特許異議申立
2022-700403
セルロース含有樹脂組成物の製造方法
- 審判番号
- 2022-700403
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-203504
- 登録番号
- 6964646
- 請求日
- 2022年05月09日
- 審決日
- 2023年04月06日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】齋藤 都子
- 【権利者代理人】三間 俊介
- 【異議申立人】野中 恵
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 三上 晶子
- 分類
- P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J) / P1651.4 -YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第39条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6964646号発明「セルロース含有樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6964646号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項9、10及び11について訂正することを認める。
特許第6964646号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6964646号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成30年5月16日に出願された特願2018-94741号(以下、「原出願」という。)の一部を令和1年11月8日に特願2019-203504号として新たに出願されたものであって、令和3年10月21日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年11月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年5月9日に特許異議申立人 野中 恵(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11)がされ、同年8月1日付けで取消理由が通知され、同年9月30日に特許権者 旭化成株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年11月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月23日に特許権者から意見書の提出期間を30日延長することを求める上申書が提出され、令和5年1月5日付けで意見書の提出期間を90日とする通知書が通知され、同年2月7日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月13日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年3月15日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年2月7日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項9に「を含む樹脂組成物であって」とあるのを、「を含み、且つ
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された、樹脂組成物であって」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に「を含む樹脂組成物であって」とあるのを、「を含み、且つ
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された、樹脂組成物であって」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11に「を含む樹脂組成物であって」とあるのを、「を含み、且つ
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された、樹脂組成物であって」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項9についての訂正について
訂正事項1による請求項9についての訂正は、「樹脂組成物」が特定の製造方法で製造されたものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項9についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項10についての訂正について
訂正事項2による請求項10についての訂正は、「樹脂組成物」が特定の製造方法で製造されたものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項10についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項11についての訂正について
訂正事項3による請求項11についての訂正は、「樹脂組成物」が特定の製造方法で製造されたものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項11についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし3による請求項9ないし11についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし3による請求項9ないし11についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正事項1ないし3による請求項9ないし11についての訂正は、いずれも請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし11に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項9、10及び11について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法であって、
前記第二の工程が押出工程である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法であって、
前記第一の工程が、(A)脂肪族ポリアミドの原料であるモノマーと、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分の水分散液とを混合し、前記モノマーの重合反応を行うことによって前記溶融混合物を得る工程であり、
前記第二の工程が押出工程である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記溶融混合物がペレット形状である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(A)脂肪族ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド66及びこれらの混合物からなる群より選ばれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が末端カルボキシ基数よりも大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が全末端基数の50%超である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(C)カーボンブラックのDBP吸油量が、50cm3/100g以上、100cm3/100g以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第二の工程において、(C)カーボンブラックが、樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含み、且つ
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された、樹脂組成物であって、
(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が末端カルボキシ基数よりも大きい、樹脂組成物。
【請求項10】
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含み、且つ
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された、樹脂組成物であって、
(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が全末端基数の50%超である、樹脂組成物。
【請求項11】
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含み、且つ
(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された、樹脂組成物であって、
(C)カーボンブラックのDBP吸油量が、50cm3/100g以上、100cm3/100g以下である、樹脂組成物。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年5月9日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし7及び9ないし11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第5号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第11号証に係る特許出願との同日出願)
本件特許の請求項1を直接引用して特定する請求項8に係る発明は、同一出願人が同日出願した下記の甲第11号証に係る特許出願(特願2018-94741号、原出願)の請求項1に係る発明と同一と認められ、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2017-31246号公報
甲第2号証:特開2008-285649号公報
甲第3号証:特開2011-57977号公報
甲第4号証:特開2010-59366号公報
甲第5号証:特開2015-51631号公報
甲第6号証:特許第3646507号公報
甲第7号証:特開2018-9158号公報
甲第8号証:特開2014-111758号公報
甲第9号証:国際公開第2014/010607号
甲第10号証:三菱カーボンブラック物理化学特性表、2006年、URL、http://www.carbonblack.jp/product/list2_01.html
甲第11号証:特許第6796107号公報
甲第12号証:特許第6902510号公報
甲第13号証:特開2016-71970号公報
なお、甲第12及び13号証は令和5年3月15日に提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和4年11月18日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲1に基づく進歩性)
本件特許の請求項9ないし11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項9ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は、申立理由1のうち請求項9ないし11についての理由とおおむね同旨である。
2 取消理由2(甲5に基づく進歩性)
本件特許の請求項9ないし11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項9ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 取消理由3(サポート要件)
本件特許の請求項9ないし11に係る特許は、下記のとおり特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0009】ないし【0012】によると、本件特許発明9ないし11に係る発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「セルロース成分を含み、かつカーボンブラックで着色された樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物」を提供することである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】、【0017】、【0018】、【0047】、【0049】ないし【0051】及び【0075】ないし【0079】の記載、特に【0047】の「第二の工程では、第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する。本工程は、本発明の製造方法で得られる樹脂組成物の熱安定性を高めるうえで、極めて重要な工程である。」及び【0049】の「(C)カーボンブラックを、(A)脂肪族ポリアミドと(B)セルロース成分とが存在する状況下で同時混練すると、(C)カーボンブラックの分散性不良に起因して耐候性が著しく低下する。」という記載から、当業者は「脂肪族ポリアミド100質量部と平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程を経たのち、該第一の工程で得られた溶融混合物と、カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程を経る製造方法」により製造された「樹脂組成物」は発明の課題を解決できると認識できる。
しかし、本件特許発明9ないし11は、「脂肪族ポリアミド100質量部と平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程を経たのち、該第一の工程で得られた溶融混合物と、カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程を経る製造方法」により製造された「樹脂組成物」であるとは特定されていない。
また、上記「製造方法」により製造されていない「樹脂組成物」であっても、本件特許発明9ないし11において特定される発明特定事項を有すれば、発明の課題を解決できるというような当業者の出願時の技術常識もない。
したがって、本件特許発明9ないし11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、本件特許発明9ないし11に関して、特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するとはいえない。
第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「発泡成形体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「【0058】
1.原料
本発明の実施例と比較例で用いた原料は以下のとおりである。
(1)セルロース繊維
(1.1)セリッシュKY100G
ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの」
・「【0072】
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100Gを使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得た。樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させた。
乾燥した樹脂組成物Aのペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物とをドライブレンドして混合物を得た。
得られた混合物を、シャットオフノズルを搭載した射出成形機(JSW社製J35ELIII-F)に投入し、シリンダー途中から超臨界状態の窒素を混入させながら、コアバック射出成形をおこない、コア層とスキン層とから構成された鏡面加工発泡成形体を得た。シリンダー温度は250℃とした。また、金型は鏡面加工仕上げしたものを用いて、金型温度は60℃、試験片の流動末端までの充填時間は1.5秒、保圧条件は40MPa×1.0秒間とした。また、コアバック成形は、保圧した直後に、4.2mm/秒で設定発泡倍率2.5倍になるように射出成形機のダイプレートを後退させておこなった。」
イ 甲1に記載された発明(甲1物発明)
甲1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1物発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1物発明>
「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して2.0質量部の平均繊維径が39nmのセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得、樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させ、乾燥した樹脂組成物Aのペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物とをドライブレンドして得た混合物。」
(2)甲5に記載された事項等
ア 甲5に記載された事項
甲5には、「射出成形体およびその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0054】
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行った。重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するペレットを得た。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。
得られたペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)をドライブレンドして樹脂組成物を製造した。なお、このとき、ポリアミド樹脂と黒色色素混合物を溶融混練により予めマスターチップ化したものを使用した。
射出成形機(FANUC社製S-2000i)に樹脂組成物を投入し、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、粒度が1000メッシュの研磨材により表面が研磨され、鏡面加工仕上げされた金型を使用して、射出成形を行い、成形体を得た。得られた射出成形体を用いて、L*値、鏡面光沢値、鉛筆硬度を測定した。また鉛筆硬度を測定した後の成形体表面(硬度Bの鉛筆で試験後の任意の1点を、日立ハイテクノロジーズ社製SU8020電界放射型走査電子顕微鏡を用いて撮影したもの)を図3に示す。」
イ 甲5に記載された発明(甲5物発明)
甲5に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲5には次の発明(以下、「甲5物発明」という。)が記載されていると認める。
<甲5物発明>
「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行い、重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して1質量部の平均繊維径が67nmのセルロース繊維とを含有するペレットを得、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させ、得られたペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)をドライブレンドして製造した樹脂組成物であって、このとき、ポリアミド樹脂と黒色色素混合物を溶融混練により予めマスターチップ化したものを使用した樹脂組成物。」
2 取消理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲1物発明を対比する。
甲1物発明における「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して2.0質量部の平均繊維径が39nmのセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得、樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させ、乾燥した樹脂組成物Aのペレット」を構成する「ポリアミド樹脂」及び「平均繊維径が39nmのセルロース繊維」は、それぞれ本件特許発明9における「(A)脂肪族ポリアミド樹脂」及び「(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分」に相当する。
甲1物発明における「ポリアミド樹脂」と「平均繊維径が39nmのセルロース繊維」の質量比の関係は本件特許発明9における「(A)脂肪族ポリアミド樹脂」及び「(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分」の質量比の関係を満たす。
甲1物発明における「カーボンブラック」は本件特許発明9における「(C)カーボンブラック」に相当する。
甲1物発明における「混合物」は本件特許発明9における「樹脂組成物」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含む樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-9a>
「樹脂組成物」に関して、本件特許発明9においては「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-9b>
本件特許発明9においては「(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が末端カルボキシ基数よりも大きい」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-9aについて、検討する。
甲1物発明は、「乾燥した樹脂組成物Aのペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物とをドライブレンドして得た混合物」であるところ、「ドライブレンド」に代えて「溶融混合」することは、甲1には記載されていないし、他の証拠にも記載されていない。
したがって、甲1物発明において、相違点1-9aに係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明9は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明9の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明10について
ア 対比
本件特許発明10と甲1物発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明9と甲1物発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含む樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-10a>
「樹脂組成物」に関して、本件特許発明10においては「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-10b>
本件特許発明10においては「(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が全末端基数の50%超である」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-10aについて、検討する。
相違点1-10aは相違点1-9aと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲1物発明において、相違点1-10aに係る本件特許発明10の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明10は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明10の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明11について
ア 対比
本件特許発明11と甲1物発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明9と甲1物発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含む樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-11a>
「樹脂組成物」に関して、本件特許発明11においては「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-11b>
本件特許発明11においては「(C)カーボンブラックのDBP吸油量が、50cm3/100g以上、100cm3/100g以下である」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-11aについて、検討する。
相違点1-11aは相違点1-9aと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲1物発明において、相違点1-11aに係る本件特許発明11の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明11は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明11の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明11は、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明9ないし11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項9ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。
3 取消理由2(甲5に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲5物発明を対比する。
甲5物発明における「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行い、重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して1質量部の平均繊維径が67nmのセルロース繊維とを含有するペレットを得、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させ、得られたペレット」を構成する「ポリアミド樹脂」及び「平均繊維径が67nmのセルロース繊維」は、それぞれ本件特許発明9における「(A)ポリアミド樹脂」及び「(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分」に相当する。
甲5物発明における「ポリアミド樹脂」と「平均繊維径が67nmのセルロース繊維」の質量比の関係は本件特許発明9における「(A)脂肪族ポリアミド樹脂」及び「(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分」の質量比の関係を満たす。
甲5物発明における「カーボンブラック」は本件特許発明9における「(C)カーボンブラック」に相当する。
甲5物発明における「樹脂組成物」は本件特許発明9における「樹脂組成物」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含む樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-9a>
「樹脂組成物」に関して、本件特許発明9においては「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された」と特定されているのに対し、甲5物発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点5-9b>
本件特許発明9においては「(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が末端カルボキシ基数よりも大きい」と特定されているのに対し、甲5物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点5-9aについて、検討する。
甲5物発明は、「乾燥させ、得られたペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)をドライブレンドして製造した樹脂組成物」であるところ、「ドライブレンド」に代えて「溶融混合」することは、甲5には記載されていないし、他の証拠にも記載されていない。
したがって、甲5物発明において、相違点5-9aに係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明9は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲5物発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明9の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲5物発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明10について
ア 対比
本件特許発明10と甲5物発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明9と甲5物発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含む樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-10a>
「樹脂組成物」に関して、本件特許発明10においては「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された」と特定されているのに対し、甲5物発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点5-10b>
本件特許発明10においては「(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が全末端基数の50%超である」と特定されているのに対し、甲5物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点5-10aについて、検討する。
相違点5-10aは相違点5-9aと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲5物発明において、相違点5-10aに係る本件特許発明10の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明10は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲5物発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明10の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲5物発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明11について
ア 対比
本件特許発明11と甲5物発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明9と甲5物発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、
(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部と、
(C)カーボンブラックと、
を含む樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-11a>
「樹脂組成物」に関して、本件特許発明11においては「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された」と特定されているのに対し、甲5物発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点5-11b>
本件特許発明11においては「(C)カーボンブラックのDBP吸油量が、50cm3/100g以上、100cm3/100g以下である」と特定されているのに対し、甲5物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点5-11aについて、検討する。
相違点5-11aは相違点5-9aと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲5物発明において、相違点5-11aに係る本件特許発明11の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明11は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲5物発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明11の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明11は、甲5物発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明9ないし11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項9ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由2によっては取り消すことはできない。
4 取消理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の請求項9ないし11の記載は、上記第3の【請求項9】ないし【請求項11】のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、おおむね次の記載がある。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
樹脂にカーボンブラックを配合しようとする場合、カーボンブラックはその粒子径が小さく、かつ表面の極性が高いことから、高濃度で配合した場合、流動性及び熱安定性の悪化といった懸念を生じやすくなる。そのため、配合量は、できるだけ少ない量とすることが望ましいとされている。一方、樹脂組成物中でのカーボンブラックの分散性は、カーボンブラックを樹脂と等量程度配合する(すなわちカーボンブラックの充てん量の多い)用途(例えば、ゴム中にカーボンブラックが充てんされたタイヤ等の用途)であればさほど問題とはならないが、例えば数パーセントといった少量でカーボンブラックを配合する用途(例えば樹脂の着色用)では、カーボンブラックが樹脂組成物中に充分に分散されないという問題点が生じる。紫外線遮蔽効果のあるカーボンブラックが分散不良となることは、耐候性(特に耐光性)の低下といった問題を招来するため、所望の耐候性とするために過度にカーボンブラックを配合することとなり、これにより物性の悪化をも招来してしまう。
【0010】
また、タイヤのように加工温度が比較的低い条件下では問題とはならないが、加工温度が高い用途(例えばポリアミドのようなエンジニアリングプラスチック用途)では、カーボンブラックの表面官能基の影響と思われる樹脂の劣化が顕著となり、加工時の悪臭という問題点が生じる。
【0011】
したがって、セルロース繊維等のセルロース成分を含む樹脂組成物をカーボンブラックで着色しようとすると、耐候性(特に耐光性)、及び安定加工性を十分確保できないのが実情である。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決し、セルロース成分を含み、かつカーボンブラックで着色された樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供することを目的とする。」
・「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため、検討を進めた結果、脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物を製造するにあたり、脂肪族ポリアミドとセルロース成分とを含む溶融混合物を製造する第一の工程を経たのち、該第一の工程で得られた溶融混合物と、カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程を経る製造方法が、上記の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。」
・「【0014】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1] (A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法。
[2] 前記溶融混合物がペレット形状である、上記態様1に記載の方法。
[3] 第一の工程において、(A)脂肪族ポリアミドの原料であるモノマーと、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分の水分散液とを混合し、前記モノマーの重合反応を行うことによって前記溶融混合物を得る、上記態様1又は2に記載の方法。
[4] (A)脂肪族ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド66及びこれらの混合物からなる群より選ばれる、上記態様1~3のいずれかに記載の方法。
[5] (A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が末端カルボキシ基数よりも大きい、上記態様1~4のいずれかに記載の方法。
[6] (A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が全末端基数の50%超である、上記態様1~5のいずれかに記載の方法。
[7] (C)カーボンブラックのDBP吸油量が、50cm3/100g以上、100cm3/100g以下である、上記態様1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 第二の工程において、(C)カーボンブラックが、樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加される、上記態様1~7のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供することが可能になる。」
・「【0017】
本発明の一態様は、脂肪族ポリアミドと、セルロース成分と、カーボンブラックとを含む樹脂組成物の製造方法を提供する。該方法は、第一の工程、及び第二の工程を含み、カーボンブラックを第二の工程で添加することに特徴を有する。
以下、各工程を順に説明する。
【0018】
≪第一の工程≫
第一の工程においては、(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する。」
・「【0026】
また、(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が末端カルボキシ基数よりも大きい方が好ましい。特に、全末端基数(末端アミノ基、末端カルボキシ基、及び他の末端基(典型的には末端封止基)の合計数)に対する末端アミノ基数の比率が0.5を超えていることがより好ましい。上記比率の下限は、より好ましくは0.55であり、更に好ましくは0.60以上であり、更により好ましくは0.65以上であり、最も好ましくは0.67以上である。上限は、好ましくは0.9であり、より好ましくは0.85である。例えば、(A)脂肪族ポリアミドには重合終了時等に末端封止処理を行うことがある。その場合、末端基の少なくとも一部は活性末端基(すなわちアミノ基及びカルボキシ基)でなくなるが、(A)脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が全末端基数の50%超であることが好ましい。なお、これら、末端アミノ基、末端カルボキシ基、及び他の末端基(末端封止基等)の比率は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)による測定で確認することができる。
【0027】
後述のように、通常、(C)カーボンブラックの表面には種々の酸性の官能基(カルボキシ基、酸無水物基、スルホン酸基等))が存在しており、(C)カーボンブラックによる(A)脂肪族ポリアミドへの悪影響を抑制するためには、全末端基数に対する末端アミノ基数の比率を上述の範囲にすることが望ましい。この範囲にすることで、例えば成形時の熱安定性が増し、シルバーストリークスの発生抑制といった効果が得られる。」
・「【0047】
≪第二の工程≫
第二の工程では、第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する。本工程は、本発明の製造方法で得られる樹脂組成物の熱安定性を高めるうえで、極めて重要な工程である。(C)カーボンブラックを、上記溶融混合物に対して添加することによって、例えば第一の工程で添加した場合に比較して、耐候性及び熱安定性が飛躍的に向上するという効果が得られる。」
・「【0049】
(C)カーボンブラックを、(A)脂肪族ポリアミドと(B)セルロース成分とが存在する状況下で同時混練すると、(C)カーボンブラックの分散性不良に起因して耐候性が著しく低下する。
【0050】
また、同時混練で低下する特性の一つとして線膨張係数がある。線膨張係数には樹脂組成物中でのセルロース成分の分散性が大きく寄与する。(C)カーボンブラックの表面には、通常、種々の酸性の官能基(カルボキシ基、酸無水物基、スルホン酸基等)が存在しており、この表面官能基が、セルロース成分と一緒に混合される脂肪族ポリアミドに分子量低下による流動性の大幅な変化(低下)といった悪影響を及ぼし、脂肪族ポリアミドとセルロース成分との相互作用に悪影響を与え、セルロース成分の分散性に悪影響を及ぼしているためと考えられる。
【0051】
したがって、(C)カーボンブラックを第二の工程で添加することは、耐候性、及び熱安定性(低線膨張係数)の点で有利である。また上記のように、カーボンブラックの表面官能基とセルロース成分との接触を防止することが有利であるという理由から、(C)カーボンブラックを予め樹脂と溶融混練してマスターバッチの形態とし、当該マスターバッチを第二の工程で溶融混合物に添加して更に溶融混練する場合には、更に圧倒的に優れた特性を示すようになる。マスターバッチ中の樹脂は、(A)脂肪族ポリアミドとして用いる樹脂と同一でも異なってもよいが、好ましくは(A)脂肪族ポリアミドとして用いる樹脂と同一である。」
・「【0054】
(C)カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、50cm3/100g以上、100cm3/100g以下であることが好ましい。より好ましいDBP吸油量の下限は、55cm3/100gであり、更に好ましくは60cm3/100g、最も好ましくは65cm3/100gである。また上限は、より好ましくは95cm3/100gであり、更に好ましくは90cm3/100gであり、最も好ましくは85cm3/100gである。熱安定性と、組成物の流動性との観点から、上述の範囲内とすることが好ましい。DBP吸油量は、JIS K6217-4に準拠して測定される値である。」
・「【実施例】
【0061】
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0062】
用いた材料は下記のとおりである。
≪(A)脂肪族ポリアミド≫
ポリアミド6
末端アミノ基が多いPA6(以下、「PA6a」と称する。)
ISO 307に準拠して測定された粘度数(VN)=118
末端アミノ基数:97ミリ等量/kg、末端カルボキシ基数:27ミリ等量/kg
アミノ末端基数比率 [NH2]/([NH2」+[COOH])=0.78
全末端基数に対する末端アミノ基数比率:0.75
末端カルボキシ基が多いPA6(以下、「PA6b」と称する。)
ISO 307に準拠して測定された粘度数(VN)=118
末端アミノ基数:46ミリ等量/kg、末端カルボキシ基数:65ミリ等量/kg
カルボキシル末端基数比率 [COOH]/([NH2」+[COOH])=0.58
全末端基数に対する末端アミノ基数比率:0.55
末端アミノ基が多いポリアミド66(以下、「PA66」と称する。)
ISO 307に準拠して測定された粘度数(VN)=120
末端アミノ基数:41ミリ等量/kg、末端カルボキシ基数:33ミリ等量/kg
アミノ末端基数比率 [NH2]/([NH2」+[COOH])=0.55
全末端基数に対する末端アミノ基数比率:0.36」
・「【0075】
[実施例1~6、比較例1~3]
12個のバレルで構成される、スクリュー直径が25mm、スクリュー長/スクリュー直径比が48である二軸押出機のシリンダー番号1に上流部スロートを配し、シリンダー番号4にサイド押込みフィーダーを設置し、押込みフィーダー部に中央部スロートを配した。上流部スロートには、ロスインウェイト式フィーダー二基を設置し、中央部スロート上部には、ロスインウェイト式フィーダーを1基設置した。各々のフィーダーより、それぞれ、(A)脂肪族ポリアミド、(B)セルロース成分、及び、(C)カーボンブラック又は(C)カーボンブラックのマスターバッチ、を表1記載の割合で供給した。押出機において、シリンダー及びダイスの温度を、シリンダー1~4では260℃設定、シリンダー5~12及びダイスでは240℃設定とし、スクリュー回転数を300回転/分として、押出加工を実施した。また、シリンダー11には減圧ベントポートを設置し、吸引脱気できるようにした。スクリューデザインとしては、シリンダー3の部分に、2個の順送りニーディングディスク(以降、RKD)、2個のニュートラルニーディングディスク(以降、NKD)、1個の逆送りニーディングディスク(以降、LKD)をこの順に配した混練ブロックを、シリンダー6の部分に、1個のRKD,2個のNKD,1個のLKDをこの順に配した混練ブロックを、シリンダー9の部分に1個のRKD,2個のNKD,1個の逆送りスクリューをこの順に配した混練ブロックを配置するデザインとした。
【0076】
押出機よりストランド状に出た溶融混合物は水浴にて急冷して、ストランドカッターでペレットとして回収した。得られたペレットを、射出成形機を用いて、JIS K6920-2に準拠した条件でISO294-3に準拠した多目的試験片に成形し、以下に示す方法により、物性評価を実施した。結果は、表1に記載した。
【0077】
【表1】
[図:0001399345000001.jpg]
【0078】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2の対比から、(C)カーボンブラックを配合するタイミングを、(A)脂肪族ポリアミドと(B)セルロース成分とを溶融混合した後とした方が、線膨張係数が圧倒的に優れていることが判る。この結果は、(C)カーボンブラック共存下で(B)セルロース成分と(A)脂肪族ポリアミドとを溶融混合すると、(B)セルロース成分の分散状態が悪化することを示唆しているものと思われる。また線膨張係数以外にも、例えば、シルバーストリークスの発生状況、及び臭気の評価結果から、(C)カーボンブラックの同時混練が、熱安定性へも悪影響を及ぼすことが判る。なお、表1中の*印で示した比較例1及び比較例2のスパイラル流動長は各実施例と比べて大きい値であるが、これは脂肪族ポリイミドの分解が生じたことによると考えられる。
【0079】
実施例1と実施例3とは、樹脂組成物の組成は同一であるが、実施例3が実施例1と比べて更に良好な結果を与えている。この結果は、(A)脂肪族ポリアミドと同一の樹脂と予備混練されている(C)カーボンブラック(すなわち、マスターバッチ)を、(A)脂肪族ポリアミドと(B)セルロース成分との混練後に添加混練することが、より良い効果を示すことを表している。マスターバッチを用いることで、(C)カーボンブラックの樹脂組成物中での分散性が向上し、(A)脂肪族ポリアミドの熱分解が良好に抑制されたものと推測される。」
(4)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0009】ないし【0012】によると、本件特許発明9ないし11に係る発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「セルロース成分を含み、かつカーボンブラックで着色された樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物」を提供することである。
そして、発明の詳細な説明の【0014】及び【0015】には、本件特許発明9ないし11に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0013】、【0017】、【0018】、【0047】、【0049】ないし【0051】及び【0075】ないし【0079】の記載、特に【0047】の「第二の工程では、第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する。本工程は、本発明の製造方法で得られる樹脂組成物の熱安定性を高めるうえで、極めて重要な工程である。」及び【0049】の「(C)カーボンブラックを、(A)脂肪族ポリアミドと(B)セルロース成分とが存在する状況下で同時混練すると、(C)カーボンブラックの分散性不良に起因して耐候性が著しく低下する。」という記載から、当業者は「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、をこの順に含む」「方法で製造された」「樹脂組成物」は発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明9ないし11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明9ないし11に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(5)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項9ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由3によっては、取り消すことはできない。
5 特許異議申立人の主張について
(1)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、令和5年3月15日に提出した意見書において、おおむね以下のとおり主張する。
請求項9ないし11に記載された「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された、」という技術的特徴は、文字どおり当該樹脂組成物の製造方法に関する技術的特徴であって、樹脂組成物という物の技術的特徴であるとはいえない。
このため上述の製造方法に関する技術的特徴が、物としての樹脂組成物についてのいかなる技術的特徴を表しているのか不明である。
また、令和5年2月7日に特許権者から提出された意見書第5及び6ページにおける特許権者の「本件訂正発明9~11の特徴を物の構造又は特性により直接特定することは、およそ現実的ではない。」旨の主張は甲12及び13の記載からみて失当である。
したがって、請求項9ないし11は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反している。
(2)特許異議申立人の上記主張についての検討
特許異議申立人の上記主張について検討する。
本件特許発明9ないし11は、「樹脂組成物」という物の発明であるが、請求項9ないし11の「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、前記第二の工程が押出工程である、方法で製造された、」との記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため、請求項9ないし11にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
そこで、本件特許発明9ないし11に、「不可能・非実際的事情」が存在するかどうか検討する。
令和5年2月7日に特許権者から提出された意見書の第5及び6ページにおいて、特許権者は、おおむね以下のとおり主張する。
「樹脂組成物中のカーボンブラック及びセルロース成分の分散性の差について、例えば、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡を用いた形態観察による区別が原理上可能である。しかし、顕微鏡を用いた形態観察において、観察視野は樹脂組成物中の微細なごく一部、しかもある面方向での二次元の視野であり、3次元に広がる樹脂組成物の全体における分散性を正確な数値として一義的に定量化するためには、統計的に有意となるだけの極めて多数の観察視野を確保する必要がある。顕微鏡観察に用いる試料1つ1つの調製には煩雑な前処理が必要であることから、樹脂組成物全体の分散性を正確な数値として一義的に定量化するためには凡そ現実的でない膨大な時間とコストを要する。また、従来技術は膨大な量存在することから、従来技術との対比として統計的に有意である数を一義的に定めることもそもそも困難である。
したがって、本件訂正発明9~11の特徴を物の構造又は特性により直接特定することは、およそ現実的ではない。」
特許権者の上記主張は、本件特許の出願時において物の構造又は特性を特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要する場合に該当するところ、「不可能・非実際的事情」が存在しないことについての合理的な疑いは存在しない。
なお、甲12及び13は、本件特許発明9ないし11とは事案が異なるものであり、本件特許発明9ないし11に、「不可能・非実際的事情」がないことを示すものとはいえない。
そうすると、本件特許発明9ないし11には、その物の製造方法で記載することに関し、「不可能・非実際的事情」があると認められるから、本件特許発明9ないし11は明確である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲1に基づく進歩性)のうち請求項1ないし7についての理由、申立理由2(甲5に基づく進歩性)及び申立理由3(甲8に係る特許出願との同日出願)である。
以下、順に検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)のうち請求項1ないし7についての理由について
(1)甲1に記載された発明(甲1製法発明)
上記第6 1(1)アに記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1製法発明>
「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して2.0質量部の平均繊維径が39nmのセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得、樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させ、
乾燥した樹脂組成物Aのペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物とをドライブレンドして混合物を得る方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1a>
「カーボンブラック」の「混合」に関し、本件特許発明1においては「溶融混合」と特定されているのに対し、甲1製法発明において「ドライブレンド」と特定されている点。
<相違点1-1b>
本件特許発明1においては「前記第二の工程が押出工程である」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-1aについて、検討する。
甲1製法発明において、「ドライブレンド」に代えて「溶融混合」することは、甲1には記載されていないし、他の証拠にも記載されていない。
したがって、甲1製法発明において、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲1製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-2a>
「カーボンブラック」の「混合」に関し、本件特許発明2においては「溶融混合」と特定されているのに対し、甲1製法発明において「ドライブレンド」と特定されている点。
<相違点1-2b>
本件特許発明2においては「前記第一の工程が、(A)脂肪族ポリアミドの原料であるモノマーと、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分の水分散液とを混合し、前記モノマーの重合反応を行うことによって前記溶融混合物を得る工程であり」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-2c>
本件特許発明2においては「前記第二の工程が押出工程である」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-2aについて、検討する。
相違点1-2aは相違点1-1aと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲1製法発明において、相違点1-2aに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明2は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明2の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3ないし7について
本件特許発明3ないし7は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1のうち請求項1ないし7についての理由についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1のうち請求項1ないし7についての理由によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲5に基づく進歩性)について
(1)甲5に記載された発明(甲5製法発明)
上記第6 1(2)アに記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲5には次の発明(以下、「甲5製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲5製法発明>
「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行い、重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して1質量部の平均繊維径が67nmのセルロース繊維とを含有するペレットを得、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させ、得られたペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)をドライブレンドする樹脂組成物の製造方法、このとき、ポリアミド樹脂と黒色色素混合物を溶融混練により予めマスターチップ化したものを使用した樹脂組成物の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲5製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-1a>
「カーボンブラック」の「混合」に関し、本件特許発明1においては「溶融混合」と特定されているのに対し、甲5製法発明において「ドライブレンド」と特定されている点。
<相違点5-1b>
本件特許発明1においては「前記第二の工程が押出工程である」と特定されているのに対し、甲5製法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点5-1aについて、検討する。
甲5製法発明において、「ドライブレンド」に代えて「溶融混合」することは、甲5には記載されていないし、他の証拠にも記載されていない。
したがって、甲5製法発明において、相違点5-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲5製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-2a>
「カーボンブラック」の「混合」に関し、本件特許発明2においては「溶融混合」と特定されているのに対し、甲5製法発明において「ドライブレンド」と特定されている点。
<相違点5-2b>
本件特許発明2においては「前記第一の工程が、(A)脂肪族ポリアミドの原料であるモノマーと、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分の水分散液とを混合し、前記モノマーの重合反応を行うことによって前記溶融混合物を得る工程であり」と特定されているのに対し、甲5製法発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点5-2c>
本件特許発明2においては「前記第二の工程が押出工程である」と特定されているのに対し、甲5製法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点5-2aについて、検討する。
相違点5-2aは相違点5-1aと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲5製法発明において、相違点5-2aに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明2は、「脂肪族ポリアミド、セルロース成分及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」という甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明2の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3及び4について
本件特許発明3及び4は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲11に係る特許出願との同日出願)について
(1)本件特許の請求項1を直接引用して特定する請求項8に係る発明
本件特許の請求項1を直接引用して特定する請求項8に係る発明(以下、「本件特許発明8」という。)は、請求項1を引用しない形式で書き下ろすと次のとおりである。
「(A)脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法であって、
前記第二の工程が押出工程であり、
第二の工程において、(C)カーボンブラックが、樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加される樹脂組成物の製造方法。」
(2)甲11に係る特許出願(特願2018-94741号、原出願)の請求項1に係る発明
甲11に係る特許出願(特願2018-94741号、原出願)の請求項1に係る発明(以下、「甲11発明」という。)は、次のとおりである。
「(A)第一の脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01~100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、
第二の工程において、(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され、
第二の工程を、押出機による溶融混練で行う、樹脂組成物の製造方法。」
(3)対比・判断
本件特許発明8と甲11発明を対比する。
本件特許発明8においては「(C)カーボンブラックが、樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され」と特定されているのに対し、甲11発明においては「(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され」と特定されている。
すなわち、本件特許発明8においては「マスターバッチ」を構成する樹脂が「第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂」に特定されていないのに対し、甲11発明においては「マスターバッチ」を構成する樹脂が「第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂」に特定されている点で、両者は相違する。
したがって、本件特許発明8は甲11発明と同一であるとはいえない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明8は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項8に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700403