特許異議申立
2022-700784
非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板およびその製造方法
- 審判番号
- 2022-700784
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-548842
- 登録番号
- 7006801
- 請求日
- 2022年08月09日
- 審決日
- 2023年03月13日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】坂井 哲也
- 【権利者代理人】磯村 哲朗
- 【権利者代理人】熊坂 晃
- 【権利者代理人】森 和弘
- 【異議申立人】小海 善史
- 審判長/審判官
- 審判長 酒井 朋広
- 審判官 齋藤 正貴
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7006801号発明「非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7006801号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7006801号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、令和2年6月2日に出願され(優先日 令和元年7月9日)、令和4年1月11日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年8月9日に特許異議申立人小海善史により特許異議の申立てがされた。当審において、令和4年9月30日付け取消理由を通知したところ、特許権者から令和4年11月29日に意見書が提出された。
第2 本件発明
特許第7006801号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板であって、
前記クロム含有鋼板は、Crを10質量%以上含有する成分組成を有し、
前記クロム含有鋼板の表面に凹部と凸部とを有する凹凸構造を備え、該凸部の平均高さが20nm以上100nm以下であり、かつ該凸部間の平均間隔が20nm以上300nm以下である、非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板。
【請求項2】
前記クロム含有鋼板は、質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.01~2.00%、Mn:0.01~1.00%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、Cr:10.00~32.00%、Ni:0.01~4.00%、Al:0.001~0.150%およびN:0.050%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する、請求項1に記載の非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板。
【請求項3】
前記成分組成は、さらに、質量%で、Mo:0.01~2.50%、Cu:0.01~0.80%、Ti:0.01~0.45%、Nb:0.01~0.60%、V:0.01~0.30%のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、請求項2に記載の非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板。
【請求項4】
板厚が50μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板の製造方法であって、
素材クロム含有鋼板を準備し、
ついで、前記素材クロム含有鋼板の表面の酸化皮膜を除去し、
ついで、前記酸化皮膜を除去した素材クロム含有鋼板に、前記素材クロム含有鋼板の活性態域でエッチング処理を施し、
ついで、前記エッチング処理を施した素材クロム含有鋼板に、酸化性を有する溶液中での浸漬処理、または、前記素材クロム含有鋼板の不動態域における電解処理を施す、
非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板の製造方法。」
第3 取消理由の概要
当審において、請求項1ないし5に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1ないし3に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2、引用文献3)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項4ないし5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2、引用文献3、引用文献4)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項4ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
引用文献1 国際公開第2019/082591号(甲第1号証)
引用文献2 特開2006-202511号公報(甲第2号証)
引用文献3 特開2010-033782号公報(甲第3号証)
引用文献4 特開2008-108741号公報(甲第4号証)
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項、引用発明
(1)引用文献1
ア 引用文献1には、次の記載がある(下線は当審で付加した。)。
「以下、本発明の一実施形態に係る燃料電池のセパレータ用のステンレス鋼板の製造方法を説明する。
(1)素材となるステンレス鋼板の準備
当該工程は、素材とするステンレス鋼板を準備する工程である。ここで、素材とするステンレス鋼板は、特に限定されず、例えば、所定の成分組成を有するステンレス鋼板を以下のようにして準備すればよい。
すなわち、所定の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延して熱延板とし、該熱延板に必要に応じて熱延板焼鈍を施し、その後、該熱延板に冷間圧延を施して所望板厚の冷延板とし、さらに必要に応じて該冷延板に冷延板焼鈍を施すことにより、上記の成分組成を有するステンレス鋼板を準備することができる。
なお、熱間圧延や冷間圧延、熱延板焼鈍、冷延板焼鈍などの条件は特に限定されず、常法に従えばよい。また、冷延板焼鈍後に酸洗し、スキンパスを施してもよい。また、冷延板焼鈍を、光輝焼鈍としたステンレス鋼板を用いこともできる。」(段落[0029])
「ここで、準備するステンレス鋼板の成分組成は特に限定されるものではないが、質量%で、C:0.100%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、Cr:11.0~40.0%、Al:0.500%以下およびN:0.100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成とすることが好適である。
以下、その理由を説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味する。」(段落[0030])
「(2)酸化皮膜の除去
後述する電解エッチング処理を施す前に、準備したステンレス鋼板の表面にあらかじめ形成されている酸化皮膜(以下、単に酸化皮膜ともいう)を除去することで、活性態域における電解エッチング処理による接触抵抗の低減効果が安定して得られるようになる。
ここで、あらかじめ形成されている酸化皮膜とは、大気中で形成される不動態皮膜や、素材となるステンレス鋼板の製造段階での光輝焼鈍時に形成されるBA皮膜などが挙げられる。
また、酸化皮膜の除去は、アノード電解処理やカソード電解処理、アノード電解処理とカソード電解処理との組み合わせにより行えばよいが、なかでもカソード電解処理が好ましい。カソード電解処理は、アノード電解処理に比べ、ステンレス鋼板の母材の溶解量が低減されるため、特に有利である。
ここで、カソード電解処理の処理条件は、ステンレス鋼板表面の酸化皮膜を除去できるような電流密度で実施すればよく、具体的には、ステンレス鋼板の鋼種や、あらかじめ形成されている酸化皮膜の厚さ、電解装置等の構成に応じて、その都度、電解条件を調整することが好ましい。
例えば、電位制御の場合は、30g/Lの硫酸水溶液中、電位:-0.7V(vs.Ag/AgCl)、処理時間:1分以上の条件でカソード電解処理を施せばよい。なお、V(vs.Ag/AgCl)は、参照電極として用いた銀-塩化銀電極に対する電位であり、以下、(vs.Ag/AgCl)とする。
また、電流制御の場合は、鋼種や酸化皮膜の厚さによっても異なるが、電流密度:-0.1~-100mA/cm2、処理時間:1~600秒の範囲で調整することが好ましい。特に、処理時間は、電流密度によっても異なるが、例えば、電流密度:-0.5mA/cm2の場合には、処理時間を60秒以上とすれば、通常、ステンレス鋼板の表面の酸化被膜は除去される。ただし、処理時間が長くなると、経済性が悪くなるため、600秒以下とすることが好ましい。より好ましくは300秒以下である。
なお、ここでいう電流密度は、被処理材となるステンレス鋼板と対極との間に流れる電流を、被処理材の表面積で除した値を示し、電流制御の場合は、この電流密度を制御する。
さらに、カソード電解処理で使用する処理液は特に限定されるものではないが、例えば、硫酸水溶液や塩酸水溶液、硫酸と塩酸の混合水溶液が挙げられる。なかでも、硫酸水溶液が好ましい。
また、処理液の濃度は、処理液の導電率が十分高くなるよう調整すればよく、例えば、硫酸水溶液の場合は硫酸の濃度を10~100g/L程度、塩酸水溶液の場合は塩酸の濃度を10~100g/L程度、硫酸と塩酸の混合水溶液の場合には硫酸の濃度を10~100g/L程度、塩酸の濃度を10~100g/L程度とすることが好ましい。
なお、硝酸は少量であれば含まれていてもよいが、その濃度は10g/L以下とすることが好ましい。また、硝酸の濃度が0g/Lであってもよいことは言うまでもない。
また、上記した硫酸、塩酸および硝酸以外の酸は、極力低減することが好ましい。ただし、再生酸等の安価な酸を使用する場合、フッ酸やリン酸等の他の酸が不純物として含まれる場合があるが、硫酸、塩酸および硝酸以外の酸の濃度は5g/L以下であれば許容できる。ただし、フッ酸については、処理作業時における安全性と、処理作業後に排出される廃液の処理の安全性の観点から、フッ酸の濃度は極微量、具体的には、1g/L以下に低減する必要がある。なお、硫酸、塩酸および硝酸以外の酸の濃度が0g/Lであってもよいことは言うまでもない。
よって、ここでいう硫酸水溶液、塩酸水溶液、および、硫酸と塩酸の混合水溶液にはそれぞれ、上記した10g/L以下の硝酸、および、5g/L以下の硫酸、塩酸および硝酸以外の酸が含有される硫酸水溶液、塩酸水溶液、および、硫酸と塩酸の混合水溶液も含まれるものとする。また、ここでいう硫酸水溶液、塩酸水溶液、および、硫酸と塩酸の混合水溶液は、フッ酸の濃度が1g/L以下に抑制されているもののみを指すこととする。
さらに、処理温度についても特に限定されるものではないが、30~85℃が好ましい。
なお、酸化皮膜の除去と後述する電解エッチング処理の処理液を同一にした場合、コスト的に有利である。また、電解槽の構造によっては同一の電解槽において、酸化被膜の除去と電解エッチング処理とを連続して行うことができる。」(段落[0045]-[0048])
「(3)電解エッチング処理
上記の酸化皮膜の除去処理を施して、表面の酸化皮膜を除去したステンレス鋼板に、当該ステンレス鋼板の活性態域において電解エッチング処理を施す。これにより、フッ酸を含む処理液中への浸漬処理と同等以上の接触抵抗の低減効果が得られる。
その理由について、発明者らは次のように考えている。
ステンレス鋼板の電解処理としては、活性態域、不動態域および過不動態域という3つの電位範囲での電解処理が挙げられる。
具体的には、図1に示すように、後述する表1の鋼No.Aの成分組成を有するステンレス鋼板を自然浸漬電位からアノード方向に分極すると、電位が-0.51V(vs.Ag/AgCl)を超えたあたりから電流、ひいては電流密度が増加して+22.0mA/cm2程度の極大値に達する。その後、電位の上昇とともに電流は減少し、電位が-0.34V(vs.Ag/AgCl)に達すると、電流密度は上記極大値の1/100以下にまで低下する。この電流の低い状態は-0.34V(vs.Ag/AgCl)から+0.97V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲で持続し、その後、電位の上昇とともに、電流密度が再び急激に増加する。
なお、図1は、後述する表1の鋼No.Aについて、参照電極に銀-塩化銀電極を用いて、30g/L硫酸水溶液中、55℃、電位走査速度:1mV/sの条件で得た、アノード分極曲線である。アノード分極曲線を得るにあたっては、この電位走査速度を用いるものとする。
この初期の電位の上昇とともに電流密度が増加する電位範囲が活性態域、電位を上昇させても、ほとんど電流が流れず、電流密度が低い値に保持される電位範囲が不動態域、不動態域の電位範囲を超えて、電流密度が急激に増大する電位範囲が過不動態域である。
具体的には、活性態域を、処理液中のステンレス鋼板を自然浸漬電位からアノード方向に、1mV/sの走査速度で分極した際に得られるアノード分極曲線において、電位上昇時に初めに現れる(後述する不動態域に達する前の)、電位の上昇とともに電流密度が増加し、極大値(活性態域における電流密度の最大値)をとった後、電流密度が低下し、電流密度が前記極大値の1/100以下となるまでの電位範囲と定義する。ただし、オーステナイト系ステンレス鋼の場合は、活性態域における電流値が極めて低いため、電流密度が前記極大値の1/2以下となるまでの電位範囲と定義する。
また、不動態域は、上記のアノード分極曲線において、活性態域を超えて電位を上昇させても、電流が殆ど流れない電位範囲(具体的には、電流密度が前記極大値の1/100以下に維持される電位範囲、ただし、オーステナイト系ステンレス鋼の場合は、電流密度が前記極大値の1/2以下に維持される電位範囲)と定義する。
さらに、過不動態域は、不動態域を超え、かつ、電位の上昇とともに電流が急激に増加する電位範囲と定義する。
なお、鋼種や電解液によって、流れる電流値や電位は変化するので、その都度アノード分極曲線を取得し、判断すればよい。
このうち、不動態域で電解エッチング処理を行う場合、ステンレス鋼板には不動態皮膜が形成されるため、十分なエッチング効果が得られず、所望の接触抵抗の低減効果が得られない。
また、過不動態域で電解処理した場合、ステンレス鋼板の溶解量が多く、また溶解速度も速くなる。そのため、エッチングが急速に進行して、やはり所望の接触抵抗の低減効果が得られない。加えて、電位によっては、酸素発生反応も同時に起こる場合があるため、エッチング量の制御が困難となる。
一方、活性態域で電解エッチング処理を行う場合には、不動態域と比較して十分なエッチング効果が得られる。また、過不動態域と比較すると、ステンレス鋼の溶解量が少なく、また溶解量を制御しやすい。そのため、ステンレス鋼板の表面位置によってエッチング量の不均一な部分が生じ、微細な凹凸形状が形成される。
かような表面に微細な凹凸形状が形成されたステンレス鋼を固体高分子形燃料電池のセパレータに適用すると、セパレータとガス拡散層との接触面積が大きくなって、接触抵抗が低減される。また、前述したように、当該電解エッチング処理を行う前に、素材となるステンレス鋼板表面の酸化皮膜を除去することで、接触抵抗の低減効果が安定して得られるようになる。
これらの相乗効果により、表面の酸化皮膜を除去したステンレス鋼板に、当該ステンレス鋼板の活性態域において電解エッチング処理を施すことで、フッ酸を含む処理液中への浸漬処理と同等程度の接触抵抗の低減効果が得られるようになる、と発明者らは考えている。
ここで、活性態域は、ステンレス鋼板の鋼種や、使用する処理液等によって変化するため、これらの条件に合わせたアノード分極曲線を事前に取得し、活性態域の電位範囲を把握して、電解エッチング処理を行うことが好ましい。
具体的には、電位制御で電解エッチング処理を行う場合、事前に被処理材となるステンレス鋼板のアノード分極曲線を取得して、活性態域の電位範囲を把握し、その電位範囲において電解エッチング処理を行えばよい。
例えば、後述する表1の鋼種Aを30g/L硫酸水溶液により処理する場合、-0.51V~-0.34V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲であれば、活性態域に相当する電位範囲となるので、当該活性態域となる電位範囲において、処理時間を1~600秒の範囲で適宜調整して電解エッチングを行えばよい。
また、電流制御で電解エッチング処理を行う場合、あらかじめ電流密度と電解電位との関係を調査し、活性態域で電解される電流密度の範囲を把握し、その電流密度の範囲において電解エッチングを行えばよい。
ただし、電流制御の場合、使用するステンレス鋼板の鋼種や処理液等によって適切な電流密度が変化するため、その都度、調整が必要である。
例えば、電解時における電流密度と参照電極に対する電位の関係を調べて、図1で示した活性態域の電位範囲で電解エッチングされる電流密度を確認し、その電流密度で電解エッチング処理を施せばよい。
図2に、電解時における電流密度と参照電極に対する電位との関係の一例を示す。これは、後述する表1の鋼Aについて、30g/L硫酸水溶液中、55℃での、電解時における電流密度と参照電極に対する電位との関係である。
同図より、電流密度を7.5~12.5mA/cm2程度に制御すれば、活性態域である-0.40V(vs.Ag/AgCl)近傍で電解エッチング処理を行えることがわかる。
なお、ここでいう電流密度は、被処理材となるステンレス鋼板と対極との間に流れる電流を、被処理材の表面積で除した値を示す。電流制御の場合は、この電流密度を制御する。
また、被処理材が大きい場合やコイル状態の鋼板に電解エッチング処理を施す場合など、電解装置が大型になるような工場の設備では、参照電極を用いることが困難となる。そのような場合、電流密度を上げていきながら、電流密度と、被処理材となるステンレス鋼板と対極との間にかかる電解電圧との関係を確認することにより、活性態域の電位範囲で電解エッチングされる電流密度を確認し、その電流密度で電解エッチング処理を施せばよい。
なお、例えば、被処理材となるステンレス鋼板と対極との間にかかる電解電圧が急激に増加するまでの電流密度であれば活性態域にあり、被処理材となるステンレス鋼板と対極との間にかかる電解電圧が急激に増加した後の電流密度であれば、過不動態域にあると判断することができる。
図3に、電解時における電流密度と、被処理材となるステンレス鋼板と対極との間にかかる電解電圧との関係の一例を示す。これは、後述する表1の鋼Aについて、30g/L硫酸水溶液中、55℃での、電解時における電流密度と被処理材となるステンレス鋼板と対極との間にかかる電解電圧との関係を調べたものである。この場合、電流密度が+7.5mA/cm2~+15.0mA/cm2の間で電解電圧が急激に増加しており、よって、+0.5~+7.5mA/cm2程度(好適には+0.5~+1.0mA/cm2程度)に調整すれば、活性態域にあると判断することができる。また、電流密度を+15.0mA/cm2程度以上に調整すれば、過不動態域にあると判断することができる。
なお、処理時間は、1~600秒の範囲で適宜調整すればよい。
また、ここでいう電流密度は、被処理材となるステンレス鋼板と対極との間に流れる電流を、被処理材の表面積で除した値を示し、電流制御の場合は、この電流密度を制御する。
加えて、電解エッチング処理に用いる処理液は、硫酸水溶液や塩酸水溶液、硫酸と塩酸の混合水溶液が好ましい。これらの処理液を用いた場合、十分なエッチング効果を得ることができる。なかでも、硫酸水溶液が好ましい。
また、処理液の濃度は、処理液の導電率が十分高くなるよう調整すればよく、例えば、硫酸水溶液の場合は硫酸の濃度を10~100g/L程度、塩酸水溶液の場合は塩酸の濃度を10~100g/L程度、硫酸と塩酸の混合水溶液の場合には硫酸の濃度を10~100g/L程度、塩酸の濃度を10~100g/L程度とすることが好ましい。
なお、ステンレス鋼の表面に発生するスマットを除去する目的等で、処理液中に硝酸を少量加えてもよいが、硝酸はステンレス鋼を不動態化してエッチング効果を抑制する。ここでいうスマットとは、ステンレス鋼板を電解処理した際に、ステンレス鋼板の表面に付着する、C、N、S、Fe、Crを含む混合物である。このため、硝酸の濃度は10g/L以下とすることが好ましい。また、硝酸の濃度は、硫酸水溶液の場合は硫酸の濃度以下、塩酸水溶液の場合は塩酸の濃度以下、ならびに、硫酸と塩酸の混合水溶液の場合は硫酸および塩酸の濃度以下とすることが好ましい。また、硝酸の濃度が0g/Lであってもよいことは言うまでもない。
また、上記した硫酸、塩酸および硝酸以外の酸は、極力低減することが好ましい。ただし、再生酸等の安価な酸を使用する場合、フッ酸やリン酸等の他の酸が不純物として含まれる場合があるが、硫酸、塩酸および硝酸以外の酸の濃度は5g/L以下であれば許容できる。ただし、フッ酸については、処理作業時における安全性と、処理作業後に排出される廃液の処理の安全性の観点から、フッ酸の濃度は極微量、具体的には、1g/L以下に低減する必要がある。なお、硫酸、塩酸および硝酸以外の酸の濃度が0g/Lであってもよいことは言うまでもない。
よって、ここでいう硫酸水溶液、塩酸水溶液、および、硫酸と塩酸の混合水溶液にはそれぞれ、上記した10g/L以下の硝酸、および、5g/L以下の硫酸、塩酸および硝酸以外の酸が含有される硫酸水溶液、塩酸水溶液、および、硫酸と塩酸の混合水溶液も含まれるものとする。また、ここでいう硫酸水溶液、塩酸水溶液、および、硫酸と塩酸の混合水溶液は、フッ酸の濃度が1g/L以下に抑制されているもののみを指すこととする。
さらに、処理温度についても特に限定されるものではないが、30~85℃が好ましい。
なお、酸化皮膜の除去処理と電解エッチング処理とを、同じ処理液かつ同一の処理温度で行える場合には、同一の電解槽を用いて連続して処理することもできる。」(段落[0049]-[0057])
「(4)表面の安定化処理
上記のように電解エッチング処理を施すことでステンレス鋼板の接触抵抗を低減できるが、接触抵抗を一層低減したい場合や、燃料電池スタック製造工程において熱処理が施されることが想定される場合には、上記の電解エッチング処理を施したステンレス鋼板に、さらに、その表面の安定化処理を施してもよい。これにより、ステンレス鋼板の表面において、電解エッチング処理時に形成されたスマット等の付着物を溶解して除去させるとともに、ステンレス鋼板の表面において金属以外の形態として存在するFeの原子濃度に対する金属以外の形態として存在するCrの原子濃度の比を高めて、ステンレス鋼板表面の不動態皮膜を安定化させる。
その結果、接触抵抗がさらに低減され、かつ、実際の燃料電池のセパレータに適用する場合においても、素材鋼板の段階で期待された程度の接触抵抗の低減効果が維持される。
この理由について、発明者らは次のように考えている。
すなわち、素材ステンレス鋼板をプレス成形し、必要に応じて耐食性や導電性を向上させる目的でさらに表面処理等を施し、燃料電池用セパレータとし、それを用いて燃料電池単セルを組み、さらに単セルを直列に数十~数百個つないで燃料電池スタックを製造する工程(以下、燃料電池スタック製造工程ともいう)では、熱処理が施される場合があり、この熱処理の際に、セパレータとして使用するステンレス鋼の表面の不動態皮膜が厚く成長し、場合によっては、実質的に酸化皮膜と称すべきほどに厚く成長し、これによって、素材鋼板の段階よりも鋼板表面の導電性が低下して、接触抵抗が上昇する。
これが従来技術で、実際に燃料電池のセパレータとして適用すると、いずれも素材鋼板の段階で期待していたほどは接触抵抗が低減されず、所望とする発電特性が得られない場合があった理由と考えられる。
この点、ステンレス鋼板の表面において金属以外の形態として存在するFeの原子濃度に対する金属以外の形態として存在するCrの原子濃度の比を高めて、ステンレス鋼板表面の不動態皮膜を安定化させれば、ステンレス鋼板が燃料電池スタック製造工程における熱処理環境下に曝される場合であっても、鋼板表面での不動態皮膜の成長を抑制することが可能となる。その結果、実際の燃料電池のセパレータに適用する場合においても、素材鋼板の段階で期待された程度の接触抵抗の低減効果が得られるようになるものと、発明者らは考えている。
また、表面の安定化処理としては、酸化性を有する溶液中での浸漬処理や、当該ステンレス鋼板が不動態化する電位域での電解処理などが挙げられる。
ここで、酸化性を有する溶液とは、硝酸水溶液や過酸化水素水溶液が挙げられる。なお、浸漬時間は長いほど、スマット等の除去や、表面でのCr濃縮を促すが、長すぎるとその効果が飽和し、また生産性が低下する。そのため、浸漬処理における処理時間は、2時間(120分)以下とすることが好ましい。より好ましくは15分以下である。また、下限については、0.5分以上とすることが好ましい。より好ましくは1分以上である。
また、硝酸水溶液を使用する場合、硝酸の濃度は10~400g/Lとすることが好ましい。さらに、過酸化水素水溶液を使用する場合、過酸化水素の濃度は10~300g/Lとすることが好ましい。なお、各処理液中に不純物として含まれる酸はいずれも、10g/L以下であれば許容できる。各処理液中に不純物として含まれる酸の下限については特に限定されず、0g/Lであってもよい。ただし、フッ酸については、処理作業時における安全性と、処理作業後に排出される廃液の処理の安全性の観点から、フッ酸の濃度は極微量、具体的には、1g/L以下に低減する必要がある。
加えて、浸漬処理における処理温度は特に限定されるものではないが、30~60℃とすることが好適である。
また、電解処理にあたっては、電位を、ステンレス鋼板が不動態化する電位域に調整すればよい。特には、鋼中に含まれるFeやNiなどのCr以外の成分が溶解し、Crが溶解しない電位域とすることが好ましい。
なお、ステンレス鋼板が不動態化する電位域(不動態域)は、使用する処理液(電解液)やステンレス鋼板の鋼種によって異なるため、その処理液とステンレス鋼の鋼種ごとに調整することが好ましい。例えば、50g/L硝酸水溶液を用いて後述する表1の鋼Aを処理する場合、電位:+0.40~+0.80V(vs.Ag/AgCl)の範囲で電解処理を施すことが好ましい。また、処理時間は長いほど鋼板表面の金属以外の形態として存在するCrの濃縮を促すが、長すぎるとその効果が飽和し、また生産性が低下する。そのため、電解時間は、0.1分以上2時間(120分)以下とすることが好ましい。より好ましい電解時間は、1分以上15分以下である。
さらに、電解処理における処理温度についても特に限定されるものではないが、30~70℃が好ましい。」(段落[0058]-[0061])
「・実施例1
表1に記載の成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する板厚:0.10mmのステンレス鋼板(光輝焼鈍板)を準備し、このステンレス鋼板に表2に示す条件で、カソード電解処理を施し、鋼板表面に形成されていた酸化皮膜を除去した。ついで、表2に示す条件で、電位制御にて電解エッチング処理を施したのち、表2に示す条件で、表面の安定化処理として浸漬処理を行い、セパレータ用のステンレス鋼板を得た。なお、表2中の電位はいずれも、参照電極に対する電位(V vs.Ag/AgCl)である。」(段落[0064])
「ここで、電位制御にて電解エッチング処理を行うにあたり、事前に、参照電極にAg/AgClを用いて、30g/L硫酸水溶液中、55℃、電位走査速度:1mV/sの条件で、鋼種ごとに、アノード分極曲線を取得し、鋼種Aについては、-0.51~-0.34V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が活性態域、-0.34超~+0.97V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が不動態域、+0.97V(vs.Ag/AgCl)超の電位範囲が過不動態域であることを確認した。鋼種Bについては、-0.49~-0.39V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が活性態域、-0.39超~+1.00V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が不動態域、+1.00V(vs.Ag/AgCl)超の電位範囲が過不動態域であることを確認した。
また、鋼種Cについては、-0.25~-0.19V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が活性態域、-0.19超~+0.92V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が不動態域、+0.92V(vs.Ag/AgCl)超の電位範囲が過不動態域であることを確認した。
さらに、鋼種Dについては、-0.34~-0.19V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が活性態域、-0.19超~+0.98V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が不動態域、+0.98V(vs.Ag/AgCl)超の電位範囲が過不動態域であることを確認した。
加えて、鋼種Eについては、-0.35~-0.20V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が活性態域、-0.20超~+0.96V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が不動態域、+0.96V(vs.Ag/AgCl)超の電位範囲が過不動態域であることを確認した。」(段落[0065])
「また、電解エッチング処理後の浸漬処理は、処理温度:55℃の条件で、300g/L硝酸水溶液に5分または15分浸漬することにより行った。
」(段落[0066])
「
[図:0001396292000001.jpg]
」(段落[0068])
「
[図:0001396292000002.jpg]
」(段落[0069])
「・実施例2
表1に記載の成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する板厚:0.10mmのステンレス鋼板(光輝焼鈍板)を準備し、このステンレス鋼板に表3および表4に示す条件で、カソード電解処理を施し、鋼板表面に形成されていた酸化皮膜を除去した。ついで、表3および表4に示す条件で、電流制御にて電解エッチング処理を施したのち、表3および表4に示す条件で、表面の安定化処理として浸漬処理または電解処理を行い、セパレータ用のステンレス鋼板を得た(なお、表3および表4中の電流密度は、被処理材となるステンレス鋼板と対極との間に流れる電流を、被処理材の表面積で除した値である。)。ただし、試料No.18については酸化皮膜の除去処理としてのカソード電解処理を、試料No.19、28および35については表面の安定化処理としての浸漬処理および電解処理を実施しなかった。」(段落[0071])
「なお、電解エッチング処理後の浸漬処理は、処理温度:55℃の条件で、300g/L硝酸水溶液に0.5分、1分、5分、15分または30分間浸漬することにより行った。
また、電解エッチング処理後の電解処理は、50g/L硝酸水溶液を使用し、処理温度:55℃、電位:+0.50V(vs.Ag/AgCl)、処理時間:5分の条件で行った。なお、鋼No.Aのステンレス鋼板では、+0.50V(vs.Ag/AgCl)の電位は不動態域であった。
」(段落[0074])
「
[図:0001396292000003.jpg]
」(段落0076)
イ 上記アから、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア) 段落[0029]によれば、「燃料電池のセパレータ用のステンレス鋼板の製造方法を説明」しているから、引用文献1における「ステンレス鋼板」は「燃料電池のセパレータ用」であるといえる。
(イ) 段落[0030]には、「準備するステンレス鋼板の成分組成は特に限定されるものではないが、質量%で、C:0.100%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、Cr:11.0~40.0%、Al:0.500%以下およびN:0.100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成とすることが好適である。」と記載されている。また、段落[0064]には、「表1に記載の成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する板厚:0.10mmのステンレス鋼板(光輝焼鈍板)を準備」することが記載され、段落[0068]の表1によれば、「鋼No.」「A」の「成分組成(質量%)」の「Cr」が「20.8」であることが見て取れる。
よって、引用文献1に記載された「ステンレス鋼板」は、Crを11質量%以上40質量%以下含有する成分組成を有するものであるといえる。
(ウ) 段落[0052]には、「ステンレス鋼板の表面位置によってエッチング量の不均一な部分が生じ、微細な凹凸形状が形成される。」、「かような表面に微細な凹凸形状が形成されたステンレス鋼を固体高分子形燃料電池のセパレータに適用すると、セパレータとガス拡散層との接触面積が大きくなって、接触抵抗が低減される。」と記載されている。
よって、引用文献1に記載された「ステンレス鋼板」は、表面に微細な凹凸形状を備えるものであるといえる。
ウ 上記イから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「 燃料電池のセパレータ用のステンレス鋼板であって、
前記ステンレス鋼板は、Crを11質量%以上40質量%以下含有する成分組成を有し、
前記ステンレス鋼板の表面に微細な凹凸形状を備える、燃料電池のセパレータ用のステンレス鋼板。」
(2)引用文献2
ア 引用文献2には、次の記載がある(下線は当審で付加した。)。
「本発明は、燃料電池の構造に関する。」(段落[0001])
「燃料電池の理論発電電圧は1.23Vであり、一般的な乾電池の実用電圧は1.5Vであるから、燃料電池を乾電池代替用途として用いる場合、複数の単位セルを直列に接続して使用する必要がある。そして通常は、複数の単位セルの間に導電性でなおかつ燃料やガスを拡散させることのできるセパレーターを用いたスタック構造体として用いられることが多い。セパレーターは耐腐食性金属成形体や固形カーボンブロック等の導電性材料で作られ、燃料電池の電極と密着させることによって発生した電流を伝導し外部配線に接続する集電体としての役割と表面に設けた溝等を用いて燃料や酸化剤を流路或い拡散によって触媒電極に供給させる役割を持つ。一般的にセパレーターには高精度・高剛性・耐食性・低抵抗等の要求品質がきわめて高く、それゆえに厚く、重く、さらには燃料電池本体の製造コストの1/3を占めるといわれるほど高コストになるという問題があった。」(段落[0004])
イ 上記アから、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
段落[0001]には、「燃料電池の構造に関する」ものであることが記載されている。また、段落[0004]には、「セパレーターは耐腐食性金属成形体や固形カーボンブロック等の導電性材料で作られ、燃料電池の電極と密着させることによって発生した電流を伝導し外部配線に接続する集電体としての役割と表面に設けた溝等を用いて燃料や酸化剤を流路或い拡散によって触媒電極に供給させる役割を持つ。」ことが記載されている。
よって、引用文献2に記載された燃料電池のセパレーターは前記燃料電池
の電極と密着させることによって発生した電流を伝導し外部配線に接続する集電体としての役割を持つものと認められる。
ウ 上記移イから、引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「燃料電池のセパレーターは燃料電池の電極と密着させることによって発生した電流を伝導し外部配線に接続する集電体としての役割を持つ」こと。
(3)引用文献3
ア 引用文献3には、次の記載がある(下線は当審で付加した。)。
「リチウムイオン二次電池には更なる高出力化、軽量化、安全性向上が求められている。しかし、高出力化・軽量化と、安全性向上の両立は必ずしも容易でない。特に電池内で短絡が起こると電解液が燃焼し発火する恐れがある。高出力化のためには電池の高電圧化が有効であるが、金属材料である集電体としては、高電位環境に曝されると耐食性の面でより厳しい状況となる。負極の集電体に銅箔が使われている現行のリチウムイオン二次電池では、過放電によりCuが溶出し、これが充電時に再析出すると、スパークなどの致命的な問題を引き起こす要因となりうる。したがって、負極の集電体材料である銅箔を、より高耐食性の材料に置き換えることができれば、リチウムイオン二次電池の安全性は飛躍的に向上すると考えられる。ただし、金や白金等の貴金属はコスト的に採用し難い。
比較的安価な高耐食性材料としてはステンレス鋼が挙げられる。しかし、ステンレス鋼はその耐食性を担う不動態皮膜が良好な表面接触抵抗を確保する上で妨げとなり、銅系材料に比べると負極の活物質層との間の接触抵抗が増大してしまう。この接触抵抗の増大は高出力化にとって大きなマイナスとなる。
本発明はこのような問題に鑑み、現行リチウムイオン二次電池の負極集電体である銅系材料よりも耐食性が高いステンレス鋼を用いて、活物質層との間の接触抵抗が現行の負極と同等あるいはそれ以下となるような、耐食性と表面接触抵抗の両方に優れた集電体を提供することを目的とする。併せてその集電体を用いたリチウムイオン二次電池の負極材料を提供することを目的とする。」(段落[0005]-[0007])
イ 上記アから、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
段落[0005]には、「リチウムイオン二次電池」における「負極の集電体材料」に関連するものであることが記載されている。また、段落[0006]には、「ステンレス鋼はその耐食性を担う不動態皮膜が良好な表面接触抵抗を確保する上で妨げとなり、銅系材料に比べると負極の活物質層との間の接触抵抗が増大してしまう。」ことが記載されている。さらに、段落[0007]には、「現行リチウムイオン二次電池の負極集電体である銅系材料よりも耐食性が高いステンレス鋼を用いて、活物質層との間の接触抵抗が現行の負極と同等あるいはそれ以下となるような、耐食性と表面接触抵抗の両方に優れた集電体を提供することを目的とする。」こと記載されている。
よって、引用文献3には、リチウムイオン二次電池の負極の集電体材料には、ステンレス鋼を用いたときに負極の活物質層との接触抵抗が銅系材料を用いたときよりも大きくなってしまうという課題が存在することが記載されていると認められる。
ウ 上記移イから、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「リチウムイオン二次電池の負極の集電体材料には、ステンレス鋼を用いたときに負極の活物質層との接触抵抗が銅系材料を用いたときよりも大きくなってしまうという課題が存在する」こと。
(4)引用文献4
ア 引用文献4には、次の記載がある(下線は当審で付加した。)。
「本発明は、非水二次電池、特に高容量でサイクル寿命の長いリチウム二次電池に関する。」(段落[0001])
「上記で作成した正極合剤ペーストをブレードコーターで厚さ30μmのアルミニウム箔集電体の両面に塗布、150℃乾燥後ローラープレス機で圧縮成型し所定の大きさに裁断し、帯状の正極シートを作成した。さらにドライボックス(露点;-50℃以下の乾燥空気)中で遠赤外線ヒーターにて充分脱水乾燥し、正極シートを作成した。同様に、負極合剤ペーストを20μmの表面粗さ0.07μmの金属箔集電体(銅、ニッケル、チタン、ステンレス)に塗布し、上記正極シート作成と同様の方法で負極シートを作成した。正負極の塗布量は、正極活物質がリチウム金属に対して4.2Vになる第1サイクルの充電容量と上記負極材料が0.0Vになる第1サイクルの充電容量が合うようにそれぞれの電極合剤の塗布量を調整した。」(段落[0063])
イ 上記アから、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
段落[0001]には、「非水二次電池、特に高容量でサイクル寿命の長いリチウム二次電池に関する」ものであることが記載されている。また、段落[0063]には、「正極合剤ペーストをブレードコーターで厚さ30μmのアルミニウム箔集電体の両面に塗布、150℃乾燥後ローラープレス機で圧縮成型し所定の大きさに裁断し、帯状の正極シートを作成した。さらにドライボックス(露点;-50℃以下の乾燥空気)中で遠赤外線ヒーターにて充分脱水乾燥し、正極シートを作成した。同様に、負極合剤ペーストを20μmの表面粗さ0.07μmの金属箔集電体(銅、ニッケル、チタン、ステンレス)に塗布し、上記正極シート作成と同様の方法で負極シートを作成した。」こと記載されている。
よって、引用文献4には、リチウム二次電池の負極として厚さ20μm、表面粗さ0.07の金属箔集電体を用いることが記載されていると認められる。
ウ 上記イから、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「リチウム二次電池の負極として厚さ20μm、表面粗さ0.07の金属箔集電体を用いる」こと。
2 本件発明1について
(1)本件発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「ステンレス鋼板」は「鋼板」であり、「Crを11質量%以上40質量%以下含有する成分組成を有」するものであるから、本件発明1の「クロム含有鋼板」に相当する。
イ 本件発明1の「クロム含有鋼板」は「非水電解質二次電池の集電体用」であるのに対し、引用発明1の「ステンレス鋼板」は「燃料電池のセパレータ用」である点で相違する。
ウ 引用発明1の「ステンレス鋼板」が「Crを11質量%以上40質量%以下含有する成分組成を有」することは、「11質量%以上40質量%以下含有する」の「成分組成」は10質量%以上含有する成分組成と範囲が重複するため、本件発明の「クロム含有鋼板は、Crを10質量%以上含有する成分組成を有」することに相当する。
エ 「凹凸形状」とは凹部と凸部を有する構造であるとする技術常識を考慮すると、引用発明1の「ステンレス鋼板」が「表面に微細な凹凸形状を備える」ことは、本件発明1の「クロム含有鋼板の表面に凹部と凸部とを有する凹凸構造を備え」ることに相当する。
ただし、凹凸構造について、本件発明1は「該凸部の平均高さが20nm以上100nm以下であり、かつ該凸部間の平均間隔が20nm以上300nm以下である」のに対して、引用発明1はそのような特定がされていない点で相違する。
(2)以上のことから、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「 クロム含有鋼板であって、
前記クロム含有鋼板は、Crを10質量%以上含有する成分組成を有し、
前記クロム含有鋼板の表面に凹部と凸部とを有する凹凸構造を備える、クロム含有鋼板。」
【相違点1】
本件発明1の「クロム含有鋼板」は「非水電解質二次電池の集電体用」であるのに対し、引用発明1の「ステンレス鋼板」は「燃料電池のセパレータ用」である点で相違する。
【相違点2】
凹凸構造について、本件発明1は「該凸部の平均高さが20nm以上100nm以下であり、かつ該凸部間の平均間隔が20nm以上300nm以下である」のに対して、引用発明1にはそのような特定がされていない点で相違する。
(3)相違点に対する判断
以下、各相違点について検討する。
ア 相違点1について
上記1(1)ウで認定したとおり、引用発明1の「ステンレス鋼板」は「燃料電池のセパレータ用」であるといえる。
他方で、上記1(2)ウで認定したとおり、引用文献2には「燃料電池のセパレーターは燃料電池の電極と密着させることによって発生した電流を伝導し外部配線に接続する集電体としての役割を持つ」ことが記載されている。しかし、引用文献2には、燃料電池のセパレータが、一般的な集電体の機能(役割)を有するだけでなく、非水電解質二次電池の集電体の機能(役割)を有するとの技術事項までは示されていない。なお、引用文献3及び4にも、その旨の記載は認められない。
よって、引用文献2ないし4に示された技術的事項に基づいて、引用発明1の「燃料電池のセパレータ用」の「ステンレス鋼板」を非水電解質二次電池の集電体に適用して相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
また、異議申立人は、令和4年8月9日の特許異議申立書において、「そもそも本件特許発明3の課題である『ステンレス鋼板表面には不動態被膜が形成されるため、Cu箔表面と比較して接触抵抗(界面抵抗)が高くなる』は非水電解質二次電池の分野において、既に知られた課題である(例えば、甲第3号証の0006)。また、甲第1号証でも、燃料電池のセパレータ用のステンレス鋼板の接触抵抗を削減することが課題とされている(0017参照)。」(第14頁第14行目-第18行目)、「非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板と燃料電池のセパレータ用のクロム含有鋼板とは、互いに機能及び接触する物質が共通しており、この接触に伴う課題(接触抵抗を低減する)も新規なものではなく共通していることから、甲1-3発明1の燃料電池のセパレータ用のクロム含有鋼板を、接触抵抗低減のため、非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板に適用することは、設計事項の範疇と言わざるを得ず、本件特許発明3は、特許法第29条第2項の規定により、取り消されるべきである。」(第14頁第19行目-第24行目)と主張している。この主張を検討する。
異議申立人が指摘する甲第3号証(引用文献3)には上記1(3)ウで認定したとおり「リチウムイオン二次電池の負極の集電体材料には、ステンレス鋼を用いたときに負極の活物質層との接触抵抗が銅系材料を用いたときよりも大きくなってしまうという課題が存在する」(下線は当審で付加した。)ことが記載されていると認められる。
同様に指摘する甲第1号証(引用文献1)には上記1(1)アで抜粋したとおり、引用文献1の段落[0052]には、「ステンレス鋼板の表面位置によってエッチング量の不均一な部分が生じ、微細な凹凸形状が形成される。」、「かような表面に微細な凹凸形状が形成されたステンレス鋼を固体高分子形燃料電池のセパレータに適用すると、セパレータとガス拡散層との接触面積が大きくなって、接触抵抗が低減される。」と記載されている。よって、引用文献1に記載された「燃料電池のセパレータ用」の「ステンレス鋼板」はガス拡散層との接触抵抗(下線は当審で付加した。)を低減するという課題を備えるものと認められる。
よって、引用文献1及び引用文献3にそれぞれ示された課題は、ステンレス鋼との接触抵抗を低減すべき対象物が異なり、引用文献1及び引用文献3の記載から、燃料電池のセパレータが非水電解質二次電池の集電体と共通する課題を備えるとはいえない。
したがって、引用発明1の「燃料電池のセパレータ用」の「ステンレス鋼板」は非水電解質の二次電池の集電体と共通する課題を備えているとはいえない。よって、引用発明1の「燃料電池のセパレータ用」の「ステンレス鋼板」を非水系電解質二次電池の集電体に適用して相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
以上により、異議申立人の主張は採用できない。
イ 相違点2について
以下のとおり、本件発明1の「クロム含有鋼板」と引用発明1の「ステンレス鋼板」を成分組成及び製造方法の観点から比較する。
a 相違点2に係る「凹凸構造」を備える「クロム含有鋼板」は、本件明細書の記載によれば、「基本成分」(段落【0030】ないし【0042】を参照)、「適宜含有させることができる」成分(段落【0042】ないし【0047】を参照)並びに「Feおよび不可避的不純物」(段落【0048】を参照)を含有する成分組成を有するとともに、「素材クロム含有鋼板の製造工程」(段落【0051】を参照)、「酸化被膜の除去処理工程」(段落【0052】ないし【0063】を参照)、「エッチング処理工程」(段落【0064】ないし【0085】を参照)及び「酸化性を有する溶液中での浸漬処理、または、酸化性を有する溶液中での素材クロム含有鋼板の不働態域における電解処理」(段落【0086】ないし【0095】を参照)を含む製造方法により製造されるものといえる。
また、本件明細書の段落【0107】ないし【0108】に記載された「鋼No.」「D」に係る「試料No.」「7」は、相違点2に係る「凹凸構造」を備えている。
b 成分組成について
引用文献1の段落[0068]の[表1]に記載された「鋼No.」「A」の「成分組成(質量%)」は、本件明細書の段落【0030】ないし【0041】に記載された「基本成分」の数値範囲を満たし、かつ本件明細書の段落【0107】に記載された「鋼No.」「D」の「成分組成(質量%)」に対して格別の差異が見いだせない。
c 「素材クロム含有鋼板の製造工程」について
引用文献1の段落[0029]に記載された「(1)素材となるステンレス鋼板の準備」は、「所定の成分組成を有する鋼スラブ」を、「熱間圧延して熱延板とし、該熱延板に必要に応じて熱延板焼鈍を施し、その後、該熱延板に冷間圧延を施して所望板厚の冷延板とし、さらに必要に応じて冷延板焼鈍を施し」、「冷延板焼鈍」を「光輝焼鈍」としたものである点で、本件明細書の段落【0051】に記載された「素材クロム含有鋼板の製造工程」と共通する。
また、引用文献1の段落[0064]及び[0071]によれば、「表1に記載の成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)を有する」「ステンレス鋼板(光輝焼鈍)を準備」するものであるから、「表1に記載の成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)を有する」「ステンレス鋼板」は、上記の「光輝焼鈍」を施して準備するものといえる。
よって、引用文献1に記載された「(1)素材となるステンレス鋼板の準備」は、本件明細書に記載された「素材クロム含有鋼板の製造工程」に相当する。
d 「酸化被膜の除去処理工程」について
(a)本件明細書の記載によれば、「酸化被膜の除去処理工程」の「カソード電解処理の処理条件」は(以下、単に「処理条件」という。)、「表面の酸化被膜を除去できる」ものであって(段落【0055】を参照)、「電位制御の場合は、30g/Lの硫酸水溶液中、電位:-0.7V(vs.Ag/AgCl)、処理時間:1分以上」(段落【0056】を参照)、「電流制御の場合」は「電流密度:-0.1~-100mA/cm2、処理時間:1~600秒の範囲」であり(段落【0057】を参照)、「処理温度」は「30~85℃」である(段落【0062】を参照)。
また、本件明細書の段落【0107】ないし【0108】に記載された「鋼No.」「D」に係る「試料No.」「7」の「酸化被膜の除去処理」の「製造条件」(以下、単に「製造条件」という。)は、「処理液」が「30g/L硫酸水溶液」、「処理温度(℃)」が「55」、「電流密度(mA/cm2)」が「-0.8」、「処理時間(秒)」が「60」である。
(b)それに対して、引用文献1に記載された「(2)酸化被膜の除去」は(段落[0045]ないし[0048]を参照)、「カソード電解処理の処理条件」は、「表面の酸化皮膜を除去できる」ものであって(段落[0046]を参照)、「電位制御の場合は、30g/Lの硫酸水溶液中、電位:-0.7V(vs.Ag/AgCl)、処理時間:1分以上」(段落[0046]を参照)、「電流制御の場合」は「電流密度:-0.1~-100mA/cm2、処理時間:1~600秒の範囲」であり(段落[0046]を参照)、「処理温度」は「30~85℃」である点(段落[0048]を参照)において、前記「(a)」の処理条件と共通する。
(c)また、引用文献1の段落[0069]の[表2]に記載された、「鋼No.」「A」に係る「試料No.」「1」の「酸化被膜の除去処理」の「製造条件」は、「処理液」が「30g/L硫酸水溶液」、「処理温度(℃)」が「55」、「電位(V vs Ag/AgCl)」が「-0.70」、「処理時間(秒)」が「60」であって、前記「(a)」の処理条件を満たす。
(d)また、引用文献1の段落[0076]の[表3]に記載された、「鋼No.」「A」に係る「試料No.」「25」の「酸化被膜の除去処理」の「製造条件」は、「処理液」が「30g/L硫酸水溶液」、「処理温度(℃)」が「55」、「電流密度(mA/cm2)」が「-0.8」、「処理時間(秒)」が「60」であって、前記「(a)」の処理条件を満たし且つ製造条件と共通する。
(e)したがって、引用文献1に記載された「(2)酸化被膜の除去」は、本件明細書に記載された「酸化被膜の除去処理工程」に相当する。
e 「エッチング処理工程」について
(a)本件明細書に記載された「エッチング処理工程」の処理条件(以下、単に「処理条件」という。)は、「表1の鋼No.Dを30g/L硫酸水溶液により処理する場合」、「活性態域」となる「-0.51V~-0.34V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲」において「処理時間を1~600秒の範囲で適宜調整し」(段落【0074】)又は「活性態域」となる「電流密度を0.01~10.00mA/cm2程度に制御」し、「処理時間を1~600秒の範囲」とし(段落【0079】を参照)、「処理温度」は「30~85℃」である(段落【0084】を参照)。
また、本件明細書の段落【0107】ないし【0108】に記載された「鋼No.」「D」に係る「試料No.」「7」の「エッチング処理工程」の「製造条件」(以下、単に「製造条件」という。)は、「処理液」が「30g/L硫酸水溶液」、「処理温度(℃)」が「55」、「電流密度(mA/cm2)」が「+0.8」、「処理時間(秒)」が「60」、「エッチング電位」が「活性領域」である。
(b)それに対して、引用文献1に記載された「(3)電解エッチング」は(段落[0049]ないし[0057]を参照)、「活性領域において電解エッチング処理を行う」ことで「表面に微細な凹凸が形成されたステンレス鋼」とするものであって(段落[0052]を参照)、「表1の鋼種Aを30g/L硫酸水溶液により処理する場合」、「活性態域に相当する」「-0.51V~-0.34V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲」において「処理時間を1~600秒の範囲」(段落[0053]を参照)又は「表1の鋼Aについて、30g/L硫酸水溶液中、55℃」で「+0.5~+7.5mA/cm2程度(好適には+0.5~+1.0mA/cm2程度)に調整」して「活性態域」とし「処理時間は、1~600秒の範囲」とする点(段落[0055]を参照)で前記「(a)」の処理条件を満たす。
(c)また、引用文献1の段落[0065]及び[0069]の[表2]に記載された、「鋼No.」「A」に係る「試料No.」「1」の「電解エッチング処理」の「製造条件」は、「鋼種Aについては、-0.51~-0.34V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲が活性態域」であるところ、「処理液」が「30g/L硫酸水溶液」、「処理温度(℃)」が「55」、「電位(V vsAg/AgCl)」が「-0.40」、「処理時間(秒)」が「60」であって、前記「(a)」の処理条件を満たす。
(d)また、引用文献1の段落[0076]の[表3]に記載された、「鋼No.」「A」に係る「試料No.」「25」の「電解エッチング処理」の「製造条件」は、「処理液」が「30g/L硫酸水溶液」、「処理温度(℃)」が「55」、「電流密度(mA/cm2)」が「+0.8」、「処理時間(秒)」が「60」、「電解電位」が「活性領域」であって、前記「(a)」の処理条件を満たし且つ製造条件と共通する。
(e)したがって、引用文献1に記載された「(3)電解エッチング」は、本件明細書に記載された「エッチング処理工程」に相当する。
f 「酸化性を有する溶液中での浸漬処理、または、酸化性を有する溶液中での素材クロム含有鋼板の不働態域における電解処理」(以下、「浸漬処理または電解処理」という。)について
(a)本件明細書の段落【0086】ないし【0095】に記載された浸漬処理または電解処理の処理条件(以下、単に「処理条件」という。)は、「エッチング処理時に形成されたスマット等の付着物を溶解(除去)する」ものであって(段落【0086】を参照)、「硝酸水溶液を使用する場合、硝酸の濃度は10~400g/L」(段落【0090】を参照)、「浸漬処理における処理時間」は、「1分以上」、「15分以下」(段落【0089】を参照)及び「酸化性を有する溶液中での浸漬処理における処理温度」は「30~60℃」であり(段落【0091】を参照)、「電解処理にあたっては、電位を、クロム含有鋼板が不動態化する電位域に調整」するものであって(段落【0092】を参照)、「50g/L硝酸水溶液を用いて後述する表1の鋼No.Dを処理する場合、電位:+0.40~+0.60V(vs.Ag/AgCl)の範囲」、「電解時間」は「1分以上」「15分以下」であり(段落【0093】を参照)、「電解処理における処理温度」は「30~70℃」である(段落【0094】を参照)。
(b)これに対して、引用文献1に記載された「(4)表面の安定化処理」は(段落[0058]ないし[0061]を参照)、「エッチング処理を施したステンレス鋼板」に施す(段落[0058]を参照)、「酸化性を有する溶液中での浸漬処理や、当該ステンレス鋼板が不働態化する電位域での電解処理」であって(段落[0060]を参照)、「硝酸水溶液を使用する場合、硝酸の濃度は10~400g/L」、「浸漬処理における処理時間」は「1分以上」「15分以下」、「浸漬処理における処理温度」は「30~60℃」であり(段落[0060]を参照)、「電解処理にあたっては、電位を、ステンレス鋼板が不動態化する電位域に調整」するものであって、「50g/L硝酸水溶液を用いて後述する表1の鋼Aを処理する場合、電位:+0.40~+0.80V(vs.Ag/AgCl)の範囲」、「電解時間」は「1分以上15分以下」、「電解処理における処理温度」は「30~70℃」である点(段落[0061]を参照)で、前記「(a)」の処理条件と同様である。
(c)また、引用文献1の段落[0069]の[表2]に記載された、「鋼No.」「A」に係る「試料No.」「1」の「表面の安定化処理」の「製造条件」は、「処理方法」が「浸漬処理」、「処理時間(分)」が「15」であり、段落[0066]によれば、「浸漬処理」は「処理温度:55℃」、「300g/L硝酸水溶液」であって、前記「(a)」の処理条件を満たす。
(d)また、引用文献1の段落[0076]の[表3]に記載された、「鋼No.」「A」に係る「試料No.」「25」の「表面の安定化処理」の「製造条件」は、「処理方法」が「浸漬処理」、「処理時間(分)」が「1」であり、段落[0074]によれば、「浸漬処理」は「処理温度:55℃」、「300g/L硝酸水溶液」であって、前記「(a)」の処理条件を満たす。
(e)したがって、引用文献1に記載された「(4)表面の安定化処理」は、本件明細書に記載された「酸化性を有する溶液中での浸漬処理、または、酸化性を有する溶液中での素材クロム含有鋼板の不働態域における電解処理」に相当する。
上述の「a」ないし「f」によれば、引用文献1に記載された引用発明1の「ステンレス鋼板」の成分組成及び製造方法は、本件発明1の「クロム含有鋼板」の成分組成及び製造方法と同様であるといえる。
よって、引用発明1の「ステンレス鋼板」の表面の「微細な凹凸形状」は、同様の成分組成及び製造方法で製造された、本件発明1の「クロム含有鋼板」の「凹凸構造」と同様に「該凸部の平均高さが20nm以上100nm以下であり、かつ該凸部間の平均間隔が20nm以上300nm以下である」事項を満たしている蓋然性が高いと言える。
したがって、相違点2は実質的な相違ではない。
(4)小括
したがって、本件発明1は、上記引用発明1及び引用文献2ないし4が示す周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
3 本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定したものであるから、本件発明1と同じ理由により当業者が容易に発明できたものということはできない。
第5 むすび
したがって、請求項1ないし請求項5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし請求項5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700784