特許異議申立
2022-700906
車両用窓ガラス
- 審判番号
- 2022-700906
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-039468
- 登録番号
- 7037047
- 請求日
- 2022年09月16日
- 審決日
- 2023年02月03日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】セントラル硝子株式会社
- 【権利者代理人】名古屋国際弁理士法人
- 【異議申立人】金澤 毅
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 羽鳥 友哉
- 審判官 粟野 正明
- 分類
- P1651.113-Y (C23C) / P1651.121-Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7037047号発明「車両用窓ガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7037047号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7037047号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成30年3月6日(パリ条約による優先権主張 2017年(平成29年)3月22日 英国(GB))に出願され、令和4年3月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月16日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年9月16日に、その請求項1~14(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である金澤毅(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
車両用窓ガラスであって、
ガラス基板と、
前記ガラス基板上に導電パターンを形成する導電層と、
前記導電層上に鉛フリーはんだによって形成されるはんだ層と、
前記はんだ層上の金属板部とを備え、
前記金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであり、
前記金属板部は、前記導電層を外部の電気配線に接続するための電気コネクタに含まれ、
前記電気コネクタは、ブリッジ部によって接続された第1の金属板部及び第2の金属板部を有し、
前記第1の金属板部と、前記第2の金属板部と、前記ブリッジ部とは、単一の金属板材から一体的に形成され、
前記第1及び第2の金属板部と前記ブリッジ部は、鉄合金を含むことを特徴とする車両用窓ガラス。
【請求項2】
前記鉄合金がインバー48であることを特徴とする請求項1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
さらに、前記ガラス基板と前記導電層との間に、焼成された着色セラミックバンド層とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記はんだ層の厚さは、0.1mmから0.3mmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
前記はんだ層が、銀を含む錫系合金からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の車両用窓ガラス。
【請求項6】
前記はんだ層が、錫を95%以上含む錫合金であることを特徴とする請求項5に記載の車両用窓ガラス。
【請求項7】
前記はんだ層が、Sn-Ag系のはんだ又はSn-Ag-Cu系のはんだであることを特徴とする請求項6に記載の車両用窓ガラス。
【請求項8】
前記金属板部の厚さが0.52mmから0.65mmであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の車両用窓ガラス。
【請求項9】
前記金属板部の厚さが0.54mmから0.6mmであることを特徴とする請求項8に記載の車両用窓ガラス。
【請求項10】
前記はんだ層と対向する前記金属板部の表面は平坦であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一つに記載の車両用窓ガラス。
【請求項11】
前記金属板部は、ニッケル、銅及び銀から選択される一つ又は複数の金属で被覆されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか一つに記載の車両用窓ガラス。
【請求項12】
前記金属板部は、前記金属板部上に形成される2μm~5μmの厚さのニッケル層と、前記ニッケル層上に形成される2μm~5μmの厚さの銅層と、前記銅層上に形成される5μm~8μmの銀層とで被覆されていることを特徴とする請求項11に記載の車両用窓 ガラス。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一つに記載の窓ガラスの製造方法であって、
前記ガラス基板上の導電層上に鉛フリーはんだを配置するステップと、
はんだ付けされる表面を有する少なくとも一つの前記金属板部を含む電気コネクタを、前記鉛フリーはんだが配置された前記導電層上に配置するステップと、
前記電気コネクタを加熱して前記導電層と前記金属板部との間で前記鉛フリーはんだを溶融させるステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記加熱が、前記電気コネクタに流れる電流による電気抵抗加熱であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、下記甲第1号証~甲第5号証(以下、単に「甲1」等という。下記5を参照。)を提出して、以下の申立理由1~4により、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性)
本件発明1、2、8~10は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、8~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(新規性)
本件発明1、3~7、10、11は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3~7、10、11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(進歩性)
本件発明1~14は、甲2に記載された発明、甲1、3、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(進歩性)
本件発明1~14は、甲3に記載された発明、甲1、2、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲1:独国実用新案第202016008092号明細書
甲2:特表2016-505194号公報
甲3:国際公開第2016/177653号
甲4:国際公開第2005/105691号
甲5:特開2014-96198号公報
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(新規性)について
(1)甲1の記載
本件特許の優先日前に公開された甲1には、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与した。以下同様。)
「
[図:0001395241000001.jpg]
」
(当審訳:[0002]DE 20 2011 100 906 U1は、平坦な担体上に位置する導電性構造体に接触させるための電気接続要素を既に開示しており、接続要素は熱融着接続材料、すなわちはんだによって固定されている。具体的には、以前に知られていた解決策は、ペイン、特に自動車ペインの電気接続要素を含む。ペインは、加熱導体又はアンテナ導体などの導電性構造体を有する車両用の少なくとも1つの電気接続要素を有する。これらの導電性構造体は、はんだ付けされた接続要素を介してオンボードエレクトロニクスに接続されている。使用される材料の熱膨張係数が異なるため、製造中及びそれ以降の操作中に無視できない機械的応力が発生し、ペインにストレスがかかり、ペインが破損したり、接触が破壊されたりする可能性がある。)
「
[図:0001395241000002.jpg]
」
(当審訳:[0009]既に説明したように、鉛含有はんだの使用も、環境面から自動車のガラス板に銀のプリントを接触させる分野では中止された。この点に関しては、鉛フリーはんだのみを使用することができる。)
「
[図:0001395241000003.jpg]
」
(当審訳:[0021]本発明の発展として、腹板は、それらの自由端の方向に少なくとも1つの膨らみを有し、これは、導電性構造体に面する下側に規定されたはんだ付け隙間を形成するために設けられる。これらの膨らみは、例えばエンボス加工によって実現することができる。)
「
[図:0001395241000004.jpg]
」
(当審訳:[0025]はんだ付け脚又ははんだ付けブリッジの材料の厚さは0.4~0.8mmである。)
「
[図:0001395241000005.jpg]
」
(当審訳:[0029]接続要素の材質は、鉄ニッケル合金、鉄クロム合金、又はこれらの混合物からなることが好ましい。FeNi48が好ましく用いられる。)
「
[図:0001395241000006.jpg]
」
(当審訳:[0039]図3は、片側あたり3つの腹板を有するはんだ付けブリッジの上面図及び側面図を示しており、特に有利である例示的な寸法である。
[0040]図では、基本的にはんだ付けブリッジの形の電気接続要素を想定している。このようなはんだ付けブリッジは、接続領域又は接続片1を有する。接続片上には図示しない接続線又は類似の接続手段が接触される。接続片1から両側に展開された領域2が延びている。)
「
[図:0001395241000007.jpg]
」
(当審訳:[0049]また、下側に存在するそれぞれの膨らみ7も、規定されたはんだ付け隙間を形成するために設計されている。
[0050]例示的な寸法が示されている図3から分かるように、規定されたはんだ付け隙間は好ましくは0.7mmである。
[0051]たとえば、ブリッジ幅は0.9mmである。はんだ付けブリッジの全長は24mmで、コネクタは約7mmである。スロット幅は約0.45mmで、はんだ付けブリッジの全幅は4mmである。)
「
[図:0001395241000008.jpg]
」
(当審訳:特許請求の範囲 【請求項1】熱融着接続材料を用いて平坦な担体上に位置する導電性構造体に接触させる電気接続要素であって、好ましくは可撓性導体を固定する手段が片面に配置され、接続要素が接続片を有するはんだ付け脚又ははんだ付けブリッジとして設計されており、導電性構造体に接続される少なくともはんだ付け脚又ははんだ付けブリッジの部分は、展開され、スロット(5)によって離間された少なくとも二つの腹板(4)を有することが特徴である、電気接続要素。)
「
[図:0001395241000009.jpg]
」
(当審訳:【請求項7】材料の厚さが0.4~0.8mmの範囲であることを特徴とする、前記請求項の何れか1つに記載の電気接続要素。
【請求項8】最小量の鉛フリー接続材料を使用することを特徴とする、前記請求項の何れか1つに記載の電気接続要素。)
「
[図:0001395241000010.jpg]
」
(当審訳:【請求項11】接続要素が、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、又はこれらの混合物からなることを特徴とする、前記請求項の何れか1つに記載の電気接続要素。
【請求項12】平坦な担体がガラスであることを特徴とする、前記請求項の何れか1つに記載の電気接続要素。)
「
[図:0001395241000011.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
ア 図3に着目した場合
上記(1)の記載のうち、図3、[0039]、[0040]に着目すると、甲1には次の発明(以下、「引用発明1ア」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1ア>
はんだ付けブリッジであって、
前記はんだ付けブリッジの厚さは0.55であり、
前記はんだ付けブリッジは電気接続要素を想定し、
前記はんだ付けブリッジは、接続領域又は接続片1を有し、接続片1から両側に展開された領域2が延びている、はんだ付けブリッジ。
イ 特許請求の範囲に着目した場合
上記(1)の記載のうち、特許請求の範囲の記載に着目すると、甲1には次の発明(以下、「引用発明1イ」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1イ>
熱融着接続材料を用いて平坦な担体上に位置する導電性構造体に接触させる電気接続要素であって、好ましくは可撓性導体を固定する手段が片面に配置され、接続要素が接続片を有するはんだ付け脚又ははんだ付けブリッジとして設計されており、導電性構造体に接続される少なくともはんだ付け脚又ははんだ付けブリッジの部分は、展開され、スロットによって離間された少なくとも二つの腹板を有する、電気接続要素であって、
平坦な担体がガラスであり、
最小量の鉛フリー接続材料を使用し、
材料の厚さは0.4~0.8mmの範囲であり、
接続要素が、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、又はこれらの混合物からなる、電気接続要素。
(3)本件発明1と、引用発明1アとの対比
ア 引用発明1アの「電気接続要素を想定し」た「はんだ付けブリッジ」は、本件発明1の「金属板部」に相当する。
イ 甲1の図3には、長さの単位が記載されていないものの、甲1の[0050]、[0051]に記載されたはんだ付け隙間、ブリッジ幅、はんだ付けブリッジ等の長さの単位が全てmmであり、また、甲1の[0050]、[0051]に記載された数字が、甲1の図3の対応する箇所における長さの数字と一致することから、図3における長さの単位はmmであると認められる。そうすると、引用発明1アのはんだ付けブリッジの厚さは0.55であることは、本件発明1の「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」ることに相当する。
ウ 引用発明1アの「接続領域又は接続片1」は、本件発明1の「ブリッジ部」に相当する。
エ 引用発明1アの「接続片1から両側に展開された領域2」は、両側のうちの一方が本件発明1の「第1の金属板部」に、他方が本件発明1の「第2の金属板部」に、それぞれ相当する。
オ そうすると、本件発明1と引用発明1アとは、以下の点で一致し、また以下の点で相違する。
<本件発明1と引用発明1アとの一致点>
金属板部の厚さが、0.5mmから0.7mmであり、
ブリッジ部によって接続された第1の金属板部及び第2の金属板部を有する点。
<相違点1>
本件発明1は、「車両用窓ガラスであって、
ガラス基板と、
前記ガラス基板上に導電パターンを形成する導電層と、
前記導電層上に鉛フリーはんだによって形成されるはんだ層」を有し、「前記はんだ層上」に「金属板部」を備えているのに対し、引用発明1アはそのような構成を備えていない点。
<相違点2>
本件発明1の金属板部は「前記導電層を外部の電気配線に接続するための電気コネクタに含まれ」るのに対し、引用発明1アのはんだ付けブリッジはそのような電気コネクタに含まれるか定かではない点。
<相違点3>
本件発明1は「前記第1の金属板部と、前記第2の金属板部と、前記ブリッジ部とは、単一の金属板材から一体的に形成され」ているのに対し、引用発明1アのはんだ付けブリッジは単一の金属板材から一体的に形成されているか定かではない点。
<相違点4>
本件発明1は「前記第1及び第2の金属板部と前記ブリッジ部は、鉄合金を含む」のに対し、引用発明1アのはんだ付けブリッジは鉄合金を含むか定かではない点。
(4)本件発明1と、引用発明1アとの相違点の検討
まず、上記相違点1について検討するに、引用発明1アは「車両用窓ガラスであって、
ガラス基板と、
前記ガラス基板上に導電パターンを形成する導電層と、
前記導電層上に鉛フリーはんだによって形成されるはんだ層」を有し、「前記はんだ層上」に「金属板部」を備えるという構成を有していないことから、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、相違点2~4について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1アであるとはいえない。
(5)本件発明1と、引用発明1イとの対比
ア 引用発明1イの「ガラス」である「平坦な担体」は、本件発明1の「ガラス基板」に相当する。
イ 引用発明1イにおいて、「電気接続要素」および「接続要素」は同じものを意味していると解釈すると、引用発明1イにおける「電気接続要素」および「接続要素」は、本件発明1の「金属板部」に相当する。
ウ 引用発明1イの「接続片」は、本件発明1の「ブリッジ部」に相当する。
エ 引用発明1イの「はんだ付け脚又ははんだ付けブリッジ」は、本件発明1の「第1の金属板部及び第2の金属板部」に相当する。
オ 引用発明1イの「鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、又はこれらの混合物からなる」ことは、本件発明1の「鉄合金を含む」ことに相当する。
カ そうすると、本件発明1と引用発明1イとは、以下の点で一致し、また以下の点で相違する。
<本件発明1と引用発明1イとの一致点>
ガラス基板と、
金属板部とを備え、
ブリッジ部によって接続された第1の金属板部及び第2の金属板部を有し、
前記第1及び第2の金属板部と前記ブリッジ部は、鉄合金を含む点。
<相違点5>
本件発明1は「車両用窓ガラス」であるのに対し、引用発明1イは、ガラス基板を有するものの、それが車両用窓ガラスであるか定かではない点。
<相違点6>
本件発明1は「ガラス基板上に導電パターンを形成する導電層」を有するのに対し、引用発明1イは、ガラスである平坦な担体上に導電性構造体が位置しているものの、当該導電性構造体が層であるか定かではない点。
<相違点7>
本件発明1は「導電層上に鉛フリーはんだによって形成されるはんだ層と、
前記はんだ層上の金属板部とを備え」ているのに対し、引用発明1イは、熱融着接続材料を用いて電気接続要素を導電性構造体に接触させているものの、当該熱融着接続材料が鉛フリーはんだであるかが定かではなく、また、当該熱融着接続材料が層であるか定かではない点。
<相違点8>
本件発明1は「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」るのに対し、引用発明1イは、材料の厚さが0.4~0.8mmの範囲であるものの、この「材料」とは何を意味しているのか定かではなく、また、仮に、この「材料」が「電気接続要素」または「接続要素」を意味するとしても、その厚さが0.4~0.8mmの範囲である点。
<相違点9>
本件発明1は「金属板部は、前記導電層を外部の電気配線に接続するための電気コネクタに含まれ」るのに対し、引用発明1イは、電気接続要素または接続要素がそのような電気コネクタに含まれるか定かではない点。
<相違点10>
本件発明1は「第1の金属板部と、前記第2の金属板部と、前記ブリッジ部とは、単一の金属板材から一体的に形成され」るのに対し、引用発明1イは、単一の金属板材から一体的に形成されるか定かではない点。
(6)本件発明1と、引用発明1イとの相違点の検討
まず、上記相違点5について検討するに、引用発明1は「車両用窓ガラス」であることは特定されていないことから、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、相違点6~10について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1イであるとはいえない。
(7)申立人の特許異議申立書における主張についての検討
申立人は、特許異議申立書において、甲1における、いわゆる背景技術に相当すると認められる[0002]、[0009]の記載や、特に有利である例示的な寸法を示すとされている図3の記載、さらには特許請求の範囲の記載など、甲1におけるさまざまな箇所における記載に基づき発明を認定し、本件発明とそのように認定した発明とを対比することにより、新規性がない旨主張している。
しかしながら、甲1における[0002]、[0009]の記載や図3の記載、及び特許請求の範囲の記載は、それぞれ異なる技術思想に基づくものであると認められるところ、それらの記載を合わせて1つの発明を認定することは適切であるとはいえない。
したがって、そのように認定した発明に基づく申立人の主張は採用できない。
(8)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないことから、申立理由1(新規性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明2、8~10は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が、甲1に記載された発明とはいえない以上、本件発明2、8~10についても同様に、甲1に記載された発明とはいえない。したがって、申立理由1(新規性)によっては、本件特許の請求項2、8~10に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(新規性)、3(進歩性)について
(1)甲2の記載
本件特許の優先日前に公開された甲2には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電気的な接続要素を備えるパネルであって、少なくとも
基板(1)と、
前記基板(1)の所定領域に導電性の構造(2)と、
前記導電性の構造(2)の所定領域に接続要素(3)と、
を備え、前記接続要素(3)は、少なくともクロム含有の鋼を含み、
前記接続要素(3)は、接続ケーブル(5)の周りに圧着される圧着領域を有し、前記接続要素(3)の圧着領域は、ろう材料(4)を介して前記導電性の構造(2)に接続されていることを特徴とする、電気的な接続要素を備えるパネル。」
「【請求項3】
前記接続要素(3)の材料厚さは、0.1mm~2mm、好ましくは0.2mm~1mm、特に好ましくは0.3mm~0.5mmである、請求項1又は2記載のパネル。」
「【請求項5】
前記接続要素(3)は、少なくとも66.5質量%~89.5質量%鉄、10.5質量%~20質量%クロム、0質量%~1質量%炭素、0質量%~5質量%ニッケル、0質量%~2質量%マンガン、0質量%~2.5質量%モリブデン、0質量%~2質量%ニオブ及び0質量%~1質量%チタンを含む、請求項1から4までのいずれか1項記載のパネル。」
「【請求項7】
前記基板(1)は、ガラス、好ましくは板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス及び/又はソーダ石灰ガラスを含む、請求項1から6までのいずれか1項記載のパネル。」
「【請求項10】
前記ろう材料(4)は、鉛フリーであり、好ましくはすず及びビスマス、インジウム、亜鉛、銅、銀又はこれらの組み合わせを含む、請求項1から9までのいずれか1項記載のパネル。」
「【請求項12】
前記ろう材料(4)は、90質量%~99.5質量%すず、0.5質量%~5質量%銀及び0質量%~5質量%銅を含む、請求項10記載のパネル。
【請求項13】
前記接続要素(3)には、ニッケル、すず、銅及び/又は銀がコーティングされている、請求項1から12までのいずれか1項記載のパネル。
【請求項14】 少なくとも1つの電気的な接続要素を備えるパネルを製造する方法であって、
a)少なくともクロム含有の鋼を含む前記接続要素(3)を所定領域における圧着により接続ケーブル(5)に接続し、
b)ろう材料(4)を前記接続要素(3)の圧着領域の下面に被着し、
c)前記接続要素(3)を前記ろう材料(4)とともに、基板(1)の所定領域に被着されている導電性の構造(2)の所定領域に配置し、かつ
d)前記接続要素(3)を前記導電性の構造(2)に、エネルギを供給して接続する、
ことを特徴とする、電気的な接続要素を備えるパネルを製造する方法。
【請求項15】
請求項1から13までのいずれか1項記載の、少なくとも1つの電気的な接続要素を備えるパネルの、建造物、又は陸上、空中又は水上若しくは水中交通のための移動手段、特にレール車両又は自動車における、好ましくはウインドシールド、リヤウィンドウ、サイドウィンドウ及び/又はルーフウィンドウ、特に加熱可能なパネル又はアンテナ機能を有するパネルとしての使用。」
「【0002】
特に本発明は、例えば発熱導体又はアンテナ導体等の導電性の構造を備える、車両用の電気的な接続要素を備えるパネルあるいはグレージングに関するものである。導電性の構造は、一般にろう接される電気的な接続要素を介して搭載電源網に接続されている。使用される材料の熱膨張係数がそれぞれ異なることに基づいて、製造時及び運転中に機械的応力が発生する。この機械的応力は、パネルに負荷を与え、パネルの破損を引き起こす場合がある。」
「【0005】
本発明の課題は、特に鉛フリーのろう材料を用いてろう接するのに好適であり、しかもパネル内の臨界的な機械的応力が回避される、電気的な接続要素を備えるパネルを提供することである。さらに、このパネルを製造する経済的かつ環境親和的な方法を提供することである。」
「【0013】
接続要素の材料厚さは、好ましくは0.1mm~2mm、特に好ましくは0.2mm~1mm、さらに好ましくは0.3mm~0.5mmである。材料厚さに関するこの範囲内で、接続要素は、一方では、圧着のために必要な冷間成形性を示す。他方、材料厚さに関するこの範囲内で、圧着接続の好ましい安定性と、導電性の構造と接続ケーブルとの間の好ましい電気的な接続とが達成される。」
「【0018】
接続要素は、開放型のクリンプとして形成されていても、閉鎖型のクリンプとして形成されていてもよい。開放型のクリンプの場合、接続要素は、平らな小板又は予め曲げられてクリンプ爪を形成する小板として提供される。接続要素の側縁は、次に接続ケーブルの周りに曲成される。閉鎖型のクリンプの場合、接続要素は、周囲を取り巻くように閉じたバレル(クローズドバレル)として形成されており、このバレル内に接続ケーブルが導入され、バレルは、次に圧潰により変形される。」
「【0020】
本発明は、特定の圧着形状に限定されない。圧着形状は、当業者により個々の事例において必要に応じて上述の形状又はその他の公知の形状から適宜選択可能である。」
「【0036】
ろう材料の層厚さは、好ましくは6.0×10-4m以下、特に好ましくは3.0×10-4m未満である。」
「【0045】
本発明における接続要素は、好ましくはニッケル、すず、銅及び/又は銀によりコーティングされている。本発明における接続要素は、特に好ましくは接合促進層(haftvermittelnde Schicht)、好ましくはニッケル及び/又は銅からなる接合促進層と、付加的にろう接可能な層、好ましくは銀からなるろう接可能な層とを有している。本発明における接続要素には、特に好ましくは0.1μm~0.3μmのニッケル及び/又は3μm~20μmの銀がコーティングされている。接続要素には、ニッケルめっき、すずめっき、銅めっき及び/又は銀めっきが施されてもよい。ニッケル及び銀は、接続要素の電流容量及び腐食安定性並びにろう材料の濡れを改善する。」
「【0049】
電気的な接続要素と導電性の構造との電気的な接続時のエネルギ供給は、好ましくはパンチ、サーモード、コテろう接、好ましくはレーザろう接、高温空気ろう接、誘導ろう接、抵抗ろう接及び/又は超音波により実施される。」
「【0055】
図1、図2及び図3は、それぞれ、電気的な接続要素3の領域における本発明に係るパネルあるいはグレージングの詳細図である。パネルは、基板1を有している。基板1は、ソーダ石灰ガラスからなる3mm厚の熱により予め応力が付与された一枚の安全ガラスである。基板1は、150cmの幅及び80cmの高さを有している。基板1には、発熱導体構造の形態の導電性の構造2がプリントされている。導電性の構造2は、銀粒子及びガラスフリットを含んでいる。パネルの縁部領域には、導電性の構造2が、10mmの幅に拡げられており、電気的な接続要素3のためのコンタクト面を形成している。基板1の縁部領域には、さらに、図示しないカバースクリーン印刷部が設けられている。電気的な接続要素3と導電性の構造2との間のコンタクト面8の領域には、ろう材料4が被着されている。ろう材料4は、電気的な接続要素3と導電性の構造2との間の持続的な電気的かつ機械的な接続を生じる。ろう材料4は、57質量%ビスマス、40質量%すず及び3質量%銀を含んでいる。ろう材料4は、250μmの厚さを有している。」
「【0057】
接続要素3は、開放型のクリンプとして形成されている。加えて接続要素3は、パネルの製造時に例えば0.4mmの材料厚さを有する小板として提供されており、圧着工具により接続ケーブル5の周りに曲成され、かしめ(圧潰)により持続的に安定に接続ケーブル5に接続される。接続要素3の長さは、クリンプの長さ(クリンプ長さ)Lに等しく、約4.5mmであり、接続要素3の幅(クリンプ幅)Bは、約2.5mmである。」
「【0064】
図8は、本発明に係るパネルのさらに別の態様の断面図B-B′である。接続要素3は、図3に示したような開放型のBクリンプとして形成されている。図3に示した態様とは異なり、接続要素3は、クリンプベースが基板1から背離し、かつ特徴的な圧潰構造が、基板1に対面し、ろう材料4を介して導電性の構造2に接続されているようにパネルに配置されている。この接続要素3の配置の利点は、特徴的な圧潰構造の丸みを帯びた領域がスペーサとして用いられることができ、これにより簡単に導電性の構造2に対する接続要素3の所定の間隔が達成されることにある。加えて、丸みを帯びた領域は、ろう材料4の好ましい分布(好ましいろう接溝の形成)に至らしめることが判った。」
「
[図:0001395241000012.jpg]
」
(2)甲2に記載された発明
上記(1)の記載のうち、特許請求の範囲の記載に着目すると、甲2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明2>
少なくとも1つの電気的な接続要素を備えるパネルであって、少なくとも
基板と、
前記基板の所定領域に導電性の構造と、
前記導電性の構造の所定領域に接続要素と、
を備え、前記接続要素は、少なくともクロム含有の鋼を含み、
前記接続要素は、接続ケーブルの周りに圧着される圧着領域を有し、前記接続要素の圧着領域は、ろう材料を介して前記導電性の構造に接続されており、
前記接続要素の材料厚さは、特に好ましくは0.3mm~0.5mmであり、
前記接続要素は、少なくとも66.5質量%~89.5質量%鉄、10.5質量%~20質量%クロム、0質量%~1質量%炭素、0質量%~5質量%ニッケル、0質量%~2質量%マンガン、0質量%~2.5質量%モリブデン、0質量%~2質量%ニオブ及び0質量%~1質量%チタンを含んでおり、
前記基板は、ガラス、好ましくは板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス及び/又はソーダ石灰ガラスを含んでおり、
前記ろう材料は、鉛フリーであり、
建造物、又は陸上、空中又は水上若しくは水中交通のための移動手段、特にレール車両又は自動車における、好ましくはウインドシールド、リヤウィンドウ、サイドウィンドウ及び/又はルーフウィンドウ、特に加熱可能なパネル又はアンテナ機能を有するパネルとして使用されるパネル。
(3)甲3の記載
本件特許の優先日前に公開された甲3には、次の記載がある。
「
[図:0001395241000013.jpg]
」(第1頁)
(当審訳:本発明は、ことに、例えば発熱導体またはアンテナ導体のような導電性構造を備えた車両用の電気接続エレメントを備えたガラス板に関する。導電性構造は、通常でははんだ付けされた電気接続エレメントを備えていて、この電気接続エレメントは結合エレメントを介して電装品と結合されている。結合エレメントは、フレキシブルな接続ケーブルであることができ、この接続ケーブルは、接続エレメントに直接取り付けられ、通常では接続エレメントと溶接されている。一般的に、結合ケーブルは規格化された差込コネクタを備えている。このガラス板は、結合エレメント込みで接続エレメントと一緒に組立式に製造することができる。車両ボディに組み込む場合に、この結合エレメントを、極めて簡単にかつ時間を節約して電気ケーブルを用いて電装品に、ことに差込接続を用いて結合することができる。)
「
[図:0001395241000014.jpg]
[図:0001395241000015.jpg]
」(第3~4頁)
(当審訳:本発明による接続エレメントは、ブリッジ型に形成されている。このような接続エレメントは、1つのブリッジ領域と少なくとも2つのはんだ付け脚部とを含む。はんだ付け脚部は、接触面を有し、この接触面は、はんだ材料を介して導電性構造と接触している。ブリッジ領域は、必須ではないが一般に平坦に形成されていて、かつ基材表面に対してほぼ平行に調整されている。ブリッジ領域は、基材と直接接触しておらず、基材の上方に配置されているので、ブリッジ領域と基材表面との間に空間が生じる。はんだ付け脚部は、ブリッジ領域の2つの向かい合う側から出発して基材表面方向に向かって延び、かつその端部に一般に、平坦でかつ基材表面に対してほぼ平行に配置されている部分を有する。この部分の、基材に向かう側の表面は、接触面(またははんだ付け面)を形成し、この接触面は、はんだ材料を介して、基材上の導電性構造と接触する。)
「
[図:0001395241000016.jpg]
」(第8頁)
(当審訳:この接続エレメントは、好ましくは少なくとも1種の鉄含有合金を含む。この接続エレメントは、特に好ましくは少なくとも鉄50質量%~89.5質量%、ニッケル0質量%~50質量%、クロム0質量%~20質量%、コバルト0質量%~20質量%、マグネシウム0質量%~1.5質量%、ケイ素0質量%~1質量%、炭素0質量%~1質量%、マンガン0質量%~2質量%、モリブデン0質量%~5質量%、チタン0質量%~1質量%、ニオブ0質量%~1質量%、バナジウム0質量%~1質量%、アルミニウム0質量%~1質量%および/またはタングステン0質量%~1質量%を含む。)
「
[図:0001395241000017.jpg]
」(第10頁)
(当審訳:接続エレメントの材料の厚みは、好ましくは0.1mm~4mm、特に好ましくは0.2mm~2mm、全く特に好ましくは0.4mm~1mm、例えば0.8mmである。同様のことが、結合エレメントについても、この結合エレメントが、堅固な小板として形成されている場合に当てはまる。材料の厚みは、好ましくは一定であり、このことは、このエレメントの簡単な製造の観点で特に好ましい。)
「
[図:0001395241000018.jpg]
」(第12頁)
(当審訳:さらに好ましい実施態様の場合に、はんだ材料は、スズ90質量%~99.5質量%、好ましくは95質量%~99質量%、特に好ましくは93質量%~98質量%を含む。はんだ材料は、スズの他に、好ましくは銀0.5質量%~5質量%および銅0質量%~5質量%を含む。
はんだ材料の層厚は、好ましくは6.0×10-4m以下、特に好ましくは3.0×10-4m未満である。)
「
[図:0001395241000019.jpg]
[図:0001395241000020.jpg]
」(第13~14頁)
(当審訳:接続エレメントおよび/または結合エレメントは、例えばニッケル、銅、亜鉛、スズ、銀、金またはこれらの合金またはこれらの層を含む、好ましくは銀またはスズを含む被覆(湿潤層)を有していてよい。これにより、接続エレメントのはんだ材料による改善された濡れ、および接続エレメントの改善された付着が達成される。さらに、このような被覆により、接続エレメントと結合エレメントとの導電性を高めることができる。
好ましい実施態様の場合に、接続エレメントは、好ましくはニッケルおよび/または銅からなる接着媒介層を備え、かつ付加的に銀を含む層を備えている。本発明による接続エレメントは、全く特に好ましくは、ニッケル0.1μm~0.3μmで被覆され、その上に任意に銅0.1μm~10μm、およびその上に銀3μm~20μmで被覆されている。)
「
[図:0001395241000021.jpg]
」(第14頁)
(当審訳:本発明は、さらに、
(a)ブリッジ型の電気接続エレメントを結合エレメントと結合し、
(b)接続エレメントのはんだ付け脚部の接触面上にはんだ材料を施し、
(c)はんだ材料を備えた接続エレメントを、基材の領域上に施されている導電性構造の領域上に配置し、かつ
(d)接続エレメントを導電性構造とエネルギー導入下で結合する、
本発明によるガラス板の製造方法を含む。)
「
[図:0001395241000022.jpg]
」(第15頁)
(当審訳:電気接続エレメントと導電性構造との電気的結合の際のエネルギー導入は、好ましくは、パンチ式はんだ付け、熱極式はんだ付け、ピストン式はんだ付け、レーザー式はんだ付け、熱風式はんだ付け、誘導式はんだ付け、抵抗式はんだ付けを用いておよび/または超音波を用いて行われる。)
「
[図:0001395241000023.jpg]
」(第16頁)
(当審訳:図1は、本発明によるガラス板(展開図)を示し、図2は、本発明による接続エレメントの縦軸に沿った断面図を示す。図3は、それに対して垂直方向の、ブリッジ領域を通過する結合エレメントの縦軸に沿った他の断面図を示す。ガラス板は、例えば、乗用車のリヤウインドウであり、かつ石灰ソーダガラスからなる3mmの厚みの、熱によりプレストレスがかけられた強化安全ガラスである基材1を含む。基材1は、例えば150cmの幅および80cmの高さを有する。基材1上には、導電性構造2が、発熱導体構造の形で印刷されている。導電性構造2は、銀粒子およびガラスフリットを含む。ガラス板の周縁領域には、導電性構造2が、約10mmの幅に拡張されていて、電気接続エレメント3のための接触面が形成される。接続エレメント3は、導電性構造2の、図示されていない接続ケーブルを介した外部電源供給部との電気接触のために用いられる。電気接触は、乗用車の外側の観察者にとって、導電性構造2と基材1との間の遮閉スクリーン印刷部6により隠されている。
接続エレメント1はブリッジ状に形成されていて、1つのブリッジ領域3aと、向かい合って配置された2つのはんだ付け脚部3bとを有する。各はんだ付け脚部3bは、下側に平坦な面Kを有し、この場合、両方のはんだ付け脚部3bの面Kは、同一平面上にあり、かつはんだ付けするための接続エレメント3の接触面を形成する。この接触面Kは、はんだ材料4を介して、導電性構造2と持続的に、電気的にかつ機械的に結合されている。はんだ材料4は鉛フリーであり、ビスマス57質量%、スズ40質量%、および銀3質量%を含み、かつ250μmの厚みを有する。)
「
[図:0001395241000024.jpg]
」(第17頁)
(当審訳:温度変化による臨界的な機械的応力を避けるために、接続エレメント3の熱膨張係数は、基材1の熱膨張係数に合わせられている。接続エレメント3は、例えば、20℃~300℃の温度範囲で10.5×10-6/℃の熱膨張係数を有するEN10088-2による素材番号1.4509のクロム含有鋼(ThyssenKrupp Nirosta(登録商標)4509)からなる。車両用ガラス板は、一般に石灰ソーダガラスから作製されていて、これは約9・10-6/℃の熱膨張係数を有する。膨張係数の僅かな差により、臨界的熱応力を避けることができる。)
「
[図:0001395241000025.jpg]
」
(当審訳:特許請求の範囲
請求項1
少なくとも、
― 基材(1)、
― 前記基材(1)の領域上の導電性構造(2)、
― 1つのブリッジ領域(3a)と少なくとも2つのはんだ付け脚部(3b)とを含み、前記はんだ付け脚部(3b)がはんだ材料(4)を介して前記導電性構造(2)の領域と結合されているブリッジ型の電気接続エレメント(3)、および
― 前記接続エレメント(3)に取り付けられた電気結合エレメント(5)
を含む、少なくとも1つの電気接続エレメントを備えたガラス板であって、
前記結合エレメント(5)は、
― 前記ブリッジ領域(3a)の、前記基材(1)に向かう側の表面(I)上に取り付けられているか、または
― 前記ブリッジ領域(3a)の、前記基材(1)とは反対側の表面(II)に取り付けられていて、かつ前記ブリッジ領域(3a)の周りを回るように案内されているので、前記結合エレメント(5)は、前記ブリッジ領域(3a)の、基材(1)に向かう側の表面(I)に当接し、
ここで、前記接続エレメント(3)の材料の溶融温度と、前記結合エレメント(5)の材料の溶融温度との間の差は、200℃より大きく、かつ前記結合エレメント(5)は、溶接結合によって前記接続エレメント(3)に取り付けられている、少なくとも1つの電気接続エレメントを備えたガラス板。
請求項2
前記はんだ材料(4)は鉛フリーはんだ材料である、請求項1記載のガラス板。)
「
[図:0001395241000026.jpg]
」
(当審訳:請求項7
前記接続エレメント(3)は、少なくとも1種の鉄含有合金を含む、請求項1から6までのいずれか1項記載のガラス板。)
「
[図:0001395241000027.jpg]
」
(当審訳:請求項10
前記接続エレメント(3)の材料の厚みは、0.1mm~4mm、好ましくは0.2mm~2mm、特に好ましくは0.4mm~1mmである、請求項1から9までのいずれか1項記載のガラス板。)
「
[図:0001395241000028.jpg]
」
(当審訳:請求項12
前記基材(1)は、ガラス、好ましくは石灰ソーダガラスを含む、請求項1から11までのいずれか1項記載のガラス板。
請求項13
前記導電性構造(2)は、少なくとも銀、好ましくは銀粒子およびガラスフリットを含み、かつ5μm~40μmの層厚を有する、請求項1から12までのいずれか1項記載のガラス板。)
「
[図:0001395241000029.jpg]
」
(当審訳:請求項15
建築物における、または陸上、空中もしくは水上での交通用の移動手段における、ことに鉄道車両または自動車における、好ましくはフロントウインドウ、リヤウインドウ、サイドウインドウ、および/またはルーフウインドウとして、ことに加熱可能なガラス板としてまたはアンテナ機能を備えたガラス板としての、請求項1から13までのいずれか1項記載のガラス板の使用。)
「
[図:0001395241000030.jpg]
」
(4)甲4の記載
本件特許の優先日前に公開された甲4には、次の記載がある。
「[0002] 従来、自動車用リアガラスには、導電性プリントからなるデフォッガやガラスアンテナを車内側の面に設けられたものがある。例えばデフォッガは、リアガラスのほぼ全面に亘って横向きかつ平行に配設された複数本の抵抗発熱線と、この抵抗発熱線の端部に給電するための2本のバスバとで構成されている。2本のバスバは、リアガラスの左右両側に対向して配設され、抵抗発熱線に充分な電力を供給すべく、抵抗発熱線よりも太い配線幅を有する。バスバ間には直流電流が印加され、それにより抵抗発熱線が発熱してリアガラスを温め、結露による視界不良を防ぐことができる。」
「[0004] 一方、近年においては、ガラス板の周縁部に暗色セラミックプリントを設けることが行われ、この暗色セラミックプリント上にバスバを印刷することでバスバの露出を防ぎ、デザイン性を高めることが行われている。暗色セラミックプリントは、銀ペーストと同様に黒色を呈する金属粒子(クロム、コバルト、ビスマス等の酸化物)とガラスフリットとを有機バインダに練り込んで作られた公知のペースト(以下、暗色セラミックペーストという)を印刷・焼成することで作られる。」
「[0006] リアガラスは、暗色セラミックプリントを印刷してからその上にバスバ等の導電性プリントを印刷し、その後に加熱炉内でこれらのプリントを焼成しつつ、ガラス板を所定の曲げ成形温度まで加熱する。そして、加熱されたガラス板をプレス等により所定の湾曲形状に曲げ成形してから風冷強化する方法によりいわゆる物理強化ガラスとして製造される。」
(5)甲5の記載
本件特許の優先日前に公開された甲5には、次の記載がある。
「【請求項1】
自動車用窓ガラスの導電線への給電端子を銀ペーストの焼結体と無鉛ハンダ合金により加熱接合させる方法において、銀ペーストの焼結体上に無鉛ハンダ合金を加熱溶着させる第1ステップ、その無鉛ハンダ合金と同組成の無鉛ハンダ合金を自動車用窓ガラスの給電端子に加熱溶着させる第2ステップ、さらに、自動車用窓ガラスとその給電端子を上述の無鉛ハンダ合金で加熱接合させる第3ステップからなることを特徴とする自動車用窓ガラスと給電端子の接合方法。」
「【0040】
銀ペーストの焼結体3の上には、第1ステップで付与された無鉛ハンダ合金層4と第2ステップで付与された無鉛ハンダ合金層5が共存している。さらに、第2ステップで付与された無鉛ハンダ合金層5の上には、給電端子6がある。この給電端子6は、黄銅製であることが多いが、その材質は問わない。なお、給電端子6の一般的な形状を図1に示したが、給電端子の形状は数多くあり、本形状に限定されるものではない。また、給電端子6を大きくみると、外部の給電素子との連結部分10とガラスと付着する給電端子座11から成り立っている。なお、給電端子座11は2つ座があるのが一般的であるが、1つの場合あるいは3つ以上の場合もある。」
「【0063】
さらに、第3ステップとして、第1ステップと第2ステップで加熱溶着した無鉛ハンダ合金を合わせて端子とガラスをクリップで固定し、ステインネル社製のヒーターを当ててハンダ付けを行った。このとき、無鉛ハンダ合金温度が約160℃になるようヒーターを調整した。」
「【0069】
さらに、第3ステップとして、第1ステップと第2ステップで加熱溶着した無鉛ハンダ合金を合わせて端子とガラスをクリップで固定し、ステインネル社製のヒーターを当ててハンダ付けを行った。このとき、ハンダ温度が約230℃になるようヒーターを調整した。」
(6)本件発明1と、引用発明2との対比
ア 引用発明2の「少なくとも1つの電気的な接続要素を備えるパネルであって、少なくとも
基板」を備え、「前記基板は、ガラス、好ましくは板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス及び/又はソーダ石灰ガラスを含んでおり」、「建造物、又は陸上、空中又は水上若しくは水中交通のための移動手段、特にレール車両又は自動車における、好ましくはウインドシールド、リヤウィンドウ、サイドウィンドウ及び/又はルーフウィンドウ、特に加熱可能なパネル又はアンテナ機能を有するパネルとして使用されるパネル」は、本件発明1の「車両用窓ガラス」に相当する。
イ 引用発明2の「前記基板は、ガラス、好ましくは板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス及び/又はソーダ石灰ガラスを含んで」いることは、本件発明1の「ガラス基板」に相当する。
ウ 引用発明2の「接続要素」は、本件発明1の「金属板部」に相当する。
エ 引用発明2の「少なくとも66.5質量%~89.5質量%鉄、10.5質量%~20質量%クロム、0質量%~1質量%炭素、0質量%~5質量%ニッケル、0質量%~2質量%マンガン、0質量%~2.5質量%モリブデン、0質量%~2質量%ニオブ及び0質量%~1質量%チタンを含む」ことは、本件発明1の「鉄合金を含む」ことに相当する。
オ そうすると、本件発明1と引用発明2とは、以下の点で一致し、また以下の点で相違する。
<本件発明1と引用発明2との一致点>
車両用窓ガラスであって、
ガラス基板と、
金属板部とを備え、
鉄合金を含むことを特徴とする車両用窓ガラス。
<相違点11>
本件発明1は、「導前記ガラス基板上に導電パターンを形成する導電層と、
前記導電層上に鉛フリーはんだによって形成されるはんだ層と、
前記はんだ層上の金属板部とを備え」ているのに対し、引用発明2は、基板の所定領域に導電性の構造と、前記導電性の構造の所定領域に接続要素と、を備え、前記基板は、ガラス、好ましくは板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス及び/又はソーダ石灰ガラスを含んでおり、前記接続要素の圧着領域は、ろう材料を介して前記導電性の構造に接続されており、前記ろう材料は、鉛フリーであるものの、導電性の構造及びろう材料が、それぞれ層であるか定かではない点。
<相違点12>
本件発明1は「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」るのに対し、引用発明2は接続要素の材料厚さは、特に好ましくは0.3mm~0.5mmである点。
<相違点13>
本件発明1は「金属板部は、前記導電層を外部の電気配線に接続するための電気コネクタに含まれ」るのに対し、引用発明2は、接続要素がそのような電気コネクタに含まれるか定かではない点。
<相違点14>
本件発明1は「電気コネクタは、ブリッジ部によって接続された第1の金属板部及び第2の金属板部を有し」ているのに対し、引用発明2は、接続要素が接続ケーブルの周りに圧着される圧着領域を有しているものの、当該圧着領域が「ブリッジ部によって接続された第1の金属板部及び第2の金属板部を有し」ているか定かではない点。
<相違点15>
本件発明1は、「第1の金属板部と、前記第2の金属板部と、前記ブリッジ部とは、単一の金属板材から一体的に形成され」ているのに対し、引用発明2は単一の金属板材から一体的に形成されるか定かではない点。
(7)本件発明1と、引用発明2との相違点の検討
事案に鑑み、まず、相違点12から検討する。
ア 相違点12が実質的な相違点であるか否かの検討
本件発明1の金属板部の厚さは0.5mmから0.7mmであるのに対し、引用発明2の接続要素の材料厚さは0.3mm~0.5mmであるところ、確かに、0.5mmという厚さにおいて、両者は共通している。
しかしながら、引用発明2は、0.5mmから0.7mmの範囲内の具体的な厚さの態様を有するものではないから、相違点12は、実質的な相違点である。
イ 相違点12についての容易想到性の検討
次に、引用発明2において、金属板部(接続要素)の厚さを0.5mmから0.7mmとすることが、当業者が容易に想到することができたものであるかについて検討をする。
確かに、甲2には「前記接続要素(3)の材料厚さは、0.1mm~2mm、好ましくは0.2mm~1mm、特に好ましくは0.3mm~0.5mmである」(請求項3)との記載があり、0.5mmから0.7mmの厚さを包含する厚さが開示されている。また、甲1にも同様に、「材料の厚さが0.4~0.8mmの範囲である」(請求項7の当審訳)旨の記載があり、0.5mmから0.7mmの厚さを包含する厚さが開示されている。
しかしながら、甲1及び甲2の上記記載を踏まえても、引用発明2において、金属板部(接続要素)の厚さを0.5mmから0.7mmとするための積極的な動機付けを見出すことができない。
同様に、甲3~5の記載を踏まえても、引用発明2において、金属板部(接続要素)の厚さを0.5mmから0.7mmとするための積極的な動機付けを見出すことができない。
また、仮に、引用発明2において、金属板部(接続要素)の厚さを0.5mmから0.7mmとする動機付けがあるとしても、以下のとおり、本件発明1は、金属板部の厚さを0.5mmから0.7mmとすることにより、引用発明2、又は、甲1、3~5からは予測困難な有利な効果を奏するものと認められる。
すなわち、本件明細書には、以下の記載がある。
「【0036】
鉛フリーはんだ層4上の金属板部5は、直接又は金属ブリッジ51を介して電気配線に接続される。鉛フリーはんだ層4上の金属板部5の厚さは、ガラス基板1と金属板部5との間の機械的応力に影響する。国際公開2007/110610号は、機械的応力を低減するために、金属板の厚さはできるだけ薄い方がよいことを示している。しかし、本発明では、金属板部5の厚さは、0.5mmから0.7mmである。
【0037】
金属板部5の厚さが、0.7mmを超える場合、補償できないほど機械的応力が大きすぎることがあり、一部の窓ガラス1に割れが発生して窓ガラス1の歩留まりが低下する。一方、金属板部5の厚さが0.5mm未満では、コネクタの電気抵抗加熱によるはんだ付け工程でコネクタ内にホットスポットが発生しやすくなり、ガラス基板層2に残留応力が発生する。この残留応力がガラス基板層2の割れになる。
【0038】
また、このような金属板部5(例えば、厚さ0.5mm未満)は、鉛フリーはんだ層4に面する端子の面の平坦性を保つために、細心の注意を払って取り扱う必要があり、この困難性が窓ガラス1の生産性を低下させている。金属板部5がそれほど平坦でなければ、鉛フリーはんだ層4が不均一となる可能性がある。不均一な鉛フリーはんだ層4は、ガラス基板層2側に機械的応力を生じやすい。」
「【0046】
実験
実施例1
本発明に関して基礎的な試験を実施するために、ISO16293-1で規定されるソーダ石灰珪酸塩ガラスからなり厚さ3mmの熱強化ガラス基板層2と、ガラス基板層2上に焼成された銀ペーストのバスバー31を構成する導電層3とからなる基礎試験片を準備した。二つの矩形の金属板部5(6×4mm2の面積を有する)を含み、両者の一面に、錫(96.5質量%)-銀(3.0質量%)-銅(0.5質量%)からなる45mg~50mgの鉛フリーはんだではんだ付けされ、2枚の金属板部5を連結する金属ブリッジ51を有する電気コネクタも準備した。電気コネクタは、厚さ0.55mmのインバー48の金属板で形成されており、該金属板は第1のニッケル層、第1のニッケル層上の中間銅層、及び中間銅層上の外部銀層で被覆されている。
【0047】
電気コネクタ上の鉛フリーはんだをベース試験片のバスバー31上に置き、2枚の金属板部5の間を通電して加熱した。この工程によって、鉛フリーはんだが溶融し、鉛フリーはんだで電気コネクタとバスバー31をはんだ付けした。この実験では、はんだ付けされた試験片を車両の窓ガラス1に使用した。
【0048】
その後、実施例1に従って製造された10個のサンプルについて、以下の熱サイクル試験を実施した。
(1)-40℃から+80℃の12時間の交互サイクルの20回の繰り返し、
(2)-40℃で4時間、+80℃で4時間、正の温度では湿度80%で制御し、負の温度では湿度を制御しない環境で各サンプルを保持する。
10枚のサンプルのいずれにもガラス基板層2に亀裂は観察されなかった。
【0049】
比較例1
電気コネクタの金属板部5を厚さ0.4mmの金属板で加工したこと以外は、実施例1と同じ手順を実施した。この比較例では、10個のサンプルのうち3個について割れが観察された。
【0050】
比較例2
電気コネクタの金属板部5を厚さ0.8mmの金属板で加工したこと以外は、実施例1と同じ手順を実施した。この比較例では、10個の試料のうち3個について割れが観察された。」
これらの記載より、本件明細書からは、本件発明1が金属板部の厚さを0.5mmから0.7mmとすることにより、ガラス基板層における亀裂又は割れを防止するという効果を奏することを把握することができる。
一方、甲2には、厚さを設定することについて、「接続要素の材料厚さは、好ましくは0.1mm~2mm、特に好ましくは0.2mm~1mm、さらに好ましくは0.3mm~0.5mmである。材料厚さに関するこの範囲内で、接続要素は、一方では、圧着のために必要な冷間成形性を示す。他方、材料厚さに関するこの範囲内で、圧着接続の好ましい安定性と、導電性の構造と接続ケーブルとの間の好ましい電気的な接続とが達成される。」(【0013】)との記載はあるものの、ガラス基板層における亀裂又は割れを防止するという効果については記載されていない。
また、甲1には、厚さを設定することについて、「はんだ付け脚又ははんだ付けブリッジの材料の厚さは0.4~0.8mmである。」([0025]の当審訳)との記載はあるものの、ガラス基板層における亀裂又は割れを防止するという効果については記載されていない。
さらに、甲3~5に、金属板部の厚さを0.5mmから0.7mmとすることにより、ガラス基板層における亀裂又は割れを防止するという効果を奏することが記載されているとも認められない。
そして、金属板部の厚さを0.5mmから0.7mmとすることにより、ガラス基板層における亀裂又は割れを防止するという効果を奏することは、本件特許の優先日において、技術水準から当業者が予測することができたといえる理由も見いだせない。
以上のとおりであるから、引用発明2において、金属板部(接続要素)の厚さを0.5mmから0.7mmとすることが、当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明1と、引用発明2との相違点の検討、まとめ
上記ア、イのとおり、相違点12について、引用発明2は、「金属板部の厚さ」が「0.5mmから0.7mm」ではない。また、引用発明2において、「金属板部の厚さ」を「0.5mmから0.7mm」とすることは、当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
そうすると、相違点11、13~15について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2であるとはいえない。また、本件発明1は、引用発明2、又は、引用発明2及び甲1、3~5に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)申立人の特許異議申立書における主張についての検討
申立人は、特許異議申立書において、甲2の請求項3及び【0013】には、接続要素の材料厚さが0.1mm~2mm、好ましくは0.2mm~1mm、特に好ましくは0.3mm~0.5mmであることが記載されており、数値範囲の端の値(0.5mm)が本件発明1における金属板部の厚さの範囲と共通していることから、「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」ることは、甲2に記載されていると主張している。
しかしながら、上記(7)アのとおり、引用発明2は、0.5mmから0.7mmの範囲内の具体的な厚さの態様を開示するものではないから、「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」ることは、甲2に記載されているとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
また、申立人は、特許異議申立書において、甲1の[0025]には、はんだ付け脚又ははんだ付けブリッジの材料の厚さは0.4~0.8mmであることが記載され、甲1のFig.3(特に側面図)からは、板状の電気接続要素において、接続片1から両側に展開された領域2のうち遷移部3よりも端部側(例えば腹板4を含む部分)の厚さは0.55mmであることが看取できることから、「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」ることは、甲2に記載された発明に、甲1に記載された事項を適用することで、当業者が容易に想到し得たとも主張している。
しかしながら、上記(7)イのとおり、引用発明2において、金属板部(接続要素)の厚さを0.5mmから0.7mmとするための積極的な動機付けを見出すことができないし、仮にそのような動機付けがあるとしても、本件発明1は、金属板部の厚さを0.5mmから0.7mmとすることにより、引用発明2、又は、甲1、3~5からは予測困難な有利な効果を奏するものと認められる。
したがって、申立人の上記主張も採用できない。
(9)まとめ
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえないことから、申立理由2(新規性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明3~7、10、11は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が、甲2に記載された発明とはいえない以上、本件発明3~7、10、11についても同様に、甲2に記載された発明とはいえない。したがって、申立理由2(新規性)によっては、本件特許の請求項3~7、10、11に係る特許を取り消すことはできない。
本件発明1は、甲2に記載された発明、甲1、3、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、申立理由3(進歩性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明2~14は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が、甲2に記載された発明、甲1、3、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~14についても同様に、甲2に記載された発明、甲1、3、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、申立理由3(進歩性)によっては、本件特許の請求項2~14に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由4(進歩性)について
(1)甲3の記載
上記2(3)に摘記したとおりである。
(2)甲3に記載された発明
上記2(3)の記載のうち、特許請求の範囲の記載に着目すると、甲3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明3>
少なくとも、
― 基材、
― 前記基材の領域上の導電性構造、
― 1つのブリッジ領域と少なくとも2つのはんだ付け脚部とを含み、前記はんだ付け脚部がはんだ材料を介して前記導電性構造の領域と結合されているブリッジ型の電気接続エレメント、および
― 前記接続エレメントに取り付けられた電気結合エレメント
を含む、少なくとも1つの電気接続エレメントを備えたガラス板であって、
前記結合エレメントは、
― 前記ブリッジ領域の、前記基材に向かう側の表面上に取り付けられているか、または
― 前記ブリッジ領域の、前記基材とは反対側の表面に取り付けられていて、かつ前記ブリッジ領域の周りを回るように案内されているので、前記結合エレメントは、前記ブリッジ領域の、基材に向かう側の表面に当接し、
ここで、前記接続エレメントの材料の溶融温度と、前記結合エレメントの材料の溶融温度との間の差は、200℃より大きく、かつ前記結合エレメントは、溶接結合によって前記接続エレメントに取り付けられている、少なくとも1つの電気接続エレメントを備え、
前記はんだ材料は鉛フリーはんだ材料であり、
前記接続エレメントは、少なくとも1種の鉄含有合金を含み、
前記接続エレメントの材料の厚みは、特に好ましくは0.4mm~1mmであり、
前記基材は、ガラス、好ましくは石灰ソーダガラスを含み、
建築物における、または陸上、空中もしくは水上での交通用の移動手段における、ことに鉄道車両または自動車における、好ましくはフロントウインドウ、リヤウインドウ、サイドウインドウ、および/またはルーフウインドウとして、ことに加熱可能なガラス板としてまたはアンテナ機能を備えたガラス板として使用されるガラス板。
(3)本件発明1と、引用発明3との対比
ア 引用発明3の「建築物における、または陸上、空中もしくは水上での交通用の移動手段における、ことに鉄道車両または自動車における、好ましくはフロントウインドウ、リヤウインドウ、サイドウインドウ、および/またはルーフウインドウとして、ことに加熱可能なガラス板としてまたはアンテナ機能を備えたガラス板として使用されるガラス板」は、本件発明1の「車両用窓ガラス」に相当する。
イ 引用発明3の「ガラス、好ましくは石灰ソーダガラスを含む」基材は、本件発明1の「ガラス基板」に相当する。
ウ 甲3の請求項1(当審訳)には「電気接続エレメント(3)」、「前記接続エレメント(3)」との記載があることから、甲3における「電気接続エレメント」と「接続エレメント」とは同じものを意味していると認められるところ、引用発明3における「電気接続エレメント」及び「接続エレメント」は、本件発明1の「金属板部」に相当する。
エ 引用発明3の「1つのブリッジ領域」は、本件発明1の「ブリッジ部」に相当する。
オ 引用発明3の「2つのはんだ付け脚部」は、本件発明1の「第1の金属板部及び第2の金属板部」に相当する。
カ 引用発明3の「接続エレメントは、少なくとも1種の鉄含有合金を含む」ことは、本件発明1の「第1及び第2の金属板部と前記ブリッジ部は、鉄合金を含むこと」に相当する。
キ そうすると、本件発明1と引用発明3とは、以下の点で一致し、また以下の点で相違する。
<本件発明1と引用発明3との一致点>
車両用窓ガラスであって、
ガラス基板と、
金属板部とを備え、
ブリッジ部によって接続された第1の金属板部及び第2の金属板部を有し、
前記第1及び第2の金属板部と前記ブリッジ部は、鉄合金を含む車両用窓ガラス。
<相違点16>
本件発明1は、「ガラス基板上に導電パターンを形成する導電層と、
前記導電層上に鉛フリーはんだによって形成されるはんだ層と、
前記はんだ層上の金属板部とを備え」ているのに対し、引用発明3は、ガラス、好ましくは石灰ソーダガラスを含む基材と、前記基材の領域上の導電性構造、はんだ付け脚部がはんだ材料を介して前記導電性構造の領域と結合されているブリッジ型の電気接続エレメントを備え、前記はんだ材料は鉛フリーはんだ材料であるものの、導電性構造及び鉛フリーはんだ材料が、それぞれ層であるか定かではない点。
<相違点17>
本件発明1は「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」るのに対し、引用発明3は接続エレメントの材料の厚みが、特に好ましくは0.4mm~1mmである点。
<相違点18>
本件発明1は「金属板部は、前記導電層を外部の電気配線に接続するための電気コネクタに含まれ」ているのに対し、引用発明3は接続エレメントがそのような電気コネクタに含まれるか定かではない点。
<相違点19>
本件発明1は、「第1の金属板部と、前記第2の金属板部と、前記ブリッジ部とは、単一の金属板材から一体的に形成され」ているのに対し、引用発明3は接続エレメントが単一の金属板材から一体的に形成されるか定かではない点。
(4)本件発明1と、引用発明3との相違点の検討
事案に鑑み、まず、相違点17から検討する。
甲3には「接続エレメントの材料の厚みは、好ましくは0.1mm~4mm、特に好ましくは0.2mm~2mm、全く特に好ましくは0.4mm~1mm、例えば0.8mmである。同様のことが、結合エレメントについても、この結合エレメントが、堅固な小板として形成されている場合に当てはまる。材料の厚みは、好ましくは一定であり、このことは、このエレメントの簡単な製造の観点で特に好ましい。」(第10頁の当審訳)旨の記載があり、0.5mmから0.7mmの厚さを包含する厚さが開示されている。また、甲1にも同様に、「材料の厚さが0.4~0.8mmの範囲である」(請求項7の当審訳)旨の記載があり、0.5mmから0.7mmの厚さを包含する厚さが開示されている。さらに、甲2にも同様に、「前記接続要素(3)の材料厚さは、0.1mm~2mm、好ましくは0.2mm~1mm、特に好ましくは0.3mm~0.5mmである」(請求項3)との記載があり、0.5mmから0.7mmの厚さを包含する厚さが開示されている。
しかしながら、甲1~3の上記記載を踏まえても、引用発明3において、金属板部(接続エレメント)の厚さを0.5mmから0.7mmとするための積極的な動機付けを見出すことができない。
同様に、甲4、5の記載を踏まえても、引用発明3において、金属板部(接続エレメント)の厚さを0.5mmから0.7mmとするための積極的な動機付けを見出すことができない。
また、仮に、引用発明3において、金属板部(接続エレメント)の厚さを0.5mmから0.7mmとする動機付けがあるとしても、上記2(7)イ のとおり、本件発明1は、金属板部の厚さを0.5mmから0.7mmとすることにより、ガラス基板層における亀裂又は割れを防止するという効果を奏するものと認められる。
そして、このような効果は、甲1~5には記載されておらず、また、本件特許の優先日において、技術水準から当業者が予測することができたといえる理由も見いだせない。
以上のとおりであるから、引用発明3において、金属板部(接続エレメント)の厚さを0.5mmから0.7mmとすることが、当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
そうすると、相違点16、18、19について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明、甲1、2、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立人の特許異議申立書における主張についての検討
申立人は、特許異議申立書において、甲2の請求項3及び【0013】には、接続要素の材料厚さが0.1mm~2mm、好ましくは0.2mm~1mm、特に好ましくは0.3mm~0.5mmであることが記載されており、数値範囲の端の値(0.5mm)が本件発明1における金属板部の厚さの範囲と共通していることから、「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」ることは、甲3に記載された発明に、甲2に記載された事項を適用することで、当業者が容易に想到し得たと主張している
また、申立人は、特許異議申立書において、甲1の[0025]には、はんだ付け脚又ははんだ付けブリッジの材料の厚さは0.4~0.8mmであることが記載され、甲1のFig.3(特に側面図)からは、板状の電気接続要素において、接続片1から両側に展開された領域2のうち遷移部3よりも端部側(例えば腹板4を含む部分)の厚さは0.55mmであることが看取できることから、「金属板部の厚さは、0.5mmから0.7mmであ」ることは、甲3に記載された発明に、甲1に記載された事項を適用することで、当業者が容易に想到し得たとも主張している。
しかしながら、上記(4)のとおり、引用発明3において、金属板部(接続エレメント)の厚さを0.5mmから0.7mmとするための積極的な動機付けを見出すことができないし、仮にそのような動機付けがあるとしても、本件発明1は、金属板部の厚さを0.5mmから0.7mmとすることにより、引用発明と比較した有利な効果を奏するものと認められる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(6)まとめ
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明、甲1、2、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明2~14は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が、甲3に記載された発明、甲1、2、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~14についても同様に、甲3に記載された発明、甲1、2、5に記載の事項、及び甲4に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項2~14に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700906