特許異議申立
2024-700951
セルロースナノファイバー、およびそれを含む水系分散組成物
- 審判番号
- 2024-700951
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-502709
- 登録番号
- 7459411
- 請求日
- 2024年10月01日
- 審決日
- 2025年04月28日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】前田 健一
- 審判長/審判官
- 審判長 齋藤 恵
- 審判官 冨永 保
- 審判官 天野 皓己
- 分類
- P1651.851-YAA(C08B) / P1651.113-YAA(C08B) / P1651.121-YAA(C08B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7459411号発明「セルロースナノファイバー、およびそれを含む水系分散組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7459411号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7459411号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7459411号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2023年(令和5年)9月26日(優先権主張 令和4年9月27日)を国際出願日とする出願であって、令和6年3月22日に特許権の設定登録がされ、同年4月1日に特許掲載公報が発行され、その全請求項に係る発明の特許に対し、同年10月1日付けで 前田 健一(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は次のとおりである。
令和6年11月18日付け 取消理由通知
令和7年 1月20日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 2月 7日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、令和7年2月7日にされた訂正請求があった旨の通知に対し、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和7年1月20日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、「特許第7459411号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の、
「【請求項1】
下記条件(A)~(B)を満たすセルロースナノファイバー。
(A)セルロースナノファイバーがカルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること。
(B)アスペクト比が、20以上50未満であること。」
との記載を、
「【請求項1】
下記条件(A)、(B)及び(D)を満たすセルロースナノファイバー(ただし、前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体を除く)。
(A)セルロースナノファイバーが、セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること。
(B)アスペクト比が、20以上50未満であること。
(D)以下を満たすセルロースナノファイバーではないこと。
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が47
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が32
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.0mmol/g、アスペクト比が26
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が40、又は
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が38」
との記載に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。
2 本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、以下の3つの訂正事項からなる。
訂正事項1-1:訂正前の「条件(A)~(B)」との記載を「条件(A)、(B)及び(D)」との記載とし、「(D)以下を満たすセルロースナノファイバーではないこと。
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が47
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が32
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.0mmol/g、アスペクト比が26
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が40、又は
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が38」との記載を追加する訂正。
訂正事項1-2:「(ただし、前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体を除く)」との記載を追加する訂正。
訂正事項1-3:訂正前の「(A)セルロースナノファイバーがカルボキシル基を有し」との記載を「(A)セルロースナノファイバーが、セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有し」との記載にする訂正。
ア 訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、セルロースナノファイバーが満たす条件について、訂正前に条件(A)及び条件(B)であったのを、さらに条件(D)を追加することによって、セルロースナノファイバーを限定する訂正である。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、この訂正は、セルロースナノファイバーが特定のセルロースナノファイバーではないことを特定するに過ぎないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
イ 訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、セルロースナノファイバーが所定のセルロースナノファイバー複合体ではないことを特定することによって、セルロースナノファイバーを限定する訂正である。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、この訂正は、セルロースナノファイバーが所定のセルロースナノファイバー複合体ではないことを特定するに過ぎないから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項1-3について
訂正事項1-3は、セルロースナノファイバーが有するカルボキシル基について、「セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入された」ことを特定するものである。
特許明細書等に
「【0019】
(カルボキシル基の導入(酸化))
上記のセルロース原料を公知の方法で酸化(カルボキシル化)することにより、セルロース原料にカルボキシル基を導入することができる。」と記載され、また、【0020】~【0033】に記載されるとおり、カルボキシ基の導入には、少なくともTEMPO酸化及びオゾン酸化によるものがあるところ、それぞれの酸化について、
「【0020】
-TEMPO酸化-
酸化の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、又はこれらの混合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法がある。この酸化反応により、セルロース表面のピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化される。その結果、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)又はカルボキシレート基(-COO-)を有する酸化セルロースを得ることができる。」及び
「【0030】
-オゾン酸化-
酸化の他の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法がある。この酸化反応により、ピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。」
と記載されるとおり、2つの酸化は、酸化に用いる材料が異なり、酸化される水酸基の位置及びセルロース鎖の分解の有無も異なる。
そして、酸化に用いる材料が最終的に残存し、得られるセルロースナノファイバーの性質が異なることが考えられること、酸化される水酸基の位置が異なれば、得られるセルロースナノファイバーも異なることから、TEMPO酸化によってカルボキシル基が導入されたセルロースナノファイバーとオゾン酸化によってカルボキシル基が導入されたセルロースナノファイバーは異なるセルロースナノファイバーであるといえる。
してみると、この訂正は、セルロースナノファイバーを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、上記【0019】及び【0020】の記載から、特許明細書等には、セルロース原料についてN-オキシル化合物を用いて酸化してカルボキシル基を導入することが記載されているといえるから、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
エ まとめ
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、訂正前の全請求項に対して特許異議の申立てがされているから、訂正後の請求項1~4に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は直接又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
3 まとめ
以上のとおり、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下記条件(A)、(B)及び(D)を満たすセルロースナノファイバー(ただし、前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体を除く)。
(A)セルロースナノファイバーが、セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること。
(B)アスペクト比が、20以上50未満であること。
(D)以下を満たすセルロースナノファイバーではないこと。
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が47
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が32
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.0mmol/g、アスペクト比が26
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が40、又は
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が38
【請求項2】
下記条件(C)をさらに満たす、請求項1に記載のセルロースナノファイバー。
(C)平均繊維径が、500nm以下であること
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセルロースナノファイバーを含む、水系分散組成物。
【請求項4】
フィルム用である、請求項3に記載の組成物。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
(1)申立人の申立理由
[申立理由1]特許法第29条第1項第3号(同法第113条第1項第2号)
訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と一致する。
[申立理由2]特許法第29条第2項(同法第113条第1項第2号)
訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第7号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
申立理由1及び申立理由2について、提出された証拠は次のとおりである。
甲第1号証:国際公開第2022/009980号
甲第2号証:国際公開第2020/066980号
甲第3号証:田中玲奈、論文題目「Rheological studies on aqueous nanocellulose dispersions(水系ナノセルロース分散液のレオロジー解析)」の論文の内容の要旨、公開日2017年10月23日
甲第4号証:特開2018-24967号公報
甲第5号証:特開2022-103166号公報
甲第6号証:特開2009-298972号公報
甲第7号証:特開2018-199755号公報
以下では、甲第1号証~甲第7号証を「甲1」~「甲7」ということがある。
2 取消理由の概要
(1)令和6年11月18日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要
[取消理由1](新規性)
訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲1及び甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、訂正前の請求項1~4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
[取消理由2](進歩性)
訂正前の本件請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲1及び甲4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1~4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由1及び取消理由2について、提示した証拠は次のとおりである。
甲1:国際公開第2022/009980号
甲4:特開2018-24967号公報
第5 当審の判断
以下において「・・・」は記載の省略を表す。また、以下における下線は注釈がある場合を除いて当審合議体が付与した。
1 甲1~甲7の記載事項
(1)甲1
甲1には以下の記載がある。
甲1a)「[請求項1] 次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物であり、平均繊維幅が1nm以上200nm以下であるナノセルロースであって、
N-オキシル化合物を実質的に含まず、
ゼータ電位が-30mV以下である、ナノセルロース。
[請求項2] 平均繊維幅が1nm以上5nm以下である、請求項1に記載のナノセルロース。
[請求項3] アスペクト比が20以上150以下である、請求項1又は2に記載のナノセルロース。
・・・
[請求項8] 請求項1~7のいずれか1項に記載のナノセルロースが分散媒に分散されたナノセルロース分散液。」(35~36頁、請求の範囲、請求項1~3及び8)
甲1b)「発明が解決しようとする課題
[0005] ナノセルロース材料は、他の材料(例えば樹脂等)との混合を容易にするために、水や有機溶剤等の分散媒中に分散された状態で使用されることがある。また、ナノセルロース材料は、顔料等の無機粒子及び分散媒と混合されてスラリー状態で使用されることもある。この場合、ナノセルロース材料には、分散媒中において良好な分散安定性を示すことが求められる。
[0006] 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、N-オキシル化合物をセルロース繊維中に含んでおらず、かつ分散媒中での分散安定性に優れたナノセルロースを提供することを主たる目的とする。」
甲1c)「発明の効果
[0008] 本発明によれば、分散媒中での分散安定性に優れたナノセルロースを得ることができる。また、N-オキシル化合物を含まないため、環境等への影響を低減することができる。」
甲1d)「[0009]《ナノセルロース》
本開示のナノセルロース(以下、「本ナノセルロース」ともいう)は、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化した酸化セルロースが解繊されてなる繊維状ナノセルロースである。また、上記酸化セルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物ともいうことができる。以下、本ナノセルロースについて詳しく説明する。
なお、「ナノセルロース」は、酸化された繊維状セルロースを微細化した繊維状セルロースであるため、「微細セルロース繊維」とも称する。」
甲1e)「[0011]・第1実施形態
[繊維幅]
本ナノセルロースの平均繊維幅は、1~200nmである。平均繊維幅が200nmを超える場合、粗大なナノセルロースの割合が多いため、ナノセルロースを分散媒に分散させてナノセルロース分散液としたときに、ナノセルロースの沈殿が多く品質が低下する傾向がある。また、ナノセルロース分散液の品質が均一でないため、例えば顔料等の固体粒子を更に含むスラリー(以下、「ナノセルロース含有スラリー」ともいう)とした場合に、スラリーの粘度が不安定であり、またハンドリング性及び塗工性が低下しやすい傾向がある。こうした観点から、本ナノセルロースの平均粒子径は、50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることが特に好ましい。また、平均繊維幅が1nm未満であると、セルロース単分子の態様に近くなり、ナノセルロースとしての品質が不均一になりやすく、スラリーとした場合に粘度安定性やハンドリング性、塗工性が低下しやすい傾向がある。このため、平均繊維幅は、1.2nm以上が好ましく、1.5nm以上がより好ましい。
[0012] 特に、本ナノセルロースの平均繊維幅が1~5nmであると、分散媒中での分散安定性に加え、ナノセルロース含有スラリーとした場合においてスラリーの粘度安定性、ハンドリング性及び塗工性を良好にでき好適である。
[0013][アスペクト比]
本ナノセルロースにおいて、平均繊維幅と平均繊維長との比で表されるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)は、20~150であることが好ましい。アスペクト比が150以下であると、分散媒中において微細セルロースのネットワークが均一にかつ緻密に形成されやすくなり、安定した構造となるため分散安定性を向上させることができる。また、ナノセルロース含有スラリーとした場合には、固体粒子と微細セルロースのネットワークが均一にかつ緻密に形成されやすくなり、固体粒子の凝集を抑制でき、分散安定性を向上させることができる。さらに、固体粒子とナノセルロースとの凝集、あるいはナノセルロース同士の凝集を抑制でき、スラリーのハンドリング性の向上及び加工ムラの抑制を図ることができる。こうした観点から、アスペクト比は、より好ましくは145以下であり、更に好ましくは130以下であり、より更に好ましくは120以下であり、より更に好ましくは100以下である。
[0014] その一方で、アスペクト比が低すぎる、すなわち、ナノセルロースの形状が細長い繊維状というよりも太い棒状である場合、ネットワークが形成されにくくなり、偏在により凝集が起こり、スラリーの粘度安定性が低下しやすい傾向がある。また、スラリーの粘度が高くなるためハンドリング性が低下しやすくなり、スラリー塗工性に劣ることがある。そのため、アスペクト比は、より好ましくは30以上であり、更に好ましくは35以上であり、より更に好ましくは40以上である。
[0015] なお、平均繊維幅及び平均繊維長は、ナノセルロースの濃度が概ね1~10ppmとなるようにナノセルロースと水とを混合し、十分に希釈したセルロース水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、走査型プローブ顕微鏡を用いてナノセルロースの形状観察を行い、得られた像より任意の本数の繊維を無作為に選択し、形状像の断面高さ=繊維幅とし、周囲長÷2=繊維長とすることにより算出した値である。このような平均繊維幅及び平均繊維長の算出には、画像処理のソフトウェアを用いることができる。このとき画像処理の条件は任意であるが、画像処理の条件によって同一画像であっても算出される値に差が生じる場合がある。画像処理の条件による値の差の範囲は、平均繊維長については±100nmの範囲内であることが好ましい。条件による値の差の範囲は、平均繊維幅については±10nmの範囲内であることが好ましい。より詳細な測定方法は、後述の実施例に記載の方法に従う。」
甲1f)「[0020][光透過率]
本ナノセルロースを分散媒中に分散させたナノセルロース分散体は、セルロース繊維の光散乱等が少なく、高い光透過率を示すことができる。具体的には、好適な実施の一形態において、本ナノセルロースは、水と混合して固形分濃度0.1質量%とした混合液における光透過率が95%以上である。このため、本ナノセルロース及びこれを含むナノセルロース分散液は、透明性が要求される用途にも広く適用することができ有用である。当該光透過率は、より好ましくは96%以上であり、更に好ましくは97%以上であり、より更に好ましくは99%以上である。なお、光透過率は、分光光度計により測定した波長660nmでの値である。」
甲1g)「[0034] 上記の酸化反応により得られた酸化セルロースのカルボキシ基量は、0.30~2.0mmol/gであることが好ましい。酸化セルロースのカルボキシ基量が0.30mmol/g以上であると、酸化セルロースの解繊性を十分に高くでき、繊維幅が均一なナノセルロースを得ることができる。これにより、ナノセルロース含有スラリーの品質を均一化することができ、スラリーの粘度安定性、ハンドリング性及び塗工性を向上させることができる。一方、カルボキシ基量が2.0mmol/g以下であると、解繊処理時にセルロースが過度に分解することを抑制でき、粒子状のセルロースの比率が少なく品質が均一なナノセルロースを得ることができる。こうした観点から、酸化セルロースのカルボキシ基量は、より好ましくは0.35mmol/g以上であり、更に好ましくは0.40mmol/g以上であり、より更に好ましくは0.42mmol/g以上であり、更により好ましくは0.50mmol/g以上であり、一層好ましくは0.50mmol/g超過であり、より一層好ましくは0.55mmol/g以上である。カルボキシ基量の上限については、1.5mmol/g以下であってもよく、1.2mmol/g以下であってもよく、1.0mmol/g以下であってもよく、0.9mmol/g以下であってもよい。カルボキシ基量の好ましい範囲は、既述の上限及び下限を適宜組み合わせることにより定めることができる。本酸化セルロースのカルボキシ基量は、より好ましくは0.35~2.0mmol/gであり、更に好ましくは0.35~1.5mmol/gであり、より更に好ましくは0.40~1.5mmol/gであり、更により好ましくは0.50~1.2mmol/gであり、一層好ましくは0.50超過~1.2mmol/gであり、より一層好ましくは0.55~1.0mmol/gである。
[0035] なお、酸化セルロース中のカルボキシ基量(mmol/g)は、酸化セルロースを含む水溶液に0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から下記式を用いて算出することができる。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロース質量(g)」
甲1h)「[0045] 以上説明したナノセルロース及びこれを含むナノセルロース分散液は、種々の用途に適用することができる。具体的には、例えば、補強材として各種材料(例えば、樹脂、繊維、ゴム等)と混合されて使用されてもよいし、増粘剤又は分散剤等として各種用途(例えば、食品、化粧品、医療品、塗料、インク等)において使用されてもよい。また、ナノセルロース分散液を成膜し、各種シート又はフィルムとして使用することもできる。本ナノセルロース及びこれを含むナノセルロース分散液を適用する分野も特に限定されず、例えば自動車用部材、機械部品、電化製品、電子機器、化粧品、医療品、建築材、日用品、文具等といった各種分野の製品の製造において使用することができる。また、例えば、顔料等の無機粒子を含むスラリーへの添加剤としてナノセルロース及びこれを含むナノセルロース分散液を使用した場合には、スラリーの粘度安定性やハンドリング性、塗工性能を向上させることができる点で好適である。」
甲1i)「[0047]・第3実施形態
本開示の好適な実施の一形態において、本ナノセルロースは、セルロース系原料が次亜塩素酸又はその塩で酸化されたナノセルロース(次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物であるナノセルロースともいう)であり、N-オキシル化合物を含まず、アスペクト比が20以上150以下である。本ナノセルロースのアスペクト比が20以上150以下である場合、本ナノセルロースのゼータ電位は、ナノセルロースの分散安定性が向上し、スラリーとしたときのハンドリング性を改善することができる点で、-25mV以下であることが好ましく、-30mV以下であることがより好ましい。なお、本ナノセルロースの製造方法等の詳細については、上記第1実施形態の説明を援用することができる。」
甲1j)「実施例
[0048] 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
[0049](1)酸化セルロース及びナノセルロースの製造
〔製造例1〕
セルロース系原料として、針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495,bleached kraft pulp)を5mm角にハサミで切断し、大阪ケミカル社製「ワンダーブレンダー WB-1」にて、25,000rpmで1分間処理して、綿状に機械解繊した。
ビーカーに、有効塩素濃度が42質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を350g入れ、純水を加えて撹拌し、有効塩素濃度が21質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。そこへ、35質量%塩酸を加えて撹拌し、pH11.0の水溶液とした。この次亜塩素酸ナトリウム水溶液を新東科学社製の撹拌機(スリーワンモータ、BL600)にて、プロペラ型撹拌羽根を使用して200rpmで撹拌しながら恒温水浴により30℃に加温した後、上記機械解繊した針葉樹クラフトパルプ(カルボキシ基量:0.05mmol/g)を50g加えた。
セルロース系原料を供給後、同じ恒温水槽で30℃に保温した状態で、48質量%水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを11.0に調整して、20分間、上記撹拌機にて、プロペラ型撹拌羽根を使用して200rpmで撹拌し、酸化反応を行った。反応終了後、目開き0.1μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られた酸化セルロースを純水で洗浄した。洗浄後のろ過上物(酸化セルロース)のカルボキシ基量を測定したところ、0.37mmol/gであった。
続いて、酸化セルロースに純水を加えて5%分散液を作製し、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ HJP-25005」を用いて200MPa、10パスで処理し、ナノセルロース分散液としてCNF水分散体Aを得た。なお、超高圧ホモジナイザーでは、超高圧ホモジナイザーに内蔵された超高圧解繊部に酸化セルロース水分散液を循環通液させて解繊が進められる。その超高圧解繊部への通液1回分を1パスと呼んでいる。
また、酸化セルロース中のN-オキシル化合物由来の窒素成分を、微量全窒素分析装置(三菱ケミカルアナリテック社製、装置名:TN-2100H)を用いて窒素量として測定し、原料パルプからの増加分を算出した結果、1ppm以下であった。
・・・
[0051] 酸化セルロースのカルボキシ基量は以下の方法により測定した。
(カルボキシ基量の測定)
酸化セルロースの濃度を0.5質量%に調整した酸化セルロース水分散体60mlに、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いてカルボキシ基量(mmol/g)を算出した。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロースの質量(g)
[0052]〔製造例2〕
酸化反応における反応時間を30分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Bを得た。
〔製造例3〕
酸化反応における反応時間を120分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Cを得た。
〔製造例4〕
酸化反応における反応時間を360分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Dを得た。
〔製造例5〕
酸化反応における反応時間を480分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Eを得た。
〔製造例6〕
酸化反応における反応温度を30℃から40℃に変更し、反応時間を120分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Fを得た。
〔製造例7〕
酸化反応における反応温度を30℃から50℃に変更し、反応時間を120分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Gを得た。
〔製造例8〕
酸化反応における反応温度を30℃から40℃に変更し、反応時間を480分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Hを得た。
〔製造例9〕
酸化反応における反応温度を30℃から20℃に変更し、反応時間を120分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Iを得た。
〔製造例10〕
酸化反応における反応時間を15分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Jを得た。
〔製造例11〕
酸化反応における反応温度を30℃から15℃に変更し、反応時間を120分とした以外は製造例1と同条件にて処理することによりCNF水分散体Kを得た。
[0053] 各製造例で得られた酸化セルロースを凍結乾燥させた後、23℃、50%RHで24時間以上放置した試料の固体13C-NMRを測定した結果、いずれもグルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入された構造を有することが確認された。固体13C-NMRの測定条件を以下に示す。」
甲1k)「[0059][第1実施例]
〔実施例1-1~1-9、比較例1-1~1-5〕:ゼータ電位についての検討
製造例1~9及び比較製造例1~5の各例で得られたCNF水分散体を用いて以下の評価を行い、ナノセルロースのゼータ電位と分散安定性との関係について検討した。評価結果を表1に示す。
[0060]〔ゼータ電位測定〕
上記で得られた各CNF水分散体A~I,P~Tに純水を加えて、ナノセルロースの濃度が0.1%になるように希釈した。希釈後のCNF水分散体に、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.0に調整して、大塚電子社製ゼータ電位計(ELSZ-1000)によりゼータ電位を20℃で測定した。
〔平均繊維幅の測定〕
上記で得られた各CNF水分散体A~I,P~Tに純水を加え、CNF水分散体中のナノセルロースの濃度が5ppmになるように調整した。濃度調整後のCNF水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、オックスフォード・アサイラム社製 走査型プローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードでナノセルロースの形状観察を行った。平均繊維幅については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本以上について、形状像の断面高さ=繊維幅として数平均繊維幅[nm]を求めた。
[0061]〔光透過率測定〕
上記で得られた各CNF水分散体A~I,P~Tを10mm厚の石英セルに入れて、分光光度計(JASCO V-550)により波長660nmの光透過率を測定した。
〔CNF水分散体の安定性〕
各CNF水分散体A~I,P~Tに純水を加えて、CNF水分散体中のナノセルロースの濃度が0.1質量%になるように希釈し、25℃で4週間静置して保管した。希釈直後及び4週間保管後に上澄み中の固形分濃度を測定し、下記式より分散率を算出するとともに、以下の判定基準に従って分散安定性を判定した。固形分濃度は、105℃で乾燥処理を行った前後の質量変化により算出した。
分散率(%)=(4週間後の固形分濃度/希釈直後の固形分濃度)×100
◎:分散率が95%未満
○:分散率が90%以上95%未満
△:分散率が85%以上90%未満
×:分散率が85%未満
[0062]〔スラリー粘度安定性〕
酸化チタン(石原産業社製、R-820)5質量%、及び各CNF水分散体A~I,P~Tを含む水系スラリー(50g)について、スラリーの作製直後の粘度である初期粘度が各例で同じ(300mPa・s)になるように、ナノセルロースの添加量を変えて作製した。水系スラリーを作製するための混合では、シンキー社のミキサー「あわとり練太郎 ARE-310」(ミックスモード、公転:2000rpm、自転:800rpm、20分間)を使用した。
そして、作製直後(初期粘度)と1週間静置後の粘度を測定し、下記式より粘度変化率を算出すると共に、以下の判定基準に従って水系スラリーの粘度安定性を判定した。
粘度変化率(%)=(N2/N1)×100
(式中、N1はスラリーの初期粘度であり、N2は試料作製後1週間静置した後のスラリーの粘度である。)
◎:粘度変化率が105%未満
○:粘度変化率が105%以上110%未満
△:粘度変化率が110%以上115%未満
×:粘度変化率が115%以上
なお、静置は室内(23±2℃)とした。
スラリーの初期粘度及び1週間静置後の粘度は、スパチュラで泡が入らない程度の速さで撹拌した後、東機産業社のE型粘度計(TV-22)にて25℃、100rpm(せん断速度200s-1)の条件で測定した。
[0063]〔スラリーハンドリング性〕
各CNF水分散体A~I,P~Tに、ケイ酸アルミニウム粉が5質量%、ナノセルロースが0.5質量%となるように水を加えて配合・撹拌し、加工液を調製した。この加工液をスパチュラで軽く撹拌した後にすくい上げて、スパチュラを傾けた際の液だれを目視にて観察し、以下の基準に従ってスラリーハンドリング性を評価した。
◎:傾けて直ぐに液だれが生じた。
○:傾けて5秒以降に液だれが生じた。
△:傾けて10秒以降に液だれが生じた。
×:15秒以降でも液だれが生じなかった。
[0064]〔スラリー塗工後の表面状態(塗工性)〕
各CNF水分散体A~I,P~Tに、ケイ酸アルミニウム粉が5質量%、ナノセルロースが0.5質量%となるように水を加えて配合・撹拌し、加工液を調製した。ケイ酸アルミニウム粉加工量が5g/m2となるように織布(ポリエステル100%、100mm×100mm)に加工液を塗布し、乾燥した。塗布済み織布10枚について、塗布の不均一な箇所(加工ムラ)を目視により観察し、以下の基準に従って評価した。
◎:10枚全てで加工ムラが見えなかった。
○:8~9枚で加工ムラが見えなかった。
△:4~7枚で加工ムラが見えなかった。
×:1~3枚で加工ムラが見えなかったか、10枚全てで加工ムラが見えた。
[0065]
[表1]
[図:0001424600000001.jpg]
[0066] なお、表1では、セルロース系原料の酸化処理の際にN-オキシル化合物を使用しなかった場合(すなわち、CNF分散体中にN-オキシル化合物を実質的に含まない場合)を「×」、N-オキシル化合物を使用した場合(すなわち、CNF分散体中にN-オキシル化合物を含む場合)を「○」で表した(以下の表2及び表3についても同じ)。
[0067] 表1に示すように、次亜塩素酸塩による酸化処理によりナノセルロースを製造した実施例1-1~1-9と比較例1-1,1-2とを比較すると、ゼータ電位がそれぞれー17.9mV、-21.7mVである比較例1-1,1-2に比べて、ゼータ電位が-30mV以下である実施例1-1~1-9では、より優れたスラリー特性を示した。
具体的には、実施例1-1~1-9のCNF水分散体では、ナノセルロースの分散安定性が高かった。また、実施例1-1~1-9で得られたスラリーは、粘度安定性、ハンドリング性及び塗工性のバランスが取れていた。特に、実施例1-1~1-7では、スラリーの粘度安定性、ハンドリング性及び塗工性の全てで「◎」又は「○」の評価であり、スラリー特性に優れていた。また、同程度のゼータ電位を有する実施例1-1,1-2及び1-9の結果から、ナノセルロースの平均繊維幅が5.3nmである実施例1-9に比較して、平均繊維幅が5nm以下である実施例1-1及び1-2は、より優れたスラリー特性を示すことが分かった。
これに対し、比較例1-1~1-4では、分散安定性は「×」の評価であり、スラリー特性についても実施例1-1~1-9よりも劣っていた。比較例1-5では、分散安定性は良好であったものの、スラリー特性については全て「×」の評価であった。
・・・
[0071][第3実施例]
〔実施例3-1~3-9、比較例3-1~3-5〕:アスペクト比についての検討
製造例1~8,11及び比較製造例1~5の各例で得られたCNF水分散体A~H,K,P~Tを用いて、ナノセルロースの平均繊維長及び平均繊維幅を測定してアスペクト比を算出するとともに、上記第1実施例と同様の評価を行い、ナノセルロースのアスペクト比と分散安定性との関係について検討した。平均繊維長及び平均繊維幅は以下の手順で測定した。
〔平均繊維長及び平均繊維幅の測定〕
上記で得られた各CNF水分散体A~H,K,P~Tに純水を加え、CNF水分散体中のナノセルロースの濃度が5ppmになるように調整した。濃度調整後のCNF水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、オックスフォード・アサイラム社製 走査型プローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードでナノセルロースの形状観察を行った。平均繊維長については、得られた画像を画像処理ソフトウェア「Image J」を用いて二値化し解析を行った。繊維100本について、繊維長=周囲長÷2として数平均繊維長を求めた。平均繊維幅については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本以上について、形状像の断面高さ=繊維幅として数平均繊維幅[nm]を求めた。また、(平均繊維長/平均繊維幅)からアスペクト比を算出した。
評価結果を表3に示す。
[0072][表3]
[図:0001424600000002.jpg]
[0073] 表3によれば、次亜塩素酸塩による酸化処理によりナノセルロースを製造した実施例3-1~3-9と比較例3-1,3-2とを比較すると、アスペクト比がそれぞれ183、165である比較例3-1,3-2に比べて、アスペクト比が150以下である実施例3-1~3-9では、より優れたスラリー特性を示した。
また、同程度のアスペクト比を有する実施例3-2及び3-9の結果から、ナノセルロースのゼータ電位が-28.6mVである実施例3-9に比較して、ゼータ電位が-30mV以下である実施例3-2は、より優れたスラリー特性を示すことが分かった。」
(2)甲2
甲2には以下の記載がある。
甲2a)「[請求項1] 水、湿潤剤(A)、鱗片状光輝性顔料(B)及びセルロースナノファイバー(C)を含有する光輝性顔料分散体であって、
前記セルロースナノファイバー(C)が、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対してカルボキシル基量が0.4~1.0mmol/gであり、かつセルロースナノファイバーの1.0質量%水分散液における透明度が80%以上であり、
光輝性顔料分散体の全成分合計100質量部に対して、固形分を0.1~10質量部含み、
B型粘度計を用いて測定した粘度が、回転数が6回転/分の条件では100~10000mPa・secの範囲内である光輝性顔料分散体。」
甲2b)「[0012] 本発明の目的は、耐水性に優れ、金属又は真珠調光沢を形成することができ、かつ安定性に優れた光輝性顔料分散体及び複層塗膜形成方法を提供することにある。」
甲2c)「[0065] 光輝性顔料分散体におけるセルロースナノファイバーとしては、耐水性と、金属又は真珠調光沢とに優れた塗膜を形成することができ、さらに粘度安定性の高い光輝性顔料分散体を得る観点から、セルロースナノファイバーのカルボキシル基量が低く、かつ高透明なセルロースナノファイバーを使用する。」
甲2d)「[0079] また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段階目の反応終了後に濾別して得られたカルボキシル化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化することにより、1段階目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化することができる。
[0080] 他の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法がある。この酸化反応により、ピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
[0081] オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m3~250g/m3であることが好ましく、50g/m3~220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部~30質量部であることが好ましく、5質量部~30質量部であることがより好ましい。
[0082] オゾン処理温度は、0℃~50℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分~360分程度であり、30分~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。」
甲2e)「[0084] 酸化セルロースの変性度を示すカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。なお、カルボキシル基の量は、酸化セルロースの絶乾質量に対して、0.4~1.0mmol/gである。0.4mmol/g未満であると、酸化CNFへと解繊するためには多大なエネルギーが必要となる。また、1.0mmolを超えた酸化セルロースを原料に用いた場合、光輝性顔料分散体の粘度安定性が不十分になる。なかでも、該カルボキシル基の量は、形成される塗膜の外観及び光輝性顔料分散体の粘度安定性の観点から、酸化セルロースの絶乾質量に対して、0.4~0.8mmol/gであることが好ましく、0.4~0.6mmol/gであることがさらに好ましい。なお、本明細書中、変性度を示す場合においては、カルボキシル基の量は、カルボキシル基(-COOH)の量、及びカルボキシレート基(-COO-)の量の合計量を示す。
・・・
[0093](酸化CNFの平均繊維径とアスペクト比)
酸化CNFの平均繊維径は、3nm以上又は500nm以下であることが好ましく、3nm以上又は50nm以下であることがより好ましく、3nm以上又は20nm以下であることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長の測定は、例えば、酸化CNFの0.001質量%水分散液を調製し、この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測することにより、数平均繊維径あるいは繊維長として算出することができる。
[0094] また、酸化CNFの平均アスペクト比は、通常は50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下であり、より好ましくは700以下であり、さらに好ましくは500以下である。平均アスペクト比は下記の式(1)により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径 ・・・(1)
[0095](粘度安定性)
本発明で用いるセルロースナノファイバー(C)は、長時間シェアをかけても粘度が変化しにくいものであることが望ましい。具体的には、固形分濃度0.5%のセルロースナノファイバー水分散液300ml(500mlビーカーに入れ、ビーカー内を上下攪拌して均一の状態にしてから、マグネットスターラーを用いて、液温23℃で液面中心部が若干(2~3mm)凹む状態を維持して24時間攪拌した場合に、攪拌前の水分散液の粘度(vpre)に対する攪拌後の水分散液の粘度(vpost)の保持率(vpost/vpre×100(%))が50%以上、好ましくは70%以上であるもの)を用いることが、光輝性顔料分散体の粘度安定性や得られる塗膜の外観等の点から好適である。
[0096] また、粘度安定性の点で、該セルロースナノファイバー(C)を含有する本発明の光輝性顔料分散体は、該光輝性顔料分散体を準備してその一部を6時間静置してせん断速度0.1(s-1)における粘度(v1)を測定すると共に、その残りの光輝性顔料分散体300gを500mLビーカーに移し、ビーカー内を上下撹拌して均一の状態にしてから、マグネットスターラーを用いて、温度23℃、1,000rpmで24時間撹拌した後、6時間静置して測定したせん断速度0.1(s-1)における粘度(v2)を測定し、撹拌前の粘度(v1)に対する撹拌後の粘度(v2)の変化率(|v1-v2|/v1×100(%))が好ましくは60%未満であり、より好ましくは40%未満、さらに好ましくは30%未満である。」
甲2f)「[0238] セルロースナノファイバー(C)の調製
製造例10
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)20mg(絶乾1gのセルロースに対し0.025mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが2.2mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は93%であり、酸化反応に要した時間は60分、カルボキシル基量は0.72mmol/gであった。これを水で1.4%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで1%(w/v)における透明度が93.7%である酸化セルロースナノファイバー(C-1)水分散液を得た。このセルロースナノファイバーの水分散液の60rpmにおけるB型粘度は1000mPa・sであった。
[0239] 製造例11
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)20mg(絶乾1gのセルロースに対し0.025mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが1.8mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は93%であり、酸化反応に要した時間は60分、カルボキシル基量は0.58mmol/gであった。これを水で1.1%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで1%(w/v)における透明度が90.2%である酸化セルロースナノファイバー(C-2)水分散液を得た。このセルロースナノファイバーの水分散液の60rpmにおけるB型粘度は1000mPa・sであった。
[0240] 製造例12
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)20mg(絶乾1gのセルロースに対し0.025mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが2.2mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は93.9%であり、酸化反応に要した時間は60分、カルボキシル基量は0.9mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで1%(w/v)における透明度が93.7%である酸化セルロースナノファイバー(C-3)水分散液を得た。このセルロースナノファイバーの水分散液の60rpmにおけるB型粘度は1500mPa・sであった。
[0241] 製造例13
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)20mg(絶乾1gのセルロースに対し0.025mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが2.2mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は93%であり、酸化反応に要した時間は60分、カルボキシル基量は0.68mmol/gであった。これを水で1.4%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで1%(w/v)における透明度が89.8%である酸化セルロースナノファイバー(C-4)水分散液を得た。このセルロースナノファイバーの水分散液の60rpmにおけるB型粘度は2300mPa・sであった。
[0242] 製造例14
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.53mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで、1%(w/v)における透明度が95.1%である酸化セルロースナノファイバー(C-5)水分散液を得た。このセルロースナノファイバーの水分散液の60rpmにおけるB型粘度は2000mPa・sであった。
[0243] 製造例15
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが3.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.08mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで、1%(w/v)における透明度が95.1%である酸化セルロースナノファイバー(C-6)水分散液を得た。このセルロースナノファイバーの水分散液の60rpmにおけるB型粘度は1100mPa・sであった。
[0244] 製造例16
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが1.8mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は60分、カルボキシル基量は0.58mmol/gであった。これを水で1.1%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで、1%(w/v)における透明度が77.4%である酸化セルロースナノファイバー(C-7)水分散液を得た。このセルロースナノファイバーの水分散液の60rpmにおけるB型粘度は2400mPa・sであった。
[0245] 光輝性顔料分散体の調製
実施例1
攪拌混合容器に、蒸留水を76.7部、「Dynol604」(商品名、アセチレンジオール系湿潤剤、エボニックインダストリーズ社製、エチレンオキサイド鎖あり、固形分100%)を固形分で0.25部、「Hydroshine WS-3001」(商品名、水性用蒸着アルミニウムフレーク顔料、Eckart社製、固形分:10%、内部溶剤:イソプロパノール、平均粒子径D50:13μm、厚さ:0.05μm、表面がシリカ処理されている)を固形分で1.2部、「アルペースト EMR-B6360」(商品名、東洋アルミ社製、ノンリーフィングアルミニウムフレーク、平均粒子径D50:10.3μm、厚さ:0.19μm、表面がシリカ処理されている)を固形分で0.37部、セルロースナノファイバー(C-1)水分散液を固形分で0.5部、「TINUVIN 479-DW」(商品名、紫外線吸収剤、BASF社製、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、HPT系紫外線吸収剤TINUVIN479をアクリルポリマー中に包含、固形分40%)を固形分で0.14部、「TINUVIN 123-DW」(商品名、光安定剤、BASF社製、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル、アミノエーテル基を持つHALS TINUVIN 123をアクリルポリマー中に包含 固形分50%)を固形分で0.11部、アクリル樹脂水分散体(R-2)を固形分で0.67部、イソプロパノールを19.5部、オクタノールを0.51部となるように添加して攪拌混合し、光輝性顔料分散体(Y-1)を調整した。
[0246] 実施例2~28、比較例1~10
表1に記載の配合とする以外は全て実施例1と同様にして光輝性顔料分散体(Y-2)~(Y-38)を得た。
[0247] 表1中の数値は、蒸留水、溶剤については液体の量、その他については固形分量を記載している。
[0248] なお、表1における各成分は以下の通りである。
「TEGO TWIN4100」商品名、シリコーン系湿潤剤、エボニック・デグサ社製、エチレンオキサイド鎖あり、固形分100%、
「BYK348」商品名、BYK社製、シリコーン系湿潤剤、BYK社製、エチレンオキサイド鎖あり、固形分:100%、
「サーフィノール420」商品名、エボニックインダストリーズ社製、アセチレンジオール系湿潤剤、エチレンオキサイド鎖あり、固形分100%、
「サーフィノール440」商品名、エボニックインダストリーズ社製、アセチレンジオール系湿潤剤、エチレンオキサイド鎖あり、固形分100%、
「サーフィノール460」商品名、エボニックインダストリーズ社製、アセチレンジオール系湿潤剤、エチレンオキサイド鎖あり、固形分100%、
「サーフィノール104A」商品名、エボニックインダストリーズ社製、アセチレンジオール系湿潤剤、エチレンオキサイド鎖なし、固形分50%、
「Metalure Liquid Black」商品名:水性用蒸着クロムフレーク顔料、Eckart社製、固形分:10%、内部溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテル、平均粒子径D50:14μm、厚さ:0.02μm、
「Xirallic T61-10 Micro Silver」(商品名、酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、メルク社製、一次平均粒子径:約12μm、平均厚さ:約0.3μm)
「Xirallic T60-10 Crystal Silver」(商品名、酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、メルク社製、一次平均粒子径:約19μm、平均厚さ:約0.4μm)
「Pyrisma M40-58 SW AmbercupOrange」(商品名、酸化鉄被覆マイカ顔料、メルク社製、一次平均粒子径:約17.1μm、平均厚さ:約0.65μm)
「Acrysol ASE-60」商品名、ダウケミカル社製、ポリアクリル酸系粘性調整剤、固形分:28%、
「ユーコートUX-300」商品名、三洋化成社製、ウレタン樹脂水分散体。
・・・
[0250]
[表2]
[図:0001424600000003.jpg]
」(なお、[0238]、[0245]の各1行目の下線は原文どおり。)
(3)甲3
甲3には以下の記載がある。
甲3a)「
[図:0001424600000004.jpg]
」(1頁)
甲3b)「
[図:0001424600000005.jpg]
」(3頁、1~7行。なお、1行目の下線は原文どおり。)
甲3c)「
[図:0001424600000006.jpg]
」(3頁、(2)及び(3)の項目並びに図4及び5)
(4)甲4
甲4には以下の記載がある。
甲4a)「【請求項1】
カルボキシ基含有量が0.1mmol/g以上である微細セルロース繊維のカルボキシ基に修飾基が結合されてなる、平均アスペクト比が1以上150以下である微細セルロース繊維複合体。」
甲4b)「【0003】
例えば、特許文献1には、界面活性剤を吸着させた微細セルロース繊維複合体を、各種樹脂に配合することで、高い機械的強度と透明性とを併せ持った複合材料が得られることが報告されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の複合材料は、例えば家電部品、自動車部品、電子材料等の各種成形品用途の適用において、更なる耐熱性の向上が求められるものであった。
【0006】
本発明は、各種樹脂に配合した際に、耐熱性に優れる樹脂組成物を提供し得る微細セルロース繊維複合体、ならびに、該複合体を含有する樹脂組成物に関する。さらに本発明は、かかる樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、表面が修飾された、特定のアスペクト比を有する微細セルロース繊維複合体を各種樹脂と混合することで、得られた樹脂組成物が耐熱性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【0011】
従来の微細セルロース繊維複合体は、通常300程度の平均アスペクト比を有する微細セルロース繊維に対して各種修飾基を結合させるなどの複合化処理を行なったものであるが、かかる複合体は修飾基による効果が優れるものの耐熱性が十分ではないことが判明した。一方、本願発明者らは、修飾基を有する複合体が特定の平均アスペクト比を有する場合に、該複合体が当該修飾基による効果が損なわれることなく、耐熱性にも優れる材料となりうることを見出した。このような効果が奏される詳細な理由は不明なるも、平均アスペクト比が前記範囲内に含まれる微細セルロース繊維複合体は、天然セルロース繊維中に存在する脆弱な部分、例えば、非晶領域が切断されて短繊維化したものであるために、全体として結晶領域の分布割合が増加することから、耐熱性に優れるものになると推察される。また、得られる複合体の繊維長も短いことから、樹脂組成物中での分散性が向上して、フィラーとしての効果も十分発揮されて機械的強度に優れながら、耐熱性の向上効果がより増強されると考えられる。」
甲4c)「【0012】
<微細セルロース繊維>
(カルボキシ基含有量)
本発明の微細セルロース繊維複合体を構成する微細セルロース繊維は、カルボキシ基含有量が、0.1mmol/g以上であるが、安定な微細化及び修飾基導入の観点から、好ましくは0.4mmol/g以上、より好ましくは0.6mmol/g以上、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下、更に好ましくは1.5mmol/g以下、更に好ましくは1.2mmol/g以下である。なお、「カルボキシ基含有量」とは、微細セルロース繊維を構成するセルロース中のカルボキシ基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0013】
(平均繊維径)
本発明の微細セルロース繊維複合体を構成する微細セルロース繊維の平均繊維径は、該複合体を樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性及び機械的強度を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1nm以上、更に好ましくは2nm以上、より更に好ましくは3nm以上である。また、樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下、更に好ましくは6nm以下、より更に好ましくは5nm以下である。
【0014】
(平均繊維長)
本発明の微細セルロース繊維複合体を構成する微細セルロース繊維の長さ(平均繊維長)としては、該複合体を樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上である。また、樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは750nm以下、更に好ましくは500nm以下、更に好ましくは400nm以下である。
【0015】
(平均アスペクト比)
また、本発明の微細セルロース繊維複合体は、特定の平均アスペクト比を有することから、構成する微細セルロース繊維も同程度の平均アスペクト比を有することが好ましい。微細セルロース繊維の平均アスペクト比(繊維長/繊維径)としては、複合体を樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、更に好ましくは40以上、更に好ましくは50以上であり、複合体を樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性及び機械的強度を向上させる観点から、好ましくは150以下、より好ましくは140以下、更に好ましくは130以下、更に好ましくは100以下、更に好ましくは95以下、更に好ましくは90以下である。また、平均アスペクト比が上記範囲内にある場合、アスペクト比の標準偏差としては、複合体を樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは45以下であり、下限は特に設定されないが、経済性の観点から、好ましくは4以上である。なお、本明細書において、セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することができ、平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径により算出することができる。具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。一般に、高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6×6の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析される高さを繊維の幅と見なすことができる。」
甲4d)「【0070】
<微細セルロース繊維複合体及びその製造方法>
本発明の微細セルロース繊維複合体は、前記した微細セルロース繊維に修飾基を導入できるのであれば、特に限定なく公知の方法に従って製造することができる。例えば、予め調製された低アスペクト比を有する微細セルロース繊維に修飾基を導入する反応を行ってもよいし、平均アスペクト比が前記範囲から外れる微細セルロース繊維に修飾基を導入する反応を行ってから低アスペクト比化処理を行なってもよいし、低アスペクト比の微細セルロース繊維複合体を調製する際に修飾基を導入する反応を行ってもよい。なお、ここでいう微細セルロース繊維は、公知の方法、例えば、特開2011-140632号公報に記載の方法を参照にし、カルボキシ基が0.1mmol/g以上導入された微細セルロース繊維を調製することができる。また、天然セルロース、イソプロピルアルコール等の低級アルコールと水の混合媒体、水酸化ナトリウム等の触媒を混合した後、クロロ酢酸ナトリウムなどのカルボキシ導入剤を添加し、反応を行う。その後公知の方法で微細化処理することで、カルボキシ基がエーテル結合を介して0.1mmol/g以上導入された微細セルロース繊維を得ることができる。」
甲4e)「【実施例】
【0149】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。なお、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0150】
〔微細セルロース繊維及び微細セルロース繊維複合体の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比〕
微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体に水を加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維又は該セルロース繊維複合体が確認できる顕微鏡画像において、微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体を100本以上抽出し、それらの繊維又は繊維複合体高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。
【0151】
〔微細セルロース繊維及び微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量〕
乾燥質量0.5gの微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体を100mLビーカーにとり、イオン交換水もしくはメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT-710」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量を算出する。
カルボキシ基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロース繊維の質量(0.5g)
・・・
【0158】
微細セルロース繊維の調製例1(針葉樹の酸化パルプ)
針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
【0159】
まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、該パルプ質量100gに対し、TEMPO1.6質量%、臭化ナトリウム10質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加した。自動滴定装置AUT-701(東亜ディーケーケー社製)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持した。反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、酸化パルプを得た。イオン交換水を用いて得られた酸化パルプを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行い固形分34.6%の酸化パルプを得た。その後、酸化パルプ1.04gとイオン交換水34.8gを高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を10回行い、カルボキシ基含有微細セルロース繊維分散液(固形分濃度1.0質量%)を得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は2.7nm、平均繊維長は578nm、平均アスペクト比は214、カルボキシ基含有量は1.2mmol/gであった。
【0160】
微細セルロース繊維の調製例2(広葉樹の酸化パルプ)
ユーカリ由来の広葉樹漂白クラフトパルプ(CENIBRA社製)に変更したこと以外は調製例1と同様の方法で酸化パルプを製造した。得られた酸化パルプに調製例1と同様の微細化処理を行って、カルボキシ基含有微細セルロース繊維分散液(固形分濃度1.0質量%)を得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は3.5nm、平均繊維長は674nm、平均アスペクト比は193、カルボキシ基含有量は1.0mmol/gであった。
【0161】
微細セルロース繊維の調製例3(針葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
調製例1で得られた脱水処理後の酸化パルプ92.54gを、1000gのイオン交換水で希釈し、濃塩酸を346g(セルロース系原料の絶乾質量100質量部に対して389質量部)加えて、酸化パルプ固形分濃度2.34wt%、塩酸濃度2.5Mの分散液(pH1以下)に調製し、10分間、105℃で還流させて酸加水分解処理を行なった。得られた酸化パルプを十分に洗浄し、固形分41%の酸加水分解TEMPO酸化パルプを得た。その後、酸化パルプ0.88gとイオン交換水35.12gを高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を10回行い、カルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維分散液(固形分濃度1.0質量%)を得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は4.6nm、平均繊維長は331nm、平均アスペクト比は72、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。
【0162】
微細セルロース繊維の調製例4(針葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
還流時間を60分に変更したこと以外は調製例3と同様の方法でカルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維を製造した。この微細セルロース繊維の平均繊維径は6.1nm、平均繊維長は284nm、平均アスペクト比は47、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。
【0163】
微細セルロース繊維の調製例5(針葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
還流時間を120分に変更したこと以外は調製例3と同様の方法でカルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維を製造した。この微細セルロース繊維の平均繊維径は7.5nm、平均繊維長は237nm、平均アスペクト比は32、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。
【0164】
微細セルロース繊維の調製例6(広葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
調製例2で得られた酸化パルプを用いた以外は調製例3と同様の方法でカルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維を製造した。この微細セルロース繊維の平均繊維径は8.2nm、平均繊維長は213nm、平均アスペクト比は26、カルボキシ基含有量は1.0mmol/gであった。
【0165】
微細セルロース繊維の調製例7(針葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
調製例1で得られた脱水処理後の酸化パルプ14.5g(固形分5g)と脱イオン水33.3gを金属製圧力機器(耐圧硝子工業社製、商品名:「ポータブルリアクターTVSN2型」)へ入れ、0.4MPa[gage]の窒素ガスで金属製圧力機器内部を加圧した後、大気圧(101kPa[abs])に戻した(以下、この操作を窒素置換という)。さらに4回窒素置換を行った後密閉した。その後無攪拌状態で180℃に加熱したオイルバスで槽内温度が150℃となるまで加熱し、その後槽内温度が150℃を維持するようにオイルバス温度を調整して1時間反応した。冷却後、内容物を取り出したのち、イオン交換水を120g加えて攪拌した後、PTFEメンブレンフィルターを用いて濾過分離を行い含浸した微細セルロース繊維を21.2g得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は6.3nm、平均繊維長は250nm、平均アスペクト比は40、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。
・・・
【0169】 微細セルロース繊維の調製例11(長繊維とのブレンド) 調製例1で得られた脱水処理後の酸化パルプ0.145g(固形分0.05g)、調製例5で得られた洗浄後の酸化パルプ1.0g(固形分0.41g)とイオン交換水42.1gを混合し高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を10回行い、カルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維分散液(固形分濃度1.0質量%)を得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は7.0nm、平均繊維長は270nm、平均アスペクト比は38、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。」
甲4f)「【0184】
【表1】
[図:0001424600000007.jpg]
・・・
【0187】
【表4】
[図:0001424600000008.jpg]
」
(5)甲5
甲5には以下の記載がある。
甲5a)「【0158】
微細セルロース繊維の調製例1(針葉樹の酸化パルプ)
針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
【0159】
まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、該パルプ質量100gに対し、TEMPO1.6質量%、臭化ナトリウム10質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加した。自動滴定装置AUT-701(東亜ディーケーケー社製)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持した。反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、酸化パルプを得た。イオン交換水を用いて得られた酸化パルプを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行い固形分34.6%の酸化パルプを得た。その後、酸化パルプ1.04gとイオン交換水34.8gを高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を10回行い、カルボキシ基含有微細セルロース繊維分散液(固形分濃度1.0質量%)を得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は2.7nm、平均繊維長は578nm、平均アスペクト比は214、カルボキシ基含有量は1.2mmol/gであった。
・・・
【0161】
微細セルロース繊維の調製例3(針葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
調製例1で得られた脱水処理後の酸化パルプ92.54gを、1000gのイオン交換水で希釈し、濃塩酸を346g(セルロース系原料の絶乾質量100質量部に対して389質量部)加えて、酸化パルプ固形分濃度2.34wt%、塩酸濃度2.5Mの分散液(pH1以下)に調製し、10分間、105℃で還流させて酸加水分解処理を行なった。得られた酸化パルプを十分に洗浄し、固形分41%の酸加水分解TEMPO酸化パルプを得た。その後、酸化パルプ0.88gとイオン交換水35.12gを高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を10回行い、カルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維分散液(固形分濃度1.0質量%)を得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は4.6nm、平均繊維長は331nm、平均アスペクト比は72、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。
【0162】
微細セルロース繊維の調製例4(針葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
還流時間を60分に変更したこと以外は調製例3と同様の方法でカルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維を製造した。この微細セルロース繊維の平均繊維径は6.1nm、平均繊維長は284nm、平均アスペクト比は47、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。
【0163】
微細セルロース繊維の調製例5(針葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
還流時間を120分に変更したこと以外は調製例3と同様の方法でカルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維を製造した。この微細セルロース繊維の平均繊維径は7.5nm、平均繊維長は237nm、平均アスペクト比は32、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。
【0164】
微細セルロース繊維の調製例6(広葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
調製例2で得られた酸化パルプを用いた以外は調製例3と同様の方法でカルボキシ基含有の低アスペクト比を有する微細セルロース繊維を製造した。この微細セルロース繊維の平均繊維径は8.2nm、平均繊維長は213nm、平均アスペクト比は26、カルボキシ基含有量は1.0mmol/gであった。
【0165】
微細セルロース繊維の調製例7(針葉樹酸化パルプの低アスペクト比化)
調製例1で得られた脱水処理後の酸化パルプ14.5g(固形分5g)と脱イオン水33.3gを金属製圧力機器(耐圧硝子工業社製、商品名:「ポータブルリアクターTVSN2型」)へ入れ、0.4MPa[gage]の窒素ガスで金属製圧力機器内部を加圧した後、大気圧(101kPa[abs])に戻した(以下、この操作を窒素置換という)。さらに4回窒素置換を行った後密閉した。その後無攪拌状態で180℃に加熱したオイルバスで槽内温度が150℃となるまで加熱し、その後槽内温度が150℃を維持するようにオイルバス温度を調整して1時間反応した。冷却後、内容物を取り出したのち、イオン交換水を120g加えて攪拌した後、PTFEメンブレンフィルターを用いて濾過分離を行い含浸した微細セルロース繊維を21.2g得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は6.3nm、平均繊維長は250nm、平均アスペクト比は40、カルボキシ基含有量は1.1mmol/gであった。」
(6)甲6
甲6には以下の記載がある。
甲6a)「【0032】
<酵素処理工程>
本工程の酵素処理は、酸化工程中のセルロース繊維の水分散液又は酸化セルロース繊維を含む水分散液中に酵素を添加して、一定時間保持する処理である。保持する処理とは、セルロースに酵素を吸着させ作用させることを意味する。このとき、必要に応じて攪拌することもできる。
【0033】
本工程の処理により、酸化セルロース繊維の加水分解が促進され、酸化セルロース繊維の水分散液の粘度が低下される。これは、酸化セルロース繊維の幅又は長さ又はアスペクト比が低下したことに基づくものと推測される。」
(7)甲7
甲7には以下の記載がある。
甲7a)「【0077】
[短繊維化処理]
短繊維化処理とは、処理前のセルロース鎖を適宜切断する(短繊維化する)処理であり、例えば、紫外線照射処理、酸化分解処理、加水分解処理、及びこれらのうち2以上の組み合わせが挙げられる。短繊維化処理は、加水分解処理、又は加水分解処理と他の処理の組み合わせが好ましい。」
2 引用発明
(1)甲1発明
甲1には、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物であり、平均繊維幅が1nm以上200nm以下であるナノセルロースについて記載されている(摘記甲1a~甲1k)ところ、その具体例である製造例4~7として、セルロースナノファイバー(CNF)の水分散体である、CNF水分散体D~Gを得た例が記載されており(摘記甲1j)、かかるCNF水分散体D~Gについて、ゼータ電位の検討を行った実施例1-4~1-7及びアスペクト比の検討を行った実施例3-4~3-7において、カルボキシル基量(カルボキシ基量)及びアスペクト比も併せて記載されている(摘記甲1k)。
また、CNF水分散体D~Gは水分散体ではあるものの、甲1には、CNF水分散体D~Gについて、「酸化セルロース及びナノセルロースの製造」と記載され(摘記甲1j、[0049])、「各製造例で得られた酸化セルロースを凍結乾燥させた後、23℃、50%RHで24時間以上放置した試料の固体13C-NMRを測定」したことが記載され(摘記甲1j、[0053])、解繊処理後の水分散体をろ過等することによって、セルロースナノファイバー(CNF)を取得することは、本件優先日における技術常識であり(摘記甲4e、【0165】参照。)、しかも、甲1には、その請求項1に「ナノセルロース」が、請求項8に該ナノセルロースが分散媒に分散された「ナノセルロース分散液」が記載され(摘記甲1a)、「ナノセルロース及びこれを含むナノセルロース分散液は、種々の用途に適用することができる」ことが記載されている(摘記甲1h)から、解繊処理して製造されたCNFの水分散体が記載されていれば、CNFが記載されているに等しいといえる。
したがって、甲1の記載、特に、上記製造例4~7及び実施例3-4~3-7の記載からみて、甲1には、次に示す発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「機械解繊した針葉樹クラフトパルプ(カルボキシ基量:0.05mmol/g)を、次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化する工程を経て得られる、以下のD~Eのカルボキシ基量(mmol/g)及びアスペクト比(長さ/径)を有する、CNF。
D:カルボキシ基量(mmol/g)が0.92、アスペクト比(長さ/径)が48
E:カルボキシ基量(mmol/g)が0.97、アスペクト比(長さ/径)が42
F:カルボキシ基量(mmol/g)が0.94、アスペクト比(長さ/径)が46
G:カルボキシ基量(mmol/g)が0.95、アスペクト比(長さ/径)が32」
(2)甲2発明
甲2には、水、湿潤剤(A)、鱗片状光輝性顔料(B)及びセルロースナノファイバー(C)を含有する光輝性顔料分散体について記載されているところ(摘記甲2a~甲2f)、セルロールナノファイバーの調製例として、針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプをTEMPOを用いて酸化してカルボキシル化セルロースを得、その後解繊処理を実施した酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た製造例12の記載がある(摘記甲2f)。
そして、甲1の場合と同様の理由により、解繊処理を実施した酸化セルロースナノファイバー水分散液が記載されていれば、セルロースナノファイバーが記載されているに等しいといえる。
したがって、甲2の記載、特に製造例12の記載からみて、甲2には、次に示す発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプを、TEMPOを用いて酸化してカルボキシル化セルロースを得る工程を経て得られる、カルボキシル基量が0.9mmol/gである酸化セルロースナノファイバー。」
(3)甲4発明
甲4には、カルボキシ基含有量が0.1mmol/g以上である微細セルロース繊維のカルボキシ基に修飾基が結合されてなる、平均アスペクト比が1以上150以下である微細セルロース繊維複合体について記載されている(摘記甲4a~甲4f)。当該微細セルロース繊維複合体は、微細セルロース繊維に修飾基を導入して調製されるものである(摘記甲4d)ところ、微細セルロース繊維の調製の具体例である調製例4~7及び11として、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維(調製例4、5、7及び11)又はユーカリ由来の広葉樹漂白クラフトパルプ(調製例6)からTEMPOを用いて酸化パルプを得、その後、微細セルロース繊維分散液を製造したことが、カルボキシ基含有量及び平均アスペクト比も併せて記載されている(摘記甲4e及び甲4f)。
なお、調製例4~6では、調製例3と同様の方法で微細セルロース繊維を製造したことが記載されており(摘記甲4e)、調製例3では、イオン交換水を用いた微細化処理を行って微細セルロース繊維分散液を得ている。また、調製例7では、イオン交換水を120g加えて攪拌しており(摘記甲4e)、そのときに微細セルロース繊維の水分散液が得られているといえる。調製例11でもイオン交換水を用いた微細化処理を行って微細セルロース繊維分散液を得ている(摘記甲4e)。
そして、甲1の場合と同様の理由により、微細化処理を行って製造された微細セルロース繊維分散液が記載されていれば、微細セルロース繊維が記載されているに等しいといえる。
したがって、甲4の記載、特に、調製例4~7及び11の記載からみて、甲4には、次に示す発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認める。
「針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維又はユーカリ由来の広葉樹漂白クラフトパルプを、TEMPOを用いて酸化パルプとする工程を経て得られる、以下の4~7及び11のカルボキシ基含有量(mmol/g)及び平均アスペクト比を有する微細セルロース繊維。
4:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、平均アスペクト比が47
5:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、平均アスペクト比が32
6:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.0、平均アスペクト比が26
7:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、平均アスペクト比が40
11:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、平均アスペクト比が38
ただし、4、5、7及び11の微細セルロース繊維は針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維を、6の微細セルロース繊維はユーカリ由来の広葉樹漂白クラフトパルプを、それぞれ用いる。」
3 取消理由1及び2について
(1)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲1発明について
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「CNF」はセルロースナノファイバーであるから、本件発明1の「セルロースナノファイバー」に相当する。
甲1発明の「カルボキシ基量」について、甲1には「(カルボキシ基量の測定)
酸化セルロースの濃度を0.5質量%に調整した酸化セルロース水分散体60mlに、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いてカルボキシ基量(mmol/g)を算出した。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロースの質量(g)」と記載されている(摘記甲1j、[0051])ところ、当該方法は、本件明細書の【0013】に記載されるカルボキシル基量の算出方法と同様の方法である(なお、以下では、「カルボキシル基」と「カルボキシ基」は同義であるとする。)。また、上記甲1に記載のカルボキシ基量の算出式において「酸化セルロースの質量」は、酸化セルロース自体の質量である。以上のことを考慮すれば、甲1発明のD~GのCNFのカルボキシ基量(mmol/g)が0.92、0.97、0.94及び0.95であることは、本件発明1の「(A)セルロースナノファイバーが」、「カルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること」に相当する。
甲1発明のD~GのCNFのアスペクト比(長さ/径)が48、42、46及び32であることは、本件発明1の「(B)アスペクト比が、20以上50未満であること」に相当する。
甲1発明のD~GのCNFは、「セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体」ではなく、本件発明1の条件(D)に該当するセルロースナノファイバーでもない。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「 下記条件(A)、(B)及び(D)を満たすセルロースナノファイバー(ただし、前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体を除く)。
(A)セルロースナノファイバーが、カルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること。
(B)アスペクト比が、20以上50未満であること。
(D)以下を満たすセルロースナノファイバーではないこと。
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が47
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が32
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.0mmol/g、アスペクト比が26
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が40、又は
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が38」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-甲1>
セルロースナノファイバーが有するカルボキシル基について、本件発明1は、「セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入された」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、CNFが「機械解繊した針葉樹クラフトパルプ(カルボキシ基量:0.05mmol/g)を、次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化する工程を経て得られる」ものであって、当該次亜塩素酸ナトリウムを用いた酸化によってカルボキシ基が導入されており、N-オキシル化合物は用いられていないから、「セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入された」ものではない点。
上記相違点1-甲1について検討するに、上記第2、2(1)ウで述べたとおり、TEMPO酸化によってカルボキシル基が導入されたセルロースナノファイバーとオゾン酸化によってカルボキシル基が導入されたセルロースナノファイバーは異なるセルロースナノファイバーであるといえること、それと同様に、酸化に用いる材料が異なることに起因して、得られるセルロースナノファイバーの性質が異なる、すなわち、得られるセルロースナノファイバーが異なるといえることから、相違点1-甲1が存在することによって、本件発明1のセルロースナノファイバーは、甲1発明のCNFとは異なるものであるといえる。
したがって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
次に、進歩性について検討する。
甲1には、発明が解決しようとする課題として、「N-オキシル化合物をセルロース繊維中に含んでおらず、かつ分散媒中での分散安定性に優れたナノセルロースを提供することを主たる目的とする」こと(摘記甲1b)、発明の効果として、「本発明によれば、分散媒中での分散安定性に優れたナノセルロースを得ることができる。また、N-オキシル化合物を含まないため、環境等への影響を低減することができる」こと(摘記甲1c)が記載されており、実施例においてもN-オキシル化合物を用いていないなど、甲1の全体の記載を参酌すれば、甲1に記載された発明は、N-オキシル化合物を用いずにナノセルロースを製造することによって、上記課題を解決し、所定の効果を奏するものであるといえる。
してみると、甲1発明について、「セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有する」セルロースナノファイバーとすることには阻害要因があるといえ、甲1発明について、かかるセルロースナノファイバーとすることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)甲4発明について
本件発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明の「微細セルロース繊維」について、平均繊維長及び平均繊維径のいずれもがナノメートル単位である(摘記甲4f、表1及び表4参照。)から、本件発明1の「セルロースナノファイバー」に相当する。
甲4発明の「カルボキシ基含有量」について、甲4には「乾燥質量0.5gの微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体を100mLビーカーにとり、イオン交換水もしくはメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT-710」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量を算出する。
カルボキシ基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロース繊維の質量(0.5g)」と記載されている(摘記甲4e、【0151】)ところ、当該方法は、本件明細書の【0013】に記載されるカルボキシル基量の算出方法と同様の方法である。また、上記【0151】における「乾燥質量」は本件発明1の「絶乾質量」に相当する。以上のことを考慮すれば、甲4発明の4~7及び11の微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、1.1、1.0、1.1及び1.1であることは、本件発明1の「(A)セルロースナノファイバーが」、「カルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること」に相当する。
甲4発明の4~7及び11の微細セルロース繊維の平均アスペクト比が47、32、26、40及び38であることは、本件発明1の「(B)アスペクト比が、20以上50未満であること」に相当する。
甲4発明の4~7及び11の微細セルロース繊維は、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維又はユーカリ由来の広葉樹漂白クラフトパルプを、TEMPOを用いて酸化パルプとする工程を経て得られるものであるところ、TEMPO(2,2,6,6テトラメチルピペリジン-1-オキシル(甲4の【0073】を参照。))はN-オキシル化合物であり、酸化によってカルボキシ基が導入されるから、本件発明1の「セルロースナノファイバーが、セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有」することに相当する。
甲4発明は、「セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体」ではない。
してみると、本件発明1と甲4発明とは、
「 下記条件(A)、(B)を満たすセルロースナノファイバー(ただし、前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体を除く)。
(A)セルロースナノファイバーが、セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること。
(B)アスペクト比が、20以上50未満であること。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-甲4>
本件発明1は、「条件(D)」
「(D)以下を満たすセルロースナノファイバーではないこと。
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が47
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が32
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.0mmol/g、アスペクト比が26
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が40、又は
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が38」を満たすセルロースナノファイバーであるのに対し、甲4発明は、
「以下の4~7及び11のカルボキシ基含有量(mmol/g)及び平均アスペクト比を有する微細セルロース繊維
4:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、平均アスペクト比が47
5:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、平均アスペクト比が32
6:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.0、平均アスペクト比が26
7:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、平均アスペクト比が40
11:カルボキシ基含有量(mmol/g)が1.1、平均アスペクト比が38」である、すなわち、条件(D)に合致する微細セルロース繊維である点。
そして、上記相違点1-甲4は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲4に記載された発明であるとはいえない。
次に進歩性について検討する。
甲4には、カルボキシ基含有量について、安定な微細化及び修飾基導入の観点から、好ましくは0.4mmol/g以上であること、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下であることが記載され(摘記甲4c、【0012】)、また、平均アスペクト比について、複合体を樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは1以上であること、複合体を樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の耐熱性及び機械的強度を向上させる観点から、好ましくは150以下であることが記載されている(摘記甲4c、【0015】)から、甲4発明について、上記各種性質を考慮して、カルボキシ基含有量、アスペクト比を変更することは当業者が容易になし得た事項であるということができる。
効果について検討する。
甲4には、界面活性剤を吸着させた微細セルロース繊維複合体を、各種樹脂に配合することで、高い機械的強度と透明性とを併せ持った複合材料が得られること、従来の複合材料は、所定用途の適用において、更なる耐熱性の向上が求められるものであったこと、甲4に記載された発明は、各種樹脂に配合した際に、耐熱性に優れる樹脂組成物を提供し得る微細セルロース繊維複合体とすること等を課題とするものであること、表面が修飾された、特定のアスペクト比を有する微細セルロース繊維複合体を各種樹脂と混合することで、得られた樹脂組成物が耐熱性に優れることを見出したことが記載されている(摘記甲4b)。
ここで、上記2(3)で述べたとおり、微細セルロース繊維複合体は、微細セルロース繊維に修飾基を導入して調製されるものである(摘記甲4d)ところ、甲4発明は、当該修飾基が導入される前の繊維セルロース繊維に相当するものであるから、甲4には、それ自体を機械的強度と透明性を併せ持ち、かつ耐熱性に優れる樹脂が得られる材料として使用することが記載ないし示唆されているとはいえない。また、甲4には、修飾基が導入される前の繊維セルロース繊維がどのような性質を有するかについても記載されていない。
一方、本件明細書の記載、特に【0009】及び実施例の記載からみて、本件発明1は、粘度の発現を抑えることができ、さらに塗料、フィルム等の成膜用途において、塗工性、透明性、濡れ性等の優れた物性を発揮できるセルロースナノファイバーを提供することができるという効果を奏するものであるといえる。
そして、かかる本件発明1が奏する効果は、甲4の記載から当業者が予測し得る範囲内のものであるとはいえない。
してみると、本件発明1は、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1についてさらに「下記条件(C)をさらに満たす」、「(C)平均繊維径が、500nm以下であること」と限定するものであるところ、上記アで述べたとおり、本件発明1は、甲1及び甲4に記載された発明であるとはいえず、甲1及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明2についても、甲1及び甲4に記載された発明であるとはいえず、甲1及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明3及び4について
本件発明3は、本件発明1又は2のナノセルロースファイバーを含む、水系分散組成物の発明であり、本件発明4は、本件発明3について「フィルム用である」ことを限定するものであるところ、上記ア及びイで述べたとおり、本件発明1及び2は、甲1及び甲4に記載された発明であるとはいえず、甲1及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明3及び4についても、甲1及び甲4に記載された発明であるとはいえず、甲1及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1及び取消理由2には理由がない。
4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規性)について
申立理由1は取消理由1として採用した理由である。
(2)申立理由2(進歩性)について
ア 引用発明
(ア)甲1に記載された発明
上記2(1)で示した甲1発明である。
(イ)甲2に記載された発明
上記2(2)で示した甲2発明である。
イ 対比・判断
(ア)甲1を主引用例とする申立理由2について
本件発明1と甲1発明の一致点・相違点は上記3(1)ア(ア)で述べたとおりであるところ、同相違点(相違点1-甲1)について、甲1発明について、「セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有する」セルロースナノファイバーとすることには阻害要因があることに鑑みれば、本件発明1~4が、甲1を主引用例として甲1~甲7の記載に基いて当業者が容易になし得たということはできない。
(イ)甲2を主引用例とする申立理由2について
a 本件発明1について
甲2発明の「酸化セルロースナノファイバー」は、本件発明1の「セルロースナノファイバー」に相当する。
甲2発明の「カルボキシル基含有量」について、甲2の[0084]に、カルボキシル基の量は、酸化セルロースの絶乾質量に対する量であることが記載されている(摘記甲2e)ところ、その記載内容は、本件明細書の【0012】の「カルボキシル量」と同様の内容である。したがって、甲2発明の酸化セルロースナノファイバーの「カルボキシル基量が0.9mmol/gである」ことは、本件発明1の「(A)セルロースナノファイバーが」、「カルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること」に相当する。
甲2発明の酸化セルロースナノファイバーは、針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプを、TEMPOを用いて酸化してカルボキシル化セルロースを得る工程を経て得られるものであるところ、TEMPOはN-オキシル化合物であるから、本件発明1の「セルロースナノファイバーが、セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有」することに相当する。
甲2発明は、「セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体」ではなく、本件発明1の条件(D)に該当するセルロースナノファイバーでもない。
してみると、本件発明1と甲2発明とは、
「 下記条件(A)及び(D)を満たすセルロースナノファイバー(ただし、前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に修飾基が結合されてなるセルロースナノファイバー複合体を除く)。
(A)セルロースナノファイバーが、セルロース原料のN-オキシル化合物を用いる酸化により導入されたカルボキシル基を有し、かつ、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基量が0.8~1.10mmol/gの範囲にあること。
(D)以下を満たすセルロースナノファイバーではないこと。
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が47
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が32
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.0mmol/g、アスペクト比が26
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が40、又は
セルロースナノファイバーの絶乾質量に対するカルボキシル基含有量が1.1mmol/g、アスペクト比が38」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-甲2>
本件発明1は、「条件(B)」「(B)アスペクト比が、20以上50未満であること。」を満たすセルロースナノファイバーであるのに対し、甲2発明の酸化セルロースナノファイバーのアスペクト比は不明である点。
上記相違点について検討する。
甲2には、「本発明の目的は、耐水性に優れ、金属又は真珠調光沢を形成することができ、かつ安定性に優れた光輝性顔料分散体及び複層塗膜形成方法を提供することにある。」、「光輝性顔料分散体におけるセルロースナノファイバーとしては、耐水性と、金属又は真珠調光沢とに優れた塗膜を形成することができ、さらに粘度安定性の高い光輝性顔料分散体を得る観点から、セルロースナノファイバーのカルボキシル基量が低く、かつ高透明なセルロースナノファイバーを使用する。」と記載されている(摘記甲2b及び甲2c)ところ、かかる目的、得られる効果とアスペクト比の関係に関する記載はない。
また、甲2には、「酸化CNFの平均アスペクト比は、通常は50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下であり、より好ましくは700以下であり、さらに好ましくは500以下である。」と記載されている(摘記甲2e、[0094])ところ、かかる記載からは、通常とされる50以上のアスペクト比を有する酸化CNFであれば、上記課題が解決でき、上記効果が得られるといえる。
してみると、甲3に低アスペクト比のナノ結晶セルロース及び高アスペクト比のナノ結晶セルロースについて、アスペクト比と粘度との関係が示され(摘記甲3a~甲3c)、甲4及び甲5に所定の平均繊維径、平均繊維長及びカルボキシ基含有量であって、アスペクト比が26、32、40及び47である微細セルロース繊維が記載され(摘記甲4e及び甲5a)、甲6に酸化工程中のセルロース繊維の水分散液又は酸化セルロース繊維を含む水分散液中に酵素を添加して、一定時間保持する処理することで、酸化セルロース繊維の加水分解が促進され、酸化セルロース繊維の水分散液の粘度が低下されることが記載され(摘記甲6a)、甲7にセルロース鎖を適宜切断する(短繊維化する)処理として、紫外線照射処理、酸化分解処理、加水分解処理が記載されている(摘記甲7a)としても、甲2発明の酸化セルロースナノファイバーのアスペクト比を20以上50未満とする動機付けがあるとはいえない。甲1の記載を参酌しても同様である。
したがって、本件発明1は、甲2を主引用例として甲1~甲7の記載に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
b 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1についてさらに「下記条件(C)をさらに満たす」、「(C)平均繊維径が、500nm以下であること」と限定するものであるところ、上記アで述べたとおり、本件発明1は、甲2を主引用例として甲1~甲7の記載に基いて当業者が容易になし得たということはできないのであるから、本件発明2についても、甲2を主引用例として甲1~甲7の記載に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
c 本件発明3及び4について
本件発明3は、本件発明1又は2のナノセルロースファイバーを含む、水系分散組成物の発明であり、本件発明4は、本件発明3について「フィルム用である」ことを限定するものであるところ、上記a及びbで述べたとおり、本件発明1及び2は、甲2を主引用例として甲1~甲7の記載に基いて当業者が容易になし得たということはできないのであるから、本件発明3及び4についても、甲2を主引用例として甲1~甲7の記載に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
ウ まとめ
よって、申立理由2には理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできず、ほかに請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700951