特許異議申立
2022-700128
地下構造物の構築方法
- 審判番号
- 2022-700128
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-180943
- 登録番号
- 6937205
- 請求日
- 2022年02月15日
- 審決日
- 2023年03月27日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大成建設株式会社
- 【権利者代理人】黒岩 久人
- 【異議申立人】末吉 直子
- 【異議申立人代理人】加藤 圭
- 審判長/審判官
- 審判長 前川 慎喜
- 審判官 有家 秀郎
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1651.851-YAA(E02D) / P1651.121-YAA(E02D) / P1651.537-YAA(E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6937205号発明「地下構造物の構築方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6937205号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第6937205号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6937205号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成29年9月21日に出願され、令和3年9月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和4年2月15日に、特許異議申立人 末吉 直子(以下、「申立人」という。)より特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし3に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
その後の経緯の概要は、次のとおりである。
令和4年5月20日付け: 取消理由通知書
(同年同月26日発送)
同年7月13日付け: 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年同月21日付け: 特許権者による手続補正書の提出
(同年同月13日付け訂正請求書について)
同年8月31日付け: 申立人による意見書の提出
同年11月7日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
(同年同月15日発送)
同年12月28日付け: 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年2月15日付け: 申立人による意見書の提出
なお、令和4年7月13日にされた訂正の請求は、同年12月28日に新たな訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
第2 訂正の適否
1 訂正請求の趣旨と訂正の内容
令和4年12月28日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許第6937205号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は以下の訂正事項1のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記先行構築躯体の上側の躯体を構築するとともに、前記掘削底面から下方に向かって複数階分の深さを掘削する第3工程と、
前記第2工程および前記第3工程を繰り返す第4工程と、を備えることを特徴とする地下構造物の構築方法。」
とあるのを、
「前記先行構築躯体の上側の躯体を構築するとともに、前記掘削底面から下方に向かって所定の掘削底面まで複数階分の深さを掘削する第3工程と、
前記第2工程および前記第3工程を繰り返す第4工程と、を備え、
前記第3工程における前記先行構築躯体の床躯体の上面から前記所定の掘削底面までの掘削深さは、下層に向かうに従って浅くなるとともに、前記第3工程における所定の掘削底面の高さ位置は、当該第3工程の次の第2工程で構築する先行構築躯体の床躯体の上面から下方に2m以内であることを特徴とする地下構造物の構築方法。」
と訂正する。
(請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2及び請求項3も、同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、訂正の単位、及び独立特許要件について
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明について、「第3工程」における「掘削」の「底面」までの「深さ」に関し、下層に向かうに従った変化、及び、次の第2工程で構築する先行構築躯体からの高さの範囲を特定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記(1)で説示したとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明について限定を行うものであり、発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)新規事項の有無について
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「1階床躯体21」を「第1先行構築躯体40」として、「地下2階床躯体17を構築できる掘削底面36」まで行う、「2次掘削」の「深さ」(段落【0026】-【0027】、【図6】)について
(ア)「2条件」の「第1」として、「地下2階床躯体17を容易に構築可能なこと」とし、「掘削底面36の高さ位置」は、「地下2階床躯体17上面から下方に2m以内とすることが望ましい」こと(段落【0022】)。
(イ)「2条件」の「第2」として、「山留め壁30の傾斜量を所定値以下に抑える」ように、「2次掘削の掘削底面36の1階床躯体21上面からの深さa」を「設定」すること(段落【0022】)。
(ウ)実際には、「2次掘削の掘削深さaを約14.8m」としたこと(段落【0024】)。
イ 「地下2階床躯体17」を「第2先行構築躯体41」として、「地下4階床躯体13を構築できる掘削底面37」まで掘削を行う、「3次掘削」の「深さ」(段落【0028】-【0029】、【図7】)について
(ア)「2次掘削」と「同様」の「2条件」の「第1」として、「地下4階床躯体13を容易に構築可能」なように、「掘削底面37」の高さ位置は、「地下4階床躯体13上面から下方に2m以内とすることが望ましい」こと(段落【0023】)。
(イ)「2次掘削」と「同様」の「2条件」の「第2」として、「山留め壁30の傾斜量を所定値以下に抑える」ように、「3次掘削の掘削底面37の地下2階床躯体17上面からの深さb」を「設定」すること(段落【0023】)。
(ウ)実際には、「3次掘削の掘削深さbを約10.0m」としたこと(段落【0024】)。
一般に下層に向かうに従って、「山留め壁」を「傾斜」させようとする土圧が増すことが技術常識であることを踏まえると 「第3工程」での「掘削深さ」に関し、訂正事項1により特定された、下層に向かうに従った変化、及び、次の第2工程で構築する先行構築躯体の床躯体の上面からの高さの範囲は、上記ア及びイより、いずれも、願書に添付した明細書等に記載されたすべての事項を総合することにより、導出される事項ということができる。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1ないし3について、特許異議の申立てがされているので、訂正事項1において、請求項1ないし3について、特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項1ないし3に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(5)訂正の単位について
本件訂正前の請求項1ないし3について、請求項2及び3は請求項1を直接又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1により、本件訂正前の請求項1ないし3に係る発明についてする本件訂正は、一群の請求項1ないし3に係る発明について、訂正をするものである。
(6)申立人の意見書における主張について
申立人は、令和5年2月15日付け意見書において、本件訂正の適否については特に主張を行っていない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は全て認められたので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、各々を「本件発明1」等といい、請求項1ないし3に係る発明をまとめて「本件発明」という。)は、令和4年12月28日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数階を有する地下構造物の構築方法であって、
山留め壁で囲まれた地盤を掘削する第1工程と、
掘削底面上に、所定階の床躯体および当該床躯体に連続する一部の地下外周壁を先行構築躯体として構築し、当該先行構築躯体を前記山留め壁に接合する第2工程と、
前記先行構築躯体の上側の躯体を構築するとともに、前記掘削底面から下方に向かって所定の掘削底面まで複数階分の深さを掘削する第3工程と、
前記第2工程および前記第3工程を繰り返す第4工程と、を備え、
前記第3工程における前記先行構築躯体の床躯体の上面から前記所定の掘削底面までの掘削深さは、下層に向かうに従って浅くなるとともに、
前記第3工程における所定の掘削底面の高さ位置は、当該第3工程の次の第2工程で構築する先行構築躯体の床躯体の上面から下方に2m以内であることを特徴とする地下構造物の構築方法。
【請求項2】
前記第2工程では、前記先行構築躯体として、前記地下構造物の少なくとも1階置きの床躯体を構築することを特徴とする請求項1に記載の地下構造物の構築方法。
【請求項3】
前記第3工程では、前記先行構築躯体の上に、型枠材の上方からコンクリートを打設する順打ち工法により第1地下躯体を構築し、その後、当該第1地下躯体の上に、型枠材の側面からコンクリートを圧入する圧入工法により第2地下躯体を構築することを特徴とする請求項1または2に記載の地下構造物の構築方法。」
第4 証拠方法、特許異議申立理由の概要、及び取消理由の概要
1 申立人による証拠方法
申立人が申立書に添付して提出した証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。
甲1: 特開2002-61213号公報
(平成14年2月28日公開)
甲2: 特開2011-252290号公報
(平成23年12月15日公開)
甲3: 特開2013-57218号公報
(平成25年3月28日公開)
甲4: 特開平9-328271号公報
(平成9年12月22日公開)
なお、申立人は令和4年8月31日付け意見書、及び令和5年2月15日付け意見書に添付して、以下の参考資料1ないし3を提出している。
参考資料1: 特開2003-239288号公報
(平成15年8月27日公開)
参考資料2: 特開平8-165661号公報
(平成8年6月25日公開)
参考資料3: 内藤龍夫ほか、「図解 逆打ち工法の計画と施工」、
株式会社彰国社(1998年3月10日発行)、
第61頁~第86頁
2 特許異議申立理由の概要
申立人が申立書において主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(甲1を主たる証拠とした進歩性の欠如)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲1に記載された発明、及び甲2ないし甲4に示される技術的事項又は周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
3 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
令和4年11月7日付け取消理由通知(決定の予告)において記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)明確性要件違反
令和4年7月13日付け訂正請求により訂正された本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、請求項1に記載される「前記第3工程における前記先行床躯体からの床付面までの掘削深さは、下層に向かうに従って浅くなる」との構成について、発明が明確でない。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されているから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)甲1を主たる証拠とした進歩性の欠如
令和4年7月13日付け訂正請求により訂正された本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲1に記載された発明、及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由1-明確性要件違反について
(1)明確性要件違反の取消理由1の具体的内容
令和4年11月7日付け取消理由通知(決定の予告)において記載した、明確性要件違反の取消理由の具体的内容は、令和4年7月13日付け訂正請求により訂正された本件特許の請求項1ないし3に係る発明について、請求項1に記載される「前記第3工程における前記先行床躯体からの床付面までの掘削深さは、下層に向かうに従って浅くなる」との構成は、次のいずれの事項を特定する趣旨であるのか明確でない、というものである。
ア 各「第3工程」における各「先行床躯体」から、明細書の段落【0020】に記載される「床付面まで」、すなわち、それ以上は掘削を行うことなく、その上に基礎躯体を構築する、最終的な掘削底面までの「掘削深さ」について、下層の「先行床躯体」を基点とするほど、浅くなることを特定する趣旨。
イ 各「第3工程」において、各「先行床躯体」から測定した、掘削を終了する各掘削底面までの各「掘削深さ」について、下層で行う第3工程ほど、浅くなることを特定する趣旨。
(2)本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明について
上記第1において、「手続の経緯」に付記したとおり、令和4年7月13日にされた訂正の請求は、同年12月28日に本件訂正請求がされたことにより、取り下げられたものとみなされる(特許法第120条の5第7項)。
また、上記第2に示したとおり、本件訂正は認められ、本件特許の請求項1ないし3に係る発明を特定する特許請求の範囲の記載は、上記第3に摘記したとおりに訂正された。
そして、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1の記載は、「第3工程」における「掘削深さ」について、「床付面まで」という語を用いていないから、先の取消理由通知(決定の予告)において指摘した上記(1)の点で、請求項1ないし3に係る発明が不明確となるものではない。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した、明確性要件違反の取消理由1によって、取り消されるべきものではない。
2 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由2、及び特許異議申立理由-甲1を主たる証拠とした進歩性の欠如について
(1)証拠について
ア 甲1
(ア)記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下、同様。)。
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の逆打ち工法は、建築物の地下構造体を上から下へと築造していく逆打ち工法であり、山留め壁内の掘削空間内に任意の階の床躯体を築造し、必要に応じてこの床の下に切梁を架設した後、下階の床を飛ばして任意の複数フロア分を一気に掘削し、該任意の複数フロア下の床を先行して築造し、次いで該任意の複数フロア下の床を境に、下部で掘削工事と躯体工事を、上部で上階の床躯体の立ち上がり工事を、並行して行うことを特徴とする。
【0008】例えば、図1に示すように、山留め壁内の上部を掘削し(1次掘削)、1階の床躯体を築造した後、必要に応じて2次掘削後に1階床の下に切梁(水平切梁支保工あるいは斜め切梁など)を架設し、地下1階を飛ばして地下2階の梁下まで一気に掘削し(3次掘削)、地下2階の床を先行して築造し、次いでこの地下2階の床を境に、下部で掘削工事(4次掘削)と地下3階以下の躯体工事を、上部で地下1階の床躯体の立ち上がり工事(地下1階の床と地下2階の外周壁)を、並行して行う。なお、図1では、1階の床躯体の築造から本発明の逆打ち工法を開始しているが、地下の任意の階から開始することも可能である。また、本発明の逆打ち工法を順次繰り返して地下構造体を築造することも可能である。
【0009】前記切梁(1段目)は、山留め壁の上部の変形を極めて微小に抑えようとするものであり、地盤の硬軟条件や山留め壁の設定条件等によっては、この切梁無しで施工することができるものである。
・・・・
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図示する一実施形態に基づいて説明する。この実施形態は、超高層ビルの地下3階の地下部分を築造する場合に本発明を適用した例である。図1は、本発明のスーパー逆打ち工法を工程順に示す断面図である。図2は、本発明における山留め壁・杭・構真柱の配置例を示す平面図である。図3は、各階の施工の詳細を示す断面図である。図4,図5は、本発明で用いる切梁の例を示す平面図である。図6は、1段目切梁の変形例を示す断面図である。図7は本発明と従来工法の各工程を比較した図である。
【0012】本発明のスーパー逆打ち工法により、地下3階の地下部分を次に示すような手順で施工する(図1参照)。
【0013】○1(当審注;「○1」等は、「○」の中に「1」等、以下同じ) 山留め壁(SMW)1を施工後、場所打ち杭2の打設と構真柱3の建込みを行う。山留め壁内の上部を1次掘削した後、1階の床躯体4を築造する。この床躯体4は、1階の床(梁を含む)4aと地下1階の外周壁(外周柱を含む)4bからなる。
【0014】○2 地下1階の床レベルまで2次掘削した後、外周壁4bに1段目切梁支保工11を架設する。
【0015】○3 地下1階の床躯体の築造を飛ばし、地下2階梁下まで一気に掘削し、2フロア分の3次掘削を行う。地下2階の床躯体6を築造し、その後、1段目切梁支保工11を解体する。この地下2階の床躯体6は、地下2階の床6aからなる。床躯体6の上方に大空間が形成される。
【0016】○4 地下3階の床レベルまで4次掘削し、地下3階の外周壁6bを築造した後、この外周壁6bに2段目切梁支保工12を架設する。同時に地下1階の床躯体5を順打ちで築造する。この地下1階の床躯体5は、地下1階の床5aと、地下2階の外周壁5bおよび内部柱・壁5cからなる。この時期から地上鉄骨建方工事が開始される。
【0017】○5 5次掘削・床付けの後、耐圧盤7を築造する。
○6 基礎・基礎梁8および地下3階床9を築造する。コンクリート硬化後、2段目切梁支保工12を解体する。地下1階と地下3階の外壁打ち継ぎ部を施工し、残りの内部柱・壁のコンクリートを打設すれば、地下躯体が完成する。
【0018】次に、本発明の逆打ち工法の各要素技術について詳述する。図2に示すように、内部の杭2Aに構真柱3を設け、構真柱3を内部柱Aの柱鉄骨として利用し、外周部の杭2Bには構真柱3を設けない。これは、図3に示すように、外周部の杭2Bと外周柱Bが偏心し、外周柱Bの柱鉄骨を構真柱として使用できないためである。外周に構真柱が無いため、図3に示すように、外周躯体を頭部RCあご20・スタッドボルト21で山留め壁1に支持させる。さらに、山留め壁1の支持力には許容限界があるため、地下工事を早め、地上鉄骨の例えば5節建方前に耐圧盤7を打設し、外周柱Bの柱鉄骨の応力を外周部の杭2Bに伝達させる。
【0019】コンクリートは、図3に示すように、普通コンクリートの順打ち部と、高性能AE減水剤を用いた特殊コンクリートのセミ圧入工法による後打ち部からなり、次の順番で打設される。
【0020】○11階の床躯体4(1階の床4a・地下1階の外周壁4b)の順打ち、○2地下2階の床躯体6(地下2階の床6a)の順打ち、○3地下3階の外周壁6bの圧入、○4地下1階の床躯体5(地下1階の床5a・地下2階の外周壁5bと内部柱・壁5c)の順打ち(地下2階立ち上がり躯体工事)、○5耐圧盤7の順打ち、○6基礎・基礎梁8と地下3階床9の順打ち、○7地下3階床9と地下3階の外周壁6bとの間の圧入、○8地下1階の床5aと地下1階の外周壁4bとの間の圧入、および地下1階の内部柱・壁4cの圧入、○9地下3階の内部柱・壁6cの圧入。
・・・・
【0024】また、1段目切梁支保工を架設したのは、山留め壁の変形を極めて微小に抑えようとしたものであり、地盤の硬軟の条件、あるいは山留め壁変形量の設定条件等によっては、1段目切梁無しで施工することも可能と考えられる。
【0025】図7に示すように、本発明のスーパー逆打ち工法では、地下1階の床躯体4の築造を飛ばして地下2階の床スラブ6aの築造を先行し、この地下2階の床スラブを境に、下部で4次掘削以降の工事を、上部で地下1階の床躯体5の立ち上がり工事(地下2階立ち上がり躯体工事)を並行して行うため、地下1階の床躯体5の工事がクリティカルパスから外れ、従来の本逆打ち工法と比較して約1.5カ月工期を短縮することが可能となった。
・・・・
【0027】なお、以上は地下3階の地下部分を築造する場合について説明したが、これに限らず、地下4階以上の地下部分の築造にも本発明を適用できることは言うまでもない。また、地下の任意の階から本発明の逆打ち工法を開始することもできる。さらに、本発明の逆打ち工法を順次繰り返して大規模な地下部分を築造することも可能である。」
(イ)図面の図示
a 【図1】
「
[図:0001400423000001.jpg]
」
b 【図3】
「
[図:0001400423000002.jpg]
」
(ウ)図より看取される事項
a 【図1】及び【図3】より、1階の床躯体4が有する地下1階の外周壁4bを山留め壁1の内側に当接させ、地下2階の床躯体6を山留め壁1の内側にスタッドボルト21で固定する様子が、看取される。
b 段落【0019】及び【0020】の記載をふまえると、上記【図3】より、コンクリートの打設について、地下1階の床躯体5(地下1階の床5a・地下2階の外周壁5bと内部柱・壁5c)は、地下2階の床躯体6の上に順打ちするものであり、地下1階の床5aと地下1階の外周壁4bとの間、および地下1階の内部柱・壁4cは、圧入するものである様子が、看取される。
c 段落【0017】の記載をふまえると、上記【図1】及び【図3】より、最終的に掘削を終える底面については、床付けの後、耐圧盤7を築造することが、看取される。
(エ)甲1に記載された発明
甲1において、実施例としては、地下3階の地下部分を築造する場合について具体的な説明がされているところ、
a 段落【0027】に記載されるとおり、地下4階以上の地下部分の築造に適用でき、順次繰り返して大規模な地下部分を築造できること
b 段落【0014】に記載される1段目切梁支保工11の架設は、段落【0008】及び【0009】に記載されるとおり、必要に応じて行えば足りるものであること
をふまえると、上記(ア)ないし(ウ)より、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
【甲1発明】
「山留め壁内の掘削空間内に任意の階の床躯体を築造し、下階の床を飛ばして任意の複数フロア分を一気に掘削し、該任意の複数フロア下の床を先行して築造し、次いで該任意の複数フロア下の床を境に、下部で掘削工事を、上部で上階の床躯体の立ち上がり工事を、並行して行う、工期を短縮することが可能な、建築物の地下構造体を築造していく工法であって、
超高層ビルの地下3階の地下部分を築造する場合に適用した例では、
・山留め壁1を施工後、山留め壁1内の上部を1次掘削し、
・1階の床4aと地下1階の外周壁4bからなる1階の床躯体4を築造し、1階の床躯体4が有する地下1階の外周壁4bを山留め壁1の内側に当接させ、
・必要に応じて地下1階の床レベルまで2次掘削した後、外周壁4bに1段目切梁支保工11を架設し、山留め壁変型量の設定条件等によっては、1段目切梁無しで施工することも可能であり、
・地下1階の床躯体の築造を飛ばし、地下2階梁下まで2フロア分の3次掘削を行い、
・地下2階の床躯体6を築造し、地下2階の床躯体6を山留め壁1の内側にスタッドボルト21で固定し、地下2階の床躯体6の上方に大空間が形成され、
・地下1階の床躯体4の築造を飛ばして地下2階の床スラブ6aの築造を先行し、この地下2階の床スラブ6aを境に、下部で4次掘削以降の工事を、上部で地下1階の床躯体5の立ち上がり工事(地下2階立ち上がり躯体工事)を並行して行うことで、工期を短縮することが可能であり、
地下3階の地下部分を築造する場合に限らず、地下4階以上の地下部分の築造にも適用し、順次繰り返して大規模な地下部分を築造することが可能であり、
各要素技術として、
外周躯体を頭部RCあご20・スタッドボルト21で山留め壁1に支持させるものであり、
コンクリートは、順打ち部と、セミ圧入工法による後打ち部からなり、地下1階の床躯体5(地下1階の床5a・地下2階の外周壁5bと内部柱・壁5c)は、地下2階の床躯体6の上に順打ちするものであり、地下1階の床5aと地下1階の外周壁4bとの間、および地下1階の内部柱・壁4cは圧入するものであり、
最終的に掘削を終える底面については、床付けの後、耐圧盤7を築造する、
建築物の地下構造体を築造していく工法。」
イ 甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
「【0006】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その目的とするところは、山留め壁を支保する階の床梁から根切り底までの間隔が大きい場合、地下躯体の外壁用立下り壁を利用して山留め壁の変形を抑制できるようにした地下躯体の構真柱先行逆打ち工法を提供することにある。
・・・・
【0024】
上記の構成によれば、地下躯体の外壁用立下り壁2をスタッドコネクタ3で山留め壁Aの芯材Cと一体化することと、外壁用立下り壁2の補強部材を外周梁1の内側面(図示の例では外周柱7の内側面と合致している)Sよりも突出しない状態に、換言すれば、撤去しなくても邪魔にならない状態に設けることとによって、外壁用立下り壁2の剛性を高めることができる。
【0025】
従って、山留め壁Aを支保する階の床梁から根切り底までの間隔が大きくても、鋼製斜め切梁やコンクリートバットレスといった仮設材を構築せずに、地下躯体の外壁用立下り壁2を利用して山留め壁Aの変形を抑制できることになり、仮設材の架け払いが不要なため、コスト低減が可能であり、作業の安全確保も容易である。」
ウ 甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0016】
図1の断面図に示すように、本実施の形態に係る地下構造物構築方法により構築された床スラブ26、28、30、梁27、29、31及び地下外壁46、48は、後述する施工工程に従い施工される。逆打工法において、掘削部22の上部から順次下方へ構築された床スラブ26、28、30、梁27、29、31及び地下外壁46、48は支保工として利用される。」
エ 甲4
甲4には、次の事項が記載されている。
「【0003】この工事において、1階床躯体を先行施工し1フロアーずつ地下掘削と地下躯体を下方に進めていく工法(逆打工法)では、地下躯体と地上躯体を同時施工することを大きな特徴としている。・・・・」
オ 参考資料3
参考資料3には、次の記載がある。
(ア)第63頁 図5-3 逆打ち工法における掘削工事施工状況図
「
[図:0001400423000003.jpg]
」
(イ)第64頁 右欄第1行~第14行
「
[図:0001400423000004.jpg]
」
(2)本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明において、「建築物の地下構造体を築造していく工法」は、「地下3階の地下部分を築造する場合に限らず、地下4階以上の地下部分の築造にも適用し、順次繰り返して大規模な地下部分を築造することが可能」であることをふまえると、本件発明1において、「複数階を有する地下構造物の構築方法」に相当する。
甲1発明において、「山留め壁1を施工後、山留め壁1内の上部を1次掘削」することは、本件発明1において、「山留め壁で囲まれた地盤を掘削する第1工程」に相当する。
甲1発明において、「1階の床4aと地下1階の外周壁4bからなる1階の床躯体4を築造し、1階の床躯体4が有する地下1階の外周壁4bを山留め壁1の内側に当接させ」ることと、本件発明1において、「掘削底面上に、所定階の床躯体および当該床躯体に連続する一部の地下外周壁を先行構築躯体として構築し、当該先行構築躯体を前記山留め壁に接合する第2工程」とは、「掘削底面上に、所定階の床躯体および当該床躯体に連続する一部の地下外周壁を構築し、前記山留め壁に当接させる第2工程」という点で、共通する。
甲1発明において、「1段目切梁無し」での施工により「地下1階の床躯体の築造を飛ばし、地下2階梁下まで2フロア分の3次掘削を行」うことと、本件発明1において、「前記先行構築躯体の上側の躯体を構築するとともに、前記掘削底面から下方に向かって所定の掘削底面まで複数階分の深さを掘削する第3工程」とは、「前記掘削底面から下方に向かって所定の掘削底面まで複数階分の深さを掘削する第3工程」という点で、共通する。
甲1発明において、「地下3階の地下部分を築造する場合に限らず、地下4階以上の地下部分の築造にも適用し、順次繰り返して大規模な地下部分を築造する」ことと、本件発明1において、「前記第2工程および前記第3工程を繰り返す第4工程」とは、「先行する工程を繰り返す第4工程」という点で、共通する。
整理すると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
「複数階を有する地下構造物の構築方法であって、
山留め壁で囲まれた地盤を掘削する第1工程と、
掘削底面上に、所定階の床躯体および当該床躯体に連続する一部の地下外周壁を構築し、前記山留め壁に当接させる第2工程と、
前記掘削底面から下方に向かって所定の掘削底面まで複数階分の深さを掘削する第3工程と、
先行する工程を繰り返す第4工程と、を備える、
地下構造物の構築方法。」
そして、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。
<相違点1>
第2工程に関し、
本件発明1においては、所定階の床躯体および当該床躯体に連続する一部の地下外周壁を「先行構築躯体として」構築し、山留め壁に「接合する」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、「1階の床4aと地下1階の外周壁4bからなる1階の床躯体4」を、「先行構築躯体として」構築し、山留め壁に「接合する」とは、特定されていない点。
<相違点2>
第3工程及び第4工程に関し、
本件発明1においては、「第4工程」について、「第2工程」および「第3工程」を「繰り返す」ことが特定されるとともに、繰り返される「第3工程」について、第2工程において構築した「前記先行構築躯体の上側の躯体を構築するとともに」下方に向かって所定の複数階分の深さを掘削すること、及び、「前記第3工程における前記先行構築躯体の床躯体の上面から前記所定の掘削底面までの掘削深さは、下層に向かうに従って浅くなるとともに、前記第3工程における所定の掘削底面の高さ位置は、当該第3工程の次の第2工程で構築する先行構築躯体の床躯体の上面から下方に2m以内である」ことが特定されているのに対し、
甲1発明においては、「順次繰り返して大規模な地下部分を築造する」際に、先行するどの工程を繰り返すのか特定されておらず、「3次掘削」を繰り返すとしても、「先行構築躯体の上側の躯体を構築するとともに」複数階分の深さの掘削を繰り返すこと、及び、繰り返す「3次掘削」における各掘削底面までの深さをどのように決定するかが、特定されていない点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点1について
上記相違点1について判断する。
甲1発明において、「山留め壁変型量の設定条件等によって・・・1段目切梁無しで施工する」うえでは、後続する「3次掘削」等の作業に際して、山留め壁1の変形量が小さいものとなるような条件を設定する動機付けがあるところ、甲1発明は、要素技術として「外周躯体を頭部RCあご20・スタッドボルト21で山留め壁1に支持させる」構成を有し、「地下2階の床躯体6」については「山留め壁1の内側にスタッドボルト21で固定」するものである。
また、甲2の摘記に示されるように、地下躯体の外壁用立下り壁を山留め壁と一体化して山留め壁の変形を抑制することは、周知技術である。
そうであれば、甲1発明において、「山留め壁変型量の設定条件等によって・・・1段目切梁無しで施工する」うえで、「山留め壁1の内側に当接」している「1階の床4aと地下1階の外周壁4bからなる1階の床躯体4」を、「スタッドボルト21」等により「山留め壁1」に接合することで、後続する「3次掘削」等に際して山留め壁1の変形を防止する効果を奏する先行構築躯体とし、もって上記相違点1に係る本件発明1の構成に相当する構成とすることは、甲1に記載される事項または甲2に示される周知技術に基いて、当業者であれば容易に想到できた事項である。
(イ)上記相違点2について判断する。
甲1発明において、「1階の床躯体4が有する地下1階の外周壁4bを山留め壁1の内側に当接させ」たうえで、「1段目切梁無し」で「地下1階の床躯体の築造を飛ばし、地下2階梁下まで2フロア分の3次掘削を行」うことは、「山留め壁変型量の設定条件等によっては、・・・可能であ」るという、一つの選択肢であり、必要に応じては「3次掘削」の前に、「地下1階の床レベルまで2次掘削した後、外周壁4bに1段目切梁支保工11を架設」する、という工程を介在させるものであった。
このような甲1発明においては、「地下4階以上の地下部分の築造にも適用し、順次繰り返して大規模な地下部分を築造する」場合にも、必要に応じて途中までの「2次掘削」及び「切梁支保工」の「架設」という工程を加えて、「3次掘削」の掘削開始点を下げたり、「3次掘削」と並行して行う作業の内容を変更することが予定されており、「順次繰り返」す作業の内容は一定のものとならず、「3次掘削」における掘削量も「複数フロア分」のまま繰り返されるとは限らないと解される。
以上のことをふまえると、甲1発明において、「地下4階以上の地下部分の築造にも適用し、順次繰り返して大規模な地下部分を築造する」という選択肢をとるとしても、相違点2に係る本件発明1の構成に至る下記aないしcの一連の条件を満たすように特定の選択を重ねることについて、動機付けあるいは示唆があったということはできない。
a 「山留め壁1の内側に当接」させた「床躯体」を「先行構築躯体」として、「先行構築躯体の上側の躯体を構築」するとともに「所定の掘削底面まで複数階分の深さを掘削」することを、繰り返す。
b 繰り返しに際して、「複数階分の深さを掘削」することを維持しつつ、「先行構築躯体の床躯体の上面」から「所定の掘削底面までの掘削深さ」を、「下層に向かうに従って浅く」する。
c 「所定の掘削底面の高さ位置」を、「次の第2工程で構築する先行構築躯体の床躯体の上面から下方に2m以内」とし、次のaの繰り返しにつながる高さまでの掘削とする。
また、甲第1号証におけるその余の記載、及び、同じ掘削箇所では地中深くの方が土圧が高くなる傾向があるという技術常識を考慮しても、甲1発明において、「地下4階以上の地下部分の築造にも適用し、順次繰り返して大規模な地下部分を築造する」うえで、上記aないしcの一連の条件を満たすようにすることは、当業者にとって動機付けがあったということはできず、容易に想到し得た事項ではない。
この点に関し、甲2ないし甲4には、上記(1)イないしエに摘記した事項が記載されており、逆打工法における山留め壁の変形防止、床スラブの支保工としての利用、及び地下躯体と地上躯体の同時施工に関する一般論が示されているが、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成をとることを開示あるいは示唆するものではない。
また、申立人が提出する参考文献3には、上記(1)オに摘記した事項が記載されており、逆打ち工法において1階床の高さを先行して形成した捨てコンクリート底から1750mmとした例(上記(1)オ(ア)における「200」と「1,550」との和)、及び、逆打ち工法において仮床付け深さを計画する際に考慮する事項(上記(1)オ(イ))が示されている。
しかしながら、甲1発明において、上述したとおり、必要に応じて途中までの「2次掘削」及び「切梁支保工」の「架設」という工程を加えて、「3次掘削」の掘削開始点を下げることが予定されていること、及び、「順次繰り返」す作業の内容が具体的に特定されていないことをふまえると、たとえ参考文献3における上記の記載を考慮しても、甲1発明において、上記aないしcの一連の条件を満たすように、「順次繰り返」す際の一連の作業内容及び各掘削深さを選択することが、記載あるいは示唆されていたということはできない。
参考文献3において摘記を省略したその余の記載、並びに、摘記を省略した参考文献1及び2の記載を考慮しても、同様である。
したがって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明の構成に至ることは、たとえ甲2ないし甲4及び参考文献1ないし3に記載された事項を考慮したとしても、当業者にとって容易ではない。
ウ 申立人の意見書における主張について
(ア)相違点の認定について
申立人は、令和5年2月15日付け意見書において、上記相違点2について、次の個別の相違点2ないし5として認定されるべき旨を主張する(同意見書第8頁第15行~第9頁第10行)。
<相違点2>
第3工程に関し、
本件発明1においては、「前記先行構築躯体の上側の躯体を構築するとともに」、下方に向かって所定の掘削底面まで複数階分の深さを掘削すると特定されているのに対し、
甲1発明においては、「地下2階梁下まで2フロア分の3次掘削」を行う際に、1階の床躯体4の上側の躯体の構築を行っていない点。
<相違点3>
第4工程に関し、
本件発明1においては、「前記第2工程及び第3工程を繰り返す」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、「順次繰り返して大規模な地下部分を構築する」に際して、先行するどの工程を繰り返すのか、特定されていない点。
<相違点4>
掘削深さに関し、
本件発明1においては、「前記第3工程における前記先行構築躯体の床躯体の上面から前記所定の掘削底面までの掘削深さは、下層に向かうに従って浅くなる」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、そのように特定されていない点。
<相違点5>
本件発明1においては、「前記第3工程における所定の掘削底面の高さ位置は、当該第3工程の次の第2工程で構築する先行構築躯体の床躯体の上面から下方に2m以内である」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、そのように特定されていない点。
(イ)各相違点の容易想到性について
そして申立人は、上記(ア)のとおり個別に認定されるべき相違点2ないし5のうち、相違点2ないし4は、令和4年11月7日付け取消理由通知書において通知された取消理由(決定の予告)と同様の理由により、当業者であれば想到容易である旨を主張している(同意見書第9頁第18行~第11頁第17行参照)。
また申立人は、上記(ア)のとおり個別に認定されるべき相違点2ないし5のうち、相違点5は、参考資料3に仮床付けから先打ち躯体の上面までの高さ寸法を1,750mmとすること、及び、参考資料3における逆打ち工法に関するその余の記載を総合すると、設計事項である旨を主張している(同意見書第4頁第12行~第8頁第2行、及び第11頁第18行~第15頁第19行参照)。
(ウ)申立人の主張に対する判断
上記申立人の主張について、判断する。
令和4年11月7日付け取消理由通知(決定の予告)においては、令和4年7月13日付け訂正請求により訂正された請求項1について、「第3工程」における掘削深さを「床付面まで」と記載しており、各掘削における掘削深さを特定する趣旨か最終的な掘削底面までの深さを特定する趣旨か明確でなかったこと、及び、「第3工程」における掘削深さと次の第2工程との関係を特定する記載がなかったことから、相違点1以外の甲1発明との相違点を、申立人が上記(ア)に主張する相違点2ないし4に類似する複数の相違点に区分して、認定した。
しかしながら、本件訂正請求がされたことにより、令和4年7月13日付け訂正請求は取り下げられたものとみなされ、本件訂正後の請求項1の記載は、上記第3に摘記するものとなった。
本件訂正後の請求項1において、相違点2に係る本件発明1の構成は、第2工程と第3工程とを繰り返す中で、第3工程において各掘削を行う所定の掘削底面の位置を、先の第2工程で構築した先行構築躯体との関係、及び、次の第2工程で構築する先行構築躯体との関係において記載する形で、第3工程における各掘削の深さの変化を特定するとともに、第3工程における各掘削とともに行う上側の躯体の構築についても特定するものであるから、相互に密接に関連する一連の構成である。
したがって、相違点2に関し、請求人が主張する上記(ア)のように分断した複数の相違点と認定すべきではなく、本件発明1と甲1発明との相違点は、上記アに認定した、相違点1及び相違点2のとおり、認定されるべきである。
そして、相違点2の容易想到性については、上記イに判断したとおりである。
エ 小括
本件発明1と甲1発明との相違点は、上記アに認定した相違点1及び2のとおり認定されるべきであり、上記イに示したとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、上記ウに示したとおり、申立人の意見書における主張について考慮しても、上記ア及びイの認定・判断を変更すべき事情は見いだせない。
したがって、本件発明1は、甲1発明において、甲2ないし甲4及び参考文献1ないし3に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1が有する構成を全て有し、さらに構成を付加したものである。
そして、上記(2)に示したとおり、本件発明2及び3が有する本件発明1の構成は、甲1発明において、甲2ないし甲4及び参考文献1ないし3に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明2または3において付加された構成について検討するまでもなく、本件発明2及び3は、甲1発明において、甲2ないし甲4及び参考文献1ないし3に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した、甲1を主たる証拠とした進歩性欠如の取消理由2、及びこれと同旨の特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700128