特許異議申立
2022-700283
マスターバッチの製造方法
- 審判番号
- 2022-700283
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-527615
- 登録番号
- 6944451
- 請求日
- 2022年04月05日
- 審決日
- 2022年08月18日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】中村 充利
- 【権利者代理人】小笠原 有紀
- 【権利者代理人】新井 規之
- 【異議申立人】前田 健一
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 奥田 雄介
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6944451号発明「マスターバッチの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6944451号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6944451号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)7月11日(優先権主張 平成28年7月11日)を国際出願日とする出願であって、令和3年9月14日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年10月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年4月5日に特許異議申立人 前田 健一(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)ゴム成分とセルロース系繊維を含む混合物を得る工程、および
(b)前記混合物を、120~300℃で15~600分加熱する工程、を含む、
マスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)を、前記ゴム成分の分散液または溶液、あるいは前記セルロース系繊維の分散液を用いて実施し、
前記工程(b)の前に、当該分散媒または溶媒を除去する工程をさらに含む、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記セルロース系繊維が、化学変性されたセルロース系繊維である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記セルロース系繊維の長さ加重平均繊維長が50~2000nm、長さ加重平均繊維径が2~500nmである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記ゴム成分が、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)ポリマー、天然ゴム(NR)ポリマー、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)ポリマー、またはクロロプレンゴム(CR)ポリマーを含む、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記温度が150~300℃である、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記時間が30~600分間である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7に記載の方法でマスターバッチを調製する工程、および
当該マスターバッチに架橋剤を混合する工程を含む、未架橋ゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の未架橋ゴム組成物を架橋する工程を含む、ゴム組成物の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年4月5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記(1)及び(2)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許明細書において、本件特許発明の「セルロース系繊維」には、所定量未満の化学変性したセルロースナノファイバーのみならず、化学変性していないセルロースナノファイバーも含まれるが、一般的に、用いるセルロース系繊維の種類が異なれば、それを含むマスターバッチ及びマスターバッチから製造されるゴム組成物の機能・特性は予測不可能に変化し得るものであり、実施例において開示された所定量の化学変性したセルロースナノファイバー以外のセルロース系繊維を用いたマスターバッチが、実施例と同等に、優れた機械的特性を有するゴム組成物を与えることは推認できない。
したがって、本件特許発明1ないし9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2)本件特許明細書の実施例では、分散媒または溶媒を用いてゴム成分とセルロース系繊維を混合し、用いた分散媒または溶媒を乾燥する工程を経て、高温で加熱している例のみによって本件特許発明の効果を検証しているため、分散媒または溶媒を用いずにゴム成分とセルロース系繊維を混合し、分散媒または溶媒を乾燥する工程を経ずに、高温で加熱することによっても、本件特許発明の効果を奏することができるのかが当業者であっても推認することは非常に困難であり、よって、分散媒または溶媒を用いずにゴム成分とセルロース系繊維を混合した場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件特許発明1ないし9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記(1)及び(2)の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)上記2の(1)で示した点で、本件特許明細書には、本件特許発明1ないし9において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。
(2)上記2の(2)で示した点で、本件特許明細書には、本件特許発明1ないし9において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2013-18918号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
ゴムにセルロース繊維を配合してなるゴム組成物であって、該セルロース繊維の平均繊維径が1~200nmであり、該セルロース繊維を構成するセルロースがカルボキシ基を有するものである、ゴム組成物。」
・「【請求項3】
セルロース繊維が、天然セルロースにN-オキシル化合物を触媒として酸化反応させて得られるものである、請求項1又は2に記載のゴム組成物。」
・「【請求項8】
下記工程(1)及び(2)を有する、請求項1~7のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
工程(1):ゴムラテックスとセルロース繊維の水分散液とを混合した後、少なくとも水の一部を除去してセルロース繊維/ゴム複合体を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られた複合体とゴムとを混合する工程」
・「【0035】
また、本発明のゴム組成物は、公知の方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋して使用することができる。例えば、ロール等の開放式混練機、バンバリーミキサー等の密閉式混練機等の混練機を用いて混練し、成形加工後に加硫を行い、各種ゴム製品用途に適用することができる。例えば、タイヤ用途を始め、防振ゴム、防舷材,ベルト、ホースその他の工業品等の用途に用いることができるが、特に、低燃費用タイヤ、大型タイヤ、高性能タイヤのトレッド用ゴムとして好適に使用される。」
・「【0041】
製造例1(セルロース繊維/SBR複合体の製造)
(1)セルロース繊維の製造
まず、以下の原料等を用意した。
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(ALDRICH社製、 Free radical、98質量%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(和光純薬工業株式会社製、Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(和光純薬工業株式会社製)
次に、漂白クラフトパルプ100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、漂白クラフトパルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加した。pHスタットを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化反応を120分行った後に滴下を停止し、酸化パルプを得た。イオン交換水を用いて酸化パルプを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、前記酸化パルプをイオン交換水により固形分1質量%に調整し、高圧ホモジナイザー(スターバーストラボ HJP-25005、スギノマシン株式会社製)を用いて、245MPaで微細化処理を2回行い、セルロース繊維の水分散液を得た。分散液の固形分濃度は、1質量%であった。
得られたセルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225、カルボキシ基含有量は1.2mmol/gであった。」
・「【0042】
(2)セルロース繊維/SBR複合体の調製
SBRラテックス(日本ゼオン株式会社製、商品名:Nipol LX119)を用意した。SBRラテックスの樹脂濃度は50質量%であり、樹脂粒子の形状は球状であり、その平均粒径は50nmであった。
前記(1)で得られたセルロース繊維の分散液3000gと、上記で用意したSBRラテックス60gとを、5000mlのポリエチレン製容器に注ぎ、分散機(ラボリューション、プライミクス株式会社製)を用いて3000rpm、60分間混合し、複合ラテックスを得た。
この複合ラテックスを、ポリプロピレン性のトレー(内寸280×190×34mm)に800gづつ注ぎ、23℃、50%RH環境において1週間自然乾燥させ、セルロース繊維/SBR複合体を得た。複合ラテックス調製時の仕込み量から計算されたセルロース繊維の配合量は50質量%であった。」
・「【0043】
製造例2(ミクロフィブリルセルロース/SBR複合体の製造)
製造例1で得られたセルロース繊維の水分散液に替えて、ミクロフィブリルセルロース(商品名:セリッシュFD-200L、ダイセル化学工業株式会社製)をイオン交換水により固形分1質量%に調整した水分散液を用いた以外は、製造例1と同じ方法により、ミクロフィブリルセルロース/SBR複合体を得た。
製造例3(SBRラテックス乾燥体の製造)
製造例1において(1)を省略し、(2)のセルロース繊維分散液を除いた以外は、製造例1(2)と同じ方法により、セルロース繊維を含まないSBRラテックス乾燥体を得た。」
・「【0044】
実施例1~3及び比較例1~9
製造例1又は2で得られたセルロース/SBR複合体を用いてゴム組成物を製造した。
表1に示す配合組成において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉型ミキサーで3~5分間混練し、温度が165℃に達したときに放出してゴム組成物を得た。再度、該ゴム組成物を同ミキサーで同様に混合し、温度が165℃に達したときに放出した。最後に該ゴム組成物に加硫促進剤と硫黄を加えて混練し、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で160℃で16分間加硫処理して加硫ゴムシートを調製し、その物性を評価した。結果を表1に示す。」
・「【0045】
【表1】
[図:0001388411000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1ないし3に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「漂白クラフトパルプ100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、漂白クラフトパルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加し、pHスタットを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行い、酸化反応を120分行った後に滴下を停止し、酸化パルプを得、イオン交換水を用いて酸化パルプを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行い、その後、前記酸化パルプをイオン交換水により固形分1質量%に調整し、高圧ホモジナイザー(スターバーストラボ HJP-25005、スギノマシン株式会社製)を用いて、245MPaで微細化処理を2回行い、セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225、カルボキシ基含有量は1.2mmol/gであるセルロース繊維の水分散液を得、セルロース繊維の分散液3000gと、SBRラテックス60gとを、5000mlのポリエチレン製容器に注ぎ、分散機(ラボリューション、プライミクス株式会社製)を用いて3000rpm、60分間混合し、複合ラテックスを得、この複合ラテックスを、ポリプロピレン性のトレー(内寸280×190×34mm)に800gづつ注ぎ、23℃、50%RH環境において1週間自然乾燥させ、セルロース繊維/SBR複合体を得、得られたセルロース/SBR複合体を用い、表1に示す配合組成において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉型ミキサーで3~5分間混練し、温度が165℃に達したときに放出してゴム組成物を得、再度、該ゴム組成物を同ミキサーで同様に混合し、温度が165℃に達したときに放出して得られるゴム組成物。」
2 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「セルロース繊維の分散液3000gと、SBRラテックス60gとを、5000mlのポリエチレン製容器に注ぎ、分散機(ラボリューション、プライミクス株式会社製)を用いて3000rpm、60分間混合し、複合ラテックスを得」る工程は、本件特許発明1における「(a)ゴム成分とセルロース系繊維を含む混合物を得る工程」に相当する。
また、本件特許明細書の【0008】には、「本発明においては、マスターバッチとはゴム成分とセルロース系繊維とを含むが架橋剤を含まない組成物をいう。」と記載されているが、甲1発明における「ゴム組成物」は、加硫促進剤と硫黄を加える前のものであるから、本件特許発明1における「マスターバッチ」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(a)ゴム成分とセルロース系繊維含む混合物を得る工程、を含む、マスターバッチの製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「(b)前記混合物を、120~300℃で15~600分加熱する工程」と特定されているのに対し、甲1発明は、「1.7リットルの密閉型ミキサーで3~5分間混練し、温度が165℃に達したときに放出してゴム組成物を得、再度、該ゴム組成物を同ミキサーで同様に混合し、温度が165℃に達したときに放出」する工程である点。
以下、相違点について検討する。
甲1発明においては、混練工程において、「温度が165℃に達したときに放出」することしか記載されていないことから、3~5分間の混練が加熱工程を有しているのかどうかが判然とせず、仮に加熱工程を有するといえるとしても、120~300℃で加熱している時間がどの程度であるかを特定することができない。また、甲1発明においては、3~5分間の混練工程を2回に分けて行っており、2回の混練工程が連続的に行われているわけではない。そして、甲1には、「3~5分間混練し、温度が165℃に達したときに放出してゴム組成物を得、再度、該ゴム組成物を同ミキサーで同様に混合し、温度が165℃に達したときに放出」する工程に代えて、「120~300℃で15~600分加熱する工程」とすることの動機付けとなる記載はない。
よって、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、「ゴム成分とセルロース系繊維の混合物を加熱することで両者の相溶性を向上でき」(本件特許明細書の【0005】)、「優れた機械的特性を有するゴム組成物を与える」(同【0006】)という甲1発明からみて当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立理由1についてのむすび
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。
・「【0001】
本発明は、ゴム成分およびセルロース系繊維を含有するマスターバッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムとセルロース系繊維を含むゴム組成物は優れた機械強度を有することが知られている。例えば、特許文献1には平均繊維径が0.5μm未満のセルロース短繊維とゴムラテックスとを撹拌混合して得られるゴム/短繊維のマスターバッチが記載されている。当該文献によれば、平均繊維径が0.5μm未満の短繊維を水中でフィブリル化させた分散液とゴムラテックスと混合して乾燥させることにより短繊維をゴム中に均一に分散させたゴム/短繊維のマスターバッチからゴム補強性と耐疲労性のバランスに優れるゴム組成物を製造できるとされる。しかしながら、一般にゴムとセルロース系繊維とは相溶性が低いため十分なゴム組成物の強度が得られていなかった。そこで、相溶性を向上させるためにカップリング剤を使用することやセルロース繊維に長鎖アルキル基を導入することなどが検討されている(例えば特許文献2、3)。しかし、これらに使用する試薬は高価であるという問題がある。さらに前記方法は反応率が低く、十分な強度改善効果が得られないという問題がある。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は優れた機械的特性を有するゴム組成物を与える、ゴム成分とセルロース系繊維を含むマスターバッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、ゴム成分とセルロース系繊維の混合物を加熱することで両者の相溶性を向上できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、以下の本発明により前記課題は解決される。
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明により、優れた機械的特性を有するゴム組成物を与える、ゴム成分とセルロース系繊維を含むマスターバッチを提供できる。」
・「【0009】
(1)工程(a)
本工程では、ゴム成分とセルロース系繊維を混合する。混合はホモミキサー、ホモジナイザー、プロペラ撹拌機等の公知の装置を用いて実施できる。混合する温度は限定されないが、室温(20~30℃)が好ましい。混合時間も適宜調整してよい。
【0010】
本工程における混合比率は、後述するゴム組成物としたときの比率を達成できるように調整されるが、例えばゴム成分100重量部に対してセルロース系繊維を0.1~100重量部とすることが好ましい。
【0011】
1)ゴム成分
ゴム成分とはゴムの原料であって架橋してゴムとなるものをいう。天然ゴム用のゴム成分および合成ゴム用のゴム成分が存在するが、本発明においてはいずれを用いてもよく、また両者を組合せてもよい。便宜上、天然ゴム用等のゴム成分を「天然ゴムポリマー」等という。
・・・(略)・・・
これらの中でもNBRポリマー、NRポリマー、SBRポリマー、クロロプレンゴム(CR)ポリマーが特に好ましい。
【0012】
ゴム成分はそのまま混合に供してもよいが、ゴム成分を分散媒に分散させた分散液(ラテックス)や溶媒に溶解した溶液にして混合に供してもよい。分散媒および溶媒(以下、まとめて「液状媒体」ともいう)としては例えば、水、有機溶媒が挙げられる。液状媒体の量は、ゴム成分100重量部に対して10~1000重量部が好ましい。
【0013】
2)セルロース系繊維
セルロース系繊維として、ミクロンオーダーの繊維径を有するセルロース繊維または当該セルロース繊維を必要に応じ化学変性した後で解繊して得たナノオーダーの繊維径を有するセルロースナノファイバーを使用できる。
【0014】
セルロース繊維は、特に限定されないが、例えば、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物に由来するものが挙げられる。
・・・(略)・・・
【0015】
セルロース繊維の平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものの平均繊維径は50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製した原料を用いる場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、平均繊維径を50μm程度に調整することが好ましい。
【0016】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、長さ加重平均繊維径にして通常2~500nm程度であるが、好ましくは2~50nmである。平均繊維長は長さ加重平均繊維長にして50~2000nmが好ましい。長さ加重平均繊維径および長さ加重平均繊維長(以下、単に「平均繊維径」、「平均繊維長」ともいう)は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察して求められる。セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常10以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出できる。
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
以下、セルロースナノファイバーの製造方法について説明する。便宜上、セルロースナノファイバーの原料となるセルロース繊維を「セルロース原料」ともいう。
【0017】
[変性]
セルロース原料は、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性を行うことが可能である。本発明では、化学変性がなされたセルロース原料およびなされていないセルロース原料のいずれも使用できる。しかしながら、化学変性されたセルロース原料を用いると繊維の微細化が十分に進んで均一な繊維長および繊維径のセルロースナノファイバーが得られるので、ゴムと複合化した際に十分な補強効果を発揮し得る。よって化学変性がなされたセルロース原料が好ましい。化学変性としては、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、エステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化などが挙げられる。中でも、酸化(カルボキシル化)、エーテル化、カチオン化、エステル化が好ましく、以下、これらについて説明する。」
・「【0051】
[混合に供されるセルロース系繊維の形態]
ゴム成分と混合されるセルロース系繊維の形態は特に限定されない。例えば、セルロース系繊維が分散媒に分散した分散液、当該分散液の乾燥固形物、当該分散液の湿潤固形物を混合に供してよい。分散液におけるセルロース系繊維の濃度は、分散媒が水である場合は0.1~5%(w/v)とすることができる。分散媒が水の他にアルコール等の有機溶媒を含む場合は、前記濃度を0.1~20%(w/v)とすることができる。湿潤固形物とは、前記分散液と乾燥固形物との中間の態様の固形物である。前記分散液を通常の方法で脱水して得た湿潤固形物中の分散媒の量はセルロース系繊維に対して5~15重量%であることが好ましいが、液状媒体の追加またはさらなる乾燥により分散媒の量は適宜調整できる。
【0052】
また、セルロース系繊維と水溶性高分子溶液との混合液、混合液の乾燥固形物、混合液の湿潤固形物などを使用できる。当該混合液および乾燥固形物における液状媒体の量は、前述の範囲であってよい。」
・「【0065】
(2)工程(b)
本工程では、前記混合物を100~300℃の条件下で5~600分加熱する。この加熱処理によってセルロース系繊維とゴム成分の相溶性が向上する。相溶性が向上するメカニズムは限定されないが、加熱によってセルロース系繊維の表面が変性されて疎水性を帯びることによると推察される。本発明において相溶性とは親和性と同義である。温度が100℃未満であるとこの効果が十分に発現せず、300℃を超えるとゴム成分等が劣化する。この観点から、加熱温度の下限は105℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。加熱温度の下限は200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。同様に加熱時間が5分未満であるとこの効果が十分に発現せず、600分を超えるとゴム成分等が劣化する。この観点から、加熱時間は5~300分が好ましく、10~120分がより好ましく、15~70分がさらに好ましい。
【0066】
加熱処理は例えば通風オーブン等の公知の装置を用いて行える。加熱雰囲気は、酸素存在であってもよいし不存在下であってもよい。また、加熱雰囲気の圧力は常圧(1気圧)下であることが好ましい。
【0067】
(3)乾燥工程
前述のとおり、ゴム成分を分散媒に分散させた分散液または溶媒に溶解した溶液、あるいはセルロース系繊維を分散媒に分散させた分散液等を用いて工程(a)を実施できる。この場合、混合物中に液状媒体が存在するので、工程(b)の前にこれを除去することが好ましい。具体的には混合物を乾燥して液状媒体を除去することが好ましい。乾燥温度は50~80℃が好ましい。乾燥時間は適宜調整してよい。乾燥後の混合物は絶乾状態でもよいが、ゴム成分とセルロース系繊維の合計量に対して10重量%以下の液状媒体を含んでいてもよい。また、上記以外の液状媒体を除去する方法としては、特に制限されず従来公知の方法で行うことができる。例えば、酸や塩を添加することにより混合物を凝固させ、脱水、洗浄して乾燥する方法が挙げられる。」
・「【0068】
2.ゴム組成物の製造方法
前記の方法で製造したマスターバッチに、架橋剤を添加して混練りすることで未架橋ゴム組成物(架橋性ゴム組成物)を製造できる。混練りとはマスターバッチ中に、架橋剤や他の配合剤を均一に分散させる工程である。混練りは公知のとおりに行ってよく、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどを用いて実施できる。架橋剤としては硫黄や過酸化物が挙げられる。架橋剤の配合量は適宜調整してよい。
・・・(略)・・・
【0069】
また、マスターバッチに、架橋剤とともにさらにゴム成分を加えて混練りを行い、セルロース系繊維濃度を希釈したゴム組成物とすることもできる。
【0070】
混練りの温度は、常温程度(15~30℃程度)でよいが、ゴム成分が架橋反応しない程度に高温に加熱してもよい。例えば温度の上限は140℃以下、より好ましくは100℃である。温度の下限は15℃以上、好ましくは20℃以上である。従って混練りの温度は、15~140℃程度が好ましく、20~100℃程度がより好ましい。
【0071】
混合終了後に、必要に応じて成形を行ってもよい。成形装置としては、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等が挙げられ、最終製品の形状、用途、成形方法に応じて適宜選択すればよい。
【0072】
架橋については、架橋反応が進む条件であれば、温度に特に制限は無いが、一般的には、混練りして得た未架橋ゴム組成物を加熱して架橋(硫黄を含む場合は加硫ともいう)すると架橋ゴム組成物が得られる。加熱温度は、140℃以上が好ましく、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。従って、加熱温度は140~200℃程度が好ましく、140~180℃程度がより好ましい。架橋には、例えば、型加硫、缶加硫、連続加硫等を行う加硫装置を使用できる。本発明のゴム組成物はセルロースナノファイバーを含まない組成物に比べて架橋反応が速やかに進行する傾向にある。この理由は限定されないが、セルロースナノファイバー中のカルボキシル基等の官能基が架橋反応を促進するためではないかと推察される。
【0073】
架橋後、最終製品とする前に、必要に応じ仕上げ処理を行ってもよい。仕上げ処理としては例えば、研磨、表面処理、リップ仕上げ、リップ裁断、塩素処理などが挙げられ、これらの処理のうち1つのみを行ってもよいし2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0074】
3.マスターバッチおよびゴム組成物
本発明のマスターバッチは、セルロース系繊維とゴム成分との密着性に優れるので、機械的特性に優れるゴム組成物を与える。ゴム組成物におけるセルロース系繊維の含有量は、ゴム成分100重量部に対して0.1~100重量部であることが好ましい。引張強度の向上の観点からは、前記含有量はゴム成分100重量部に対して1重量部以上がより好ましく、2重量部以上がさらに好ましく、3重量部以上がよりさらに好ましい。当該量の上限は、50重量部以下がより好ましく、40重量部以下がさらに好ましく、30重量部以下がよりさらに好ましい。当該量により製造工程における加工性を保持することができる。」
・「【実施例】
【0076】
<実施例1>
[酸化セルロースナノファイバーの製造]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社製)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムが消費され系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90重量%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。反応混合物に水を加えて濃度を1.1重量%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、酸化セルロースナノファイバー分散液を得た。平均繊維径は3nm、アスペクト比は250であった。
【0077】
[マスターバッチの製造]
1)混合および乾燥工程
前述のとおり得た酸化セルロースナノファイバーの固形分濃度1.1%(w/v)(1.1重量%)水分散液636gと、ゴム成分としてアクリロニトリル-ブタジエンゴムポリマーラテックス(商品名:Nipol511A、日本ゼオン株式会社製、固形分濃度46重量%)76gを混合してゴム成分とセルロースナノファイバーとの重量比が100:20となるようにし、TKホモミキサー(8000rpm)で10分間撹拌した。この水性懸濁液を、70℃の加熱オーブン中で一晩乾燥して乾燥物を得た。
【0078】
2)加熱工程
この乾燥物を、オーブン中で、120℃にて30分加熱して、マスターバッチを製造した。
【0079】
3)加硫および成形工程
前記マスターバッチに、硫黄1.2g(ゴム成分に対し3.5重量%)、加硫促進剤(N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)0.25g(ゴム成分に対し0.7重量%)、酸化亜鉛2.1g(ゴム成分に対し6重量%)、ステアリン酸0.18g(ゴム成分に対し0.5重量%)を加え、オープンロール(関西ロール株式会社製)を用い、30℃で10分間混練して、未架橋ゴム組成物のシートを得た。
【0080】
このシートを、金型にはさみ、160℃で15分間プレス架橋することにより、厚さ約2mmの架橋ゴム組成物のシートを得た。これを所定の形状の試験片に裁断し、JIS K6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に従い、補強性の一つである引張特性として、50%ひずみ時、100%ひずみ時、および破断時における応力をそれぞれ測定した。各々の数値が大きい程、架橋ゴム組成物(加硫ゴム組成物)が良好に補強されており、ゴムの機械強度に優れることを示す。
・・・(略)・・・
【0098】
<比較例1>
前記加熱工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を製造し、評価した。
・・・(略)・・・
これらの結果を表1に示す。
【0103】
【表1ー1】
[図:0001388411000002.jpg]
【0104】
【表1ー2】
[図:0001388411000003.jpg]
【0105】
加熱工程を経て得た本発明のマスターバッチから製造されたゴム組成物は優れた機械的特性を有する。これは、セルロースナノファイバーの表面が疎水化してゴムとの相溶性が向上したためと推察される。」
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明1ないし9が解決しようとする課題は、「優れた機械的特性を有するゴム組成物を与える、ゴム成分とセルロース系繊維を含むマスターバッチ」を提供すること(以下、「発明の課題」という。)である。
そして、「ゴム成分とセルロース系繊維を含む混合物を得る工程」及び「混合物を、120~300℃で15~600分加熱する工程」について、それぞれ、本件特許の発明の詳細な説明の【0009】ないし【0017】、【0051】ないし【0052】、【0065】ないし【0067】に記載されており、特に、【0065】には、工程(b)の加熱処理によってセルロース系繊維とゴム成分の相溶性が向上すること、及び相溶性が向上するメカニズムは限定されないが、加熱によってセルロース系繊維の表面が変性されて疎水性を帯びることによると推察される旨の記載がある。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0076】ないし【0105】には、具体的な実施例が記載され、ゴム成分とセルロース系繊維を含む混合物に対し、加熱工程を実施した実施例1ないし17が、加熱工程を実施しない比較例1及び3ないし14、並びにセルロース系繊維を含有しない比較例2と比べて、架橋ゴム組成物のシートにおいて、引張特性である50%ひずみ時、100%ひずみ時、破断時における応力の数値が大きく、架橋ゴム組成物が良好に補強されており、ゴムの機械強度が優れることを確認している。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は、(a)ゴム成分とセルロース系繊維を含む混合物を得る工程、および(b)前記混合物を、120~300℃で15~600分加熱する工程、を含むことで、発明の課題が解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1は、発明の課題を解決できると認識する上記特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明1は、発明の課題を解決する、すなわちサポート要件を満たすものである。
また、本件特許発明1のすべての特定事項を含む本件特許発明2ないし9についても、本件特許発明1と同様である。
(5)特許異議申立人の主張について
ア 第3 2(1)について
特許異議申立人は、所定量未満の化学変性したセルロースナノファイバーを用いた場合、及び化学変性していないセルロースナノファイバーを用いた場合に、実施例と同様に、優れた機械的特性を有するゴム組成物が得られないことを、本件特許の発明の詳細な説明の実施例及び比較例と対比して主張するが、本件特許の発明の詳細な説明には、加熱処理によってセルロース系繊維とゴム成分の相溶性が向上することが、そのメカニズムの推察とともに記載されており(【0065】)、【0103】の【表1ー1】及び同【0104】の【表1ー2】からも、実施例1ないし17が、比較例1ないし14と比べて、機械的特性が優れていることが認識できる。
イ 第3 2(2)について
特許異議申立人は、分散媒または溶媒を用いずにゴム成分とセルロース系繊維を混合した場合、ゴム成分の分散液または溶液、あるいはセルロース系繊維の分散液を用いて混合した場合と比べて、分散性が異なる場合があることなどをあげ、サポート要件を満たさない旨主張するが、それによって、優れた機械的特性を有するゴム組成物が得られないとは直ちに認めることはできない。
したがって、上記主張はいずれもその理由がない。
(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由2によっては取り消すことはできない。
4 申立理由3(実施可能要件)について
(1)判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし9は物を生産する方法の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物を生産する方法の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
上記3(3)のとおり、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし9の製造方法について具体的に記載されており、また、本件特許発明1ないし9の実施例である実施例1ないし17についても、その製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、本件特許発明1ないし9について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし9に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
なお、特許異議申立人は、上記第3 3(1)及び(2)において、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に十分に記載されていない旨主張するが、いずれも、上記判断に影響するものではない。
(3)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由3によっては、取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700283