特許異議申立
2022-700445
インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法
- 審判番号
- 2022-700445
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-188444
- 登録番号
- 6970355
- 請求日
- 2022年05月23日
- 審決日
- 2023年07月25日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】セイコーエプソン株式会社
- 【権利者代理人】布施 行夫
- 【権利者代理人】大渕 美千栄
- 【権利者代理人】川▲崎▼ 通
- 【権利者代理人】松本 充史
- 【権利者代理人】仲井 智至
- 【権利者代理人】松岡 宏紀
- 【異議申立人】鈴木 憲治
- 審判長/審判官
- 審判長 塩見 篤史
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6970355号発明「インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6970355号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第6970355号の請求項1、2、4~7に係る特許を維持する。
特許第6970355号の請求項3についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6970355号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成27年2月24日の出願に係る特願2015-33763号の一部を、令和元年10月15日に新たな特許出願としたものであって、令和3年11月2日に特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~7に係る発明の特許に対し、令和4年5月23日に鈴木憲治(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
なお、令和4年12月6日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、申立人は、意見書を提出しなかった。
令和4年 9月28日付け 取消理由通知
同年11月29日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年12月 6日付け 訂正請求があった旨の通知
令和5年 6月 8日付け 訂正拒絶理由通知
同年 7月10日 手続補正書の提出(特許権者)
第2 訂正の適否
1 本件訂正請求による訂正の内容
令和4年11月26日にされた訂正請求(令和5年7月10日提出の手続補正書による手続補正後のもの。以下、同様。)の「請求の趣旨」は、「特許第6970355号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものである。また、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」ともいう。)の内容は、以下の訂正事項1~6からなるものである。
なお、令和5年7月10日提出の手続補正書による訂正請求書の補正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において「R1O-(R2O)m-R3・・・(2)」と記載されているのを「R1O-(R2O)m-R3・・・(1)」と訂正する訂正事項を削除するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「前記環状エステルの含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、10~30質量%であり、」と記載されているのを「前記環状エステルの含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、10~30質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、14.3質量%以上65.5質量%以下であり、」と訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4~7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1~4のいずれか1項において、」と記載されているのを、「請求項1又は2において、」と訂正する。(請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5において、「請求項1~4のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、「請求項1、2、4のいずれか一項に記載の」と訂正する。(請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6~7も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6において、「請求項1~5のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、「請求項1、2、4、5にいずれか記載の」と訂正する。(請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7において、「請求項1~5のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、「請求項1、2、4、5にいずれか記載の」と訂正する。
2 検討
(1) 一群の請求項について
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1について、請求項2~7は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~7に対応する本件訂正後の請求項1~7は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとになされたものである。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において、「下記一般式(2)で表される化合物の1種以上」を含むことが特定されていたが、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の発明の詳細な説明に「上記式(2)で表される化合物の、インクジェットインク組成物の全量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下、よりさらに好ましくは30質量%以上75質量%以下、特に好ましくは40質量%以上70質量%以下である。」(【0042】)と記載され、また、実施例(段落【0100】~【0121】)で具体的に製造されたNo.14のインク組成物(段落【0112】の【表1】)において、インクジェットインク組成物の全量に対する一般式(2)で表される化合物の合計含有量の割合が、14.3質量%(=15.0/105.0*100)であること、及び、No1等のインク組成物において65.5質量%(=65.5/100*100)であることに基づき、その含有割合に関して、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全体に対して、14.3質量%以上65.5質量%以下であり、」との限定をさらに付加したものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許明細書には上記のとおりの記載があるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3~6について
訂正事項3~6は、本件訂正前の請求項4~7が、それぞれそれよりも前の請求項(請求項3を含む)を引用する形式で記載されていたものを、訂正事項2による請求項3の削除にともなって、引用する請求項から請求項3を削除するものである。
したがって、訂正事項3~6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。
(3) 特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであること
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~7に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
3 まとめ
以上のとおり、訂正事項1~6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が上記のとおり認められたので、特許第6970355号の請求項1~7に係る発明(以下、請求項の項番により「本件発明1」などといい、まとめて、「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、下記一般式(2)で表される化合物の1種以上と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、樹脂とを含み、
前記環状エステルの含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、10~30質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全体に対して、14.3質量%以上65.5質量%以下であり、
前記樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、1~10質量%であり、
水の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、5質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。
R1O-(R2O)m-R3・・・(2)
[一般式(2)中、Rl及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、Rl及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【請求項2】
請求項1において、
前記環状エステルの総含有量に対する前記樹脂の総含有量の比が0.1~1.0である、非水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記環状エステルの含有量が10~20質量%である、非水系インクジェットインク組成物。
【請求項5】
塩化ビニル系記録媒体への記録に用いられる、請求項1、2、4のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1、2、4、5のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系シアンインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセット。
【請求項7】
請求項1、2、4、5のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物または請求項6に記載のインクセットを用いて、記録媒体にインクジェット法により記録を行う、インクジェット記録方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由通知に記載した取消理由
当審が令和4年 9月28日付けで特許権者に通知した取消理由は、以下の取消理由1~3である。また、取消理由1は、特開2014-237803号公報(申立人が提出した甲第2号証。以下、「甲2」ともいう。)を主引用例とするものである。
取消理由1(進歩性)
本件発明1~7は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
取消理由2(サポート要件)
本件発明1~7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
取消理由3(明確性)
本件発明3~7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
2 取消理由1について
(1) 証拠に記載されている事項
ア 甲2の記載
甲2(特開2014-237803号公報)には、次の記載がある。
(ア)
「【請求項1】
色材と、環状エステルと、引火点が70℃以下であって下記一般式(I)で表される第1有機溶剤と、引火点が90℃以上の第2有機溶剤と、を含有し、
前記環状エステルの含有量a(質量%)が、6質量%以上30質量%以下であり、
前記環状エステルの含有量a(質量%)と、前記第1有機溶剤の含有量b(質量%)と、前記第2有機溶剤の含有量c(質量%)とが、下記式(1)および(2)の関係を満たす、インクジェット記録用インク組成物。
R1-O-(R2-O)2-R3 ・・・(I)
(上記一般式(I)において、R1は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2はエチレン基またはプロピレン基を表し、R3は水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
a<b ・・・(1)
c<(a+b)/2 ・・・(2)
【請求項2】
請求項1において、
前記第2有機溶剤の含有量cが、3質量%以上30質量%以下である、インクジェット記録用インク組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第1有機溶剤の含有量bが、20質量%以上85質量%以下である、インクジェット記録用インク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記第2有機溶剤は、下記一般式(II)で表される化合物である、インクジェット記録用インク組成物。
R4-O-(R5-O)n-R6 ・・・(II)
(上記一般式(II)において、R4は炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、R5はエチレン基またはプロピレン基を表し、R6は水素原子または炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、nは2以上6以下の整数を表す。)
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
水の含有量が3質量%以下である、インクジェット記録用インク組成物。
・・・
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のインク組成物を記録ヘッドから吐出して、記録媒体に付着させる工程を含む、インクジェット記録方法。」
(イ)
「【0028】
色材
本実施形態のインク組成物は、色材を含有する。係る色材としては、従来公知の染料、有機あるいは無機顔料を用いることができる。このうち顔料を用いることが耐光性の点から好ましい。・・・
【0029】
本実施形態のインク組成物は、ブラック、ホワイト、シアン、ブルー、グリーン、マゼンダ、レッド、イエロー、オレンジ、若しくはこれらの淡色若しくは濃色、若しくはこれらの混色、または光輝色のインクとすることができる。
【0030】
本実施形態のインク組成物を、マゼンタまたはレッドのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド2、・・・
【0031】
本実施形態のインク組成物を、オレンジまたはイエローのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ64、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155およびC.I.ピグメントイエロー180等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。
【0032】
本実施形態のインク組成物を、グリーンまたはシアンのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントブルー15・・・」
(ウ)
「【0036】
1.2.溶剤
1.2.1.環状エステル
本実施形態に係るインク組成物は、溶剤として環状エステルを含有する。これにより、記録面(好ましくは塩化ビニル系樹脂を含む記録面)の一部を溶解して記録媒体の内部にインク組成物を浸透させることができる。このように記録媒体の内部にインク組成物が浸透することで、記録媒体上に記録した画像の耐擦性(摩擦堅牢性)を向上させることができる。このように、環状エステルは記録媒体への浸透性に優れるので、高湿度環境下であっても、耐擦性に優れた画像を得ることができる。
・・・
【0040】
環状エステルの含有量aは、インク組成物の全質量に対して、6質量%以上30質量%以下である必要があるが、10質量%以上20質量%以下であることが好ましく、12質量%以上16質量%以下であることがより好ましい。環状エステルの含有量が上記範囲内にあることで、記録される画像の耐擦性を良好に確保できる。これに対して、環状エステルの含有量が6質量%未満であると、記録される画像の耐擦性が悪化する。また、環状エステルの含有量が30質量%を超えると、記録される画像の濡れ拡がり性が低下したり、光沢性が悪化したりして、画質の低下を招く傾向にある。」
(エ)
「【0041】
1.2.2.第1有機溶剤
本実施形態に係るインク組成物は、溶剤として、引火点が70℃以下であって下記一般式(I)で表される第1有機溶剤を含有する。第1有機溶剤は、引火点が70℃以下であるため、乾燥性に優れた溶剤であり、これにより記録される画像の乾燥性を向上できる。
【0042】
R1-O-(R2-O)2-R3 ・・・(I)
【0043】
上記一般式(I)において、R1は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2はエチレン基またはプロピレン基を表し、R3は水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。炭素数1以上4以下のアルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、またはtert-ブチル基が挙げられる。
【0044】
上記一般式(I)で表される化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、上記一般式(I)に示すように、第1有機溶剤は、アルキレングリコールアルキルエーテルである。アルキレングリコールアルキルエーテルは、後述する定着樹脂にインク組成物を含有する場合において、定着樹脂を良好に溶解することができる。
【0045】
引火点が70℃以下である一般式(I)で表される化合物の具体例としては、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(64℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(65℃)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、括弧内の数値は引火点を示す。
・・・
【0048】
第1有機溶剤は、後述する式(1)および式(2)を満たすように添加されればよいが、記録される画像の乾燥性を一層向上させつつ、画像の濡れ拡がり性の低下を抑制するという観点から、その含有量bは、インク組成物の全質量に対して、20質量%以上85質量%以下であることが好ましく、下限は30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、上限は80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましく、70質量%以下であることがよりさらに好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。」
(オ)
「【0049】
1.2.3.第2有機溶剤
本実施形態に係るインク組成物は、溶剤として、引火点が90℃以上の第2有機溶剤を含有する。第2有機溶剤は、引火点が90℃以上であるので、第1有機溶剤と比べて乾燥性が低いものであるが、記録媒体に付着したインク組成物の濡れ拡がり性を向上させるという機能を有する。これにより、記録される画像のインク滴による埋まりが良好となり、筋状ムラ等の少ない画質の優れた画像が得られる。
【0050】
第2有機溶剤としては、例えば、アルキレングリコールアルキルエーテル、高級脂肪酸エステル、二塩基酸ジエステル、アルキルアミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用しても良いし、2種以上併用してもよい。また、これらの化合物の中でも、印刷ムラの発生を抑制できるという点から、アルキレングリコールアルキルエーテルを使用することが好ましい。
・・・
【0052】
アルキレングリコールアルキルエーテルとしては、下記一般式(II)で表される化合物を用いることが好ましい。下記一般式(II)で表される化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0053】
R4-O-(R5-O)n-R6 ・・・(II)
【0054】
上記一般式(II)において、R4は炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、R5はエチレン基またはプロピレン基を表し、R6は水素原子または炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、nは2以上6以下の整数を表す。「炭素数1~6のアルキル基」は、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、例えば前記「炭素数1~4のアルキル基」に加えて、直鎖状もしくは分岐状のペンチル基またはヘキシル基であることができる。
【0055】
上記一般式(II)において、R4およびR6の両方が炭素数1以上6以下のアルキル基である場合、インク組成物中における顔料の分散安定性が向上する傾向があり好ましい。一方、R6が水素原子の場合、第2有機溶剤として使用されるアルキレングリコールアルキルエーテルの引火点がより高くなる傾向があり、第2有機溶剤の使用量としてより少ない含有量で、上記の画質の向上の効果が得られ、画質が一層高まる傾向にあり、インク組成物の組成の設計の自由度が高くなり好ましい。
【0056】
引火点が90℃以上である一般式(II)で表される化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(105℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(112℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(101℃)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(94℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(122℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(108℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(117℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(139℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(156℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(111℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(123℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(138℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(104℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(166℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(141℃)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用しても良いし、2種以上併用してもよい。なお、括弧内の数値は引火点を示す。
・・・
【0061】
第2有機溶剤は、後述する式(1)および式(2)を満たすように添加されればよいが、記録される画像の濡れ拡がり性を一層向上させつつ、乾燥性の低下を抑制するという観点から、その含有量cは、インク組成物の全質量に対して、3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、下限は5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることがよりさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましく、上限は25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。」
(カ)
「【0073】
<水>
本実施形態のインク組成物には、水を含有しないことが好ましいが、含有されることを妨げるものではない。水が含有される場合には、その含有量が、インク組成物の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらにより好ましく、0.05質量%未満であることがさらに好ましく、0.01質量%未満であることが一層好ましく、0.005質量%未満であることがさらに一層好ましく、0.001質量%未満であることが最も好ましい。なお、本実施形態に係るインク組成物は、実質的に水を含有しないインク組成物としてもよい。「実質的に含有しない」とは、意図的に含有させないことを指す。すなわち、本実施形態に係るインク組成物は、有機溶剤を主要な溶媒として、水を主要な溶媒としない、いわゆる非水系インク組成物であることが好ましい。
【0074】
<定着用樹脂>
本実施形態のインク組成物は、定着用樹脂を含有してもよい。インク組成物に含有させうる定着用樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、エチルセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース樹脂、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、スチレン-(メタ)アクリル共重合樹脂、ビニルトルエン-α-メチルスチレン共重合体樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン系樹脂、石油樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン、ポリオレフィン、エチレンアルキル(メタ)アクリレート樹脂、テルペン系樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、NBR・SBR・MBR等の各種合成ゴム、およびそれらの変性体等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。これらの定着用樹脂は、例えば、インク組成物の記録媒体上における定着性を付与するために配合することができる。
【0075】
定着用樹脂の具体例としては、アクリペットMF(三菱レイヨン社製、アクリル樹脂)、スミペックスLG(住友化学社製、アクリル樹脂)、パラロイドBシリーズ(ローム・アンド・ハース社製、アクリル樹脂)、パラペットG-1000P(クラレ社製、アクリル樹脂)などが適用できる。定着用樹脂のうち、中でも、(メタ)アクリル系樹脂、塩ビ系樹脂が耐擦性の点で好ましい。(メタ)アクリル系樹脂は樹脂の合成時に使用したモノマー成分として少なくとも(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸の何れかを含むものであり、塩ビ系樹脂は樹脂の合成時に使用したモノマー成分として少なくとも塩化ビニルを含むものである。
【0076】
本実施形態のインク組成物に定着用樹脂を配合する場合の配合量は、特に限定されないが、望ましい定着性を発揮させるために、例えば、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下とすることができる。」
(キ)
「【0085】
2.インクジェット記録方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、上記のインク組成物の液滴を記録ヘッドから吐出して、記録媒体に付着させる工程(以下、「工程(a)」ともいう。)を含む。これにより、記録媒体上に画像の形成された記録物が得られる。」
(ク)
「【0103】
記録媒体Pとしては、特に限定されないが、本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、低吸収性記録媒体を使用した場合であっても記録された画像や文字の耐擦性や乾燥性が良好となる。ここで「低吸収性記録媒体」とは、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体のことをいい、少なくとも記録面がこの性質を備えていればよい。この定義によれば、本発明における「低吸収性記録媒体」には、水を全く吸収しない非吸収性記録媒体も含まれる。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0104】
低吸収性記録媒体としては、具体的には、低吸収性の材料を含むシート、フィルム、繊維製品等が挙げられる。また、低吸収性記録媒体は、基材(例えば、紙、繊維、皮革、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属等)の表面に、低吸収性の材料を含む層(以下、「低吸収性層」ともいう)を備えたものであってもよい。低吸収性の材料としては、特に限定されないが、オレフィン系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0105】
これらの中でも、低吸収性記録媒体としては、塩化ビニル系樹脂を含む記録面を有するものを好ましく用いることができる。上述のインク組成物には環状エステルが含まれており、この環状エステルが塩化ビニル系樹脂を含む記録面を溶解することで記録媒体の内部にインク組成物を浸透させることができる。これにより、高湿度環境下であっても塩化ビニル系樹脂を含む記録面に記録した画像や文字の耐擦性を向上させることができる。塩化ビニル系樹脂の具体例としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-ビニルエーテル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体等が挙げられる。なお、低吸収性記録媒体の厚み、形状、色、軟化温度、硬さ等の諸特性については特に制限されない。」
(ケ)
「【0106】
3.実施例
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。
【0107】
3.1.インク組成物の調製
各実施例および各比較例のインク組成物を、表1に示す配合で調製した。
【0108】
表1に記載された成分において、顔料は、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料:クラリアント社製)を用いた。
【0109】
表1に記載の化合物のうち、環状エステルとしては、γ-ブチロラクトン(関東化学株式会社製)を用いた。
【0110】
表1に記載の化合物のうち、第1有機溶剤としては、DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製)、DEGdME(ジエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジメチルエーテル」、東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0111】
表1に記載の化合物のうち、第2有機溶剤としては、DEGBME(ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、商品名「ハイソルブBDM」、東邦化学工業株式会社製)、TetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、商品名「ブチセノール40」、KHネオケム株式会社製)を用いた。
【0112】
表1に記載の化合物のうち、その他の溶剤としては、DEGDEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジエチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点71℃)を用いた。
【0113】
表1中、ソルスパース37500(商品名、LUBRIZOL社製)は、分散剤である。パラペットG-1000P(株式会社クラレ製)は、アクリル樹脂(定着樹脂)である。表1中、BYK340(ビックケミー・ジャパン株式会社製)は、フッ素系界面活性剤(滑剤)である。
【0114】
表1に記載した配合で、各溶剤を各例のインク組成物毎に攪拌して混合溶剤を得た。次に、混合溶剤の一部を取り分け、ソルスパース37500を混合し、その後ピグメントブルー15:3を加えて、ホモジナイザーを用いて予備分散した後に、ビーズミルにて分散をし、顔料の平均粒径130nmの分散体を得た。別途、混合溶剤の一部を取り分け、パラペットG-1000Pを加えて撹拌し、完全に溶解させて樹脂溶液を得た。そして上記分散体に、残っていた混合溶剤と、BYK340と、上記樹脂溶液とを混ぜいれ各実施例および各比較例のインク組成物とした。
【0115】
3.2.評価試験
評価試験は、空調設備と加湿器を利用して、環境試験室の温度および湿度がそれぞれ、30℃,55%RHとなるように調整し、当該環境試験室内に設置したセイコーエプソン株式会社製プリンター「SC-S30650」を用いて行った。なお、温度および湿度は、ヒーター等のインクジェットプリンター自身の発熱の影響を受けない筐体の上に設置した温湿度センサーによって測定した。
【0116】
また、各評価試験では、プラテン及びプラテンより下流の記録媒体排出部にて、記録中及び記録後1分間、記録媒体を45℃で加熱した。
【0117】
3.2.1.印刷ムラ
上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に100%濃度で記録解像度720×720dpiのベタ印刷をした後、60分間、25℃65%RH(相対湿度)にて乾燥させた。その後、目視および光学顕微鏡を用いて印刷面を観察し、印刷ムラの少ないものを6点として、1点まで6水準で評価し、その結果を表1に記載した。
【0118】
3.2.2.光沢
上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV-G-1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度でベタ印刷をした後、25℃65%RH(相対湿度)にて1日間、乾燥させて各例の記録物を作成した。各例のベタ印刷部の20°光沢をMULTI GLOSS 268(コニカミノルタ株式会社製)にて測定し、光沢度が26未満を1点、26以上、28未満を2点とし、光沢度を2毎に刻んで光沢を点数で評価し、その結果を表1に記載した。光沢が優れる場合、特にフィルムなどの光沢性を有する記録媒体において、記録物に記録媒体自身と同様の光沢感を得ることができる利点がある。
【0119】
3.2.3.ドットサイズ
上記プリンターを用いて実施例および比較例の各インク組成物を、塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に記録解像度720×720dpiの30%濃度で1辺3cmの正方形を印刷した後、25℃65%RH(相対湿度)にて60分間乾燥させた。その後、光学顕微鏡を用いて印刷部分のドットサイズを観察してドットの直径を10μm毎に分類した。なお、にじみが大きい場合には、ドット形状が円状になっておらず、測定できなかった。また、にじみが小さくなることで真円に近くなっていたが、ドットサイズ(直径)は小さくなっていた。ドットサイズが20μm以下のものを1点として、20μmを超え30μm以下のものを2点、というように10μm毎にランク分けして、各例の点数を算出し、その結果を表1に記載した。ドットサイズが良好であるということは、インクの記録媒体上での濡れ拡がり性が良いということであり、記録媒体をインクで覆うことができることにより記録物の発色性が良くなるなどの利点がある。
【0120】
3.2.4.耐擦性
上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV-G-1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度で印刷した後、25℃65%RH(相対湿度)にて1日間、乾燥させて各例の記録物を作成した。次に、JIS L 0849に基づいて、I型試験機にて乾式試験を行った。その後、試験綿布のODをスペクトロリーノ(グレタグマクベス社製)にて測定し、0.4以上を1点、0.4より小さく0.35以上のものを2点と、0.05毎に色移りに関して点数を付け、その結果を表1に記載した。
【0121】
3.2.5.表面乾燥性
セイコーエプソン株式会社製プリンター「SC-S30650」を用いて、実施例および比較例の各インク組成物を、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV-G-1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度で印刷し、25℃65%RH(相対湿度)にて5分間乾燥させた。次に、巻き取り装置を用いて巻き取った後の印刷面のスリ痕を観察した。観察はレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、形式VK-8700 Generation2)にて表面粗さを測定することで、スリ痕のある面積の割合を算出した。スリ痕面積が印刷領域の10%以下のものを5点として、20%以下10%より多いものを4点、というように10%毎にランク分けした。6点はスリ痕面積がないものとした。その結果を表1に記載した。
【0122】
3.3.評価結果
以上の評価試験の結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
[図:0001402734000001.jpg]
」
イ 甲1の記載
甲1(韓国公開特許第10-2005-0073024号公報)には、次の記載がある。なお、原文は、外国語なので、その日本語訳として、申立人が提出した抄訳を採用し、括弧を付して付記する。
(ア)「
[図:0001402734000002.jpg]
[図:0001402734000003.jpg]
・・・
[図:0001402734000004.jpg]
[図:0001402734000005.jpg]
」
(日本語訳:
【請求の範囲】
【請求項1】
a)ビニル樹脂、アクリル樹脂、又はこれらの混合物を、1種又は2以上の混合有機溶剤に溶解させる樹脂溶解ステップと、
b)ステップa)で得られた溶液に分散剤と有機顔料を投入し、高速撹拌してウェッティング(wetting)させる1次分散ステップと、
c)ステップb)で得られた分散液を、衝撃式分散機又はビーズミル機で粉砕するステップとを含む、微粒化された顔料分散液の製造方法。
・・・
【請求項8】
ステップb)において用いられる色素として、マゼンタは、C.I.Pigment Red 122、C.I.Pigment Red 57:1、C.I.Pigment Red 185、C.I.Pigment Red 176、C.I.Pigment Red 48:3、C.I.Pigment Red 247、C.I.Pigment Red 170、C.I.Pigment Red 53:1、C.I.Pigment Red 149、C.I.Pigment Red 242、C.I.Pigment Violet 19、C.I.Pigment Red 37から選択して用い、イエローは、C.I.Pigment Yellow 181、C.I.Pigment Yellow 191、C.I.Pigment Yellow 83、C.I.Pigment Yellow 180、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 120、C.I.Pigment Yellow 194、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 139、C.I.Pigment Yellow 17、C.I.Pigment Yellow 155から選択し用い、シアンは、C.I.Pigment Blue 15:1、C.I.Pigment Blue 15:3から選択して用い、ブラックは、Carbon black C.I.Balck 7、Carbon black C.I.Balck 11から選択して用い、オレンジは、C.I.Pigment Orange 13、C.I.Pigment Orange 34、C.I.Pigment Orange 38、C.I.Pigment Orange 72、C.I.Pigment Orange 43、C.I.Pigment Orange 68、C.I.Pigment Orange 74、C.I.Pigment Orange 5から選択して用い、グリーンは、C.I.Pigment Green 7、C.I.Pigment Green 36、C.I.Pigment Green 17から選択して用いることを特徴とする、請求項1に記載の微粒化された顔料分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項により製造された微粒化された顔料分散液1~99重量%と、ケトン類(ketones)、アミド類(amides)、エステル類(esters)、エチレングリコールアルキエーテルアセテート類(ethylene glycol alkyl ether acetates)、ジエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類(diethylene glycol alkyl ether acetates)、トリエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類(triethylene glycol alkyl ether acetates)、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類(propylene glycol alkyl ether acetates)、ジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類(dipropylene glycol alkyl ether acetates)、又はこれらの混合物から選択されるインク希釈剤1~99重量%とをブレンドして製造される油性顔料インク。)
(イ)「
[図:0001402734000006.jpg]
」
(日本語訳:
<実施例26>
1)樹脂溶解ステップ:8,920grの溶剤EBAに、400grのビニル樹脂VYHHを入れ、高速ミキサーにより2,500rpmの速度で60分間撹拌し、樹脂を溶かした。
2)1次分散ステップ:ステップ1)で得られた溶液に、80grの分散剤BYK-162と600grのC.I.Pigment Orange 13を入れ、5,000rpmで90分間混合した。
3)2次分散ステップ:1次分散された液滴を、再び衝撃式ミリング工程により最終粉砕した。
その結果、顔料粒子サイズが最大370nmであり、平均粒度が65nmである顔料分散液が製造され、6ヶ月間放置しても沈殿や凝集が生起しなかった。
<実施例27~32>
顔料を、それぞれC.I.Pigment Orange 34(実施例27)、C.I.Pigment Orange 38(実施例28)、C.I.Pigment Orange 72(実施例29)、C.I.Pigment Orange 43(実施例30)、C.I.Pigment Orange 68(実施例31)、C.I.Pigment Orange 74(実施例32)に変更したこと以外は、実施例26と同様の方法で顔料分散液を製造した。 その結果、顔料粒子サイズが最大300~850nmであり、平均粒度が40~115nmである顔料分散液が製造され、6ヶ月間放置しても沈殿や凝集が生起しなかった。)
(ウ)「
[図:0001402734000007.jpg]
」
(日本語訳:
<実施例35>
油性顔料インクの製造のために、500grの前記<実施例1>の分散液と、478grのEBAと、1grのフッ素系界面活性剤と、1grのシリコーン系消泡剤と、20grのアクリル樹脂とを、高速homomixerにより7,000rpmで2時間撹拌した。
撹拌したインクをAdventec 5C濾紙で濾過して、粘度が3.8cpsであり、表面張力が28である油性顔料インクを製造した。
製造されたインクをインクカートリッジに注入し、MIMAKI JV-3 160で印刷したところ、30m以上の安定した印刷を示した。
前記<実施例2~34>の分散液を同様の方法によりインクを製造し、安定した印刷結果を得ることができた。)
(エ)
「
[図:0001402734000008.jpg]
」
(日本語訳:
【発明が属する技術及びその分野の従来技術】
本発明は顔料分散液の製造方法及びそれから製造される油性型顔料インクに関することで、より詳しくはインクジェットプリンター用油性型顔料インクの製造に使われる顔料分散液の製造方法及び高分子材質に印刷するための油性型顔料インクに関する。)
(2) 甲2発明の認定
ア 甲2の請求項1、5、7には、色材と、環状エステルと、引火点が70℃以下である所定の第1有機溶剤と、引火点が90℃以上の第2有機溶剤とを含有し、水の含有量が3質量%以下であるインクジェット記録用インク組成物や、該インク組成物を記録ヘッドから吐出して、記録媒体に付着させる工程を含むインクジェット記録方法が記載されている(前記(1)ア(ア)参照)。
イ 甲2の段落【0103】には、「本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、低吸収性記録媒体を使用した場合であっても記録された画像や文字の耐擦性や乾燥性が良好となる」ことが記載されており、段落【0105】には、「低吸収性記録媒体としては、塩化ビニル系樹脂を含む記録面を有するものを好ましく用いることができる」ことが記載されている(前記(1)ア(ク)参照)。
ウ 甲2の実施例6で調製されるインク組成物は、色材の顔料としてPB-15:3(ピグメントブルー15:3、銅フタロシアニン顔料)、環状エステルとしてGBL(γ-ブチロラクトン)、第1有機溶剤としてDEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル)、第2有機溶剤としてTetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル)、定着樹脂としてパラペットG-1000P(アクリル樹脂)を含有する一方、実質的に水を含有しない(前記(1)ア(ケ)、特に段落【0108】~【0113】、【表1】参照)。
エ 甲2の実施例6で調製されるインク組成物は、環状エステルの含有量が30.0質量%、定着樹脂の含有量が1.5質量%、第1有機溶剤の含有量が35.0質量%、第2有機溶剤の含有量が24.0質量%である(前記(1)ア(ケ)、特に【表1】参照)。
オ 甲2の実施例では、評価試験に当たり、各実施例で調製されたインク組成物を塩ビバナーシート又は光沢ポリ塩化ビニルシートに印刷している(前記(1)ア(ケ)、特に段落【0117】~【0121】参照)。
カ そうすると、甲2の実施例6から下記の各発明(以下、「甲2発明A」、「甲2発明B」という。)が認定できる。
<甲2発明A>
「色材の顔料であるPB-15:3(ピグメントブルー15:3、銅フタロシアニン顔料)と、環状エステルと、引火点が70℃以下である所定の第1有機溶剤としてDEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル)と、引火点が90℃以上の第2有機溶剤としてTetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル)と、定着樹脂とを含有し、
環状エステルの含有量が30.0質量%であり、
定着樹脂の含有量が1.5質量%であり、
第1有機溶剤の含有量が35.0質量%であり、
第2有機溶剤の含有量が24.0質量%であり、
実質的に水を含有せず、
塩ビバナーシート又は光沢ポリ塩化ビニルシートへの印刷に用いられる、インクジェット記録用インク組成物。」
<甲2発明B>
「甲2発明Aのインクジェット記録用インク組成物を記録ヘッドから吐出して、記録媒体に付着させる工程を含む、インクジェット記録方法。」
(3)甲2発明Aと本件発明1との対比、判断
ア 対比
(ア)
甲2発明Aの「色材の顔料」、「環状エステル」、「定着樹脂」は、それぞれ本件発明1の「顔料」、「環状エステル化合物」、「樹脂」に相当する。
(イ)
甲2発明Aの「DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル)」、「TetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル)」は、いずれも本件発明1の「下記一般式(2)で表される化合物」に相当する。
また、甲2発明Aでは、「第1有機溶剤の含有量が35.0質量%であり」、「第2有機溶剤の含有量が24.0質量%であ」るから、甲2発明Aは、本件発明1の「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全体に対して、14.3質量%以上65.5質量%以下であり」を充足する。
(ウ)
甲2発明Aでは、「環状エステルの含有量が30.0質量%であ」るから、本件発明1の「前記環状エステルの含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、10~30質量%であり」を充足する。
(エ)
甲2発明Aでは、「定着樹脂の含有量が1.5質量%であ」るから、本件発明1の「前記樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、1~10質量%であり」を充足する。
(オ)
甲2発明Aでは、「実質的に水を含有せず」であるから、本件発明1の「水の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、5質量%以下である」、及び、「非水系」を充足する。
(カ)
そうすると、甲2発明Aと本件発明1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、下記一般式(2)で表される化合物の1種以上と、顔料と、樹脂とを含み、
前記環状エステルの含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、10~30質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全体に対して、14.3質量%以上65.5質量%以下であり
前記樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、1~10質量%であり、
水の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、5質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。
R1O-(R2O)m-R3 ・・・(1)
[一般式(2)中、Rl及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、Rl及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」
<相違点1>
インク組成物に含まれている「顔料」が、本件発明1では「C.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」であるのに対し、甲2発明Aでは「PB-15:3(ピグメントブルー15:3、銅フタロシアニン顔料)」である点。
イ 相違点の検討
本件明細書(【0007】)には、本件発明1について、「発明者らは、インクジェットインク組成物の総合的な性能を維持しつつ暖色系色再現領域を広げ、耐候性、発色性、耐擦性を向上させるために、特定の顔料種と溶剤の組み合わせが重要であることを見出し本発明を為すに至った。」と記載されているから、本件発明1の「顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」は、インクジェットインク組成物の総合的な性能を維持しつつ暖色系色再現領域を広げ、耐候性、発色性、耐擦性を向上させるために、特定の溶剤と組み合わせて使用するものである。
これに対し、甲2発明Aの「顔料」について、甲2(前記(1)ア(イ)参照。)には、「本実施形態のインク組成物は、色材を含有する。係る色材としては、従来公知の染料、有機あるいは無機顔料を用いることができる。このうち顔料を用いることが耐候性の点から好ましい。・・・
本実施形態のインク組成物を、マゼンタまたはレッドのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド2、・・・
本実施形態のインク組成物を、オレンジまたはイエローのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43・・・
本実施形態のインク組成物を、グリーンまたはシアンのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントブルー15・・・」と記載されている。
そうすると、甲2には、色材について、従来公知の染料、有機あるいは無機顔料のいずれであってもよいことや、耐候性の点からは顔料が好ましいこと、インクの色はブラック、ホワイト、シアン、ブルー、グリーン、マゼンダ、レッド、イエロー、オレンジ、若しくはこれらの淡色若しくは濃色、若しくはこれらの混色、または光輝色のいずれであってもよいことなどが説明されているだけであって、溶剤及び色材を含むインクジェットインク組成物の総合的な性能を維持しつつ暖色系色再現領域を広げ、耐候性、発色性、耐擦性を向上させるという観点で好ましい色材を選択する指針に関する記載はない。したがって、甲2の段落【0031】(上記(1)ア参照。)に列挙された暖色系の色材の中から「C.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」を選択することに動機付けがあるいうことはできない。
また、甲1にも、上記(1)イに摘記した事項が記載されているだけであって、甲2発明Aにおいて、インクジェットインク組成物の総合的な性能を維持しつつ暖色系色再現領域を広げ、耐候性、発色性、耐擦性を向上させるという観点で、その「PB-15:3(ピグメントブルー15:3、銅フタロシアニン顔料)」を変更することを着想するとともに、そのような、色材として「C.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」を選択することを動機付けるような記載はない。
以上によれば、甲2発明Aの「PB-15:3(ピグメントブルー15:3、銅フタロシアニン顔料)」を、「C.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」に変更することを当業者が容易になし得たとはいえない。
加えて、本件発明1は、優れた耐候性、耐擦性、発色性を示すという効果を奏するものである(本件特許明細書の【0114】)。
ウ 判断
上記イのとおりであるから、本件発明1は、甲2発明Aと甲2及び甲1の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2、4~7は、本件発明1を引用しさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲2発明Aと甲2及び甲1の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 取消理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1で本件発明1~7の特許を取り消すべきものとすることはできない。
3 取消理由2について
(1) 取消理由2の概要
取消理由2の概要は、本件特許明細書の段落【0008】の記載に基づき、本件発明の課題は、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成でき、さらに、耐擦性と発色性が優れたインクジェットインク組成物、インクセット、インクジェット記録方法を提供することと認められるが、耐候性、耐擦性、発色性の全てにおいてバランスよく優れ、前記課題を解決するインクジェットインク組成物であることが具体的かつ実際に裏付けられているのは、「溶剤として・・・下記一般式(2)で表される化合物の1種以上」の含有量が14.3~65.5質量%の場合のみといえるから、「溶剤として・・・下記一般式(2)で表される化合物の1種以上」の含有量が何ら特定されていない本件発明1、2、4~7の範囲、あるいは、この範囲を超える範囲を含む本件発明3の「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下である」範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとはいえず、したがって、本件発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。
(2) 検討
上記第2のとおり、本件訂正が認められた結果、本件発明は、一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全体に対して、14.3質量%以上65.5質量%以下であるもののみとなった。
そうすると、さらに検討するまでもなく、取消理由2で本件発明1~7の特許を取り消すべきものとすることはできない。
4 取消理由3について
(1) 取消理由3の概要
取消理由3の概要は、本件発明3の「非水系インクジェットインク組成物」は、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下である」が、本件発明3は本件発明1を直接又は間接的に引用しているので、「一般式(2)で表される化合物の合計含有量」が上限の90質量%である場合、「一般式(2)で表される化合物」、「環状エステル」、「樹脂」の合計含有量だけで、インクジェットインク組成物の全量に対して、少なくとも90+10+1=101質量%となってしまう場合があるから、「一般式(2)で表される化合物の合計含有量」の上限が「90質量%」であることは、技術的に正しくない。
したがって、本件発明3は、発明特定事項の内容に技術的な欠陥があるため、発明が不明確である。
また、本件発明3を直接又は間接的に引用する本件発明4~7も、同様の理由により不明確である、というものである。
(2) 検討
上記第2のとおり、本件訂正が認められた結果、本件発明3は削除された。
また、本件発明4~7は、本件発明1を直接、又は間接的に引用するものであるところ、上記第2のとおり、本件発明1は、一般式(2)で表される化合物の合計含有量の上限が、65.5質量%である。そうすると、本件発明4~7も、「一般式(2)で表される化合物」、「環状エステル」、「樹脂」の合計含有量だけで、インクジェットインク組成物の全量に対して、100質量%を超えてしまうという技術的な不備はない。
したがって、取消理由3で本件発明3~7の特許を取り消すべきものとすることはできない。
第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由について
1 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由の概要
取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由は、以下の申立理由1、2である。
申立理由1(進歩性)
本件発明1~7は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
申立理由2(サポート要件)
本件発明1~7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
2 申立理由1について
(1) 申立理由1の概要
申立理由1は、韓国公開特許第10-2005-0073024号公報(甲1)を主として引用する刊行物等とするものであり、これと、甲2、及び、甲3(特開2012-162002号公報)、甲4(特開2013-104009号公報)、甲5(特開2014-132050号公報)、甲6(特開2009-242649号公報)、及び、甲7(特開2009-227812号公報)を引用するものである。
また、本件特許発明1について、甲1の実施例35において実施例30の分散液を使用して製造された油性顔料インクに基づいて認定した発明(以下、申立人に倣って「甲1インク30」ともいう。)と本件特許発明1は、「甲1インク30は、所定量の環状エステル化合物を含まない点」、及び、甲1インク30は、本件特許発明1における一般式(2)で表される化合物を含まない点で相違するが、甲1発明と技術分野を一にする甲第1~6号証に記載されるようにインクジェットインク組成物中に10~30質量%の環状エステルを含有させることは周知であり、その作用・効果も格別優れたものであるとも言えないし、甲1発明と技術分野を一にする甲第2~甲第6号証に記載されるようにインクジェットインク組成物中に化合物(2)に相当する化合物を含有させることは周知であり、格別優れた作用・効果も見いだせないから、甲1インク30に甲第2号証~甲第6号証の記載事項を適用し、甲1インク30に10~30質量%の環状エステル及び化合物(2)を含有させることは、当業者であれば容易に想到し得る、というものである(特に、特許異議申立書67~70頁「ウ(ア)」の項)。
(2) 検討
ア 甲1には、上記第4の2(1)イに摘記した事項が記載されている。なお、申立人は、甲1インク30(引用発明:甲1の実施例35において実施例30の分散液を使用して製造された油性顔料インク)を具体的に示していないので、以下のとおりに認定する。
<甲1インク30>
「500grの実施例30の分散液と、
478grのEBAと、
1grのフッ素系界面活性剤と、
1grのシリコーン系消泡剤と、
20grのアクリル樹脂とを、
高速homomixerにより7,000rpmで2時間撹拌し、Adventec 5C濾紙で濾過して、得た油性顔料インクであって、
実施例30の分散液は、
8,920grの溶剤EBAに、400grのビニル樹脂VYHHを入れ、高速ミキサーにより2,500rpmの速度で60分間撹拌して、樹脂を溶かした後、
80grの分散剤BYK-162と600grのC.I.Pigment Orange 43を入れ、5,000rpmで90分間混合し、
さらに衝撃式ミリング工程により最終粉砕して得た分散液である、
インクジェットプリンタ用油性顔料インク」
イ 本件発明1と甲1インク30を対比すると、甲1インク30の「C.I.Pigment Orange 43」、「ビニル樹脂VYHH」、「EBA」は、本件発明1の「顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」、「樹脂」、「溶剤」に相当する。
また、甲1インク30の「インクジェットプリンタ用油性顔料インク」は、溶剤として水を使用していないことを勘案すると、「水の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、5質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物」を充足する。
したがって、本件発明1と甲1インク30の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。
<一致点>
「溶剤と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、樹脂とを含む、水の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、5質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。」
<相違点2>
溶剤の種類について、本件発明1は、「環状エステル化合物の少なくとも1種と、下記一般式(2)で表される化合物の1種以上
R1O-(R2O)m-R3 ・・・(1)
[一般式(2)中、Rl及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、Rl及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」を含むと特定されているのに対し、甲1インク30は、「EBA」あるいは「溶剤EBA」である点
<相違点3>
溶剤の含有割合について、本件発明1は、「前記環状エステルの含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、10~30質量%であり」、及び、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全体に対して、14.3質量%以上65.5質量%以下であり」、と特定されているのに対し、甲1インク30は、そのような特定を備えていない点
ウ 相違点2と3をまとめて検討する。
一般に、インク組成物に用いる溶剤の種類と含有割合は、用いる顔料の分散性や樹脂の溶解性、印刷後の乾燥性など様々な特性を考慮して選定されるものであって、周知のものを何でも用いることができる(互換性がある)というようなものではない。また、甲1インク30においてどのような特性を考慮して溶剤としてEBAを選択したのかは不明であるし、甲1には、EBAに代えて使用することができる溶剤の種類や含有割合などに関する選定指針なども記載されていないし、甲第2~6号証にも甲1インク30において溶剤として使用しているEBAに代えて用いることができる溶剤に関しては記載も示唆もない。
そうすると、仮に、当業者が甲1インク30において溶剤を変更することを着想し得たとしても、何の指針もなく、周知の膨大な種類の溶剤の中から、1種類あるいは2種類以上を選択した上で、その含有割合を様々に変更しながら、所望の特性が得られるものを探すという試行錯誤を繰り返す以外に方法がないといえる。
したがって、当業者といえども、甲1インク30において、溶剤の種類を、「環状エステル化合物の少なくとも1種と、下記一般式(2)(式とその説明の記載を省略)で表される化合物の1種以上を含むものに変更するとともに、その含有割合について、「前記環状エステルの含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、10~30質量%であり」、及び、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全体に対して、14.3質量%以上65.5質量%以下であり」、と変更することを容易になし得たとはいえない。
加えて、本件発明1は、優れた耐候性、耐擦性、発色性を示すという効果を奏するものである(本件特許明細書の【0114】)。
エ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1インク30と甲第1~6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2、4~7は、本件発明1を引用しさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲1インク30と甲第1~6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
以上のとおりであるから、申立理由1で本件発明1、2、4~7の特許を取り消すべきものとすることはできない。
3 申立理由2について
(1) 申立理由2の概要
申立理由2の概要は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の段落【0008】の記載に基づき、本件発明の課題は、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成でき、さらに、耐擦性と発色性が優れたインクジェットインク組成物、インクセット、インクジェット記録方法を提供することと認められるが、下記ア~ウの点で、本件特許発明の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
ア インク組成物中に含有されるPO-43の含有量は、本件特許の課題の一部である耐候性と暖色系の色再現領域に影響すると推定されるところ、実施例にはインク組成物中のPO-43が4質量%含有されている例しか記載されていないから、インク組成物中のPO-43の含有量が4質量%以外の場合においても本件特許の課題が解決できることが示されていない(特許異議申立書74~75頁の「(ア)」の項。以下、「申立理由2-1」ともいう。)。
イ インク組成物中に環状エステル化合物が含有されることが、本件特許の課題である耐擦性や耐候性に大きく影響することが明示されている(【0026】)ところ、実施例には環状エステル化合物としてγ-ブチロラクトンとσ-バレロラクトンしか使用されていないから、環状エステル化合物としてγ-ブチロラクトンとσ-バレロラクトン以外を使用する場合においても本件特許の課題が解決できることが示されていない(特許異議申立書75~76頁の「(イ)」の項。以下、「申立理由2-2」ともいう。)。
ウ インク組成物に含まれる溶剤の種類に応じた(定着)樹脂の種類は、本件特許の課題の一部である耐擦性に影響すると推定されるところ、実施例には、定着樹脂として塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(ソルバインCL)と(メタ)アクリル樹脂(パラロイドB60)しか使用されておらず、これら以外を使用する場合においても本件特許の課題が解決できることが示されていない(特許異議申立書76頁の「(ウ)」の項。以下、「申立理由2-3」ともいう。)。
(2) 検討
ア 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の記載がある。(下線は当審が付した。)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非水系インクジェットインク組成物を、サイン用途に使用する場合には、記録物の耐候性が不十分となる場合があった。すなわち、サイン用途の記録物は、雨や日光等にさらされる屋外環境で使用されることが多く、屋内での使用よりも高い耐候性が求められている。発明者らによると、インクのうちでも、オレンジ色系の顔料を含むインクを使用することで暖色系の色再現領域を広げようとする際に、耐候性にも優れたインクとすることが重要であること、暖色系の色再現領域の特に広いインクとすることが重要であることがわかってきた。また、インクの発色性がよいことも色再現領域を広げる機能を十分発揮するために重要であることが分かってきた。
【0006】
インクジェットインク組成物の耐候性を向上させるための手段の一つとしては、耐候性の高い色材を用いることが考えられる。しかし、インクジェット記録においては、インク組成物、記録装置、記録媒体などの複数の構成のそれぞれに対して多くの性能が要求され、その上、各構成間の高度なバランスが要求される。そのため、単に色材に耐候性の高いものを選択するだけでは、インクジェットインク組成物の他の性能が不十分となることが懸念される。さらに、記録物の耐擦性を優れたものとするために、非水系インク組成物に溶剤として環状エステル化合物や特定のアミド系化合物などを含有させた場合、インクの発色性が劣ってしまう課題があった。
【0007】
発明者らは、インクジェットインク組成物の総合的な性能を維持しつつ暖色系色再現領域を広げ、耐候性、発色性、耐擦性を向上させるために、特定の顔料種と溶剤の組み合わせが重要であることを見出し本発明を為すに至った。
【0008】
すなわち、本発明の幾つかの態様に係る目的の1つは、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供することにある。また、さらに、耐擦性と発色性が優れたインクジェットインク組成物を提供することにある。また上記特性の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供することにある。【0026】
1.1.1.環状エステル化合物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、溶剤として環状エステル(環状ラクトン)を含有することが好ましい。インクジェットインク組成物は、環状エステル(環状エステル化合物)が含有されることにより、記録媒体の記録面(好ましくは塩化ビニル系樹脂を含む記録面)の一部を溶解して記録媒体の内部にインクジェットインク組成物を浸透させることができる。このように記録媒体の内部にインク組成物が浸透することで、記録媒体上に記録した画像の耐擦性(摩擦堅牢性)を向上させることができる。換言すると、環状エステルは、塩化ビニル系樹脂との親和性が高いため、インクジェットインク組成物の成分を記録面に浸潤させやすい(食い付かせやすい)。環状エステルがこのような作用を有する結果、これを配合したインクジェットインク組成物が、屋外環境等の厳しい条件下であっても、耐擦性に優れた画像を形成できるものと考えられる。また、インク組成物中に含む定着樹脂などの固形分成分の溶解性にも優れるため、インクの長期保管中や使用中のインク中の樹脂の析出を防止してインクジェットヘッドからインクを吐出する際の吐出不良の原因となることが無いことや、記録物表面に付着した顔料を樹脂により均一に覆うことができ記録物の耐候性が一層優れ傾向があり好ましい。反面、上記環状エステルは、記録媒体内部へのインクの浸透を促進するため、記録媒体の表面の横方向へインクが広がることを抑制し、このため記録物におけるインク組成物の発色性を妨げる傾向がある。
」
「【0052】
1.2.顔料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)を含むことが好ましい。C.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)を含むことで、記録物が、屋外での使用にも好適な優れた耐候性と暖色系の広い色再現範囲が得られる。
【0053】
PO-43は、CAS登録番号4424-06-0の顔料であり、化学名は、ビスベンゾイミダゾ[2,1-b:2’,1’-i]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリン-8,17-ジオン、又は、1,8-(1H-ベンゾイミダゾール-2,1-ジイルカルボニル)-5,4-(1H-ベンゾイミダゾール-2,1-ジイルカルボニル)ナフタレンである。PO-43は、ペノリン構造を有し、一般名として「ペノリンオレンジ」が与えられている。PO-43の色相としては、鮮やかな赤味のオレンジである。なお、「C.I.は、カラーインデックスの略である。非水系インクジェットインク組成物がC.I.ピグメントオレンジ-43(ピグメントオレンジ-43、PO-43)を含むことで、暖色系の色再現領域を広げることができ、かつ、耐候性、発色性にも優れる記録物の記録が可能となる。発色性が優れることは、所定の濃度の印刷を行う際に要する記録媒体へのインクの付着量を少なくできる点で有利である。インクの付着量が少ないことは、乾燥を早めて、凝集ムラ低減などにより画質を向上する点で有利であり、印刷コスト低減の点でも有利である。
・・・
【0059】
1.3.定着樹脂
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は定着樹脂を含有することが好ましい。定着樹脂は顔料などのインクに含む固形分を記録媒体に保護、接着し耐擦性を高める樹脂である。使用し得る定着樹脂としては塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂などがある。定着樹脂は、インクに含む溶剤が前記溶剤群Aの溶剤である場合、良好に溶解されインクに溶解させることができる。その結果、定着樹脂により記録媒体の表面にインクを強固に定着させることができ記録物の耐擦性に優れ、また、インクに溶解しきらずに異物となりインクジェット吐出時の吐出安定性を低下させることがない。定着樹脂の中でも、塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂は、溶剤、特に溶剤群Aへの溶解性が特に優れ、耐擦性に特に優れ好ましい。」
イ 発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、段落【0008】の記載に基づき、「暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供すること」であると認められる。
ウ 検討
本件明細書の段落【0052】には「本実施形態のインクジェットインク組成物は、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)を含むことが好ましい。C.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)を含むことで、記録物が、屋外での使用にも好適な優れた耐候性と暖色系の広い色再現範囲が得られる。」と記載され、段落【0053】には「非水系インクジェットインク組成物がC.I.ピグメントオレンジ-43(ピグメントオレンジ-43、PO-43)を含むことで、暖色系の色再現領域を広げることができ、かつ、耐候性、発色性にも優れる記録物の記録が可能となる。」と記載されている。これらの記載によれば、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43を含有すればその含有割合によらず、C.I.ピグメントオレンジ-43以外の顔料を使用する場合に比べて、耐候性に優れ暖色系の色再現領域が広いインクジェットインク組成物が得られることが理解できるから、本件明細書の記載に基づいてインク組成物中のPO-43の含有量が4質量%以外の場合においても、課題が解決できることが読み取れる。
また、本件明細書の段落【0026】には、「インクジェットインク組成物は、環状エステル(環状エステル化合物)が含有されることにより、記録媒体の記録面(好ましくは塩化ビニル系樹脂を含む記録面)の一部を溶解して記録媒体の内部にインクジェットインク組成物を浸透させることができる。このように記録媒体の内部にインク組成物が浸透することで、記録媒体上に記録した画像の耐擦性(摩擦堅牢性)を向上させることができる。」と記載されている。この記載によれば、環状エステルを含有すればその種類によらず、耐擦性(摩擦堅牢性)を向上させることができると理解できるから、本件明細書の記載に基づいて、環状エステル化合物としてγ-ブチロラクトンとσ-バレロラクトン以外を使用する場合においても、課題が解決できることが読み取れる。
また、本件明細書の段落【0059】には、「本実施形態に係るインクジェットインク組成物は定着樹脂を含有することが好ましい。定着樹脂は顔料などのインクに含む固形分を記録媒体に保護、接着し耐擦性を高める樹脂である。使用し得る定着樹脂としては塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂などがある。定着樹脂は、インクに含む溶剤が前記溶剤群Aの溶剤である場合、良好に溶解されインクに溶解させることができる。その結果、定着樹脂により記録媒体の表面にインクを強固に定着させることができ記録物の耐擦性に優れ、また、インクに溶解しきらずに異物となりインクジェット吐出時の吐出安定性を低下させることがない。」と記載されている。この記載によれば、一般的に定着樹脂として用いられている「塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂など」が、いずれも使用しうるとされていることが理解できるから、定着樹脂を含有していれば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(ソルバインCL)と(メタ)アクリル樹脂(パラロイドB60)以外の定着樹脂を使用する場合においても、課題が解決できることが読み取れる。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、その課題を解決することができるものであるといえる。
エ 申立人主張について
申立人の主張は、いずれも、本件発明に含まれている態様の中には、実施例よりもその効果が劣るものが含まれている可能性があることを漠然と指摘しているだけであって、本件発明に含まれている具体的な態様について課題を解決できないことを具体的に示したものが1例もない。
また、それぞれの態様が、課題を解決することができるものであるか否かは、課題と対比して(例えば、当該態様における効果と、課題を解決できているといえる効果のレベルとを対比して)判断すべきものであって、実施例の効果のレベルと対比してその効果が劣るとしても、課題を解決することができるか否かを判断することはできない。したがって、申立人の主張は採用できない。
そうすると、申立人の主張は、いずれも採用できない。
(3) 申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2-1~申立理由2-3で本件発明1、2、4~7の特許を取り消すべきものとすることはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3に係る特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700445