2022-700083
炭素短繊維不織布
- 審判番号
- 2022-700083
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-110967外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6914106
- 請求日
- 2022年02月01日
- 審決日
- 2022年09月27日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.113-Y (D04H) / P1651.121-Y (D04H) / P1651.161-Y (D04H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条の2、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 14項目
第1 手続の経緯
特許第6914106号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成29年6月5日に出願され、令和3年7月15日にその特許権の設定登録がされ、令和3年8月4日に特許掲載公報が発行された。
そして、令和4年2月1日に特許異議申立人田中康夫(以下「申立人」という。)は、請求項1~5に係る特許に対する本件特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第6914106号の請求項1~5の特許に係る発明は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)
「【請求項1】炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)、セルロース繊維及びバインダー合成繊維を含む炭素短繊維不織布であり、炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)を必須成分とする多孔質基材及びセルロース繊維を必須成分とする網状構造体とが混在して含まれ、バインダー合成繊維がポリビニルアルコール系繊維である炭素短繊維不織布。【請求項2】炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)の平均繊維長が1.0mm以上である請求項1記載の炭素短繊維不織布。【請求項3】セルロース繊維が叩解リヨセル繊維である請求項1又は2記載の炭素短繊維不織布。【請求項4】坪量が10g/m2以上である請求項1~3のいずれか記載の炭素短繊維不織布。【請求項5】炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)の配合比率(質量基準)が10%以上99%未満である請求項1~4のいずれか記載の炭素短繊維不織布。」
第3 申立理由の概要
申立人は、下記の甲号証を証拠として提出し、次の取消理由を、大要、主張している。
1. 理由1(新規性、特許法第29条第1項第3号)
本件発明1~2、4は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない発明である。
本件発明1~2、5は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない発明である。
2. 理由2(進歩性、特許法第29条第2項)
本件発明1~5は、甲第1号証~甲第4号証のいずれかに記載された発明と、甲第1号証~甲第2号証、甲第4号証~甲第9号証に記載された事項に基づいて特許を受けることができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3. 理由3(拡大先願、特許法第29条の2)
本件発明1~5は、本件特許に係る出願の日前の他の特許出願であって、当該特許出願後に、甲第10号証の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない発明である。
記
<引用文献等一覧>
第4 文献の記載
1. 甲第1号証には以下の記載がある。(下線は強調のため当審が付した。)
「【特許請求の範囲】【請求項1】炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;および前記前駆体シートを、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理をせずに、1000℃以上の温度で炭素化処理する工程;を有する多孔質電極基材の製造方法。【請求項2】続きを表示(全15行)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;前記前駆体シートを200℃未満の温度で加熱加圧成型する工程;および加熱加圧成型した前記前駆体シートを、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理をせずに、1000℃以上の温度で炭素化処理する工程;を有する多孔質電極基材の製造方法。【請求項3】請求項1または2に記載の多孔質電極基材の製造方法で製造される多孔質電極基材。【請求項4】2次元平面内において分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されている請求項3に記載の多孔質電極基材。【請求項5】2次元平面内において分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されている多孔質電極基材。【請求項6】請求項3~5のいずれかに記載の多孔質電極基材を用いた膜-電極接合体。【請求項7】請求項6に記載の膜-電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。」
「【0007】従来は、機械強度を強くするために、炭素短繊維を抄造後有機高分子で結着させ、高温で焼成し有機高分子を炭素化させたペーパー状の炭素/炭素複合体か成る多孔質電極基材を得ていたが、製造プロセスが複雑であり、高コストであるという問題があった。また、低コスト化を目的として、酸化短繊維を抄造後有機高分子で結着させずに、高温で焼成し酸化短繊維を炭素化させた多孔質電極基材が提案されているが、焼成時の酸化短繊維の収縮により寸法安定性、表面精度に問題があった。さらに低コスト化を目的として、炭素化可能なアクリルパルプを炭素短繊維と混合後、硬化、炭素化する多孔質電極基材が提案されているが、高温で硬化が必要であり、低コスト化への障害となってしまうという問題があった。」
「【発明が解決しようとする課題】【0011】本発明は、上記のような問題点を克服し、安価でありながら、機械的強度、厚み精度、表面平滑性が高く、かつ十分なガス透気度、導電性を持った多孔質電極基材およびその製造方法を提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】続きを表示(全27行)【0012】本発明は以下のとおりである。(1)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;および前記前駆体シートを、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理をせずに、1000℃以上の温度で炭素化処理する工程;を有する多孔質電極基材の製造方法。(2)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;前記前駆体シートを200℃未満の温度で加熱加圧成型する工程;および加熱加圧成型した前記前駆体シートを、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理をせずに、1000℃以上の温度で炭素化処理する工程;を有する多孔質電極基材の製造方法。(3)(1)または(2)に記載の多孔質電極基材の製造方法で製造される多孔質電極基材。(4)2次元平面内において分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されている(3)に記載の多孔質電極基材。(5)2次元平面内において分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されている多孔質電極基材。(6)(3)~(5)のいずれかに記載の多孔質電極基材を用いた膜-電極接合体。(7)(6)に記載の膜-電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。【発明の効果】【0013】本発明によれば、安価でありながら、機械的強度、厚み精度、表面平滑性が高く、かつ十分なガス透気度、導電性を持った多孔質電極基材を得ることができる。また、本発明の多孔質電極基材の製造方法によれば、前記多孔質電極基材を低コストで生産することができる。【発明を実施するための最良の形態】【0014】<炭素短繊維>本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであっても良いが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。特に、多孔質炭素電極基材の機械的強度を比較的高くすることができることから、用いる炭素繊維がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維のみからなることが好ましい。【0015】炭素短繊維の直径は、炭素短繊維の生産コスト、分散性の面から、3~9μmであることが好ましい。最終的に得られる多孔質電極基材の平滑性の面から、4μm以上、8μm以下であることがさらに好ましい。【0016】炭素短繊維の繊維長は、分散性の点から、2~12mmが好ましい。【0017】<フィブリル状炭素>本発明では、多孔質電極基材中の炭素短繊維同士は、直接接合しておらず、フィブリル状炭素によって接合している。フィブリル状炭素とは、フィブリル状繊維を炭素化してできた、炭素短繊維同士を接合する物質である。このフィブリル状繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維、セルロース系フィブリル状繊維などいずれであっても良いが、低温から高温にかけて炭素短繊維同士を接合させることができ、炭素化した際の残存質量が大きいポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維がより好ましい。ポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維、セルロース系フィブリル状繊維などのフィブリル状繊維は、その種類や炭素短繊維との混合比、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理の有無によって、最終的に得られる多孔質電極基材中にフィブリル状炭素として残る割合が異なる。」
「【0021】<フィブリル状繊維>本発明の製造方法では、炭素化可能なフィブリル状繊維を用いることが必要である。フィブリル状繊維とは、繊維状の幹より直径が数μm以下(例えば0.1~3μm)のフィブリルが多数分岐した構造を有する。このフィブリル状繊維を用いることにより、前駆体シート中で炭素短繊維とフィブリル状繊維が良く絡み合い、機械的強度の優れた前駆体シートを得ることが容易となる。フィブリル状繊維の濾水度は特に限定されないが、一般的に濾水度が高いフィブリル状繊維を用いると機械的強度が向上するが、多孔質電極基材のガス透気度が低下する。【0022】続きを表示(全17行)<有機高分子化合物>有機高分子化合物は、炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを含む前駆体シート中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)として使用される。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特にポリビニルアルコールは前駆体シートの作製工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。本発明では、有機高分子化合物を繊維状として用いることも可能である。【0023】炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを含む前駆体シートでは、フィブリル状繊維が、炭素短繊維またはフィブリル状繊維同士と絡み合うことによって、前駆体シート中の各成分をつなぎとめるバインダーとしても機能するため、一般的な炭素繊維前駆体シートで用いられるバインダーとしての有機高分子化合物を使用の有無は特に限定されないが、低コスト化の観点からは、有機高分子化合物を使用しないことが好ましい。【0024】<前駆体シートを作製する工程>炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維およびフィブリル状繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維およびフィブリル状繊維を分散させて降り積もらせる乾式法などの抄紙方法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。炭素短繊維が単繊維に分散するのを助け、分散した単繊維が再び収束を防止するのを防ぐためにも、適切な量のフィブリル状繊維を、必要に応じてバインダーとして適切な量の有機高分子化合物と共に、湿式抄紙することが好ましい。【0025】炭素短繊維と、フィブリル状繊維と、必要に応じて有機高分子化合物とを混合する方法としては、水中で攪拌分散させる方法と、直接混ぜ込む方法があるが、均一に分散させるためには水中で攪拌分散させる方法が好ましい。炭素短繊維と、フィブリル状繊維と、必要に応じて有機高分子化合物とを同時に抄紙して前駆体シートを作製することにより、前駆体シートの強度が向上し、その製造途中で前駆体シートから炭素短繊維が剥離したり、炭素短繊維の配向が変化したりするのを防止することができる。【0026】また、前駆体シートの作製は連続で行う方法やバッチ式で行う方法があるが、本発明では特に限定されない。生産性および機械的強度の観点からは連続で行うことが好ましい。【0027】前駆体シートの目付けは、10~200g/mとすることが好ましい。」
したがって、甲第1号証には、特に【請求項1】に着目すると、以下の甲1発明が記載されていると認められる。
<甲1発明>
炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させた、前駆体シート。
2. 甲第2号証には以下の記載がある。
「【0031】本発明における多孔質炭素繊維シートは以下の工程により製造されるものである。(a)炭素短繊維から炭素繊維紙を得る工程と、(b)前記炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸紙を得る工程と、続きを表示(全25行)(c)前記樹脂含浸紙を加熱プレス成形して、樹脂硬化シートを得る工程と、(d)前記樹脂硬化シートを不活性雰囲気下の焼成炉内に走行させて、熱処理を行う工程【0032】((a)炭素短繊維から炭素繊維紙を得る工程(工程(a))工程(a)で炭素繊維紙を製造する方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維を分散させて降り積もらせる乾式法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。工程(a)は、連続的に行われる。【0033】炭素繊維紙に含まれる炭素短繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであっても良いが、機械的強度が比較的高いポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。なお、ポリアクリロニトリル系炭素繊維とは、原料としてアクリロニトリルを主成分とするポリマーを用いて製造されるものである。具体的には、アクリロニトリル系繊維を紡糸する製糸工程;200~400℃の空気雰囲気中でアクリロニトリル系繊維を加熱焼成して酸化繊維に転換する耐炎化工程;窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気中でさらに300~2500℃に加熱して炭化する炭化工程;を経て得られる炭素繊維であり、複合材料強化繊維として好適に使用できるものである。そのため、他の炭素繊維に比べて強度が強く、機械的強度の強い炭素繊維紙を形成することができる。【0034】また、本発明においてはリサイクルされた炭素繊維から得られる炭素短繊維であることが好ましい。炭素繊維は熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂との複合材として一般的に使用されている。該複合材を加工する時に発生する端材やある目的に使用された後の退役廃材がリサイクル炭素繊維の原料となる。該複合材から炭素繊維だけを取り出す方法としては、炭素繊維に極力ダメージを与えない方法が好ましく、例えば燃焼法、半導体熱活性分解法、常圧溶解法、超臨界流体法などを用いることができる。リサイクルした炭素短繊維を得るために、分離する前に破砕しても良いし、分離後に所定の長さにチョップしても良い。【0035】ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、多孔質炭素電極基材の機械特性維持の観点から、炭素繊維紙中に50質量%以上含まれることが好ましく、70質量%以上含まれることがより好ましい。特に、用いる炭素単繊維が、ポリアクリロニトリル系炭素繊維のみであることが好ましい。【0036】炭素短繊維の平均繊維長は、多孔質炭素電極基材の強度や均一な分散性の観点から、2~18mmにすることが好ましく、2~10mmとすることがより好ましく、3~6mmとすることがさらに好ましい。繊維長が2mm未満であると繊維同士の絡み合いが少なくなり、多孔質炭素電極基材の強度が弱くなる。また、18mmを越えると、繊維の分散媒体中への分散性が下がり、分散斑のある炭素繊維紙となる。炭素短繊維の平均繊維長を2mm以上とすることで、炭素短繊維同士の絡み合いが起こるようになり、多孔質炭素電極基材の強度が強くなる。また、炭素短繊維の平均繊維長を18mm以下とすることで、炭素短繊維の分散媒体中への分散性が良好となり、炭素繊維紙における分散斑が少なくなる。【0037】炭素短繊維を分散させる液体の媒体としては、工業的に安価に使用できる水が好ましい。【0038】炭素短繊維を抄造して製造される炭素繊維紙は、バインダーとして有機高分子化合物を含むことが好ましい。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂やフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化樹脂の他、熱可塑性エラストマー、ブタジエン・スチレン共重合体(SBR)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)等のエラストマー、ゴム、セルロースなどを用いることができる。有機高分子化合物は、1種類を単独で用いても良いし、2種類以上併用することもできる。【0039】有機高分子化合物の形態としては、パルプ状物や短繊維が適している。ここでいうパルプ状物とは、繊維状の幹から直径が数μm以下のフィブリルを多数分岐した構造で、このパルプ状物を用いたシート状物は繊維同士の絡み合いが効率よく形成されており、薄いシート状物であってもその取り扱い性に優れているという特徴を有している。また、短繊維とは、繊維糸または繊維のトウを所定の長さにカットして得られるものである。短繊維の長さは、バインダーとしての結着性や分散性の点から、2~12mmが好ましい。【0040】有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セルロースまたはポリ酢酸ビニルのパルプ状物または短繊維が好ましい。これらの有機高分子化合物は抄紙工程での結着力に優れるため、これらの有機高分子化合物を用いることで炭素短繊維の脱落が少なくなる。また、これら有機高分子化合物は、多孔質炭素電極基材を製造する最終段階の炭素化過程で大部分が分解・揮発してしまい、空孔を形成する。この空孔の存在により、水およびガスの透過性が向上する。」
甲第2号証には、以下の甲2発明が記載されていると認められる。
<甲2発明>
炭素短繊維を液体の媒体中に分散させて抄造する湿式法から得た炭素繊維紙。
3. 甲第3号証には以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲1.炭素繊維を含む水性スラリーを用いる湿式抄紙法において、前記炭素繊維含有水性スラリーに、フミン酸の水溶性塩、およびフミン酸酸化処理物の水溶性塩から選ばれた少なくとも1員からなる地合改良剤を含有させることを特徴とする炭素繊維シートの製造法。2.炭素繊維を含む水性スラリーを用いる湿式抄紙法において、前記炭素繊維含有水性スラリーに、少なくとも1種の異種繊維と、フミン酸の水溶性塩、およびフミン酸酸化処理物の水溶性塩から選ばれた少なくとも1員からなる地合改良剤とを含有させることを特徴とする炭素繊維シートの製造法。」(第1ページ左欄第4~17行)
「〔従来の技術〕炭素繊維は、耐腐食性、耐熱性、導電性、弾性および機械的強度にすぐれているため、種々の工業的用途において広く利用されている。特に炭素繊維シートは、上記特性と、そのシート形状とを利用する用途、例えば、帯電防止用導電紙、面発熱体材料、電磁波シールド用シート材料、強化プラスチック材料用補強シート材料などの分野に広く使用されている。更に、炭素繊維シートに有機高分子物質を含浸せしめ、800℃以上の高温で加熱して含浸されている有機高分子材料を炭化させるものは、燃料電池用電極基材、耐熱フィルター材料、および断熱材料などとして有用なものである。上記のような用途に供される炭素繊維シートは、一般に炭素繊維の水性スラリーを用い湿式抄紙法により、製造されている。」(第1ページ右欄第5行~第2ページ左上欄第2行)
「〔課題を解決する手段およびその作用〕本発明の炭素繊維シートの製造法は、炭素繊維を含む水性スラリーを用いる湿式抄紙法であって、前記炭素繊維含有水性スラリーに、フミン酸の水溶性塩、およびフミン酸酸化処理物の水溶性塩から選ばれた少なくともl員からなる地合改良剤を含有させることを特徴とするものである。本発明方法において、炭素繊維含有水性スラリーは、炭素繊維とは異種の繊維を含んでいてもよい。本発明方法に用いられる炭素繊維の種類、太さ、長さなどに格別の限定はなく、ポリアクリロニトリル系重合体繊維、セルロース繊維およびピッチ繊維などから製造されたものであってもよい。また、一般に、湿式抄紙法に用いられる炭素繊維は、0、1~100μmの太さと、1~10mm程度の長さを有する短繊維であることが好ましい。」(第2ページ右上欄第17行~左下欄第13行)
「この湿式抄紙工程において、抄紙機の操業性(主として通紙性)の改善や、或は、製造される炭素繊維シートの用途により要求される性能を勘案して、水性スラリー中に、セルロースパルプ、又は有機人造繊維の混合、ガラス繊維などの無機繊維の場合、ポリビニルアルコール繊維などのような接着性(バインダー)繊維の混合、硫酸アルミニウムなどのような金属塩の添加、或は、その他の抄紙用助剤の添加などを施してもよい。上記のような異種繊維又は抄紙用薬剤の添加は、本発明の地合改良剤の、炭素繊維に対する分散性向上効果や、得られる炭素繊維シートの地合改善効果に、何の影響もない。一般に異種繊維の含有率には格別の限定はなく、炭素繊維シートの用途および必要性能を勘案して適宜に設定することができる。」(第3ページ右上欄第5行~第20行)
したがって、甲第3号証には、特に請求項2に着目すると、以下の甲3発明が記載されていると認められる。
<甲3発明>
炭素繊維を含む水性スラリーを用いる湿式抄紙法であって、前記炭素繊維含有水性スラリーに、少なくとも1種の異種繊維と、フミン酸の水溶性塩、およびフミン酸酸化処理物の水溶性塩から選ばれた少なくとも1員からなる地合改良剤とを含有させた湿式抄紙法により製造された、炭素繊維シート。
4. 甲第4号証には以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】【請求項1】無機強化繊維と、天然パルプ繊維と、バインダー成分を含む外装補強用シートであって、前記バインダー成分の含有量は、前記外装補強用シートの全質量に対して25質量%以下である外装補強用シート。続きを表示(全20行)【請求項2】前記天然パルプ繊維の含有量は、前記無機強化繊維と前記天然パルプ繊維の合計質量に対して、20質量%以上80質量%以下である請求項1に記載の外装補強用シート。【請求項3】前記天然パルプ繊維の含有量は、前記外装補強用シートの全質量に対して15質量%以上である請求項1又は2に記載の外装補強用シート。【請求項4】坪量が10g/m2以上120g/m2以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の外装補強用シート。【請求項5】密度が0.03g/cm3以上0.9g/cm3以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の外装補強用シート。【請求項6】前記無機強化繊維の繊維径は、3μm以上15μm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の外装補強用シート。【請求項7】前記無機強化繊維の繊維長は、3mm以上35mm以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の外装補強用シート。【請求項8】請求項1~7のいずれか1項に記載の外装補強用シートを、熱可塑性樹脂含有部材の少なくとも一方の面に配して成形されてなる成形体。【請求項9】自動車用内装部材として用いられる請求項8に記載の成形体。」
「【0014】(外装補強用シート)本発明は、無機強化繊維と、天然パルプ繊維と、バインダー成分を含む外装補強用シートに関する。ここで、バインダー成分の含有量は、外装補強用シートの全質量に対して25質量%以下である。本発明の外装補強用シートは上記構成を有するため、熱可塑性樹脂を含む芯材(以下、熱可塑性樹脂含有部材ともいう)に積層し加熱加圧成形を行うことで得られる成形体の強度を高めることができる。また、本発明の外装補強用シートは、熱可塑性樹脂を含む芯材との接着性が高い点にも特徴がある。さらに、本発明の外装補強用シートと熱可塑性樹脂含有部材から成形された成形体は、天然パルプ繊維を表面に含有するため、表面質感にも優れている。ここで、表面質感がよいことは、成形体の表面に触れた際の触感が柔軟であることをいい、具体的には、チクチク感(tingling)や表面のゴワゴワ感(stiff)が低減されていることをいう。以上のように、本発明の外装補強用シートは、内装材等の芯材として用いられる熱可塑性樹脂含有部材の表面(外装)に貼合されるものであって、芯材を補強するために用いられるシートであるから、外装補強用シートと呼ぶことができる。【0015】本発明の外装補強用シートは、熱可塑性樹脂含有部材に積層された後に成形され、成形後は熱可塑性樹脂含有部材を補強する機能を持つ。なお、本発明では、外装補強用シートは熱可塑性樹脂含有部材の表層に配された後に成形される用途に用いられることが好ましいが、それ自体が単層でシート状物を形成してもよいし、熱可塑性樹脂含有部材以外の芯材等に貼合される用途に用いられてもよい。」
「【0021】本発明の外装補強用シートは、無機強化繊維と、天然パルプ繊維と、バインダー成分を同一層に含む単層シートであることが好ましい。また、外装補強用シート中においては、無機強化繊維と、天然パルプ繊維は均一に混合されていることが好ましい。ここで、無機強化繊維と、天然パルプ繊維が均一に混合されているとは、無機強化繊維の全本数のうち50%以上の無機強化繊維が天然パルプ繊維と接している状態をいう。【0022】(無機強化繊維)無機強化繊維としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維等を挙げることができる。中でも、無機強化繊維としては、ガラス繊維を用いることが好ましい。」
「【0024】無機強化繊維の繊維長は、3mm以上100mm以下であることが好ましく、3mm以上50mm以下であることがより好ましく、3mm以上35mm以下であることがさらに好ましく、3mm以上20mm以下であることが特に好ましい。ここで、無機強化繊維の繊維長は、質量平均繊維長であり、本明細書において、質量平均繊維長は、100本の繊維について測定した繊維長の平均値である。無機強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、無機強化繊維の解繊を促進することができ、単繊維化した無機強化繊維の割合を高めることができる。これにより、外装補強用シートを表面に有する成形体の表面質感を向上させることができる。さらに、外装補強用シート自体の強度や、成形体の強度を高めることができる。」
「【0029】(炭素繊維)無機強化繊維は炭素繊維であってもよい。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等の炭素繊維を用いることができる。これらの炭素繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、これら炭素繊維の中でも、工業規模における生産性及び機械特性の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を用いることが好ましい。【0030】(天然パルプ繊維)天然パルプ繊維を構成するパルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等も挙げられる。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス、竹、とうもろこし等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。天然パルプ繊維として上述した天然パルプの1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記天然パルプの中でも、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプを好ましく用いることができ、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)をより好ましく用いることができる。」
「【0033】(バインダー成分)本発明の外装補強用シートは、バインダー成分を含む。バインダー成分は、無機強化繊維や天然パルプ繊維の接点に存在する結着成分である。バインダー成分の形状は特に限定されないが、例えば、粒子形状や繊維形状とすることができる。さらにバインダー成分は、水溶液やエマルジョンに分散させた状態で用いてもよい。【0034】バインダー成分の含有量は、外装補強用シートの全質量に対して25質量%以下である。バインダー成分の含有量は、20質量%以下であることがより好ましく、18質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。なお、バインダー成分の含有量の下限値は0.1質量%であることが好ましい。バインダー成分の含有量を上記範囲内とすることにより、熱可塑性樹脂含有部材との接着性を高め、熱可塑性樹脂含有部材と外装補強用シートを含む成形体の曲げ強度を高めることができる。また、バインダー成分の含有量を上記範囲内とすることにより、外装補強用シートを表面に有する成形体の表面質感を向上させることができる。【0035】バインダー成分としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、各種澱粉、セルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドーアクリル酸エステルーメタクリル酸エステル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を挙げることができる。中でも、バインダー成分としては、アクリル樹脂及びポリビニルアルコール(PVA)樹脂から選択される少なくとも一方を用いることが好ましい。」
「【0037】ポリビニルアルコール(PVA)樹脂は、繊維状のポリビニルアルコール(PVA)樹脂、粒状のポリビニルアルコール(PVA)樹脂いずれも好ましく使用することができる。また、ポリビニルアルコール(PVA)の溶液をスプレーもしくは含浸法により付与することもできる。」
「【0042】(外装補強用シートの製造方法)本発明の外装補強用シートの製造工程は、無機強化繊維と、天然パルプ繊維と、バインダー成分を混合したスラリーを、湿式抄紙する工程を含むことが好ましい。この湿式抄紙する工程で使用される抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。」
したがって、甲第4号証には、特に請求項1に着目すると、以下の甲4発明が記載されていると認められる。
<甲4発明>
無機強化繊維と、天然パルプ繊維と、バインダー成分を含む外装補強用シートであって、
前記バインダー成分の含有量は、前記外装補強用シートの全質量に対して25質量%以下である外装補強用シート。
第5 特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面の記載
(1) 甲第10号証は、特願2016-144879号であり、平成28年7月22日に出願され、平成30年1月25日に特開2018-12313号公報として出願公開されている。
したがって、甲第10号証は、特許法第29条の2に規定された本件特許出願の日前の他の特許出願であって出願公開公報が発行がされたものである。
(2) 甲第10号証の発明者について
甲第10号証の発明者は「高岡 和千代」、「近藤 健」、「藤本 壹裕」であり、本件特許の発明者である「福田 元道」、「増田 敬生」とは同一の者ではない。
(3) 本件特許に係る出願時の、甲第10号証の出願人について、本件特許出願の時の、出願人は「三菱製紙株式会社」、「株式会社不二商会」であり、本件特許出願の時の本件特許出願の出願人は「三菱製紙株式会社」である。したがって、本件特許出願の時にその出願人と、甲第10号証の出願人とは同一ではない。
(4) 甲第10号証の願書に最初に添付された明細書又は図面には、以下の記載がある。(下線は強調のため当審が付した。)
「【発明を実施するための形態】【0015】本発明の炭素短繊維樹脂構造体は、炭素短繊維を含有してなる不織布と熱可塑性フィルムと炭素長繊維開繊糸シートとの積層体である。【0016】続きを表示(全17行)本発明において、炭素短繊維を含有してなる不織布(炭素短繊維不織布)としては、湿式法又は乾式法により製造される湿式不織布又は乾式不織布を用いることができる。そして、炭素短繊維不織布は、結着材として、熱可塑性短繊維、熱可塑性エマルジョン等を含むことができる。この結着材によって、炭素短繊維不織布に強度を容易に付与することができる。【0017】炭素短繊維としては、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維、ピッチ類を原料とするピッチ系炭素短繊維が挙げられる。炭素短繊維の繊維径は3μm以上20μm以下であることが好ましく、5μm以上15μm以下であることがより好ましい。また、炭素短繊維の繊維長は、湿式不織布の場合は、3μm以上40mm以下であることが好ましく、乾式不織布の場合は、20μm以上120mm以下であることが好ましい。【0018】本発明において、炭素短繊維としてリサイクル炭素短繊維を用いることができる。リサイクル炭素繊維とは、一度成形体として成った炭素繊維と樹脂複合体を、アルゴン、窒素などの不活性ガス中又は水蒸気中で、樹脂成分を焼結除去して得られる材料である。特に過熱水蒸気による焼結方法は、大気下で熱を奪うと水に戻ることから、安価で環境を汚染しない有効な方法である。プリプレグより成る樹脂複合体はアングルプライ積層体など多様な形態をしており、通常は一定サイズに落としてから、焼結処理し、熱硬化性樹脂を除去して、裁断する。この場合、繊維長の異なるリサイクル炭素短繊維が得られる。【0019】乾式不織布の製造方法を説明する。まず、大気中で解繊された炭素短繊維をウェッブに展開し、カード法などで分散さる。この時、結着材として熱可塑性短繊維を併用する場合は、炭素短繊維と一緒に解繊分散させて、熱処理を施す。また、結着材として熱可塑性エマルジョンを併用する場合には、炭素短繊維のウェッブに熱可塑性エマルジョンを付与して熱処理を施す。結着材によって、強度を持たせて、乾式不織布とする。【0020】湿式不織布の製造方法を説明する。まず、水中で炭素短繊維を解繊し、次に、円網、短網、長網、傾斜短網などの抄紙網で漉き上げて、乾燥・加熱処理等を施して、湿式不織布とする。そして、乾式不織布と同様に、熱可塑性短繊維、熱可塑性エマルジョン等の結着材によって、強度を持たせて、湿式不織布とする。【0021】本発明では、乾式不織布、湿式不織布のいずれの不織布も利用できるが、薄い不織布を利用する場合には、繊維の分散性が優れている湿式不織布を利用することが好ましい。また、厚い不織布を利用する場合には、製造方法の簡素で、厚みを持たせるのに有利な、乾式不織布を利用することが好ましい。【0022】熱可塑性短繊維としては、非結晶性のポリビニルアルコール(ビニロン)短繊維、表面が低融点化されているポリエステル芯鞘短繊維、未延伸ポリエステル短繊維、ポリカーボネート(PC)短繊維、ポリオレフィン短繊維、表面が低融点化されているポリオレフィン芯鞘短繊維、表面が酸変性ポリオレフィンよりなるポリオレフィン短繊維、脂肪族ポリアミド短繊維、未延伸ポリフェニレンスルフィド短繊維、ポリエーテルケトンケトン短繊維等の熱可塑性を有する樹脂の短繊維が挙げられる。」
「【0026】炭素短繊維と結着材の含有比率(質量基準による、炭素短繊維:結着材)は、8.5:0.0~5:4であることが好ましく、8.5:0.5~5:4であることがより好ましく、8:1~6:3であることが更に好ましい。結着材は必須成分では無いが、炭素短繊維と結着材の含有比率を上記範囲内とすることにより、炭素短繊維樹脂構造体の強度を容易に高めることができる。」
「【0027】本発明の炭素短繊維樹脂構造体の製造方法は、炭素短繊維含有不織布と熱可塑性フィルムとの積層体の両面からロールで加熱加圧処理することによって、該不織布と熱可塑性フィルムとを一体化して炭素短繊維強化フィルムを製造する工程と、該炭素短繊維強化フィルムと炭素長繊維開繊糸シートとを一体化する工程とを含む。本発明では、炭素短繊維不織布が、ミクロフィブリル化セルロースを含有することが好ましい。炭素短繊維不織布がミクロフィブリル化セルロースを含有している場合、加熱加圧処理時や炭素短繊維強化フィルムと炭素長繊維開繊糸シートとを一体化する際に、炭素短繊維不織布内で炭素短繊維の分散性が崩れないため、強度物性及び加工性の優れた炭素短繊維樹脂構造体を得ることができる。【0028】ミクロフィブリル化セルロース繊維とは、フィルム状ではなく、主に繊維軸と平行な方向に非常に細かく分割された部分を有する繊維状で、少なくとも一部が繊維径1μm以下であるセルロース繊維である。長さと幅のアスペクト比が20~100000であることが好ましい。また、変法濾水度が0ml以上770ml以下であることが好ましく、0ml以上600ml以下であることがより好ましい。更に、質量平均繊維長が0.1mm以上2mm以下であることが好ましい。本発明における変法濾水度は、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの金網(PULP AND PAPER RESEARCH INSTITUTE OF CANADA製)を用い、試料濃度を0.1%にした以外はJIS P8121(1995年版)に準拠して測定した濾水度である。【0029】ミクロフィブリル化セルロースのフィブリル化度合いは、低濃度での分散液粘度で把握することも可能である。粘度が高くなるほど、フィブリル化が進行しているが、粘度が高過ぎる場合は、繊維長が短くなり過ぎている可能性がある。ミクロフィブリル化セルロースの分散液(濃度0.5質量%)の粘度が、B型粘度計(ローターNo.2、ローター回転数60rpm、温度23℃以上25℃以下)を用いた場合、50cp以上200cp以下であることが好ましい。【0030】炭素短繊維不織布がミクロフィブリル化セルロースを含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、不織布中の全繊維に対して、0.5~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましい。ミクロフィブリル化セルロース繊維の含有量が上記範囲内である場合、加熱加圧処理時や炭素短繊維強化フィルムと炭素長繊維開繊糸シートとを一体化する際に、炭素短繊維不織布内で炭素短繊維の分散性が崩れないため、強度物性及び加工性の優れた炭素短繊維樹脂構造体を得ることができる。ミクロフィブリル化セルロース繊維の含有量が上記範囲より少ない場合、ミクロフィブリル化セルロースを含有していない場合と効果が変わらない場合がある。ミクロフィブリル化セルロース繊維の含有量が上記範囲を超えた場合、不織布製造時に脱水された後、ミクロフィブリル化セルロース同士が密な構造を形成して、フィルム状となり、加熱加圧処理時や炭素短繊維強化フィルムと炭素長繊維開繊糸シートとを一体化する際に、炭素短繊維不織布内へ熱可塑性樹脂フィルムが進入し難くなる。また、炭素短繊維不織布と熱可塑性フィルムとを一体化してなる炭素短繊維強化フィルムに、ボイドが見られる場合がある。【0031】ミクロフィブリル化セルロース繊維用のセルロース材料としては、植物パルプ、溶剤紡糸セルロース、半合成セルロース等が挙げられる。植物パルプとしては、広葉樹材(L材)や針葉樹材(N材)を用いたクラフトパルプ(KP)、溶解パルプ(DP)、溶解クラフトパルプ(DKP)などの木質系パルプが挙げられる。また、藁、麻、コットン、コットンリンターなどの非木質系パルプも挙げられる。市販品としては、セリッシュ(登録商標、ダイセルファインケム社製)が挙げられる。なお、セルロース材料の結晶形には、I型、II型、III型、IV型等があるが、耐熱性の観点から、I型、II型が好ましく、I型がより好ましい。I型のセルロース材料源としては、コットンパルプ、コットンリンターパルプ、麻パルプ、ケナフパルプなどの非木質系パルプで、リグニン及びヘミセルロースの含有量が低減されたパルプ、L材又はN材から得られる、リグニン及びヘミセルロースの含有量が低減されたKP、DP、DKPなどの木質系パルプが挙げられる。特に、コットン系材料が好ましい。」
したがって、甲第10号証の願書に最初に添付された明細書又は図面には、以下の甲10発明が記載されていると認められる。
<甲10号証>
炭素短繊維を含有してなる炭素短繊維不織布であって、
湿式法又は乾式法により製造される湿式不織布又は乾式不織布であり、
結着材として、熱可塑性短繊維、熱可塑性エマルジョン等を含むことができ、熱可塑性短繊維としては、非結晶性のポリビニルアルコール(ビニロン)短繊維、表面が低融点化されているポリエステル芯鞘短繊維、未延伸ポリエステル短繊維、ポリカーボネート(PC)短繊維、ポリオレフィン短繊維、表面が低融点化されているポリオレフィン芯鞘短繊維、表面が酸変性ポリオレフィンよりなるポリオレフィン短繊維、脂肪族ポリアミド短繊維、未延伸ポリフェニレンスルフィド短繊維、ポリエーテルケトンケトン短繊維等の熱可塑性を有する樹脂の短繊維が挙げられ、
ミクロフィブリル化セルロースを含有することが好ましく、ミクロフィブリル化セルロース繊維は、フィルム状ではなく、主に繊維軸と平行な方向に非常に細かく分割された部分を有する繊維状で、少なくとも一部が繊維径1μm以下であるセルロース繊維である、
炭素短繊維不織布。
第6 当審の判断
1. 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1) 本件発明1につき甲1発明に基づいた場合について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「炭素短繊維」は、本件発明1の「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)」に「炭素短繊維」である限りで一致する。
甲1発明の「フィブリル状繊維」は、本件発明1の「セルロース繊維」と、「繊維」である限りで一致する。
甲1発明の「前駆体シート」は、炭素短繊維、フィブリル状繊維といった繊維を二次元平面内において分散させたものであり、織らずにシートにしたものといえるから、炭素短繊維を含むから、本件発明1の「炭素短繊維不織布」に相当する。
したがって、両者は、以下の一致点1で一致しかつ相違点1で相違する。
<一致点>
炭素短繊維、繊維を含む炭素短繊維不織布。
<相違点1>
本件発明1は、「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)、セルロース繊維及びバインダー合成繊維」を含み、「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)を必須成分とする多孔質基材及びセルロース繊維を必須成分とする網状構造体とが混在して含まれ、バインダー合成繊維がポリビニルアルコール系繊維である」のに対し、甲1発明は、炭素短繊維及びフィブリル状繊維を含むものの、上記事項について特定されていない点。
イ 相違点1について検討する。
(ア) 理由1(新規性)について
上記<相違点1>は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。よって、本件発明1は、甲1発明ではない。
(イ) 理由2(進歩性)について
甲第1号証の段落【0017】には、「このフィブリル状繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維、セルロース系フィブリル状繊維などいずれであっても良い」と記載されている。
甲第1号証の段落【0022】には、「有機高分子化合物は、炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを含む前駆体シート中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)として使用される。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特にポリビニルアルコールは前駆体シートの作製工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。本発明では、有機高分子化合物を繊維状として用いることも可能である。」と記載されている。
しかし、甲第1号証には、フィブリル状繊維としてセルロース系フィブリル状繊維を選択し、かつバインダーとして有機高分子化合物を使用することとし、かつ当該有機高分子化合物としてポリビニルアルコールを選択し、かつ当該有機高分子化合物を繊維状として用いることを選択することは記載されておらず、特に当該選択をすることを動機付ける記載もない。むしろ段落【0023】には、「フィブリル状繊維」が「バインダーとしても機能する」ことに加えて「低コスト化の観点からは、有機高分子化合物を使用しないことが好ましい」との記載がある。また、段落【0017】には、「このフィブリル状繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維、セルロース系フィブリル状繊維などいずれであっても良いが、低温から高温にかけて炭素短繊維同士を接合させることができ、炭素化した際の残存質量が大きいポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維がより好ましい」と記載され、フィブリル状繊維としてはセルロース系フィブリル状繊維よりもポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維がより好ましいことが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明、特に段落【0049】~【0055】、には、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用いることで、網状構造体が多く形成され、飛散繊維が少なくなることが記載されているけれども、甲第1号証から「セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用いることで、網状構造体」が多く形成され、それが飛散繊維が減少することにつながることを、当業者が予測できたとまではいえない。
他に、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用い、セルロース系繊維からなる網状構造体を含むものとすることを開示する文献も見当たらない。
よって、本件発明1は、当業者が、甲1発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。
(2) 本件発明1につき甲2発明に基づいた場合について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「炭素短繊維」は、本件発明1の「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)」と「炭素短繊維」である限りで一致する。
甲2発明の「炭素繊維紙」は、炭素繊維を織らずに紙としたものであり紙は布状のものであり、炭素繊維として炭素短繊維を用いているものであるから、本件発明1の「炭素短繊維不織布」に相当する。
したがって、両者は、以下の一致点2で一致しかつ相違点2で相違する。
<一致点2>
炭素短繊維を含む炭素短繊維不織布。
<相違点2>
本件発明1は、「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)、セルロース繊維及びバインダー合成繊維」を含み、「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)を必須成分とする多孔質基材及びセルロース繊維を必須成分とする網状構造体とが混在して含まれ、バインダー合成繊維がポリビニルアルコール系繊維である」のに対し、甲2発明は、上記事項について特定されていない点。
イ 相違点2について検討する。
(ア) 理由1(新規性)について
上記<相違点2>は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。よって、本件発明1は、甲2発明ではない。
(イ) 理由2(進歩性)について
甲第2号証には、上記で摘記したように、段落【0038】~【0040】の記載がある。
特に、甲第2号証の、特に炭素繊維紙をバインダーとして有機高分子化合物を含むものとすることを選択し、有機高分子化合物として、「有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂やフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化樹脂の他、熱可塑性エラストマー、ブタジエン・スチレン共重合体(SBR)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)等のエラストマー、ゴム、セルロースなどを用いることができる。有機高分子化合物は、1種類を単独で用いても良いし、2種類以上併用することもできる。」(段落【0038】)との記載から、2種類を併用することを選択し、併用することとした2種類の有機高分子化合物としてポリビニルアルコールとセルロースとの2種類を選択し、さらにポリビニルアルコールとセルロースとの2種類を共にパルブ状物または短繊維であるものとして用いることを選択することが甲第2号証には、記載されているとはいえず、当該選択を動機付ける記載もない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明、特に段落【0049】~【0055】、には、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用いることで、網状構造体が多く形成され、飛散繊維が少なくなることが記載されているけれども、甲第2号証から「セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用いることで、網状構造体」が多く形成され、それが飛散繊維が減少することにつながることを、当業者が予測できたとまではいえない。
他に、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用い、セルロース系繊維からなる網状構造体を含むものとすることを開示する文献も見当たらない。
よって、本件発明1は、当業者であっても、甲2発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。
(3) 本件発明1につき甲3発明に基づいた場合について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「炭素繊維」は、本件発明1の「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)」と、「炭素繊維」である限りで一致する。
甲3発明の「炭素繊維シート」は、炭素繊維を織らずにシートとしたものであって不織布といえるから、本件発明1の「炭素短繊維不織布」と、「炭素繊維不織布」である限りで一致する。
甲3発明の「異種繊維」は、本件発明1の「セルロース繊維及びバインダー合成繊維」と、「繊維」である点で一致する。
したがって、両者は、以下の一致点3で一致しかつ相違点3で相違する。
<一致点3>
炭素繊維、繊維を含む炭素繊維不織布。
<相違点3>
本件発明1は、炭素繊維として「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)」を含み、「セルロース繊維及びバインダー合成繊維」を含み、「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)を必須成分とする多孔質基材及びセルロース繊維を必須成分とする網状構造体とが混在して含まれ、バインダー合成繊維がポリビニルアルコール系繊維である」のに対し、甲3発明は、炭素繊維を含み、また、異種繊維を含むものの、上記事項について特定されていない点。
イ 相違点3について検討する。
甲第3号証には、以下の記載がある。
「 本発明方法に用いられる炭素繊維の種類、太さ、長さなどに格別の限定はなく、ポリアクリロニトリル系重合体繊維、セルロース繊維およびピッチ繊維などから製造されたものであってもよい。また、一般に、湿式抄紙法に用いられる炭素繊維は、0、1~100μmの太さと、1~10mm程度の長さを有する短繊維であることが好ましい。」(第2ページ右上欄第7行~左下欄第13行)
「この湿式抄紙工程において、抄紙機の操業性(主として通紙性)の改善や、或は、製造される炭素繊維シートの用途により要求される性能を勘案して、水性スラリー中に、セルロースパルプ、又は有機人造繊維の混合、ガラス繊維などの無機繊維の場合、ポリビニルアルコール繊維などのような接着性(バインダー)繊維の混合、硫酸アルミニウムなどのような金属塩の添加、或は、その他の抄紙用助剤の添加などを施してもよい。上記のような異種繊維又は抄紙用薬剤の添加は、本発明の地合改良剤の、炭素繊維に対する分散性向上効果や、得られる炭素繊維シートの地合改善効果に、何の影響もない。一般に異種繊維の含有率には格別の限定はなく、炭素繊維シートの用途および必要性能を勘案して適宜に設定することができる。」(第3ページ右上欄第5行~第20行)
しかし、甲第3号証には、炭素繊維として特に炭素短繊維を選択し、混合する異種繊維としてセルロースパルプを選択し、かつ異種繊維としてセルロースパルプと同時に接着性(バインダー)繊維を用いることとし、かつ接着性(バインダー繊維)としてポリビニルアルコール繊維を選択することは記載されておらず、また、当該選択を動機付ける記載もない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明、特に段落【0049】~【0055】、には、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用いることで、網状構造体が多く形成され、飛散繊維が少なくなることが記載されているけれども、甲第3号証から「セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用いることで、網状構造体」が多く形成され、それが飛散繊維が減少することにつながることを、当業者が予測できたとまではいえない。
他に、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用い、セルロース系繊維からなる網状構造体を含むものとすることを開示する文献も見当たらない。
よって、本件発明1は、当業者であっても、甲3発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。
(4) 本件発明1につき甲4発明に基づいた場合について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「外装補強用シート」は、無機強化繊維等の繊維を織らずにシートとしたものであるから、本件発明1の「炭素短繊維不織布」と、「不織布」である点において一致する。
したがって、両者は、以下の一致点4で一致しかつ相違点4で相違する。
<一致点4>
不織布。
<相違点4>
本件発明1は、「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)、セルロース繊維及びバインダー合成繊維を含む炭素短繊維不織布であり、炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)を必須成分とする多孔質基材及びセルロース繊維を必須成分とする網状構造体とが混在して含まれ、バインダー合成繊維がポリビニルアルコール系繊維である炭素短繊維不織布」であるのに対し、甲4発明は、「無機強化繊維と、天然パルプ繊維と、バインダー成分を含む」ものの、上記事項について特定されていない点。
イ 相違点4について検討する。
甲第4号証の段落【0022】には「無機強化繊維としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維等を挙げることができる。」と記載され、段落【0024】には、「無機強化繊維の繊維長は、3mm以上100mm以下であることが好ましく」段落【0029】には「無機強化繊維は炭素繊維であってもよい」と記載されている。
甲第4号証の段落【0030】には、「上記天然パルプの中でも、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプを好ましく用いることができ」ることが記載されている。
また、甲第4号証の段落【0035】には、「中でも、バインダー成分としては、アクリル樹脂及びポリビニルアルコール(PVA)樹脂から選択される少なくとも一方を用いることが好ましい」と記載され、段落【0037】には「ポリビニルアルコール(PVA)樹脂は、繊維状のポリビニルアルコール(PVA)樹脂、粒状のポリビニルアルコール(PVA)樹脂いずれも好ましく使用することができる」と記載されている。
しかし、甲第4号証には、無機強化繊維として炭素繊維を選択するとともに短繊維といえる長さのものを採用して炭素短繊維とし、かつセルロースを含む木材パルプを選択し、かつバインダー成分としてポリビニルアルコール樹脂を選択し、かつポリビニルアルコール樹脂として繊維状のポリビニルアルコール樹脂を選択することは記載されておらず、また、特に当該選択をすることを動機付ける記載もない。むしろ、「無機強化繊維としては、ガラス繊維を用いることが好ましい」(段落【0027】)とされている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明、特に段落【0049】~【0055】、には、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用いることで、網状構造体が多く形成され、飛散繊維が少なくなることが記載されているけれども、甲第4号証から「セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用いることで、網状構造体」が多く形成され、それが飛散繊維が減少することにつながることを、当業者が予測できたとまではいえない。
他に、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維であるバインダー合成繊維とを組み合わせて用い、セルロース系繊維からなる網状構造体を含むものとすることを開示する文献も見当たらない。
よって、本件発明1は、当業者であっても、甲4発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。
(5) 本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて、本件発明1を限定するものであるから、上記(1)~(4)と同様に、甲1発明~甲4発明ではなく、また、当業者であっても、甲1発明~甲4発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。
3. 理由3(拡大先願)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲10発明とを対比する。
甲10発明の「炭素短繊維」は、本件発明1の「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)」に、「炭素短繊維」の限りで一致する。
よって、本件発明1と甲10発明とは、以下の一致点5で一致し、相違点5で相違する。
<一致点5>
炭素短繊維を含む炭素短繊維不織布。
<相違点5>
本件発明1においては、炭素短繊維不織布が「セルロース繊維及びバインダー合成繊維」を含み、「バインダー合成繊維がポリビニルアルコール系繊維」であり、「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)を必須成分とする多孔質基材及びセルロース繊維を必須成分とする網状構造体とが混在して含まれ」るのに対し、甲10発明においては、炭素短繊維不織布は、結着材として熱可塑性短繊維等を含むことができ、含むことができるものの例として非結晶性のポリビニルアルコール(ビニロン)短繊維が挙げられ、セルロース繊維であるミクロフィブリル化セルロースを含有することが好ましいとされるものの、その組み合わせに限定して用いることについては記載されておらず、また、「炭素短繊維(活性炭素繊維を除く)を必須成分とする多孔質基材及びセルロース繊維を必須成分とする網状構造体とが混在して含まれ」るものであることは特定されていない点。
イ 相違点5について検討する。
相違点5に係る本件発明1の構成を備えることにより、本件発明1は、網状構造体を多く形成して飛散繊維を抑制するとの顕著な効果を奏するものであり、相違点5は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲10発明ではない。
(2)本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて、本件発明1を限定するものであるから、上記(1)と同様に、甲10発明ではない。
第6 結び
以上のとおり、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700083