特許異議申立
2022-700922
車両駆動装置
- 審判番号
- 2022-700922
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-153548
- 登録番号
- 7053405
- 請求日
- 2022年09月21日
- 審決日
- 2023年06月21日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】NTN株式会社
- 【権利者代理人】城村 邦彦
- 【権利者代理人】熊野 剛
- 【異議申立人】鈴木 満
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 尾崎 和寛
- 審判官 久島 弘太郎
- 分類
- P1651.121-YAA(F16H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7053405号発明「車両駆動装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7053405号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7053405号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
特許第7053405号の請求項3及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7053405号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成30年8月17日出願され、令和4年4月4日にその特許権の設定登録がされ、令和4年4月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許権について、令和4年9月21日に特許異議申立人鈴木満(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は令和4年12月14日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和5年2月15日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、令和5年4月5日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「各歯車軸のうち、少なくとも一つの歯車軸を、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持していることを特徴とする車両駆動装置。」
とあるのを、
「各歯車軸のうち、少なくとも一つの前記中間歯車軸を、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持し、
負荷容量が互いに異なる前記二つの転がり軸受により回転自在に支持された前記中間歯車軸に入力側中間歯車と出力側中間歯車を設け、
前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の歯のねじれ方向が、前記ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定され、
前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の、前記第2歯面に対する歯面修正量を、前記第1歯面に対する歯面修正量よりも大きくしたことを特徴とする車両駆動装置。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記ドライブ時および前記コースト時のうち、相対的に大きいミスアライメント量が生じる時に相手側と噛合う歯面に対する歯面修整量を、相対的に小さいミスアライメント量が生じる時に相手側と噛合う歯面に対する歯面修整量よりも大きくした請求項1に記載の車両駆動装置。」
とあるのを、
「前記ドライブ時および前記コースト時のうち、相対的に大きいミスアライメント量が生じるコースト時に相手側と噛合う前記第2歯面に対する歯面修整量を、相対的に小さいミスアライメント量が生じるドライブ時に相手側と噛合う前記第1歯面に対する歯面修整量よりも大きくした請求項1に記載の車両駆動装置。」
に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4はそれぞれ請求項1を直接あるいは間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求は一群の請求項1~4について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において、負荷容量が異なる軸受により支持される歯車軸の種類、歯のねじれ方向とスラスト荷重の方向との関係、及びドライブ時に相手側と噛合う第1歯面とコースト時に相手側と噛合う第2歯面における歯面修正量の大小関係について、何ら特定されていなかったものを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 新規事項の有無
訂正事項1のうち、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持されている歯車軸が少なくとも一つの中間歯車軸である点、及び、当該中間歯車軸に入力側中間歯車と出力側中間歯車を設ける点については、明細書の段落【0009】の「入力歯車軸に入力された電動モータ部の回転を二段以上で減速して出力する減速機部と」、段落【0061】の「減速機部Bには、入力歯車軸35と出力歯車軸37との間に二軸以上の中間歯車軸36を配置してなる四軸以上の平行軸歯車減速機30を採用することも可能である」、段落【0012】の「各歯車軸のうち、少なくとも一つの歯車軸が、負荷容量(剛性)が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持され」、段落【0025】の「入力側中間歯車(大径歯車)32および出力側中間歯車(小径歯車)33を有する中間歯車軸36」、及び段落【0030】の「中間歯車軸36のインボード側の端部を支持する転がり軸受44に、中間歯車軸36のアウトボード側の端部を支持する転がり軸受45よりも大径のもの、すなわち負荷容量(剛性)が大きいものを用いる」との記載を根拠とするものである。
また、訂正事項1のうち、入力側中間歯車及び出力側中間歯車の歯のねじれ方向が、ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定されている点については、明細書の段落【0033】の「電気自動車11のドライブ時(各歯車軸35~37が図2中黒塗り矢印で示す方向に回転したとき)に、中間歯車軸36に入力されるスラスト荷重(噛合い部M1を形成する入力側中間歯車32に作用するスラスト荷重、および噛合い部M2を形成する出力側中間歯車33に作用するスラスト荷重の合力)が中間歯車軸36を支持する二つの転がり軸受44,45のうち負荷容量が相対的に大きいインボード側の転がり軸受44に作用すると共に、出力歯車軸37に入力されるスラスト荷重(噛合い部M2を形成する出力歯車34に作用するスラスト荷重)が出力歯車軸37を支持する二つの転がり軸受46,47のうち負荷容量が相対的に大きいアウトボード側の転がり軸受47に作用するように、各歯車31~34の歯31a~34aのねじれ方向を設定している。」、及び段落【0043】の「本実施形態では、図3(a)を参照して説明したように、各歯車31~34の歯31a~34aのねじれ方向を、電気自動車11のドライブ時に、中間歯車軸36に入力されるスラスト荷重(両中間歯車32,33に作用するスラスト荷重の合力)が中間歯車軸36を支持する二つの転がり軸受44,45のうち負荷容量が相対的に大きいインボード側の転がり軸受44に、また、出力歯車軸37に入力されるスラスト荷重が出力歯車軸37を支持する二つの転がり軸受46,47のうち負荷容量が相対的に大きいアウトボード側の転がり軸受47に作用するように設定している。」の記載を根拠とするものである。
さらに、訂正事項1のうち、入力側中間歯車及び出力側中間歯車の、第2歯面に対する歯面修正量を、第1歯面に対する歯面修正量よりも大きくした点ついては、明細書の段落【0013】の「第2歯面に対する歯面修整量は、第1歯面に対する歯面修整量よりも大きくする。」、及び段落【0049】~【0051】の記載を根拠とするものである。
したがって、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であるといえる。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る発明において、ドライブ時とコースト時のミスアライメント量の大小関係、及び第1歯面と第2歯面の歯面修正量の大小関係について何ら特定されていなかったものを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は、明細書の段落【0051】の「本実施形態のインホイールモータ駆動装置21では、互いに噛合う入力歯車31と入力側中間歯車32の歯面間のミスアライメント量がドライブ時よりもコースト時の方が大きくなるため、第2歯面S2’に対する歯面修整量を第1歯面S1’に対する歯面修整量よりも大きくする。」の記載を根拠とするものである。
したがって、訂正事項2は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であるといえる。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(3)訂正事項3及び4
訂正事項3及び4は、それぞれ訂正前の特許請求の範囲の請求項3及び4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(なお、本件訂正請求により請求項3及び4は削除されている。)。
[本件発明1]
「車両を駆動するための駆動力を発生させる電動モータ部と、
互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を有し、前記入力歯車軸に入力された前記電動モータ部の回転を二段以上で減速して出力する減速機部と、を備え、各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成された車両駆動装置において、
前記減速機部に複数形成される歯車同士の噛合い部のうち、互いに噛合う二つの歯車の歯面間で生じるミスアライメント量が車両のドライブ時とコースト時とで異なる噛合い部を形成する二つの歯車に対し、前記ドライブ時に相手側と噛合う第1歯面に歯面修整を施すと共に、前記コースト時に相手側と噛合う第2歯面に、前記第1歯面に施した歯面修整量とは異なる量の歯面修整を施し、
各歯車軸を、軸方向の二箇所に離間して配置した転がり軸受により回転自在に支持し、
各歯車軸のうち、少なくとも一つの前記中間歯車軸を、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持し、
負荷容量が互いに異なる前記二つの転がり軸受により回転自在に支持された前記中間歯車軸に入力側中間歯車と出力側中間歯車を設け、
前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の歯のねじれ方向が、前記ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定され、
前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の、前記第2歯面に対する歯面修正量を、前記第1歯面に対する歯面修正量よりも大きくしたことを特徴とする車両駆動装置。」
[本件発明2]
「前記第1歯面および前記第2歯面の双方に、歯面修整としての歯形クラウニングおよび歯筋クラウニングが施され、
前記ドライブ時および前記コースト時のうち、相対的に大きいミスアライメント量が生じるコースト時に相手側と噛合う前記第2歯面に対する歯面修整量を、相対的に小さいミスアライメント量が生じるドライブ時に相手側と噛合う前記第1歯面に対する歯面修整量よりも大きくした請求項1に記載の車両駆動装置。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~4に係る特許に対して当審が令和4年12月14日付けで特許権者に対して通知した取消理由の概要は次のとおりである。
本件の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者という。」)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
刊行物
甲第5号証:特開2018-39396号公報
甲第3号証:特開2012-102753号公報
甲第5号証及び甲第3号証は、それぞれ、特許異議申立人が提出した甲第5号証及び甲第3号証である。
2 各甲号証の記載
(1)取消理由通知で引用した各甲号証について
ア 甲第5号証
取消理由通知で引用した甲第5号証には次の記載がある(下線は当審で付したもの。)。
「【0001】
この発明は、左右の駆動輪を駆動させる2基の電動モータと減速機を備える2モータ車両駆動装置に関するものである。」
「【0002】
左右の駆動輪をそれぞれ独立して駆動させる2基の電動モータと減速機を一体化した2モータ車両駆動装置は、特許文献1に開示されている。この2モータ車両駆動装置は、左側の電動モータの駆動力を左側の歯車列とドライブシャフトを介して左側の駆動輪まで伝達し、右側の電動モータの駆動力を右側の歯車列とドライブシャフトを介して右側の駆動輪まで伝達している。」
「【0031】
この特許文献1に示された、はすば歯車の噛み合いにより前進ドライブ時に生じるスラスト方向の力の向き(f1、f2)を、図9に示す構造の2モータ車両駆動装置について図示する。
【0032】
中間軸124L、124Rは、入力軸123L、123Rの入力歯車123aに噛み合う大径歯車124aと出力軸125L、125Rの出力歯車125aに噛み合う小径歯車124bの2つの歯車を有するため、2つの歯車に生じるスラスト力が同じ向きになると、スラスト力が大きくなるので、走行方向の大半を占める前進ドライブ時に生じるスラスト方向の力(f1、f2)を相互に逆向き(f1を外向き、f2を内向き)として、力f1とf2の和が小さくなるようにしている。
【0033】
さらに、左右2列の減速機102L、102Rにおける右側の駆動伝達系と左側の駆動伝達系で力f1とf2の和の向きが対称、すなわち、力f1とf2の和の向きが左右で共に内向きとなるように、はすば歯車のねじれ方向を設定している。
【0034】
そして、左右2列の減速機102L、102Rにおける右側の駆動伝達系と左側の駆動伝達系の最終段の歯車軸である出力軸125L、125Rの出力歯車125aの前進ドライブ時に生じるスラスト方向の力f2が外向きになるようにしている。」
「【0053】
そこで、この発明は、仕切り壁のボス部の軸受穴をストレート穴形状の貫通穴にして、左右の歯車軸のインボード側に配置した転がり軸受の外輪端部同士がスペーサを介してが突き合う構造にした2モータ車両駆動装置において、アウトボード側の歯車軸を支持する転がり軸受に左右の歯車軸の両方のスラスト力が負荷されても、アウトボード側の歯車軸を支持する転がり軸受が損傷しないようにすることを課題とする。」
「【0064】
この発明に係る2モータ車両駆動装置Aは、図1に示すように、2基の減速機2L、2Rを左右並列に収容する減速機ケーシング20を中央にし、その減速機ケーシング20の左右に2基の電動モータ1L、1Rのモータケーシング3L、3Rを固定配置した構造を採用する。
【0065】
左右の電動モータ1L、1Rは、図1に示すように、モータケーシング3L、3R内に収容されている。
【0066】
モータケーシング3L、3Rは、円筒形のモータケーシング本体3aL、3aRと、このモータケーシング本体3aL、3aRの外側面を閉塞する外側壁3bL、3bRと、モータケーシング本体3aL、3aRの内側面に減速機2L、2Rと隔てる内側壁3cL、3cRとからなる。
【0067】
電動モータ1L、1Rは、図1に示すように、モータケーシング本体3aL、3aRの内周面にステータ11を設け、このステータ11の内周に間隔をおいてロータ12を設けたラジアルギャップタイプのものを使用している。なお、図示はしなかったが電動モータ1L、1Rは、アキシャルギャップタイプのものを使用してもよい。
【0068】
ロータ12は、モータ軸12aを中心部に有し、そのモータ軸12aはモータケーシング本体3aL、3aRの内側壁3cL、3cRの開口部からそれぞれ減速機2L、2R側に引き出されている。モータケーシング本体3aL、3aRの開口部とモータ軸12aとの間にはシール部材13が設けられ、外部から電動モータ1L、1Rの内部への埃や泥水の侵入を防止している。
【0069】
モータ軸12aは、モータケーシング本体3aL、3aRの内側壁3cL、3cRと外側壁3bL、3bRとに転がり軸受14a、14bによって回転自在に支持されている(図1)。
【0070】
左右並列に設けられた2基の減速機2L、2Rを収容する減速機ケーシング20は、中央ケーシング20aとこの中央ケーシング20aの両側面に固定される左右の側面ケーシング20bL、20bRの3ピース構造になっている。左右の側面ケーシング20bL、20bRは、左右対象形状に形成されている。
【0071】
左右の側面ケーシング20bL、20bRは、図2に示すように、中央ケーシング20aの両側面の開口部に、複数のボルト26L、26Rによって固定されている。
【0072】
減速機ケーシング20の側面ケーシング20bL、20bRのアウトボード側の側面と電動モータ1L、1Rのモータケーシング本体3aL、3aRの内側壁3cL、3cRとを、複数のボルト29によって固定することにより、減速機ケーシング20の左右に2基の電動モータ1L、1Rが固定配置されている(図1及び図2)。
【0073】
中央ケーシング20aには、図1に示すように、中央に仕切り壁21が設けられている。減速機ケーシング20は、この仕切り壁21によって左右に2分割され、2基の減速機2L、2Rを収容する独立した左右の収容室22L、22Rが並列に設けられている。
【0074】
減速機2L、2Rは、図1に示すように、左右対称形に設けられ、モータ軸12aから動力が伝達され、入力歯車23aを有する入力軸23L、23Rと、この入力歯車23aに噛み合う大径歯車24a、出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する中間軸24L、24Rと、出力歯車25aを有し、等速ジョイント15と中間シャフト16を含むドライブシャフトを介して駆動輪73(図8参照)に駆動力を伝達する出力軸25L、25Rとを備える平行軸歯車減速機である。左右の入力軸23Lと23R、中間軸24Lと24R、出力軸25Lと25Rはそれぞれ同軸に配置されている。
【0075】
減速機2L、2Rの入力軸23L、23Rの両端は、中央ケーシング20aの仕切り壁21の左右両面に形成したボス部の軸受穴27aと側面ケーシング20bL、20bRに形成したボス部の軸受穴27bに転がり軸受28a、28bを介して回転自在によって支持されている。中央ケーシング20aの仕切り壁21に形成されたボス部に設けられた軸受穴27aに嵌め込まれる左右の入力軸23L、23Rの転がり軸受28a、28aの間には、後述するように、軸方向ガタ(エンドプレイ)の調整も兼ねるスペーサ10が挿入され、互いの転がり軸受28a、28aは離間されている。
【0076】
入力軸23L、23Rのアウトボード側の端部は、側面ケーシング20bL、20bRに設けた開口部から外側に引き出されており、開口部と入力軸23L、23Rの外側端部との間にはシール部材31を設け、減速機2L、2Rに封入された潤滑油の漏洩を防止するとともに、外部から減速機2L、2Rの内部への埃や泥水の侵入を防止している。
【0077】
入力軸23L、23Rは、中空構造であり、この中空の入力軸23L、23Rにモータ軸12aが挿入されている。入力軸23L、23Rとモータ軸12aとは、スプライン結合(セレーション結合も含む)されている。
【0078】
中間軸24L、24Rは、外周面に入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと、出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する段付き歯車である。この中間軸24L、24Rの両端は、中央ケーシング20aの仕切り壁21の左右両面に形成したボス部の軸受穴32aと側面ケーシング20bL、20bRに形成したボス部の軸受穴32bとに転がり軸受34a、34bを介して支持されている。中央ケーシング20aの仕切り壁21に形成されたボス部に設けられた軸受穴32aに嵌め込まれる左右の中間軸24L、24Rの転がり軸受34a、34aの間には、後述するように、軸方向ガタ(エンドプレイ)の調整も兼ねるスペーサ10が挿入され、互いの転がり軸受34a、34aは離間されている。
【0079】
出力軸25L、25Rは、大径の出力歯車25aを有し、中央ケーシング20aの仕切り壁21に形成したボス部の軸受穴35aと側面ケーシング20bL、20bRに形成したボス部の軸受穴35bに転がり軸受37a、37bによって支持されている。中央ケーシング20aの仕切り壁21に形成されたボス部の軸受穴35aに嵌め込まれる左右の出力軸25L、25Rの転がり軸受37a、37aの間には、後述するように、軸方向ガタ(エンドプレイ)の調整も兼ねるスペーサ10が挿入され、互いの転がり軸受37a、37aは離間されている。」
「【0090】
2モータ車両駆動装置Aの2基の減速機2L、2Rに使用する平行軸歯車減速機を構成する各歯車軸(23L、23R、24L、24R、25L、25R)の各歯車(23a、24a、24b、25a)は、はすば歯車であり、各歯車軸(23L、23R、24L、24R、25L、25R)は、両端部を転がり軸受により回転自在に減速機ケーシング20に支持されている。即ち、図4に示すように、左右の入力軸23L、23Rは、インボード側の端部が転がり軸受28aによって、アウトボード側の端部が転がり軸受28bによって支持されている。また、左右の中間軸24L、24Rは、インボード側の端部が転がり軸受34aによって、アウトボード側の端部が転がり軸受34bによって支持されている。また、左右の出力軸25L、25Rは、インボード側の端部が転がり軸受37aによって、アウトボード側の端部が転がり軸受37bによって支持されている。
【0091】
はすば歯車は、歯車の歯が軸に対して斜めになっているため、駆動力の伝達時に軸方向(スラスト方向)にも力が生じる。
【0092】
この発明に係る2モータ車両駆動装置Aにおいては、図4に示すように、出力軸25L、25Rの出力歯車25aを構成するはすば歯車の歯のねじれ方向を、前進ドライブ時にスラスト力(f2)が内向きとなるねじれ方向になるように、また、中間軸24L、24Rの2つの歯車である大径歯車24aと小径歯車24bを構成するはすば歯車の歯のねじれ方向を、前進ドライブ時にそれぞれのスラスト力(f1、f2)を相互に逆向き(f1が内向き、f2が外向き)となるねじれ方向となるように、2基の減速機2L、2Rにおける各歯車軸(23L、23R、24L、24R、25L、25R)の各歯車(23a、24a、24b、25a)を形成するはすば歯車の歯のねじれ方向を規定している。」
「【0098】
中間軸24L、24Rには、入力軸23L、23Rの入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25L、25Rの出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bの2つの歯車が設けられている。これら2つの歯車に生じるスラスト力が同じ向きになるとスラスト力が大きくなるので、走行方向の大半を占める前進ドライブ時に生じるスラスト方向の力(f1、f2)を相互に逆向きとして、力f1とf2の和が小さくなるようにする。前進ドライブ時に小径歯車24bに生じるスラスト方向の力f2は、前記の出力歯車25aに生じるスラスト力と逆向きの外向きとなるため、大径歯車24aに生じるスラスト力f1が小径歯車24bに生じるスラスト方向の力f2と逆向きとなる内向きとなるよう、大径歯車24aを形成するはすば歯車の歯のねじれ方向を規定する。
【0099】
このように、中間軸24L、24Rの大径歯車24aと小径歯車24bで生じるスラスト方向の力f1とf2の和を小さくしたため、前進ドライブ時にスラスト方向の力f1とf2の和が外向きとなっても、中央ケーシング20aに対して左右の側面ケーシング20bL、20bRを分離しようとする力は小さく、問題とはなりにくい。また、後退ドライブ時や前進コースト時は逆に、スラスト方向の力f1とf2の和は内向きとなるため、問題とはならない。」
「【0108】
このように、各歯車軸のインボード側の端部を、仕切り壁21に形成したストレート形状の貫通穴からなる軸受穴27a、32a、35aで支持した場合、左右の各歯車軸のインボード側に配置した転がり軸受28a、34a、37aの外輪端部同士がスペーサ10を介して突き合うため、左右の各歯車軸で生じるスラスト力が同じ方向を向くと、一方の歯車軸で生じたスラスト力がスペーサ10を介して他方の歯車軸に負荷されることになる。したがって、左右の各歯車軸の両端を支持する転がり軸受のうち、アウトボード側の転がり軸受に、左右の歯車軸で生じたスラスト力の和が負荷される状態が生じる。
【0109】
そこで、この発明においては、左右の各歯車軸の両端を支持する転がり軸受のうち、アウトボード側の転がり軸受28b、34b、37bを、インボード側の転がり軸受28a、34a、37aよりも長寿命設計のものを使用して、左右の歯車軸で生じたスラスト力の和がアウトボード側の転がり軸受28b、34b、37bに負荷されても、アウトボード側の転がり軸受28b、34b、37bが早期に損傷しないようにしている。」
「【図1】
[図:0001401653000001.jpg]
」
上記甲第5号証の各記載から、甲第5号証には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
[甲5発明]
「2基の電動モータ1L、1Rと、2基の減速機2L、2Rを備えた2モータ車両駆動装置であって、
2基の減速機2L、2Rに使用する平行軸歯車減速機を構成する各歯車軸(入力軸23L、23R、中間軸24L、24R、出力軸25L、25R)の各歯車23a、24a、24b、25aは、はすば歯車であり、
各歯車軸23L、23R、24L、24R、25L、25Rは、両端部を転がり軸受により回転自在に減速機ケーシング20に支持されており、
中間軸24L、24Rは、外周面に入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと、出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有し、
左右の各歯車軸の両端を支持する転がり軸受のうち、アウトボード側の転がり軸受28b、34b、37bを、インボード側の転がり軸受28a、34a、37aよりも長寿命設計のものを使用している、
2モータ車両駆動装置。」
イ 甲第3号証
取消理由通知で引用した甲第3号証には次の記載がある。
「【0001】
本発明は、自動車の動力伝達装置などに供される歯車装置に関する。」
「【0003】
このヘリカル・ギヤ相互の噛合いでは、噛合い反力が、回転半径方向及び軸方向の双方へ働くため、ウェブの剛性との関係もあるが、設計値で例えばねじれ角20°の噛合いが、ウェブの撓みにより例えばねじれ角18°等での噛合いとなる、いわゆるミスアライメントを招く原因になる。
【0004】
ミスアライメントの回避方法としては、クラウニングの設定がある。
【0005】
この場合、駆動方向違いにより使われる歯面によってミスアライメントの方向が違うので駆動側,従動側それぞれの歯面で大幅に修正することが必要となり、コストアップの原因となる。」
「【0015】
図1(a)のように、本実施例の駆動側ギヤ3は、ウェブ3bが歯幅中央より噛合い始め側、例えば歯幅の端縁部Eに配置している。従動側ギヤ5は、ウェブ5bが歯幅中央よりコースト時の噛合い始め側、例えば歯幅の端縁部Eに配置している。従動側ギヤ5のウェブ5bは、歯幅中央に配置することもできる。
【0016】
これに対し、比較例の図1(b)、図2(b)は、ウェブ3b,5bを歯幅中央に配置した従来の構造である。比較例の図1(c)、図2(c)は、図1(a)、図2(a)とは反対に、ウェブ3b,5bを歯幅中央より噛合い終わり側に配置した構造である。
【0017】
図3は、ドライブ時のミスアライメント結果を示すグラフ、図4は、コースト時のミスアライメント結果を示すグラフである。
【0018】
これら図3(a)(b)において、左端の結果が本実施例、中央の結果が、図1(b)、図2(b)の比較例、右端の結果が図1(c)、図2(c)の比較例、図4は、ドライブ時及びコースト時のミスアライメントの差を示すグラフである。
【0019】
この図3の結果を見ると、本実施例のミスアライメントの結果は、ドライブ時及びコースト時において、それほど小さくはなっていない。
【0020】
しかし、図4のように、ドライブ時及びコースト時のミスアライメントの差でみると、本実施例構造では、相対的に最も小さくなった。」
「【図3】
[図:0001401653000002.jpg]
」
(2)特許異議申立書に添付して提出された各甲号証について
ア 甲第1号証
特許異議申立書に添付して提出された甲第1号証(特開2016-205452号公報)には、次の記載がある。
「【0001】
この発明は、電動モータと、この電動モータの動力を減速して駆動輪に伝達する減速機とを備え、減速機がケーシング内に複数の歯車軸を平行に配置した平行軸歯車減速機である自動車用減速機付きモータ駆動装置に関するものである。」
「【0004】
減速機102は、図9に示すように、モータ軸112から動力が伝達される入力歯車を有する入力歯車軸123と、この入力歯車軸123の入力歯車に噛み合う大径歯車と出力歯車に噛み合う小径歯車を有する複数の中間歯車軸124と、出力歯車を有し、減速機ケーシング128から引き出されて等速ジョイント126、中間シャフト127を介して駆動輪に駆動力を伝達する出力歯車軸部125とを備える平行軸歯車減速機である。各歯車は、はすば歯車であり、各歯車軸は両端部を転がり軸受により回転自在に減速機ケーシング128に支持されている。また、左右の各歯車軸は各歯車軸123、124、125同士が同軸上に配置されている。」
「【0017】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示す自動車用減速機付きモータ駆動装置Aは、2基の減速機2L、2Rを左右並列に収容する減速機ケーシング20を中央にし、その減速機ケーシング20の左右に2基の電動モータ1L、1Rのモータケーシング3L、3Rを固定配置したものである。」
「【0028】
減速機2L、2Rは、図1に示すように、左右対称形に設けられ、モータ軸12aから動力が伝達される入力歯車23aを有する入力歯車軸23L、23Rと、この入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する中間歯車軸24L、24Rと、出力歯車25aを有し、減速機ケーシング20から引き出されて等速ジョイント15、中間シャフト16(図2)を介して駆動輪に駆動力を伝達する出力歯車軸25L、25Rとを備える平行軸歯車減速機である。左右2基の減速機2L、2Rの各入力歯車軸23L、23R、中間歯車軸24L、24R、出力歯車軸25L、25Rは、それぞれ同軸上に配置されている。
【0029】
減速機2L、2Rの入力歯車軸23L、23Rの両端は、中央ケーシング20aの仕切り壁21の左右両面に形成した軸受嵌合穴27aと側面ケーシング20bL、20bRに形成した軸受嵌合穴27bに転がり軸受28a、28bを介して回転自在に支持されている。」
「【0032】
中間歯車軸24L、24Rは、外周面に入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する段付き歯車軸である。この中間歯車軸24L、24Rの両端は、中央ケーシング20aの仕切り壁21の両面に形成した軸受嵌合穴32aと側面ケーシング20bL、20bRに形成した軸受嵌合穴32bとに転がり軸受34a、34bを介して支持されている。
【0033】
出力歯車軸25L、25Rは、大径の出力歯車25aを有し、中央ケーシング20aの仕切り壁21の両面に形成した軸受嵌合穴35aと側面ケーシング20bL、20bRに形成した軸受嵌合穴35bに転がり軸受37a、37bによって支持されている。」
「【0037】
図5に中間歯車軸24Lについて示すように、入力歯車軸23L、23R、中間歯車軸24L、24R、出力歯車軸25L、25Rの両端部には、転がり軸受28a、28b、34a、34b、37a、37bの内輪40が嵌め込まれ、そして、転がり軸受28a、28b、34a、34b、37a、37bの外輪41は中央ケーシング20aの軸受嵌合穴27a、32a、35aと、側面ケーシング20bL、20bRの軸受嵌合穴27b、32b、35bと、に嵌め込まれている。」
「【図1】
[図:0001401653000003.jpg]
」
「【図9】
[図:0001401653000004.jpg]
」
イ 甲第2号証
特許異議申立書に添付して提出された甲第2号証(特開2016-109289号公報)には、次の記載がある。
「【0002】
従来から、はすば歯車を使用した動力伝達装置において、歯車軸のミスアライメントに起因する回転伝達誤差を減少させる様々な技術が開発されてきた。例えば、はすば歯車において、歯当たりを歯幅中央部に集中させるために、歯すじ方向に適当なふくらみをつけるような加工(クラウニング)を施し、歯車軸のミスアライメントに起因する回転伝達誤差を減少させるようにした技術が知られている(特許文献1、2参照)。・・・以下略」
「【0031】
(第1実施形態の変形例2)
第1実施形態に係る樹脂製はすば歯車1は、両歯面のうちの一方の歯面に三次元的歯面修整を施すようになっているが、これに限られず、両歯面に三次元的歯面修整を施し、歯車軸のミスアライメントが生じている場合における正逆両方向の回転伝達誤差を減少させるようにしてもよい。」
「【0033】
(第1実施形態の変形例4)
第1実施形態に係る樹脂製はすば歯車1は、歯面11の修整量が第1曲面15側と第2曲面16側で等しくΔになっているが、ミスアライメントの程度(θの大きさ)に応じて、第1曲面15側の歯面11の修整量Δ1を第2曲面16側の歯面11の修整量Δ2よりも大きくするか(図10(a)参照)、又は第2曲面16側の歯面11の修整量Δ2を第1曲面15側の歯面11の修整量Δ1よりも大きくして(図10(b)参照)、回転伝達誤差を減少させてもよい。」
ウ 甲第4号証
特許異議申立書に添付して提出された甲第4号証(特開2001-248694号公報)には、次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】車両や各種の産業機械などに用いられている歯車伝動装置は複数のギヤを有し、各ギヤに形成された歯同士が噛み合わきれた状態で、複数のギヤ同士が相対的に位置決めされている。そして、各ギヤの歯同士の噛み合いにより、各ギヤ同士の間で動力の伝達がおこなわれる。このような動力の伝達時、言い換えれば負荷時には、各ギヤの歯同士の噛み合い抵抗により反力(いわゆる噛合い反力)が生じる。すると、この反力により各ギヤ同士の相対位置が変化する現象、いわゆるミスアライメントが発生する。その結果、各ギヤの歯同士の噛み合い状態が不適当な状態となり、各ギヤの耐久性の低下やギヤノイズの発生を招く可能性がある。
【0003】これに対して、各ギヤの歯同士の噛み合い状態が不適当な状態となることを防ぐために、2つの方法が考えられる。第1の方法は、各ギヤを支持する支持装置の構成を変更することであり、具体的には、各ギヤが収納されるギヤボックスの肉厚を増加したり、ギヤの支持部を補強するためのリブの強度や肉厚の設定を変更することなどがおこなわれる。この第1の方法によれば、支持装置の剛性が高められるため、負荷時に発生するミスアライメントが低減される。したがって、動力伝達時に噛み合い状態が不適当な状態となることが抑制され、ギヤの耐久性の低下を防いだり、あるいは、ギヤノイズの発生を低減することができる。
【0004】これに対して、第2の方法は、各ギヤ自体の諸元を変更することであり、例えば、各ギヤの歯同士の相対的な形状に対して、丸みを与えたり(いわゆる歯面修整)することがおこなわれる。この第2の方法によれば、負荷時にミスアライメントが発生しても、各ギヤの歯面同士の接触部位が歯面端部に寄ることがない。したがって、各歯同士の噛み合い状態が不適当な状態となることが抑制され、ギヤの耐久性の低下を防いだり、あるいは、ギヤノイズの発生を低減することができるとされている。この第2の方法に相当する歯面修正方法の一例が、特開平8?197332号公報に記載されている。」
3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
(ア)甲5発明の「車両」は、本件発明1の「車両」に相当し、甲5発明の「2基の電動モータ1L、1R」は、車両を駆動するための駆動力を発生させるものといえるから、本件発明1の「車両を駆動するための駆動力を発生させる電動モータ部」に相当する。
(イ)甲5発明の「各歯車軸」の「入力軸23L、23R」、「中間軸24L、24R」、「出力軸25L、25R」、は、それぞれ、本件発明1の「入力歯車軸」、「中間歯車軸」、「出力歯車軸」に相当し、また、甲5発明の「各歯車軸」は、「平行歯車軸減速機」に使用されるものであるから、互いに平行に配置されているといえる。
また、甲5発明の「入力軸23L、23R」、「中間軸24L、24R」、「出力軸25L、25R」の「各歯車23a、24a、24b、25a」により機構上入力軸に入力された電動モータの回転を二段で減速する「2基の減速機2L、2Rに使用する平行軸歯車減速機を構成する」ものといえる。さらに、甲5発明の「入力軸23L、23R」、「中間軸24L、24R」、「出力軸25L、25R」の「各歯車23a、24a、24b、25aは、はすば歯車」であることは、本件発明1の「各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成され」ていることに相当する。
したがって、甲5発明の「2基の減速機2L、2Rに使用する平行軸歯車減速機を構成する各歯車軸(入力軸23L、23R、中間軸24L、24R、出力軸25L、25R)の各歯車23a、24a、24b、25aは、はすば歯車」であることは、本件発明1の「互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を有し、前記入力歯車軸に入力された前記電動モータ部の回転を二段以上で減速して出力する減速機部と、を備え、各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成され」ていることに相当する。
(ウ)甲5発明の「車両駆動装置」は、本件発明1の「車両駆動装置」に相当するから、甲5発明の「2基の電動モータ1L、1Rと、2基の減速機2L、2Rを備えた2モータ車両駆動装置」は、本件発明1の「電動モータ部」と「減速機部」とを備えた「車両駆動装置」に相当する。
(エ)甲5発明の「各歯車軸23L、23R、24L、24R、25L、25Rは、両端部を転がり軸受により回転自在に減速機ケーシング20に支持されて」いることは、本件発明1の「各歯車軸を、軸方向の二箇所に離間して配置した転がり軸受により回転自在に支持」することに相当する。
(オ)甲5発明の「入力歯車23aに噛み合う大径歯車24a」及び「出力歯車25aに噛み合う小径歯車24b」は、それぞれ本件発明1の「入力側中間歯車」及び「出力側中間歯車」に相当する。
したがって、甲5発明の「中間軸24L、24Rは、外周面に入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと、出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有」することは、本件発明1の「前記中間歯車軸に入力側中間歯車と出力側中間歯車を設け」ることに相当する。
また、甲5発明の「転がり軸受」が「長寿命設計」であるとは、技術的にみて、軸受の負荷容量を大きくすることによって長寿命としていると認められるから、甲5発明の「左右の各歯車軸の両端を支持する転がり軸受のうち、アウトボード側の転がり軸受28b、34b、37bを、インボード側の転がり軸受28a、34a、37aよりも長寿命設計のものを使用している」ことは、本件発明1の「各歯車軸のうち、少なくとも一つの前記中間歯車軸を、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持している」ことに相当する。
(カ)以上のとおりであるから、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点A]
「車両を駆動するための駆動力を発生させる電動モータ部と、
互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を有し、前記入力歯車軸に入力された前記電動モータ部の回転を二段以上で減速して出力する減速機部と、を備え、各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成された車両駆動装置において、
各歯車軸を、軸方向の二箇所に離間して配置した転がり軸受により回転自在に支持し、
各歯車軸のうち、少なくとも一つの前記中間歯車軸を、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持し、
負荷容量が互いに異なる前記二つの転がり軸受により回転自在に支持された前記中間歯車軸に入力側中間歯車と出力側中間歯車を設けた車両駆動装置。」
[相違点A1]
本件発明1が、「前記減速機部に複数形成される歯車同士の噛合い部のうち、互いに噛合う二つの歯車の歯面間で生じるミスアライメント量が車両のドライブ時とコースト時とで異なる噛合い部を形成する二つの歯車に対し、前記ドライブ時に相手側と噛合う第1歯面に歯面修整を施すと共に、前記コースト時に相手側と噛合う第2歯面に、前記第1歯面に施した歯面修整量とは異なる量の歯面修整を施」すと共に、「前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の、前記第2歯面に対する歯面修正量を、前記第1歯面に対する歯面修正量よりも大きく」するものとされているのに対し、甲5発明の「2基の減速機2L、2Rに使用する平行軸歯車減速機を構成する各歯車軸(入力軸23L、23R、中間軸24L、24R、出力軸25L、25R)の各歯車23a、24a、24b、25a」の噛合い部についての歯面修正について特定はされておらず、「中間軸24L、24R」が有する、「入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと、出力歯車25aに噛み合う小径歯車24b」の歯面修正量についても特定がなされていない点。
[相違点A2]
本件発明1が、「前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の歯のねじれ方向が、前記ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定され」ているのに対し、甲5発明の「はすば歯車」である「中間軸24L、24R」のねじれ方向について、「インボード側の転がり軸受28a、34a、37aよりも長寿命設計のもの」である「アウトボード側の転がり軸受28b、34b、37b」に、スラスト荷重が作用するように設定されているかどうか特定されていない点。
イ 判断
(ア)相違点A2について
まず、上記相違点A2について検討する。
甲第5号証には、2モータ車両駆動装置において、各歯車軸のインボード側の端部を、中央ケーシング20aの仕切り壁21に形成したストレート形状の貫通孔からなる軸受穴27a、32a、35aで支持した場合、左右の各歯車軸のインボード側に配置した転がり軸受28a、34a、37aの外輪端部同士がスペーサ10を介して突き合うため、左右の各歯車軸で生じるスラスト力が同じ方向を向くと、一方の歯車軸で生じたスラスト力がスペーサ10を介して他方の歯車軸に負荷されることになり、左右の各歯車軸の両端を支持する転がり軸受のうち、アウトボード側の転がり軸受に、左右の歯車軸で生じたスラスト力の和が負荷される状態となるため、アウトボード側の転がり軸受28b、34b、37bにインボード側の転がり軸受28a、34a、37aよりも長寿命設計のものを使用し、早期に損傷しないようにすることが記載されているが(段落【0108】及び【0109】を参照。)、各歯車軸の各歯車23a、24a、24b、25aのねじれ方向を長寿命の転がり軸受の配置に関連して決定することは記載されていない。
そうすると、甲第5号証に、結果的に、1つの中間軸の2つのはすば歯車のねじれ方向は、前進ドライブ時に2つのはすば歯車に生じるスラスト力の和が外向きとなるように規定され、その外向きのスラスト力を受けるアウトボード側の転がり軸受は長寿命設計とされた構成が示されているとしても(段落【0098】、【0099】、【0108】及び【0109】を参照。)、中間軸の2つのはすば歯車のねじれ方向を長寿命の転がり軸受の配置に関連して決定することを示唆するものではない。
したがって、甲5発明の「2モータ車両駆動装置」の「2基の減速機2L、2Rに使用する平行軸歯車減速機を構成する各歯車軸」の構成に起因して「左右の各歯車軸の両端を支持する転がり軸受のうち、アウトボード側の転がり軸受28b、34b、37bを、インボード側の転がり軸受28a、34a、37aよりも長寿命設計のものを使用している」ものにおいて、「各歯車軸(入力軸23L、23R、中間軸24L、24R、出力軸25L、25R)の各歯車23a、24a、24b、25a」のねじれ方向を長寿命設計の転がり軸受の配置に関連して決定する動機付けは認められない。
また、甲第1~4号証には、相違点A2に係る本件発明1の構成が記載も示唆もされていない。
以上のとおりであるので、甲5発明を、相違点A2に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易であるということはできない。
(イ)相違点A1について
次に、相違点A1について検討する。
本件発明1において、「前記減速機部に複数形成される歯車同士の噛合い部のうち、互いに噛合う二つの歯車の歯面間で生じるミスアライメント量が車両のドライブ時とコースト時とで異なる噛合い部を形成する二つの歯車に対し、前記ドライブ時に相手側と噛合う第1歯面に歯面修整を施すと共に、前記コースト時に相手側と噛合う第2歯面に、前記第1歯面に施した歯面修整量とは異なる量の歯面修整を施」すと共に、「前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の、前記第2歯面に対する歯面修正量を、前記第1歯面に対する歯面修正量よりも大きく」したのは、「前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の歯のねじれ方向が、前記ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定され」ているため、互いに噛合う入力歯車と入力側中間歯車の歯面間、および互いに噛合う出力側中間歯車と出力歯車の歯面間でのミスアライメント量がドライブ時よりもコースト時の方が大きくなることに対処するためにしたものである(明細書の段落【0041】~【0049】)。
上記2(1)イより、甲第3号証には、「自動車(車両)の動力伝達装置などに供されるヘリカル・ギヤ(はすば歯車)からなる歯車装置において、互いに噛合う二つの歯車の歯面間で生じるミスアライメント量が車両のドライブ時とコースト時とで異なり、かかる異なる量のミスアライメントに対応するために、駆動側、従動側のそれぞれに異なる量のミスアライメントに対応した歯面修正を設定する」という技術的事項が記載ないし示唆されているといえる。
しかしながら、甲第3号証には、車両の駆動系における中間歯車軸を支持する転がり軸受の負荷容量を異ならせ、入力側中間歯車および出力側中間歯車の歯のねじれ方向を、前記ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定したことに起因して、互いに噛合う二つの歯車の歯面間で生じるミスアライメント量が車両のドライブ時よりもコースト時の方が大きくなるので、これに対処するために、入力側中間歯車および出力側中間歯車の、コースト時に相手側と噛合う第2歯面に対する歯面修正量を、ドライブ時に相手側と噛合う第1歯面に対する歯面修正量よりも大きくする点については記載も示唆もされていない。また、当該技術的事項が当業者において周知・慣用の技術的事項であるとの証拠もない。
そうすると、甲5発明の「中間軸24L、24R」の「入力歯車23aに噛み合う大径歯車24a」と「出力歯車25aに噛み合う小径歯車24b」の噛合い部について、ミスアライメントに対処するために歯面修正を施し、しかも、当該歯面修正の歯面修正量を、コースト時に相手側と噛合う歯面に対する歯面修正量を、ドライブ時に相手側と噛合う歯面に対する歯面修正量よりも大きくするよう構成することは、当業者が容易になし得たということはできない。
(ウ)作用効果について
そして、本件発明1は、相違点A1及びA2に係る本件発明1の構成を有すことにより、平行軸歯車減速機における噛合い伝達誤差を小さくすることが可能となり、音振性能や耐久性に優れ、信頼性に富む車両駆動装置を実現することができる(明細書の段落【0015】)という格別な作用効果を奏するものといえる。
(エ)特許異議申立人の主張について
a特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、相違点A2に関し、令和5年4月5日に提出した意見書において、概略次のように主張する。
甲第5号証には、訂正後の本件発明1の「入力側中間歯車および出力側中間歯車のねじれ方向が、ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定される構成」が記載されており、また、甲第5号証には、「大きい負荷の掛かる側の転がり軸受を長寿命化することで、大きい負荷の掛かる軸受の剛性を高める技術」と、「はすば歯車のスラスト力が特定の転がり軸受に作用するように、はすば歯車のねじれ方向を設定する技術」とが記載されているから、甲5発明において、歯のねじれ方向を、ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定することは、甲第5号証に記載された上記技術から、当業者が容易に想到し得たことといえる(第2頁第10行~第3頁第1行)。
b 特許異議申立人の主張についての当審の判断
上記特許異議申立人の主張について検討する。
甲第5号証に、結果的に、中間軸の2つのはすば歯車のねじれ方向は、前進ドライブ時に2つのはすば歯車に生じるスラスト方向の力の和が外向きとなるように規定され、そのスラスト方向の外向きの力を受けるアウトボード側の転がり軸受は長寿命設計とされた構成が示されているとしても(段落【0098】、【0099】、【0108】及び【0109】を参照。)、中間軸の2つのはすば歯車のねじれ方向を長寿命の転がり軸受の配置に関連して決定することを示唆するものではないことは、上記(ア)で述べたとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第5号証に記載の発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み更に限定したものである。
本件発明1が上記(1)で述べたように、甲第5号証に記載の発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1を更に限定した本件発明2も同様の理由により、甲第5号証に記載の発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから取り消されるべきものである旨主張しているので、本件訂正後の請求項1及び2に発明について、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。
1 甲第1号証に記載された発明
上記「第4」2(2)アより、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
[甲1発明]
「2モータ式自動車用減速機付きモータ駆動装置Aであって、
2基の減速機2L、2Rを左右並列に収容する減速機ケーシング20を中央にし、その減速機ケーシング20の左右に2基の電動モータ1L、1Rのモータケーシング3L、3Rを固定配置し、
減速機2L、2Rは、左右対称形に設けられ、モータ軸12aから動力が伝達される入力歯車23aを有する入力歯車軸23L、23Rと、この入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する中間歯車軸24L、24Rと、出力歯車25aを有し、減速機ケーシング20から引き出されて等速ジョイント15、中間シャフト16を介して駆動輪に駆動力を伝達する出力歯車軸25L、25Rとを備える平行軸歯車減速機であり、
左右2基の減速機2L、2Rの各入力歯車軸23L、23R、中間歯車軸24L、24R、出力歯車軸25L、25Rは、それぞれ同軸上に配置されており、
中間歯車軸24L、24Rは、外周面に入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する段付き歯車軸であり、
各歯車は、はすば歯車であり、
各歯車軸は、両端部を転がり軸受により回転自在に減速機ケーシング20に支持されている、
2モータ式自動車用減速機付きモータ駆動装置A。」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「自動車」は、本件発明1の「車両」に相当するから、「2モータ式自動車用減速機付きモータ駆動装置A」は、本件発明1の「車両駆動装置」に相当する。
甲1発明の「電動モータ1L、1R」は、本件発明1の「車両を駆動させるための駆動力を発生する電動モータ」に相当するから、甲1発明の「減速機ケーシング20の左右に2基の電動モータ1L、1Rのモータケーシング3L、3Rを固定配置」することは、本件発明1の「車両を駆動するための駆動力を発生させる電動モータ部」で「構成され」ることに相当する。
甲1発明の「減速機2L、2R」は、本件発明1の「減速機部」に相当する。
甲1発明の「入力歯車軸23L、23R」、「中間歯車軸24L、24R」及び「出力歯車軸25L、25R」は、それぞれ、本件発明1の「入力歯車軸」、「中間歯車軸」及び「出力歯車軸」に相当し、甲1発明の「左右2基の減速機2L、2Rの各入力歯車軸23L、23R、中間歯車軸24L、24R、出力歯車軸25L、25Rは、それぞれ同軸上に配置されて」いることは、本件発明1の「入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸」が「互いに平行に配置され」ていることに相当する。
そして、甲1発明の「減速機2L、2R」は、「左右対称形に設けられ、モータ軸12aから動力が伝達される入力歯車23aを有する入力歯車軸23L、23Rと、この入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する中間歯車軸24L、24Rと、出力歯車25aを有し、減速機ケーシング20から引き出されて等速ジョイント15、中間シャフト16を介して駆動輪に駆動力を伝達する出力歯車軸25L、25Rとを備える」ものであるから、機構的に「電動モータ1L、1R」の回転を入力歯車軸23L、23Rに入力した後、二段で減速して出力するものであるといえる。
したがって、甲1発明の、「減速機2L、2Rは、左右対称形に設けられ、モータ軸12aから動力が伝達される入力歯車23aを有する入力歯車軸23L、23Rと、この入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する中間歯車軸24L、24Rと、出力歯車25aを有し、減速機ケーシング20から引き出されて等速ジョイント15、中間シャフト16を介して駆動輪に駆動力を伝達する出力歯車軸25L、25Rとを備える平行軸歯車減速機であり、左右2基の減速機2L、2Rの各入力歯車軸23L、23R、中間歯車軸24L、24R、出力歯車軸25L、25Rは、それぞれ同軸上に配置されて」いることは、本件発明1の「互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を有し、前記入力歯車軸に入力された前記電動モータ部の回転を二段以上で減速して出力する減速機部と、を備え」ることに相当する。
甲1発明の「各歯車ははすば歯車」であることは、本件発明1の「各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成され」ることに相当する。
よって、甲1発明の、「減速機2L、2Rは、左右対称形に設けられ、モータ軸12aから動力が伝達される入力歯車23aを有する入力歯車軸23L、23Rと、この入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する中間歯車軸24L、24Rと、出力歯車25aを有し、減速機ケーシング20から引き出されて等速ジョイント15、中間シャフト16を介して駆動輪に駆動力を伝達する出力歯車軸25L、25Rとを備える平行軸歯車減速機であり、左右2基の減速機2L、2Rの各入力歯車軸23L、23R、中間歯車軸24L、24R、出力歯車軸25L、25Rは、それぞれ同軸上に配置されており、中間歯車軸24L、24Rは、外周面に入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24bを有する段付き歯車軸であり、各歯車ははすば歯車」であることは、本件発明1の「互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を有し、前記入力歯車軸に入力された前記電動モータ部の回転を二段以上で減速して出力する減速機部と、を備え、各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成され」ることに相当する。
甲1発明の「各歯車軸は、両端部を転がり軸受により回転自在に減速機ケーシング20に支持されている」ことは、本件発明1の「各歯車軸を、軸方向の二箇所に離間して配置した転がり軸受により回転自在に支持し」ていることに相当する。
以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点B]
「車両を駆動するための駆動力を発生させる電動モータ部と、
互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を有し、前記入力歯車軸に入力された前記電動モータ部の回転を二段以上で減速して出力する減速機部と、を備え、各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成された車両駆動装置において、
各歯車軸を、軸方向の二箇所に離間して配置した転がり軸受により回転自在に支持した、
車両駆動装置。」
[相違点B1]
本件発明1が、「前記減速機部に複数形成される歯車同士の噛合い部のうち、互いに噛合う二つの歯車の歯面間で生じるミスアライメント量が車両のドライブ時とコースト時とで異なる噛合い部を形成する二つの歯車に対し、前記ドライブ時に相手側と噛合う第1歯面に歯面修整を施すと共に、前記コースト時に相手側と噛合う第2歯面に、前記第1歯面に施した歯面修整量とは異なる量の歯面修整を施」すと共に、「前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の、前記第2歯面に対する歯面修正量を、前記第1歯面に対する歯面修正量よりも大きく」するものとされているのに対し、甲1発明の「入力歯車23a」と「出力歯車25a」と、「この入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24b」の歯車同士の噛合い部のミスアライメントの発生及びこのミスアライメントに対処する歯面修正を施すこと、さらに、その歯面修正の歯面修正量については特定されていない点。
[相違点B2]
本件発明1が、「各歯車軸のうち、少なくとも一つの前記中間歯車軸を、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持し」、「負荷容量が互いに異なる前記二つの転がり軸受により回転自在に支持された前記中間歯車軸に入力側中間歯車と出力側中間歯車を設け」、「前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の歯のねじれ方向が、前記ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定され」ているのに対し、甲1発明の「各歯車軸」を回転自在に支持する「転がり軸受」の負荷容量については特定されておらず、「中間歯車軸24L、24R」が有する「入力歯車23aに噛み合う大径歯車24aと出力歯車25aに噛み合う小径歯車24b」のはずばのねじれ方向についても特定されていない点。
(2)判断
ア 相違点B2について
事案に鑑み、相違点B2について検討する。
上記「第4」3(1)イ(ア)で検討したとおり、甲第5号証には、相違点B2に係る本件発明1の構成の「前記入力側中間歯車および出力側中間歯車の歯のねじれ方向が、前記ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定され」ていることは記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証~甲第4号証にも、相違点B2に係る本件発明1の構成については開示も示唆もされていない(上記「第4」2(1)ア及びイ並びに(2)イ及びウを参照。)。
したがって、甲1発明において、甲第2号証~甲第5号証に記載された技術的事項に基いて相違点B2に係る本件発明1の構成となすことは、当業者であっても容易になし得ない。
よって、相違点B1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 特許異議申立人の主張
相違点B2に関し、特許異議申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張する。
(ア)歯車におけるミスアライメントを低減させるための手段として、支持装置の剛性を高める第1の方法と、歯面修正を施す第2の方法とが存在することは甲第4号証に記載されているように当業者において周知であり、また、これら2つの方法を両方採用することも当業者には周知であるところ、甲第5号証には、はすば歯車を有する歯車軸を軸方向の二箇所に離間して配置した負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持することで、大きい負荷の掛かる軸受の剛性を高める技術が記載されている。
してみれば、甲1発明(特許異議申立人が認定した甲第1号証に記載された発明であり、当審で認定した甲1発明とほぼ同様の発明である。以下、特許異議申立人の主張の中においては同じである。)において、ミスアライメントを低減させるための手段として、第2の方法の歯面修正に加えて第1の方法を用いるにあたり、支持装置である転がり軸受の剛性を高めるべく、各歯車軸のうち、少なくとも一つの歯車軸を、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持するようにすることは、当業者容易になし得たことである(第20頁第18行~第21頁第第5行)。
(イ)甲1発明に甲第5号証に記載された技術を適用して、各歯車軸のうち少なくとも一つの歯車軸を、負荷容量が互いに異なる二つの転がり軸受により回転自在に支持することは、はすば歯車のスラストカが負荷容量が大きい方の転がり軸受に作用するようにするために行うものであるであるところ、甲第5号証には、はすば歯車のスラストカが特定の転がり軸受に作用するように、はすば歯車のねじれ方向を設定する技術が記載されているのであるから、甲1発明に甲第5号証に記載された技術を適用するにあたり、歯のねじれ方向を、ドライブ時に負荷容量が相対的に大きい方の転がり軸受にスラスト荷重が作用するように設定することは、当業者が適宜行い得たものである(第22頁第8行~第25行)。
ウ 特許異議申立人の主張についての当審の判断
上記特許異議申立人の主張について検討する。
甲第5号証には、2モータ車両駆動装置を構成するはすば歯車のねじれ方向を、相対的に長寿命な側の転がり軸受に噛合いから生じた負荷が掛かるように設定することは開示されていないし、甲第5号証には、そのような技術思想を示唆する記載もないから、甲1発明に甲第5号証に記載された技術的事項を適用しても相違点B2に係る本件発明1の構成に至らないことは上記で述べたとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記イ(ア)及び(イ)の主張は採用できない。
3 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み更に限定したものである。
本件発明1が上記2で述べたように、甲1発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1を更に限定した本件発明2も同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3及び4に係る特許は、上記「第2」のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3及び4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700922