特許異議申立
2022-700074
微細セルロース含有樹脂組成物
- 審判番号
- 2022-700074
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-004588
- 登録番号
- 6915107
- 請求日
- 2022年01月27日
- 審決日
- 2023年02月21日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】齋藤 都子
- 【権利者代理人】三間 俊介
- 【異議申立人】野中 恵
- 審判長/審判官
- 審判長 杉江 渉
- 審判官 近野 光知
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6915107号発明「微細セルロース含有樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6915107号の特許請求の範囲を、令和4年8月5日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、11及び12について訂正することを認める。
特許第6915107号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6915107号(請求項の数12。以下、「本件特許」という。)は、平成30年5月25日に出願した特願2018-100948号の一部を、令和2年1月15日に新たにした出願(特願2020-4588号)に係る特許であって、令和3年7月16日に設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年8月4日である。)。
その後、令和4年1月27日に、特許異議申立人である野中恵(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~12に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和4年 6月 1日付け 取消理由通知書
同年 8月 5日提出 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 8月15日付け 通知書(申立人宛)
同年 9月12日提出 意見書(申立人)
同年11月 1日提出 上申書(特許権者)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年8月5日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「熱可塑性樹脂(B)」とあるのを、「ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束」とあるのを、「ミクロフィブリル束」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「表層」とあるのを、「表面を含む表層」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「一部のセルロースが加水分解されており」とあるのを、「一部のみのセルロースが加水分解されており」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「熱可塑性樹脂(B)」とあるのを、「ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束」とあるのを、「ミクロフィブリル束」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2に「表層」とあるのを、「表面を含む表層」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2に「一部のセルロースが加水分解されており」とあるのを、「一部のみのセルロースが加水分解されており」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に「4~3000nm」とあるのを、「15~3000nm」に訂正する。
(請求項6の記載を引用する請求項7~10も同様に訂正する。)
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9に「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束」とあるのを、「ミクロフィブリル束」に訂正する。
(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11に「熱可塑性樹脂(B)」とあるのを、「ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)」に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項11に「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束」とあるのを、「ミクロフィブリル束」に訂正する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項11に「表層」とあるのを、「表面を含む表層」に訂正する。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項11に「一部のセルロースが加水分解されており」とあるのを、「一部のセルロースが加水分解されており且つ内層が加水分解されておらず」に訂正する。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項12に「熱可塑性樹脂(B)」とあるのを、「ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)」に訂正する。
(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項12に「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束」とあるのを、「ミクロフィブリル束」に訂正する。
(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項12に「表層」とあるのを、「表面を含む表層」に訂正する。
(18)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項12に「一部のセルロースが加水分解されており」とあるのを、「一部のセルロースが加水分解されており且つ内層が加水分解されておらず」に訂正する。
(19)一群の請求項について
訂正前の請求項1~10について、請求項3~6は、請求項1又は請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1~4によって記載が訂正される請求項1、及び訂正事項5~8によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。このことから、訂正前の請求項1、3~10が一群の請求項を構成するとともに、訂正前の請求項2~10が一群の請求項を構成する。そして、共通する請求項3~10を有するこれらの一群の請求項は組み合わされて、請求項1~10が1つの一群の請求項を構成する。
したがって、本件訂正は、その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、5、11及び15について
訂正事項1、5、11及び15は、本件明細書の【0034】及び【0036】の記載に基づいて、「熱可塑性樹脂(B)」について「ポリアミド系樹脂を含む」との限定を加えたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2、6、10、12及び16について
訂正事項2、6、10、12及び16は、「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束」を「ミクロフィブリル束」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3、7、13及び17について
訂正事項3、7、13及び17は、「部分加水分解された微細セルロース(A)」の「表層の一部が加水分解されており」における「表層」がどのような意味であるのかが判然としないとの取消理由(明確性)に対応して訂正するものであり、加水分解されている部位が表面のみでなく、表面を含む層にも及んでいることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、一般に「表層」なる用語がその層の表面を含む部位を指すことは明らかであるといえるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4及び8について
訂正事項4は、本件明細書【0024】の「ミクロフィブリル束において、内層では加水分解が実質的に起きておらず、また表層の加水分解も一部に留まっている」という記載を基に、「微細セルロース(A)」について、「表層の一部のセルロースが加水分解されており」とあるのを「表層の一部のみのセルロースが加水分解されており」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項4は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項9について
訂正事項9は、【0021】に基づいて、「微細セルロース(A)」の「平均繊維径」について、「4~1500nm」を「15~1500nm」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項14及び18について
訂正事項14及び18は、【0024】及び訂正前の請求項5に基づいて、「微細セルロース(A)」について、「表層の一部のセルロースが加水分解されており」に加えて「且つ内層が加水分解されておらず」との限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~12に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(下線部は訂正箇所であり、当審が付した。)。
「【請求項1】
部分加水分解された微細セルロース(A)、ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)及びヘミセルロース(C)を含む、樹脂組成物の製造方法であって、
前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されており、
ヘミセルロース(C)/部分加水分解された微細セルロース(A)の質量比(C)/(A)が0.001~0.2である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
部分加水分解された微細セルロース(A)、ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)、ヘミセルロース(C)及びリグニン(D)を含む、樹脂組成物の製造方法であって、
前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみセルロースが加水分解されており、
リグニン(D)/ヘミセルロース(C)の質量比(D)/(C)が0.001~10である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
部分加水分解された微細セルロース(A)が、繊維長/繊維径のアスペクト比30以上の微細セルロース繊維である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
部分加水分解された微細セルロース(A)が、重合度450以上に相当するピークトップ分子量を有し、
部分加水分解された微細セルロース(A)において、前記ピークトップ分子量以下の分子量を有する低分子量成分の量をS1、前記ピークトップ分子量を超える分子量を有する高分子量成分の量をS2としたとき、S1/S2が1.00より大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記S1/S2が、1.00より大きく、3.00以下である、請求項4に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
部分加水分解された微細セルロース(A)の平均繊維径が15~3000nmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
部分加水分解された微細セルロース(A)/熱可塑性樹脂(B)の質量比(A)/(B)が0.01~1である、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(B)がポリアミド系樹脂である、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束において、内層が加水分解されていない、請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法で樹脂組成物を得ること、及び
前記樹脂組成物を成形して摺動性部材を得ること、
を含む、摺動性部材の製造方法。
【請求項11】
部分加水分解された微細セルロース(A)、ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)及びヘミセルロース(C)を含む、樹脂組成物であって、
前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束が加水分解処理されることでミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のセルロースが加水分解されており且つ内層が加水分解されておらず、
ヘミセルロース(C)/部分加水分解された微細セルロース(A)の質量比(C)/(A)が0.001~0.2である、樹脂組成物。
【請求項12】
部分加水分解された微細セルロース(A)、ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)、ヘミセルロース(C)及びリグニン(D)を含む、樹脂組成物であって、
前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束が加水分解処理されることでミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のセルロースが加水分解されており且つ内層が加水分解されておらず、
リグニン(D)/ヘミセルロース(C)の質量比(D)/(C)が0.001~10である、樹脂組成物。」
(以下、請求項1~12に係る発明を、順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した訂正後の明細書を「本件明細書」という。)
第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書の申立理由
本件訂正前の本件発明1~12は、(1)~(5)のとおりの取消理由があるから、本件特許の本件発明1~12に係る特許は、特許法第113条第2号又は第4号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、後記2(1)の甲第1号証~甲第8号証を提出する。
(1)申立理由1(明確性)
訂正前の請求項1~12に係る特許は、以下の点で、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
ア 訂正前の請求項1~12に係る発明は、請求項1、2、11及び12に記載の「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束の表層の一部のセルロースが加水分解されており」における「表層」の意味が判然としないから、明確でない。
イ 訂正前の請求項1~12に係る発明は、請求項1、2、11及び12に記載の「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束の表層の一部のセルロースが加水分解されており」という構造が、上記「表層」及びそれより内側の加水分解されていない部分でどのような状態になっているのかが判然としないから、明確でない。
ウ 訂正前の請求項1~12に係る発明は、請求項1、2、11及び12に記載の「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束の表層の一部のセルロースが加水分解されており」を確認できる方法が判然としないから、明確でない。
エ 訂正前の請求項9及び10に係る発明は、請求項9に記載の「部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束において、内層が加水分解されていない」における「内層」がどのような意味か判然としないから、明確でない。
(2)申立理由2(サポート要件)
訂正前の請求項1~12に係る特許は、以下の点で、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 訂正前の請求項1~12に係る発明は、請求項1、2、11及び12に「前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束の表層の一部のセルロースが加水分解されており」との特定事項を備えるが、発明の詳細な説明には、請求項1~12に係る発明の課題である耐摩耗性及び耐久性が優れる作用機能は記載されていないし、上記「表層の一部のセルロースが加水分解されて」いることを具体的にどのようにして確認するのかも記載されておらず、実施例が本件発明の具体例であるのかどうかも判然としないから、本件発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載されていない。
イ 訂正前の請求項1~12に係る発明は、請求項1、2、11及び12に記載の「熱可塑性樹脂(B)」が任意の熱可塑性樹脂を含むものであるが、発明の詳細な説明には、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂を用いた具体例は記載されておらず、アミノ基等の官能基を持たない熱可塑性樹脂を用いる場合に、本件発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載されていない。
(3)申立理由3(実施可能要件)
訂正前の請求項1~12に係る特許は、以下の点で、その明細書が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
ア 訂正前の請求項1、2、11及び12は、「前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束の表層の一部のセルロースが加水分解されており」との特定事項を備えるが、発明の詳細な説明には、「部分加水分解された微細セルロース(A)」を含む樹脂組成物の製造方法が記載されているとはいえず、当業者が請求項1、2、11及び12、並びに上記請求項1及び2を引用する請求項3~10に係る樹脂組成物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
イ 比較例1及び2における微細セルロースは部分加水分解されているかどうか不明であり、比較例1及び2との対比のうえで実施例を検討することができないから、訂正前の請求項1~12に係る発明の実施は通常以上の試行錯誤を強いられることになる。
ウ 実施例11は亜リン酸を添加せず水中で加熱しているが、加熱処理の温度や時間などは記載されておらず、セルロースは230℃程度から加圧熱水により加水分解されることが公知であるから、単なる水中での加熱のみでセルロースが加水分解されているとは理解できないし、実施例12及び13も混練機内に水が存在するだけでセルロースが加水分解されているとも理解できないから、本件明細書の記載を基に実施例11~13を実施することはできない。
(4)申立理由4(新規性)
訂正前の請求項1~8、10~12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(5)申立理由5(進歩性)
訂正前の請求項1~8、10~12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第1~7号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 証拠方法
(1)申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法
甲第1号証:国際公開第2011/126038号
甲第2号証:ダイセルファインケム株式会社、技術資料「微小繊維状セルロース セリッシュ」、1998年5月5日
甲第3号証:哈斯ら、「植物繊維の熱劣化による変色と強度変化」、SEN‘I GAKKAISHI(報文)、vol.70、No.5(2014)、89~95頁
甲第4号証:「竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術を開発 ~セルロースナノファイバーが拓く新素材の可能性~」、NanotechJapan Bulletin、Vol.8、No.4、2015年、1~13頁
甲第5号証:木村良次ら、「パルプ及び製紙に関する研究 第20報 紙の透気度に就ての基礎的実験(4)」、木材研究:京都大學木材研究所報告、第21号(昭34)、1~11頁
甲第6号証:特開2014-181421号公報
甲第7号証:特開2008-150719号公報
甲第8号証:遠藤貴士、「ナノセルロースの特徴と産業展開」、機能紙研究会誌、No.53、33~37頁、平成26(2014)年10月
(2)申立人が令和4年9月12日提出の意見書に添付した証拠方法
甲第9号証:特開2011-225830号公報
甲第10号証:特許第5892065号公報
甲第11号証:村木俊夫、「ポリアミド」、高分子、3月号(1978年)、201~205頁
(以下、甲第1号証~甲第11号証を、順に「甲1」等という。)
(3)特許権者が令和4年8月5日提出の意見書に添付した証拠方法
乙第1号証:Akira Isogai, “Wood nanocelluloses: fundamentals and applications as new bio-based nanomaterials”, Journal of Wood science(2013) 59:449-459及び部分訳
乙第2号証:京都大学生存圏研究所 生物機能材料分野ウェブサイト、2022年8月3日印刷、<URL:http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/labm/cnf/downloads>
乙第3号証:前川英一、「脱リグニン過程におけるヘミセルロースの挙動」、木材研究資料 1979,13:pp.13-34
3 当審が通知した取消理由
(1)令和4年5月31日付け取消理由通知の理由
上記取消理由通知の取消理由は、以下のとおりである。
取消理由1(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 訂正前の本件発明1、2、11及び12の「表層」及び本件発明9の「内層」のミクロ構造並びにその確認方法が判然としないから、本件発明1~12は明確でない。
イ 訂正前の本件発明4及び5の「S1/S2」の測定・算出方法、本件発明6の「微細セルロース(A)の平均繊維径」の測定方法が判然としないから、本件発明4~10は明確でない。
取消理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 訂正前の本件発明1~12は、「表層の一部のセルロースが加水分解されており」の「セルロース」について、本件明細書の【0021】、【0022】及び【0024】の記載からみて、重合度が200~300前後まで微細化した低アスペクト比のセルロースナノクリスタルでは、.補強効果を発現し難く、耐熱性も低い傾向にあり、本件発明の課題を解決できないものを包含すると解される。
イ 訂正前の本件発明1~12は、ポリアミド以外の任意の「熱可塑性樹脂」を用いる場合に、微細セルロースと熱可塑性樹脂との界面密着性、耐摩耗性及び耐久性に優れると解することはできない。
ウ 訂正前の本件発明1~12は、本件発明1及び2の「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束」のうち「ミクロフィブリル」について、本件明細書の【0021】の記載からみて、微細セルロースがミクロフィブリルに近い繊維径ではコンポジット化工程の加熱により微細セルロースの表面から分解が起き易いと解され、「ミクロフィブリル」の「表層の一部が加水分解されて」いる具体例もない。
エ 訂正前の本件発明9~10は、本件明細書の記載から、「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束において、内層が加水分解されていない」ことによって耐摩耗性及び耐久性に優れる樹脂コンポジットを提供するとの課題を解決できることは理解できないし、本件明細書には、上記「内層が加水分解されていない」ことの確認方法や、実施例において「内層が加水分解されていない」ことを確認したことが記載されていない。
取消理由3(新規性)
訂正前の請求項1、2、6~8、11及び12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、6~8、11及び12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
取消理由4(進歩性)
訂正前の請求項1、2、6~8、11及び12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、並びに、甲2、甲4及び甲5に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、6~8、11及び12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明1~12に係る特許は取り消すことはできない。
1 本件明細書に記載された事項
本件明細書には次の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、部分的に加水分解された構造を有する微細セルロースを含んでなる樹脂組成物に関し、特に、良好な摺動特性を有する成形体を与え得る樹脂組成物に関する。」
(2)「【0008】
汎用的に用いられる熱可塑性樹脂とセルロースは、表面自由エネルギーの違いから親和性に乏しい場合が多く、CNFと熱可塑性樹脂の界面密着性が低いため、その特性を十分に発揮できないことが多い。これに対して、セルロースの表面状態を改質するために化学修飾した変性セルロースナノファイバーを用いる方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-171698号公報
【0010】
しかし、水中に分散したセルロースナノファイバーを化学修飾するためには、溶媒置換処理が必要である。溶媒置換処理は、セルロースナノファイバー製造に要するコストのみならず、副生する廃棄物、及び消費エネルギーを増大させ、環境負荷が低いというセルロースの利点を小さくしてしまう。
【0011】
また、イオン化変性したセルロースナノファイバーに、水中で対イオン性の添加剤を吸着させて変性セルロースナノファイバーを得る方法も知られているが、イオン化変性したセルロースでは耐熱性が低下しているため、セルロースナノファイバーは、高温で樹脂と混練される過程で熱分解を起こして本来の補強効果を発揮できず、不安定な品質、装置トラブル等の原因となる場合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決し、樹脂との界面密着性が良好で、化学修飾プロセスによる環境負荷及び物性低下の問題が低減されたCNFフィラーを用いており、耐摩耗性及び耐久性に優れる樹脂コンポジットを与えることができる、樹脂組成物、及びその成形体である樹脂コンポジットを提供することを目的とする。」
(3)「【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂との界面密着性が良好で、化学修飾プロセスによる環境負荷及び物性低下の問題が低減されたCNFフィラーを用いており、耐摩耗性及び耐久性に優れる樹脂コンポジットを与えることができる、樹脂組成物、及びその成形体である樹脂コンポジットが提供され得る。」
(4)「【0021】
一般にセルロース繊維は、規則的に配列した結晶構造部分と不規則なアモルファス構造部分とを含んでいることが知られている。通常は約40本のセルロース分子が分子間水素結合によって幅4~5nm程度のミクロフィブリルを形成し、ミクロフィブリルが複数集まって幅が約15nm以上の束を形成している。この束がさらに集まって数十~数百nmの繊維径を有している状態まで解繊されたものからミクロフィブリル相当まで解繊されたものがセルロースナノファイバーと呼ばれる。セルロース繊維は、解繊されることで表面積が増加し、樹脂とコンポジット化された場合の界面が増加することになるので、機械物性の向上効果(補強効果)が増大する。しかしながら、解繊がさらに進んだミクロフィブリルに近い微細セルロース繊維では、樹脂とのコンポジット化工程の加熱で表面からの分解が起き易くなる。部分加水分解された微細セルロース(A)の平均繊維径としては、4nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく、50nm以上が特に好ましい。一方、部分加水分解された微細セルロース(A)の平均繊維径が大きすぎると、補強効果が低くなるほか、樹脂コンポジットの表面粗さが増して意匠性が悪くなる場合があるため、平均繊維径としては、3000nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましく、1500nm以下がさらに好ましく、1000nm以下が特に好ましい。なお平均繊維径は、本開示の[実施例]の項に記載される方法で測定される値である。
【0022】
セルロースの高弾性率や低線膨張係数といった特性は主として結晶構造部分に起因する。結晶構造部分のセルロース分子は互いに強固に水素結合しているため、加水分解され難いが、アモルファス部分は加水分解され易い。アモルファス部分のセルロース分子を酸加水分解によって切断し、重合度200~300前後まで微細化した結晶セルロースにおいては、長さ/太さのアスペクト比が最大でも数十程度であり、セルロースナノウィスカーやセルロースナノクリスタルと呼称されている。このサイズまで微細化されると、樹脂とコンポジット化した場合に樹脂中でセルロースナノクリスタル同士の相互作用によるネットワークが形成され難いため、補強効果も発現し難くなる。また、このようなセルロースナノクリスタルでは、アスペクト比が大きいセルロースナノファイバーと比べて耐熱性が低い傾向がある。繊維表面積及び/又はセルロース分子末端数が多くなることで熱分解の起点が増えていると考えられる。
【0023】
部分加水分解された微細セルロース(A)は、アモルファス部分の少なくとも一部が加水分解されるに留まり、低アスペクト比のセルロースナノクリスタルまでは分解されていないものである。部分加水分解された微細セルロース(A)の長さ/太さ(繊維長/繊維径)のアスペクト比は、好ましくは30以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。原料として用いる微細セルロース、又は樹脂組成物から樹脂を溶解除去して回収された微細セルロースを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで、上記好ましい範囲よりも低アスペクト比の微細セルロースの含有を確認できる。樹脂組成物中、このような低アスペクト比まで切断された微細セルロースは少ないことが好ましいが、本発明の樹脂組成物の所望の補強効果を発現できる範囲で存在しても構わない。なおアスペクト比は、本開示の[実施例]の項に記載される方法で測定される値である。
【0024】
微細セルロースの局所的な分子構造を直接観察することは難しいが、マクロスケールの分析結果から、本発明の部分加水分解された微細セルロースの構造は次のように考えられる。セルロースを、例えば、水の存在下、中性~弱い酸性条件で加熱すること等によって加水分解すると、アモルファス部分の少なくとも一部が加水分解される一方、結晶構造は実質的に維持された、部分加水分解されたセルロースを得ることができる。このような部分加水分解セルロースは、分子量分布を測定したときの低重合度のセルロースを多く含む一方、形態観察での低アスペクト比の微細セルロースはほとんど含まない。すなわち、部分加水分解されたセルロースでは、ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束において、内層では加水分解が実質的に起きておらず、また表層の加水分解も一部に留まっているため、セルロースが高アスペクト比の微細セルロースとして存在し得る。
【0025】
部分加水分解された微細セルロース(A)は、一般的にセルロースの分析に用いられる各種の方法で分析することができる。分子量分布の測定はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で行うことが好ましい。分子量分布は1つのピークを有するモノモーダルの場合、2つのピークを有するバイモーダルの場合、更に、まれに3つ以上のピークを有する場合があるが、ピークトップ分子量(すなわち、最大ピークの頂点の分子量)を基準として低分子量側と高分子量側に分ける。該ピークトップ分子量を、セルロースのモノマー構造である無水グルコースユニットの分子量162で除すると重合度に換算できる。このときピークトップ分子量に相当する重合度は300以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、450以上であることがさらに好ましく、500以上であることが特に好ましい。ピークトップ分子量が上記重合度以上である場合、部分加水分解の過剰な進行が抑えられており、セルロースナノクリスタルと同等の低アスペクト比の微細セルロースの含有量が少なく、耐熱性が良好である。分子量測定において、ピークトップ分子量以下の分子量を有する低分子量成分の量(累積面積強度)をS1、ピークトップ分子量を超える分子量を有する高分子量成分の量(累積面積強度)をS2として、S1/S2比の下限は1.00超が好ましく、1.05以上がより好ましく、1.10以上がさらに好ましく、1.15以上がよりさらに好ましく、1.20以上が特に好ましい。S1/S2がこれらの比以上のとき、部分加水分解された微細セルロース(A)によって樹脂コンポジットの良好な引張強度、摩擦係数、及び摩耗深さが得られる。S1/S2比の上限は3.00以下が好ましく、2.50以下がより好ましく、2.00以下がさらに好ましく、1.90以下がよりさらに好ましく、1.80以下が特に好ましい。S1/S2がこれらの比以下のとき、樹脂コンポジットを混練する際の加熱による熱分解及び性能劣化が抑えられる。
【0026】
部分加水分解された微細セルロース(A)が、通常の(すなわち部分加水分解されていない)微細セルロースよりも優れた効果を発現する理由は次のように推定される。セルロースのアモルファス部分が加水分解されることで、新たに還元末端(グルコースユニットの1位)と非還元末端(グルコースユニットの4位)が生じる。このうち、還元末端はヘミアセタール基とアルデヒド基との平衡状態にあるが、このアルデヒド基が熱可塑性樹脂の主鎖、及び/又は側鎖、及び/又は末端に存在する、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基などの官能基と反応すると、共有結合を形成できる。その結果、微細セルロースと熱可塑性樹脂との界面密着力が強められる。
【0027】
[ヘミセルロース(C)、及びリグニン(D)]
一態様において、樹脂組成物は、ヘミセルロース(C)及び/又はリグニン(D)(より典型的には、ヘミセルロース(C)及びリグニン(D)の両者)を更に含む。通常、植物由来の微細セルロースには、ミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間に、ヘミセルロースと総称される多糖類や、リグニンと総称される芳香族化合物が残存している。本発明においては、微細セルロースの製造工程でこれらの成分を完全に除去するのではなく、好適な範囲内の含有量で残存させることが好ましい。ヘミセルロースは、マンナンやキシランなどの糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。また、ヘミセルロースの溶解度パラメータ(SP値)はセルロースよりも疎水性側にあることから、ヘミセルロースは、熱可塑性樹脂と微細セルロースとのSP値差を緩和する効果を有すると考えられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物中のヘミセルロース(C)の量としては、部分加水分解された微細セルロース(A)に対する質量比(C)/(A)で、0.001以上が好ましく、0.005以上がより好ましく、0.01以上がさらに好ましく、0.02以上がよりさらに好ましく、0.03以上が特に好ましく、0.2以下が好ましく、0.18以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。ヘミセルロース(C)が前述の範囲で含まれる場合には、微細セルロースが部分加水分解された際の、低重合度となったセルロース分子の表層からの剥落が抑制されているため、樹脂コンポジットの引張強度、摩擦係数、及び摩耗深さが良好である。
【0029】
リグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。本発明の樹脂組成物中のリグニン(D)の量としては、ヘミセルロース(C)に対する質量比(D)/(C)で、0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましく、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。リグニンはヘミセルロースよりもさらに疎水性の化合物であり、熱可塑性樹脂と微細セルロースとのSP値差を更に良好に緩和する効果を有すると考えられる。ヘミセルロース及びリグニンの存在量は、上述の範囲を超えないことが、樹脂コンポジットにおいて耐熱性低下やそれに伴う変色を誘起するため好ましくない。
【0030】
ヘミセルロース(C)の量は、ヘミセルロースの含有率が高い天然木材原料に対して、精製処理を施すことで所望の量に減らして調整することもできるし、ヘミセルロースの含有率が低い原料を用いた場合は、別の原料から抽出処理して得られたヘミセルロースを添加することで所望の量に調整することができる。このときヘミセルロースの末端などの構造が、精製や抽出処理によって部分的に天然物と異なる形になっていても構わない。
また、リグニン(D)の量は、リグニンの含有率が高い天然木材原料に対して、精製処理を施すことで所望の量に減らして調整することもできるし、リグニンの含有率が低い原料を用いた場合は、別の原料から抽出処理して得られたリグニンを添加することで所望の量に調整することができる。このときリグニンの末端などの構造が、精製や抽出処理によって部分的に天然物と異なる形になっていても構わない。」
(5)「【0058】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、種々の製造方法で製造でき、予め重合された市販ポリマー(熱可塑性樹脂(B)として)を微細セルロースと混練してもよいし、微細セルロースの共存下で、熱可塑性樹脂(B)の原料モノマーを重合して樹脂組成物としてもよい。
【0059】
予め重合された熱可塑性樹脂を用いる場合、予め微細セルロースを部分加水分解してから混練する方法と、混練機中で部分加水分解を行いながら、連続的に熱可塑性樹脂と混練する方法とのいずれでも構わない。
【0060】
一態様において、本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、
微細セルロース及び/又は植物繊維を、水を含む状態かつ低酸素濃度雰囲気下で加熱することによって、部分加水分解された微細セルロース(A)を含む配合成分を得ること、及び
該配合成分と熱可塑性樹脂(B)とを組合せること、
を含む。本開示の「低酸素濃度雰囲気」とは、酸素濃度が、好ましくは18体積%以下、より好ましくは10体積%以下、さらに好ましくは5体積%以下、特に好ましくは1体積%以下である雰囲気である。一態様において、上記配合成分は、部分加水分解された微細セルロース(A)の原料由来の、又は別途添加された、ヘミセルロース(C)及び/又はリグニン(D)を更に含む。
【0061】
部分加水分解された微細セルロース(A)を予め得る方法としては、微細セルロース及び/又は微細セルロースの原料(例えば植物繊維)の水分散液そのもの、又は酸を加えて得たものであって、pHが1以上7以下の酸性にされた、微細セルロース分散液を、常温若しくは高温で処理して酸加水分解を進行させる方法がある。分散液を酸性にするために用いる酸は、有機酸でも無機酸でも構わないし、固体酸を用いてもよい。酸化能力を有する酸(例えば、硝酸やハロゲンオキソ酸)を用いる場合は、微細セルロースを酸化して耐熱性や補強効果を低下させることがあるので、添加量は少ない方が好ましい。アモルファス部分を良好に加水分解しつつ結晶構造部分の加水分解を低程度に抑えることができる点で、酸化能力が無いか、比較的弱い酸(希塩酸、希硫酸、リン酸、亜リン酸、炭酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、フェノールなどの有機酸、イオン交換体(ナフィオン(登録商標)、アンバーライト(登録商標)など)、Y型ゼオライト、β型ゼオライト、メソポーラスシリカ、スルホン化カーボンなどの固体酸)を用い、加熱下で酸加水分解を行うことが好ましい。」
(6)「【0066】
部分加水分解、及び樹脂組成物の製造は、それぞれ、窒素、アルゴン等の不活性気体での置換、又は減圧によって、低酸素濃度雰囲気とした系中で行うことが好ましい。低酸素濃度雰囲気下で部分加水分解、及び/又は樹脂組成物の製造を行うことで、微細セルロースの熱分解、及び部分加水分解によって新たに生じた還元末端の酸化が起きにくくなり、樹脂組成物の着色や補強効果の低減が抑制され、品質のばらつきが少ない樹脂組成物を提供することができる。」
(7)「【0071】
(1)微細セルロースの平均繊維径
微細セルロースの分散液、又は樹脂組成物から樹脂を溶解除去して得た微細セルロースの再分散液を、濃度0.01質量%に希釈してシリコンウェハー上に滴下、乾燥させてから、無作為に選んだ10箇所について、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を微細セルロースの繊維径に応じて10000~100000倍相当の倍率で行った。得られたSEM画像において、互いに直角をなす縦横2方向のラインを引き、当該ラインに交差する繊維の繊維径を拡大画像から実測し、当該ラインに交差する繊維の個数と各繊維の繊維径とを数えた。こうして得られた、一つの画像につき縦横2系列の測定結果を用いて、数平均繊維径を算出した。さらに抽出した別の9箇所のSEM画像についても同様に数平均繊維径を算出した。10箇所の画像の結果を数平均し、対象とする試料の平均繊維径とした。
【0072】
(2)微細セルロースのアスペクト比判定
上記(1)と同様に、無作為に選んだ10箇所のSEM観察を行った。得られたSEM画像において、互いに直角をなす縦横2方向のラインを引き、当該ラインに交差する繊維の繊維長及び繊維径を拡大画像から実測し、当該ラインに交差する繊維の個数と各繊維の繊維径とを数えた。得られた繊維長及び繊維径からアスペクト比を求め、低アスペクト比の微細セルロースが含まれているか否かを判定した。アスペクト比が高い場合、微細セルロースが屈曲していたり、画像内に全体が収まらないなどして正確なアスペクト比を求められないことがある。しかし、本発明の樹脂組成物においては高アスペクト比であれば効果を発現するため、低アスペクト比の微細セルロースを観察できればよい。アスペクト比を、下記基準で判定した。
◎:10箇所の観察エリアの全てにおいて、アスペクト比30以下の微細セルロースが含まれない。
〇:10箇所の観察エリアのいずれかにおいて、アスペクト比30以下の微細セルロースが含まれる。
△:10箇所の観察エリアの全てにおいて、アスペクト比30以下の微細セルロースが含まれる。
【0073】
(3)微細セルロースの分子量分布測定
微細セルロースの分子量分布測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で行った。微細セルロースの分散液、又は樹脂組成物から樹脂を溶解除去して得た微細セルロースの再分散液から分散媒を除去し、セルロース残渣をLiCl含有ジメチルアセトアミド溶離液に溶解させ、PTFEカートリッジフィルターでろ過して試料溶液を作製した。
HLC-8120GPC(東ソー製)に、TSKgel guardcolumn Super AW-H(4.6mmI.D.×3.5cm)+Tskgel Super AWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本(いずれも東ソー製)を接続し、RI検出器でピークを検出した。検量線は標準プルラン(Shodex製)を用いた1次近似直線を使用して、プルラン換算値の分子量を求めた。なお、該分子量をセルロースのモノマー単位である無水グルコースユニット分子量(162)で除することで重合度に換算することもできる。
【0074】
得られたGPCチャート(横軸:分子量、縦軸:分布値)のピークトップ分子量を基準として低分子量側と高分子量側に分け、それぞれの積分値(面積)を低分子量側はS1、高分子量側はS2として、低分子量体(すなわち低重合度セルロース)と高分子量体(すなわち高重合度セルロース)との量比を、S1/S2比にて表した。」
(8)「【0085】
[製造例1](微細セルロース原料1の調製)
コットンリンターパルプを裁断後、水で洗浄して不純物を除去した精製パルプを、固形分率が1.5質量%になるように純水中に加え、叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で2.5時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに2時間叩解を実施し、微細セルロース原料1の分散液を得た。
【0086】
[製造例2](微細セルロース原料2の調製)
コットンリンターパルプを裁断後、水で洗浄して不純物を除去した精製パルプを、さらに5%水酸化カリウム水溶液に1晩浸漬してヘミセルロースを除去した精製パルプを原料に用いたほかは、製造例1と同様に叩解と高圧ホモジナイザーによる微細化処理を実施し、微細セルロース原料2の分散液を得た。
[製造例3](微細セルロース原料3の調製)
アバカパルプを原料に用いたほかは、製造例1と同様に叩解と高圧ホモジナイザーによる微細化処理を実施し、微細セルロース原料3の分散液を得た。
【0087】
[製造例4](微細セルロース原料4の調製)
レンチング・ファイバーズ社より供給されたテンセル(登録商標)カット糸(3mm長)の油剤を水中、界面活性剤添加系での数回の洗浄により十分に落とした短繊維原糸を原料に用いたほかは、製造例1と同様に叩解と高圧ホモジナイザーによる微細化処理を実施し、微細セルロース原料4の分散液を得た。
【0088】
[製造例5](微細セルロース原料5の調製)
市販DPパルプ(平均重合度1600)を裁断し、10質量%塩酸水溶液中で、105℃で5分間加水分解した後、濾過、洗浄した中間体を原料に用いたほかは、製造例1と同様に叩解と高圧ホモジナイザーによる微細化処理を実施し、微細セルロース原料5の分散液を得た。
【0089】
[製造例6](微細セルロース原料6の調製)
特表平11-513425号の実施例1に記載の方法に従って、細かく刻んだホヤの鞘を水酸化ナトリウムと亜塩素酸ナトリウム溶液で漂白し、ミキサーで撹拌して1質量%の懸濁液を得た。この懸濁液を高圧ホモジナイザー(APV GAULIN社製15MR-8TA)を用いて、45MPaの圧力で15回処理を実施し、微細セルロース原料6の分散液を得た。
【0090】
[製造例7](微細セルロース原料7の調製)
コットンリンターパルプを裁断後、水で洗浄して不純物を除去した精製パルプを、固形分率が1.5質量%になるように純水中に加え、叩解処理により短繊維化及びフィブリル化させて、高圧ホモジナイザー処理を行わずに、微細セルロース原料7の分散液を得た。
【0091】
[実施例1~12、比較例1~5]
(実施例1)
微細セルロース原料1の水分散液173質量部と、熱可塑性樹脂モノマー(ε-カプロラクタム)216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、密閉した反応容器内に窒素を流して空気を置換した。この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら微細セルロースの部分加水分解を行い、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。
重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で精錬し、乾燥させた。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った結果を表1に示す。
【0092】
(実施例2)
微細セルロース原料1の水分散液520質量部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0093】
(実施例3)
微細セルロース原料1の水分散液867質量部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0094】
(実施例4)
微細セルロース原料1の水分散液1733質量部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0095】
(実施例5)
微細セルロース原料1の水分散液2600質量部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0096】
(実施例6)
微細セルロース原料1の水分散液3467質量部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0097】
(実施例7)
微細セルロース原料2の水分散液867質量部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0098】
(実施例8)
微細セルロース原料3の水分散液520質量部を、240℃、5MPaの条件で1分間処理してから用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0099】
(実施例9)
微細セルロース原料3の水分散液867質量部を、240℃、5MPaの条件で1分間処理してから用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0100】
(実施例10)
微細セルロース原料4の水分散液867質量部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0101】
(実施例11)
亜リン酸を添加しなかった他は、実施例4と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0102】
(実施例12)
微細セルロース原料1の水分散液200質量部と、酢酸5質量部とを、オートクレーブに投入し、密閉した反応容器内に窒素を流して空気を置換した。この混合分散液を120℃、3時間加熱した後、室温まで冷却してから遠心脱液、洗浄して、固形分濃度5質量%の含水ケーキを得た。この工程を繰り返し行い、固形分濃度5質量%の含水ケーキを300質量部得た。
シリンダーブロック数が13個ある二軸押出機(STEER社製 OMEGA30H、L/D=60)のシリンダー6に圧力コントロール型の液体注入ノズルを設置し、シリンダー1を水冷、シリンダー2を80℃、シリンダー3を150℃、シリンダー4~13及びダイスを250℃に設定した。シリンダー1より熱可塑性樹脂PA610を11.4kg/時間の流量で供給し、シリンダー6の液体注入ノズルより、前記固形分濃度5質量%の含水ケーキをポンプで200cc/分の流量で押出機に液添した。シリンダー12で大気圧開放して押出し、微細セルロース含有樹脂組成物ペレットを得た。得られたペレットを95℃の熱水で精錬し、乾燥させた。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った結果を表1に示す。
【0103】
(実施例13)
熱可塑性樹脂(PA12)を用いた他は、実施例12と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0104】
(比較例1)
微細セルロース原料1の水分散液を遠心脱液して、固形分濃度5質量%の含水ケーキを得た後、密閉式プラネタリーミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM-5LVT」、撹拌羽根はフック型)中、70rpmで撹拌し、-0.1MPaの減圧条件で、40℃の温浴をセットし、307rpmで5時間、減圧乾燥処理を行い、微細セルロース原料1の乾燥粉体を得た。該乾燥粉体と熱可塑性樹脂(PA6)とを5:95の割合で混合し、溶融混練しストランド状に押出しして樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0105】
(比較例2)
微細セルロース原料1の乾燥粉体と平均分子量が低い熱可塑性樹脂(PA6)とを10:90(質量比)の割合で混合して用いた他は、比較例1と同様に樹脂組成物を製造し、成形と評価を行った。
【0106】
(比較例3~5)
市販の熱可塑性樹脂(PA6:比較例3)、(PA610:比較例4)、(PA12:比較例5)をそれぞれ単独で用いて、シリンダ温度250℃、金型温度70℃で射出成形し、評価を行った。
各成分及び成形体の性状を表1に示す。
【0107】
【表1】
[図:0001397175000001.jpg]
」
2 取消理由通知の取消理由について
(1)取消理由1(明確性)
本件発明1の「部分加水分解された微細セルロース(A)」に関して、本件訂正により、本件発明1の「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束の表層の一部のセルロースが加水分解されており」は、「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されており」に訂正された。
ア 特許法第36条第6項第2号(明確性)の判断手法
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関して、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、これを防止することにあるものと解される。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件明細書及び図面とを考慮し、本件出願時の技術常識にも照らして、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものである。以下、この観点に立って判断する。
イ 取消理由1ア及び申立理由1ア~エについて
申立理由1ア~エは、取消理由1アと同旨であるから、併せて検討する。
(ア)本件発明1について
a 「部分加水分解された微細セルロース(A)」の中央部近傍の領域の構造について
(a)本件明細書には、セルロース繊維に関し、「ミクロフィブリル束」は、ミクロフィブリルが複数集まって幅が約15nm以上の束となったものであること(【0021】)、ヘミセルロースは、セルロースと水素結合してミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしていること(【0027】)という技術事項が記載され、また、セルロースの加水分解に関し、セルロース繊維の結晶構造部分は加水分解され難く、アモルファス構造部分は加水分解され易いものであること、及び、アモルファス構造部分を酸加水分解によって切断し、重合度200~300前後まで微細化したセルロースナノクリスタルは、そのアスペクト比が最大でも数十程度であること(【0022】)という技術事項が記載されている。
(b)また、本件明細書には、本件発明1の「部分加水分解された微細セルロース(A)」に関し、セルロースを、水の存在下、中性~弱い酸性条件で加熱することによって加水分解すると、アモルファス部分の少なくとも一部が加水分解される一方、結晶構造は実質的に維持された、部分加水分解されたセルロースを得ることができること、及び、部分加水分解されたセルロースでは、ミクロフィブリル束の内層では加水分解が実質的に起きておらず、また表層の加水分解も一部に留まっているため、セルロースが高アスペクト比の微細セルロースとして存在し得ることが記載されている(【0024】)
(c)そして、特許権者は、令和4年8月5日提出の意見書において、「微細セルロースが、加水分解されつつ高アスペクト比を維持している状態とは、微細セルロースが、切断されていないミクロフィブリルを保持している状態である。」(13頁1~3行)と述べており、この説明は、酸加水分解により切断されて微細化したセルロースナノクリスタルは最大でも数十程度の低アスペクト比であるが(上記(a))、「部分加水分解された微細セルロース(A)」は、アモルファス部分の少なくとも一部が加水分解されるにとどまり、低アスペクト比のセルロースナノクリスタルまでは分解されていないものである(上記(b))という明細書の記載に基づく合理的な説明であると解される。
(d)また、特許権者は、同意見書において、「加水分解性成分がミクロフィブリル束の外部から供給されてミクロフィブリル束内部に拡散していく場合、加水分解の程度は、ミクロフィブリル束全体の非晶領域で一様にはならず、ミクロフィブリル束の表面から内部に向かって低くなる。」(13頁9~12行。9頁21行~10頁12行も参照。)と述べ、加水分解性成分がミクロフィブリル束の外部から供給される場合に、加水分解の程度はミクロフィブリル束の内部ほど低くなることを説明しており、これは合理的な説明であると解される。
(e)更に、特許権者は、同意見書において、「微細セルロースが、外部からの加水分解性成分供給によって加水分解された領域を有するにも関わらず切断されていないミクロフィブリルを保持している(すなわち高アスペクト比を維持している)のであれば、切断されていないミクロフィブリルの存在位置は、ミクロフィブリル束のうち最も加水分解され難い部位、すなわちミクロフィブリル束の中央部近傍を含む位置であろうというのが当業者の合理的な理解である」(13頁12行~17行)と述べ、高アスペクト比のミクロフィブリル束は、加水分解により切断されていないミクロフィブリルを、その中央部近傍の領域(以下「内層」という。)に保持していることを説明している。この説明は、ミクロフィブリル束はミクロフィルブリルが複数集まってミクロフィブリル間をヘミセルロースで結びつけたものであること(上記(a))、及び、加水分解の程度はミクロフィルブル束の内部ほど低くなること(上記(d))という上記技術事項に基づいた合理的な説明であると解される。
(f)そうすると、本件明細書の記載及び特許権者の合理的な説明から、本件発明1の「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されており」との特定事項は、ミクロフィブリル束の表面を含む表層では一部のセルロースが加水分解されており、その「内層」では外部から供給される加水分解性成分によっても切断されていないミクロフィブリルを含み、上記「内層」を保持することにより、ミクロフィブリル束は高アスペクト比の微細セルロースとして存在し得ることを一応理解することができる。
(g)そして、本件明細書の実施例1~13には、製造例1~4で得られた微細セルロース原料1~4を加水分解した微細セルロースを含む樹脂組成物について、当該樹脂組成物中の微細セルロースのSEM観察を行い、アスペクト比が30以下の微細セルロースを含まなかったことが示されており、これにより、上記樹脂組成物は、本件発明1の「ミクロフィブリル束」の内層が加水分解されていない、高アスペクト比の微細セルロースを含むことを、間接的ではあるが、確認できるものと解される。
(h)これらのことから、本件発明1において、上記「内層」が加水分解されていないミクロフィブリル束により構成された領域であることは明確であり、本件明細書の実施例1~13において「部分加水分解された微細セルロース」の上記「内層」を確認することができるといえる。
したがって、申立理由1イ(「内側の加水分解されていない部分」に関するもの)は理由がない。
b 「部分加水分解された微細セルロース」における「ミクロフィブリル束の表面を含む表層」について
(a)上述のとおり、ミクロフィブリル束はミクロフィブリルが複数集まって幅が約15nm以上の束を形成したものであり(上記a(a))、上記「内層」が、ミクロフィブリル束の中央部近傍の加水分解で切断されていないミクロフィブリルを含む領域であることから(上記a(e))、「表面を含む表層」は、ミクロフィブリル束における上記「内層」以外の領域であることは明らかである。
また、ミクロフィブリル束はヘミセルロースでセルロース間を結びつけたものであり(上記a(a))、「表面を含む表層」は、本件明細書の【0028】に記載されるとおり、ミクロフィブリル束の外部から供給された加水分解性成分により加水分解されて低重合度となったセルロース分子が、ヘミセルロースにより隣接するセルロースと結びつき、剥落が抑制されている状態であると解される。
(b)「表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」いることは、加水分解の程度はミクロフィブリル束の内部ほど低くなること(上記a(d))に基づけば、加水分解が進行している表面付近の領域では低分子量成分が生成している一方で、中央部近傍では加水分解が進行していない領域がなお存在している状態であると解するのが自然であり、このような状態は、「ピークトップ分子量」が大きいこと、及び、「S1/S2」が所定範囲であることにより、間接的ではあるが、確認することができると解される。そして、本件明細書には、ピークトップ分子量に相当する重合度は450以上であることが好ましいこと、及び、S1/S2比は1.00超3.00以下が好ましいことが記載され(【0025】)、実施例1~13は上記ピークトップ分子量及びS1/S2比の範囲を満たすから、本件発明1の具体例であるといえる。
(c)これらのことから、本件発明1の「表面を含む表層」は、上記「内層」以外の領域であることは明確であり、本件明細書の実施例1~13において「部分加水分解された微細セルロース」の「表面を含む表層」を確認することができるから、本件発明1の「表面を含む表層」が、本件出願時の技術常識にも照らして、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
したがって、本件発明1に対する取消理由1ア、申立理由1ア、申立理由1イ(「表層」に関するもの)、及び申立理由1エは理由がない。
(イ)本件発明2~12について
本件発明1と同様に、本件発明2、11及び12、並びに、本件発明1及び2を直接又は間接的に引用する本件発明3~10についても、「表面を含む表層」及び「内層」が、本件出願時の技術常識にも照らして、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
したがって、本件発明2~12に対する取消理由1ア、申立理由1ア、申立理由1イ及び申立理由1エ、並びに、請求項9及び10に対する申立理由1ウは理由がない。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、取消理由1ア、申立理由1ア~1エは理由がない。
ウ 取消理由1イについて
特許権者は、令和4年8月5日提出の意見書において、「S1/S2及び平均繊維径は、樹脂組成物中の部分加水分解された微細セルロース(A)に係る特徴であることから、本件明細書段落0071~0074における「樹脂組成物から樹脂を溶解除去して得た微細セルロース」なる記載に依拠して評価される数値であることは、本件明細書全体を参照した当業者であれば十分明確に理解できる」と説明し(18頁13~19行)、これは本件明細書の記載を基にした合理的な説明であるといえる。そうすると、本件発明4及び5の「S1/S2」の測定・算出方法、本件発明6の「平均繊維径」の測定方法は明確であるといえる。
したがって、取消理由1イは理由がない。
エ 申立人の主張について
申立人は、令和4年9月12日提出の意見書において、特許権者が、令和4年8月5日提出の意見書の中で、比較例1の微細セルロース原料を「微細セルロース原料5」と誤った上で、比較例1では「内層」に相当する部位が存在しないと述べたことを指摘しているが、比較例1の微細セルロース原料が「微細セルロース原料1」であることは、本件明細書の【0104】の記載から明らかであるし、本件明細書の実施例及び比較例には「微細セルロース原料5」を用いた樹脂組成物はないから、特許権者が比較例1の微細セルロース原料を誤ったことを根拠に、本件発明が明確でないとはいえない。
オ まとめ
したがって、本件発明1、2、11及び12、並びに本件発明1及び2を直接又は間接的に引用する本件発明3~10は明確であり、本件発明1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであり、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
(2)取消理由2(サポート要件)
ア 特許法第36条第6項第1号の判断について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そこで、この点について、以下に検討する。
イ 本件発明の課題
本件明細書には、樹脂の新たな強化材料として環境負荷の低いセルロースが用いられるようになってきているが、汎用的に用いられる熱可塑性樹脂とセルロースは親和性に乏しい場合が多く、セルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂の界面密着性が低いため、セルロースの表面状態を改質するために化学修飾した変性セルロースナノファイバーを用いる方法が知られているものの、溶媒置換処理は副生する廃棄物及び消費エネルギーを増大させ、イオン化変性したセルロースナノファイバーは耐熱性が低下して、本来の補強効果を発揮できないことが記載されている(【0004】、【0008】、【0010】及び【0011】)。
そして、このような従来技術を背景にした、本件明細書の【0012】の記載から、本件発明の課題は、「樹脂との界面密着性が良好で、化学修飾プロセスによる環境負荷及び物性低下の問題が低減されたCNFフィラーを用いており、耐摩耗性及び耐久性に優れる樹脂コンポジットを与えることができる、樹脂組成物、及びその成形体である樹脂コンポジットを提供すること」(【0012】)であると解される。
ウ 取消理由2ア及び申立理由2アについて
申立理由2アは、取消理由2アと同旨であるから、併せて検討する。
(ア)本件発明1の「部分加水分解された微細セルロース(A)」は、本件訂正により、訂正前の「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束の表層の一部のセルロースが加水分解されており」から、訂正後の「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されており」に訂正された。これにより、上記(1)イ(ア)a(f)で述べたとおり、「部分加水分解された微細セルロース(A)」は、「表面を含む表層」の内側であって、ミクロフィブリル束の中央部付近に、加水分解されていないミクロフィブリルで構成された領域(内層)を有することが実質的に特定されたものとなった。このようなセルロースは高アスペクト比の微細セルロースとして存在し得るものである(【0024】)。そして、上記「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されており」を満たすことは、上記(1)イ(ア)a(g)及び(1)イ(ア)b(b)で述べたとおり、樹脂組成物中の微細セルロースのSEM観察を行い、アスペクト比が30以下の微細セルロースを含まないことや、ピークトップ分子量及びS1/S2比が所定範囲であることにより、具体的に確認することができるといえる。
また、発明の詳細な説明には、「本発明の樹脂組成物中のヘミセルロース(C)の量としては、部分加水分解された微細セルロース(A)に対する質量比(C)/(A)で、0.001以上が好ましく…(当審注:中略)0.2以下が好ましく、(中略)前述の範囲で含まれる場合には、微細セルロースが部分加水分解された際の、低重合度となったセルロース分子の表層からの剥落が抑制されているため、樹脂コンポジットの引張強度、摩擦係数及び摩耗深さが良好である」(【0028】)と記載され、上記質量比とすることにより、耐摩耗性及び耐久性が良好となるという作用機序を理解できる。そして、実施例1~13は、上記質量比を満たし、引張強度、摩擦係数及び耐摩耗性及び摩耗深さが良好であるから、耐摩耗性及び耐久性の上記課題を解決できるものである。
(エ)このように、発明の詳細な説明には、本件発明1に係る樹脂組成物の製造方法は、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているものと解される。
本件発明2は、本件発明1と同じく「前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみセルロースが加水分解されており」を特定事項とするものである。
また、本件発明11及び12は、「前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束が加水分解処理されることでミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のセルロースが加水分解されており且つ内層が加水分解されておらず」を特定事項とするものであり、これは本件発明1及び2の「前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみセルロースが加水分解されており」との特定事項と同様の技術的意味を持つものと解される。
そうすると、本件発明2、11及び12、並びに、本件発明1及び2を直接又は間接的に引用する本件発明3~10についても、発明の詳細な説明は、本件発明2~10に係る製造方法、並びに、本件発明11及び12に係る樹脂組成物が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているものと解される。
(オ)小括
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1~12について上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているから、取消理由2ア及び申立理由2アは理由がない。
エ 取消理由2イ及び申立理由2イについて
申立理由2イは取消理由2イと同旨であるから、併せて検討する。
第2で述べたとおり、本件訂正によって、本件発明1の「熱可塑性樹脂(B)」は「ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)」に訂正され、ポリアミド以外の任意の熱可塑性樹脂ではなくなったから、取消理由2イ及び申立理由2イはその根拠がなくなった。
したがって、取消理由2イ及び申立理由2イは理由がない。
オ 取消理由2ウについて
本件訂正により、本件発明1及び9「ミクロフィブリル又はミクロフィブリル束」は、「ミクロフィブリル束」に減縮されたから、取消理由2ウはその根拠がなくなった。
したがって、取消理由2ウは理由がない。
カ 取消理由2エについて
上記ウで述べたように、発明の詳細な説明には、本件訂正により訂正された本件発明1が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていると判断した。そして、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明9及び10も同様に、耐摩耗性及び耐久性に優れる樹脂コンポジットを提供するという課題を解決できるものと解される。
また、上記(1)イ(ア)a(b)で述べたように、上記「部分加水分解された微細セルロース(A)」において「内層が加水分解されていない」ことが確認できるものと解される。
そうすると、取消理由2エは理由がない。
キ まとめ
したがって、本件発明1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、取消理由2及び申立理由2によっては取り消すことができない。
(3)取消理由3(新規性)及び取消理由4(進歩性)
申立理由4(新規性)及び申立理由5(進歩性)は、取消理由3(新規性)及び取消理由4(進歩性)と同旨であるから、併せて検討する。
ア 甲号証に記載された事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、次の記載がある。
「[0001] 本発明は、機械的特性、耐熱性が向上したポリアミド樹脂組成物及び該樹脂組成物の製造法に関するものである。」
「発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明は、上記の問題点を解決するものであり、ポリアミド樹脂中にセルロース繊維が凝集することなく均一に分散され、機械的特性や耐熱性が向上したポリアミド樹脂組成物及び該樹脂組成物の製造法を提供することを目的とするものである。」
「[0042] 次に、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造法について説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造法は、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維の水分散液とを混合し、重合反応を行うものである。そして、本発明の製造法におけるセルロース繊維の水分散液は、このような平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を水に分散させたものであり、水分散液中のセルロース繊維の含有量は0.01~50質量%とすることが好ましい。このような水分散液は、精製水とセルロース繊維とをミキサー等で攪拌することにより得ることができる。
[0043] そして、セルロース繊維の水分散液と、ポリアミド樹脂を構成するモノマーとを混合し、ミキサー等で攪拌することにより均一な分散液とする。その後、分散液を加熱し、150~270℃まで昇温させて攪拌することにより重合反応させる。このとき、分散液を加熱する際に徐々に水蒸気を排出することにより、セルロース繊維の水分散液中の水分を排出することができる。なお、上記ポリアミド重合時においては、必要に応じてリン酸や亜リン酸などの触媒を添加してもよい。そして、重合反応終了後は、得られた樹脂組成物を払い出した後、切断してペレットとすることが好ましい。
[0044] また、セルロース繊維としてバクテリアセルロースを用いる場合においては、セルロース繊維の水分散液として、バクテリアセルロースを精製水に浸して溶媒置換したものを使用してもよい。バクテリアセルロースの溶媒置換したものを用いる際には、溶媒置換後、所定の濃度に調整した後、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと混合し、上記と同様に重合反応を進行させることが好ましい。
[0045] このように、本発明の製造法では、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を用い、かつセルロース繊維を水分散液のまま重合反応に供することで、分散性が良好な状態で重合反応に供されることとなる。さらに、重合反応に供されたセルロース繊維は、重合反応中のモノマーや水との相互作用により、また上記のような温度条件で攪拌することにより、分散性が向上し、繊維同士が凝集することがなく、平均繊維径が小さいセルロース繊維が良好に分散した樹脂組成物を得ることが可能となる。このように、本発明の製造法によれば、セルロース繊維の分散性が向上するため、重合反応前に添加したセルロース繊維の平均繊維径よりも、重合反応終了後に樹脂組成物中に含有されているセルロース繊維のほうが、平均繊維径や繊維長が小さいものとなることもある。」
「[0052]実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調整した。
このセルロース繊維の水分散液170質量部と、ε-カプロラクタム216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部とを、均一な溶液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合溶液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、シリンダ温度260℃、金型温度80℃とした。」
「[表1]
[図:0001397175000002.jpg]
」
そして、表1には、実施例1におけるポリアミド樹脂がナイロン6であり、セルロース繊維の平均繊維径が55nmであり、ポリアミド樹脂100質量部に対するセルロース繊維の含有量が2.0質量部であることが記載されている。
そうすると、甲1には、実施例1に着目して、以下の発明が記載されている。
「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調整し、当該セルロース繊維の水分散液170質量部と、ε-カプロラクタム216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部とを、均一な溶液となるまでミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合溶液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行う、ポリアミド樹脂組成物の製造方法であって、上記ポリアミド樹脂組成物が、ナイロン6であるポリアミド樹脂100質量部に対し、平均繊維径55nmのセルロース繊維を2.0質量部の量で含有したものである、上記製造方法。」(以下、「甲1発明1」という。)
「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調整し、当該セルロース繊維の水分散液170質量部と、ε-カプロラクタム216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部とを、均一な溶液となるまでミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合溶液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行って得られ、ナイロン6であるポリアミド樹脂100質量部に対し、平均繊維径55nmのセルロース繊維を2.0質量部の量で含有する、ポリアミド樹脂組成物。」(以下、「甲1発明2」という。)
(イ)甲2に記載された事項
甲2には、次の記載がある。
「
[図:0001397175000003.jpg]
」(第2頁)
(ウ)甲3に記載された事項
甲3は、次の記載がある。
「
[図:0001397175000004.jpg]
」(90頁右欄)
(エ)甲4に記載された事項
甲4には、次の記載がある。
「
[図:0001397175000005.jpg]
」(3頁)
(オ)甲5に記載された事項
甲5には、次の記載がある。
「
[図:0001397175000006.jpg]
」(3頁)
(カ)甲6に記載された事項
甲6には、次の記載がある。
「【請求項8】
原料セルロース繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、前記分散液中の原料セルロース繊維をミクロフィブリル化するミクロフィブリル化工程、ミクロフィブリル化した原料セルロース繊維を酸で加水分解する加水分解工程を含む請求項1~4のいずれかに記載のセルロース繊維の製造方法。」
「【0015】
そこで、本発明者らは、加水分解処理と機械的処理との順序を変えて、機械的処理の後に、加水分解処理を行ったところ、思いがけないことに、ナノメータサイズで繊維状であるにも拘わらず、適度なアスペクト比を有する新規な微細セルロース繊維が得られ、この微細セルロース繊維が、水などに対する分散性が高く、水分散液の粘度が低いことを見出し、本発明を完成した。」
(キ)甲7に記載された事項
甲7には、次の記載がある。
「【0038】
本願発明は、上記従来の課題を解決のための研究過程において、セルロース原料の懸濁液をスターラーで撹拌しながら、セルラーゼの成分の一つであるエンドグルカナーゼで処理することが有効であることの知見に端を発するものである。
【0039】
すなわち、スターラーで撹拌することによってCMFの凝集体もしくはCMFそのものの一部に物理的破壊処理による物理的な緩みを生ぜしめ、酵素のセルロース原料への浸透がよくなると同時に、緩みに生じた非晶部分にエンドグルカナーゼを作用させることによってCMFをフィブリル化し、セルロースナノファイバーが生成する。
【0040】
そこで、本願発明の要旨は、セルロースを該CMFに物理的に緩み(酵素作用促進処理)が生じ得て酵素浸透性が確保される条件下でエンドグルカナーゼ処理することにある。 」
(ク)甲8に記載された事項
甲8には、次の記載がある。
「
[図:0001397175000007.jpg]
」(35頁左欄7~下4行)
(ケ)甲9に記載された事項
甲9には、次の記載がある。
「【0014】
本発明により製造されるポリアミド樹脂には、(A)ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミン、(B)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、およびこれらの誘導体以外の単量体成分を共重合することができる。
【0015】
(A)、(B)成分以外の共重合成分としては(当審注:中略)6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム等が挙げられる。」
「【0020】
本発明のポリアミド樹脂を製造する際には、重縮合反応の最終段階で、ポリアミド樹脂の融点以上に加熱してもよく、ポリアミド樹脂の重合をより向上させることができる。かかる加熱処理は、不活性ガス雰囲気下または減圧下で高重合度化を行うことができる。融点以上の温度で長時間加熱することによる着色を防止する観点からは、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行う方がより好ましい。また、融点以下の温度で低重合度体を取り出した後、さらに100℃以上融点未満の温度で、減圧下、あるいは不活性ガス中で固相重合する方法も用いることができる。」
「【0079】
実施例1、3
ペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の等モル塩(5T)、2-メチルペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の等モル塩(M5T)、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の等モル塩(6T)を表1に示した重量比になるように配合した。この塩混合物を10g、イオン交換水を10g、さらに塩中の脂肪族ジアミンのモル数a、ジカルボン酸のモル数bに対して、a/bが表1に示した値となるように特定量の脂肪族ジアミンを試験管に仕込んだ。これを圧力容器に入れて、密閉し、窒素置換した。加熱を開始し、缶内温度160℃、缶内圧力3.0kg/cm2(0.3MPa)に到達した後、水を留出させながら缶内圧力を3.0kg/cm2(0.3MPa)で1時間保持した(缶内温度200℃の時点で、原料中の水83%が留出し、最終的に缶内温度は260℃に上昇した)。その後、15分かけて缶内圧力を常圧に戻し(缶内温度は285℃に上昇した)、窒素雰囲気下で、2時間保持した(缶内温度は325℃に到達した)。加熱を停止し、室温に冷却後、試験管を圧力容器から取り出し、ポリアミド樹脂を得た。」
(コ)甲10に記載された事項
甲10には、次の記載がある。
「【0021】
ポリアミド前駆体の製造においては、原料の加熱溶解を密閉下200℃以下の温度で行うことが好ましい。ここで、密閉下とは水蒸気などのガスの系外との出入りがない系をいう。例えば、ポリアミド前駆体を連続的に製造する場合、水蒸気などのガスの系外への留出や流入が防止されていればよく、原料の系内への供給や得られたポリアミド前駆体の系外への取出が可能であってもよい。原料の加熱溶解を密閉下で行うことにより、水の系外への流出を抑制し、加熱溶解中の重合反応を抑制することができ、それによってポリアミド前駆体の供給安定性を高めることができる。また、加熱温度が200℃を超えると、得られるポリアミド前駆体の平均重合度が高くなり、ポリアミド前駆体の供給安定性を低下させる場合がある。加熱温度は190℃以下がより好ましい。例えば、密閉条件下で加熱溶解時の加熱温度を180℃とした場合、得られるポリアミド前駆体の平均重合度は通常1未満となる。平均重合度が1未満の範囲では、ポリアミド前駆体を長時間安定して連続供給することができる。ここで、平均重合度とは1分子中のジカルボン酸とジアミンの結合の数の平均値をいう。
【0022】
前記原料の加熱溶解時の圧力は、原料の重合抑制を防止するため、常圧以上とすることが好ましい。加熱溶解時の圧力は、その時の溶解槽内の圧力を指し、密閉系においては、水を含む前記原料が示す溶解平衡時の水蒸気圧で定まる。したがって、この圧力は、例えば、ポリアミド前駆体の原料に含まれる水の量および加熱温度によって適宜調整することができる。また、必要に応じて、さらに窒素などの不活性ガスによる加圧を行ってもよい。
【0023】
・・・
【0024】
また、前記原料を加熱溶解する際には、酸素による着色および劣化を防止する目的で、加熱開始前に原料タンクまたは加熱装置などから酸素を除去することが好ましい。酸素を除去する方法は、特に制限はなく、バッチ式で真空にして窒素などの不活性ガスで置換する方法や、窒素などの不活性ガスをブローする方法など、公知の方法で酸素を除去すればよい。」
(サ)甲11に記載された事項
甲11には、次の記載がある。
「
[図:0001397175000008.jpg]
」(202頁左欄8~32行)
「
[図:0001397175000009.jpg]
」(204頁)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「平均繊維径が55nmであるセルロース繊維」は、セルロース繊維の水分散液である「セリッシュKY100G」とモノマー等の混合溶液を加熱しながら重合反応をして得られたものであり、甲2の記載によれば、上記「セリッシュ」はミクロフィブリル化されたものである。一方、本件発明1の「ミクロフィブリル束」は、ミクロフィブリルが複数集まって幅が15nm以上の束を形成したものである(本件明細書の【0021】)。これらのことから、甲1発明1の「平均繊維径が55nmであるセルロース繊維」は、本件発明1の「ミクロフィブリル束」に相当するということができ、本件発明1と甲1発明1とは、樹脂組成物が「ミクロフィブリル束」を含む限りにおいて共通するといえる。
甲1発明1の「ナイロン6であるポリアミド樹脂」及び「ポリアミド樹脂組成物」は、それぞれ本件発明1の「ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)」及び「樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1は、「ミクロフィブリル束、ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)を含む、樹脂組成物の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1a:ミクロフィブリル束が、本件発明1は、「ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解され」た「部分加水分解された微細セルロース(A)」であるのに対して、甲1発明1は、「平均繊維径が55nmであるセルロース繊維」である点
相違点1b:本件発明1は、「ヘミセルロース(C)」を含み、「ヘミセルロース(C)/部分加水分解された微細セルロース(A)の質量比(C)/(A)が0.001~0.2である」のに対して、甲1発明1は、そのような質量比であるか不明である点
(イ)検討
相違点1aについて検討する。
本件発明1は、「ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」、「部分加水分解された微細セルロース(A)」が得られている。そして、上記「ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」いることは、上記(1)イ(イ)bで述べたとおり、ミクロフィブリル束の中心付近では加水分解が進行していない領域がなお存在している状態である。
一方、甲1には、甲1発明1の「平均繊維径が55nmであるセルロース繊維」が、本件発明1と同様に「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」いることは記載も示唆もされておらず、ミクロフィブリル束の中心付近で加水分解が進行していない領域が存在していると直ちに理解することはできない。
また、念のため、甲1発明1において、本件明細書の実施例1~13の製造条件からみて、「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解され」たといえるかについて検討する。
本件明細書の実施例1~13は、窒素で空気を置換し、亜リン酸若しくは酢酸を添加し又は中性で、加熱して加水分解しており、上記(1)イ(ア)a(g)及び(1)イ(ア)b(b)で述べたように、ピークトップ分子量、S1/S2、アスペクト比判定の結果から、本件発明1のとおり「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」いるものと解される。一方、甲1には、甲1発明1において、窒素で空気を置換した低酸素雰囲気中で加熱したことは記載されておらず、また、ピークトップ分子量、S1/S2、アスペクト比も記載されていない。このことからも、甲1発明1は、上記「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」いると直ちに理解することはできない。
これらのことから、甲1発明1において、「部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィルブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」いるとはいえないから、相違点1aは実質的な相違点であり、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。
また、相違点1aに係る本件発明1の特定事項は、甲1~甲7にも甲9~甲11にも記載されておらず、甲1~甲7及び甲9~甲11の記載を基に動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明1は「樹脂との界面密着性が良好で、化学修飾プロセスによる環境負荷及び物性低下の問題が低減されたCNFフィラーを用いており、耐摩耗性及び耐久性に優れる樹脂コンポジットを与えることができる」(【0012】)という効果を奏するものであり、この効果は実施例1~13(表1)により具体的に確認することができる。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明、並びに、甲1~甲7及び甲9~甲11の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件発明1は、上記(1)イ(ア)a(f)で述べたように、相違点1aに係る「前記部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみセルロースが加水分解されており」との特定事項を有することにより、微細セルロース(A)が「表面を含む表層」とその内側の「内層」を有することを実質的に特定するものである。そして、上述のとおり、甲1発明1の「セルロース繊維」は、本件発明1の「表面を含む表層」と「内層」を有するとはいえないし、これが容易に想到し得たことであるとものいえないから、取消理由1及び2は理由がないというべきである。
(ウ)小括
したがって、本件発明1は、相違点1bについて検討するまでもなく、甲1に記載されたものでないし、甲1に記載された発明、並びに、甲1~甲7及び甲9~甲11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件発明2について
(ア)対比
上記イで本件発明1について述べたのと同様に、本件発明2と甲1発明1は、「微細セルロース(A)、ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)を含む、樹脂組成物の製造方法。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。
相違点2a:微細セルロースが、本件発明2は、「ミクロフィブリル束を加水分解処理する工程により、ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解され」た「部分加水分解された微細セルロース(A)」であるのに対して、甲1発明1は、そのようなものであるかが不明である点
相違点2b:本件発明2は、「ヘミセルロース(C)及びリグニン(D)」を含み、「リグニン(D)/ヘミセルロース(C)の質量比(D)/(C)が0.001~10である」のに対して、甲1発明1は、そのような質量比であるか不明である点
(イ)検討
相違点2aは、相違点1aと同内容であり、相違点1aについて上記(3)イ(イ)で述べたのと同じ理由により、実質的な相違点であり、また、相違点2aに係る本件発明2の特定事項は、甲1の記載から動機付けられるとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明2は、相違点2bについて検討するまでもなく、甲1に記載されたものでないし、甲1に記載された発明、並びに、甲1~甲7及び甲9~甲11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 本件発明11及び12について
本件発明11は、本件発明1に係る製造方法により得られる樹脂組成物であり、本件発明12は本件発明2に係る製造方法により得られる樹脂組成物であり、本件訂正により「内層が加水分解されておらず」との特定事項を有するものである。
そうすると、本件発明11及び12は、上記イ及びウで本件発明1及び2について述べたのと同じ理由により、甲1に記載されたものでないし、甲1に記載された発明、並びに、甲1~甲7及び甲9~甲11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 本件発明3~8及び10について
本件発明3~8及び10は、本件発明1及び本件発明2を直接又は間接的に引用するものであり、上記イ及びウで本件発明1及び2について述べたのと同じ理由により、甲1に記載されたものでないし、甲1に記載された発明、並びに、甲1~甲7及び甲9~甲11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
なお、取消理由1及び2は、「部分加水分解された微細セルロース(A)は、ミクロフィブリル束において、内層が加水分解されていない」ことを特定した訂正前の請求項9を対象とするものではない。
カ 申立人の主張について
申立人は、令和4年9月12日提出の意見書において、相違点1aに関し、甲1発明1は、ポリアミド樹脂組成物の製造時に「窒素を流して空気を置換した」操作を行っていないが、ε-カプロラクタムを原料とするポリアミド樹脂の重合反応では、原料及びポリマーの酸化劣化を防止することは技術常識であるし(甲9~甲11を参照)、甲1の比較例におけるポリアミド樹脂の特性値と甲11に記載のポリアミド樹脂の特性値とが同等の値を示しているから、甲1発明1は、ポリアミド樹脂組成物の製造を不活性ガス雰囲気下で実施するなどの、原料とポリマーの酸化を防止するための手段が講じられているとみるのが当業者の妥当な解釈であると主張する(8頁15行~11頁18行)。
上記主張について検討すると、ε-カプロラクタムを原料とするポリアミド樹脂の重合反応において、原料及びポリマーの酸化劣化を防止することが一般に行われているとしても、甲1には、甲1発明1の実施例1やそれ以外にも、微細セルロースの混合分散液を、窒素、アルゴン等の不活性気体での置換又は減圧によって、低酸素濃度雰囲気とした系中で加熱することは記載されていないから、甲1発明1において、窒素を流して空気を置換する等の低酸素雰囲気下でポリアミド樹脂を製造し、本件発明1~12の「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」いることを満たすものであると解すべき根拠は見当たらない。
また、甲1の比較例1は、セルロース繊維の水分散液を加えなかったこと以外は実施例1(甲1発明1)と同様に製造したナイロン6(PA6)であって、甲1の表1に上記PA6の特性値が示されているといえるが、上記主張における甲11の記載のポリアミド樹脂の特性値(甲11の第3表)は、低酸素雰囲気で製造されたナイロン6の特性値であるのかは明らかでないし、両者の特性値が必ずしも一致するとはいえないものである。
そうすると、申立人の上記主張を採用することはできない。
キ まとめ
以上のとおり、本件発明1~8及び10~12は、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明、並びに、甲1~甲7及び甲9~甲11に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件発明1~8及び10~12に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものでない。
3 取消理由通知に採用しなかった申立理由について
(1)申立理由3(実施可能要件)
ア 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
これは、当業者が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、物の発明については、その物を作れ、かつ、その物を使用することができ、物を生産する方法の発明については、その方法により物を生産することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。そこで、この点について以下に検討する。
イ 判断
本件明細書には、本件発明1及び2に係る樹脂組成物の製造方法、並びに、本件発明11及び12に係る樹脂組成物のための製造方法として、部分加水分解された微細セルロースと熱可塑性樹脂を混練する方法(【0059】)、混練機中で微細セルロースの部分加水分解を行いながら、連続的に熱可塑性樹脂と混練する方法(【0059】、【0064】)、及び、微細セルロースの共存下で、熱可塑性樹脂の原料モノマーを重合する方法(【0058】、【0065】)がそれぞれ記載され、部分加水分解された微細セルロースを予め得る方法として、微細セルロースの水分散液そのもの又はpHが1以上7以下の酸性にされた微細セルロース分散液を、常温若しくは高温で処理して酸加水分解を進行させる方法(【0061】)、及び、酸加水分解の代わりに酵素反応を利用して部分加水分解を行う方法(【0062】)がそれぞれ記載されている。さらに、本件明細書には、低酸素濃度雰囲気下で部分加水分解や樹脂組成物の製造を行うことで、微細セルロースの熱分解と部分加水分解によって生じた還元末端の酸化とが起きにくくなり、樹脂組成物の着色や補強効果の低減が抑制されることが記載されている(【0066】)。
そして、本件明細書の実施例1~13は、上記2(1)イ(ア)a(g)及び2(1)イ(ア)b(b)で述べたとおり、本件発明1の「ミクロフィブリル束の表面を含む表層の一部のみのセルロースが加水分解されて」いることが確認されているものであって、本件発明1の具体例であるから、申立理由3ア及び3ウは理由がない。
また、本件明細書の比較例1及び2は、微細セルロース原料の乾燥粉体と熱可塑性樹脂とを溶融混練したものであるが、このような比較例が本件明細書に記載されていることによって、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないと解することもできない。
そうすると、申立理由3イは理由がない。
ウ まとめ
以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件発明1~12に係る特許は、その明細書が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~12に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由、及び当審が通知した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700074