特許異議申立
2022-700497
スパイラル型膜エレメント
- 審判番号
- 2022-700497
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-175466
- 登録番号
- 7037306
- 請求日
- 2022年06月09日
- 審決日
- 2023年05月02日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】梅山 和顕
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.537-YAA(B01D) / P1651.113-YAA(B01D) / P1651.121-YAA(B01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7037306号発明「スパイラル型膜エレメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7037306号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第7037306号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7037306号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成29年9月13日(優先権主張 平成28年9月16日)に出願され、令和4年3月8日にその特許権の設定登録がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 6月 9日 :特許異議申立人 梅山和顕(以下「申立人」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て
同年10月25日付け:取消理由通知書
同年12月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 1月17日付け:訂正請求があった旨の通知
なお、当審は申立人に上記訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人はそれに対し応答しなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による請求の趣旨は、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.10であり」と記載されているのを、「下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.06であり」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5についても同様に訂正する。)。なお、下線は訂正箇所を示す(以下同様。)。
(2)訂正事項2
明細書の【0109】に「実施例4」と記載されているのを「参考例1」に、明細書の【0110】に「実施例5」と記載されているのを「参考例2」に、明細書の【0111】に「実施例6」と記載されているのを「実施例4」に、明細書の【0117】の【表1】に「実施例4」「実施例5」及び「実施例6」と記載されているのを「参考例1」、「参考例2」及び「実施例4」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の【0013】に「スパイラル型膜エレメントであって、下記の式から求められる効率指数Eが0.005~0.10であり、前記供給側流路材の厚みが10~110milである」と記載されているのを「スパイラル型膜エレメントであって、前記分離膜は、厚みが80~100μmであり、下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.06であり、前記供給側流路材の厚みが26~110milである」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、効率指数Eの上限を「0.10」から「0.06」として、その範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、効率指数Eの範囲を減縮する訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 新規事項の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の【0039】には「図6に示すように、効率指数Eと単位造水量当たりの運転エネルギーとは、相関性が高く、運転エネルギーを低減させる観点から、効率指数Eは、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が更に好ましい。また、膜エレメントの耐久性やファウリング等の観点から、効率指数Eの上限としては、0.08が好ましく、0.06がより好ましい。」と記載されていることから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正された請求項1に係る発明の「前記分離膜は、厚みが80~100μmであり、下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.06であり、・・・前記供給側流路材の厚みが26~110milである」との数値範囲のいずれかを満たさない、すなわち実施例に該当しなくなった「実施例4」及び「実施例5」を「参考例1」及び「参考例2」に訂正し、それにより「実施例6」を「実施例4」に繰り上げる訂正をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、実施例に該当しなくなったものを「参考例」に訂正すること、実施例の番号を繰り上げる訂正をすることは、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正された請求項1に係る発明が「スパイラル型膜エレメントであって、前記分離膜は、厚みが80~100μmであり、下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.06であり、・・・前記供給側流路材の厚みが26~110milである」ことに整合させて、明細書の【0013】に「スパイラル型膜エレメントであって、下記の式から求められる効率指数Eが0.005~0.10であり、前記供給側流路材の厚みが10~110milである」と記載されているのを、「スパイラル型膜エレメントであって、前記分離膜は、厚みが80~100μmであり、下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.06であり、前記供給側流路材の厚みが26~110milである」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項の記載に整合させることは、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~5は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1は、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。また、訂正事項2及び3は、上記一群の請求項の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
4 訂正についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明11」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
対向する分離膜の間に透過側流路材が介在する複数の膜リーフと、前記膜リーフの間に介在する供給側流路材と、前記膜リーフ及び前記供給側流路材を巻回した有孔の中心管と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部と、を備えるスパイラル型膜エレメントであって、
前記分離膜は、厚みが80~100μmであり、
下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.06であり、
効率指数:E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))
(式中、Xは前記供給側流路材の厚み[mil]であり、Yは前記分離膜の有効膜面積[ft2]であり、Dは膜エレメントの外径[inch]であり、Lは膜エレメントの長さ[inch]である。)
前記供給側流路材の厚みが26~110milであるスパイラル型膜エレメント。
【請求項2】
前記分離膜は、多孔性支持体の表面に分離機能層を有する複合半透膜である請求項1記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項3】
前記複合半透膜は、前記膜リーフの外側面に前記分離機能層が配置されており、前記多孔性支持体は、密度が0.85~1.0g/cm3である不織布層の片面にポリマー多孔質層を有するものである請求項2記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項4】
前記透過側流路材は、密度が0.4~0.8g/cm3のトリコット編物である請求項2又は3に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項5】
前記透過側流路材は、縦方向に直線状に繰り返すループにより形成される複数の畝と、それらの畝同士の間に存在する複数の溝とを有するトリコット編物により形成され、25mm当たりの溝数(wale)×{畝幅(mm)/溝幅(mm)}から計算される膜支持指数が60以上である請求項4に記載のスパイラル型膜エレメント。」
第4 取消理由の概要
令和4年10月25日付け取消理由通知書で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(サポート要件)
本件特許は、その特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・訂正前の請求項1~5
下記第5で摘記する図6を参照すると、グラフとして描かれているのは効率指数が0.06までであり、それを超える範囲についてはグラフとして描かれていない。
そして、下記第5で摘記する表1を参照するに、実際にスパイラル型膜エレメントを製造し、効率指数を計算し、ポンプ運転エネルギーを測定したものにおける効率指数の最大値は参考例2の0.052であるが、この参考例2の供給側流路材の厚みは17milで請求項1に係る発明の「26~110mil」の範囲のものではない。そうすると、請求項1に係る発明の実施例の中で効率指数の最も大きいものは実施例3であり、その値は0.034ということになる。
そこで、効率指数Eが0.034~0.1の範囲、特にグラフとして描かれていない0.06~0.1の範囲について検討する。
「E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))」において、供給側流路材の厚みであるX、膜エレメントの外径であるD、及び、膜エレメントの長さであるLを固定して、分離膜の有効膜面積であるYを変数とすると、Yが大きい方が、上記式においてEは大きくなるが、そのEが0.06を超える範囲においても、図6で引かれている直線の関係があるとはいえない。例えば、透過側流路材の厚みを小さくして分離膜の有効膜面積であるYを大きくすることができるが、その場合、下記第5の1で摘記した「流路材の厚みを小さくして有効膜面積を増加させると、圧力損失の増加等により、運転エネルギーが増加するという問題が生じる」(【0010】)との記載に鑑みると、運転エネルギーが増加することになるから、Eとポンプ運転エネルギーの関係が図6で引かれている直線のようになる、すなわちEの増加と共にポンプ運転エネルギーが低減するとはいえない。
また、供給側流路材の厚みであるX、膜エレメントの外径であるD、膜エレメントの長さであるLのいずれかを変数として、その他のパラメーターを固定した場合でも、Eが0.034を超える範囲、特にグラフとして描かれていない0.06を超える範囲において、Eとポンプ運転エネルギーの関係が図6で引かれている直線のようになる、すなわちEの増加と共にポンプ運転エネルギーが低減するかどうかは不明である。
そうすると、訂正前の請求項1に係る発明は、効率指数Eが0.034~0.1の範囲、特に0.06~0.1の範囲においては、Eが大きくなっても、ポンプ運転エネルギーが低減するといえないのであるから、当該範囲において、下記第5の1で記載した課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
訂正前の請求項2~5に係る発明は、請求項1を引用して「効率指数Eが0.016~0.10」を発明特定事項とするものであるから、同様に、効率指数Eが0.034~0.1の範囲、特に0.06~0.1の範囲において、下記第5の1で記載した課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
第5 本件明細書等
上記第2で記載したとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲は、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正されたので、以下、訂正された明細書及び特許請求の範囲、並びに図面を「本件明細書等」という。
1 課題及び解決手段について
本件明細書等には、本件発明の解決しようとする課題、及びその課題を解決するための手段について、以下のとおり記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来から、膜リーフの封止部の幅を極力小さくする工夫がされており、特許文献2のように、膜エレメントの製造工程において、部分的に封止部の塗工幅を変える方法では、飛躍的な有効膜面積の増加は見込めない。
【0009】
一方、供給側流路材を薄くすることでも、充填される分離膜の有効膜面積を大きくすることが可能である。しかし、供給側流路材を薄くすると、膜エレメントの入口-出口の圧力損失が増加し、運転エネルギーの増加によって、運転コストが大きくなるという問題が生じる。
【0010】
以上のように、外径に制約がある膜エレメントにおいて、従来技術では、流路材の厚みを小さくして有効膜面積を増加させると、圧力損失の増加等により、運転エネルギーが増加するという問題が生じるため、このような二律背反する課題を同時に解決する必要があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、制限のある外径をもつ膜エレメントの単位造水量当たりの運転エネルギーを低減できるスパイラル型膜エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、スパイラル型膜エレメントの運転エネルギーが、供給側流路材の厚みと分離膜の有効膜面積などから計算される効率指数と相関性が高いことを見出し(図6参照)、この効率指数を従来品より高める手法をとることによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
そして、効率指数については、以下のとおり記載されている。
「【0096】
(効率指数E)
供給側流路材の厚み[mil]をXとし、分離膜の有効膜面積[ft2]をYとし、膜エレメントの外径[inch]をDとし、膜エレメントの長さ[inch]をYとして、下記の式で計算した。
効率指数:E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))」
2 図6及び実施例/参考例/比較例について
上記図6として、以下の図面が記載されており、
【図6】
[図:0001401627000001.jpg]
そして、本件明細書等の【0106】~【0115】において、上記図6のプロットとなる実施例1~4、参考例1及び2、並びに比較例1~4について記載され、それらの結果が、下記の表1にまとめられている。
【表1】
[図:0001401627000002.jpg]
第6 当審の判断
特許権者は、上記第2で記載したように、訂正により効率指数E、すなわちE=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))(式中、Xは前記供給側流路材の厚み[mil]であり、Yは前記分離膜の有効膜面積[ft2]であり、Dは膜エレメントの外径[inch]であり、Lは膜エレメントの長さ[inch]である。)の上限を0.06に減縮してきたことから、以下、Eが「0.016~0.06」の範囲について検討する。
実施例(実施例1~4)としての効率指数Eの値は0.016、0.019、0.024、0.034であるものの、実際にスパイラル型膜エレメントを製造し、効率指数Eを計算し、ポンプ運転エネルギーを測定した参考例(参考例2)として0.052の値もあることから、効率指数とポンプ運転エネルギーとの関係を把握するものとしては、Eが0.052である例も参考にできるといえ、これらEの値が0.016、0.019、0.024、0.034、0.052である時のポンプ運転エネルギーの値をプロットした上記図6を参照すると、効率指数の値が0.06までは、Eとポンプ運転エネルギーの関係を図6のように直線で引くことができるといえる。そして、当該直線は負の傾きを有することから、Eの増加と共にポンプ運転エネルギーが低減するといえ、効率指数Eが「0.016~0.06」の範囲において、Eが0.016より小さい値のものに比べて、よりポンプ運転エネルギーが低くなるといえる。
そうすると、上記実施例の記載に接した当業者は、膜エレメントの外径Dに制限のある状況において、上記Eが「0.016~0.06」の範囲にあっては、Eとポンプ運転エネルギーとの間に上述のような関係性を認知することができる。
一方、本件発明の解決しようとする課題は、上記第5の1に記載されているとおり「制限のある外径をもつ膜エレメントの単位造水量当たりの運転エネルギーを低減できるスパイラル型膜エレメントを提供すること」であるから、上記のように認知した当業者は、本件発明1についても、Eが「0.016~0.06」の範囲にあることをもって、実施例と同様に、本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。
また、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~5についても事情は同じであり、当業者において、上記実施例の記載などから、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
よって、本件発明1~5は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明1~5に係る特許を取消理由1によって取り消すことはできない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、申立人が主張している申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主)
本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主)
本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、本件発明1~5は、甲第2号証に記載された発明、若しくは、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証~甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2015/115575号
甲第2号証:国際公開第2016/027302号
甲第3号証:国際公開第2011/049231号
甲第4号証:国際公開第2014/208602号
甲第5号証:国際公開第2012/133153号
(以下、甲第○号証は「甲○」という。)
2 甲号証の記載
(1)甲1について
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。下線は当審において付与した(以下同様。)。
(甲1ア)「発明が解決しようとする課題
[0008] しかし、特許文献1~4に記載された分離膜エレメントは、加圧条件下で運転を実施することで、高造水化や安定運転を達成できるものの、一方、分離膜エレメントの構成部材である分離膜またはシート流路材は脆性が高く、その取扱性や品質に課題があり、また高温条件下での運転においては、性能変動が課題となっている。
そこで、本発明は、低圧力・高温条件下で運転を実施しても良好な造水性能を発揮しつつ、かつ取扱性や品質に優れた分離膜またはシート流路材を提供することを目的とする。」
(甲1イ)「[0096]2.分離膜エレメント
(2-1)概要
分離膜エレメントの製造には、従来のエレメント製作装置を用いることができる。また、エレメント作製方法としては、参考文献(日本国特公昭44-14216号公報、日本国特公平4-11928号公報、日本国特開平11-226366号公報)に記載される方法を採用することができる。
[0097] 図12に示すように、分離膜エレメント1は、集水管6と、集水管6の周囲に巻回された分離膜3とを備える。また、分離膜エレメント1は、供給側流路材2および端板等の部材をさらに備える。
[0098] 分離膜3は、上記したように、分離膜本体30と、分離膜本体30の透過側の面に固着された透過側流路材4とを備える。
分離膜3は、透過側の面を内側に向けた矩形状の封筒状膜5を形成する。封筒状膜5は、透過水が集水管6に流れるように、その一辺のみにおいて開口し、他の三辺においては封止される。透過水はこの封筒状膜5によって供給水から隔離される。
[0099] 供給側流路材2は、封筒状膜5同士の間、つまり分離膜3の供給側の面の間に配置される。供給側流路材2および複数の封筒状膜5は、重なった状態で、集水管6の周囲に巻き付けられる。
[0100] 分離膜エレメント1の長手方向における一端から供給された原水(図中に「供給水7」として示す。)は、供給側流路材2によって形成された流路を通って、分離膜本体30に供給される。
[0101] 分離膜本体30を透過した水(図中に「透過水8」として示す。)は、透過側流路材4によって形成された流路を通って集水管6に流れこむ。こうして、透過水8は、集水管6の一端から回収される。
[0102] 一方、分離膜本体30を透過しなかった水(図中に「濃縮水9」として示す)は、分離膜エレメント1の他端から回収される。
[0103] 図12に示す分離膜エレメント1は、集水管と、集水管の周囲に巻回された分離膜とを備えるスパイラル型分離膜エレメントの構成の一例であり、本発明はこの形態に限定されるものではない。」
「[0116](2-2-2)封止部
<封止部の形態>
以下、封筒状膜の封止部について説明する。分離膜の透過側の面の間を封止する封止部は、その少なくとも一部が、膜面方向(x-y平面方向)において流路材よりも外側に配置されていてもよい。
[0117] 封止部は、少なくとも分離膜本体の幅方向両端部に帯状に設けられ、より好ましくは分離膜本体の幅方向両端部と巻回方向外側端部にそれぞれ帯状に設けられる。以下、巻回方向外側端部の封止部を第1封止部311と称し、幅方向の両側に設けられた部分を第2封止部(312,313)と称することがある。また、第2封止部は、原水の供給方向において上流側端部、下流側端部にそれぞれ設けられるので、それぞれを上流側封止部312、下流側封止部313と称する。第1封止部311および第2封止部312,313の範囲はそれぞれ図13に示す通りである。」
(甲1ウ)「[0237](実施例9)
アイソタクチックポリプロピレン(温度230℃、荷重2.16kg条件でのMFR1000g/10分)、低立体規則アイソタクチックポリプロピレン(「L-MODU(S400)」)、フィラー(「ミクロエースP-3」)からなる組成物ペレットを170℃で溶融させた後、ギアポンプにより、櫛形シム(スリット幅0.4mm、ピッチ0.8mm)が装填されたアプリケーターに溶融樹脂を供給した。
次いで、櫛形シムから溶融樹脂を吐出させ、シート(ポリエチレンテレフタレート長繊維不織布、単糸繊度1.2dtex、厚み55μm、目付け28g/m2)上に突起物をストライプ状に8.5m/分の速度で加工し、フリーロールを介して、巻取機に巻き取り、シートロールを得た(巻取張力15N/m、巻き取りに使用したコア径3インチ)。シートロールからシート10mを巻出し、突起物固着シート(シート流路材)を得た。
[0238] 得られたシートから突起物を切り離し、流路材の各種特性評価を測定した結果、軟化点温度は130℃、結晶化温度は103℃、引張伸度は22%、50℃湿潤下における降伏点での応力およびその伸度は各々6.1MPa、9%であった。
[0239] シートの品質・取扱性評価を実施したところ、引張伸度が高く、柔軟性に優れているため、欠点箇所は1か所であり、極めて良好な品質・取扱性を有していた。
また、突起物固着シートの保管性評価を実施したところ、高さ変動率は1.9%(評価前:270μm、評価後:265μm)、また固着はしておらず、保管性は極めて良好であった。
[0240] また、シート流路材を裁断し、1辺が開口するように供給側の面を内側にして折り畳まれた分離膜シートの間に、供給側流路材としてネット(厚み:800μm、ピッチ5mm×5mm)を連続的に積層し、透過側流路材として突起物固着シートを封筒状膜間に挿入し、重ね合わせて、幅930mmの封筒状膜26枚を作製した。なお、分離膜シート間の封止は、分離膜シートの幅方向端部より30mm内側にウレタン系接着剤(イソシアネート:ポリオール=1:3)を塗布することで実施した。
[0241] その後、封筒状膜の開口部側の所定部分を有孔集水管の外周面に接着し、さらにスパイラル状に巻囲することで巻囲体を作製した。巻囲体の外周面にフィルムを巻き付け、テープで固定した後に、エッジカット、端板取りつけ、フィラメントワインディングを行い、直径8インチエレメントを作製した。」
「[0252](実施例13)
突起物を構成する樹脂を、低立体規則アイソタクチックポリプロピレン(出光興産社製「L-MODU(S400)」)、フィラー(日本タルク社製微粉タルク「ミクロエースP-3」)からなる組成物に、および、ウレタン系接着剤の塗布幅、および、シートの幅を918mmに変更した以外は、実施例9と同様に分離膜エレメントを作製し、評価を行った。」
「[表2]
[図:0001401627000003.jpg]
(当審注:表2の実施例13には、分離膜の有効面積として37.0m2が記載されている。) 」
(甲1エ)図12として以下の図面が記載されている。
[図12]
[図:0001401627000004.jpg]
イ 甲1発明について
上記図12から、スパイラル型分離膜エレメントには、分離膜3は複数あり、そして、対向する分離膜体30の間に透過側流路材4が介在することが看取される。
そうすると、スパイラル型分離膜エレメントとして、実施例13に基づいて、甲1に記載されている発明を認定すると、以下のとおりである。
「集水管6と、集水管6の周囲に巻回された複数の分離膜3とを備え、
分離膜3は、分離膜本体30と、分離膜本体30の透過側の面に固着された透過側流路材4とを備え、対向する分離膜体30の間に透過側流路材4が介在し、
封止部が、分離膜本体の幅方向両端部と巻回方向外側端部にそれぞれ帯状に設けられ、
供給側流路材2は、封筒状膜5同士の間、つまり分離膜3の供給側の面の間に配置され、供給側流路材2および複数の封筒状膜5は、重なった状態で、集水管6の周囲に巻き付けられる、スパイラル型分離膜エレメントであって、
分離膜シートの幅は918mm、供給側流路材の厚みは800μm、分離膜の有効面積は37.0m2である、直径8インチのスパイラル型分離膜エレメント。」(以下「甲1発明」という。)
なお、申立人は、申立書で「甲第1号証は、様々な膜エレメントの実験例を開示しており、そのうちの実施例13は効率指数Eが0.010であって、本件発明1の構成6である効率指数Eで限定している範囲の下限値である0.016に隣接した効率指数Eを、甲第1発明は有します。」(14頁4~7行)と述べている。
(2)甲2について
ア 甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「[0003] 逆浸透膜装置が、スパイラル構造と呼ばれる膜構造のエレメントを備えることがある。従来のスパイラル型膜エレメントの一例として、透過水スペーサの両面に逆浸透膜を重ね合わせて3辺を接着することにより袋状膜を形成し、該袋状膜の開口部を透過水集水管に取り付け、網状の原水スペーサと共に、透過水集水管の外周面にスパイラル状に巻回することにより構成されたものが挙げられる。原水はエレメントの一方の端面側から供給され、原水スペーサに沿って流れ、他方の端面側から濃縮水として排出される。原水は原水スペーサに沿って流れる過程で、逆浸透膜を透過して透過水となる。この透過水は透過水スペーサに沿って透過水集水管の内部に流れ込み、透過水集水管の端部から排出される。」
(甲2イ)「発明が解決しようとする課題
[0010] 本発明は、MBR処理水等の膜汚染物質を多く含む原水を、透過水量の低下を防止して安定に処理することができる逆浸透膜装置及びその運転方法と、この逆浸透膜装置を用いた生物処理水の処理方法を提供することを課題とする。」
(甲2ウ)「[0035] スパイラル型逆浸透膜エレメントは、4インチ、8インチ、又は16インチの直径を有してもよいが、これに限定されない。エレメントの長さは、通常1m程度であるが、これに限定されない。」
(甲2エ)「[0052][実施例1]
・・・
[0058]<通水試験>
膜面積44.0m2の8インチスパイラル型逆浸透膜エレメントを想定し、上記の逆浸透膜を幅50mm×長さ800mmに切り抜き、厚み0.71mmのポリプロピレン製原水スペーサ及び厚み3mmのセラミックス(多孔質セラミックス焼結体)製透過水スペーサとともに図3に示す試験用平膜セルに取り付けた。」
(甲2オ)「[0063][実施例2]
WO2010/126113号公報に記載の方法に従って、以下の通り、長繊維不織布を作製した。」
「[0067] この逆浸透膜は膜厚(総厚さ)0.06mmで、評価圧力0.75MPaにおいて、除去率99.3%、透過流束1.2m/dであった。
[0068] 膜面積47.3m2の8インチスパイラル型逆浸透膜エレメントを想定し、上記の逆浸透膜を幅50mm×長さ800mmに切り抜き、実施例1と同様に原水スペーサ及び透過水スペーサとともに試験用平膜セルに充填し、実施例1と同様の通水試験を行って、500時間後の透過水量を調べた。結果を表2に示す。8インチエレメント換算の初期透過水量は1.18m3/hであった。」
(甲2カ)「[0078][比較例1]
東レ株式会社製ROエレメント「SUL-G20」から平膜を幅50mm×長さ800mmに切り抜き、実施例1と同様に原水スペーサ(厚み0.71mm)及び透過水スペーサとともに試験用平膜セルに充填した。SUL-G20は評価圧力0.75MPaにおいて、除去率99.7、透過流束0.85m/dであり、膜厚は0.13mmであった。透過流束を0.7m/dとして、実施例1と同様の通水試験を行い、500時間後の透過水量を調べた。結果を表2に示す。8インチエレメント換算の初期透過水量は1.22m3/hであった。」
(甲2キ)図3として以下の図面が記載されている。
[図3]
[図:0001401627000005.jpg]
イ 甲2発明について
上記実施例2の記載に基づいて、甲2発明を認定すると、以下のとおりである。
「膜面積47.3m2の8インチスパイラル型逆浸透膜エレメントを想定し、逆浸透膜を幅50mm×長さ800mmに切り抜き、厚み0.71mmのポリプロピレン製原水スペーサ及び厚み3mmのセラミックス(多孔質セラミックス焼結体)製透過水スペーサとともに充填した試験用平膜セル。」(以下「甲2発明」という。)
なお、申立人は、申立書で「甲第2発明は、供給側流路材の厚み[mil](効率指数EのX)が、[0078]の約27.953mil(厚み0.71mm=710μm)、分離膜の有効膜面積[ft2](効率指数EのY)が、[0068]の約509.133ft2(膜面積 4 7 . 3 mm2)、膜エレメントの長さ[inch](効率指数EのL)は、[0035]40インチ(膜エレメントの長さ通常1m程度)、膜エレメントの外径[inch](効率指数EのD)は、[0068]の8インチになります。」(17頁11~19行)と述べているが、上記アで摘記したとおり、[0078]は比較例1についての記載、[0068]は実施例2についての記載であり、これらを統合的に発明として認定することはできないことから、上記で記載したとおり、実施例2の記載に基づいて甲2発明を認定した。
(3)甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「[0001]
本発明は、半透膜支持体、スパイラル型半透膜エレメント及び半透膜支持体の製造方法に関する。」
(甲3イ)「発明が解決しようとする課題
[0019]
本発明の課題は、半透膜塗布面の平滑性に優れ、半透膜溶液が裏抜けせず、半透膜が半透膜支持体上に均一に塗布され、半透膜形成時の横方向湾曲やシワの発生がなく、半透膜-半透膜支持体間の剥離強度が強く、非塗布面同士の接着性にも優れた半透膜支持体とこの半透膜支持体を用いてなるスパイラル型半透膜エレメント及び半透膜支持体の製造方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0020]
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記発明を見出した。(1)繊維径の異なる2種以上の主体合成繊維とバインダー合成繊維を含有してなり、かつ、半透膜塗布面と非塗布面との平滑性の比が5.0:1.0~1.1:1.0である不織布からなることを特徴とする半透膜支持体。」
(甲3ウ)「[0077]
また、半透膜支持体の密度は、0.5~1.0g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.6~0.9g/cm3である。半透膜支持体の密度が0.5g/cm3未満の場合は、厚みが厚くなるため、ユニットに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜のライフが短くなってしまうことがある。一方、1.0g/cm3を超える場合は、通液性が低くなることがあり、半透膜のライフが短くなる場合がある。」
(4)甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4ア)「[0001] 本発明は、液体、気体等の流体に含まれる成分を分離するために使用される分離膜エレメントに関する。」
(甲4イ)「[0008] 本発明は、分離膜エレメントについて、造水量を増加させることができる分離膜エレメントを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0009] 上記目的を達成するために、本発明の分離膜エレメントは、以下の構成を有する。
集水管および前記集水管の周りに巻回された膜リーフを有し;
前記膜リーフは、供給側流路材と、分離膜と、第1透過側流路材と、第2透過側流路材とを有し; 前記分離膜の供給面側には供給側流路材を有し;
前記分離膜の透過面側には前記第1透過側流路材を有し;
前記第1透過側流路材は、集水管の長手方向には連続しておらず;
前記第2透過側流路材は、シート状物であって、前記膜リーフのひとつの端部に存在し;前記第2透過側流路材は、前記膜リーフを構成する部材のうち、最も近く前記集水管の外周面を巻回しており;そして第2透過側流路材は前記第1透過側流路材と第1透過側流路材の端部で少なくとも接触している 分離膜エレメント。」
(甲4ウ)「[0106] 第2透過側流路材の見掛け密度は、大きければ圧力損失が大きくなるものの、第2透過側流路材の剛性を大きくすることができるため、複数の分離膜リーフ束巻回の容易性を向上することができる。小さければ圧力損失は小さくなるものの、第2透過側流路材の剛性が小さくなるため、分離膜リーフ束巻回の容易性の向上効果は小さい。第2透過側流路材の密度は、好ましくは0.3g/cm3以上、1.2g/cm3以下であることが好ましい。」
(4)甲5について
甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5ア)「[0001] 本発明は、液体、気体等の流体に含まれる成分を分離するために使用されるスパイラル型分離膜エレメントに関する。また、本発明は、本発明のスパイラル型分離膜エレメントを製造するためのスパイラル型分離膜エレメントの製造方法に関する。」
(甲5イ)「[0015] 本発明は、分離膜対の作製時に膜ずれがほとんどなく、良好な分離機能を長期に安定して維持できるスパイラル型分離膜エレメントを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0016]上記目的を達成するための本発明のスパイラル型分離膜エレメントは、
(a-1)スパイラルに巻き上げられた分離膜を有する巻回体、
(a-2)前記分離膜の一方の面に沿って設けられた原流体流路、
(a-3)前記分離膜の他方の面に沿って設けられた透過流体流路、および、
(a-4)透過流体収集管を含み、
(a-5)前記原流体流路が、前記透過流体収集管に対し閉塞され、かつ、前記透過流体流路が、前記透過流体収集管に対し開放された状態で、
(a-6)前記分離膜が、前記透過流体収集管の周囲にスパイラルに巻き上げられて、前記巻回体が形成され、
(a-7)前記巻回体の一方の端部から、前記原流体流路に原流体が供給され、
(a-8)前記巻回体の他方の端部から、前記分離膜を透過しなかった濃縮流体が排出され、
(a-9)前記透過流体収集管を通じて、前記分離膜を透過した透過流体が導出されてなるスパイラル型分離膜エレメントにおいて、
(b-1)隣り合う前記分離膜の前記原流体に接する面が互いに対向し、前記透過流体収集管側の双方の端部の間の前記原流体流路が、前記透過流体収集管に対し、前記分離膜の端部に設けられた封止材により閉塞されて形成された分離膜対の少なくとも二組を有し、
(b-2)前記各分離膜対が、前記透過流体収集管にスパイラルに巻き上げられることで、前記巻回体が形成される。」
(甲5ウ)「[0162] 次に、透過水側の流路材として、トリコット(厚み:300μm、溝幅:200μm、畦幅:300μm、溝深さ:105μm)を分離膜の透過水側の表面に積層し、次いで、断裁して、分離膜を供給水側が対面になるように積層して、透過水側の流路材を配置させた分離膜対を、スパイラル型分離膜エレメントでの有効面積が1.0m2になるように、集水管の長手方向に垂直な方向における分離膜長さL930mmの2枚の分離膜対を作製した。ここで、分離膜の透過水側における高い箇所の最も高いところから近接する高い箇所の最も高い箇所までの水平距離を200個についてカウントし、その平均値をピッチとした。」
3 当審の判断
(1)申立理由1について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「分離膜本体30」及び「透過側流路材4」は、本件発明1の「分離膜」及び「透過側流路材」に相当し、そして、甲1発明の「対向する分離膜体30の間に透過側流路材4が介在し」た「複数の分離膜3」は、本件発明1の「対向する分離膜の間に透過側流路材が介在する複数の膜リーフ」に相当する。
b 甲1発明の「分離膜3の供給側の面の間に配置され」る「供給側流路材2」は、本件発明1の「前記膜リーフの間に介在する供給側流路材」に相当し、甲1発明の「供給側流路材2および複数の封筒状膜5は、重なった状態で」「周囲に巻き付けられる」「集水管6」は、本件発明1の「前記膜リーフ及び前記供給側流路材を巻回した有孔の中心管」に相当する。
c 甲1発明の「分離膜本体の幅方向両端部と巻回方向外側端部にそれぞれ帯状に設けられ」た「封止部」は、供給側流路と透過側流路との混合を防止する作用もあることから、本件発明1の「供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部」に相当する。
d 800μmは約31.5milであるから、甲1発明の「供給側流路材の厚みは800μm」であることは、本件発明1の「供給側流路材の厚みが26~110mil」を満たす。
e 上記a~dを踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「対向する分離膜の間に透過側流路材が介在する複数の膜リーフと、前記膜リーフの間に介在する供給側流路材と、前記膜リーフ及び前記供給側流路材を巻回した有孔の中心管と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部と、を備えるスパイラル型膜エレメントであって、
前記供給側流路材の厚みが26~110milであるスパイラル型膜エレメント。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
スパイラル型分離膜エレメントが、本件発明1では、
「下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.06であり、
効率指数:E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))
(式中、Xは前記供給側流路材の厚み[mil]であり、Yは前記分離膜の有効膜面積[ft2]であり、Dは膜エレメントの外径[inch]であり、Lは膜エレメントの長さ[inch]である。)」であるのに対し、
甲1発明では、「分離膜シートの幅は918mm、供給側流路材の厚みは800μm、分離膜の有効面積は37.0m2」であり、「直径8インチ」である点。
(相違点2)
分離膜の厚みが、本件発明1では「80~100μm」であるのに対し、甲1発明では、そのような値に特定されていない点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、相違点1について判断する。
a 甲1発明における「供給側流路材の厚み」、「分離膜の有効面積」、「スパイラル型分離膜エレメント」の「直径」及び「分離膜シートの幅」は、順に、本件発明1における「供給側流路材の厚み」「X」、「分離膜の有効膜面積」「Y」、「膜エレメントの外径」「D」及び「膜エレメントの長さ」「L」に相当することから、甲1発明において、Xは800μm(約31.5mil)、Yは37.0m2(約398.26ft2)、Dは8インチ(8inch)、Lは918mm(約36.14mil)となり、これらの値より、効率指数E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))を計算すると、E=0.01047となる。
このEの値は、本件発明1の「0.016~0.06」という要件を満たしていない。
b そこで、甲1発明において、Eの値を「0.016~0.06」の範囲にする動機があるかどうかについて検討する。
甲1発明は、上記2(1)ア(甲1ア)で摘記したように、「本発明は、低圧力・高温条件下で運転を実施しても良好な造水性能を発揮しつつ、かつ取扱性や品質に優れた分離膜またはシート流路材を提供することを目的とする」ことを課題とした発明であり、本件発明1の課題である、上記第5の1で摘記した「本発明の目的は、制限のある外径をもつ膜エレメントの単位造水量当たりの運転エネルギーを低減できるスパイラル型膜エレメントを提供すること」とは相違するものである。そして、甲1において、「効率指数E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))」と「運転エネルギー」との関係を示唆する記載は全くないし、「制限のある外径をもつ膜エレメントの単位造水量当たりの運転エネルギーを低減できるスパイラル型膜エレメントを提供する」という課題は認識されていないのであるから、甲1発明において、効率指数Eを計算できるにしろ、X、Y、D及びLの値を調整して、効率指数Eの値を「0.016~0.06」の範囲にする動機はない。
c また、上記甲2~甲5の記載を参照しても、「効率指数E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))」と「運転エネルギー」との関係を示唆する記載はないのであるから、上記甲2~甲5の記載を鑑みても、甲1発明のEの値である「0.01047」を本件発明1の「0.016~0.06」という要件を満たすようにすることにはならない。
d よって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1~甲5の記載を参照しても、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、又は、甲1発明及び甲2~甲5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明1に係る特許を申立理由1によって、取り消すことはできない。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、いずれも本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明、又は、甲1発明及び甲2~甲5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明2~5に係る特許を申立理由1によって、取り消すことはできない。
(2)申立理由2について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比するに、そもそも、甲2発明は「スパイラル型逆浸透膜エレメントを想定し」た「試験用平膜セル」であることから、本件発明1の「対向する分離膜の間に透過側流路材が介在する複数の膜リーフと、前記膜リーフの間に介在する供給側流路材と、前記膜リーフ及び前記供給側流路材を巻回した有孔の中心管と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部と、を備えるスパイラル型膜エレメントであって」との前提も相違点(以下「相違点3」という。)となる。
また、本件発明1の「分離膜の有効面積」とは、本件明細書等に「(有効膜面積)得られたスパイラル型膜エレメントを解体して、膜リーフの両端封止部と外周側封止部とで囲まれた領域の分離膜の面積を測定し(N=3)、全ての膜リーフに相当する膜エレメント全体の有効膜面積を求めた。」(【0095】)と記載されているものであり、甲2発明の「膜面積」自体が、当該「有効膜面積」に相当するものとはいえないことから、甲2発明において「「効率指数E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))」を計算することはできない。
してみれば、「下記の式から求められる効率指数Eが0.016~0.06であり、
効率指数:E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))
(式中、Xは前記供給側流路材の厚み[mil]であり、Yは前記分離膜の有効膜面積[ft2]であり、Dは膜エレメントの外径[inch]であり、Lは膜エレメントの長さ[inch]である。)」ことも相違点(以下「相違点4」という。)である。
よって、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも相違点3及び4の点で相違する。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、相違点4について判断する。
a 甲2発明は、上記2(2)ア(甲2イ)で摘記したように「MBR処理水等の膜汚染物質を多く含む原水を、透過水量の低下を防止して安定に処理することができる逆浸透膜装置及びその運転方法と、この逆浸透膜装置を用いた生物処理水の処理方法を提供すること」を課題とした発明であり、本件発明1の課題である、上記第5の1で摘記した「本発明の目的は、制限のある外径をもつ膜エレメントの単位造水量当たりの運転エネルギーを低減できるスパイラル型膜エレメントを提供すること」とは相違するものである。そして、甲2において、「効率指数E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))」と「運転エネルギー」との関係を示唆する記載は全くないし、「制限のある外径をもつ膜エレメントの単位造水量当たりの運転エネルギーを低減できるスパイラル型膜エレメントを提供する」という課題をうかがわせる記載もないから、甲2発明において、X、Y、D及びLの値を調整して、効率指数Eの値を「0.016~0.06」の範囲にする動機はない。
b また、上記甲1及び甲3~甲5の記載を参照しても、「効率指数E=0.0024*X-0.2373+(Y/(D2*L))」と「運転エネルギー」との関係を示唆する記載はないのであるから、上記甲1及び甲3~甲5の記載を鑑みても、甲2発明において、効率指数Eの値を「0.016~0.06」の範囲にすることにはならない。
c よって、相違点4に係る本件発明1の構成は、甲1~甲5の記載を参照しても、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)小括
したがって、少なくとも相違点4の点において、本件発明1は、甲2発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲2発明、若しくは、甲2発明及び甲1、甲3~甲5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明1に係る特許を申立理由2によって、取り消すことはできない。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、いずれも本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明、若しくは、甲2発明及び甲1、甲3~甲5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明2~5に係る特許を申立理由2によって、取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおり、本件発明1~5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によって、取り消すことはできない。
さらに、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700497