特許異議申立
2022-700975
造形装置及び造形方法
- 審判番号
- 2022-700975
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-106953
- 登録番号
- 7047864
- 請求日
- 2022年10月04日
- 審決日
- 2023年06月06日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ニコン
- 【権利者代理人】江上 達夫
- 【異議申立人】株式会社 ユビランド・インターナショナル
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 見目 省二
- 審判官 大山 健
- 分類
- P1651.113-YAA(B23K) / P1651.121-YAA(B23K) / P1651.537-YAA(B23K) / P1651.851-YAA(B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7047864号発明「造形装置及び造形方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7047864号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~28〕、29について訂正することを認める。
特許第7047864号の請求項1ないし29に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7047864号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和2年6月22日にされた特許法44条1項による出願であって、平成26年11月14日を国際特許出願日とする特願2016-558516号の一部を令和1年5月24日に新たな特許出願とした特願2019-98079号の一部を新たな特許出願としたものである。
令和4年3月28日にその特許権の設定登録がされ、同年4月5日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。
令和4年10月 4日 :特許異議申立人 株式会社ユビランド・
インターナショナル(以下「申立人」と
いう。)による請求項1~29に係る特許に
対する特許異議の申立て
令和5年 1月31日付け:取消理由通知
同 年 4月 3日 :特許権者 株式会社ニコン(以下「特許権
者」という。)による意見書及び訂正請求書
の提出
同 年 5月11日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年4月3日提出の訂正請求書によってされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。なお、下線は特許権者が付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「ビームを射出するビーム照射部と、造形材料を供給する材料処理部と、を有するビーム造形システムと、」
と記載されているのを、
「ワークの表面上の目標部位にビームを射出するビーム照射部と、前記ビーム照射部によりビームが照射された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給する材料処理部と、を有するビーム造形システムと、」
に訂正し、
「前記制御装置は、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記位置情報に基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」と記載されているのを、
「前記制御装置は、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」
に訂正する(なお、訂正請求書に記載された訂正事項1と訂正特許請求の範囲に記載された請求項1とが整合しない箇所がある(例えば「付加造形する部分をスライスした各層のデータ」との訂正)ものの、本件訂正請求は、訂正特許請求の範囲の記載のとおり訂正することを求めるものであるから、訂正請求書の訂正事項1の当該整合しない箇所の記載は誤記と認め、上記の訂正事項1のとおりとした。)。
なお、請求項2~28は、請求項1の記載を直接又は間接に引用する請求項であるから、請求項1~28は一群の請求項であるところ、訂正事項1は、一群の請求項〔1~28〕に対して本件訂正請求をしたものである。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項29において、
「対象面とビームとを相対的に移動させつつ造形材料を供給することにより前記対象面上の目標部位に造形が施されるように、前記対象面の動きと、前記ビームの照射と、前記造形材料の供給とを制御することと、」
と記載されているのを、
「対象面とビームとを相対的に移動させつつワークの表面上の目標部位にビームを射出し且つビームが射出された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給することにより前記対象面上の目標部位に造形が施されるように、前記対象面の動きと、前記ビームの照射と、前記造形材料の供給とを制御することと、」
に訂正し、
「前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記位置情報に基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する造形方法。」
と記載されているのを、
「前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する造形方法。」
に訂正する(なお、訂正請求書に記載された訂正事項2と訂正特許請求の範囲に記載された請求項29とが整合しない点があるものの、上記(1)と同様、訂正請求書の訂正事項2の当該整合しない箇所の記載は誤記と認め、上記訂正事項2のとおりとした。)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1は、訂正前の「ビーム照射部」、「材料処理部」に、それぞれ「ワークの表面上の目標部位にビームを射出する」、「前記ビーム照射部によりビームが照射された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給する」という限定をするとともに、「制御装置」の動作に関し、「前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」ものとの限定をしたものであるから、訂正事項1の訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)に該当する。
イ 「ビーム照射部」、「材料処理部」に関し限定した事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の段落【0116】及び図4、図9に記載されており、制御装置の動作に関し限定した事項は、特許明細書等の段落【0158】に記載されているから、訂正事項1に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものあり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
ウ 訂正事項1は、上記アに示すとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
ア 訂正事項2は、訂正前のビームの照射と、造形材料の供給の制御に関し、「対象面とビームとを相対的に移動させつつワークの表面上の目標部位にビームを射出し且つビームが射出された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給することにより前記対象面上の目標部位に造形が施されるように、前記対象面の動きと、前記ビームの照射と、前記造形材料の供給とを制御することと、」と限定するとともに、訂正前の位置情報に基づいて造形を開始することに関し、「前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」ものと限定したものであるから、訂正事項2の訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)に該当する。
イ 造形材料の供給の制御に関し限定した事項は、特許明細書等の段落【0116】及び図4、図9に記載されており、位置情報に基づいて造形を開始することに関し限定した事項は、特許明細書等の段落【0158】に記載されているから、訂正事項2に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものあり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
ウ 訂正事項2は、上記アに示すとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
(3)なお、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、2に関し、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定される要件(独立特許要件)は課されない。
3 小括
上記のとおり、訂正事項1、2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~28〕、29について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~29に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、本件発明1~29をまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~29に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
三次元造形物を形成する造形装置であって、
対象面を動かす移動システムと、
前記対象面の位置情報を取得するための計測システムと、
ワークの表面上の目標部位にビームを射出するビーム照射部と、前記ビーム照射部によりビームが照射された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給する材料処理部と、を有するビーム造形システムと、
前記対象面と前記ビーム照射部からのビームとを相対的に移動させつつ前記造形材料を前記材料処理部から供給することにより前記対象面上の目標部位に造形が施されるように、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する制御装置と、を備え、
前記移動システムは、ワークを保持可能な保持部材を有し、
前記対象面は、前記保持部材に保持された前記ワークの表面の少なくとも一部を含み、
前記計測システムは、前記保持部材に前記ワークが保持された後であって且つ前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得し、
前記制御装置は、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する造形装置。
【請求項2】
前記移動システムは、前記保持部材として、前記ワークを保持可能な可動部材を有する請求項1に記載の造形装置。
【請求項3】
前記可動部材上に前記ワークを搬送する搬送装置を更に備える請求項2に記載の造形装置。
【請求項4】
前記移動システムは、前記計測システムにより前記位置情報が取得される前に、前記計測システムの下方に前記ワークを移動させる請求項2に記載の造形装置。
【請求項5】
前記移動システムは、前記計測システムにより前記位置情報が取得された後に、前記ビーム造形システムの下方に前記ワークを移動させる請求項2に記載の造形装置。
【請求項6】
前記計測システムは、前記計測システムの下方を移動する前記ワークを計測する請求項2に記載の造形装置。
【請求項7】
前記計測システムは、前記材料処理部が造形材料を供給が開始される前に、前記対象面の位置情報を取得する請求項1~6のいずれか一項に記載の造形システム。
【請求項8】
前記計測システムは、三次元計測機を含む請求項1~7のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項9】
前記計測システムは、前記対象面の少なくとも3点の位置情報を計測可能である請求項1~8のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項10】
前記計測システムは、前記対象面の三次元形状を計測可能である請求項1~8のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記造形の後に、前記造形によって前記対象面上に付加された部分の表面の少なくとも一部の位置情報を、前記計測システムを用いて取得する請求項1~10のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項12】
前記制御装置は、基準座標系の下で前記可動部材の位置及び姿勢を制御し、
前記対象面の位置情報を取得することによって、前記対象面を前記基準座標系に対して関連付ける請求項2~6のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記対象面の位置を前記基準座標系上で、オープンループで管理する請求項12に記載の造形装置
【請求項14】
前記制御装置は、前記造形が施された前記ワークを前記可動部材で保持したまま、前記造形によって前記ワークの前記対象面上に付加された部分の表面の少なくとも一部の位置情報を、前記計測システムを用いて取得する請求項2~6、12、13のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項15】
前記ビーム照射部は、前記ビームを射出する集光光学系を有し、
前記制御装置は、前記計測システムの計測結果に基づいて、前記集光光学系の射出面側の光軸に垂直な第1面内における前記ビームの強度分布を調整する請求項1~14のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項16】
前記第1面は、前記集光光学系の後側焦点面、又はその近傍の面である請求項15に記載の造形装置。
【請求項17】
前記制御装置は、前記集光光学系の入射面側の光軸に垂直な第2面内に入射する少なくとも一つの入射ビームの角度を調整することによって、前記第1面内における前記ビームの強度分布を調整する請求項15に記載の造形装置。
【請求項18】
前記第2面は、前記集光光学系の前側焦点面、又はその近傍の面を含む請求項17に記載の造形装置。
【請求項19】
前記少なくとも一つの入射ビームは、前記第2面に対する入射角度が異なる複数のビームを含む請求項17に記載の造形装置。
【請求項20】
前記計測システムの計測結果に基づく前記ビーム造形システムの調整は、前記ビーム照射部の調整を含む請求項1~19のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項21】
前記計測システムの計測結果に基づく前記ビーム造形システムの調整は、前記材料処理部の調整を含む請求項1に記載の造形装置。
【請求項22】
前記ビーム照射部からのビームの照射により前記目標部位上に溶融池を形成しながら、前記対象面と前記ビーム照射部からのビームとを相対的に移動することによって、前記目標部位に造形が施される請求項1~21のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項23】
前記三次元造形物は、複数の層が積層されて成り、前記制御装置は、前記三次元造形物の3Dデータから得られる多層の積層断面のデータに基づいて、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する請求項1~22のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項24】
前記制御装置は、形成すべき三次元造形物の3Dデータと、前記計測システムを使って取得された前記対象面の位置情報とに基づいて、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する請求項1~23のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項25】
前記計測システムにより取得された前記対象面の位置情報は前記対象面の形状情報である請求項1~24のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項26】
前記制御装置は、前記対象面の位置を前記基準座標系に対して関連付ける請求項12に記載の造形装置。
【請求項27】
前記制御装置は、前記対象面の姿勢を前記基準座標系に対して関連付ける請求項12に記載の造形装置。
【請求項28】
前記ビーム造形システムは、DED方式により造形を施す請求項1~27のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項29】
三次元造形物を形成する造形方法であって、
対象面とビームとを相対的に移動させつつワークの表面上の目標部位にビームを射出し且つビームが射出された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給することにより前記対象面上の目標部位に造形が施されるように、前記対象面の動きと、前記ビームの照射と、前記造形材料の供給とを制御することと、
保持部材に保持されたワークの表面の少なくとも一部を前記対象面として、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得することと
を含み、
前記位置情報を取得することは、前記保持部材に前記ワークが保持された後であって且つ前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得することを含み、
前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する造形方法。」
第4 取消理由についての当審の判断
1 取消理由通知の概要
当審が令和5年1月31日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)理由1(特許法29条1項(新規性欠如))について
本件訂正請求に係る訂正前の請求項1、2、4~8、10、11、14、20~22、24、25、28、29に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(2)理由2(特許法29条2項(進歩性欠如))について
ア 理由2の1(甲第1号証を主引用発明とした場合の進歩性)について
本件訂正請求に係る訂正前の請求項3、9、12、13、15~19、23、26、27に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 理由2の2(甲第2号証を主引用発明とした場合の進歩性)について
本件訂正請求に係る訂正前の請求項1~29に係る発明は、甲第2号証に記載された発明並びに
甲第1号証及び甲第3号証~甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 取消理由で引用した文献
甲第1号証:国際公開第2014/042970号
甲第2号証:Almir Heralic et al., “Height control of laser metal-
wire deposition based on iterative learning control and 3D
scanning”, Optics and Lasers in Engineering, 2012年5月8日,
50 (2012), p.1230-1241
甲第3号証:特開平11-77361号公報
甲第4号証:特開平7-304104号公報
以下、甲第1号証~甲第4号証を「甲1」~「甲4」という。
2 本件発明に対する取消理由の有無についての判断
上記第2のとおり本件訂正請求は認められたことから、上記第3に示した本件発明1~29が依然として上記1の理由1、理由2の1、及び 理由2の2の各取消理由を有するかについて、以下検討する。
(1)本件発明の甲1を主引用発明とした場合の新規性・進歩性欠如について(理由1、及び、理由2の1)
ア 甲1発明
甲1には、取消理由通知に示したとおり、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。なお、括弧内には、甲1の参照箇所を記載した(甲1の用語等は当審で翻訳した。)。
「フィラー層堆積物D([0045])を形成するレーザークラッディングシステム15([0045]、図1)であって、
タービンブレード20の摩耗した表面20A([0045]、[0046])を移動させる作業台30及び作動制御システム35([0046])と、
タービンブレード20の摩耗した表面20Aの寸法走査データ(請求項1、[0004]、[0022]~[0023])を取得するための溶接前非接触式レーザープロフィロメータ50([0047])と、
溶接レーザービーム680([0047])を生成するレーザー溶接装置60([0047])と、粉状フィラー材料F([0048])を投入するフィラー材料分配システム70([0048])と、を含むガントリー40、ガントリー40の作動制御システム45、レーザー溶接装置60、レーザー溶接装置60の駆動部662~666、フィラー材料分配システム70、フィラー材料分配システム70の駆動装置735及びフィラー材料分配システム70の作動制御システム736([0047]~[0049])と、
タービンブレード20の摩耗した表面20Aとレーザー溶接装置60が生成する溶接レーザービーム680とを相対的に動かし([0051])、粉状フィラー材料Fをフィラー材料分配システム70から投入する([0048])ことによりタービンブレード20の摩耗した表面20Aの寸法走査データを仕様上の寸法データに合わせて溶接する([0022]~[0023])ように、作業台30及び作動制御システム35とガントリー40、ガントリー40の作動制御システム45、レーザー溶接装置60、レーザー溶接装置60の駆動部662、664、666、フィラー材料分配システム70、フィラー材料分配システム70の駆動装置735及びフィラー材料分配システム70の作動制御システム736とを制御する制御装置90([0050])と、を備え、
作業台30及び作動制御システム35は、タービンブレード20を固定する作業台30を有し([0046])、
タービンブレード20の摩耗した表面20Aは、作業台30に固定されたタービンブレード20の表面の少なくとも一部を含み(図2、図2A)、
溶接前非接触式レーザープロフィロメータ50は、作業台30にタービンブレード20を固定したステップの後であって、光学的エネルギーをタービンブレード20と粉状フィラー材料Fに移送し、粉状フィラー材料Fを溶融させ、タービンブレード20の摩耗した表面20Aを濡らし、溶融した粉状フィラー材料Fとタービンブレード20の摩耗した表面20Aとを互いに融合させることにより、タービンブレード20の摩耗した表面20Aの寸法走査データを仕様上の寸法データに合わせて溶接するステップの前に、タービンブレード20の摩耗した表面20Aの少なくとも一部の寸法走査データを取得し(請求項1、[0004]、[0022]、[0047]、[0051]、図1、5)、
制御装置90は、タービンブレード20の摩耗した表面20Aの少なくとも一部の寸法走査データを取得するステップの後に、寸法走査データと仕様上の寸法データを比較して、光学的エネルギーをタービンブレード20と粉状フィラー材料Fに移送し、粉状フィラー材料Fを溶融させ、タービンブレード20の摩耗した表面20Aを濡らし、溶融した粉状フィラー材料Fとタービンブレード20の摩耗した表面20Aとを互いに融合させることにより、タービンブレード20の摩耗した表面20Aの寸法走査データを仕様上の寸法データに合わせて溶接する(請求項1、[0004]、[0022]、[0051]、図1、5)レーザークラッディングシステム15。」
イ 本件発明1と甲1発明の対比
最初に本件発明1について検討する。
本件発明1と甲1発明とを対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。(なお、一致点において、本件発明1の発明特定事項に対応する甲1発明の用語等を括弧内に付した。)
<一致点>
「三次元造形物(フィラー層堆積物D)を形成する造形装置(レーザークラッディングシステム15)であって、
対象面(タービンブレード20の摩耗した表面20A)を動かす移動システム(作業台30及び作動制御システム35)と、
前記対象面の位置情報(寸法走査データ)を取得するための計測システム(溶接前非接触式レーザープロフィロメータ50)と、
ビーム(溶接レーザービーム680)を射出するビーム照射部(レーザー溶接装置60)と、造形材料(粉状フィラー材料F)を供給する材料処理部(フィラー材料分配システム70)と、を有するビーム造形システム(ガントリー40、ガントリー40の作動制御システム45、レーザー溶接装置60、レーザー溶接装置60の駆動部662~666、フィラー材料分配システム70、フィラー材料分配システム70の駆動装置735及びフィラー材料分配システム70の作動制御システム736)と、
前記対象面と前記ビーム照射部からのビームとを相対的に移動させつつ前記造形材料を前記材料処理部から供給することにより前記対象面上の目標部位に造形が施されるように、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する制御装置(制御装置90)と、を備え、
前記移動システムは、ワーク(タービンブレード20)を保持可能な保持部材(作業台30)を有し、
前記対象面は、前記保持部材に保持された前記ワークの表面の少なくとも一部を含み、
前記計測システムは、前記保持部材に前記ワークが保持された後であって且つ前記ワークの表面上の目標部位に溶融池(タービンブレード20の摩耗した表面20Aは濡れることから、溶融池が形成されていることは明らか。)を形成することによる造形が開始される前に、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得し、
前記制御装置は、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記位置情報に基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する造形装置。」
<相違点1>
本件発明1では、ビーム造形システムが、「ワークの表面上の目標部位にビームを射出するビーム照射部と、前記ビーム照射部によりビームが照射された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給する材料処理部と、を有する」のに対し、甲1発明は、ワークの表面上の目標部位にビーム(溶接レーザービーム680)を射出するビーム照射部(レーザー溶接装置60)と、ワークの表面上に造形材料(粉状フィラー材料F)を供給する材料処理部(フィラー材料分配システム70)と、を有するものの、材料処理部(フィラー材料分配システム70)が、ビーム照射部(レーザー溶接装置60)によりビーム(溶接レーザービーム680)が照射されたワークの表面上の目標部位に造形材料(粉状フィラー材料F)を供給するものかが不明である点。
<相違点2>
本件発明1では、制御装置は、「前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」のに対し、甲1発明は、制御装置90がワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記位置情報に基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始することは理解できるものの、ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始するという構成を備えるかが不明である点。
ウ 判断
(ア)理由1(特許法29条1項違反:新規性欠如)について
上記イのとおり、本件発明1と甲1発明とは相違点1、2を有するから、本件発明1は甲1発明ではない。
(イ)理由2の1(特許法29条2項違反:進歩性欠如)について
次に、本件発明1が、甲1発明を主引用発明とした場合に進歩性を欠如するかについて検討する。
事案に鑑み、相違点2から検討すると、甲1、甲3~甲4のいずれにも「前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」構成についての開示も示唆もない。
すなわち、甲1には、ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に、ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータを生成することについては記載がない。また、甲1の段落[0018]、[0022]等に、溶接パターンが動的に決定され、部品の熱歪、部品の表面と溶接装置との移動及び/又は位置合わせ不良、誤った溶接経路、又は溶接工程中の溶接欠陥(例えば、ボイド及び/又は割れ)のような溶接工程中に生じる過渡変化に応じて調整されることが記載されていること、段落[0043]には、溶接前及び/又は溶接後の三次元寸法走査によるリアルタイムフィードバックループについて記載があること等から見れば、甲1には、専ら溶接の状態をフィードバックすべく三次元寸法走査をすることが開示されているといえるから、ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に、ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータを生成することを想定していたとまではいえない。
また、甲3は、加工テーブル上に未加工ワークを移載するワーク移載用ロボットが開示されるのみであるし、甲4は、レーザー光を用いてコンピュータ援用設計システムで設計された製品の全断面形状のデータから、一断面形状の層毎に硬化させて造形することを開示するものの、ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に、ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータを生成することを開示するものではない。
さらに、申立人の提出した参考資料1を含む全ての証拠を見ても、上記構成を開示するものはない。
そうすると、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することが当業者に容易に想到できた程度のことということはできない。
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲3~甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明2~28について
本件発明2~28は、本件発明1を引用し、その発明特定事項の全てを含むものであるから、甲1発明との間には、上記イの相違点1、2を有するところ、上記ウに示したと同様の理由により、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明、甲3~甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
オ 本件発明29について
本件発明29の「造形方法」は、本件発明1の「造形装置」とは、概ねカテゴリー表現上の差異が存するのみであると認められるところ、甲1には、装置についての発明である甲1発明に対応する方法の発明も記載されていると認められる。
そして、本件発明29と甲1発明に対応する方法の発明との間には、上記イの相違点1、2と同様の相違点を有するところ、上記ウに示したと同様の理由により、本件発明29は、甲1発明に対応する方法の発明であるとはいえないし、甲1発明に対応する方法の発明、甲3~甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2)本件発明の甲2を主引用発明とした場合の進歩性欠如について(理由2の2)
ア 甲2発明
甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。なお、括弧内には、甲2の参照箇所を記載した(甲2の用語等は当審で翻訳した。)。
「金属構造物(ABSTRACT)を製造する堆積システム(2. System hardware)であって、
目標表面のプロファイルを得るためのレーザースキャナ(2.1.1. Laser scanner)と、
部品表面上の目標部位にレーザー光を集光する光学システムと、光学システムによりレーザーが照射された部品の表面上の目標部位にワイヤを送り込むワイヤ供給装置とから構成される堆積ツール(2.1. Deposition tool、3. Deposition procedure)と、
光学システムからのレーザー光を移動させながらワイヤをワイヤ供給装置から送り込むことにより目標表面上に所望の輪郭を持つ層が形成されるように、堆積ツールを制御する制御システム(3. Deposition procedure、4. Control methodology)と、を備え、
部品を保持可能なテーブルを有し(Fig.1)、
目標表面は、テーブルに保持された部品の表面の少なくとも一部を含み(Fig.1)、
レーザースキャナは、テーブルに部品が保持された後であって且つ部品の目標表面上に溶融池を生成することにより所望の輪郭を持つ各層を堆積するごとに、部品の目標表面のプロファイルを得て(2.1.1. Laser scanner、4.2. Step-height compensator for increased stability)、
制御システムは、部品の目標表面のプロファイルを得た後に、プロファイルに基づいて所望の輪郭を持つ新しい層を堆積する(2.1.1. Laser scanner、4.2. Step-height compensator for increased stability)堆積システム。」
イ 本件発明1と甲2発明との対比
最初に本件発明1について検討する。
本件発明1と甲2発明とを対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。(なお、一致点において、本件発明1の発明特定事項に対応する甲2発明の用語を括弧内に付した。)
<一致点>
「三次元造形物(金属構造物)を形成する造形装置(堆積システム)であって、
対象面(目標表面)の位置情報(プロファイル)を取得するための計測システム(レーザースキャナ)と、
ワーク(部品)の表面上の目標部位にビーム(レーザー光)を射出するビーム照射部(光学システム)と、前記ビーム照射部によりビームが照射された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料(ワイヤ)を供給する材料処理部(ワイヤ供給装置)と、を有するビーム造形システム(堆積ツール)と、
前記対象面と前記ビーム照射部からのビームとを相対的に移動させつつ前記造形材料を前記材料処理部から供給することにより前記対象面上の目標部位に造形が施されるように、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する制御装置(制御システム)と、を備え、
ワークを保持可能な保持部材(テーブル)を有し、
前記対象面は、前記保持部材に保持された前記ワークの表面の少なくとも一部を含み、
前記計測システムは、前記保持部材に前記ワークが保持された後に、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得し、
前記制御装置は、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記位置情報に基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形をする造形装置。」
<相違点1>
本件発明1は、「対象面を動かす移動システム」を備えるのに対し、甲2発明は、目標表面を動かす移動システムを備えていない点。
<相違点2>
本件発明1では、制御装置は、「前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」のに対し、甲2発明は、位置情報の取得を、テーブルに部品が保持された後であって且つ部品の目標表面上に溶融池を生成することにより所望の輪郭を持つ各層を堆積するごとに行っているものの、最初の層を堆積する前にも行っているか明らかでなく、ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始するという構成を備えるかが不明である点。
ウ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討すると、上記(1)ウに示したとおり、甲2、甲1、甲3~甲4のいずれにも「前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」構成についての開示も示唆もないから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、甲1、甲3~甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明2~28について
本件発明2~28は、本件発明1を引用し、その発明特定事項の全てを含むものであるから、甲2発明との間には、上記イの相違点1、2を有するところ、上記ウに示したと同様の理由により、甲2発明、甲1、甲3~甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
オ 本件発明29について
本件発明29の「造形方法」は、本件発明1の「造形装置」とは、概ねカテゴリー表現上の差異が存するのみであると認められるところ、甲2には、装置についての発明である甲2発明に対応する方法の発明も記載されていると認められる。
そして、本件発明29と甲2発明に対応する方法の発明との間には、上記イの相違点1、2と同様の相違点を有するところ、上記ウに示したと同様の理由により、本件発明29は、甲2発明に対応する方法の発明、甲1、甲3~甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和5年5月11日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、甲1には、訂正事項である「前記制御装置は、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」ことが開示されており、仮にそうでないとしても、甲4に記載された周知技術であり、甲1発明に当該周知技術を組み合わせることは容易想到である旨主張している(意見書の3のA.(ウ)訂正事項1-2について及びB.ア.(イ))。
しかしながら、甲1、甲4のいずれにも、「前記制御装置は、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」ことについて開示がないことは、上記(1)ウ(イ)で述べたとおりである。
また、申立人のその他の主張は、相違点2に係るものではないから、本件発明1~29は、当業者が容易に発明できたものとはいえないとの結論を左右するものではない。
(4)取消理由についての判断のむすび
本件発明1~29は、甲1発明ではない。また、本件発明1~29は、甲1発明、甲3~甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、甲2発明、甲1、甲3~甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、取消理由通知にて示した理由により、本件発明1~29に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許異議申立理由(特許法36条6項2号(明確性要件違反))の概要
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由である特許法36条6項2号(明確性要件違反)の概要は、以下のとおりである(申立書99ページ)。
(1)本件発明1について
本件発明1では、「位置情報に基づいてワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」との記載があるが、当該記載における、「位置情報に基づく」とは、位置情報の何にどのように基づくのか、加えて、位置情報に基づいて、何をどのようにして溶融池を形成するのか、溶融池の形成にどのように何が反映されるのかが把握できない。
(2)本件発明23について
本件発明23では、「前記制御装置は、前記三次元造形物の3Dデータから得られる多層の積層断面のデータに基づいて、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する」との記載がある。
しかし、「三次元造形物の3Dデータから得られる多層の積層断面のデータに基づいて、」制御装置が、「移動システム」と「ビーム造形システム」とを、どのように制御するのか、更には制御した上で何を行うのかが把握できない。
(3)本件発明24について
本件発明24では、「前記制御装置は、形成すべき三次元造形物の3Dデータと、前記計測システムを使って取得された前記対象面の位置情報とに基づいて、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する」との記載がある。
しかし、形成すべき三次元造形物の3Dデータと、計測システムを使って取得された対象面の位置情報とに基づいて、制御装置が、移動システムとビーム造形システムとを、どのように制御するのか、更に制御した上で何を行うのかが把握できない。
2 当審の判断
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるから、以下これに基づき判断する。
(1)本件発明1について
本件発明1は、「前記制御装置は、前記ワークの表面の少なくとも一部の位置情報を取得した後に、前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて前記ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形を開始する」と特定しているところ、ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形は、造形が開始される前に生成された前記ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、前記位置情報とに基づいて行われるものであることが明確に理解できる。また、溶融池の形成は、ワークの表面上の目標部位にビームを射出することにより行われることは明らかである。
そして、この特定事項は、本件特許明細書の段落【0158】の記載とも整合するものであり、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ということはできないから、本件発明1は明確である。
(2)本件発明23について
本件発明23は、「前記制御装置は、前記三次元造形物の3Dデータから得られる多層の積層断面のデータに基づいて、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する」と特定しているところ、この特定から、「移動システム」と「ビーム造形システム」とは、三次元造形物の3Dデータから得られる多層の積層断面のデータに基づいて、制御装置により制御されるものであることが明確に理解できる。そして、「移動システム」は、「対象面を動かす」ものであり、「ビーム造形システム」は、「ワークの表面上の目標部位にビームを射出するビーム照射部と、前記ビーム照射部によりビームが照射された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給する材料処理部と、を有する」ものであるから(本件発明23が引用する本件発明1)、制御装置は、「移動システム」と「ビーム造形システム」を、三次元造形物の3Dデータから得られる多層の積層断面のデータに基づいて、多層の積層断面を形成するように制御することが理解できる。
そして、この特定事項は、本件特許明細書の段落【0158】の記載とも整合するものであり、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ということはできないから、本件発明23は明確である。
(3)本件発明24について
本件発明24は、「前記制御装置は、形成すべき三次元造形物の3Dデータと、前記計測システムを使って取得された前記対象面の位置情報とに基づいて、前記移動システムと前記ビーム造形システムとを制御する」と特定しているところ、この特定から、「移動システム」と「ビーム造形システム」は、形成すべき三次元造形物の3Dデータと、計測システムを使って取得された対象面の位置情報とに基づいて、制御装置により制御されるものであることが明確に理解できる。そして、「移動システム」は、「対象面を動かす」もの、「ビーム造形システム」は、「ワークの表面上の目標部位にビームを射出するビーム照射部と、前記ビーム照射部によりビームが照射された前記ワークの表面上の目標部位に造形材料を供給する材料処理部と、を有する」ものであり、ワークの表面上の目標部位に溶融池を形成することによる造形は、ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、位置情報とに基づいて行われるものであるから(本件発明24が引用する本件発明1)、制御装置は、「移動システム」と「ビーム造形システム」を、三次元造形物の3Dデータと、ワークに対して付加造形する部分をスライスした各層のデータと、位置情報とから得られる多層の積層断面のデータに基づいて、各層の積層断面を形成するように制御することが理解できる。
そして、この特定事項は、本件特許明細書の段落【0158】の記載とも整合するものであり、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ということはできないから、本件発明24は明確である。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~29に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~29に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700975