特許異議申立
2022-700199
免疫分析方法及び試薬
- 審判番号
- 2022-700199
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-097577
- 登録番号
- 6931673
- 請求日
- 2022年03月08日
- 審決日
- 2023年02月08日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人谷川国際特許事務所
- 【異議申立人】山口 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 伊藤 幸仙
- 審判官 樋口 宗彦
- 分類
- P1651.121-YAA(G01N) / P1651.113-YAA(G01N) / P1651.537-YAA(G01N) / P1651.536-YAA(G01N) / P1651.851-YAA(G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6931673号発明「免疫分析方法及び試薬」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6931673号の特許請求の範囲を令和4年10月31日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6931673号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6931673号の請求項1ないし6に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成26年10月9日に出願された特許出願である特願2014-207750号(以下「原出願」という。)の一部を新たな特許出願として令和元年5月24日に出願されたものであり、令和3年8月18日にその特許権の設定登録がされ、令和3年9月8日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 3月 8日 : 特許異議申立人 山口幸子(以下「申立人」
という。)による請求項1ないし6に係る
特許に対する特許異議の申立て及び甲第1
ないし9号証の提出
令和4年 5月17日付け: 取消理由通知書
令和4年 7月22日 : 特許権者による意見書及び乙第1号証の提出
令和4年 8月24日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和4年10月31日 : 特許権者による意見書、訂正請求書、及び
乙第2号証の提出
令和4年12月15日 : 申立人による意見書及び甲第10ないし
14号証の提出
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求(令和4年10月31日提出の訂正請求書による訂正請求)の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の(1)のとおりである。
(1)訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に、「ラテックス凝集免疫分析方法。」とあるのを、「ラテックス凝集免疫分析方法(ただし、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除く)。」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
(上記訂正事項を以下では「訂正事項1」ということとする。)
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、独立特許要件
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る発明では、「ラテックス凝集免疫分析方法」を「ラテックス凝集免疫分析方法(ただし、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除く)」に限定することで、訂正前の請求項1に係る発明のラテックス凝集免疫分析方法を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 上記「ア」から明らかなように、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明であるラテックス凝集免疫分析方法において、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除いたラテックス凝集免疫分析方法に限定するものであり、訂正前の請求項1の記載について、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーを変更するものでもなく、かつ、訂正前の請求項1に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならない。したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ そして、訂正事項1は、上記CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除いたラテックス凝集免疫分析方法に限定するもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項1の一群の請求項及び独立特許要件について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
また、本件においては、訂正前の請求項1ないし6について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1ないし6に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う、特異性が向上するラテックス凝集免疫分析方法(ただし、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除く)。
【請求項2】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤のHLBが15~19の非イオン性界面活性剤である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤が存在する反応系及び/又は測定系における該ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度が0.0001~1%である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
抗原抗体反応の開始から測定完了までを前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の存在下で行う請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法に使用される特異性が向上するラテックス凝集免疫分析試薬であって、アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)を含むことを特徴とする免疫分析試薬。
【請求項6】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤のHLBが15~19である請求項5記載の試薬。」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、令和4年3月8日提出の特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)において、証拠として甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、以下の異議申立理由(以下「異議申立理由1ないし5」という。)によって、本件訂正前の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
<証拠一覧>
甲第1号証:特開2013-125005号公報
甲第2号証:特開昭58-187862号公報
甲第3号証:PRODUCT INFORMATION 花王株式会社 ケミカル事業ユニット 花王のエーテル系非イオン性界面活性剤『エマルゲン1100シリーズ』、2005年5月発行、第1-4頁
甲第4号証:KAO 製品名:エマルゲン1118S-70 安全データシート、花王株式会社、2021年6月7日発行、第1-10頁
甲第5号証:KAO 製品名:エマルゲン1135S-70 安全データシート、花王株式会社、2021年4月20日発行、第1-10頁
甲第6号証:エマルゲン123P 花王ケミカル製品(https://chemical.kao.com/ja/products/B0001922_ja/?region=jp)
甲第7号証:特開2006-71574号公報
甲第8号証:花王株式会社 GPS安全性要約書 エマルゲン 709、花王株式会社、2020年12月24日発行、第1-4頁
甲第9号証:特開2013-148496号公報
(1)異議申立理由1(サポート要件違反)
本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)異議申立理由2(甲1発明を主引例とする進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし3号証等の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到しうるものである。
(3)異議申立理由3(甲2発明を主引例とする進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、並びに甲第1号証及び甲第3号証等の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到しうるものである。
(4)異議申立理由4(甲7発明を主引用発明とする新規性欠如)
本件訂正前の請求項1、及び3ないし5に係る発明は、甲第7号証に記載された発明と同一である。
(5)異議申立理由5(甲7発明を主引用発明とする進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明は、甲第7号証に記載された発明、並びに甲第1号証ないし甲第3号証等の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到しうるものである。
第5 令和4年12月15日提出の申立人意見書の概要
申立人は、令和4年12月15日提出の意見書(以下「申立人意見書」という。)において、証拠として甲第10号証ないし甲第14号証を提出し、令和4年10月31日付け訂正請求書による訂正及び同日付け意見書での主張によっても、依然として令和4年8月24日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由1ないし3を解消しておらず、本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
<証拠一覧>
甲第10号証:特許第7153969号公報
甲第11号証:特許第7153407号公報
甲第12号証:特許第7122447号公報
甲第13号証:特開平4-258765号公報
甲第14号証:特開2012-17287号公報
第6 取消理由通知に記載した取消理由について
取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和4年8月24日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件)本件特許は、本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明を実施可能なように、明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)取消理由3(進歩性)本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に開示された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件訂正前の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2013-125005号公報
甲第3号証:PRODUCT INFORMATION 花王株式会社 ケミカル事業ユニット 花王のエーテル系非イオン性界面活性剤『エマルゲン1100シリーズ』、2005年5月発行、第1-4頁
甲第4号証:KAO 製品名:エマルゲン1118S-70 安全データシート、花王株式会社、2021年6月7日発行、第1-10頁
第7.甲号証及び乙号証について
1.甲号証の記載
(1)甲第1号証
本件特許の原出願の出願前である平成25年(2013年)6月24日に頒布された刊行物である特開2013-125005号公報(以下「甲第1号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与。以下同様。)
ア 「【0001】
本発明は、CK-MB測定用ラテックス凝集免疫試薬及び測定方法に関する。」
イ 「【0036】
本発明の試薬に添加可能な非特異反応抑制剤としては、非特異反応の原因物質に対する抗体やレセプター、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液又はグッド緩衝液などの緩衝液類、EDTA、CyDTA、DTPA、EGTA、NTA、NTPなどのキレート剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムなどの塩類、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、アルキルモノグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルグリコシドなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。」
ウ 「【0038】
《実施例1~3及び比較例1~2》
CK-MB測定試薬は、緩衝液成分を主体とした第1試薬と、ラテックス粒子を主体とした第2試薬とからなる2試薬系として構成し、自動分析機による評価を実施した。
【0039】
(検体)
CK-MB、CK-BB、CK-MMは、ヒトリコンビナントタンパク質としてオリエンタル酵母社から購入し、検体希釈液〔10mmol/L Tris(pH7.0)、2mmol/L EDTA2Na、2mmol/L DTT(ジチオスレイトール)、175mmol/L NaCl〕にて、それぞれ、最終濃度10U/L、100U/L、1000U/Lに調製した。
【0040】
(第1試薬の調製)
25mmol/Lトリス緩衝液(pH7.5)に、0.3mol/L塩化ナトリウム、5mmol/L EDTA、0.24%非イオン性界面活性剤、0.1%アルブミンを溶解させた水溶液を調製し、第1試薬とした。
【0041】
(第2試薬の調製)
平均粒子径0.20μmのラテックス粒子を使用した系を比較例1、平均粒子径0.23μmのラテックス粒子を使用した系を実施例1、平均粒子径0.30μmのラテックス粒子を使用した系を実施例2、平均粒子径0.32μmのラテックス粒子を使用した系を実施例3、平均粒子径0.43μmのラテックス粒子を使用した系を比較例2とした。なお、いずれのラテックス粒子も、表面にカルボキシル基が導入されたポリスチレンラテックス粒子(JSR株式会社製)である。
【0042】
抗CK-MB抗体としては、ヒト由来CK-MBアイソザイムをマウスに免疫し、定法に従って作製され、ヒト由来CK-MBを抗原として用いるEIA法により、CK-BBアイソザイム及びCK-MMアイソザイムとは反応しないCK-MB特異的な抗体であることが確認されたものを使用した。前記の各ポリスチレンラテックス粒子(実施例1~3及び比較例1~2)を、10mmol/L MOPS緩衝液(pH7.1)に0.1w/v%となるように分散させ、塩酸-1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドを添加し、25℃条件下で3分間反応させた後、ペプシン消化でF(ab’)2フラグメント化した前記抗CK-MB抗体を添加し、更に1時間反応させた。19000rpmで20分間遠心分離し、上清を廃棄した後、ラテックス固形分を0.05%アジ化ナトリウム溶液にて分散させ、抗CK-MB抗体結合ラテックス液1とした。
【0043】
一方、抗CK-BB抗体としては、ヒト由来CK-BBアイソザイムをマウスに免疫し、定法に従って作製され、ヒト由来CK-BBを抗原として用いるEIA法により、CK-MBアイソザイム及びCK-MMアイソザイムとは反応しないCK-BB特異的な抗体であることが確認されたものを使用した。同様に、前記の各ポリスチレンラテックス(実施例1~3及び比較例1~2)を、10mmol/L MOPS緩衝液(pH7.1)に0.1w/v%となるように分散させ、塩酸-1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドを添加し、25℃条件下で3分間反応させた後、ペプシン消化したF(ab’)2フラグメント化した前記抗CK-BB抗体を添加し、更に1時間反応させた。19000rpmで20分間遠心分離し、上清を廃棄した後、ラテックス固形分を0.05%アジ化ナトリウム水溶液にて分散させ、抗CK-BB抗体結合ラテックス液2とした。
【0044】
前記ラテックス液1及び2において、抗体感作時の各成分の濃度は、0.1w/v% ポリスチレンラテックス1mL当たり、塩酸-1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド11.2μg、抗CK-MB抗体または抗CK-BB抗体10μgとした。
抗CK-MB抗体結合ラテックス液1と、抗CK-BB抗体結合ラテックス液2とを等量で混合し、第2試薬とした。
【0045】
(自動分析機による測定)
汎用自動分析機 日立7170S形日立自動分析装置(日立ハイテクノロジーズ製)を用いてCK-MB測定試薬の評価を行った。測定条件は、検体11μLに第1試薬90μLを添加混合させ、37℃で5分間保持した後、第2試薬90μLを添加混合させ、更に5分間保持した。第2試薬添加後30秒後から5分後の570nmにおける吸光度変化量を求めた。実施例1~3及び比較例1~2を用いた測定結果(各検体の吸光度変化量)を表1に示す。
【0046】
【表1】
[図:0001397180000001.jpg]
【0047】
表1に示すように、CK-BB検体は、ラテックス粒子の平均粒子径が大きい系で凝集反応が生じた。平均粒子径が小さいとCK-BBによる凝集の程度は低かった。特に、実施例1においては、CK-BBに対する凝集反応が低く良好であった。また、実施例1は、比較例1と比較して、CK-MBとの反応性も高い点で良好である。CK-MBは、生体成分中に10U/L以上あると臨床意義が高いことが知られている。実施例1でのCK-BB 100U/L検体の数値は、CK-MB 10U/L検体での数値より低値であり、CK-BBによる干渉の影響を回避した試薬組成であると考えられる。
【0048】
また、実施例2、実施例3でのCK-BB 100U/L検体の反応性は、実施例1より若干高いものの、CK-MB 10U/L、CK-MB 100U/L、CK-MB 1000U/L共に高い反応性が得られた。比較例2ではCK-BB 100U/Lが干渉反応を示し、CK-MB 1000U/Lでも高い反応が得られなかった。
一方、CK-MMについては、CK-MB抗体とCK-BB抗体との組み合わせである本実施例では、どの条件でも干渉反応を認めないことを確認した。
以上より、実施例1~3においては、CK-BB及びCK-MMによる干渉反応が低減され、CK-MBの高い反応性が得られる条件であることが明らかとなった。」
エ 上記甲第1号証の記載事項を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「CK-MB測定用ラテックス凝集免疫試薬及び測定方法において、
CK-MB測定試薬は、緩衝液成分を主体とした第1試薬と、平均粒子径0.23μmのラテックス粒子)、平均粒子径0.30μmのラテックス粒子、又は平均粒子径0.32μmのラテックス粒子のいずれかのラテックス粒子を主体とした第2試薬とからなる2試薬系として構成し、
25mmol/Lトリス緩衝液(pH7.5)に、0.3mol/L塩化ナトリウム、5mmol/L EDTA、0.24%非イオン性界面活性剤、0.1%アルブミンを溶解させた水溶液を調製し、第1試薬とし、
上記ラテックス粒子を用いて作成された抗CK-MB抗体結合ラテックス液1と、上記ラテックス粒子を用いて作成された抗CK-BB抗体結合ラテックス液2とを等量で混合し、第2試薬とし、
検体11μLに第1試薬90μLを添加混合させ、37℃で5分間保持した後、第2試薬90μLを添加混合させ、更に5分間保持し、第2試薬添加後30秒後から5分後の570nmにおける吸光度変化量を求める測定方法であり、
試薬に添加された非特異反応抑制剤としての上記非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる、
試薬及び測定方法。」
(2)甲第2号証
本件特許の原出願の出願前である昭和58年(1983年)11月2日に頒布された刊行物である特開昭58-187862号公報(以下「甲第2号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
1. 合成界面活性剤からなることを特徴とする免疫測定改良剤。
2. 合成界面活性剤が非イオン界面活性剤,アニオン界面活性剤 およびカチオン界面活性剤からなる群より選ばれる化合物である特許請求の範囲第1項記載の改良剤。
3. 非イオン界面活性剤が(ポリ)オキシアルキレン系非イオン界面活性剤,および多価アルコール系非イオン界面活性剤からなる群より選ばれる化合物である特許請求の範囲第2項記載の改良剤。
4. (ポリ)オキシアルキレン系非イオン界面活性剤がポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルおよび/またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルである特許請求の範囲第3項記載の改良剤。
5. 免疫測定法による生理活性物質の測定において,その免疫反応系に合成界面活性剤を添加することを特徴とする免疫測定における改良方法。
6. 合成界面活性剤が非イオン界面活性剤,アニオン界面活性剤 およびカチオン界面活性剤からなる群より選ばれる化合物である特許請求の範囲第5項記載の方法。
7. 非イオン界面活性剤が(ポリ)オキシアルキレン系非イオン界面活性剤 および多価アルコール系非イオン界面活性剤からなる群より選ばれる化合物である特許請求の範囲第6項記載の方法。
8. (ポリ)オキシアルキレン系非イオン界面活性剤がポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルおよび/またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルである特許請求の範囲第7項記載の方法。
9. 合成界面活性剤の添加量が,免疫反応系中で0.01~10W/W%である特許請求の範囲第5項~第8項のいずれかに記載の方法。
10 免疫測定法が放射免疫測定法または酵素免疫測定法である特許請求の範囲第5項~第9項のいずれかに記載の方法。」(第1頁左下欄第4行-第2頁左上欄第3行)
イ 「本発明は免疫測定改良剤および改良方法に関するものである。さらに詳しくは免疫反応に関与しない物質の影響を除き,生理活性物質をより正確に測定することができる免疫測定改良剤および改良方法に関するものである。」(第2頁左上欄第5-9行)
ウ 「本発明者らは低濃度領域まで、より感度よく正確に生理活性物質を測定する方法を見出すべく検討した結果、合成界面活性剤が免疫測定改良に有効に作用することを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、合成界面活性剤からなることを特徴とする免疫測定改良剤(第一発明)および免疫測定法による生理活性物質の測定において、その免疫反応系に合成界面活性剤を添加することを特徴とする免疫測定における改良方法(第二発明)である。
本発明に用いられる合成界面活性剤としては、非イオン,アニオン,カチオンおよび両性界面活性剤があげられる。
非イオン界面活性剤としては、(ポリ)オキシアルキレン系非イオン界面活性剤(アルキロールアミド,ポリオキシアルキレンアルキルまたはアルキルアリールエーテル,ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール,ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル,ポリオキシアルキレンアルキルアミンなど),および多価アルコール系非イオン界面活性剤(多価アルコール脂肪酸エステルなど)があげられる。具体的には下記のとおりである。」(第2頁右上欄第8行-左下欄第11行)
エ 「(2) ポリオキシアルキレンアルキルエーテル:
脂肪族アルコール(炭素数6~20,好ましくは炭素数8~18で,直鎖,または分岐の天然又は合成アルコール)のAO付加物(AOの付加モル数は通常2~100,好ましくは5~50)たとえば,オクチルアルコールEO(10),ラウリルアルコールPO(15),ラウリルアルコールEO(23),ヤシ油還元アルコールEO(12),炭素数11,13,15の合成混合アルコールEO(5)PO(11),オレイルアルコールEO(12)など〔注・炭素数11,13,15の合成混合アルコールEO(5)PO(11)は該アルコールにEO5モルPO11モルを順に付加したものである〕」(第3頁左上欄第18行-右上欄第9行)
オ 「非イオン界面活性剤のうちで好ましいものはポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤であり,とくに好ましいものはポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。」(第4頁右上欄第8-12行)
カ 「この生理活性物質を測定するための免疫測定法としては,通常の放射免疫測定法(標識成分:アイソトープ)または酵素免疫測定法(標識成分;酵素)があげられる。また測定システムによって1抗体固相法,2抗体法,サンドウィッチ法などの測定システムが選ばれる。」(第4頁右下欄第19行-第5頁左上欄第4行)
キ 「界面活性剤の添加時期は,少なくとも免疫反応の際にその系内に存在すれば特に制限されない。例えば予め免疫反応媒体,標識成分,特異的免疫成分,試料等に添加しておいてもよく,また免疫反応時に,試料,標識成分,特異的免疫成分を加えた免疫反応媒体中に別に添加してもよい。
界面活性剤はそのまま添加しても水溶液または分散液として加えてもよい。」(第5頁右下欄第8-14行)
ク 「実施例2
一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法:界面活性剤の添加効果を調べるためにファルマシア社製インシュリン測定キット(Phadebas Insulin Test)を用いて検討した。
標準インシュリン液(インシュリン濃度0μU/ml,10μU/ml)0.1mlに,ヨウ化インシュリン(125I)液0.1mlを加え,更にポリオキシエチレン(付加モル数23)ラウリルエーテルを0.5%濃度になる様に添加したインシュリン抗体結合セファデックス懸濁液を1ml加え4℃で16時間振とうし免疫反応を行なった。対照系として,界面活性剤無添加系でも同様に測定を行なった。
各インシュリン濃度についての10回多重測定の放射能の平均値,変動係数について界面活性剤無添加系と比較した。
結果を表-2に示す。
表-2
[図:0001397180000002.jpg]
*2ゼロ%・・・0μU/mlの放射能に対する10μU/mlの放射能の比(%)
表-2から明らかな如く,界面活性剤を添加した系の方が変動係数も小さくまたゼロ%も小さく低濃度領域での測定感度が向上したことを示している。」(第7頁右上欄第7行-左下欄第10行)
ケ 上記甲第2号証の記載事項を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法において、
標準インシュリン液(インシュリン濃度0μU/ml,10μU/ml)0.1mlに,ヨウ化インシュリン(125I)液0.1mlを加え,更にポリオキシエチレン(付加モル数23)ラウリルエーテルを0.5%濃度になる様に添加したインシュリン抗体結合セファデックス懸濁液を1ml加え4℃で16時間振とうし免疫反応を行ない、低濃度領域での測定感度が向上した、
放射免疫測定法。」
(3)甲第3号証
本件特許の原出願の出願前である2005年(平成17年)5月に発行された「PRODUCT INFORMATION 花王株式会社 ケミカル事業ユニット 花王のエーテル系非イオン性界面活性剤『エマルゲン1100シリーズ』、2005年5月発行、第1-4頁」(以下「甲第3号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
ア 「花王が新しく開発した「エマルゲン1100」シリーズは、”非APE系”のエーテル系非イオン性界面活性剤で、環境にもやさしく、使いやすい液状品です。また、乳化重合用界面活性剤として、重合安定性に優れる(NPEより良好でOPEに匹敵する)など、すぐれた特長を有しています。
1.化学名
ポリオキシエチレンアルキルエーテル
2.一般的特性値と界面科学的物性値
[図:0001397180000003.jpg]
」(第1頁)
イ 「【エマルゲンのグリフィンHLB対応表】
[図:0001397180000004.jpg]
」(第3頁)
ウ 上記甲第3号証の記載事項を総合勘案すると、甲第3号証には、次の技術事項(以下「甲3技術事項1」及び「甲3技術事項2」という。)が記載されていると認められる。
(ア)甲3技術事項1
「エマルゲン1118S-70は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、HLBの値は16.4であり、エーテル系非イオン性界面活性剤である。」
(イ)甲3技術事項2
「エマルゲン709は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、HLBの値は13.3である。」
(4)甲第4号証
2021年(令和3年)6月7日に発行された「KAO 製品名:エマルゲン1118S-70 安全データシート、花王株式会社、2021年6月7日発行、第1-10頁」(以下「甲第4号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
ア 「1.化学品及び会社情報
化学品の名称:エマルゲン 1118S-70」(第1頁)
イ 「15.適用法令
化学物質排出把握管理促進法
第一種指定化学物質:
ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が12から15までのもの及びその混合物に限る。)
5%」(第9頁)
ウ 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
優先評価化学物質:
α-アルキル(C=12~15)-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)(数平均分子量が1,000未満のものに限る。)
α-アルキル(C=9~11)-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)(数平均分子量が1,000未満のものに限る。)」(第9頁)
エ 上記甲第4号証の記載事項を総合勘案すると、甲第4号証には、次の技術事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「エマルゲン 1118S-70は、化学物質排出把握管理促進法における第一種指定化学物質のうち、『ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が12から15までのもの及びその混合物に限る)』に該当するものであり、かつ化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律における優先評価化学物質のうち『α-アルキル(C=12~15)-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)(数平均分子量が1,000未満のものに限る。)、及びα-アルキル(C=9~11)-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)(数平均分子量が1,000未満のものに限る。)』に該当するものである。」
(5)甲第5号証
2021年(令和3年)4月20日に発行された「KAO 製品名:エマルゲン1135S-70 安全データシート、花王株式会社、2021年4月20日発行、第1-10頁」(以下「甲第5号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
ア 「1.化学品及び会社情報
化学品の名称:エマルゲン 1135S-70」(第1頁)
イ 「15.適用法令
化学物質排出把握管理促進法
第一種指定化学物質:
ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が12から15までのもの及びその混合物に限る。)
4.9%」(第9頁)
ウ 上記甲第5号証の記載事項を総合勘案すると、甲第5号証には、次の技術事項(以下「甲5技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「エマルゲン 1135S-70は、化学物質排出把握管理促進法における第一種指定化学物質のうち、『ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が12から15までのもの及びその混合物に限る)』に該当するものである。」
(6)甲第6号証
申立人が令和4年(2022年)3月7日に印刷したウェブページである「エマルゲン123P 花王ケミカル製品(https://chemical.kao.com/ja/products/B0001922_ja/?region=jp)」には、以下の技術事項が記載されている。なお、公知日については不明である。
ア 「エマルゲン123P
仕様
製品名 エマルゲン123P
内容組成 ポリオキシエチレンラウリルエーテル
成分名 ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル
・・・
HLB 16.9」
イ 上記甲第6号証の記載事項を総合勘案すると、甲第6号証には、次の技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「エマルゲン123Pは、成分がポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテルであり、HLBが16.9である。」
(7)甲第7号証
本件特許の原出願の出願前である平成18年(2006年)3月16日に頒布された刊行物である特開2006-71574号公報(以下「甲第7号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、免疫比濁法及びそのための試薬、並びに免疫比濁法における乳びによる干渉作用の防止方法及びそのための添加剤に関する。」
イ 「【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を、免疫比濁法の反応液中に共存させることにより、被検試料中の乳びによる影響を回避し免疫比濁法の正確性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。」
ウ 「【0021】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
試薬
以下の組成からなるフェリチン測定用ラテックス比濁用試薬を調製した。
第1試薬
170mM グリシン緩衝液 pH 8.3
50mM EDTA
100mM 塩化ナトリウム
0.5 % 非イオン界面活性剤ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル(花王社製エマルゲン709(商品名)
1 % BSA
10000U/L リパーゼ活性 (シュードモナス由来コレステロールエステラーゼ(リパーゼ活性とコレステロールエステラーゼ活性の両方を有する酵素、商品名CEN(旭化成社製))
【0023】
第2試薬
170mM グリシン緩衝液 pH 7.3
100mM 塩化ナトリウム
0.1 % 抗ヒトフェリチン抗体を感作したラテックス粒子
【実施例2】
【0024】
測定例
被検試料 無作為に抽出した臨床検体1例(血清)
試料調製 (試料1)被検試料に生理食塩液1/10量添加
(試料2)被検試料に静注用脂肪乳液(10%溶液)1/10量添加
測定方法 東芝TBA-30R型自動分析装置による測定
【0025】
自動分析装置による測定
前述の調製した試料10μLに第1試薬200μLを添加し、37℃で攪拌混合し、5分放置後、第2試薬100μLを添加し、更に37℃で攪拌混合した後、約2分間の凝集反応を570nmの吸光度変化量として測定した(実施例2)。同様に第1試薬に比較用緩衝液(実施例1の第1試薬から非イオン界面活性剤、BSA及び酵素を除外したもの)を用いた場合(比較例1)についても測定を行い吸光度変化量を求めた。またあらかじめ既知濃度のヒトフェリチンを含む試料を実施例2又は比較例1と同一条件で測定し、濃度と吸光度変化量の関係を表す検量線を作成しておいた。実施例2及び比較例1において求めたそれぞれの測定値(ng/mL)を比較した。
【0026】
結果を下記表1に示す。試料1と試料2は生理食塩液と静注用脂肪乳液がそれぞれ1/10添加されているが、FER濃度は同一であるので、静注用脂肪乳液を添加したことによる乳びの影響を受けずに測定することで2つの試料の測定値は等しい値を示す。
【0027】
【表1】
[図:0001397180000005.jpg]
【0028】
表1に示されるように、比較例1では、試料1と2の測定値差が83ng/mLに達するのに対し、本発明の実施例2では、測定値差は1ng/mLであり、本発明の方法の使用により、測定正確性が大幅に向上していることがわかる。」
エ 上記甲第7号証の記載事項を総合勘案すると、甲第7号証には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を、免疫比濁法の反応液中に共存させることにより、被検試料中の乳びによる影響を回避し免疫比濁法の正確性を向上させる免疫比濁法及びそのための試薬において、
以下の組成からなるフェリチン測定用ラテックス比濁用試薬を調製し、
第1試薬
170mM グリシン緩衝液 pH 8.3
50mM EDTA
100mM 塩化ナトリウム
0.5 % 非イオン界面活性剤ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル(花王社製エマルゲン709(商品名)
1 % BSA
10000U/L リパーゼ活性 (シュードモナス由来コレステロールエステラーゼ(リパーゼ活性とコレステロールエステラーゼ活性の両方を有する酵素、商品名CEN(旭化成社製))
第2試薬
170mM グリシン緩衝液 pH 7.3
100mM 塩化ナトリウム
0.1 % 抗ヒトフェリチン抗体を感作したラテックス粒子
試料10μLに第1試薬200μLを添加し、37℃で攪拌混合し、5分放置後、第2試薬100μLを添加し、更に37℃で攪拌混合した後、約2分間の凝集反応を570nmの吸光度変化量として測定する、
免疫比濁法及びそのための試薬。」
(8)甲第8号証
2020年(令和2年)12月24日に発行された「花王株式会社 GPS安全性要約書 エマルゲン 709、花王株式会社、2020年12月24日発行、第1-4頁」(以下「甲第8号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
ア 「1.物質の特定名
商品名:エマルゲン 709
化学名:Polyoxyethylene(9) alkyl(sec-C11-15) ethers
CAS番号:68131-40-8
2.使用・用途と適用
エマルゲン 709は非イオン界面活性剤です。染毛剤などに使用されています。
エマルゲン 709は工業用としては繊維処理剤、洗浄剤、ワックス用乳化剤及び塗料用乳化剤などに使用されています。」(第1頁)
イ 上記甲第8号証の記載事項を総合勘案すると、甲第8号証には、次の技術事項(以下「甲8技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「エマルゲン709は、Polyoxyethylene(9) alkyl(sec-C11-15) ethers、すなわちアルキル基の炭素数が11~15のポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、非イオン界面活性剤である。」
(9)甲第9号証
本件特許の原出願の出願前である平成25年(2013年)8月1日に頒布された刊行物である特開2013-148496号公報(以下「甲第9号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
ア 「【0005】
生体由来の試料によっては、不溶性担体又は不溶性担体に担持した成分に吸着等する因子(非特異反応因子)が存在する場合がある。この場合、測定しようとする測定対象物質が試料中に存在しない場合であっても陽性の測定値を示し、真値と異なる測定値を示す場合がある。逆に本来の抗原抗体反応が阻害され、偽陰性となる場合もある。これら、測定対象物質に係る目的の抗原抗体反応とは異なる反応を非特異反応という(非特許文献2)。
【0006】
ラテックス凝集免疫測定法で生じる非特異反応には、非特異吸着物質が結合する対象により、少なくとも3つの類型が知られている。
第一は、ラテックス粒子自体に非特異吸着物質が結合する類型である。ラテックス粒子は通常、タンパク質で表面を固相被覆して用いる(特許文献1、非特許文献2)。しかし、被覆が十分でなかったり、被覆成分がラテックス粒子から剥がれたりする場合、ラテックス粒子の表面が露出し、試料由来の非特異吸着物質が当該表面へ吸着し、非特異的な凝集反応が生じる。前記第一の類型の非特異反応を回避する目的で、ウシ血清アルブミン(以下、BSA)やカゼイン等によりラテックス粒子の表面を被覆する手段が多用されている。これにより、ラテックス粒子表面が被覆され、第一の類型の非特異反応を回避できる(特許文献1)。
【0007】
しかしながら、BSAやカゼインには抗原性があるため、試料中にBSA等に反応する抗体が含まれると非特異凝集反応が生じる。これが第二の類型である(非特許文献3)。
また、ラテックス粒子には、測定対象物質に特異的に反応する抗体又は抗原を固相して使用するが、当該抗体又は抗原に対し、目的とする抗原抗体反応とは異なる抗原抗体反応が生じる場合がある。これが第三の類型である(非特許文献1、非特許文献2)。第三の類型は、ラテックス粒子に固相するタンパク質が、測定する試料の動物種と異なる動物種のタンパク質である場合に生じやすい。例えば、ラテックス粒子にマウス抗体を固相すると、ヒトの試料中のヒト抗マウス抗体(Human Anti-Mouse Antibody:HAMA)を含むと、非特異的な凝集を生じる(非特許文献1、非特許文献2)。この問題を解消するため、キメラ抗体やヒト化抗体が利用できることが報告されている(特許文献1)」
イ 上記甲第9号証の記載事項を総合勘案すると、甲第9号証には、次の技術事項(以下「甲9技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「測定対象物質に係る目的の抗原抗体反応とは異なる反応を非特異反応といい、
ラテックス凝集免疫測定法で生じる非特異反応には、非特異吸着物質が結合する対象により、少なくとも3つの類型が知られており、
第1の類型は、ラテックス粒子自体に非特異吸着物質が結合する類型であり、
第2の類型は、試料中にBSA等に反応する抗体が含まれると非特異凝集反応が生じる類型であり、
第3の類型は、当該抗体又は抗原に対し、目的とする抗原抗体反応とは異なる抗原抗体反応が生じる類型である。」
(10)甲第10号証
令和4年10月17日に発行された特許掲載公報である特許第7153969号公報には、以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として式(I):
【化1】
[図:0001397180000006.jpg]
(式中、R1は炭素数1~4のアルキル基を示す)
で表わされるソルボシド化合物および式(II):
【化2】
[図:0001397180000007.jpg]
で表わされるL-ソルボースを含有してなる抗菌剤。」
(11)甲第11号証
令和4年10月14日に発行された特許掲載公報である特許第7153407号公報には、以下の記載がある。
「【請求項1】
下記のシリコーン(A)、下記のシリコーン(B)、アニオン成分、下記のシリコーン(D)、及び任意選択で下記のシリコーン(C)を含有し、処理剤中の前記シリコーン(C)の含有割合が10質量%未満であることを特徴とするポリエステル合成繊維用処理剤。
シリコーン(A):分子中にアミノ基を有する変性シリコーン。
シリコーン(B):分子中に、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有し、エポキシ基を含まないシランカップリング剤。
シリコーン(C):シリコーンレジン、ジメチルシリコーン、及びアルキル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つであって、前記シリコーン(A)に該当するもの及び数平均分子量が20000以上200000未満であるシラノール変性シリコーンを除く。
シリコーン(D):数平均分子量が20000以上200000未満であるシラノール変性シリコーン。
【請求項2】
下記のシリコーン(A)、下記のシリコーン(B)、アニオン成分、下記のノニオン界面活性剤、及び任意選択で下記のシリコーン(C)を含有し、処理剤中の前記シリコーン(C)の含有割合が10質量%未満であることを特徴とするポリエステル合成繊維用処理剤。
シリコーン(A):分子中にアミノ基を有する変性シリコーン。
シリコーン(B):分子中に、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有し、エポキシ基を含まないシランカップリング剤。
シリコーン(C):シリコーンレジン、ジメチルシリコーン、及びアルキル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つであって、前記シリコーン(A)に該当するもの及び数平均分子量が20000以上200000未満であるシラノール変性シリコーンを除く。
ノニオン界面活性剤:炭素数2以上18以下の1価以上4価以下のアルコール1モルに対し、炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で3モル以上50モル以下付加させた化合物、及びポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖とのブロック共重合体から選ばれる少なくとも1つ。」
(12)甲第12号証
令和4年8月19日に発行された特許掲載公報である特許第7122447号公報には、以下の記載がある。
「【請求項1】
非石鹸系界面活性剤である(A)成分と、ポリエチレンイミンのエチレンオキシド付加体であってエチレンオキシドの平均付加モル数が8~15である(B)成分を含む液体洗浄剤組成物であって、
前記(A)成分の含有量が、前記液体洗浄剤組成物の総質量に対して0質量%超20質量%以下であり、
前記(A)成分が、下記一般式(ax1)で表される化合物である(Ax)成分を含む、液体洗浄剤組成物。
R11-O-(R12O)n-H ・・・(ax1)
式(ax1)中、R11は分岐鎖を有する炭素数12~16のアルキル基、又は炭素数12~16の直鎖アルキル基を示し、R11が前記直鎖アルキル基の場合、酸素原子は、前記直鎖アルキル基中の2級炭素原子に結合する。R12は炭素数2~4のアルキレン基を表す。また、nはR12Oの平均繰り返し数を示し3~10である。」
(13)甲第13号証
本件特許の原出願の出願前である平成4年(1992年)9月14日に頒布された刊行物である特開平4-258765号公報(以下「甲第13号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
「【0007】CK-MB免疫検定は心筋梗塞形成についての標準診断試験である。CK-MBの使用についての方法は「CK-MM心筋梗塞形成免疫検定」と題する米国特許第4,900,662号明細書に記載されている。上記米国特許第4,900,662号明細書には心筋梗塞形成による患者血清におけるCK-MM-a、CK-MMのイソフォーム、およびCK-MM-aおよびCK-MM-bの初期の高められた濃度レベルを同時に測定する方法が記載されている。この方法は梗塞血清の時点を正確に評価する。この方法は心筋梗塞形成の急性相の時点を測定するために、血清におけるCK-MM-aおよびCK-MM-bの合わさった濃度、およびCK-MM-aの濃度を測定することを含んでいる。試薬が記載されており、試薬にはCK-MB、CK-MM-bまたはCK-MM-cと有意に結合しないCK-MM-aについての新規な多クローン性および単クローン性抗体;CK-MB、CK-MM-aまたはCK-MM-cと有意に結合しないアンチ-CK-MM-b抗体;CK-MM-aおよびCK-MM-bと結合するが、しかしCK-MBまたはCK-MM-cと有意に結合しないアンチ-CK-MM-a+b抗体;これらの抗体の標識誘導体;これらの抗体を付着する不溶性支持体;および1または2種以上のこれらの試薬を含むキットを含んでいる。酵素標識および放射性標識(radiolabelled)CK試薬が、特に有用である。」
(14)甲第14号証
本件特許の原出願の出願前である平成24年(2012年)1月26日に頒布された刊行物である特開2012-17287号公報(以下「甲第14号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
ア 「【0037】
<4>クレアチンキナーゼ(CK)アイソザイムによる老化改善効果の検討
上記各群4匹のマウスから採血行った。採血は、エーテル麻酔後、注射針をつけた1mLシリンジを用いた心臓尖刺法により行い、さらに血液から血清を分離した。そして、上記各群のマウスの血清中のCKアイソザイムを測定した。
【0038】
ここで、CKは、二つのサブユニットからなる二量体の蛋白質であり、このサブユニットにはB(脳型)とM(骨格筋型)がある。この組み合わせによって、CK-MM、CK-BB、CK-MBのアイソザイムとして存在することが知られている。電気泳動において、3つのアイソザイムは等電点の違いによって、陽極側からCK-BB、CK-MB、CK-MMに分離することができる。そして、各アイソザイムは、主として、CK-BBは脳および平滑筋に、CK-MBは心筋に、CK-MMは骨格筋および心筋に存在し、例えば、老化に伴う脳障害が起こった場合には、CK-BBが血液中に漏出することが予想されるため、上記各群のマウスのCK-BBの値を測定することで、シルクパウダーによる老化改善効果を評価することができる。」
イ 「【0040】
図2は、電気泳動によるCKアイソザイムパターンを示す図である。
【0041】
NC群では、CK-BBについて、すべてのマウスでほぼ均一な濃さの発色パターンが確認されたのに対し、AC群では、NC群に比べ相対的に濃い発色パターンが確認された。これは、AC群に老齢性の脳疾患(脳機能障害)が生じていることを示している。
【0042】
そして、SL群では、AC群と比較して、CK-BBの発色パターンが薄くなったことが確認され、さらにSH群では、NC群と同程度にまで、CK-BBの発色パターンが薄くなったことが確認された。すなわち、シルクパウダーの投与によって、AC群で確認された脳疾患が改善されたことを示している。」
ウ 「【図2】
[図:0001397180000008.jpg]
」
2.乙号証の記載
(1)乙第1号証
乙第1号証は、2022年7月14日にデンカ株式会社五泉事業所研究管理部分析解析室の阿部淳一氏による「1118S-70の分析」というタイトルの実験成績証明書であり、上記実験成績証明書では、花王株式会社製「エマルゲン1118S-70 Lot.2328」を液体クロマトグラフ及び質量分析計を用いて分析し、エマルゲン1118S-70の主成分は炭素原子数11のアルキル鎖を持つポリオキシエチレンアルキルエーテルで、炭素原子数9(微量),10,12のアルキル鎖を持つポリオキシエチレンアルキルエーテルも含まれると推定したことが記載されている。
(2)乙第2号証
乙第2号証は、以下のとおりであり、2022年10月24日にデンカ株式会社五泉事業所ワクチン・試薬開発部の橘律子氏による実験成績証明書であり、上記実験成績証明書では、アルキル基の炭素原子数が8又は14であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の存在下で抗原抗体反応を行うことにより、非特異反応を抑制して正確な免疫分析が可能であることを確認したことが記載されている。
[図:0001397180000009.jpg]
[図:0001397180000010.jpg]
第8 当審の判断
1.取消理由1(サポート要件)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1は、「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)の存在下で」という発明特定事項(以下「本件発明1特定事項1」という。)を備えている。
イ 一方、本願の明細書の発明の詳細な説明には、実施例として「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(「エマルゲン1118S-70」(商品名、花王株式会社から市販)、HLB16.4)を試薬に添加することが記載されている(段落【0028】及び【0036】参照。)。
ウ よって、本件発明1特定事項1は、本願の明細書の発明の詳細な説明に記載されている。
エ また、上記本件発明1特定事項1における「アルキル基の炭素原子数が8~14個である」という数値範囲について検討する。
オ 上記「第7 1.(4)」より、甲第4号証は、原出願後に発行されたものであるが、エマルゲン1118S-70に適用される化学物質排出把握管理促進法、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律が、原出願前から適用されていたことを考慮すると、その化学的内容は、原出願時においても該当するといえる。すなわち、上記「第7 1.(4)」の甲4技術事項には、エマルゲン1118S-70に適用される化学物質排出把握管理促進法や、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律でのアルキル基の炭素数は、9~11,12~15とある程度の幅を持たせて記載されており、アルキル基の炭素原子数が11であるポリオキシエチレンアルキルエーテル作成過程で生じるアルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテルも微量ながら含まれるものである。そうすると、エマルゲン1118S-70は製品として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがもつアルキル鎖の炭素数は、8~14個として、ある程度の幅を持つものであり、上記乙第1号証には、それを裏付ける実験結果が示されているといえる。
カ 上記「オ」の技術事項からすると、本願の発明の詳細な説明の実施例で用いたポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(「エマルゲン1118S-70」(商品名、花王株式会社から市販)、HLB16.4)のアルキル基の炭素原子数は8から14と幅があるものであると認められる。
キ 申立人は、申立人意見書の「(2)取消理由1(サポート要件違反)について」(1-8頁)において、『特許権者は、エマルゲン1118S-70のわずか1例から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の範囲を「アルキル基の炭素原子数が8~14個」のものまで拡張ないし一般化できる合理的な根拠について、何ら立証していない』旨主張する。しかしながら、上記「エないしカ」で検討したとおり、エマルゲン1118S-70自体が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがもつアルキル鎖の炭素数についてある程度の幅を持つという技術事項をもとに、本件発明1特定事項1はアルキル基の炭素原子数を8~14個としたものであることから、上記申立人の主張は採用することができない。
ク また、上記「キ」で検討した以外の、申立人の主張は、特許権者の「過度の負担」や「特許法の目的」に関する主張(令和4年7月22日付け意見書及び同年10月31日付け意見書)に対する反論及び乙第2号証はサポート要件適合性の検討において参酌することはできないという主張であるが、上記「アないしカ」での検討のとおり、本件発明1特定事項1は本願の明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められることから、それら申立人の主張は採用することができない。
なお、上記乙第2号証はサポート要件適合性の検討において参酌することはできないことについて、申立人は、令和4年12月15日提出の意見書の第7-8頁で判例を挙げているが、これとは別に、例えば、知財高裁平成30年(行ケ)第10158号「ボロン酸化合物製剤」事件の判決においては、裁判において提出された技術常識に関する証拠をもとにサポート要件を満たす旨判示しており、提出される実験データが特許出願後であるという理由だけで参酌できないというものでもない。
ケ よって、本件発明1は、本願の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
(2)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接に又は間接的に引用する発明であり、上記「ア」で検討したのと同様の理由により、本願の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
(3)小括
以上のことから、本件発明1ないし6は、本願の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、当審が令和4年8月24日付けで特許権者に通知した取消理由通知書(決定の予告)における取消理由1により、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
2.取消理由2(実施可能要件)について
(1)本件特許発明1について
ア 上記「1.(1)イ」のとおり、本願の明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤」として、「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(「エマルゲン1118S-70」(商品名、花王株式会社から市販)、HLB16.4)」が実施例に記載されている。よって、本件発明1の実施例は少なくとも1つは記載されており、これを基に本件発明1を当業者が実施できることから、本願の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。
イ また、本件発明1の「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)の存在下で」という本件発明1特定事項1を構成する「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」にはさまざまなものが存在し、また、市販もされていることから、当業者がエマルゲン1118S-70以外の「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」を選択して本件発明1を実施することは、当業者に過度の負担を強いることなく行い得たものであると認められる。
ウ そして、本件発明1特定事項1を構成する「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」のアルキル基の炭素原子数については、上記「1.(1)オ」で検討したように、エマルゲン1118S-70の主成分が、アルキル基の炭素原子数が11であるポリオキシエチレンアルキルエーテルであったとしても、その製品には、アルキル基の炭素原子数が11であるポリオキシエチレンアルキルエーテル作成過程で生じるアルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテルも微量ながら含まれるものであろうことは当業者が合理的に推認しうることから、エマルゲン1118S-70を用いることにより本件発明1を実施できることが示されていれば、エマルゲン1118S-70の主成分であるアルキル基の炭素原子数が11であるポリオキシエチレンアルキルエーテルとともに含まれるであろうアルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテルでも本件発明1を実施できることも当業者に合理的に推認しうることと認められる。実際に、アルキル基の炭素原子数が8個または14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテルでも本件発明1を実施できることは、乙第2号証により確認されている。
エ 申立人は、申立人意見書の「(3)取消理由2(実施可能要件違反)について」(8-9頁)において、申立人意見書の「(2)取消理由1(サポート要件違反)について」での主張を援用して本願の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない旨主張する。しかしながら、上記「1.(1)キ及びク」で検討したとおり、申立人の主張は採用することができない。
オ よって、本願の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
(2)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接に又は間接的に引用する発明であり、上記「ア」で検討したのと同様の理由により、本願の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明2ないし6を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
(3)小括
以上のことから、本願の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし6を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえないから、当審が令和4年8月24日付けで特許権者に通知した取消理由通知書(決定の予告)における取消理由2により、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
3.取消理由3(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを比較する。
(ア)甲1発明における「CK-MB測定用ラテックス凝集免疫」「測定方法」は、本件発明1における「ラテックス凝集免疫分析方法」に相当する。
(イ)甲1発明における「CK-MB測定用ラテックス凝集免疫」「測定方法」は、「CK-MB測定試薬」の1つである「第1試薬」に「0.24%非イオン性界面活性剤」が含まれ、「試薬に添加された非特異反応抑制剤としての上記非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル」が挙げられており、もう1つの試薬である「第2試薬」に「抗CK-MB抗体結合ラテックス液1と、抗CK-BB抗体結合ラテックス液2」が含まれており、「検体11μLに第1試薬90μLを添加混合させ、37℃で5分間保持した後、第2試薬90μLを添加混合させ、更に5分間保持し、第2試薬添加後30秒後から5分後の570nmにおける吸光度変化量を求める測定方法」であることから、本件発明1とは「ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う、特異性が向上するラテックス凝集免疫分析方法」の点で共通する。
(ウ)甲1発明の「抗CK-MB抗体結合ラテックス液1」は、本件発明1における「CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子」に相当する。
(エ)甲1発明の「抗CK-BB抗体結合ラテックス液2」は、本件発明1における「CK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子」に相当する。
(オ)甲1発明における「CK-MB測定用ラテックス凝集免疫」「測定方法」は、「CK-MB測定試薬」の1つである「第1試薬」に「0.24%非イオン性界面活性剤」が含まれ、「試薬に添加された非特異反応抑制剤としての上記非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル」が挙げられており、もう1つの試薬である「第2試薬」に「平均粒子径0.23μmのラテックス粒子、平均粒子径0.30μmのラテックス粒子、又は平均粒子径0.32μmのラテックス粒子のいずれかのラテックス粒子を主体とした」「抗CK-MB抗体結合ラテックス液1と、抗CK-BB抗体結合ラテックス液2」が含まれており、「検体11μLに第1試薬90μLを添加混合させ、37℃で5分間保持した後、第2試薬90μLを添加混合させ、更に5分間保持し、第2試薬添加後30秒後から5分後の570nmにおける吸光度変化量を求める測定方法」であることから、本件発明1における「検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法」に相当する。
すると、甲1発明と本件発明1とは、
「ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う、特異性が向上するラテックス凝集免疫分析方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤が、本件発明1は、「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」であるのに対し、甲1発明は、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」「界面活性剤」であるものの、アルキル基の炭素原子数が8~14個であるかどうか不明であり、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除いたものであるか不明な点。
<相違点1-2>
本件発明1は、「(ただし、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除く)」「ラテックス凝集免疫分析方法」であるのに対し、甲1発明は、「検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm、0.30μm、又は0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法」である点。
イ 判断
事案に鑑み上記相違点1-2について検討する。
(ア)甲第1号証は、上記「第7 1.(1)ウ」に記載されているように、ラテックス粒子の平均粒子径が0.23μm、0.30μm、又は0.32μmである実施例1ないし3では、CK-BB及びCK-MMによる干渉の影響を回避し、ラテックス粒子の平均粒子径が0.20μmの比較例1では、ラテックス粒子の平均粒子径が0.23μmの実施例1と比較してCK-MBとの反応性が低く、ラテックス粒子の平均粒子径が0.43μmの比較例2では、CK-BBの干渉反応を示すことを示している。よって、甲1発明において、ラテックス粒子の平均粒子径を0.23μmより小さい平均粒子径とすること、及び0.32μmより大きい平均粒子径とすることは、甲1発明の「CK-BB及びCK-MMによる干渉の影響を回避する」という効果を損なうこととなるから、甲1発明においてラテックス粒子の平均粒子径をそのような平均粒子径に変更することには、阻害要因がある。
(イ)また、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含むラテックス凝集免疫分析方法において、ラテックス粒子の平均粒子径を0.23μm~0.32μmの範囲外の平均粒子径とした場合にもCK-BB及びCK-MMによる干渉の影響を回避する」という効果を得られるという技術は、甲第2ないし14号証には記載されておらず、かつ本願の原出願の出願日前に周知の技術であるとも認められない。
(ウ)よって、甲1発明において、ラテックス粒子の平均粒子径を「0.23μm~0.32μm」を除くように変更して、上記相違点1-2に係る特定事項を備えるようにすることは、当業者ならば容易になしえたことであるとはいえない。
(エ)以上のことから、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2ないし14号証に記載された技術から当業者が容易になしえたことであるとはいえない。
ウ 申立人意見書の「(4)取消理由3(進歩性)について」(9-24頁)における申立人の主張について
(ア)申立人は、本件発明1は、甲第1号証の実施例の比較例1ないし4に係る方法と比較すると、上記相違点1-1でのみ相違するから、甲第1号証の実施例の比較例1ないし4に係る方法及び甲3技術事項1から当業者が容易になしえた発明である旨主張する。しかしながら、甲第1号証の実施例の比較例1ないし4は、甲1号証において「CK-BB及びCK-MMによる干渉の影響を回避する」という効果を得られる実施例1ないし3と比較して、「CK-BB及びCK-MMによる干渉の影響を回避する」という効果が得られていない例として示されたものであり、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う」「凝集免疫分析方法」ではあるものの、「特異性が向上する」という効果は認められない。すなわち、甲第1号証の実施例の比較例1ないし4に係る方法は、本件発明1と「ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う」「凝集免疫分析方法」の点で一致するが、上記相違点1-1及び1-2で相違する以外に、本件発明1は「CK-BB及びCK-MMによる干渉の影響を回避する」という「特異性が向上する」方法であるのに対し、甲第1号証の実施例の比較例1ないし4に係る方法は「特異性が向上する」ものではない点で新たに相違することとなる。そして、「特異性が向上する」効果は、上記「第7 1.(1)ウ」に摘記した甲第1号証の記載にもあるように甲第1号証の実施例の比較例1ないし4に係る方法は持ち合わせておらず、さらには当業者が予測しうる程度の効果であるということはできない効果である。ゆえに、本件発明1は甲第1号証の実施例の比較例1ないし4に係る方法及び甲3技術事項1から当業者が容易になしえた発明であるという申立人の主張は採用することができない。
(イ)また、申立人は、甲第1号証には、甲第1号証の請求項4に記載されたCK-MB測定方法を除いたとしても、「ラテックス凝集法による免疫学的測定試薬に添加可能な非特異反応抑制剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤を用いる」という発明が開示されているから、本件発明1は当該甲第1号証に開示された発明及び甲3技術事項1から当業者が容易になしえた発明である旨主張する。しかしながら、甲第1号証は、上記「第7 1.(1)ア」に摘記したように「CK-MB測定用ラテックス凝集免疫試薬及び測定方法に関する」ものであり、CK-MB測定方法を除いた測定方法に関する技術を開示するものではない。したがって、上記申立人の主張は採用することができない。
(ウ)さらに申立人は、令和4年10月31日付け意見書における特許権者の主張についての反論をしているが、上記「aおよびb」の主張以外は上記相違点1-2に係る特定事項についての主張は見受けられないので、上記相違点1-2についての判断においては、それら特許権者の主張についての反論が上記「イ」の判断を左右するものとは認められず、採用することができない。
(エ)以上のことから、申立人意見書の「(4)取消理由3(進歩性)について」(9-24頁)における申立人の主張は採用することができない。
エ 小括
以上のことから、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3の技術事項から、当業者が容易になしえたことであるとはいえず、さらに、その他の甲号証である上記甲第2、7、9、13及び14号証に記載された事項から当業者が容易になしえたことであるとはいえない。
(2)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接に又は間接的に引用する発明であり、上記「ア」で検討したのと同様の理由により、甲1発明及び甲3の技術事項、さらには甲第2、7、9、13及び14号証に記載された事項から当業者が容易になしえたことであるとはいえない。
(3)小括
以上のことから、本件発明1ないし6は、甲1発明、並びに甲3の技術事項、さらには甲第2、7、9、13及び14号証に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、当審が令和4年8月24日付けで特許権者に通知した取消理由通知書(決定の予告)における取消理由3により、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
4.まとめ
上記「1.ないし3.」の検討のとおり、当審が令和4年8月24日付けで特許権者に通知した取消理由通知書(決定の予告)における取消理由1ないし3により、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
第9 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.取消理由通知において採用しなかった異議申立理由
上記「第4」及び「第6」より、令和4年8月24日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった異議申立理由は、以下のとおりとなる。
(1)異議申立理由1(サポート要件違反)
ア 試薬Aは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを0.005%含んでいるにもかかわらず、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含んでいない試薬Jと比較して、偽陽性検体1および2の測定値が、いずれも高い値となっており、すなわち非特異反応を抑制することができていない。
イ 本件明細書の表2の測定値に基づき近似式を算出し、その近似式に基づき、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.0001%、0.001%含んでいる場合の偽陽性検体1および2の値を試算すると、ポリオキシエチレンアルキルエーテル無添加(試薬G)での測定値とほとんど変わらず、非特異反応を抑制するか否かを当業者が認識することができない。
ウ そのため、本件訂正前の請求項1ないし6に係る特許は、課題を明らかに解決していない範囲、あるいは課題を解決できると当業者が認識できない範囲を包含するものであるから、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)異議申立理由3(甲第2号証に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如)
ア 本件訂正前の請求項1及び3~5に係る特許は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証等の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
イ 本件訂正前の請求項2、4及び6に係る特許は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証及び甲第3号証等の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(3)異議申立理由4及び5(甲第7号証に記載された発明を主引用発明とする新規性・進歩性欠如
ア 本件訂正前の請求項1及び3~5に係る特許は、甲第7号証に記載された発明と同一である。
イ 本件訂正前の請求項1及び3~5に係る特許は、甲第7号証に記載された発明に基づいて、さらには甲第7号証に記載された発明並びに甲第1号証及び甲第2号証等の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
ウ 本件訂正前の請求項2及び6に係る特許は、甲第7号証に記載された発明及び甲第3号証等の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
2.甲号証の記載
甲第1ないし14号証の記載については、上記「第7 1.」で述べたとおりである。
3.当審の判断
(1)異議申立理由1(サポート要件違反)について
ア 申立人は、異議申立書において、試薬Aを用いた実施例1の結果及び近似式に基づく試算より、ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度が0.005%,0.001%または0.0001%、の場合に本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明が、非特異反応を抑制することができていないから、「抗原を高感度でかつ正確に測定する」との課題が解決できているとは認められないことを根拠に、本件訂正前の請求項1ないし6に係る特許は、課題を解決できると当業者が認識できない範囲を包含するものである旨主張する。
イ 本件特許の明細書の段落【0029】の【表1】に示された試薬AないしGの濃度と、段落【0034】の【表2】に示された偽陽性検体1およびに対する2に対する測定結果は以下のとおりである。
[図:0001397180000011.jpg]
[図:0001397180000012.jpg]
ウ 上記測定結果より、ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤を0.005%含む試薬Aはポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤を含まない試薬Gよりも、偽陽性検体1及び2の測定値が低下している。よって、ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤を0.005%含む試薬Aでも、非特異反応を抑制しており、「抗原を高感度でかつ正確に測定する」との課題が解決していると認められる。また、上記測定結果を見れば、試薬のポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度が大きくなればなるほど、測定値は低下する傾向が看てとれることから、ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤により、非特異反応を抑制するという効果が得られることは、当業者に自明である。したがって、本件発明1ないし6が備える「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤」「の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う」という発明特定事項は、非特異反応を抑制して抗原を高感度でかつ正確に測定するという課題を解決できると当業者が認識できない範囲を包含する発明特定事項であるとは認められない。
エ また、ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度が0.001%または0.0001%の試薬を用いた実施例は、本件特許の明細書には記載がなく、申立人の独自の試算により求めた値により、上記「ア」の主張をしているので信憑性は薄い。そして、上記「ウ」で述べたように、試薬のポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度が大きくなればなるほど、測定値は低下する傾向があることから、ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度が少なければ少ないほど、測定値の低下割合も少なくなることは自明であり、その低下割合が少ないからといって非特異反応を抑制して抗原を高感度でかつ正確に測定するという課題を解決していないということはできない。
オ そして、ラテックス凝集免疫分析方法において、本件特許の明細書に記載された実施例の実験条件におけるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度の最小値が0.005%までの実験結果に基づいて、どのような測定条件でもポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度が0.005%以上ないと非特異反応を抑制できないという申立人の主張は、測定対象である検体試料中に含まれる検体の量や、凝集させるラテックス浮遊液の量などでも、測定値は左右されるものであることから、ポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の濃度が0.005%以上であるという条件は普遍的な条件とは認められず、採用することはできない。
カ 以上「ウないしオ」の検討のとおり、申立人の主張は採用することができない。よって、申立人の特許法第36条第6項第1号についての異議申立理由1は、理由がない。
(2)異議申立理由3(甲第2号証に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを比較する。
a 甲2発明における「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法」は、本件発明1における「ラテックス凝集免疫分析方法」と、「免疫分析方法」である点で共通する。
b 甲2発明における「ポリオキシエチレン(付加モル数23)ラウリルエーテル」は、本件発明1における「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤」とは、「アルキル基の炭素原子数が12個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤」である点で共通する。
c 甲2発明は、「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法」であるから、本件発明1とは、「ただし、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除く」点で一致する。
d 以上のことから、本件発明1と甲2発明とは、
「アルキル基の炭素原子数が12個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の存在下で測定を行う、免疫分析方法(ただし、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除く)。」
の点で一致し、以下の各点で相違する。
<相違点2-1>
測定の際に存在させるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤が、本件発明1は、「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」であるのに対し、甲2発明は「ポリオキシエチレン(付加モル数23)ラウリルエーテル」である点。
<相違点2-2>
免疫分析方法が、本件発明1は「ラテックス凝集免疫分析方法」であるのに対し、甲2発明は「一抗体固相法による」「放射免疫測定法」である点。
<相違点2-3>
本件発明1は、「ラテックス凝集免疫分析方法」において、「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う」ことにより「特異性が向上する」のに対し、甲2発明は「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法」において「ポリオキシエチレン(付加モル数23)ラウリルエーテル」の存在下で「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定」を行うことにより、「低濃度領域での測定感度が向上する」点。
(イ)判断
相違点2-1ないし相違点2-3についてまとめて検討する。
a 甲2発明は、「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法」において「ポリオキシエチレン(付加モル数23)ラウリルエーテル」の存在下で「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定」を行うことにより、「低濃度領域での測定感度が向上する」ものであるから、甲9技術事項にあるような「ラテックス凝集免疫分析方法」における「非特異反応」を押さえることが甲2発明でできるかどうかは定かではなく、甲2発明の「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法」を「ラテックス凝集免疫分析方法」に変更する動機付けはない。
b また、たとえその動機付けがあったとしても、甲2発明において「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法」を「ラテックス凝集免疫分析方法」に変更し、さらに「ポリオキシエチレン(付加モル数23)ラウリルエーテル」を「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」に変更することは、ある技術事項を導入し、その技術事項の存在下でさらに別の技術事項を導入するものであるから、当業者が容易になしえたことではあるとは認められない。
c そして、「ラテックス凝集免疫分析方法」において「特異性が向上する」という本件発明1の効果は、甲2発明の「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法」において「低濃度領域での測定感度が向上する」という効果から、当業者が予測し得る程度の効果であるとは認められない。
d 申立人は、異議申立書において、本件訂正前の請求項1に係る特許は甲2発明に甲第1号証等の周知技術に基づいて当業者が容易に想到しうる旨主張するが、甲第3号証に開示された甲3技術事項1にアルキル基の炭素原子数が11個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤であるエマルゲン1118S-70が開示されていたとしても、上記「(イ)b」で述べたとおり、甲2発明において「一抗体固相法によるインシュリンの放射免疫測定法」を「ラテックス凝集免疫分析方法」に変更し、さらに「ポリオキシエチレン(付加モル数23)ラウリルエーテル」を「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」に変更することは、単なる周知技術の付加や適用とは認められないから、上記申立人の主張を採用することはできない。
e 以上のことから、申立人の主張は採用することはできず、本件発明1は、甲2発明並びに甲第1号証及び甲第3号証等に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得た発明であるとはいえない。
イ 本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1を引用する発明であり、本件発明1は上記「ア」で検討したとおり、甲2発明並びに甲第1号証及び甲第3号証等に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得た発明ではないから、本件発明1を引用する本件発明2ないし6も同様の理由で、甲2発明並びに甲第1号証及び甲第3号証等に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得た発明であるとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1ないし6は、甲2発明並びに甲第1号証及び甲第3号証等に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得た発明であるとはいえないから、異議申立理由3は理由がない。
(3)異議申立理由4及び5(甲第7号証に記載された発明を主引用発明とする新規性・進歩性欠如について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲7発明を対比する。
a 甲7発明における「非イオン界面活性剤ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル(花王社製エマルゲン709(商品名)」は、甲8技術事項からエマルゲン709がPolyoxyethylene(9) alkyl(sec-C11-15) ethersであることが分かるので、本件発明1における「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤」と、「アルキル基の炭素原子数が11~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤」である点で共通する。
b 甲7発明における「フェリチン測定用ラテックス比濁用試薬」を用いた「免疫比濁法」は、本件発明1における「ラテックス凝集免疫分析方法」に相当する。
c 甲7発明は、第2試薬に「0.1%抗ヒトフェリチン抗体を感作したラテックス粒子」を用い、「試料10μLに第1試薬200μLを添加し、37℃で攪拌混合し、5分放置後、第2試薬100μLを添加し、更に37℃で攪拌混合した後、約2分間の凝集反応を570nmの吸光度変化量として測定する」「フェリチン測定用ラテックス比濁用試薬」を用いた「免疫比濁法」であるから、本件発明1とは、「ただし、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除く」点で一致する。
d 以上のことから、本件発明1と甲7発明とは、
「アルキル基の炭素原子数が11~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う、ラテックス凝集免疫分析方法(ただし、検体と、CK-MBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子及びCK-BBに特異的に結合するモノクローナル抗体を固相したラテックス粒子とを反応させ、ラテックス粒子の凝集を光学的に検出する工程を含み、これらの粒子の平均粒子径が0.23μm~0.32μmである、CK-MBのラテックス凝集免疫測定方法を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点7-1>
本件発明1は、「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う」ことにより「特異性が向上する」「ラテックス凝集免疫分析方法」であるのに対し、甲7発明は「アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤(エマルゲン709)を、免疫比濁法の反応液中に共存させることにより、被検試料中の乳びによる影響を回避し免疫比濁法の正確性を向上させる免疫比濁法」である点。
(イ)判断
a 甲7発明ではすでに花王社製エマルゲン709(商品名)という非イオン界面活性剤ポリオキシエチレン高級アルコールエーテルが免疫比濁法の反応測定中に存在しており、さらに別の「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」を非特異反応を抑制するために導入するという動機付けはない。
b また、甲1発明や甲2発明に開示されているような、免疫測定において界面活性剤を用いて測定の精度を向上させる技術が公知であったとしても、甲7発明にさらに別の「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)」を非特異反応を抑制するために導入することは、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を、免疫比濁法の反応液中に共存させることにより、被検試料中の乳びによる影響を回避するという効果を得るための、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤の混合比率を損なうことになり、甲7発明が求める効果をなくすことになる可能性があるという阻害要因があるため、そのようなことを行う動機付けはない。
c ここで、本件発明1における「特異性が向上する」とは、「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う」ことにより非特異反応を抑制する(段落【0007】参照。)という効果であり、非特異反応については、甲9技術事項にあるとおりである。
d 一方、甲7発明における「被試験試料中の乳びによる影響を回避」するという効果は、被試験試料中にある乳び(高脂検体)の影響を回避するというものであり、「アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤(エマルゲン709)を、免疫比濁法の反応液中に共存させることにより」得られる効果であるから、「アルキル基の炭素原子数が8~14個であるポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテルを除く)の存在下で抗原抗体反応及び/又は測定を行う」ことにより非特異反応を抑制するという本件発明1の効果とは異なるものである。ゆえに、甲7発明から、本件発明1の効果は当業者が予測しうるものではない。
e 申立人は、異議申立書において、本件訂正前の請求項1に係る特許は甲7発明と同一であるか、甲7発明並びに甲第1号証及び甲第2号証等の周知技術に基づいて当業者が容易に想到しうる旨主張するが、上記「(ア)」で検討したとおり本件発明1と甲7発明とは相違点7-1で相違しており同一ではなく、上記「b」で述べたとおり、甲7発明に甲1発明や甲2発明に開示された免疫測定において界面活性剤を用いて測定の精度を向上させる技術を導入することには阻害要因があり、上記「d」で述べたとおり、本件発明1の効果は甲7発明から当業者が予測しうるものではないことから、上記申立人の主張を採用することはできない。
f 以上のことから、申立人の主張は採用することはできず、本件発明1は、甲7発明と同一であるとはいえず、甲7発明並びに甲第1号証及び甲第2号証等に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得た発明であるとはいえない。
イ 本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1を引用する発明であり、本件発明1は上記「ア」で検討したとおり、甲7発明と同一であるとはいえず、甲7発明並びに甲第1号証及び甲第2号証等に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得た発明であるとはいえないから、本件発明1を引用する本件発明2ないし6も同様の理由で、甲7発明と同一であるとはいえず、甲7発明並びに甲第1号証及び甲第2号証等に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得た発明であるとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1ないし6は、甲7発明と同一であるとはいえず、甲7発明並びに甲第1号証及び甲第2号証等に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得た発明であるとはいえないから、異議申立理由4及び5は理由がない。
(4)まとめ
以上のことから、取消理由通知において採用しなかった異議申立理由である、異議申立理由1,及び3ないし5については、本件発明1ないし6に対しいずれも理由はない。
第10 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由1ないし3及び特許異議申立書に記載した異議申立理由1及び3ないし5によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700199