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特許異議申立

2022-700891

ハードコートフィルムおよびこれを含むウィンドウおよび画像表示装置

審判番号
2022-700891
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-165370外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7039671
請求日
2022年09月09日
審決日
2022年12月12日
公報発行日
2023年01月27日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-Y (G02B) / P1651.537-Y (G02B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7039671号発明「ハードコートフィルムおよびこれを含むウィンドウおよび画像表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7039671号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

特許第7039671号(請求項の数11。以下,「本件特許」という。)に係る出願(以下,「本件特許出願」という。)は,令和2年9月30日(パリ条約による優先権主張2019年10月1日,韓国)の出願であって,令和4年3月11日にその特許権の設定登録がされ,令和4年3月22日に特許掲載公報が発行された。

その後,令和4年9月9日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より本件特許の請求項1ないし11に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされた。

2 本件特許の請求項1ないし11に係る発明

本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」といい,本件特許発明1ないし11を総称して「本件特許発明」ということがある。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ,請求項1の「前記ハードコート層は,フッ素系UV硬化型官能基含有化合物,導電性高分子,および溶剤を含むが」という記載は,「前記ハードコート層を形成するためのハードコート組成物は,フッ素系UV硬化型官能基含有化合物,導電性高分子,および溶剤を含むが」の誤記であることが明らかであるから,本件特許発明1ないし11は,当該誤記を訂正した次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
基材と,
前記基材の少なくとも一面に備えられたハードコート層とを含み,
前記ハードコート層の表面に500Vの電圧を印加した時の表面抵抗値は,3E+9Ω/□~7E+10Ω/□であり,
続きを表示(全30行)
前記ハードコート層を形成するためのハードコート組成物は,フッ素系UV硬化型官能基含有化合物,導電性高分子,および溶剤を含むが,
前記導電性高分子は,チオフェン系高分子であり,
前記導電性高分子の固形分含有量は,これを含むハードコート組成物中の固形分全100重量%に対して0.05~5重量%含まれ,
無機微粒子は含まず,
AFM(Atomic Force Microscope)を用いて(測定条件:Non-Contact Mode,Scan Siez:1μm×1μm,Scan Rate:1.0Hz)測定した前記ハードコート層の表面粗さ(Ra)値が1nm以下であるハードコートフィルム。
【請求項2】
前記ハードコート層組成物は,透光性樹脂,光開始剤,および添加剤からなる群より選択される1つ以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記透光性樹脂は,デンドリティックアクリレートを含むことを特徴とする請求項2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記フッ素系UV硬化型官能基含有化合物の固形分含有量は,前記ハードコート組成物中の固形分全100重量%に対して0.01~10重量%含有されることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記導電性高分子の固形分含有量は,前記ハードコート組成物中の固形分全100重量%に対して0.05~5重量%含有されることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記デンドリティックアクリレートの固形分含有量は,前記ハードコート組成物中の固形分全100重量%に対して3~90重量%含有されることを特徴とする請求項3に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
前記ハードコートフィルムは,前記ハードコート層の表面を耐摩耗テスト用消しゴムを用いて荷重1kg下で3000回擦って摩耗させた後に測定した水接触角が95゜以上であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層の表面にエタノールを滴下した後,耐摩耗テスト用消しゴムを用いて荷重1kgで3000回擦った後に測定した水接触角が95゜以上であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項9】
前記ハードコートフィルムは,温度および湿度が85℃/85%である環境下で15日間放置した後,前記ハードコート層の表面に500Vの電圧を印加した時の表面抵抗値は,1E+8Ω/□~5E+12Ω/□であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを含むウィンドウ。
【請求項11】
請求項10に記載のウィンドウおよびディスプレイパネルを含み,
前記ウィンドウおよびディスプレイパネルの間に,タッチセンサおよび偏光板をさらに含む画像表示装置。」

3 申立ての理由の概要

折りたたみ中(クリックで表示)

特許異議申立書に記載された申立ての理由(以下,「申立理由」という。)は,概略,次のとおりである。

申立理由1:本件特許発明1ないし11は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

したがって,それらの特許は,同法113条2項に該当し,取り消されるべきものである。

申立理由2:本件特許の請求項1,2,4,5,7ないし11に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

したがって,それらの特許は,同法113条4項に該当し,取り消されるべきものである。

申立人が提出した証拠方法は,次のとおりである。

甲1:特開2018-124395号公報
甲2:特許第5359652号公報
甲3:特表2018-530007号公報
甲4:特開2013-101331号公報
甲5:特開2017-21336号公報
甲6:特開2010-24268号公報

4 甲1

(1)甲1の記載

甲1には,次の記載がある。(下線は,後述する甲1発明の構成に特に関係する箇所を表す。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,光学用途に適したハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
続きを表示(全24行)
【0002】
レンズ,液晶ディスプレイといった光学部品,コンパクトディスクといった光記録媒体などには,傷付き防止,汚染防止などのために,ハードコートフィルムを設けることがある。特に,タッチパネルは,人の手が触れる機会が多いことから,傷付き,汚染のおそれが高いため,タッチパネルにハードコートフィルムを設ける要請は強い。
【0003】
この種のハードコートフィルムは,例えば基材の表面に光硬化性ハードコート層を設け,その表面を防汚コーティング剤で処理して防汚層を設けることで作製される(特許文献1参照)。これにより,光硬化性ハードコート層がハードコートフィルムに十分な硬度を付与するとともに,防汚層がハードコートフィルムに防汚性を付与できる。
【0004】
また,防汚層を設けずに,ハードコート層をシリコーン系材料及びフッ素系材料を含有する塗工液から形成することで,ハードコート層自体に防汚性を付与することも提案されている(特許文献2参照)。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では,光硬化性ハードコート層と防汚層との間の界面が存在するため,防汚層が光硬化性ハードコート層から剥離することがあり,そうするとハードコートフィルムの防汚性が損なわれてしまう。特許文献1では防汚層の密着性向上のために光硬化性ハードコート層の表面にシラノール基を存在させているが,界面が存在する以上,防汚層が剥離するおそれはある。
【0007】
一方,特許文献2に記載の技術では,防汚層が存在しないため,特許文献1の場合のような界面は存在しないが,ハードコート層をシリコーン系材料及びフッ素系材料から作製すると,ハードコート層の硬度を十分に高く維持することが困難であり,そのためハードコートフィルムによる傷付き防止の作用を十分に得ることは難しい。
【0008】
本発明の目的は,防汚性が付与されているとともに,この防汚性が低下しにくく,しかも防汚性が付与されたことに起因する硬度の低下が生じにくいハードコートフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るハードコートフィルムは,第一面及び前記第一面とは反対側にある第二面を備えるハードコート層と,前記ハードコート層の前記第二面に重なっている透明基材とを備える。前記ハードコート層は,フッ素原子を含有する。前記ハードコート層内の前記フッ素原子の濃度は,前記第一面から深さ1nmまでの第一部分で平均10~50質量%の範囲内,深さ1nmから2nmまでの第二部分で平均2~20質量%の範囲内,深さ2nmから5nmまでの第三部分で平均5質量%以下の範囲内であるとともに,前記第一部分,前記第二部分,前記第三部分の順に低くなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば,防汚性が付与されているとともに,この防汚性が低下しにくく,しかも防汚性が付与されたことに起因する硬度の低下が生じにくいハードコートフィルムを得ることができる。」
イ 「【0013】
本実施形態に係るハードコートフィルム1は,ハードコート層2と,透明基材3とを備える。ハードコート層2は,第一面4と,第一面4とは反対側にある第二面5とを備える。透明基材3は,ハードコート層2の第二面5に重なっている。
【0014】
ハードコート層2は,内部に組成の不連続な変化を有さない単一の層である。ハードコート層2は,フッ素原子を含有する。ハードコート層2内のフッ素原子の濃度は,第一面4から深さ1nmまでの第一部分21で平均10~50質量%の範囲内,深さ1nmから2nmまでの第二部分22で平均2~20質量%の範囲内,深さ2nmから5nmまでの第三部分23で平均1~5質量%の範囲内である。さらに,ハードコート層2内のフッ素原子の濃度は,第一部分21,第二部分22,第三部分23の順に低くなっている。
続きを表示(全12行)
【0015】
本実施形態では,ハードコート層2がフッ素原子を含有するため,ハードコート層2は高い撥水性及び防汚性を有することができる。このため,ハードコート層2の第一面4が外部に露出していても,第一面4には指紋痕などの汚れが付着しにくい。また,ハードコート層2がフッ素原子を含有することで,ハードコート層2の第一面4は高い滑り性を有することもでき,例えば第一面4上で人の指を容易に滑らせることができる。そのため,ハードコートフィルム1を特にタッチパネルの保護のために適用すると,タッチパネルを指で操作する場合の操作性を損なうことなく,タッチパネルの保護を行うことができる。
【0016】
また,本実施形態ではフッ素原子はハードコート層2内に存在するため,ハードコート層2の上にフッ素化合物を含む防汚層を別途設ける場合のような界面は生じず,そのため防汚層の剥離による防汚性の低下は生じない。そのため,本実施形態では,ハードコートフィルム1の防汚性を長期にわたって維持できる。
【0017】
さらに,ハードコート層2内では,フッ素原子は上記のように第一面4の近傍に偏在しているため,第一面4では上記のような防汚性などの機能を発揮するにもかかわらず,ハードコート層2全体としてはフッ素原子の量が抑制される。そのため,ハードコート層2には,フッ素原子を含有することに起因する硬度の低下が生じにくい。
【0018】
このため,本実施形態では,防汚性が付与されているとともに,この防汚性が低下しにくく,しかも防汚性が付与されたことに起因する硬度の低下が生じにくいハードコートフィルム1が得られる。」
ウ 「【0024】
ハードコート層2は,例えばフッ素原子を有さない反応硬化性樹脂(a)とフッ素化合物(b)とを含有する組成物(以下,ハードコート組成物という)の硬化物である。この場合,ハードコート層2は,フッ素化合物(b)に由来するフッ素原子を含有する。
・・・(中略)・・・
【0030】
続きを表示(全13行)
ハードコート組成物が放射線硬化性樹脂を含有する場合,ハードコート組成物は更に光重合開始剤を含有してもよい。この場合,ハードコート組成物は,紫外線硬化性などの光硬化性を有することができる。光重合開始剤は,例えばアセトフェノン系化合物,ベンゾフェノン系化合物,α-アミロキシムエステル,及びチオキサントン系化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
・・・(中略)・・・
【0032】
フッ素化合物(b)は,重合性官能基を有することが好ましく,特にエチレン性不飽和基を有することが好ましく,例えばアクリロイル基,メタクリロイル基,ビニル基,アリル基,及びスチリル基からなる群から選択される少なくとも一種の基を有することが好ましい。フッ素化合物(b)は,パーフルオロアルキル基を主鎖として有するとともに,主鎖の末端に重合性官能基を有し,又は重合性官能基を含む側鎖を有することが,好ましい。フッ素化合物(b)は,更に親水基,親油基等を有してもよい。
・・・(中略)・・・
【0035】
ハードコート組成物中のフッ素化合物(b)の量は,例えばハードコート組成物中の固形分全量に対して0.05~10質量%の範囲内であり,好ましくは0.1~5質量%の範囲内であるが,これに制限されない。
【0036】
ハードコート組成物は,無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーは,例えば酸化ケイ素,酸化亜鉛,酸化チタン,酸化セリウム,酸化アルミニウム,酸化タンタル,酸化イットリウム,酸化イッテルビウム,酸化ジルコニウム,及び酸化インジウム錫からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。無機フィラーの平均粒径は5~200nmの範囲内であることが好ましく,この場合,ハードコートフィルム1の透明性が損なわれにくい。」
エ 「【0047】
以下,本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0048】
(1)ハードコートフィルム1の作製
実施例1
透明基材3として,易接着処理が施されている厚み100μmのポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製の品名コスモシャイン(登録商標)A4300)を準備した。
【0049】
また,アクリル系紫外線硬化型樹脂(大日精化工業株式会社製,品名セイカビームPET-HC301,有効成分(固形分)60質量%),フッ素系化合物(DIC株式会社製,品番RS-75,有効成分(固形分)40質量%),及びメチルエチルケトンを混合することで,ハードコート組成物を調製した。このハードコート組成物中の固形分全量の濃度は40質量%であり,アクリル系紫外線硬化型樹脂とフッ素系化合物との固形分の質量比は,97:3である。
【0050】
透明基材3の上にハードコート組成物を,ワイヤーバーコーター#7を用いて塗布してから,80℃で5分間乾燥させることで,塗膜を形成した。この塗膜に紫外線を,露光量500mJ/cm2の条件で照射することで,塗膜を硬化させた。これにより,透明基材3の上にハードコート層2を作製した。ハードコート層2の厚みは下記表1に示す通りである。」

(2)甲1の記載から把握される発明

甲1の【0049】に記載されたメチルエチルケトンが溶剤であることは明らかであるから,前記(1)アないしエで摘記した記載を総合すると,甲1には,次の発明が記載されていると認められる。

「ハードコート層2と,透明基材3とを備えるハードコートフィルム1であって,
前記ハードコート層2は,フッ素原子を有さない反応硬化性樹脂(a)と,パーフルオロアルキル基を主鎖として有するとともに,主鎖の末端に重合性官能基を有し,又は重合性官能基を含む側鎖を有するフッ素化合物(b)と,溶剤とを含有し,紫外線硬化性を有するハードコート組成物の硬化物であり,
前記ハードコート組成物は,無機フィラーを含有してもよく,
前記ハードコート層2は,内部に組成の不連続な変化を有さない単一の層であり,
前記ハードコート層2内のフッ素原子の濃度は,第一面4から深さ1nmまでの第一部分21で平均10~50質量%の範囲内,深さ1nmから2nmまでの第二部分22で平均2~20質量%の範囲内,深さ2nmから5nmまでの第三部分23で平均1~5質量%の範囲内であり,第一部分21,第二部分22,第三部分23の順に低くなっている,
ハードコードフィルム1。」(以下,「甲1発明」という。)

5 判断

(1)申立理由1について

ア 本件特許発明1について

(ア)対比

本件特許発明1と甲1発明を対比すると,甲1発明の「透明基材3」,「ハードコート層2」,「ハードコート組成物」,「パーフルオロアルキル基を主鎖として有するとともに,主鎖の末端に重合性官能基を有し,又は重合性官能基を含む側鎖を有するフッ素化合物(b)」,「無機フィラー」及び「ハードコートフィルム1」が,本件特許発明1の「基材」,「ハードコート層」,「ハードコート組成物」,「フッ素系UV硬化型官能基含有化合物」,「無機微粒子」及び「ハードコートフィルム」にそれぞれ対応するから,両者は,

「基材と,
前記基材の少なくとも一面に備えられたハードコート層とを含み,
前記ハードコート層を形成するためのハードコート組成物は,フッ素系UV硬化型官能基含有化合物,および溶剤を含む,
ハードコートフィルム。」

である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:

本件特許発明1では,ハードコート組成物が,導電性高分子としてチオフェン系高分子を,ハードコート組成物中の固形分全100重量%に対して固形分含有量で0.05~5重量%含み,前記ハードコート層の表面に500Vの電圧を印加した時の表面抵抗値が,3E+9Ω/□~7E+10Ω/□であるのに対して,

甲1発明では,ハードコート組成物が,チオフェン系高分子を含んでおらず,ハードコート層表面に500Vの電圧を印加した時の表面抵抗値は不明な点。

相違点2:

本件特許発明1は,無機微粒子は含まず,AFM(Atomic Force Microscope)を用いて(測定条件:Non-Contact Mode,Scan Siez:1μm×1μm,Scan Rate:1.0Hz)測定したハードコート層の表面粗さ(Ra)値が1nm以下であるのに対して,

甲1発明は,無機フィラーを含有してもよく,AFMを用いて同じ測定条件で測定したハードコート層2の表面粗さ(Ra)の値は不明な点。

(イ)相違点について

a 事案に鑑みて,まず相違点2について検討する。

相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項は,本件特許明細書の【0016】の記載によると,無機微粒子を含まないことで現れる低い表面粗さ値により防汚の効果が著しく向上し,前記向上した防汚の効果が多様な環境変化の中でも優れたものに維持されるという効果を奏するものである。したがって,相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項は,無機微粒子を含まないという構成を採用することによって,表面粗さ(Ra)値を1nm以下にまで低減したものと理解することができる。

ここで,申立人が提出した証拠のうち,甲3(特に,請求項2,【0019】,【0026】等を参照。)には,ハードコート層上に形成された低屈折層を含む反射防止フィルムにおいて,ハードコート層の表面の中心線平均粗さ(Ra)を,0.5nmないし0.8nmにし,34mN/m以下の表面エネルギーを有するハードコート層を用いることによって,低い反射率や高い透光率を有し,高い耐スクラッチ性や防汚性を同時に実現することができること,このようなハードコート層は,形成過程で,光照射量または光照射強度や注入される窒素の流量などを調節することによって,ハードコート層の硬化度を,約30%~48%程度に調節することで得られることなどが記載されている。

しかしながら,甲3には,無機微粒子を含まないことで,中心線平均粗さ(Ra)が低減できることは記載されておらず,逆に,【0039】ないし【0042】などには,無機微粒子を含有するハードコート層が例示されていることからは,甲3には,相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成は開示されておらず,したがって,たとえ甲1発明に,甲3に記載された技術事項を適用しても,相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項には想到し得ないというべきである。

さらに,申立人が提出した他のいずれの証拠にも,無機微粒子を含まないことで,中心線平均粗さ(Ra)を1nm以下にすることについては,記載も示唆もされていない。

したがって,相違点1について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲1発明及び甲2ないし甲6に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 申立人は,特許異議申立書において,無機微粒子を含まないハードコート層2の表面粗さが小さいことは自明の事項であり,甲3に無機微粒子を含まないハードコート層の表面粗さが1nm以下であることが示されていることから,甲1発明のハードコート層2の表面粗さは,1nm以下である蓋然性が高いなどと主張するが,前記aで述べたように,甲3には,ハードコート層の硬化度を,約30%~48%程度に調節することで,所望の中心線平均粗さ(Ra)と表面エネルギーを有するハードコート層が得られることは記載されていても,無機微粒子を含まないハードコート層の中心線平均粗さが1nm以下になることは記載も示唆もされていない。

したがって,たとえ甲1に記載された発明として,無機微粒子を含まないハードコート層を有するものを想定したとしても,当該ハードコート層の中心線平均粗さが1nm以下になるとは認められない。

したがって,申立人の主張は採用できない。

(ウ)小括

申立理由1によって,本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

イ 本件特許発明2ないし11について

本件特許の請求項2ないし11は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件特許発明2ないし11は,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するから,申立理由1によって,本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない以上,同様の理由によって,請求項2ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由2について

ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0003】ないし【0007】等の記載からみて,本件特許発明が解決しようとする課題は,単一層だけでもハードコーティングと防汚の性能が発現し,表面粗さに優れていて,防汚の性能が著しく改善されたハードコートフィルム,およびこれを含むウィンドウおよび画像表示装置を提供することにあると認められる。

また,発明の詳細な説明の記載(特に,【0016】,【0146】の表1等。)や技術常識からみて,前記課題は,ハードコート層が,フッ素系UV硬化型官能基含有化合物を含むという構成と,無機微粒子を含まないことで現れる1nm以下というハードコート層の表面粗さ(Ra)とによって解決することができると当業者は理解することができる。

そして,当該課題解決手段は,請求項1,2,4,5,7ないし11において,特定されているから,本件特許発明1,2,4,5,7ないし11は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものというべきであり,サポート要件に適合する。

イ 申立人は,特許異議申立書において,ハードコート層に含まれる成分として,フッ素系UV硬化型官能基含有化合物,導電性高分子及び溶剤以外の成分が特定されていないことをもって,どのような成分のものでも,発明の課題を解決できるか否かは,発明の詳細な説明の記載や技術常識からは不明である旨主張する。

しかしながら,前記アで述べたように,単一層だけでもハードコーティングと防汚の性能が発現し,表面粗さに優れていて,防汚の性能が著しく改善されたハードコートフィルム,およびこれを含むウィンドウおよび画像表示装置を提供するという発明の課題は,ハードコート層が,フッ素系UV硬化型官能基含有化合物を含むという構成と,無機微粒子を含まないことで現れる1nm以下というハードコート層の表面粗さ(Ra)とによって解決することができると当業者は理解できるのであって,透光性樹脂等の他の成分は,前記課題の解決とは関係がない。

したがって,申立人の主張は採用できない。

6 むすび

以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。さらに,他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。

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2022-700891

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    共通の審決分類: 121・G02B、537・G02B
  • 2024-700176異議申立 / 2026-01-27 / 訂正認容フォトクロミック化合物、フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡
    共通の審決分類: 121・G02B、537・G02B

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