとしては種々の値のものが知られているからといって、甲4の「試験No.1」のウェブを出発点として、「トイレットロール」として、巻長、幅方向の引張強度、50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みといった全てのパラメータを、本件発明1に特定される数値範囲内とする動機付けがあったとはいえない。
したがって、申立人による上記(1)の主張について検討しても、甲4を主たる引用例として、本件発明1が進歩性を欠くということはできない。
本件発明2~6についても、本件発明1について上記に説示したとおりである。
2 実施可能要件違反について
(1)申立人の具体的主張
申立人は特許異議申立書において、次の主張をしている。
ア 本件発明1について、
(ア)トイレットロールの基本的構成として、巻長、巻径、及び坪量という組み合わせが規定されているが、本件特許明細書において、巻長、巻径、及び坪量の組み合わせについて検証できている実施例は、3例のみであるから、製造条件のうちどの条件を如何に調節すればよいのか、実施例以外で、当該条件を満たすトイレットロールを角の試行錯誤なく製造できない、
(イ)トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みを規定するが、本件特許明細書の実施例で検証されているのは、3例のみであるから、規定された数値範囲の全範囲において実施可能な程度に記載されているとはいえない、
(ウ)本件特許明細書の実施例によれば、官能評価(肌触り)の3段階評価について、基準が全く理解できないため、追試することもできないし、恣意的に判断基準を変動させることができるものであるから、発明の課題が解決できているとは認識できない、
イ 本件発明2について、
実施例には、エンボス直径に関する数値は全く記載されていないので、エンボス直径を0.5mm以上2.0mm以下とすることで、課題が解決できているのか不明である、
ウ 本件発明3について、
実施例には、エンボス深さに関する数値は全く記載されておらず、エンボス深さを0.85mm以下とすることで、課題が解決できているのか不明であって、さらに、エンボス深さの下限値を規定していないので、エンボス深さが0mmに限りなく近い場合であっても所望の効果が得られるのか疑義がある、
エ 本件発明4について、
トイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が65.0以上であることを規定するが、本件特許明細書の実施例で検証されているのは、3例のみであるから、製造条件のうちどの条件を如何に調節すればよいのか、実施例以外で、当該条件を満たすトイレットロールを過度の試行錯誤なく製造できない、
オ 本件発明5について、
(ア)実施例には、エンボス加工に関して如何なる条件を採用しているのか記載されていないので、エンボスロールの型押しの条件について、実施可能要件を満たしていない、
(イ)前記ア(ア)と同様に、本件特許明細書において、巻長、巻径、及び坪量の組み合わせについて検証できている実施例は、3例のみであるから、実施可能要件を満たしていない、
カ 本件発明6について
前記オと同様に、実施例には、エンボス加工に関して如何なる条件を採用しているのか記載されておらず、さらに、前記ウと同様に、エンボス深さの下限値を規定していないので、エンボス深さが0mmに限りなく近い場合であっても所望の効果が得られるのか疑義がある。(特許異議申立書89頁2行~92頁最下行)
(2)具体的主張についての当審の判断
ア 判断基準
本件発明1~4は物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件発明5、6は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
イ 発明の詳細な説明における記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記第5の2(2)で記載したとおりの記載がある。
ウ 判断基準に基づく判断
上記アの判断基準に基づいて、判断する。
(ア)本件発明1について
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、摘記した段落【0034】~【0040】には、使用する繊維原料、繊維原料に対する叩解条件及び添加する任意成分により、トイレットペーパーの坪量やHF値等を所望の範囲内とすることが容易となるとともに、坪量を下げた場合であってもトイレットペーパーの強度を維持することができる旨が、説明されている。
また、上記段落【0041】~【0048】には、トイレットロールの製造に関し、具体的な説明が記載されている。
そのうえで、上記段落【0051】~【0055】、【0059】及び段落【0062】の【表1】には、繊維原料である針葉樹クラフトパルプ(NKP)と広葉樹クラフトパルプ(LKP)との比率、叩解電力及び柔軟剤の添加量を変更したうえで、坪量(1プライ)が表1に記載の通りとなるように抄紙条件を調整した実施例1ないし3及び比較例1のトイレットロールに関して、坪量を14.0g/m2から16.1g/m2まで変更した場合について、巻長、巻径、HF値、幅方向の引張強度が、いずれも本件発明1において特定される数値範囲内となることが示されている。
発明の詳細な説明におけるこれらの記載からすれば、トイレットロールという物の発明である本件発明1に関して、坪量を10g/m2以上16g/m2の範囲内とした場合について、その他のパラメータである巻長、巻径、幅方向の引張強度、50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが、いずれも本件発明1で特定される数値範囲を満たすトイレットロールを生産し、使用することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものではない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、上記段落【0020】~【0022】には、エンボス加工に関し、エンボス直径の好適範囲が説明されている。また、同段落【0023】には、エンボスロールにより加圧を行う際の押し込み量について、「トイレットペーパーの厚みが後述する条件を満たすように調整する」ことが記載され、後続する段落【0024】~【0026】には、トイレットペーパーの厚みが満たすべき条件について、異なる2種類の圧力をかけた際の厚みTm及びT0について、それぞれ満たすべき範囲が、Tm及びT0の測定方法とともに、具体的に説明されている。さらに、同段落【0048】には、エンボスロールの凸構造の好適な高さ、及びエンボスロールにより型押しを行う際の好適な圧力について、説明されている。
これら発明の詳細な説明における記載からすれば、トイレットロールという物の発明である本件発明1について、当業者がその物を生産し、使用するうえで、エンボス加工に関し、過度の試行錯誤を要する程に、発明の詳細な説明における記載が不足しているものではない。
また、製品の肌触りについて3段階とする官能評価の具体的基準が詳細に記載されていないからといって、本件発明1に係るトイレットロールの生産及び使用について、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものとなるような事情はない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1に係るトイレットロールを生産し、使用することができる程度の記載があるものである。
(イ)本件発明2、3について
前記(ア)で示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、エンボス直径及びエンボス深さが、いずれも本件発明2、3において特定される数値範囲内となることが示されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2、3に係るトイレットロールを生産し、使用することができる程度の記載があるものである。
(ウ)本件発明4について
前記(ア)で示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、トイレットペーパーの表面及び裏面のHF値(ハンドフィール値)の平均が、本件発明4において特定される数値範囲内となることが示されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明4に係るトイレットロールを生産し、使用することができる程度の記載があるものである。
(エ)本件発明5及び本件発明6について
本件発明5及び6は、トイレットロールという物の発明である本件発明1及び3に概略対応した製造方法の発明であって、エンボス加工を施す工程における型押しの圧力を特定した、トイレットロールの製造方法の発明である。
上記イに摘記した、発明の詳細な説明の段落【0048】に記載される、エンボス加工を施す工程における型押しの圧力は、本件発明5における特定と、整合する。
そして、本件発明1及び3について、上記(ア)及び(イ)において指摘した事項を踏まえると、本件発明5及び6に係るトイレットロールの製造方法を実施するうえで、発明の詳細な説明の記載は、当業者にとって過度の試行錯誤を要する程に、記載が不足しているものではない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明5及び本件発明6に係るトイレットロールの製造方法を使用し、当該製造方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるものである。
(オ)実施可能要件のまとめ
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~6について、特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を、充足する。
2 サポート要件違反について
(1)申立人の具体的主張
申立人は特許異議申立書において、上記(1)アに示した実施可能要件に関する主張とあわせて、本件発明1~6は、特許法36条6項1号に規定するサポート要件を満たしていない旨を主張している。(特許異議申立書89頁2行~92頁最下行)
(2)具体的主張についての当審の判断
ア 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、前記第5の2(1)で示したとおり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ 判断基準に基づく判断
上記アの判断基準に基づいて、判断する。
(ア)解決しようとする課題
上記に摘記した本件特許明細書の段落【0002】~【0009】の記載より、本件特許明細書において解決しようとする課題は、巻長の長いトイレットロールにおいて、「良好な肌触りを有するトイレットペーパーから構成されたトイレットロールを提供すること」、及び、「コア芯潰れのないトイレットロールを提供すること」である。
(イ)課題を解決できると認識されるか否か
本件特許明細書の段落【0017】及び【0018】には、いわゆる長巻トイレットロールと呼んでよいトイレットロールの巻長として、「95m以上150m以下」であることが記載され、巻長及び巻締めの際にかける力と関係する巻径について、使用範囲が制限されることはない範囲として、「110mm以上120mm以下であることが好ましい」と記載されている。
本件特許明細書の段落【0019】には、巻長を長いものとしながら巻き締め力を従来ほど強くする必要がなく、所定の幅に断裁する際にもコア芯潰れの発生を抑制することができる坪量の範囲として、「10g/m2以上16g/m2以下」とすることが、説明されている。
本件特許明細書の段落【0020】~【0026】には、トイレットペーパーの肌触りを優れたものとするためのエンボス加工に関して説明され、エンボスロールの押し込み量に関して調整するトイレットペーパーの厚みについて、「1プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(Tm)」を「75μm以上」「110μm以下」とすることによって「トイレットペーパーの厚み感をしっかりと感じることができ、肌触りや使用感に優れたトイレットペーパーを得ることができる」ことが記載されている。
本件特許明細書の段落【0030】~【0031】には、トイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均は「65.0以上」であることが好ましいことが、記載されている。
本件特許明細書の段落【0032】には、トイレットペーパーの幅方向の引張強度は「0.30N/15mm以上」であることが好ましいことが、記載されている。
そして、本件特許明細書の段落【0051】~【0055】及び【表1】には、巻長及び巻径を「120m」及び「114mm」とし、坪量、幅方向の引張強度、ハンドフィール値(HF)の表裏平均及び紙厚(Tm)についてそれぞれ「15.2g/m2」、「0.77N/15mm」、「71.6」及び「97μm」、「14.0g/m2」、「0.63N/15mm」、「69.0」及び「85μm」、「15.3g/m2」、「0.67N/15mm」、「66.8」及び「83μm」とした実施例1、実施例2及び実施例3について、コア芯潰れが発生せず肌触りが優れていたのに対し、坪量を「16.1g/m2」とした以外は実施例1と同様に製造し、巻長、巻径、幅方向の引張強度、ハンドフィール値(HF)の表裏平均及び紙厚(Tm)をそれぞれ「120m」、「114mm」、「0.62N/15mm」、「73.0」及び「88μm」とした比較例1では、肌触りは実施例と同様に優れていたがコア芯潰れが10以上で発生したことが示されている。
これら本件特許明細書の記載からすれば、1プライのトイレットペーパーを巻き取ったトイレットロールに関し、坪量、巻長、巻径、ハンドフィール値(HF)の表裏平均及び50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みである紙厚(Tm)について、明細書に記載された好適な数値範囲とし、幅方向の引張強度について、明細書に記載された好適範囲のうち下限を実施例2に示される「0.63N/15mm」とした、本件発明1ないし6は、上記(ア)に示した発明の課題を解決できると、合理的に認識することができる。
したがって、本件発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(ウ)サポート要件のまとめ
よって、本件発明1ないし6は、特許法36条6項1号に規定するサポート要件を充足する。
3 明確性要件違反について
(1)申立人の具体的主張
申立人は特許異議申立書において、本件特許発明3、6は、エンボス深さ及びエンボスロールの凸構造の高さの数値範囲について、「0.85mm以下である」と記載されているのみであり、その下限値が記載されていないから、発明の範囲が不明確である旨、主張している。(特許異議申立書93頁1~10行)
(2)具体的主張についての当審の判断
ア 判断基準
特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 判断基準に基づく判断
上記アの判断基準に基づいて、判断する。
(ア)本件発明3、6について
本件発明3は、「トイレットロール」に「エンボス加工により形成されたエンボスパターン」について、「エンボス深さが0.85mm以下である」ことを特定しているものである。
本件発明3において、「エンボス深さ」について、「0.85mm以下」という数値の上限のみが特定されていても、「エンボス加工」がされたといえない凹凸や「エンボス」とは言えない凹凸については、本件発明3の構成要件を充足しないと、明確に理解される。
この点は、本件発明6の「エンボスロール」の「凸構造」についても同様である。
したがって、本件発明3、6に係る「エンボス」、「凸構造」の構成は、明確に理解されるものであり、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確なものではない。
そして、本件発明3、6が有するその余の構成についても、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確な点はない。
(イ)明確性要件のまとめ
よって、本件発明3及び本件発明6は明確であり、特許法36条6項2号の規定を充足する。
第7 申立人の意見書における主張について
1 進歩性の欠如について
(1)申立人の主張
申立人は、令和6年6月13日付けの意見書において、「トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上」であるという発明特定事項は、甲6、甲10、甲11に記載されているから、本件発明1は、甲1発明、及び、甲6(あるいは甲10、甲11等)に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。また申立人は、本件発明2~6についても、本件発明1と同様の理由で、進歩性を有さない旨を主張している。(同意見書2頁1行~12頁13行)
(2)申立人の主張についての判断
前記第5の1(2)イにおいて、本件発明1と甲1発明との相違点2について判断したとおり、比較例としての性質を示すために採用された具体的パラメータである「DCDT」と関連がある「坪量」を維持したまま、「DCDT」のみを変更する動機付けがあったということはできない。
さらに、DCDTに関し、甲1には、衛生薄葉紙の坪量を17.0g/cm2とした実施例1(【表1】参照)が記載され、当該実施例1では「DCDT」が1.08N/25mm(換算すると、0.648N/15mm)であるところ、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量として16.5g/m2未満または21.5g/m2を超えることは避けるべきことが、記載されている(【0012】)と認められる。
甲1のこれらの記載を考慮して、DCDTについて好適な値を採用するのであれば、その他のパラメータも含めて実施例1ないし9で特定される値とするか、少なくとも坪量において好適範囲とされる16.5g/m2~21.5g/m2の範囲とすることが、甲1の記載に基づく自然な選択である。この点、比較例3を出発点としながら、「DCDT」の値について、比較例3で特定される値を離れてそれを増加させようとすると、自ずと「坪量」も増加させることとなり、坪量は12.2g/m2から大きく増加し、実施例1として記載されたもののように、「10g/m2以上16g/m2以下」に該当しない値となって、本件発明1とは新たな相違点を生じることとなる。
してみれば、「DCDT」の値を「0.63N/15mm以上」へと変更することは、甲1における全ての記載を総合しても、動機付けがあったということができず、むしろ、坪量について避けるべき数値範囲に変更することになる点で阻害要因が存在すると言わざるを得ない。
そして、甲6や甲11に、本件発明1で特定された坪量と幅方向の引張強度と同等の数値のものが記載されているからといって、甲1の比較例を出発点として、同比較例において採用された具体的な坪量やその他の値は維持したまま幅方向の引張強度のみを増加させて特定の引張強度を採用することについて、動機付けがあったということはできない。
なお、申立人が、「トイレットペーパーの幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上」であるという発明特定事項が記載されていると主張する甲10については、前記第5の2(1)イで示したとおり、DCDTが0.3N/25mm以上である点が開示されているが、換算すると、0.18N/15mm以上であって、本件発明1の「0.63N/15mm以上」が記載されているとはいえない。
したがって、申立人による上記アの主張について検討しても、甲1発明を主たる引用発明とした本件発明1の進歩性について、前記第5の2(1)と異なる判断をすべき事情は見いだせない。
本件発明2~6についても、本件発明1について上記に説示したとおりである。
2 サポート要件違反について
(1)申立人の主張
申立人は、令和6年6月13日付けの意見書において、本件発明1~3は依然としてサポート要件違反が解消できておらず、さらに、訂正によって追加された「幅方向の引張強度が0.63N/15mm以上」であるという点について、新たなサポート要件違反が生じている旨、及び、特許権者が意見書10頁以降に記載した追加データは、証拠の適格性を満たさないものであって、また、出願後に追加データを提出しても、発明の詳細な説明の記載不足を補うことはできない旨を主張している。(同意見書12頁14行~16頁10行)
(2)申立人の主張についての判断
サポート要件については、前記第5の2(1)に示した判断基準によって判断されるべきものであり、当該判断基準に基づく判断は、前記第5の2(3) に示したとおりである。
そして、申立人による上記(1)の主張について検討しても、当該判断を変更すべき事情は見いだせない。
3 明確性要件違反について
(1)申立人の主張
申立人は、令和6年6月13日付けの意見書において、本件発明1、5は「幅方向の引張強度」について下限値「0.63N/15mm以上」を規定するのみで、上限値を規定していないので、不明確である旨を主張している。(同意見書16頁11~21行)
(2)申立人の主張についての判断
明確性要件については、前記第6の3(2)アに示した判断基準によって判断されるべきものである。
本件発明1、5において、「幅方向の引張強度」について、「0.63N/15mm以上」という数値の下限のみが特定されていても、0.63N/15mm未満のものについては、本件発明1、5の構成要件を充足しないと、明確に理解される。
したがって、本件発明1、5に係る「トイレットペーパー」の構成は、明確に理解されるものであり、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確なものではない。
第8 むすび
以上のとおり、本件発明1~6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。
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2023-701276