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特許異議申立

2022-700804

鋼の連続鋳造方法

審判番号
2022-700804
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-559250
登録番号
7020568
請求日
2022年08月15日
審決日
2022年11月08日
公報発行日
2022年12月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日本製鉄株式会社
  • 【権利者代理人】棚井 澄雄
  • 【権利者代理人】寺本 光生
  • 【権利者代理人】勝俣 智夫
  • 【権利者代理人】山口 洋
  • 【異議申立人】吉田 敦子
審判長/審判官
  • 審判長 刈間 宏信
  • 審判官 大山 健
  • 審判官 鈴木 貴雄
分類
P1651.121-Y (B22D) / P1651.537-Y (B22D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7020568号発明「鋼の連続鋳造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7020568号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7020568号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)12月10日(優先権主張 2018年12月10日)を国際出願日とする出願であって、令和4年2月7日にその特許権の設定登録がされ、同月16日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和4年8月15日に特許異議申立人 吉田敦子(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 鋳型から鋳片を鉛直方向下方に引き抜く垂直部と、前記垂直部から引き抜かれた前記鋳片を曲げる曲げ部とを備え、前記垂直部の上部側が、ロールと冷却スプレーノズルとを含み、前記ロール間の各段あたりに設置された、冷却水量を独立して制御できる前記スプレーノズルの冷却段数で決まる第1の冷却ゾーンと、 前記第1の冷却ゾーンから前記曲げ部までの間に位置する第2の冷却ゾーンを備える垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法であって、 前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R1(L/min)に対する空気量A1(L/min)の比である気水比A1/R1を10以上とするとともに、前記冷却スプレーノズルから前記鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上とし、 前記第1の冷却ゾーンにおける冷却水密度W1(L/min/m2)を500L/min/m2以上2000L/min/m2以下とし、 前記鋳片が前記第1の冷却ゾーンを通過する時間t1(min)との積として定義される冷却強度W1×t1を350以上とし、 前記第1の冷却ゾーン通過後から前記曲げ部に到達するまでの前記第2の冷却ゾーンにおける冷却水密度W2(L/min/m2)を前記第1の冷却ゾーンと比較して低下させることで、前記鋳片の前記第2の冷却ゾーンを通過する復熱時間t2を0.5min以上とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。 【請求項2】 前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R1(L/min)を20L/min以上50L/min以下とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。 【請求項3】 前記垂直曲げ型の連続鋳造装置が、前記第1の冷却ゾーンから前記曲げ部までの間に第2の冷却ゾーンを備え、前記第2の冷却ゾーンにおいて、冷却水密度W2(L/min/m2)を0L/min/m2以上50L/min/m2以下とすることで前記鋳片の表面を復熱させることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼の連続鋳造方法。 【請求項4】 前記第1の冷却ゾーンを通過後に前記鋳片の表面を復熱させ、前記鋳片が前記曲げ部に到達する時点で前記鋳片の表面の温度をAc3点以上の温度とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法。 【請求項5】 前記ロールが分割ロールであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法。」 第3 特許異議申立理由及び申立人が提出した証拠 1 特許異議申立理由の概要 (1)申立理由1:進歩性欠如(特許法第29条第2項)(本件発明1~5) 本件発明1は、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(特許異議申立書38~43頁等を参照。) 本件発明2、3は、甲第1号証~甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(特許異議申立書43~44頁等を参照。) 本件発明4、5は、甲第1号証~甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(特許異議申立書44~45頁等を参照。) (2)申立理由2:明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)(本件発明1~5) 本件発明1の「前記ロール間の各段あたりに設置された、冷却水量を独立して制御できる前記スプレーノズルの冷却段数で決まる第1の冷却ゾーン」との記載は不明確である。 また、同様に、本件発明1を引用する本件発明2~5も不明確である。(特許異議申立書45~46頁を参照。) (3)申立理由3:サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)(本件発明3~5) 本件発明3には、冷却水密度W2の値が規定されているが、復熱時間t2は規定されていない。 他方、発明の詳細な説明の本件発明の実施例が示された表3(【0057】)には、復熱時間t2の値が示されているが、冷却水密度W2の値は示されていない。 このように、発明の詳細な説明の実施例では、復熱時間t2の値は示されているものの、冷却水密度W2の値は示されていないから、本件発明3は、裏付けのないものである。 よって、本件発明3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、同様に、本件発明3を引用する本件発明4、5は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(特許異議申立書46頁を参照。) 2 申立人が提出した証拠 甲第1号証:特開2002-307148号公報 甲第2号証:特開2008-183607号公報 甲第3号証:特開2014-50873号公報 甲第4号証:特開2018-99704号公報 甲第5号証:特開2007-118042号公報 甲第6号証:特開2010-253525号公報 甲第7号証:加藤徹、外3名、「低合金鋼スラブ表層部ミクロ組織制御による連鋳鋳片表面割れ防止技術の開発」、まてりあ、2006年、第45巻、第1号、p.45~47 甲第8号証:日本金属学会及び日本鉄鋼協会編、「鉄鋼材料便覧」、丸善株式会社、昭和56年4月20日、第2版、p.3~5 (以下、それぞれ、「甲1」などという。) 第4 当審の判断 1 甲1の記載事項及び甲1発明等 (1)甲1の記載事項 (なお、下線部は当審で付した。以下同様。) 「【請求項2】 厚さが90mm以上の矩形形状の鋼鋳片を垂直部分の長さが1.5~5.0mを有する垂直曲げ型連続鋳造装置を使用して連続鋳造する方法において、鋳片長辺面の2次冷却に関して鋳片が鋳型を通過後急冷却部分の通過所用時間T(分)とその間の平均水量密度W(リットル/分・m2 )の間に下記○2、○3式の関係を満足する条件で鋳片の全幅を2次冷却し、その後、曲げ部入り側に到達する直前の少なくとも0.3分間は150リットル/分・m2 未満の冷却水量とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。 T<2.0 ・・・○2 1100-250×T>W>350/T ・・・○3」(当審注:「○2」、「○3」は、「2」、「3」をそれぞれ丸囲いしたもの。) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、垂直曲げ型連続鋳造機を使用して鋼を連続鋳造する際に、鋳片の表面割れを防止或いは低減することが可能な鋼の連続鋳造装置及び連続鋳造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】鋼中にNb、V、Cr、Niなどの合金元素を含有した低合金鋼の連続鋳造時には鋳片表面部分に横割れ或いは横ひび割れと呼ばれる表面割れ(以下、単に「表面割れ」と言う。)が発生する場合がある。このような表面割れが発生する懸念があると、連続鋳造後圧延までの間に鋳片表面の検査、さらには、必要に応じて表面手入れを実施する必要が生じる。このため、鋳片を熱間で圧延する直送圧延ができないなど、コスト面で大きな損失が生じる。 ・・・ 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した問題点に鑑みてなされたものであり、鋳型通過後直ちに2次冷却を行って急冷却することにより、表面温度を一旦A3 変態温度以下に低下させ、鋳片表層部のミクロ組織を制御することにより特に地面側の表面割れを防止することが可能な垂直曲げ型の連続鋳造機、及び、この連続鋳造機を使用して適正な2次冷却条件で連続鋳造を行うことにより鋳片の表面割れを防止することが可能な連続鋳造方法を提供することを目的としている。 ・・・ 【0020】本発明に係る鋼の連続鋳造装置は、上記した本発明者らの各種の実験や研究に基づいてなされたものであり、垂直部分の長さが1.5~5.0mを有する垂直曲げ型連続鋳造機の、鋳型通過後の垂直部の2次冷却系統を、鋳造方向に少なくとも2ゾーンに分割し、鋳型直下の第1のゾーンを急冷却部と、また、前記第1のゾーンに続く第2のゾーンである曲げ部の直前は水量密度の少ない弱冷却部とし、前記第1のゾーンの急冷却部では鋳片表面積及び鋳片通過所要時間T(分)に対して平均値で水の噴霧能力M(リットル/分・m2)が上記した数式1の関係を満足する流路系統を有するミスト冷却としたことを要旨とするものである。 【0021】〔請求項2規定の理由〕本発明者らは、垂直曲げ型の連続鋳造機で水量密度と急冷却部の通過時間を種々変化させて鋳造したところ、鋳片の組織と割れ発生状況には相関があることを知った。従って、一旦急冷却し復熱させる温度履歴を適正に付与することができれば、鋳片組織は、ベースはフェライトパーライト組織でフィルム状フェライトが生成しない組繊となる。このような組織が得られた場合には表面割れも発生しない。 【0022】これに対して、フェライトパーライト組織でありながら粒界に沿ったフィルム状フェライトが生成した組織となったときには、割れがこのフィルム状フェライトに沿って発生することから割れ感受性が高く横ひび割れが発生しやすくなる。また、ベイナイト組織となる場合もあり、この時には粒界部にはフェライトが生成している。この組織の場合にも表面割れ感受性が高い。従って、連続鋳造の操業で鋳片表層部の組織を割れ発生の起点となるγ粒界に沿ったフェライトのない組織とすれば鋳片の割れを防止することが可能となる。 【0023】2次冷却条件を種々変化させて連続鋳造したときに得られた鋳片の組織と割れ発生状況を図2に示す。この連続鋳造では、垂直部を2ゾーンに分けており、この図2では第1のゾーンの水量を表す。曲げ部に入る直前部分の第2のゾーンの水量密度は70~120リットル/分・m2であった。 ・・・ 【0025】図2より明らかなように、第1のゾーンの水量密度が少ないときに横ひび割れが発生するような状況となっている。これは、急冷却時に表層部の温度が十分低下せず組織制御ができなかったことが原因と考えられる。この時の条件を数式化すると必要水量密度Wとして下記の数式2の関係が得られ、上記した数式1と一致している。 【0026】 【数2】W>350/T 【0027】一方、水量を増加したときにはベイナイト組繊となり、粒界部にはフェライトが生成していた。図2中に△印で示してあるのがこの場合の例で、▲印では表面割れが発生していた状態のものを示す。この時の割れのほとんどは地面側のコーナー割れであった。これは水量が多く、或いは、急冷却時間が長く表面温度が低下したまま復熱できなかったときに発生する現象と考えられる。この条件を数式化するとほぼ直線として表せ、下記の数式3の関係が得られる。 【0028】 【数3】1100-250×T>W 【0029】上記した数式2,3を満足する水量でも2分以上冷却を継続した場合にはベイナイト組織となり粒界部にはフェライトが生成していた。これは冷却時間が長く表面温度が低下したまま復熱できなかったことが原因と考えられる。 【0030】これらの結果を基に、割れが発生せず組織的にも良好な結果が得られた条件を数式化した結果、以下の数式4,5が得られた。 【0031】 【数4】T<2.0 【0032】 【数5】1100-250×T>W>350/T 【0033】次に、本発明者らは曲げ部に入る直前の冷却について検討した。垂直部を急冷却のみの1ゾーンとしたときにはベイナイト組織となり地面側のコーナー割れが発生していた。そこで、地面側の割れを防止するため、種々冷却条件を変化させて検討した結果、曲げ部に入るまでの2次冷却を弱め、ある程度復熱させる必要があることを知った。本発明者らは、この知見をもとに少なくとも0.3分間は水量密度を150リットル/分・m2未満とする必要があることを見い出した。 ・・・ 【0038】400リットル/分・m2以上の大水量と200リットル/分・m2未満の水量を同じ系列で噴霧しようとすると、水スプレーでは均一度が著しく低下するという問題がある。ここで冷却方式を水と空気の混合するミスト冷却にし、水量を変化するときには対応して空気量を変化すれば大水量時と水量減少時にいずれも均一な冷却が可能となる。このため、上記した本発明に係る鋼の連続鋳造装置では、冷却方式としてミスト冷却を採用することにした。 ・・・ 【0044】また、連続鋳造の2次冷却は、通常鋳片の幅方向に複数のノズルを設置して行う。このため、水量分布均一化のための種々の努力にもかかわらず、ノズルの直前部とラップ部分、ロール接触部と噴霧部では水量分布が異なるのが現状である。本発明で規定する平均水量密度とはノズルから噴霧する水量を、対応する鋳片幅、ロール間隔で除した文字通り平均の水量密度のことである。 ・・・ 【0046】 【実施例】以下、本発明の効果を確認するために行なった実施例に基づいて説明する。垂直部長さ2.5m或いは3.0mを有する垂直曲げ型連続鋳造機を使用して種々の2次冷却条件で約270トンの溶鋼を鋳造し、鋳片表面割れ発生状況を調査した。鋳造した鋼の組成を下記表1に示す。鋳造した鋼は、NbやNiを含有し、表面割れが発生しやすい鋼種である。 ・・・ 【0055】次に、2次冷却水量や鋳造速度などの鋳造条件を各種変化して割れ発生状況を調査した。その際の条件と結果を下記表4及び表5に示す。 【0056】 【表4】 [図:0001392095000001.jpg] 【0057】 【表5】 [図:0001392095000002.jpg] 【0058】本発明の条件を満足する実施例2及び3では、いずれもフィルム状フェライトが生成せず表面割れも発生していない。一方、第2のゾーンの水量密度を第1のゾーンと同程度にした比較例3では、ベイナイト組織となりγ粒界にはフェライトが生成しており地面側にはコーナー割れが発生していた。 【0059】また、第1のゾーンの水量を本発明の条件より減少させた比較例4では、フィルム状フェライトが生成し横ひび割れが発生した。また、第1のゾーンの水量密度を増加した比較例5、及び、鋳造速度を低下して所要時間を増加した比較例6では、ベイナイト組繊となりγ粒界にはフェライトが生成しており地面側にはコーナー割れが発生していた。」 「【図2】 [図:0001392095000003.jpg] 」 (2)上記(1)から、以下の事項が理解できる。 ア 例えば請求項2の記載等から、「垂直曲げ型連続鋳造装置」は、鋳型から鋳片を鉛直方向下方に引き抜く垂直部と、垂直部から引き抜かれた鋳片を曲げる曲げ部とを備えるものであることが理解できる。 イ 段落【0020】、【0023】の記載等から、「垂直曲げ型連続鋳造装置」は、垂直部の上部側である鋳型直下に、急冷却部である第1のゾーンを備え、該第1の冷却ゾーンから曲げ部までの間に弱冷却部である第2のゾーンを備えることが理解できる。 ウ 段落【0044】の記載等から、冷却部(急冷却部、弱冷却部)がロールとノズルとを含むことが理解できる。 エ 段落【0038】の記載等から、冷却部における冷却方式として、水と空気を混合したミスト冷却を採用していることが理解できる。 オ 段落【0056】の表4には、実施例3として、第1のゾーンにおける水量密度を760リットル/分・m2、通過時間を1.00分として、第2のゾーンにおける水量密度を80リットル/分・m2、通過時間を1.45分とした実施例が記載されており、当該実施例3は、請求項2の○2、○3式を満足している。 そして、上記実施例3において、第2のゾーンにおける水量密度(80リットル/分・m2)は第1のゾーンにおける水量密度(760リットル/分・m2)と比較して低下していること、及び第1のゾーンにおける水量密度と通過時間(1.00分)の積が760であることが理解できる。 (3)甲1発明 上記(1)及び(2)から、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が開示されているものと認められる。 <甲1発明> 「鋳型から鋳片を鉛直方向下方に引き抜く垂直部と、前記垂直部から引き抜かれた前記鋳片を曲げる曲げ部とを備え、前記垂直部の上部側が、ロールとノズルとを含む第1のゾーンと、 前記第1のゾーンから前記曲げ部までの間に位置する第2のゾーンを備える垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法であって、 前記第1のゾーンにおいて、水と空気を混合したミスト冷却をし、 前記第1のゾーンにおける水量密度を760リットル/分・m2とし、 前記鋳片が前記第1のゾーンを通過する通過時間を1分として、水量密度と通過時間との積を760とし、 前記第1のゾーン通過後から前記曲げ部に到達するまでの前記第2のゾーンにおける水量密度を前記第1のゾーンと比較して低下させ、前記鋳片の前記第2のゾーンを通過する時間1.45分とする、鋼の連続鋳造方法。」 2 甲2~5に記載の技術的事項 (1)甲2に記載の技術的事項 「【0003】 この二次冷却帯における鋳片の冷却は、鋳片の品質を大きく左右する要因の1つとなっている。例えば、冷却強度が強過ぎる場合には、鋳片表面に縦割れや横割れなどの割れが発生し、一方、冷却強度が低過ぎる場合には、鋳片表面温度が高くなり過ぎて凝固シェルの強度が低下し、溶鋼静圧による凝固シェルのバルジング(鋳片が膨らむこと)が大きくなり、このバルジングに起因して内部割れが発生したり中心偏析が悪化したりする。 【0004】 従って、鋳片の冷却を精度良く制御するために、鋳造方向に長く伸びる二次冷却帯を鋳造方向で複数の部位に分割し、分割した各冷却ゾーン別に冷却水量を決定するのが一般的である。・・・ ・・・ 【0014】 図1に示すように、垂直曲げ型連続鋳造機1は、鋳型4と、鋳型4の上方に配置されるタンディッシュ2と、鋳型4の直下に配置されるローラーエプロン5と、ローラーエプロン5の下方に設置される複数対のピンチロール7と、鋳造される鋳片12を円弧状に曲げるための曲げロール8と、円弧状に曲げられた鋳片12を平板状に曲げ戻すためのストレートナー9と、を備えている。タンディッシュ2の底部には浸漬ノズル3が設置されている。 【0015】 ローラーエプロン5には複数対のガイドロール(図示せず)が配置されており、ローラーエプロン5の領域が二次冷却帯6となっている。この二次冷却帯6は、鋳型4の直下側から順に、第1ゾーン6a、第2ゾーン6b、第3ゾーン6c、第4ゾーン6d、第5ゾーン6e、第6ゾーン6f、第7ゾーン6g、第8ゾーン6h、第9ゾーン6iの9つの冷却ゾーンに分かれており、これらの冷却ゾーンには、それぞれ、図2に示すように水スプレーノズルまたはエアーミストスプレーノズルからなるスプレーノズル13が、鋳造方向に隣り合うガイドロールの間隙に設置されている。尚、図2は、スプレーノズル13の配置を示す概略図で、図2(A)は鋳造方向に平行な方向から見た配置図で、図2(B)は鋳造方向に垂直な方向から見た配置図である。 【0016】 この場合、スプレーノズル13への冷却水供給配管14は、ルート1,2,3の3つの系統に分かれており、ルート1が鋳造可能な最大幅の鋳片に対してその中央部を冷却し、ルート3がその端部を冷却し、ルート2がルート1とルート3との間を冷却するように構成されている。第1ゾーン6aから第9ゾーン6iまでの各冷却ゾーンで、それぞれ独立して二次冷却水の供給量が調整可能となっているのみならず、各冷却ゾーンのルート1,2,3の3つの系統でも独立して二次冷却水の供給量が調整可能となっている。それぞれのスプレーノズル13は、鋳造方向に千鳥配置されており、これらのスプレーノズル13から噴霧される二次冷却水によって鋳片12は冷却されるようになっている。」 「【図1】 [図:0001392095000004.jpg] 【図2】 [図:0001392095000005.jpg] 以上から、甲2には、次の技術的事項(以下、「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 <甲2に記載の技術的事項> 垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法において、二次冷却帯は、鋳型4の直下側から順に、複数の冷却ゾーンに分かれており、これらの冷却ゾーンには、それぞれ、スプレーノズルが鋳造方向に隣り合うガイドロールの間隙に設置されており、各冷却ゾーンで、それぞれ独立して二次冷却水の供給量が調整可能となっていること。 (2)甲3に記載の技術的事項 「【請求項1】 連続鋳造装置で鋳造される鋳片に向けて、液体と気体とを混合したエアミストを噴射し、連続鋳造中の鋳片を冷却する二次冷却方法において、 前記エアミストの液体に対する気体の重量混合比を0.02以上にすることを特徴とする、連続鋳造の二次冷却方法。 【請求項2】 前記エアミストの気体量を増やすことにより、液体量を変えずに前記エアミストの圧力を高めることを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造の二次冷却方法。 【請求項3】 前記液体が水であり、前記気体が空気であることを特徴とする、請求項1または2に記載の連続鋳造の二次冷却方法。」 「【0001】 本発明は、連続鋳造機において鋳片を均一に冷却するための、連続鋳造の二次冷却方法に関するものである。 ・・・ 【0003】 従来、鋳片3がほぼ鉛直下方に引き出される部分では、鋳片3の表面に噴射された冷却水の一部は、図5に示すように、排水されずにガイドロール4と鋳片3との間に滞留し、溜まり水13となっていた。 【0004】 一般に、ガイドロール4に滞留する溜まり水は、幅方向中央部で最も少なく、両側方に向かって増加する分布を示す。このように、鋳片3の幅方向で溜まり水13の分布が異なると、均一な冷却ができない要因となる。さらに、ガイドロール4で鋳片3を強く押し付ける必要がある場合には、ガイドロール4の剛性を増すために、図2に示すように、ガイドロール4が鋳片3の幅方向に分割される。このような場合、分割された各ガイドロール4の間の軸受け部21の位置では、冷却水の排水による溜まり水が発生しない。したがって、鋳片3がガイドロール4と接触している位置と軸受け部21の位置とでは、溜まり水13の分布が不均一となり、鋳片3の幅方向に冷却むらができる。 ・・・ 【0009】 本発明の目的は、装置等を新設することなく低コストで、ガイドロール位置の溜まり水を低減させて鋳片を均一に冷却し、優れた品質の鋳片を製造するための連続鋳造の二次冷却方法を提供することにある。 ・・・ 【0016】 図1は、本発明にかかる連続鋳造設備1の概要を示す。鋳型2の上側から、タンディッシュ(図示せず)内の溶鋼が注入され、鋳型2で一次冷却されて表面が凝固した状態の鋳片3が、鋳型2の下方から少しずつ引き出される。鋳型2の下方において、鋳片3は、それぞれ対向して設置された複数対のガイドロール4で挟み込まれながら連続的に送り出され、これにより、連続した鋳片3が生産される。図1は連続鋳造設備1の一例であり、鋳片3の両側のガイドロール4により、鋳片3が鋳型2のほぼ鉛直下方へ引き抜かれた後、徐々に90度程度曲げられて、水平方向へ移動していく彎曲型である。本発明は、彎曲型の連続鋳造設備に限らず、垂直型などでも同様に適用できる。 【0017】 ガイドロール4は、鋳片3の幅方向全体を押さえ付ける幅を有するものでもよいが、鋳片3を強く拘束するために剛性が必要な場合には、図2に示すように、幅方向に分割され、軸受け部21で各ガイドロール4が連結される。 【0018】 鋳片3は、冷却水を噴射する二次冷却手段によって冷却されながら、ガイドロール4で連続的に送り出される。二次冷却手段は、図3に示すように、各ガイドロール4同士の隙間から鋳片3に向けてエアミスト12を噴射する二流体ノズル11からなり、二流体ノズル11内で空気と水が混合されて、エアミスト12が噴射される。二流体ノズル11は、鋳片3の幅方向に均一な水量密度分布を有する噴射パターンとなるように、鋳片3の幅方向に適宜間隔で複数、例えば2200mm程度の幅の鋳片3に対して幅方向に7~8本配置される。そして、通常、1本の二流体ノズル当たり5~20リットル/分程度の水量が噴射される。 【0019】 このとき、エアミストの圧力が弱いと、図5に示すように、鋳片3に接触しているガイドロール4の上部に、エアミスト12の排水が滞留して溜まり水13ができる。ガイドロール4が、図2に示すように鋳片3の幅方向に分割されている場合には、ガイドロール4と鋳片3とが接触する部分のみに溜まり水13ができるが、軸受け部21には溜まり水ができない。その結果、鋳片3の幅方向に温度むらが生じ、均一な冷却ができなくなる。 【0020】 そこで、本発明では、二流体ノズル内で生成されるエアミストの、水に対する空気の比率である気水比(重量混合比)A/Wを高くすることで、エアミストの圧力を高くし、溜まり水13を吹き飛ばすこととした。具体的には、従来はA/Wが0.005~0.015程度であったが、本発明では0.02以上とした。図4は、気水比毎の、ガイドロール4の溜まり水13の高さを調べた結果を示すグラフである。図4に示すように、水量密度が0.05~0.30m3/min・m2の範囲において、気水比0.02前後を境界とし、空気量を多くすると、溜まり水13の高さが急激に少なくなった。すなわち、空気量を増加し、エアミスト12を高圧噴射すると、エアミスト12の噴射面が図3に示すように広がるため、エアミスト12を噴射させることで溜まり水13を吹き飛ばすことができた。気水比A/Wの上限は特に定めないが、図4に示すように、0.20を超えても溜まり水の高さは大きく変化せず、また、従来の0.005~0.015の範囲と比較すれば、0.20または0.10程度で十分な効果が期待できるため、0.10~0.20以下でよい。 「【図1】 [図:0001392095000006.jpg] 【図2】 [図:0001392095000007.jpg] 【図3】 [図:0001392095000008.jpg] 【図4】 [図:0001392095000009.jpg] 【図5】 [図:0001392095000010.jpg] 」 以上から、甲3には、次の技術的事項(以下、「甲3に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 <甲3に記載の技術的事項> 垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法において、エアミストの圧力を高くしてガイドロール上部の溜まり水を吹き飛ばすために、二流体ノズル内で生成されるエアミストの、水に対する空気の比率である気水比(重量混合比)A/Wを0.02以上とすること。 (3)甲4に記載の技術的事項 「【0001】 本発明は、鋼の連続鋳造において鋳片の表面割れを防止し表面性状の良好な鋳片を製造する方法に関する。 ・・・ 【0017】 【図1】パウダー塩基度ごとの冷却水衝突圧力とパウダー剥離率の関係 【0018】 本発明が対象とする鋼は、鋳片表面にオーステナイト粒界割れが発生しやすい鋼種である。一般的に、C=0.06~0.20%、Ni=0.1~2%含有する鋼の鋳片ではオーステナイト粒界割れが発生しやすく、加えて、Nb、Vなどが含まれるとさらに割れが発生しやすい。 ・・・ 【0020】 本発明は、Ni等の合金元素を含む鋼を連続鋳造するに際して、鋳型内の潤滑剤として用いる鋼の連続鋳造用パウダー(パウダーフィルム)を鋳型直下で鋳片の表面から均一に剥離すると同時に鋳片表面を強冷却し、さらに復熱を行った上で曲げ部と矯正部を通過させることにより、安定的に鋳片の表面割れを防止する。 【0021】 本発明者らは、連続鋳造用パウダーフィルムの鋼片からの剥離性について実験的な検討(オフライン実験)を進めた。鋼片の表面に連続鋳造用パウダーを載せた上で1200℃まで急速に加熱して、鋼片表面に溶融パウダーフィルム層を形成し、一定時間保持した後、表面にスプレー水を噴射して冷却する実験を行った。・・・ 【0022】 そこで上記オフライン実験において、鋼片に吹き付ける冷却水の衝突圧力とパウダーフィルム剥離性との関係についても調査した。鋼片の表面に連続鋳造用パウダーを載せた上で1200℃まで急速に加熱して鋼片表面に溶融パウダーフィルム層を形成し、0.5分保持した後、表面に種々の衝突圧力でスプレー水を噴射して冷却する実験を行った。その後、鋼片表面のうちでパウダーフィルム層が剥離した部分の面積率をパウダー剥離率(%)として評価した。鋼片上に載置する連続鋳造用パウダーとして、塩基度(CaO質量%/SiO2質量%)が1.0から1.8の4種類のものを用いた。結果を図1に示す。 【0023】 パウダーフィルムとスケールが反応する前の時間であれば、図1に示すように、衝突圧力を5gf/cm2以上となるように設定すれば、いずれのパウダー塩基度であっても、パウダーフィルムの剥離が促進されることが明らかになった。 ・・・ 【0031】 以上のように、本発明の鋼の連続鋳造においては、鋳型内の潤滑剤として連続鋳造用パウダーを均一に剥離するため、鋳片表面に生成したスケールとの反応が進行しないうちに、パウダーを表面から除去する必要があるので、鋳型下端と1本目のロール間、もしくは1本目と2本目のロールとの間に設置した水冷ノズルから大量の水を鋳片に吹き付ける。そのときの衝突圧力はオフラインで水冷ノズルから所定量の冷却水・エアを噴霧しながら受圧センサーで測定することが可能である。また簡易的には、以下の式で見積もることができる。 PC=10-2×W0.81×Va0.5/H0.2/(AW)0.263(g/cm2) ここで、W:水量密度(L/min/m2)、Va:圧空吐出流速(m/s)、H:噴射距離(m)、AW:気水比=(単位時間当たりに供給される空気の重量)/(単位時間当たりに供給される水の重量)である。 ・・・ 【0044】 【表2】 [図:0001392095000011.jpg] 」 「【図1】 [図:0001392095000012.jpg] 」 そして、上記段落【0044】の表2の本発明例5に、水冷ノズルから鋳片に吹き付ける冷却水の衝突圧を12gf/cm2とした実施例が示されており、また、図1から、いずれの塩基度でも衝突圧力がおよそ13gf/cm2以上でパウダー剥離率が100%に達しているといえる。 以上から、甲4には、次の技術的事項(以下、「甲4に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 <甲4に記載の技術的事項> 垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法において、鋳型内の潤滑剤として用いる鋼の連続鋳造用パウダー(パウダーフィルム)を鋳型直下で鋳片の表面から均一に剥離すると同時に鋳片表面を強冷却するために、水冷ノズルから鋳片に吹き付ける冷却水・エアの衝突圧を12gf/cm2以上とすること。 (4)甲5に記載の技術的事項 「【請求項1】 連続鋳造機の二次冷却帯に設置されたエアーミストスプレーを用いて鋳片を冷却するに際し、水と空気とが混合する直前の空気の圧力を0.5MPa以上1MPa以下の範囲とすることを特徴とする、連続鋳造鋳片の二次冷却方法。」 「【0001】 本発明は、連続鋳造機の二次冷却帯において鋳片を冷却する方法に関し、詳しくは、エアーミストスプレーにより効率的に鋳片を冷却する方法に関するものである。 ・・・ 【0010】 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、連続鋳造機の二次冷却帯において、エアーミストスプレーにより効率的に鋳片を冷却する方法を提供することである。 ・・・ 【0015】 図1に示すように、エアーミストスプレー3は、水を供給する水供給管7と、空気を供給する空気供給管8と、水供給管7と空気供給管8とが合流して供給される水及び空気が混合される混合部6と、混合された水及び空気の流路となる混合配管5と、混合配管5の先端部に装着されるノズルチップ4とを備えている。ノズルチップ4は、鋳造方向に隣り合う、鋳片2の支持・案内装置である鋳片支持ロール1の間隙に配置され、ノズルチップ4から噴出される霧状の水粒子11(これ以降「ミスト」と称す)が鋳片2の表面に衝突することで、鋳片2が冷却される構成になっている。水供給管7には供給される水の圧力を測定する水圧測定用圧力計9が設置され、また、空気供給管8には供給される空気の圧力を測定する空気圧測定用圧力計10が設置されている。尚、水供給管7は水を供給するポンプ(図示せず)に連結され、空気供給管8は空気を供給するポンプ(図示せず)に連結されている。また、図1では、鋳片2の左側片側のみに鋳片支持ロール1及びエアーミストスプレー3が設置されているが、図1では鋳片2の右側を省略しており、右側にも鋳片支持ロール1及びエアーミストスプレー3が設置されている。 ・・・ 【0031】 また更に、ミスト11の衝突圧を変化させた実験から、冷却能力を高く維持するためには、ミスト11の衝突圧は2kPa以上であることが好ましいことが分った。ミスト11の衝突圧が2kPa未満の場合には、衝突圧が低すぎて冷却能力が低下する。ミスト11の衝突圧の上限は供給する空気の圧力に応じて自ずと決まることになる。 【0032】 即ち、エアーミストスプレー3による冷却能力を向上させるには、供給する空気の圧力が0.5MPa以上1.0MPa以下となるノズルチップ4を使用する必要があり、そして、これに加えてミスト11の噴霧厚みが40mm以上でミスト11の衝突圧が2kPa以上となるノズルチップ4を使用することが好ましいことが分った。つまり、これらの条件を満足するノズルチップ4を設計する必要のあることが分った。このような設計思想に基づいたノズルチップ4を混合配管5に装着して供給する空気の圧力を0.5MPa以上1.0MPa以下とすれば、鋳片2を効率的に冷却することが達成される。 【0033】 ノズルチップ4の設計に当たっては、1本当たりのエアーミストスプレー3から供給できる噴霧量と圧力条件とを把握することが必要である。ここで、噴霧量とは、水或いは空気を供給するポンプから供給される水量及び空気量を指し、圧力条件とは供給される水及び空気の圧力を指している。ノズルチップ4の構造が異なると、同一量の水量及び空気量を供給する場合でも圧力条件は異なってくる。空気の供給圧力が0.5MPa以上1.0MPa以下とならない場合には、設備を改造してこの条件を満足しない限り、本発明を実施することはできない。」 「【図1】 [図:0001392095000013.jpg] 」 以上から、甲5には、次の技術的事項(以下、「甲5に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 <甲5に記載の技術的事項> 鋼を連続的に鋳造する方法において、連続鋳造機の二次冷却帯において、エアーミストスプレーによる冷却能力を向上させるために、供給する空気の圧力が0.5MPa以上1.0MPa以下となるノズルチップを使用し、当該ノズルチップから鋳片の表面に噴出されるミストの衝突圧を2kPa以上とすること。 なお、「2kPa」は、換算すると、「20.4gf/cm2」に相当する。 3 申立理由1(進歩性欠如)についての判断 (1)本件発明1について ア 対比 甲1発明の「ノズル」はその機能に鑑みれば本件発明1の「冷却スプレーノズル」に相当し、以下同様に、「第1のゾーン」は「第1の冷却ゾーン」に、「第2のゾーン」は「第2の冷却ゾーン」に、「水量密度」は「冷却水密度」に、それぞれ相当する。 また、甲1発明の「前記第1のゾーンにおける水量密度を760リットル/分・m2」とすることは、本件発明1の「前記第1の冷却ゾーンにおける冷却水密度W1(L/min/m2)を500L/min/m2以上2000L/min/m2以下」とすることに包含され、同様に、甲1発明の「前記鋳片が前記第1のゾーンを通過する通過時間を1分として、水量密度と通過時間との積を760」とすることは、本件発明1の「前記鋳片が前記第1の冷却ゾーンを通過する時間t1(min)との積として定義される冷却強度W1×t1を350以上」とすることに包含されるものである。 さらに、甲1発明の「第2のゾーン」は、「水量密度を第1のゾーンと比較して低下され」るゾーンであって、鋳片が復熱するゾーンであるといえることから、「前記鋳片の前記第2のゾーンを通過する時間」は、本件発明1の「前記鋳片の前記第2の冷却ゾーンを通過する復熱時間t2」に相当し、甲1発明の「前記第1のゾーン通過後から前記曲げ部に到達するまでの前記第2のゾーンにおける水量密度を前記第1のゾーンと比較して低下させ、前記鋳片の前記第2のゾーンを通過する時間1.45分」とすることは、本件発明1の「前記第1の冷却ゾーン通過後から前記曲げ部に到達するまでの前記第2の冷却ゾーンにおける冷却水密度W2(L/min/m2)を前記第1の冷却ゾーンと比較して低下させることで、前記鋳片の前記第2の冷却ゾーンを通過する復熱時間t2を0.5min以上」とすることに包含されるものである。 そして、甲1発明の「前記第1のゾーンにおいて、水と空気を混合したミスト冷却」をすることと、本件発明1の「前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R1(L/min)に対する空気量A1(L/min)の比である気水比A1/R1を10以上とするとともに、前記冷却スプレーノズルから前記鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上」とすることとは、「前記第1の冷却ゾーンにおいて、水と空気を混合したミスト冷却」をする点では共通している。 イ 一致点、相違点 以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 鋳型から鋳片を鉛直方向下方に引き抜く垂直部と、前記垂直部から引き抜かれた前記鋳片を曲げる曲げ部とを備え、前記垂直部の上部側が、ロールと冷却スプレーノズルとを含む第1の冷却ゾーンと、 前記第1の冷却ゾーンから前記曲げ部までの間に位置する第2の冷却ゾーンを備える垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法であって、 前記第1の冷却ゾーンにおいて、水と空気を混合したミスト冷却をし、 前記第1の冷却ゾーンにおける冷却水密度W1(L/min/m2)を500L/min/m2以上2000L/min/m2以下とし、 前記鋳片が前記第1の冷却ゾーンを通過する時間t1(min)との積として定義される冷却強度W1×t1を350以上とし、 前記第1の冷却ゾーン通過後から前記曲げ部に到達するまでの前記第2の冷却ゾーンにおける冷却水密度W2(L/min/m2)を前記第1の冷却ゾーンと比較して低下させることで、前記鋳片の前記第2の冷却ゾーンを通過する復熱時間t2を0.5min以上とする、鋼の連続鋳造方法。 <相違点1> 第1の冷却ゾーンが、本件発明1では、「前記ロール間の各段あたりに設置された、冷却水量を独立して制御できる前記スプレーノズルの冷却段数で決まる第1の冷却ゾーン」とされているのに対し、甲1発明では、第1のゾーンがそのようなものであるか不明な点。 <相違点2> 第1の冷却ゾーンにおけるミスト冷却について、本件発明1では、「前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R1(L/min)に対する空気量A1(L/min)の比である気水比A1/R1を10以上とするとともに、前記冷却スプレーノズルから前記鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上」としているのに対し、甲1発明では、第1のゾーンおけるミスト冷却について、その気水比及び冷却水の衝突圧は不明である点。 ウ 相違点についての検討 以下、相違点について検討する。 事案に鑑みて、相違点2について検討する。 (ア)本件発明1において、気水比A1/R1を10以上とするとともに、冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上とする点に関して、本件明細書の段落【0030】には次の記載がある。 「【0030】 (第1の冷却ゾーン21における気水比) 冷却スプレーノズル21bからの冷却水の衝突圧を増加させるには、冷却水量を増加させるか、もしくは、冷却水量を担保した状態で空気量を増加させることが有効である。ここで、冷却水量を単に増加させた場合、ロール21aにおけるたまり水が発生し易い。たまり水を抑制しつつ冷却水の衝突圧を増加させるには、冷却水量に対する空気量の比(気水比)を増大させることが好ましい。この観点から、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21において、冷却スプレーノズル21bの一本当たりの水量R1(L/min)に対する空気量A1(L/min)の比である気水比A1/R1を10以上とする。・・・」 すなわち、本件発明1は、たまり水の抑制と冷却水の衝突圧の増加という相反する事象を解決するために、「気水比A1/R1を10以上」とする点と「冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上」とする点とを同時に採用することで、相乗的な効果を奏するものであるといえる。 (イ)当該相乗的な効果を具体的に検討すると、本件特許明細書の段落【0056】の表3には、「気水比A1/R1が10以上」とすることに加えて「冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上」とすることにより表面の割れが顕著に抑制できていること(表3の実施例1~10では、割れ個数が0~4に収まっている点を参照。)を理解できる。 これに対して、比較例4、5では、「気水比A1/R1が10以上」とされているものの(比較例4、5で、それぞれ20、15)、「冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上」とされていない(比較例4、5で、それぞれ11、10)ことに起因して、表面に多数の割れ(比較例4、5で、それぞれ22、35個)が生じていることを理解できる。 このように、本件発明1における「気水比A1/R1を10以上」とする点と「冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上」とする点は、同時に採用することにより、表面の割れが顕著に抑制できる効果を奏するから、「気水比」と「冷却水の衝突圧」は、密接な技術的関係にあるというべきである。 (ウ)これを前提に、甲2~甲5を検討すると、まず、甲3(上記2(2)を参照。)には、垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法において、エアミストの圧力を高くしてガイドロール上部の溜まり水を吹き飛ばすために、二流体ノズル内で生成されるエアミストの、水に対する空気の比率である気水比(重量混合比)A/Wを0.02以上とするとの技術的事項が記載されているところ、当該「気水比(重量混合比)A/Wを0.02」とは、水量R1(L/min)に対する空気量A1(L/min)の比である気水比A1/R1の値に換算すると15.5に相当するから、甲3には、相違点2に係る本件発明1の「前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R1(L/min)に対する空気量A1(L/min)の比である気水比A1/R1を10以上とする」ことに包含される技術的事項は記載されているといえる。 そして、甲1発明と甲3に記載の技術的事項とは、垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法において、冷却ゾーンにて、水と空気を混合したミスト冷却を行う点では共通しているから、甲1発明に甲3に記載の技術的事項を適用して、甲1発明のノズルから噴射されるミストの気水比A1/R1を10以上とすることは容易になし得るといえる余地はある。 しかしながら、甲3には、「前記冷却スプレーノズルから前記鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上」とすることは記載されていない。 (エ)さらに、冷却スプレーノズルから鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上とすることが、上記甲4及び甲5に記載されているとしても(上記2(3)、(4)を参照。)、相違点2に係る本件発明1の構成とするために、甲1発明に甲3に記載の技術的事項を適用するように改変した上で、さらに、甲4及び甲5に記載の技術的事項を適用するように改変することは、甲1発明を多段階に改変することに該当するところ、本件発明1における「気水比」と「冷却水の衝突圧」の密接な技術的関係を前提とすれば、そのような多段階の改変を要する本件発明1が、甲1発明に基づいて容易になし得たものということはできない。 (オ)さらに、本件発明1により奏する効果(上記(ア)及び(イ))について検討すると、甲1発明、甲3に記載の技術的事項並びに甲4及び甲5に記載の技術的事項からでは予測し得ない有利な効果であることは明らかである。 (カ)以上から、甲1発明に甲3~甲5に記載の技術的事項を適用して、相違点2に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易になし得るものということはできない。 また、甲2(上記2(1)を参照。)にも、相違点2に係る本件発明1の構成は記載されていないから、甲1発明に甲2~5に記載の技術的事項を適用して、相違点2に係る本件発明1の構成とすることも容易になし得るものではない。 さらに、その他の証拠(甲6~甲8)にも、相違点2に係る本件発明1の構成は記載されていない。 (キ)なお、申立人は、特許異議申立書の41~43頁(「相違点(ロ)について」の項を参照。)において、鋳片を二次冷却する際にたまり水を抑制するために、気水比A1/R1を10以上とすることは、甲3の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、甲4、5の記載に基づいて、連続鋳造片の二次冷却において、冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上とすることは周知であるから、第1の冷却ゾーンの冷却について、冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R1(L/min)に対する空気量A1(L/min)の比である気水比A1/R1を10以上とするとともに、前記冷却スプレーノズルから前記鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm2以上とすることは、甲3~5に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである旨を主張しているが、甲1発明に甲3に記載の技術的事項を適用した上で、さらに、甲4及び甲5に記載の技術的事項を適用することは、多段階の改変に該当し、そのような多段階の改変を要する本件発明1が、甲1発明に基づいて容易になし得たものということはできないことは上記(エ)で説示したとおりである。よって、申立人の主張は採用できない。 エ 小括 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2~5に記載の技術的事項及びその他の証拠(甲6~甲8)に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 (2)本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当し、本件発明2~5と甲1発明とは、上記相違点2を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明等に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 (3)申立理由1についてのむすび したがって、本件発明は、甲1発明等に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、申立理由1によって請求項1~5に係る特許を無効とすることはできない。 4 申立理由2(明確性要件違反)についての判断 申立人は、本件発明1の「前記ロール間の各段あたりに設置された、冷却水量を独立して制御できる前記スプレーノズルの冷却段数で決まる第1の冷却ゾーン」との記載は不明確である旨を主張している(上記第3の(2)を参照。)。 しかしながら、上記記載において、「スプレーノズル」が「前記ロール間の各段あたりに設置された」ものであるとともに、スプレーノズルの冷却段は「冷却水量を独立して制御できる」ものであること、及び「前記スプレーノズルの冷却段数」で「第1の冷却ゾーン」が決定されること、すなわち、2本のロール間を各段(冷却段)として各段にスプレーノズルが設置され、各段において冷却水量を独立して制御でき、その冷却段数によって第1の冷却ゾーンが決定されることが理解できるものであるから、不明確ということはできない。 そして、上記記載がそのように理解できることは、上記記載と関連する、本件特許明細書の段落【0050】の「連続鋳造装置の二次冷却帯において、鋳型直から1~6本目までの5段のロール間に、1段あたりミストスプレーノズルを幅方向150mmごとに15本設置し、各段の冷却水量を独立して制御できるものとした。この冷却ゾーンを「第1の冷却ゾーン」と称し、・・・」との記載とも矛盾するところはない。 したがって、申立人の主張する申立理由2によって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~5に係る特許を取り消すことはできない。 なお、申立人は、特許異議申立書の45頁において、ロールが1本あるいは2本では、どのようにして、冷却水量を独立して制御できるスプレーノズルを構成できるのか不明であるため、上記「前記ロール間の各段あたりに設置された、冷却水量を独立して制御できる前記スプレーノズルの冷却段数で決まる」との記載は明確でない旨の主張をしているが、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるところ、本件発明1の上記記載は、「少なくとも、ロールが3本以上であり冷却段が2段以上の場合において、2段以上の冷却段にスプレーノズルが設置され、各段において冷却水量を独立して制御でき、2段以上の冷却段数によって第1の冷却ゾーンが決定される」ことを特定するものであることを理解できるから、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできず、申立人の主張は採用できない。 5 申立理由3(サポート要件違反)についての判断 申立人は、本件発明3には、冷却水密度W2の値が規定されているが、復熱時間t2は規定されておらず、他方、発明の詳細な説明の本件発明の実施例が示された表3(【0057】)には、復熱時間t2の値が示されているが、冷却水密度W2の値は示されていないから、本件発明3は、裏付けのないものである旨を主張している。 しかしながら、本件発明3は本件発明1を引用するものであり、本件発明1には「前記鋳片の前記第2の冷却ゾーンを通過する復熱時間t2を0.5min以上とすること」が特定されている。 さらに、本件特許明細書の段落【0057】の表3には、冷却水密度W2の値は明記されていないものの、復熱時間t2を0.5min以上とした実施例1~10は示されており、加えて、当該表3の結果に関連して、段落【0051】に、「実験条件」として、「第1の冷却ゾーン直下から曲げ部までの冷却ゾーン(第2の冷却ゾーン)においては、平均水量密度W2と通過時間t2の積が0~50(L/m2)となる冷却条件として、第1の冷却ゾーン通過後、曲げ部に到達するまでに鋳片を復熱させるようにした。」との記載があることから、当業者であれば、冷却水密度W2の値を算出でき、発明の詳細な説明に、「冷却水密度W2」について実質的に記載されているに等しいというべきである。 以上から、本件発明3が発明の詳細な説明により裏付けられていないということはできない。 したがって、申立人の主張する申立理由3によって、請求項3及び請求項3を引用する請求項4、5に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700804

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