特許異議申立
2024-700309
積層体および積層体の製造方法
- 審判番号
- 2024-700309
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-550870
- 登録番号
- 7355648
- 請求日
- 2024年04月03日
- 審決日
- 2024年10月29日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【権利者代理人】福岡 満
- 【権利者】東レKPフィルム株式会社
- 【権利者代理人】福岡 満
- 【異議申立人】北岡 弘章
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 田口 傑
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7355648号発明「積層体および積層体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7355648号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7355648号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)8月30日(優先権主張 平成30年9月25日)を国際出願日とするものであって、令和5年9月25日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和5年10月3日発行)がされ、その後、その特許について、令和6年4月3日に特許異議申立人北岡弘章(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
2 本件特許発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明14」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
フッ素フィルムの少なくとも片面に、1層または2層以上の金属層を積層した金属膜を有する積層体であって、
前記金属膜は、金属層として銅を主成分とする層(以下、銅層1という)を含み、
前記フッ素フィルムと前記金属膜の密着力が0.5N/mm以上であり、
前記フッ素フィルムと前記金属膜との界面で金属膜を剥離し、前記金属膜側の剥離面のX線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるフッ素原子が50atomic%以上であり、金属原子が4atomic%以下である、積層体。
【請求項2】
前記フッ素フィルムと前記金属膜との界面で金属膜を剥離し、前記金属膜側の剥離面のX線光電子分光法(XPS)による分析で検出される酸素原子が0.1atomic%以上3atomic%以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記フッ素フィルムと前記金属膜との界面で金属膜を剥離し、前記金属膜側の剥離面のX線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるC1sに帰属されるピークを100%とすると、結合状態がCFとなる割合が2.5%以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記銅層1は、平均結晶粒径が50nm以上200nm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記金属膜は、前記フッ素フィルムの側から下地金属層、および、前記銅層1の順に積層され、前記下地金属層と前記銅層1とが接している、請求項1から4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記下地金属層は、銅、ニッケル、チタン、およびそれらの少なくとも1種を含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記下地金属層は、厚みが1nm以上50nm以下である請求項5または6に記載の積層体。
【請求項8】
前記金属膜は、厚みが0.05μm以上20μm以下である、請求項1から7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
前記銅層1は、厚みが0.05μm以上3.0μm以下である、請求項1から8のいずれかに記載の積層体。
【請求項10】
前記金属膜は、フッ素フィルムと接していない面の表面粗さRaが0.01μm以上0.10μm以下である、請求項1から9のいずれかに記載の積層体。
【請求項11】
前記金属膜は、3層以上の金属層を積層した金属膜である、請求項1~10のいずれかに記載の積層体。
【請求項12】
前記金属膜は、金属層として銅を主成分とする層(以下、銅層2という)を含み、
前記銅層2は、一方の面が前記銅層1と接する、請求項1~11のいずれかに記載の積層体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の積層体の製造方法であって、
フッ素フィルムの少なくとも片面にスパッタリング法にて下地金属層を形成し、前記下地金属層上に真空蒸着法にて銅層1を形成する、積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれかに記載の積層体を用いたフッ素樹脂回路基板の製造方法であって、
積層体の銅層1上に電解めっきを用いて銅層2を形成して配線回路を形成する、フッ素樹脂回路基板の製造方法。」
3 申立理由の概要
申立人は、甲第1号証から甲第5号証(以下「甲1」~「甲5」という)を提出し、本件発明1は、甲1に記載された発明であり、あるいは、本件発明1~14は、甲1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~14に係る特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張する。
甲1:特開2016-40797号公報
甲2:特開2009-153089号公報
甲3:「Data Sheet RO3000○R(当審注:○Rは○の中にR) Series Circuit Materials RO3003TM、RO3006TM、RO3010TM、RO3035TM、High Frequency Laminates」、Rogers Corporation、2015年
甲4:特開平1-121353号公報
甲5:特開2016-87799号公報
4 当審の判断
(1)甲1に記載された発明
甲1の、特に【0017】、【0019】の記載に着目すると、次の高周波基板に係る「甲1発明」が記載されているといえる。
「高周波基材の両面に金属箔が貼り付けられた高周波基板であって、
高周波基材としては、絶縁性を有し、かつ、高周波特性に優れるもので、このような材料候補としては、液晶ポリマーやPTFE材等が適宜挙げられ、
金属箔は、導電性やコストメリットを考慮して銅箔が適宜使用される、
高周波基板。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「金属箔」は、「導電性やコストメリットを考慮して銅箔が適宜使用される」ものであり、本件発明1の「金属層として銅を主成分とする層(以下、銅層1という)を含」む「1層または2層以上の金属層を積層した金属膜」に相当する。
甲1発明の「高周波基材」は、「絶縁性を有し、かつ、高周波特性に優れるもので、このような材料候補としては、液晶ポリマーやPTFE材等が適宜挙げられ」るものであり、本件発明1の「フッ素フィルム」とは、「基材」という限りで一致する。
甲1発明の「高周波基板」は、高周波基材の両面に金属箔が貼り付けられた積層体でもあるから、本件発明1の「積層体」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「基板の少なくとも片面に、1層または2層以上の金属層を積層した金属膜を有する積層体であって、
前記金属膜は、金属層として銅を主成分とする層(以下、銅層1という)を含む、積層体。」で一致し、次の相違点1~3で相違する。
《相違点1》
「基材」に関し、本件発明1が「フッ素フィルム」であるのに対し、甲1発明は「絶縁性を有し、かつ、高周波特性に優れるもので、このような材料候補としては、液晶ポリマーやPTFE材等が適宜挙げられ」る「高周波基材」である点。
《相違点2》
本件発明1が「前記フッ素フィルムと前記金属膜の密着力が0.5N/mm以上であ」るのに対し、甲1発明の高周波基材と金属箔との密着力は特定されていない点。
《相違点3》
本件発明1が「前記フッ素フィルムと前記金属膜との界面で金属膜を剥離し、前記金属膜側の剥離面のX線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるフッ素原子が50atomic%以上であり、金属原子が4atomic%以下である」のに対し、甲1発明はそうであるか不明な点。
イ 事案に鑑み、相違点3より検討する。
(ア)甲1には、高周波基材から金属箔を剥離した際の、金属箔の剥離面の性状に着目した記載は無く、甲1発明は「前記フッ素フィルムと前記金属膜との界面で金属膜を剥離し、前記金属膜側の剥離面のX線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるフッ素原子が50atomic%以上であり、金属原子が4atomic%以下である」ものではない。
よって、相違点3は実質的な相違点である。
また、甲1発明において、金属箔側の剥離面を「X線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるフッ素原子が50atomic%以上であり、金属原子が4atomic%以下である」ものとする動機付けはなく、本件発明1の相違点3に係る構成は、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)この点について、申立人は、甲1に記載(【0034】)の「ロジャース製RO3003」の金属膜側の剥離面のX線光電子分光法(XPS)による分析結果を示し、基材から金属箔を剥離した際の金属箔側の剥離面が、「X線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるフッ素原子が50atomic%以上であり、金属原子が4atomic%以下である」ことは技術常識である旨主張する(特許異議申立書17頁6行~18頁4行)。
しかし、金属箔側の剥離面のX線光電子分光法(XPS)により検出される原子の割合は、基材の組成や表面処理、金属箔の組成や形成方法に加え、基材と金属箔の組み合わせや貼り合わせ態様等により異なることは明らかであり、甲1発明の高周波基材から金属箔を剥離した際、金属箔側の剥離面が「X線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるフッ素原子が50atomic%以上であり、金属原子が4atomic%以下である」とは必ずしもいえない。
また、他に、このことが技術常識であるとする証拠もない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)甲1発明の高周波基材と金属箔の組み合わせごと、「ロジャース製RO3003」に換えるとしても、以下のように相違点3は実質的な相違点であり、当業者が容易に想到し得たものではない。
甲3は、本件特許の優先日前の2015年の、ロジャース社の高周波積層板「RO3003」のデータシートである。このデータシートには、高周波積層板「RO3003」は、セラミック充填PTFE複合材料に銅箔を積層したものであることが記載されている(甲3)。
申立人は、特許異議申立書(17頁【表1】)において、ロジャース社製RO3003(以下「申立人分析製品」という。)から銅箔を剥がした際の、銅箔側の剥離面の「X線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるフッ素原子が50atomic%以上であり、金属原子が4atomic%以下である」としている。
しかし、甲3のデータシートにおいて、銅箔を剥離した後の銅箔側の剥離面については記載も着目もされていない。そして、甲3のデータシートに掲載された時点(2015年)から、申立人分析製品の入手時点までの間で、高周波積層板「RO3003」の仕様変更が行われた可能性は否定できず、データシートに記載されている点だけではなく記載されていない点も含めて仕様変更がなかったことを示す証拠は提出されていない。したがって、商品名及び品番が同じであるとしても、甲3のデータシートに掲載された高周波積層板「RO3003」における銅箔側の剥離面が、申立人が銅箔側の剥離面を分析した申立人分析製品と同一の表面性状を有していたものと直ちに認めることはできない。
そのため、本件特許の優先日前の時点で、銅箔側の剥離面の「X線光電子分光法(XPS)による分析で検出されるフッ素原子が50atomic%以上であり、金属原子が4atomic%以下である」ことを示す証拠はなく、相違点3は実質的な相違点であり、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 以上より、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2~14について
本件発明1が、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項を全て備える本件発明2~14も、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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