特許異議申立
2022-700607
ウレタン樹脂組成物
- 審判番号
- 2022-700607
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-566168
- 登録番号
- 6993238
- 請求日
- 2022年07月08日
- 審決日
- 2023年06月29日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【異議申立人】佐藤 彰芳
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 小出 直也
- 審判官 近野 光知
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6993238号発明「ウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6993238号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第6993238号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6993238号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年12月8日を国際出願日とする特許出願(優先権主張 平成28年12月8日、特願2017-566168号)であって、令和3年12月13日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、令和4年1月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和4年7月8日に特許異議申立人 佐藤 彰芳(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和4年9月26日付け :取消理由通知
同年11月18日 :訂正請求書・意見書(特許権者)の提出
同年12月8日付け :通知書(申立人宛て)
令和5年1月12日 :意見書(申立人)の提出
同年2月16日付け :取消理由通知(決定の予告)
同年4月19日 :意見書(特許権者)の提出
第2 訂正請求について
令和4年11月18日提出の訂正請求書(以下「本訂正請求書」という。)の趣旨は、「特許第6993238号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。
請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)
1 訂正の内容
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1において、「前記触媒が有機酸ビスマス塩を含有することを特徴とする、ポリオール組成物。」とあるのを、「前記触媒が有機酸ビスマス塩及びオクチル酸カリウムを含有することを特徴とする、ポリオール組成物。」に訂正する。
(2)一群の請求項
訂正事項1に係る訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は一群の請求項に対してされたものである。
2 判断
(1)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「前記触媒が有機酸ビスマス塩を含有する」とあるのを、「前記触媒が有機酸ビスマス塩及びオクチル酸カリウムを含有する」とするものであり、触媒について、有機酸ビスマス塩に加え、「オクチル酸カリウム」をさらに付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1による訂正後の請求項1における「前記触媒が・・・オクチル酸カリウムを含有する」ことは、本件明細書の【0075】に「三量化金属触媒としては有機酸カリウムが挙げられ、好ましくはオクチル酸カリウム・・・が挙げられる。」との記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。
(3)まとめ
以上のとおり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6993238号の請求項1~8に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~8に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1ないし8に係る発明を「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ということもある。本件特許の願書に添付した明細書については本件訂正により訂正されていないので、以下においても「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン発泡体を得るためのポリオール組成物であって、ポリオール、触媒、整泡剤、発泡剤、及びカルボン酸アンモニウム塩を含み、
前記カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分は第4級アンモニウムカチオンであり、
前記カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分は下記式(1)で表されるカルボン酸アニオンであり、
前記発泡剤としてハイドロフルオロオレフィン(HFO)を含有し、
前記触媒が有機酸ビスマス塩及びオクチル酸カリウムを含有することを特徴とする、ポリオール組成物。
【化1】
[図:0001401632000001.jpg]
[式中、
R1はCnH2n+1であり、
R2はCmH2m+1であり、
R3は水素原子又はClH2l+1であり、
n、m及びlは独立して1以上の整数である。]
【請求項2】
前記カルボン酸アンモニウム塩の含有量が、ポリオール100質量部に対して、5~20質量部である、請求項1に記載のポリオール組成物。
【請求項3】
R3がClH2l+1である、請求項1または2に記載のポリオール組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分が、テトラメチルアンモニウムカチオンである、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリオール組成物。
【請求項5】
前記カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分が、2,2-ジメチルプロパン酸アニオンである、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリオール組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリオール組成物とポリイソシアネート化合物との混合物であることを特徴とする発泡性ポリウレタン組成物。
【請求項7】
イソシアネートインデックスが250以上であることを特徴とする請求項6に記載の発泡性ポリウレタン組成物。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の発泡性ポリウレタン組成物が硬化したポリウレタン発泡体。」
第4 特許異議申立理由の概要及び証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年7月8日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性欠如)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1、2、6、8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(委任省令要件違反)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概略は以下のとおり。
本件明細書の実施例では、カルボン酸アンモニウム塩として、エアープロダクツ社製品の「DABCO TMR7」が用いられているが、本件明細書には「DABCO TMR7」の具体的構造について何ら開示も示唆もなく、それが本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウムの範疇に属するものであるのか明らかでない。そうすると、そのような「DABCO TMR7」を用いたポリオール組成物である実施例1~8において、如何に検討したところで、その結果が、そのまま、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウム塩を用いた実施例となるものではなく、本件明細書は、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウム塩によって、本件発明の作用・効果の発現、ひいては課題の解決が図られることについて何ら明らかにするものではない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されていない。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概略は以下のとおり。
本件明細書の実施例では、カルボン酸アンモニウム塩として、エアープロダクツ社製品の「DABCO TMR7」が用いられているが、本件明細書には「DABCO TMR7」の具体的構造について何ら開示も示唆もなく、それが本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウムの範疇に属するものであるのか明らかでない。そうすると、そのような「DABCO TMR7」を用いたポリオール組成物である実施例1~8において、如何に検討したところで、その結果が、そのまま、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウム塩を用いた実施例となるものではなく、本件明細書は、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウム塩によって、本件発明の作用・効果の発現、ひいては課題の解決が図られることについて何ら明らかにするものではない。
よって、本件明細書には、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1に規定される「特定構造のカルボン酸アンモニウム塩」を用いることにより、本件発明の課題が解決され得ると、当業者が認識できる程度に具体例が記載されているとはいえず、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
(5)申立理由5(明確性要件違反)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概略は以下のとおり。
本件明細書の実施例では、カルボン酸アンモニウム塩として、エアープロダクツ社製品の「DABCO TMR7」が用いられているが、本件明細書には「DABCO TMR7」の具体的構造について何ら開示も示唆もなく、それが本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウムの範疇に属するものであるのか明らかでない。そうすると、そのような「DABCO TMR7」を用いたポリオール組成物である実施例1~8において、如何に検討したところで、その結果が、そのまま、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウム塩を用いた実施例となるものではなく、本件明細書は、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウム塩によって、本件発明の作用・効果の発現、ひいては課題の解決が図られることについて何ら明らかにするものではない。
そうすると、そのような「DABCO TMR7」を用いたポリオール組成物である実施例1~8において、如何に検討したところで、その結果が、そのまま、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウム塩を用いた実施例となるものではなく、本件明細書は、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウム塩によって、本件発明の作用・効果の発現、ひいでは課題の解決が図られることについて何ら明らかにするものではない。
よって、本件発明における「特定構造のカルボン酸アンモニウム塩」を使用することによって、本件発明の課題の解決が達成され得ることが何ら明らかでない以上、本件発明の記載から、特許を受けようとする発明が明確に把握することができるとはいえない。
2 証拠方法
(1)申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特開2014-84465号公報
甲第2号証:特開2016-188330号公報
甲第3号証:U-CAT 18X 製品情報,サンアプロ株式会社,令和4年4月26日,インターネット,<URL:https://www.san-apro.co.jp/products/list/2021/09/89169/>
甲第4号証:プキャット25 安全データシート 、日本化学産業株式会社 平成29年6月1日
甲第5号証:DABCO TMR-7 安全データシート 、エボニック・ジャパン株式会社 平成29年1月3日
以下、順に「甲1」ないし「甲5」という。
(2)令和4年11月18日提出の意見書(特許権者)に添付して提出された証拠方法
乙第1号証:特開2013-241537号公報
乙第2号証:特開2019-167487号公報
以下、順に「乙1」、「乙2」という。
(3)令和5年4月19日提出の意見書(特許権者)に添付して提出された証拠方法
乙第3号証:ウレタン樹脂用触媒,三洋化成ニュース,2002年,春号,No.411,1~4頁,インターネット:<URL:https://www.san-apro.co.jp/files/technology-information/Urethane-Catalysts.pdf>
以下、「乙3」という。
(4)当審が職権調査により発見した証拠方法
参考文献1:国際公開第2016/181703号
参考文献2:特開2015-199946号公報
参考文献3:「エボニック、エア・プロダクツ社の特殊添加剤事業の買収を成功裏に完了」,エボニックジャパン株式会社,2017年,インターネット,<URL: https://corporate.evonik.jp/ja/-104004.html>
以下、順に「参1」、「参2」、「参3」という。
第5 決定の予告における取消理由の概要
令和5年2月16日付けの取消理由通知書(決定の予告)において当審が通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4、6ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(具体的な理由の概要)
本件明細書の比較例1と実施例の結果からみて、本件発明1の式(1)で表されるカルボン酸アンモニウム塩のうち、本件発明の課題を解決できるといえるのは、「DABCO TMR7」又はそれと実質的に同等といえる化合物の範囲まで(本件発明5の範囲まで)であると認められるから、式(1)のカルボン酸アンモニウム塩として、本件発明5で特定される範囲外の化合物を包含する本件発明1~4、6~8は発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
取消理由2(甲2に基づく進歩性)
本件特許の請求項1、2、4、6、8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許の請求項7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2及び甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、取消理由1、2及び申立理由1~5によっては、本件発明1~8についての特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 取消理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
(2)本件明細書及び証拠の記載
ア 本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与したものである。
「【0004】
ウレタン発泡体を得る方法の一つに吹付施工が挙げられる。吹付施工の際、触媒作用が不足しているのと横伸びが発生し、樹脂と基材との界面で剥離が発生する不具合がある。
【0005】
また、発泡剤として、従前ハイドロフルオロカーボン類(HFC)が広く使われていたが、HFCは2020年以降日本国においては法的に使用が禁止される。そこで、HFCの代替として地球温暖化係数(GWP)の低いハイドロフルオロオレフィン類(HFO)への切り替えが進んでいる。しかし、HFOは触媒による分解性が課題である。
【0006】
触媒には大きくアミン系触媒と金属塩触媒がある。アミン系触媒は、横伸びの低減には優れるものの、HFOと触媒との分解反応が進行してしまう。一方、金属塩触媒は、HFOと触媒との分解反応は抑制されるものの、横伸びの発生は十分抑制されない。
【0007】
横伸びを低減し、かつ、HFOとの分解反応を抑制できる組成は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく種々検討したところ、所定の構造を満たすカルボン酸アンモニウム塩を用いることで上記の課題を解決できることを見出した。本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
【0010】
項1、ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン発泡体を得るためのポリオール組成物であって、ポリオール、触媒、整泡剤、発泡剤、及びカルボン酸アンモニウム塩を含み、
前記カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分は第4級アンモニウムカチオンであり、
前記カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分は下記式(1)で表されるカルボン酸アニオンであることを特徴とする、ポリオール組成物。
【0011】
【化1】
[図:0001401632000002.jpg]
【0012】
[式中、
R1はCnH2n+1であり、
R2はCmH2m+1であり、
R3は水素原子又はClH2l+1であり、
n、m及びlは独立して1以上の整数である。]」
「【0059】
3.カルボン酸アンモニウム塩
本発明の組成物は、カルボン酸アンモニウム塩を含有する。前記カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分は第4級アンモニウムカチオンであり、前記カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分は下記式(1)で表されるカルボン酸アニオンであることを特徴とする。
【0060】
【化2】
[図:0001401632000003.jpg]
【0061】
[式中、
R1はCnH2n+1であり、
R2はCmH2m+1であり、
R3は水素原子又はClH2l+1であり、
n、m及びlは独立して1以上の整数である。]
n、m及びlはそれぞれ独立して1以上の整数であり、好ましくは1~4の整数であり、より好ましくは1~2の整数である。
【0062】
CnH2n+1、CmH2m+1、及びClH2l+1はそれぞれ独立してアルキル基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-プロピル基、tert-プロピル基、ブチル基、ヘキシル基が例示される。
【0063】
本発明の好ましい態様において、R3がClH2l+1である。
【0064】
カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分である第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオンが例示される。
【0065】
カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分であるカルボン酸アニオンとしては、2,2-ジメチルプロパン酸アニオン、2-エチルヘキサン酸アニオンが例示される。
【0066】
カルボン酸アンモニウム塩は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0067】
本発明の組成物における上記カルボン酸アンモニウム塩の含有量は、ポリオール100質量部に対して、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることが特に好ましい。また、上記カルボン酸アンモニウム塩の含有量は、ポリオール100質量部に対して、23質量部以下であることが好ましく、17質量部以下であることがより好ましく、12質量部以下であることが特に好ましい。
【0068】
上記カルボン酸アンモニウム塩の含有量はウレタン樹脂100質量部に対しては、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることが特に好ましい。また、カルボン酸アンモニウム塩の含有量はウレタン樹脂100質量部に対しては、6質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
【0069】
上記下限値以上の場合は、十分な触媒作用が期待でき、良好な発泡体を形成することができる。上記上限値以下の場合は、樹脂化と三量化との活性の差を小さくし、発泡が2段階になることを抑制できる。」
「【0070】
4.触媒
本発明の樹脂組成物は、触媒を含む。ただし、上記「カルボン酸アンモニウム塩」に該当する成分は、「触媒」には含まれない。具体的には、触媒としては樹脂化触媒及び/又は三量化触媒が挙げられる。
【0071】
樹脂化触媒とは、ポリオール等とイソシアネートとの反応を促進する触媒である。樹脂化アミン触媒とは樹脂化触媒の中で、アミン構造を有する触媒であり、樹脂化金属触媒とは樹脂化触媒の中で、金属または金属塩を有する触媒である。
【0072】
三量化触媒とは、イソシアネートが互いに反応することでイソシアヌレートの生成を促進する触媒である。三量化アミン触媒とは三量化触媒の中で、アンモニウム塩を有する触媒であり、三量化金属触媒とは三量化触媒の中で、金属または金属塩を有する触媒である。
【0073】
樹脂化金属触媒としては、鉛、錫、ビスマス、銅、亜鉛、コバルト、ニッケルなどからなる金属塩が挙げられ、好ましくは鉛、錫、ビスマス、銅、亜鉛、コバルト、ニッケルなどからなる有機酸金属塩であり、より好ましくはジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫バーサテート、ビスマストリオクテート、ジオクチル酸スズ、ジオクチル酸鉛である。
【0074】
樹脂化アミン触媒としては、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン等の窒素含有芳香族化合物;
トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリフェニルアンモニウム塩等の3級アンモニウム塩;
テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩
等が挙げられる。
【0075】
三量化金属触媒としては有機酸カリウムが挙げられ、好ましくはオクチル酸カリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、ブタン酸カリウム、安息香酸カリウムなどの炭素数2~8のカルボン酸カリウムが挙げられる。
【0076】
触媒は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0077】
本発明の組成物における樹脂化触媒の含有量は、ポリオール100質量部に対して、0.13質量部~7.5質量部の範囲であることが好ましく、0.25質量部~3.8質量部の範囲であることがより好ましく、0.4質量部~1.2質量部の範囲であることが更に好ましく、0.5質量部~1.0質量部の範囲であることが最も好ましい。発泡性ポリウレタン組成物においては、ウレタン樹脂100質量部に対して、0.05質量部~2.0質量部の範囲とすることができ、0.1質量部~1.0質量部の範囲であることがより好ましく、0.15質量部~0.30質量部の範囲であることが更に好ましい。
【0078】
上記下限値以上の場合は樹脂化反応が活性に進行することで、樹脂化反応熱によって三量化の活性を助けることができ、良好な発泡体を形成することができる。上記上限値以下の場合は樹脂化と三量化との活性の差を小さくし、発泡が2段階になることを抑制できる。
【0079】
本発明の組成物における三量化触媒の含有量は、ポリオール100質量部に対して、1.3質量部~25.0質量部の範囲であることが好ましく、2.5質量部~20.0質量部の範囲であることがより好ましく、4.0質量部~14.0質量部の範囲であることが更に好ましく、5.5質量部~10.0質量部の範囲であることが最も好ましい。発泡性ポリウレタン組成物においては、ウレタン樹脂100質量部に対して、0.5質量部~6.5質量部の範囲とすることができ、1.0質量部~5.0質量部の範囲であることがより好ましく、1.5質量部~3.5質量部の範囲であることが更に好ましい。
【0080】
上記下限値以上の場合は、十分な三量化触媒作用が期待でき、良好な発泡体を形成することができる。上記上限値以下の場合は、樹脂化と三量化との活性の差を小さくし、発泡が2段階になることを抑制できる。」
「【実施例】
【0163】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0164】
1.発泡性ポリウレタン組成物およびその発泡体の製造
表1に示した配合により、実施例および比較例に係る発泡性ポリウレタン組成物を、(1)ポリオールプレミックスおよび(2)ポリイソシアネートの2つに分けて準備した。なお表中の各成分の詳細は次の通りである。
【0165】
(1)ポリオールプレミックス
・ポリオール
p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087、水酸基価=200mgKOH/g)
【0166】
・整泡剤
ポリアルキレングリコール系整泡剤(東レダウコーニング社製、製品名:SH-193)
【0167】
・カルボン酸アンモニウム塩
三量化触媒(エアープロダクツ社製、製品名:DABCO TMR7)
【0168】
・触媒
三量化アミン触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商標)-TRX)
三量化アミン触媒(サンアプロ株式会社製、製品名:U-CAT 18X)
三量化金属触媒(エアープロダクツ社製、製品名:DABCO K-15)
樹脂化アミン触媒(サンアプロ株式会社製、製品名:U-CAT 202)
樹脂化アミン触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商標)-TT)
樹脂化アミン触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商標)-DM70)
樹脂化金属触媒(日東化成社製、製品名:ネオスタン U-600)
樹脂化金属触媒(日東化成社製、製品名:ネオスタン U-830)
【0169】
・発泡剤
水
HFO(ハネウェル社製、製品名:ソルティスLBA)
【0170】
・難燃剤
トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(大八化学社製、製品名:TMCPP、「TMCPP」という。)
赤リン(燐化学工業社製、製品名:ノーバエクセル140)
ホウ酸亜鉛(早川商事株式会社製、製品名:Firebrake ZB)
ウォラストナイト(SiO2・CaO)(キンセイマテック社製、製品名:SH-1250)
【0171】
下記の表1の配合に従い、(1)ポリオールプレミックスの成分を1000mLポリプロピレンビーカーにはかりとり、25℃、1分間手混ぜで撹拝した。
【0172】
発泡体の形成は以下の手順に従った。(1)ポリオールプレミックスの成分の混練物に対して、(2)ポリイソシアネートを加え、ハンドミキサーで約10秒間擾拝し発泡性ポリウレタン樹脂組成物を作製した。得られた発泡性ポリウレタン樹脂組成物は時間の経過と共に流動性を失い、発泡性ポリウレタン樹脂組成物の発泡体を得た(各成分の割合をウレタン樹脂100質量部に対する質量部で示す)。
【0173】
2.評価
下記の基準により、実施例を評価した。
【0174】
[横伸び剥離の評価]
発泡時の横伸びが大きいと、凹凸部位に吹付施工などを行った際、基材界面との剥離が発生する。そこで、L字基材の凹部に向かって吹付施工を行い、剥離の有無により横伸びの評価を行った。L字基材としては、30cm四方の石膏ボード2枚を垂直に固定したものを用いた。吹き付けは、グラコ社製吹付装置H-25を用いた。
【0175】
L字基材凹部への吹付により剥離有:横伸び大きい、×
L字基材凹部への吹付でも剥離無:横伸び小さい、○
【0176】
[HFO/触媒分解性評価]
HFOと触媒との分解反応が発生すると、触媒の活性が低下し、発泡挙動に変化が見られる。そこで、ポリオールプレミックスを、60℃、1週間(1w)で加速試験をし、加速試験前後の発泡挙動に差があるかを、タックフリータイムにより評価した。
【0177】
加速試験前後でタックフリータイム変化が3割以上:発泡挙動に変化有り、×
加速試験前後でタックフリータイム変化が3割未満:発泡挙動に変化無し、○
【0178】
結果を表1に示す。
【0179】
【表1】
[図:0001401632000004.jpg]
」
イ 証拠の記載(取消理由1に関連する部分のみ)
(ア)甲3の記載
甲3は、サンアプロ株式会社の「U-CAT 18X」の製品情報を掲載したものであり、その主成分が、カチオンがトリエチルメチルアンモニウムであり、アニオンが2-エチルヘキサン酸アニオンであるカルボン酸アンモニウム塩であることが記載されている。
(なお、2-エチルヘキサンはトリエチルメチルアンモニウムと塩を形成するものではないから、「主成分」に記載の「トリエチルメチルアンモニウム 2-エチルヘキサン塩」は「トリエチルメチルアンモニウム 2-エチルヘキサン酸塩」の誤記と認められる。)
(イ) 乙2の記載
乙2は、令和1年10月3日に公知となった文献であり、次の事項が記載されている。
「【0062】
<使用材料>
・・・
〔三量化触媒〕
・カルボン酸アンモニウム塩
2,2-ジメチルプロパン酸テトラメチルアンモニウム塩(エボニック ジャパン株式会社、製品名:DABCO TMR-7)、エチレングリコールとの混合物(2,2-ジメチルプロパン酸テトラメチルアンモニウム塩45~55質量%、エチレングリコールが45~55質量%)」
(ウ)参1の記載
参1には、次の事項が記載されている。
「[0038] <ウレタン化触媒(F)>
ウレタン化触媒(F-1):
2-エチルヘキサン酸ビスマス塩[「ネオスタン U-600」、日東化成(株)製]」
(エ)参2の記載
参2には、次の事項が記載されている。
「【0119】
実施例3
製造例1の(A-1)成分100部、(B)成分としてコロネートHX 7.8部及び(C)成分としてKBE-9007 10部、並びに(D)成分として市販のスズ系ウレタン触媒(ジオクチル錫バーサテート、商品名「ネオスタンU-830」、日東化成(株)製)1.0部を良く混合し、アンダーコート剤を調製した。」
(オ)参3の記載
参3には、次の事項が記載されている。
「エボニック、エア・プロダクツ社の特殊添加剤事業の買収を成功裏に完了
・取引に関する独占禁止規制当局の承認は取得済み
・統合プロセスは現在進行中
・今後数年間で8,000万ドルのシナジー効果および正味現在価値5億ドル超の税効果
・2017事業年度の調整後1株当たり利益は増加する見込み
ドイツ、エッセン:エボニック インダストリーズは、米国エア・プロダクツ社の特殊添加剤事業(パフォーマンスマテリアルズ部門)を、計画通り当年末までに38億ドル(約35億ユーロ)で取得するための活動を完了しました。クロージングは2017年1月3日の予定です。本取引は関連するすべての独占禁止規制当局の承認を得ており、取得した事業の統合は現在進行中です。本取引の資金調達は9月に問題なく完了しており、当社の自己資金16億ユーロを充当しつつ、残りの半分は名目金額19億ユーロの債券により調達する予定です。」
(3)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の[0007]、[0008]等の記載からみて、「横伸びを低減し、かつ、HFOとの分解反応を抑制できるポリオール組成物を提供すること」であると認められる。
(4)サポート要件の検討
ア 本件明細書には、ウレタン発泡体の発泡剤には地球温暖化係数が低いハイドロフルオロオレフィン類(HFO)への切り替えが進んでいるが、HFOは触媒による分解性の課題があることが記載されている(【0004】、【0005】)。そして、アミン系触媒は横伸びの低減には優れるもののHFOとの分解反応が進行し、金属塩触媒はHFOとの分解反応は抑制されるものの、吹付施工の際の横伸びの発生が十分抑制されず樹脂と基材との界面で剥離が発生する不具合があり(【0006】)、横伸びを低減し、かつ、HFOとの分解反応を抑制できる組成は知られていなかった(【0007】)ところ、本発明者らは「所定の構造を有するカルボン酸アンモニウム塩」、すなわち本件発明1で特定されるカルボン酸アンモニウム塩を用いることで上記課題を解決できることを見出したことが記載され(【0008】)、そのカルボン酸アンモニウム塩についての説明が、【0059】~【0069】に記載されている。
そして、【0163】~【0179】、特に【0179】の表1には、実施例1、2、4、8として、「カルボン酸アンモニウム塩」としてエアープロダクツ社製の「DABCO TMR7」を用い、「触媒」として「DABCO-K15」(令和4年11月21日に提出された訂正請求書の2頁の項目(3)イcの主張によれば、本件発明1の「オクチル酸カリウム」に相当)及び「ネオスタン U-600」(参1によれば「2-エチルヘキサン酸ビスマス塩」であり、本件発明1の「有機酸ビスマス塩」に相当)を含み、その他にイソシアネート、ポリオール、整泡剤、HFO発泡剤を含むものが記載され、それらの「60℃1w前後での発泡挙動変化」の評価が「○」であり、「横伸び剥離」の評価が「○」(横伸びが小さい)であることが記載されている。
ここで、乙2によれば、エボニックジャパン株式会社製の「DABCO TMR-7」は「2,2-ジメチルプロパン酸テトラメチルアンモニウム塩」であり、本件発明1のカルボン酸アンモニウム塩に相当するものである。なお、参3によれば、エボニック社は2017年にエア・プロダクツ社の特殊添加剤事業を買収したのであるから、乙2のエボニックジャパン株式会社製の「DABCO TMR-7」と、本件明細書の実施例で用いられているエアープロダクツ社製の「DABCO TMR7」とは同じ製品であると認められる。
そして、本件明細書の【0176】に「HFOと触媒との分解反応が発生すると、触媒の活性が低下し、発泡挙動に変化がみられる」と記載されていることを考慮すると、「60℃1w前後での発泡挙動変化」の評価が「○」というのは、HFOと触媒との分解反応が起こりにくいことを意味するから、実施例1、2、4、8によれば、「DABCO TMR-7」(2,2-ジメチルプロパン酸テトラメチルアンモニウム塩)、「DABCO-K15」(オクチル酸カリウム)、「ネオスタン U-600」(2-エチルヘキサン酸ビスマス塩)を含む、ポリオール組成物は、本件発明の課題を解決できることについて読み取ることができる。
一方、表1の実施例3及び5~7によれば、「ネオスタン U-600」を用いず、代わりに「ネオスタン U-830」(参2によれば「ジオクチル錫バーサテート」であり、「有機酸ビスマス塩」ではない。)を用いたもの(実施例3)や、本件発明1の「オクチル酸カリウム」に相当する「DABCO K-15」を用いないもの(実施例5~7)でも、「60℃1w前後での発泡挙動変化」の評価が「○」、「横伸び剥離」の評価が「○」(横伸びが小さい)となっており、本件発明の課題を解決できることが読み取れる。
また、表1には、比較例1~4として、「DABCO TMR7」を含まず、「カルボン酸アンモニウム塩」以外の触媒を複数組み合わせたものが記載されているが、これらは「60℃1w前後での発泡挙動変化」又は「横伸び剥離」の評価のいずれかが「×」であり、本件発明の課題を解決できなかったことが示されている。
イ 本件明細書の実施例1、2、4、8及び比較例1~4の記載からみて、本件発明の課題を解決するためには、特定のカルボン酸アンモニウム塩に相当する「DABCO TMR7」を含むことが必要であることがと理解できる。
また、本件明細書の実施例3、5~7の記載によれば、本件発明1の「触媒」である「オクチル酸カリウム」や「有機酸ビスマス塩」については、そのいずれか一方を含まなくても本件発明の課題を解決することは可能であるが、本件明細書の【0006】に「金属塩触媒は、HFOと触媒との分解反応は抑制される」と記載されており、「オクチル酸カリウム」や「有機酸ビスマス塩」はいずれも「金属塩触媒」に該当するものであることを考慮すると、「DABCO TMR7」に加えて「オクチル酸カリウム」と「有機酸ビスマス塩」の少なくとも一方を含むものであれば、本件発明の課題を解決できることが理解できる。
ウ 上記解釈を前提として、本件発明1~4、6~8についての特許出願がサポート要件を満たすか否かについて検討する。
上記イのとおり、特定のカルボン酸アンモニウム塩に相当する「DABCO TMR7」を含み、かつ、「オクチル酸カリウム」又は「有機酸ビスマス塩」を含むものであれば、本件発明の課題を解決できるものと認められるところ、本件発明1のポリオール組成物は、「DABCO TMR7」を包含する所定のカルボン酸アンモニウム塩(カチオン部分が「第4級アンモニウムカチオン」であり、アニオン部分が本件発明1の式(1)で表されるカルボン酸アニオンであるもの)と、「オクチル酸カリウム」及び「有機酸ビスマス塩」を含むものである。
そして、「DABCO TMR7」は、、カチオン部分が「テトラメチルアンモニウムカチオン」であり、アニオン部分が「2,2-ジメチルプロパン酸アニオン」である。「テトラメチルアンモニウムカチオン」は、第4級アンモニウムカチオンであることが理解でき、「2,2-ジメチルプロパン酸アニオン」は、「CH3C(CH3)2COO-」であり、その化学構造から、アルキル基に分岐構造を有することを把握することができる。そして、本件明細書には、カルボン酸アンモニウム塩について、
「【0059】
3.カルボン酸アンモニウム塩
本発明の組成物は、カルボン酸アンモニウム塩を含有する。前記カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分は第4級アンモニウムカチオンであり、前記カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分は下記式(1)で表されるカルボン酸アニオンであることを特徴とする。
【0060】
【化2】
[図:0001401632000005.jpg]
【0061】
[式中、
R1はCnH2n+1であり、
R2はCmH2m+1であり、
R3は水素原子又はClH2l+1であり、
n、m及びlは独立して1以上の整数である。]
n、m及びlはそれぞれ独立して1以上の整数であり、好ましくは1~4の整数であり、より好ましくは1~2の整数である。
【0062】
CnH2n+1、CmH2m+1、及びClH2l+1はそれぞれ独立してアルキル基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-プロピル基、tert-プロピル基、ブチル基、ヘキシル基が例示される。
【0063】
本発明の好ましい態様において、R3がClH2l+1である。
【0064】
カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分である第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオンが例示される。
【0065】
カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分であるカルボン酸アニオンとしては、2,2-ジメチルプロパン酸アニオン、2-エチルヘキサン酸アニオンが例示される。」
と記載されているところ、当該実施例の化合物の化学構造と出願時の技術常識を考慮すると、上記本件明細書に記載されるカルボン酸アンモニウム塩が合理的な範囲で開示されているといえる。
そうすると、当業者であれば、カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分が第4級アンモニウムカチオンであり、カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分が下記式(1)で表されるカルボン酸アニオン
[図:0001401632000006.jpg]
であるカルボン酸アンモニウム塩、オクチル酸カリウム及び有機酸ビスマス塩を含む本件発明1のポリオール組成物であれば、本件発明の課題を解決するものと理解することができるといえる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件発明2~4、6~8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、発明の詳細な説明に記載したものである。
(5)取消理由1についてのまとめ
よって、本件発明1~4、6~8は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許の請求項1~4、6~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、取消理由1によっては取り消すことができない。
2 取消理由2(甲2に基づく進歩性)、申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
取消理由2及び申立理由2は、主引用文献が同じであるため、まとめて検討する。
(1)甲2に記載された発明
甲2には、「ポリオール組成物とポリイソシアネートとを触媒の存在下に混合して反応させ、発泡・硬化せしめることにより、ポリウレタンフォームを製造するに際して、
前記ポリオール組成物中のポリオールの100質量部に対して0.1~7質量部の割合において、超臨界、亜臨界又は液状の二酸化炭素を、該ポリオール組成物又は前記ポリイソシアネートに配合せしめ、更にかかるポリオールの100質量部に対して0.05~7質量部の割合の水を、該ポリオール組成物に含有せしめる一方、該ポリオール組成物が、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の発泡剤を含有し、且つかかる発泡剤を、前記超臨界、亜臨界又は液状の二酸化炭素と前記ポリウレタンフォームの製造時に前記ポリイソシアネートと前記水との反応によって発生する二酸化炭素の合計量の1モルに対して、1モルよりも多く且つ20モル以下となる割合において、該ポリオール組成物中に存在せしめて、前記反応を行うようにしたことを特徴とするポリウレタンフォームの製造方法。」が記載されており(請求項1)、その具体的な例として、[0040]~[0047]の実施例2には、「ポリオール組成物」として表1に記載の組成物が記載されている。
そこで、実施例2に着目すると、甲2には以下の発明(「甲2発明」という。)が記載されている。
「ポリイソシアネートと混合して反応させ、ポリウレタンフォームを製造するためのポリオール組成物であって、芳香族系ポリエステルポリオールであるMAXIMOL RDK-153(川崎化成株式会社製品)を100質量部、シリコーン系整泡剤であるテゴスターブB8450(エボニック・デグサ・ジャパン社製品)を1質量部、難燃剤であるトリス(1-クロロ-2-プロピル)フォスフェートを20質量部、「触媒B」として第四アンモニウム塩系イソシアヌレート化触媒であるU-CAT 18X(サンアプロ社製品)を5質量部、水を1質量部、発泡剤である1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを37.5質量部、液状CO2を2質量部含有する、ポリオール組成物」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「ポリイソシアネート」、「ポリウレタンフォーム」、「芳香族系ポリエステルポリオールであるMAXIMOL RDK-153(川崎化成株式会社製品)」、「シリコーン系整泡剤であるテゴスターブB8450(エボニック・デグサ・ジャパン社製品)」、「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」は、それぞれ、本件特許発明1の「ポリイソシアネート化合物」、「ポリウレタン発泡体」、「ポリオール」、「整泡剤」、「ハイドロフルオロオレフィン(HFO)」に相当する。
そうすると、両者は、
「ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン発泡体を得るためのポリオール組成物であって、ポリオール、整泡剤、発泡剤を含み、
前記発泡剤としてハイドロフルオロオレフィン(HFO)を含有する、ポリオール組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
ポリオール組成物が、本件特許発明1では
「カチオン部分が第4級アンモニウムカチオンであり、
アニオン部分は下記式(1)で表されるカルボン酸アニオンである、
【化1】
[図:0001401632000007.jpg]
[式中、
R1はCnH2n+1であり、
R2はCmH2m+1であり、
R3は水素原子又はClH2l+1であり、
n、m及びlは独立して1以上の整数である。]」
という、カルボン酸アンモニウム塩を含むのに対し、甲2発明1では「U-CAT 18X(サンアプロ社製品)」を含む点
<相違点2>
ポリオール組成物が、本件発明1では触媒として有機酸ビスマス塩及びオクチル酸カリウムを含有するのに対し、甲2発明ではそれらを含有しない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲2の【0028】~【0033】には、「触媒」として「触媒B」である「U-CAT 18X(サンアプロ社製品)」だけでなく、様々な触媒が記載され、【0029】には、「脂肪酸ビスマス塩」や「オクチル酸カリウム」を使用できることも記載されている。
しかし、甲2には、「脂肪酸ビスマス塩」や「オクチル酸カリウム」を「U-CAT 18X」と併用することは記載されていないし、「脂肪酸ビスマス塩」や「オクチル酸カリウム」を「U-CAT 18X」を併用することの利点についても記載されていない。
そして、本件発明1は、触媒として「脂肪酸ビスマス塩」及び「オクチル酸カリウム」を用いることによって、「横伸びを低減し、かつ、HFOとの分解反応の抑制とを両立できる」(【0024】及び実施例1、2、4、8の結果)という効果を奏するものであるところ、本件明細書の比較例1によれば、「U-CAT 18X」を含み、「脂肪酸ビスマス塩」(ネオスタン U-600)及びオクチル酸カリウム(DABCO K-15)を含まない組成物は、「60℃1w前後での発泡挙動変化」の評価が「×」、すなわちHFOとの分解反応を抑制できないことが記載されている。
そうすると、甲2発明において、触媒としてさらに「脂肪酸ビスマス塩」及び「オクチル酸カリウム」を併用することが当業者にとって容易に想到することであるとはいえないし、そのことによって「横伸びを低減し、かつ、HFOとの分解反応の抑制とを両立できる」という効果が得られることも当業者が予測できることではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和5年1月12日付けの意見書の項目(4)「取消理由3(甲2号証に基づく進歩性の欠如)に係る特許権者の主張に関して」において、甲2号証の【0029】には、イソシアヌレート化触媒として、第4級アンモニウム塩の他に、オクチル酸カリウムを用い得ることが明らかにされているし、触媒として「オクチル酸カリウム」を用いたことによる作用・効果についても、本件明細書にはオクチル酸カリウムを用いた実施例1、2、4、8と、それ以外の触媒を用いた実施例5~7における評価が同様のものであるから、特に触媒として「オクチル酸カリウム」を用いたことによって、格別顕著な効果が得られるものとも認められない旨を主張する。
また、申立人は、申立書p19~21の項目「ii)本件特許発明1と甲2発明との対比」において、本件発明1の「有機酸ビスマス塩」を用いた実施例1、2、4~8の結果と、「有機酸ビスマス塩」を用いていない実施例3の結果との間に有意差が全くなく、甲2発明において、甲2の実施例1、4~8において使用されている「触媒A」(有機酸ビスマス塩)をさらに含有せしめることは当業者が容易に想到することである旨を主張する。
しかし、上記イで検討したように、本件明細書の比較例1によれば、甲2発明で用いられている「U-CAT 18X」を含み、「脂肪酸ビスマス塩」及び「オクチル酸カリウム」を含まない組成物は、HFOとの分解反応を抑制できないことが理解できるから、甲2発明において、「脂肪酸ビスマス塩」及び「オクチル酸カリウム」を併用することによって、「横伸びを低減し、かつ、HFOとの分解反応の抑制とを両立できる」という効果を奏する本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到することではない。
よって、申立人の主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
よって、相違点2に係る構成を本件発明1のようにすることが当業者が容易に想到することでない以上、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、4、6、8について
本件発明2、4、6、8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2、4、6、8についても、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)取消理由2、申立理由2についてのまとめ
よって、本件発明1、2、4、6、8は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、取消理由2及び申立理由2によっては本件発明1、2、4、6、8についての特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、「少なくとも1種のハロゲン化発泡剤、少なくとも1種のポリオール、水、二酸、三酸又はポリ酸から選ばれる少なくとも1種の成分を含む少なくとも1種の有機カルボン酸成分、及び、前記有機カルボン酸成分とともに、テトラアルキルグアニジン及びイソシアネート反応性基を含む第三級アミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を含む、ポリオールプレミックス組成物。」が記載され(請求項1)、そのプレミックス組成物と少なくとも1種のイソシアネートとを接触させてフォームを製造すること(請求項16)が記載されている。
そして、ポリオールプレミックス組成物に関連する例として、【0087】~【0089】の例2には、「スプレイ硬質フォーム配合物B」として、以下の表2に記載の組成物が記載されている。
「
[図:0001401632000008.jpg]
」
表2の組成物において、「アミン触媒」は[0087]に記載された「立体障害第三級アミンであるPolycat(登録商標)-12」又は「DABCO(登録商標)-T」(【0080】によれば、「N,N-ジメチルアミノエチル-N’-メチルエタノールアミン」)であり、表2の組成物は、ポリオール(ポリエステルポリオール、マンニッヒポリオール)とポリマーMDI(【0089】によれば、イソシアネート)とを含む混合物であるから、イソシアネートを混合する前のポリオールプレミックス組成物に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ポリマーMDI(イソシアネート)と接触させてフォームを製造するためのポリオールプレミックス組成物であって、ポリエステルポリオールを70質量部、マンニッヒポリオールを30質量部、Air Products & Chemicals Incの有機界面活性剤(商品名LK443)を2.0質量部、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである発泡剤を20質量部、水を1.5質量部、Air Products & Chemicals Incのビスマス系カルボン酸塩金属触媒(商品名DABCO MB20)を1.0質量部、Air Products & Chemicals Incのアミン系三量体化触媒(商品名DABCO-TMR7)を0.1~10質量部、2-クロロプロピルホスホエステル難燃剤を30.0質量部、さらに立体障害第三級アミン触媒Polycat-12又はN,N-ジメチルアミノエチル-N’-メチルエタノールアミンを含む、ポリオールプレミックス組成物」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ポリマーMDI(イソシアネート)」、「ビスマス系カルボン酸塩」、「ポリオールプレミックス組成物」は、それぞれ、本件発明1における「ポリイソシアネート化合物」、「有機酸ビスマス塩」、「ポリオール組成物」に相当する。
また、甲1発明の「ポリエステルポリオール」及び「マンニッヒポリオール」は、本件発明1の「ポリオール」に相当する。
甲1発明の「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」は、水素原子とフッ素原子を含有するオレフィンであるから、本件発明1の「ハイドロフルオロオレフィン(HFO)」に相当する(なお、本件明細書の【0084】にも、「E-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」がハイドロフルオロオレフィンの例として挙げられている。)。
甲1発明の「Air Products & Chemicals Incのアミン系三量体化触媒(商品名DABCO-TMR7)」は、上記1(4)アでも言及したように、「2,2-ジメチルプロパン酸テトラメチルアンモニウム塩」であり、本件発明1のカルボン酸アンモニウム塩に相当する。
また、甲1発明において、甲1の【0003】の記載より、イソシアネートとポリオールとが反応してポリウレタンフォームが生成するのであるから、甲1発明の「フォーム」は、本件発明1の「ポリウレタン発泡体」に相当する。
そして、甲1の【0039】において気泡安定剤として界面活性剤が挙げられていることや、本件明細書の【0081】にも、整泡剤として界面活性剤が挙げられていることからみて、甲1発明の「Air Products & Chemicals Incの有機界面活性剤(商品名LK443)」は、本件発明1の「整泡剤」に相当する。
そうすると、両者は、
「ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン発泡体を得るためのポリオール組成物であって、ポリオール、触媒、整泡剤、発泡剤、及びカルボン酸アンモニウム塩を含み、
前記カルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分は第4級アンモニウムカチオンであり、
前記カルボン酸アンモニウム塩のアニオン部分は下記式(1)で表されるカルボン酸アニオンであり
【化1】
[図:0001401632000009.jpg]
[式中、
R1はCnH2n+1であり、
R2はCmH2m+1であり、
R3は水素原子又はClH2l+1であり、
n、m及びlは独立して1以上の整数である。]
前記発泡剤としてハイドロフルオロオレフィン(HFO)を含有し、
前記触媒が有機酸ビスマス塩を含有する、
ポリオール組成物。」
である点において一致し、以下の点において相違する。
<相違点1>
ポリオール組成物が、本件発明1では「オクチル酸カリウム」を含有するのに対し、甲1発明ではそれを含有しない点
イ 相違点1についての判断
甲1には、ポリオール組成物が「オクチル酸カリウム」を含有することについて、記載も示唆もないから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。
また、甲2の【0029】には、イソシアヌレート化触媒として「オクチル酸カリウム」が用いられることが記載され、乙1の【0028】にもイソシアネートの三量化触媒として「DABCO-K15」(本件明細書の実施例で用いられているオクチル酸カリウム)が記載されているものの、甲1発明のポリオール組成物は、甲1の請求項1において必須とされている「二酸、三酸又はポリ酸から選ばれる少なくとも1種の成分を含む少なくとも1種の有機カルボン酸成分」を含まないもの、すなわち比較例に相当するものであり、【0093】、【0094】には、甲1発明の組成物がアミン触媒としてPolycat-12、DABCO-T(N,N-ジメチルアミノエチル-N’-メチルエタノールアミン)のいずれを用いた場合でも、Vmax時間やライズ時間が増加し、好ましくない結果となったことが示されているものである。
そうすると、このような甲1発明に着目し、さらにそこにイソシアヌレート化触媒であるオクチル酸カリウムを配合してその改良を試みることは当業者に動機づけられることではない。
また、本件発明1は、上記第6の1(3)で示したように、「横伸びを低減し、かつ、HFOとの分解反応を抑制できるポリオール組成物を提供する」という効果を発揮するものであるところ、甲1の記載、特に【0087】~【0094】の甲1発明の組成物の試験結果や、甲2の【0029】、乙1の【0028】のオクチル酸カリウムに関連する記載を見ても、そのような効果は当業者が予測できることではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和5年1月12日付けの意見書の項目(3)「取消理由2(甲第1号証に基づく新規性・進歩性の欠如)に係る特許権者の主張に対して」において、三量化触媒の一つとしてオクチル酸カリウムを添加することは当業者に周知の技術的事項にすぎないし、本件明細書の実施例において、オクチル酸カリウムが添加されたものも、添加されていないものも、「60℃1w前後での発泡挙動変化」及び「横伸び剥離」の評価結果が「○」であり、オクチル酸カリウムの添加の有無にかかわらず本件発明の課題が解決されるのであるから、上記周知の三量化触媒であるオクチル酸カリウムをさらに添加する程度のことは何らの進歩性も認め得ない旨主張する。
しかし、上記イで指摘したように、甲1発明は甲1の請求項1に記載された必須成分を含まない比較例に相当するものであって、Vmax時間やライズ時間が増加するという劣る結果を示すものであり、このような甲1発明に着目して、さらにそれを改良しようとする動機付けはなく、また、本件発明1の効果も甲1、甲2、乙1から予測できるものではない。
よって、申立人の主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとも、また甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1に記載された発明であるとも、また甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2~8についても、甲1に記載された発明であるとも、また甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)申立理由1についてのまとめ
よって、本件発明1~8は甲1に記載された発明であるとも、また甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、申立理由1によっては本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(委任省令要件違反)、申立理由4(サポート要件違反)、申立理由5(明確性要件違反)について
申立理由3~5は、いずれも、本件明細書の実施例で用いられている、エアープロダクツ社製品の「DABCO TMR7」について、本件明細書にはその具体的構造について記載がなく、本件発明1に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウムの範疇に属するものであるのか明らかでないことに基づく理由であるため、まとめて検討する。
(1)申立理由3~5についての検討
乙1は本件特許の優先日前に公知となった文献であり、その【0028】には、次の記載がある(下線は当審が付した。)。
「イソシアネートの三量化触媒(B)としては、カリウム系、4級アンモニウム塩系、トリアジン系のいずれも市販の触媒を使用することが出来る。カリウム系としては、「DABCO K-15」、「Polycat-46」、「ペルロン9540」、「FR600」等、4級アンモニウム塩系としては、「TOYOCAT-TRX」、「TOYOCAT-TR20」、「TOYOCAT-TRV」、「DABCO TMR」、「DABCO TMR-2」、「DABCO TMR-7」、「カオーライザー No.400」、「カオーライザー No.410」、「カオーライザー No.420」、「U-CAT 18X」、「U-CAT 2313」等、トリアジン系としては、「Polycat-41」、「TOYOCAT TRC」、「カオーライザー No.14」等の市販の触媒が挙げられ、これらは適宜組み合わせて使用することが出来る。」
乙1の上記記載によれば、本件明細書の実施例において、本件発明の「カルボン酸アンモニウム塩」として用いられている「DABCO TMR7」は、本件特許の優先日前に市販されていた触媒であることがわかる。
そして、本件明細書の実施例においては、「カルボン酸アンモニウム塩」として用いられているのは「DABCO TMR7」のみであり、実施例の組成物がそれを含み、比較例の組成物がそれを含まないとされていることからみても、本件明細書の記載は、「DABCO TMR7」が本件発明1、3~5で特定されるカルボン酸アンモニウム塩に相当することを前提とするものといえる。
なお、第6の1(4)アで示したように、本件特許の出願日後に公知となった乙2等によれば、「DABCO TMR7」は「2,2-ジメチルプロパン酸テトラメチルアンモニウム塩」を含む製品であり、その化合物は本件発明1、3~5で特定されるカルボン酸アンモニウム塩の条件を満たすものであるから、上記前提に誤りはないといえる。
そうすると、本件明細書の実施例において用いられている「DABCO TMR7」の構造が本件明細書に記載されていなくても、当業者は、それが本件発明1、3~5で特定されるカルボン酸アンモニウム塩に相当する化合物を含むことを本件明細書の記載から容易に理解することができるし、また、「DABCO TMR7」は本件特許の優先日前に市販されていたものであるから、自ら分析するか、又は製造元に問い合わせるなどしてその構造を知り得ることはできたものと認められる。
また、本件明細書の【0064】にカルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分として「テトラメチルアンモニウムカチオン」が例示され、【0065】にアニオン部分として「2,2-ジメチルプロパン酸アニオン」が例示され、しかも、カチオン及びアニオンをこれらに限定した本件発明4、5の規定が、本件特許の出願当初の請求項4及び5に記載されていたから、本件特許の出願当初の明細書及び特許請求の範囲には、本件発明1のカルボン酸アンモニウム塩の最も代表的な化合物が「2,2-ジメチルプロパン酸テトラメチルアンモニウム塩」であることも記載されていたといえる。
したがって、「DABCO TMR7」の構造が本件明細書に記載されておらず、本件発明1、3~5に規定される特定構造のカルボン酸アンモニウムの範疇に属するものであるのか明らかでないことに基づく申立理由3~5は理由があるとはいえず、本件明細書の記載は、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~8の技術上の意義を理解することができる程度に記載したものであり、本件発明1~8は発明の詳細な説明に記載したものであり、また、本件発明1~8は明確であるといえる。
(2)申立人の主張について
申立人は、令和5年1月12日に提出した意見書において、乙2は(本件特許の出願日後である)令和1年10月3日に出願公開されたものであり、そのような乙2の存在によって、「DABCO TMR7」の構造が本件特許の出願時において公知であったことが証明されるものではなく、本件特許の特許権者と乙2の出願人が同一であることを考慮すると、「DABCO TMR7」の構造は、乙2の出願時点(平成30年3月26日であり、本件特許の出願日よりも後)において初めて知り得たものと考えざるを得ない旨主張する。
しかし、上記(1)で述べたように、「DABCO TMR7」は本件特許の優先日前に市販されていたものであるから、自ら分析するか、又は製造元に問い合わせるなどしてその構造を知り得ることはできたものと認められるから、本件特許の優先日時点において出願人が知っていたとしても何ら矛盾はない。
また、上記(1)で述べたように、本件明細書の記載は、「DABCO TMR7」が本件発明1、3~5で特定されるカルボン酸アンモニウム塩に相当することを前提とするものとなっていることに加え、本件明細書の【0064】にカルボン酸アンモニウム塩のカチオン部分として「テトラメチルアンモニウムカチオン」が例示され、【0065】にアニオン部分として「2,2-ジメチルプロパン酸アニオン」が例示され、しかも、カチオン及びアニオンをこれらに限定した本件発明4、5の規定が、本件特許の出願当初の請求項4及び5に記載されており、「DABCO TMR7」に含まれるカルボン酸アンモニウム塩は、そのカチオンとアニオンからなる塩である。
これらのことを考慮すれば、少なくとも本件特許の出願時点において、「DABCO TMR7」が本件発明1、3~5のカルボン酸アンモニウム塩に相当する化合物を含むことを出願人が知った上で出願がなされたと考えるのが自然である。
よって、申立人の主張は採用することができない。
(3)申立理由3~5についてのまとめ
上記のとおりであるから、本件発明1~8についての特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、申立理由3~5によっては本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
上記第6のとおり、取消理由1、2及び申立理由1~5によっては、本件特許の請求項1~8についての特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~8についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700607