特許異議申立
2022-700653
炭素繊維およびナノチューブのポリマーマトリックスへのin situ結合
- 審判番号
- 2022-700653
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-503313
- 登録番号
- 6996770
- 請求日
- 2022年07月15日
- 審決日
- 2023年05月19日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ オブ ニュー ジャージー
- 【権利者代理人】IBC一番町弁理士法人
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 中村 和正
- 審判官 磯貝 香苗
- 分類
- P1652.121-YAA(B29B) / P1652.537-YAA(B29B) / P1652.536-YAA(B29B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6996770号発明「炭素繊維およびナノチューブのポリマーマトリックスへのin situ結合」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6996770号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項11及び13について訂正することを認める。
特許第6996770号の請求項1、2、7、10、12、14ないし16及び20に係る特許を維持する。
特許第6996770号の請求項11及び13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6996770号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし20に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)7月21日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2016年7月22日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2019-503313号に係るものであって、令和3年12月20日にその特許権の設定登録(請求項の数20)がされ、令和4年1月17日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月15日に特許異議申立人 安藤 宏(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1、2、7、10ないし16及び20)がされ、同年10月27日付けで取消理由が通知され、令和5年1月19日に特許権者 ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ オブ ニュー ジャージーから訂正請求書及び意見書が提出されたものである。
なお、上記訂正請求書による訂正は、下記「第2 訂正の適否についての判断」にあるように、請求項の削除のみであって、訂正後の特許請求の範囲の記載は、すべて訂正前の特許請求の範囲に記載されていたもので、特許法第120条の5第5項ただし書における特別の事情と認め得る内容であったため、同条第5項の通知を行っていない。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年1月19日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正請求による訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1に係る請求項11の訂正について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項11を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2に係る請求項13の訂正について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項13を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項11および13について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で示したとおり、本件訂正請求による訂正は認められたため、本件特許の請求項1、2、7、10ないし16及び20(以下、順に「本件発明1」のようにいい、これらを総称して「本件発明」という場合がある。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、7、10ないし16及び20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)1種以上の溶融炭素含有ポリマーを含む溶融炭素含有ポリマー相に炭素繊維を分布させること;
(b)(i)前記溶融ポリマー相が前記炭素繊維を破断するように、溶融ポリマー相に連続的なせん断ひずみ事象を加えること、または(ii)前記溶融ポリマー相の存在下で、前記炭素繊維を機械的に破断または切断することにより、前記溶融熱可塑性ポリマー相の存在下で前記炭素繊維を破断または切断し、これにより、前記1種以上の炭素含有ポリマーと反応および共有結合により架橋する、フリーラジカルを含む繊維上の新たな繊維末端を生成すること;ならびに
(c)前記破断または切断された炭素繊維を前記溶融ポリマー相と十分に混合することを有し、
前記炭素繊維は、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、およびミクロンサイズの炭素繊維からなる群より選択される、炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料を形成する方法。
【請求項2】
前記1種以上の炭素含有ポリマーのうち少なくとも1種は、1つ以上の二重結合または1つ以上の第三級炭素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法に従って調製された、炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料であって、
1種以上の溶融炭素含有ポリマーを含む溶融炭素含有ポリマー相に分布した炭素繊維を含み、前記ポリマーは、前記炭素繊維の末端に直接共有結合することにより架橋され、前記複合材料は、それに分布した機械的に剥離されたグラフェンをさらに含んでもよい、炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料。
【請求項10】
前記複合材料が、炭素繊維とポリマーとの間の共有結合を欠く複合材料に対して、改善された剛性および強度を示す、請求項1または6に記載の方法。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
前記複合材料が、炭素繊維とポリマーとの間に共有結合を欠く複合材料に対して、改善された剛性および強度を示す、請求項7~9のいずれか1項に記載の炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
破断した炭素繊維によって分子間架橋されたポリマー鎖を含む、ポリマー複合材料であって、
前記ポリマーとファイバーとの架橋は、実質的に前記炭素繊維の末端への直接共有結合からなり、前記複合材料は、それに分布した機械的に剥離されたグラフェンをさらに含んでもよい、ポリマー複合材料。
【請求項15】
請求項14に記載の複合材料から形成された、自動車、航空機または航空宇宙部品。
【請求項16】
エンジン部品である、請求項15に記載の部品。
【請求項20】
前記炭素繊維の破断が高せん断溶融加工を通じて起こる、請求項1に記載の方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年7月15日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1) 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1、2、7、10ないし16及び20に係る発明は、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、7、10ないし16及び20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2) 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項7及び10ないし14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(3) 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項7及び10ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(4) 証拠方法
甲第1号証:特表2016-519191号公報
甲第2号証:Macromolecular Materials and Engineering 2013,298,89-105
甲第3号証:成形加工第17巻第1号2005、50~54頁
甲第4号証:https://www.matweb.com/search/datasheet.aspx?matguid=b011e2c0a7974492a5e0ed73c08a3454 (令和4年7月15日閲覧)
以下、異議申立人の証拠について、甲第1号証を「甲1」のようにいう。
第5 令和4年10月27日付け取消理由通知書で通知した取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
取消理由1(実施可能要件)
本件特許の請求項11及び13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由1についての当審の判断
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項11及び13は削除された。すると、請求項11及び13については取消理由の対象が存在しない。
第7 取消理由で採用しなかった申立ての理由についての判断
取消理由で採用しなかった異議申立人の申立理由は、申立理由1及び申立理由2のうち請求項7、10、12及び14についてのものと申立理由3であるので、以下検討する。
1 申立理由1について
(1) 甲1に記載された発明
甲1の特許請求の範囲の請求項1、13、19及び20の記載からみて、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。なお、当該発明は、異議申立人が認定したとおりである。
<甲1方法発明>
「グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を形成する方法であって、
(a)1以上の溶融熱可塑性ポリマーを含む溶融熱可塑性ポリマー相中にグラファイトマイクロ粒子を分散すること;および
(b)前記溶融ポリマー相にせん断ひずみ操作を連続して供給して、剥離された多層グラフェンシートの裂け目が生じて、前記多層シート上に前記1以上の熱可塑性ポリマーと反応して架橋する反応性エッジを生成するまで、前記溶融ポリマー相がそれぞれの操作とともに連続的にグラフェンを剥離すること;を含み、
前記1以上の熱可塑性ポリマーは、UV分解をする熱可塑性ポリマーからなる群より選択される、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を形成する方法。」
<甲1物発明>
「グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体であって、
前記グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体は、
(a)1以上の溶融熱可塑性ポリマーを含む溶融熱可塑性ポリマー相中にグラファイトマイクロ粒子を分散すること;および
(b)前記溶融ポリマー相にせん断ひずみ操作を運続して供給して、剥離された多層グラフェンシートの裂け目が生じて、前記多層シート上に前記1以上の熱可塑性ポリマーと反応して架橋する反応性エッジを生成するまで、前記溶融ポリマー相がそれぞれの操作とともに連続的にグラフェンを剥離すること;を含む、
グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を形成する方法により製造され、
前記1以上の熱可塑性ポリマーは、UV分解をする熱可塑性ポリマーからなる群より選択される、
グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体。」
(2) 本件発明1についての対比・判断
本件発明1と甲1方法発明を対比すると、両者は、
「(a)1種以上の溶融炭素含有ポリマーを含む溶融炭素含有ポリマー相に、ポリマーと混合される材料を分布させること;および
(b)前記溶融ポリマー相にせん断ひずみ操作を連続して供給することにより、ポリマーと混合された材料を前記溶融熱可塑性ポリマー相の存在下で破断または切断し、これにより、ポリマーと混合された材料を、前記1種以上の炭素含有ポリマーと反応により架橋すること;を含む、
ポリマーと混合される材料で強化されたポリマーマトリックス複合材料を形成する方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
溶融炭素含有ポリマー相に分布(甲1方法発明の「分散」に相当)させる材料として、本件発明1は、「単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、およびミクロンサイズの炭素繊維からなる群より選択される炭素繊維」を用いているのに対して、甲1方法発明では、「グラファイトマイクロ粒子」を用いている点
<相違点2>
本件発明1は、「(c)前記破断または切断された炭素繊雉を前記溶融ポリマー相と十分に混合する」工程を含むのに対して、甲1方法発明では、このような工程を含むことが特定されていない点
<相違点3>
炭素含有ポリマーと材料の架橋関係について、本件発明1は、「共有結合により」と特定するのに対し、甲1方法発明は、このような特定がない点
<相違点4>
切断又は破断した材料について、本件発明1は、「フリーラジカルを含む」材料上の「新たな」「末端が生成される」と特定するのに対し、甲1方法発明はこの点を特定しない点
相違点1について検討する。
甲1方法発明は、甲1の段落【0002】、【0008】に記載されているとおり、結晶化されたグラファイト(マイクロ)粒子を含むポリマー複合体に対し、溶融ポリマーマトリクス中のin situでの機械的剥離を用いて、ナノ分散された単層または多層グラフェン粒子に変え、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体(G-PMC)を製造するものである。
ここで、甲1の段落【0005】には、「グラフェンは、密に充填された1原子厚さのシートに、原子が六角形のパターンに配置された純粋な炭素からなる物質である。この構造は、グラファイト、大きいフラーレン、ナノチューブなどを含む多くの炭素系材料の性質を理解するための基礎である(例えば、カーボンナノチューブは、一般的に、ナノメートルサイズのシリンダ内に巻き上げたグラフェンシートであると考えられている)。グラフェンは、SP2結合した炭素原子の単層平面シートである。シートは、有限の大きさであり、他の元素が端部にゼロになることのない化学量論比で付着できるため、グラフェンは炭素の同位体ではない。(当審注:下線は説明のため当審にて付した。)」と記載されているように、甲1方法発明のグラファイトマイクロ粒子に対するin situの機械的剥離により生成するグラフェンは、SP2結合した炭素原子から構成される単層平面シートであり、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等と類似する化学構造を有している。
しかしながら、甲1方法発明においては、グラファイトマイクロ粒子を、機械的剥離により単層または多層グラフェン粒子に変えることで、グラフェン強化マトリクス複合体とする発明であるから、グラファイトマイクロ粒子を、単層または多層カーボンナノチューブにすることについては、その動機がない。
同様に、甲1方法発明において、グラファイトマイクロ粒子を、ファイバーの形態であるカーボンナノファイバーやミクロンサイズの炭素繊維にすることについてもその動機はない。
さらに、甲1方法発明において、グラファイトマイクロ粒子に加えて、単層または多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ミクロンサイズの炭素繊維を採用することについても、その動機はない。
よって、甲1方法発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、甲1及びその他の提示された証拠の記載からみても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そうすると、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1方法発明及びその他の提示された証拠から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明2、10及び20について
本件発明2、10及び20は、請求項1を直接又は間接的に引用して発明を特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明7及び12について
本件発明7及び12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、請求項1に記載された発明特定事項を全て含む発明であるから、本件発明1と同様に、甲1物発明及びその余の提示された証拠からは当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 本件発明14について
本件発明14と甲1物発明とを対比すると、両者は、
「材料により分子間架橋されたポリマー鎖を含む、ポリマー複合材料であって、
前記ポリマーと材料とは架橋されている、ポリマー複合材料。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点5>
ポリマー複合材料のポリマー鎖に分子間架橋させる材料として、本件発明14は、破断した「炭素繊維」と特定するのに対して、甲1物発明は、「溶融熱可塑性ポリマー相中に」「分散」された「グラファイトマイクロ粒子」に「せん断ひずみ操作を連続して供給して、剥離された多層グラフェンシート」である点
<相違点6>
ポリマーと材料とに関し、本件発明14は、「実質的に」材料の「末端への直接共有結合からなり」と特定するのに対し、甲1物発明は、そのような特定がない点
<相違点7>
本件発明14は、機械的に剥離されたグラフェンを「さらに」含むとの特定を有するのに対し、甲1物発明は、そのような特定がない点
相違点5について検討する。
上記(2)相違点1において検討したと同様に、甲1物発明も、甲1の段落【0002】、【0008】に記載されているとおり、結晶化されたグラファイト(マイクロ)粒子を含むポリマー複合体に対し、溶融ポリマーマトリクス中のin situでの機械的剥離を用いて、ナノ分散された単層または多層グラフェン粒子に変え、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体(G-PMC)としたものであり、多層グラフェンシートの裂け目を生じさせ、多層シート上に熱可塑性ポリマーと反応して架橋する反応性エッジを生成させるものである。
甲1には、熱可塑性ポリマーと反応して架橋する反応性エッジを生成させる材料として、グラフェン以外の材料を示唆する記載はない。
したがって、甲1物発明において、剥離された多層グラフェンシートに替えて、相違点1に係る破断された炭素繊維とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、甲1物発明において、剥離された多層グラフェンシートに加えて、相違点1に係る炭素繊維を追加し、破断した炭素繊維によってポリマー鎖と分子間架橋させるように構成することも、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
特許異議申立人が提示する甲2、3は、いずれも、繊維強化部材の繊維材料として炭素繊維を利用することが知られていることを示すものであって、破断した炭素繊維をポリマー鎖と分子間架橋させることが知られていることを示すものではない。
よって、甲1物発明において、相違点5に係る本件発明14の発明特定事項を採用することは、甲1及びその他の提示された証拠の記載からみても、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明14は、甲1物発明及びその他の提示された証拠から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6) 本件発明15及び16について
本件発明15及び16は、請求項14を直接又は間接的に引用して特定するものであり、請求項14に記載された発明特定事項を全て含む発明であるから、本件発明14と同様に、甲1物発明及びその余の提示された証拠からは当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7) まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件についての判断基準
本件発明10は、上記第3のとおり、「炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料を形成する方法」の発明、すなわち、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、発明の詳細な説明にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすということができる。
また、本件発明7、12及び14は、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法同条同項第1号)、例えば、発明の詳細な説明にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすということができる。
(2) 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、ポリマーが「炭素繊維の末端に直接共有結合することにより架橋され」るための具体的な処理方法、操作条件として、改良されたRandcastleミキサーとその操作条件が記載されている(段落【0050】~【0054】)。
そうすると、発明の詳細な説明にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があり、当業者がその物を生産する方法を使用することができるといえるし、その物を生産することができる具体的な記載があり、当業者がその物を生産することができるといえる。
してみれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明7、10、12及び14に関し、実施できる程度に記載されているものであり、実施可能要件を満たしている。
(3)異議申立人の主張の検討
異議申立人は、「炭素繊維を機械的に官能化して繊維の末端に反応性結合部位 を形成するための具体的な処理方法や操作条件、反応性部位をポリマーと反応させる具体的な手段が記載されておらず、またポリマーと炭素繊維とが共有結合により架橋したことを具体的に確認したことを示す記載もない」旨主張するが、上記(2)のとおりであるし、発明の詳細な説明の段落【0067】~【0068】において、具体的に得られた複合材料において、図9(a)~(c)の写真で、ナノチューブとナイロン66ポリマーとの間の共有結合を示しているとされているから、異議申立人の主張は失当であって、採用できない。
(4) まとめ
上記のとおりであり、取消理由に採用しなかった請求項7、10、12及び14に対する申立理由2には、理由がない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1) 判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2) サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0006】によると、本件発明7及び10、12及び14が解決しようとする課題は、「増加した比剛性および強度、向上した電気/熱伝導性、および光透過性の保持など、多くの特性上の利点を提供する大規模商業生産に適したCF-PMCを低コストで製造する方法」で得られる炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料を得ることと認められる。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0010】には、「繊維は、溶融加工中に溶融ポリマーの存在下で破断する。繊維破断は、溶融加工装置内に特別に設計された切削工具を有することによって、または溶融加工中の高せん断によって、またはその2つの組み合わせによって、達成されうる。液体ポリマーに囲まれている間に繊維を破断することによる新しい末端の開放は、上記の特性を有するポリマーによる強い結合のための部位を提示する繊維末端に、ぶら下がった結合(dangling bond)または反応性フリーラジカルを導く。得られた固体複合材料は、最適な繊維長で、冷却時に改善された機械的性質を有し、その結果、複合材料内でのこの結合によってコストが大幅に削減されうる。」との記載があり、段落【0019】~【0021】に「本発明の一態様は、溶融ポリマーでin situ処理された炭素繊維を機械的に官能化して、繊維の末端に反応性結合部位を形成することに関する。反応性部位がポリマーと反応して、炭素繊維をポリマーに化学的に結合させる。これは、単層または多層のカーボンナノチューブおよび標準的なミクロンサイズの炭素繊維を含む様々な炭素繊維を用いて行うことができる。それは、二重結合(炭素-炭素二重結合、炭素-酸素二重結合など)または様々な第三級炭素結合を有する化学基を有する様々なポリマーと共に良好に働く。ポリマーによりin situでグラファイトをグラフェンに機械的に剥離しながら、壊れた共有グラファイトおよびグラフェン結合の部位での良好な結合の同様の観察がなされてきた。溶融加工中に溶融ポリマーの中で繊維が破断または切断されるが、これは溶融加工装置内に特別に設計された切断工具を有することによって、または溶融加工中の高せん断によって、またはその2つの組み合わせによって行うことができる。液体ポリマーに囲まれながら繊維を破断または切断することによって新たな繊維末端を開放することで、繊維末端上に反応部位を提供する非充填価電子(フリーラジカル)を有するぶら下がった結合(dangling bond)が導入され、それは上記特性を有するポリマーによる、共有結合などの強固な結合のための部位を表す。得られた固体複合材料は、冷却時に改善された機械的特性、および最適な繊維長を有し、そして次いで、この結合によってコストが大幅に減少するであろう。」と記載されている。
そして、機械的官能化手段について、段落【0027】~【0028】に「ポリマーマトリックス内の炭素繊維の機械的官能化は、反復的な高せん断ひずみ事象を付与してポリマーマトリックス内の炭素繊維を機械的に破断するポリマー処理技術によって達成されてもよい。連続的なせん断ひずみ事象は、せん断ひずみ速度に関連する拍動的な連続のより高いせん断力およびより低いせん断力が溶融ポリマー中の炭素繊維に加えられるように、実質的に同じ時間間隔で交互に連続して高せん断ひずみ速度および低せん断ひずみ速度を溶融ポリマーに加えることとして定義される。高せん断ひずみ速度および低せん断ひずみ速度は、2番目に低いせん断ひずみ速度の少なくとも2倍である1番高いせん断ひずみ速度として定義される。第1のせん断ひずみ速度は、100~10,000sec-1の範囲である。炭素繊維を破断させるために、溶融ポリマーに少なくとも1,000から10,000,000を超える高せん断ひずみパルスおよび低せん断ひずみパルスの交互パルスが加えられる。」と記載され、ポリマー内のせん断歪み速度について、段落【0034】~【0039】に「ポリマー内のせん断ひずみ速度は、ポリマーの種類、およびミキサーの形状、処理温度、および毎分回転数(RPM)を含む処理パラメータによって制御される。特定のポリマーに必要な処理温度および速度(RPM)は、一定温度で、せん断ひずみ速度:【数1】
[図:0001400455000001.jpg]
がRPMに線形的に依存すると仮定すると、式1で示されるように、ポリマーレオロジーデータから決定可能である。ミキサーの形状は、ローターの半径r、およびローターとバレルの間の間隔Δrとして表される。
【数2】
[図:0001400455000002.jpg]
3つの異なる温度で特定のポリマーについて収集されたポリマーレオロジーデータは、対数せん断応力対対数せん断ひずみ速度のグラフを提供する。」と記載されている。
さらに、実施例において、高せん断ミキサーを利用して多層CNTとポリマーとを混合処理した炭素繊維強化ポリマー複合材料は、増加した比剛性および強度を有していることを確認している。
そうすると、当業者は、「(a)1種以上の溶融炭素含有ポリマーを含む溶融炭素含有ポリマー相に炭素繊維を分布させること;
(b)(i)前記溶融ポリマー相が前記炭素繊維を破断するように、溶融ポリマー相に連続的なせん断ひずみ事象を加えること、または(ii)前記溶融ポリマー相の存在下で、前記炭素繊維を機械的に破断または切断することにより、前記溶融熱可塑性ポリマー相の存在下で前記炭素繊維を破断または切断し、これにより、前記1種以上の炭素含有ポリマーと反応および共有結合により架橋する、フリーラジカルを含む繊維上の新たな繊維末端を生成すること;ならびに
(c)前記破断または切断された炭素繊維を前記溶融ポリマー相と十分に混合することを有」する方法で製造された炭素繊維強化ポリマー複合材料であれば発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件発明7は、前記の発明特定事項を有した上で、さらに限定するものであるから、発明の課題を解決するものである。
また、当業者は、前記の炭素繊維強化ポリマー複合材料であれば、「炭素繊維とポリマーとの間の共有結合を欠く複合材料に対して、改善された剛性および強度を示」し、発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件発明10及び12は、前記の発明特定事項を有した上で、さらに限定するものであるから、発明の課題を解決するものである。
また、当業者は、「破断した炭素繊維によって分子間架橋されたポリマー鎖を含む、ポリマー複合材料であって、前記ポリマーとファイバーとの架橋は、実質的に前記炭素繊維の末端への直接共有結合からな」る複合材料であれば発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件発明14は、前記の発明特定事項を有した上で、さらに限定するものであるから、発明の課題を解決するものである。
したがって、本件発明7、10、12及び14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(4) 異議申立人の主張の検討
異議申立人は、発明の詳細な説明に実施できるように記載したものではないから、サポート要件を満たさない旨主張するが、サポート要件の判断に実施可能要件違反であるかどうかは影響しないし、上記2のとおり、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしているから、当該主張は失当であって採用できない。
(5) まとめ
よって、取消理由に採用しなかった請求項7、10、12及び14に対する申立理由3は理由がない。
第8 むすび
上記第5ないし7のとおり、本件特許の請求項1、2、7、10、12、14ないし16及び20に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、7、10、12、14ないし16及び20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項11及び13に係る特許は、訂正により削除されたため、異議申立人による請求項11及び13に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700653