特許異議申立
2022-700397
蓄電デバイス用外装材
- 審判番号
- 2022-700397
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-042788
- 登録番号
- 6961958
- 請求日
- 2022年05月06日
- 審決日
- 2023年01月18日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】福山 尚志
- 【異議申立人】小島 早奈実
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 清水 稔
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6961958号発明「蓄電デバイス用外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6961958号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第6961958号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6961958号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年3月7日に出願され、令和3年10月18日にその特許権の設定登録がされ、令和3年11月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年5月6日に特許異議申立人小島早奈美により特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年7月12日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和4年9月20日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人小島早奈美は、令和4年11月17日に意見書を提出した。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「前記基材層がポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂層から成り、」とあるのを、「前記基材層が、ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂層から成り、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)
なお、訂正前の請求項1、2は、請求項2が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1、2について請求されている。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1に「前記基材層がポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂層から成り、」とあるのを、「前記基材層が、ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂層から成り、」に限定するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
さらに、訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0023】の「基材層11はポリエステル系樹脂とその他の樹脂との混合物で構成されていてもよいが、十分な耐薬品性を得るため、ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有することが望ましい。」との記載から導き出される構成であるから、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
基材層と金属箔層とを接着層によって接着積層した積層構造をその一部に有する蓄電デバイス用外装材において、
前記基材層が、ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂層から成り、
前記接着層がポリエステルポリオールとイソシアネート化合物とを反応硬化させたウレタン系接着剤から成ると共に、前記イソシアネート化合物がイソホロンジイソシアネート又はヘキサメチレンジイソシアネートから成ることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。
【請求項2】
前記ポリオールの水酸基のモル数[A]に対する前記ポリイソシアネート化合物の反応性基のモル数[B]の比([B]/[A])が2~10であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用外装材。」
4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和4年7月12日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
・請求項1、2に係る発明について
・甲第1号証:特開2013-157285号公報」
(2)甲第1号証の記載、引用発明1について
ア 甲第1号証に記載された事項について
甲第1号証(特開2013-157285号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、蓄電デバイス用外装材に関する。」
「【0008】
本発明の蓄電デバイス用外装材は、基材層の一方の面側に、少なくとも第1接着層、金属箔層、腐食防止処理層、第2接着層及びシーラント層が順次積層され、少なくとも前記第1接着層が、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリール及びアクリルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の蓄電デバイス用外装材では、脂肪族系イソシアネート硬化剤は、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄電デバイス用外装材は、優れた電解液耐性を有しており、外装材の側端面に電解液が付着しても層間剥離等の不具合が生じ難い。」
「【0012】
以下、本発明の蓄電デバイス用外装材の一例を図1に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の蓄電デバイス用外装材の一例である本発明の蓄電デバイス用外装材1(以下、「外装材1」という。)を外層側から内層側に切断したときの断面図である。
本実施形態の外装材1は、図1に示すように、基材層11の一方の面側に、第1接着層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、第2接着層15及びシーラント層16が順次積層された積層体である。外装材1は、基材層11が最外層、シーラント層16が最内層となるように使用される。
外装材1は、少なくとも第1接着層12が、後述する特定のポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成さていることを特徴とする。第2接着層15がドライラミネート構成の接着層の場合は、第1接着層12と第2接着層15の両方が後述する特定のポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成さていることが好ましい。」
【図1】
[図:0001396275000001.jpg]
「【0013】
<第1接着層>
第1接着層12は、基材層11と金属箔層13の間に配置される層であり、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール及びアクリルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオール(以下、「ポリオール(a)」という。)と、脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成される樹脂(以下、「ウレタン樹脂(A)」という。)により形成される層である。外装材1は、第1接着層12がウレタン樹脂(A)で形成されていることで優れた電解液耐性が付与され、側端面に電解液が付着しても基材層11が剥がれることが抑制される。
【0014】
水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール(以下、「ポリエステルポリオール(a1)という。」は、繰り返し単位の末端の水酸基に加えて、側鎖にも水酸基を有するポリエステルポリオールである。」
「【0019】
脂肪族系イソシアネート硬化剤としては、電解液耐性が向上することから、1 ,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましい。また、自己修復性能に優れることに加え、水酸基との反応性はイソホロンジイソシアネートよりも1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの方が高いため、量産適性を踏まえると、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートが特に好ましい。
【0020】
第1接着層12を形成するポリオール(a)が有する水酸基に対する脂肪族系イソシアネート硬化剤が有するイソシアネート基のモル比(NCOインデックス:NCO/OH)は、0.5~50が好ましく、1~20がより好ましい。NCOインデックスが下限値以上であれば、電解液耐性が向上する。NCOインデックスが上限値以下であれば、基材との密着性を確保しやすい。」
「【0022】
<基材層>
基材層11は、蓄電デバイスを製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、成型加工や流通の際に起こり得るピンホールの発生を抑制する役割を果たす。特に大型用途のリチウムイオン電池の外装材の場合等は、耐擦傷性、耐薬品性、絶縁性等も付与できる。
基材層11としては、絶縁性を有する樹脂により形成された樹脂フィルムが好ましい。該樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸又は未延伸フィルム等が挙げられる。基材層11は、これらの樹脂フィルムの単層フィルムであってもよく、これらの樹脂フィルムを2種以上使用した積層フィルムであってもよい。
【0023】
ポリアミドフィルムを形成するポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等が挙げられる。
ポリエステルフィルムを形成するポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
基材層11としては、前記したもののなかでも、成型性がより良好になることから、ポリアミドフィルムが好ましい。」
「【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
<使用材料>
本実施例で使用した材料を以下に示す。
[基材層11]
フィルムA-1:厚さ25μmのナイロン6フィルム。
【0052】
[第1接着層12]
ポリオールB-1:DIC社製のアクリディック(アクリルポリオール(a2))。
ポリオールB-2:Bayer社製のデスモフェン(多分岐状ポリエステルポリオール、ポリエステルポリオール(a1))。
ポリオールB-3:三井化学社製のアクトコール(ポリエーテルポリオール)。
硬化剤C-1:脂肪族系イソシアネート硬化剤である1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート。
硬化剤C-2:芳香族系イソシアネート硬化剤であるトリレンジイソシアネート。
上記ポリオールと硬化剤をNCOインデックスが1~4となる範囲で混合した。
【0053】
[金属箔層13]
金属箔D-1:軟質アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム社製、厚さ40μm)。」
「【0059】
<実施例1~2及び比較例1~4>
前記作成方法により、表1に示す構成の外装材を作成した。電解液耐性の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
[図:0001396275000002.jpg]
【0061】
表1に示すように、ポリオールとして、アクリルポリオール(a2)もしくはポリエステルポリオール(a1)を用い、硬化剤として脂肪族系イソシアネート硬化剤を用いて第1接着層を形成した実施例1、2の外装材は、優れた電解液耐性を有していた。一方、ポリオールとしてポリエーテルポリオールを用いるか、硬化剤として芳香族系のイソシアネートを用いた比較例1~4の外装材は、充分な電解液耐性が得られなかった。」
イ 甲第1号証に記載された技術事項について
(ア)甲第1号証の段落【0001】より、甲第1号証は、「蓄電デバイス用外装材」に関するものであることがわかる。
(イ)甲第1号証の段落【0012】、【0013】より、「外装材1は」、「基材層11の一方の面側に、第1接着層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、第2接着層15及びシーラント層16が順次積層された積層体であ」り、「第1接着層12」が、「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール」と「脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成される樹脂(以下、「ウレタン樹脂(A)」という。)により形成される層である」との技術的事項を読み取ることができる。
(ウ)甲第1号証の段落【0060】の表1によると、実施例2には、段落【0051】より、「[基材層11]」として「ナイロン6フィルム」を用い、段落【0052】より、「[第1接着層12]」として「多分岐状ポリエステルポリオール、ポリエステルポリオール」と、「脂肪族系イソシアネート硬化剤である1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート」で形成される樹脂により形成される層を用いた外装材が記載されている。
(エ)甲第1号証の段落【0022】には、「<基材層>」について「基材層11としては」、「ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸又は未延伸フィルム等が挙げられる。」ことが記載されている。
ウ 甲第1号証に記載された発明について
甲第1号証に記載された実施例のうち、本件発明1に最も関連する「実施例2」に着目すると、上記イ(ア)ないし(ウ)より、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「蓄電デバイス用外装材であって、
外装材1は、基材層11の一方の面側に、第1接着層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、第2接着層15及びシーラント層16が順次積層された積層体であり、基材層11としてナイロン6フィルムを用い、第1接着層12が、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成される樹脂(以下、「ウレタン樹脂(A)」という。)により形成される層であって、多分岐状ポリエステルポリオール、ポリエステルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤である1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートで形成される樹脂を用いた、
蓄電デバイス用外装材。」
(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1における「基材層11」、「第1接着層12」、「金属箔層13」は、それぞれ本件発明1における「基材層」、「接着層」、「金属箔層」に相当し、引用発明1における「蓄電デバイス用外装材」は、「基材層11の一方の面側に、第1接着層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、第2接着層15及びシーラント層16が順次積層された積層体」であるから、本件発明1における「基材層と金属箔層とを接着層によって接着積層した積層構造をその一部に有する蓄電デバイス用外装材」に相当する。
b 引用発明1における「基材層11」が「ナイロン6フィルム」を用いていることから、本件発明1と引用発明1とは、「前記基材層が樹脂層から成」っている点で一致する。
しかしながら、「基材層」の樹脂が、本件発明1では「ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂」であるの対し、引用発明1では、「ナイロン6フィルム」(甲第1号証第【0023】に記載のとおり、ポリアミドフィルム)である点で相違する。
c 引用発明1における「第1接着層12」が、「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール」と「脂肪族系イソシアネート硬化剤」である「1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートで形成される」「ウレタン樹脂(A)」により形成されることが、本件発明1における「前記接着層がポリエステルポリオールとイソシアネート化合物とを反応硬化させたウレタン系接着剤から成ると共に、前記イソシアネート化合物がイソホロンジイソシアネート又はヘキサメチレンジイソシアネートから成ること」に相当する。
上記aないしcより、本件発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有するものと認められる。
(一致点)
「基材層と金属箔層とを接着層によって接着積層した積層構造をその一部に有する蓄電デバイス用外装材において、
前記基材層が樹脂層から成り、
前記接着層がポリエステルポリオールとイソシアネート化合物とを反応硬化させたウレタン系接着剤から成ると共に、前記イソシアネート化合物がイソホロンジイソシアネート又はヘキサメチレンジイソシアネートから成ることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。」
(相違点)
「基材層」の樹脂が、本件発明1では「ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂」であるの対し、引用発明1では、ポリアミドフィルムである「ナイロン6フィルム」である点。
(イ)判断
そこで上記相違点について検討すると、甲第1号証の段落【0022】には、「基材層11として」、「ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸又は未延伸フィルム等が挙げられ」、「基材層11は、これらの樹脂フィルムの単層フィルムであってもよ」い旨記載されているものの、ポリエステルフィルムを、ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成する点については、何ら記載されていない。
また、仮に、引用発明1における基材層11の樹脂を、複数の樹脂の混合物で構成することを当業者が想到し得たとしても、その場合には、甲第1号証の段落【0023】に「基材層11としては、前記したもののなかでも、成型性がより良好になることから、ポリアミドフィルムが好ましい。」との記載に基づいて、当業者は、基材層11の樹脂の主成分、つまり50質量%以上の樹脂を、ポリエステルではなく、ポリアミドから構成しようと考えるのが自然である。
よって、本件発明1は、当業者であっても、引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
本件発明2に係る請求項2は、請求項1を引用して記載されたものであるから、本件発明2は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものではない。
5 異議申立人の主張について
(1)異議申立人の主張
特許異議申立人は、意見書において、本件訂正請求により「前記基材層が、ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂層から成り」と訂正されたことに伴って、次の取消理由が生じたと主張している。
ア 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例では、「基材層11としてはポリエステルフィルム(東洋紡社製,厚さ25μm)を用いた。」(【0071】)」とされているから、請求項1に記載された「前記基材層が、ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂層から成」る構成に該当する実施例とはいえず、したがって、請求項1に記載された樹脂が、本件発明の課題を解決できるか明らかでない。
イ 進歩性について
(ア)異議申立人は、異議申立書とともに提出した甲第2号証(特開2015-142995号公報)に、
「【0045】
耐熱性樹脂層(2)表面の動摩擦係数を下げる手段としては、耐熱性樹脂層(2)を滑剤および/または固体微粒子を含有する樹脂組成物で形成する方法がある。・・・(途中省略)・・・
【0046】
前記滑剤としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリル酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等の脂肪酸アミドを推奨できる。・・・(途中省略)・・・・
【0047】
前記固体微粒子は、耐熱性樹脂層(2)の表面に微細な凹凸を形成することによって滑り性を高めて動摩擦係数を下げる効果がある。前記固体微粒子としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、シリカを推奨できる。」
と記載されているから、引用発明1において、甲第2号証に記載された滑剤および/または固体微粒子を含有させれば、本件発明1における樹脂の組成を満足することになる旨主張している。
(イ)また、異議申立人は、意見書とともに提出した甲第3号証(国際公開第2016/158797号)の段落[0025]、[0026]及び[0215] の記載より、基材層を構成する樹脂として「ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂」を用いることは周知技術であるから、甲第1号証に記載の発明と該周知技術とを組み合わせて本件発明1の構成を得ることは当業者が容易に想到できたものである旨主張している。
(2)当審の判断
ア 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
本件明細書の段落【0023】には、「基材層11はポリエステル系樹脂とその他の樹脂との混合物で構成されていてもよいが、十分な耐薬品性を得るため、ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有することが望ましい。なお、この基材層11に混合できるその他の樹脂としては、ポリアミド系樹脂等が例示できる。」と記載されていることから、基材層11がポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂で構成されていれば、樹脂が前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物であったとしても、「十分な耐薬品性を得る」ことができ、ポリアミド系樹脂を主成分として構成した場合に比べて「酸性の電解液やアルコールに対する耐性が高」い(本件明細書の段落【0018】参照)ことを当業者は容易に理解することができる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明に「ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂」を用いた実施例が記載されていないからといって、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載された課題を解決できないということにはならない。
イ 進歩性について
(ア)甲第2号証の【0046】に例示された滑剤は「脂肪酸アミド」であって、樹脂(高分子化合物)ではない。
また、異議申立人は、引用発明1において甲第2号証に記載されたように固体微粒子を含有させれば本件発明1における樹脂の組成を満足することになる旨主張するが、甲第1号証には、固体微粒子を含有させる必要性について何ら記載されていないのであるから、本件発明1の容易想到性を論理付けるものではない。
(イ)甲第3号証の段落[0025]の記載は、樹脂名の列挙に続けて「これらの混合物や共重合物等が挙げられる」との例文が記載されているに過ぎず、「ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物」を明示的に記載したものではない。
また、甲第3号証の段落[0026]には、「ポリエステル」の一般的な性質が記載されているに過ぎない。
さらに、甲第3号証の段落[0215]における「主剤がポリエステル樹脂」とある記載は、接着剤の主剤がポリエステル樹脂であることを意味しているのであって、「基材層」については、「ポリエチレンテレフタレート(PET、厚み9μm)」を用いることが記載されているに過ぎず、甲第3号証には、「基材層」に「ポリエステル系樹脂と前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂との混合物で構成され、かつ、前記ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有する樹脂」を用いることは何ら記載されていない。
よって、甲第3号証には、異議申立人の主張するような周知技術は記載されていない。
ウ まとめ
以上のとおり、異議申立人の主張は採用できない。
6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は、本件訂正前の本件発明1、2は甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明である旨主張していたので、この主張について検討する。
なお、甲第1号証に記載された発明と本件訂正後の本件発明1、2は、前記4(3)ア(ア)で述べた(相違点)の点で実質的に相違するから、本件訂正前の本件発明1、2が甲第1号証に記載された発明であるとの異議申立人の主張についての検討は割愛する。
(1)甲第2号証に記載された事項について
甲第2号証には、次の記載がある。
ア 「【0042】
[成形用包装材の構成材料]
以下に成形用包装材を構成する各層の材料について詳述する。
【0043】
(耐熱性樹脂層)
外側層である耐熱性樹脂層(2)としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。中でも、前記耐熱性樹脂層(2)としては、成形性および強度の点で、二軸延伸ポリアミドィルムまたは二軸延伸ポリエステルフィルム、あるいはこれらを含む複層フィルムが特に好ましく、さらに二軸延伸ポリアミドィルムと二軸延伸ポリエステルフィルムとが張り合わされた複層フィルムを用いることが好ましい。前記ポリアミドフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。また、二軸延伸ポリエステルフィルムとしては、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等が挙げられる。」
イ 「【0067】
前記水添加接着剤(ポリエステル樹脂と、多官能イソシアネート化合物と、溶剤と、水とを含む二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂接着剤)を構成するポリエステル樹脂(主剤)としては、ジカルボン酸およびジアルコールを原料とする共重合体(ポリエステルポリオール)等が挙げられる。本発明では、原料のジカルボン酸およびジアルコールの種類および組成を適宜選択することによって接着強度および成形性を高めて深い成形を行った時の層間剥離を抑制することができる。」
ウ 「【0073】
前記水添加接着剤(二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂)を構成する多官能イソシアネート化合物(硬化剤)としては、例えば、芳香族系、脂肪族系、脂環族系等の各種多官能イソシアネート化合物を使用できる。具体例としては、脂肪族系のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、脂環族系のイソホロンジイソシアネート(IPDI)、芳香族系のトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して用いることもできる。なお、前記「多官能イソシアネート化合物」の語は、2官能以上のイソシアネート基を有している化合物を意味する。」
(2)本件発明1の新規性、進歩性について
甲第2号証の段落【0043】には、「特に限定されるものではない」との記載に続けて例示された「耐熱性樹脂層(2)」の樹脂名の中に「ポリエステルフィルム」が見て取れるに過ぎない。また、甲第2号証の段落【0073】には、水添加接着剤である「ポリエステルポリオール」の硬化剤として例示されたイソシアネートの中に「脂肪族系のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、脂環族系のイソホロンジイソシアネート(IPDI)」が見て取れるに過ぎない。
よって、甲第2号証に、(本件訂正後の)本件発明1に係る特定のポリエステル系樹脂及びウレタン系接着剤における硬化剤の組合せが実質的に記載されているとはいえない。
また、甲第2号証に例示されたこれらの樹脂及び「ポリエステルポリオール」の硬化剤の中から、特に(本件訂正後の)本件発明1における特定のポリエステル系樹脂及びウレタン系接着剤における硬化剤の組合せを選択すべき理由も、甲第2号証には記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明2の新規性、進歩性について
本件発明2に係る請求項2は、請求項1を引用して記載されたものであるから、本件発明2は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700397