特許異議申立
2022-701029
熱伝導シートの供給形態及び熱伝導シート本体
- 審判番号
- 2022-701029
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-018765
- 登録番号
- 7057845
- 請求日
- 2022年10月18日
- 審決日
- 2023年06月23日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】デクセリアルズ株式会社
- 【権利者代理人】野口 信博
- 【権利者代理人】穂谷野 聡
- 【異議申立人】吉澤 悦子
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 棚田 一也
- 審判官 柴垣 俊男
- 分類
- P1651.121-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7057845号発明「熱伝導シートの供給形態及び熱伝導シート本体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7057845号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔11~16〕について訂正することを認める。
特許第7057845号の請求項1~16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7057845号の請求項1~16に係る特許についての出願は、令和3年2月9日に出願され、令和4年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和4年4月20日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年10月18日 :特許異議申立人吉澤悦子(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 5年 1月23日付け:取消理由通知
令和 5年 3月14日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)の提出
なお、令和5年3月27日付けで、本件訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付した。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項11に「バインダ樹脂と、鱗片状の窒化ホウ素とを含み、上記鱗片状の窒化ホウ素が厚み方向に配向している熱伝導シート本体であって、上記バインダ樹脂がシリコーン樹脂であり、直径5.1mmのプローブにより当該熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引き剥がした際の当該熱伝導シート本体表面のタック力が75gf以上である、熱伝導シート本体。」と記載されているのを、「バインダ樹脂と、鱗片状の窒化ホウ素とを含み、上記鱗片状の窒化ホウ素が厚み方向に配向している熱伝導シート本体であって、上記バインダ樹脂がシリコーン樹脂であり、当該熱伝導シート本体の表面に上記バインダ樹脂が染み出しており、直径5.1mmのプローブにより当該熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引き剥がした際の当該熱伝導シート本体表面のタック力が75gf以上である、熱伝導シート本体。」と訂正する。
(請求項11の記載を引用する請求項12~16も同様に訂正する。)
(2)一群の請求項についての説明
本件訂正前の請求項11~16について、請求項12~16はそれぞれ請求項11を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項11に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正前の請求項11~16に対応する本件訂正後の請求項11~16は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、熱伝導シート本体について、熱伝導シート本体の表面に上記バインダ樹脂が染み出していることを限定する訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落0044には「熱伝導シート本体3を構成するバインダ樹脂4が熱伝導シート本体3の表面」「に染み出し」と記載されているから、訂正事項1に係る訂正は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 独立特許要件の適否
本件訂正前の請求項1~16について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(2)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の一群の請求項〔11~16〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件発明
本件訂正後の請求項1~16に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明16」という。また、本件発明1~本件発明16をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
剥離フィルムに熱伝導シート本体が挟持された熱伝導シートの供給形態であって、
上記熱伝導シート本体が、バインダ樹脂と、形状異方性を有する熱伝導材料を含み、
上記形状異方性を有する熱伝導材料の長軸が、上記熱伝導シート本体の厚み方向に配向しており、
上記バインダ樹脂がシリコーン樹脂であり、
上記形状異方性を有する熱伝導材料が鱗片状の窒化ホウ素または炭素繊維であり、
上記剥離フィルムを上記熱伝導シート本体から剥離した直後の上記熱伝導シート本体のタック力が、下記の測定方法において75gf以上である、熱伝導シートの供給形態。
測定方法:上記熱伝導シート本体から上記剥離フィルムを剥がした直後に、直径5.1mmのプローブにより上記熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引きぬく。
【請求項2】
上記剥離フィルムに挟持された上記熱伝導シート本体の上記測定方法で測定されたタック力が、上記剥離フィルムに挟持されていない熱伝導シートの上記測定方法で測定されたタック力と比較して増加する、請求項1に記載の熱伝導シートの供給形態。
【請求項3】
上記形状異方性を有する熱伝導材料が鱗片状の窒化ホウ素である、請求項1または2に記載の熱伝導シートの供給形態。
【請求項4】
上記剥離フィルムを剥離した直後の上記熱伝導シート本体のタック力が、上記測定方法において80gf以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導シートの供給形態。
【請求項5】
上記剥離フィルムを上記熱伝導シート本体から剥離した際に、上記熱伝導シート本体の成分の一部が、上記剥離フィルムに転着する、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導シートの供給形態。
【請求項6】
上記熱伝導シート本体が、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化亜鉛および水酸化アルミニウムの少なくとも1種をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導シートの供給形態。
【請求項7】
上記剥離フィルムが、1枚の上記熱伝導シート本体の両面に設けられている、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導シートの供給形態。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導シートの供給形態から剥離フィルムが剥離された、熱伝導シート本体。
【請求項9】
請求項8に記載の熱伝導シート本体を備える、電子機器。
【請求項10】
剥離フィルムに熱伝導シート本体が挟持された熱伝導シートの供給形態の製造方法であって、
バインダ樹脂と、形状異方性を有する熱伝導材料とを含む、熱伝導組成物を調製する工程と、
上記熱伝導組成物から成形体ブロックを形成する工程と、
上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導シートを得る工程と、
上記熱伝導シートの表面を上記剥離フィルムの間に配置する工程とを有し、
上記バインダ樹脂がシリコーン樹脂であり、
上記形状異方性を有する熱伝導材料が鱗片状の窒化ホウ素であり、
上記剥離フィルムを剥離した直後の上記熱伝導シート本体のタック力が、下記の測定方法において75gf以上である、熱伝導シートの供給形態の製造方法。
測定方法:上記熱伝導シート本体から上記剥離フィルムを剥がした直後に、直径5.1mmのプローブにより上記熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引きぬく。
【請求項11】
バインダ樹脂と、鱗片状の窒化ホウ素とを含み、
上記鱗片状の窒化ホウ素が厚み方向に配向している熱伝導シート本体であって、
上記バインダ樹脂がシリコーン樹脂であり、
当該熱伝導シート本体の表面に上記バインダ樹脂が染み出しており、
直径5.1mmのプローブにより当該熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引き剥がした際の当該熱伝導シート本体表面のタック力が75gf以上である、熱伝導シート本体。
【請求項12】
直径5.1mmのプローブにより当該熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引き剥がした際の当該熱伝導シート本体表面のタック力が80gf以上である、請求項11に記載の熱伝導シート本体。
【請求項13】
請求項11または12に記載の熱伝導シート本体が剥離フィルムで挟持された、熱伝導シートの供給形態。
【請求項14】
上記熱伝導シート本体から上記剥離フィルムを剥がした際に、上記熱伝導シート本体を構成する上記バインダ樹脂および上記鱗片状の窒化ホウ素の少なくとも1種の一部が上記剥離フィルムに転着する、請求項13に記載の熱伝導シートの供給形態。
【請求項15】
アルミナ、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウムの少なくとも1種をさらに含む、請求項11または12に記載の熱伝導シート本体。
【請求項16】
発熱体と放熱体との間に、請求項11または12に記載の熱伝導シート本体を備える、電子機器。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項11~16に係る特許に対して、当審が令和5年1月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(進歩性)
本件発明11、12及び16は、引用文献1に記載された発明及び技術事項と、引用文献5~7に記載された技術常識とに基づき、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件発明13及び14は、引用文献1に記載された発明及び技術事項と、引用文献2及び3に記載された周知技術と、引用文献5~7に記載された技術常識とに基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明15は、引用文献1に記載された発明及び技術事項と、引用文献4に記載された技術事項と、引用文献5~7に記載された技術常識とに基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)引用文献
取消理由で引用した引用文献1~7は以下のとおりである。
引用文献1:特開2017-157622号公報(申立人提出の甲第1号証)
引用文献2:特開2020-196828号公報(申立人提出の甲第2号証)
引用文献3:特開2008-251746号公報(申立人提出の甲第3号証)
引用文献4:国際公開第2020-105601号(申立人提出の甲第5号証)
引用文献5:“小型卓上試験機 粘着テープのプローブタック試験”、[oneline]、Application News、No.i283、2020年9月、株式会社島津製作所、[2023年1月6日検索]、インターネット<URL:https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/test/an_i283.pdf >
引用文献6:特開2015-189782号公報
引用文献7:国際公開第2017-057163号
2 引用文献の記載事項、引用文献に記載された引用発明、技術事項、技術常識
(1)引用文献1、引用発明、技術事項
ア 引用文献1には、次の事項が記載されている(なお、下線は当審が付与した。以下、同じ。)。
「【請求項1】
熱伝導性粒子及び有機高分子化合物含む基材シートと、前記基材シートの少なくとも一方の表面上に局在する粘着成分と、を有する熱伝導シート。
【請求項2】
前記熱伝導性粒子が鱗片状粒子、楕球状粒子及び棒状粒子からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱伝導性粒子が黒鉛粒子を含む、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記粘着成分が存在する粘着成分領域の平均厚みが1.5μm以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
熱伝導性粒子及び有機高分子化合物を含む基材シートの少なくとも一方の表面上に、粘着成分が局在するように前記粘着成分を付与する工程を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。」
「【0003】
電子部品装置で発生した熱を効率よく放散する方法としては、電子部品装置(発熱体)とアルミニウム、銅等の金属部材(放熱体)とを、熱伝導部材を間に挟んで貼り付ける方法が一般的に採用されている。熱伝導部材としては、熱伝導グリース、熱伝導シート等が用いられている。放熱体を発熱体に貼り付ける際の作業性の観点からは熱伝導シートの方が熱伝導グリースよりも優れているが、従来の熱伝導シートの熱伝導性には改善の余地があった。」
「【0009】
本発明は上記事情に鑑み、仮固定の作業性に優れ、かつ熱抵抗が抑制された熱伝導シート及びその製造方法を提供する。」
「【0016】
上記熱伝導シートは、熱伝導性粒子及び有機高分子化合物を含む基材シートの少なくとも一方の表面上に粘着成分が存在することで、表面の粘着性(タック性)に優れていると考えられる。さらに、粘着成分が局在することで、熱抵抗が低く抑えられていると考えられる。
【0017】
本明細書において「粘着成分が局在する」とは、基材シートの表面に対向する方向から基材シート表面を観察したときに、基材シートの表面上に粘着成分が存在しかつ粘着成分が存在しない領域で囲まれた領域(以下、粘着成分領域とも称する)が複数存在し、かつ当該複数の粘着成分領域が基材シートの表面上に間隔を空けて配置されている状態を意味する。
【0018】
図1に、基材シート1の表面に粘着成分10が局在している様子を模式的に示す。図1に示すように、粘着成分10が存在しかつ粘着成分10が存在しない領域で囲まれた粘着成分領域が、基材シート1の表面上に間隔を空けて複数配置されている。」
「【0025】
(熱伝導性粒子)
熱伝導性粒子は、熱伝導シートとして所望の性能が達成できる程度の熱伝導性を有するものであれば特に制限されない。具体的には、窒化ホウ素粒子、黒鉛粒子、炭素粒子等が挙げられ、中でも黒鉛粒子が好ましい。熱伝導性粒子は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
熱伝導性粒子は、鱗片状粒子、楕球状粒子及び棒状粒子からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。」
「【0030】
(有機高分子化合物)
有機高分子化合物の種類は、特に制限されない。熱伝導性シートに良好な柔軟性と、発熱体及び放熱体に対する良好な密着性と、を付与する観点からは、Tg(ガラス転移温度)が50℃以下である有機高分子化合物が好ましく、Tgが-70℃~20℃である有機高分子化合物がより好ましく、Tgが-60℃~0℃である有機高分子化合物が更に好ましい。
【0031】
有機高分子化合物として具体的には、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等を主要な原料成分とした、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(所謂アクリルゴム)、ポリジメチルシロキサン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂シリコーン樹脂)、ポリイソプレン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂イソプレンゴム、及び天然ゴム)、クロロプレンを主要な原料成分とした高分子化合物(所謂クロロプレンゴム)、ポリブタジエン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂ブタジエンゴム)などが挙げられる。これらの高分子化合物は、一般に「ゴム」と総称される柔軟性を有する有機高分子化合物である。有機高分子化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。」
「【0041】
<熱伝導シートの製造方法>
本実施形態の熱伝導シートの製造方法は、熱伝導性粒子と、有機高分子化合物と、を含む基材シートの少なくとも一方の表面上に、粘着成分が局在するように前記粘着成分を付与する工程(粘着成分付与工程)を含む。
【0042】
基材シートの少なくとも片面上に粘着成分を付与する方法は特に制限されず、スプレー法、印刷法、インクジェット法等の公知の方法から選択できる。簡便かつ効率的に所望の粘着成分領域を形成する観点からは、スプレー法が好ましい。」
「【0045】
ある実施態様では、基材シートの製造は、熱伝導性粒子と有機高分子化合物、及び必要に応じてその他の成分を混合して混錬物を得る工程(混錬工程)と、得られた混錬物をシート状に成形して1次シートを作製する工程(1次シート作製工程)と、1次シートを複数枚重ねて積層体を得る工程(積層工程)と、積層体をスライスして基材シートを得る工程(スライス工程)とをこの順に行う。必要に応じて、基材シートを圧縮する工程(ロールプレス工程)を行ってもよい。
【0046】
混錬工程では、熱伝導性粒子と有機高分子化合物、及び必要に応じてその他の成分を混合して混錬物を得る。混錬物に含まれる熱伝導性粒子の大きさは、スライス工程で得られる基材シートの厚みを考慮して選択することが好ましい。混錬の方法は特に制限されず、一般的な装置を用いて行うことができる。例えば、2本ロール又はニーダーを用いて行うことができる。
【0047】
1次シート作製工程では、混練物をシート状に成形する。成形は、例えば、混練物を押しつぶすことで行うことができる。混練物を押しつぶす方法は特に制限されず、一般的な装置を用いて行うことができる。例えば、平板プレス又はメタルロールを用いて行うことができる。成形の際の温度条件は、有機高分子化合物の脆性化を抑制する観点からは150℃以下とすることが好ましく、有機高分子化合物の軟化を促進する観点からは25℃以上とすることが好ましい。1次シートの厚みは特に制限されず、薄いほど好ましい。例えば、0.2mm~1.0mmの範囲内とすることが好ましい。
【0048】
積層工程では、所定の大きさに切断した1次シートを複数枚重ねて積層体を得る。積層する方法は特に制限されない。積層体を得た後は、1次シート同士を密着させるために圧縮してもよい。圧縮する方法は特に制限されず、一般的な装置を用いて行うことができる。例えば、平板プレス又はメタルロールを用いて行うことができる。積層体を圧縮する場合の圧縮量は特に制限されない。例えば、圧縮前の積層体の厚みの3%~20%であることが好ましい。
【0049】
スライス工程では、積層体をスライスして基材シートを得る。スライスする方法は特に制限されず、一般的な方法で行うことができる。具体的には、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。基材シートの厚みを一定に保ちやすく、切りくずの発生が少ない点では、ナイフ加工法が好ましい。」
「【0051】
積層体のスライスは、積層体の主面の法線の方向に沿って行うことで、基材シートがその厚み方向に沿って垂直に又は斜めに配向した熱伝導性粒子を含むようにすることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本実施形態を実施例により具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
<熱伝導シートの作製>
(1)混錬工程
下記の材料を含む組成物を加圧ニーダーを用いて混錬し、混錬物を得た。混錬条件は、組成物の質量が3.5kgであり、温度100℃で40分間とした。
熱伝導性粒子として、鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)を使用した。黒鉛粒子の含有率は、組成物の全体積の45体積%とした。
有機高分子化合物として、アクリル酸ブチルが、その共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を使用した。有機高分子化合物の含有率は、組成物の全体積の30体積%とした。
難燃剤として、リン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を使用した。難燃剤の含有率は、組成物の全体積の25体積%とした。
【0054】
(2)1次シート作製工程
得られた混練物を、油圧プレスにより圧縮し、更に、80℃のメタルロールを数回通して、1.0mm厚の1次シートを作製した。
【0055】
(3)積層工程
得られた1次シートを、50mm×200mmの大きさに切断したものを複数用意した。これらを、高さが50mmになるまで積層した。更に油圧プレスを用いて、0.1MPa以下の圧力で加圧して圧縮して積層体を得た。
【0056】
(4)スライス工程
得られた積層体を、その主面の法線の方向に沿った方向に、カンナと同様の機構を持った装置を用いてスライスした。スライスは、得られる基材シートの厚みが0.25mmになるように刃の突出量を調整し、積層体の温度を10℃、加工速度を54mm/分、刃自体の先端角度を32°とした条件で行った。
【0057】
(5)粘着成分付与工程
スライスして得られた基材シートの片面に、粘着成分としてアクリルゴムの10質量%溶液をスプレー法により付与し、粘着成分領域を形成した。ここで、スプレー法により付与する粘着成分の量を変更することで、実施例1~3の熱伝導シートを作製した。得られた熱伝導シートの粘着成分領域の平均厚み(μm)を測定した結果を表1に示す。比較例の熱伝導シートには、粘着成分を付与しなかった。
【0058】
<粘着性の評価>
熱伝導シートの粘着性の評価は、タック力(g)を測定することにより行った。具体的には、プローブ試験装置を使用し、測定条件は、温度:23℃、プローブ直径:5mm、プローブ接触面積:19.6mm2、プローブ荷重:50g、押付け時間:1秒で行った。
【0059】
・・・(中略)・・・
【0060】
【表1】
[図:0001401666000001.jpg]
」
イ 上記「ア」によれば、引用文献1には次の技術事項が記載されている。
(ア)段落0045には「基材シートの製造は、熱伝導性粒子と有機高分子化合物、及び必要に応じてその他の成分を混合して混錬物を得る工程(混錬工程)と、得られた混錬物をシート状に成形して1次シートを作製する工程(1次シート作製工程)と、1次シートを複数枚重ねて積層体を得る工程(積層工程)と、積層体をスライスして基材シートを得る工程(スライス工程)とをこの順に行う。」と記載されている。
よって、混錬工程と、1次シート作製工程と、積層工程と、スライス工程とを順に行うことによって基材シートが製造されるといえる。
(イ)段落0053には「混錬工程」について「下記の材料を含む組成物を加圧ニーダーを用いて混錬し、混錬物を得た。」と記載され、「熱伝導性粒子として、鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)を使用した。」、「有機高分子化合物として、アクリル酸ブチルが、その共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を使用した。」及び「難燃剤として、リン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を使用した。」と記載されている。
よって、引用文献1には、熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)、有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物を、加圧ニーダーを用いて混錬し、混錬物を得る混錬工程が記載されているといえる。
(ウ)段落0054には「1次シート作製工程」について「得られた混練物を、油圧プレスにより圧縮し、更に、80℃のメタルロールを数回通して、1.0mm厚の1次シートを作製した。」と記載されている。
よって、引用文献1には、得られた混練物を、油圧プレスにより圧縮し、更に、80℃のメタルロールを数回通して、1.0mm厚の1次シートを作製する1次シート作製工程が記載されている。
(エ)段落0055には「積層工程」について「得られた1次シートを、50mm×200mmの大きさに切断したものを複数用意した。これらを、高さが50mmになるまで積層した。更に油圧プレスを用いて、0.1MPa以下の圧力で加圧して圧縮して積層体を得た。」と記載されている。
よって、引用文献1には、得られた1次シートを、50mm×200mmの大きさに切断したものを複数用意し、これらを高さが50mmになるまで積層し、油圧プレスを用いて、0.1MPa以下の圧力で加圧して圧縮して積層体を得る積層工程が記載されている。
(オ)段落0056には「スライス工程」について「得られた積層体を、その主面の法線の方向に沿った方向に、カンナと同様の機構を持った装置を用いてスライスした。」と記載されている。
よって、引用文献1には、得られた積層体を、その主面の法線の方向に沿った方向に、カンナと同様の機構を持った装置を用いてスライスするスライス工程が記載されている。
(カ)段落0057には「粘着成分付与工程」について「スライスして得られた基材シートの片面に、粘着成分としてアクリルゴムの10質量%溶液をスプレー法により付与し、粘着成分領域を形成した。」と記載されている。
よって、引用文献1には、スライスして得られた基材シートの片面に、粘着成分としてアクリルゴムの10質量%溶液をスプレー法により付与し、粘着成分領域を形成する粘着成分付与工程が記載されている。
また、段落0057には「ここで、スプレー法により付与する粘着成分の量を変更することで、実施例1~3の熱伝導シートを作製した。得られた熱伝導シートの粘着成分領域の平均厚み(μm)を測定した結果を表1に示す。」と記載されている。
よって、引用文献1には、上記(オ)のスライス工程の後、粘着成分付与工程を行うことにより熱伝導シートが作製されることが記載されているといえる。
さらに、表1には、粘着成分領域の平均厚みが0.6(μm)でタック力が150(g)、粘着成分領域の平均厚みが1.5(μm)でタック力が200(g)、粘着成分領域の平均厚みが3(μm)でタック力が360(g)であることが示されている。
(キ)段落0058には「熱伝導シートの粘着性の評価は、タック力(g)を測定することにより行った。具体的には、プローブ試験装置を使用し、測定条件は、温度:23℃、プローブ直径:5mm、プローブ接触面積:19.6mm2、プローブ荷重:50g、押付け時間:1秒で行った。」と記載されている。
よって、引用文献1には、熱伝導シートの粘着性の評価をタック力(g)を測定することにより行い、タック力の測定は、プローブ試験装置を使用し、測定条件は、温度:23℃、プローブ直径:5mm、プローブ接触面積:19.6mm2、プローブ荷重:50g、押付け時間:1秒で行うことが記載されている。
(ク)上記(ア)~(キ)より、引用文献1には次の発明(以下「引用物発明」及び「引用製法発明」という。)が記載されている。
(引用物発明)
「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)、有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物を、加圧ニーダーを用いて混錬し、混錬物を得る混錬工程、
得られた混練物を、油圧プレスにより圧縮し、更に、80℃のメタルロールを数回通して、1.0mm厚の1次シートを作製する1次シート作製工程、
得られた1次シートを、50mm×200mmの大きさに切断したものを複数用意し、これらを高さが50mmになるまで積層し、油圧プレスを用いて、0.1MPa以下の圧力で加圧して圧縮して積層体を得る積層工程、
得られた積層体を、その主面の法線の方向に沿った方向に、カンナと同様の機構を持った装置を用いてスライスするスライス工程、
スライスして得られた基材シートの片面に、粘着成分としてアクリルゴムの10質量%溶液をスプレー法により付与し、粘着成分領域を形成する粘着成分付与工程、
を順に行うことによって作製された熱伝導シートであって、
熱伝導シートの粘着性の評価が、タック力(g)を測定することにより行われ、
粘着成分領域の平均厚み及びタック力が、0.6(μm)及び150(g)、1.5(μm)及び200(g)、又は、3(μm)及び360(g)であり、
タック力の測定は、プローブ試験装置を使用し、測定条件は、温度:23℃、プローブ直径:5mm、プローブ接触面積:19.6mm2、プローブ荷重:50g、押付け時間:1秒で行った、
熱伝導シート。」
(引用製法発明)
「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)、有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物を、加圧ニーダーを用いて混錬し、混錬物を得る混錬工程、
得られた混練物を、油圧プレスにより圧縮し、更に、80℃のメタルロールを数回通して、1.0mm厚の1次シートを作製する1次シート作製工程、
得られた1次シートを、50mm×200mmの大きさに切断したものを複数用意し、これらを高さが50mmになるまで積層し、油圧プレスを用いて、0.1MPa以下の圧力で加圧して圧縮して積層体を得る積層工程、
得られた積層体を、その主面の法線の方向に沿った方向に、カンナと同様の機構を持った装置を用いてスライスするスライス工程、
スライスして得られた基材シートの片面に、粘着成分としてアクリルゴムの10質量%溶液をスプレー法により付与し、粘着成分領域を形成する粘着成分付与工程、
を順に行うことによって作製する熱伝導シートの製造方法であって、
粘着成分領域の平均厚み及びタック力が、0.6(μm)及び150(g)、1.5(μm)及び200(g)、又は、3(μm)及び360(g)であり、
熱伝導シートの粘着性の評価を、タック力(g)を測定することにより行い、
タック力の測定は、プローブ試験装置を使用し、測定条件は、温度:23℃、プローブ直径:5mm、プローブ接触面積:19.6mm2、プローブ荷重:50g、押付け時間:1秒で行う、
熱伝導シートの製造方法。」
(2)引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【0072】
本実施形態に係る粘着性放熱シート1は、上記のように2枚の剥離シート21,22に挟持されていることにより、所望の時点(例えば使用時)まで保護される。また、前述した加熱プレスを行うにあたり、2枚の剥離シートを使用することが好ましく、これをそのまま粘着性放熱シート1に積層させることで、粘着性放熱シート1を保護することができる。ただし、第1の剥離シート21および第2の剥離シート22は、このときに使用した剥離シートに限定されるものではない。」
(3)引用文献3の記載事項
引用文献3には、次の事項が記載されている。
「【0033】
図1(b)及び図3に示すように、保護シート13は四角板状を有しており、粘着層22を介してシート本体21に対向している。保護シート13は、熱伝導性シート12が発熱体から放熱体への熱伝導に使用されるまで粘着層22に粘着しており、熱伝導性シート12が例えば発熱体に取り付けられる際に粘着層22から剥離される。」
「【0038】
図1(a)~(c)に示すように、補助シート14は四角板状を有しており、シート本体21において粘着層22が形成されていない外面21aに対向している。補助シート14は、熱伝導性シート12が発熱体から放熱体への熱伝導に使用されるまでシート本体21に粘着しており、熱伝導性シート12が例えば発熱体に取り付けられた後にシート本体21から剥離される。補助シート14は、シート本体21に粘着している際には薄くて柔軟なシート本体21を補強して積層体11のハンドリング性を高めるとともに、熱伝導性シート12が例えば発熱体に取り付けられる際には熱伝導性シート12の発熱体への取り付けを補助して該熱伝導性シート12の取り付け性を高める。」
(4)引用文献4の記載事項
引用文献4には、次の事項が記載されている。
「[0034]<非異方性充填材>
非異方性充填材15は、異方性充填材14とは別に熱伝導性シート10に含有される熱伝導性充填材であり、異方性充填材14とともに熱伝導性シート10に熱伝導性を付与する材料である。本実施形態では、非異方性充填材15が含有されることで、配向した異方性充填材14の間の隙間に充填材が介在し、熱伝導率の高い熱伝導性シート10が得られる。・・・(中略)・・・」
「[0037] 非異方性充填材15の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、非異方性充填材14の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性充填材15において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
これらの中でも、酸化アルミニウムやアルミニウムは、熱伝導率が高く、球状のものが入手しやすい点で好ましく、水酸化アルミニウムは入手し易く熱伝導性シートの難燃性を高めることができる点で好ましい。
絶縁性を有する非異方性充填材15としては、上記した中でも、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、金属炭化物が挙げられるが、特に酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが好ましい。
非異方性充填材15は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。」
(5)引用文献5の記載事項
引用文献5には、次の事項が記載されている。
「粘着剤に求められる性質として、被着体に粘着する力や使用中の粘着持続力、剥離に必要な力、貼り損じた場合の再粘着性などがあります。これらの特性を評価する方法として第十七改正日本薬局方では、ピール粘着力試験法、傾斜式ボールタック試験法、ローリングボールタック試験法及びプローブタック試験法といった粘着力試験が紹介されています。今回、絆創膏など粘着面が小さいものでも試験が可能なプローブタック試験法に準じた試験を小型卓上試験機 EZTestTMを用いて実施した事例を紹介します。」(第1頁左欄第12行~第20行)
「
[図:0001401666000002.jpg]
」
(6)引用文献6の記載事項
引用文献6には、以下の事項が記載されている。
「【0028】
・・・(中略)・・・
(プローブタック)
ASTMD2979記載の方法にて測定した。23℃・50%RHの条件下、実施例及び比較例のテープ(幅15mm)を試験片とし、ASTMD2979に準じて、試験片をウエイトリングにたるみの無いようにはり付け、直径5mmの円柱プローブを試験片の粘着面に0.98±0.001N/cm2の荷重を接触速さ10±0.1mm/秒で、1.0±0.01秒間接触させた後、接触速さと同じ速度でプローブを粘着面から垂直方向に引き剥がすのに要する力(N/5mmφ)を測定した。・・・(中略)・・・」
(7)引用文献7には、以下の事項が記載されている。
「[0078]<プローブタック>
ASTM D2979に準拠し、接触時間1秒、プローブ速度1cm/秒で測定した。」
3 当審の判断
(1)請求項11について
ア 本件発明11と引用物発明とを対比する。
(ア)引用物発明の「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」は、鱗片状の熱伝導材料である点で、本件発明11の「鱗片状の窒化ホウ素」と一致する。
しかし、熱伝導材料が、本件発明11では「窒化ホウ素」からなるのに対し、引用物発明では「黒鉛粒子」からなる点で、両者は相違する。
(イ)本件特許明細書の段落0021には「バインダ樹脂4は、形状異方性を有する熱伝導材料5と他の熱伝導材料6とを熱伝導シート本体3内に保持するためのものである」と記載されているから、本件発明11の「バインダ樹脂4」は熱伝導材料を熱伝導シート本体内に保持するためのものであるといえる。
一方、引用物発明の「有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物」は、「難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物」と共に「鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」と混練され、熱伝導シートとなる樹脂であるから、「鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」を熱伝導シート内に保持する樹脂であるといえる。
よって、引用物発明の「有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物」は、熱伝導材料を熱伝導シート本体内に保持するものであるといえるから、本件発明11の「バインダ樹脂」に相当する。
しかし、本件発明11において「バインダ樹脂」が「シリコーン樹脂」であるのに対し、引用物発明は「有機高分子化合物」が「アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物」であり、「シリコーン樹脂」ではない点で、両者は相違する。
(ウ)引用物発明の「熱伝導シート」は、「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)、有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物」と、「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」とを含む組成物から形成した「基材シート」に「粘着成分領域」を形成したものであり、上記(ア)及び(イ)を参酌すると、バインダ樹脂と、鱗片状の熱導性材料とを含むシートであるといえるから、本件発明11の「熱伝導シート本体」に相当する。
(エ)本件発明11が「上記鱗片状の窒化ホウ素が厚み方向に配向している」のに対し、引用物発明は「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」が配向しているのか不明である点で相違する。
(オ)本件発明11が「当該熱伝導シート本体の表面に上記バインダ樹脂が染み出して」いるのに対し、引用物発明の「熱伝導シート」はそのような構成を有さない点で相違する。
(カ)引用物発明において「熱伝導シート」は「基材シートの片面」に「粘着成分領域」が付与されたものであるから、「粘着成分領域」は「熱伝導シート」の一部であり、「粘着成分領域の」「タック力」は、「熱伝導シート」の片面の「タック力」であるといる。また、引用物発明の「タック力」は150(g)、200(g)、又は、360(g)であり、換算すると150(gf)、200(gf)、又は、360(gf)に等しく、75g以上である。
本件特許明細書の段落0049には「熱伝導シート本体3Aの両面がタック性を有することを前提にしたが、この例に限定されず、熱伝導シート本体3Aの片面だけがタック性を有していてもよい。」と記載され、本件発明11の「熱伝導シート本体の表面」には熱伝導シートの片面も含まれるといえる。
してみると、引用物発明において「熱伝導シート」の片面の「タック力」が150(g)、200(g)、又は、360(g)であることは、本件発明11の「熱伝導シート本体表面のタック力が75gf以上である」ことを満たす。
しかし、本件発明11が「直径5.1mmのプローブにより当該熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引き剥がした際の当該熱伝導シート本体表面のタック力が75gf以上である」のに対し、引用物発明は「タック力の測定」は「プローブ直径:5mm」「で行った」ものであり、熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引き剥がすものなのか、不明である点で相違する。
(キ)上記(ア)~(カ)より、本件発明11と引用物発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「バインダ樹脂と、鱗片状の熱伝導材料とを含む熱伝導シート本体であって、 熱伝導シート本体表面のタック力が75gf以上である、熱伝導シート本体。」
(相違点1)
熱伝導材料が、本件発明11では「窒化ホウ素」からなるのに対し、引用物発明では「黒鉛粒子」からなる点。
(相違点2)
本件発明11において「バインダ樹脂」が「シリコーン樹脂」であるのに対し、引用物発明は「有機高分子化合物」が「アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物」である点。
(相違点3)
本件発明11が「上記鱗片状の窒化ホウ素が厚み方向に配向している」のに対し、引用物発明は「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」が配向しているのか不明である点。
(相違点4)
本件発明11が「直径5.1mmのプローブにより当該熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引き剥がした際の当該熱伝導シート本体表面のタック力が75gf以上である」のに対し、引用物発明は「タック力の測定」が「プローブ直径:5mm」「で行った」ものであり、熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引き剥がすものなのか、不明である点。
(相違点5)
本件発明11が「当該熱伝導シート本体の表面に上記バインダ樹脂が染み出して」いるのに対し、引用物発明の「熱伝導シート」はそのような構成を有さない点。
イ 上記相違点について検討する。
事案に鑑み相違点5から検討する。
(ア)本件特許明細書の段落0044には「具体的に、工程Dでは、例えば、剥離フィルム2A,2Bで熱伝導シートを挟持することにより、熱伝導シート本体3を構成するバインダ樹脂4が熱伝導シート本体3の表面(熱伝導シート本体3と剥離フィルム2との間)に染み出し、熱伝導シート本体3がタック性を有するようになる。」と記載されており、本件発明11において「当該熱伝導シート本体の表面に上記バインダ樹脂が染み出して」いることにより、熱伝導シート本体がタック性を有すると認められる。
(イ)一方、引用文献1には、段落0016に「粘着成分が局在することで、熱抵抗が低く抑えられていると考えられる。」と記載され、段落0017に「「粘着成分が局在する」とは、基材シートの表面に対向する方向から基材シート表面を観察したときに、基材シートの表面上に粘着成分が存在しかつ粘着成分が存在しない領域で囲まれた領域(以下、粘着成分領域とも称する)が複数存在し、かつ当該複数の粘着成分領域が基材シートの表面上に間隔を空けて配置されている状態を意味する。」と記載され、段落0042に「基材シートの少なくとも片面上に粘着成分を付与する方法は特に制限されず、スプレー法、印刷法、インクジェット法等の公知の方法から選択できる。簡便かつ効率的に所望の粘着成分領域を形成する観点からは、スプレー法が好ましい。」と記載されており、スプレー法などにより基材シートの表面に粘着成分を付与することにより、所望の粘着成分領域を形成して粘着成分を局在させ、熱抵抗を低く抑えることが記載されていると認められる。
したがって、引用物発明は「基材シートの片面に」、「粘着成分としてアクリルゴムの10質量%溶液をスプレー法」などにより付与し、「粘着成分領域を形成する粘着成分付与工程」を行うことによって粘着成分領域が形成されることにより、「基材シートの表面に粘着成分を局在させ」、熱抵抗を低く抑えるものであるといえる。
(ウ)そして、「粘着成分としてアクリルゴムの10質量%溶液をスプレー法により付与」する引用物発明において、熱伝導シートの表面、すなわち、基材シートの表面に基材シートを構成する樹脂が染み出す構成とする場合、上記(イ)のとおりであるから、基材シートの表面に粘着成分を局在させるとともに、樹脂を染み出す構成とすることとなるが、そのような構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
ウ 小括
よって、相違点1~4について判断するまでもなく、本件発明11は、引用文献1~7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)請求項12~16について
本件発明12~16は、本件発明11を減縮した発明であり、相違点5に係る本件発明11の構成を有するものであるから、上記(1)においてした検討と同様の理由により、引用文献1~7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求項11~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、取消理由によって取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 本件訂正前の請求項1~16に係る特許に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
本件発明11、12及び16は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項11、12及び16に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明1及び10は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2及び3に記載された周知の技術事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2~5は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2、3、8に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6~9は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2~4、8に記載された事項とに基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)引用文献
申立理由で引用した引用文献1~4及び8は以下のとおりである。
引用文献1:特開2017-157622号公報(申立人提出の甲第1号証)
引用文献2:特開2020-196828号公報(申立人提出の甲第2号証)
引用文献3:特開2008-251746号公報(申立人提出の甲第3号証)
引用文献4:国際公開第2020-105601号(申立人提出の甲第5号証)
引用文献8:浦濱圭彬、“粘着テープの基礎と物性 3.粘着テープ特製の三要素”、日本ゴム協会誌、2003年、第76巻第11号、第23頁~第33頁(申立人提出の甲第4号証)
(4)引用文献の記載事項
ア 引用文献1~4に記載された事項は、上記「第4 2」に示したとおりである。
イ 引用文献8
引用文献8には、次の事項が記載されている。
「また、粘着テープの粘着面を空気にさらしておくと粘着特性が低下することが実験的に確かめられており、この点を考慮して資料から試験片をとってから試験板に貼るまでの時間を一定にする必要がある。」(第29頁左欄第15行~第19行)
2 当審の判断
(1)申立理由1について
ア 本件発明11について
本件発明11と、引用物発明とを対比すると、上記「第4 3(1)ア(キ)」のとおり、本件発明11と引用物発明とは、少なくとも相違点5の点で相違する。そして、上記「第4 3(1)イ」のとおりであるから、相違点5が実質的なものでないということもできない。
よって、本件発明11は、引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ 本件発明12~16について
本件発明12~16は、本件発明11を減縮した発明であり、相違点5に係る本件発明11の構成を有するものであるから、上記アにおいてした検討と同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
ウ 申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求項11~16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1によって取り消すことはできない。
(2)申立理由2について
ア 請求項1について
(ア)本件発明1と引用物発明とを対比する。
a 引用物発明の「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」は、鱗片状すなわち形状異方性を有する熱伝導性材料であるから、本件発明1の「形状異方性を有する熱伝導材料」に相当する。
しかし、本件発明1では「形状異方性を有する熱伝導材料」が「鱗片状の窒化ホウ素または炭素繊維」であるのに対し、引用物発明では「熱伝導性粒子」が「鱗片状の黒鉛粒子」である点で、両者は相違する。
b 本件特許明細書の段落0021には「バインダ樹脂4は、形状異方性を有する熱伝導材料5と他の熱伝導材料6とを熱伝導シート本体3内に保持するためのものである」と記載されているから、本件発明1の「バインダ樹脂4」は熱伝導材料を熱伝導シート本体内に保持するためのものであるといえる。
一方、引用物発明の「有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物」は、「難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物」と共に「鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」と混練され、熱伝導シートとなる樹脂であるから、「鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」を熱伝導シート内に保持する樹脂であるといえる。
よって、引用物発明の「有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物」は、熱伝導材料を熱伝導シート本体内に保持するものであるといえるから、本件発明1の「バインダ樹脂」に相当する。
しかし、本件発明1において「バインダ樹脂」が「シリコーン樹脂」であるのに対し、引用物発明は「有機高分子化合物」が「アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)」である点で、両者は相違する。
c 引用物発明の「熱伝導シート」は、「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)、有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物」を混練した混練物から形成された「基材シート」に「粘着成分領域を形成」したものであり、「タック力が、0.6(μm)及び150(g)、1.5(μm)及び200(g)、又は、3(μm)及び360(g)」であるものである。ここで、引用物発明において「タック力」は、「熱伝導シート」のタック力であることは明らかである。
一方、本件発明1の「熱伝導シート本体」は、「バインダ樹脂と、形状異方性を有する熱伝導材料を含」み、「タック力が」、「75gf以上である」ものである。
上記a及びbを踏まえると、引用物発明の「熱伝導シート」は、本件発明1のバインダ樹脂と形状異方性を有する熱伝導性材料を含み、タック性を有するものであるといえるから、本件発明1の「熱伝導シート本体」に相当する。
また、引用物発明が「熱伝導シート」であることは、熱伝導シート本体を含む熱伝導シートの形態である点で、本件発明1の「熱伝導シートの供給形態」と一致する。
しかし、本件発明1が「剥離フィルムに熱伝導シート本体が挟持された熱伝導シートの供給形態」であるのに対し、引用物発明は「熱伝導シート」(熱伝導シート本体)に係る発明であり、「熱伝導シートの供給形態」ではない点で相違する。
d 引用物発明の「タック力」は150(g)、200(g)、又は、360(g)であり、換算すると150(gf)、200(gf)、又は、360(gf)に等しく、75gf以上である。
してみると、引用物発明において「熱伝導シート」の片面の「タック力」が150(g)、200(g)、又は、360(g)であることは、本件発明1の「熱伝導シート本体のタック力が」「75gf以上である」ことに相当する。
しかし、本件発明1において「熱伝導シート本体のタック力が」「75gf以上である」ことが「上記剥離フィルムを上記熱伝導シート本体から剥離した直後の」ものであり、「上記熱伝導シート本体から上記剥離フィルムを剥がした直後に、直径5.1mmのプローブにより上記熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引きぬく」測定方法によるものであるのに対し、引用物発明は「粘着成分領域の」「タック力」がそのような測定方法により評価されたものではない点で相違する。
e 本件発明1が「上記形状異方性を有する熱伝導材料の長軸が、上記熱伝導シート本体の厚み方向に配向して」いるのに対し、引用物発明は「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」が配向しているのか不明である点で相違する。
f 上記a~eより、本件発明1と引用物発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「熱伝導シート本体を含む熱伝導シートの形態であって、
上記熱伝導シート本体が、バインダ樹脂と、形状異方性を有する熱伝導材料を含み、
熱伝導シート本体のタック力が75gf以上である、熱伝導シートの形態。」
(相違点6)
本件発明1が「剥離フィルムに熱伝導シート本体が挟持された熱伝導シートの供給形態」であるのに対し、引用物発明は「熱伝導シート」(熱伝導シート本体)に係る発明であり、「熱伝導シートの供給形態」ではない点。
(相違点7-1)
本件発明1では「形状異方性を有する熱伝導材料」が「鱗片状の窒化ホウ素または炭素繊維」であるのに対し、引用物発明では「熱伝導性粒子」が「鱗片状の黒鉛粒子」である点。
(相違点7-2)
本件発明1が「上記形状異方性を有する熱伝導材料の長軸が、上記熱伝導シート本体の厚み方向に配向して」いるのに対し、引用物発明は「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」が配向しているのか不明である点。
(相違点8)
本件発明1において「バインダ樹脂4」が「シリコーン樹脂」であるのに対し、引用物発明は「有機高分子化合物」が「アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)」である点。
(相違点9)
本件発明1において「熱伝導シート本体のタック力が」「75gf以上である」ことが、「上記剥離フィルムを上記熱伝導シート本体から剥離した直後の」ものであり、「上記熱伝導シート本体から上記剥離フィルムを剥がした直後に、直径5.1mmのプローブにより上記熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引きぬく」測定方法によるものであるのに対し、引用物発明は「タック力」がそのような測定方法により評価されたものではない点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み相違点9から検討する。
引用物発明の「熱伝導シート」(熱伝導シート本体)を剥離フィルムに挟持し、その後剥離し、引用物発明の「熱伝導シート」のタック力を、剥離フィルムに挟持する前と、剥離フィルムを剥離した後とで比較した場合、剥離によって基材シートの表面の粘着成分が剥離シートに転着すること、及び、基材シートからの粘着性分の染み出しはないことから、剥離フィルムを剥離した後の方がタック力が低下することは明らかである。そうすると、引用物発明において「粘着成分としてアクリルゴムの10質量%溶液をスプレー法により付与し」た後の「粘着成分領域の」「タック力」が150(g)、200(g)又は360(g)であったとしても、「熱伝導シート」を剥離フィルムに挟持し、剥離フィルムを剥離した後の「タック力」が75gf以上であるとはいえないから、相違点9は実質的なものである。
そして、引用文献2~4及び8には、熱伝導シートを剥離フィルムに挟持し、剥離した後のタック力を所期の値以上とする技術は記載されていないから、引用物発明に引用文献2~4及び8に記載された事項を適用することにより、相違点9に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。そのことは、上記「第1」において引用した引用文献5~7に記載された事項によっても左右されない。
したがって、引用物発明に引用文献2~8に記載された事項を適用することにより、相違点9に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)小括
よって、相違点6~8について判断するまでもなく、本件発明1は、引用文献1~8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 請求項2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を減縮した発明であり、相違点9に係る本件発明1の構成を有するものであるから、上記アにおいてした検討と同様の理由により、引用文献1~8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 請求項10について
(ア)本件発明10と引用製法発明とを対比する。
a 上記ア(ア)a及びbと同様に、引用製法発明の「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)」及び「アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物」は、それぞれ本件発明10の「形状異方性を有する熱伝導材料」及び「バインダ樹脂」に相当し、さらに、引用製法発明の「熱伝導性粒子としての鱗片状の黒鉛粒子(長軸の長さが500μm~1000μm)、有機高分子化合物としての、アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を含む組成物を、加圧ニーダーを用いて混錬し、混錬物を得る混錬工程」は、本件発明10の「バインダ樹脂と、形状異方性を有する熱伝導材料とを含む、熱伝導組成物を調製する工程」に相当する。
b 引用製法発明の「積層体」は、混錬物を成形してブロック状にしたものといえるから、本件発明10の「成形体ブロック」に相当する。よって、引用製法発明の「得られた混練物を、油圧プレスにより圧縮し、更に、80℃のメタルロールを数回通して、1.0mm厚の1次シートを作製する1次シート作製工程」及び「得られた1次シートを、50mm×200mmの大きさに切断したものを複数用意し、これらを高さが50mmになるまで積層し、油圧プレスを用いて、0.1MPa以下の圧力で加圧して圧縮して積層体を得る積層工程」は、本件発明10の「上記熱伝導組成物から成形体ブロックを形成する工程」に相当する。
c 引用製法発明の「得られた積層体を、その主面の法線の方向に沿った方向に、カンナと同様の機構を持った装置を用いてスライスするスライス工程」は、本件発明10の「上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導シートを得る工程」に相当する。
d 本件発明10が「上記熱伝導シートの表面を上記剥離フィルムの間に配置する工程」を有するのに対し、引用製法発明はそのような工程を有さない点で相違する。
e 本件発明10において「バインダ樹脂4」が「シリコーン樹脂」であるのに対し、引用製法発明は「有機高分子化合物」が「アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)」である点で相違する。
f 本件発明10では「形状異方性を有する熱伝導材料」が「鱗片状の窒化ホウ素」であるのに対し、引用製法発明では「熱伝導性粒子」が「鱗片状の黒鉛粒子」である点で相違する。
g 上記ア(ア)dと同様に、引用製法発明において「熱伝導シート」の片面の「タック力」が150(g)、200(g)、又は、360(g)であることは、本件発明10の「熱伝導シート本体のタック力が」「75gf以上である」ことに相当する。
しかし、本件発明10において「熱伝導シート本体のタック力が」「75gf以上である」ことが、「上記剥離フィルムを上記熱伝導シート本体から剥離した直後の」ものであり、「上記熱伝導シート本体から上記剥離フィルムを剥がした直後に、直径5.1mmのプローブにより上記熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引きぬく」測定方法によるものであるのに対し、引用製法発明は「粘着成分領域の」「タック力」がそのような測定方法により評価されたものではない点で相違する。
h 引用製法発明により製造される「熱伝導シート」(熱伝導性シート本体)は、剥離フィルムに挟持されない形態であるといえる。よって、引用製法発明と本件発明10とは、上記a~cを踏まえると、「熱伝導組成物を調製する工程」、「成形体ブロックを形成する工程」、及び、「スライスして熱伝導シートを得る工程」を有する「熱伝導シートの」「形態の製造方法」である点で、共通する。
しかし、本件発明10が「剥離フィルムに熱伝導シート本体が挟持された熱伝導シートの供給形態の製造方法」であるのに対し、引用製法発明は「剥離フィルムに」「挟持された」「供給形態の製造方法」ではない点で相違する。
i 上記a~hより、本件発明10と引用製法発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「熱伝導シートの形態の製造方法であって、
バインダ樹脂と、形状異方性を有する熱伝導材料とを含む、熱伝導組成物を調製する工程と、
上記熱伝導組成物から成形体ブロックを形成する工程と、
上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導シートを得る工程とを有し、
上記熱伝導シート本体のタック力が75gf以上である熱伝導シートの形態の製造方法。」
(相違点10)
本件発明10が「上記熱伝導シートの表面を上記剥離フィルムの間に配置する工程」を有するのに対し、引用製法発明はそのような工程を有さない点。
(相違点11)
本件発明10において「バインダ樹脂4」が「シリコーン樹脂」であるのに対し、引用製法発明は「有機高分子化合物」が「アクリル酸ブチルがその共重合成分中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、及び、難燃剤としてのリン酸エステル系難燃剤であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)」である点。
(相違点12)
本件発明10では「形状異方性を有する熱伝導材料」が「鱗片状の窒化ホウ素」であるのに対し、引用製法発明では「熱伝導性粒子」が「鱗片状の黒鉛粒子」である点。
(相違点13)
本件発明10において「熱伝導シート本体のタック力が」「75gf以上である」ことが、「上記剥離フィルムを上記熱伝導シート本体から剥離した直後の」ものであり、「上記熱伝導シート本体から上記剥離フィルムを剥がした直後に、直径5.1mmのプローブにより上記熱伝導シート本体を2mm/秒で50μm押し込み、10mm/秒で引きぬく」測定方法によるものであるのに対し、引用製法発明は「粘着成分領域の」「タック力」がそのような測定方法により評価されたものではない点。
(相違点14)
本件発明10が「剥離フィルムに熱伝導シート本体が挟持された熱伝導シートの供給形態の製造方法」であるのに対し、引用製法発明は「剥離フィルムに」「挟持された」「供給形態の製造方法」ではない点。
(イ)上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点13について検討する。
相違点13に係る本件発明10の構成は、相違点9に係る本件発明1の構成と同様のものである。よって、上記「ア(イ)」と同様の理由により、引用製法発明に引用文献2~8に記載された事項を適用することにより、相違点13に係る本件発明10の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)小括
よって、相違点10~12及び14について判断するまでもなく、本件発明10は、引用文献1~8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由2によって取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701029