特許異議申立
2022-700463
膨張コンクリート
- 審判番号
- 2022-700463
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-145513
- 登録番号
- 6974974
- 請求日
- 2022年05月30日
- 審決日
- 2022年09月21日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】太平洋マテリアル株式会社
- 【異議申立人】松永 健太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 原 和秀
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6974974号発明「膨張コンクリート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6974974号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6974974号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成29年7月27日に特許出願され、令和3年11月9日にその特許権の設定登録がされ、令和3年12月1日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1、2に係る特許に対して、令和4年5月30日に特許異議申立人松永健太郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
2 本件発明
本件特許の請求項1、2の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
セメント組成物、膨張材、石灰石骨材を含む膨張コンクリートであって、該セメント組成物はセメントクリンカー粉砕物と二水石膏および半水石膏を含有してなり、該セメント組成物中の総SO3量が2.8~5.0質量%であり、かつ二水石膏および半水石膏の合計量に対する二水石膏の割合がSO3換算で25%以上62%以下であり、前記石灰石骨材の含有量が全骨材量に対して40質量%以上であり、前記膨張材の配合量が膨張コンクリート中10kg/m3以上20kg/m3未満であることを特徴とする膨張コンクリート。
【請求項2】
前記膨張コンクリートの材齢7日における拘束膨張率が150~250×10-6であることを特徴とする請求項1に記載の膨張コンクリート。」
3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証~甲第4号証を提出し、本件発明1、2は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。
本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第4号証に記載された技術的事項、及び、周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(証拠方法)
甲第1号証 辻埜真人,外3名,“膨張材と石灰石骨材を併用した低収縮
コンクリートに関する検討(その2 膨張コンクリートの品
質管理方法)”,日本建築学会大会学術講演梗概集,201
0年9月, p.925-926
甲第2号証 JIS R 5210:2009 ポルトランドセメント,
付属書A
甲第3号証 廣瀬哲,外5名,“熱重量分析法によるセメント中の半水セ
ッコウと二水セッコウの定量”,Inorganic Materials,Vol
.2,No.254,1995年, p.12-17
甲第4号証 特開2011-209044号公報
4 甲号証の記載事項及び甲1発明について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「2.試験方法
図-1および写真-1に示すように,コンクリートの強度試験用に利用されている軽量鋼製型枠(胴板厚さ0.28mm)中央部の円周方向にひずみゲージを貼り付け,型枠のひずみ量を測定することで,膨張コンクリートの膨張量を把握する。」(第925頁左欄第10~15行)
イ 「3.実験概要
3.1 使用材料
コンクリートに利用した材料を表-1に示す。本実験では,細骨材,粗骨材ともに石灰石骨材を利用し,膨張材には石灰系を利用した。
3.2試験水準および調合
各水準におけるコンクリートの調合および各性状の結果を表-2に示す。水結合材比については55%,45%,35%の3水準とし,膨張材については混入量を10kg/m3,20kg/m3,30kg/m3と混入なしの4水準で計12水準とした。」(第925頁左欄第20~29行)
ウ 「
[図:0001389421000001.jpg]
」
(第925頁)
エ 「
[図:0001389421000002.jpg]
」
(第925頁)
(2)甲1発明について
甲第1号証には、上記(1)エによれば、水、セメント、膨張材、細骨材、粗骨材、化学混和剤から調合されたコンクリートが記載されている。
また、甲第1号証には、上記(1)アによれば、コンクリートは、膨張コンクリートであり、同ウによれば、セメント、細骨材及び粗骨材は、それぞれ、普通ポルトランドセメント、石灰石砕砂及び石灰石砕石であることが記載されている。
さらに、甲第1号証には、上記(1)イによれば、膨張材の混入量を10kg/m3とすることが記載されている。
これらの記載事項を「膨張コンクリート」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「水、普通ポルトランドセメント、膨張材、石灰石砕砂である細骨材、石灰石砕石である粗骨材、及び、化学混和剤から調合された膨張コンクリートであって、膨張材の混入量が10kg/m3である、膨張コンクリート。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)甲第2号証の記載事項
「
[図:0001389421000003.jpg]
」
(4)甲第3号証の記載事項
ア 「1 緒言
ポルトランドセメントには初期の凝結を調整する目的で数%のセッコウが添加されるが,その形態には二水セッコウと半水セッコウがあり,両者の割合はセメントクリンカーの粉砕条件などにより変化する。2種類のセッコウは溶解度や溶解速度に差があるため,その割合がセメントの凝結や流動性に微妙な影響をあたえる1)。」(第12頁左欄第1~8行)
イ 「3・3 セッコウの粉末度の影響
前項までは,ムライトを基材とした試料で測定を行なった。実際のセメントにおいてその結果を確認するために,セメント製造に使用される排脱セッコウの細かさを変え,普通ポルトランドセメントに添加して測定した。なお,試料容器の蓋は孔径30μmのものをもちいた。
図6に,細かさの異なる二水セッコウおよび半水セッコウをセメントに添加したときの添加率と測定値の関係をしめす。また,表2に,セッコウの細かさごとに配合した添加率と測定値の関係からえられた直線の傾きと切片の値をしめす。
直線の傾きは,二水セッコウ,半水セッコウのいずれにおいても添加したセッコウの細かさにかかわらず,約1.0となった。また,切片は,二水セッコウおよび半水セッコウとも,実験にもちいた普通ポルトランドセメントの測定値(二水セッコウ:0.9%,半水セッコウ1.6%)と良く一致した。」(第16頁右欄第7行~第17頁左欄第15行)
(5)甲第4号証の記載事項
ア 「【0002】
セメント組成物粉体中には、凝結時間や強度発現性の観点から、石膏が添加されている場合がある。
特に、二水石膏と半水石膏との配合割合を把握することは、セメント組成物の凝結時間や強度発現性の観点より重要である。」
イ 「【0034】
[図:0001389421000004.jpg]
」
5 申立理由に対する判断
(1)本件発明1について
ア 甲1発明との対比
甲1発明の「普通ポルトランドセメント」、「石灰石砕砂である細骨材、石灰石砕石である粗骨材」及び「膨張材の混入量が10kg/m3」は、本件発明1の「セメント組成物」、「石灰石骨材」及び「膨張材の配合量が膨張コンクリート中10kg/m3以上20kg/m3未満」に相当する。
また、甲1発明の「膨張コンクリート」は、「水、普通ポルトランドセメント、膨張材、石灰石砕砂である細骨材、石灰石砕石である粗骨材、及び、化学混和剤から調合された」ものであるから、「セメント組成物、膨張材、石灰石骨材を含む」ものであるといえる。
さらに、甲1発明の「膨張コンクリート」は、骨材として「石灰石砕砂である細骨材、石灰石砕石である粗骨材」のみを含むものであるから、石灰石骨材の含有量が全骨材量に対して100質量%であるといえる。
そうしてみると、本件発明1と甲1発明とは、
「セメント組成物、膨張材、石灰石骨材を含む膨張コンクリートであって、前記石灰石骨材の含有量が全骨材量に対して40質量%以上であり、前記膨張材の配合量が膨張コンクリート中10kg/m3以上20kg/m3未満であることを特徴とする膨張コンクリート。」
の点で一致し、以下の相違点1~3で相違している。
(相違点1)
本件発明1では、「セメント組成物はセメントクリンカー粉砕物と二水石膏および半水石膏を含有してな」るのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。
(相違点2)
本件発明1では、「セメント組成物中の総SO3量が2.8~5.0質量%であ」るのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。
(相違点3)
本件発明1のセメント組成物では、「二水石膏および半水石膏の合計量に対する二水石膏の割合がSO3換算で25%以上62%以下であ」るのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。
イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑み、相違点2から検討する。
a 上記4(3)によれば、JIS R 5210:2009において、普通ポルトランドセメントの三酸化硫黄の規格値は3.5質量%以下であるとされている。ここで、三酸化硫黄は、本件発明1の「総SO3量」に相当する。
これを踏まえると、甲1発明の「普通ポルトランドセメント」の総SO3量は、3.5質量%以下である蓋然性が高いといえ、この数値範囲は、本件発明1のセメント組成物中の総SO3量の数値範囲と重なるものである。
しかしながら、JIS R 5210:2009では、普通ポルトランドセメントの三酸化硫黄の下限に関する規定がないから、甲1発明の「普通ポルトランドセメント」は、総SO3量が2.8質量%以上であるとは限らず、2.8質量%未満であるものも当然含むものである。
b そこで、甲1発明の「普通ポルトランドセメント」の総SO3量を、2.8質量%以上とすることが、当業者にとって容易なことであるかどうか検討する。
甲第1号証には、そもそもSO3に関する記載がないため、総SO3量を2.8質量%以上にしようとする動機付けはないものと認められる。
また、総SO3量を2.8質量%以上としたことによる効果について検討するに、本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。
(a)【0006】には、本件発明の課題は、膨張材の使用量が少ないにもかかわらず、土木学会規準の収縮補償用コンクリートの拘束膨張率(材齢7日のコンクリート拘束膨張率が150~250×10-6)を満足する膨張コンクリートを提供することにあること(当審注:下線は当審が付した。以下同じ)。
(b)【0013】には、総SO3量の数値範囲がコンクリート拘束膨張率に影響すること。
(c)【実施例】(【0020】~【0034】)には、本件発明1の規定に対して「総SO3量」のみ満たさない配合No.10の比較例(表2には、「セメント組成物3」(C3)の「総SO3量」が「2.1」質量%であることが記載されている。)は、材齢7日のコンクリート拘束膨張率が121×10-6(表5)であるのに対して、本件発明1の規定を満たす実施例(配合No.1~5)のセメント組成物5(C5)~7(C7)は、材齢7日のコンクリート拘束膨張率が165~210×10-6(表5)となり、本件発明の課題を解決できること。
以上の記載事項を踏まえると、本件発明は、総SO3量を2.8質量%以上としたことにより、当業者が予測し得ない格別の効果を奏するものと認められる。
したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は容易想到の事項ではない。
c 申立人の主張について
申立人は、JIS R 5210:2009の普通ポルトランドセメントの三酸化硫黄の規格値について、旧規格(JIS R 5210:2003)の3.0%以下から3.5%以下に引き上げられた理由として、「クリンカーの原料としての廃棄物・副産物の使用量の増大に伴い,クリンカー中のアルミン酸三カルシウム(C3A)量が増加する傾向にあり,セメントの水和反応を適切に制御するため,水中膨張が問題とならない範囲で,三酸化硫黄の上限値を引き上げた。」(甲第2号証の「新旧対照表」(上記4(3))の「改正理由」の欄を参照)とされることを踏まえると、このような改正が必要とされるほど、普通ポルトランドセメントのSO3含有量は規格の上限値付近の値であることが通常であったと推認されるところ、甲1発明では、普通ポルトランドセメントが用いられているから、そのSO3含有量は当該JISに従った3.5%以下で上限値付近の値である蓋然性が高く、当該含有量は、本件発明1が規定する「2.8~5.0質量%」と重複一致するため、相違点2は実質的なものではない旨主張する(特許異議申立書第10頁第11行~第11頁第4行、第11頁第9行~第12頁第6行)。
しかしながら、JIS規格の三酸化硫黄の上限値が改正されたことは、単に、普通ポルトランドセメントのSO3含有量として、3.0超から3.5%以下の範囲にあるものをも許容するようになったことを意味するに過ぎないため、改正が必要になったという事情から直ちに、通常使用される普通ポルトランドセメントのSO3含有量が3.5%の上限値付近の値である蓋然性が高いとまではいえない。したがって、甲第1号証の普通ポルトランドセメントのSO3含有量が3.5%の上限値付近の値である蓋然性が高いとはいえない。
また、甲第1号証には、普通ポルトランドセメントの原料として廃棄物・副産物を使用したことがそもそも記載されていないから、セメントの水和反応を適切に制御するために、三酸化硫黄を上限値近くまで入れなければいけない、という特段の事情があるとも認められない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(イ)上記(ア)のとおりであるから、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由に理由はない。
6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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