特許異議申立
2022-700173
水素吸蔵合金
- 審判番号
- 2022-700173
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-137779
- 登録番号
- 6934097
- 請求日
- 2022年02月28日
- 審決日
- 2023年03月31日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】新日本電工株式会社
- 【権利者代理人】佐々木 一也
- 【権利者代理人】佐野 英一
- 【権利者代理人】原 克己
- 【権利者代理人】久本 秀治
- 【権利者代理人】木村 孔一
- 【権利者代理人】山田 靖
- 【権利者代理人】影山 秀一
- 【異議申立人】佐藤 武史
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.537-YAA(C22C) / P1651.536-YAA(C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6934097号発明「水素吸蔵合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6934097号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第6934097号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第6934097号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、令和 2年 8月18日の出願であって、令和 3年 8月24日にその特許権の設定登録がされ、同年 9月 8日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~7(全請求項)に係る特許について、令和 4年 2月28日に特許異議申立人である佐藤 武史(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、同年 5月19日付けで取消理由が通知され、同年 8月12日に特許権者から訂正請求書及び意見書が提出され、これに対して、同年 9月28日に申立人から意見書が提出され、同年12月 6日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和 5年 2月 6日に特許権者から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 4年 8月12日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6934097号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「かつ、前記合金を負極に用いたニッケル水素電池の200サイクルの充放電サイクル試験において、平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下であることを特徴とする」と記載されているのを、「かつ、前記合金の粉末0.5gを負極に用いたニッケル水素電池の温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカットの充放電サイクル試験において、200サイクル後の平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下であることを特徴とする」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~7についても同様に訂正する。)。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に「かつ、前記合金を負極に用いたニッケル水素電池の200サイクルの充放電サイクル試験において、平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下であることを特徴とする」と記載されるのみで、「200サイクルの充放電サイクル試験」の具体的な試験条件、及びその対象となる「前記合金を負極に用いたニッケル水素電池」の構成が不明瞭であったところ、これを本件訂正により、「かつ、前記合金の粉末0.5gを負極に用いたニッケル水素電池の温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカットの充放電サイクル試験において、200サイクル後の平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下であることを特徴とする」として、「200サイクル」の「充放電サイクル試験」の具体的な試験条件、及びその対象となる「前記合金」を「負極に用いたニッケル水素電池」の構成を明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
a 訂正事項1による訂正は、明瞭でない記載の不明瞭さを正すものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当するとはいえない。
b また、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、以下の記載がある。
「【0033】
前記で作製した本発明の水素吸蔵合金粉末をニッケル水素電池負極として使用する場合の電池を、以下の手順で作成した。
まず、粒子サイズ(D50が約12μm)20μm以下の水素吸蔵合金粉末0.5gと、ポリテトラフルオロエチレン(富士フイルム和光純薬(株)製)0.1g、アセチレンブラック(デンカ製、HS-100)0.05g、蒸留水0.6gを混練して活物質ペーストとした。
集電体(30mm×40mm、t=1.6mm)である発泡ニッケル(住友電工製、セルメット♯7、多孔率=96%)に前記活物質ペーストを均一に充填し、乾燥のため100℃の恒温槽に30分間保持後、100MPaで加圧成型して負極(容量=約180mAh)とした。
正極には水酸化ニッケル(容量=約500mAh)を使用する。
2枚の電極間にセパレーターを介して負極をはさみ、さらに両側面から塩ビ板で圧迫して負極容量規制の電池とした。
【0034】
前記で作製した電池について、以下の試験方法で、充放電サイクル試験を実施した。
試験方法:
(1)負極に平均粒径20μm以下に粒度調整した水素吸蔵合金粉体、正極に水酸化ニッケル、電解液に31wt%水酸化カリウム水溶液、セパレーターに不織布を用いてニッケル水素電池セルを組み立てた。
(2)当該ニッケル水素電池セルに対して、温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカット、200サイクルを行った。
表3に、容量維持率、ΔS1、ΔS2、ΔS1-ΔS2の値を示す。
(3)ニッケル水素電池セルを解体して、電解液中のAl濃度(mg/L)を測定した。Al濃度(mg/L)を合金組成中のAl組成e及び200で割って規格化し、Al溶出量とした。表2にその値を示す。
次いで、上記充放電試験の終了後に負極合金電極を取り出し、以下の方法で断面観察を行い、粒子の割れの状態を調べた。電極を純水で洗浄、90度真空乾燥を行う。その後、電極をシリコンウェハで挟み、8kV・2hクロスセクションポリッシャにより断面観察用電極とした。
次いで、SEM測定を実施した。観察対象の粒子は、粒子の対角線の最大長さが10~30μmの粒子とした。サイクル試験後の粒子は、割れる前の粒子の粒子径(対角線の最大長さ)に対して、割れた後の最大粒子の粒子径(対角線の最大長さ)の比を調べた。このようにして合計3個の粒子を選択して平均値を求め、その値を、サイクル試験前後の粒子径比率とした。
表4に粒子径比率を示す。」(下線は当審が付した。以下同様。)。
c そうすると、訂正事項1による訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
d したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~7について、訂正前の請求項2~7はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1~7は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~7〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~7に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明7」といい、総称して「本件発明」ということがある。
「【請求項1】
一般式:LaaCebNicMndAleCofで表すことができるCaCu5型水素吸蔵合金であり、各成分のモル比を示すa、b、c、d、e、fは、下記の関係を満たし、
f×(2b+6c+4e)≧2.88,
a+b=1,
4.0≦c≦5.0,
0.2≦d≦0.8,
0.2≦e≦0.8,
0<f≦0.15,
5.3≦c+d+e+f≦5.5,
かつ、前記合金の粉末0.5gを負極に用いたニッケル水素電池の温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカットの充放電サイクル試験において、200サイクル後の平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下であることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
AlとMnのモル比e/dの値が、0.6以上1.4未満であることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記ニッケル水素電池の充放電サイクル試験において、50サイクル~100サイクル試験における容量低下率ΔS1と150サイクル~200サイクルにおける容量低下率ΔS2の関係が、ΔS1-ΔS2≦1.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
前記ニッケル水素電池の充放電サイクル試験において、200サイクルのサイクル試験前後の水素吸蔵合金の粒子径比率が0.40以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金の断面について、SEM-EDS(エネルギー分散型X線分析装置)による相分析を行った場合、CaCu5型合金相以外のLaやCeを含まない第二相が存在し、該第二相の平均面積割合が5.5%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の水素吸蔵合金の粉末をニッケル水素二次電池の負極活物質としたことを特徴とする負極。
【請求項7】
請求項6に記載の負極を用いたことを特徴とするニッケル水素二次電池。」
第4 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、以下の理由により、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(サポート要件:取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~7の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(明確性:取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項1~7の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件:取消理由として不採用)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 令和 4年 5月19日付けで通知した取消理由の概要
上記第4の各申立理由のうち、申立理由2の一部を採用して、令和 4年 5月19日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 取消理由1(明確性)
本件訂正前の請求項1の記載、及び本件明細書の記載を参照しても、本件訂正前の請求項1に係る「水素吸蔵合金」について、「前記合金を負極に用いたニッケル水素電池の200サイクルの充放電サイクル試験において、平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下である」との発明特定事項の前提となる「前記合金を負極に用いたニッケル水素電池の200サイクルの充放電サイクル試験」の内容を明確に把握することは、当業者にとって困難であるといえる。
したがって、本件訂正前の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2~7の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 令和 4年12月 6日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
1 取消理由1(明確性)
本件訂正後の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2~7の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(令和 4年 5月19日付けで通知した取消理由1と同旨。)。
第7 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、令和 4年 5月19日付けで通知した取消理由、令和 4年12月 6日付け取消理由(決定の予告)、及び特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(明確性)について
(1)上記第3のとおり、本件訂正後の請求項1には、本件発明1に係る「水素吸蔵合金」が「前記合金の粉末0.5gを負極に用いたニッケル水素電池の温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカットの充放電サイクル試験において、200サイクル後の平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下である」との発明特定事項を備えることが記載されている。
(2)また、上記第2 2(1)ア(イ)bに摘記したとおり、本件明細書の【0033】、【0034】には、負極に平均粒径20μm以下に粒度調整した水素吸蔵合金粉体0.5gを用い、正極に水酸化ニッケル、電解液に31wt%水酸化カリウム水溶液、セパレーターに不織布を用いてニッケル水素電池セルを組み立て、当該ニッケル水素電池セルに対して、温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカット、200サイクルを行った後、ニッケル水素電池セルを解体して、電解液中のAl濃度(mg/L)を測定し、Al濃度(mg/L)を合金組成中のAl組成e及び200で割って規格化し、Al溶出量とすることが記載されている。
(3)そうすると、本件訂正後の請求項1に記載された「200サイクル後の平均Al溶出量」を算出するために200サイクルの充放電サイクル試験に付される「ニッケル水素電池」は、本件明細書の【0033】、【0034】に記載されるような、水素吸蔵合金の粉末0.5gを用いた負極を備えたものであり、また、上記「200サイクルの充放電サイクル試験」が温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカットの充放電サイクル試験であることが理解できる。
(4)一方、申立人が特許異議申立書の第4頁第3~14行及び令和 4年 9月28日提出の意見書の第2頁第11行~第3頁第11行において主張しているとおり、上記ニッケル水素電池を組み立てるために用いられる「電解液」については、本件訂正後の請求項1には記載がなく、本件明細書の【0034】には、「31wt%水酸化カリウム水溶液」の電解液を用いることが記載されているものの、用いられる当該電解液の量は不明である。
(5)そこで、上記(4)のとおり、上記「200サイクルの充放電サイクル試験」に付される「ニッケル水素電池」に用いられる電解液の量が不明であっても、上記(2)の「200サイクルを行った後、ニッケル水素電池セルを解体して、電解液中のAl濃度(mg/L)を測定し、Al濃度(mg/L)を合金組成中のAl組成e及び200で割って規格化し」て、「200サイクル後の平均Al溶出量」を算出することができるか否かについて検討する。
ア この点について、特許権者は、令和 4年 8月12日提出の意見書において、「Alの溶出は、本件明細書の【0005】や【0011】で記載されるように、水素吸蔵合金は水素吸蔵放出を繰り返すことで微粉化し、合金の割れが進んでその比表面積が増加することで、その割れてできる新生表面からAlやMn等の金属溶出が起こることによるものです。その際、水素吸蔵合金の粒子とアルカリ溶液(電解液)との固液界面で金属が溶出しますが、粒子表面にはNiリッチ層が残存して、これが不動態のようにして浸食を防ぐため新生面から一定量の金属が溶出するのみであり、水素吸蔵合金の粒子内部から金属が溶出し続けることはありません・・・。つまり、充放電サイクル試験により割れて水素吸蔵合金の新生面が生じれば、新生面の発生に応じた量のAlは溶出することになるので、一定量の水素吸蔵合金から溶出する総Al量はアルカリ溶液である電解液量によって変わりません。」(第3頁下から2行~第4頁第10行。なお、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)と説明している。
イ そして、特許権者が上記意見書とともに提出した乙第1号証(境哲男、「電池用水素吸蔵合金の材料設計と高性能化」、まてりあ、第36巻、第2号、p.99-103(1997))には、水素吸蔵合金において、水素吸蔵時にMn、Al、Siなどは活性溶解して完全に消失する一方で、NiはLaとともに、表面層を形成し、このニッケルリッチ層が合金の保護層として耐食性に寄与していることが記載されており(第101頁左欄「4.(1)表面層の形成」の項目)、この記載を考慮すれば、上記アの主張の「水素吸蔵合金の粒子とアルカリ溶液(電解液)との固液界面で金属が溶出しますが、粒子表面にはNiリッチ層が残存して、これが不動態のようにして浸食を防ぐため新生面から一定量の金属が溶出するのみであり、水素吸蔵合金の粒子内部から金属が溶出し続けることはありません」との点、及び「充放電サイクル試験により割れて水素吸蔵合金の新生面が生じれば、新生面の発生に応じた量のAlは溶出することになるので、一定量の水素吸蔵合金から溶出する総Al量はアルカリ溶液である電解液量によって変わりません」との点については、実際にそのような現象が生じていることが十分に推認される。
ウ また、特許権者は、上記意見書において、「平均Al溶出量」の算出方法について、「前述の「充放電サイクル試験」で溶出した電解液中のAl濃度を測定した上で、合金組成中のAl組成e及びサイクル数200で割って規格化して平均Al溶出量を算出しています。上述したように、Al溶出量は電解液量によって変わるものではありませんが、解体したニッケル水素電池セルの電解液中のAl濃度を測定して、請求項1のAl溶出量を示す単位「(mg/L)/(mol・cycle)」に記載のようにこれを電解液1L当たりの値に換算してAl溶出量としています。」と説明し(第4頁第14~20行)、さらに、令和 5年 2月 6日提出の意見書において、「一定量の水素吸蔵合金から溶出する総Al量はアルカリ溶液である電解液量によらないことから、ニッケル水素電池セルの電解液量を各試験で一定にしなくても、充放電サイクル試験をした後の電解液中のAl濃度を測定して、各試験の電解液量に合わせて“電解液1L当たりの値”即ちAl溶出量に換算し、合金組成中のAl組成e及びサイクル数200で割って「平均Al溶出量」として規格化すれば、どのような条件でも比較できる「平均Al溶出量」となります。・・・本件明細書の【0034】で記載する解体したニッケル水素電池セルの電解液から測定した「Al濃度」は、上記の“電解液1L当たりの値”とは異なり各電池セルの電解液に溶解している「Al濃度」に該当します。つまり、充放電サイクル試験をした後の電解液中のAl濃度aを測定し、その充放電サイクル試験で用いたそれぞれの電解液量の値bを乗ずることで、水素吸蔵合金0.5gから溶出する総Al量T(=a×b)が求まります。これを“電解液1L当たりの値”に換算したものが「Al溶出量」です。そして、これを合金組成中のAl組成e及びサイクル数200で割って規格化することで、一定量の水素吸蔵合金から溶出する200サイクル後の「平均Al溶出量」を確定することができます。」(第3頁第1~17行)と説明している。
エ そうすると、充放電サイクル試験で溶出した電解液中のAl濃度を測定した上で、合金組成中のAl組成e及びサイクル数200で割って規格化して平均Al溶出量を算出するためには、上記「総Al量」をそれが溶出した電解液の総量で除して「Al濃度」を確定した上で、それを基に上記「平均Al溶出量」を算出するのが通常ではあるものの、上記のとおり、一定量の水素吸蔵合金から溶出する総Al量がアルカリ溶液である電解液量によって変わらない本件においては、便宜上、当該「総Al量」が、「電解液1L」に溶出したものと考えて、この換算値を上記「Al溶出量」とし、これを合金組成中のAl組成e及びサイクル数200で割って規格化することで、電解液の総量が不明であっても、一定量の水素吸蔵合金から溶出する200サイクル後の「平均Al溶出量」を算出することができるといえる。
(6)また、申立人は、特許異議申立書の第4頁第15~20行において、本件明細書には、「セパレータとして不織布を用いていることが記載されておりますが、当該不織布の材料名が規定されておりません。ニッケル水素電池の充放電特性は不織布の材料等にも依存し、その結果、当該負極のAl溶出量にも影響を与えるところ、該不織布の材料名が特定されていないことから、Al溶出量を特定及び定義づけることができないと思料します。」と主張しているが、セパレータ自体は、Al溶出が起こる水素吸蔵合金の粒子と電解液との固液界面に関与しない位置に配置されるものであることを考慮すれば、通常の不織布のセパレータを用いる限り、Al溶出量に大きく影響を与えるとまではいえないし、申立人は、これを覆す程度の具体的な根拠を示していないから、このような主張は、採用しない。
(7)したがって、本件発明1に係る「水素吸蔵合金」について、上記電解液の総量やセパレータの材料名が不明であっても、「前記合金の粉末0.5gを負極に用いたニッケル水素電池の温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカットの充放電サイクル試験において、200サイクル後の平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下である」との発明特定事項の前提となる「前記合金を負極に用いたニッケル水素電池の200サイクルの充放電サイクル試験」の内容を明確に把握することはできるといえる。
(8)よって、本件訂正後の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2~7の記載は、上記(7)の点で、特許を受けようとする発明が明確であるといえるから、取消理由1によっては、本件請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1(サポート要件)について
(1)本件明細書の【0011】、【0012】の記載からすると、本件発明が解決しようとする課題は、「LaaCebNicMndAleCofで表すことができるCaCu5型水素吸蔵合金であって、充放電特性に優れたニッケル水素電池を構成できる負極合金を得ること」(【0012】)にあると認められる。
(2)そして、本件明細書の【0019】には、上記(1)の課題を解決するための手段に関して、「組成とAl溶出量との間に相関があることを突き止めた。負極に用いたときに寿命特性が良いニッケル水素電池の製造が可能であることを見出した。」との記載があり、また、本件明細書の【0020】~【0021】には、「水素吸蔵合金の成分組成」について、次の記載がある。
「【0020】
(水素吸蔵合金の成分組成)
本発明の水素吸蔵合金の成分組成は、以下の一般式で表すことができる。
一般式:LaaCebNicMndAleCof
ここで、各成分のモル比を示すa~fは、次のとおりである。
f×(2b+6c+4e)≧2.88
a+b=1,
4.0≦c≦5.0,
0.2≦d≦0.8,
0.2≦e≦0.8,
0<f≦0.15,
5.3≦c+d+e+f≦5.5,
そして、本発明において、水素吸蔵合金の成分組成を上記のとおり定めた理由は、以下のとおりである。
CaCu5型(AB5型)水素吸蔵合金は、水素を吸蔵する結晶格子を形成するためのA元素と水素の吸脱着反応を促進するB元素から構成される。A元素はLaを主成分とするランタノイド、B元素はNiを主成分とする金属元素である。このうちA元素(a+b)を1とした時のB元素(c+d+e+f)の割合で水素吸蔵量が決まる。
そして、A元素(a+b)に対するB元素(c+d+e+f)の割合を大きくすると、水素吸蔵量が減るが合金が割れにくくなることから、ニッケル水素電池の負極として使用する場合には、水素吸蔵量と合金の割れにくさを両立することが必須となる。
まず、c+d+e+fが5.3よりも小さいと合金が割れやすく、5.5よりも大きいと水素吸蔵量が小さく、ハイブリッド車用のニッケル水素電池の要求を満たすことが難しいので、5.3≦c+d+e+f≦5.5とする。この範囲は、より好ましくは、5.35≦c+d+e+f≦5.45である。
a、bについては合計で1となる範囲内であれば問題ない。
cについては、B元素の主元素であり、4.0≦c≦5.0の範囲である。
d、eについては、B元素の補助元素であり、0.2≦d≦0.8であるが、より好ましくは、0.3≦d≦0.6であり、また、0.2≦e≦0.8である。
fについては、Co組成を示し、値が大きいほど、合金が割れにくくなる半面、資源的制約のため、原料コストが上がる。よって0.15以下が好ましい。より好ましくは、0.12以下である。
【0021】
本発明の水素吸蔵合金の構成成分のモル比による含有量は前記のとおりであるが、さらに、本発明では、前記合金成分のうちのCe、Ni、Al及びCoの含有量を示すb、c、e及びfが特定の関係を維持するときに、水素吸蔵合金としての優れた特性を発揮することを見出した。
その原因は、想定に留まるが、次のように考えている。
一般式:LaaCebNicMndAleCofで表されるCaCu5型水素吸蔵合金では、Co組成を増やすと微粉化・溶出性ともに改善できる。Ce、Ni、Alについては、Ce-Ni-Alは金属間化合物を形成するが、Ce-Ni-Mnは金属間化合物を形成しない。このため、CeはMnよりもAlの方に対してより親和性が高く、さらに金属間化合物CeNi4Al、CeNi2Al3は、同じCaCu5型結晶構造であるため、これら二つの組成を多く含むことでAlの溶出を抑制できると考えている。さらにCoは、前述の通り、含有量が大きいほど合金が割れにくいため、Al溶出も抑制できると考えられる。よってCaCu5型Ce-Ni-Al系金属間化合物による親和性とCo量による相乗効果でAl溶出が抑制できると考えている。そのため、下記の通り、2b+6c+4eにfを乗じた値が重要となる。
よって、請求項1のCaCu5型水素吸蔵合金では、CeNi4Al、CeNi2Al3由来の組成(b+4c+e)+(b+2c+3e)=2b+6c+4eにCoであるf組成を乗じた値が2.88以上である時に、水素吸蔵量を低下させることなく、Al溶出が抑制されるという現象が発現するものと推定される。より好ましいf×(2b+6c+4e)の値は、2.89以上である。
そして、この推論の正しさを、後記実施例にて示す実験結果により確認したのである。」
(3)また、本件明細書の【0032】~【0042】には、本件発明の実施例に係る「水素吸蔵合金粉末」及び当該粉末を負極に用いた「ニッケル水素電池」について、上記「f×(2b+6c+4e)」の値が2.88以上である実施例1~6が、2.88未満である比較例1~3に対して、「Al溶出量」が「0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下」と少なく、Al溶出を抑制できていること、「200サイクル容量維持率」においても、64.5%~68.0%の実施例1~6が61.7%~64.1%の比較例1~3に対して優れていることがそれぞれ記載されている(特に、【表1】、【表2】、【0042】参照)。
(4)そこで、上記(2)、(3)の記載を考慮すると、本件明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」は、一般式:LaaCebNicMndAleCofで表されるCaCu5型水素吸蔵合金において、各成分のモル比を示すa~fが、f×(2b+6c+4e)≧2.88、a+b=1、4.0≦c≦5.0、0.2≦d≦0.8、0.2≦e≦0.8、0<f≦0.15、5.3≦c+d+e+f≦5.5の関係式を満たすことであると認められる。
(5)そうすると、上記第3のとおり、本件発明1は、「一般式:LaaCebNicMndAleCofで表すことができるCaCu5型水素吸蔵合金であり」、「各成分のモル比を示すa、b、c、d、e、fは、下記の関係を満たし、f×(2b+6c+4e)≧2.88・・・」との発明特定事項を備えたものであるから、上記(4)において検討した、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているとはいえない。
(6)また、本件訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7に係る本件発明2~7についても同様である。
(7)なお、申立人は、特許異議申立書の第3~7頁において、「本件特許公報の[実施例]を参酌しますと、・・・本件特許発明1で規定されている平均Al溶出量の上位のごく一部の範囲に関する200サイクル容量維持率しか記載されておりません。したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な記載を超えるものであります。」(第3頁第19~25行)、「本件特許発明1では、ニッケル水素電池の放電特性、特に200サイクル容量維持率に大きな影響を与える各元素の上限値及び下限値がどのようにして決定されたのか、本件特許公報からは明らかではありませんし、本件特許発明1は、発明の詳細な記載の範囲を超えるものであります。」(第5頁第13~17行)、「本件特許発明2で規定されている該モル比のごく一部の範囲に関する200サイクル容量維持率しか記載されておりません。したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な記載を超えるものであります。」(第5頁下から4~1行)、「本件特許公報の[実施例]を参酌しますと、上記粒子径比率は、0.51~0.56の範囲しか記載されておらず(表4参照)、本件特許発明4は、発明の詳細な記載を超えるものであります。」(第6頁下から11~8行)等と縷々主張しているが、本件訂正後の請求項1~7の記載が、本件発明1~7について、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているとはいえないことは、上記(5)、(6)において検討したとおりであり、しかも、申立人は、本件発明1~7に包含されるものの実施例とは異なる態様について、上記(1)の課題を解決できないのではないかとの疑義が生じる程度の具体的な根拠を何ら示していないから、これらの主張は採用しない。
(8)したがって、本件訂正後の請求項1~7の記載は、本件発明1~7について、上記(5)、(6)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由1によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(明確性)について
(1)申立人は、特許異議申立書の第3~7頁において、本件発明1で規定されている「0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下」の「200サイクル後の平均Al溶出量」の範囲について、下限値がどのようにして規定されたものであるのか不明であること(第3頁下から13~6行)、同じく本件発明1で規定されている「f×(2b+6c+4e)≧2.88」なる関係式において、上限値が不明であり、本件発明1の技術的意義が不明確であること(第5頁第18~20行)、本件発明2の「AlとMnのモル比e/dの値が、0.6以上1.4未満である」との規定では、特に下限値がどのように規定されたものであるのか不明であること(第6頁第1~5行)、本件発明3の「前記ニッケル水素電池の充放電サイクル試験において、50サイクル~100サイクル試験における容量低下率ΔS1と150サイクル~200サイクルにおける容量低下率ΔS2の関係が、ΔS1-ΔS2≦1.0である」との規定では、ΔS1-ΔS2の下限値が明確ではなく、本件発明3の技術的意義が不明確であること(第6頁第10~22行)、本件発明4の「前記ニッケル水素電池の充放電サイクル試験において、200サイクルのサイクル試験前後の水素吸蔵合金の粒子径比率が0.40以上である」との規定では、下限値がどのようにして規定されたものか不明であり、上限値も不明であるため、当該規定の技術的意義が曖昧であること(第6頁下から7~3行)、及び本件発明5の「前記水素吸蔵合金の断面について、SEM-EDS(エネルギー分散型X線分析装置)による相分析を行った場合、CaCu5型合金相以外のLaやCeを含まない第二相が存在し、該第二相の平均面積割合が5.5%以下である」との規定では、第二相の下限値が明確でなく、本件発明5の技術的意義が不明であること(第7頁第7~13行)を縷々主張している。
(2)しかしながら、本件発明1~5の上記各規定における数値範囲の下限値や上限値が不明であるからといって、当該数値範囲によって規定される発明特定事項を当業者が明確に把握することは可能であるといえるから、上記(1)の主張は、いずれも採用しない。
(3)また、申立人は、特許異議申立書の第6~7頁において、本件発明4について、「なお、上記粒子径比率は、図1に示すように、充放電サイクル試験前か後の写真のみを使用し、亀裂の入っていない大径の粒子部分をサイクル試験前の粒子であると仮定し、亀裂で画定された小径の粒子をサイクル試験後の粒子として仮定して計算した結果に基づくものであります。したがって、充放電サイクル試験前か後の単一の写真のみを使用し、当該写真からの仮定に基づく推定値を採用して得た、上記粒子経比率の定義が不明確であります。」(第6頁下から2行~第7頁第5行)と主張している。
(4)しかしながら、本件明細書の【0024】の「サイクル試験前後の水素吸蔵合金の粒子径比率は、次の通りにして求めることができる。まず、充放電サイクル試験前の粒子径に対して、図1に示すように割れた後の粒子のうち最大の粒子を選択し、割れる前の粒子径に対する割れた後の粒子径の比を測定する。なお、ここでいう粒子径とは、粒子の対角線の最大長さであると定義する。この測定を3個の粒子に対して行い、粒子径比の平均を求める。ただ、割れる前の粒子径の大きさにより、割れ方が変わるため、割れる前の粒子としては、粒子径(対角線)が10-30μmの粒子を対象とする。」との記載や、同じく【0034】の「次いで、上記充放電試験の終了後に負極合金電極を取り出し、以下の方法で断面観察を行い、粒子の割れの状態を調べた。電極を純水で洗浄、90度真空乾燥を行う。その後、電極をシリコンウェハで挟み、8kV・2hクロスセクションポリッシャにより断面観察用電極とした。次いで、SEM測定を実施した。観察対象の粒子は、粒子の対角線の最大長さが10~30μmの粒子とした。サイクル試験後の粒子は、割れる前の粒子の粒子径(対角線の最大長さ)に対して、割れた後の最大粒子の粒子径(対角線の最大長さ)の比を調べた。このようにして合計3個の粒子を選択して平均値を求め、その値を、サイクル試験前後の粒子径比率とした。」との記載からすると、充放電試験の終了後の負極合金電極の断面観察をSEM測定で行い、観察範囲に含まれる各粒子の表面性状を注意深く観察することにより、「割れる前の粒子の粒子径(対角線の最大長さ)」、及び「割れた後の最大粒子の粒子径(対角線の最大長さ)」の観察対象となる粒子を選択することは、十分可能であるといえ、本件発明4に係るサイクル試験前後の「粒子径比率」が、そのように選択された合計3個の粒子の平均値から得られる値であることは、明確である。
したがって、上記(3)の主張は、採用しない。
(5)よって、本件訂正後の請求項1~7の記載は、本件発明1~7について、上記(1)~(4)の点で、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(実施可能要件)について
(1)申立人は、特許異議申立書の第3頁下から5行~第4頁第2行において、「実施例に記載された方法に従えば、実施例に記載の、0.171(mg/L)から0.229(mg/L)の範囲の平均Al溶出量を得ることは理解できるものの、実施例の範囲外である0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.170(mg/L)/(mol・cycle)以下の平均Al溶出量については、どのような条件を採用し、どのような製造方法を選択すれば実現できるのかについての記載が全くありません。」と主張している。
(2)しかしながら、上記2(2)に摘記した本件明細書の【0021】には、「Ce、Ni、Alについては、Ce-Ni-Alは金属間化合物を形成するが、Ce-Ni-Mnは金属間化合物を形成しない。このため、CeはMnよりもAlの方に対してより親和性が高く、さらに金属間化合物CeNi4Al、CeNi2Al3は、同じCaCu5型結晶構造であるため、これら二つの組成を多く含むことでAlの溶出を抑制できると考えている。さらにCoは、前述の通り、含有量が大きいほど合金が割れにくいため、Al溶出も抑制できると考えられる。よってCaCu5型Ce-Ni-Al系金属間化合物による親和性とCo量による相乗効果でAl溶出が抑制できると考えている。そのため、下記の通り、2b+6c+4eにfを乗じた値が重要となる。」との記載があり、この記載を参照して、「f×(2b+6c+4e)」の値が、2.88から更に大きな値となるように、成分組成を調整すれば、さらにAl溶出を抑制できることが十分に予測されることからすると、本件発明1に係る「前記合金の粉末0.5gを負極に用いたニッケル水素電池の温度45℃で充電:0.6C-100%、放電:0.6C-0.7Vカットの充放電サイクル試験において、200サイクル後の平均Al溶出量が0.002(mg/L)/(mol・cycle)以上0.230(mg/L)/(mol・cycle)以下である」「水素吸蔵合金」を製造することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要することとはいえない。
(3)したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~7について、上記(1)、(2)の点で、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、申立理由3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおり、令和 4年 5月19日付けで通知した取消理由、令和 4年12月 6日付け取消理由(決定の予告)、及び特許異議の申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700173