特許異議申立
2022-700335
ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法
- 審判番号
- 2022-700335
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-523086
- 登録番号
- 6954498
- 請求日
- 2022年04月25日
- 審決日
- 2023年09月14日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人英明国際特許事務所
- 【異議申立人】椎名 一男
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P1651.537-YAA(G03F) / P1651.113-YAA(G03F) / P1651.121-YAA(G03F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6954498号発明「ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6954498号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。
特許第6954498号の請求項1-5、7、9、11-19に係る特許を維持する。
特許第6954498号の請求項6、8、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6954498号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、令和3年2月2日に出願され(優先権主張 令和2年2月4日、以下「本件優先日」という。)、令和3年10月4日にその特許権の設定登録がされ、令和3年10月27日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 4月25日 :特許異議申立人 椎名一男(以下「申立人」
という。)による特許異議の申立て
令和4年 7月 5日付け:取消理由通知書(以下「第1次取消理由通知
書」という。)
令和4年10月 6日 :特許権者による訂正請求書(以下、この請求
書による訂正を「第1次訂正」という。)及
び意見書の提出
令和4年12月15日 :申立人による意見書の提出
令和5年 3月10日付け:取消理由通知書(決定の予告)(以下「第2
次取消理由通知書」という。)
令和5年 5月12日 :特許権者による訂正請求書(以下、この請求
書による訂正を「本件訂正」という。)及び
意見書の提出
なお、第1次訂正に係る請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされた。また、当審は、申立人に対して本件訂正に係る請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人は意見書を提出しなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容について
本件訂正は、本件特許の特許登録時の願書に添付した特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を、次のとおり訂正するものである(下線は、訂正箇所を示すものとして当審が付した。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された「ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの内側面には、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域を有することを特徴とするペリクルフレーム。」を「ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する四角形枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの材料はチタン又はチタン合金であり、該ペリクルフレームには通気部が設けられており、EUV露光の圧力変化時に前記通気部を通る空気によりペリクル内部の空気の移動が生じ、該ペリクルフレームの各辺内側面の中央部における粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下であり、且つ、検査光に対する反射率が5%以上20%以下であることを特徴とするEUV用ペリクルフレーム。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~5、7、9、11~19も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に記載された「検査光の波長が550nmである請求項6記載のペリクルフレーム。」を「検査光の波長が550nmである請求項1記載のペリクルフレーム。」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(6) 訂正事項6
段落【0013】に、「従って、本発明は、下記のペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法を提供する。
1.ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの内側面には、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域を有することを特徴とするペリクルフレーム。
2.粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域は、ペリクルフレームの内側面全部の領域又はペリクルフレームの表面全部の領域である上記1記載のペリクルフレーム。
3.上記粗さ曲線のクルトシス(Rku)が、0.1以上である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
4.ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、平均粗さ(Ra)が0.001~1.0の範囲である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
5.ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、二乗平均平方根高さ(Rq)が0.001~1.0の範囲である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
6.検査光に対する反射率が20%以下である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
7.検査光の波長が550nmである上記6記載のペリクルフレーム。
8.ペリクルフレームの材料は、チタン、チタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる群から選ばれる上記1又は2記載のペリクルフレーム。
9.ペリクルフレームの厚みが、2.5mm未満である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
10.ペリクルフレームの厚みが、1.0mm以上である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
11.ペリクルフレームの表面に酸化膜が形成されている上記1又は2記載のペリクルフレーム。
12.ペリクルフレームの表面が黒色化されている上記1又は2記載のペリクルフレーム。
13.ペリクルフレームの表面に物理的研磨又は化学的研磨が施されている上記1又は2記載のペリクルフレーム。
14.EUV用ペリクルに用いられるペリクルフレームである上記1又は2記載のペリクルフレーム。
15.上記1記載のペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一端面に粘着剤又は接着剤を介して設けられるペリクル膜とを具備することを特徴とするペリクル。
16.ペリクル膜が、ペリクルフレームの上端面に設けられる上記15記載のペリクル。
17.ペリクル膜が、シリコン膜又は炭素膜である上記15又は16記載のペリクル。
18.ペリクルの高さが2.5mm以下である上記15又は16記載のペリクル。
19.真空下又は減圧下における露光に使用される上記15又は16記載のペリクル。
20.EUV露光に使用される上記15又は16記載のペリクル。
21.露光原版に、上記15記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
22.露光原版が、EUV用露光原版である上記21記載のペリクル付露光原版。
23.EUVリソグラフィに用いられるペリクル付露光原版である上記21記載のペリクル付露光原版。
24.上記21記載のペリクル付露光原版によって露光が行われることを特徴とする露光方法。
25.露光の光源が、EUV光を発する露光光源である上記24記載の露光方法。
26.上記21記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
27.露光の光源が、EUV光を発する露光光源である上記26記載の半導体装置の製造方法。
28.上記21記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
29.露光の光源が、EUV光を発する露光光源である上記28記載の液晶表示板の製造方法。」と記載されているのを、「従って、本発明は、下記のペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法を提供する。
1.ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する四角形枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの材料はチタン又はチタン合金であり、該ペリクルフレームには通気部が設けられており、EUV露光の圧力変化時に前記通気部を通る空気によりペリクル内部の空気の移動が生じ、該ペリクルフレームの各辺内側面の中央部における粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下であり、且つ、検査光に対する反射率が5%以上20%以下であることを特徴とするEUV用ペリクルフレーム。
2.粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域は、ペリクルフレームの内側面全部の領域又はペリクルフレームの表面全部の領域である上記1記載のペリクルフレーム。
3.上記粗さ曲線のクルトシス(Rku)が、0.1以上である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
4.ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、平均粗さ(Ra)が0.001~1.0の範囲である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
5.ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、二乗平均平方根高さ(Rq)が0.001~1.0の範囲である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
7.検査光の波長が550nmである上記1記載のペリクルフレーム。
金からなる群から選ばれる上記1又は2記載のペリクルフレーム。
9.ペリクルフレームの厚みが、2.5mm未満である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
11.上記1記載のペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一端面に粘着剤又は接着剤を介して設けられるペリクル膜とを具備することを特徴とするペリクル。
12.真空下又は減圧下における露光に使用される上記11記載のペリクル。
13.EUV露光に使用される上記11又は12記載のペリクル。
14.露光原版に、上記11記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
15.上記14記載のペリクル付露光原版によって露光が行われることを特徴とする露光方法。
16.露光の光源が、EUV光を発する露光光源である上記15記載の露光方法。
17.上記露光が、真空下又は減圧下におけいて行われる上記15又は16記載の露光方法。
18.上記14記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
19.上記14記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。」に訂正する。
(7)なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1-19〕について請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1-19〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1について、下記(ア)ないし(カ)の訂正を行うものである。
(ア) 特許請求の範囲の請求項1の「枠状のペリクルフレーム」を、「四角形枠状のペリクルフレーム」に限定する。
(イ) 特許請求の範囲の請求項1に「該ペリクルフレームの材料はチタン又はチタン合金であり、」との限定を付加する。
(ウ) 特許請求の範囲の請求項1に「該ペリクルフレームには通気部が設けられており、EUV露光の圧力変化時に前記通気部を通る空気によりペリクル内部の空気の移動が生じ、」との限定を付加する。
(エ) 特許請求の範囲の請求項1の「該ペリクルフレームの内側面には、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域を有する」を「該ペリクルフレームの各辺内側面の中央部における粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下であり、」に限定する。
(オ) 特許請求の範囲の請求項1に「且つ、検査光に対する反射率が5%以上20%以下である」との限定を付加する。
(カ) 特許請求の範囲の請求項1の「ペリクルフレーム。」を、「EUV用ペリクルフレーム。」に限定する。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
(ア) 上記ア(ア)の訂正について
当該訂正に係る事項は、本件特許の特許登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)の「ペリクルフレームは枠状であれば、その形状はペリクルを装着するフォトマスクの形状に対応する。一般的には、四角形(長方形又は正方形)枠状である。」(【0017】)の記載に照らして、新規事項を追加するものではない。
(イ) 上記ア(イ)の訂正について
当該訂正に係る事項は、本件明細書等の「ペリクルフレームの材質に制限はなく、公知のものを使用することができる。・・・チタン又はチタン合金から選ばれることが好ましい。」(【0020】)の記載に照らして、新規事項を追加するものではない。
(ウ) 上記ア(ウ)の訂正について
当該訂正に係る事項は、本件明細書等の「EUV露光は高真空下で行われるため、EUV用ペリクルは大気圧から真空へ、および真空から大気圧へと圧力変化に晒される。この際、ペリクルフレームに設けられた通気部を通って空気の移動が発生する。」(【0009】)の記載に照らして、新規事項を追加するものではない。
(エ) 上記ア(エ)の訂正について
当該訂正に係る事項は、本件明細書等の「各例のペリクルのフレーム各辺内側面の中央部4点(図1の符号P,P,P,P)における、算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq及びクルトシス(Rku)を3D測定レーザー顕微鏡「LEXT OLS4000」(オリンパス(株)製、型式名)を用いて以下の条件で測定した。」(【0049】)の記載に照らして、新規事項を追加するものではない。
(オ) 上記ア(オ)の訂正について
当該訂正に係る事項は、訂正前の請求項6の「検査光に対する反射率が20%以下である」及び表1(【0051】)の実施例3、4における検査光に対する反射率が5%であることに基づいて導き出される技術的事項であるから、新規事項を追加するものではない。
(カ) 上記ア(カ)の訂正について
当該訂正に係る事項は、本件明細書等の段落【0009】(上記(ウ)参照)の記載に照らして、新規事項を追加するものではない。
(キ) 以上によれば、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないか否かについて
訂正事項1は、上記ア及びイにも照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(2) 訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであり、したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項2は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないか否かについて
訂正事項2は、上記アで述べたとおり、訂正前の請求項6を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3) 訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項7が訂正前の請求項6を引用していたところ、本件訂正により、訂正前の請求項1に訂正前の請求項6の特定事項が付加される(上記1(1)参照。)とともに、訂正前の請求項6が削除されたことに伴ってこのような引用ができなくなったことを踏まえて、当該請求項6の記載を引用せずに、訂正前の請求項6の特定事項が付加された訂正後の請求項1を引用するようにした訂正である。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記アに照らせば、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないか否かについて
上記ア及びイに照らせば、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4) 訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであり、したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項4は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないか否かについて
訂正事項4は、上記アで述べたとおり、訂正前の請求項8を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5) 訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであり、したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項5は、訂正前の請求項10を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないか否かについて
訂正事項5は、上記アで述べたとおり、訂正前の請求項10を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(6) 訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、特許請求の範囲を引用していた段落【0013】の記載について、本件訂正後の特許請求の範囲と整合をとるためにした訂正である。
そうすると、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記(1)イないし(5)イに照らせば、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないか否かについて
上記ア及びイに照らせば、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(7) 小括
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3項に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、訂正後の請求項1ないし19は、特許異議の申立てがなされた請求項であるから、当該各請求項についての訂正には、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正の適否についての判断の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たすものである。
よって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1ないし19に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明19」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する四角形枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの材料はチタン又はチタン合金であり、該ペリクルフレームには通気部が設けられており、EUV露光の圧力変化時に前記通気部を通る空気によりペリクル内部の空気の移動が生じ、該ペリクルフレームの各辺内側面の中央部における粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下であり、且つ、検査光に対する反射率が5%以上20%以下であることを特徴とするEUV用ペリクルフレーム。」
【請求項2】
粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域は、ペリクルフレームの内側面全部の領域又はペリクルフレームの表面全部の領域である請求項1記載のペリクルフレーム。
【請求項3】
上記粗さ曲線のクルトシス(Rku)が、0.1以上である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、平均粗さ(Ra)が0.001~1.0の範囲である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、二乗平均平方根高さ(Rq)が0.001~1.0の範囲である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
検査光の波長が550nmである請求項1記載のペリクルフレーム。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
ペリクルフレームの厚みが、2.5mm未満である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
請求項1記載のペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一端面に粘着剤又は接着剤を介して設けられるペリクル膜とを具備することを特徴とするペリクル。
【請求項12】
真空下又は減圧下における露光に使用される請求項11記載のペリクル。
【請求項13】
EUV露光に使用される請求項11又は12記載のペリクル。
【請求項14】
露光原版に、請求項11記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
【請求項15】
請求項14記載のペリクル付露光原版によって露光が行われることを特徴とする露光方法。
【請求項16】
露光の光源が、EUV光を発する露光光源である請求項15記載の露光方法。
【請求項17】
上記露光が、真空下又は減圧下において行われる請求項15又は16記載の露光方法。
【請求項18】
請求項14記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項19】
請求項14記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。」
第4 第1次取消理由通知書及び第2次取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
第1次訂正後の請求項1ないし19に係る特許に対する第2次取消理由通知書における取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。なお、第1次取消理由通知書における取消理由の要旨も同様である。
[理由]
(新規性) 第1次訂正後の請求項1ないし19に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該各発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(進歩性) 第1次訂正後の請求項1ないし19に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 証拠方法
1 甲各号証
申立人が提出した甲各号証は次のとおりである。
(1)甲第1号証:特開2001-249442号公報
(2)甲第2号証:吉田瞬他、「ショットブラスト加工表面の表面性状評価パラメータ」軽金属 第61巻第5号(2011) p.187~191
(3)甲第3号証:特開平11-167198号公報
(4)甲第4号証:オリンパス株式会社、「表面粗さ測定-パラメーターについて」 オリンパス株式会社のホームページURL:https://www.olympus-ims.com/ja /metrology/surface-roughness-measurement-portal/parameters/
(5)甲第5号証:特開2016-191902号公報
(6)甲第6号証:特開2016-48307号公報
2 乙号証
特許権者が提出した乙各号証は次のとおりである。
(1)乙第1号証:「SURFACE ROUGHNESS AT ALMINIUM PARTS SAND BLASTING」Proceedings in Manufacturing Systems, Vol.6, Issue 2, 2011 p.67-74
(2)乙第2号証:杉本真樹他、「マイクロブラスト加工における固気二相噴流の挙動と加工特性」砥粒加工学会誌、Vol.51, No.1, 2007 p.46-51
(3)乙第3号証:長坂秀雄、「ブラストした面の観察と分類」実務表面技術、1975年22巻8号、p.320~324
第6 第1取消理由通知書及び第2取消理由通知書(決定の予告)における取消理由に対する当審の判断
1 甲号証に記載された事項及び甲号証に記載された発明
甲第1号証(以下、「第」及び「号証」を略して記載する。)に記載された事項及び甲1に記載された発明
本件優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1には、下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている(なお、括弧内は、認定の根拠とした箇所を示す。)。
「ペリクルフレーム内面での光線の反射率を0.3%以下とし、(【請求項1】)
前記光線の波長が、400~1,100nmであり、(【請求項2】)
前記光線は検査時に照射される検査光である、(【0011】)
ペリクルフレームであって、
前記ペリクルフレームは、上端面にペリクル膜貼り付け用接着剤を介してペリクル膜を張設するとともに、下端面にレチクル貼り付け用接着剤層を形成して、前記レチクル貼り付け用接着剤層の下面に保護シートを剥離可能とすることによりペリクルとなすことができる、(【0012】)
ペリクルフレーム。」
2 甲1に記載された発明に基づく新規性及び進歩性欠如について
(1) 本件発明1との対比、一致点及び相違点の認定
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「ペリクルフレーム」は、「上端面にペリクル膜貼り付け用接着剤を介してペリクル膜を張設するとともに、下端面にレチクル貼り付け用接着剤層を形成して、前記レチクル貼り付け用接着剤層の下面に保護シートを剥離可能とすることによりペリクルとなすことができる」ものであって、ペリクルとして使用するに際しては、「レチクル貼り付け用接着剤層3が形成され」る「下端面」がレチクル(フォトマスク)に面することは明らかである。
また、甲1発明の「ペリクルフレーム」が、枠状のペリクルフレームであることは明らかである。
したがって、甲1発明の「ペリクルフレーム」は、本件発明1の「ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する四角形枠状のペリクルフレーム」とは、「ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレーム」である点で一致する。
イ 甲1発明の「ペリクルフレーム」は、「ペリクルフレーム内面での光線の反射率を0.3%以下」とするものであり、「前記光線は検査時に照射される検査光である」ものであるから、ペリクルフレーム内面での検査光に対する反射率が0.3%以下であるといえる。そして、本件発明の「ペリクルフレームの各辺内側面の中央部」と甲1発明の「ペリクルフレーム内面」とは、ペリクルフレーム内面部である点で一致する。
よって、本件発明と甲1発明とは、ペリクルフレーム内面部における検査光に対する反射率が所定の値である点で一致する。
ウ 以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、下記点で一致するとともに、下記各点で相違する。
【一致点】
「ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの内面部における検査光に対する反射率が所定の値であるペリクルフレーム。」
【相違点】
(相違点1)
枠状のペリクルフレームが、本件発明1は「四角形」であるのに対して、甲1発明はそうであるか不明である点。
(相違点2)
ペリクルフレームの材料が、本件発明1は「チタン又はチタン合金」であるのに対して、甲1発明はそうであるか不明である点。
(相違点3)
ペリクルフレームが、本件発明1は「EUV用」であって、「該ペリクルフレームには通気部が設けられており、EUV露光の圧力変化時に前記通気部を通る空気によりペリクル内部の空気の移動が生じ」るのに対して、甲1発明はそうであるのか不明である点。
(相違点4)
ペリクルフレームが、本件発明1は、「各辺内側面の中央部における粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下であ」るのに対して、甲1発明は、そうであるか不明である点。
(相違点5)
ペリクルフレームの内面部における検査光に対する反射率及びその所定の値について、内面部が、本件発明1は「各辺内側面の中央部」であるのに対して、甲1発明は「内面」であり、所定の値が、本件発明1は「5%以上20%以下である」のに対して、甲1発明は「波長が、400~1,100nmであ」る「検査時に照射される検査光である」「光線」について、「0.3%以下」である点。
(2) 判断
ア 事案に鑑み、相違点5から検討する。
甲1発明は、ペリクルの異物検査装置においては、レーザー光線をペリクル上に照射し、異物からの散乱光を検出しているところ、これらの検査装置の検出精度を高めても、フレームからの微弱な散乱光によって検出器が誤検出を起こすという課題があった(【0008】)ことから、検査光に対する「ペリクルフレーム内面での光線の反射率を0.3%以下」とすることによって、その課題を解決することに技術的意義を有するものと認められる。しかるに、甲1発明から出発した当業者が相違点5に係る本件発明1の構成に至るためには、少なくとも、その反射率を「5%以上20%以下」と構成する必要があると解されるところ、そのように構成することは、上記技術的意義に沿わないことから、阻害要因があるといえる。
そして、甲2-甲6の記載を踏まえても、上記の判断を左右するものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1-甲6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2-5、7、9、11-19について
本件発明2-5、7、9、11-19は、本件発明1を直接的ないし間接的に引用するものであって、いずれも、上記相違点5を含むから、上記アと同様の理由が成り立つ。
(3) 新規性欠如・進歩性欠如についての小括
以上のとおりであるから、甲1に記載された発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如に係る取消理由は理由がない。
3 小括
よって、第1取消理由通知書及び第2取消理由通知書(決定の予告)における取消理由は理由がない。
第7 第1次取消理由通知書及び第2次取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立の理由に対する当審の判断
申立人は、本件発明2以外の本件発明の記載がRkuが3.0を超える領域を含むことをもって、当該各発明の記載がサポート要件違反である旨主張するが、フレーム由来の散乱光を防止し、フレーム表面に付着した異物を確実かつ容易に検出することができるという課題(本件訂正後の本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)の【0011】)は、Rkuが3.0を超える領域が存在すれば、存在しないものに比べて、解決できたといえる。
申立人は、特許登録時の請求項1-7、9-19の記載について、ペリクルフレームの材質がチタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金以外のものを含んでいることをもってサポート要件違反である旨主張するが、本件発明の記載は、チタン又はチタン合金に限定されている。
申立人は、本件発明の効果に寄与するものが、様々な表面粗さの指標のうちで、粗さ曲線のクルトシス(Rku)である根拠が、発明の詳細な説明の記載からは明らかでない旨主張するが、本件訂正明細書等には、「本発明者は、ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの内側面において、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域を有するように該ペリクルフレームに対して表面処理を行ったところ、ペリクルフレーム表面の尖り部を抑えることができ、該ペリクルフレーム表面の微小な異物を検査することが可能であることを知見した。」(【0012】)と記載されており、また、実施例の結果(【0051】)をみても、そのことが確認できるといえる。
したがって、特許異議申立書における上記申立の理由は理由がない。
第8 むすび
以上によれば、第1次取消理由通知書及び第2次取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由並びに特許異議申立理由によっては、本件発明1-5、7、9、11-19に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件発明1-5、7、9、11-19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項6、8、10に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項6、8、10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700335