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特許異議申立

2022-700549

ニッケルなしで金属表面をリン酸塩処理するための改良された方法

審判番号
2022-700549
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-553121
登録番号
6986028
請求日
2022年06月21日
審決日
2024年06月17日
公報発行日
2024年11月29日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
  • 【権利者代理人】江藤 聡明
  • 【異議申立人】山▲崎▼ 浩一郎
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 土屋 知久
  • 審判官 相澤 啓祐
分類
P1651.113-ZB (C23C) / P1651.121-ZB (C23C) / P1651.537-ZB (C23C) / P1651.832-ZB (C23C) / P1651.841-ZB (C23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号
データ出所
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特許第6986028号発明「ニッケルなしで金属表面をリン酸塩処理するための改良された方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6986028号の請求項1ないし11に係る特許を取り消す。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6986028号の請求項1~11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2017年(平成29年)1月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年4月7日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、令和3年11月30日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月22日に特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、令和4年6月21日差出で特許異議申立人山崎浩一郎(以下、「申立人」という。なお、「崎」は「たつさき」である。)より請求項1~11(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、令和4年9月30日付けで取消理由が通知され、これに対し、令和4年12月7日に訂正請求がなされるとともに、意見書が提出され、令和5年3月20日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対し、同年5月18日に訂正請求がなされるとともに、意見書が提出され、令和5年9月29日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対し、同年12月20日に訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに、意見書が提出され、本件訂正請求に対し、令和6年3月4日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対し、同年4月18日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正請求について 1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容 本件訂正請求は、特許第6986028号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。また、令和4年12月7日及び令和5年5月18日になされた訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 請求項1について、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「リン酸塩処理用組成物」中の「ニッケル含有量」について、本件訂正前の「0.3g/l未満」を「0.01g/l未満」に訂正(以下、「訂正事項1-1」という。)し、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量」について、本件訂正前の「1~200mg/lの範囲」を「1~20mg/lの範囲」に訂正(以下、「訂正事項1-2」という。)するとともに、「鉄(III)イオンは遊離酸の調節に先立ってリン酸塩処理用組成物に添加されており、」との事項を特定(以下、「訂正事項1-3」という。)し、「リン酸塩処理用組成物が0.1g/l未満の硝酸塩を含有し、」との事項を特定(以下、「訂正事項1-4」という。)し、「金属表面は、電着材料を金属表面に析出させる前に、濯がれず、及び」との事項を特定(以下、「訂正事項1-5」という。)し、「且つ前記金属表面は鋼、溶融亜鉛メッキ系、電解亜鉛メッキ系、アルミニウム、Zn/Fe合金及びZn/Mg合金から成る群から選択される」との事項を特定(以下、「訂正事項1-6」という。)し、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「ニッケル含有量」、「遊離酸」、「遊離酸(希釈)」、「総酸、Fischer」、「総酸」、「酸価」、「鉄(III)イオンの含有量」及び上記訂正事項1-4の「硝酸塩」の含有量が、いずれも「金属表面をリン酸塩処理する間」の数値であることを特定(以下、「訂正事項1-7」という。)する。 請求項1を引用する請求項2、4~9も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 請求項10を削除する。 (4)訂正事項4 請求項11を削除する。 (5)訂正事項5 請求項4について、本件訂正前の請求項4の「金属表面を少なくとも部分的に亜鉛メッキする」を「金属表面が少なくとも部分的に亜鉛メッキされている」に訂正(以下、「訂正事項5-1」という。)するとともに、「請求項1から3の何れか一項」を「請求項1又は2」に訂正(以下、「訂正事項5-2」という。)する。 請求項4を引用する請求項5~9も同様に訂正する。 (6)訂正事項6 請求項5について、本件訂正前の請求項5の発明特定事項である「亜鉛イオン」、「マンガンイオン」及び「ホスフェートイオン(P2O5として計算)」の含有量がいずれも「金属表面をリン酸塩処理する間」の数値であることを特定(以下、「訂正事項6-1」という。)するとともに、「請求項1から4のいずれか一項」を「請求項1、2及び4のいずれか一項」に訂正(以下、「訂正事項6-2」)する。 請求項5を引用する請求項6~9も同様に訂正する。 (7)訂正事項7 請求項6について、本件訂正前の請求項6の発明特定事項である「遊離のフッ化物」の含有量が「金属表面をリン酸塩処理する間」の数値であることを特定(以下、「訂正事項7-1」という。)するとともに、「請求項1から5のいずれか一項」を「請求項1、2、4及び5のいずれか一項」に訂正(以下、「訂正事項7-2」という。)する。 請求項6を引用する請求項7~9も同様に訂正する。 (8)訂正事項8 請求項7について、本件訂正前の請求項7の発明特定事項である「錯体のフッ化物」の含有量が「金属表面をリン酸塩処理する間」の数値であることを特定(以下、「訂正事項8-1」という。)するとともに、「請求項1から6のいずれか一項」を「請求項1、2、4から6のいずれか一項」に訂正(以下、「訂正事項8-2」という。)する。 請求項7を引用する請求項8、9も同様に訂正する。 (9)訂正事項9 請求項9について、「請求項1から8のいずれか一項」を「請求項1、2、4から8のいずれか一項」に訂正する。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項2~11は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~11は一群の請求項である。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~11〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 3 当審の判断 3-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無 (1)訂正事項1 最初に、訂正事項1-1~1-6について検討する。 訂正事項1-1は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0061】の記載を根拠として、請求項1において、「リン酸塩処理用組成物」中の「ニッケル含有量」について、本件訂正前の「0.3g/l未満」を「0.01g/l未満」とするものである。 また、訂正事項1-2は、本件明細書【0030】の記載を根拠として、請求項1において、「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量」について、本件訂正前の「1~200mg/lの範囲」を「1~20mg/lの範囲」とするものである。 さらに、訂正事項1-3は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項11の記載を根拠として、「鉄(III)イオンは遊離酸の調節に先立ってリン酸塩処理用組成物に添加されて」いる事項を特定するものである。 また、訂正事項1-4は、同特許請求の範囲の請求項10の記載を根拠として、「リン酸塩処理用組成物」について、「1g/l未満の硝酸塩を含有」する事項を特定するものである。 さらに、訂正事項1-5は、本件明細書【0069】、【0070】の記載を根拠として、「金属表面」について、「電着材料を金属表面に析出させる前に、濯がれず、及び」との事項を特定するものである。 また、訂正事項1-6は、本件明細書【0019】の記載を根拠として、「且つ前記金属表面は鋼、溶融亜鉛メッキ系、電解亜鉛メッキ系、アルミニウム、Zn/Fe合金及びZn/Mg合金から成る群から選択される」との事項を特定するものである。 そうすると、訂正事項1-1~1-6は、いずれも「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された事項の範囲内の訂正である。 次に、訂正事項1-7について検討する。 まず、訂正の目的について検討するに、訂正事項1-7は、「ニッケル含有量」、「遊離酸」、「遊離酸(希釈)」、「総酸、Fischer」、「総酸」、「酸価」、「鉄(III)イオンの含有量」及び「硝酸塩」の含有量(以下、「本件各種パラメータ」という。)について、どの時点での含有量であるかが不明であったところ、いずれも「金属表面をリン酸塩処理する間」の数値であることを特定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 次に、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について検討するに、訂正事項1-7は、本件訂正前の請求項1の本件各種パラメータが、どの時点での数値であるかが特定されていなかったところ、いずれも「金属表面をリン酸塩処理する間」の数値であることを特定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。 最後に、新規事項追加の有無について検討する。 本件明細書【0030】、【0036】には、「鉄(III)イオンの含有量」について、【0050】、【0054】には、「遊離酸」について、【0050】、【0055】には、「遊離酸(希釈)」について、【0050】、【0056】には、「総酸、Fischer」について、【0050】、【0057】には、「総酸」について、【0050】、【0058】には、「酸価」について、【0045】~【0047】には、「硝酸塩」の含有量について、【0061】には、「ニッケル含有量」について、それらの数値範囲がそれぞれ記載されている。 しかしながら、当該箇所には、これらがどの時点の数値であるかが明記されていない。 また、本件明細書の他の箇所にも、本件訂正前の請求項1の本件各種パラメータが、「金属表面をリン酸塩処理する間」の数値であることの根拠となる記載はない。 したがって、訂正事項1-7は、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であるとはいえない。 よって、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないものの、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であるとはいえない。 なお、特許権者は、令和6年4月18日提出の意見書(第2頁第9~15行)において、次の主張をしている。 「訂正請求項には、二種類の金属の濃度、硝酸塩の濃度及び4種類の酸の価が「金属表面をリン酸塩処理する間」の価として規定されています。本件明細書の実施例につきまして、本件発明の実施例を実施している間、上述した各価は実質的に維持されることはこの技術分野の当業者にとっては理解するものです。その理由は、実施例ではわずか数回のスループットしか行われていないからです。更に本件明細書の段落『0101』及び『0102』には、本件発明ではリン酸塩処理組成物がリン酸塩処理中及び処理後において非常に安定であったことが明記されています。」 しかしながら、本件明細書の実施例には、スループットについて【0095】、【0100】、【0102】に記載されているものの、具体的な回数、時間等が記載されていない。 また、確かに、本件明細書【0101】、【0102】には、「10mg/lのFe(III)を他のニッケル不含浴に加え」、「その後、FA(KCl)を約1.3に調節した」ものについて、「Zn含有量」、「FA(KCl)」が安定であったと記載されている。 しかしながら、【0101】に記載された「他のニッケル不含浴」がどのような成分のものであるかが不明であるし、また、当該処理液でどのような金属に対し、どのような処理を行ったかも不明であるし、さらに、「Zn含有量」、「FA(KCl)」が安定であったと記載されているものの、他のパラメータ、すなわち、「ニッケル含有量」、「遊離酸(希釈)」、「総酸、Fischer」、「総酸」、「酸価」、「鉄(III)イオンの含有量」及び「硝酸塩」の含有量について変化が少なかったか否かも不明である。 よって、特許権者の上記主張は採用できない。 (2)訂正事項2~4 訂正事項2~4は、それぞれ請求項3、10、11を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 (3)訂正事項5 訂正事項5-1は、本件明細書【0019】の記載を根拠として、請求項1を引用する請求項4について、本件訂正前の「金属表面を少なくとも部分的に亜鉛メッキする」を「金属表面が少なくとも部分的に亜鉛メッキされている」に訂正することにより、「亜鉛メッキ」が請求項1の「リン酸塩処理」の前に行われることを明確にするものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 また、訂正事項5-2は、訂正事項2において請求項3を削除することに伴い、請求項3を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項5は、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 (4)訂正事項6 訂正事項6-1は、訂正事項1-7と同様に((1)参照。)、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないものの、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であるとはいえない。 また、訂正事項6-2は、訂正事項5-2と同様に(上記(3)参照。)、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項6は、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないものの、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であるとはいえない。 (5)訂正事項7 訂正事項7-1は、訂正事項1-7と同様に((1)参照。)、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないものの、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であるとはいえない。 また、訂正事項7-2は、訂正事項5-2と同様に(上記(3)参照。)、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項7は、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないものの、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であるとはいえない。 (6)訂正事項8 訂正事項8-1は、訂正事項1-7と同様に((1)参照。)、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないものの、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であるとはいえない。 また、訂正事項8-2は、訂正事項5-2と同様に(上記(3)参照。)、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項8は、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないものの、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であるとはいえない。 (7)訂正事項9 訂正事項9は、訂正事項5-2と同様に((3)参照。)、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 3-2 独立特許要件について 本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、上記訂正事項1~9について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の要件は課されない。 4 訂正請求についてのむすび 以上のとおり、令和5年12月20日に特許権者が請求した本件訂正のうち、訂正事項1、6~8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合しない。 したがって、それぞれ請求項1、5~7について訂正する訂正事項1、6~8に係る訂正は認められず、よって、本件訂正前の請求項1、5~7を含む一群の請求項である請求項1~11について訂正する本件訂正は認められない。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件の特許請求の範囲の記載 本件訂正請求による訂正は、上記第2で検討したとおり認められないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された、次のとおりのものである。 なお、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明を、以下、「本件発明1」~「本件発明11」という。また、これらをまとめて、「本件発明」という。 「【請求項1】 電着材料を析出させるために金属表面をリン酸塩処理する方法であって、金属表面を、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェートイオンを含む酸性の水性でニッケル含有量が0.3g/l未満であるリン酸塩処理用組成物で処理することを含み、 前記リン酸塩処理用組成物が、0.3~2.0の範囲の遊離酸、0.5~8の範囲の遊離酸(希釈)、12~28の範囲の総酸、Fischer、12~45の範囲の総酸、および0.01~0.2の範囲の酸価を有し、 リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が1~200mg/lの範囲であり、及び 金属表面を前記リン酸塩処理用組成物で処理した後、金属表面は、少なくとも1種の金属イオンおよび/または少なくとも1種のポリマーを含む水性の後濯ぎ組成物で処理されない、ことを特徴とする、方法。 【請求項2】 前記リン酸塩処理用組成物で処理を行う前に、前記金属表面を浄化および/または活性化することを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記リン酸塩処理用組成物で処理を行った後、前記金属表面を濯ぎおよび/または乾燥することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】 金属表面を少なくとも部分的に亜鉛メッキする、請求項1から3の何れか1項に記載の方法。 【請求項5】 リン酸塩処理用組成物が0.3~3.0g/lの亜鉛イオン、0.3~2.0g/lの マンガンイオン、8~25g/lのホスフェートイオン(P2O5として計算)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 リン酸塩処理用組成物が30~250mg/lの遊離のフッ化物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 リン酸塩処理用組成物が0.5~3g/lの錯体のフッ化物を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 錯体のフッ化物がテトラフルオロボレート(BF4-)および/またはヘキサフルオロシリケート(SiF62-)である、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 リン酸塩処理用組成物がH2O2を促進剤として含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。 【請求項10】 リン酸塩処理用組成物が1g/l未満の硝酸塩を含有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。 【請求項11】 鉄(III)イオンが遊離酸の調節に先立ってリン酸塩処理用組成物に添加されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。」 2 特許異議申立理由、及び、取消理由 申立人は、証拠方法として次の甲第1、2号証(以下、それぞれ「甲1」、「甲2」という。)を提出し、以下の(1)~(4)に示す申立理由1~4により、請求項1~11に係る特許を取り消すべきである旨主張した。 そして、令和4年9月30日付けの取消理由通知書において、申立理由1及び2を採用(一部の請求項について職権で通知)し、また、申立理由3のイについて、条文を変更して採用した取消理由を通知した。 また、令和5年3月20日付けの取消理由通知書(決定の予告)において、申立理由2(一部の請求項について職権で通知)について、取消理由を再度通知した。 さらに、令和5年3月20日付けの取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の判断を留保しつつ、令和5年9月29日付けの取消理由通知書(決定の予告)において、以下の(5)に示す職権で採用した取消理由5を通知した。 なお、令和5年3月20日付けの取消理由通知書(決定の予告)は、令和4年12月7日になされた訂正請求に係る訂正後の請求項1~9、11に対して通知されたものであり、また、令和5年9月29日付けの取消理由通知書(決定の予告)は、令和5年5月18日になされた訂正請求に係る訂正後の請求項1、2、4~9に対して通知されたものである。 (証拠方法) 甲1:特開平8-134661号公報 甲2:石井均,「リン酸塩処理の基礎」,表面技術,2010年,Vol.61,No.3,p216-222 (1)申立理由1(新規性) 本件特許の請求項1~3、5~8、11に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(進歩性) 本件特許の請求項1~3、5~11に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件及びサポート要件) ア 本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、請求項1に記載された「遊離酸」、「遊離酸(希釈)」、「総酸、Fischer」、「総酸」、「酸価」の全ての範囲で本件特許に係る発明の課題を解決し得ることが示されていないため、本件特許は、明細書の発明の詳細な説明または特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第4項第1号または同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項4に記載された「金属表面を少なくとも部分的に亜鉛メッキする」ことが記載されていないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由4(明確性) 請求項1に記載された「総酸、Fischer」、「総酸」の数値範囲は、あり得ない組合せが含まれているから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)職権で採用した取消理由5(明確性) 請求項1に記載された「鉄(III)イオンの含有量」、「ニッケル含有量」、「遊離酸」、「遊離酸(希釈)」、「総酸、Fischer」、「総酸」、「酸価」及び「硝酸塩」の含有量、請求項5に記載された「亜鉛イオン」の含有量、「マンガンイオン」の含有量及び「ホスフェートイオン(P2O5として計算)」の含有量、請求項6に記載された「遊離のフッ化物」の含有量、請求項7に記載された「錯体のフッ化物」の含有量は、金属表面への処理前、処理中、処理後等、どの時点のものであるかが不明であって、明確であるとはいえないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 3 解消していない取消理由 上記2で示した、申立理由1及び2(一部の請求項について職権で採用)、申立理由3のイについて条文を変更した理由、及び、職権で採用した取消理由5は未だ解消されていないので、次のとおり判断する。 3-1 特許法第36条第6項第2号について(職権で採用した取消理由5) (1)請求項1の「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量」等について ア 請求項1には、「金属表面を、」「リン酸塩処理用組成物で処理することを含み、」「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が1~200mg/lの範囲であり、」と記載されている。 イ そして、上記アの「金属表面」について、本件明細書には、「金属表面は好ましくは鋼、溶融亜鉛メッキ系、電解亜鉛メッキ系、アルミニウム、または、例えばZn/FeもしくはZn/Mgのようなこれらの合金を含む」(【0019】)と記載され、「金属表面」には鉄系素材も含まれている。 ウ さらに、鉄系素材を処理する場合に、鉄が溶出してリン酸塩処理用組成物の鉄イオン濃度が常に一定ではなく上昇し続けることは技術常識であるから、「鉄イオンの含有量」を明確に把握するためには、処理前、処理中、処理後のいずれの時点のものかを確定する必要がある。 エ ここで、上記アの「リン酸塩処理用組成物」について、本件明細書には、次の記載がある。 「【0030】 リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量は好ましくは1~200mg/l、より好ましくは1~100mg/l、より好ましくは5~100mg/l、殊に好ましくは5~50mg/l、非常に好ましくは5~20mg/lの範囲である。 【0031】 鉄(III)イオンは、例えば、硝酸塩、硫酸塩、クエン酸塩または酒石酸塩の形態でリン酸塩処理用組成物に加えることができる。 【0032】 しかし、鉄(III)イオンは硝酸塩の形態で加えないのが好ましい。これは、多過ぎる硝酸塩は層組成に対して逆効果を有するからである。即ち、形成される層のマンガン含有量がより低くなる。 【0033】 鉄(III)イオンは遊離酸(FA、後記参照)の確立に先立ってリン酸塩処理用組成物に加えると特に有利である。これは、これが亜鉛塩の沈殿を低減し、したがって浴の安定性が増大するという事実に起因し得る。」 オ 上記エの【0031】~【0033】の記載は、【0030】に続いて記載されているから、リン酸塩処理用組成物の調製にあたり、鉄(III)イオンの含有量を【0030】に記載された量に調整するための一手段であると解される。 カ そうすると、上記エの【0030】の「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量は好ましくは1~200mg/l」であるとの記載は、金属表面を、リン酸塩処理用組成物で処理する前のものであると一応解される。 キ また、本件明細書には次の記載があり、この記載の「13mg/lのFe(III)」は、被覆に用いられるニッケル不含リン酸塩処理用溶液における含有量であるから、金属表面処理前のリン酸塩処理用溶液における含有量であると考えられる。 「【0077】 [実施例1~3] 溶融亜鉛メッキ鋼(EA)、電解亜鉛メッキ鋼(G)またはアルミニウム(AA6014S)で作成された試験プレートを、1.3g/lのZn、1g/lのMn、13mg/lのFe(III)および13g/lのPO43-(P2O5として計算)を含有するニッケル不含リン酸塩処理用溶液を用いて45℃で被覆した。」 ク そうすると、本件明細書の記載からすると、請求項1の「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量」は、金属表面をリン酸塩処理する前のものであると一応解される。 ケ また、同様に、請求項1に記載された「ニッケル含有量」、「遊離酸」、「遊離酸(希釈)」、「総酸、Fischer」、「総酸」及び「酸価」、請求項5に記載された「亜鉛イオン」の含有量、「マンガンイオン」の含有量及び「ホスフェートイオン(P2O5として計算)」の含有量、請求項6に記載された「遊離のフッ化物」の含有量、請求項7に記載された「錯体のフッ化物」の含有量、及び、請求項10に記載された「硝酸塩」の含有量も、上記クと同様に、本件明細書の記載からすると、金属表面をリン酸塩処理する前のものであると一応解される。 コ 一方、令和5年5月18日提出の意見書において、特許権者は次の主張をしている。 「甲第1号証の表2(段落『0054』)及び表4(段落『0064』)では、鉄系素材からの組成物への鉄溶出量の実測値が示されています。 従いまして、たとえ処理組成物中の3価の鉄イオン濃度が、処理開始時に10mg/l(下限値)であったとしても、鉄系素材を処理する場合には、鉄系素材から鉄が溶出し、組成物中の3価の鉄イオン濃度は上昇を続けるはずです。そしてリン酸処理組成物中鉄(III)イオン濃度は上昇を続け、500mg/l(上限値)近傍に至るまで、何ら配慮されることがありません。 リン酸処理組成物で、非鉄系プレートを処理する場合であっても、同様のことが該当すると思料します。その理由は、リン酸処理組成物は、鉄系プレートと非鉄系プレートの間で共通して使用されるからです。つまり、事前に鉄系プレートが処理されていた組成物をそのまま非鉄系プレートの処理に使用する場合には、リン酸処理組成物中の価の鉄イオン濃度は上昇しているものです。 ・・・(略)・・・ 従いまして、甲第1号証は、本件請求項1の「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が1~20mg/lの範囲」であるという特徴的構成、及びこれにより奏される優れた効果を示しておらず、示唆もしていないと思料します。」 サ 上記コの主張は、甲第1号証に記載された発明は、処理組成物中の3価の鉄イオン濃度が、処理開始時に10mg/l(下限値)であったとしても、鉄系素材を処理する場合には、鉄系素材から鉄が溶出し、組成物中の3価の鉄イオン濃度は上昇を続けるはずであるから、本件請求項1の「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が1~20mg/lの範囲」であるという特徴的構成を有していないというものである。 シ すなわち、上記アの「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量」は、金属表面への処理前のものだけではなく、処理中または処理後のものも含むこととなる。 ス また、令和5年12月20日提出の意見書において、特許権者は次のとおり、上記アの「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量」は、「金属表面をリン酸塩処理する間」であることは明確であると主張している。 「本願発明の目的は、以下の明細書の段落『0011』の記載 「したがって、本発明の1つの目的は、金属表面を実質的にニッケルなしのリン酸塩処理に付することができ、前述した従来技術の欠点が避けられ、より特定的にはより高い浴安定性が得られる方法を提供することである。」 から明らかなように、「ニッケルなし」の状態で、リン酸塩処理用組成物による改良された金属表面処理方法を提供することにあるのですから、取消し理由で不明確であるとご指摘のあった請求項1の処理時点は、「金属表面をリン酸塩処理する間」であることは、明確であると思料します。 セ そうすると、上記エ~クの解釈と上記コ~スの解釈とは互いに異なるものであって、上記アの「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量」は、金属表面への処理前、処理中、処理後等、どの時点のものであるかが不明確であるから、特許請求の範囲の請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であると言わざるを得ない。 ソ また、令和5年12月20日提出の意見書において、特許権者は次のとおり主張している。 「実施例1~3の「13mg/lのFe(III)」は、金属表面の処理前の濃度であると解釈可能です。しかしながら明細書の実施例1~3(段落『0077』)に使用されたリン酸塩処理用組成物のFe(III)濃度は13mg/lであるのに対し、訂正後請求項1に記載された「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量」は、「1~20mg/l」です。この点に関し、実施例1から3で、使用したリン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が13mg/lから出発したとして、例えば表面処理の1スループットで「20mg/l」(請求項1の上限値)を超えることはあり得ないことは、この技術分野の当業者であれば理解するものです。そして明細書には、本発明の優れた効果が実証されています(例えば明細書の段落『0088』、『0101』及び『0102』)。 従いまして、リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量を「1~20mg/l」の範囲に維持した状態で、例えば「13mg/l」に維持し続けた状態で、試験片(金属表面)のスループットを繰り返し行っても、本願発明の優れた効果が得られることは、この技術分野の当業者であれば、明細書の記載、特に実施例の記載から明確に理解するものであると思料します。」 タ 上記ソの主張は、当業者であれば、1スループットで実施例1~3のものが請求項1の鉄イオンの上限値を超えることはないと明確に理解できると主張するものであるが、1スループットで実施例1~3のものが請求項1の鉄イオンの上限値を超えることはなかったとしても、そのことによって、請求項1の「鉄イオンの含有量」が処理前、処理中、処理後のどの時点のものかを明確に把握できるわけではない。 チ また、同様に、請求項1に記載された「ニッケル含有量」、「遊離酸」、「遊離酸(希釈)」、「総酸、Fischer」、「総酸」及び「酸価」の含有量、請求項5に記載された「亜鉛イオン」の含有量、「マンガンイオン」の含有量及び「ホスフェートイオン(P2O5として計算)」の含有量、請求項6に記載された「遊離のフッ化物」の含有量、請求項7に記載された「錯体のフッ化物」の含有量、請求項10に記載された「硝酸塩」の含有量も、金属表面への処理前、処理中、処理後等、どの時点のものであるかが不明であるから、特許請求の範囲の請求項1、5~7、10の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であると言わざるを得ない。 ツ よって、請求項1、5~7、10及びそれらを引用する請求項2~4、8、9、11の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。 3-2 特許法第36条第6項第2号について(申立理由3のイの条文変更) (1)請求項4の「亜鉛メッキ」について ア 本件発明4は、「金属表面を少なくとも部分的に亜鉛メッキする、請求項1から3の何れか1項に記載の方法」に係るものである。 イ また、請求項4が引用する請求項1~3に係る発明は、「電着材料を析出させるために金属表面をリン酸塩処理する方法」に係るものである。 ウ そうすると、本件発明4において、上記アの「亜鉛メッキ」は、上記イの「リン酸塩処理」の前に行うものか、「リン酸塩処理」の後に行うものかが明確であるとはいえない。 エ よって、請求項4およびそれを直接又は間接的に引用する請求項5~11の記載は、明確であるとはいえない。 3-3 特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項について(申立理由1、2(一部の請求項について職権で採用)) 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記3-1及び3-2の明確性要件違反が存在するため、次のとおりに解釈して以下の検討を行うこととする。 上記3-1については、請求項1、5~7、10の本件各種パラメータについて、上記3-1の(1)のエ~クでの検討のとおり、金属表面へのリン酸塩処理前のものとする。 また、上記3-2については、リン酸塩処理前に「金属表面が少なくとも部分的にメッキ」されたものとする。 (1)各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明 (1)-1 甲第1号証の記載事項 本件特許の優先日前に公開された甲1には、次の記載がある。なお、甲1に記載された発明の認定に関する箇所には、当審で下線を付した。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、金属表面を酸性リン酸亜鉛皮膜処理液に接触させて、その金属表面にリン酸亜鉛皮膜を形成させる方法に関するものであり、さらに詳細には従来よりも少ない皮膜量で高い防錆効果を有し、かつ処理の際に副生するリン酸亜鉛スラッジ量の少ないリン酸亜鉛皮膜形成方法に関するものである。」 「【0009】本発明の目的は、このような従来の問題点を解消し、リン酸亜鉛皮膜形成処理に際し副生するスラッジ発生量が少なく、かつ従来よりも少ない皮膜量で高い防錆効果を示すリン酸亜鉛皮膜を形成する方法を提供することにある。」 「【0022】本発明において用いられる酸性リン酸亜鉛皮膜処理液には、皮膜化成促進剤が含まれる。このような皮膜化成促進剤としては、例えば、亜硝酸イオン、m-ニトロベンゼンスルホン酸イオン、過酸化水素及びヒドロキシルアミンなどが挙げられる。」 「【0041】実施例1~4及び比較例1~7 (1)処理対象金属 冷延鋼板(SPC)及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を使用した。 (2)処理工程 処理対象の金属材を以下の工程に従って連続的に処理し塗装金属板を得た。 (a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整→(d)化成(ディップ処理)→(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥→(h)塗装 (3)処理条件 【0042】上記各工程について以下に説明する。 (a)脱脂 アルカリ性脱脂剤(日本ペイント社製、商品名「サーフクリーナーSD250」)を2重量%濃度で使用し、40℃で2分間浸漬処理した。このときの浴管理は、アルカリ度(ブロムフェノールブルーを指示薬として、10mlの浴の中和に要する0.1N-HClのml数)を初期値に維持することにより行った。補給用薬剤は、サーフクリーナーSD250を使用した。 【0043】(b)水洗 水道水を使用し、水圧によるスプレー洗浄処理をした。 (c)表面調整 表面調整剤(日本ペイント社製、商品名「サーフファイン5N-5」)を、0.1重量%濃度で使用し、室温で15秒間浸漬処理した。浴管理は、サーフファイン5N-5を補給してアルカリ度を維持することにより行った。 【0044】(d)化成(ディップ処理) 表1に示す組成のリン酸亜鉛処理液を使用し、40℃で2分間浸漬処理した。浴管理は、処理液のNO2イオン濃度及び遊離酸度(ブロムフェノールブルーを指示薬として、10mlの浴の中和に要する0.1N-NaOHのml数。ただし、処理浴がコバルトを含有する場合には、pH3.6になるまでに要する0.1N-NaOHのml数。)を測定し、NO2イオン濃度の低下に応じて亜硝酸ナトリウムの20重量%水溶液からなる補給用濃厚処理剤を補給し、遊離酸度の低下に応じて、その他の成分を供給するための補給用濃厚処理剤を処理液に補給して、遊離酸度とNO2イオン濃度を初期値に維持することにより行った。 【0045】 【表1】 [図:0001416427000001.jpg] 【0046】(e)水洗 水道水を使用し、室温で15秒間水洗した。 (f)純水洗 イオン交換水を使用し、室温で15秒間浸漬処理した。 (g)乾燥 100℃で10分間乾燥した。 【0047】(h)塗装 日本ペイント社製のカチオン型電着塗料(商品名「パワートップU-1000」)を用い、常法に従ってカチオン電着塗装して膜厚30μmの電着塗膜を形成し、その上に日本ペイント社製のメラミンアルキッド系中塗塗料を常法に従って塗装して膜厚30μmの中塗り塗膜を形成し、その上に日本ペイント社製のメラミンアルキッド系上塗塗料を常法に従って塗装して膜厚40μmの上塗り塗膜を形成した。 【0048】実施例1~4及び比較例1~7で得られたリン酸亜鉛処理板及びこれに塗装を施した塗装金属板について、以下の試験を行い、リン酸亜鉛皮膜処理特性及び塗装品質を評価した。」 (1)-2 甲1に記載された発明 ア (1)-1の【0045】の表1には、実施例2、比較例2、比較例5のリン酸亜鉛処理液の各イオンの含有量、全酸度及び遊離酸度が記載されている。 イ そうすると、甲1の実施例2のリン酸亜鉛皮膜形成方法に注目すると、甲1(特に、上記(1)-1の【0041】、【0044】~【0047】参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。 「処理対象金属として、冷延鋼板(SPC)または合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を使用し、(a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整→(d)化成(ディップ処理)→(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥→(h)塗装、の工程に従って連続的に処理する方法であって、 (d)化成(ディップ処理)では、リン酸亜鉛処理液を使用し、40℃で2分間浸漬処理し、浴管理は、処理液のNO2イオン濃度及び遊離酸度(ブロムフェノールブルーを指示薬として、10mlの浴の中和に要する0.1N-NaOHのml数。ただし、処理浴がコバルトを含有する場合には、pH3.6になるまでに要する0.1N-NaOHのml数。)を測定し、NO2イオン濃度の低下に応じて亜硝酸ナトリウムの20重量%水溶液からなる補給用濃厚処理剤を補給し、遊離酸度の低下に応じて、その他の成分を供給するための補給用濃厚処理剤を処理液に補給して、遊離酸度とNO2イオン濃度を初期値に維持することにより行い、 (e)水洗では、水道水を使用し、室温で15秒間水洗し、 (f)純水洗では、イオン交換水を使用し、室温で15秒間浸漬処理し、 (g)乾燥では、100℃で10分間乾燥し、 (h)上記(g)乾燥の工程に続いて、連続的にカチオン型電着塗料を用い、常法に従ってカチオン電着塗装して膜厚30μmの電着塗膜を形成し、その上にメラミンアルキッド系中塗塗料を常法に従って塗装して膜厚30μmの中塗り塗膜を形成し、その上にメラミンアルキッド系上塗塗料を常法に従って塗装して膜厚40μmの上塗り塗膜を形成して、塗装金属板を得、 上記リン酸亜鉛処理液は、Znイオン1.0g/l、Niイオン0g/l、Coイオン1.0g/l、Mnイオン0.6g/l、Cuイオン0.02g/l、Fe(III)イオン0.2g/l、PO4イオン15.0g/l、NO3イオン6.0g/l、SiF6イオン0.8g/l、NO2イオン0.14g/lを含み、全酸度18.7ポイント、遊離酸度0.8ポイントである、 リン酸亜鉛皮膜形成方法。」 ウ 甲1の比較例2のリン酸亜鉛皮膜形成方法に注目すると、甲1(特に、上記(1)-1の【0041】、【0044】~【0047】参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。 「処理対象金属として、冷延鋼板(SPC)または合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を使用し、(a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整→(d)化成(ディップ処理)→(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥→(h)塗装、の工程に従って連続的に処理する方法であって、 (d)化成(ディップ処理)では、リン酸亜鉛処理液を使用し、40℃で2分間浸漬処理し、浴管理は、処理液のNO2イオン濃度及び遊離酸度(ブロムフェノールブルーを指示薬として、10mlの浴の中和に要する0.1N-NaOHのml数。ただし、処理浴がコバルトを含有する場合には、pH3.6になるまでに要する0.1N-NaOHのml数。)を測定し、NO2イオン濃度の低下に応じて亜硝酸ナトリウムの20重量%水溶液からなる補給用濃厚処理剤を補給し、遊離酸度の低下に応じて、その他の成分を供給するための補給用濃厚処理剤を処理液に補給して、遊離酸度とNO2イオン濃度を初期値に維持することにより行い、 (e)水洗では、水道水を使用し、室温で15秒間水洗し、 (f)純水洗では、イオン交換水を使用し、室温で15秒間浸漬処理し、 (g)乾燥では、100℃で10分間乾燥し、 (h)上記(g)乾燥の工程に続いて、連続的にカチオン型電着塗料を用い、常法に従ってカチオン電着塗装して膜厚30μmの電着塗膜を形成し、その上にメラミンアルキッド系中塗塗料を常法に従って塗装して膜厚30μmの中塗り塗膜を形成し、その上にメラミンアルキッド系上塗塗料を常法に従って塗装して膜厚40μmの上塗り塗膜を形成して、塗装金属板を得、 上記リン酸亜鉛処理液は、Znイオン1.0g/l、Niイオン0g/l、Coイオン1.0g/l、Mnイオン0.6g/l、Cuイオン0g/l、Fe(III)イオン0.1g/l、PO4イオン15.0g/l、NO3イオン6.0g/l、SiF6イオン0.8g/l、NO2イオン0.14g/lを含み、全酸度18.7ポイント、遊離酸度0.8ポイントである、 リン酸亜鉛皮膜形成方法。」 エ 甲1の比較例5のリン酸亜鉛皮膜形成方法に注目すると、甲1(特に、上記(1)-1の【0041】、【0044】~【0047】参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明3」という。)が記載されていると認められる。 「処理対象金属として、冷延鋼板(SPC)または合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を使用し、(a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整→(d)化成(ディップ処理)→(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥→(h)塗装、の工程に従って連続的に処理する方法であって、 (d)化成(ディップ処理)では、リン酸亜鉛処理液を使用し、40℃で2分間浸漬処理し、浴管理は、処理液のNO2イオン濃度及び遊離酸度(ブロムフェノールブルーを指示薬として、10mlの浴の中和に要する0.1N-NaOHのml数。ただし、処理浴がコバルトを含有する場合には、pH3.6になるまでに要する0.1N-NaOHのml数。)を測定し、NO2イオン濃度の低下に応じて亜硝酸ナトリウムの20重量%水溶液からなる補給用濃厚処理剤を補給し、遊離酸度の低下に応じて、その他の成分を供給するための補給用濃厚処理剤を処理液に補給して、遊離酸度とNO2イオン濃度を初期値に維持することにより行い、 (e)水洗では、水道水を使用し、室温で15秒間水洗し、 (f)純水洗では、イオン交換水を使用し、室温で15秒間浸漬処理し、 (g)乾燥では、100℃で10分間乾燥し、 (h)上記(g)乾燥の工程に続いて、連続的にカチオン型電着塗料を用い、常法に従ってカチオン電着塗装して膜厚30μmの電着塗膜を形成し、その上にメラミンアルキッド系中塗塗料を常法に従って塗装して膜厚30μmの中塗り塗膜を形成し、その上にメラミンアルキッド系上塗塗料を常法に従って塗装して膜厚40μmの上塗り塗膜を形成して、塗装金属板を得、 上記リン酸亜鉛処理液は、Znイオン1.0g/l、Niイオン0g/l、Coイオン0g/l、Mnイオン0.6g/l、Cuイオン0.01g/l、Fe(III)イオン0.1g/l、PO4イオン15.0g/l、NO3イオン6.0g/l、SiF6イオン0.8g/l、NO2イオン0.14g/lを含み、全酸度18.3ポイント、遊離酸度0.8ポイントである、 リン酸亜鉛皮膜形成方法。」 (1)-3 甲2の記載事項 本件特許の優先日前に公開された甲2には、次の記載がある。 「 [図:0001416427000002.jpg] 」(第221頁左欄第21~36行) (2)本件発明1について 本件発明1と甲1発明1とを対比する。 ア 甲1発明1は、「(d)化成(ディップ処理)では、リン酸亜鉛処理液を使用」する処理を行うものであり、また、「(g)乾燥」後、「カチオン型電着塗料を用い、」塗膜を形成するものであるから、甲1発明1の「処理対象金属として、冷延鋼板(SPC)または合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を使用し、(a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整→(d)化成(ディップ処理)→(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥」の「工程に従って連続的に処理する方法」は、本件発明1の「電着材料を析出させるために金属表面をリン酸塩処理する方法」に相当する。 イ 甲1に記載された発明は、「金属表面を酸性リン酸亜鉛皮膜処理液に接触させて、その金属表面にリン酸亜鉛皮膜を形成させる方法に関するものであ」(【0001】)るから、甲1発明1の「リン酸亜鉛処理液」は、「酸性」である蓋然性が極めて高い。 そして、甲1発明1は、「処理対象金属として、冷延鋼板(SPC)または合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を使用」するものである。 また、本件発明は、「その高い毒性および環境に対する有害性のために、ニッケルイオンはもはや処理溶液の望ましい構成成分ではなく、したがってできる限り避けるか、または少なくともその量に関して低減するべきである」(【0006】)ところ、「金属表面を実質的にニッケルなしのリン酸塩処理に付する」(【0011】)ものであるから、本件発明1の「ニッケル含有量が0.3g/l未満である」事項は、ニッケル含有量が「0.0g/l」であることを含むものである。 さらに、本件発明1の「リン酸塩処理用組成物」は、「亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェートイオンを含む」ものであって、これらのイオン以外のイオン、例えば、コバルトイオン等のイオンを排除するものではない。 そうすると、上記3-3の冒頭の解釈に照らせば、甲1発明1の「リン酸亜鉛処理液を使用」する「(d)化成(ディップ処理)」を行い、「リン酸亜鉛処理液は、Znイオン1.0g/l、Niイオン0g/l」、「Mnイオン0.6g/l」、「Fe(III)イオン0.2g/l、PO4イオン15.0g/l」「を含」む事項は、本件発明1の「金属表面を、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェートイオンを含む酸性の水性でニッケル含有量が0.3g/l未満であるリン酸塩処理用組成物で処理することを含み、」「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が1~200mg/lの範囲であ」る事項に相当する。 ウ 甲1には、「遊離酸度」の「測定」について、「ブロムフェノールブルーを指示薬として、10mlの浴の中和に要する0.1N-NaOHのml数。ただし、処理浴がコバルトを含有する場合には、pH3.6になるまでに要する0.1N-NaOHのml数」(【0044】)と記載されている。 また、甲2には、「酸度には二種類あり、・・・(略)・・・ブロモフェノールブルーを用いた場合を「遊離酸度」と称する。ブロモフェノールブルーのpH変色域はpH4程度」(第7頁第26~29行)と記載されている。 一方、本件明細書には、「遊離酸の決定には、10mlのリン酸塩処理用組成物を・・・(略)・・・0.1MのNaOHでpH3.6まで滴定を行う。この滴定で消費される0.1MのNaOHの量(リン酸塩処理用組成物10ml当たりのml)が遊離酸(FA)の値を点で与える」(【0054】)と記載されている。 そして、NaOHの価数は1であるため、甲1の「0.1N」と本件明細書の「0.1M」は等しくなるから、甲1発明1の「遊離酸度」は、本件発明1の「遊離酸」の値に相当する。 そうすると、上記3-3の冒頭の解釈に照らせば、甲1発明1の「リン酸亜鉛処理液は、」「遊離酸度0.8ポイントである」事項は、本件発明1の「リン酸塩処理用組成物が、0.3~2.0の範囲の遊離酸」「を有」する事項に相当する。 エ 本件明細書には、「遊離酸(希釈)」について、「遊離酸(FA)に対する差から錯体のフッ化物の量を決定することが可能である。この差に0.36の係数をかけると、結果がSiF62-としての錯体のフッ化物の量g/lである」(【0055】)と記載されている。 すなわち、次の式1が成り立つ。 (式1) {(遊離酸(希釈))-(遊離酸(FA))}×0.36=(SiF62-としての錯体のフッ化物の量g/l) そして、式1を変形すると、次の式2のとおりである。 (式2) (遊離酸(希釈))=(遊離酸(FA))+(SiF62-としての錯体のフッ化物の量g/l)÷0.36 さらに、上記ウより、甲1発明1の「遊離酸度」は本件発明1の「遊離酸」の値に相当し、甲1発明1は、「リン酸亜鉛処理液」が、「SiF6イオン0.8g/l」「を含み、」「遊離酸度0.8ポイントである」から、これらの値を式2に代入すると、甲1発明1の「遊離酸(希釈)」は、(遊離酸度)+(SiF6イオン(g/l))÷0.36=0.8+0.8÷0.36=3.02となる。 そうすると、上記3-3の冒頭の解釈に照らせば、甲1発明1は、本件発明1の「リン酸塩処理用組成物が、」「0.5~8の範囲の遊離酸(希釈)」「を有」する事項を含むものである。 オ 本件明細書には、「総酸、Fischer」について、「この数字に0.71をかけると、結果はP2O5として計算したホスフェートイオンの総量である」(【0056】)と記載されている。 そうすると、次の式3が成り立つ。 (式3) (総酸、Fischer)=(P2O5として計算したホスフェートイオンの総量)÷0.71 ここで、PO4の分子量は約95、P2O5の分子量は約142であるから、PO4とP2O5との価数の違いを考慮すると、PO4のイオンの含有量に142÷(95×2)=0.747の係数をかけた値がホスフェートイオン(P2O5)としての含有量となる。 そして、甲1発明1の「リン酸亜鉛処理液」は、「PO4イオン15.0g/l」「を含」むものであるから、甲1発明1の「リン酸亜鉛処理液」に含まれる「PO4イオン」を「P2O5イオン」に換算すると、15.0×142÷(95×2)=11.2g/lとなる。 さらに、これを式3に代入すると、甲1発明1の「総酸、Fischer」は、11.2÷0.71=15.8となる。 そうすると、上記3-3の冒頭の解釈に照らせば、甲1発明1は、本件発明1の「リン酸塩処理用組成物が、」「12~28の範囲の総酸、Fischer」「を有」する事項を含むものである。 カ 甲1には、「全酸度」の測定方法が記載されていないが、甲2には、「リン酸塩処理特有の濃度指標として酸度がある。一定量の処理液サンプルにpH指示薬を加えて水酸化ナトリウム水溶液にて中和滴定した時の終点までの滴加量をその指標としている。酸度には二種類あり、指示薬としてフェノールフタレインを用いた場合を「全酸度」・・・(略)・・・と称する。・・・(略)・・・フェノールフタレインはpH9程度であり、・・・(略)・・・全酸度の場合は重金属イオンがすべてリン酸塩として沈殿し、かつリン酸の電離平衡がH3PO4-からH2PO42-へ移行した点が終点となる。・・・(略)・・・全酸度がリン酸と金属イオンを合計した「処理液濃度」と考えることができる」(第221頁左欄第22~36行)と記載されており、甲1発明1の「全酸度」の測定も同様の手法で行われたと考えられる。 一方、本件明細書には、「総酸(TA)は、存在する二価のカチオンならびに遊離および結合したリン酸(後者がホスフェートである)の合計である。・・・(略)・・・10mlのリン酸塩処理用組成物を・・・(略)・・・0.1MのNaOHでpH9まで滴定する。この手順中の、希釈リン酸塩処理用組成物10ml当たりのmlとしての消費量が総酸(TA)の点数に対応する」(【0057】)と記載されている。 そうすると、甲1発明1の「全酸度」は、本件発明1の「総酸」の点数に相当する。 したがって、上記3-3の冒頭の解釈に照らせば、甲1発明1の「リン酸亜鉛処理液は、」「全酸度18.7ポイント」「である」事項は、本件発明1の「リン酸塩処理用組成物が、」「12~45の範囲の総酸」「を有」する事項に相当する。 キ 本件明細書には、「酸価(A値)は比FA:TAFを表し、遊離酸(FA)の値を総酸、Fischer(TAF)の値で割ることによって得られる」(【0058】)と記載されている。 そうすると、上記ウ、オより、甲1発明1の「遊離酸度」は0.8ポイントであり、「総酸、Fischer(TAF)」は15.8であるため、「酸価」は、0.8÷15.8=0.051となるから、上記3-3の冒頭の解釈に照らせば、甲1発明1は、本件発明1の「リン酸塩処理用組成物が、」「0.01~0.2の範囲の酸価を有」する事項を含むものである。 ク 甲1発明1は、「(a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整→(d)化成(ディップ処理)→(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥→(h)塗装、の工程に従って連続的に処理する方法であって、」「(e)水洗では、水道水を使用し、室温で15秒間水洗し、(f)純水洗では、イオン交換水を使用し、室温で15秒間浸漬処理し、(g)乾燥では、100℃で10分間乾燥」するものであるから、「(d)化成(ディップ処理)」の後、少なくとも1種の金属イオンおよび/または少なくとも1種のポリマーを含む水性の後濯ぎ組成物で処理するものではない。 そうすると、甲1発明1は、本件発明1の「金属表面を前記リン酸塩処理用組成物で処理した後、金属表面は、少なくとも1種の金属イオンおよび/または少なくとも1種のポリマーを含む水性の後濯ぎ組成物で処理されない」事項を含むものである。 ケ 上記ア~クより、本件発明1と甲1発明1とは、 「電着材料を析出させるために金属表面をリン酸塩処理する方法であって、金属表面を、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェートイオンを含む酸性の水性でニッケル含有量が0.3g/l未満であるリン酸塩処理用組成物で処理することを含み、 前記リン酸塩処理用組成物が、0.3~2.0の範囲の遊離酸、0.5~8の範囲の遊離酸(希釈)、12~28の範囲の総酸、Fischer、12~45の範囲の総酸、および0.01~0.2の範囲の酸価を有し、 リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が1~200mg/lの範囲であり、及び 金属表面を前記リン酸塩処理用組成物で処理した後、金属表面は、少なくとも1種の金属イオンおよび/または少なくとも1種のポリマーを含む水性の後濯ぎ組成物で処理されない、ことを特徴とする、方法。」で一致し、相違点はない。 コ よって、本件発明1は、甲1発明1である。 サ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 シ また、甲1発明2は、甲1発明1と対比して、Cuイオン及びFe(III)イオンの含有量が異なるだけで、その余の点は一致するが、本件発明1には、Cuイオンの含有量は特定されていない。 ス そして、上記3-3の冒頭の解釈に照らせば、甲1発明2の「Fe(III)イオン0.1g」「を含」む事項は、本件発明1の「リン酸塩処理用組成物中の鉄(III)イオンの含有量が1~200mg/lの範囲であ」る事項に相当する。 セ そうすると、本件発明1は甲1発明2である。 ソ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明2に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 タ さらに、甲1発明3は、甲1発明2と対比して、Coイオン及びCuイオンの含有量並びに全酸度が異なるだけで、その余の点は一致するが、本件発明1には、Coイオン及びCuイオンの含有量は特定されていない。 チ そして、上記3-3の冒頭の解釈に照らせば、甲1発明3の「全酸度18.3ポイント」「である」事項は、本件発明1の「リン酸塩処理用組成物が、」「12~45の範囲の総酸」「を有」する事項に相当する。 ツ そうすると、本件発明1は甲1発明3である。 テ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明3に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 (3)本件発明2について ア 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「リン酸塩処理用組成物で処理を行う前に、前記金属表面を浄化および/または活性化する」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1~3は、「(a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整→(d)化成(ディップ処理)→(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥→(h)塗装、の工程に従って連続的に処理する方法」であるから、「(d)化成(ディップ処理)」の前に、「(a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整」を「連続的に処理する」ものである。 ウ そして、本件明細書の「金属表面を水性の浄化用組成物で浄化、より特定的には脱脂するのが有利である」(【0021】)との記載に照らせば、甲1発明1~3の「(a)脱脂」は、本件発明2の「浄化」に相当するから、本件発明1が甲1発明1~3である以上、本件発明2も同様に、甲1発明1~3である。 エ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 (4)本件発明3について ア 本件発明3は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「リン酸塩処理用組成物で処理を行った後、前記金属表面を濯ぎおよび/または乾燥する」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1~3は、「(a)脱脂→(b)水洗→(c)表面調整→(d)化成(ディップ処理)→(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥→(h)塗装、の工程に従って連続的に処理する方法」であるから、「(d)化成(ディップ処理)」の後に、「(e)水洗→(f)純水洗→(g)乾燥」を「連続的に処理する」ものである。 ウ そして、甲1発明1~3の「(e)水洗」、「(f)純水洗」、「(g)乾燥」は、いずれも本件発明3の「濯ぎ」または「乾燥」に相当するから、本件発明1、2が甲1発明1~3である以上、本件発明3も同様に、甲1発明1~3である。 エ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 (5)本件発明4について(職権で採用) ア 本件発明4は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「金属表面を少なくとも部分的に亜鉛メッキする」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1~3は、「処理対象金属として、」「合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を使用」するものであるから、本件発明1~3が甲1発明1~3である以上、本件発明4も同様に、甲1発明1~3である。 ウ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 (6)本件発明5について ア 本件発明5は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「リン酸塩処理用組成物が0.3~3.0g/lの亜鉛イオン、0.3~2.0g/lのマンガンイオン、8~25g/lのホスフェートイオン(P2O5として計算)を含む」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1~3は、いずれも、「リン酸亜鉛処理液は、Znイオン1.0g/l」、「Mnイオン0.6g/l」、「PO4イオン15.0g/l」「を含」むところ、上記(1)のオで検討したとおり、「PO4イオン15.0g/l」をP2O5イオンに換算すると、11.2g/lであるから、甲1発明1~3の「PO4イオン15.0g/l」「を含」む事項は、本件発明5の「8~25g/lのホスフェートイオン(P2O5として計算)を含む」事項に相当する。 ウ そうすると、本件発明1~4が甲1発明1~3である以上、本件発明5も同様に、甲1発明1~3である。 エ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 (7)本件発明6について ア 本件発明6は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「リン酸塩処理用組成物が30~250mg/lの遊離のフッ化物を含む」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1~3は、いずれも、「リン酸亜鉛処理液は、」「SiF6イオン0.8g/l」「を含」むものであるところ、甲1には、「フッ素化合物の濃度は、単純フッ化物と錯フッ化物の合計値であり、F換算で・・・(略)・・・さらに好ましくは0.1~2g/リットルの範囲である」(【0019】)と記載されている。 そして、甲1の「SiF6イオン」は錯フッ化物であるから、甲1発明1~3において、上記【0019】の記載は、単純フッ化物が「0.1~2g/リットル」と「0.8g/l」の差である、0~1.2g/リットルの範囲であることがさらに好ましいことを示唆しているといえる。 ウ また、甲1の「単純フッ化物」は本件発明6の「遊離のフッ化物」に相当するから、甲1発明1~3において、上記イの示唆を考慮して、本件発明6の「リン酸塩処理用組成物が30~250mg/lの遊離のフッ化物を含む」との発明特定事項を得ることは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。 エ よって、本件発明1~5が甲1発明1~3である以上、本件発明6は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (8)本件発明7、8について ア 本件発明7は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「リン酸塩処理用組成物が0.5~3g/lの錯体のフッ化物を含む」との発明特定事項を含むものであり、また、本件発明8は、本件発明7の発明特定事項に加えて、「錯体のフッ化物がテトラフルオロボレート(BF4-)および/またはヘキサフルオロシリケート(SiF62-)である」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1~3は、いずれも、「リン酸亜鉛処理液は、」「SiF6イオン0.8g/l」「を含」むものであるから、本件発明1~5が甲1発明1~3である以上、本件発明7、8も同様に、甲1発明1~3である。 ウ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 エ また、本件発明6は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明7、8も同様に、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (9)本件発明9について ア 本件発明9は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「リン酸塩処理用組成物がH2O2を促進剤として含む」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1~3は、いずれも、「リン酸亜鉛処理液は、」「NO2イオン0.14g/lを含」むものであるところ、甲1には、「本発明において用いられる酸性リン酸亜鉛皮膜処理液には、皮膜化成促進剤が含まれる。このような皮膜化成促進剤としては、例えば、亜硝酸イオン、m-ニトロベンゼンスルホン酸イオン、過酸化水素及びヒドロキシルアミンなどが挙げられる」(【0022】、当審注:下線は当審で付した。)と記載されている。 ウ そうすると、甲1発明1~3において、「リン酸亜鉛処理液」の「皮膜化成促進剤」である「NO2イオン」に代えて、「皮膜化成促進剤」として用いられ得る「過酸化水素」を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 エ よって、本件発明1~5、7、8が甲1発明1~3であり、また、本件発明6が甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明9は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (10)本件発明10について ア 本件発明10は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「リン酸塩処理用組成物が1g/l未満の硝酸塩を含有する」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1~3は、いずれも、「リン酸亜鉛処理液は、」「NO3イオン6.0g/l」「を含」むものであるところ、甲1には、「本発明において、硝酸イオン濃度は、0.1~15g/リットルの範囲が好ましく、さらに好ましくは2~10g/リットルの範囲である。硝酸イオンの濃度が少なすぎる場合には、処理液中の3価の鉄イオン濃度を本発明において規定する範囲内で維持することが困難となり、少ない皮膜量で高い防錆効果を発揮し、かつスラッジ発生量が少ないという本発明の効果が充分に得られない場合がある。また硝酸イオン濃度が多すぎる場合には、濃度の増加に見合う効果の向上が期待できず、経済的に不利なものとなる。」(【0018】)と記載されている。 ウ そうすると、甲1発明1~3において、「リン酸亜鉛処理液」の「NO3イオン」の含有量を0.1以上1g/l未満とすることは、当業者が容易になし得たことである。 エ よって、本件発明1~5、7、8が甲1発明1~3であり、また、本件発明6、9が甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明10は、甲1発明1~3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (11)本件発明11について ア 本件発明11は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「鉄(III)イオンが遊離酸の調節に先立ってリン酸塩処理用組成物に添加されている」との発明特定事項を含むものである。 イ 甲1発明1、2は、「リン酸亜鉛処理液は、」「Coイオン1.0g/l」「を含」むものであり、「遊離酸度(・・・(略)・・・処理浴がコバルトを含有する場合には、pH3.6になるまでに要する0.1N-NaOHのml数。)を測定し、NO2イオン濃度の低下に応じて亜硝酸ナトリウムの20重量%水溶液からなる補給用濃厚処理剤を補給し、遊離酸度の低下に応じて、その他の成分を供給するための補給用濃厚処理剤を処理液に補給して、遊離酸度とNO2イオン濃度を初期値に維持することにより行」うものである。 ウ そうすると、甲1発明1、2は、リン酸亜鉛処理液にFe(III)イオンを添加後に、遊離酸度の調節を行っているといえる。 エ したがって、本件発明1~5、7、8が甲1発明1、2である以上、本件発明11も同様に、甲1発明1、2である。 オ 仮に相違点があったとしても、当該相違点は、甲1発明1、2に基いて、当業者が容易に想到できたものである。 カ また、本件発明6、9、10が甲1発明1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明11は、甲1発明1、2 に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (12)特許権者の主張 ア 特許権者は、令和4年12月7日提出の意見書において、甲1に記載された発明は、酸性リン酸亜鉛被膜処理液が、「ニッケルイオン及び/またはコバルトイオン0.1~4g/lリットル」を含むものであり、ニッケルイオンを含まない場合、毒性があるコバルトイオンを必ず含むこととなること、及び、本件発明は、リン酸塩処理用組成物中にコバルトを含むものではないことを主張している(第3頁第14行~最後から4行)。 イ 確かに、甲1発明1は、「リン酸亜鉛処理液」が「Coイオン1.0g/l」を含むものである。 ウ しかしながら、本件発明1は、「亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェートイオンを含む酸性の水性でニッケル含有量が0.01g/l未満であるリン酸塩処理用組成物で処理する」(当審注:下線は強調のため当審で付した。以下、同じ。)ものであって、「亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄(III)イオンおよびホスフェートイオンを含む」との文言からして、コバルトの含有を排除するものではなく、コバルトを含み得るものである。 エ そうすると、本件発明は、リン酸塩処理用組成物中にコバルトを含むものではないとの、特許権者の主張は、前提を欠くものであるから、理由がない。 4 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1~5、7、8、11に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、請求項1~5、7、8、11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件特許の請求項1~11に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていないから、請求項1~11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 さらに、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1~11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、上記結論のとおり決定する。

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2022-700549

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