特許異議申立
2022-700769
リチウムイオン二次電池
- 審判番号
- 2022-700769
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-192622
- 登録番号
- 7011021
- 請求日
- 2022年08月05日
- 審決日
- 2023年12月06日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社半導体エネルギー研究所
- 【権利者代理人】蟹田 昌之
- 【異議申立人】小島 早奈実
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 山本 章裕
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M) / P1651.55 -YAA(H01M) / P1651.851-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第7項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7011021号発明「リチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7011021号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
特許第7011021号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7011021号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成27年10月20日(優先権主張 平成26年10月24日)に出願された特願2015-206512号の一部を、令和2年2月12日に新たな特許出願とした特願2020-21291号の一部を、令和2年4月3日に新たな特許出願とした特願2020-67401号の一部を、令和2年11月19日に新たな特許出願としたものであって、令和4年1月17日にその特許権の設定登録がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行された。その後の本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 8月 5日 : 特許異議申立人小島早奈実(以下、「異議申立人」という。)による請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年10月27日付け: 取消理由通知
令和4年12月29日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 2月22日 : 異議申立人による意見書の提出
令和5年 5月22日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和5年 7月13日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
当審は、令和5年7月20日付けで異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知をして、意見書を提出する機会を与えたが提出されなかった。
なお、令和5年7月13日提出の訂正請求書による訂正請求がされたので、令和4年12月29日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年7月13日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第7011021号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし12について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「【請求項1】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有する、リチウムイオン二次電池。」
と記載されているものを、
「【請求項1】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。」
に訂正する。
請求項1を引用する請求項10ないし12も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「【請求項2】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェンと、を有する、リチウムイオン二次電池。」
と記載されているものを、
「【請求項2】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェンと、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。」
に訂正する。
請求項2を引用する請求項10ないし12も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「【請求項3】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンとの間に前記正極活物質を挟む領域を有する第3の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンとの間に前記負極活物質を挟む領域を有する第4の多層グラフェンと、を有する、リチウムイオン二次電池。」
と記載されているものを、
「【請求項3】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンとの間に前記正極活物質を挟む領域を有する第3の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンとの間に前記負極活物質を挟む領域を有する第4の多層グラフェンと、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。」
に訂正する。
請求項3を引用する請求項10ないし12も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「【請求項4】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有する、リチウムイオン二次電池。」
と記載されているものを、
「【請求項4】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。」
に訂正する。
請求項4を引用する請求項7ないし12も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「【請求項5】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有する、リチウムイオン二次電池。」
と記載されているものを、
「【請求項5】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。」
に訂正する。
請求項5を引用する請求項7ないし12も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「【請求項6】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンとの間に前記正極活物質を挟む領域を有する第3の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンとの間に前記負極活物質を挟む領域を有する第4の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有する、リチウムイオン二次電池。」
と記載されているものを、
「【請求項6】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンとの間に前記正極活物質を挟む領域を有する第3の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンとの間に前記負極活物質を挟む領域を有する第4の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。」
に訂正する。
請求項6を引用する請求項7ないし12も同様に訂正する。
2.一群の請求項について
訂正前の請求項1、10ないし12について、請求項10ないし12は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、10ないし12に対応する訂正後の請求項1、10ないし12は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正前の請求項2、10ないし12について、請求項10ないし12は請求項2を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項2、10ないし12に対応する訂正後の請求項2、10ないし12は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正前の請求項3、10ないし12について、請求項10ないし12は請求項3を引用しているものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項3、10ないし12に対応する訂正後の請求項3、10ないし12は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正前の請求項4、7ないし12について、請求項7ないし12は請求項4を引用しているものであって、訂正事項4によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項4、7ないし12に対応する訂正後の請求項4、7ないし12は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正前の請求項5、7ないし12について、請求項7ないし12は請求項5を引用しているものであって、訂正事項5によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項5、7ないし12に対応する訂正後の請求項5、7ないし12は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正前の請求項6、7ないし12について、請求項7ないし12は請求項6を引用しているものであって、訂正事項6によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項6、7ないし12に対応する訂正後の請求項6、7ないし12は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
以上、6つの一群の請求項が特定されるが、これらは請求項10ないし12を共通に有しており、組み合わされる。したがって、請求項1ないし12は1つの一群の請求項である。
3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア.訂正事項1-1
訂正事項1のうち、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るとの事項を追加する訂正(以下、「訂正事項1-1」という。)について検討する。
訂正事項1-1は、正極を構成する第1の多層グラフェンについて、複数の第1の多層グラフェンが三次元的に分散し、これらが互いに面接触することで正極内に三次元の電気伝導経路が形成されていることを限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、願書に添付した明細書の段落【0038】【0044】には、「シート状の複数のグラフェン204は活物質層202の内部において三次元的に分散しており、これらが互いに面接触することで、三次元の電気伝導性のネットワークを形成している」と記載されているから、訂正事項1-1に係る訂正は新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
イ.訂正事項1-2
訂正事項1のうち、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」との事項を追加する訂正(以下、「訂正事項1-2」という。)について検討する。
訂正事項1-2は、リチウムイオン二次電池の電流休止法抵抗を測定した場合の抵抗値を限定する訂正である。すなわち、正極について、ハーフセルに組み込み、ハーフセルの理論容量を150mAh/gとしてハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行い、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下であることを限定する訂正である。したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、願書に添付した明細書の段落【0265】には「(ハーフセルの作製)作製した電極A及び電極Bをハーフセルに組み込み、それぞれのセルの充放電特性を測定するのに用いた。」と記載され、段落【0271】には「次に、電流休止法抵抗の測定を行うことにより電極A及び比較例Bを評価した。ここで、電流休止法抵抗について説明する。電池の充電の際、充電を休止すると、電圧が降下する挙動が見られる。この電圧降下の原因として、電池の有する内部抵抗が挙げられる。{(休止直後の電圧)-(休止3秒後の電圧)}/電流という計算式により、電極Aを組み込んだハーフセルと、比較例Bを組み込んだハーフセルの内部抵抗のオーム成分を求め、比較した。」ことが記載されており、段落【0272】の【表1】にはその結果として実施例1の電極Aの内部抵抗オーム成分が休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下であったことが読み取れる。したがって、訂正事項1-2に係る訂正は新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ.まとめ
したがって、訂正事項1は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、及び同条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2ないし6について
訂正事項2ないし6は、請求項2ないし6に対して上記(1)で検討した訂正事項1と同内容の訂正を行うものであり、訂正事項1と同じ理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
4.独立特許要件について
訂正事項1ないし6については「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし12の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1ないし12に係る訂正事項1ないし6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
5.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(なお、下線は訂正された箇所を示す。)
「【請求項1】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェンと、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンとの間に前記正極活物質を挟む領域を有する第3の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンとの間に前記負極活物質を挟む領域を有する第4の多層グラフェンと、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、
前記第1の多層グラフェンとの間に前記正極活物質を挟む領域を有する第3の多層グラフェンと、
前記正極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第1の導電助剤と、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、
前記第2の多層グラフェンとの間に前記負極活物質を挟む領域を有する第4の多層グラフェンと、
前記負極活物質と接する領域を有する針状、繊維状、又は粒状をなす第2の導電助剤と、を有し、
複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され、
前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか一において、前記針状の第1の導電助剤及び前記針状の第2の導電助剤は、気相成長炭素繊維である、リチウムイオン二次電池。
【請求項8】
請求項4乃至請求項6のいずれか一において、前記繊維状の第1の導電助剤及び前記繊維状の第2の導電助剤は、カーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブである、リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項4乃至請求項6のいずれか一において、前記粒状の第1の導電助剤及び前記粒状の第2の導電助剤は、カーボンブラックである、リチウムイオン二次電池。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一において、
前記第1の多層グラフェンの長さは、前記正極活物質の粒径より大きく、
前記第2の多層グラフェンの長さは、前記負極活物質の粒径より大きい、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一において、
前記正極活物質は、Mn、Ni及びCoを有する、リチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一において、
前記負極活物質は、シリコンを有する、リチウムイオン二次電池。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
当審が令和5年5月22日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(理由1)請求項2、3、11に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(理由2)請求項2、3、5ないし12に係る発明は、下記の引用文献に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件の請求項2、3、5ないし12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(理由3)請求項1、4、7ないし12に係る発明は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<引用文献等一覧>
引用文献1: 国際公開第2014/015139号(甲第3号証)
引用文献2: 国際公開第2013/181994号(甲第5号証)
引用文献3: 特開2007-42620号公報 (甲第7号証)
引用文献4: 特開2013-229273号公報(甲第2号証)
引用文献5: 国際公開第2013/173053号(甲第4号証)
2.甲第3号証を主引例とする新規性・進歩性の理由について
(1)甲第3号証の記載事項と甲3発明
甲第3号証(引用文献1)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、当審仮訳として、異議申立人が甲3号証の抄訳として提出した特表2015-527707号公報の該当する記載を付した。また、下線は当審で付した。
「Electrochemically Exfoliated Graphene
[042] ・・・ Large quantities of electrochemical graphene flakes can be prepared by electrochemical exfoliation and a large percentage of the flakes that are produced are only a few layers thick, have a high quality crystal structure with a low defect density, and have low electrical resistance.」
(当審仮訳:電気化学剥離によるグラフェン
[042] ・・・電気化学剥離を用いることにより、大量の電気化学剥離によるグラフェン薄片を作製することが可能であり、作製したほとんどの薄片の厚さは数層しかなく、低い欠陥密度を有する高品質の結晶構造及び低抵抗性を具備している。)
「Electrode Composition and Fabrication
[050] Referring to Fig.5, an example composite electrode 50 is formed of an electrode material 52(e.g., particles of the electrode material), electrochemical graphene 54 intercalated into the electrode material 52, a bonding agent 58, and a conductive additive 59. The electrode 50 can be used as an anode and/or a cathode for a battery, such as a lithium ion battery, which can be, e.g., a coin cell battery, a cylindrical battery, or a prismatic pouch cell battery, as shown in Figs. 9B-9D, respectively.
[051] In some examples, the electrode material 52 can be a lithium-based material and can be used for the anode and/or the cathode for a lithium ion battery. For example, the electrode material or a precursor that can be transformed into an electrode material can be, e.g., a lithium-based material (e.g., LiFe(i-x)MXP(1-x)O2(2-x), 0≦X<1), such as lithium iron oxide, lithium iron phosphate(LiFePO4), lithium iron phosphorous oxide, lithium cobalt oxide (LiNiO2), lithium manganese oxide(LiMn2O4), lithium nickel oxide (LiNiO2), lithium cobalt manganese nickel, or lithium cobalt manganese nickel oxide. The lithium-based material can be coated with a coating, such as an amorphous carbon coating. For example, an example electrode material includes amorphous carbon-coated lithium iron phosphate particles.」
(当審仮訳:電極組成及び作製
[050]図5に示すように、これは複合電極50の具体的な実施形態であり、電極材料52(例えば、電極材料の粒子)、電極材料52に挿入した電気化学剥離によるグラフェン54、結合材58、及び導電性添加剤59から形成される。電極50はリチウムイオン電池のように電池の負極と正極の両方またはいずれか一方として用いることが可能であり、これは図9B-図9Dに示すように、ボタン型電池及び円筒形電池又は角形パウチ形電池であることが好ましい。
[051]具体的な実施形態において、電極材料52はリチウムベース材料であり、リチウムイオン電池の負極と正極の両方またはいずれか一方として用いることが可能である。例えば、電極材料又はリチウム鉄複合酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、鉄リン酸リチウム複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)、リチウムマンガン複合酸化物、(LiMn2O4)及びリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムコバルトマンガンニッケル複合物又はリチウムコバルトマンガンニッケル複合酸化物というように電極材料の前駆体として用いられるリチウムベース材料(例えば、LiFe(1-x)MXP(1-x)O2(2-x)、0≦X<1)である。例えば、アモルファスカーボン層のような被覆層を用いてリチウムベース材料を被覆することが可能である。前記電極材料の具体的な実施形態にはアモルファスカーボンで被覆したリン酸鉄リチウム粒子が含まれる。)
「[060] After evaporation of the solvent, van der Waals forces between the electrochemical graphene and the amorphous carbon-coated lithium iron phosphate particles cause the graphene flakes to wrap around the particles. This wrapping helps to protect the lithium iron phosphate particles against aggregation and volume expansion.
[061] Referring to Figs. 8A and 8B, scanning electron microscope images reveal that flakes 80 of electrochemical graphene substantially coat the surface of amorphous carbon-coated lithium iron phosphate particles 82. Wrinkles 84 in the electrochemical graphene flakes 80 can also be observed.」
(当審仮訳:[060]溶剤蒸発後、電気化学剥離によるグラフェンとアモルファスカーボンで被覆したリン酸鉄リチウム粒子の分子間力によりグラフェン薄片が粒子を包み込んだ。この包み込むという作用がリン酸鉄リチウム粒子を保護し、凝集及び体積膨張を防ぐのに寄与した。
[061] 図8A及び図8Bに、走査型電子顕微鏡撮影画像データでは電気化学剥離によるグラフェン薄片80が実際にアモルファスカーボン被覆リン酸鉄リチウム粒子82の表面に被覆された状態を示した。また電気化学剥離によるグラフェン薄片80中にしわ84が存在することも観察された。)
図5として以下の図面が記載されている。
[図:0001407795000001.jpg]
上記摘記事項によれば以下のことがいえる。
・上記記載において、図5における電気化学剥離によるグラフェン薄片の構造については直接記載されていないものの、段落[042]には電気化学剥離によるグラフェン薄片の厚さは数層、すなわち多層であることが記載されているから、図5においても電気化学剥離によるグラフェンは多層グラフェンと考えるのが自然である。
・段落[050]には「電極材料52(例えば、電極材料の粒子)、電極材料52に挿入した電気化学剥離によるグラフェン54、・・・及び導電性添加剤59から形成される。電極50はリチウムイオン電池のように電池の負極と正極の両方・・・として用いる」ことが記載されているから、電極材料の粒子と電気化学剥離によるグラフェン及び導電性添加剤から形成される電極を電池の負極と正極の両方に用いたリチウムイオン電池について記載されているといえる。
・段落[051]によれば、電極材料は具体的にはアモルファスカーボンで被覆したリン酸鉄リチウム粒子である。
・段落[060][061]によれば、電気化学剥離によるグラフェン薄片がアモルファスカーボン被覆リン酸鉄リチウム粒子を包み込み、表面を被覆しているといえる。
そうしてみると、上記記載及び図面を総合すると、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「アモルファスカーボン被覆リン酸鉄リチウム粒子、多層グラフェン及び導電性添加剤から形成される電極を電池の負極と正極の両方に用いたリチウムイオン電池であって、
多層グラフェンがアモルファスカーボン被覆リン酸鉄リチウム粒子を包み込み、表面を被覆している、リチウムイオン電池。」
(2)対比・判断
ア.本件発明2について
本件発明2と甲3発明とを対比すると、
・甲3発明の「正極」「負極」「リチウムイオン電池」は、本件発明2の「正極」「負極」「リチウムイオン二次電池」にそれぞれ相当する。
・甲3発明の「負極と正極の両方に用いた」「アモルファスカーボン被覆リン酸鉄リチウム粒子」において、「リン酸鉄リチウム粒子」は「アモルファスカーボン」により被覆されているものの、多層グラフェンにより包み込まれているから、表面を多層グラフェンにより被覆されているといえ、また、活物質として作用することは明らかであるから、本件発明2の「正極活物質」「負極活物質」に相当する。
・甲3発明の「多層グラフェン」はアモルファスカーボン被覆リン酸鉄リチウム粒子を包み込み、表面を被覆するように形成されているから、リン酸鉄リチウム粒子を被覆する領域を有しているということができ、本件発明2の「前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェン」及び「前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェン」に相当する。
・本件発明2では「前記正極は」「前記第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェンと、を有し」、「前記負極は」「前記第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェンと、を有」するのに対して、甲3発明では当該構成について特定されていない点で相違している。
・本件発明2は「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成されている」のに対して、甲3発明では当該事項が特定されていない点で相違している。
・本件発明2では「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲3発明では電流休止法抵抗に関して限定がなく、本件発明2の上記事項について特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明2と甲3発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有する、
リチウムイオン二次電池。」
(相違点1)
本件発明2では「前記正極は」「前記第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェンと、を有し」、「前記負極は」「前記第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェンと、を有」するのに対して、甲3発明では当該構成について特定されていない点
(相違点2)
本件発明2は「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成されている」のに対して、甲3発明では当該事項が明らかではない点。
(相違点3)
本件発明2では「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲3発明では電流休止法抵抗に関して限定がなく、本件発明2の上記事項について特定されていない点
事案に鑑み相違点3について検討する。
甲第3号証には、得られるリチウムイオン電池の電流休止法抵抗に関して何らの記載も示唆もなく、また、相違点3とした「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下」は、技術常識に照らして、甲3発明が当然に有していると解される構成であるとはいえないし、当業者が容易に相当できた構成であるということもできない。さらに、甲1、2、4ないし7を参照しても(後述する、「第5 3.」を参照されたい。)相違点3に係る記載も示唆もないから、甲1、2、4ないし7を考慮しても、本件発明2は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく本件の請求項2に係る発明は甲第3号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。
したがって、本件の請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。
イ.本件発明3、5、6、7ないし12について
独立請求項である請求項3、5、6は、いずれも「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」との構成を含んでいるから、甲3発明と対比すると少なくとも上記相違点3において相違するものと認められる。
そして、相違点3については上記「ア.」で検討したとおりであるから、本件請求項3、5、6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と同一ではなく、また、請求項3、5、6に係る発明は甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項2、3、5、6の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項7ないし12についても同様である。
したがって、本件の請求項3、5、6、7ないし12に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。
3.サポート要件違反について
令和5年5月22日付け取消理由(決定の予告)において通知したサポート要件違反の理由は以下のとおりである。
「本件発明1には『前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、前記電流休止法抵抗が99.1オーム未満である』(以下、「構成A」という。)と記載されている。
これに関連して、本件発明の詳細な説明の段落【0265】【0271】【0272】には、ハーフセルを作製して電流休止法抵抗の測定を行ったことが記載されており、特に段落【0272】の表1によれば、休止時の容量を変えて測定した結果、内部抵抗オーム成分[Ω]が電極Aでは50.5、82.6、68.8、82.6であり、比較例Bでは99.1、111、118、125であったことが記載されており、本件の実施例である電極Aでは内部抵抗オーム成分[Ω]が50.5オーム以上82.6オーム以下であったことが読み取れる。
そうしてみると、本件発明1では、発明の詳細な説明に記載された電極Aの範囲を超える、50.5オーム未満と82.6オームより大きく、99.1オーム未満を含むものとなるが、電極Aの内部抵抗オーム成分の範囲を本願発明1の範囲まで拡張できる合理的な理由を見い出せない。
したがって、構成Aを有する請求項1に係る本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではない。同様の記載を有する請求項4、及び請求項1、4を引用する請求項7ないし12についても同様である。
よって、本件の請求項1、4、7ないし12に係る特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。」
上記理由について検討する。
上記「構成A」とした記載は、令和5年7月13日提出の訂正請求により以下のように訂正された。
「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」(以下、「構成A’」という。)
上記構成A’に関連して、本件発明の詳細な説明の段落【0265】【0267】【0271】には、電極Aを理論容量150mAh/gのハーフセルに組み込んで電流休止法抵抗を測定したことが記載されており、【0272】の表1によれば、測定の結果は、休止時の容量[mAh/g]が、195、210、225、240の時に、内部抵抗オーム成分[Ω]がそれぞれ50.5、82.6、68.8、82.6であったことが記載されている。よって、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下であったことが読み取れる。
そうしてみると、構成A’は発明の詳細な説明に記載された事項であるといえ、構成A’を含む本件の請求項1、4、及び従属項である請求項7ないし12に係る特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものとはいえない。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1.訂正前の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議申立理由の概要(取消理由において採用しなかった理由のみ)
(1)申立理由1(サポート要件)
特許請求の範囲の請求項1ないし12に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たさず、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(新規性)
下記の請求項に係る特許は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
・請求項1に対して、甲3号証
・請求項1ないし6、9に対して、甲第5号証
(3)申立理由3(進歩性)
下記の請求項に係る特許は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・請求項1に対して、甲第1号証及び甲第2、3、5、6号証
・請求項1に対して、甲第2号証及び甲第1、3、4、5号証
・請求項1に対して、甲第3号証及び甲第1、4、5号証
・請求項1に対して、甲第4号証及び甲第2、3、5、6号証
・請求項1に対して、甲第6号証及び甲第1、3、4、5号証
・請求項2ないし12に対して、甲第1ないし6号証
(4)申立理由4(新規事項追加)
令和2年12月18日付手続補正書により補正された請求項2、3、5、6及びこれらを引用する請求項7ないし12に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に反してされたものであり、請求項2、3、5ないし12に係る特許は取り消されるべきである。
(5)申立理由5(明確性)
特許請求の範囲の請求項2、3、5、6及び従属する請求項7ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。
2.証拠方法
異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。
・甲第1号証:特開2008-66053号公報
・甲第2号証:特開2013-229273号公報
・甲第3号証:国際公開第2014/015139号
及びその抄訳(特表2015-527707号公報)
・甲第4号証:国際公開第2013/173053号
及びその抄訳(特表2015-526264号公報)
・甲第5号証:国際公開第2013/181994号
及びその抄訳(特表2015-520109号公報)
・甲第6号証:特表2014-532263号公報
・甲第7号証:特開2007-42620号公報
3.甲各号証の記載事項、記載された発明について
(1)甲第1号証の記載事項と甲1発明について
甲第1号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【請求項1】
リチウム塩を含む非プロトン性有機溶媒を電解液とする蓄電デバイス用の負極活物質であって、コアとなる炭素粒子と、該炭素粒子の表面および/または内部に形成されたグラフェン構造を有する繊維状炭素との炭素複合体からなり、前記炭素複合体は、全メソ孔容積が0.005~1.0cm3/g、細孔径100~400Åのメソ孔が全メソ孔容積の25%以上を占めていることを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質。
・・・・・・
【請求項8】
前記繊維状炭素が、多層壁から構成され、その格子像が繊維軸に対して角度を有するヘリンボーン構造を有していることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質。」
「【0024】
また、本発明によれば、負極活物質に上記のような本発明に係る蓄電デバイス用負極活物質が用いられ、電解液がリチウム塩を含む非プロトン性有機溶媒であることを特徴とするリチウムイオン二次電池が提供される。
・・・・・・・
【0059】
本発明に係るリチウムイオン二次電池においては、正極活物質は、特に限定されるものではないが、例えば、リチウムイオンを電気化学的にドープ・脱ドープ可能なリチウム含有複合酸化物、または、マンガン、ニッケル、バナジウム等の遷移金属酸化物もしくは硫化物等や、テトラフルオロボレート等のアニオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能なポリアニリン等の導電性高分子を用いることができる。」
上記摘記事項によれば以下のことがいえる。
・段落【0024】【0059】によれば、負極活物質と正極活物質を有するリチウムイオン二次電池について記載されているといえる。そして、リチウムイオン二次電池であるから、負極活物質を有する負極、正極活物質を有する正極を有することも明らかである。したがって、負極活物質を有する負極と正極活物質を有する正極を有するリチウムイオン二次電池が記載されているといえる。
・【請求項1】によれば、負極活物質は、コアとなる炭素粒子と、該炭素粒子の表面に形成されたグラフェン構造を有する繊維状炭素との炭素複合体からなる。また、【請求項8】によれば繊維状炭素は多層壁から構成されているから、負極活物質は、コアとなる炭素粒子と、該炭素粒子の表面に形成されたグラフェン構造を有する多層の繊維状炭素との炭素複合体からなるといえる。
以上を総合勘案すると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「コアとなる炭素粒子と、該炭素粒子の表面に形成されたグラフェン構造を有する多層の繊維状炭素との炭素複合体からなる負極活物質を有する負極と、
正極活物質を有する正極と、
を有するリチウムイオン二次電池。」
(2)甲第2号証の記載事項と甲2発明について
甲第2号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【請求項1】
導電性支持体と、
前記導電性支持体上に設けられた、電極活物質および導電助剤を含む活物質層と、
を備え、
前記電極活物質が、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する有機化合物を含み、
前記導電助剤が、一層または多層のグラフェンを含む、
電極。
・・・・
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の電極からなる正極と、
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む負極と、
リチウムイオンとアニオンとの塩を含み、前記正極および前記負極の間に満たされた電解液と、
を備えた蓄電デバイス。」
「【0036】
正極活物質層10において、電極活物質は導電助剤の表面の少なくとも一部を被覆していることが望ましい。すなわち、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する有機化合物が、一層または多層のグラフェンの表面の少なくとも一部を被覆していることが望ましい。このような構成によれば、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する有機化合物と一層または多層のグラフェンとの接触面積が大きくなり、また有機化合物内の対イオンの移動距離が短くなるため、初回充放電時においても酸化還元反応が潤滑に行われるという効果がより確実に得られる。」
上記記載並びに明細書の記載を総合勘案すると、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「正極と負極とを備えた蓄電デバイスであって、
正極は、
電極活物質と、
多層のグラフェンを含む導電助剤と、を有し、
電極活物質は導電助剤の表面の少なくとも一部を被覆しており、
負極は
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む、
蓄電デバイス。」
(3)甲第4号証の記載事項と甲4発明について
甲第4号証には次の事項が記載されている。なお、当審仮訳として、異議申立人が甲4号証の抄訳として提出した特表2015-526264号公報の該当する記載を付した。また、下線は当審で付した。
「Graphite is formed by many layers of carbon in highly structured platelets. These platelets, when separated from the graphite superstructure, are collectively called graphene. Graphene has interesting chemical, physical, and electrical properties. These properties make graphene a highly valued product. The quality of the graphene, as defined by particle diameter, particle width, and surface area, determine its industrial utility. It is advantageous to coat or composite graphene with metal particles for electrical applications.」(1ページ19ないし27行)
(当審仮訳:グラファイトは、高度に構造化したプレートレット中で炭素の多くの層によって形成される。これらのプレートレットは、グラファイトの超構造から分離されるときに、グラフェンと総称される。グラフェンは、興味深い、化学的、物理的、および電気的性質を有する。これらの特性によって、グラフェンは価値の高い生成物になっている。グラフェンの質は、粒径、粒子幅、および表面積によって定義されるように、その産業有用性を決定づける。電気的用途のために金属粒子でグラフェンをコーティングまたは合成することには利点がある。)
「Graphene produced by media ball milling has very small particle size with a relatively high surface area. It is uniquely suited to make nano-composites or coatings by coating or admixing other particles. Metals or metal oxides can be coated or formed into composites with the high surface area, relatively low aspect ratio graphene. It is believed by the inventors herein that the materials of this invention have unique aspect ratios. Ground graphite admixed with silicon has an aspect ratio fairly close to 1, graphene from a GO process, epitaxially grown graphene, or graphene from an intercalated - heating process has a very high aspect ratio. The moderate aspect ratio graphene of this invention better coats 1 to 4 micron particles and better mixes with even small nano-particles.」(2ページ9ないし22行)
(当審仮訳:媒体のボール(ball)ミル粉砕によって生成されたグラフェンは、比較的高い表面積を有する非常に小さな粒径を有する。それは、他の粒子をコーティングまたは混合することによって、ナノ複合材料またはコーティングを作るように一意に合わせられている。金属または金属酸化物は、高表面積、比較的低い縦横比のグラフェンによってコーティングまたは複合材料へと形成され得る。本明細書において発明者は、本発明の材料が特有の縦横比を有すると考えている。シリコンと混合された粉砕したグラファイトは、1にかなり近い縦横比を有し、GOプロセスからのグラフェン、エピタキシャル成長グラフェン、またはインターカレートされた、加熱プロセスからのグラフェンは、非常に高い縦横比を有する。本発明の中程度の縦横比のグラフェンは、1乃至4ミクロンの粒子をより好適にコーティングし、小さなナノ粒子とさえより好適に混合する。)
「The small, that is, 1 to 5 nanometers thick, and 50 to 100 nanometers diameter, high surface area (above 500 BET) , medium aspect ratio graphene, is a unique size for coating with small metal or metal oxide particles.」(5ページ1ないし4行)
(当審仮訳:小さい、すなわち、1乃至5ナノメートルの厚さの、および50乃至100ナノメートルの直径、高い表面積(500BETを超える)の、培地の縦横比のグラフェンは、小さな金属または金属酸化物の粒子によってコーティングするための特有のサイズである。)
「The result for the battery performance of a Si/graphene (200 to 250 m2/g, 100 min. processing) sample as an anode for a lithium ion battery is plotted infra. The Si/graphene shows high capacity (>800 mAh/g, electrode loading) over 35 cycles at 100 mA/g, which supports the low cost, simple, time-saving, environmentally benign, flexible way to produce high performance graphene-based composite materials for energy applications. Some fluctuation of the capacity is due to the variation of temperature .」(6ページ18ないし26行)
(当審仮訳:リチウムイオン電池用のアノードとしてのSi/グラフェン(200乃至250m2/g、100分の処理)のサンプルのバッテリー性能に対する結果は、以下に示される。Si/グラフェンは、100mA/gで35サイクルにわたる高容量(>800mAh/g、電極装填)を示し、これは、低コストの、簡素で、時間を節約する、環境に優しい、柔軟な方法を支持し、エネルギー適用のための高性能のグラフェンベースの複合材料を生成する。容量の幾らかの変動は、温度の変化が原因である。)
したがって、上記記載並びに明細書の記載を総合勘案すると、甲第4号証には以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
「アノードとして、多層のグラフェンでコーティングしたシリコンを含む、リチウムイオン電池。」
(4)甲第5号証の記載事項と甲5発明について
甲第5号証(引用文献2)には次の事項が記載されている。なお、当審仮訳として、異議申立人が抄訳として提出した特表2015-520109号公報の該当する記載を付した。また、下線は当審で付した。
(a)「5. A lithium ion battery electrode, comprising a graphene powder according to any one of claims 1 to 4, an electrode active material and a binder.」(26ページ14ないし15行)
(当審仮訳:【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載のグラフェン粉末と、電極活物質と、バインダーとを含む、リチウムイオン電池電極。)
(b)「The first object of the present invention is to prepare highly conductive and highly dispersible graphene and the second object is to obtain an electrode for a lithium ion battery with good output characteristics and cycle characteristics by utilizing highly conductive and highly dispersible graphene.
SOLUTIONS TO THE PROBLEMS
The present inventors have found that highly conductive and highly dispersible graphene can be obtained by allowing the specific amount of a compound having a catechol group to stick to graphene.」(2ページ下から2行ないし3ページ6行)
(当審仮訳:本発明の第一の目的は、高導電性かつ高分散性のグラフェンを作製することにあり、第二の目的は、高導電性かつ高分散性グラフェンを利用して出力特性・サイクル特性の良いリチウムイオン電池用電極を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、グラフェンにカテコール基を有する化合物を所定量付着させることにより、高導電性かつ高分散性のグラフェンが得られることを見出した。)
(c)「[Graphene]
Graphene has a structure composed of single-layer graphene sheets stacked together and has a flaky form. Although no particular restriction is put on the thickness of graphene, it is preferably 100 nm or less, more preferably 50 nm or less and further preferably 20 nm or less. Also no particular restriction is put on the size in the horizontal direction of graphene, the lower limit is preferably 0.5μm or more, more preferably 0.7μm or more and further preferably 1μm or more and the upper limit is preferably 50μm or less, more preferably 10μm or less and further preferably 5μm or less. In this connection, the size in the horizontal direction of graphene refers to an average of the maximum length of the major axis and the minimum length of the minor axis of the graphene plane.」(4ページ2ないし11行)
(当審仮訳:〔グラフェン〕
グラフェンとは、単層グラフェンが積層した構造体であり、薄片上の形態を有するものである。グラフェンの厚みには特に制限は無いが、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。グラフェンの面方向の大きさにも特に制限は無いが、下限として、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上、さらに好ましくは1μm以上であり、上限として、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。ここでいうグラフェンの面方向の大きさとは、グラフェン面の最長径と最短径の平均を指す。)
(d)「<Electrode for lithium ion battery>
A conductive additive is usually contained in an electrode for a lithium ion battery. The conductive additive may be composed only of the graphene powder according to the present invention and further other materials may be added. Although other conductive additives to be added are not particularly limited, examples thereof include carbon blacks such as furnace black, ketjen black and acetylene black, graphites such as natural graphite (scalelike graphite and the like) and artificial graphite, conductive fibers such as carbon fiber and metal fiber, metal powders such as copper, nickel, aluminum and silver powders, and the like.
Although the electrode active material is roughly classified into a positive electrode active material and a negative electrode active material, in either case, the present invention may be utilized.」(9ページ19ないし29行)
(当審仮訳:<リチウムイオン電池用電極>
リチウムイオン電池用電極には通常導電助剤が含有されている。導電助剤は本発明のグラフェン粉末のみでもよいし、他に更に添加しても良い。他に添加する導電助剤としては特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維及び金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウム及び銀等の金属粉末類などが挙げられる。)
電極活物質には大きく分けて正極活物質と負極活物質が存在するが、本発明はそのどちらにも利用できる。)
上記摘記事項によれば以下のことがいえる。
・請求項5によれば、グラフェン粉末と電極活物質とを含むリチウムイオン電池電極が記載されており、当該電極を有するリチウムイオン電池についても記載されているといえる。
そして、上記(d)の「正極活物質と負極活物質が存在するが、本発明はそのどちらにも利用できる。」との記載によれば、上記リチウムイオン電池電極は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極のいずれをも含むものといえる。
したがって、グラフェン粉末と正極電極活物質とを含む正極と、グラフェン粉末と負極電極活物質とを含む負極を有するリチウムイオン電池が記載されているといえる。
・上記(b)によれば、カテコール基を有する化合物を所定量付着させた高導電性かつ高分散性のグラフェンを利用した電極を有するリチウムイオン電池が記載されているといえる。
また、上記(c)によれば、グラフェンとは単層グラフェンが積層した構造体であるから、グラフェンは多層のグラフェンといえる。
したがって、請求項5に記載されたグラフェン粉末に用いられるグラフェンは、高導電性かつ高分散性の多層のグラフェンであるといえる。
以上を総合勘案すると、甲第5号証には以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。
「高導電性かつ高分散性の多層のグラフェン粉末と正極電極活物質とを含む正極と、
高導電性かつ高分散性の多層のグラフェン粉末と負極電極活物質とを含む負極と、
を有するリチウムイオン電池。」
(5)甲第6号証の記載事項と甲6発明について
甲第6号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【0016】
本発明によれば、正電極材料は、リチウム金属酸化物である活物質、および少なくとも2種の炭素材料を含む。本発明の態様において、第1の種類の炭素材料は、反応性物質の粒子表面と密に接触している;この炭素材料は、グラフェン形態、無定形形態等である。正電極材料における第2の種類の炭素材料は、カーボンブラックである。正電極材料における第3の種類の炭素材料は、2種の繊維状炭素材料の混合物からなる。
【0017】
図1にみられるように、正電極材料1は、リン酸リチウム化合物2である活物質を含む。その化合物の粒子の表面は、炭素材料3で被覆される。被覆層は、グラフェン形態、無定形形態等であり得る。炭素材料被覆層3は数nmであり得る。リン酸リチウム化合物2は、カーボンブラック4および繊維状炭素材料5と一緒になっている。繊維状炭素材料5は、小さい繊維径および短い繊維長さを有する第1の繊維状炭素材料5a、ならびに大きい繊維径および長い繊維長さを有する第2の繊維状炭素材料5b、の混合物である。第1の繊維状炭素材料5aは、リン酸リチウム化合物2の粒子の表面に主として結合され、一方、第2の繊維状炭素材料5bはリン酸リチウム化合物2の粒子に主として結合される。
・・・略・・・
【0022】
オリビン型リチウム鉄リン酸塩の粒子の表面は、炭素材料3で被覆される。少なくとも1つの炭素材料被覆層が、その粒子表面に形成される。被覆層は、グラフェン形態、無定形形態等であり得る。炭素材料被覆層は、この分野で通常知られている方法で形成される。そのような方法は、たとえば:(a)アセチレンブラック、ケッチェンブラックのような導電性カーボンブラックまたは黒鉛結晶を溶媒中で分散させてスラリー被覆用溶液を形成し、その被覆用溶液にオリビン型リチウム鉄リン酸塩の粒子を分散させ、次いで溶媒を乾燥させる;(b)有機物質または有機ポリマー溶液をオリビン型リチウム鉄リン酸塩の粒子の表面に付着させ、そして還元雰囲気で有機物質または有機ポリマーを熱分解する;(c)イオン;堆積法;ならびに (d) 化学蒸着法(CVD)および/または物理蒸着法(PVD)によりオリビン型リチウム鉄リン酸塩の粒子の表面に薄膜を形成する、を含む。
【0023】
本発明によれば、ここで用いられるように、「グラフェン形態」はsp2結合炭素原子の六員環構造の1層を意味し、そして「無定形形態」は三次元の六員環構造を意味する。電子伝導性は炭素原子間の結合により生じ、炭素材料被覆のグラフェン形態または無定形形態により促進される。さらに、ここで用いられるように、「約」は、述べられる値の±10%を意味する。」
「【0042】
厚さ20μmおよび幅150mmを有するアルミニウム箔が調製された。正電極スラリーがアルミニウム箔の両表面に付着され、乾燥された。ついで、正電極スラリーが付着されたアルミニウム箔はプレスされ、リチウム二次電池のための正電極板を得るために切断された。正電極スラリーがアルミニウム箔の両表面に付着され、アルミニウム箔が乾燥されプレスされた後で、正電極板の全厚さは160μmであった。
【0043】
20mAhの積層電池が、正電極板を用いて製造された。黒鉛材料で製造された負極が正電極板に対抗する電極として使用された。オレフィン繊維で製造された不織布が、正電極板と負電極板を互いに電気的に絶縁するためのセパレータとして使用された。電解質は、エチレンカーボネート(EC)およびメチルカーボネート(MEC)が体積比30:70で混合された溶液中に、1モル/Lで溶解されたヘキサフルオロリン酸塩(LiPF6)から構成された。」
上記摘記事項によれば以下のことがいえる。
・段落【0042】【0043】によれば、正極と負極を有するリチウム二次電池について記載されているといえる。
・段落【0016】【0017】【0022】によれば、
正電極材料は、活物質とグラフェン形態である炭素材料を含み、活物質の表面は炭素材料で被覆されているといえる。
以上を総合勘案すると、甲第6号証には以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。
「正極と負極を有するリチウム二次電池であって、
正電極材料は、活物質とグラフェン形態である炭素材料を含み、
活物質の表面は炭素材料で被覆されている、
リチウム二次電池。」
(6)甲第7号証の記載事項について
甲第7号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【0047】
[7]負極使用材料:
(1)負極活物質
・・・略・・・
(2)炭素繊維
VGCF:気相成長黒鉛繊維(昭和電工株式会社製)
平均繊維径(SEM画像解析より):150nm、
平均繊維長(SEM画像解析より):8μm、
平均アスペクト比:53
分岐度:約0.1個/μm
(SEM画像解析より繊維長1μm当たりの分岐数を算出;以下同様)
X線d(002):0.3384nm、Lc(結晶子サイズ):48nm。
VGCF-H:気相成長黒鉛ナノファイバー(昭和電工株式会社製)
平均繊維径(SEM画像解析より):150nm、
平均繊維長(SEM画像解析より):6μm、
平均アスペクト比:40
分岐度:0.05個/μm、
X線d(002):0.3384nm、Lc:35nm。
VGCF-S:気相成長黒鉛繊維(昭和電工株式会社製)
平均繊維径(SEM画像解析より):120nm、
平均繊維長(SEM画像解析より):12μm、
平均アスペクト比:100
分岐度:約0.02個/μm、
X線d(002):0.3385nm、Lc:48nm。
VGNT:気相成長黒鉛ナノチューブ(昭和電工株式会社製)
平均繊維径(SEM画像解析より):25nm、
平均繊維長(SEM画像解析より):5μm、
平均アスペクト比:200、
分岐度:0.1個/μm、
X線d(002):0.3449nm、Lc:30nm。
・・・略・・・
【0048】
実施例1
VGCF20gに、予め調製しておいたCMC1質量%水溶液を少しずつ加えながら、万能型ミキサーT.K.ハイビスミックス(登録商標)f-model 03型(特殊機化工業株式会社製)を用いて、90分間混練を行った。最終的に、VGCFが8.5質量%の炭素繊維含有組成物を調製した。この水溶液の粘度は、4000mPa・secであった。
球状天然黒鉛LB-CG70gに、予め調製しておいたCMC1質量%水溶液を少しずつ加えながら、T.K.ハイビスミックス(登録商標)f-model 03型を用いて、2時間混練を行った。最終的に、球状天然黒鉛LB-CGが50質量%のCMC水溶液を調製した。この水溶液にSBR分散水BM-400Bを、SBR固形分が1.5質量%となるよう加えて、1時間混練を行った。この負極材含有増粘剤水溶液の粘度は、3500mPa・secであった。
次に、LB-CGとVGCFとSBRとCMCの合計を100質量%とした時に、VGCF含有量が2質量%となるよう、炭素繊維含有組成物と負極材含有増粘剤水溶液を加え合わせ、さらに15分間混練した。
このようにして得たリチウム二次電池用負極組成物を用いて、先述の「負極の作成」方法にしたがってリチウム二次電池用負極を作製した。
プレス前の負極材の状態を拡大観察した電子顕微鏡写真を図3に、プレス後の負極の表面状態を観察した電子顕微鏡写真を図4に示す。図3から明らかなように負極材中の炭素繊維は良好に分散しており、図4に示すプレス後の負極表面には直径10μmを超える炭素繊維凝集体はなかった。」
上記記載及び明細書の記載を総合勘案すると、甲第7号証には以下の技術事項(以下、「甲7技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「リチウムイオン電池用負極において、炭素繊維としての気相成長炭素繊維(VGCF)が使用されること。」
4.申立理由についての当審の判断
(1)申立理由1(サポート要件)について
異議申立人はサポート要件違反に関して概略以下のような主張を行っている。
本件特許明細書において、「酸化グラフェンが還元剤により還元された多層グラフェンを混合した正極」(電極A)は、「酸化グラフェンが加熱により還元された多層グラフェンを混合した正極」(比較例B)よりも電気伝導性が高く、抵抗が小さくなることが示されているといえる。
したがって、本件発明1で規定する「第1の多層グラフェン」は、本件特許明細書においてその発明の効果を有することが確認されている「還元剤により酸化グラフェンが還元された多層グラフェン」に特定されるべきであり、このような特定がされていない本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たさず、取り消されるべきものである。(特許異議申立書9ないし14ページ(4-2-1)参照。)
上記主張について検討する。
令和5年7月13日の訂正請求により、本件発明1は構成A’(上記「第4 3.」参照。)を有することとなった。そうしてみると、本件発明1の「多層グラフェン」については酸化グラフェンが還元剤により還元されたものであるとの特定はないが、還元剤により還元されていないこと等により、本件効果を奏さない態様は排除されることとなる。したがって、本件発明1において「第1の多層グラフェン」が「還元剤により酸化グラフェンが還元された多層グラフェン」に特定される必要はなく、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たさないということはできない。請求項2ないし12についても同様である。
(2)申立理由2、3(新規性、進歩性)について
甲第3号証を主引例とする、本件発明2、3、5ないし12に係る新規性、進歩性については、上記「第4 2.」において判断したので、その他の新規性、進歩性に係る申立理由2、3について検討する。
ア.甲第1号証を主引例とする申立理由
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明(上記「第5 3.(1)」参照。)とを対比すると、
・甲1発明の「負極」「正極」が、本件発明1の「負極」「正極」に相当し、甲1発明のこれら「負極」「正極」を有する「リチウムイオン二次電池」が本件発明1の「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池」に相当する。
・甲1発明の「負極活物質」「正極活物質」が、本件発明1の「負極活物質」「正極活物質」にしれぞれ相当する。また、甲1発明の「グラフェン構造を有する多層の繊維状炭素」が本件発明1の「第2の多層グラフェン」に相当する。しかしながら、本件発明1では、負極活物質を第2の多層グラフェンが被覆する構成となっているのに対して、甲1発明では、負極活物質が、炭素粒子と、該炭素粒子の表面に形成されたグラフェン構造を有する多層の繊維状炭素との炭素複合体により構成されている点で相違する。
・本件発明1では、「正極は」「前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェン」を有するのに対して、甲1発明では、正極が当該構成を有することについて特定されていない点で相違する。
・本件発明1では、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲1発明では当該構成が特定されていない点で相違する。
・本件発明1では、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲1発明では当該構成が特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質を有し、
前記負極は、
負極活物質と、第2の多層グラフェンを有する、
リチウムイオン二次電池。
(相違点ア-1)
本件発明1では、「正極は」「前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンを有」するのに対して、甲1発明では、正極が当該構成を有することについて特定されていない点
(相違点ア-2)
本件発明1では、「負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェン」を有するのに対して、甲1発明では、負極活物質が、炭素粒子と、該炭素粒子の表面に形成されたグラフェン構造を有する多層の繊維状炭素との炭素複合体により構成されている点
(相違点ア-3)
本件発明1では、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲1発明では当該構成が特定されていない点。
(相違点ア-4)
本件発明1では、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲1発明では当該構成が特定されていない点。
事案に鑑み相違点ア-4について検討する。
甲第1号証には、得られるリチウムイオン電池の電流休止法抵抗に関して何らの記載も示唆もなく、相違点ア-4とした「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下」なる構成が、技術常識に照らして、甲1発明が当然に有していると解される構成であるとはいえないし、また当業者が容易に相当できた構成であるということもできない。さらに、甲2ないし7を参照しても相違点ア-4に係る記載も示唆もないから、甲2ないし7を考慮しても、本件発明1は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく本件の請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(イ)本件発明2ないし12について
独立請求項である請求項2ないし6は、いずれも「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」との構成を含んでいるから、甲1発明と対比すると少なくとも上記相違点ア-4において相違するものと認められる。
そして、相違点ア-4については上記(ア)で検討したとおりであるから、本件請求項2ないし6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1ないし6の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項7ないし12についても同様である。
したがって、本件の請求項2ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ.甲第2号証を主引例とする申立理由
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲2発明(上記「第5 3.(2)」参照。)とを対比すると、
・甲2発明の「正極」「負極」が本件発明1の「正極」「負極」にそれぞれ相当する。
・甲2発明の「蓄電デバイス」は負極に「リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含」んでいることからリチウムイオン「蓄電デバイス」ということができ、本件発明1の「リチウムイオン二次電池」に相当する。
・甲2発明において「正極」が有する「電極活物質」は本件発明1の「正極活物質」に相当する。
・甲2発明における「多層のグラフェンを含む導電助剤」が、本件発明1の「前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェン」に相当する。
・甲2発明において、負極が有する「リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質」が本件発明1における「負極活物質」に相当する。
・本件発明1は「前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有」しているのに対して、甲2発明は当該第2の多層グラフェンについて特定されていない点で相違する。
・本件発明1では、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲2発明では当該構成が特定されていない点で相違する。
・本件発明1では、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲2発明では当該構成が特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質を有する、
リチウムイオン二次電池。」
(相違点イ-1)
本件発明1は「前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有」しているのに対して、甲2発明は当該第2の多層グラフェンについて特定されていない点。
(相違点イ-2)
本件発明1では、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲2発明では当該構成が明らかではない点。
(相違点イ-3)
本件発明1では、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲2発明では当該構成が特定されていない点。
事案に鑑み相違点イ-3について検討する。
甲第2号証には、得られるリチウムイオン電池の電流休止法抵抗に関して何らの記載も示唆もなく、相違点イ-3とした「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下」なる構成A’が、技術常識に照らして、甲2発明が当然に有していると解される構成であるとはいえないし、また当業者が容易に相当できた構成であるということもできない。さらに、甲1、3ないし7を参照しても相違点イ-3に係る記載も示唆もないから、甲1、3ないし7を考慮しても、本件発明1は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく本件の請求項1に係る発明は甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(イ)本件発明2ないし12について
独立請求項である請求項2ないし6は、いずれも「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」との構成を含んでいるから、甲2発明と対比すると少なくとも上記相違点イ-3において相違するものと認められる。
そして、相違点イ-3については上記(ア)で検討したとおりであるから、本件請求項2ないし6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1ないし6の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項7ないし12についても同様である。
したがって、本件の請求項2ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
ウ.甲第3号証を主引例とする申立理由
令和5年5月22日付け取消理由通知において、請求項1と請求項4に対して甲第3号証を主引例とする申立理由については通知していないので、これについて検討する。
(ア)本件発明1について
甲第3号証に記載された甲3発明は上記「第4 2.(1)」のとおりである。
本件発明1と甲3発明とを対比すると、
・甲3発明の「正極」「負極」「リチウムイオン電池」は、本件発明1の「正極」「負極」「リチウムイオン二次電池」にそれぞれ相当する。
・甲3発明の「負極と正極の両方に用いた」「アモルファスカーボン被覆リン酸鉄リチウム粒子」において、「リン酸鉄リチウム粒子」は「アモルファスカーボン」により被覆されているものの、多層グラフェンにより包み込まれているから、表面を多層グラフェンにより被覆されているといえ、また、活物質として作用することは明らかであるから、本件発明1の「正極活物質」「負極活物質」に相当する。
・甲3発明の「多層グラフェン」はアモルファスカーボン被覆リン酸鉄リチウム粒子を包み込み、表面を被覆するように形成されているから、リン酸鉄リチウム粒子を被覆する領域を有しているということができ、本件発明1の「前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェン」「前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェン」に相当する。
・本件発明1は「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成されている」のに対して、甲3発明では当該事項が特定されていない点で相違している。
・本件発明1では「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲3発明では電流休止法抵抗に関して限定がなく、本件発明1の上記事項について特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有する、
リチウムイオン二次電池。」
(相違点ウ-1)
本件発明1は「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成されている」のに対して、甲3発明では当該事項が明らかではない点。
(相違点ウ-2)
本件発明1では「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲3発明では電流休止法抵抗に関して限定がなく、本件発明1の上記事項について特定されていない点
事案に鑑み相違点ウ-2について検討する。
甲第3号証には、得られるリチウムイオン電池の電流休止法抵抗に関して何らの記載も示唆もなく、相違点2とした「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下」なる構成が、技術常識に照らして、甲3発明が当然に有していると解される構成であるとはいえないし、また当業者が容易に相当できた構成であるということもできない。さらに、甲1、2、4ないし7を参照しても相違点ウ-2に係る記載も示唆もないから、甲1、2、4ないし7を考慮しても、本件発明1は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく本件の請求項1に係る発明は甲第3号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。
(イ)本件発明4について
独立請求項である請求項4も「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」との構成A’を含んでいるから、甲3発明と対比すると少なくとも上記相違点ウ-2において相違するものと認められる。
そして、相違点ウ-2については上記(ア)で検討したとおりであるから、本件請求項4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。
したがって、本件の請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
エ.甲第4号証を主引例とする申立理由
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲4発明(上記「第5 3.(3)」参照。)とを対比すると、
・電池における「アノード」は「負極」にあたることを踏まえると、甲4発明の「リチウムイオン電池」「アノード」が、本件発明1の「リチウムイオン二次電池」「負極」にそれぞれ相当する。
・甲4発明に特定はないが、リチウムイオン二次電池である以上、正極と正極活物質を有することは自明である。
・甲4発明において、「多層のグラフェンでコーティングしたシリコン」は、本件発明1の「第2の多層グラフェン」で被覆された「負極活物質」に相当する。
・本件発明1では正極が「前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、を有し」ているのに対して、甲4発明では当該事項について特定されていない点で相違している。
・本件発明1では、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲4発明では当該構成が特定されていない点で相違する。
・本件発明1では、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲4発明では当該構成が特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、正極活物質を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有する、
リチウムイオン二次電池。」
(相違点エ-1)
本件発明1では正極が「前記正極活物質を被覆する領域を有する第1の多層グラフェンと、を有し」ているのに対して、甲4発明では当該事項について特定されていない点。
(相違点エ-2)
本件発明1では、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲4発明では当該構成が特定されていない点。
(相違点エ-3)
本件発明1では、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲4発明では当該構成が特定されていない点。
事案に鑑み相違点エ-3について検討する。
甲第4号証には、得られるリチウムイオン電池の電流休止法抵抗に関して何らの記載も示唆もなく、相違点エ-3とした「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下」なる構成が、技術常識に照らして、甲4発明が当然に有していると解される構成であるとはいえないし、また当業者が容易に相当できた構成であるということもできない。さらに、甲1ないし3、5ないし7を参照しても相違点エ-3に係る記載も示唆もないから、甲1ないし3、5ないし7を考慮しても、本件発明1は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく本件の請求項1に係る発明は甲第4号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(イ)本件発明2ないし12について
独立請求項である請求項2ないし6は、いずれも「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」との構成を含んでいるから、甲4発明と対比すると少なくとも上記相違点エ-3において相違するものと認められる。
そして、相違点エ-3については上記(ア)で検討したとおりであるから、本件請求項2ないし6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1ないし6の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項7ないし12についても同様である。
したがって、本件の請求項2ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
オ.甲第5号証を主引例とする申立理由
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲5発明(上記「第5 3.(4)」参照。)とを対比すると、
・甲5発明の「正極電極活物質」が本件発明1の「正極活物質」に相当する。甲5発明の正極に含まれる「多層のグラフェン粉末」は高分散性を有するが、本件発明1のように正極活物質を被覆する領域を有しているかは明らかでない。しかしながら「多層」の「グラフィン」であるという点で、本件発明1の「第1の多層のグラフェン」に相当する。
・甲5発明の「負極電極活物質」が本件発明1の「負極活物質」に相当する。甲5発明の負極に含まれる「多層のグラフェン粉末」は高分散性を有するが、本件発明1のように負極活物質を被覆する領域を有しているかは明らかでない。しかしながら「多層」の「グラフィン」であるという点で、本件発明1の「第2の多層のグラフェン」に相当する。
・甲5発明の「多層のグラフェン粉末」と「正極電極活物質」とを含む「正極」は、本件発明1の「第1の多層グラフェン」と「正極活物質」を有する「正極」に相当し、甲5発明の「多層のグラフェン粉末」と「負極電極活物質」とを含む「負極」は、本件発明1の「第2の多層グラフェン」と「負極活物質」を有する「負極」に相当する。
そして、甲5発明の「正極」と「負極」と「を有するリチウムイオン電池」が、本件発明1の「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池」に相当する。
・本件発明1は「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」のに対して、甲5発明では当該事項が特定されていない点で相違する。
・本件発明1は「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲5発明では当該事項が特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲5発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、
正極活物質と、
第1の多層グラフェンと、を有し、
前記負極は、
負極活物質と、
第2の多層グラフェンと、を有する、
リチウムイオン二次電池。」
(相違点オ-1)
本件発明1では「第1の多層グラフェン」は正極活物質を被覆する領域を有しているのに対して、甲5発明の正極に含まれる「多層のグラフェン粉末」については当該事項が明らかでない点。
(相違点オ-2)
本件発明1では「第2の多層グラフェン」は負極活物質を被覆する領域を有しているのに対して、甲5発明の負極に含まれる「多層のグラフェン粉末」については当該事項が明らかでない点。
(相違点オ-3)
本件発明1は「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲5発明では当該事項が明らかではない点。
(相違点オ-4)
本件発明1は「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲5発明では当該事項が明らかではない点。
事案に鑑み相違点オ-4について検討する。
甲第5号証には、得られるリチウムイオン電池の電流休止法抵抗に関して何らの記載も示唆もなく、相違点オ-4とした「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下」なる構成が、技術常識に照らして、甲5発明が当然に有していると解される構成であるとはいえないし、また当業者が容易に相当できた構成であるということもできない。さらに、甲1ないし4、6、7を参照しても相違点オ-4に係る記載も示唆もないから、甲1ないし4、6、7を考慮しても、本件発明1は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく本件の請求項1に係る発明は甲第5号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。
(イ)本件発明2ないし12について
独立請求項である請求項2ないし6は、いずれも「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」との構成を含んでいるから、甲5発明と対比すると少なくとも上記相違点オ-4において相違するものと認められる。
そして、相違点オ-4については上記(ア)で検討したとおりであるから、本件請求項2ないし6に係る発明は、甲第5号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1ないし6の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項7ないし12についても同様である。
したがって、本件の請求項2ないし6、9項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。また、請求項2ないし12項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
カ.甲第6号証を主引例とする申立理由
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲6発明(上記「第5 3.(5)」参照。)とを対比すると、
・甲6発明の「正極と負極を有するリチウム二次電池」は本件発明1の「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池」に相当する。
・甲6発明の正電極材料の「活物質」は本件発明1の「正極活物質」に相当する。
・甲6発明の「グラフェン形態、無定形形態等である炭素材料」は「活物質の表面」を「被覆」しているから、本件発明1の「正極活物質を被覆する領域を有する」「グラフェン」である点では相当するものの、甲6発明のグラフェン形態の炭素材料は多層であることが特定されていない点で相違する。
・本件発明1は「負極」について「前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有し」ているが、甲6発明では「負極」について当該事項が特定されていない点で相違する。
・本件発明1では、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲6発明では当該構成が特定されていない点で相違する。
・本件発明1では、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲6発明では当該構成が特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲6発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「正極と、負極と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、負極活物質を有し、
前記正極は、
正極活物質と、
前記正極活物質を被覆する領域を有するグラフェンと、を有する、
リチウムイオン二次電池。」
(相違点カ-1)
本件発明1は「第1の多層グラフェン」を有するのに対して、甲6発明の「グラフェン形態」の「炭素材料」は「多層」であることが特定されていない点。
(相違点カ-2)
本件発明1は「負極」について「前記負極活物質を被覆する領域を有する第2の多層グラフェンと、を有し」ているが、甲6発明では「負極」について当該事項が特定されていない点。
(相違点カ-3)
本件発明1では、「複数の前記第1の多層グラフェンが三次元的に分散しこれらが互いに面接触することで前記正極内に三次元の電気伝導経路が形成され」るのに対して、甲6発明では当該構成が明らかではない点。
(相違点カ-4)
本件発明1では、「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」のに対して、甲6発明では当該構成が明らかではない点。
事案に鑑み相違点カ-4について検討する。
甲第6号証には、得られるリチウムイオン電池の電流休止法抵抗に関して何らの記載も示唆もなく、相違点カ-4とした「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下」なる構成が、技術常識に照らして、甲6発明が当然に有していると解される構成であるとはいえないし、また当業者が容易に相当できた構成であるということもできない。さらに、甲1ないし5、7を参照しても相違点カ-4に係る記載も示唆もないから、甲1ないし5、7を考慮しても、本件発明1は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく本件の請求項1に係る発明は甲第6号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(イ)本件発明2ないし12について
独立請求項である請求項2ないし6は、いずれも「前記正極をハーフセルに組み込み、前記ハーフセルの理論容量を150mAh/gとして前記ハーフセルの定電流充電時に電流の休止を行って、前記電流の休止直後の電圧と前記電流の休止3秒後の電圧との差を用いて電流休止法抵抗の測定を行った場合に、休止時の容量が195mAh/g以上240mAh/g以下の範囲において前記電流休止法抵抗が50.5オーム以上82.6オーム以下である」との構成A’を含んでいるから、甲6発明と対比すると少なくとも上記相違点カ-4において相違するものと認められる。
そして、相違点カ-4については上記(ア)で検討したとおりであるから、本件請求項2ないし6に係る発明は、甲第6号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1ないし6の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項7ないし12についても同様である。
したがって、本件の請求項2ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(3)申立理由4(新規事項追加)について
異議申立人は補正の新規事項追加として以下のような主張を行っている。
「本件特許の請求項1~12は、令和2年12月18日付手続補正書により補正されたものである。
上記手続補正書により補正された補正後請求項2、3、5及び6(本件特許発明2、3、5及び6) に記載されている『第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェン』『第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェン』について明細書には記載がなく、その技術的意義が不明であり、補正により新たな技術的事項が追加されたものといえる。
そもそも、『第1の多層グラフェン』『第2の多層グラフェン』についても明細書に記載はないため、このことを規定する補正後請求項1及び4に係る補正も、新規事項を追加するものである可能性はあるが、活物質に多層グラフェンを被覆するという技術的事項は本件特許明細書から理解できる。このことから、活物質に被覆された多層グラフェンを『第1の多層グラフェン』『第2の多層グラフェン』と解釈する。この場合に、『第1の多層グラフェン』『第2の多層グラフェン』とは別に存在する『第3の多層グラフェン』『第4の多層グラフェン』がどのような構成であるのかは、明細書の記載から理解することができない。
したがって、補正後請求項2、3、5、6及びこれらを引用する補正後請求項7~12に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に反してされたものであり、本件特許発明2、3、5~12は取り消されるべきである。」(特許異議申立書40、41ページ(4-4)参照。)
上記主張について検討する。
異議申立人は「第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェン」「第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェン」について明細書に記載がなく技術的意義が不明であり、「第3の多層グラフェン」「第4の多層グラフェン」の構成が理解できないと主張している。
しかしながら、本件の当初明細書には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0035】
また、複数のグラフェン204どうしも面接触している。これはグラフェン204の形成に、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いるためである。均一に分散した酸化グラフェンを含有する混合物から溶媒を蒸発させて除去し、酸化グラフェンを還元してグラフェンとするため、活物質層202に残留するグラフェン204は部分的に重なり合い、互いに面接触する程度に分散している。これによって、活物質層202において、電気伝導の経路が形成されている。」
「【0037】
・・・・・また、グラフェン204どうしも互いに面接触することで複数のグラフェン204により電気伝導のネットワークを形成している。図2(C)をさらに拡大した模式図が図3である。複数の粒状の活物質203の表面上に張り付くようにグラフェン204が被覆するとともに、グラフェンどうしもまた接触してネットワークを形成している。
【0038】
図2(B)、図2(C)及び図3で示したように、シート状の複数のグラフェン204は活物質層202の内部において三次元的に分散しており、これらが互いに面接触することで、三次元の電気伝導性のネットワークを形成している。また、それぞれのグラフェン204は、複数の粒状の活物質203を被覆し面接触している。」
上記記載によれば複数のグラフェン同士が互いに接触する構成が明らかである。これを踏まえると、請求項2に記載された「第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェン」「第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェン」とは2つの多層グラフェンが直接接する構成を有することを、第1の多層グラフェンとともに、第1の多層グラフェンと接触する第1の多層グラフェンとは異なる第3の多層グラフェンを記載することにより示していることは当業者にとって明らかである。同様に、2つの多層グラフェンが直接接する構成を有することを、第2の多層グラフェンとともに、第2の多層グラフェンと接触する第2の多層グラフェンとは異なる第4の多層グラフェンを記載しているといえる。
そうしてみると、「第1の多層グラフェンと接する領域を有する第3の多層グラフェン」「第2の多層グラフェンと接する領域を有する第4の多層グラフェン」との記載は、本件の当初明細書に記載されていたグラフェン同士が互いに接触する構成を示しているにすぎない。また「第3の多層グラフェン」「第4の多層グラフェン」は、それぞれ活物質を被覆する「第1の多層グラフェン」「第2の多層グラフェン」とは異なるグラフェンと接する多層グラフェンであることを表すために「第3」「第4」と表記していると理解される。
したがって、請求項2、3、5、6及びこれらを引用する補正後請求項7~12に係る令和2年12月18日付手続補正書による補正は、新たな技術的事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に反してされたものではない。
(4)申立理由5(明確性)について
異議申立人は明確性違反に関して以下のような主張を行っている。
「・・・・本件特許発明2、3、5及び6で規定する『第3の多層グラフェン』『第4の多層グラフェン』の技術的意義を当業者が理解できないので、本件特許発明2、3、5及び6は明確でない。
従って、本件特許発明2、3、5及び6これらに従属する本件特許発明7~12は特許法第36条第6項第2号に規定する明確性要件を満たさず、取り消されるべきものである。」(特許異議申立書41ページ(4-5)参照。)
上記主張について検討すると、上記(3)で検討したように、「第3の多層グラフェン」「第4の多層グラフェン」は、それぞれ活物質を被覆する「第1の多層グラフェン」「第2の多層グラフェン」とは異なるグラフェンと接する多層グラフェンであることを表すために「第3」「第4」と表記していることは明らかであり、「第3の多層グラフェン」「第4の多層グラフェン」の技術的意義は当業者が理解できるものである。
したがって、これらの表記を含む本件特許発明2、3、5及び6これらに従属する本件特許発明7~12は特許法第36条第6項第2号に規定する明確性要件を満たしている。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700769