特許異議申立
2022-700679
樹脂組成物、積層板及び多層プリント配線板
- 審判番号
- 2022-700679
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-528553
- 登録番号
- 7003918
- 請求日
- 2022年07月20日
- 審決日
- 2023年03月31日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社レゾナック
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】平野 裕之
- 【異議申立人】斎藤 敏子
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 藤代 亮
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7003918号発明「樹脂組成物、積層板及び多層プリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7003918号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。
特許第7003918号の請求項1及び4ないし9に係る特許を維持する。
特許第7003918号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7003918号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)7月18日(優先権主張 2016年(平成28年)7月19日 日本国)を国際出願日として出願人日立化成株式会社により出願されたものであって、令和4年1月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行された。その後、令和4年7月20日に、特許異議申立人である斎藤敏子(以下「申立人」という。)により、「特許第7003918号の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた(以下、当該申立てを「申立て」という。)。
なお、令和5年1月1日に、出願人が株式会社レゾナック(以下、「特許権者」という。)に名義変更された。
申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和4年10月20日付け 取消理由通知
同年12月22日 意見書(特許権者)の提出及び訂正の請求
令和5年 2月27日 意見書(申立人)の提出
第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
特許権者は、令和4年10月20日付け取消理由通知書において、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和4年12月22日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1~9について訂正することを求めた(以下、当該訂正請求書により請求された訂正を「本件訂正」という。また、設定登録時の本件特許の明細書を「本件明細書」という。)。
本件訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は当審にて付与した。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「樹脂組成物であり、」とあるのを、「プリント配線板用の樹脂組成物(但し、導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。)であり、」と訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「、フッ素樹脂系の粒子、及び」とあるのを、「、及び」と訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「を含む、樹脂組成物。」とあるのを、「を含み、前記炭化水素基が下記式(II)で表される基である、樹脂組成物。
【化12】
[図:0001399369000001.jpg]
[式(II)中、R2及びR3は各々独立に炭素数4~50のアルキレン基を示し、R4は炭素数4~50のアルキル基を示し、R5は炭素数2~50のアルキル基を示す。]」と訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項」とあるのを、「請求項1」に訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか1項」とあるのを、「請求項1又は4」に訂正する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6」とあるのを、「請求項1、4、5及び6」に訂正する。
ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7」とあるのを、「請求項1、4、5、6及び7」に訂正する。
コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~7」とあるのを、「請求項1、4、5、6及び7」に訂正する。
本件訂正前の請求項1~9は、請求項2~9が、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~9について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「樹脂組成物」を「プリント配線板用の樹脂組成物(但し、導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。)」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項1における「プリント配線板用」については、段落【0008】、【0146】、【0201】において、プリント配線板に関する記載があることから、「プリント配線板用の」「樹脂組成物」は本件明細書に開示されているものである。
そして、「樹脂組成物」から「導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。」ことによって、新たな技術的事項が追加されることはないし、導電性粒子を含む異方性導電性接着剤でない樹脂組成物が本件明細書には開示されている(実施例の樹脂組成物)。
よって、訂正事項1は、本件明細書に記載された事項であって、新規事項の追加に該当しない。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1における「熱可塑性樹脂」として複数あげられていたものの中から、「フッ素樹脂系粒子」の選択肢を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、「フッ素樹脂系粒子」の選択肢を削除することは、択一的な選択肢の一部を削除するものであるから、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、マレイミド化合物における「炭化水素基」を「下記式(II)で表される基」(化学式は省略する。)に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、マレイミド化合物の「炭化水素基」が「式(II)で表される基」であることは、訂正前の請求項3、本件明細書の段落【0011】~【0012】、【0050】~【0054】、実施例に記載されているから、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正前の請求項2を削除するものであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正前の請求項3を削除するものであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
カ 訂正事項6
訂正事項6は、請求項4が引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正前の請求項4がもともと引用していた請求項のうち、上記エ、オにより削除された訂正前の請求項を除くものであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
キ 訂正事項7
訂正事項7は、請求項5が引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正前の請求項5がもともと引用していた請求項のうち、上記エ、オにより削除された訂正前の請求項を除くものであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ク 訂正事項8
訂正事項8は、請求項7が引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正前の請求項7がもともと引用していた請求項のうち、上記エ、オにより削除された訂正前の請求項を除くものであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ケ 訂正事項9
訂正事項9は、請求項8が引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正前の請求項8がもともと引用していた請求項のうち、上記エ、オにより削除された訂正前の請求項を除くものであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
コ 訂正事項10
訂正事項10は、請求項9が引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正前の請求項9がもともと引用していた請求項のうち、上記エ、オにより削除された訂正前の請求項を除くものであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
3 独立特許要件の規定について
本件においては、本件訂正前の請求項1~9について特許異議申立がされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 小括
よって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~請求項9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらをまとめて、「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(A)(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物と、熱可塑性樹脂と、を含有するプリント配線板用の樹脂組成物(但し、導電性粒子を含有する異方性伝導性接着剤を除く。)であり、
前記熱可塑性樹脂が、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリフェニレンエーテル、及びポリスチレン微粒子から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記炭化水素基が下記式(II)で表される基である、樹脂組成物。
【化12】
[図:0001399369000002.jpg]
[式(II)中、R2及びR3は各々独立に炭素数4~50のアルキレン基を示し、R4は炭素数4~50のアルキル基を示し、R5は炭素数2~50のアルキル基を示す。]
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基が、下記式(I)で表される基である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
[図:0001399369000003.jpg]
[式(1)中、R1は4価の有機基を示す。]
【請求項5】
マレイミド基が芳香環に結合した構造を有する(B)芳香族マレイミド化合物を更に含有する、請求項1又は4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)芳香族マレイミド化合物が下記式(VI)で表される化合物である、請求項5に記載の樹脂組成物。
【化3】
[図:0001399369000004.jpg]
[式(VI)中、A4は下記式、(VII)、(VIII)、(IX)又は(X)で表される残基を示し、A5は下記式(XI)で表される残基を示す。]
【化4】
[図:0001399369000005.jpg]
[式(VII)中、R10は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。]
【化5】
[図:0001399369000006.jpg]
[式(VIII)中、R11及びR12は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A6は炭素数1~5のアルキレン基若しくはアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニル基、単結合又は下記式(VIII-1)で表される残基を示す。]
【化6】
[図:0001399369000007.jpg]
[式(VIII-1)中、R13及びR14は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A7は炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニル基又は単結合を示す。]
【化7】
[図:0001399369000008.jpg]
[式(IX)中、iは1~10の整数である。]
【化8】
[図:0001399369000009.jpg]
[化(X)中、R15及びR16は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を示し、jは1~8の整数である。
【化9】
[図:0001399369000010.jpg]
[式(XI)中、R17及びR18は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数1~5のアルコキシ基、水素基又はハロゲン原子を示し、A8は炭素数1~5のアルキレン基若しくはアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニル基、フルオレニレン基、単結合、下記式(XI-1)で表される残基又は下記式(XI-2)で表される残基を示す。]
【化10】
[図:0001399369000011.jpg]
[式(XI-1)中、R19及びR20は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A9は炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、m-フェニレンジイソプロピリデン基、p-フェニレンジイソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニル基又は単結合を示す。]
【化11】
[図:0001399369000012.jpg]
[式(XI-2)中、R21は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A10及びA11は各々独立に、炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニル基又は単結合を示す。]
【請求項7】
前記(A)(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物の重量平均分子量が、500~10000である、請求項1、4、5及び6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1、4、5、6及び7のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層と、導体層とを有する、積層板。
【請求項9】
請求項1、4、5、6及び7のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層と、回路層とを備える、多層プリント配線板。」
第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下「申立書」ということがある。)の申立理由
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1~4、7係る発明は、甲第1号証又は甲第5号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、甲第1~5号証における記載を参酌することにより、甲第1号証又は甲第5号証に記載された発明からその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由(サポート要件)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
記
本件の請求項1~9に係る発明が、マレイミド化合物の含有量及び熱可塑性樹脂の含有量に係る特定がないものであるところ、それらの含有量が如何なる場合であっても、上記課題を解決することができると認めるに足りる具体的な根拠を、本件明細書の記載及び本件特許出願時の技術常識から見出すことができない。
2 証拠方法
(1)申立人が、申立書に添付した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2015-193725号公報
甲第2号証:国際公開第2014/181456号
甲第3号証:大和化成工業株式会社、ビスマレイミド類、[online]、[令和4年7月1日検索]、インターネット <https://www.daiwakasei.jp/products_bismaleimide.html>
甲第4号証:新保 靖行、“超高多層基板の開発”、OKIテクニカルレビュー、2010年4月、第216号 Vol.77、No.1、p.28-31、写し
甲第5号証:国際公開第2015/048575号及び抄訳文
(以下、甲第1号証~甲第5号証をそれぞれ「甲1」~「甲5」という。)
(2)申立人が、令和5年2月27日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。
参考資料1:特開2016-017091号公報
参考資料2:特開2008-133454号公報
(以下、参考資料1、参考資料2をそれぞれ「参1」、「参2」という。)
3 当審が通知した令和4年10月20日付け取消理由通知の理由
(1)申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性欠如)
本件特許の請求項1ないし4、7ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲5に基づく新規性・進歩性欠如)
本件特許の請求項1ないし4、7ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件欠如)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
記
ア 本件訂正前の請求項1~9に係る発明が解決しようとする課題は、「優れた高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)、低熱膨張特性、導体との接着性を備える樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いた、外観及び取扱性が良好な積層板及び多層プリント配線板を提供すること」であると認められるところ、本件訂正前の請求項1~9に係る発明が、高周波特性、低熱膨張率、導体との接着性、耐熱性及び低吸湿性の観点から分子構造を三次元化し易く、ポリマーの自由体積を増大化させて低密度化し易くする構造を有さない場合であっても、上記課題を解決することができると認めるに足りる具体的な根拠を、本件明細書の記載及び本件特許出願時の技術常識から見出すことができない。
イ 本件訂正前の請求項1~9に係る発明が、マレイミド化合物の含有量及び熱可塑性樹脂の含有量に係る特定がないものであるところ、それらの含有量が如何なる場合であっても、上記課題を解決することができると認めるに足りる具体的な根拠を、本件明細書の記載及び本件特許出願時の技術常識から見出すことができない。
第5 当審の判断
最初に、上記「第4」の「1」の「(1)申立理由1」、「(2)申立理由2」及び「(3)申立理由3」と、同「3」の「(1)取消理由1」、「(2)取消理由2」及び「(3)取消理由3」「イ」とは、甲1に基づく新規性、進歩性欠如によるもの、甲5に基づく新規性、進歩性欠如によるもの、サポート要件によるもので同旨であることから、当審が通知した取消理由を軸に以下検討する。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性欠如)について
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
(A)ダイマー酸に由来する炭化水素基を有するビスマレイミド化合物と、(B)(メタ)アクリレート化合物と、(C)ラジカル重合開始剤と、(D)導電性粒子とを含有する
ことを特徴とする異方性導電性接着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の異方性導電性接着剤において、
前記(A)ダイマー酸に由来する炭化水素基を有するビスマレイミド化合物は、
少なくともダイマー酸から誘導されたジアミンとマレイン酸無水物とを反応させて得られる化合物である
ことを特徴とする異方性導電性接着剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の異方性導電性接着剤において、
前記(A)ダイマー酸に由来する炭化水素基を有するビスマレイミド化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である
ことを特徴とする異方性導電性接着剤。
【化1】
[図:0001399369000013.jpg]
(前記一般式(1)中、Xは2価の有機基を示し、nは0~10の整数を示す。)
・・・
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の異方性導電性接着剤において、
(F)熱可塑性エラストマーをさらに含有する
ことを特徴とする異方性導電性接着剤。
・・・
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の異方性導電性接着剤を用いて電極同士を接続したことを特徴とするプリント配線基板。」
「【0001】
本発明は、配線基板同士の接続や、電子部品と配線基板との接続に用いる異方性導電性接着剤およびそれを用いたプリント配線基板に関する。」
「【0014】
なお、本発明において、異方性導電性接着剤とは、所定値以上の熱および所定値以上の圧力をかけた箇所では熱圧着方向(厚み方向)に導電性を持つようになるが、それ以外の箇所では隣接電極間の絶縁性を有する異方性導電性接着剤層を形成できる接着剤のことをいう。・・・」
「【0018】
[(A)成分]
本発明に用いる(A)成分は、ダイマー酸に由来する炭化水素基(-C36H72-基)を有するビスマレイミド化合物である。この(A)成分としては、少なくともダイマー酸から誘導されたジアミンとマレイン酸無水物とを反応させて得られる化合物であって、これに鎖長延長成分としてテトラカルボン酸無水物およびトリカルボン酸無水物およびジアミン化合物などを任意の割合で含む混合物から生成される化合物を含む。このような化合物に連結基が含まれる場合、その種類は特に限定されない。これらの連結基としては、イミド基、アミド基、エーテル基、エステル基などが挙げられ、これらを複数組み合わせて含んでいてもよい。この(A)成分としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0019】
【化2】
[図:0001399369000014.jpg]
【0020】
前記一般式(1)において、Xは2価の有機基を示し、nは0~10の整数を示す。
また、Xとしては、イミド構造を有する2価の有機基であることが好ましく、下記構造式(X1)~(X3)で表される有機基が挙げられる。
【0021】
【化3】
[図:0001399369000015.jpg]
【0022】
【化4】
[図:0001399369000016.jpg]
【0023】
【化5】
[図:0001399369000017.jpg]
【0024】
前記(A)成分の平均分子量は、流動性などの物性の観点から、500~10000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。」
「【0040】
[(F)成分]
本発明に用いる(F)熱可塑性エラストマーとしては、公知の熱可塑性エラストマーを適宜用いることができる。この(F)成分により、得られる異方性導電性接着剤の接着強度や耐湿性を更に向上できる。このような熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、フェノキシ樹脂エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの中でも、スチレン系熱可塑性エラストマー、フェノキシ樹脂エラストマーが好ましい。・・・」
「【0043】
次に、本発明のプリント配線基板について説明する。
本発明のプリント配線基板は、前述した本発明の異方性導電性接着剤を用いて電極同士を接続したことを特徴とするものである。具体的には、次のようにして、電極同士を接続することで、本発明のプリント配線基板を製造できる。ここでは、ペースト状の異方性導電性接着剤を用いて、配線基板および電子部品の電極同士を接続する場合を例に挙げて説明する。
このように配線基板および電子部品の電極同士を接続する方法としては、前記配線基板上に前記異方性導電性接着剤を塗布する塗布工程と、前記異方性導電性接着剤上に前記電子部品を配置し、前記はんだ粉末の融点よりも1℃以上(好ましくは10℃以上)高い温度で、前記電子部品を前記配線基板に熱圧着する熱圧着工程と、を備える方法を採用できる。
ここで、電子部品としては、チップ、パッケージ部品などの他に、配線基板を用いてもよい。配線基板としては、フレキシブル性を有するフレキ基板、フレキシブル性を有しないリジット基板のいずれも用いることができる。さらに、電子部品としてフレキ基板を用いる場合には、2つの配線基板(リジット基板)とそれぞれ接続を図ることで、リジット基板同士をフレキ基板を介して電気的に接続することもできる。また、フレキ基板同士をフレキ基板を介して電気的に接続しても構わない。
・・・
【0045】
熱圧着工程においては、前記異方性導電性接着剤上に前記電子部品を配置し、前記はんだ粉末の融点よりも1℃以上高い温度で、前記電子部品を前記配線基板に熱圧着する。
熱圧着時の温度が、前記はんだ粉末の融点よりも1℃以上高いという条件を満たさない場合には、はんだを十分に溶融させることができず、電子部品および配線基板の間に十分なはんだ接合を形成できず、電子部品および配線基板の間の導電性が不十分となる。
熱圧着時の温度は、130℃以上200℃以下とすることが好ましく、140℃以上180℃以下とすることがより好ましい。・・・」
「【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
マレイミド化合物A:長鎖アルキルビスマレイミド(一般式(1)で表される化合物であって、nが0であるもの)、商品名「BMI689」、DESIGNER MOLECULES INC.社製
マレイミド化合物B:長鎖アルキルビスマレイミド(一般式(1)で表される化合物であって、Xが構造式(X1)で表される基であるもの、分子量は約1500)、商品名「BMI1500」、DESIGNER MOLECULES INC.社製
マレイミド化合物C:長鎖アルキルビスマレイミド(一般式(1)で表される化合物であって、Xが構造式(X2)で表される基であるもの、分子量は約1700)、商品名「BMI1700」、DESIGNER MOLECULES INC.社製
マレイミド化合物D:長鎖アルキルビスマレイミド(一般式(1)で表される化合物であって、Xが構造式(X3)で表される基であるもの、分子量は約3000)、商品名「BMI3000」、DESIGNER MOLECULES INC.社製
((B)成分)
(メタ)アクリレート化合物A:2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、商品名「ニューフロンティア PGA」、第一工業製薬社製
(メタ)アクリレート化合物B:テトラヒドロフルフリルアクリレート、商品名「ビスコート♯150」、大阪有機化学工業社製
(メタ)アクリレート化合物C:エポキシアクリレート樹脂、商品名「ネオポール 8351」、日本ユピカ社製
(メタ)アクリレート化合物D:ウレタンアクリレート樹脂、商品名「UN6060P」、根上工業社製
((C)成分)
ラジカル重合開始剤:1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、商品名「パーオクタO」、日油社製
((D)成分)
はんだ粉末:平均粒子径は12μm、はんだの融点は139℃、はんだの組成は42Sn/58Bi
((E)成分)
活性剤A:グルタル酸
活性剤B:マロン酸
((F)成分)
熱可塑性エラストマーA:スチレン系熱可塑性エラストマー、商品名「FG1901GT-1000」、クレイトンポリマー社製
熱可塑性エラストマーB:フェノキシ樹脂エラストマー、商品名「フェノトートYP-70」、新日鐵住金化学社製
((G)成分)
チクソ剤A: アモルファスシリカ、商品名「AEROSIL R974」、日本アエロジル社製
チクソ剤B: アクリル系樹脂、商品名「スタフィロイド AC-3816N」、アイカ工業社製
チクソ剤C: アクリル系樹脂、商品名「スタフィロイド AC-4030」、アイカ工業社製
チクソ剤D: シリカ含有アクリル系樹脂、商品名「メタブレン J-5800」、三菱レイヨン社製
(他の成分)
マレイミド化合物E:N-シクロヘキシルマレイミド、商品名「イミレックス-C」、日本触媒社製
マレイミド化合物F:N-フェニルマレイミド、商品名「イミレックス-P」、日本触媒社製
マレイミド化合物G:4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、商品名「BMI」、ケイ・アイ化成社製
【0052】
[実施例1]
マレイミド化合物A20質量部、(メタ)アクリレート化合物A20質量部、(メタ)アクリレート化合物B15質量部および活性剤A2質量部を容器に投入する(なお、必要に応じて、予め、マレイミド化合物Aなどを(メタ)アクリレート化合物Aなどに溶解させてもよい)。その後、チクソ剤A2質量部を容器に投入し、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールを用いて室温にて混合し分散させて樹脂組成物を得た。
その後、得られた樹脂組成物59質量部に対し、ラジカル重合開始剤3質量部およびはんだ粉末22質量部を容器に投入し、混練機にて2時間混合することで異方性導電性接着剤を調製した。
次に、リジット基板(ライン幅:100μm、ピッチ:200μm、銅厚:18μm、電極:銅電極に水溶性プリフラックス処理(タムラ製作所社製))上に、得られた異方性導電性ペーストをディスペンサーにて塗布した(厚み:0.2mm)。そして、塗布後の異方性導電性接着剤上に、フレキ基板(ライン幅:100μm、ピッチ:200μm、銅厚:12μm、電極:銅電極に金メッキ処理(Cu/Ni/Au))を配置し、熱圧着装置(アドバンセル社製)を用いて、温度150℃、圧力1.0MPa、圧着時間6秒の条件で、フレキ基板をリジット基板に熱圧着して、フレキ基板付のリジット基板(評価基板)を作製した。
【0053】
[実施例2~13および比較例1~4]
表1および表2に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、異方性導電性ペーストを得た。
また、得られた異方性導電性ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして、フレキ基板付のリジット基板(評価基板)を作製した。
・・・
【0055】
【表1】
[図:0001399369000018.jpg]
【0056】
【表2】
[図:0001399369000019.jpg]
【0057】
表1および表2に示す結果からも明らかなように、本発明の異方性導電性ペーストを用いた場合(実施例1~13)には、熱圧着時の温度が低温の場合においても、十分な接着強度を確保でき、しかも十分な硬化性や絶縁性も確保できることが確認された。
これに対し、(A)成分を含有しないものを用いた場合(比較例1~4)には、熱圧着時の温度が低温の場合において、接着強度を確保できず、また、絶縁性や耐湿性に劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の異方性導電性接着剤は、配線基板同士(例えば、フレキ基板とリジット基板)を接続する技術や、電子部品と配線基板とを接続する技術として好適に用いることができる。」
(イ)甲1発明
甲1の実施例5に着目すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
「マレイミド化合物B(長鎖アルキルビスマレイミド(一般式(1)で表される化合物であって、
[図:0001399369000020.jpg]
Xが構造式(X1)
[図:0001399369000021.jpg]
で表される基であるもの、分子量は約1500)、商品名「BMI1500」、DESIGNER MOLECULES INC.社製)、(メタ)アクリレート化合物A(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、商品名「ニューフロンティア PGA」、第一工業製薬社製)、(メタ)アクリレート化合物B(テトラヒドロフルフリルアクリレート、商品名「ビスコート♯150」、大阪有機化学工業社製)、ラジカル重合開始剤(1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、商品名「パーオクタO」、日油社製)、はんだ粉末(平均粒子径は12μm、はんだの融点は139℃、はんだの組成は42Sn/58Bi)、活性剤A(グルタン酸)、熱可塑性エラストマーA(スチレン系熱可塑性エラストマー、商品名「FG1901GT-1000」、クレイトンポリマー社製)、チクソ剤A(アモルファスシリカ、商品名「AEROSIL R974」、日本アエロジル社製)を含む異方性導電性ペースト。」(以下、「甲1発明」という。)
(当審注:以降、一般式(1)、構造式(X1)は省略する。)
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「マレイミド化合物B」は、「長鎖アルキルビスマレイミドである一般式(1)で表される化合物であって、Xが構造式(X1)で表される基であるもの」だから、本件特許発明1の「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物」に相当する。
そして、甲1発明の「マレイミド化合物B」は、「長鎖アルキルビスマレイミド(一般式(1)で表される化合物であって、Xが構造式(X1)で表される基であるもの、分子量は約1500)」であり、該一般式(1)で表される化合物がダイマー酸に由来する炭化水素基(-C36H72-基)を有することから、甲1発明の「炭化水素基(-C36H72-基)」は、本件発明1の「前記炭化水素基が下記式(II)で表される基である
【化12】
[図:0001399369000022.jpg]
」ことを含むものである(当審注:以降、化学式は省略する。)。
そして、甲1発明の「熱可塑性エラストマーA」は「スチレン系熱可塑性エラストマー」であるから、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」が「スチレン系エラストマー」であることに相当する。
また、甲1発明の「異方性導電性ペースト」と、本件特許発明1の「樹脂組成物」とは、両者が「樹脂組成物」である限りにおいて一致する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物と、熱可塑性樹脂と、を含有する樹脂組成物であり、
前記熱可塑性樹脂が、スチレン系エラストマーを含み、
前記炭化水素基が下記式(II)で表される基である、樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
樹脂組成物の用途が、本件特許発明1は、「プリント配線板用」である、のに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「(但し、導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。)」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点1-2から検討する。
本件特許発明1では、樹脂組成物が「(但し、導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。)」ことが特定されているのに対し、甲1発明では、樹脂組成物が「異方性導電性ペースト」であることから、上記相違点1-2は、この点において実質的な相違点となる。
よって、本件特許発明1は甲1に記載されたものではない。
この点についてさらに検討するに、甲1の段落【0014】によれば、異方性導電性接着剤とは、所定値以上の熱および所定値以上の圧力をかけた箇所では熱圧着方向(厚み方向)に導電性を持つようになるが、それ以外の箇所では隣接電極間の絶縁性を有する異方性導電性接着剤を形成できる接着剤のことをいうと記載されていることから、甲1発明の異方性導電性ペースト、つまり異方性導電性接着剤がはんだ粉末を有することにより、上述の異方性導電性ペーストにおける絶縁性と導電性の機能を有することが理解できる。
そうすると、甲1発明の異方性導電性ペーストには、はんだ粉末という導電性粒子を含有することが不可欠なものであって、導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除くことは動機付けられていないものであるから、本件特許発明1の「(但し、導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。)」ことにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
してみると、甲1発明において、「プリント配線基板の」樹脂組成物まではいえたとしても、はんだ粉末(導電性粒子)を含有する異方性導電性ペーストである甲1発明から「導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く」ことは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、「優れた高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)を備え、かつ、低熱膨張特性、導体との接着性をも高い水準で備える樹脂組成物、並びに、該樹脂組成物を用いて製造される積層板及び多層プリント配線板を提供できる」(【0026】)という効果を奏するものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。さらに、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件特許発明4、7~9について
本件特許発明4、7~9は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、これらの発明も、本件特許発明1と同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張について
申立人は、令和5年2月27日に提出された意見書において、以下のとおり主張する。
特許権者は『「導電性粒子」を含有する樹脂組成物(当審注:甲1発明に相当する)では、本件特許発明の課題である高周波領域における低比誘電率、低誘電正接を達成することはできない』と意見書で主張するものの、「プリント配線板」用の樹脂組成物に求められる特性を満たすよう、高周波領域における低比誘電率、低誘電正接を達成することができない成分である「導電性粒子」を樹脂組成物の成分から除くことは当業者が容易になし得ることであること
そこで、検討する。
甲1発明は、異方性導電性ペースト、つまり異方性導電性接着剤に関するものであるところ、該異方性導電性接着剤については、上記「(2)」「イ」に示したように、異方性導電性接着剤が導電性粒子を含有することにより、所定値以上の熱および所定値以上の圧力をかけた箇所では熱圧着方向(厚み方向)に導電性を持つようになるが、それ以外の箇所では隣接電極間の絶縁性を有することが甲1の段落【0014】には記載されており、異方性導電性接着剤としての機能を有するには、導電性粒子の存在は欠かすことのできないものである。
そうすると、異方性導電性ペースト(異方性導電性接着剤)から、導電性粒子を除くことが動機付けられているとはいえないし、当業者にとって通常想定し得ないことと認められる。
よって、当該主張は採用できない。
2 取消理由2(甲5に基づく新規性・進歩性欠如)について
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲5に記載された事項及び甲5発明
(ア)甲5に記載された事項
甲5には、以下の事項が記載されている(当審注:英文の後の()内に和訳を付与した。)。
「CLAIMS
1. A curable composition comprising:
a) at least one low dielectric constant, low dissipation factor resin; and
b) at least one compound selected from the group consisting of: adhesion promoters, cure catalysts, inhibitors, fillers, fire retardants, and reactive diluents.
2. The composition of claim 1, wherein the at least one low dielectric constant, low dissipation factor resin comprises a maleimide-termmated polyimide.
3. The composition of claim 2, wherein the maleimide-terminated polyimide is selected from the group consisting of:
[図:0001399369000023.jpg]
[図:0001399369000024.jpg]
wherein
the value of m is an interger from 50-1000; and
the value of n is an interger from 1-10.
・・・
14. The composition of claim 1, wherein the at least one low dielectric constant, low dissipation factor resin comprises at least one compound selected from Formulae X-XVI:
[図:0001399369000025.jpg]
[図:0001399369000026.jpg]
wherein, R1 is H, methyl, alkyl, alkenyl, cycloalkenyl, cycloalkyl, heterocyclic, aryl, or heteroaryl, and
R is independently substituted or unsubstituted aliphatic, aromatic, heteroaromatic, siloxane, unsaturated hydrocarbon, polyester, polyamide,
or polyurethane moieties.
・・・
18. The composition of claim 2, wherein the filler is a perfluorinated hydrocarbon.
19. The composition of claim 14, wherein the perfluorinated hydrocarbon is a
polytetrafluoroethylene, having the structural formula:
[図:0001399369000027.jpg]
where n=500 to 10,000.
・・・
22. A film comprising the composition of any of claims 1-19.
23. The film of claim 22, wherein the film has a low dielectric constant and a low dissipation factor.
・・・
32. A flexible copper clad laminate constructed with the composition of any of claims 1-19.
33. The flexible copper clad laminates of claim 32, wherein the composition has a low dielectric constant and a low dissipation factor.
・・・」
(特許請求の範囲
[請求項1]
a)少なくとも1つの低誘電率、低誘電正接の樹脂、及び
b)接着促進剤、硬化触媒、阻害剤、充填剤、難燃剤及び反応性希釈剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物
を含む硬化性組成物。
[請求項2]
少なくとも1つの低誘電率、低誘電正接樹脂が、マレイミド末端ポリイミドを含む、請求項1に記載の組成物。
[請求項3]
マレイミド末端ポリイミドが、以下からなる群
(化学式は省略する。)
(mの値は50~1000の整数であり、nの値は1~10の整数である。)
から選択される、請求項2に記載の組成物。
・・・
[請求項14]
少なくとも1つの低誘電率、低誘電正接樹脂が、式X-XVIから選択される少なくとも1種の化合物を含む:
(化学式は省略する。)
R1は、H、メチル、アルキル、アルケニル、シクロアルケニル、シクロアルキル、複素環、アリール、またはヘテロアリールであり、そしてRは、独立して、置換又は非置換の脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、シロキサン、不飽和炭化水素、ポリエステル、ポリアミド、又はポリウレタン部分である、請求項1に記載の組成物。
・・・
[請求項18]
充填剤が過フッ素化炭化水素である、請求項2に記載の組成物。
[請求項19]
過フッ素化炭化水素が下記構造式
(構造式は省略する。)
n=500~10,000
を有するポリテトラフルオロエチレンである、請求項14に記載の組成物。
・・・
[請求項22]
請求項1~19のいずれか1項に記載の組成物を含むフィルム。
[請求項23]
前記フィルムは低誘電率および低誘電正接を有する、請求項22に記載のフィルム。
・・・
[請求項32]
請求項1~19のいずれか1項に記載の組成物で構成されたフレキシブル銅張積層板。
[請求項33]
組成物が低誘電率および低誘電正接を有する、請求項32に記載のフレキシブル銅張積層板。
・・・)
「[0021] Fluoropolymers are compounds known to have some of the lowest dielectric constants and dissipations factors. However, it is very difficult to get these compounds to adhere to other materials. The dielectric constant of polytetrafiuoroethylene (PTFE; Teflon(R)) is approximately 2.1 and the dissipation factor is approximately 0.0002 over a wide frequency range. The glass transition temperature (Tg) of PTFE is approximately 115℃, and the coefficient of thermal expansion (CTE) is approximately 120. PTFE also has a very good flammability rating and is a self-extinguishing material. The formula of PTFE is shown below:
Poly(l,1,2,2-tetrafluoroethylene)
[図:0001399369000028.jpg]
where n=500 to 10,000
[0022] The maleimide-terminated polyimides of the invention have very low surface energy and are very compatible with PTFE. In fact, maleimide-terminated polyimides will wet PTFE. Therefore, PTFE can be used as a filler in many compositions to enhance the properties.」
([0021] フルオロポリマーは、誘電率と誘電正接が最も低いことが知られている化合物である。ただし、これらの化合物を他の材料に付着させることは非常に困難である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;テフロン(R))の誘電率は約2.1であり、誘電正接は広い周波数範囲で約0.0002である。PTFEのガラス転移温度(Tg)は約115℃、熱膨張係数(CTE)は約120である。PTFEは非常に優れた可燃性定格を備えており、自己消化性の材料でもある。PTFEの式を以下に示す。
ポリ(1,1,2,2-テトラフルオロエチレン)
(化学式は省略する。)
n=500~10,000
[0022] 本発明のマレイミド末端ポリイミドは、表面エネルギーが非常に低く、PTFEと非常に適合性がある。実際、マレイミドで終端されたポリイミドはPTFEを濡らす。したがって、PTFEを多くの組成物のフィラーとして使用して、特性を向上させることができる。
なお、原文の「丸囲いのR」での表記は、「(R)」で代用して記載した。以下、同様。)
「[0024] The use of the maleimide-terminated polyimides of the invention, either alone or in combination with the other described additives, gives very good performance films that are ideal for a wide variety of electronics packaging applications. These electronics applications include but are not limited to, flexible copper clad laminates, composite packaging, lithium-ion batteries construction, fuel cells and their construction, conformal coatings applications, die-attach pastes and film applications.」
([0024] 本発明のマレイミド末端ポリイミドを単独で、又は他の記載された添加剤と組み合わせて使用すると、多種多様な電子パッケージ用途に理想的な非常に優れた性能のフィルムが得られる。これらの電子機器の用途には、フレキシブル銅張積層板、複合パッケージ、リチウムイオン電池構造、燃料電池とその構造、絶縁保護コーティング用途、ダイアタッチ、ペースト及びフィルム用途が含まれるが、これらに限定されない。)
「[0056] "Flexible Copper Clad Laminate" (FCCL) refers to a laminate composed of a low dielectric polymer with adhesive layer laminated with a thin copper sheet. The laminate can be single layer, double layer or multi-layer. A cover layer is also applied that can be imprinted with a pattern and the copper can then be etched away to form a flexible circuit board.」
([0056] 「フレキシブル銅張積層板」(FCCL)とは、薄い銅シートでラミネートされた接着剤層を備えた低誘電性ポリマーで構成されたライネートを指す。ラミネートは、単層、二重奏層、または多層にすることができる。パターンをインプリント可能なカバー層も適用され、次に銅をエッチングして除去して、フレキシブル回路基板を形成することができる。)
「[0083] In addition, as used herein "C36" refers to all possible structural isomers of a 36 carbon aliphatic moiety, including branched isomers and cyclic isomers with up to three carbon-carbon double bonds in the backbone. One non-limiting example of a moiety that the definition of "C36" refers to is the moiety comprising a cyclohexane-based core and four long "arms" attached to the core, as demonstrated by the following structure:
[図:0001399369000029.jpg]
」
([0083] また、ここでいう「C36」は、36個の炭素の脂肪族部分の全ての可能な構造異性体、分枝異性体および骨格中に最高3個の炭素-炭素二重結合を有する環状異性体を指す。「36」の定義が参照する部分の一つの非限定的な例は、シクロヘキサン系コアを含む部分とコアに結合した4つの長い「腕」は、以下の構造によって実証される:
(化学式は省略する。))
「[0152] The maleimide-terminated polyimides of the invention have very low surface energy and are very compatible with PTFE. In fact malemide-terminated polyimides will wet PTFE, therefore, PTFE can be used as a filler in many compositions to enhance the properties.
[0153] A wide variety of perfluorinated hydrocarbon polymers can be employed for the preparation of invention compositions. Many such materials are available commercially, for example, from DuPont under the tradename Teflon or from Hoechst-Celanese under the tradename Hostafalon(R). Exemplary perfluorinated hydrocarbon polymers contemplated for use in accordance with the present invention are typically characterized as having a particle size in the range of about 0.1 up to about 100 microns, a surface area in the range of about 0.2 up to about 20 g/m2, and a bulk density of at least 100 g/L.」
([0152] 本発明のマレイミド末端ポリイミドは非常に低い表面エネルギーを有し、PTFEと非常に適合する。実際マレイミド末端ポリイミドは湿潤PTFEに多くの組成物において充填剤として使用される特性を向上させることができる。
[0153] 様々な過フッ素化炭化水素ポリマーの本発明組成物の調整に用いることができる。例えば、商標名テフロン(R)でDuPontから、または商標名Hostafalon(R)としてHoechst Celaneseから市販されている多くの材料が挙げられる。本発明に従って使用するのに企図される例示的なパーフルオロ化炭化水素ポリマーは、典型的には、約0.1~約100ミクロンの範囲の粒子径、約0.2~約20g/m2の範囲の表面積、嵩密度が少なくとも100g/Lを有することを特徴とする。)
「[0171] ・・・
EXAMPLES
EXAMPLE 1: Synthesis of Compound I (BMI-3000)
BMI-3000
[図:0001399369000030.jpg]
where n=l-10
A 1-L reaction flask equipped with Teflon-coated stir bar was charged with 164.7 g (300 mmol) of (PriamineTM 1075 (dimer diamine; EC Reg. No. 273-282-8; Croda Coatings & Polymers, East Yorkshire, UK ). To the reaction flask was added 200 g of N-methylpyrrolidone (NMP) and 500 g of toluene, followed by the addition of 25 g of methanesulfonic acid. The mixture was stirred vigorously, while 43.6 g (200 mmol) of pyromellitic dianhydride was added to the flask. The polyamic acid solution was heated to reflux and the water generated in the reaction was removed using a Dean-Stark trap over 6 hours. The solution was cooled down and 23.5 g (240 mmol) of maleic anhydride was added to the flask. The solution was heated back to reflux overnight. After 18 hours the remaining water was collected in the Dean-Stark trap signaling the end of the reaction. The solution was diluted with an additional 500 g of toluene and placed in a separatory funnel. The solution was washed with 200 g of water, followed by two 100 g brine washes to remove the NMP and acid. The bulk of the toluene was removed under vacuum to obtain an approximately 50% by weight solids solution. The product was collected by precipitation of the material into stirred methanol. The solid was solid resin was collected by filtering through a Buchner funnel, followed by drying in the oven.」
([0171]・・・
実施例
実施例1:化合物I(BMI-3000)の合成
BMI-3000
(化学式は省略する。)
n=1-10
テフロンコーティングされた攪拌棒を備えた1Lの反応フラスコに、164.7g(300mmol)のプリアミン-1075(ダイマージアミン、EC REG.No.273-282-8;クローダ コーティング&ポリマー、イースト ヨークシャー、イギリス)を入れた。反応フラスコに、200gのN-メチルピロリドン(NMP)及び500gのトルエンを加え、続いて25gのメタンスルホン酸を加えた。混合物を激しく攪拌しながら、ピロメリット酸二無水物43.6g(200mmol)をフラスコに加えた。ポリアミック酸を加熱還流し、反応で生成した水を、ディーン・スターク・トラップを使用して6時間かけて除去した。溶液を冷却し、23.5g(240mmol)の無水マレイン酸をフラスコに加えた。溶液を一晩加熱還流した。18時間後、ディーン・スターク・トラップに残りの水が回収され、反応の終了を示した。溶液をさらに500gのトルエンで希釈し、分液漏斗に入れた。溶液を200gの水で洗浄し、続いて100gの塩水で2回洗浄してNMPと酸と除去した。トルエンの大部分を真空下で除去して、約50重量%の固形分溶液を得た。生成物は、攪拌されたメタノール中に沈殿させることにより収集した。ブフナー漏斗で濾過することにより、固形の樹脂を回収し、続いてオーブンで乾燥させた。)
「[0174]
・・・
EXAMPLE 5: Permittivity and Loss Tangent
[0175] Thin films were made of various materials with additives to test for dielectric constant (permittivity), and dielectric dissipation factor (loss tangent). The main resin in these films is the maleimide-terminated polyamide, which was mixed with polyethylene derivative, Teflon or POSS material in a high boiling solvent (e.g., tetralin; 1,2,3,4-tetrahydronaphthalene). The POSS did not have any trouble blending in with the polyamide resin, but in the case of the functionalized polyethylene and
Teflon the best way to get the materials to make intimate contact was to pass the mixture through a three- roll mill several times to get them fully blended, followed by the addition of solvent and 2% dicumyl peroxide curing initiator.
[0176] A small amount of the mixture is then placed in a 2x2 inch shallow mold and into an oven at 100°C to drive off the solvent for several hours. After all of the solvent has been driven off the top of the mold is covered to prevent oxygen inhibition of the surface. The temperature is slowly raised to 175°C and held for 3 hours to fully cure the resin. The films are removed from the mold and are approximately 40 mils (1 mm) thick to be sent out for analysis.
[0177] The permittivity and loss tangent were determined by using a Hewlett Packard Impedance Material Analyzer. The permittivity and loss tangent were determined at 1 GHz frequency and the results are recorded in Table 1, below.
Table 1. Permittivity and Loss Tangent Data
[図:0001399369000031.jpg]
」
([0174]
・・・
実施例5:誘電率及び誘電正接
[0175] 薄膜は、誘電率および誘電正接を試験するための添加剤を含む様々な材料で作成された。これらフィルムの主な樹脂は、マレイミド末端ポリイミドであり、高沸点溶媒(例えば、テトラリン;1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン)中でポリエチレン誘導体、テフロン、またはPOSSと混合した。POSSはポリアミド樹脂との混合に問題はなかったが、ポリエチレン誘導体をテフロンの場合、材料を密接に接触させるため、混合物を3本ロールミルに数回通し、完全に混合した後、溶剤と2%ジクミルパーオキサイドを硬化開始剤として添加した。
[0176] 次に、少量の混合物を2×2インチの浅い型に入れ、100℃のオーブンに数時間入れて、溶媒を揮発させた。溶媒除去後、表面の酸素阻害を防ぐための金型の上部を覆った。温度をゆっくりと175℃まで上げ、3時間保持して樹脂を完全に硬化させた。フィルムを金型から取り出し、分析に供される厚さは約40ミル(1mm)だった。
[0177] 誘電率と誘電正接はヒューレット・パッカード社のインピーダンス マテリアルアナライザを使用して決定した。誘電率と誘電正接は1GHzの周波数で測定され、結果は下記表1に記載した。
(表1は省略する。))
(イ)甲5発明
甲5の実施例5及び表1に着目すると、甲5には次の発明が記載されていると認める。
「化合物I(BMI-3000)、15%テフロン、高沸点溶媒、硬化開始剤を含む混合物」(以下、「甲5発明」という。)
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「化合物I(BMI-3000)」は、甲5の段落[0171]に示された化学式から見て、本件特許発明1の「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物」に相当する。
そして、甲5発明の「化合物I(BMI-3000)」は、本件明細書の段落[0182]、同[0183]に示された式(XII-3)で表される化合物であることから、本件発明1の「前記炭化水素基が式(II)で表される基で表される基である」ことに相当する。
ついで、甲5発明の「テフロン」は、甲5の[請求項18]には充填剤であること、同段落[0153]には約0.1~約100ミクロンの範囲の粒子径を有することが記載されていることから、該「テフロン」はフッ素樹脂系の粒子であることがわかる。そうすると、甲5発明の「テフロン」と、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」とは、両者が「熱可塑性樹脂」である限りにおいて一致する。
また、甲5発明の「混合物」と、本件特許発明1の「樹脂組成物」とは、両者が「樹脂組成物」である限りにおいて一致する。
さらに、甲5発明は、「導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤」に係る発明特定事項を有するものではないことから、甲5発明が「導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。」ことを満たしている。
そうすると、本件特許発明1と甲5発明とは、
「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物と、
熱可塑性樹脂と、を含有する樹脂組成物(但し、導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。)であり、
前記炭化水素基が下記式(II)で表される基である、樹脂組成物(当審注:式(II)は省略する。)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
樹脂組成物の用途が、本件特許発明1は、「プリント配線板用」であるのに対し、甲5発明は、そのような特定がされていない点点
<相違点2-2>
熱可塑性樹脂が、本件特許発明1は、「スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリフェニレンエーテル、及びポリスチレン微粒子から選ばれる少なくとも1種を含むもの」であるのに対し、甲5発明は、「テフロン」である点
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点2-2から検討する。
本件特許発明1では、熱可塑性樹脂がスチレン系エラストマーなどであるのに対し、甲5発明では、熱可塑性樹脂が「テフロン」であることから、上記相違点2-2は、実質的な相違点となる。
よって、本件特許発明1は甲5に記載されたものではない。
この点についてさらに検討するに、甲5には、「テフロン」が、「充填剤」として記載されたものであり(請求項18)、該「充填剤」として、熱可塑性樹脂では該「テフロン」しか記載されていないものである([0022]、[0152])。
してみると、甲5において、「テフロン」に代えて、スチレン系エラストマーなどの他の熱可塑性樹脂を選択する動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲5発明において、スチレン系エラストマーなどの他の熱可塑性樹脂を採用することが、当業者が容易に想到し得たものではないといえる。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明及び甲5の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 本件特許発明の効果について
本件特許発明1は、「優れた高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)を備え、かつ、低熱膨張特性、導体との接着性をも高い水準で備える樹脂組成物、並びに、該樹脂組成物を用いて製造される積層板及び多層プリント配線板を提供できる」(【0026】)という効果を奏するものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲5に記載された発明ではない。さらに、本件特許発明1は、甲5に記載された発明及び甲5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件特許発明4、7~9について
本件特許発明4、7~9は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、これらの発明も、本件特許発明1と同様に、甲5に記載された発明ではないし、甲5に記載された発明及び甲5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張について
申立人は、令和5年2月27日に提出された意見書において、以下のとおり主張する。
特許権者は「甲5には、「フッ素樹脂系の粒子以外の熱可塑性樹脂」を採用する動機付けとなる記載や示唆は一切ない」と意見書で主張するものの、甲1、参1、参2に見られるように「フッ素樹脂系の粒子」以外の熱可塑性樹脂をマレイミド化合物を含有する樹脂組成物に適用することは、本発明の技術分野においては当業者が通常行うこと
そこで、上記主張について検討する。
上記「(2)」「イ」で示したように、甲5には、テフロン以外の熱可塑性樹脂については充填剤として記載されていないことから、甲1、参1、参2を参照したとしても、テフロンに代えてスチレン系エラストマー等の熱可塑性樹脂を適用することの動機付けを有しない。それゆえ、甲5発明を出発点として、テフロンに代えて他の熱可塑性樹脂を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。
そして、上述のとおりであることから、実施例7と実施例1~6及び8とを比較する理由もない。
よって、当該主張は採用できない。
3 取消理由3(サポート要件欠如)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記「第3」のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許発明1では、「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物」と「熱可塑性樹脂」とを含む「樹脂組成物」であって、「熱可塑性樹脂」がスチレン系エラストマーなどであることが特定されている。
そこで、本件特許発明1の「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物」、「樹脂組成物」について、本件明細書及び実施例には、以下の技術事項が記載されている。
「【0026】
本発明によれば、優れた高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)を備え、かつ、低熱膨張特性、導体との接着性をも高い水準で備える樹脂組成物、並びに、該樹脂組成物を用いて製造される積層板及び多層プリント配線板を提供できる。
・・・
【0028】
本発明の積層板及び多層プリント配線板は、本発明の樹脂組成物を用いて形成されるため、高周波領域における比誘電率及び誘電正接がともに低いという優れた誘電特性を有する。」
「【0033】
<(A)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物>
本実施形態に係る飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物を(A)成分ということがある。(A)成分は、(a)マレイミド基及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有する化合物である。(a)マレイミド基を構造(a)といい、(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を構造(c)ということがある。(A)成分を用いることで、高周波特性及び導体との高い接着性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0034】
(A)成分は、構造(a)及び構造(c)に加えて、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を更に有していてもよい。(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を構造(b)ということがある。
【0035】
(a)マレイミド基は特に限定されず、一般的なマレイミド基である。(a)マレイミド基は芳香環に結合していても、脂肪族鎖に結合していてもよいが、誘電特性の観点からは、長鎖脂肪族鎖(例えば、炭素数8~100の飽和炭化水素基)に結合していることが好ましい。(A)成分が、(a)マレイミド基が長鎖脂肪族鎖に結合した構造を有することで、樹脂組成物の高周波特性をより向上することができる。」
「【0048】
構造(c)は特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。高周波特性の観点から、構造(c)は、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、飽和又は不飽和の2価の炭化水素基の炭素数は、8~100であってもよく、10~70又は15~50であってもよい。当該炭化水素基は、分岐を有していてもよい。構造(c)は、炭素数8~100の分岐を有していてもよいアルキレン基であることが好ましく、炭素数10~70の分岐を有していてもよいアルキレン基であるとより好ましく、炭素数15~50の分岐を有していてもよいアルキレン基であると更に好ましい。構造(c)が炭素数8以上の分岐を有していてもよいアルキレン基であると、分子構造を三次元化し易く、ポリマーの自由体積を増大させて低密度化し易い。すなわち低誘電率化できるため、樹脂組成物の高周波特性を向上し易くなる。また、(A)成分が構造(c)を有することで、本実施形態に係る樹脂組成物の可とう性が向上し、樹脂組成物から作製される樹脂フィルムの取扱性(タック性、割れ、粉落ち等)及び強度を高めることが可能である。
【0049】
構造(c)としては、例えば、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、テトラデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基等のアルキレン基;ベンジレン基、フェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基;フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基、ベンジルプロピレン基、ナフチレンメチレン基、ナフチレンエチレン基等のアリーレンアルキレン基;フェニレンジメチレン基、フェニレンジエチレン基等のアリーレンジアルキレン基などが挙げられる。
【0050】
高周波特性、低熱膨張特性、導体との接着性、耐熱性及び低吸湿性の観点から、構造(c)として下記式(II)で表される基が特に好ましい。
【0051】
【化16】
[図:0001399369000032.jpg]
【0052】
式(II)中、R2及びR3は各々独立に炭素数4~50のアルキレン基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、R2及びR.は各々独立に、炭素数5~25のアルキレン基であることが好ましく、炭素数6~10のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数7~10のアルキレン基であることが更に好ましい。
【0053】
式(II)中、R4は炭素数4~50のアルキル基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、R4は炭素数5~25のアルキル基であることが好ましく、炭素数6~10のアルキル基であることがより好ましく、炭素数7~10のアルキル基であることが更に好ましい。
【0054】
式(II)中、R5は炭素数2~50のアルキル基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、R5は炭素数3~25のアルキル基であることが好ましく、炭素数4~10のアルキル基であることがより好ましく、炭素数5~8のアルキル基であることが更に好ましい。」
「【0065】
(A)成分としては市販されている化合物を使用することもできる。市販されている化合物としては、例えば、Designer Molecules Inc.製の製品が挙げられ、具体的には、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000、BMI-5000、BMI-9000(いずれも商品名)等が挙げられる。より良好な高周波特性を得る観点から、(A)成分としてBMI-3000を使用することがより好ましい。」
「【0095】
(熱可塑性樹脂)
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂フィルムの取扱い性を高める観点から、熱可塑性樹脂を含有する。熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、分子量も限定されないが、(A)成分との相溶性をより高める点から、数平均分子量(Mn)が200~60000であることが好ましい。」
「【0130】
熱可塑性樹脂の配合量は、特に限定されないが、本実施形態の樹脂組成物中に含まれる樹脂成分の総量を基準として、1~70質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、10~50質量%が更に好ましく、15~45質量%が特に好ましい。熱可塑性樹脂の含有量を前記範囲内とすることにより、誘電正接が低く、フィルムにした際の取り扱い性に優れ、且つ得られる層間絶縁層の樹脂分離が発生しない傾向にある。」
「【0176】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0177】
[樹脂組成物の調製]
下記手順に従って、各種の樹脂組成物を調製した。実施例1~10及び比較例1~2の樹脂組成物の調製に用いた各原材料の使用量(質量部)は、表1及び表2にまとめて示す。
【0178】
温度計、還流冷却管及び攪拌装置を備えた300mLの4つ口フラスコに、表1又は2に示す各成分を投入し、25℃で1時間攪拌した後、#200ナイロンメッシュ(開口75μm)によりろ過して樹脂組成物を得た。
【0179】
なお、表1及び2における各材料の略号等は、以下のとおりである。
(1)BMI-3000[Mw:約3000、Designer Molecules Inc.製、商品名]
(2)BMI-5000[Mw:約5000、Designer Molecules Inc.製、商品名]
(3)BMI-1000[ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、大和化成工業株式会社製、商品名]
(4)BMI-4000[2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、大和化成工業株式会社製、商品名]
(5)ビスアニリンM[4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、三井化学株式会社製、商品名]
(6)H1041[Mn6万未満のスチレン-ブタジエン共重合体の水素添加物、スチレン含有比率:30%、Mn:58000、旭化成株式会社製、商品名「タフテックH1041」]
(7)M1913[カルボン酸変性水添スチレン-ブタジエン共重合樹脂、旭化成株式会社製、商品名「タフテックM1913」]
(8)MP-10[アミン変性されたスチレン系熱可塑性エラストマー、旭化成株式会社製、商品名「タフテックMP-10」]
(9)EF-80[マレイン酸で変性されたスチレン系エラストマー、クレイバレーテクノロジーUSA社製、スチレン含有率=89質量%、商品名「SMA EF-80」]
(10)S202A[2,6-ジメチルフェノールから構成される重合体ポリフェニレンエーテル、旭化成株式会社製、商品名「ザイロンS202A」]
(11)Ricon130MA8[重量平均分子量5400、1分子中の無水マレイン酸基の数2、クレイバレー社製、商品名]
(12)PTFEフィラー[旭硝子株式会社製、商品名「フルオンL170J」]
(13)スチレン微粒子[(積水化成品工業社製、架橋ポリスチレンSBX、平均粒子径1.0μm]
(14)パーブチルP[α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、日油株式会社製、商品名]
(15)シリカスラリー[球状溶融シリカ、表面処理:フェニルアミノシランカップリング剤(1質量%/スラリー中の全固形分)、分散媒:メチルイソブチルケトン(MIBK)、固形分濃度:70質量%、平均粒子径:0.5μm、密度:2.2g/cm3、株式会社アドマテックス製]
【0180】
【表1】
[図:0001399369000033.jpg]
【0181】
【表2】
[図:0001399369000034.jpg]
【0182】
なお、上記(A)成分として用いた化合物(BMI-3000、BMI-5000)の推定される構造は下記式(XII-3)のとおりである。
【0183】
【化31】
[図:0001399369000035.jpg]
【0184】
[半硬化状態の樹脂層を備える樹脂フィルムの作製]
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を、コンマコーターを用いて、支持基材として厚さ38μmのPETフィルム(G2-38、帝人株式会社製)上に塗工し(乾燥温度:130℃)、半硬化状態の樹脂層を備えるPETフィルム付き半硬化樹脂フィルムを作製した。半硬化樹脂フィルム(樹脂層)の厚さは50μmであった。
【0185】
[樹脂フィルムの評価]
実施例1~10及び比較例1~2の半硬化樹脂フィルムの外観及び取扱性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0186】
外観は目視により下記の基準で評価した。
○:半硬化樹脂フィルムの表面にムラ、スジ等がない。
×:半硬化樹脂フィルムの表面にムラ、スジ等があり、表面平滑性に欠ける。
【0187】
取扱性は、目視及び触感により下記の基準で評価した。
(1)25℃における表面のべたつき(タック)の有無。
(2)カッターナイフで切断した際の状態の樹脂割れ又は粉落ちの有無。
○:上記(1)及び(2)のいずれも無い。
×:上記(1)及び(2)のいずれか一方でも有る。
【0188】
[多層プリント配線板]
上述したPETフィルム付き半硬化樹脂フィルムを用い、以下の手順で多層プリント配線板を作製した。
回路パターンが形成されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板とし、その両面に、PETフィルムを剥離した半硬化樹脂フィルムを1枚乗せ、その上に厚さ12μmの電解銅箔(日本電解株式会社製、商品名「YGP-12」)を配置した後、その上に鏡板を乗せ、200℃/3.0MPa/70分のプレス条件で加熱及び加圧成形して、4層プリント配線板を作製した。
【0189】
次いで、作製された4層プリント配線板の最外層の銅箔をエッチングし、回路埋め込み性(多層化成形性)を評価した。多層化成形性は目視により下記基準で評価した。
○:回路にボイド、カスレが存在しない。
×:ボイド、カスレが存在する。
【0190】
[両面金属張硬化樹脂フィルム]
上述のPETフィルム付き半硬化樹脂フィルムからPETフィルムを剥離した樹脂フィルムを2枚重ねた後、その両面に、厚さ18μmのロープロファイル銅箔(M面Rz:3μm、古河電気工業株式会社製、商品名「F3-WS」)をその粗化面(M面)が接するように配置し、その上に鏡板を乗せ、200℃/3.0MPa/70分のプレス条件で加熱及び加圧成形して、両面金属張硬化樹脂フィルム(厚さ:0.1mm)を作製した。
【0191】
上述の両面金属張硬化樹脂フィルムについて、取扱性(耐折曲げ性)、誘電特性、銅箔引きはがし強さ、はんだ耐熱性及び熱膨張特性を評価した。その評価結果を表3及び表4に示す。両面金属張硬化樹脂フィルムの特性評価方法は以下のとおりである。
【0192】
[耐折曲げ性]
耐折曲げ性は、両面金属張硬化樹脂フィルムの外層銅箔をエッチングしたものを180度折り曲げることにより、下記基準により評価した。
○:折り曲げた際、割れ又はクラックが発生しない。
×:折り曲げた際、割れ又はクラックが発生する。
【0193】
[誘電特性]
誘電特性である比誘電率及び誘電正接は、両面金属張硬化樹脂フィルムの外層銅箔をエッチングし、長さ60mm、幅2mm、厚み約1mmに切断したものを試験片として空洞共振器摂動法により測定した。測定器にはアジレントテクノロジー社製ベクトル型ネットワークアナライザE8364B、空洞共振器には株式会社関東電子応用開発製CP129(10GHz帯共振器)及びCP137(20GHz帯共振器)、測定プログラムにはCPMA-V2をそれぞれ使用した。
条件は、周波数10GHz、測定温度25℃とした。
【0194】
[熱膨張係数(CTE)]
熱膨張係数(板厚方向)は、両面金属張硬化樹脂フィルムの両面の銅箔をエッチングし、5mm角に切断したものを試験片として、熱機械分析装置TMA(TAインスツルメント社製、Q400)(温度範囲:30~150℃、荷重:5g)により、IPC規格(IPC-TM-650 2.4.24)に準拠して測定した。
【0195】
[銅箔引きはがし強さ]
銅箔引きはがし強さは、銅張積層板試験規格JIS-C-6481に準拠して測定した。測定温度は25℃とした。
【0196】
[はんだ耐熱性]
はんだ耐熱性は、両面金属張硬化樹脂フィルムの片側の銅箔をエッチングし、50mm角に切断したものを試験片として、その常態及びプレッシャークッカーテスト(PCT)装置(条件:121℃、2.2気圧)において、所定時間(1、3、5時間)処理した後のものを288℃の溶融はんだ上に20秒間フロートし、処理時間が異なる硬化樹脂フィルムのそれぞれの外観を下記基準により目視で評価した。同一の処理時間について3枚の試験片の評価を行い、下記基準で「○」であったものの枚数を表3及び表4に示す。なお、表3及び表4においては、1時間の処理を行ったものをPCT-1hと表記し、3時間の処理を行ったものをPCT-3hと表記し、5時間の処理を行ったものをPCT-5hと表記する。
○:フィルム内部及びフィルムと銅箔間に膨れ又はミーズリングの発生が認められない。
×:フィルム内部及びフィルムと銅箔間に膨れ又はミーズリングの発生が見られる。
【0197】
【表3】
[図:0001399369000036.jpg]
【0198】
【表4】
[図:0001399369000037.jpg]
【0199】
表3に示した結果から明らかなように、実施例1~10の半硬化樹脂フィルムは、優れた高周波特性、接着性及びはんだ耐熱性を備えている。
【0200】
また、(A)成分と(B)成分とを併用した場合(実施例9~10)、(A)成分を単独で使用した場合(実施例1~8)よりも、更に低熱膨張係数を達成できた。」
(4)サポート要件の判断
本件明細書の段落【0009】には、「本発明は、このような現状に鑑み、優れた高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)を備え、かつ、低熱膨張特性及び導体との接着性をも高い水準で備える樹脂組成物、並びに、該樹脂組成物を用いて製造され、外観及び取扱性が良好である積層板及び多層プリント配線板を提供することを目的とする。」ことが記載されていることから、本件特許発明の課題は、「優れた高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)、低熱膨張特性、導体との接着性を備える樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いた、外観及び取扱性が良好な積層板及び多層プリント配線板を提供すること」であると認められる。
「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物」として、本件明細書の段落【0033】には、(A)成分を用いることで、高周波特性及び導体との高い接着性を有する樹脂組成物を得ることができること、同【0035】には、(a)マレイミド基が誘電特性の観点から長鎖脂肪族鎖(例えば、炭素数8~100の飽和炭化水素基)に結合していることが好ましいこと、(A)成分の(a)マレイミド基が長鎖脂肪族鎖に結合した構造を有することで、樹脂組成物の高周波特性をより向上することができること、同【0048】には、高周波特性の観点から、構造(c)は、脂肪族炭化水素基であることが好ましいこと、構造(c)は、炭素数8~100の分岐を有していてもよいアルキレン基であること、構造(c)が炭素数8以上の分岐を有していてもよいアルキレン基であること、分子構造を三次元化し易く、ポリマーの自由体積を増大させて低密度化し易いこと、すなわち低誘電率化できるため、樹脂組成物の高周波特性を向上し易くなること、また、(A)成分が構造(c)を有することで、本実施形態に係る樹脂組成物の可とう性が向上し、樹脂組成物から作成される樹脂フィルムの取扱性(タック性、割れ、粉落ち等)及び強度を高めることが可能であること、同【0050】には、高周波特性、低熱膨張率、導体との接着性、耐熱性及び低吸湿性の観点から、構造(c)として式(II)(当審注:化学式は省略する。以下、同様)で表される基が好ましいことが記載されている。
他方、本件明細書の【実施例】(段落【0176】~【0200】)では、実施例1~10において、少なくとも(A)成分として、Designer Molecules Inc.製の商品名BMI-3000又はBMI-5000のいずれかを含有する樹脂組成物を用いることで、上記本件特許発明の課題を解決することが示されている。
ここで、上記BMI-3000、BMI-5000は、段落【0183】の【化1】で表される化合物であり、(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)上記式(II)で表される2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物である。
そうすると、本件特許発明1は、「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物」と「熱可塑性樹脂」とを含有する「プリント配線板用の樹脂組成物(但し、導電性粒子を含有する異方性導電性接着剤を除く。)」であって、「(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物」が「式(II)で表される基」である構成を有することで、本件特許発明の課題を解決するものと解される。
そこで、本件特許発明1を見るに、(A)成分中の「構造(c)」として「式(II)で表される基」を用いることが特定されており、実施例においてもBMI-3000、BMI-5000(シクロヘキサン環基(式(II)で表される基)を含むマレイミド化合物)を樹脂組成物に含有するものであり、実施例の表3に見られるように、高周波特性をはじめとして、半硬化樹脂フィルム特性、耐折曲げ性、CTE、銅箔引きはがし強さ、はんだ耐熱性に優れるものである。
そうすると、本件特許願発明1は、式(II)で表される基を含むマレイミド化合物、特定の熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物とすることで、上記本件特許発明の課題を解決しているものと認められる。
よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであり、サポート要件を満たすものといえる。
また、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明4ないし9についても同様である。
(5)申立人の主張について
ア 申立書での主張
本件特許発明1は、「A(a)マレイミド基、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基、及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物」と「熱可塑性樹脂」とを含有する「樹脂組成物」であるところ、本件特許発明1には、上記「マレイミド化合物」、上記「熱可塑性樹脂」の含有量に関する特定がなく、本件明細書には各々の含有割合について記載されてはいるものの、実施例では、上記含有割合のうち、特に好ましいとされている含有割合のものだけが評価されているにすぎず、本件特許発明1が両者のあらゆる配合比において本件明細書の実施例と同等の優れた高周波特性を奏するとはいえないし、その技術的根拠が十分に記載されているとは認められないこと
そこで、上記主張について検討する。
本件明細書の段落【0033】には、「(A)成分を用いることで、高周波特性及び導体との高い接着性を有する樹脂組成物を得ることができる。」こと、同【0035】には、「(A)成分が、(a)マレイミド基が長鎖脂肪族鎖に結合した構造を有することで、樹脂組成物の高周波特性をより向上することができる。」こと、同【0056】には、「樹脂組成物中の(A)成分の含有量は特に限定されない。耐熱性の観点から、(A)成分の含有量は樹脂組成物(固形分)の全質量に対して2~98質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましい。」こと、同【0095】には、「樹脂フィルムの取扱い性を高める観点から、熱可塑性樹脂を含有する。」こと、同【0130】には、「熱可塑性樹脂の配合量は、特に限定されないが、本実施形態の樹脂組成物中に含まれる樹脂成分の総量を基準として、1~70質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、10~50質量%が更に好ましく、15~45質量%が特に好ましい。熱可塑性樹脂の含有量を前記範囲内とすることにより、誘電正接が低く、フィルムにした際の取り扱い性に優れ、且つ得られる層間絶縁層の樹脂分離が発生しない傾向にある。」ことが記載されている。
これら記載によると、(A)成分である「マレイミド化合物」は高周波特性及び導体との高い接着性を得ることを目的として、「熱可塑性樹脂」は取扱性を高めることを目的として含有させているところ、(A)成分である「マレイミド化合物」は、主に耐熱性の観点から最適な含有量が選択され、「熱可塑性樹脂」は主に取扱性の観点から最適な含有量が最適化されているものと認められる。
してみると、上記「マレイミド化合物」や「熱可塑性樹脂」のそれぞれの含有量は、申立人が主張する、高周波特性(低比誘電率、低誘電正接等)との関係性からみて最適化されるものであるとまではいえない。
そして、上記主張は、上記課題を達成できないことが予想されるというにとどまるものであり、申立人が具体的な証拠を挙げて本件特許発明の課題を解決し得ないことを立証するものではないから、申立人の上記主張は採用できないものである。
イ 令和5年2月27日に提出された意見書における主張
本件明細書に記載された比較例1は、本件特許発明1の「マレイミド化合物」(及び触媒)を含有し、「熱可塑性樹脂」を含有しないものであるが、本件明細書に記載された実施例、特に実施例1~8の結果と各評価項目において同等の結果であり、本件特許発明1において「熱可塑性樹脂」を含有する技術的意義が不明であるから、「「プリント配線板用の樹脂組成物」として「マレイミド化合物」及び「熱可塑性樹脂」が適切な配合量で含有されているものと解される含有量」が本件明細書の記載をもってしても不明であり、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとの実質的な対応関係について検討してみても、訂正後の本件特許発明1は、依然として「当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲」をこえるものであること
上記主張について検討する。
本件明細書の実施例を詳細に見ると、「マレイミド化合物」(及び触媒)を含有し、「熱可塑性樹脂」を含有する実施例1~10と、「マレイミド化合物」(及び触媒)を含有し、「熱可塑性樹脂」を含有しない比較例1とでは、「銅箔引きはがし強さ」に差異がみられることから、「熱可塑性樹脂」は「銅箔引きはがし強さ」に寄与していることが窺える。そうすると、本件特許発明1において「熱可塑性樹脂」を含有する技術的意義が不明であるなどということはできない。
そして、「プリント配線板用の樹脂組成物」として「マレイミド化合物」及び「熱可塑性樹脂」の配合量については、上記「ア」に示したとおりであるから、適切な配合量で含有されているものと解される。
してみると、申立人の上記主張は採用できない。
第6 まとめ
以上のとおり、本件特許に対する訂正は適法であるから、これを認める。
また、本件の請求項2ないし3に係る特許に対しての申立人からの特許異議の申立ては、適法に訂正されたことにより不適法なものとなったから、却下する。
そして、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、4~9に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件請求項1、4~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700679