特許異議申立
2022-700606
窒化ケイ素焼結基板
- 審判番号
- 2022-700606
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-184908
- 登録番号
- 6992364
- 請求日
- 2022年07月08日
- 審決日
- 2023年10月10日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社プロテリアル
- 【権利者代理人】高石 橘馬
- 【権利者代理人】高石 健二
- 【異議申立人】青木 眞理
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.121-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6992364号発明「窒化ケイ素焼結基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6992364号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第6992364号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6992364号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2017年(平成29年)9月26日を出願日とする特許出願であって、令和3年12月13日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1~7に係る特許に対し、特許異議申立人(以下、「申立人」という。)である青木眞理により、同年7月8日に特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯は、次のとおりである。
令和4年 9月 6日付け:取消理由通知
同年11月 8日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年12月23日 :意見書の提出(申立人)
令和5年 2月 1日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 4月 6日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
なお、令和5年4月6日の訂正の請求について、申立人に期間を指定して意見を求めたところ、申立人から、意見等の提出はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
令和5年4月6日に特許権者より請求された訂正は適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。
1 訂正の内容
令和5年4月6日に提出された訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その内容は、次の訂正事項1~4からなる(下線は訂正箇所。)。
なお、本件訂正請求があったので、令和4年11月8日の訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「直径102mm(4インチ)以上の円形の主面を有し」と記載されているのを、「直径102mm(4インチ)以上250mm以下の直径dを有する円形の主面を有する窒化ケイ素焼結基板であって、窒化ケイ素焼結体から切り出してなり」に訂正する。
(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~7についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1から「前記主面は、加工しろがない場合には円形であり、加工しろがある場合には円形の直径に加工しろの寸法を加えた円形であり」との記載を削除して、「前記窒化ケイ素焼結体の主面のうち周囲1cm幅を除いた四角形内に直径3cmの9つの円C11~C13、C21~C23、C31~C33を3行3列に配置したとき(ただし、中央の円C22は、対角に位置する2つの頂点をそれぞれ結ぶ2つの対角線の交点に円C22の中心が一致するように配置し、他の8つの円C11~C13、C21、C23、C31~C33は、前記主面の頂点近傍でかつ2つの辺に接するように円C11、C13、C31、C33を配置し、これらの円の中間に位置し、かつ、対応する辺に接するように円C12、C21、C23、C32を配置する。)、円C22の切片の密度及びボイド率が中央部の密度dc及びボイド率vcに相当し、円C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の密度及びボイド率が端部の密度de及びボイド率veに相当し、」との記載を追加し、「前記主面における中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/deが0.98以上かつ1.0以下であり、前記主面における中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、端部のボイド率veが1.00%以下であり、前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上1.06以下であり」と記載されているのを「C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の全ての密度及びボイド率において、前記中央部の密度dcと前記端部の密度deの比dc/deが0.98以上かつ1.0以下であり、前記中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、前記端部のボイド率veが1.00%以下であり、前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上1.06以下であり」に訂正する。
(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~7についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「前記端部の密度deが3.160g/cm3以上である」と記載されているのを、「C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の全ての密度において前記端部の密度deが3.160g/cm3以上である」に訂正する。
(請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項4~7についても同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「前記端部の密度deが3.160g/cm3以上であり」と記載されているのを、「C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の全ての密度において前記端部の密度deが3.160g/cm3以上であり」に訂正する。
(請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4~7についても同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、円形の主面を有する窒化ケイ素基板について、直径の上限が250mmであって、窒化ケイ素焼結体から切り出してなるものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、そして、上記限定は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記直径が250mmの窒化ケイ素基板については、願書に添付した明細書(下線は当審で付与した。以下同様。)の【0114】に、円形の窒化ケイ素基板を「窒化ケイ素焼結基板の1辺は最大で220mm(8.7インチ)であるが、一辺が250mmの(9.8インチ)正方形形状を有する窒化ケイ素焼結基板から作成」できることが記載されており、円形の窒化ケイ素焼結基板を窒化ケイ素焼結体から切り出して作成することは、願書に添付した明細書の【0037】に、「円形の窒化ケイ素焼結基板101を加工により切り落とす前の窒化ケイ素焼結体101’」と記載されているから、訂正事項1は、これらから新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、令和4年9月6日付けの取消理由通知の理由2(明確性要件違反)の、「「中央部」及び「端部」の範囲の取り方によって、中央部の密度dc、端部の密度de、中央部のボイド率vc、端部のボイド率veの値は異なり、一義的に定まらず、本件発明1は不明確である。」、「「加工しろがある場合には円形の直径に加工しろの寸法を加えた円形」との記載により特定される主面の大きさは明確でない。」などの指摘、令和5年2月1日付け取消理由通知(決定の予告)の理由の、「「円形」の主面を有する窒化ケイ素基板については、・・・「正方形」の窒化ケイ素焼結基板を加工したものが示されているにとどまる。」、「測定方法が異なる正方形の窒化ケイ素焼結基板での測定値に基づいて、円形の窒化ケイ素焼結基板での数値を推測できるとはいえない」などの指摘を踏まえて行なったものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、上記訂正事項2によって、窒化ケイ素焼結基板に関する、中央部の密度dc、端部の密度de、中央部のボイド率vc、端部のボイド率ve、さらには、主面の大きさが明確に特定されるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、「窒化ケイ素焼結体の主面のうち周囲1cm幅を除いた四角形内に直径3cmの9つの円C11~C13、C21~C23、C31~C33を3行3列に配置したとき(ただし、中央の円C22は、対角に位置する2つの頂点をそれぞれ結ぶ2つの対角線の交点に円C22の中心が一致するように配置し、他の8つの円C11~C13、C21、C23、C31~C33は、前記主面の頂点近傍でかつ2つの辺に接するように円C11、C13、C31、C33を配置し、これらの円の中間に位置し、かつ、対応する辺に接するように円C12、C21、C23、C32を配置する。)」については、願書に添付した明細書の【0038】に「窒化ケイ素焼結体101’の中央部及び端部の密度及びボイド率は以下のようにして求める。図2(b)に示すように、窒化ケイ素焼結体101’(一辺がL1、他の一辺がL2)において、窒化ケイ素焼結体101’(一辺がL1、他の一辺がL2)において、絶縁基板として使用しない部分(1cm幅)を除いた四角形110’を仮定し、四角形110’内に直径3cmの9つの円C11~C13、C21~C23、C31~C33を3行3列に配置する。ここで、中央の円C22は、正方形の中心、つまり、対角に位置する2つの頂点をそれぞれ結ぶ2つの対角線の交点に円C22の中心が一致するように配置し、他の8つの円C11~C13、C21、C23、C31~C33は、正方形110’の頂点近傍でかつ2つの辺に接する直径3cmの円C11、C13、C31、C33を配置する。また、これらの円の中間に位置し、かつ、対応する辺に接するように、円C12、C21、C23、C32を配置する。」と記載されており、そして、「円C22の切片の密度及びボイド率が中央部の密度dc及びボイド率vcに相当し、円C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の密度及びボイド率が端部の密度de及びボイド率veに相当し、C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の全ての密度及びボイド率」については、願書に添付した明細書の【0039】に「窒化ケイ素焼結体101’の密度及びボイド率は、上記のように配置した9つの円C11~C13、C21~C23、C31~C33を窒化ケイ素焼結体101’からレーザ加工によって切り出して測定する。中央部の密度及びボイド率とは、円C22の切片の密度であり、端部の密度及びボイド率とは、円C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片を測定した値のうち、最も小さい値である」と記載されているから、訂正事項2は、これらから新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
(3)訂正事項3、4について
訂正事項3、4は、訂正前の請求項2、3において、訂正事項2に整合させて「前記端部の密度」を明確にするものであるから、上記(2)で述べたとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、そして、新たな技術的事項を導入するものではない。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2~7は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~7は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1~4は、その一群の請求項1~7においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載
上記第2のとおり本件訂正請求は適法になされたものであると認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
直径102mm(4インチ)以上250mm以下の直径dを有する円形の主面を有する窒化ケイ素焼結基板であって、
窒化ケイ素焼結体から切り出してなり、
前記窒化ケイ素焼結体の主面のうち周囲1cm幅を除いた四角形内に直径3cmの9つの円C11~C13、C21~C23、C31~C33を3行3列に配置したとき(ただし、中央の円C22は、対角に位置する2つの頂点をそれぞれ結ぶ2つの対角線の交点に円C22の中心が一致するように配置し、他の8つの円C11~C13、C21、C23、C31~C33は、前記主面の頂点近傍でかつ2つの辺に接するように円C11、C13、C31、C33を配置し、これらの円の中間に位置し、かつ、対応する辺に接するように円C12、C21、C23、C32を配置する。)、円C22の切片の密度及びボイド率が中央部の密度dc及びボイド率vcに相当し、円C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の密度及びボイド率が端部の密度de及びボイド率veに相当し、
C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の全ての密度及びボイド率において、前記中央部の密度dcと前記端部の密度deの比dc/deが0.98以上かつ1.0以下であり、前記中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、前記端部のボイド率veが1.00%以下であり、前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上1.06以下であり、
前記主面の表面粗さSaが0.7μm以下であり、
0.15mm以上2.0mm以下の厚さを有し、
焼結助剤として、酸化物換算で2質量%以上5質量%以下のMg化合物と、酸化物換算で1質量%以上10質量%以下の少なくとも1種の希土類元素の化合物とを用いることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化ケイ素焼結基板において、前記中央部の密度dcが3.120g/cm3以上であり、C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の全ての密度において前記端部の密度deが3.160g/cm3以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板。
【請求項3】
請求項1に記載の窒化ケイ素焼結基板において、前記中央部の密度dcが3.140g/cm3以上であり、C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の全ての密度において前記端部の密度deが3.160g/cm3以上であり、前記中央部のボイド率vcが1.30%以下であることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結基板において、前記主面の表面粗さSaが0.3μm以下であることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結基板において、炭素含有量が0.20質量%以下であり、窒化ケイ素焼結基板の炭素含有量は非分散型赤外線吸収法によって測定していることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結基板において、前記主面は、オリエンテーションフラット又はノッチを有することを特徴とする窒化ケイ素焼結基板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結基板において、半導体単結晶基板又は半導体単結晶層をボンディングするための基板として用いることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板。」
第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和5年2月1日付けの取消理由(決定の予告)は、みなし取下げされた訂正請求によって訂正された請求項1~7に係る発明に対して通知されたものであり、その概要は、次のとおりである。
(1)取消理由(サポート要件違反)
請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6号第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
要すれば、窒化ケイ素焼結基板の密度およびボイド率として、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0114】~【0117】には、正方形の窒化ケイ素焼結基板について、中央部、端部の密度、ボイド率が記載されているが、円形の主面を有するものについては、正方形の窒化ケイ素焼結基板を加工したものが示されているにすぎない。
ここで、本件明細書には、円形の主面を有する窒化ケイ素焼結基板について、(d’×0.2)の直径を有する円の切片から、中央部及び端部の密度及びボイド率を求めるのに対し、正方形の窒化ケイ素焼結基板では、直径3cmの円の切片から中央部及び端部の密度及びボイド率を求めるものであることが記載され(【0033】~【0035】、図2a)、また、円形の窒化ケイ素焼結基板101の中央部及び端部の密度及びボイド率は、便宜的に、円形の窒化ケイ素焼結基板101を加工により切り落とす前の窒化ケイ素焼結体101’の中央部及び端部の測定値から推測することができる(このような方法で測定しても差しつかえない)ことが記載されている(【0037】)。
しかし、円形の主面を有する窒化ケイ素焼結基板では、(d’×0.2)の直径を有する円の切片から、中央部及び端部の密度及びボイド率を求めるのに対し、正方形の窒化ケイ素焼結基板では、直径3cmの円の切片から中央部及び端部の密度及びボイド率を求めるものである。
そうすると、測定方法が異なる正方形の窒化ケイ素焼結基板での測定値に基づいて、円形の窒化ケイ素焼結基板での数値を推測できるとはいえない。 また、【0037】で示される推定についても、焼結基板が円形の場合における(d’×0.2)の直径と、焼結基板が四角形の場合における直径3cmが同じ場合、すなわちd’=150mm以外の場合を除いて、必ずしもその推測が成り立つとはいえない。
したがって、請求項1における円形の主面を有する窒化ケイ素焼結基板における中央部および端部の密度及びボイド率を特定する発明特定事項は本件明細書に開示されたものとはいえないことから、発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~7についても事情は同じであるから、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
2 当審の判断
(1)取消理由(サポート要件)について
本件訂正請求によって、本件発明1において、円形の主面を有する窒化ケイ素焼結基板の中央部及び端部の密度およびボイド率は「窒化ケイ素焼結体の主面のうち周囲1cm幅を除いた四角形内に直径3cmの9つの円C11~C13、C21~C23、C31~C33を3行3列に配置・・・(ただし、中央の円C22は、対角に位置する2つの頂点をそれぞれ結ぶ2つの対角線の交点に円C22の中心が一致するように配置し、他の8つの円C11~C13、C21、C23、C31~C33は、前記主面の頂点近傍でかつ2つの辺に接するように円C11、C13、C31、C33を配置し、これらの円の中間に位置し、かつ、対応する辺に接するように円C12、C21、C23、C32を配置する。)」して測定することが特定された。
ここで、本件明細書の【0038】には「窒化ケイ素焼結体101’の中央部及び端部の密度及びボイド率は以下のようにして求める。図2(b)に示すように、窒化ケイ素焼結体101’(一辺がL1、他の一辺がL2)において、絶縁基板として使用しない部分(1cm幅)を除いた四角形110’を仮定し、四角形110’内に直径3cmの9つの円C11~C13、C21~C23、C31~C33を3行3列に配置する。ここで、中央の円C22は、正方形の中心、つまり、対角に位置する2つの頂点をそれぞれ結ぶ2つの対角線の交点に円C22の中心が一致するように配置し、他の8つの円C11~C13、C21、C23、C31~C33は、正方形110’の頂点近傍でかつ2つの辺に接する直径3cmの円C11、C13、C31、C33を配置する。また、これらの円の中間に位置し、かつ、対応する辺に接するように、円C12、C21、C23、C32を配置する。」と記載されており、【0095】には、実施例として「表1に示す1辺の長さを有する正方形の窒化ケイ素焼結基板」を作成したことが、【0099】には「作製した窒化ケイ素焼結基板の密度、密度比、ボイド率、・・・を測定した」ことが記載されている。そうすると、本件発明1の上記窒化ケイ素焼結基板の中央部及び端部の密度およびボイド率の測定方法は、本件明細書に記載され、実施例においても採用されている方法となっている。
よって、本件発明1の中央部、端部の密度及びボイド率の測定方法は、本件明細書に開示されたものであるといえることから、発明の詳細な説明に記載されたものである。また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~7についても同様である。
したがって、上記取消理由は理由がない。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立理由(以下、「申立理由」という)は、概略、以下のとおりである。
1 申立理由
(1)申立理由1(明確性)
訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6号第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
要すれば、以下のア~ウの点である。
ア 訂正前の請求項1を引用する請求項である訂正前の請求項6には、窒化ケイ素焼結基板が「オリエンテーションフラット又はノッチを有する」とされているところ、訂正前の請求項1の「直径102mm(4インチ)以上の円形の主面を有する」窒化ケイ素焼結基板とは、オリエンテーションフラット又はノッチを設けた箇所であっても102mm以上あることを示しているのか不明である。
イ 訂正前の請求項1の「前記面取り部の壁面がレーザ加工面」は、面取り部の壁面の製造方法を規定しているが、面取り部の壁面をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際できない理由が不明であるため、その記載が不明である。
ウ 訂正前の請求項1において「dc/deが0.98以上かつ1.0以下」、「ve/vcが0.50以上1.06以下」とされているが、dc/de=1.0、ve/vc1.0である場合を含むのか不明である。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明は不明確であるし、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~7についても同様である。
(2)申立理由2(進歩性)
訂正前の請求項1~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
証拠一覧
甲第1号証:特開2003-192445号公報
甲第2号証:特開2006-282500号公報
甲第3号証:特開平10-154856号公報
甲第4号証:特開2010-76948号公報
甲第5号証:特開2016-37611号公報
甲第6号証:特開2001-135580号公報
以下、「甲第○号証」を「甲○」という。
なお、主たる証拠は甲1であり、甲2はセラミック焼結体の大きさ、甲3はセラミックス基板に窒化ケイ素焼結体基板を用いる際の金属回路の厚み、甲4はセラミックス焼結助剤、甲5は金属中の炭素の含有量の測定方法、甲6は基板にオリエンテーションフラットを設けることについて記載されたものである。
2 各証拠について
(1)甲1について
ア 甲1には以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下、同様。)
(ア)「【0014】本発明は上記のような課題要請に対処するためになされたものであり、窒化けい素焼結体が本来備える高強度特性に加えて、特に基板を構成する焼結体中に実質的に気孔(ポア)が形成されず、また表面粗さが小さいために、加工時に脱粒が生じにくく、さらにこの薄い窒化けい素基板を用いて各種パワーモジュールや回路基板を構成した場合でもリーク電流量を効果的に抑制することができ、さらに基板表面に薄膜を形成した場合においても薄膜の膨れや剥離を防止でき、電子機器に使用した場合においても、その絶縁性、耐久性および動作の信頼性を大幅に向上させることが可能な窒化けい素基板、その製造方法およびそれを用いた薄膜付き窒化けい素基板を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成するため、従来の窒化けい素セラミックス基板を使用したモジュールにおいてリーク電流が発生する要因を究明し、以下のような知見を得た。」
(イ)「【0100】実施例1~7
実施例1~7として酸素量1.1質量%、不純物陽イオン元素としてAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.10質量%含有し、α相型窒化けい素97%を含む平均粒径0.55μmのSi3N4(窒化けい素)原料粉末に対して、焼結助剤として平均粒径0.9μmのY2O3(酸化イットリウム)粉末と、平均粒径0.5μmのEr2O3(酸化エルビウム)粉末と、平均粒径1.0μmのTiO2(酸化チタン)粉末と、平均粒径0.5μmのMgO(酸化マグネシウム)粉末とを表1に示す基板組成となるように添加し、エチルアルコール中で粉砕媒体として窒化けい素製ボールを用いて96時間湿式混合したのち乾燥して原料混合体を調製した。
【0101】次に得られた原料粉末混合体に有機バインダを所定量添加し調合造粒粉としたのち、130MPaの成形圧力でプレス成形し、成形体を多数製作した。次に得られた成形体を450℃の空気気流中において4時間脱脂したのち、表1に示す焼結条件により焼結した後に、1500℃まで温度降下するまでの冷却速度をそれぞれ表1に示す値に設定して焼結体を冷却した。さらに、表1に示すHIP条件により焼結体に熱間静水圧プレス処理を実施することにより、各基板をさらに緻密化せしめた。さらに、各基板に対して、表面加工を実施することにより、表1に示す、厚さおよび表面粗さとなるように調整し、それぞれ実施例1~7に係る窒化けい素基板を調製した。なお、各基板のサイズは縦50mm×横40mmに統一した。
・・・
【0103】こうして得られた実施例1~7および比較例1に係る各窒化けい素基板について、表面粗さ、粒界相の最大径、気孔率、気孔の有無およびリーク電流値を測定して表1に示す結果を得た。
【0104】なお、表面粗さ(Ra)は、JIS B0601の規格に準拠して測定した。また、粒界相の最大径は以下の方法で測定した。すなわち、窒化けい素基板表面の拡大写真を撮影し、50μm×50μmの単位面積領域内において、最も長い対角線を有する粒界相を測定対象としてその対角線長さを求める。この測定操作を、少なくとも3箇所の単位面積領域において実施し、その最長対角線長さを粒界相の最大径とした。
【0105】また、気孔率はアルキメデス法により測定した。また、気孔の有無は、基板組織の拡大顕微鏡写真の任意の200μm×200μmの単位面積領域内において、気孔の有無を確認し、任意の単位面積を3個所以上測定しても気孔が確認できない場合を気孔「無し」と表示した。
・・・
【0107】
【表1】
[図:0001405782000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記表1の実施例3には、基板組成がSi3N4が87質量%、Y2O3が4質量%、Er2O3が6質量%、TiO2が1質量%、MgOが2質量%、基板厚さが0.3mm、表面粗さRaが0.05μm、気孔率が<0.01vol%である窒化けい素焼結基板が記載されており、この実施例3に着目すると、甲1には以下の発明が記載されているといえる。
「サイズが縦50mm×横40mmの窒化けい素焼結基板であって、
気孔率は<0.01vol%であり、
表面粗さRaが0.05μmであり、
0.3mmの厚さを有し、
Si3N4が87質量%、Y2O3が4質量%、Er2O3が6質量%、TiO2が1質量%、MgOが2質量%からなる窒化けい素焼結基板。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0050】
・・・なお、上記炭化珪素、窒化珪素、窒化ガリウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウム及び酸化アルミニウムなどを主成分とする焼結体からなる基板の形状は本発明において円形だけでなく正方形、長方形、あるいはその他多角形など任意の形状のものが使用できる。また、上記炭化珪素、窒化珪素、窒化ガリウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウム及び酸化アルミニウムなどを主成分とする焼結体からなる薄膜形成用基板及び炭化珪素、窒化珪素、窒化ガリウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウム及び酸化アルミニウムなどを主成分とする焼結体を用いることで作製される薄膜基板は焼結体および薄膜作製において通常用いられている方法を用いることで任意の大きさのものが作製できる。すなわち焼結体の場合例えば外形0.01mm~1000mm、厚み1μm~20mm程度のものは容易に作製できる。」
(3)甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0012】さらに、本発明は、セラミックス基板に窒化アルミニウム焼結体基板または窒化珪素焼結体基板を用いたことを特徴とする回路基板である。
・・・
【0014】セラミックス基板として材料特性には特に制限はないが、良好な放熱性を示すためには、熱伝導率が80W/mK以上のものが適している。また、基板の曲げ強さについては、回路基板形成後の強さに影響を及ぼすため350MPa以上のものが適当である。このような特性を示すセラミックスとして窒化アルミニウムが知られている。またセラミックス基板の形状は通常矩形であることが多いが、形状は用途によって適宜選択する事が可能であり、菱形、平行四辺形、楕円形等いずれの形状に於いても、本発明は限定されるものではない。
【0015】セラミックス基板の厚みは、要求される回路基板の強さによって異なるが、通常、0.3mmから1.5mmのものが使われる。セラミックス基板に形成される金属回路もしくは金属回路と金属放熱板について説明すると、その材質は、銅、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン等の純金属もしくは合金が用いられる。その金属回路又は金属放熱板の厚みは0.1~2.0mmが使われる。」
(4)甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0025】
まず、窒化珪素粉末を主成分とする原料粉末に、酸化物のマグネシア(MgO)3wt%、希土類系酸化物の酸化イットリウム(Y2O3)を1~5wt%のセラミックス焼結助剤粉末を加え、これに更に分散剤、粘結助剤(有機バインダー)、溶剤等を添加しボールミルで混合・粉砕し、所定粘度のスラリーを作製した。ここでは希土類酸化物として酸化イットリウムを用いたが、他の希土類酸化物を用いても良い。」
(5)甲5について
甲5には、以下の事項が記載されている。
「【0030】 ここで、カルボニル鉄粉中に含まれる不純物である窒素、酸素の含有量については、例えば不活性ガス融解法等の方法で測定することができる。また、炭素の含有量については、燃焼・非分散型赤外線吸収法等の方法で測定することができる。」
(6)甲6について
甲6には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0003】しかし、その窒化ガリウム系化合物半導体の成長基板としては、そのほとんどがサファイア、スピネル基板、SiCなどの異種材料であり、窒化ガリウム系化合物半導体との格子定数差などの問題から良好な窒化ガリウム系化合物半導体の成長が困難な状況下にあった。このような問題を解決する方法として、Epitaxial Lateral OverGrowth(以下、ELOGと記す)により基板上に下地層を導入する方法が提案されている。このELOGによる下地層は、上記異種基板若しくはその基板上に成長させた窒化ガリウム系化合物半導体上に、SiO2などのマスク若しくは表面に段差を所定のパターン状に設けて、選択的に横方向に成長させて成膜するものである。」
イ 「【0019】以下、具体例を挙げて説明すると、サファイア基板であれば、主面をC面、オリエンテーションフラット面(以下オリフラ面と記す)をA面とする基板の場合には、窒化ガリウム系化合物半導体を非マスク領域から選択成長させると、基板面内でオリフラ面に平行な方向に成長の容易な方向をとる傾向にある。このため、溝(マスク領域)のストライプ方向をオリフラ面(A面)に対してほぼ垂直にとることで、良好な横方向の成長を実現し、窒化ガリウム系化合物半導体の成長に有利な表面状態の基板が得られるやすくなる。さらには、主面がA面でオリフラ面がR面である場合には、上記場合と同様に、基板面内でオリフラ面にほぼ平行な方向が良好な選択成長をなすため、溝(マスク領域)のストライプ方向をオリフラ面にほぼ垂直にすることが良い。また、基板材料がスピネル(MgAl2O4)で、主面が(111)面でオリフラ面が(110)面であると、窒化ガリウム系化合物半導体は基板面内でオリフラ面に平行な方向に成長しやすい傾向にあるため、このオリフラ面にほぼ垂直に溝(マスク領域)を設けることで、好ましい窒化ガリウム系化合物半導体基板が得られる。」
3 当審の判断
(1)申立理由1について
ア 上記1(1)アについて
本件発明1では円形の主面を有する基板が102mm以上の直径を有することが特定されているところ、直径とは円の中心から円周部分までの長さを意味するため、オリエンテーションフラットやノッチの有無にかかわらず、円の中心から円周部分までの長さが102mm以上であることを意味することは明らかであり、この点において明確である。
イ 上記1(1)イについて
そもそも「前記面取り部の壁面がレーザ加工面」は、本件発明1の特定事項ではないことから、上記1(1)イの申立人の主張は、根拠のないことである。
ウ 上記1(1)ウについて
本件発明1において、「dc/deが0.98以上かつ1.0以下」、「ve/vcが0.50以上1.06以下」とされているのであるから、dc/de=1.0、ve/vc1.0である場合を含むことは明確である。
エ 小括
したがって、本件発明1は明確であり、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2~7も明確であるから、申立理由1には理由がない。
(2)申立理由2について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 厚さについて
甲1発明の「0.3mmの厚さを有し」は本件発明1の「0.15mm以上2.0mm以下の厚さを有し」を満たす。
b 成分組成について
甲1発明の「Y2O3が4質量%、Er2O3が6質量%」の合計は10質量%であるから、本件発明1の「酸化物換算で1質量%以上10質量%以下の少なくとも1種の希土類元素の化合物」を満たし、甲1発明の「MgOが2質量%」は本件発明1の「酸化物換算で2質量%以上5質量%以下のMg化合物」を満たし、そして、これらY2O3、Er2O3、MgOは焼結助剤として含有されるものである。
そうすると、甲1発明の「Si3N4が87質量%、Y2O3が4質量%、Er2O3が6質量%、TiO2が1質量%、MgOが2質量%からなる窒化けい素焼結基板」は本件発明1の「焼結助剤として、酸化物換算で2質量%以上5質量%以下のMg化合物と、酸化物換算で1質量%以上10質量%以下の少なくとも1種の希土類元素の化合物とを用いることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板」に相当する。
c 基板は主面を有するものであるから、甲1発明の「窒化けい素焼結基板」は、本件発明1の「主面を有する窒化ケイ素焼結基板」に相当する。
d したがって、本件発明1と甲1発明は、
「主面を有する窒化ケイ素基板であって、
0.15mm以上2.0mm以下の厚さを有し、
焼結助剤として、酸化物換算で2質量%以上5質量%以下のMg化合物と、酸化物換算で1質量%以上10質量%以下の少なくとも一種の希土類元素の化合物とを用いる窒化ケイ素焼結基板。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
窒化ケイ素焼結基板が、本件発明1では、「直径102mm(4インチ)以上250mm以下の直径dを有する円形」であって、
「窒化ケイ素焼結体から切り出してなり、
前記窒化ケイ素焼結体の主面のうち周囲1cm幅を除いた四角形内に直径3cmの9つの円C11~C13、C21~C23、C31~C33を3行3列に配置したとき(ただし、中央の円C22は、対角に位置する2つの頂点をそれぞれ結ぶ2つの対角線の交点に円C22の中心が一致するように配置し、他の8つの円C11~C13、C21、C23、C31~C33は、前記主面の頂点近傍でかつ2つの辺に接するように円C11、C13、C31、C33を配置し、これらの円の中間に位置し、かつ、対応する辺に接するように円C12、C21、C23、C32を配置する。)、円C22の切片の密度及びボイド率が中央部の密度dc及びボイド率vcに相当し、円C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の密度及びボイド率が端部の密度de及びボイド率veに相当し、
C11~C13、C21、C23、C31~C33の切片の全ての密度及びボイド率において、前記中央部の密度dcと前記端部の密度deの比dc/deが0.98以上かつ1.0以下であり、前記中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、前記端部のボイド率veが1.00%以下であり、前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上1.06以下」であるのに対し、
甲1発明では、「サイズが縦50mm×横40mm」であって、「気孔率は<0.01vol%」である点。
(相違点2)
窒化ケイ素焼結基板の主面が、本件発明1では、「表面粗さSaが0.7μm以下」であるのに対し、甲1発明では「表面粗さRaが0.05μm」である点。
イ 相違点の判断
(ア)相違点1について検討する。
第5の2(1)ア(ウ)に摘記したとおり、甲1には、「気孔率」を「アルキメデス法により測定した」との記載はあるが、密度を測定した旨の記載はないし、気孔率についても、具体的に窒化ケイ素基板のどの部分についてどのようにして測定したか等、詳細な記載はないため、9つの直径3cmの円を配置し、それらの円の密度やボイド率を測定する本件発明1とは測定位置や測定する物性も異なるものである。
また、本件発明1は、「窒化ケイ素焼結基板のサイズを大きくすると、基板の中央付近と端部とで種々の物性に差が生じ、基板面内での物性の均一性が低下する」(【0020】)という課題があったところ、「直径102mm(4インチ)以上250mm以下の直径dを有する円形の主面を有する」というサイズの大きな窒化ケイ素焼結基板においても、「dc/deが0.98以上かつ1.0以下であり、前記中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、前記端部のボイド率veが1.00%以下であり、前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上1.06以下」(以下、下線部を「特徴事項」という。)という、基板面内での物性の均一性を達成したものであるのに対し、甲1発明では、サイズが縦50mm×横40mmの窒化ケイ素焼結板を作成しており、基板のサイズが異なっている。
そうすると、相違点1は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点1の容易性について検討する。
焼結基板が小さい場合に基板面内のボイド率がほぼ均一であっても、焼結基板が大きくなるに従って基板面内のボイド率が不均一になることは技術常識である。そうすると、上記特徴事項における「直径102mm(4インチ)以上250mm以下の直径dを有する円形の主面を有する」と「dc/deが0.98以上かつ1.0以下であり、前記中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、前記端部のボイド率veが1.00%以下であり、前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上1.06以下」を分けて検討することはできず、あくまでも一つの技術的事項として検討する必要がある。
甲2には、上記第5の2(2)で摘記したとおり、「外形0.01mm~1000mm程度」の焼結体は容易に作製できることが記載されているが、サイズを大きくしたときの物性の均一性についての記載はなく、上記特徴事項は記載されていない。したがって、甲1発明に甲2に記載されて事項を組み合わせたとしても、本件発明1の窒化ケイ素焼結基板は得られない。
また、甲3~6にも、上記特徴事項は記載されていない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2~7は、甲1発明及び甲2~6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
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2022-700606