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特許異議申立

2022-700527

水中油型乳化食品

審判番号
2022-700527
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-035289外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6981308
請求日
2022年06月15日
審決日
2023年03月29日
公報発行日
2023年07月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6981308号発明「水中油型乳化食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6981308号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、6について訂正することを認める。
特許第6981308号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 26項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6981308号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成30年2月28日の出願であって、令和3年11月22日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同12月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年6月15日に特許異議申立人 森田 弘潤(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年11月21日付で取消理由が通知され、同年12月27日に特許権者 味の素株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)とともに意見書の提出がされ、令和5年1月13日付(発送日:令和5年1月20日)で特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を特許異議申立人に対して行ったところ、同年2月20日に特許異議申立人より意見書の提出がされたものである。

第2 本件訂正請求について

1 請求の趣旨

本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第6981308号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の適否についての判断

(1) 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールを、下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、水中油型乳化食品。」とあるのを、「(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールを、下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、水中油型乳化食品(ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。)。」に訂正する。

請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5についても同様である。

イ 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項6に「(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールを、下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有するように添加することを含む、水中油型乳化食品の製造方法。」とあるのを、「(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールを、下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有するように添加することを含む、水中油型乳化食品の製造方法(ただし、前記水中油型乳化食品は、

卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。)。」に訂正する。

ウ 一群の請求項について

訂正事項1に係る訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正事項1について

訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載された「水中油型乳化食品」のうち、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、当該訂正が願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

なお、特許異議申立人は、令和5年2月20日に提出した意見書において、要するに、本件特許の明細書には、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」ことについては何ら記載されていないのであるから、本件訂正は、特許法第126条第5項に適合するものではない旨主張する。

しかしながら、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1から、甲第2ないし4号証に記載された発明を除くことを目的とするものであって、当該訂正により、新たな技術的事項を追加するものではないから、新規事項の追加に該当しない。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。

請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5についても同様である。

イ 訂正事項2について

訂正事項2に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項6に記載された「水中油型乳化食品の製造方法」のうち、「ただし、前記水中油型乳化食品は、

卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。)」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、当該訂正が願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

なお、特許異議申立人は、令和5年2月20日に提出した意見書において、要するに、本件特許の明細書には、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」ことについては何ら記載されていないのであるから、本件訂正は、特許法第126条第5項に適合するものではない旨主張するが、上記アと同様に判断される。

(3)独立特許要件について

本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし7に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 訂正についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、6について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。また、総称として「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールを、下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、水中油型乳化食品(ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、
卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに
マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。)。
続きを表示(全25行)
(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。
(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。
【請求項2】
(C)ジアセチル及び(D)アリルイソチアシアネートからなる群より選択される少なくとも一つを更に含有する、請求項1記載の水中油型乳化食品。
【請求項3】
(C)の濃度が、0.05重量ppm以上1重量ppm以下である、請求項2記載の水中油型乳化食品。
【請求項4】
(D)の濃度が、1重量ppm以上200重量ppm以下である、請求項2又は3記載の水中油型乳化食品。
【請求項5】
水中油型乳化食品が、酸性水中油型乳化食品である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水中油型乳化食品。
【請求項6】
(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールを、下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有するように添加することを含む、水中油型乳化食品の製造方法(ただし、前記水中油型乳化食品は、
卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、
卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに
マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。)。
(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。
(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。
【請求項7】
水中油型乳化食品に、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールを、下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有するように添加することを含む、水中油型乳化食品のコク味向上方法。
(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。
(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要

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特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし7に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし6)は、次のとおりである。

1 申立理由1(サポート要件)

本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記(1)ないし(5)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(1)本件明細書に記載の官能試験は伊藤園トマトジュース事件判決において判示された基準に照らし、極めて不適切な実験手法並びに評価が採られており、これらによって本件特許発明の技術的課題が解決できると認識することは到底不可能という他ない。従って、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

(2)実施例でその効果が検証されているのはマヨネーズのみであるが、仮に本件明細書の実施例から何らかの効果が読み取れたとしても、その効果をマヨネーズとはその材料、粘度、油分の割合などの点で大きく異なる他のドレッシング等の水中油型乳化食品にまで一般化ないし抽象化することはできず、少なくとも、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの濃度と得られる効果との関係について、他の水中油型乳化食品においても、本件明細書の表2と同様の傾向を示すと言えるような技術常識は一切存在しない。

また、同じマヨネーズでも用いる卵の種類、配合割合、サラダ油の種類や配合割合、更には粘度によって大きくその風味やコク味が変わっていることは自明であるから、それらに関して何ら規定が存在しない本件特許発明が、当業者がその技術的課題を解決できると認識し得る範囲を超えて規定されていることは明らかと言える。

(3)本件特許発明においては、(A)成分ないし(B)成分として、イソ吉草酸ないしへキサナール以外の成分を含まないことは何ら規定されていないのであるから、イソ吉草酸以外の(A)成分とへキサナール以外の(B)成分は、何の制限もなく任意成分として配合し得ることになる。よって、本件特許発明に規定する条件(1)及び(2)は、本件明細書の記載と整合しておらず、当業者がその技術的課題を解決できると認識し得る範囲を超えて規定されていることは明らかであるから、本件特許発明がサポート要件を充足しないことは既に明らかである。

(4)イソ吉草酸及びヘキサナールのいずれについても0.5重量ppmを下回る配合量に関しては何ら試験がなされておらず、かつこれらを0.3重量ppmまで下げても同様の効果が得られることが自明と言えるような技術常識も存在しない。従って、条件(1)の(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナール、並びに条件(2)の(B)ヘキサナールの下限値0.3重量ppm以上に関し、当業者がその技術的課題を解決できると認識し得る範囲を超えて規定されていることは明らかである。

また、上限値に関しても、表2から読み取れるのは、最大でもイソ吉草酸5重量ppm、ヘキサナール4重量ppmの場合であり、それよりも多い態様においては、風味のバランスも総合評価も×となり本件特許発明の課題を解決できなくなる可能性が示唆されているところ、これらを7重量ppmまで上げても同様の効果が得られることが自明と言えるような技術常識も存在しない。従って、条件(2)の(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの上限値7重量ppm以下に関し、当業者がその技術的課題を解決できると認識し得る範囲を超えて規定されていることは明らかである。

(5)本件特許発明の課題解決原理においては、水中油型乳化食品中に酢酸含有調味料を一定割合で配合し、かつ酢酸とイソ吉草酸やヘキサナールの割合を一定に保つ必要があると考えられるところ、本件特許発明にはそのような規定が一切存在しないのであるから、当業者がその技術的課題を解決できると認識し得る範囲を超えて規定されていることは明らかである。

2 申立理由2(実施可能要件)

本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・上記1(2)ないし(5)と同様の理由で、本件特許発明の実施には過度な試行錯誤を要することは明らかと言える。

3 申立理由3(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

5 申立理由5(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

6 申立理由6(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

7 証拠方法

・甲第1号証:特開昭62-29950号公報
・甲第2号証:レシピサイト「Word of Mouth blog」、Felicity Cloake、2010年7月1日、

https://www.theguardian.com/lifeandstyle/wordofmouth/2010/jul/01/how-to-make-perfect-mayonnaise

・甲第3号証:レシピサイトみんなのきょうの料理「マヨネーズソース」、NHKエデュケーショナル、レシピ考案者:田中健一郎、2002年5月21日、

https://www.kyounoryouri.jp/recipe/844_%E3%83%9E%E3%83%A8%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B9.html

・甲第4号証:Rakutenレシピ「パルメザンチーズドレッシング レシピ・作り方」、楽天グループ株式会社、レシピ考案者:MAYACHKA、2011年2月26日(公開日)、https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1020001325/
・甲第5号証:「食べ物のおいしさを引き出す『こく』の定義と寄与成分」、太陽化学株式会社、2014年11月、https://www.taiyokagaku.com/lab/column/18/
・甲第6号証:日本農林規格 ドレッシング、1975年10月4日制定、2019年12月13日改正、農林水産省
・甲第7号証:「卵の『コク』の正体は 比内地鶏は『濃い』『味がしっかり』の声)」、齊藤寛子、2010年2月4日、http://nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/20100204_hinaidori.html
・甲第8号証:特許第6276903号公報
・甲第9号証:国際公開第2014/178138号
・甲第10号証:特開2015-39370号公報
・甲第11号証:特開2014-8053号公報
・甲第12号証:特開2013-141435号公報
・甲第13号証:特開2010-124696号公報

・甲第14号証:Enrique Duran Guerrero et al., Stir bar sorptive extraction of volatile compounds in vinegar: Validation study and comparison with solid phase microextraction, Journal of Chromatography A,1167 (2007),p.18-26

・甲第15号証:「酢100cc (100ml)は何グラム(何g)か?酢50cc(50ml)は何グラムか?酢20cc(20ml)は何グラムか?」、ウルトラフリーダム、2022年6月15日(出力日)、https://life-freedom888.com/su100cc-g/

・甲第16号証:Mohammad Hassan Azarbad et al., Determination of Hexanal-an Indicator of Lipid Oxidation by Static Headspace Gas Chromatography(SHS-GC) in Fat-Rich Food Matrices, Food Anal.Methods, DOI 10.1007/s12161-014-0043-0,22 November 2014

・甲第17号証:伊藤寛ら、「酸造酢と合成酢の鑑別(第3報)ガスクロマトグラフィーによる中性微量成分の検出」、J.Soc.Brew.Japan,1975, Vol.70, No.4, p.271-276
・甲第18号証:T.S.VASUNDHARA et al., Investigations into flavouring compounds formed in roasted brown mustard, Die Nahrung,25,7,1981, p.685-692
・甲第19号証:JAN ADAMIEC et al., Changes in Egg Volatiles during Storage, Czech J. Food Sci., Vol.20, 28 January 2002, No.2:79-82
・甲第20号証:国際公開第2013/118742号
・甲第21号証:特開2003-79336号公報
・甲第22号証:FENAROLI'S HANDBOOK OF Flavor Ingredients SIXTH EDITION, Taylor and Francis Group, LLC,2010年, p.1046-1049
・甲第23号証:ウィキペディア「ジアセチル」、2017年5月10日版、https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%82%BB%E3%83%81%E3%83%AB&diff=64065909&oldid=61260887
・甲第24号証:井上喬、「食品とジアセチル-古くて新しいトピックス-」、醸協、第99巻第5号、p.315-323、2004年5月15日発行、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/99/5/99_5_315/_pdf/-char/ja
・甲第25号証:有満和人ら、「卵白を乳酸発酵した新素材「ラクティーエッグ」が拡げる世界」、日本食品工学会誌、Vol.16、No.1、pp.79-82、2015年3月、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfe/16/1/16_79/_pdf/-char/ja
・甲第26号証:「飲料中のジアセチルの定量」、一般財団法人材料科学技術振興財団、2018年11月26日、https://www.mst.or.jp/Portals/0/case/pdf/c0535.pdf

・甲第27号証:ウィキペディア「アリルイソチオシアネート」、2017年6月15日版、https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%81%E3%82%AA%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%88&oldid=64460379

・甲第28号証:「卵は正味何グラム(全卵・卵黄・卵白)」、クックパッド、2022年6月15日(出力日)、https://cookpad.com/cooking_basics/20030
・甲第29号証:「醤油や油(サラダ油)の比重や密度はいくら?みりんやお酢は?【g/cm3やkg/cm3など】」、モアイライフ、2022年6月15日(出力日)、https://toushitsu-off8.com/shouyu-density/
・甲第30号証:「調味料の目安重量」、エスビー食品株式会社、2022年6月15日(出力日)、https://www.sbfoods.co.jp/recipe/quantity/

・甲第31号証:R.M.Callejon et al., Changes of volatile compounds in wine vinegars during their elaboration in barrels made from different woods, Food Chemistry,120(2010), p.561-571

・甲第32号証:ウィキペディア「サラダ油」、2017年8月23日版、

https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%83%80%E6%B2%B9&diff=65235360&oldid=65235317

・甲第33号証:「植物油の基礎知識 植物油とJAS制度」、一般社団法人日本植物油協会、2017年11月25日、アーカイブ、https://web.archive.org/web/20171125210813/https://www.oil.or.jp:80/kiso/jas.html
・甲第34号証:「計量スプーン・計量カップによる重量表」、みんなの知識ちょっと便利帳、2022年6月15日(出力日)、https://www.benricho.org/doryoko_cup_spoon/

・甲第35号証:J.KIM HA et al., Method for the Quantitative Analysis of Volatile Free and Total Branched-Chain Fatty Acids in Cheese and Milk Fat, Journal of Dairy Science Volume 73,Issue 8,August 1990, p.1988-1999

証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむねしたがった。以下、「甲1」等という。

なお、特許異議申立人は、令和5年2月20日提出の意見書に添付して、次の甲第36号証を提出している。

・甲第36号証:S&B社のウェブサイト

https://web.archive.org/web/20170520082112/https://www.sbcurry.com/recipe/standard01/

第5 令和4年11月21日付で特許権者に通知した取消理由の概要

本件特許の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和4年11月21日付で特許権者に通知した取消理由の要旨は次の1ないし3のとおりである。なお、取消理由は、申立理由のうち、申立理由4、5及び6を包含する。

取消理由1(甲2に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

取消理由2(甲3に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

取消理由3(甲4に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1、5及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、5及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第6 当審の判断

1 令和4年11月21日付で特許権者に通知した取消理由についての判断

(1)取消理由1(甲2に基づく新規性・進歩性)

ア 甲2に記載された事項等

(ア)甲2に記載された事項

甲2には、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲2は英文であるので、原文の摘記は省略し、翻訳文のみ記載する。他の証拠についても同様。

・「Felicityの完璧なマヨネーズ

卵黄 2

塩 適量

落花生油又はひまわり油 250ml

バージンオイル、クルミ油又は菜種油 25ml

お好みのマスタード 大さじ1(又はからし粉 小さじ1)

ニンニク(つぶしたもの) 1片分(お好みで)

白ワインビネガー又はレモン果汁 大さじ1」(6ページ3~9行)

・「作り方

1.すべての材料が室温にあることを確認してから、作業を開始する。大きなボウルの下に湿らせたティータオルを置き、卵黄を加える。泡立て器で2~3分よく泡立てる。

2.塩を加え、黄身がとろりと粘りを出すまで30秒ほどよく混ぜる。中性脂肪をごく薄く、神経質な人は一滴ずつ加え、その間も泡立てる。急ぐとマヨネーズが割れてしまうので注意。

3.マヨネーズが好みの固さに近づいたら(オイルを全部使わなくてもいいかもしれません)、オリーブオイルに変えます。全体がなじんだら、さらに30秒、マヨネーズをとろりと艷やかになるまで泡立て、酸、マスタード、にんにく(使用する場合)を加えて混ぜ合わせる。もっと薄く混ぜたい場合は、水も少量加える。

4.刻んだハーブやアンチョビエッセンスなど、その他の材料を加えて混ぜ合わせ、食べるまで蓋をして冷蔵庫で保存します。

マヨネーズがお好きな方は、瓶詰めのものと自家製のものと、どちらがお好きですか。好きなフレーバーや成功の秘訣を教えてください。」(6ページ10行~7ページ4行)

(イ)甲2に記載された発明

甲2に記載された事項を、特にFelicityの完璧なマヨネーズのレシピ及び作り方に関し、ひまわり油、菜種油、からし粉及び白ワインビネガーを選択した場合について整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。

「卵黄を2個、塩を適量、ひまわり油を250ml、菜種油を25ml、からし粉を小さじ1及び白ワインビネガーを大さじ1含有する、マヨネーズ。」(以下、「甲2発明」という。)

「甲2発明の製造方法。」(以下、「甲2製造方法発明」という。)

イ 対比・判断

(ア)本件特許発明1について

本件特許発明1と甲2発明を対比する。

甲2発明の「マヨネーズ」は、白ワインビネガーを混合しているが、白ワインビネガーには水分が含まれていることは明らかであるから、本件特許発明1の「水中油型乳化食品」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「水中油型乳化食品。」

そして、両者は次の点で一応相違する。

<相違点2-1>

本件特許発明1は、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、

(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。

(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。

<相違点2-2>

本件特許発明1は、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定はない点。

そこで、事案に鑑み、相違点2-2について検討する。

甲28には、卵1個あたりの卵黄の重さは20gであることが記載されており、甲29には、ひまわり油及び菜種油が該当するサラダ油の密度は約0.9g/cm3であることが記載されており、甲30には、からし粉小さじ1が1.5gであり、白ワインビネガーが該当する酢の大さじ1が15gであることが記載されている。これらの記載をふまえて換算すると、甲2発明のマヨネーズの塩の重量を除いた成分の重量は、卵黄40g(13.2重量%)、ひまわり油225g(74重量%)、菜種油225g(7.4重量%)、からし粉1.5g(0.5重量%)、白ワインビネガー15g(4.9重量%)の合計304gであるといえる。

そうすると、甲2発明は、本件特許発明1において除かれた部分にあたるから、相違点2-2は、実質的な相違点である。

また、甲2には、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。

したがって、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件特許発明1の奏する「風味のバランスが良く、コク味が向上した水中油型乳化食品を提供できる」(【0008】)という効果は、甲2発明並びに甲2及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。

なお、特許異議申立人が令和5年2月20日に提出した意見書において、「食品分野では、例えば医薬の分野のように処方を厳密に順守する必要性はそもそも存在せず、各原料に関してある一定の幅を許容するのが一般技術常識です。本件に関して具体的に言えば、例えば卵黄などは個体差があり、レシピに従って製造しても、必ず卵黄13.2重量%とか卵黄10.0重量%と同じ数字になるというものではありません。また、小さじ、大さじなどの概念も、ある程度の誤差を許容する概念であり、本件訂正の除く部分に規定されているような特定の配合割合の処方のみが想定されていると解釈するのは不自然であると言えます。また、甲第2号証では「ニンニク(つぶしたもの)1片分(お好みで)」という記載があり、任意にこれを加えることにより、本件訂正発明の除く部分で規定されている配合割合が変わることは、言うまでもありません。」(令和5年2月20日に提出した意見書11ページ4~11行)と主張しているが、各原料に関してある一定の幅が存在することを前提とするならば、甲2発明における各原料の配合割合を特定することはできず、特許異議申立人が特許異議申立書で主張するような換算も、その根拠がないことになるといわざるを得ない。

よって、上記主張は採用することができない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明ではないし、甲2発明並びに甲2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(イ)本件特許発明2ないし5について

本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。

そして、上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし5は甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(ウ)本件特許発明6について

本件特許発明6と甲2製造方法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係が成り立つ。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「水中油型乳化食品の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点2-3>

本件特許発明6は、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、

(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。

(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」と特定されているのに対し、甲2製造方法発明は、そのような特定がない点。

<相違点2-4>

本件特許発明6は、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」と特定されているのに対し、甲2製造方法発明は、そのような特定はない点。

そこで、事案に鑑み、相違点2-4について検討すると、上記(ア)の相違点2-2と同様であるから、上記(ア)と同様に判断される。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲2製造方法発明ではないし、甲2製造方法発明並びに甲2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 取消理由1についてのむすび

したがって、取消理由1によっては、本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由2(甲3に基づく新規性・進歩性)について

ア 甲3に記載された事項等

(ア)甲3に記載された事項

甲3には、おおむね次の事項が記載されている。

・「きょうの料理レシピ

マヨネーズソース」(1ページのタイトル)

・「材料

(できあがり400g)

・卵黄 2コ分

・粉がらし 小さじ1

・塩 小さじ1

・白ワインビネガー 大さじ2

・サラダ油 360ml」(1ページ左下欄)

・「つくり方

1 ボウルに卵黄、粉がらし、塩各小さじ1をよく混ぜ合わせる。

2 白ワインビネガーを加えて再びよく混ぜる。

3 サラダ油を少しずつたらして加えながら、混ぜ合わせて乳化させる。混ぜる途中で固まりすぎるときは、少量の湯を加えて調節するとよい。」(1ページ右下欄)

(イ)甲3に記載された発明

甲3に記載された事項を整理すると、甲3には次の発明が記載されていると認める。

「卵黄を2個、粉がらしを小さじ1、白ワインビネガーを大さじ2及びサラダ油を360ml、塩小さじ1を含有する、マヨネーズソース。」(以下、「甲3発明」という。)

「甲3発明の製造方法。」(以下、「甲3製造方法発明」という。)

イ 対比・判断

(ア)本件特許発明1について

本件特許発明1と甲3発明を対比する。

甲3発明の「マヨネーズソース」は、酢を白ワインビネガーを加えて混ぜた後、サラダ油を少しずつたらして加えながら、混ぜ合わせて乳化させており、さらに、白ワインビネガーには水分が含まれていることは明らかであるから、本件特許発明1の「水中油型乳化食品」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「水中油型乳化食品。」

そして、両者は次の点で一応相違する。

<相違点3-1>

本件特許発明1は、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、

(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。

(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」と特定されているのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。

<相違点3-2>

本件特許発明1は、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」と特定されているのに対し、甲3発明は、そのような特定はない点。

そこで、事案に鑑み、相違点3-2について検討する。

上記(1)イ(ア)と同様に甲28ないし甲30に基づき換算すると、甲3発明のマヨネーズソースは、卵黄40g(10.0重量%)、粉がらし1.5g(0.4重量%)、塩6g(1.5重量%)、白ワインビネガー30g(7.5重量%)、サラダ油324g(80.7重量%)の合計401.5gであるといえる。

そうすると、甲3発明は、本件特許発明1において除かれた部分にあたるから、相違点3-2は、実質的な相違点である。

また、甲3には、甲3発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。

したがって、甲3発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件特許発明1の奏する「風味のバランスが良く、コク味が向上した水中油型乳化食品を提供できる」という効果は、甲3発明並びに甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。

なお、特許異議申立人は、令和5年2月20日に提出した意見書において、上記(1)イ(ア)と同様の主張をしているが、上記(1)イ(ア)と同様に判断される。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明ではないし、甲3発明並びに甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(イ)本件特許発明2、4及び5について

本件特許発明2、4及び5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。

そして、上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明2、4及び5は甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件特許発明6について

本件特許発明6と甲3製造方法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係が成り立つ。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「水中油型乳化食品の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点3-3>

本件特許発明6は、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、

(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。

(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」と特定されているのに対し、甲3製造方法発明は、そのような特定がない点。

<相違点3-4>

本件特許発明6は、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」と特定されているのに対し、甲3製造方法発明は、そのような特定はない点。

そこで、事案に鑑み、相違点3-4について検討すると、上記(ア)の相違点3-2と同様であるから、上記(ア)と同様に判断される。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲3製造方法発明ではないし、甲3製造方法発明並びに甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 取消理由2についてのむすび

したがって、取消理由2によっては、本件特許の請求項1、2、4ないし6に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由3(甲4に基づく新規性・進歩性)について

ア 甲4に記載された事項等

(ア)甲4に記載された事項

甲4には、おおむね次の事項が記載されている。

・「パルメザンチーズドレッシング レシピ・作り方」(1ページのタイトル)

・「材料(2人分)

マヨネーズ 大さじ1/2

酢 大さじ1/2

オリーブオイルエキストラバージン 大さじ1

パルメザンチーズ 大さじ1」(1ページ下から6~2行)

・「作り方

1 マヨネーズを酢でのばします。

2 ○1(合議体注:○の中に数字の入る記号を表す。)にオリーブオイルを入れてよく混ぜます。

3 パルメザンチーズを入れてよく混ぜて出来上がりです。

4 レタス類数種+チキンのグリーンサラダのドレッシングにしました。」(1ページ最下行~2ページ4行)

(イ)甲4に記載された発明

甲4に記載された事項を整理すると、甲4には次の発明が記載されていると認める。

・「マヨネーズを大さじ1/2、酢を大さじ1/2、オリーブオイルエキストラバージンを大さじ1及びパルメザンチーズを大さじ1含有する、パルメザンチーズドレッシング。」(以下、「甲4発明」という。)

・「甲4発明の製造方法。」(以下、「甲4製造方法発明」という。)

イ 対比・判断

(ア)本件特許発明1について

本件特許発明1と甲4発明を対比する。

甲4発明の「パルメザンチーズドレッシング」は、酢を混合しているが、酢には水分が含まれていることは明らかであるから、本件特許発明1の「水中油型乳化食品」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「水中油型乳化食品。」

そして、両者は次の点で一応相違する。

<相違点4-1>

本件特許発明1は、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、

(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。

(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」と特定されているのに対し、甲4発明は、そのような特定がない点。

<相違点4-2>

本件特許発明1は、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」と特定されているのに対し、甲4発明は、そのような特定はない点。

そこで、事案に鑑み、相違点4-2について検討する。

甲34には、マヨネーズの大さじ1が12gであり、酢の大さじ1が15gであり、オリーブオイルエキストラバージンが該当するオリーブ油の大さじ1は12gであり、パルメザンチーズが該当する粉チーズの大さじ1が6gであることが記載されている。これらの記載をふまえて換算すると、甲4発明のパルメザンチーズドレッシングは、マヨネーズ6g(19.0重量%)、酢7.5g(23.8重量%)、オリーブオイルエキストラバージン12g(38.1重量%)、パルメザンチーズ6g(19.0重量%)の合計31.5gであるといえる。

そうすると、甲4発明は、本件特許発明1において除かれた部分にあたるから、相違点4-2は、実質的な相違点である。

また、甲4には、甲4発明において、相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。

したがって、甲4発明において、相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件特許発明1の奏する「風味のバランスが良く、コク味が向上した水中油型乳化食品を提供できる」という効果は、甲4発明並びに甲4及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。

なお、特許異議申立人は、令和5年2月20日に提出した意見書において、上記(1)イ(ア)と同様の主張をしているが、上記(1)イ(ア)と同様に判断される。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明ではないし、甲4発明並びに甲4及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(イ)本件特許発明5について

本件特許発明5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。

そして、上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明5は甲4発明ではないし、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明5は甲4発明ではないし、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件特許発明6について

本件特許発明6と甲4製造方法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係が成り立つ。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「水中油型乳化食品の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点4-3>

本件特許発明6は、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、

(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。

(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」と特定されているのに対し、甲4製造方法発明は、イソ吉草酸及びヘキサナールの特定がない点。

<相違点4-4>

本件特許発明6は、「ただし、卵黄13.2重量%(塩を除いた成分に対する割合。以下、マヨネーズの成分において同じ。)、塩、ひまわり油74重量%、菜種油7.4重量%、からし粉0.5重量%及び白ワインビネガー4.9重量%を含有する、マヨネーズ、

卵黄10.0重量%、粉がらし0.4重量%、白ワインビネガー7.5重量%、サラダ油80.7重量%及び塩1.5重量%を含有する、マヨネーズソース、並びに

マヨネーズ19.0重量%、酢23.8重量%、オリーブオイルエキストラバージン38.1重量%及びパルメザンチーズ19.0重量%を含有する、パルメザンチーズドレッシングを除く。」と特定されているのに対し、甲4製造方法発明は、そのような特定はない点。

そこで、事案に鑑み、相違点4-4について検討すると、上記(ア)の相違点4-2と同様であるから、上記(ア)と同様に判断される。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲4製造方法発明ではないし、甲4製造方法発明並びに甲4及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 取消理由3についてのむすび

したがって、取消理由3によっては、本件特許の請求項1、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

2 令和4年11月21日付けで特許権者に通知した取消理由以外の特許異議申立理由についての判断

取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は次のとおりである。

・申立理由1(サポート要件)

・申立理由2(実施可能要件)

・申立理由3(甲1に基づく新規性・進歩性)

・申立理由4(請求項7に対する甲2に基づく新規性・進歩性)

・申立理由5(請求項3及び7に対する甲3に基づく新規性・進歩性)

・申立理由6(請求項2ないし4及び7に対する甲4に基づく新規性・進歩性)

以下、順に検討する。

(1)申立理由1(サポート要件)について

ア サポート要件の判断基準

特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

そこで、検討する。

イ サポート要件の判断

本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。

本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0005】によると、本件特許発明1ないし6の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「風味のバランスが良く、コク味が向上した水中油型乳化食品、水中油型乳化食品の製造方法、コク味を向上させ得る方法の提供する」ことである。

そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0003】には、「イソ吉草酸やヘキサナールは、発酵や不飽和脂肪酸の酸化等によって発生する不快臭の原因物質の一種であ」り、「これらは低濃度で用いられると、コク味を向上させ得ることが報告されている」ことが記載されており、【0006】には、「これらの化合物を特定の濃度で組み合わせて用いることによって、風味のバランスが良くなり、これらの化合物を単独で用いたときに感じられる不快臭を抑えてコク味を効果的に向上できることを見出した」ことが記載されており、【0011】、【0017】及び【0023】には、イソ吉草酸及ヘキサナールの濃度について、上記発明の課題と関連性を有することが具体的に記載されている。

また、本件特許の発明の詳細な説明の【0060】ないし【0067】には、水中油型乳化食品(基準サンプルI)にイソ吉草酸及びヘキサナールを添加した試験例1において、本件特許発明に係る「イソ吉草酸」及び「ヘキサナール」の濃度を満足する「水中油型乳化食品」は、「コク味の強さ」、「風味のバランス」及び「総合評価」の官能評価が良好であり、優れた製品価値を有するのに対し、本件特許発明に係る「イソ吉草酸」及び「ヘキサナール」の濃度のいずれかを満足しない「水中油型乳化食品」は、当該官能評価が良好ではなく、製品価値が同等又は劣ることを確認する記載もあり、本件特許の発明の詳細な説明の【0075】ないし【0080】には、水中油型乳化食品として基準サンプルII、III、IVを用いた試験例4において、本件特許発明に係る「イソ吉草酸」及び「ヘキサナール」の濃度を満足する「水中油型乳化食品」は、「コク味の強さ」、「風味のバランス」及び「総合評価」の官能評価が良好であり、優れた製品価値を有することを確認する記載もある。

そうすると、当業者は、「イソ吉草酸」及び「ヘキサナール」を特定の濃度で含有する水中油型乳化食品、その製造方法、及びそのコク味向上方法であれば、発明の課題を解決できると認識できる。

そして、本件特許発明1ないし7は、発明の課題を解決できると認識される特定事項をすべて含み、さらに限定したものである。

したがって、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

ウ 特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、上記第4 1(1)ないし(5)について主張しているが、上記イのとおり、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものであり、当該主張は上記イの判断に影響しない。

エ 申立理由1についてのむすび

したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由2(実施可能要件)について

ア 実施可能要件の判断基準

本件特許発明1ないし5は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産し使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

また、本件特許発明6は、上記第3のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

さらに、本件特許発明7は、上記第3のとおり、「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

そこで、検討する。

イ 実施可能要件の判断

本件特許の発明の詳細な説明には、「揮発性を有する炭素原子数3~7の飽和脂肪族モノカルボン酸及び炭素原子数3~9の飽和脂肪族モノアルデヒドは、それぞれ単独で用いた場合には、高濃度で水中油型乳化食品に添加することにより不快臭が感じられるが、驚くべきことに、これらの化合物を特定の濃度で組み合わせて用いることによって、風味のバランスが良くなり、これらの化合物を単独で用いたときに感じられる不快臭を抑えてコク味を効果的に向上できることを見出した」(【0006】)こと、イソ吉草酸及びヘキサナールについて(【0011】ないし【0019】)、ジアセチル及びアリルイソチアシアネートについて(【0024】ないし【0034】)、酸性水中油型乳化食品について(【0048】)、水中油型乳化食品の製造方法について(【0050】ないし【0053】)、水中油型乳化食品のコク味向上方法について(【0056】及び【0057】)、記載されており、さらに、具体的な実施例についての記載もある。

これらの記載を総合すれば、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明1ないし5の物を生産し使用することができる程度に記載されているものであり、本件特許発明6の物を生産する方法を使用できる程度に記載されているものであり、さらに、本件特許発明7の方法を使用できる程度に記載されているものといえるから、本件特許発明に関して発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たす。

したがって、本件特許発明1ないし5について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえるし、本件特許発明6について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があるといえるし、本件特許発明7について、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できる程度の記載があるといえる。

よって、本件特許発明1ないし7に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。

ウ 特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、上記第4 2について主張しているが、上記イのとおり、本件特許の発明の詳細な説明には用いる材料、条件、製造方法及びコク味向上方法についての記載があり、かつ、各条件を満たす具体的な実施例の記載もあるから、本件特許発明は1ないし7に関して発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たすものであり、当該主張は上記イの判断に影響しない。

エ 申立理由2についてのむすび

したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

(3)申立理由3(甲1に基づく新規性・進歩性)について

ア 甲1に記載された発明

甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。

「大豆サラダ油を78.0%、分解卵黄2.5%、食酢(酸度8%のリンゴ酢)5.0%、清水6.0%、卵白液6.0%、食塩1.5%、辛子粉1.0%を含有するマヨネーズ。」(以下、「甲1発明」という。)

・「甲1発明の製造方法。」(以下、「甲1製造方法発明」という。)

イ 本件特許発明1について

甲1発明の「マヨネーズ」は、食酢を混合しているが、食酢には水分が含まれていることは明らかであるから、本件特許発明1の「水中油型乳化食品」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「水中油型乳化食品。」

そして、両者は次の点で一応相違する。

<相違点1-1>

本件特許発明1は、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、

(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。

(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

そこで、相違点1-1について検討する。

甲1には、「イソ吉草酸」及び「ヘキサナール」についての記載はなく、甲1発明の「マヨネーズ」における(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である」又は「(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である」ことを示す証拠もない。

そうすると、相違点1-1は、実質的な相違点である。

また、甲1には、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。

したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件特許発明1の奏する「風味のバランスが良く、コク味が向上した水中油型乳化食品を提供できる」という効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。

したがって、本件特許発明1は甲1発明ではないし、甲1発明、甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件特許発明2ないし5について

本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。

そして、上記イで検討したとおり、本件特許発明1は甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし5は甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について

本件特許発明6と甲1製造方法発明とを対比すると、上記イと同様の相当関係が成り立つ。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>

「水中油型乳化食品の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点1-2>

本件特許発明6は、(A)イソ吉草酸及び(B)ヘキサナールの含有量に関して、「下記(1)又は(2)に記載の濃度で含有する、

(1)(A)の濃度が、0.3重量ppm以上2重量ppm未満であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上3重量ppm以下である。

(2)(A)の濃度が、2重量ppm以上7重量ppm以下であり、かつ(B)の濃度が、0.3重量ppm以上7重量ppm以下である。」と特定されているのに対し、甲1製造方法発明は、イソ吉草酸及びヘキサナールの特定がない点。

そこで、相違点1-2について検討すると、上記イの相違点1-1と同様であるから、上記イと同様に判断される。

したがって、本件特許発明6は甲1製造方法発明ではないし、甲1製造方法発明、甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

オ 本件特許発明7について

甲1の記載からは、「水中油型乳化食品のコク味向上方法。」に対応する発明を認定することはできない。

よって、本件特許発明7は甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明、甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

カ 申立理由3についてのむすび

したがって、申立理由3によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

(4)申立理由4(請求項7に対する甲2に基づく新規性・進歩性)について

ア 本件特許発明7について

甲2の記載からは、「水中油型乳化食品のコク味向上方法。」に対応する発明を認定することはできない。

よって、本件特許発明7は甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明、甲2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 申立理由4についてのむすび

したがって、申立理由4によっては、本件特許の請求項7に係る特許を取り消すことはできない。

(5)申立理由5(請求項3及び7に対する甲3に基づく新規性・進歩性)

ア 本件特許発明3について

本件特許発明3は、請求項1を間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。

そして、上記1(2)イ(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明3は甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明7について

甲3の記載からは、「水中油型乳化食品のコク味向上方法。」に対応する発明を認定することはできない。

よって、本件特許発明7は甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明、甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 申立理由5についてのむすび

したがって、申立理由5によっては、本件特許の請求項3及び7に係る特許を取り消すことはできない。

(6)申立理由6(請求項2ないし4及び7に対する甲4に基づく新規性・進歩性)について

ア 本件特許発明2ないし4について

本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。

そして、上記1(3)イ(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は甲4発明ではないし、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし4は甲4発明ではないし、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明7について

甲4の記載からは、「水中油型乳化食品のコク味向上方法。」に対応する発明を認定することはできない。

よって、本件特許発明7は甲4に記載された発明ではないし、甲4に記載された発明、甲4及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 申立理由6についてのむすび

したがって、申立理由6によっては、本件特許の請求項2ないし4及び7に係る特許を取り消すことはできない。

第7 結語

上記第6のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、当審から通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2022-700527

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