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特許異議申立

2022-700273

低Co水素吸蔵合金粉末

審判番号
2022-700273
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-124133
登録番号
6948441
請求日
2022年03月31日
審決日
2022年07月25日
公報発行日
2022年08月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】新日本電工株式会社
  • 【権利者代理人】木村 孔一
  • 【権利者代理人】山田 靖
  • 【権利者代理人】影山 秀一
  • 【異議申立人】本間 裕美
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 宮部 裕一
  • 審判官 平塚 政宏
分類
P1651.536-Y (C22C) / P1651.537-Y (C22C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6948441号発明「低Co水素吸蔵合金粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6948441号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。

理由

理 由 1 手続の経緯 特許6948441号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和 2年 7月21日を出願日とする特願2020-124133号(以下、「本願」という。)であって、令和 3年 9月22日にその特許権の設定登録がされ、同年10月13日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、令和 4年 3月31日に、その請求項1~4(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である本間裕美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2 本件発明 本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、本件特許の請求項1~4に係る発明を、以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本件特許の明細書を、以下「本件明細書」という。 「 【請求項1】 一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)、5.20≦a+b+c+d≦5.50)で表され、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末であって、 前記Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内であり、前記水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下であることを特徴とする水素吸蔵合金粉末。 【請求項2】 水素吸蔵量(H/M)が0.85以上1.00以下、かつ、微粉化難度が0.50以上0.60以下であり、平衡圧力が0.040MPa以上0.070MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金粉末。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金粉末を負極活物質としたことを特徴とする負極。 【請求項4】 請求項3に記載の負極を用いたことを特徴とする電池。」 3 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、以下の申立理由(1)~(7)により、本件特許の請求項1~4に係る特許が取り消されるべきものである旨主張している。 なお、特許異議申立書の「3 申立ての理由」の「(1)申立ての理由の要約」(第1ページ)、及び「(5) むすび」(第5ページ)の各項に記載の「特許法第36条第4項第1項」、「特許法第36条第6項第1項」及び「特許法第36条第6項第2項」は、それぞれ「特許法第36条第4項第1号」、「特許法第36条第6項第1号」及び「特許法第36条第6項第2号」の明らかな誤記と認める(なお、下線は当審が付与。以下、同じ。)。 (1) 申立理由1-1(サポート要件) 以下のア及びイの点で、本件発明1~4は、発明の詳細な説明の記載事項の範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものでない。 したがって、本件発明1~4について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ア 本件発明における「ヤング率が120GPa以上127GPa以下」という条件は、一般式MmNiaMnbAlcCodで示される合金組成物の、元素の種類及び含有量に起因するものであり、特にCo量がヤング率に重要な作用を及ぼすと理解することができる。かかる点に鑑みて、本件特許の発明の詳細な説明を検討すると、本件発明のCo含有量の範囲内にある[実施例]は、Co含有量が0.09%のもののみである。 そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明の記載事項の範囲を超えるものである。 (特許異議申立書第2ページ第30行~第3ページ第19行) イ 本件発明では、一般式MmNiaMnbAlcCoaで表される水素吸蔵合金粉末について、Ni含有量はモル%で4.30≦a≦4.70と規定されているにもかかわらず、実施例では4.42以上4.69以下のごく一部の範囲におけるヤング率のデータしか記載されておらず、またMn含有量はモル%で0.25≦b≦0.45と規定されているにもかかわらず、実施例では0.28以上0.40以下のごく一部の範囲におけるヤング率のデータしか記載されておらず、さらにAl含有量はモル%で0.35≦c≦0.45と規定されているにもかかわらず、実施例では0.38以上0.41以下のごく一部の範囲におけるヤング率のデータしか記載されていない。 そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明の記載事項の範囲を超えるものである。 なお、平成24年(行ケ)第10151号判決により、「そもそも,合金は,通常,その構成(成分及び組成範囲等)から,どのような特性を有するか予測することは困難であり,また,ある成分の含有量を増減したり,その他の成分を更に添加したりすると,その特性が大きく変わるものであって,合金の成分及び組成範囲が異なれば、同じ製造方法により製造したとしても,その特性は異なることが通常であると解される」と判示されていることに鑑みれば、一部の元素含有量の実施例(実験例)をもって、広範な元素含有量の範囲を規定することは不条理であって、不可能な事柄である。 (特許異議申立書第3ページ第28行~第4ページ第15行) (2) 申立理由1-2(サポート要件) 本件発明2において、水素吸蔵合金粉末について、「水素吸蔵量(H/M)が0.85以上1.00以下、かつ、微粉化難度が0.50以上0.60以下であり、平衡圧力が0.040MPa以上0.070MPa以下である」と規定されているが、本件明細書の「実施例」を参酌すると、水素吸蔵量(H/M)は0.92以上0.93以下のほぼ一点の値しか記載されておらず、また、平衡圧力も0.046MPa以上0.057MPa以下(当審注:本件明細書の段落【0045】【表2】の記載から、「0.041MPa以上0.057MPa以下」を誤記したものと解される。)の範囲の値しか記載されていない。 そうすると、本件発明2と本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明3、4は、発明の詳細な説明の記載事項の範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものでない。 したがって、本件発明2~4について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (特許異議申立書第4ページ第26行~同ページ第36行) (3) 申立理由2-1(実施可能要件) 本件発明における「ヤング率が120GPa以上127GPa以下」という条件は、一般式MmNiaMnbAlcCodで示される合金組成物の、元素の種類及び含有量に起因するものであり、特にCo量がヤング率に重要な作用を及ぼすと理解することができる。かかる点に鑑みて、本件特許の発明の詳細な説明を検討すると、本件発明のCo含有量の範囲内にある[実施例]は、Co含有量が0.09%のもののみであり、当該実施例をもってヤング率がどのように変化するのか論じることはできない。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 したがって、本件発明について、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (特許異議申立書第2ページ第30行~第3ページ第13行、同ページ第20行~同ページ第23行) (4) 申立理由2-2(実施可能要件) 本件明細書には、ヤング率の測定について、「研磨により得られた100μm程度の単結晶粒子の断面中心で測定した」(本件明細書の段落【0042】)との記載があるが、当該単結晶粒子の大きさが、本件発明と同様の水素吸蔵合金に係る他の特許発明(特許第6934097号)における単結晶粒子の粒子径15.5μmと比べて大きすぎることからみて、本件発明で上記単結晶粒子を用いて測定されたというヤング率の値には疑義がある。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 したがって、本件発明について、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (特許異議申立書第4ページ第16行~同ページ第25行) (5) 申立理由3-1(明確性要件) 本件発明における「ヤング率が120GPa以上127GPa以下」という条件は、一般式MmNiaMnbAlcCodで示される合金組成物の、元素の種類及び含有量に起因するものであり、特にCo量がヤング率に重要な作用を及ぼすと理解することができる。かかる点に鑑みて、本件特許の発明の詳細な説明を検討すると、本件発明のCo含有量の範囲内にある[実施例]は、Co含有量が0.09%のもののみであり、当該実施例をもって本件発明の、一般式MmNiaMnbAlcCodで示される合金組成物において、Co含有量(0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く))の範囲がどのようにして決定されたものかが不明である。 また、本件発明では、一般式MmNiaMnbAlcCoaで表される水素吸蔵合金粉末について、Ni含有量はモル%で4.30≦a≦4.70と規定されているにもかかわらず、実施例では4.42以上4.69以下のごく一部の範囲におけるヤング率のデータしか記載されておらず、またMn含有量はモル%で0.25≦b≦0.45と規定されているにもかかわらず、実施例では0.28以上0.40以下のごく一部の範囲におけるヤング率のデータしか記載されておらず、さらにAl含有量はモル%で0.35≦c≦0.45と規定されているにもかかわらず、実施例では0.38以上0.41以下のごく一部の範囲におけるヤング率のデータしか記載されていないが、水素吸蔵合金のヤング率に大きな影響を与える各元素の上限値及び下限値がどのようにして決定されたのか、本件明細書からは明らかでない。 したがって、本件発明について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (特許異議申立書第2ページ第30行~第3ページ第13行、同ページ第24行~同ページ第27行、同ページ第28行~第4ページ第3行) (6) 申立理由3-2(明確性要件) 本件明細書の段落【0037】には、微粉化難度の測定方法について記載されている。しかしながら、初期粒度D50についての定義が記載されておらず、また微粉化難度が初期粒度D50に依存し、当該値によって種々変化するとの技術常識に照らせば、微粉化難度の定義やその値の意味は不明確である。 したがって、本件発明2と本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明3、4は、明確でない。 よって、本件発明2~4について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (特許異議申立書第5ページ第1行~同ページ第6行) (7) 申立理由3-3(明確性要件) 本件明細書の「実施例」を参酌すると、水素吸蔵量(H/M)は0.92以上0.93以下のほぼ一点の値しか記載されておらず、また、平衡圧力も0.046MPa以上0.057MPa以下(当審注:本件明細書の段落【0045】【表2】の記載から、「0.041MPa以上0.057MPa以下」を誤記したものと解される。)の範囲の値しか記載されておらず、これらの値から水素吸蔵量及び平衡圧力それぞれの上限値や下限値を決定することは不可能であるから、本件発明2の技術的異議は不明確である。 よって、本件発明2と本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明3、4は、明確でない。 したがって、本件発明2~4について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (特許異議申立書第5ページ第7行~同ページ第13行) 4 本件特許の明細書及び図面の記載事項 (1)本件特許の明細書(以下、「本件明細書」という。)及び図面には、以下の事項が記載されている。なお、「・・・」は記載の省略を表すものである。以下、同じ。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ニッケル水素電池の負極として用いられるCaCu5型の結晶構造を有するCo含有量の少ない水素吸蔵合金に関する。更に本発明は、この水素吸蔵合金を負極として使用した電池に関する。」 イ 「 【0007】 AB5型水素吸蔵合金では、Aサイト原子量に対するBサイト原子量の割合(AB比)、及びNiの一部をCo、Mn、Al等の置換量を調整することにより、それを用いた負極の充放電容量、入出力特性、サイクル寿命などの様々な特性を調整することができる。そのような特徴をもつAB5型水素吸蔵合金は、様々な用途に応じたニッケル水素蓄電池を造り分けすることを可能としている。 【0008】 ・・・ 【0009】 例えば、特許文献1において、二次電池用水素吸蔵合金として、(RxMy)・(NiaCobMncAld)z(ただしRはLaを75%≧含有する希土類混合金属、MはTi、Zr、Hfから選ばれる何れか1種の金属、x+y=1、0.002≦y<0.01、3.5<a<4.5、0.6≦b<1.0、c≦0.2、0.2≦d≦0.4、5.1≦z<5.3)で表される二次電池用水素吸蔵合金であり、この水素吸蔵合金のマイクロビッカース硬度が、400以上であることが提案されている 【0010】 また特許文献2において、一般式が(RxMy)・(NiaCobMncAld)(ただしRはLaを75%≧含有する希土類混合金属、MはTi、Zr、Hfから選ばれる何れか1種の金属、x+y=1、0.002≦y<0.01、3.5<a<4.5、0.6≦b<1.0、c≦0.2、0.2≦d≦0.4、5.1≦(a+b+c+d+)で表される二次電池用水素吸蔵合金であり、この水素吸蔵合金のマイクロビッカース硬度が、400以上であることが提案されている 【0011】 また特許文献3において、AxR1-x(MyNi1-y)n(式中、AはY、Gd、Tb、Dy又はこれらの混合物、RはLa、Ce、Pr、Nd又はこれらの混合物、MはCo、Al、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Mo、W、B又はこれらの混合元素を示す。x、y及びnは、それぞれ0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.5、4.9≦n≦5.4である)で表される合金であって、該合金のビッカース硬度(Hv)が900kg/mm2以上であることが提案されている。 【0012】 ・・・ 【先行技術文献】 【特許文献】 【0013】 【特許文献1】特開平10-261413号公報 【特許文献2】特開2008-210809号公報 【特許文献3】特開2001-266864号公報 【特許文献4】特開2010-255104号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0014】 上記の通り、これまでにも検討がなされてきているが、近年レアメタルであるCoの取引価格が高騰するなか、Coを含有するAB5型水素吸蔵合金の原料コストを維持あるいは低減するためには、Coの含有率を可能な限り低減する必要がある。しかし、AB5型水素吸蔵合金のCo含有率を低減すると、水素の吸蔵放出が繰り返されることによる合金の微粉化が促進し、負極の寿命特性が低下する傾向がある。Co含有量の低減と、負極の寿命特性を両立させるための有効な課題解決策は見つかっていない。 【0015】 特許文献1には、二次電池用水素吸蔵合金として、(RxMy)・(NiaCobMncAld)zでLaを75%以上含有する希土類混合金属、元素Mの添加量を0.02以上0.01未満としており、元素Mの添加量の理由としてこの範囲でないと合金のマイクロビッカース硬度を400以上とすることができず、そのため水素吸蔵・放出時、すなわち、充放電時に合金が割れやすくなり、サイクル寿命の低下につながるとしている。しかし、この水素吸蔵合金のCo量は0.6~1.0としており、実施例での0.6~0.9の場合だが、Coが多すぎる課題がある。また、特許文献1には、水素吸蔵合金を負極活物質に用いた際の寿命特性の向上を図るという観点から、水素吸蔵合金の微粉化抑制という課題及びこれを解決するための具体的手段に関する記載はない。 【0016】 特許文献2では、二次電池用水素吸蔵合金として、(RxMy)・(NiaCobMncAld)で希土類金属に占めるLaを75%以上とし、Laサイトに添加する元素Mの添加量を0.02以上0.01未満としており、元素Mの添加量の理由としてこの範囲でないと合金のマイクロビッカース硬度を400以上とすることができず、そのため水素吸蔵・放出時、すなわち、充放電時に合金が割れやすくなり、サイクル寿命を長くするために必要としている。しかし、この水素吸蔵合金のCo量は0.6~1.0としており、実施例での0.6~0.9の場合だが、Coが多すぎる課題がある。この特許文献についても、水素吸蔵合金を負極活物質に用いた際の寿命特性の向上を図るという観点から、水素吸蔵合金の微粉化抑制という課題及びこれを解決するための具体的手段に関する記載はない。 【0017】 特許文献3には、AxR1-x(MyNi1-y)n(式中、AはY、Gd、Tb、Dy又はこれらの混合物、RはLa、Ce、Pr、Nd又はこれらの混合物、MはCo、Al、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Mo、W、B又はこれらの混合元素を示す。xは好ましくは0.03~0.05、yが0.01~0.5、nは4.9以上5.4以下でHv900kg/mm2の水素吸蔵合金が得られるとしている。しかし、この水素吸蔵合金のCo量は実施例によるCo量は0.50から0.75モル%となり、やはりCoが多すぎる課題がある。また、この特許文献にも、水素吸蔵合金を負極活物質に用いた際の寿命特性の向上を図るという観点から、水素吸蔵合金の微粉化抑制という課題及びこれを解決するための具体的手段に関する記載はない。 【0018】 特許文献4には、水素吸蔵合金の製造工程において、磁選工程を設けて不純物除去を行うことで、短絡の原因となる不純物(鉄及びCr)を効果的に除去できることが開示されているが、水素吸蔵合金を負極活物質に用いた際の寿命特性の向上を図るという観点から、水素吸蔵合金の微粉化抑制という課題及びこれを解決するための具体的手段に関する記載はない。」 ウ 「【0019】 本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、Coを含有するAB5型水素吸蔵合金について、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制することで、負極活物質に用いたときの寿命特性を維持することを課題としている。」 エ 「【課題を解決するための手段】 【0020】 本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究し、所定の組成のCoを含有するAB5型水素吸蔵合金において、Co含有量の低減あるいはCo無添加により原料コストを抑制したうえで、粉砕で得られた合金粒子断面の単結晶相の機械的性質と電池特性の関係を詳細に調べた結果、水素吸蔵合金の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率と電池特性に強い相関があることを見出し、前記ヤング率を120GPa以上127GPa以下にコントロールすることで、水素吸蔵量の低下がなく、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制でき、負極活物質に用いたときの寿命特性が維持されるAB5型水素吸蔵合金とすることができることを見出し、本発明を完成させた。 【0021】 本発明の要旨は、次の通りである。 【0022】 (1)一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)、5.20≦a+b+c+d≦5.50)で表され、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末であって、 前記Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内であり、前記水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下であることを特徴とする水素吸蔵合金粉末。 (2)水素吸蔵量(H/M)が0.85以上1.00以下、かつ、微粉化難度が0.50以上0.60以下であり、平衡圧力が0.040MPa以上0.070MPa以下であることを特徴とする前記(1)に記載の水素吸蔵合金粉末。 (3)前記(1)又は(2)に記載の水素吸蔵合金を負極活物質としたことを特徴とする負極。 (4)前記(3)に記載の負極を用いたことを特徴とする電池。」 オ 「【発明の効果】 【0023】 本発明により、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制したAB5型水素吸蔵合金を得ることができ、初期特性に優れ、微粉化難度に優れ、寿命特性に優れ、ニッケル水素電池用負極に好適なAB5型水素吸蔵合金を得ることができるという顕著な効果を奏する。」 カ 「【図面の簡単な説明】 【0024】 【図1】水素吸蔵合金の粉砕粉を樹脂包埋後、研磨して得られた粒子断面についての二次電子像(a)及びEBSDによる方位解析像(b)を示す。なお、EBSDによる方位解析像(b)において、左側の粒子(単結晶相1)、中央上部の粒子(単結晶相2)及右側の粒子(単結晶相3)は、EBSDによる方位解析により、それぞれの粒子の断面が同じ色となっていることから、それぞれの粒子が一つの方位を有すること、すなわち単結晶相からなることを示す。また、粒子の中心部分付近を測定点とすることで単結晶相のヤング率を測定することになる。 【図2】実施例1~4および比較例1~3における微粉化難度とナノインデンターから得られたヤング率の関係を示すグラフである。」 キ 「【発明を実施するための形態】 【0025】 以下に本発明を詳細に説明する。 【0026】 本発明者は、Co含有量の少ないAB5型水素吸蔵合金の機械的性質に着目し、水素吸蔵合金粉末(以下、単に「水素吸蔵合金」と記す場合もある。)の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が大きくなるほど微粉化難度に優れることを見出した。前記ヤング率は合金結晶の剛直さを示すものであり、合金結晶の剛直さによって水素吸蔵しても合金結晶が割れ難くなっていると解釈できる。よって、微粉化難度を良好にして、ニッケル水素電池用負極として優れた寿命特性を得るには、前記ヤング率の大きな合金結晶を用いることである。 具体的には、水素吸蔵合金の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上であると、ニッケル水素電池用負極として優れた合金となる。120GPa未満では、水素吸蔵放出を繰り返すと合金結晶の割れが進行し易くなり、即ち、微粉化難度が低下してニッケル水素電池用負極として十分な特性が得られない。前記ヤング率が大きくなれば、より良好な微粉化難度となるが、前記ヤング率が大きくなり過ぎると合金の加工性が悪くなってニッケル水素電池用負極とできる合金粉砕に時間がかかり過ぎる。よって、前記ヤング率の上限は、127GPaとした。 【0027】 本発明におけるAB5型水素吸蔵合金は、CaCu5型結晶構造を有し、一般式MmNiaMnbAlcCod(Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14、5.20≦a+b+c+d≦5.50)で表され、Coのモル比dは、原料コスト低減のため、なるべく少ない方が好ましく、0≦d≦0.14としている。ただ、Co含有量が0.02未満では、前記ヤング率を大きくしても微粉化難度が維持できない場合があるので、好ましくは、0.02≦d≦0.14である。」 ク 「 【0028】 AB5型水素吸蔵合金において、Aサイトを構成する金属について説明する。 本発明では、Aサイトを構成する金属として、LaまたはLaの一部もしくは全部が希土類金属混合物であるミッシュメタル(Mm)を用いる。Mmでは、LaおよびCeが、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内の割合を占めていることが好ましく、より好ましくは、Laが70~96質量%、Ceが4~30質量%の範囲であり、更に好ましくは、Laが74~94質量%、Ceが6~26質量%の範囲である。 【0029】 次にBサイトを構成する金属について説明する。本発明では、Bサイトを構成する金属として、Ni、Mn、Al、及びCoを用いる。これら金属のモル比は以下の条件を満たすことが好ましい。 Niモル比(a) 4.30≦ a ≦4.70 Mnモル比(b) 0.25≦ b ≦0.45 Alモル比(c) 0.35≦ c ≦0.45 Coモル比(d) 0≦ d ≦0.14 AB比 5.20≦(a+ b + c + d ) ≦5.50 更に好ましい条件は、次の通りである。 Niモル比(a) 4.40≦ a ≦4.70 Mnモル比(b) 0.25≦ b ≦0.41 Alモル比(c) 0.38≦ c ≦0.42 Coモル比(d) 0.02≦ d ≦0.11 AB比 5.25≦(a+ b + c + d ) ≦5.46 【0030】 MmのLa、Ceの比率、Ni、Mn、Alのモル比を前記の通りに設定した理由としては、AB5型水素吸蔵合金の水素吸蔵量(H/M)が、0.85~1.00とすることにより充放電容量を確保すること、平衡圧力を0.040~0.070MPaとして初期活性化しやすくすること、PCT曲線におけるプラトー域をなるべく広くすることを考慮したためである。」 ケ「 【0031】 前記、水素吸蔵合金において、粉砕で得られた100μmの合金粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下であることが好ましい。 また、水素吸蔵合金は鋳込み時、結晶成長するが、その合金断面のEBSD観察によるグレインサイズをみると、自由面に対して比較的グレインサイズが小さくなる冷却面であっても平均134μmとなる。水素吸蔵合金の機械的粉砕により得られた粒子は粒界から優先して割れるため、得られた100μm程度の粒子であればほぼ単結晶となっている。この粒子を樹脂包埋し、研磨により得られた100μmの粒子断面の中心部であれば、単結晶相を選択していることになるので、ナノインデンテーションによるヤング率測定はこの部分で測定を行う。」 コ 「 【0032】 前記、水素吸蔵合金において、水素吸蔵量(H/M)が0.85~1.00であり、かつ微粉化難度が0.50~0.60、平衡圧力が0.040~0.070MPaである。 ここで、微粉化難度とは、「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度(D5 0 )」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度(D5 0 )」で除した値である。また、平衡圧力は、測定温度45℃水素放出側のH/M=0.5における平衡水素圧力(MPa)のことである。 【0033】 微粉化難度を0.50~0.60とした理由は、高すぎると初期活性化し難く、反対に低すぎると、電池の寿命特性が確保されないためである。微粉化難度は水素吸蔵量(H/M)と相間があり、H/Mが多いほど微粉化難度は低め、H/Mが少ないほど微粉化難度は高めになる傾向がある。またH/Mを0.85~1.00とした理由は、ニッケル水素電池用負極を作製したときに、目標の充放電容量を確保するためである。」 サ 「 【0034】 本発明の水素吸蔵合金粉末は、上述のCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、前記合金粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下とすることができる製造方法であれば、どのような方法でもよく、例えば、真空溶融炉や大気溶融炉による溶解法、気相合成法、アーク溶融法、プラズマ溶解法、等で製造できる。前記製造した合金を熱処理したり、粉砕したりしてもよい。 前記製造方法の1例として、秤量工程、混合工程、鋳造工程、熱処理工程、冷却工程および粉砕工程を経て製造する場合を説明する。秤量工程では、所望の合金組成となるように水素吸蔵合金の各原料を秤量する。混合工程では、秤量された複数種類の原料を混合する。鋳造工程において、高周波加熱溶解炉に混合原料を投入し、混合原料を溶解させて溶湯とし所定時間保持した後、この溶湯を鋳型に流し込んで鋳造する。鋳造時の溶湯温度は合金組成にもよるが、例えば、1150℃~1550℃の範囲の温度(鋳造温度=鋳造開始時の坩堝内溶湯温度)である。この工程は複数種類の原料を完全に混合することを目的にしているが合金が固化するときの体積収縮による内部歪が発生する。この内部歪を極力減らすために合金の鋳込み厚さは35mm以上とし、500℃以下まで冷却される時間を10分以上とすると良い。この鋳込み厚さとすることで合金がゆっくり固まり、内部歪を減らすことが出来る。この時、鋳込んだ合金のヤング率は50GPa以上、110GPa以下となる。 鋳造後の合金は、前述した内部歪を取り去るため熱処理を行う。必要であれば、熱処理工程において非酸化雰囲気下で熱処理してもよい。熱処理温度は、完全に歪を取り除く目的で合金組成に合わせて決められるが、例えば、1060℃~1150℃とすればよい。 熱処理温度は融点より若干低い温度が好ましいが、低すぎても熱処理時に組織が均質化されず、また、高すぎる温度の場合には偏析相が出現するため、局部的な組成ずれが起こる。結晶組織の均質化や局部的な組成ずれは合金の強直性に影響し、これがヤング率の低下に影響する。これを防ぐため今回の組成範囲では1060℃~1150℃が好ましい。 また、熱処理時間は、鋳造後のインゴット(水素吸蔵合金片)の大きさにもよるが、例えば、8時間から13時間である。熱処理は組織の均質性に影響する工程であり、この時間が短いと十分な結晶組織の均質性が得られず、このその局部的な均質性の低下が合金の強直性に影響し、ヤング率の低下につながる。 冷却工程では、熱処理された鋳造物が冷却される。冷却方法は、放冷でも強制冷却することもできる。 冷却速度は、合金組成に合わせて必要な合金特性を得るために適宜設定する方がよい。この工程によりヤング率は120GPa以上127GPa以下となる。 次工程である粉砕工程では、鋳造した合金又は更に熱処理した合金塊を、粗粉砕、微粉砕等により必要な粒度の水素吸蔵合金粉末にする。例えば、500μmの篩目を通過するサイズまで粉砕して水素吸蔵合金粉末とする。 以上のような製造方法では、合金のヤング率は、合金組成、溶湯保持温度・時間、鋳造温度、鋳造した合金の熱処理温度・時間・冷却速度、等を適宜調整することができる。例えば、合金組成においての一例としては、CaCu5型の結晶構造における[Cu]/[Ca]比(ABxのx値)を増加するとヤング率を大きくすることができる。 【0035】 このようにして得られた水素吸蔵合金粉末は、PCT(水素圧-組成-等温線図)特性評価装置によって、水素吸蔵量(H/M)、平衡圧力を測定する。」 シ 「 【0036】 本発明におけるナノインデンターによるヤング率測定について説明する。 水素吸蔵合金の直径40から200μmの粉砕粉をナノインデンター観察用に、樹脂に包埋、鏡面研磨し、直径31から32mm、高さ34mm以下となるように調整する。樹脂包埋、研磨の方法であるが、例えば、丸本ストリアス株式会社製の樹脂(#105)80mLと硬化剤(M剤)1.2mLを包埋用の樹脂として用いる。また、樹脂包埋用に用いる容器はStrier製のSeriFormの直径30mm品を用いる。自動研磨装置としてリファインテック株式会社製リファイン・ポリッシャーHVにAMO-210を組み込んだ装置を使用した。条件として樹脂の表面状態に合わせて耐水ペーパー600番から800、1000、2000番まで200N、300rpmでそれぞれ3分程度研磨する。その後、アルミナ1μmとアルミナ0.05μmを100N、200rpmでそれぞれ2分程度研磨し、仕上げとしてバフのみで100N、200rpm、30秒程度仕上げの研磨を行う。この後、国際規格ISO14577に則った方法、具体的には、Nanomechanics社製iMicoro型ナノインデンターに、InForce50ヘッドを装着し、連続剛性測定法(CSM/CSR)により、測点点数として粒子当たり5点、押し込み試験5点、最大押し込み荷重50mN、ヤング率算出深さ30~40nmでヤング率を測定する。この時、巣や欠落箇所の無い平坦な面を選択して観察することが望ましい。 水素吸蔵合金は鋳込み時、結晶成長するが、その合金断面のEBSD観察によるグレインサイズをみると、自由面に対して比較的グレインサイズが小さくなる冷却面であっても平均134μmとなる。水素吸蔵合金の機械的粉砕により得られた粒子は粒界から優先して割れるため、得られた100μm程度の粒子であればほぼ単結晶となっている。この粒子を樹脂包埋し、研磨により得られた100μmの粒子断面の中心部であれば、単結晶相を選択していることになるので、ナノインデンテーションによるヤング率測定はこの部分で測定を行う(図1(b)参照)。」 ス 「 【0037】 本発明における微粉化難度の測定方法について説明する。 PCT(水素圧-組成-等温線図)特性はJIS H 7201「水素吸蔵合金の圧力-等温線(PCT線)の測定法」に準じた市販の評価装置具、例えば、株式会社鈴木商館で販売されているPCT特性測定装置とSUS316製、外形12.7mm、長さ91mmのサンプルホルダーを用い、試料5gの測定からより得られた「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度(D5 0 )」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度(D5 0 )」で除した値を、微粉化難度として指標化した。」 セ 「【実施例】 【0038】 以下、本発明の実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものはない。 【0039】 (実施例1-4) MmとしてLaとCe、Ni、Mn、Al、Coの各金属原料を、表1に示した最終的な製品の合金組成となるように秤量した。 それらの原料を高周波溶解炉内のアルミナルツボに入れて27Paまで真空排気した後、アルゴンガスを導入してアルゴンガスの雰囲気とした。 次いで高周波加熱装置で加熱溶解し、溶湯を1550~1600℃、 20~30分間の範囲で保持した後、1300~1400℃の温度範囲の溶湯を水冷鉄鋳型に流し込んで鋳造を行った。この時の鋳込み厚さは40mmであった。 次に鋳込んだ合金を塊状に粉砕後、ステンレス製の容器に入れ、アルゴン雰囲気下1100℃で12.5時間の熱処理を行った。 ついで、熱処理後の900℃付近から500℃付近まで4.45℃/minの冷却速度で降温し、ついで、100℃まで1℃/minの冷却速度で降温させた。 得られた合金は、アルゴンガス雰囲気下でクラッシャーにより粗粉砕し、続いて、不活性雰囲気下でカッティングミルを用いて粉砕し、続いて篩目500μmを通過する粒子サイズ(500μm以下)とした。 以上のようにして、表1に実施例1~4として示す水素吸蔵合金粉末を作製した。 なお、表1には、熱処理条件も併記した。 【0040】 (PCT特性の測定) 得られた水素吸蔵合金粉末について、PCT特性評価装置により、水素吸蔵量(H/M)、平衡圧力を測定した。その結果を表2に示す。 【0041】 (微粉化難度の測定) PCT特性評価装置を用いて、微粉化難度を測定した。その結果を表2に示す。 【0042】 (ナノインデンテーション法によるヤング率の測定) 上記のようにして作製した水素吸蔵合金粉末を、直径31mm、高さ30mmとなるよう樹脂包埋、鏡面研磨した試料をナノインデンター(Nanomechanics社iMicro型ナノインデンター、InForce50ヘッド使用)を用い、連続剛性測定法(CSM/CSR)により、測点点数として粒子当たり5点、押し込み試験5点、最大押し込み荷重50mN、ヤング率算出深さ30~40nmでヤング率の測定を行った。その結果を図2、表2に示す。 水素吸蔵合金は鋳込み時、結晶成長するが、その合金断面のEBSD観察によるグレインサイズをみると、自由面に対して比較的グレインサイズが小さくなる冷却面であっても100~200μm程度となる。水素吸蔵合金の機械的粉砕により得られた粒子は粒界から優先して割れるため、得られた100μm程度の粒子であればほぼ単結晶となっている。この粒子を樹脂包埋し、研磨により得られた100μmの粒子断面の中心部であれば、単結晶相を選択していることになるので、ナノインデンテーションによるヤング率測定はこの部分で測定を行う(図1(b)参照)。 【0043】 (比較例1) 組成を表1の比較例1とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。 (比較例2) 表1の比較例2の組成で熱処理時間を5時間とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。 (比較例3) 表1の比較例3の組成で熱処理温度を1050℃とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。 (比較例4) 表1の比較例4の組成で900から500℃までの冷却速度を10℃/minで降温した以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。 上記比較例1~4についても、実施例と同様な方法で、水素吸蔵量(H/M)、平衡圧力、微粉化難度、ヤング率を測定した。その結果を表2に示す。 【0044】 【表1】 [図:0001387531000001.jpg] 【0045】 【表2】 [図:0001387531000002.jpg] 【0046】 表2、図2から、ヤング率は微粉化難度と相関があることが解かる。本発明の水素吸蔵合金は、比較例(従来)の水素吸蔵合金に比較してヤング率が120GPa以上と高いため微粉化難度が高い結果を示した。更に、H/Mが、0.92以上と比較的高く、平衡圧力も比較的低めであることが確認できた。 このことから、本発明の水素吸蔵合金は、Co含有量が少なく原料コストが低く、初期特性に優れ、微粉化難度に優れ、寿命特性に優れ、ニッケル水素電池用負極に好適な合金であることが確認できた。」 ソ 「【図1】 [図:0001387531000003.jpg] 」 5 当審の判断 以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 (1)申立理由1-1、及び申立理由1-2(サポート要件)について ア サポート要件についての判断手法 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 本件発明に関するサポート要件について そこで、上記アの判断手法を踏まえ、上記4で摘記した本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項を参照しながら、本件発明に関する特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしているか否かについて検討する。 (ア) 本件発明が解決しようとする課題 上記4(1)ア~ウに摘記した本件明細書の記載を踏まえると、発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、高価なCoを含有するAB5型水素吸蔵合金において、原料コストを抑制するためにCoの含有率を低減したうえで、その際に問題となる水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制し、負極活物質に用いたときの寿命特性を維持することにあると認められる。 (イ) 課題を解決するための手段 a そして、上記4(1)イ、エ及びオに摘記した本件明細書の記載からみて、発明の詳細な説明には、先行文献として挙げられた特許文献1(特開平10-261413号公報)及び特許文献2(特開2008-210809号公報)に記載された二次電池用水素吸蔵合金は、「Co量(当審注:Coのモル比を意味する。以下、同じ。)は0.6~1.0」であり、同特許文献3(特開2001-266864号公報)に記載された水素吸蔵合金は、「実施例によるCo量は0.50から0.75モル%」であり、いずれもCo量が多すぎる(段落【0015】~【0017】)ものであったのに対し、発明の詳細な説明に記載されたCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末は、「一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)、5.20≦a+b+c+d≦5.50)・・・前記Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内」との合金組成を有するものであることにより、上記特許文献1~3に記載された各水素吸蔵合金と比較して、Co含有量(dで表される。)が「0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)」まで低減されたものであることが記載されている。 b また、上記4(1)キ、コ、及びサに摘記した本件明細書の記載からみて、発明の詳細な説明には、水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率(以下、単に「ヤング率」という。)は、合金結晶の剛直さを示すものであり、その値が大きくなるほど、合金結晶の剛直さによって水素を吸蔵しても合金結晶が割れ難くなり、微粉化難度(「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度(D5 0 )」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度(D5 0 )」で除した値を意味する(段落【0032】)。)に優れることを見いだし、水素吸蔵合金粉末の合金組成やその製造方法における種々の条件を調整し、そのヤング率の大きさを120GPa以上とすることにより、微粉化難度が良好で、ニッケル水素電池用負極活物質として優れた寿命特性を得ることができることが記載されているといえる。 c そうすると、上記a及びbより、上記(ア)で説示した上記課題を解決するためには、以下の要件を備えることが必要であると理解することができる。 [要件]CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末が、「一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)、5.20≦a+b+c+d≦5.50)・・・前記Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内」との合金組成を有することにより、上記特許文献1~3に記載された各水素吸蔵合金と比較して、Co含有量が「0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)」まで低減されたものであり、かつ、「前記水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上」とされたものであること d また、上記4(1)セに摘記したように、本件明細書の発明の詳細な説明には、所定の合金組成を有するCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末と、当該水素吸蔵合金粉末の微粉化難度の測定結果が、【表1】及び【表2】にそれぞれ記載されている。 そして、上記【表1】及び【表2】には、合金組成及びヤング率の大きさが上記[要件]を満足する実施例1の水素吸蔵合金粉末が、合金組成におけるAB比又はヤング率の大きさが上記[要件]を満足しない比較例1~4の水素吸蔵合金粉末と比較して、高い微粉化難度を有することが示されている。 このことから、当業者であれば、上記[要件]を満足する水素吸蔵合金粉末であれば、上記(ア)で説示した上記課題を解決できると合理的に理解できるといえる。 (ウ)本件発明についての特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合することについて そして、本件特許請求の範囲に記載された本件発明は、上記[要件]を備える水素吸蔵合金粉末であるから、当業者が出願の技術常識に照らして発明の詳細な説明に記載により上記課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 (エ)小括 以上より、本件発明1~4についての特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、サポート要件に適合するものである。 ウ 申立人の主張について (ア)申立理由1-1(サポート要件)について a 申立人は、本件発明で規定されているCo、Ni、Mn、及びAl(以下、「構成元素」という。)の各含有量の数値範囲に対して、本件明細書にはごく一部の範囲でのヤング率の測定結果しか記載されていないため、本件発明の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものとはいえないとの主旨の主張をしている。 b しかしながら、上記【表1】及び【表2】に示される水素吸蔵合金粉末の具体的な例(実施例、比較例)において、一の構成元素に着目したとき、その含有量が同じ水素吸蔵合金粉末であっても、そのヤング率の大きさは異なる(例えば、Coに着目したとき、Co含有量が同じ実施例1と比較例1とで、ヤング率の大きさは異なる。)ことから明らかなように、水素吸蔵合金粉末のヤング率は、一の構成元素の含有量のみに依存して決定されるものではない。そして、このことは当業者にとって自明の事項である。 c そして、上記4の(1)サに摘記したように、本件明細書に、「秤量工程、混合工程、鋳造工程、熱処理工程、冷却工程および粉砕工程」を経る製造方法を用いて製造される水素吸蔵合金粉末に関して、「合金のヤング率は、合金組成、溶湯保持温度・時間、鋳造温度、鋳造した合金の熱処理温度・時間・冷却速度、等を適宜調整することができる。例えば、合金組成においての一例としては、CaCu5型の結晶構造における[Cu]/[Ca]比(ABxのx値)を増加するとヤング率を大きくすることができる。」(段落【0034】)と記載されていることからみて、水素吸蔵合金粉末のヤング率の大きさは、全体の合金組成、及びCaCu5型の結晶構造における[Cu]/[Ca]比(ABxのx値であり、【表1】でAB比として表されている値)、並びにその製造方法における種々の条件(溶湯保持温度・時間、鋳造温度、鋳造した合金の熱処理温度・時間・冷却速度、等)により調整することができる物性であるといえる。 また、本件明細書の「鋳造後の合金は、前述した内部歪を取り去るため熱処理を行う。・・・熱処理温度は、完全に歪を取り除く目的で合金組成に合わせて決められるが、例えば、1060℃~1150℃とすればよい。熱処理温度は融点より若干低い温度が好ましいが、低すぎても熱処理時に組織が均質化されず、また、高すぎる温度の場合には偏析相が出現するため、局部的な組成ずれが起こる。結晶組織の均質化や局部的な組成ずれは合金の強直性に影響し、これがヤング率の低下に影響する。これを防ぐため今回の組成範囲では1060℃~1150℃が好ましい。また、熱処理時間は、鋳造後のインゴット(水素吸蔵合金片)の大きさにもよるが、例えば、8時間から13時間である。熱処理は組織の均質性に影響する工程であり、この時間が短いと十分な結晶組織の均質性が得られず、このその局部的な均質性の低下が合金の強直性に影響し、ヤング率の低下につながる。」(段落【0034】)との記載から、上記製造方法において鋳造後に行う「内部歪を取り去るため」の熱処理工程では、偏析相の出現等による局部的な組成ずれを生じることがなく、結晶組織の十分な均質性を得ることができるように、鋳造した合金に対する上記熱処理温度・時間を設定することが肝要であると理解することができる。 d 更に、上記【表1】及び【表2】には、水素吸蔵合金粉末の合金組成、及びAB比、並びに熱処理条件(熱処理時間、冷却速度、及び熱処理温度)の具体的な内容に応じて、ヤング率がどのような大きさとなるかを示す具体的な例(実施例、比較例)も記載されている。 e これらに照らせば、申立人の主張のように、本件発明で規定されている構成元素の各含有量の数値範囲に対して、本件明細書にはごく一部の範囲でのヤング率の測定結果しか記載されていないとしても、当業者であれば、合金組成及びヤング率の大きさが上記[要件]を満足する実施例1の内容を手がかりとして、上記[要件]に係る合金組成の範囲内で、上記cで指摘した内容を踏まえ、全体の合金組成や、CaCu5型の結晶構造における[Cu]/[Ca]比(AB比)を変更したり、また、製造方法における種々の条件(溶湯保持温度・時間、鋳造温度、鋳造した合金の熱処理温度・時間・冷却速度、等)を調整したりすることにより、ヤング率の大きさが「120GPa以上127GPa以下」の様々な水素吸蔵合金粉末を得ることができ、そのようにして得られた水素吸蔵合金粉末であれば、実施例1と同様に、上記イ(ア)で説示した上記課題を解決することができることが理解できる。また、上記[要件]に係る合金組成の範囲内で、実施例1と同一の合金組成でなければ、ヤング率の大きさが「120GPa以上127GPa以下」の水素吸蔵合金粉末を得ることができないという特段の事情があるともいえない。 f 上記aの主張に加えて、申立人は、平成24年(行ケ)第10151号判決における判示内容の一部を引用した主張もしている。しかしながら、本件発明の水素吸蔵合金粉末は、上記判決で対象とされた合金(鋼)と前提となる合金組成が異なることに加え、上記判示内容の一部は、合金組成として一部の成分の含有量のみを特定した合金(C含有量のみを特定した鋼)を前提としたものと把握されるところ、このような判示内容が上記eで検討した内容を左右するものということはできない。 g したがって、申立人の主張を前提としても、本件発明の水素吸蔵合金は、当業者が出願時の技術常識に照らして、発明の詳細な説明に記載された、本件発明の上記課題を解決できると認識できる範囲のものでない、ということはできない。よって、申立人の上記主張は採用しない。 h 以上より、申立理由1-1(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 (イ)申立理由1-2(サポート要件)について a 申立人は、本件発明2で規定されている水素吸蔵量及び平衡圧力の数値範囲のそれぞれについて、本件明細書にはごく一部の範囲での測定結果しか記載されていないから、本件発明2~4は、発明の詳細な説明の記載事項の範囲を超えるものであると主張している。 b しかしながら、上記4の(1)ク、コに摘記した本件明細書の記載からみて、発明の詳細な説明には、水素吸蔵量(H/M)及び平衡圧力の大きさは、Mm(ミッシュメタル)のLa、Ceの比率、及び、Ni、Mn、Alのモル比に影響を受けるものであると把握することができ、また水素吸蔵合金粉末において、微粉化難度の大きさに与える影響にも配慮しながら、ニッケル水素電池用負極を作製したときに目標となる充放電容量を確保する観点から、「水素吸蔵量(H/M)が、0.85~1.00」とし、また初期活性化をしやすくする観点から「平衡圧力を0.040~0.070MPa」とすることが記載されている。 c また、上記4の(1)セに摘記したように、上記【表1】及び【表2】には、水素吸蔵合金粉末の合金組成、及びAB比に応じて、水素吸蔵量(H/M)や平衡圧力がどのような大きさとなるかを示す具体的な例(実施例、比較例)も記載されている。 d これらに照らせば、申立人の主張のように、本件発明2で規定されている水素吸蔵量(H/M)や平衡圧力の各数値範囲に対して、本件明細書にはごく一部の範囲での同水素吸蔵量(H/M)や平衡圧力の測定結果しか記載されていないとしても、当業者であれば、合金組成及びヤング率の大きさが上記[要件]を満足する実施例1の内容を手がかりとして、合金組成及びヤング率の大きさが上記[要件]を満足する範囲内で、上記bで指摘した内容を踏まえ、Mm(ミッシュメタル)のLa、Ceの比率、及び、Ni、Mn、Alのモル比を調整することにより、「水素吸蔵量(H/M)が0.85以上1.00以下」、及び「平衡圧力が0.040MPa以上0.070MPa以下」を満足する様々な水素吸蔵合金粉末を得ることができ、そのようにして得られた水素吸蔵合金粉末であれば、実施例1と同様に、上記イ(ア)で説示した上記課題を解決することができることが理解できる。また、合金組成及びヤング率の大きさが上記[要件]を満足する範囲内で、実施例1と同一の合金組成でなければ、「水素吸蔵量(H/M)が0.85以上1.00以下」、及び「平衡圧力が0.040MPa以上0.070MPa以下」である水素吸蔵合金粉末を得ることができないという特段の事情があるともいえない。 e したがって、申立人の主張を前提としても、本件発明2~4の水素吸蔵合金は、当業者が出願時の技術常識に照らして、発明の詳細な説明に記載された、本件発明の上記課題を解決できると認識できる範囲のものでない、ということはできない。よって、申立人の上記主張は採用しない。 f 以上より、申立理由1-2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項2~4に係る特許を取り消すことはできない。 (2)申立理由2-1(実施可能要件)について ア 申立人は、本件発明における「ヤング率が120GPa以上127GPa以下」という条件は、元素の種類及び含有量に起因するものであり、特にCo量がヤング率に重要な作用を及ぼすと理解することができることに鑑みれば、Co含有量が0.09%の実施例のみをもって、ヤング率がどのように変化するのか論じることはできないと主張している。 イ しかしながら、申立人の主張のように、本件発明で規定されているCo含有量の数値範囲に対して、本件明細書にはCo含有量が0.09%の実施例(実施例1)におけるヤング率の測定結果しか記載されていないとしても、上記(1)ウ(ア)b~dで述べたのと同様の理由により、当業者であれば、合金組成及びヤング率の大きさが上記[要件]を満足する実施例1の内容を手がかりとして、上記[要件]に係る合金組成の範囲内で、上記上記(1)ウ(ア)cで指摘した内容を踏まえ、全体の合金組成や、CaCu5型の結晶構造における[Cu]/[Ca]比(AB比)を変更したり、また、製造方法における種々の条件(溶湯保持温度・時間、鋳造温度、鋳造した合金の熱処理温度・時間・冷却速度、等)を調整したりすることにより、上記(1)イ(ア)で説示した上記課題を解決することができる、ヤング率の大きさが「120GPa以上127GPa以下」の様々な水素吸蔵合金粉末を得ることができる。また、上記[要件]に係る合金組成の範囲内で、実施例1と同一の合金組成でなければ、ヤング率の大きさが「120GPa以上127GPa以下」の水素吸蔵合金粉末を得ることができないという特段の事情があるともいえない。 ウ したがって、申立人の主張を前提としても、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないということはできない。よって、申立人の上記主張は採用しない。 エ 以上より、申立理由2-1(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 (3)申立理由2-2(実施可能要件)について ア 申立人は、本件明細書には、ヤング率の測定について、「研磨により得られた100μm程度の単結晶粒子の断面中心で測定した」(本件明細書の段落【0042】)との記載があるが、当該単結晶粒子の大きさが、本件発明と同様の水素吸蔵合金に係る他の特許発明(特許第6934097号)における単結晶粒子の粒子径15.5μmと比べて大きすぎることからみて、本件発明で上記単結晶粒子を用いて測定されたというヤング率の値には疑義があると主張している。 イ しかしながら、申立人が挙げた上記他の特許発明の水素吸蔵合金粉末は、本件発明の水素吸蔵合金粉末とどのような関係があるか不明なものであり、同一の水素吸蔵合金粉末についてのものともいえない。そのため、上記他の特許発明における単結晶粒子と比較して、その粒子径が大き過ぎるからという理由で、本件発明の単結晶粒子の粒子径や、当該単結晶粒子を用いて測定されたヤング率の値に疑義があるという申立人の上記主張は、根拠に欠けたものと言わざるを得ず、採用することのできるものでない。 ウ 一方、上記4の(1)カ及びソに摘記した本件明細書の記載からみて、発明の詳細な説明には、「実施例1-4」として実際に作製された水素吸蔵合金粉末の粒子径100μm程度の粒子が、EBSDによる方位解析画像(図1(b))で同じ色で表示される粒子断面を有し、単結晶相からなると同定されるものであることが記載されているといえ、また、上記4の(1)シ及びケに摘記した本件明細書の記載から、鋳込み後、機械的粉砕を行い得られた粒子は、粒界から優先して割れるため、得られた100μm程度の粒子であればほぼ単結晶となっている旨も記載されているといえる。 エ そうすると、本件発明の水素吸蔵合金粉末は、本件明細書に記載されたように、100μm程度の単結晶粒子として得られるものである点で疑義はなく、また、それを用いて測定されたヤング率の値にも疑義があるとはいえない。 オ したがって、申立人の主張を前提としても、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないということはできない。よって、申立人の上記主張は採用しない。 カ 以上より、申立理由2-2(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 (4)申立理由3-1(明確性要件)について ア 申立人は、本件発明の、一般式MmNiaMnbAlcCodで示される合金組成物において、Co、Ni、Mn、及びAlの各含有量の数値範囲がどのようにして決定されたものかが不明であるから、本件発明は明確でないとの主旨の主張をしている。 イ しかしながら、Co、Ni、Mn、及びAlの各含有量の数値範囲がどのようにして決定されたものかの理由の有無によらず、本件発明は、所定の合金組成からなり、所定のヤング率を有することが特定された水素吸蔵合金粉末という物の発明として、明確である。 ウ また、本件発明におけるCoの含有量は、上記4(1)イ、エ及びオに摘記した本件明細書の記載からみて、本件明細書中で先行文献として挙げられた上記特許文献1~3に記載された各水素吸蔵合金よりも低減された含有量として、「0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)」との数値範囲が規定されたものと解される。 エ さらに、本件発明におけるNi、Mn、及びAlの各含有量は、上記4(1)クに摘記した本件明細書の記載から、水素吸蔵合金粉末を、充放電容量の確保の観点から所望の水素吸蔵量(H/M)を有するように調整することができ、また初期活性化等の観点から所望の平衡圧力を有するように調整することができるように、それらの数値範囲が規定されたものと理解することができる。 オ そうすると、本件発明におけるCo、Ni、Mn、及びAlの各含有量の数値範囲の技術的意味を検討しても、上記ウ及びエの検討のとおり、本件発明は明確でないとはいえない。 カ したがって、申立人の主張を前提としても、本件特許請求の範囲の記載は、明確でないということはできない。よって、申立人の上記主張は採用しない。 キ 以上より、申立理由3-1(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 (5)申立理由3-2(明確性要件)について ア 申立人は、本件明細書には、初期粒度D50についての定義が記載されておらず、また微粉化難度が初期粒度D50に依存し、当該値によって種々変化するとの技術常識に照らせば、微粉化難度の定義やその値の意味は不明確であるとの主張をしている。 イ しかしながら、上記4(1)キに摘記した段落【0026】の記載からみて、水素吸蔵合金粉末の微粉化難度とは、水素を繰り返し吸蔵放出した際の合金結晶の割れ難さ、あるいは、割れの進行し難さを意味し、割れによる水素吸蔵合金粉末の微粉化をどの程度抑制できているかを評価するための指標と解される。 ウ 一方、上記4(1)スに摘記した段落【0037】には、本件発明に係る微粉化難度が、水素吸蔵合金粉末の「試料5gの測定からより得られた「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度(D5 0 )」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度(D5 0 )」で除した値」として算出されるものであると記載されている。 そして、上記「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度(D5 0 )」とは、水素吸蔵合金粉末において、「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下」で行われる水素の吸蔵放出サイクルを10回行った後の、少なくとも一部において微粉化が発生した、「水素吸蔵合金粉末の粒度(D5 0 )」を意味したものと理解することができ、また上記「水素吸蔵合金粉末の初期粒度(D5 0 )」とは、微粉化難度が上記イで説示した指標となるよう、「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回」に対して基準となるような初期の「水素吸蔵合金粉末の粒度(D5 0)」であると理解することができるものである。 エ 上記イ及びウの検討を踏まえると、上記「水素吸蔵合金粉末の初期粒度(D5 0 )」とは、上記水素の吸蔵放出サイクルを開始する前の「初期」時点の水素吸蔵合金粉末の「粒度(D5 0 )」を意味したものであり、微粉化難度とは、上記「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度(D5 0 )」を上記初期粒度(D5 0 )で除した値であることにより、上記イで説示したように、水素吸蔵合金粉末の微粉化をどの程度抑制できているかを評価することのできる指標と明確に理解することができる。 オ したがって、初期粒度D5 0 及び微粉化難度の定義やその値の意味が不明確であるとはいうことができない。 カ よって、申立人の主張を前提としても、本件特許請求の範囲の記載は、明確でないということはできない。よって、申立人の上記主張は採用しない。 キ 以上より、申立理由3-2(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 (6)申立理由3-3(明確性要件)について ア 申立人は、本件発明の、一般式MmNiaMnbAlcCodで示される合金組成物において、水素吸蔵量及び平衡圧力それぞれの上限値や下限値がどのようにして決定されたものかが不明であるから、本件発明2~4は技術的意義が不明確であるとの主旨の主張をしている。 イ しかしながら、本件発明2と本件発明2を引用する本件発明3、4は、水素吸蔵量及び平衡圧力それぞれの上限値や下限値がどのようにして決定されたものかの理由の有無によらず、所定の合金組成からなり、所定のヤング率、微粉化難度、水素吸蔵量、平衡圧力を有する水素吸蔵合金粉末という物の発明として明確である。 ウ また、上記4の(1)ク、コに摘記した本件明細書の記載からみて、発明の詳細な説明には、水素吸蔵量(H/M)及び平衡圧力の大きさは、Mm(ミッシュメタル)のLa、Ceの比率、及び、Ni、Mn、Alのモル比は、水素吸蔵量(H/M)及び平衡圧力の大きさに影響を受けるものであるところ、水素吸蔵合金粉末において、微粉化難度の大きさに与える影響にも配慮しながら、ニッケル水素電池用負極を作製したときに目標となる充放電容量を確保する観点から「水素吸蔵量(H/M)が、0.85~1.00」とし、また初期活性化をしやすくする観点から「平衡圧力を0.040~0.070MPa」とすることが記載されている。 エ したがって、水素吸蔵量及び平衡圧力の上限値や下限値についての技術的意義を検討しても、その意味が明確でないということはできない。よって、申立人の上記主張は採用しない。 オ 以上より、申立理由3-3(明確性要件)によっては、本件特許の請求項2~4に係る特許を取り消すことはできない。 6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700273

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