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特許異議申立

2019-700185

鉛フリーかつアンチモンフリーの高温信頼性錫はんだ

審判番号
2019-700185
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-536219
登録番号
特許第6395713号(P6395713)
請求日
2019年03月05日
審決日
2019年11月07日
公報発行日
2020年01月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】アルファ・アセンブリー・ソリューションズ・インコーポレイテッド
  • 【権利者代理人】鮫島 睦
  • 【権利者代理人】山尾 憲人
  • 【権利者代理人】佐々木 正博
  • 【権利者代理人】言上 惠一
  • 【異議申立人】赤松 智信
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 中澤 登
  • 審判官 長谷山 健
分類
P1652.113-YAA(B23K) / P1652.121-YAA(B23K) / P1652.537-YAA(B23K) / P1652.851-YAA(B23K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6395713号発明「鉛フリーかつアンチモンフリーの高温信頼性錫はんだ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6395713号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項12、14に訂正することを認める。 特許第6395713号の請求項12、14に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6395713号の請求項1~14に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)10月9日(優先権主張 外国庁受理 2012年10月9日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成30年9月7日にその特許権の設定登録がされ、同年9月26日に特許掲載公報が発行され、その後、平成31年3月5日に、請求項12、14に係る特許に対し、特許異議申立人 赤松智信(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、令和1年5月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月19日に意見書の提出及び訂正の請求があり、この訂正の請求に対して申立人から同年9月20日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の趣旨 令和1年8月19日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第6395713号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項12、14について訂正することを求める、というものである。 2.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。 (1)訂正事項1 訂正前の 「【請求項12】 鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、 (a)3~4.5重量%の銀と、 (b)2.7~4.5重量%のビスマスと、 (c)0.4~1重量%の銅と、 (d)0.05~0.5重量%のニッケルと、 (e)0.01~0.6重量%のコバルトと、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金。」を、 訂正後に、 「【請求項12】 鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、 (a)3~4.5重量%の銀と、 (b)3~4.5重量%のビスマスと、 (c)0.4~1重量%の銅と、 (d)0.05~0.3重量%のニッケルと、 (e)0.01~0.1重量%のコバルトと、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金。」と訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の 「【請求項14】 鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、 (a)3~4.5重量%の銀と、 (b)2.7~4.5重量%のビスマスと、 (c)0.4~1重量%の銅と、 (d)0.05~0.5重量%のニッケルと、 (e)0.005~1重量%のゲルマニウムと、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金。」を、 訂正後に、 「【請求項14】 鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、 (a)3~4.5重量%の銀と、 (b)2.7~4重量%のビスマスと、 (c)0.4~1重量%の銅と、 (d)0.05~0.3重量%のニッケルと、 (e)0.005~0.01重量%のゲルマニウムと、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金。」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1による訂正は、請求項12に係るもので、 「ビスマス」の下限を「2.7重量%」から「3重量%」へ訂正し、 「ニッケル」の上限を「0.5重量%」から「0.3重量%」へ訂正し、 「コバルト」の上限を「0.6重量%」から「0.1重量%」へ訂正するものであり、いずれも元素の組成範囲を狭める訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。(下線部は当審で付記した。) 「【0035】他の実施形態において、3~4.5重量%の銀と、3~5重量%のビスマスと、0.3~1.2重量%の銅と、0.05~0.3重量%のニッケルと、0.01~0.1重量%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。」 「【0042】他の実施形態において、3.5~5重量%の銀と、3~5重量%のビスマスと、0.3~1.2重量%の銅と、0.05~0.3重量%のニッケルと、0.01~0.08重量%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。」 したがって、本件明細書には、訂正後の「ビスマス」の下限、「ニッケル」の上限、及び、「コバルト」の上限について記載されているから、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当しない。 ウ さらに、訂正事項1は、上記のように特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2による訂正は、請求項14に係るもので、 「ビスマス」の上限を「4.5重量%」から「4重量%」へ訂正し、 「ニッケル」の上限を「0.5重量%」から「0.3重量%」へ訂正し、 「ゲルマニウム」の上限を「1重量%」から「0.01重量%」へ訂正するものであり、いずれも元素の組成範囲を狭める訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ また、本件明細書には、次の記載がある。(下線部は当審で付記した。) 「【0037】他の実施形態において、3~4.5重量%の銀と、2~4重量%のビスマスと、0.3~1.2重量%の銅と、0.05~0.3重量%のニッケルと、0.001~0.01重量%のゲルマニウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。」 したがって、本件明細書には、訂正後の「ビスマス」の上限、「ニッケル」の上限、及び、「ゲルマニウム」の上限について記載されているから、訂正事項2による訂正は、新規事項の追加に該当しない。 ウ さらに、訂正事項2は、上記のように特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 なお、本件訂正請求は、異議申立のされた請求項12、14を訂正するもので、異議申立のされていない他の請求項は訂正されていないので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件の具備)は適用されない。 3.まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし同第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項12、14について訂正を認める。 第3 訂正後の請求項12、14に係る発明 本件訂正請求により訂正された請求項12、14に係る発明(以下、「本件発明12」、「本件発明14」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項12、14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項12】 鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、 (a)3~4.5重量%の銀と、 (b)3~4.5重量%のビスマスと、 (c)0.4~1重量%の銅と、 (d)0.05~0.3重量%のニッケルと、 (e)0.01~0.1重量%のコバルトと、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金。」 「【請求項14】 鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、 (a)3~4.5重量%の銀と、 (b)2.7~4重量%のビスマスと、 (c)0.4~1重量%の銅と、 (d)0.05~0.3重量%のニッケルと、 (e)0.005~0.01重量%のゲルマニウムと、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金。」 第4 特許異議申立理由の概要 申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、請求項12、14に係る特許に対して、以下の概要の特許異議申立理由(以下、「申立理由」という。)を主張した。 なお、以下で、訂正前の請求項12、14に係る発明を「本件特許発明12」、「本件特許発明14」という。 <申立理由1-1>(申立書12-14頁) 本件特許発明12は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。 <申立理由1-2>(申立書15頁) 本件特許発明12は、甲第3号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。 <申立理由1-3>(申立書15-17頁) 本件特許発明14は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。 <申立理由1-4>(申立書17-18頁) 本件特許発明14は、甲第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。 <申立理由2>(申立書19-21頁) 本件特許発明12の実施例は、実施例6(【0064】)及び実施例13(【0071】)のわずか二つであり、本件特許発明14の実施例は、実施例8(【0066】)のわずか一つであり、本件特許発明12、14の「はんだ合金」の全ての組成範囲がこれらにより裏付けられているものとは言えない。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に記載された内容を、本件特許発明12、14の範囲にまで拡張ないし一般化できると当業者が認識できるものとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たしているものではないから、本件特許発明12、14に係る特許は取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証:国際公開第2009/011341号 甲第2号証:特開2000-280090号公報 甲第3号証:特許第3602529号公報 第5 取消理由 当審は、上記「第4」の申立理由を採用せず、以下のとおりの当審で発見した取消理由を通知した。以下、詳述する。 <取消理由1> 本件特許発明12を裏付ける事項は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0035】及び【0064】、【0042】及び【0071】に記載されている。 本件特許発明12の特定事項と、上記本件明細書の記載を比較すると、 a)「Bi」について、本件特許発明12の下限は「2.7重量%」であるのに対して、上記本件明細書に記載の下限は「3重量%」であり、本件特許発明12は、「Bi」の下限について、「2.7重量%」以上「3重量%」未満の範囲で、発明の詳細な説明の記載により裏付けられていない。 b)「Ni」について、本件特許発明12の上限は「0.5重量%」であるのに対して、上記本件明細書に記載の上限は「0.3重量%」であり、本件特許発明12は、「Ni」の上限について、「0.3重量%」を超えて「0.5重量%」以下の範囲で、発明の詳細な説明の記載により裏付けられていない。 c)「Co」について、本件特許発明12の上限は「0.6重量%」であるのに対して、上記本件明細書に記載の上限は「0.1重量%」であり、本件特許発明12は、「Co」の上限について、「0.1重量%」を超えて「0.6重量%」以下の範囲で、発明の詳細な説明の記載により裏付けられていない。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に記載された内容を、本件特許発明12の範囲にまで拡張ないし一般化できると当業者が認識できるものとはいえず、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしているものではないから、本件特許発明12に係る特許は取り消されるべきものである。 <取消理由2> 本件特許発明14を裏付ける事項は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0037】及び【0066】に記載されている。 本件特許発明14の特定事項と、上記本件明細書の記載を比較すると、 a)「Bi」について、本件特許発明14の上限は「4.5重量%」であるのに対して、上記本件明細書に記載の上限は「4重量%」であり、本件特許発明14は、「Bi」の上限について、「4重量%」を超えて「4.5重量%」以下の範囲で、発明の詳細な説明の記載により裏付けられていない。 b)「Ni」について、本件特許発明14の上限は「0.5重量%」であるのに対して、上記本件明細書に記載の上限は「0.3重量%」であり、本件特許発明14は、「Ni」の上限について、「0.3重量%」を超えて「0.5重量%」以下の範囲で、発明の詳細な説明の記載により裏付けられていない。 c)「Ge」について、本件特許発明14の上限は「1重量%」であるのに対して、上記本件明細書に記載の上限は「0.01重量%」であり、本件特許発明14は、「Co」の上限について、「0.01重量%」を超えて「1重量%」以下の範囲で、発明の詳細な説明の記載により裏付けられていない。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に記載された内容を、本件特許発明14の範囲にまで拡張ないし一般化できると当業者が認識できるものとはいえず、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしているものではないから、本件特許発明14に係る特許は取り消されるべきものである。 第6 当審の判断 1.取消理由1及び2について 取消理由1及び2は、上記「第2」で本件訂正請求が認められ、本件特許請求の範囲が上記「第3」のように訂正されたことにより解消された。 2.甲各号証の記載事項について (1)甲第1号証(国際公開第2009/011341号)には次の事項が記載されている。 (1ア)[0011]従って、車載電子回路に用いるはんだには、ヒートサイクル環境において、優れた耐ヒートサイクル性を示すものが要求されている。車載電子回路のはんだ付けとして、民生用電子機器にすでに用いられているSn-3Ag-0.5Cuの鉛フリーはんだを用いるのが好ましい。しかし、この鉛フリーはんだは過酷なヒートサイクル環境に対して充分な耐ヒートサイクル性を有していないため、自動車のように高温度と低温度との差が非常に大きい厳しいヒートサイクル環境となるところには使用できない。 [0014]さらに車載電子回路に用いるはんだとしては、固相線温度が170℃以上であることが望ましい。その理由は、はんだ付け部が置かれた環境が高温となったときに、その高い温度とはんだの固相線温度が近いほど、はんだの接合強度が弱くなるからである。つまり車載電子回路が設置される箇所がエンジンルーム内であるとエンジンルーム内は100℃に近い高温となることから、固相線温度はエンジンルームの温度よりも少なくとも70℃以上高い170℃以上が好ましい。 (1イ)【特許請求の範囲】 [1]Ag:2.8~4質量%、Bi:1.5~6質量%、Cu:0.8~1.2質量%、残部Snからなることを特徴とする車載用鉛フリーはんだ。 [2]Ag:3~3.4質量%、Bi:2.5~5質量%、Cu:0.9~1.1質量%、残部Snからなる、請求項1記載の車載用鉛フリーはんだ。 [3]前記、はんだ組成が析出物復元型固溶体組織を備えたことを特徴とする請求項1記載の車載用鉛フリーはんだ。 [4]前記、はんだ組成が析出物復元型固溶体組織を備えたことを特徴とする請求項2記載の車載用鉛フリーはんだ。 [5]Snの一部に代えて、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005~0.05質量%含有する、請求項1-4のいずれかに記載の車載用鉛フリーはんだ。 [6]Snの一部に代えて、P、GeおよびGaからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で、0.0002~0.02質量%含有する、請求項1-4項のいずれかに記載の車載用鉛フリーはんだ。 [7]Snの一部に代えて、P、GeおよびGaからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で、0.0002~0.02質量%含有する、請求項5項記載の車載用鉛フリーはんだ。 (1ウ)[0051]本発明にかかるはんだ合金およびはんだ継手は、ヒートサイクル試験を1500サイクル行っても、信頼性を充分に発揮できるものである。本発明の更なる態様にあっては、Ni、Fe、Coの少なくとも1種を合計で0.005~0.05質量%さらに含有したことを特徴とする鉛フリーはんだは、ヒートサイクル試験を1500サイクル行っても、信頼性を充分に発揮できると同時に、はんだ鏝を使用した場合にその鏝先の寿命を向上できるのである。 [0052]本発明のさらに別の態様にあっては、P、Ge、Gaの少なくとも1種を合計で0.0002~0.02質量%含有したことを特徴とする鉛フリーはんだは、ヒートサイクル試験を1500サイクル行っても、信頼性を充分に発揮できると同時に、はんだ付け後の高温環境ではんだ表面の変色を防止できるのである。 (1エ)[0053]本発明の好適範囲のはんだでは、ヒートサイクル試験をさらに3000サイクル行っても、信頼性を充分に発揮できるものである。本発明の鉛フリーはんだは、使用時に熱を発するパワートランジスターやコイルが実装された電子機器のはんだ付けにも使用できることはいうまでもなく、特に、車載電子回路用に用いることでその特性がより効果的に発揮される。ここに、車載電子回路とは、いわゆる自動車電子制御装置のセントラルコンピュータに組み込まれる回路であり、エンジン出力制御、ブレーキ制御などを制御を行うための装置であり、通常エンジン近傍に設けられる。 (1オ)[0060]本発明では、耐ヒートサイクル性をさらに向上させるとともに、はんだ自体の機械的強度、Cu食われの抑制などの特性を向上させる目的で、Ni、Fe、およびCoからなる群から選んだ1種以上を合計で0.005~0.05質量%添加することもできる。これらの添加物は合計で0.005質量%よりも少ないと上記特性向上効果は現れず、しかるに、合計で0.05質量%よりも多くなると液相線温度が240℃を越えてしまう。 [0061]さらに、本発明では、はんだの酸化を防止してはんだの変色を抑制するために、P、Ge、およびGaからなる群から選んだ1種以上を合計で0.0002~0.02質量%添加することもできる。これらの添加量が合計で0.0002質量%よりも少ないと酸化防止の効果はなく、しかるに合計で0.02質量%を超えて添加すると、はんだ付け性を阻害するようになる。 (1カ)[0065]・・・実施例1 [0066]本例では表1に示す各組成のはんだ合金を調製し、後述する要領でその特性を評価した。本発明における実施例と比較例の特性評価の結果を表1にまとめて示す。 [0067][表1] (1キ)[0074]・・・実施例2 [0075]本例では、擬似的なハイブリッド半導体回路のはんだ継手部を本発明にかかる鉛フリーはんだで構成し、そのときのはんだ継手部の評価結果を示す。 試験1:大きさ30mm×40mm×0.3mmの銅貼りアルミナ基板1と、50mm×50mm×3.5mmのCuベース基板(金属基板)2の間に、厚み200μm、30mm×40mmの板状の表2に記載のはんだ組成のはんだペレットを載せ、水素還元雰囲気中で260℃のピーク温度条件でリフローはんだ付けして、試験基板とした。 [0079][表2] (2)甲第2号証(特開2000-280090号公報)には次の事項が記載されている。 (2ア)【請求項3】スズを主成分とし、ビスマスを21wt% 以下、銀を4wt%以下、銅を2wt%以下(0を含む)、ニッケルを0.2wt%以下、ゲルマニウムを0.1wt%以下含有することを特徴とするはんだ合金。 (2イ)【0001】【発明の属する技術分野】この発明は主に電子機器の金属接合において便用されるはんだ合金に係り、特に鉛を含有しないで公害がなく環境に優しいはんだ合金に関する。 (2ウ)【0005】この発明は上述の点に鑑みてなされ、その目的は従来のSn-Bi系合金のぬれ性を改良してSn-Ag合金の共晶点221℃よりも溶融点が低く且つ接合性の良好な鉛フリーの新規なSn-Bi系合金を提供することにある。 (2エ)【0008】また第三の発明によればスズを主成分とし、ビスマスを21wt% 以下、銀を4wt%以下、銅を2wt%以下(0を含む)、ニッケルを0.2wt%以下、ゲルマニウムを0.1wt%以下含有することにより達成される。 (2オ)【0009】SnにAgを添加すると合金の耐熱性、疲労強度、ぬれ性が向上する。Agは結晶粒界に高濃度に存在し、結晶粒界の移動を抑えるため合金の熱疲労強度が向上する。Sn-Ag合金は、Ag添加量が3.5wt%のときに共晶点221℃を有するので、 Agの添加量が3.wt%を越えると液相温度が高くなり、 接合温度をぬれ性確保のためにも高くする必要がある。またAg添加量が3.5wt%を越えても強度的にはほぼ同レベルである。従ってAg添加量の適切な量は4wt%以下である。 (2カ)【0011】Biを添加すると、Snベース合金の溶融点が下がる。前述したようにSn-Bi系はBi添加量が58wt% の共晶組成のときに共晶点139℃を有する。Sn-Bi二元系の状態図が示すようにSn-Bi合金はBi添加量が21wt%以上の組成において温度139℃で溶融が始まる。Bi添加量が21wt%以下の組成範囲では、液相温度、固相温度ともに低下する。 (2キ)【0013】Geを添加すると、はんだ溶融時にSnに優先してGeの薄い酸化膜を形成し、Snなどのはんだ成分の酸化が抑制される。添加量が多過ぎるとGeによる酸化皮膜が厚くなりすぎて接合性に悪影響がでる。 (2ク)実施例として種々の組成のはんだ合金について特性を評価したものを以下に示す。 【0017】結果が表1 に示される。 【表1 】 (2ケ)【0022】【発明の効果】・・・第三の発明によればスズを主成分とし、 ビスマスを21wt% 以下、銀を4wt%以下、銅を2wt%以下、ニッケルを0.2wt%以下、ゲルマニウムを0.1wt%以下含有するので、Sn-Ag合金の共晶点221℃よりも溶融点が低く且つぬれ性が良好で接合性、さらに、耐熱性についても優れる鉛フリーの新規なSn-Bi系合金が得られる。 (2コ)Sn-Bi 二元系状態図である【図1】(4頁) (3)甲第3号証(特許第3602529号公報)には次の事項が記載されている。 (3ア)【請求項9】Ag2~5質量%と、Cu0.1~2.5質量%と、Bi0.1~5質量%と、Ni0.01~1質量%と、Co0.05~0.6質量%と、残部Sn及び不可避不純物とからなり、かつNiとCoとの合計が1質量%以下であることを特徴とするマニュアルソルダリング用またはフローソルダリング用鉛フリーはんだ。 (3イ)【0004】しかしながら、上記のような鉛フリーはんだを用いてマニュアルソルダリング(糸状はんだとハンダゴテを用いて手作業で行うはんだ付け)を行うと、ハンダゴテのコテ先の寿命が短くなるという問題があった。 【0005】その主な原因は、コテ先の侵食速度の増大である。通常、コテ先は銅又は銅合金からなり、表面にははんだによる侵食を防止するために鉄めっきが施されている。しかし完全に侵食を防止することは困難で、徐々に侵食は進行する。そしてその侵食速度は、コテ先の温度が高いほど増大する。一方、マニュアルソルダリングに用いられる鉛フリーはんだは、一般的にSn-Pb系はんだに比べて融点(液相線温度)が高く、必然的にコテ先の設定温度も高くする必要がある。このため、鉛フリーはんだを用いるとコテ先の侵食速度が増大し易い。 【0006】また、錫は比較的コテ先表面の鉄と反応し易く、鉛フリー化によって錫の含有率が高くなっていることや、マニュアルソルダリングに用いられるはんだに通常含まれているヤニ(フラックス)の影響などによっても侵食速度が増大する。 【0007】更に上記の問題に加え、鉛フリーはんだを用いてフローソルダリング(素子などの電子部材をプリント基板に搭載した後、棒状又はインゴット状のはんだを溶融した溶融はんだ中に浸漬する)を行うと、浸漬はんだ槽(槽壁、送りプロペラ、加熱部を含む)がエロージョン(erosion)による著しい損傷を受けるという問題もあった。エロージョンとは、溶融金属に固体金属が接触していると、拡散や反応層形成の過程で固体金属が溶融金属に溶出し、侵食される現象である。当明細書でいう侵食には、このエロージョンを含むものとする。 【0008】浸漬はんだ槽に用いられているステンレス材は、はんだにぬれることは通常ないが、機械的磨耗をきっかけにぬれが発生し、侵食が進行するようになる。特に鉛フリーはんだは、従来の鉛入りものに比べ、酸化物やスラッジ等の粒子状の物質が大量に発生する上、ステンレスの主な成分である鉄を侵食する錫の含有率が高い。また作業温度も高くなり、更に侵食速度を増大させ易くなっている。これらの要因によって浸漬はんだ槽の侵食が非常に激しくなり、寿命が短くなっている。 【0009】従って、コテ先や浸漬はんだ槽の寿命を延ばすため、融点(液相線温度)の上昇を抑制しつつ、ステンレス鋼、鉄、及び鉄系合金への侵食作用を抑制することが強く望まれていた。しかし鉛フリーはんだとして、その課題を解決できる最適成分範囲は従来見出されていなかった。 【0010】本発明は、かかる事情に鑑み、融点(液相線温度)の上昇を抑制しつつ、ステンレス鋼、鉄、及び鉄系合金への侵食作用を抑制することにより、マニュアルソルダリングにおけるハンダゴテのコテ先やフローソルダリングにおける浸漬はんだ槽の寿命を効果的に延ばすことができる鉛フリーはんだを提供するとともに、その鉛フリーはんだを用いることによって地球環境を悪化させる鉛の溶出を防止しつつ、コストを低減することができる電子部品を提供することを目的とする。 (3ウ)【0022】更に、上記各請求項に係るSn-Ag-Cu-Bi系の鉛フリーはんだでは、Bi(ビスマス)により更に機械的強度を向上させ、融点を低下させることができる。Biの含有率は、0.1質量%未満では機械的強度向上や融点低下の効果が少なく、5質量%を超えるとはんだ合金内でBi粒子の粗大化が発生し易くなるので、0.1~5質量%、より好ましくは、0.2~3質量%とするのが望ましい。 (3エ)【0026】本発明のマニュアルソルダリング用またはフローソルダリング用鉛フリーはんだは、Snを主成分とし、Fe0.01~1質量%、Ni0.01~1質量%、Co0.05~0.6質量%のうち、少なくともCoを含み、かつFe、Ni、Coの合計が1質量%以下であるので、融点(液相線温度)の上昇を抑制しつつ、ステンレス鋼、鉄、及び鉄系合金への侵食作用を抑制し、マニュアルソルダリングにおけるハンダゴテのコテ先やフローソルダリングにおける浸漬はんだ槽の寿命を効果的に延ばすことができる。 【0027】また、Snを主成分とし、Fe0.01~1質量%、Ni0.01~1質量%、Co0.05~0.6質量%のうち、少なくともNiとCoとを含み、かつFe、Ni、Coの合計が1質量%以下であるようにした場合や、Snを主成分とし、Fe0.01~1質量%、Ni0.01~1質量%及びCo0.05~0.6質量%を含み、かつFe、Ni、Coの合計が1質量%以下であるようにした場合も同様の効果を得ることができる。 【0028】そして、このマニュアルソルダリング用またはフローソルダリング用鉛フリーはんだを用いて電子部材をプリント基板に接合した電子部品は、地球環境を悪化させる鉛の溶出を防止しつつ、コストを低減することができる。 (3オ)【0044】表1は、本試験で評価した28種類のはんだ試料5の成分表(フラックス成分及び不可避不純物を除く)である。 【0045】【表1】 (4)当審で発見した証拠(以下、「甲第4号証」という。) Ag-Sn合金の状態図を以下に示す。 (二元合金状態図集、長崎誠三ら、株式会社アグネ技術センター、2013年(平成25年)5月30日、2版第6刷、17頁) 3.合金についての新規性、進歩性の審理の考え方について 一般に、合金については、所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとして技術的意義を有するのであって、所与の特性が得られる組合せについては、実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮して初めて理解できるという技術常識があると認められる。 この点について必要なら例えば次の裁判例を参照されたい。 ○平成29年(行ケ)第10121号(判決書47~48頁) ○平成23年(行ケ)第10100号(判決書28~29頁) ○平成24年(行ケ)第10151号(判決書16頁) すなわち、配合量も含めた個々の合金元素の具体的な組み合わせである合金組成あるいは製造方法が異なれば、製造された合金は、金属組織が異なり性質が異なるものとなり、単に合金組成のみが同じであったり、あるいは、製造方法のみが同じであっても製造される合金は、同一の合金にならない。 したがって、引用文献の特許請求の範囲の記載だけをもって、特許請求の範囲の配合量も含めた個々の合金元素を、当該配合量の範囲内で任意に組み合わせたものが全て同一の技術的意義を有する発明を構成していると理解することはできず、引用文献に記載された発明の認定に際して、引用文献の発明の詳細な説明における配合量も含めた個々の合金元素の具体的な組み合わせである合金組成を参酌して理解することが必要で、多くの場合、実際に作製された具体的な合金組成である実施例に照らして理解することが必要である。 以下、本件訂正請求により訂正された後の請求項12、14に係る発明(上記「第3」で定義した「本件発明12」、「本件発明14」)に関して、新規性、進歩性について上記の考え方に則して検討する。 4.申立理由1-1について (1)申立理由1-1の概要 申立理由1-1は、本件発明12は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである、とするものである。 (2)甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証の記載事項(1ア)(1イ)(1エ)から、甲第1号証には、「高温度と低温度との差が非常に大きい厳しいヒートサイクル環境」や「固相線温度が170℃以上」である環境下で使用できる「車載用鉛フリーはんだ」の合金が記載されている。 イ ここで、上記「3.合金についての新規性、進歩性の審理の考え方について」に則して、甲第1号証の記載事項(1カ)(1キ)より、甲第1号証に記載の「車載用鉛フリーはんだ」の実施例に着目し、本件発明12の成分組成に近いものとして、(1カ)から表1の「実施例14」「実施例15」、(1キ)から表2の「実施例7」「実施例8」を挙げることができる。(注:表1と表2で符号が同じでも異なる合金であることに注意のこと。) ウ 表1の「実施例14」と表2の「実施例7」は「Ni」含有量が共に「0.03質量%」であり、本件発明12の「Ni」含有量「0.05~0.3重量%」と異なるのでこれらを除外して、表1の「実施例15」と表2の「実施例8」をみると、これらは「Cu」含有量が若干異なるのみで他の成分の含有量は同じだから等価の合金と考えられるので、表1の「実施例15」に着目する。 エ 甲第1号証には、表1の「実施例15」から、 「Ag:3質量%、Bi:3質量%、Cu:1質量%、Co:0.01質量%、残部 錫からなる車載用鉛フリーはんだ合金。」の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。 (3)本件発明12と引用発明Aとの対比 ア 引用発明Aの「Ag:3質量%、Bi:3質量%、Cu:1質量%、Co:0.01質量%、残部 錫」は、本件発明12の「(a)3~4.5重量%の銀と、(b)3~4.5重量%のビスマスと、(c)0.4~1重量%の銅と、(e)0.01~0.1重量%のコバルトと、残部 錫」と、「(a)3重量%の銀と、(b)3重量%のビスマスと、(c)1重量%の銅と、(e)0.01重量%のコバルトと、残部 錫」の点で一致する。 イ 引用発明Aは「不可避的不純物」について特定しないが、引用発明Aの「車載用鉛フリーはんだ合金」が「不可避的不純物」を含むのは技術常識であり、この点で本件発明12と差異はない。 ウ 引用発明Aの「車載用鉛フリーはんだ合金」は、「アンチモン」を含まず、甲第1号証の記載事項(1ア)から、「Sn-3Ag-0.5Cuの鉛フリーはんだ」では用いることのできない「固相線温度が170℃以上である」ものであるのに対して、本件発明12は、「改善された高温信頼性を示し、通常は少なくとも150℃の動作温度に耐えることができ」「従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比較して、改善された機械的特性および高温での耐クリープ性を示す。」(【0014】)ものであるので、両者は、共に「従来のSnAg3.0Cu0.5合金」と比較して「少なくとも150℃」の高温度下で用いることができるという特性を有するといえるから、本件発明12の「鉛フリーかつアンチモンフリー」の「はんだ合金」は、引用発明Aの「車載用鉛フリーはんだ合金」を包含するものといえる。 エ 以上から、本件発明12と引用発明Aとは、 「鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、 (a)3重量%の銀と、 (b)3重量%のビスマスと、 (c)1重量%の銅と、 (e)0.01重量%のコバルトと、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金。」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点>「ニッケル」の含有量について、本件発明12では「(d)0.05~0.3重量%」のニッケルを含有するのに対して、引用発明Aではニッケル含有量が不明な点。 (4)相違点の検討 ア 甲第1号証の記載事項(1ウ)(1オ)によれば、甲第1号証には、「Ni、Fe、Coの少なくとも1種を合計で0.005~0.05質量%さらに含有」することで、「ヒートサイクル試験を1500サイクル行っても、信頼性を充分に発揮できると同時に、はんだ鏝を使用した場合にその鏝先の寿命を向上できる」こと、「はんだ自体の機械的強度、Cu食われの抑制などの特性を向上させる」ことができるが、「合計で0.05質量%よりも多くなると液相線温度が240℃を越えてしまう」ことが記載されている。 イ しかし、甲第1号証には、「Ni、Fe、Co」から「Ni、Co」のみを選択し、Ni含有量を0.05~0.3質量%、Coを0.01~0.1質量%とすることまでは記載されているものではない。 ウ さらに、引用発明AのCo含有量は0.01質量%であるから、「Ni、Fe、Coの少なくとも1種を合計で0.005~0.05質量%」から、「Fe」を除外して「Ni、Co」を選択できたとしても、Niは最大で0.04質量%(=0.05-0.01)しか含有されず、本件発明12の「(d)0.05~0.3重量%のニッケル」にはならない。 エ したがって、上記相違点は実質的な相違点であり、また、引用発明Aに基いて当該相違点に係る本件発明12の「(d)0.05~0.3重量%のニッケル」に容易に想到し得るともいえない。 (5)甲第1号証の請求項に記載された発明に基づく検討 ア 本件明細書【0014】には「本明細書に記載の合金は、改善された高温信頼性を示し、通常は少なくとも150℃の動作温度に耐えることができる。合金は、従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比較して、改善された機械的特性および高温での耐クリープ性を示す。」と記載されている。 一方、上記「(2)ア」の検討から、甲第1号証には、「高温度と低温度との差が非常に大きい厳しいヒートサイクル環境」や「固相線温度が170℃以上」である環境下で使用できることを解決すべきことを課題とする「車載用鉛フリーはんだ」の合金が記載されているといえる。 したがって、本件発明12の「はんだ合金」と甲第1号証に記載の「車載用鉛フリーはんだ」の合金とは、解決すべき課題と奏される作用効果の点で共通するものといえる。 そこで、上記「3.」でみたように、一般的には、引用文献の特許請求の範囲の記載だけをもって、特許請求の範囲の配合量も含めた個々の合金元素を、当該配合量の範囲内で任意に組み合わせたものが全て同一の技術的意義を有する発明を構成していると理解することはできないものの、予備的に、当該理解が可能であるとして、甲第1号証の特許請求の範囲の記載から本件発明12の容易想到性について検討してみる。 イ 甲第1号証の記載事項(1イ)から、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項5に係る発明を、独立形式で記載すれば、甲第1号証には、 「Ag:3~3.4質量%、Bi:2.5~5質量%、Cu:0.9~1.1質量%、残部Snからなり、Snの一部に代えて、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005~0.05質量%含有する、車載用鉛フリーはんだ。」の発明が記載されている。 したがって、甲第1号証には 「Ag:3~3.4質量%、Bi:2.5~5質量%、Cu:0.9~1.1質量%、残部Snからなり、Snの一部に代えて、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005~0.05質量%含有する、車載用鉛フリーはんだ合金。」の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。 ウ 本件発明12と引用発明Bとを対比する。 ウ(ア)引用発明Bの「Ag:3~3.4質量%、Bi:2.5~5質量%、Cu:0.9~1.1質量%、残部Snからな」ることは、本件発明12の 「(a)3~4.5重量%の銀と、(b)3~4.5重量%のビスマスと、(c)0.4~1重量%の銅と、」「残部 錫」と、「(a)3~3.4重量%の銀と、(b)3~4.5重量%のビスマスと、(c)0.9~1重量%の銅と、」「残部 錫」の点で一致する。 ウ(イ)引用発明Bは「不可避的不純物」について特定しないが、引用発明Bの「車載用鉛フリーはんだ合金」が「不可避的不純物」を含むのは技術常識であり、この点で本件発明12と差異はない。 ウ(ウ)引用発明Bの「車載用鉛フリーはんだ合金」は、「アンチモン」を含まず、甲第1号証の記載事項(1ア)から、「Sn-3Ag-0.5Cuの鉛フリーはんだ」では用いることのできない「固相線温度が170℃以上である」ものであるのに対して、本件発明12は、「改善された高温信頼性を示し、通常は少なくとも150℃の動作温度に耐えることができ」「従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比較して、改善された機械的特性および高温での耐クリープ性を示す。」(【0014】)ものであるので、両者は、共に「従来のSnAg3.0Cu0.5合金」と比較して「少なくとも150℃」の高温度下で用いることができるという特性を有するといえるから、本件発明12の「鉛フリーかつアンチモンフリー」の「はんだ合金」は、引用発明Aの「車載用鉛フリーはんだ合金」を包含するものといえる。 ウ(エ)以上から、本件発明12と引用発明Bとは、 「(a)3~3.4重量%の銀と、 (b)3~4.5重量%のビスマスと、 (c)0.9~1重量%の銅と、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点>本件発明12が「(d)0.05~0.3重量%のニッケルと、(e)0.01~0.1重量%のコバルトと」を含有するのに対して、引用発明Bは「Snの一部に代えて、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005~0.05質量%含有する」点。 エ 相違点について検討する。 本件発明12では、ニッケル及びコバルトの含有量の下限は、それぞれ、0.05重量%及び0.01重量%であるから、両者の合計量の下限は0.06重量%となる。 他方、甲第1号証の記載事項(1イ)の特許請求の範囲[5]((1ウ)、(1オ)にも同様の記載あり)の「Snの一部に代えて、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005~0.05質量%含有する」という記載に基いて、「Ni、FeおよびCo」から「NiおよびCo」のみを選択することが可能であったとしても、両者の合計量の上限は「0.05質量%」にとどまり、本件発明12の下限の「0.06重量%」には達しないから、甲第1号証には、Niを0.05重量%以上、かつ、Coを0.01重量%以上を含有することは記載されていない。 また、引用発明Bにおいて、ニッケルを0.05~0.3重量%含有させ、かつ、コバルトを0.01~0.1重量%含有させるようにすることの合理的な動機付けもみいだせない。 オ したがって、上記相違点は実質的な相違点であり、また、引用発明Bに基いて当該相違点に係る少なくとも本件発明12の「(d)0.05~0.3重量%のニッケル」に容易に想到し得るともいえない。 (6)申立理由1-1についての結言 よって、本件発明12は、甲第1号証に記載されたものでないので、特許法第29条第1項第3号に該当しないから特許を受けることができないものでなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでないから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。 したがって、申立理由1-1は採用できない。 5.申立理由1-2について (1)申立理由1-2の概要 申立理由1-2は、本件発明12は、甲第3号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである、とするものである。 (2)甲第3号証に記載された発明 ア 甲第3号証の記載事項(3ア)(3イ)(3エ)から、甲第3号証には、「融点(液相線温度)の上昇を抑制」して「ステンレス鋼、鉄、及び鉄系合金への侵食作用を抑制」することにより、「マニュアルソルダリングにおけるハンダゴテのコテ先」や「フローソルダリングにおける浸漬はんだ槽」の寿命を延ばすことができる「鉛フリーはんだ」の合金が記載されている。 イ ここで、上記「3.合金についての新規性、進歩性の審理の考え方について」に則して、甲第3号証の記載事項(3オ)の表1より、甲第3号証に記載の「鉛フリーはんだ」合金の実施例に着目し、本件発明12の成分組成に近いものとして、「試料No.42」を挙げることができる。 ウ 甲第3号証には、同(3ア)の記載及び同(3オ)の表1の「試料No.42」から、 「Ag3.5質量%と、Cu0.75質量%と、Bi1質量%と、Ni0.1質量%と、Co0.2質量%、残部Sn及び不可避不純物とからなるマニュアルソルダリング用またはフローソルダリング用鉛フリーはんだ合金。」の発明(以下、「引用発明C」という。)が記載されていると認められる。 (3)本件発明12と引用発明Cとの対比 ア 引用発明Cの「Ag3.5質量%と、Cu0.75質量%と、Ni0.1質量%と、残部Sn及び不可避不純物とからなる」は、本件発明12の「(a)3~4.5重量%の銀と、(c)0.4~1重量%の銅と、(d)0.05~0.3重量%のニッケルと、残部 錫および不可避的不純物」と、「(a)3.5重量%の銀と、(c)0.75重量%の銅と、(d)0.1重量%のニッケルと、残部 錫および不可避的不純物」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1>ビスマスの含有量について、本件発明12では「(b)3~4.5重量%」であるのに対して、引用発明Cでは「1質量%」である点。 <相違点2>コバルトの含有量について、本件発明12では「(e)0.01~0.1重量%」であるのに対して、引用発明Cでは「0.2質量%」である点。 (4)相違点の検討 事案に鑑み相違点1について検討する。 ア 本件発明12の「はんだ合金」は、当該成分組成を採用することで、上記「4.(5)」から、「改善された高温信頼性を示し、通常は少なくとも150℃の動作温度に耐えること」ができ、「従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比較して、改善された機械的特性および高温での耐クリープ性」を得るという課題を解決するものといえる。 イ 一方、上記(2)の検討から、引用発明Cの「鉛フリーはんだ」の合金は、上記の成分組成を採用することで、「融点(液相線温度)の上昇を抑制」して「ステンレス鋼、鉄、及び鉄系合金への侵食作用を抑制」することにより、「マニュアルソルダリングにおけるハンダゴテのコテ先」や「フローソルダリングにおける浸漬はんだ槽」の寿命を延ばすという課題を解決するものといえる。 ウ ここで、甲第3号証の記載事項(3ウ)には「Biの含有率は、0.1質量%未満では機械的強度向上や融点低下の効果が少なく、5質量%を超えるとはんだ合金内でBi粒子の粗大化が発生し易くなるので、0.1~5質量%、より好ましくは、0.2~3質量%とするのが望ましい。」と記載されている。 エ そして、引用発明Cにおいては、すでにBiの含有率は「1質量%」であり、より好ましいとされる「0.2~3質量%」の範囲にあるから、「機械的強度向上や融点低下」「Bi粒子の粗大化」の防止という効果を既に奏しており、甲第3号証には「3~4.5質量%」の範囲でBiの含有量をさらに増やせば、それらの効果も増大する旨の点は記載がなく、当該点が技術常識であるともいえないから、引用発明CにおいてBiの含有率を「1質量%」から「3~4.5重量%」に増加させることの動機付けは認められない。 オ また、引用発明CにおいてBiの含有率を「1質量%」から「3~4.5重量%」に増加すると、それは「0.1~5質量%」の範囲であるから、「機械的強度向上や融点低下」「Bi粒子の粗大化」の防止という効果を奏し、結果として「マニュアルソルダリングにおけるハンダゴテのコテ先」や「フローソルダリングにおける浸漬はんだ槽」の寿命を延ばすという課題を解決できるものではあるが、「少なくとも150℃の動作温度に耐え」て「改善された機械的特性および高温での耐クリープ性」を実現するという本件発明12の効果を奏することは、予測できるものではないといえる。 そのため、引用発明CにおいてBiの含有率を「1質量%」から「3~4.5重量%」に増加することは、効果の予測性に欠け、当業者が容易に成し得ることとはいえない。 (5)申立理由1-2についての結言 よって、本件発明12は、甲第3号証に記載されたものでないので、特許法第29条第1項第3号に該当しないから特許を受けることができないものでなく、また、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでないから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。 したがって、申立理由1-2は採用できない。 6.申立理由1-3について (1)申立理由1-3の概要 申立理由1-3は、本件発明14は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、同発明に係る特許は取り消されるべきものである、とするものである。 (2)甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証の記載事項(1ア)(1イ)(1ウ)(1エ)から、甲第1号証には、「高温度と低温度との差が非常に大きい厳しいヒートサイクル環境」や「固相線温度が170℃以上」である環境下で使用でき、「ヒートサイクル試験を1500サイクル行っても、信頼性を充分に発揮できる」「車載用鉛フリーはんだ」の合金が記載されている。 イ ここで、上記「3.合金についての新規性、進歩性の審理の考え方について」に則して、甲第1号証の記載事項(1カ)(1キ)より、甲第1号証に記載の「車載用鉛フリーはんだ」の実施例に着目し、本件発明14の成分組成に近いものとして、(1カ)から表1の「実施例20」、(1キ)から表2の「実施例12」を挙げることができる。(注:表1と表2で符号が同じでも異なる合金であることに注意のこと。) ウ 表1の「実施例20」と表2の「実施例12」は、「Cu」含有量が若干異なるのみで他の成分の含有量は同じだから等価の合金と考えられるので、表1の「実施例20」に着目する。 エ 甲第1号証には、表1の「実施例20」から、 「Ag:3質量%、Bi:3質量%、Cu:1質量%、Ge:0.005質量%、残部 錫からなる車載用鉛フリーはんだ合金。」の発明(以下、「引用発明D」という。)が記載されていると認められる。 (3)本件発明14と引用発明Dとの対比 ア 引用発明Dの「Ag:3質量%、Bi:3質量%、Cu:1質量%、Ge:0.005質量%、残部 錫」は、本件発明14の「(a)3~4.5重量%の銀と、(b)2.7~4重量%のビスマスと、(c)0.4~1重量%の銅と、(e)0.005~0.01重量%のゲルマニウムと、残部 錫」と、「(a)3重量%の銀と、(b)3重量%のビスマスと、(c)1重量%の銅と、(e)0.005重量%のゲルマニウムと、残部 錫」の点で一致する。 イ 引用発明Dは「不可避的不純物」について特定しないが、引用発明Dの「車載用鉛フリーはんだ合金」が「不可避的不純物」を含むのは技術常識であり、この点で本件発明14と差異はない。 ウ 引用発明Dの「車載用鉛フリーはんだ合金」は、「アンチモン」を含まず、甲第1号証の記載事項(1ア)から、「Sn-3Ag-0.5Cuの鉛フリーはんだ」では用いることのできない「固相線温度が170℃以上である」ものであるのに対して、本件発明14は、「改善された高温信頼性を示し、通常は少なくとも150℃の動作温度に耐えることができ」「従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比較して、改善された機械的特性および高温での耐クリープ性を示す。」(【0014】)ものであるので、両者は、共に「従来のSnAg3.0Cu0.5合金」と比較して「少なくとも150℃」の高温度下で用いることができるという特性を有するといえるから、本件発明14の「鉛フリーかつアンチモンフリー」の「はんだ合金」は、引用発明Aの「車載用鉛フリーはんだ合金」を包含するものといえる。 エ 以上から、本件発明14と引用発明Dとは、 「鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、 (a)3重量%の銀と、 (b)3重量%のビスマスと、 (c)1重量%の銅と、 (e)0.005重量%のゲルマニウムと、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金。」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点>「ニッケル」の含有量について、本件発明14では「(d)0.05~0.3重量%」のニッケルを含有するのに対して、引用発明Dではニッケル含有量が不明な点。 (4)相違点の検討 ア 甲第1号証の記載事項(1ウ)(1オ)によれば、甲第1号証には、「Ni、Fe、Coの少なくとも1種を合計で0.005~0.05質量%さらに含有」することで、「ヒートサイクル試験を1500サイクル行っても、信頼性を充分に発揮できると同時に、はんだ鏝を使用した場合にその鏝先の寿命を向上できる」こと、また、「P、Ge、Gaの少なくとも1種を合計で0.0002~0.02質量%含有」することで、「ヒートサイクル試験を1500サイクル行っても、信頼性を充分に発揮できると同時に、はんだ付け後の高温環境ではんだ表面の変色を防止できる」ことが記載されている。 イ そして同(1イ)で請求項1、2、5の順で引用する請求項7には、「Snの一部に代えて、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005~0.05質量%含有」し、かつ、「Snの一部に代えて、P、GeおよびGaからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で、0.0002~0.02質量%含有」することが記載されている。 ウ そこで、本件発明14と引用発明Dが同一発明であるか、本件発明14が引用発明Dに基づいて容易に発明することができるといえるためには、引用発明Dにおいて、「Ni、FeおよびCo」から「Ni」を選択し、かつ、その含有量を「0.005~0.05質量%」の内の「0.05~0.3重量%」すなわち「0.05質量%」のみを選択することが為されなければならない。 しかしながら、そのような選択を為す合理的な動機付けは見いだせない。 エ したがって、上記相違点は実質的な相違点であり、また、引用発明Dに基いて当該相違点に係る本件発明14の「(d)0.05~0.3重量%のニッケル」に容易に想到し得るともいえない。 (5)甲第1号証の請求項に記載された発明に基づく検討 ア 本件明細書【0014】には「本明細書に記載の合金は、改善された高温信頼性を示し、通常は少なくとも150℃の動作温度に耐えることができる。合金は、従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比較して、改善された機械的特性および高温での耐クリープ性を示す。」と記載されている。 一方、上記「(2)ア」の検討から、甲第1号証には、「高温度と低温度との差が非常に大きい厳しいヒートサイクル環境」や「固相線温度が170℃以上」である環境下で使用できることを解決すべきことを課題とする「車載用鉛フリーはんだ」の合金が記載されているといえる。 したがって、本件発明14の「はんだ合金」と甲第1号証に記載の「車載用鉛フリーはんだ」の合金とは、解決すべき課題と奏される作用効果の点で共通するものといえる。 そこで、上記「3.」でみたように、一般的には、引用文献の特許請求の範囲の記載だけをもって、特許請求の範囲の配合量も含めた個々の合金元素を、当該配合量の範囲内で任意に組み合わせたものが全て同一の技術的意義を有する発明を構成していると理解することはできないものの、予備的に、当該理解が可能であるとして、甲第1号証の特許請求の範囲の記載から本件発明14の容易想到性について検討してみる。 イ 甲第1号証の記載事項(1イ)から、「車載用鉛フリーはんだ」は実質的に「車載用鉛フリーはんだ合金」であることを踏まえ、請求項1、2、5を順に引用する請求項7に係る発明を、独立形式で記載すれば、甲第1号証には、 「Ag:3~3.4質量%、Bi:2.5~5質量%、Cu:0.9~1.1質量%、残部Snからなり、Snの一部に代えて、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005~0.05質量%含有し、Snの一部に代えて、P、GeおよびGaからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で、0.0002~0.02質量%含有する、車載用鉛フリーはんだ合金。」(以下、「引用発明E」という。)が記載されていると認められる。 ウ 本件発明14と引用発明Eとを対比する。 ウ(ア)引用発明Eの 「Ag:3~3.4質量%、Bi:2.5~5質量%、Cu:0.9~1.1質量%、残部Snからな」ることは、本件発明14の「(a)3~4.5重量%の銀と、(b)2.7~4重量%のビスマスと、(c)0.4~1重量%の銅と、」「残部 錫」と、「(a)3~3.4重量%の銀と、(b)2.7~4重量%のビスマスと、(c)0.9~1重量%の銅と、」「残部 錫」の点で一致する。 ウ(イ)引用発明Eは「不可避的不純物」について特定しないが、引用発明Eの「車載用鉛フリーはんだ合金」が「不可避的不純物」を含むのは技術常識であり、この点で本件発明14と差異はない。 ウ(ウ)引用発明Eの「車載用鉛フリーはんだ合金」は、「アンチモン」を含まず、甲第1号証の記載事項(1ア)から、「Sn-3Ag-0.5Cuの鉛フリーはんだ」では用いることのできない「固相線温度が170℃以上である」ものであるのに対して、本件発明14は、「改善された高温信頼性を示し、通常は少なくとも150℃の動作温度に耐えることができ」「従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比較して、改善された機械的特性および高温での耐クリープ性を示す。」(【0014】)ものであるので、両者は、共に「従来のSnAg3.0Cu0.5合金」と比較して「少なくとも150℃」の高温度下で用いることができるという特性を有するといえるから、本件発明14の「鉛フリーかつアンチモンフリー」の「はんだ合金」は、引用発明Eの「車載用鉛フリーはんだ合金」を包含するものといえる。 ウ(エ)以上から、本件発明14と引用発明Eとは、 「(a)3~3.4重量%の銀と、 (b)2.7~4重量%のビスマスと、 (c)0.9~1重量%の銅と、 残部 錫および不可避的不純物と からなるはんだ合金」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点>本件発明14が「(d)0.05~0.3重量%のニッケルと、(e)0.005~0.01重量%のゲルマニウム」を含有するのに対して、引用発明Eは「Snの一部に代えて、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005~0.05質量%含有し、Snの一部に代えて、P、GeおよびGaからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で、0.0002~0.02質量%含有する」点。 エ 相違点について検討する。 本件発明14と引用発明Eが同一発明であるか、本件発明14が引用発明Eに基づいて容易に発明することができるといえるためには、引用発明Eにおいて、 a)「Ni、FeおよびCo」から「Ni」を選択し、かつ、その含有量を「0.005~0.05質量%」の内の「0.05~0.3重量%」すなわち「0.05質量%」のみを選択すること、 b)「P、GeおよびGa」から「Ge」を選択し、かつ、その含有量を「0.0002~0.02質量%」の内の「0.005~0.01重量%」を選択すること、が同時に為されなければならない。 しかしながら、そのような選択を為す合理的な動機付けは見いだせない。 オ したがって、上記相違点は実質的な相違点であり、また、引用発明Eに基いて当該相違点に係る本件発明14の「(d)0.05~0.3重量%のニッケルと、(e)0.005~0.01重量%のゲルマニウム」に容易に想到し得るともいえない。 (6)申立理由1-3についての結言 よって、本件発明14は、甲第1号証に記載されたものでないので、特許法第29条第1項第3号に該当しないから特許を受けることができないものでなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでないから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。 したがって、申立理由1-3は採用できない。 7.申立理由1-4について (1)申立理由1-4の概要 申立理由1-4は、本件発明14は、甲第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである、とするものである。 (2)甲第2号証に記載された発明 ア 甲第2号証の記載事項(2ア)~(2ウ)、(2ケ)から、甲第2号証には、「Sn-Ag合金の共晶点221℃よりも溶融点が低く且つぬれ性が良好で接合性、耐熱性についても優れる鉛フリーの新規なSn-Bi系」の「はんだ合金」が記載されている。 イ ここで、上記「3.合金についての新規性、進歩性の審理の考え方について」に則して、甲第2号証の記載事項(2ク)より、甲第2号証に記載の「はんだ合金」の実施例に着目し、本件発明14の成分組成に近いものとして、「Ge」「Ni」を含有する表1の上から5番目(以下、「実施例5」という。)、11番目(以下、「実施例11」という。)、15番目(以下、「実施例15」という。)を挙げることができるが、いずれも「Ag」「Bi」の含有量が本件発明14と相違し、「Ag」の含有量はいずれも同じなので、「Bi」の含有量が本件発明14に最も近い実施例5に着目する。 ウ 甲第2号証には、同(2ア)(2エ)と同(2ク)の【表1】の実施例5から、 「スズを主成分とし、ビスマスを2wt%、銀を2wt%、銅を0.5wt%、ニッケルを0.1wt%、ゲルマニウムを0.05wt%含有する、はんだ合金。」の発明(以下、「引用発明F」という。)が記載されていると認められる。 (3)本件発明14と引用発明Fとの対比 ア 引用発明Fの「銅を0.5wt%」「ニッケルを0.1wt%」を含有し「スズを主成分」とすることと、本件発明14の「(c)0.4~1重量%の銅と、(d)0.05~0.3重量%のニッケル」を含み「残部 錫」とは、「(c)0.5重量%の銅と、(d)0.1重量%のニッケルと、残部 錫」を含有する点で一致する。 イ 引用発明Fは「不可避的不純物」について特定しないが、引用発明Fの「はんだ合金」が「不可避的不純物」を含むのは技術常識であり、この点で本件発明14と差異はない。 ウ 甲第2号証の記載事項(2イ)には「この発明は主に電子機器の金属接合において便用されるはんだ合金に係り、特に鉛を含有しないで公害がなく環境に優しいはんだ合金に関する」と記載され、「アンチモン」についてはそもそも言及がないから、引用発明Fの「はんだ合金」は、「鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金」といえる。 エ すると、本件発明14と引用発明Fとは、 「鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、(c)0.5重量%の銅と、(d)0.1重量%のニッケルと、残部 錫および不可避的不純物とからなる、はんだ合金」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点>本件発明14は「(a)3~4.5重量%の銀と、(b)2.7~4重量%のビスマスと、(e)0.005~0.01重量%のゲルマニウム」を含有するのに対して、引用発明Fは「ビスマスを2wt%、銀を2wt%、ゲルマニウムを0.05wt%含有する」点。 (4)相違点の検討 ア 銀の含有量について、銀を「2wt%」含有する引用発明Fにおいて、銀の含有量を増加させて、「3~4.5重量%」(本件発明14の銀の含有量)含有するようにできるかを検討する。 そこで、甲第2号証の記載事項(2オ)をみると、「SnにAgを添加すると合金の耐熱性、疲労強度、ぬれ性が向上する。Agは結晶粒界に高濃度に存在し、結晶粒界の移動を抑えるため合金の熱疲労強度が向上する。Sn-Ag合金は、Ag添加量が3.5wt%のときに共晶点221℃を有するので、 Agの添加量が3.5wt%を越えると液相温度が高くなり、 接合温度をぬれ性確保のためにも高くする必要がある。またAg添加量が3.5wt%を越えても強度的にはほぼ同レベルである。従ってAg添加量の適切な量は4wt%以下である。」と記載され、これは上記「2.(4)」のAg-Sn二元系状態図によっておおよそ裏付けられるものといえる。 しかしながら、上記で説明されるのはSn-Agの二元合金であり、引用発明Fは「スズ」「ビスマス」「銀」「銅」「ニッケル」「ゲルマニウム」を含む六元合金であり、あまつさえ「不可避的不純物」までも含む合金であるから、その状態図はSn-Agの二元合金の状態図で説明できるものではなく、同六元合金においても「Ag添加量の適切な量は4wt%以下である」とはいえない。 また、同(2ク)に示される実験例をみても、銀は2wt%以外の値で実験されておらず、引用発明Fにおいて銀が2wt%を外れた場合の挙動は不明といえる。 したがって、引用発明Fにおいて「2wt%」の銀の含有量を「3~4.5重量%」にすることに何らの動機付けもなく、またそのように銀を増量することで「Sn-Ag合金の共晶点221℃よりも溶融点が低く且つぬれ性が良好で接合性、耐熱性についても優れる」ようになるかは定かでない。 イ ビスマスの含有量について、ビスマスを「2wt%」含有する引用発明Fにおいて、ビスマスの含有量を増加させて、「2.7~4重量%」(本件発明14のビスマスの含有量)含有するようにできるかを検討する。 そこで、甲第2号証の記載事項(2カ)をみると、「Biを添加すると、Snベース合金の溶融点が下がる。前述したようにSn-Bi系はBi添加量が58wt%の共晶組成のときに共晶点139℃を有する。Sn-Bi二元系の状態図が示すようにSn-Bi合金はBi添加量が21wt%以上の組成において温度139℃で溶融が始まる。Bi添加量が21wt%以下の組成範囲では、液相温度、固相温度ともに低下する。」と記載され、これは同(2コ)のSn-Bi二元系状態図によっておおよそ裏付けられるものといえる。 しかしながら、上記で説明されるのはSn-Biの二元合金であり、引用発明Fは「スズ」「ビスマス」「銀」「銅」「ニッケル」「ゲルマニウム」を含む六元合金であり、あまつさえ「不可避的不純物」までも含む合金であるから、その状態図は到底Sn-Agの二元合金の状態図で説明できるものではなく、同六元合金においても「Bi添加量が21wt%以下の組成範囲では、液相温度、固相温度ともに低下する」とはいえない。 また、同(2ク)に示される実験例をみても、Biは2wt%、7.5wt%、21wt%で変化させているが、「液相温度、固相温度」の記載は無く、引用発明Fにおけるビスマス含有量に対応した「液相温度、固相温度」の挙動は不明といえる。 したがって、引用発明Fにおいて「2wt%」のビスマスの含有量を「2.7~4重量%」にすることに何らの動機付けもなく、またそのようにビスマスを増量することで「Sn-Ag合金の共晶点221℃よりも溶融点が低く且つぬれ性が良好で接合性、耐熱性についても優れる」ようになるかは定かでない。 ウ ゲルマニウムの含有量について、ゲルマニウムを「0.05wt%」含有する引用発明Fにおいて、ゲルマニウムの含有量を減少させて、「0.005~0.01重量%」(本件発明14のゲルマニウムの含有量)含有するようにできるかを検討する。 そこで、甲第2号証の記載事項(2ケ)をみると、「第三の発明によればスズを主成分とし、 ビスマスを21wt% 以下、銀を4wt%以下、銅を2wt%以下、ニッケルを0.2wt%以下、ゲルマニウムを0.1wt%以下含有するので、Sn-Ag合金の共晶点221℃よりも溶融点が低く且つぬれ性が良好で接合性、さらに、耐熱性についても優れる鉛フリーの新規なSn-Bi系合金が得られる」と記載され、同(2キ)には「Geを添加すると、はんだ溶融時にSnに優先してGeの薄い酸化膜を形成し、Snなどのはんだ成分の酸化が抑制される。添加量が多過ぎるとGeによる酸化皮膜が厚くなりすぎて接合性に悪影響がでる」と記載されている。 したがって、ゲルマニウムの添加量は「はんだ溶融時にSnに優先してGeの薄い酸化膜を形成し、Snなどのはんだ成分の酸化が抑制」されるのに必要な量以上で、かつ、Geによる酸化皮膜が厚くなりすぎて接合性に悪影響がでないという効果を奏し得る0.1wt%以下含有させるものといえる。 すると、引用発明Fにおいては、すでにGeの含有率は「0.05wt%」あり、「0.1wt%以下」の範囲にあるから、上記の効果を既に奏しており、「0.005~0.01wt%」の範囲でGeの含有量を減らせば、それらの効果も増大する旨の点は記載がなく、当該点が技術常識であるともいえないから、引用発明Fにおいてゲルマニウムの含有率を「0.05wt%」から「0.005~0.01wt%」に減少させることの動機付けは認められない。 エ また、仮に、引用発明Fにおいて「ビスマスを2wt%、銀を2wt%、ゲルマニウムを0.05wt%含有する」点を「3~4.5重量%の銀と、2.7~4重量%のビスマスと、0.005~0.01重量%のゲルマニウムを含有する」ものとすることができるとしても、引用発明Fは上記(2)アから「Sn-Ag合金の共晶点221℃よりも溶融点が低く且つぬれ性が良好で接合性、耐熱性についても優れる鉛フリーの新規なSn-Bi系」の「はんだ合金」を得るという課題を解決できるものにすぎず、「少なくとも150℃の動作温度に耐え」て「改善された機械的特性および高温での耐クリープ性」を実現するという本件発明14の効果を奏するものではないから、引用発明Fの「はんだ合金」において、そのような効果を奏し得る本件発明14の「はんだ合金」の成分組成を予測できるものではないといえる。 (5)申立理由1-4について結言 よって、本件発明14は、甲第2号証に記載されたものでないので、特許法第29条第1項第3号に該当しないから特許を受けることができないものでなく、また、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでないから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。 したがって、申立理由1-4は採用できない。 8.申立理由2について (1)申立理由2の概要 本件発明12の実施例は、実施例6(【0064】)及び実施例13(【0071】)のわずか二つであり、本件発明14の実施例は、実施例8(【0066】)のわずか一つであり、本件発明12及び14の「はんだ合金」の全ての組成範囲がこれらにより裏付けられているものとは言えない。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に記載された内容を、本件発明12及び14の範囲にまで拡張ないし一般化できると当業者が認識できるものとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たしているものではないから、本件発明12及び14に係る特許は取り消されるべきものである。 申立人は令和1年9月20日付け意見書でも同様の主張をしている。 (2)当審の判断 ア 本件明細書【0008】~【0010】及び【0084】の記載から見て、本件発明は、「自動車」や「高出力電子機器およびエネルギー」のような「より高い温度、例えば150℃以上」のような環境下で「動作」できて、従来の「SnAg3.0Cu0.5合金」と「比べて改善された室温の機械的特性およびまたは高温の機械的特性」を有する「はんだ合金」を提供することを、解決すべき課題とするものということができる。 イ 同【0009】の記載から、従来のSnAg3.0Cu0.5合金の共晶温度は217℃程度、液相温度は219℃である。 また、同【0053】~【0071】の「○○○~△△△℃の溶融範囲」とあるのは、【表1】(【0073】)において、「固相温度」が下限の「○○○℃」と、「液相温度」が上限の「△△△℃」と一致するので、同【0030】~【0042】における「○○○~△△△℃の溶融範囲」との記載も、同様に、下限の「○○○℃」が「固相温度」で、上限の「△△△℃」が「液相温度」を示すものといえる。 ウ すると、同【0072】及び【表1】(【0073】)に記載されるとおり、合金A~M(請求項12に対応する合金F(実施例6)、M(実施例13)と、請求項14に対応する合金H(実施例8)を含む。)は、いずれも「固相温度は従来のSnAg3.0Cu0.5合金の共晶温度より低」く、「液相温度は大体同じである。」という性質を共通に有しており、同【0074】~【0084】及び【図5】~【図12】の記載に接した当業者は、上記性質に起因して、合金A~Mは「従来の合金であるSnAg3.0Cu0.5と比べて改善された室温の機械的特性およびまたは高温の機械的特性を示す。」(【0084】)ことを理解できる。 エ そして、同【0035】【0042】から、訂正後の本件発明12により特定される範囲の合金であれば、固相温度が209℃程度、液相温度が217℃程度であるといえるものであり、その実施例として同【0064】から合金Fについて固相温度が209.1℃、液相温度が216.1℃、同【0071】から合金Mについて固相温度が209℃、液相温度が217℃であることが確認できる。 オ また、同【0037】から、訂正後の本件発明14により特定される範囲の合金であれば、固相温度が208.2℃程度、液相温度が218.6℃程度であるといえるものであり、その実施例として同【0066】から合金Hについて固相温度が208.2℃、液相温度が218.6℃であることが確認できる。 カ したがって、合金F及びMに対応する訂正後の本件発明12(固相温度209℃、液相温度217℃)により特定される範囲の合金、及び、合金Hに対応する訂正後の本件発明14(固相温度208.2℃、液相温度218.6℃)により特定される範囲の合金についても、「固相温度は従来のSnAg3.0Cu0.5合金の共晶温度より低」く、「液相温度は大体同じである。」という性質を有するものであるから、当該性質に起因して、同様に「従来の合金であるSnAg3.0Cu0.5合金と比べて改善された室温の機械的特性およびまたは高温の機械的特性を示す。」こと、すなわち本件発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者は理解することができるといえる。 キ この点で申立人は、訂正後の本件発明12は実施例が二つしかなく、訂正後の本件発明14は実施例が一つしかないので、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に記載されたそれらの僅かな実施例の記載をもって、訂正後の請求項12、14に係る発明の範囲にまで拡張ないし一般化できると当業者が認識できるものとはいえず、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていないと主張する。 しかし、上記のように、訂正後の本件発明12及び14により特定される範囲の合金であれば、「固相温度は従来のSnAg3.0Cu0.5合金の共晶温度より低」く、「液相温度は大体同じである。」という性質を有するから、課題を解決できると当業者は認識するものといえるので、上記申立人の主張は採用できない。 ク したがって、訂正後の本件発明12及び14は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合し、同発明に係る特許は取り消されるべきものではない。 第7 むすび したがって、以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項12、14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項12、14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2019-700185

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