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特許異議申立

2022-700637

高周波プリント配線板用基材

審判番号
2022-700637
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-557443
登録番号
6997104
請求日
2022年07月13日
審決日
2023年03月29日
公報発行日
2023年08月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】住友電気工業株式会社
  • 【権利者代理人】池田 義典
  • 【権利者代理人】天野 一規
  • 【権利者】住友電工プリントサーキット株式会社
  • 【権利者代理人】池田 義典
  • 【権利者代理人】天野 一規
  • 【異議申立人】北岡 弘章
  • 【異議申立人】河井 清悦
  • 【異議申立人】神保 良男
審判長/審判官
  • 審判長 酒井 朋広
  • 審判官 須原 宏光
  • 審判官 畑中 博幸
分類
P1651.121-YAA(H05K) / P1651.113-YAA(H05K) / P1651.536-YAA(H05K) / P1651.537-YAA(H05K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6997104号発明「高周波プリント配線板用基材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6997104号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6997104号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6997104号の請求項1ないし9に係る発明についての出願は、2018年6月20日(優先権主張 平成29年8月8日)を国際出願日とする出願であって、令和3年12月20日にその特許権が設定登録され、令和4年1月17日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立てでの経緯は、次のとおりである。 令和4年 7月13日 :特許異議申立人 北岡弘章による請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立て 令和4年 7月15日 :特許異議申立人 河井清悦による請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立て 令和4年 7月15日 :特許異議申立人 神保良男による請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立て 令和4年 9月20日付け:取消理由通知 令和4年11月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和5年 1月17日 :特許異議申立人 河井清悦による意見書の提出 令和5年 1月18日 :特許異議申立人 神保良男による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和4年11月25日の訂正請求の趣旨は、特許第6997104号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に記載された「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下である」を「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下であり、上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」に訂正する。(請求項1を引用する請求項3ないし9も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に記載された「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下である」を「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下であり、上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であり、上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である」に訂正する。(請求項2を引用する請求項3ないし9も同様に訂正する。) (3)一群の請求項について 本件訂正前の請求項3ないし9は、訂正の対象となる請求項1を引用しているものであるから、請求項1、3ないし9は一群の請求項を構成する。 また、本件訂正前の請求項3ないし9は、訂正の対象となる請求項2を引用しているものであるから、請求項2ないし9は一群の請求項を構成する。 そして、請求項1及び請求項2は、ともに、請求項3ないし9に引用されているので、請求項1ないし9は一群の請求項を構成する。 本件訂正請求は、一群の請求項〔1-9〕に対して請求されたものである。 2 訂正の適否についての判断 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、「無機フィラー」を「平均粒子径が0.1μm以上10μm以下」に限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 願書に添付した明細書の段落【0031】には「無機フィラーの平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。また、無機フィラーの平均粒子径の上限としては、10μmが好ましく、5μmがより好ましい。」と記載されているので、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項1は、請求項1の記載を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2は、「無機フィラー」を「平均粒子径が0.1μm以上10μm以下」に限定し、「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」を「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下」に限定するものである。 したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 願書に添付した明細書の段落【0031】には「無機フィラーの平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。また、無機フィラーの平均粒子径の上限としては、10μmが好ましく、5μmがより好ましい。」と記載されており、同明細書の段落【0032】には「誘電体層2におけるフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比(無機フィラー/フッ素樹脂)の下限としては、1.0が好ましく、1.1がより好ましく、1.2がさらに好ましく、1.3が特に好ましい。上記質量比の上限としては、例えば3.0であり、2.0が好ましい。」と記載されているので、訂正事項2は、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項2は、請求項2の記載を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材であって、 上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下であり、 上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下であり、 上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である高周波プリント配線板用基材。 【請求項2】 フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材であって、 上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下であり、 上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下であり、 上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であり、 上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である高周波プリント配線板用基材。 【請求項3】 上記フッ素樹脂の軟化温度が250℃以上310℃以下である請求項1又は請求項2に記載の高周波プリント配線板用基材。 【請求項4】 上記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン又はこれらの組み合わせである請求項3に記載の高周波プリント配線板用基材。 【請求項5】 上記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体である請求項4に記載の高周波プリント配線板用基材。 【請求項6】 上記誘電体層中の上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高周波プリント配線板用基材。 【請求項7】 上記無機フィラーがシリカを含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の高周波プリント配線板用基材。 【請求項8】 厚み方向の線膨張率が50ppm/K以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の高周波プリント配線板用基材。 【請求項9】 誘電率の25℃から120℃の範囲での温度による変化が2%以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の高周波プリント配線板用基材。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して、当審が令和4年9月20日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (サポート要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 ・請求項1ないし9 発明の詳細な説明には「無機フィラーの平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。また、無機フィラーの平均粒子径の上限としては、10μmが好ましく、5μmがより好ましい。無機フィラーの平均粒子径が上記下限未満であると、フッ素樹脂の柔軟性等の特性が低下する場合がある。一方、無機フィラーの平均粒子径が上記上限を超える場合、高周波プリント配線板用基材の誘電体層における特性の部分ごとのばらつきが大きくなる場合がある。」(【0031】)と記載されている。 一方、請求項1には「無機フィラー」の平均粒子径について何ら特定されていないため、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された作用効果を満たさないものまで含まれることになる。 また、請求項2についても、「無機フィラー」の平均粒子径について何ら特定されておらず、上記と同様である よって、請求項1に係る発明、請求項2に係る発明、及び、請求項1又は2を引用する請求項3ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 ・請求項2ないし9 発明の詳細な説明には「誘電体層2におけるフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比(無機フィラー/フッ素樹脂)の下限としては、1.0が好ましく、1.1がより好ましく、1.2がさらに好ましく、1.3が特に好ましい。上記質量比の上限としては、例えば3.0であり、2.0が好ましい。フッ素樹脂と無機フィラーとの質量比を上記範囲とすることで、誘電体層2の熱収縮を小さくすることができ、その結果、熱プレス後の残留応力が小さくなり、より高い接着力を得ることができる。また、当該高周波プリント配線板用基材の反りを抑制することができる。」(【0032】)と記載されている。 一方、請求項2の記載はフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比について如何なる特定もなく、請求項2に係る発明は、フッ素樹脂と無機フィラーとの質量比が発明の詳細な説明に記載された上記範囲をはずれて、発明の詳細な説明に記載された作用効果を満たさないものまで含まれることになる。 よって、請求項2に係る発明、及び、請求項2を引用する請求項3ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 2 当審の判断 本件訂正により、本件発明1及び本件発明2の「無機フィラー」は「平均粒子径が0.1μm以上10μm以下」になった。 また、本件訂正により、本件発明2の「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」は「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下」になった。 したがって、取消理由通知で指摘したサポート要件に関する記載不備は解消した。 よって、本件発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 3 特許異議申立人の意見について (1)特許異議申立人河井清悦による意見について ア 取消理由(第36条第6項第1号)についての令和5年1月17日付け意見書での主張は、次のとおりである。 (ア)実施例では、無機フィラーの平均粒子径及びフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比は1点のみしかなく、しかも無機フィラーの平均粒子径は不明である。 (イ)本件発明1及び2では無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下と下限と上限では100倍も差があり、本件発明2ではフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下と3倍も差がある。 ここで、無機フィラーの平均粒子径が100倍違う場合や、フッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比が3倍違う場合は、フッ素原子に対する無機原子の原子数の比、及び、全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比は大きく変わることが当業者であれば当然理解できる。 そうすると、無機フィラーの平均粒子径及びフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比の広い数値範囲の全体にわたり、「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」及び「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下」を満たし、「接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供する」という課題(【0010】)を解決できることを当業者が認識できるとは到底いえない。(意見書3頁16行ないし3頁最終行) イ 当審の判断 a 上記(ア)の主張について 「実施例では、無機フィラーの平均粒子径及びフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比が1点のみしかなく、無機フィラーの平均粒子径は不明である」ことが、サポート要件を満たしていないとする理由が不明であるが、本件発明1及び2が発明の詳細な説明に記載されたものであるか検討する。 (a)無機フィラーの平均粒子径が1点のみしかなく、無機フィラーの平均粒子径は不明であることについて 発明の詳細な説明の段落【0031】には、無機フィラーの平均粒子径の下限は0.1μmであり、下限未満であるとフッ素樹脂の柔軟性等の特性が低下する場合があること、無機フィラーの平均粒子径の上限は10μmであり、上限を超えると高周波プリント配線板用基材の誘電体層における特性の部分ごとのばらつきが大きくなる場合があることが記載されているから、「無機フィラーの平均粒子径を0.1μm以上10μm以下」にすることの技術的な理由が明確に記載されている。 そして、実施例の無機フィラーはシリカフィラー(デンカ社の「FB3SDC」)である(【0076】)。ここで、デンカ社の「FB3SDC」は平均粒子径が3.4μmであるから(特開2011-228525号公報(【0065】参照))、実施例には、無機フィラーとして、平均粒子径が3.4μmのシリカシフィラーを用いた例が記載されている。 そうすると、本件発明1及び2の「無機フィラーの平均粒子径を0.1μm以上10μm以下」にすることの技術的理由は、発明の詳細な説明の段落【0031】に記載されており、平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であることを満たす、平均粒子径3.4μmの無機フィラーを使用した高周波プリント配線板用基材が、優れ特性を示すことが実施例により示されているので、本件発明1及び2は発明の詳細な説明に記載されたものである。 (b)フッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比が1点のみしかないことについて 発明の詳細な説明の段落【0032】には、フッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比の下限を1.0、上限を3.0にすることで、誘電体層の熱収縮を小さくすることができた結果、熱プレス後の残留応力が小さくなり、より高い接着力を得ることができる。さらに、高周波プリント配線板用基材の反りを抑制することができると、「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下」にすることの技術的な理由が明確に記載されている。 そして、実施例(【0076】)には、フッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比を1.4にしたものが記載されている。 そうすると、本件発明2の「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下」にすることの技術的理由は、発明の詳細な説明の段落【0032】に記載されており、質量比が1.0以上3.0以下を満たす、質量比1.4の高周波プリント配線板用基材が、優れ特性を示すことが実施例により示されているので、本件発明2は発明の詳細な説明に記載されたものである。 よって、上記(ア)の主張を採用することができない。 b 上記(イ)の主張について (a)本件発明1では、無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下と下限と上限では100倍も差があることについて 本件発明1は、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比を0.08以下にすることによって、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の平滑銅箔に対しても、接着力を高めることができることを見いだして(【0010】、【0011】)、「接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供する」という課題(【0010】)を解決したのである。 そして、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素原子に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比は、無機フィラーの平均粒子径に直接連動して変化する値でないので、無機フィラーの平均粒子径に関係なく、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素原子に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下になっていれさえすれば、上記課題を解決できることは明らかである。 そうすると、たとえ、本件発明1において無機フィラーの平均粒子径が下限と上限では100倍も差があろうとも上記課題を解決できるので、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものである。 (b)本件発明2では、無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下と下限と上限では100倍も差があり、フッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下と3倍も差があることについて 本件発明2は、誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下にすることによって、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の平滑銅箔に対しても、接着力を高めることができることを見いだして(【0012】、【0013】)、「接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供する」という課題(【0010】)を解決したのである。 そして、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比と、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の割合は、無機フィラーの平均粒子径やフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比に直接連動して変化する値でないので、無機フィラーの平均粒子径及びフッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比に関係なく、誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下になっていれさえすれば、上記課題を解決できることは明らかである。 そうすると、たとえ、本件発明2において無機フィラーの平均粒子径が下限と上限では100倍も差がり、フッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比が3倍も差があろうとも上記課題を解決できるので、本件発明2は発明の詳細な説明に記載されたものである。 よって、上記(イ)の主張を採用することができない。 (2)特許異議申立人神保良男による意見について ア 取消理由(第36条第6項第1号)についての令和5年1月18日付け意見書での主張は、次のとおりである。 (ア)請求項1及び2において「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」ことが追加されているが、実施例には、無機フィラーとしてシリカフィラー(デンカ社の「FB3SDC」)を使用した旨の記載はあるものの、この無機フィラーの平均粒子径は不明である。仮にこの無機フィラーの平均粒子径が特定されたとしても、実際に使用されているのは1種類の無機フィラーの場合だけであり、「平均粒子径が0.1μm以上10μm以下」の範囲まで、フッ素樹脂の柔軟性等の特性が維持され、誘電体層における特性のばらつきを抑制した高周波プリント配線板用基材が得られることを当業者は認識することができない。(意見書1頁8行ないし2頁13行) (イ)請求項2において「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である」ことが追加されているものの、フッ素樹脂及び無機フィラーの種類については何ら特定されていない。 フッ素樹脂にしても無機フィラーにしても質量と体積の関係は一律でないところ、フッ素樹脂と無機フィラーの質量比を特定するのであれば、誘電体層の熱収縮を小さくし、また、熱プレス後の残留応力を小さくして、高い接着力を得ると共に、高周波プリント配線板用基材の反りを抑制することに鑑みれば、フッ素樹脂及び無機フィラーの種類についてそれぞれ具体的に特定する必要がある。(意見書2頁14行ないし3頁26行) イ 当審の判断 上記(ア)の主張について 上記「(1)イ a(a)」で判断したとおり、本件発明1及び2の「無機フィラーの平均粒子径を0.1μm以上10μm以下」にすることの技術的理由は、発明の詳細な説明の段落【0031】に記載されており、当該無機フィラーを使用した高周波プリント配線板用基材が、優れ特性を示すことが実施例により示されているので、本件発明1及び2は発明の詳細な説明に記載されたものである。 よって、上記(ア)の主張を採用することができない。 上記(イ)の主張について 発明の詳細な説明の段落【0032】には、フッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比の下限を1.0、上限を3.0にすることで、誘電体層の熱収縮を小さくし、また、熱プレス後の残留応力を小さくして、高い接着力を得ると共に、高周波プリント配線板用基材の反りを抑制することができると記載されている。 ここで、フッ素樹脂に対する無機フィラーの質量比は、フッ素樹脂及び無機フィラーの種類に関係なく求めることができる値であるので、フッ素樹脂及び無機フィラーの種類を特定する必要がないことは明らかである。 よって、上記(イ)の主張を採用することができない。 4 まとめ 以上のことより、当該取消理由通知書に記載した取消理由により、本件発明1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要は、以下のとおりである。 (1)特許異議申立人北岡弘章による申立理由 ア 申立理由1 請求項1ないし9に係る発明は、引用文献1Aに記載された発明である。または、引用文献1Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。または、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 イ 申立理由2 請求項1ないし9に係る発明は、引用文献7Aに記載された発明である。または、引用文献7Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。または、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 ウ 申立理由3 請求項9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、請求項9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 エ 申立理由4 請求項9に係る発明は明確でないため、請求項9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 証拠方法 引用文献1A:特開2001-176329号公報(甲第1号証) 引用文献2A:特開2004-244656号公報 (甲第2号証) 引用文献3A:特開2006-179537号公報(甲第3号証) 引用文献4A:旭硝子社製、フルオンPTFE、CDグレード全製品、製品安全データシート、改訂2004年1月7日(甲第4号証) 引用文献5A:特開2017-132898号公報(甲第5号証) 引用文献6A:特開2017-119865号公報(甲第6号証) 引用文献7A:特開2002-141630号公報(甲第7号証) 引用文献8A:国際公開第2016/181936号(甲第8号証) 引用文献9A:国際公開第2016/21666号(甲第9号証) 引用文献10A:特開2007-314720号公報(甲第10号証) (2)特許異議申立人河井清悦によるによる申立理由 ア 申立理由1 請求項1ないし9に係る発明は、引用文献1Bに記載された発明、及び、引用文献2Bないし引用文献4Bに記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 イ 申立理由2 請求項1ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ウ 申立理由3 請求項1ないし9に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないめ、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 エ 申立理由4 請求項1ないし9に係る発明は明確でないため、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 証拠方法 引用文献1B:特開2013-201344号公報(甲第1号証) 引用文献2B:特開2014-127644号公報(甲第2号証) 引用文献3Bの1:特開2016-46433号公報(甲第3の1号証) 引用文献3Bの2:国際公開第2016/21666号(甲第3の2号証) 引用文献4B:特許第4938910号公報(甲第4号証) (3)特許異議申立人神保良男によるによる申立理由 ア 申立理由1 請求項1ないし4、6ないし9に係る発明は、引用文献1Cに記載された発明、及び、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4、6ないし9係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 イ 申立理由2 請求項1ないし3、6ないし8に係る発明は、引用文献5Cに記載された発明、及び、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3、6ないし8係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 ウ 申立理由3 請求項1ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 証拠方法 引用文献1C:米国再発行特許発明第36396号明細書(甲第1号証) 引用文献2C:特開2017-128804号公報 (甲第2号証) 引用文献3C:特開2017-130658号公報(甲第3号証) 引用文献4C:国際公開第2012/161162号(甲第4号証) 引用文献5C:特許第5235211号公報(甲第5号証) 2 特許異議申立人北岡弘章による申立理由について (1)引用文献の記載 ア 引用文献1Aには、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付与したものである。以下、同様。) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、実質的に低誘電率で、接着性、強度および粘性を改善した低誘電率材料に関する。また、高速演算や高周波回路に最適なプリント配線基板用材料、特にビルドアッププリント配線基板用材料や、テープ巻きなどの電線被覆用材料として好適な低誘電率材料に関する。」 「【0033】[例1(実施例)]ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉体100質量部に対してフルオロシランカップリング剤処理を施した多孔質真球状シリカゲル(商品名旭硝子社製サンスフェアH-33、細孔容積2.0cm3/g、平均粒子径3μm、長径に対する短径の比率0.95~1)100質量部を混合し、混合物(P1)を得た。この混合物(P1)を390℃で15minプレス成形して、フッ素樹脂量50%のシート状硬化物(Q1)を得た。この硬化物(Q1)の誘電率は1.45であった。」 「【0039】[例6(実施例)]硬化物(Q1)の片面に、厚さ18μmの銅箔を重ね、180℃、2時間、2MPaで成形し、厚さ0.5mmの銅張り積層板(S1)を得た。」 上記記載より、引用文献1Aには次の発明(以下、「引用発明1A」という。)が記載されている。 「ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉体100質量部に対して多孔質真球状シリカゲル100質量部を混合して混合物を得て、 混合物をプレス成形してシート状硬化物を得て、 硬化物の片面に銅箔を重ねて成形した高周波回路用銅張り積層板であって、 多孔質真球状シリカゲルの平均粒子径が3μmである高周波回路用銅張り積層板。」 イ 引用文献2Aには、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【0024】 本発明の電解銅箔は、その表面の一部がコブ状突起からなる表面粗度が2~4μmの凹凸面であることを特徴とする。かかる電解銅箔は、メルカプト基を持つ化合物並びにそれ以外の少なくとも1種以上の有機化合物及び塩化物イオンを添加した電解液を用いた電気分解で作成する。このようにして作成した銅箔の樹脂基板と接着する面(被接着面)の表面粗度は2~4μmの平滑な面に仕上がり、かつ、平滑な被接着面の一部にはコブ状の突起ができており、高周波伝送損失が良好な銅箔として提供することができる。」 「【0034】 (3)粗化処理後の性能(同一処理条件による処理)粗化処理し、カプセルめっきを施した処理銅箔の性能を表7に示す。 表7 [図:0001400453000001.jpg] 」 「【0038】 上述したように、比較例Dにおいては粗化処理を弱くすることにより明らかに接着強度の低下が見られた。本発明による実施例Cでは粗化処理を弱くすることにより若干の接着強度の低下は見られたが、比較例Dと比較すると十分な接着強度を有している。また、伝送損失は比較例Dとほとんど変わらない値である。このことから本発明を用いることにより伝送損失が良好であり、なおかつ高接着強度を有する銅箔、及びそのの製造が可能である。なお、本発明で作成した銅箔は表面粗度が小さく、高接着強度を有するため高周波用途以外のプリント回路用銅箔としても非常に適していることは勿論である。」 上記【0024】の記載より、引用文献2Aには次の技術が記載されている。 「樹脂基板と接着する面の表面粗度が2~4μmである銅箔。」 ウ 引用文献3Aには、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 圧延銅箔の再結晶焼鈍後の圧延面でのX線回折で求めた(200)面の積分強度(I(200))が、微粉末銅のX線回折で求めた(200)面の積分強度(Io(200))に対し、I(200)/Io(200)>40であり、該圧延面に電解めっきによる粗化処理を行った後の粗化処理面の算術平均粗さ(以下、Raとする)が0.02μm~0.2μm、十点平均粗さ(以下、Rzとする)が0.1μm~1.5μmであることを特徴とする高周波回路用粗化処理圧延銅箔。」 エ 引用文献4Aには、以下の事項が記載されている。 「ポリテロラフルオロエチレン 含有量(%)100」(1頁「2.組成、成分情報」の欄) オ 引用文献5Aには、以下の事項が記載されている。 「【0048】 金属張り積層板は、以下のセパレート形成方法によっても作製することができる。 まず、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PP(ポリプロピレン)フィルム、PE(ポリエチレン)フィルムなどの離型フィルム上に、ポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布して塗布層を形成した後、一定の硬化・乾燥条件(温度は80~160℃、時間は1~30分)で半硬化状態(以下、Bステージともいう)になるまで硬化・乾燥させてポリイミド樹脂層を得る。なお、離型フィルムの表面に離型処理を施すことにより、ポリイミド樹脂層との剥離性を向上させることができる。 【0049】 次に、ポリイミド樹脂層の樹脂面と金属箔の粗面とを貼り合わせて金属張り積層板を作製する。貼り合わせ方法は、プレスによる方法、熱ロールを使用したラミネート方法などを用いることができる。貼り合わせ条件は、温度が200~350℃、圧力が0.5~5MPaの範囲で行うことが好ましい。」 カ 引用文献6Aには、以下の事項が記載されている。 「【0071】 <接着シートの作製> 実施例1の接着剤を、ポリイミドフィルム(商品名「カプトン100EN」、膜厚25μm)に、乾燥後の厚みが12μmとなるようギャップコーターにて塗布した後、150℃で5分間乾燥させることによって接着シートを得た。比較例1の接着剤組成物についても同様にして接着シートを得た。 【0072】 <銅張積層板の作製> 次いで、各接着シートの接着面に、12μm厚の圧延銅箔(商品名「GHF5-93F-HA-V2」、JX金属(株)製、十点平均粗さ(Rz):0.45μm)の鏡面側を重ね合わせ、圧力5MPa、170℃及び30分間の条件で加熱プレスすることにより、積層体を作製した。比較例1の接着剤組成物についても同様にして積層体を得た。」 キ 引用文献7Aには、以下の事項が記載されている。 「【0001】 【発明が属する技術分野】本発明は、接続信頼性に優れ、かつ、配線パターンの接着強度に優れた回路基板およびその製造方法に関する。」 「【0068】第5の実施の形態では、絶縁体層601として、コア部分606に、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)の多孔質シートにエポキシ樹脂にシリカを分散した組成物を含浸した複合材料(厚み35μm、熱膨張係数:26ppm)を、表面部分605に、エポキシ樹脂(厚み5μm、熱膨張係数:60ppm)を用いた。また、配線層としては、厚み9μmの電解銅箔を用いた。インナービア602の上孔径は50μm、下孔径は45μmである(実施例13)。」 上記記載より、引用文献7Aには次の発明(以下、「引用発明7A」という。)が記載されている。 「コア部分606がフッ素樹脂の多孔質シートにエポキシ樹脂にシリカを分散した組成物を含浸した複合材料で、表面部分605がエポキシ樹脂である絶縁体層601と、 電解銅箔を用いた配線層からなる回路基板。」 ク 引用文献8Aには、以下の事項が記載されている。 「[0031] 含フッ素共重合体(a)を含む組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、含フッ素共重合体(a)以外の樹脂を含有してもよい。 含フッ素共重合体(a)以外の樹脂としては、電気的信頼性の特性を損なわない限り特に限定されるものではないが、たとえば含フッ素共重合体(a)以外の含フッ素共重合体、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。含フッ素共重合体(a)以外の含フッ素共重合体としては、たとえばテトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。 含フッ素共重合体(a)以外の樹脂としては、電気的信頼性の観点から、含フッ素共重合体(ただし含フッ素共重合体(a)を除く。)が好ましい。この場合、該含フッ素共重合体の融点が280℃以上320℃以下であると、耐熱性に優れ、後述のプリント基板を高温ではんだリフローしたり、該プリント基板に高温のはんだごてを押し付けたりした際に、熱による含フッ素樹脂層の膨れ(発泡)を抑制できる傾向にある。 含フッ素共重合体(a)を含む組成物は、含フッ素共重合体以外の樹脂を含有しないことが、含フッ素樹脂層の低誘電率、低誘電正接等の優れた電気特性を維持する点から好ましい。」 ケ 引用文献9Aには、以下の事項が記載されている。 「[0010] フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、エチレン〔Et〕-TFE共重合体〔ETFE〕、Et-クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、CTFE-TFE共重合体、TFE-HFP共重合体(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)〔FEP〕、TFE-PAVE共重合体(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)〔PFA〕、及び、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。 電気特性(誘電率・誘電正接)や耐熱性などの観点から、フッ素樹脂は、PFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種の含フッ素共重合体であることがより好ましい。」 コ 引用文献10Aには、以下の事項が記載されている。 「【0068】 フィルム1およびガラスクロス1(有沢製作所社製、ガラスクロス0634NS、単位面積質量48.5g/m2 、空隙率4.5%。)を、フィルム1/ガラスクロス1/フィルム1/フィルム1/ガラスクロス1/フィルム1の順序で積層し、高温ラミネーター(ヒラノ技研社製)を用いて、ラミネーション温度340℃、ライン速度0.2m/分で熱ラミネーションを行い、厚さ168μmのガラス繊維強化複合材料1(以下、複合材料1と記す。)を得た。該複合材料1の誘電率、誘電正接、熱膨張係数、および弾性率を評価した。結果を表1に示す。 【0069】 複合材料1および銅箔1(福田金属箔粉工業社製、電解銅箔CF-T4X-SVR-12)を、銅箔1/複合材料1/銅箔1の順序で積層し、真空プレス(北川精機社製)を用い、温度340℃、圧力3.7MPaの条件で5分間真空プレスし、厚さ200μmのプリント回路基板1を得た。 プリント回路基板1の断面を顕微鏡で観察した結果、ガラスクロス1が複合材料1からなる電気絶縁層(A)の表面から22μmの深さに配置されていることを確認した。 プリント回路基板1について、耐熱性、密着性、および伝送損失を評価した。結果を表1に示す。」 (2)当審の判断 ア 申立理由1(引用文献1Aを主引用例とする特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明1Aを対比すると、次のことがいえる。 (a)引用発明1Aの「ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉体」、「多孔質真球状シリカゲル」は、本件発明1の「フッ素樹脂」、「無機フィラー」に相当する。 引用発明1Aの「シート状硬化物」は、「ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉体」及び「多孔質真球状シリカゲル」を含んでいるので、本件発明1の「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」に相当する。 (b)引用発明1Aの「シート状硬化物」「の片面に銅箔を重ねて成形した高周波回路用銅張り積層板」は、本件発明1の「この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材」に相当する。 但し、本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Aはそのような特定がない点で相違する。 また、本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明1Aはそのような特定がない点で相違する。 (c)引用発明1Aの「多孔質真球状シリカゲルの平均粒子径が3μmである」ことは、本件発明1の「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」ことに含まれる。 上記(a)ないし(c)によれば、本件発明1と引用発明1Aとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材であって、 上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である高周波プリント配線板用基材。」 (相違点1A) 本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Aはそのような特定がない点。 (相違点2A) 本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明1Aはそのような特定がない点。 b 第29条第1項第3号に対する判断 以上のとおり、本件発明1と引用発明1Aとは相違点1A及び相違点2Aを有する。 したがって、本件発明1は引用文献1Aに記載された発明でない。 c 第29条第2項に対する判断 上記相違点1Aについて、特許異議申立人北岡弘章は、上記相違点1Aに係る構成である「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」に対して、引用文献2A及び引用文献3Aを引用している(異議申立書26頁下から4行ないし27頁25行)。 そこで、上記相違点1Aに係る構成が、引用発明1A、引用文献2A及び引用文献3Aに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たことであるか検討する。 引用文献2Aには、樹脂基板と接着する面の表面粗度が2~4μmである銅箔が記載されている(【0024】)。 ここで、引用文献2Aの「表面粗度」について検討すると、引用文献2Aには「表面粗度」がどのような物理量を示すのか説明されておらず、引用文献2Aの表面粗度が2~4μmである銅箔は、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の銅箔とはいえない。また、仮に引用文献2Aの「表面粗度」が、「最大高さ粗さ(Rz)」のことであったとしても、引用文献2Aの【0034】及び【0038】の記載から、表面粗度が2μm以下である比較例Dにおいて明らかに接着強度が低下することが読み取れるので、引用文献2Aの記載からは、樹脂基板と接着する最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の銅箔を導き出すことはできない。 さらに加えて、引用文献2Aの銅箔は、エポキシ樹脂からなるFR-4に貼り付けることを想定したものであり(【0034】、表7)、銅箔との接着力の小さなポリテトラフルオロエチレン樹脂粉体(フッ素樹脂)を用いた、引用発明1Aの高周波回路用銅張り積層板に適用する動機はない。 また、引用文献3Aには、粗化処理面の算術平均粗さRaが0.02μm~0.2μm、十点平均粗さRzが0.1μm~1.5μmである高周波回路用粗化処理圧延銅箔が記載されているが(請求項1)、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の銅箔は記載されていない。 したがって、上記相違点1Aに係る構成は、引用発明1A、引用文献2A及び引用文献3Aに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明2について a 対比 上記「(ア)a」の本件発明1と引用発明1Aの対比を踏まえると、本件発明2と引用発明1Aとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材であって、 上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であり、 上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である高周波プリント配線板用基材。」 (相違点3A) 本件発明2は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Aはそのような特定がない点。 (相違点4A) 本件発明2は「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下」であるのに対して、引用発明1Aはそのような特定がない点。 b 第29条第1項第3号に対する判断 以上のとおり、本件発明2と引用発明1Aとは相違点3A及び相違点4Aを有する。 したがって、本件発明2は引用文献1Aに記載された発明でない。 c 第29条第2項に対する判断 上記相違点3Aは、上記相違点1Aと同じである。 したがって、上記相違点3Aに係る構成は、引用発明1A、引用文献2A及び引用文献3Aに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献1Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件発明3ないし9について 本件発明3ないし9は、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1又は本件発明2と同様の理由により、引用文献1Aに記載された発明でない。また、本件発明3ないし9は、引用文献1Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 申立理由2(引用文献7Aを主引用例とする特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明7Aを対比すると、次のことがいえる。 (a)引用発明7Aの「シリカ」は、本件発明1の「無機フィラー」に相当する。 そうすると、引用発明7Aの「フッ素樹脂の多孔質シートにエポキシ樹脂にシリカを分散した組成物を含浸した複合材料で」ある「コア部分606」は、本件発明1の「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」に相当する。 (b)引用発明7Aの「フッ素樹脂の多孔質シートにエポキシ樹脂にシリカを分散した組成物を含浸した複合材料で」ある「コア部分606」と「電解銅箔を用いた配線層からなる回路基板」と本件発明1とは、「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材」である点で共通する。 但し、銅箔が、本件発明1は「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」「の少なくとも一方の面に積層され」ているのに対して、引用発明7Aは「表面部分605がエポキシ樹脂である絶縁体層601」に「電解銅箔」が積層されている点で相違する。 また、本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点で相違する。 さらに、本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点で相違する。 (c)本件発明1は「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」のに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点で相違する。 上記(a)ないし(c)によれば、本件発明1と引用発明1Aとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材。」 (相違点5A) 銅箔が、本件発明1は「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」「の少なくとも一方の面に積層され」ているのに対して、引用発明7Aは「表面部分605がエポキシ樹脂である絶縁体層601」に「電解銅箔」が積層されている点。 (相違点6A) 本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点。 (相違点7A) 本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点。 (相違点8A) 本件発明1は「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」のに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点。 b 第29条第1項第3号に対する判断 以上のとおり、本件発明1と引用発明7Aとは相違点5Aないし相違点8Aを有する。 したがって、本件発明1は引用文献7Aに記載された発明でない。 c 第29条第2項に対する判断 上記相違点6Aについて 上記相違点6Aは、上記相違点1Aと同じである。 したがって、上記相違点6Aに係る構成は、引用発明7A、引用文献2A及び引用文献3Aに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献7Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明2について a 対比 上記「(ア)a」の本件発明1と引用発明7Aの対比を踏まえると、本件発明2と引用発明7Aとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材。」 (相違点9A) 銅箔が、本件発明1は「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」「の少なくとも一方の面に積層され」ているのに対して、引用発明7Aは「表面部分605がエポキシ樹脂である絶縁体層601」に「電解銅箔」が積層されている点。 (相違点10A) 本件発明2は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点。 (相違点11A) 本件発明2は「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下」であるのに対して、引用発明1Aはそのような特定がない点。 (相違点12A) 本件発明2は「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」のに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点。 (相違点13A) 本件発明2は「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である」のに対して、引用発明7Aはそのような特定がない点。 b 第29条第1項第3号に対する判断 以上のとおり、本件発明2と引用発明7Aとは相違点9A及び相違点13Aを有する。 したがって、本件発明2は引用文献7Aに記載された発明でない。 c 第29条第2項に対する判断 上記相違点10Aは、上記相違点1Aと同じである。 したがって、上記相違点10Aに係る構成は、引用発明7A、引用文献2A及び引用文献3Aに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献7Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件発明3ないし9について 本件発明3ないし9は、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1又は本件発明2と同様の理由により、引用文献7Aに記載された発明でない。また、本件発明3ないし9は、引用文献7Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由3(第36条第6項第1号)について (ア)特許異議申立人北岡弘章の主張 本件発明9に「誘電率の25℃から120℃の範囲での温度による変化が2%以下である」ことが特定されている。 一方、本件明細書には、誘電率の測定条件は何ら記載されておらず、係る測定方法も周知でない。また、実施例において誘電率の測定もない。 したがって、「誘電率の25℃から120℃の範囲での温度による変化が2%以下である」とのみ特定することによって、本件特許発明の課題が解決できるとは認められず、本件発明9の範囲まで本件明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できない。(特許異議申立書44頁8ないし22行) (イ)当審の判断 誘電率の25℃から120℃の範囲での温度による変化の割合は、25℃から120℃の範囲で最小の誘電率と最大の誘電率との比較により求める値であるから測定条件に依存しない値である。そして、誘電率の測定方法は周知である。 さらに、本件明細書の段落【0018】には、誘電率の25℃から120℃の範囲での温度による変化が2%以下であると、高周波デバイスの伝導特性、アンテナ特性等の変化を抑制することができることが記載されている。 したがって、本件発明9において「誘電率の25℃から120℃の範囲での温度による変化が2%以下である」と特定することによって、本件特許発明の課題は解決できる。 よって、上記主張を採用することができない。 エ 申立理由4(特許法第36条第6項第2号)について (ア)特許異議申立人北岡弘章の主張 本件発明9に「誘電率の25℃から120℃の範囲での温度による変化が2%以下である」ことが特定されている。 一般的に誘電率は温度依存性と周波数依存性を有するが、本件明細書には、誘電率の測定条件として周波数が開示されていない。 したがって、本件発明9の発明特定事項の内容に技術的に不備があり、本件発明9はその発明が不明確である。(特許異議申立書44頁23ないし最終行) (イ)当審の判断 誘電率の25℃から120℃の範囲での温度による変化の割合は、25℃から120℃の範囲で最小の誘電率と最大の誘電率との比較により求める値であるから、周波数などの測定条件に依存しない値である。 したがって、本件発明9の発明特定事項に技術的な不備はない。 よって、上記主張を採用することができない。 オ まとめ したがって、特許異議申立人北岡弘章の申立理由1ないし4にかかる主張は、採用することができない。 3 特許異議申立人河井清悦による申立理由について (1)引用文献の記載 ア 引用文献1Bには、以下の事項が記載されている。 「【0022】 即ち、表皮の深さは、周波数が高くなるに従い浅くなる。例えば、銅の場合の表皮の深さdは、d=6.60×10-2/√fとなり、周波数の平方根に反比例する。GHz帯以上の周波数に対しては、表面粗さRz(十点平均粗さ:JIS B0601-1994)を2.0μm以下に調節することにより、伝送遅延や伝送損失を充分に小さくすることができる。」 「【0030】 本発明によれば、リフロー時の反りの発生が充分に抑制されると共に、誘電体層の比誘電率が抑制され、充分に優れた高周波特性を発揮させることができるフッ素樹脂基板を提供することができる。」 「【0033】 1.フッ素樹脂基板の構成 図1は本実施の形態のフッ素樹脂基板の構成を模式的に示す断面図であり、フッ素樹脂基板1は、金属導体12と、金属導体12に密着された誘電体層11を備えている。また、誘電体層11は、フッ素樹脂11aとガラス製の中空ビーズ11bとからなる。」 「【0038】 また、中空ビーズ11bのフッ素樹脂11aへの添加量が少な過ぎる場合には誘電体層11の反りの発生を防止することができず、一方、多過ぎる場合には、金属導体12に密着しない。中空ビーズの添加量は、求められる誘電体層の特性、中空ビーズの比誘電率と共に、上記のことを考慮して適宜適切な値に設定される。具体的には、フッ素樹脂100質量部に対して、1~50質量部程度が好ましい。」 「【0042】 3.金属導体 次に、金属導体12について説明する。金属導体12には粗面化処理されていないCu箔、具体的には、表面粗さRz(JIS B 0601-1994)が2.0μm以下の表面が平滑なCu箔が好ましく用いられる。これにより、前記のように表皮効果による伝送遅延、伝送損失が低減される。また、金属導体12にプライマー処理を施さないことがさらに好ましい。なお、厚みは1~2000μmに設定され、好ましくは10~300μmに設定される。これにより、十分な強度が確保されるとともに、適切な厚みで表皮効果を利用することができる。」 上記記載より、引用文献1Bには次の発明(以下、「引用発明1B」という。)が記載されている。 「金属導体12と、金属導体12に密着された誘電体層11を備えている高周波用フッ素樹脂基板1であって、 誘電体層11は、フッ素樹脂11aとガラス製の中空ビーズ11bとからなり、 中空ビーズの添加量は、フッ素樹脂100質量部に対して、1~50質量であり、 金属導体12は、十点平均粗さが2.0μm以下のCu箔である高周波用フッ素樹脂基板1。」 イ 引用文献2Bには、以下の事項が記載されている。 「【0119】 〔測定・評価用サンプルの調製〕 (1)回路基板の下地処理 内層回路の形成されたガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅箔厚さ18μm、基板厚さ0.3mm、松下電工(株)製「R5715ES」)の両面を、メック(株)製「CZ8100」に浸漬し1μmエッチングして銅表面の粗化処理を行った。」 ウ 引用文献3Bの1には、以下の事項が記載されている。 「【0057】 <導電パターン> 導電パターン3は、誘電体層2の表面に積層され、当該プリント配線板の回路を構成する。 【0058】 上記導電パターンの主成分としては、例えば無酸素銅等の銅、アルミニウム、銀、金、ニッケル、これらの合金、ステンレス鋼などが挙げられる。これらの中で、銅又は銅合金が好ましく、銅がより好ましい。」 「【0060】 導電パターン3の誘電体層2側面の十点平均粗さRzの上限としては、1μmであり、0.9μmが好ましく、0.8μmがより好ましい。一方、上記Rzの下限としては、0.1μmが好ましく、0.3μmがさらに好ましい。上記Rzが上記上限を超えると、表皮効果により伝送速度の低下や伝送損失の増大を招くおそれがある。逆に、上記Rzが上記下限未満の場合、当該プリント配線板1の製造コストが増加するおそれがある。」 エ 引用文献3Bの2には、以下の事項が記載されている。 「[0007] 本発明の回路基板は表面粗度が極めて低い銅箔を用いているため、高周波帯においても伝送損失が極めて少なく、また、接着用フィルムを用いなくとも、フッ素樹脂フィルム層と金属との接着性及び寸法安定性に優れている。 [0008] 本発明において用いられる銅箔としては、少なくとも一方の面の二次元表面粗度(Ra)が0.2μm未満の範囲内にあることが好ましく、0.15μm以下の範囲内にあることがより好ましい。表面粗度が0.2μm以上あると伝送損失が大きくなり、実用性能を満足しないことがある。銅箔の種類には電解箔と圧延箔があるが、どちらでも使用することができる。銅箔の厚さとしては通常5~50μmであり、好ましくは8~40μmである。」 オ 引用文献4Bには、以下の事項が記載されている。 「【0111】 (銅張り積層板及び多層基板) 上記エポキシ樹脂材料は、銅張り積層板を得るために好適に用いられる。上記銅張り積層板の一例として、銅箔と、該銅箔の一方の表面に積層されたBステージフィルムとを備える銅張り積層板が挙げられる。この銅張り積層板のBステージフィルムが、上記エポキシ樹脂材料により形成される。該Bステージフィルムを予備硬化させることにより、予備硬化物を有する銅張り積層板を得ることができる。 【0112】 上記銅張り積層板の上記銅箔の厚さは特に限定されない。上記銅箔の厚さは、1~50μmの範囲内であることが好ましい。また、エポキシ樹脂材料を硬化させた硬化物と銅箔との接着強度を高めるために、上記銅箔は微細な凹凸を表面に有することが好ましい。凹凸の形成方法は特に限定されない。上記凹凸の形成方法としては、公知の薬液を用いた処理による形成方法等が挙げられる。」 (2)当審の判断 ア 申立理由1(特許法第29条第2項)について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明1Bを対比すると、次のことがいえる。 (a)引用発明1Bの「ガラス製の中空ビーズ11b」は、本件発明1の「無機フィラー」に相当する。 引用発明1Bの「フッ素樹脂11aとガラス製の中空ビーズ11bとからな」る「誘電体層11」は、本件発明1の「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」に相当する。 (b)引用発明1Bの「金属導体12と、金属導体12に密着された誘電体層11を備えている高周波用フッ素樹脂基板1」は、本件発明1の「この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材」に相当する。 但し、本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Bは「十点平均粗さが2.0μm以下のCu箔」である点で相違する。 また、本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明1Bはそのような特定がない点で相違する。 さらに、本件発明1は「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」であるのに対して、引用発明1Bはそのような特定がない点で相違する。 上記(a)ないし(b)によれば、本件発明1と引用発明1Aとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材。」 (相違点1B) 本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Bは「十点平均粗さが2.0μm以下のCu箔」である点。 (相違点2B) 本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明1Bはそのような特定がない点。 (相違点3B) 本件発明1は「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」であるのに対して、引用発明1Bはそのような特定がない点。 b 判断 上記相違点1Bについて 引用文献2Bには、ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板の銅表面の粗化処理を行ったことが記載されている(【0119】)。 引用文献3Bの1には、誘電体層側の面の十点平均粗さRzが0.1μmから1μmである銅の導電パターンが記載されている(【0060】)。 引用文献3Bの2には、一方の面の二次元表面粗度(Ra)が0.2μm未満の銅箔が記載されている([0008])。 引用文献4Bには、微細な凹凸を表面に有する銅箔が記載されている(【0112】)。 しかしながら、引用文献2B、引用文献3Bの1、引用文献3Bの2及び引用文献4Bには、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の銅箔は記載されていない。 したがって、上記相違点1Bに係る構成は、引用発明1B、引用文献2Bないし引用文献4Bに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1Bに記載された発明、引用文献2Bないし引用文献4Bに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明2について a 対比 上記「(ア)a」の本件発明1と引用発明1Bの対比を踏まえると、本件発明2と引用発明1Bとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材。」 (相違点4B) 本件発明2は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Bは「十点平均粗さが2.0μm以下のCu箔」である点。 (相違点5B) 本件発明2は「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下」であるのに対して、引用発明1Bはそのような特定がない点。 (相違点6B) 本件発明2は「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」であるのに対して、引用発明1Bはそのような特定がない点。 (相違点7B) 本件発明2は「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下」であるのに対して、引用発明1Bは「中空ビーズの添加量は、フッ素樹脂100質量部に対して、1~50質量であ」る点。 b 判断 上記相違点4Bは、上記相違点1Bと同じである。 したがって、上記相違点4Bに係る構成は、引用発明1B、引用文献2Bないし引用文献4Bに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献1Bに記載された発明、引用文献2Bないし引用文献4Bに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件発明3ないし9について 本件発明3ないし9は、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1又は本件発明2と同様の理由により、引用文献1Bに記載された発明、引用文献2Bないし引用文献4Bに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 申立理由2(第36条第6項第1号)について (ア)特許異議申立人河井清悦の主張 a 本件特許発明の請求項1、2では「フッ素樹脂」の種類および「無機フィラー」の種類並びに粒子径等の特性、「フッ素樹脂」に対する「無機フィラー」の割合が何ら特定されていない。 ここで、用いるフッ素樹脂の種類や無機フィラーの種類、フッ素樹脂に対する無機フィラーの割合によって、請求項1の構成(1D)「誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比」が大きく変わることは、当業者にとって自明な技術常識である。 また、無機フィラーの種類並びに粒子径等の特性、フッ素樹脂に対する無機フィラーの割合によって、請求項2の構成(2D)「所定に領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積」が大きく変わることは、当業者にとって自明な技術常識である。 このように、本件特許発明の詳細な説明においては、出願時の技術常識に照らしても、任意のフッ素樹脂や任意の無機フィラーを用いた場合や、任意のフッ素樹脂に対する無機フィラーの割合である場合にまで、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない。 そのため、本件特許発明の請求項1、2のように、「フッ素樹脂」の種類および「無機フィラー」の種類並びに粒子径等の特性、「フッ素樹脂」に対する「無機フィラー」の割合について、何ら特定しない範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を一般化できるとはいえない。 つまり、本件特許発明の請求項1、2は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。(特許異議申立書42頁下から4行ないし44頁下から6行) b 本件特許発明の請求項1、2では「フッ素樹脂」の種類および「無機フィラー」の種類並びに粒子径等の特性、「フッ素樹脂」に対する「無機フィラー」の割合が何ら特定されていない。 ここで、用いるフッ素樹脂の種類や無機フィラーの種類、フッ素樹脂に対する無機フィラーの割合によって、請求項1の構成(1D)のパラメータ「誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比」が大きく変わることは、当業者にとって自明な技術常識である。 また、無機フィラーの種類並びに粒子径等の特性、フッ素樹脂に対する無機フィラーの割合によって、請求項2の構成(2D)のパラメータ「所定の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積」が大きく変わることは、当業者にとって自明な技術常識である。 してみると、請求項1、2に係る発明のように、「フッ素樹脂」の種類および「無機フィラー」の種類並びに粒子径等の特性、「フッ素樹脂」に対する「無機フィラー」の割合が特定されていない場合にも、接着力が良好で、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材とできることを合理的に推測することは困難である。 つまり、「フッ素樹脂」の種類および「無機フィラー」の種類並びに粒子径等の特性、「フッ素樹脂」に対する「無機フィラー」の割合について、何ら特定しない範囲まで発明を拡張ないし一般化できるといえない。(特許異議申立書44頁下から5行ないし46頁1行) (イ)当審の判断 上記aの主張について (a)本件発明1について 本件訂正請求により、本件発明1は「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」という発明特定事項が追加された。 そして、本件発明1は、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比を0.08以下にすることによって、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の平滑銅箔に対しても、接着力を高めることができることを見いだして(【0010】、【0011】)、「接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供する」という課題(【0010】)を解決したのである。 そうすると、用いるフッ素樹脂や無機フィラーの種類等に関係なく、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素原子に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下になっていれさえすれば、上記課題を解決できることは明らかである。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されている。 (b)本件発明2について 本件訂正請求により、本件発明2は「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であり、上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である」という発明特定事項が追加された。 そして、本件発明2は、誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下にすることによって、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の平滑銅箔に対しても、接着力を高めることができることを見いだして(【0012】、【0013】)、「接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供する」という課題(【0010】)を解決したのである。 そうすると、用いるフッ素樹脂や無機フィラーの種類に関係なく、誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下になっていれさえすれば、上記課題を解決できることは明らかである。 したがって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されている。 よって、上記aの主張を採用することができない。 上記bの主張について 上記aの主張で判断したように、どのようなフッ素樹脂や無機フィラーを用いるかに関係なく、本件発明1は、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素原子に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下に、本件発明2は、誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下になってさえすれば、接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供するという課題を解決できるのであるから、「フッ素樹脂」の種類および「無機フィラー」の種類等について特定する必要はない。 よって、上記bの主張を採用することができない。 ウ 申立理由3(第36条第4項第1号)について (ア)特許異議申立人河井清悦の主張 本件特許発明の請求項1、2では「フッ素樹脂」の種類および「無機フィラー」の種類並びに粒子径等の特性、「フッ素樹脂」に対する「無機フィラー」の割合が何ら特定されていない。 してみると、請求項1,2の高周波プリント配線板用基材について、どのような種類のフッ素樹脂を用い、どのような種類および特性の無機フィラーを用い、フッ素樹脂に対する無機フィラーの割合をどのような割合とすればよいのか、合理的に推測することは困難であり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要である。(特許異議申立書46頁9行ないし48頁4行) (イ)当審の判断 上記「イ (イ)」で検討したように、どのようなフッ素樹脂や無機フィラーを用いるかに関係なく、本件発明1は、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素原子に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下に、本件発明2は、誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下になってさえすれば、接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供するという課題を解決できるのである。 そうすると、本件発明1、2において、フッ素樹脂および無機フィラーの種類等の特定がなくとも、過度の試行錯誤は必要ない。 よって、上記主張を採用することができない。 エ 申立理由4(第36条第6項第2号)について (ア)特許異議申立人河井清悦の主張 a 本件特許発明の請求項1は「(1D)上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下である高周波プリント配線板用基材。」との発明特定事項を有している。 また、本件特許発明の請求項2は「(2D)上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下である高周波プリント配線板用基材。」との発明特定事項を有している。 ここで、用いるフッ素樹脂の種類や無機フィラーの種類、フッ素樹脂に対する無機フィラーの割合によって、構成(1D)や構成(2D)のパラメータが大きく変わることは、当業者にとって自明な技術常識である。 つまり、構成(1D)や構成(2D)は、発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかであるため、発明が不明確である。(特許異議申立書48頁13行ないし49頁12行) b 構成(2D)について、「銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積」、「銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積」との記載は、当該領域における「任意の距離」で、無機フィラーの占める総断面積を算出すればよいとすれば、恣意的に構成(2D)のパラメーターを満たす領域を選択できてしまうことなる。(特許異議申立書49頁13ないし20行) c 構成(2D)について、研磨断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して画像を得て面積の比を算出することが記載されているが(明細書段落【0051】、【0079】)、どの程度において(どの程度の深さまで)研磨を行うのか記載されていないし、観察倍率(視野の広さ)についても記載されていないため、ある具体的な物が請求項に係る発明に入るか否かを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。(特許異議申立書49頁21ないし27行) (イ)当審の判断 上記aの主張について 本件発明1の「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下であり」及び本件発明2の「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下であり」の記載は明確であり、発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できないことはない。 また、上記「イ (イ)」で検討したように、どのようなフッ素樹脂や無機フィラーを用いるかに関係なく、本件発明1は、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素原子に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下に、本件発明2は、誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下になってさえすれば、接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供するという課題を解決できるのである。そうすると、発明特定事項が不足していることはない。 よって、上記aの主張を採用することができない。 上記bの主張について 構成(2D)の「銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積」の記載によれば、無機フィラーの占める総断面積を求める対象の領域は、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積、つまり、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の全ての領域であり、恣意的に領域を選択できない。 同様に「銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積」の記載によれば、無機フィラーの占める総断面積を求める対象の領域は、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の全ての領域であり、恣意的に領域を選択できない。 よって、上記bの主張を採用することができない。 上記cの主張について 構成(2D)の「銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積」、「銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積」の記載よれば、無機フィラーの占める総断面積を求める対象の領域は、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の全ての領域、及び、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の全ての領域であり、この領域が全て露出するまで研磨することは明らかである。 よって、上記bの主張を採用することができない。 オ まとめ したがって、特許異議申立人河井清悦の申立理由1ないし4にかかる主張は、採用することができない。 4 特許異議申立人神保良男による申立理由について (1)引用文献の記載 ア 引用文献1Cには、以下の事項が記載されている。 (ア)「The performance of high speed computers is becoming increasingly limited by current methods of interconnection, from the printed wiring board (PWB) level on up」(1欄33ないし35行) (当審訳:高速コンピュータの性能は、プリント配線基板(PWB)レベルからの現在の相互接続方法によってますます制限されるようになってきている。) (イ)「The coated ceramic, reinforced fluoropolymer of the present invention offers a low dielectric constant, for low signal propagation delay; low crosstalk and reduced board thickness; low loss at high frequencies, providing significant reduction in rise-time degradation; excellent control of dielectric constant and thickness, vital for impedance control; and improved thermal conductivity for better heat dissipation. The fluoropolymer based PWB substrate of the present invention also exhibits low CTE in the X-Y plane and the material's inherent compliancy and dimensional stability make it suitable for surface mount applications; while its low CTE in the Z direction yields excellent plated-through-hole reliability. These excellent electrical and thermal expansion characteristics make is suitable for high speed digital and microwave applications requiring surface mounted devices and/or multilayer constructions.」(2欄64行ないし3欄12行) (当審訳:本発明のコーティングされたセラミック強化フルオロポリマーは、低い誘電率、低い信号伝搬遅延;低いクロストークおよび低減された基板厚さ;高周波数での低い損失を提供し、立ち上がり時間劣化の著しい低減を提供する;インピーダンス制御に不可欠な誘電率および厚さの優れた制御;ならびにより良好な熱放散のための改善された熱伝導率を提供する。本発明のフルオロポリマーベースのPWB基板はまた、X-Y平面において低いCTEを示し、材料の固有のコンプライアンスおよび寸法安定性により、表面実装用途に適したものとなり、Z方向におけるその低いCTEにより、優れためっきスルーホール信頼性が得られる。これらの優れた電気および熱膨張特性は、表面実装デバイスおよび/または多層構造を必要とする高速デジタルおよびマイクロ波用途に適している。) (ウ)「Preferably, the fluoropolymer used in the present invention is polytetrafluoroethylene (PTFE) although examples of other fluoropolymers include copolymers of fluorinated monomers such as hexa fluoropropene (HFP), tetrafluoroethylene (TFE), and perfluoro alkyl vinyl ether (PAVE). A small amount of microfiberglass (i.e., having a mean diameter on the order of 1 micron) is preferred for improved dimensional stability in the X-Y plane. It has been found that relative weight percentages of the respective component materials which provide the electrical and thermal advantages described below are 33-40 weight percent fluoropolymer; 55-71 weight percent ceramic filler with at least 1 weight percent (based upon the weight percent of the ceramic filler) silane coating and 0-2 weight percent microfiberglass. Also, it is clear from a review of TABLES 1-3 that the present invention is defined by a volume fraction of ceramic filler of about 50% of the total substrate material. A preferred composition for the of the present invention is 34-36% fluoropolymer (PIFE), 62-64% silica filler (SiO2) having a 1% percent coating of silane thereon, and 1% microfiberglass. 」(4欄43ないし63行) (当審訳:好ましくは、本発明において使用されるフルオロポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であるが、他のフルオロポリマーの例としては、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、およびパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)などのフッ素化モノマーのコポリマーが挙げられる。X-Y平面における寸法安定性を改善するためには、少量のマイクロファイバーガラス(すなわち、1ミクロン程度の平均直径を有する)が好ましい。以下に記載される電気的および熱的利点を提供するそれぞれの成分材料の相対重量%は、33-40重量%のフルオロポリマー、55-71重量%の少なくとも1重量%(セラミック充填剤の重量%に基づく)のシランコーティングを有するセラミックフィラー、および0-2重量%のマイクロファイバーガラスであることが見出された。また、表1-3の検討から、本発明は、全基板材料の約50%のセラミック充填剤の容積率によって定義されることが明らかである。本発明の好ましい組成物は、34-36%のフルオロポリマー(PTFE)、1%のシラン被覆を有する62-64%のシリカ充填剤(SiO2)、および1%のミクロガラス繊維である。追加のセラミック(シリカ)充填剤(PTFEを犠牲にして)は、より低い熱膨張係数をもたらし、したがって、表面実装信頼性を改善する。しかしながら、セラミック充填剤レベルを増加させると、凝集強度が低下し、回路パターンをエッチングした後の寸法変化が大きくなる。少量(1%)のマイクロファイバーガラスは、エッチング後の寸法安定性を改善するようであり、繊維含有量の増加は、シート厚さを2.5ミル以下にする場合に加工上の問題を呈する。) (エ)「Turning now to FIGS. 1 and 2, a PWB is shown generally at 10. PWB 10 includes substrate 12 comprised of the ceramic filled fluoropolymeric material of the present invention as described above with a plurality of conductive traces 14 formed on substrate 12 using any suitable and well known technique.」(5欄5ないし10行) (当審訳:次に図1および図2を参照すると、PWBが全体的に10で示されている。PWB10は、上述の本発明のセラミックが充填されたフルオロポリマー材料からなる基板12と、任意の適切な周知の技術を用いて基板12上に形成された複数の導電性トレース14とを含む。) (オ)「Samples were made (1) with standard filler size distribution (mean particle diameter of roughly 10-15μm); 」(9欄45ないし46行) (当審訳:試料は、(1)標準的なフィラー粒度分布(平均粒径約10-15μm)を有するもの) (カ)「Some key thermal/mechanical properties of several materials are listed in Table 8. The two materials listed at the bottom of the table are reference materials: alumina is often used as a chip carrier material, and copper is usually the metal conductor on a PWB」(12欄57ないし61行) (当審訳:いくつかの材料のいくつかの重要な熱的/機械的特性を表8に列挙する。表の下部に列挙された2つの材料は参照材料であり、アルミナはチップキャリア材料として使用されることが多く、銅は通常PWB上の金属導体である。他の材料はすべて、フルオロポリマー材料(PTFE/ガラス、RO-2800)、特殊強化材(ポリイミド/石英、ポリイミド/KEVLAR)、および従来の材料(ポリイミド/ガラス、エポキシ/ガラス)のカテゴリーに分けることができるPWB材料である。) (キ)上記記載より、引用文献1Cにはプリント配線基板に関して、次の事項が記載されている。 ・上記(ア)によれば、PWBはプリント配線基板のことである。 ・上記(エ)によれば、PWB10は、セラミックが充填されたフルオロポリマー材料からなる基板12と、基板12上に形成された複数の導電性トレース14とを含んでいる。 ・上記(ウ)によれば、フルオロポリマー材料は、33-40質量%のフルオロポリマーと、55-71質量%のセラミックフィラーを含んでいる。 ・上記(オ)によれば、セラミックフィラーの平均粒子径が約10-15μmである。 ・上記(カ)によれば、PWB上の金属導体、即ち導電性トレース14は銅である。 ・上記(イ)によれば、フルオロポリマーベースのPWB基板は、高速デジタルおよびマイクロ波用途に適している。 (ク)以上のことより、引用文献1Cには次の発明(以下、「引用発明1C」という。)が記載されている。 「セラミックが充填されたフルオロポリマー材料からなる基板12と、 基板12上に形成された導電トレース14を含むプリント配線基板であって、 フルオロポリマー材料は、33-40質量%のフルオロポリマーと、55-71質量%のセラミックフィラーを含み、 セラミックフィラーの平均粒子径が約10-15μmであり、 導電トレース14は銅である、 高速デジタル及びマイクロ波用途に適しているプリント配線基板。」 イ 引用文献2Cには、以下の事項が記載されている。 「【0060】 本発明は一側面において、銅箔の光沢面側の表面について、レーザー顕微鏡で測定される表面粗さRa(算術平均粗さ)が0.25μm以下、且つ、レーザー顕微鏡で測定される表面粗さRz(十点平均粗さ)が1.10μm以下であり、200℃で30分間加熱した後又は前記130℃で30分間加熱した後に層状構造を有する銅箔である。 なお、本発明において、銅箔の「光沢面」とは、樹脂と積層される側とは反対側の面、或いは、エッチングにより回路パターンを形成する際にエッチング液を塗布される側の面を意味する。」 ウ 引用文献3Cには、以下の事項が記載されている。 「【0015】 本発明の銅箔は一実施形態において、前記銅箔は一方または両方の面に表面処理面を有し、表面処理面の算術平均粗さRaが0.05μm~0.40μmであり、十点平均粗さRzが0.25μm~2.0μmであり、レーザー顕微鏡を用いて測定した三次元表面積をA、前記三次元表面積Aを測定した視野を平面視した際の二次元表面積をBとした場合に、表面積比A/Bが1.5~3.0である。」 エ 引用文献4Cには、以下の事項が記載されている。 「[0025] 金属導体(金属基材)としては、銅、アルミニウム、鉄、ニッケルや、SUS鋼、アルミニウム合金等の合金やこれらの複合体を用いることができるが、これらの内でも、銅やアルミニウムは導電率が特に高いため、これらの箔を金属導体(金属基材)として用いることにより、伝送損失がより小さい高周波回路基板を提供することができる。これらの内でも、導電性、化学的安定性、コストの観点より、銅箔が好ましい。 [0026] 請求項4に記載の発明は、 前記金属導体の表面粗さRz(JIS B 0601-1994)が、2.0μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の高周波回路基板である。」 オ 引用文献5Cには、以下の事項が記載されている。 (ア)明細書の記載 「【0002】 近年、携帯電話に代表される電子機器の小型化、軽量化に対する要求は高まってきており、それに伴い機器の小型化、軽量化に有利なフレキシブル回路基板は電子技術分野において広く使用されるようになってきている。そして、その中でもポリイミド樹脂を絶縁層とするフレキシブル回路基板は、その耐熱性、耐薬品性などが良好なことから従来から広く用いられている。最近の電子機器の小型化により、回路の集積度は上がってきており、情報処理の高速化とも相まって、機器内に生じる熱の放熱手段が注目されている。」 「【0004】 しかし、これらのポリイミドフィルムを銅箔などの導体層に積層してフレキシブル基板用積層体としようとする場合、通常、エポキシ系接着剤や熱可塑性樹脂を接着剤として用いる必要がある。この接着層の介在は、導体層に生じる熱の放熱を阻害する要因になるばかりでなく、フレキシブル基板として求められる耐熱性、屈曲性などの諸特性の低下を招く。そこで、導体層と絶縁層との実用的接着強度を有し、かつ絶縁層の熱伝導率低下を抑制するフレキシブル基板用積層体やこれらに用いられる熱伝導性ポリイミドフィルムの提供が望まれていた。」 「【0006】 本発明は、熱伝導特性に優れる絶縁層を有し、導体層と絶縁層との実用的接着強度を有し、更にフレキシブル配線基板として要求される耐熱性、耐屈曲性、寸法安定性の良好なフレキシブル基板用積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムを提供することを目的とする。」 「【0057】 合成例1~10 ポリアミック酸A~Jを合成するため、攪拌装置を備えた500mlセパラブルフラスコを超音波装置の水浴に浸し、窒素気流下で、高熱伝導性の球状アルミナフィラー(最大粒子径15μm、平均粒子径が0.6μmのフィラー20wt%の混合フィラー、比表面積0.65m2/g)とDMAcを加えて、超音波を照射しながら約2時間攪拌した。次に、表1に示したジアミンを攪拌しながら加え溶解させた後、攪拌を維持したまま、表1に示したテトラカルボン酸二無水物を加えた。その後、室温で3.5時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体となるポリアミック酸A~Jの粘稠な溶液を得た。なお、表1~2中のジアミン、テトラカルボン酸二無水物及びフィラーの数値は、各成分の重量部を表す。また、アルミナフィラーの含有率を併せて示すが、合成例10ではアルミナフィラーを使用していない。」 「【0064】 【表1】 [図:0001400453000002.jpg] 」 「【0066】 実施例1 厚み18μmの銅箔(圧延銅箔、Rz=0.7μm)上に、合成例10で得たポリアミック酸樹脂Jの溶液を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、120~140℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に合成例2で得たポリアミック酸樹脂Bの溶液を硬化後の厚みが23μmとなるように塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、130~360℃の温度範囲で、段階的に30分かけて昇温加熱して、銅箔上に2層のポリイミド層からなるフレキシブル基板用積層体M1を作製した。銅箔上のポリイミド層の厚みは、銅箔側からJ/Bの順に2/23μmである。フレキシブル基板用積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために上記と同様に銅箔をエッチング除去してポリイミド樹脂フィルムM1を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗(TPR)、MITをそれぞれ評価した。また、フレキシブル基板用積層体の屈曲性やポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。なお、積層体M1から得られるポリイミド樹脂フィルムをフィルムM1とし、以下同様とする。」 (イ)上記記載より、引用文献5Cにはフレキシブル基板用積層体に関して、次の事項が記載されている。 ・【0057】によれば、合成例2のポリアミック酸の溶液は、平均粒子径が0.6μmの球状アルミナフィラーを含んだものであり、合成例10のポリアミック酸の溶液は、アルミナフィラーを含んでいないことが読み取れる。 ・【0066】によれば、銅箔(Rz=0.7μm)上に、合成例10で得たポリアミック酸樹脂の溶液を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、その上に合成例2で得たポリアミック酸樹脂の溶液を硬化後の厚みが23μmとなるように塗布し、加熱して、銅箔上に2層のポリイミド層からなるフレキシブル基板用積層体を得たことが読み取れる。 ・表1より、合成例2は、フィラー含有率が50wt%であることが読み取れる。 (ウ)引用発明5C 上記(イ)の記載より、引用文献5Cには次の発明(以下、「引用発明5C」という。)が記載されている。 「Rzが0.2μmの銅箔上に、アルミナフィラーを含んでいないポリアミック酸樹脂の溶液を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、 その上に、平均粒子径が0.6μmの球状アルミナフィラーを50wt%含んだポリアミック酸樹脂の溶液を硬化後の厚みが23μmとなるように塗布して加熱した、 銅箔と2層のポリイミド層からなるフレキシブル基板用積層体。」 (2)当審の判断 ア 申立理由1(引用文献1Cを主引用例とする特許法第29条第2項)について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明1Cを対比すると、次のことがいえる。 (a)引用発明1Cの「フルオロポリマー」は、本件発明1の「フッ素樹脂」に相当する。 また、引用発明1Cの「セラミック」は「フルオロポリマー材料」に充填されるものであるから、本件発明1の「無機フィラー」に相当する。 したがって、引用発明1Cの「セラミックが充填されたフルオロポリマー材料からなる基板12」は、本件発明1の「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」に相当する。 (b)引用発明1Cの「基板12上に形成された」「銅である」「導電トレース14を含む」「高速デジタル及びマイクロ波用途に適しているプリント配線基板」は、本件発明1の「この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材」に相当する。 但し、本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Cはそのような特定がない点で相違する。 また、本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明1Cはそのような特定がない点で相違する。 さらに、本件発明1の「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下」であるのに対して、引用発明1Cの「セラミックフィラーの平均粒子径が約10-15μm」である点で相違する。 上記(a)ないし(b)によれば、本件発明1と引用発明1Cとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材。」 (相違点1C) 本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Cはそのような特定がない点。 (相違点2C) 本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明1Cはそのような特定がない点。 (相違点3C) 本件発明1の「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下」であるのに対して、引用発明1Cのセラミックフィラーの平均粒子径が約10-15μm」である点。 b 判断 上記相違点1Cについて 引用文献2Cには、表面粗さRa(算術平均粗さ)が0.25μm以下、且つ、表面粗さRz(十点平均粗さ)が1.10μm以下の銅箔が記載されている(【0060】)。 引用文献3Cには、算術平均粗さRaが0.05μm~0.40μmであり、十点平均粗さRzが0.25μm~2.0μmである銅箔が記載されている(【0015】)。 引用文献4Cには、表面粗さRz(JIS B 0601-1994)が、2.0μm以下の銅箔が記載されている([0025]、[0026])。ここで、「JIS B 0601-1994」の「Rz」は十点平均粗さであるから、引用文献4Cには、十点平均粗さRzが、2.0μm以下の銅箔が記載されている。 しかしながら、引用文献2C、引用文献3C、及び引用文献4Cには、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の銅箔は記載されていない。 したがって、上記相違点1Cに係る構成は、引用発明1C、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1Cに記載された発明、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c 特許異議申立人神保良男の主張について (a)特許異議申立人神保良男は、特許異議申立書において次の主張をしている。 銅箔の表面に無機フィラーが接触する場合、その周りにフッ素樹脂がどの程度存在しうるかを確認するために、次のような論理計算を行った。 まず、無機フィラーが所定の直径Rを有する球であるとしたときに、この球が単純立方格子の形態で最密充填となる格子サイズをもとめる。 次に、該格子サイズの底面から0.25μmまでの部分で、無機フィラーの占有体積割合を求める。 そして、無機フィラーの占有体積割合に基づいて、原子数比=(無機フィラーの無機原子の原子数)/(フッ素樹脂のフッ素原子の原子数)を求める。 表1に、直径Rが1~15μmのそれぞれの無機フィラーにおける原子数比の計算結果を示した。 表1には、次の計算結果が示されている。(抜粋) Rが1μmで、無機原子/フッ素原子の原子数比0.2020 Rが2μmで、無機原子/フッ素原子の原子数比0.0912 Rが3.1μmで、無機原子/フッ素原子の原子数比0.0585 Rが10μmで、無機原子/フッ素原子の原子数比0.0167 Rが15μmで、無機原子/フッ素原子の原子数比0.0111 以上の計算結果から、平均粒子径が10~15μmを用いる甲第1号証(引用文献1C)では、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下である蓋然性が高い。(特許異議申立書11頁23行ないし14頁1行) (b)当審の判断 実際の無機フィラーは球形に限らず様々な形状の粒子が存在し、かつ、大から小まで様々な粒径のものが混じったものであるから、無機フィラーを「所定の直径Rを有する球」と仮定した計算結果は、無機フィラーの実態を反映しておらず、上記計算結果に基づく主張を採用することができない。 (イ)本件発明2について a 対比 上記「(ア)a」の本件発明1と引用発明1Cの対比を踏まえると、さらに次のことがいえる。 引用発明1Cの「フルオロポリマー材料は、33-40質量%のフルオロポリマーと、55-71質量%のセラミックフィラーを含」むことは、本件発明2の「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である」に含まれる。 したがって、本件発明2と引用発明1Aとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「フッ素樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備える高周波プリント配線板用基材であって、 上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である高周波プリント配線板用基材。」 (相違点4C) 本件発明2は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明1Cはそのような特定がない点。 (相違点5C) 本件発明2は「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下」であるのに対して、引用発明1Cはそのような特定がない点。 (相違点6C) 本件発明1の「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下」であるのに対して、引用発明1Cのセラミックフィラーの平均粒子径がおおよそ10-15μm」である点。 b 判断 上記相違点4Cは、上記相違点1Cと同じである。 したがって、上記相違点4Cに係る構成は、引用発明1C、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献1Cに記載された発明、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件発明3、4、6ないし9について 本件発明3、4、6ないし9は、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1又は本件発明2と同様の理由により、本件発明3、4、6ないし9は、引用文献1Cに記載された発明、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 申立理由2(引用文献5Cを主引用例とする特許法第29条第2項)について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明5Cを対比すると、次のことがいえる。 (a)引用発明5Cの「2層のポリイミド層」は樹脂であるので、引用発明5Cの「アルミナフィラーを含んでいないポリアミック酸樹脂の溶液を」「塗布し、その上に、」「球状アルミナフィラーを」「含んだポリアミック酸樹脂の溶液を」「塗布して加熱した」「2層のポリイミド層」と本件発明1は、「樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」である点で共通する。 但し、樹脂が、本件発明1は「フッ素樹脂」であるのに対して、引用発明5Cは「ポリイミド」である点で相違する。 (b)引用発明5Cの「銅箔と2層のポリイミド層からなるフレキシブル基板用積層体」と本件発明1とは、「この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備えるプリント配線板用基材」である点で共通する。 但し、プリント配線板用基材について、本件発明1は「高周波プリント配線板用基材」であるのに対して、引用発明5Cは高周波である旨の特定がない点で相違する。 (c)引用発明の「銅箔」は「Rzが0.2μm」であるが、「Rz」について説明がなく、「Rz」がどのような値であるのか不明である。 そうすると、本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明5Cはそのような特定がない点で相違する。 また、本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明5Cはそのような特定がない点で相違する。 (d)引用発明5Cの「球状アルミナフィラー」の「平均粒子径が0.6μm」であることは、本件発明1の「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」ことに相当する。 上記(a)ないし(d)によれば、本件発明1と引用発明5Cとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備えるプリント配線板用基材であって、 上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であるプリント配線板用基材。」 (相違点7C) 樹脂が、本件発明1は「フッ素樹脂」であるのに対して、引用発明5Cは「ポリイミド」である点。 (相違点8C) プリント配線板用基材について、本件発明1は「高周波プリント配線板用基材」であるのに対して、引用発明5Cは高周波である旨の特定がない点。 (相違点9C) 本件発明1は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明5Cはそのような特定がない点。 (相違点10C) 本件発明1は「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」であるのに対して、引用発明5Cはそのような特定がない点。 b 判断 上記相違点7Cについて ポリイミド樹脂を絶縁層とするフレキシブル回路基板は、その耐熱性、耐薬品性などが良好なことから従来から広く用いられているが、ポリイミドフィルムを銅箔などの導体層に積層してフレキシブル基板用積層体としようとする場合、エポキシ系接着剤や熱可塑性樹脂を接着剤として用いる必要がある。この接着層の介在は、導体層に生じる熱の放熱を阻害する要因になるばかりでなく、フレキシブル基板として求められる耐熱性、屈曲性などの諸特性の低下を招くという課題があった(【0002】、【0004】)。 引用発明5Cは、上記解決するために、熱伝導特性に優れる絶縁層を有し、導体層と絶縁層との実用的接着強度を有する、熱伝導性ポリイミドフィルムを提供することを目的とするものである。(【0006】) つまり、引用発明5Cの目的は、フレキシブル基板用積層体に用いるポリイミドフィルムを改良することである。 そうすると、引用発明5Cにおいて、耐熱性、耐薬品性などが良好であって、導体層と絶縁層との実用的接着強度を有する改良済みのポリイミドフィルムに換えて、あえて、銅箔との接着力の小さいフッ素樹脂を用いる動機はない。 したがって、上記相違点7Cに係る構成は、引用発明5C、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献5Cに記載された発明、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明2について a 対比 本件発明2と引用発明5Cを対比すると、次のことがいえる。 (a)引用発明5Cの「2層のポリイミド層」は樹脂であるので、引用発明5Cの「アルミナフィラーを含んでいないポリアミック酸樹脂の溶液を」「塗布し、その上に、」「球状アルミナフィラーを」「含んだポリアミック酸樹脂の溶液を」「塗布して加熱した」「2層のポリイミド層」と本件発明2は、「樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層」である点で共通する。 但し、樹脂が、本件発明2は「フッ素樹脂」であるのに対して、引用発明5Cは「ポリイミド」である点で相違する。 (b)引用発明5Cの「銅箔と2層のポリイミド層からなるフレキシブル基板用積層体」と本件発明2とは、「この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備えるプリント配線板用基材」である点で共通する。 但し、プリント配線板用基材について、本件発明2は「高周波プリント配線板用基材」であるのに対して、引用発明5Cは高周波である旨の特定がない点で相違する。 (c)引用発明の「銅箔」は「Rzが0.2μm」であるが、「Rz」について説明がなく、「Rz」がどのような値であるのか不明である。 そうすると、本件発明2は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明5Cはそのような特定がない点で相違する。 (d)引用発明5Cの「2層のポリイミド層」は「Rzが0.2μmの銅箔上に、アルミナフィラーを含んでいないポリアミック酸樹脂の溶液を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、その上に、」「球状アルミナフィラーを50wt%含んだポリアミック酸樹脂の溶液を硬化後の厚みが23μmとなるように塗布して加熱した」のであるから、2層のポリイミド層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0倍である。 そうすると、引用発明5Cの「2層のポリイミド層」は本件発明2と、「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下であ」る点で一致する。 (e)引用発明5Cの「球状アルミナフィラー」の「平均粒子径が0.6μm」であることは、本件発明1の「上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である」ことに相当する。 (f)引用発明5Cの「2層のポリイミド層」は、「アルミナフィラーを含んでいないポリアミック酸樹脂の溶液を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、その上に、」「球状アルミナフィラーを50wt%含んだポリアミック酸樹脂の溶液を硬化後の厚みが23μmとなるように塗布し」たのであるから、樹脂に対する無機フィラーの質量比が1.0未満である。 そうすると、本件発明2は「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である」のに対して、引用発明5Cはそのような特定がない点で相違する。 上記(a)ないし(f)によれば、本件発明2と引用発明5Cとは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「樹脂及び無機フィラーを含む誘電体層と、この誘電体層の少なくとも一方の面に積層される銅箔とを備えるプリント配線板用基材であって、 上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下であり、 上記無機フィラーの平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であるプリント配線板用基材。」 (相違点11C) 樹脂が、本件発明2は「フッ素樹脂」であるのに対して、引用発明5Cは「ポリイミド」である点。 (相違点12C) プリント配線板用基材について、本件発明1は「高周波プリント配線板用基材」であるのに対して、引用発明5Cは高周波である旨の特定がない点。 (相違点13C) 本件発明2は「上記銅箔の誘電体層側の面の最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下」であるのに対して、引用発明5Cはそのような特定がない点。 (相違点14C) 本件発明2は「上記誘電体層における上記フッ素樹脂に対する上記無機フィラーの質量比が1.0以上3.0以下である」のに対して、引用発明5Cはそのような特定がない点。 b 判断 上記相違点11Cは、上記相違点7Cと同じである。 したがって、上記相違点11Cに係る構成は、引用発明5C、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献5Cに記載された発明、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件発明3、6ないし8について 本件発明3、6ないし8は、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1又は本件発明2と同様の理由により、本件発明3、6ないし8は、引用文献5Cに記載された発明、引用文献2Cないし引用文献4Cに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由3(第36条第6項第1号)について (ア)特許異議申立人神保良男の主張 a 本件発明2について 本件発明2は、本件明細書の段落【0013】において、「上記誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する上記無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下」(以下、「発明特定事項〔E〕」という。)にすることによって、銅箔のRzが2μm以下の平滑銅箔に対しても接着力を高めることができるとするが、本件発明1の「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下」(以下、「発明特定事項〔C〕という。」)の場合から外れて、誘電体層の銅箔との接着界面付近における無機フィラーの存在比率を高めたようなときまで、銅箔から離れた領域に比べて無機フィラーの存在量を少なくすれば、高い接着力が得られる根拠を明細書の記載から理解することができない。 また、実施例で示されたNo.1~No.3の高周波プリント配線板用基材は、いずれも本件発明1の発明特定事項〔C〕を備えるものであり、本件発明2の発明特定事項〔E〕だけを備えた高周波プリント配線板用基材が高い接着力を発現することを裏付ける実施例は存在しない。 したがって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(特許異議申立書6頁1行ないし7頁9行) b 本件発明1について 本件発明1の「上記誘電体層の銅箔側の表層領域における上記フッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する上記無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下である」ことは、実施例で使用される「フッ素樹脂:FEP(ダイキン工業社の「NC-1500」」(【0075】)、及び、「無機フィラー:シリカフィラー(デンカ社の「FB3SDC」)」(【0076】)を使用する場合に限られるものであり、これら以外のフッ素樹脂や無機フィラーについてまで適用されるものではない。(特許異議申立書7頁10行ないし8頁下から4行) (イ)当審の判断 a 本件発明2について 本件発明2は、誘電体層の銅箔と垂直方向の断面において、銅箔からの距離が0μm以上2μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比が、銅箔からの距離が18μm以上22μm以下の領域における全断面積に対する無機フィラーの占める総断面積の比の0.7倍以下にすることによって、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の平滑銅箔に対しても、接着力を高めることができることを見いだして(【0012】、【0013】)、「接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供する」という課題(【0010】)を解決したのである。 そして、本件明細書には上記課題を解決するためには、必ず、発明特定事項〔C〕を満たす必要があることは記載されていない。 よって、上記主張を採用することができない。 b 本件発明1について 本件発明1は、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素樹脂のフッ素原子の原子数に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比を0.08以下にすることによって、最大高さ粗さ(Rz)が2μm以下の平滑銅箔に対しても、接着力を高めることができることを見いだして(【0010】、【0011】)、「接着力を向上させることができ、かつ高周波特性に優れる高周波プリント配線板用基材を提供する」という課題(【0010】)を解決したのである。 そうすると、用いるフッ素樹脂や無機フィラーの種類に関係なく、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素原子に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下になっていれさえすれば、接着力の向上ができることは明らかである。 したがって、実施例で使用されるFEP及びシリカフィラー以外のフッ素樹脂や無機フィラーを用いても、誘電体層の銅箔側の表層領域におけるフッ素原子に対する無機フィラーの無機原子の原子数の比が0.08以下になっていれば上記課題を解決できることが明らかである。 よって、上記主張を採用することができない。 エ まとめ したがって、特許異議申立人神保良男の申立理由1ないし3にかかる主張は、採用することができない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1ないし9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700637

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