特許異議申立
2023-700690
セルロース含有ギヤ
- 審判番号
- 2023-700690
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-224782
- 登録番号
- 7201577
- 請求日
- 2023年07月05日
- 審決日
- 2024年02月02日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】齋藤 都子
- 【権利者代理人】三間 俊介
- 【異議申立人】野中 恵
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 河原 正
- 審判官 廣田 健介
- 分類
- P1651.113-Y (B29C) / P1651.121-Y (B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7201577号発明「セルロース含有ギヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7201577号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7201577号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願(特願2019-224782号)は、2019年(平成31年)4月22日(先の出願に基づく優先権主張 2018年(平成30年)4月23日、2019年(平成31年)1月7日)を国際出願日とする特願2019-557002号の一部を、新たな特許出願として令和1年12月12日に出願されたものであって、令和4年12月26日にその特許権の設定の登録がされ、令和5年1月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、発行の日から6月以内である令和5年7月5日に、請求項1~11に係る特許に対し、特許異議申立人 野中 恵(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(以下「異議申立」という。)がされた。
その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和5年 9月29日付け:取消理由通知書
令和5年12月 1日 :特許権者による意見書の提出
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~請求項11に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明11」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~請求項11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体の製造方法であって、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有し、
前記樹脂組成物がチキソトロピー性を有する温度で前記樹脂組成物を射出成型することを含む、方法。
【請求項2】
(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体の製造方法であって、
前記樹脂成形体は、他の部材との摺動面を有し、
前記方法は、前記樹脂組成物を成型することを含み、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有し、
前記樹脂成形体の他の部材との摺動面の算術平均表面粗さSaが3.0μm以下である、方法。
【請求項3】
前記樹脂成形体は、ギヤであり、前記ギヤが真円度400μm以下を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体の製造方法であって、前記方法は、前記樹脂組成物を成型することを含み、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有し、
前記樹脂成形体が真円度400μm以下を有する、方法。
【請求項5】
射出成型によって前記成型を行う、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記射出成型を、前記樹脂組成物がチキソトロピー性を有する温度で行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記樹脂成形体がギヤである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂及びポリアセタール樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記チキソトロピーインデックスが、2.56~10である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む射出成型用の樹脂組成物であって、
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂及びポリアセタール樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を含み、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する、樹脂組成物。
【請求項11】
前記チキソトロピーインデックスが、2.56~10である、請求項10に記載の樹脂組成物。」
第3 取消理由の概要
本件特許の請求項1~請求項11に係る発明に対して、当審において、令和5年9月29日付けで特許権者に通知された取消理由(以下、単に「取消理由」といい、この通知を「取消理由通知」という。)の要旨は、次のとおりである。
●理由1(新規性)
本件特許の請求項1、8~11に係る発明は、最先ではない第2の先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、8~11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
●理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~11に係る発明は、第2の先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、第2の先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(引用例等一覧)
甲1:特開2014-136745公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証を、「甲1」と略す。他の甲号証も同様。)
甲2:国際公開第2016/140240号
甲3:Takeshi SEMBA 他,Biocomposites Composed of Polyamide 11 and Cellulose Nanofibers Pretreated with a Cationic Reagents,Nihon Reoroji Gakkaishi,Vol.45,No.l,2017,p.39-47
甲4:伊藤 彰浩 他,セルロースナノファイバー強化ポリイミド6の流動特性と発泡射出成形性,京都市産業技術研究所,研究報告,No.8,2018,p.1-6
(甲4については、伊藤 彰浩 他,セルロースナノファイバー強化ポリイミド6の流動特性と発泡射出成形性,京都市産業技術研究所,研究報告,No.8,2018,p.1-6,[online],作成日2018/09/27(更新日2018/09/27),京都市産業技術研究所,[令和5年9月21日検索],インターネット<URL:http://tc-kyoto.or.jp/outcome/2018/12/2017_01.pdf>からも入手可能である。)
(当合議体注:甲1~甲4それぞれが主引用例である。)
第4 取消理由についての当審の判断
1 優先権の主張の効果について
(1) 本件特許発明1は、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体の製造方法であって」、「前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有し」との発明特定事項を具備する。
(2) 本件特許の優先権主張の基礎となった最先の第1の先の出願である特願2018-82242号(出願日:平成30年4月23日)の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下「最先基礎出願明細書等」という。)には、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物」「が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有」することは記載も示唆もされておらず、また、最先基礎出願明細書等の記載から自明な事項でもない。
そうすると、上記(1)で述べた本件特許発明1の発明特定事項は、最先基礎出願明細書等全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。
そうしてみると、本件特許発明1について、最先の先の出願である特願2018-82242号(出願日:平成30年4月23日)に基づく優先権の主張の効果は認められない。本件特許発明2~11についても同様である。
(3) 一方、本件特許の優先権主張の基礎となった最先ではない第2の先の出願である特願2019-674号(出願日:平成31年1月7日)の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(明細書の【0132】等参照)には、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物」が、「前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有」することが記載されている。
してみると、本件特許発明1~11の新規性、進歩性の判断のための基準日は、最先ではない第2の先の出願である特願2019-674号の出願日(平成31年1月7日)である。
2 甲1~甲4に記載された事項
(1) 甲1に記載された事項
ア 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した(以下、同様とする。)。
(ア) 「【0001】
本発明は、機械的特性、熱的特性が向上したボリアミド樹脂成形体に関するものである。」
(イ) 「【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性の測定法や評価法は以下のとおりである。
(曲げ弾性率、曲げ強度〕
得られたポリアミド樹脂組成物(ペレット)を用い、前記の方法により測定した。
(引張弾性率、引張降伏強度)
得られたポリアミド梱脂組成物(ペレット)を用い、前記の方法により測定した。
〔熱変形温度(HDT)〕
得られたポリアミド樹脂組成物(ペレット)を用い、前記の方法により測定した。
〔線膨張係数〕
得られたポリアミド樹脂組成物(ペレット)を用い、前記の方法により測定した。
〔セルロース繊維の平均繊維径〕
得られたボリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径や、重合反応に供した重合反応前のセルロース繊維の平均繊維径は、前記の方法により測定し、算出した。
〔成形性〕
得られたポリアミド樹脂組成物( ペレット) を用い、エンジンカバー、筐体を射出成形した際の成形性について、それぞれ下記のように評価した。
〇:流動性よく成形ができ、得られた成形体にヒケやバリがない。
△:成形時の流動性は少し低いが、得られた成形体にヒケやバリがない。
×:成形時の流動性が低いか、または得られた成形体にヒケやバリがある。
【0054】
実施例1
・・・略・・・
さらに、樹脂組成物を、射出成形機(ファナック社製 AUTOSHOT 300D-2)に供給して、図3に示すようなノート型パソコンやワープロ等のOA機器の筐体1を作製した。筐体1は、A4サイズで、肉厚1.3mの薄肉のパネル状とした。その際、シリンダー温度を260℃に設定し、射出圧力を100MPa、金型温度90℃とした。
【0055】
実施例2
セルロース絨維の水分散液として、セリッシュKY100S(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が140nmのセルロース繊維が25質量%含有されたもの)を使用した。このセルロース繊維の水分散液98質量部と、ε-カプロラクタム216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、精製水157質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。
得られた樹脂組成物を、実施例1と同様の条件にて射出成形して、試験片、エンジンカバーおよび筐体を得た。
・・・略・・・
【0063】
【表1】
[図:0001407846000001.jpg]
【0064】
表1から明らかなように、実施例1~4で得られた樹脂組成物は、繊維径が10μm以下のセルロース繊維の水分散液とポリアミド樹脂を構成するモノマーを混合し、重合反応を行うことにより得られたものであったため、ポリアミド樹脂中に微細なセルロース繊維が凝集することなく均一に分散されたものであった。このような分散状態は図1 よりも明らかである。すなわち、図1は、実施例3で得られたポリアミド樹脂組成物の断面を撮影した電子顕微鏡写真であり、その楕円で囲まれた領域に示されているように、セルロース繊維同士は凝集することなく分散している。
このため、実施例1~4で得られたエンジンカバーおよび筺体は、同時に得られた成形試験片の性能が優れていた(いずれも曲げ弾性率、引張り弾性率、曲げ強度、引張降伏強度ともに高く、機械的特性に優れており、さらには、熱変形温度が高く耐熱性にも優れ、さらに、MD方向の線膨張係数は低かった)ため、これらの性能を有するものとなり、またヒケやバリが生じることなく、外観に優れたものであった。さらに、成形時の樹脂の流動性がよく、成形性に優れていた。」
イ 甲1に記載された発明
(ア) 甲1でいう「本発明」は、「機械的特性、熱的特性が向上したポリアミド樹脂成形体に関するものである」(【0001】)ところ、甲1【0055】には、「ペレットを95℃の熱水で処理し、精錬を行い、乾燥させ」て、「得られた樹脂組成物」を、【0054】に記載の「実施例1と同様の条件にて射出成形して」、「筐体を得」た「実施例2」が記載されている。
(イ) 甲1【0053】及び【0063】【表1】より、実施例2の上記「得られた樹脂組成物」は、「ポリアミド樹脂組成物」であり、「ポリアミド樹脂」は「ナイロン6」であること、「セルロース繊維」の「平均繊維径(nm)」は「88」nmであり、「ポリアミド樹脂100質量部に対するセルロース繊維の」「含有量(質量部)」は「10.0」質量部であり、「数平均分子量(PMMA換算)」は「16200」であることが理解できる。
また、【0064】より、実施例2の上記「得られた樹脂組成物」は、「ポリアミド樹脂中に微細なセルロース繊維が凝集することなく均一に分散されたもの」であること、実施例2の上記「得られた樹脂組成物」「を用い」て「測定した」、「曲げ弾性率」、「引張弾性率」、「曲げ強度」、「引張降伏強度」「ともに高く」、「熱変形温度」「が高く耐熱性にも優れ」、「MD方向の」「熱膨張係数」が低く、実施例2で得られた「筐体」は、「これらの性能を有するものとなり、またヒケやバリが生じることなく、外観に優れたもの」であり、「さらに、成形時の樹脂の流動性がよく、成形性に優れ」るものであることが把握できる。
(ウ) 上記ア、上記(ア)及び(イ)より、甲1には、実施例2で「得られた樹脂組成物」「を射出成形機」「に供給して」、「筐体を作製」する方法に係る発明として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「セルロース絨維の水分散液として、セリッシュKY100S(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が140nmのセルロース繊維が25質量%含有されたもの)を使用し、このセルロース繊維の水分散液98質量部と、ε-カプロラクタム216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、精製水157質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行い、重合が終了した時点で得られた樹脂組成物1を払い出し、これを切断してペレットとし、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させて得られた樹脂組成物2(【0055】)を射出成形機に供給して、筐体を作製する方法であって、
シリンダー温度を260℃に設定し、射出圧力を100MPa、金型温度90℃とし、(【0054】)
樹脂組成物2は、ポリアミド樹脂組成物であり、ポリアミド樹脂は、ナイロン6であり(【0063】)、セルロース繊維の平均繊維径は88nmであり、ポリアミド樹脂100質量部に対するセルロース繊維の含有量(質量部)は10.0質量部であり、数平均分子量(PMMA換算)は16200であり、(【0063】【表1】)
樹脂組成物2は、ポリアミド樹脂中に微細なセルロース繊維が凝集することなく均一に分散されたものであり、
樹脂組成物2を用いて測定した、曲げ弾性率、引張弾性率、曲げ強度、引張降伏強度ともに高く、熱変形温度が高く耐熱性にも優れ、MD方向の熱膨張係数が低く、筐体は、これらの性能を有するものとなり、またヒケやバリが生じることなく、外観に優れたものであり、
樹脂組成物2は、さらに、成形時の樹脂の流動性がよく、成形性に優れるものである、(【0064】)
筐体を作製する方法。」
(当合議体注:引用発明1においては、「重合が終了した時点で得られた樹脂組成物」と、「ペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させて得られた樹脂組成物」とを区別するために、前者を「樹脂組成物1」、後者を「樹脂組成物2」と表記している。)
(エ) 甲1の実施例2(【0055】)、【0063】【表1】及び【0064】の記載からみて、甲1には、実施例2で得られた、射出成型用の「樹脂組成物2」に係る発明として、次の発明(以下「引用樹脂組成物発明1」という。)が記載されていると認められる。
「セルロース絨維の水分散液として、セリッシュKY100S(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が140nmのセルロース繊維が25質量%含有されたもの)を使用し、このセルロース繊維の水分散液98質量部と、ε-カプロラクタム216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、精製水157質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行い、重合が終了した時点で得られた樹脂組成物1を払い出し、これを切断してペレットとし、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させて得られた、射出成型用の樹脂組成物2であって、
樹脂組成物2は、ポリアミド樹脂組成物であり、ポリアミド樹脂は、ナイロン6であり、セルロース繊維の平均繊維径は88nmであり、ポリアミド樹脂100質量部に対するセルロース繊維の含有量(質量部)は10.0質量部であり、数平均分子量(PMMA換算)は16200であり、
樹脂組成物2は、ポリアミド樹脂中に微細なセルロース繊維が凝集することなく均一に分散されたものであり、
樹脂組成物2を用いて測定した、曲げ弾性率、引張弾性率、曲げ強度、引張降伏強度ともに高く、熱変形温度が高く耐熱性にも優れ、MD方向の熱膨張係数が低く、
樹脂組成物2は、さらに、成形時の樹脂の流動性がよく、成形性に優れる、
樹脂組成物2。」
(2) 甲2に記載された事項
ア 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「[0044] 本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形することにより、成形体とすることができる。射出成形に用いる射出成形機としては、・・・略・・・射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、・・・略・・・金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化され、その後に成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド樹脂組成物の融点以上であることが好ましく、(融点+100℃)未満であることが好ましい。
・・・略・・・
[0063] 実施例1
[セルロース繊維の水分散液の調整]
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を用いた。この水分散液に精製水を加えてミキサーで撹拌することで、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
[0064] [溶融重合]
得られたセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合した。この混合分散液を撹拌し、0.7MPaの圧力に制圧しながら、4時間かけて240℃に昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃にて0.5時間溶融重合をおこなった。
[0065] 溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。
[0066] [精練、固相重合]
得られたペレットを95℃の熱水で12時間処理することで精練をおこない、その後に100℃で12時間乾燥させた。
[0067] 乾燥したペレットを、窒素気流下において、170℃で15時間、固相重合に供した。
[0068] 実施例2~8、比較例2
[溶融重合]
実施例1と比べて、セルロース繊維の含有量、重合触媒の使用の有無と使用時にはその種類および含有量、反応時間を、表1に記載のとおりに変更した。それ以外は実施例1と同様に溶融重合をおこなった。
[0069] 溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。
[0070] [精練、固相重合]
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、精練、固相重合をおこなった。
・・・略・・・
[0088][表1]
[図:0001407846000002.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
(ア) 甲2でいう「本発明」は、「セルロース繊維とポリアミド樹脂からなり、高粘度でありながらも、換言すれば重合度が高くて高強度でありながらも、良好な色調を有する、ポリアミド樹脂組成物」(甲2[0001])に関するものであるところ、[0063]~[0067]には、「ポリアミド樹脂組成物」の実施例1が記載され、[0068]~[0070]には、実施例2~8として、「実施例1と比べて、セルロース繊維の含有量、重合触媒の使用の有無と使用時にはその種類および含有量、反応時間を、表1に記載のとおりに変更し」、「それ以外は実施例1と同様に溶融重合をおこなった」ことが、[0088][表1]とともに記載されている。
そうすると、甲2[0088][表1]より、実施例4は、実施例1([0063]~[0067])のポリアミド樹脂組成物を得る工程において、ε-カプロラクタム100質量部に対して、セルロース繊維の含有量を20質量部とし、重合触媒として亜リン酸を0.1質量部使用し、「それ以外は実施例1と同様に溶融重合をおこなった」こと、実施例4で得られた「ポリアミド樹脂組成物中の」「セルロース繊維の平均繊維径」([0060]~[0061])は、「75」「nm」であることが理解できる。
(イ) また、甲2[0043]には、「本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形することにより、成形体とすることができる。」、「射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、・・・金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化され、その後に成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド樹脂組成物の融点以上であることが好ましく、(融点+100℃)未満であることが好ましい。」ことが記載されている。
(ウ) 上記ア、上記(ア)及び(イ)より、甲2には、実施例4で得られた「ポリアミド樹脂組成物」を「射出成形することにより、成形体とする」、「成形体」の製造方法に係る発明として、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を用い、この水分散液に精製水を加えてミキサーで撹拌することで、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、(実施例1[0063])
得られたセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合し、この混合分散液を撹拌し、0.7Mpaの圧力に制圧しながら、4時間かけて240℃に昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃にて0.5時間溶融重合をおこない、(同[0064])
溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物1を払い出し、これを切断してペレットとし、(同[0065])
得られたペレットを95℃の熱水で12時間処理することで精練をおこない、その後に100℃で12時間乾燥させ、(同[0066])
乾燥したペレットを、窒素気流下において、170℃で15時間、固相重合に供する際に、(同[0067])
ε-カプロラクタム100質量部に対して、セルロース繊維の含有量を20質量部とし、重合触媒として亜リン酸を0.1質量部使用するよう変更し、それ以外は同様に溶融重合を行って、([0068]~[0070]、[0088][表1])
得られたポリアミド樹脂組成物2を射出成形することにより、成形体とする、成形体の製造方法であって、([0043])
ポリアミド樹脂組成物2中のセルロース繊維の平均繊維径は75nmであり、
射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物2は、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化され、その後に成形体として金型から取り出され、射出成形時の樹脂温度を、ポリアミド樹脂組成物2の融点以上、(融点+100℃)未満とする、成形体の製造方法。」
(当合議体注:引用発明2においては、「溶融重合終了後」の「ポリアミド樹脂組成物」と、「乾燥したペレットを、窒素気流下において、170℃で15時間、固相重合に供」して、「得られたポリアミド樹脂組成物」とを区別するために、前者を「ポリアミド樹脂組成物1」、後者を「ポリアミド樹脂組成物2」と表記している。)
(エ) 実施例4及び甲2[0043]の記載からみて、甲2には、実施例4で得られた、射出成型用の「ポリアミド樹脂組成物2」に係る発明として、次の発明(以下「引用ポリアミド樹脂組成物発明2」という。)が記載されていると認められる。
「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を用い、この水分散液に精製水を加えてミキサーで撹拌することで、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、
得られたセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合し、この混合分散液を撹拌し、0.7Mpaの圧力に制圧しながら、4時間かけて240℃に昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃にて0.5時間溶融重合をおこない、
溶融重合終了後、ポリアミド樹脂組成物1を払い出し、これを切断してペレットとし、
得られたペレットを95℃の熱水で12時間処理することで精練をおこない、その後に100℃で12時間乾燥させ、
乾燥したペレットを、窒素気流下において、170℃で15時間、固相重合に供する際に、
ε-カプロラクタム100質量部に対して、セルロース繊維の含有量を20質量部とし、重合触媒として亜リン酸を0.1質量部使用するよう変更し、それ以外は同様に溶融重合を行って、
得られた、射出成型用のポリアミド樹脂組成物2であって、
ポリアミド樹脂組成物2中のセルロース繊維の平均繊維径は75nmである、ポリアミド樹脂組成物。」
(3) 甲3に記載された事項
ア 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。なお、図表を除いて、原文(英語)の摘記を省略し、翻訳のみ記載している。
(ア) 40頁左欄下から5行~右欄5行
「2.1 材料及び調製
2.1.1 CNFの形態
CNFは、ダイセル化学工業株式会社(大阪、日本)から購入された。凍結、乾燥したCNFの形態が、図1に示されている。細かにフィブリル化された構造が見られ、サイズは数十nmから数ナノメータの範囲にある。これらの微細構造の存在は、通常、材料がポリマーと混合される時に、凝集を導く、それ故、フィラー表面の前処理がしばしば凝集を最小化するのに有効である。」
(イ) 40頁「Fig.1」
「
[図:0001407846000003.jpg]
」
(日本語訳)
「(図1略)
図1 凍結乾燥CNFの形態」
(ウ) 41頁「Table II」
「
[図:0001407846000004.jpg]
」
(日本語訳)
「テーブルII.PA11材料の一般的な特性
(テーブルII略)」
(エ) 42頁左欄12行~左欄下から3行
「2.2 試料の調製及び製造
・・・略・・・
このように、表面処理及び非表面処理のCNFは、最初にPA11パウダーと混合され、それから、セルロース含有量を希釈するために、ツイン-スクリュー押出機(スクリュー直径=15mm、スクリュー長さ/直径=45、ZSK60、Technovel Corp、大阪、日本)を用いて溶融によりPA11ペレットと混合された。フィーディングゾーンからダイまでの温度勾配は170~190℃であり、スクリュー回転レートは、250rpmであった。製品の最終組成は、重量でPA11ペレット/PA11パウダー/CNF=80/10/10であった。」
(オ) 42頁「Table III」
「
[図:0001407846000005.jpg]
」
(日本語訳)
「テーブルIII.CNF/PA11複合材料の組成
(テーブルIII略)」
(カ) 42頁右欄9行及び18~25行
(日本語訳)
「2.3 CNF/PA11複合材料の溶融粘度」
「それ故、キャピラリーレオメータ・・・略・・・及び平行プレートレオメータ・・・略・・・を使用して得られた2つの粘度測定の重ね合わせが適用された。この方法は、参照温度200℃での広範囲のせん断速度(10-2-103sec-1)での粘度測定を得るために用いられた。」
(キ) 43頁右欄19~22行
(日本語訳)
「3.2 CNF/PA11複合材料の溶融粘度
個々の複合材料のせん断速度範囲(図3)は、平行板レオメータの感度限界のため異なった。」
(ク) 43頁「Fig.3」
「
[図:0001407846000006.jpg]
」
(日本語訳)
「(図3略)
図3 様々な表面処理後に得られたCNF/PA11複合材料の粘度」
イ 甲3に記載された発明
(ア) 上記ア(ウ)の「テーブルII」より、PA11パウダー及びPA11ペレットの融点が「187℃」であること、上記ア(オ)の「テーブルIII」より、「PA11/CNF(ポリアミド11/セルロースナノファイバー)複合材料」は、「PA11」90重量%(「PA11ペレット」80質量%、「PA11パウダー」10質量%)、「非表面処理CNF」(No treated CNF)10質量%からなることが理解できる。
(イ) 上記ア(ア)~(ク)及び上記(ア)より、甲3には、次のPA11/CNF複合材料に係る発明(以下「引用PA11/CNF複合材料発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「PA11/CNF複合材料であって、
非表面処理CNFが、最初にPA11パウダーと混合され、それから、セルロース含有量を希釈するために、ツイン-スクリュー押出機(スクリュー直径=15mm、スクリュー長さ/直径=45、ZSK60、Technovel Corp、大阪、日本)を用いて溶融によりPA11ペレットと混合されたものであり、
フィーディングゾーンからダイまでの温度勾配は170~190℃であり、スクリュー回転レートは、250rpmであり、
最終組成は、PA11ペレット80質量%、PA11パウダー10質量%、非表面処理CNF10質量%であり、
PA11ペレット及びPA11パウダーの融点は187℃であり、
CNFの形態は、下記図1に示されるものであり、
200℃での粘度が、下記図3(横軸は、10-3~103sec-1のせん断速度「γ(sec-1)」を表し、縦軸は、粘度「η(Pa/sec)」を表す)に、「No treatment」として示される、PA11/CNF複合材料。
[図:0001407846000007.jpg]
図1
[図:0001407846000008.jpg]
図3」
(4) 甲4に記載された事項
ア 甲4の記載
甲4には以下の記載がある。
(ア) 1頁左欄1~13行
「1.はじめに
セルロースナノファイバー(CNF)は木材等の植物細胞を構成するセルロース繊維束をナノサイズまで細かくほぐすことで得られる直径10-100nm,長さ数μmを有するセルロース繊維である。CNFは・・・鋼鉄の1/5の密度で5倍以上の強度1),大きな比表面積,ガラスの1/50の低い線熱膨張率2)という優れた性質を有している。・・・略・・・プラスチックの強化繊維としての利用も検討されている3)-5)。
現在普及しているガラス繊維(GF)よりも低比重で繊維径が細いため,成形品は軽くて表面平滑性に優れるというメリットを有する。しかしセルロースは230~240℃を超えると分解が始まるため,成形温度の高い樹脂との複合化は困難であった。その状況下,セルロースに特定の疎水化学変性を行うことで耐熱性が向上し,ポリアミド6樹脂(PA6)などの加工温度の高いプラスチックに対しても熱劣化を抑えつつ複合化することが可能になったことが報告されている6)。さらにこの疎水化学変性はセルロース同士の水素結合を抑え,溶融混練時の解繊性を高める効果を有することが確かめられている。それにより,CNFではなく数十ミクロンの幅を有するパルプを変性したのちプラスチックと溶融混練することで変性CNF強化プラスチックを得ることが可能になった。」
(イ) 2頁左欄2行~14行及び「表1 材料配合」
「2. 実験方法
2.1 材料調製
疎水化学変性したパルプをPA6と混合,乾燥することで乾燥混合品を得た。疎水化学変性にはアセチル化を採用した。これを溶融混練することで,混練時のせん断応力によってパルプを解繊し,パルプ含有率10%の変性CNF強化PA6(変性CNF/PA6)ペレットを作製した6)。
・・・
以下の実験では表1に示す配合で実験を行った。各種測定においては記載のない限りペレットのまま測定を行っている・・・略・・・。
[図:0001407846000009.jpg]
」
(ウ) 2頁左欄下から7行~右欄6行
「2.3 動的粘弾性測定
溶融した材料の線形領域における粘弾性特性を評価するため,動的粘弾性測定装置(TA instruments社製レオメータAR-G2)を用いて,複素弾性率G*,位相差δの周波数依存性を測定した。・・・温度250℃,ひずみ0.1%において周波数0.01HzHzから100Hzまで測定を行った。
2.4 キャピラリーレオメータ測定
材料の定常せん断流動下での溶融粘度を評価するため,キャピラリーレオメータ((株)東洋精機製作所キャピログラフ1D)を用いて粘度のせん断速度依存性を評価した。キャピラリーは直径1mm,長さ10mmのものを用いて260℃において測定を行った。」
(エ) 2頁右欄下から16行~3頁左欄1行
「2.6 スパイラルフロー試験
(株)日本製鋼所製低圧発泡射出成形機J85AD-110Hに幅15mm厚さ2mmのアルキメデススパイラル形状の流路を有する金型を取り付けて流動長Lの評価を行った。ノズル温度250℃、金型温度80℃,射出圧10MPa,射出速度10~100mm/s,射出時間3sで成形を行い,計量時のトルクと成形品の流動長を測定した。
2.7 発泡射出成形
スパイラルフロー試験と同じ成形機を用いて,窒素ガスを用いた発泡射出成形を行った・・・略・・・。初期厚2mmの板状成形品の金型に射出したのちコアバック動作により発泡を行った。・・・略・・・材料は機上混合し,ノズル温度250°,金型温度60°,射出速度35mm/sで成形を行った。」
(オ) 3頁右欄1行~29行
「 3.結果及び考察
3.1 変性CNF/PA6のMFRと動的粘弾性の関係
・・・略・・・一方,図4に動的粘弾性測定装置により測定した複素弾性率G*の周波数依存性を示す。G*は与えた変形に対して位相がずれることなく発生する力の大きさに対応している。PA6に変性CNFを複合化することでGFに比べて大幅にG*が増加した。この傾向は特に低周波において顕著であった。これは長時間経過しても変形によって材料中に蓄えられた力が緩和しにくいことを示しており,CNFがネットワークを形成していることを示唆している。一方,PA6(高分子量)のG*は測定周波数全域においてPA6(ベース樹脂)の値を上方にシフトしたものとなった。また,図5に同一測定における位相差の周波数依存性を示す。これは変形に対して発生する力の遅れを示したものであり,粘性の大きさに対応する。即ち位相差が45°以下で弾性成分が強く固体的な性質を,45°以上で粘性成分が強く液体的な性質を示す。本測定周波数域において,PA6(ベース樹脂),PA6(高分子量),GF10%/PA6がいずれも位相差が45°以上であり液体的な性質を示すのに対して,変性CNF10%/PA6は位相差が45°以下であり固体的性質を示すことが特徴的である。さらG*の粘性成分から計算した粘度に相当する動的粘性率η’の周波数依存性を図6に示す。」
(カ) 4頁「図6 動的弾性率η’の周波数依存性」
「
[図:0001407846000010.jpg]
」
(キ) 4頁左欄1行~右欄18行
「 図7にキャピラリーレオメータによる溶融粘度のせん断速度依存性を示す。・・・略・・・
また,図6におけるη’と周波数の関係をコックス・メルツの経験則により,せん断速度と粘度の関係に変換したものを図8に示す。図7と8でせん断速度102s-1付近の粘度を比較すると,キャピラリーレオメータで測定した変性CNF10%/PA6の粘度は動的粘弾性測定により得られた値よりも低くなっている。これはキャピラリーレオメータにおける測定では,動的粘弾性測定に比べて大きなひずみが加えられることにより,固体的性質を示す変性CNF10%/PA6のネットワーク構造が壊れたため低い値を示したものと考えられる。」
(ク) 4頁「図7 キャピラリーレオメータ測定により得られた粘度のせん断速度依存性」
「
[図:0001407846000011.jpg]
」
(ケ) 5頁「図8 コックスメルツ則により得られた粘度とせん断速度の関係」
「
[図:0001407846000012.jpg]
」
イ 甲4に記載された発明
(ア) 上記ア(オ)によれば、上記ア(カ)の図6は、「動的弾性率η’の周波数依存性」であり、上記ア(キ)によれば、上記ア(ケ)の図8は、図6の「動的粘性率η’の周波数依存性」における動的粘成率η’と周波数の関係をコックス・メルツの経験則により変換した「粘度とせん断速度の関係」であると理解できるところ、上記ア(ウ)及び(オ)より、図6の「G*の粘性成分から計算した粘度に相当する動的弾性率η’の周波数依存性」及び図8の「せん断速度と粘度の関係」は、「動的粘弾性測定装置」を用いて「複素弾性率G*」の測定を「周波数0.01HzHzから100Hzまで」「を行った」時の「温度250℃」におけるものと理解できる。
(イ) 上記ア(ア)~(ケ)及び上記(ア)より、甲4には、発泡射出成型用のパルプ含有率10%の変性CNF/PA6ペレットに係る発明として、次の発明(以下「引用変性CNF/PA6ペレット発明4」という。)が記載されていると認められる。
「疎水化学変性したパルプをPA6と混合、乾燥することで乾燥混合品を得て、疎水化学変性にはアセチル化を採用し、これを溶融混練することで、混練時のせん断応力によってパルプを解繊して作製された、発泡射出成型用のパルプ含有率10%の変性CNF/PA6ペレットであって、
CNFは、直径10~100nm、長さ数μmを有するセルロース繊維であり、
250℃における、動的弾性率η’の周波数依存性は、下記の図6に、変性CNF10%/PA6として示されたものであり、
図6に示された動的粘性率η’の周波数依存性におけるη’と周波数の関係をコックス・メルツの経験則により変換したせん断速度と粘度の関係は、下記の図8に、変性CNF10%/PA6として示されたものである、変性CNF/PA6ペレット。
[図:0001407846000013.jpg]
図6
[図:0001407846000014.jpg]
図8 」
(ウ) 上記(イ)及び上記ア(エ)より、甲4には、引用変性CNF/PA6ペレット発明4を用いて発泡射出成形機により発泡射出成形を行い成形品を製造する方法に係る発明として、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「 疎水化学変性したパルプをPA6と混合、乾燥することで乾燥混合品を得て、疎水化学変性にはアセチル化を採用し、これを溶融混練することで、混練時のせん断応力によってパルプを解繊繊して作製された、パルプ含有率10%の変性CNF/PA6ペレットを得て、得られた変性CNF/PA6ペレットを用いて発泡射出成形機により発泡射出成形を行い成形品を製造する方法であって、
変性CNF/PA6ペレットのCNFは、直径10~100nm、長さ数μmを有するセルロース繊維であり、
250℃における、動的弾性率η’の周波数依存性は、下記の図6に、変性CNF10%/PA6として示されたものであり、
下記の図6に示された動的粘性率η’の周波数依存性におけるη’と周波数の関係をコックス・メルツの経験則により変換したせん断速度と粘度の関係は、下記の図8に、変性CNF10%/PA6として示されたものであり、
ノズル温度250℃、金型温度60℃とする、成形品を製造する方法。
(図6再掲省略)
図6
(図8再掲省略)
図8」
3 甲3を主引用例とする新規性、進歩性について
(1) 本件特許発明10について
ア 対比
本件特許発明10と、引用PA11/CNF複合材料発明3とを対比する。
(ア) 引用PA11/CNF複合材料発明3の「PA11/CNF複合材料」は、「PA11」90質量%と「非表面処理CNF」10質量%を含有する。
(イ) PA11は、融点187℃のポリアミド樹脂であるから、引用PA11/CNF複合材料発明3の「PA11」は、本件特許発明10の「(A)熱可塑性樹脂」に相当する。
また、引用PA11/CNF複合材料発明3は、本件特許発明10の、「前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂及びポリアセタール樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を含み」との構成を具備する。
(ウ) 引用PA11/CNF複合材料発明3の「CNF」は、その形態を示す図1からみて、平均繊維径は2μmを大きく下回り、1μm以下であると理解できる。
そうすると、引用PA11/CNF複合材料発明3の「非表面処理CNF」は、本件特許発明10の「(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー」に相当する。
(エ) 上記(ア)~(ウ)より、引用PA11/CNF複合材料発明3の「PA11/CNF複合材料」は、本件特許発明10の「樹脂組成物」に相当し、引用PA11/CNF複合材料発明3の「PA11/CNF複合材料」は、本件特許発明10の「樹脂組成物」の、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む」との構成を具備する。
また、CNFを含有するポリアミド樹脂は、その機械的強度、軽量性等の観点から、射出成型に適した材料である(甲1~甲4等参照)から、引用PA11/CNF複合材料発明3の「PA11/CNF複合材料」は、射出成型に適した、射出成型用のものといえる。
そうすると、引用PA11/CNF複合材料発明3の「PA11/CNF複合材料」と、本件特許発明10の「樹脂組成物」は、「射出成型用の」との点で共通する。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明10と、引用PA11/CNF複合材料発明3は、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む射出成型用の樹脂組成物であって、前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂及びポリアセタール樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を含む、樹脂組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点3-10-1)
「前記樹脂組成物」が、本件特許発明10は、「前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する」のに対して、引用PA11/CNF複合材料発明3の「PA11/CNF複合材料」は、そのようなものであるかどうか不明である。
ウ 判断
相違点3-10-1について検討する。
(ア) 引用PA11/CNF複合材料発明3の図3の横軸は、10-3~103sec-1の範囲のせん断速度「γ(sec-1)」を表し、図3の縦軸は、参照温度200℃における粘度「η(Pa・sec)」を表すところ、図3において、せん断速度1s-1及び10s-1において、縦軸に平行な2本の補助線を引き、これら2本の補助線と、CNFが非表面処理のCNF/PA11複合材料の粘度を示す曲線(「No treatment」に対応)との交点を2つ求め、これらの2つの交点を通る横軸に平行な2本の補助線を引くと、下図のとおりとなる。
[図:0001407846000015.jpg]
(上記横軸に平行な2本の補助線と縦軸との交点の対数値を読み取るために、下図の右側の縦軸に、10E4、4E4、3E4、2E4及び1E4の標記とともに細かな複数の対数目盛り線(10本の対数目盛り線のうち一番下の線が1×104Pa・secに対応し、一番上の線が1×105Pa・secに対応する)を補助的に引いている。)
そうすると、上記の補助的に引いた対数目盛り線と横軸と平行に引かれた2本の補助線と縦軸との2つの交点から、せん断速度1s-1及び10s-1時の粘度がそれぞれ4.0×104Pa・sec程度及び1.0×104Pa・sec程度であることを大まかに読み取ることができる。
(イ) ここで、PA11(融点187℃)90質量%と(図1に示された形態の)非表面処理CNF10質量%とを溶融・混合したPA11/CNF複合材料の粘度とせん断速度の関係は、その温度に依存して変化することは技術常識に照らし明らかであるところ(令和5年12月1日に特許権者が提出した意見書に添付された乙第2号証(CAMPUSplastics |プラスチックデータシート Rilsan(R) BMNO LTD,1/5-5/5頁,[online],出力日令和5年11月18日,インターネット<URL:https://www.campusplastics.com/campus/ja/datasheet/Rilsan(R)+BMNO+TLD/ARKEMA/179/cc0582da>(当合議体注:登録商標を示す丸付き「R」を、「(R)」で代用して表記している。))の2/5頁左上のPA11(溶融温度189℃)の220℃、240℃、260℃における粘度とせん断速度との関係を示したグラフからも理解できることである。)、212℃(PA11の融点+25℃)におけるせん断速度と粘度との関係がどのようなものとなるのか、200℃における粘度とせん断速度との関係を示す図3と比較してどの程度異なるものとなるのかは不明である。
(ウ) そして、本件特許発明10における「(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス」は、本件特許明細書の【0318】及び【0321】の記載によれば、「ペレット形状の樹脂組成物から、射出成形機を用いて、ISO 294-3に準拠した多目的試験片を成形し」、ここで、「ポリアミド系材料:JIS K6920-2に準拠した条件」、「ポリオキシメチレン系材料:JIS K7364-2に準拠した条件」であり(【0318】)、「多目的試験片について」、「装置名:ARES G2 ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社」、「測定温度:各樹脂の融点+25℃」、「せん断速度:1.0~40s-1」、「25mm/40mmパラレルプレートを使用し、Gap1mm」の「試験条件で溶融時の粘弾性を測定し」、「この時の測定結果から」、「式(7)」「チキソトロピーインデックス=(せん断速度1s-1の時の粘度)/(せん断速度10s-1の時の粘度)」「に従って」「算出した」(【0321】)ものと解されるところ、上記(イ)で述べたとおり、212℃(PA11の融点+25℃)におけるせん断速度1s-1、10s-1の時の各粘度がどのような値となるか、200℃におけるせん断速度1s-1及び10s-1の時のそれぞれの粘度4.0×104Pa・sec程度及び1.0×104Pa・sec程度とどの程度異なるものとなるかは不明であり、ましてや212℃におけるせん断速度1s-1及び10s-1の時のそれぞれの粘度に基づき算出される212℃(PA11の融点+25℃)におけるチキソトロピーインデックス(せん断速度1s-1の時の粘度/10s-1の時の粘度)がどのような値となるかは一層不明である。
(エ) 本件特許明細書の実施例等の記載を参酌しても同様である、すなわち、本件特許明細書には、
チキソトロピー性に関し、
(A)【0257】には、本実施形態のギヤを構成する樹脂組成物は、ガラス繊維と比較して径が十分に小さいセルロースナノファイバーを含むことで、流動状態(熱可塑性樹脂の溶融状態)でのチキソトロピー性が大きいこと、
(B)【0260】には、本実施形態のギヤは、特定のセルロース繊維を含むことから、一態様において、溶融状態でチキソトロピー性を示すこと、
(A)熱可塑性樹脂、(B)セルロースナノファイバー及び(C)表面処理剤に関し、
(C)【0020】には、「(A)熱可塑性樹脂」の(標準ポリメタクリル酸メチル換算で測定される)数平均分子量は10000~150000の範囲であること、
(D)【0027】の、特に好ましい態様において「(A)熱可塑性樹脂」はポリアミド樹脂を含むこと、
(E)【0049】には、(B)セルロースナノファイバーの平均繊維径は、1000nm以下であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上であること、
(F)【0051】には、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーのL/D比が、20以上であること、
(G)【0071】には、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対する(B)セルロースナノファイバーの配合量は、(A)熱可塑性樹脂100質量蔀に対する(B)セルロースナノファイバーの配合量は、良好な機械的特性、然安定性及び耐久性の観点から、好ましくは5質量部以上、好ましくは8質量部以上、より好ましく10質量部以上であり、十分な成形性を得る観点から、50質量部以下、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下であること、
(H)【0093】~【0094】、【0097】~【0098】、【0102】、【0104】、【0110】、【0112】には、(C)表面処理剤によりセルロースナノファイバーの分散性を高めることができることが記載されている。
また、本件特許明細書には、実施例1~9として、
(I)【0293】~【0296】には、(A)熱可塑性樹脂として、分子量等が下記表1(【0294】)の示すものである、ポリアミドa-1~a-3(PA6(ナイロン6))、a-4~a-5(PA66(ナイロン66))、ポリアセタール(POM)a-6を用いること、
[図:0001407846000016.jpg]
、
(J)【0297】~【0306】には、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとして、平均繊維径(nm)、結晶化度(%)、L(長径)/D(短径)などが、下記表2(【0306】)に示すものである、セルロースナノファイバb-1~b-3を用いること、
[図:0001407846000017.jpg]
、
(K)【0307】~【0312】には、(C)表面処理剤として、ポリエチレンオキシド(Mn1000)47質量部と触媒としてKOH0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリプロピレンオキシド(Mn1050)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入し、反応完結後、乳酸1.2質量部で中和して得られた、Mn3100、曇点55℃、HLB値6.5である、表面処理剤C-1を用いること、
(L)【0317】には、樹脂組成物の製造条件として、ペレット状の樹脂組成物を、二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-26SS押出機(L/D=48、ベント付き)を用いて、PA6(ナイロン6)は260℃、PA66(ナイロン66)は290℃、POM系材料は200℃にシリンダー温度を設定し、(A)、(B)成分及び(C)成分等を一括混合し、押出機メインスロート部より定量フィーダーより供給して、押出量15Kg/時間、スクリュー回転数250rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断して得ること、
(M)【0318】、【0321】には、ペレット形状の樹脂組成物から、射出成形機を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形し、上記(イ)で述べた定義(【0321】)により算出した実施例1~9の樹脂組成物が、下記表4(【0343】)及び表5(【0344】)、
[図:0001407846000018.jpg]
、
[図:0001407846000019.jpg]
、
に示すようにチキソトロピーインデックス2.56~3.86を有すること、が記載されている。
(オ) 上記(エ)(L)によれば、実施例1~9の樹脂組成物は、二軸押出機を用いて、PA6(ナイロン6)は260℃、PA66(ナイロン66)は290℃、POM系材料は200℃にシリンダー温度を設定し、既に合成された(A)熱可塑性樹脂であるPA6、PA66あるいはPOMと、(B)CNF及び(C)表面処理剤等の成分とを一括混合し、溶融混練して得られたものであるところ、引用PA11/CNF複合材料発明3のPA11/CNF複合材料は、非表面処理CNFがPA11パウダーと混合され、セルロース含有量を希釈するために、ツイン-スクリュー押出機を用いて溶融によりPA11ペレットと混合されたものである点で、両者は類似の調製工程により製造されたものであるが、以下の点で異なる。
(3a) 実施例1~9の樹脂組成物は、PA6、PA66あるいはPOMを100質量部とすると、(B)CNFを34質量部程度含有するのに対して、引用PA11/CNF複合材料発明3のPA11/CNF複合材料は、PA11を90質量部、非表面処理CNFを10質量部含有しており、熱可塑性樹脂及びCNFの含有量が異なる点。
(3b) 実施例1~9の樹脂組成物は、CNFの分散性を向上させる(C)表面処理剤を含んでいるのに対して、引用PA11/CNF複合材料発明3のPA11/CNF複合材料は表面処理剤を含んでいない点。
(3c) 実施例1~9のCNFのL(長径)/D(短径)は200~450であるのに対して、引用PA11/CNF複合材料発明3においては、L/Dが不明である点。
(カ) 熱可塑性樹脂とCNFとを含む樹脂組成物の熱可塑性樹脂の融点+25℃でのせん断速度1s-1、10s-1の時の各粘度は、樹脂組成物の調製工程、熱可塑性樹脂及びCNFの含有量、CNFの分散の程度、凝集の程度、CNFの形状(径、アスペクト比)、CNFの表面処理、変性の有無、分解、劣化の程度などに依存することが技術常識に照らし明らかなところ、上記(オ)で述べた点(3a)~(3c)を踏まえると、実施例1~9の樹脂組成物のチキソトロピーインデックスが2.56~3.86を示すからといって、引用PA11/CNF複合材料発明3のPA11/CNF複合材料が、「(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する」蓋然性が高いとまでいうことはできない。引用PA11/CNF複合材料発明3のPA11/CNF複合材料が、上記(エ)(A)~(E)及び(G)に記載の事項を満たすことも考慮に入れて検討したとしても同様である。
(キ) してみると、相違点3-10-1は、実質的な相違点であるから、本件特許発明10は、甲3に記載された発明であるということはできない。
(ク) また、甲3には、(A)熱可塑性樹脂と(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物を射出成型する樹脂成形体の製造方法における樹脂組成物を(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有するものとすることは記載も示唆もされておらず、当該事項が周知の技術的事項であるとも、当業者の技術常識であるということもできない。
そうすると、引用PA11/CNF複合材料発明3において、相違点3-10-1に係る本件特許発明10の構成とすることが、当業者に容易になし得たものであるということはできない。
(ケ) 本件特許発明10の効果
本件特許発明10は、相違点3-10-1に係る構成を備えることにより、実用途における連続成形性に優れ、高摺動性と高耐久性が両立できるとの優れた効果(本件特許明細書の【0016】)を奏する。
エ 小括
本件特許発明10は、甲3に記載された発明である、あるいは、本件特許発明10は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(2) 本件特許発明11について
本件特許発明11は、本件特許発明10の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであるから、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明11は、甲3に記載された発明である、あるいは、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
4 甲4を主引用例とする新規性、進歩性について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、引用発明4とを対比する。
(ア) 引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」は、「パルプ含有率10%」であるから、「PA6」を90重量%、「変性CNF」を10重量%含有する。
PA6は、ナイロン6であり、その融点は225℃であるから、引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」の「PA6」は、本件特許発明1の、「(A)熱可塑性樹脂」に相当する。
(イ) 引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」の「混練時のせん断応力によってパルプを解繊し」た「CNF」は、「直径10~100nm、長さ数μmを有するセルロース繊維」である。
そうすると、引用発明4の「変性CNF」は、本件特許発明1の、「(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー」に相当する。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)より、引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」は、本件特許発明1の、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む」とされる、「樹脂組成物」に相当する。
(エ) 上記(ア)~(ウ)より、引用発明4の「得られた変性CNF/PA6ペレットを用いて発泡射出成形機により発泡射出成形を行い」「製造」された「成形品」は、本件特許発明1の、「樹脂組成物で構成された」とされる、「樹脂成形体」に相当する。
また、引用発明4の「成形品を製造する方法」は、本件特許発明1の、「樹脂成形体の製造方法」に相当する。
(オ) 引用発明4においては、「ノズル温度250℃」であるから、「変性CNF/PA6ペレット」の「射出成形」温度は「250℃」であるといえる。
また、引用発明4の「250℃における、動的弾性率η’の周波数依存性」を示す「図6」、あるいは、「図6に示された動的粘性率η’の周波数依存性におけるη’と周波数の関係をコックス・メルツの経験則により変換したせん断速度と粘度の関係」を示す「図8」からみて、周波数あるいはせん断速度の変化とともに「変性CNF/PA6ペレット」の動的粘弾性率あるいは粘度が変化する傾向が少なくとも理解できる。
してみると、「射出成形」温度の「250℃」では引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」がチキソトロピー性を有するといえる。
そうすると、引用発明4は、本件特許発明1の、「前記樹脂組成物がチキソトロピー性を有する温度で前記樹脂組成物を射出成型することを含む」との構成を具備するといえる。
イ 一致点及び相違点
以上の対比結果を踏まえると、本件特許発明1と、引用発明4は、
「 (A) 熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体の製造方法であって、
前記樹脂組成物がチキソトロピー性を有する温度で前記樹脂組成物を射出成型することを含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点4-1-1)
「樹脂組成物」が、本件特許発明1においては、「前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有し」ているのに対して、引用発明4においては、そのようなものであるかどうか不明である点。
ウ 判断
(ア) 引用発明4の「250℃における、動的弾性率η’の周波数依存性」を示す図6においては、縦軸の目盛り線の数は上下の枠線を入れて6であるのに対して、縦軸に沿って記載された数値(1(=100)、101、102、103、104、105、106)の数は7であって、目盛り線の数と記載された数値の数とが一致していないところ、(I)縦軸の目盛り線が正しい(記載された数値が誤り)のか、それとも、(II)縦軸に沿って記載された数値が正しい(目盛り線が誤り)のか分からない。
「図6におけるη’と周波数の関係をコックス・メルツの経験則により、せん断速度と粘度の関係に変換した」「図8」の縦軸についても同様の問題が存在する。
そうすると、「図6」、あるいは「図6のη’と周波数の関係を変換した」「図8」は、正確な図とはいえず、これらの図面から粘度の数値を有効に読み取ることはできない
「図8」が正確なものといえないことは、上記2(4)ア(キ)の「図7と8でせん断速度102s-1付近の粘度を比較すると,キャピラリーレオメータで測定した変性CNF10%/PA6の粘度は動的粘弾性測定により得られた値よりも低くなっている。」、「キャピラリーレオメータにおける測定では,動的粘弾性測定に比べて大きなひずみが加えられることにより,固体的性質を示す変性CNF10%/PA6のネットワーク構造が壊れたため低い値を示したものと考えられる。」との記載と整合していないことからも理解できる。
すなわち、仮に「図8」の縦軸に沿って記載された数値が正しい(上記(II)の場合)と考えて、縦軸を新しい5本の目盛り線により6等分し、上下の枠線を含めた変更後の目盛り線の数(7)と縦軸に沿って記載された数値の数(7)とを一致させると、特許異議申立書の14頁の中央に示された下記の図8(当合議体注:縦軸に付された5本の長い目盛り線が新しく付された目盛り線である。)が得られる。
そして、下記の図8からは、変性CNF10%/PA6のせん断速度102s-1の粘度は102[Pa・s]程度であると読み取ることができるが、「キャピラリーレオメータ測定により得られた粘度のせん断速度依存性」を示す「図7」(上記2(4)ア(ク)参照)から読み取ることができるせん断速度102s-1の粘度は、図8から読み取ることができた前記のせん断速度102s-1の粘度よりも明らかに大きく、甲4の上記記載と矛盾する。
[図:0001407846000020.jpg]
他方、「図8」の縦軸の(短い)目盛り線が正しい(上記(I)の場合)と考えたとしても、(短い)目盛り線に対応する粘度の値が不明である。
(イ) 以上のとおりであるから、引用発明4の「図6」や「図8」の縦軸は正確なものとはいえず、これらの図から有効な粘度の数値を読み取ることはできず、引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」の「(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する」蓋然性が高いということはできない。
(ウ) 本件特許明細書の実施例等の記載を参酌しても同様である、すなわち、本件特許明細書の実施例1~9の樹脂組成物は、二軸押出機を用いて、PA6(ナイロン6)は260℃、PA66(ナイロン66)は290℃、POM系材料は200℃にシリンダー温度を設定し、既に合成された(A)熱可塑性樹脂であるPA6、PA66あるいはPOMと、(B)CNF及び(C)表面処理剤等の成分とを一括混合し、溶融混練して得られたものである(上記3(1)(エ)(L)参照)ところ、引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」は、アセチル化により疎水化学変性したパルプをPA6と混合、乾燥することで乾燥混合品を得て、これを溶融混練することで、混練時のせん断応力によってパルプを解繊して作製されたものである点で、両者は類似の調製工程により製造されたものであるが、以下の点で異なる。
(4a) 実施例1~9の樹脂組成物は、PA6、PA66あるいはPOMを100質量部とすると、(B)CNFを34質量部程度含有するのに対して、引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」は、「PA6」を90重量%、「変性CNF」を10重量%含有する点。
(4b) 実施例1~9の樹脂組成物は、CNFの分散性を向上させる(C)表面処理剤を含んでいるのに対して、引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」は表面処理剤を含んでいない点。
(4c) 実施例1~9のCNFのL(長径)/D(短径)は200~450であるのに対して、引用発明4においては、「直径10~100nm、長さ数μm」であり、L/Dは200~450であるとはいえない点。
(エ) 熱可塑性樹脂とCNFとを含む樹脂組成物の熱可塑性樹脂の融点+25℃でのせん断速度1s-1、10s-1の時の各粘度は、樹脂組成物の調製工程、熱可塑性樹脂及びCNFの含有量、CNFの分散の程度、凝集の程度、CNFの形状(径、アスペクト比)、CNFの表面処理、変性の有無、分解、劣化の程度などに依存することが技術常識に照らし明らかなところ、上記(ウ)で述べた相違を踏まえると、実施例1~9の樹脂組成物のチキソトロピーインデックスが2.56~3.86を示すからといって、引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」の「(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックスが2~10を有する」蓋然性が高いということはできない。引用発明4の「変性CNF/PA6ペレット」が、上記3(1)(エ)(A)、(B)、(D)~(G)に記載の事項を満たすことも考慮に入れて検討しても同様である。
(オ) してみると、相違点4-1-1は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲4に記載された発明であるということはできない。
(カ) また、甲4には、(A)熱可塑性樹脂と(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物を射出成型する樹脂成形体の製造方法における樹脂組成物を(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有するものとすることは記載も示唆もされておらず、当該事項が周知の技術的事項であるとも、当業者の技術常識であるということもできない。
そうすると、引用発明4において、相違点4-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得たものであるということはできない。
(キ) 本件特許発明1の効果
本件特許発明1は、相違点4-1-1に係る構成を備えることにより、実用途における連続成形性に優れ、高摺動性と高耐久性が両立できるとの優れた効果(本件特許明細書の【0016】)を奏する。
エ 小括
本件特許発明1は、甲4に記載された発明である、あるいは、本件特許発明1は、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
(2) 本件特許発明2~9について
ア 本件特許発明2と、引用発明4とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点4-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明2は、甲4に記載された発明であるとも、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
イ 本件特許発明4と、引用発明4とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点4-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明4は、甲4に記載された発明であるとも、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
ウ 本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであり、本件特許発明5~9は、本件特許発明1、本件特許発明2、本件特許発明3又は本件特許発明4の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであるから、上記ア及びイで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明3、5~9は、甲4に記載された発明であるとも、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
(3) 本件特許発明10~11について
ア 本件特許発明10と、引用変性CNF/PA6ペレット発明4とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点4-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明10は、甲4に記載された発明であるとも、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
イ 本件特許発明11は、本件特許発明10の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであるから、上記(3)で述べた理由と同様な理由により、本件特許発明11は、甲4に記載された発明であるとも、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
5 甲1を主引用例とする新規性、進歩性について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、引用発明1とを対比する。
(ア) 引用発明1の「樹脂組成物2」は、「ポリアミド樹脂」である「ナイロン6」と、「平均繊維径」「88nm」の「セルロース繊維」とを含む。
「ナイロン6」は、融点225℃の熱可塑性樹脂であるから、引用発明1の「ポリアミド樹脂」である「ナイロン6」は、本件特許発明1の、「(A)熱可塑性樹脂」に相当する。
引用発明1の「セルロース繊維」は、本件特許発明1の、「(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー」に相当する。
(イ) 上記(ア)より、引用発明1の「樹脂組成物2」は、本件特許発明1の、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む」とされる、「樹脂組成物」に相当する。
(ウ) 上記(ア)と(イ)より、引用発明1の「樹脂組成物2を射出成形機に供給して」「作製」された「筐体」は、本件特許発明1の、「樹脂組成物で構成された」とされる、「樹脂成形体」に相当する。
また、引用発明1の「筐体を作製する方法」は、本件特許発明1の、「樹脂成形体の製造方法」に相当する。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と、引用発明1は、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体の製造方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
(相違点1-1-1)
「樹脂組成物」が、本件特許発明1においては、「前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有し」ているのに対して、引用発明1においては、そのようなものであるかどうか不明である点。
(相違点1-1-2)
本件特許発明1においては、「前記樹脂組成物がチキソトロピー性を有する温度で前記樹脂組成物を射出成型することを含む」のに対して、引用発明1においては、そのようなものとなっているかどうか不明である点。
ウ 判断
相違点1-1-1について検討する。
(ア) 引用発明1の「樹脂組成物2」は、平均繊維径が140nmのセルロース繊維の水分散液98質量部と、ε-カプロラクタム216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、精製水157質量部とを混合し、徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行い得られた重合体をペレットとし、得られたペレットを95℃の熱水で処理、精練、乾燥させて得られたものであり、得られた「樹脂組成物2」は、「ポリアミド樹脂組成物」であり、「ポリアミド樹脂」は「ナイロン6」であり、「ポリアミド樹脂100質量部」に対して、「平均繊維径88nm」の「セルロース繊維」を「10.0質量部」含有し、「数平均分子量(PMMA換算)は16200であ」る。
また、引用発明1の「樹脂組成物2」は、「ポリアミド樹脂中に微細なセルロース繊維が凝集することなく均一に分散されたものであり」、「曲げ弾性率、引張弾性率、曲げ強度、引張降伏強度ともに高く、熱変形温度が高く耐熱性にも優れ、MD方向の熱膨張係数が低く」、「成形時の樹脂の流動性がよく、成形性に優れるものであ」り、この「樹脂組成物2」を「射出成形」して「作製」した「筐体」も、「これらの性能を有」し、「ヒケやバリが生じることなく、外観に優れ」るものである(【0064】)。
また、甲1【0025】には、平均繊維径と平均繊維長との比であるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10以上であることが好ましく、アスペクト比が10以上であることにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性が向上しやすく、より強度が高く、線膨張係数を低いものとすることができる、と記載されるところ、上記(ア)で述べたとおり、引用発明1の「樹脂組成物2」は、機械的特性、強度に優れ、線膨張係数が小さいものであるから、引用発明1の「セルロース繊維」も、アスペクト比が10以上であると認められる(アスペクト比10以上の「セルロース繊維」は普通の構成ともいえる。)。
(イ) ここで、本件特許発明1における「(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス」は、上記3(1)ウ(ウ)で述べた定義により算出されるものであり、ナイロン6の融点は225℃であるところ、甲1には、樹脂組成物2のチキソトロピーインデックスに着目し、所定の温度でのチキソトロピーインデックスを所定の範囲とすることは記載も示唆もされていないところ、上記(ア)で述べた引用発明1の「樹脂組成物2」の製造工程、「樹脂組成物2」の組成、「ポリアミド樹脂」、「セルロース繊維」の特性及び「筐体」の特性からは、引用発明1の「ポリアミド樹脂」(「ナイロン6」)の融点(225℃)よりも25℃高い温度(250℃程度)における「樹脂組成物2」のチキソトロピーインデックス(=(せん断速度1s-1の時の粘度)/(せん断速度10s-1の時の粘度)」)の数値は全く不明である。
(ウ) 本件特許明細書の記載を参酌しても同様である、すなわち、本件特許明細書の実施例1~9の樹脂組成物は、二軸押出機を用いて、PA6(ナイロン6)は260℃、PA66(ナイロン66)は290℃、POM系材料は200℃にシリンダー温度を設定し、既に合成された(A)熱可塑性樹脂であるPA6、PA66あるいはPOMと、(B)CNF及び(C)表面処理剤等の成分とを一括混合し、溶融混練して得られたものである(上記3(1)(エ)(L)参照)ところ、引用発明1の「樹脂組成物2」は、上記(ア)のとおり、熱可塑性樹脂(ナイロン6)の重合反応を行いながらCNFと攪拌、混合して得られたものであるから、両者の製造工程は大きく異なり、その結果、製造された樹脂組成物中のポリアミド樹脂及びCNFの微視的な構造が異なる。
また、以下の点においても、両者は相違する。
(1a) 実施例1~9の樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂を100質量部とすると、(B)CNFを34質量部程度含有するのに対して、引用発明1は、「ポリアミド樹脂」100質量部に対して、「セルロース繊維」「10.0質量部」含有する点。
(1b) 実施例1~9の樹脂組成物は、CNFの分散性を向上させる(C)表面処理剤を含んでいるのに対して、引用発明1は表面処理剤を含んでいない点。
(1c) 実施例1~9のCNFのL(長径)/D(短径)は200~450であるのに対して、引用発明1においては、平均繊維長/平均繊維径が10以上であるということができる程度にとどまる点。
(1d) 引用発明1においては、「樹脂組成物2」の「240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行う」製造工程前後で、セルロース繊維の平均繊維径が140nmから88nmへと大きく変化していることから、セルロース繊維は、240℃の加熱により分解(上記2(4)ア(ア)の甲4の「セルロースは230~240℃を超えると分解が始まる」との記載を参照)、劣化していると考えられる点。
(エ) 熱可塑性樹脂とCNFとを含む樹脂組成物の熱可塑性樹脂の融点+25℃でのせん断速度1s-1、10s-1の時の各粘度は、樹脂組成物の調製工程、熱可塑性樹脂及び中のCNFの割合、CNFの分散の程度、凝集の程度、CNFの形状(径、アスペクト比)、CNFの表面処理、変性の有無、分解、劣化の程度などに依存することが技術常識に照らし明らかなところ、上記(ウ)で述べた相違を踏まえれば、実施例1~9の樹脂組成物のチキソトロピーインデックスが2.56~3.86を示すからといって、引用発明1の「樹脂組成物2」の「(A)熱可塾性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックスが2~10を有する」蓋然性が高いということはできない。引用発明1の「樹脂組成物2」が、上記3(1)(エ)で述べた(A)~(E)及び(G)で規定される構成を満たすことを考慮に入れて検討したとしても同様である。
(オ) してみると、相違点1-1-1は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。
(カ) また、甲3、甲4のいずれにも、(A)熱可塑性樹脂と(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物を射出成型する樹脂成形体の製造方法における樹脂組成物を、(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックスを2~10とすることは記載も示唆もされておらず、当該事項が周知の技術的事項であるとも、当業者の技術常識であるということもできないから、仮に、甲3、甲4に記載された技術事項を参考にすることができたとしても、相違点1-1-1に係る本件特許発明1の構成には至らない。
してみると、引用発明1において相違点1-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、甲3及び甲4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。
(キ) 本件特許発明1の効果
本件特許発明1は、相違点1-1-1に係る構成を備えることにより、実用途における連続成形性に優れ、高摺動性と高耐久性が両立できるとの優れた効果(本件特許明細書の【0016】)を奏する。
(ク) 特許異議申立書における特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、
甲第1号証には、熱可塑性樹脂と、平均繊維径が1000nm以下のセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体の射出成形方法が記載されている(特許異議申立書15頁3~5行)、
甲第3号証には、表面処理されていない未変性のセルロースナノファイバー/ポリアミド11複合材料について、せん断速度1s-1の時の粘度が4.0×104でPa・sあるとともに、せん断速度10s-1の時の粘度が1.0×104Pa・sであることが記載され、この記載から本件特許公報の段落【0260】を参照してチキソトロピーインデックスを計算するとその値は4.0となり、この4.0という値は本件特許発明1において規定される範囲内のものである(同15頁9~12行)、
甲第4号証の図8の記載から変性CNF10%/PA6についてチキソトロピーインデックスを計算すると、その値は6.6~10程度となり、甲第3号証の表面処理されていない未変成のセルロースナノファイバーについての4.0という値と大差はなく、しかも本件特許発明1の2~10という範囲に含まれている(同16頁4~11行)、
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第3号証に記載された発明あるいは甲第4号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(同16頁1~3行、12~14行)、と主張する。
しかしながら、上記3(1)ウ(ア)~(ウ)で述べたとおり、甲第3号証の200℃における粘度とせん断速度との関係を示す図3に基づき、PA11/CNF複合材料のPA11の融点(187℃)+25℃におけるチキソトロピーインデックスを導くことはできない。仮に、甲3の図3に基づき、PA11/CNF複合材料のチキソトロピーインデックスを求めることができたとしても、当該チキソトロピーインデックスを、材料、組成及び製造工程が異なる引用発明1の「樹脂組成物2」に採用する動機付けもない。
また、上記4(1)ウ(ア)及び(イ)で述べたとおり、甲第4号証の図8から粘度の数値を有効に読み取ることもできない。仮に、甲4の図8から変性CNF10%/PA6についてのチキソトロピーインデックスを求めることができたとしても、材料、組成及び製造工程が異なる引用発明1の「樹脂組成物2」に採用する動機付けもない。
してみると、特許異議申立人の特許異議申立書における上記主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
(2) 本件特許発明2~9について
ア 本件特許発明2と、引用発明1とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点1-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明2は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
イ 本件特許発明4と、引用発明1とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点1-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明4は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
ウ 本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであり、本件特許発明5~9は、本件特許発明1、本件特許発明2、本件特許発明3又は本件特許発明4の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであるから、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明3、5~9は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
(3) 本件特許発明10~11について
ア 本件特許発明10と、引用樹脂組成物発明1とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点1-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明10は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
イ 本件特許発明11は、本件特許発明10の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであるから、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明11は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
6 甲2を主引用例とする新規性、進歩性について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、引用発明2とを対比する。
(ア) 引用発明2の「ポリアミド樹脂組成物2」は、「ε-カプロラクタム100質量部に対して、セルロース繊維の含有量を20質量部とし」、「溶融重合を行っ」たものである。
「ε-カプロラクタム」は、ナイロン6(PA6)のモノマーであるから、引用発明2の「ポリアミド樹脂組成物2」は、ナイロン6と、「平均繊維」「75nm」の「セルロース繊維」を含有する。
引用発明2のナイロン6及び「セルロース繊維」は、それぞれ本件特許発明1の「(A)熱可塑性樹脂」及び「(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー」に相当する。
(イ) 上記(ア)より、引用発明2の「ポリアミド樹脂組成物2」は、本件特許発明1の、「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む」とされる、「樹脂組成物」に相当する。
(ウ) 上記(ア)と(イ)より、引用発明2の「ポリアミド樹脂組成物2を射出成形することにより」「製造」された「成形体」は、本件特許発明1の、「樹脂組成物で構成された」とされる、「樹脂成形体」に相当する。
また、引用発明2の「成形体の製造方法」は、本件特許発明1の、「樹脂成形体の製造方法」に相当する。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と、引用発明2は、上記5(1)イで述べた一致点と同じ点で一致し、以下の点で一応相違する。
(相違点2-1-1)
「樹脂組成物」が、本件特許発明1においては、「前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有し」ているのに対して、引用発明2においては、そのようなものであるかどうか不明である点。
(相違点2-1-2)
本件特許発明1においては、「前記樹脂組成物がチキソトロピー性を有する温度で前記樹脂組成物を射出成型することを含む」のに対して、引用発明2においては、そのようなものであるかどうか不明である点。
ウ 判断
相違点2-1-1について検討する。
(ア) 引用発明2の「ポリアミド樹脂組成物2」は、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたセルロース繊維の水分散液に精製水を加えてミキサーで撹拌して、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、セルロース繊維の水分散液と、ε-カプロラクタムとを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合し、この混合分散液を撹拌し、0.7Mpaの圧力に制圧しながら、4時間かけて240℃に昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃にて0.5時間溶融重合を行う、溶融重合終了後、ペレットとし、ペレットを95℃の熱水で12時間処理することで精練を行い、その後に100℃で12時間乾燥させ、乾燥したペレットを、窒素気流下において、170℃で15時間、固相重合させて得られたものであり、「ポリアミド樹脂組成物2」における「ポリアミド樹脂」は、「ナイロン6」(PA6)である。
また、甲2の[0028]には、セルロース繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。アスペクト比が10以上であることにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度がより向上すると記載されるところ、引用発明2の「ポリアミド樹脂組成物2」は「曲げ強度」及び「曲げ弾性率」に優れる([0088][表1])から、引用発明2の「セルロース繊維」も、アスペクト比が10以上であると認められる(アスペクト比10以上の「セルロース繊維」は普通の構成ともいえる。)。
(イ) ここで、本件特許発明1における「(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス」は、上記3(1)ウ(ウ)で述べた定義により算出されるものであるところ、甲2には、ポリアミド樹脂組成物2のチキソトロピーインデックスに着目し、所定の温度でのチキソトロピーインデックスを所定の範囲とすることは記載も示唆もされておらず、上記(ア)で述べた引用発明2の「ポリアミド樹脂2」の製造工程、「ポリアミド樹脂組成物2」の組成、「ポリアミド樹脂」(ナイロン6)、「セルロース繊維」の特性などからは、引用発明2の「ポリアミド樹脂」(「ナイロン6」)の融点よりも25℃高い温度(250℃程度)における「ポリアミド樹脂組成物2」のチキソトロピーインデックスの数値は全く不明である。
(ウ) 本件特許明細書の記載を参酌しても同様である、すなわち、本件特許発明の実施例1~9の樹脂組成物は、二軸押出機を用いて、PA6(ナイロン6)は260℃、PA66(ナイロン66)は290℃、POM系材料は200℃にシリンダー温度を設定し、既に合成された(A)熱可塑性樹脂であるPA6、PA66あるいはPOMと、(B)CNF及び(C)表面処理剤等の成分とを一括混合し、溶融混練して得られたものである(上記3(1)(エ)(L)参照)ところ、引用発明2の「ポリアミド樹脂組成物2」は、セルロース繊維の水分散液とε-カプロラクタムとを均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合し、この混合分散液を撹拌し、4時間かけて240℃に昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃にて0.5時間溶融重合を行い、溶融重合終了後、ペレットとし、95℃の熱水で12時間処理することで精練を行い、その後に100℃で12時間乾燥させ、乾燥したペレットを、窒素気流下において、170℃で15時間、固相重合させて得られたものであるから、両者の製造工程は大きく異なり、その結果、樹脂組成物中のポリアミド樹脂及びCNFの微視的な構造が異なる。
また、以下の点においても、両者は相違する。
(2a) 実施例1~9の樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂を100質量部とすると、(B)CNFを34質量部程度含有するのに対して、引用発明2は、「ポリアミド樹脂」100質量部に対して、「セルロース繊維」「20.0質量部」含有する点。
(2b) 実施例1~9の樹脂組成物は、CNFの分散性を向上させる(C)表面処理剤を含んでいるのに対して、引用発明2は表面処理剤を含んでいない点。
(2c) 実施例1~9のCNFのL(長径)/D(短径)は200~450であるのに対して、引用発明2においては、平均繊維長/平均繊維径が10以上であるということができる程度にとどまる点。
(2d) 引用発明2においては、セルロース繊維の水分散液とε-カプロラクタムとの混合分散液を4時間かけて240℃に昇圧し、そののち240℃にて0.5時間溶融重合する際に、セルロース繊維は、240℃の加熱により分解、劣化していると考えられる点。
(エ) 熱可塑性樹脂とCNFとを含む樹脂組成物の熱可塑性樹脂の融点+25℃でのせん断速度1s-1、10s-1の時の各粘度は、樹脂組成物の調製工程、熱可塑性樹脂及びCNFの含有量、CNFの分散の程度、凝集の程度、CNFの形状(径、アスペクト比)、CNFの表面処理、変性の有無、分解、劣化の程度などに依存することが技術常識に照らし明らかなところ、上記(ウ)で述べた点を踏まえれば、実施例1~9の樹脂組成物のチキソトロピーインデックスが2.56~3.86を示すからといって、引用発明2の「ポリアミド樹脂組成物2」の「(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックスが2~10を有する」蓋然性が高いということはできない。引用発明1の「樹脂組成物2」が、上記3(1)(エ)で述べた(A)、(B)、(D)、(E)及び(G)で規定される構成を満たすことを考慮に入れて検討したとしても同様である。
(オ) してみると、相違点2-1-1は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるということはできない。
(カ) また、甲3及び甲4のいずれにも、(A)熱可塑性樹脂と(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物を射出成型する樹脂成形体の製造方法における樹脂組成物を、(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックスを2~10とすることは記載も示唆もされておらず、当該事項が周知の技術的事項であるとも、当業者の技術常識であるということもできないから、仮に、甲3、甲4に記載された技術事項を参考にすることができたとしても、相違点2-1-1に係る本件特許発明1の構成には至らない。
してみると、引用発明2において相違点2-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、甲3及び甲4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。
(キ) 本件特許発明1の効果
本件特許発明1は、相違点2-1-1に係る構成を備えることにより、実用途における連続成形性に優れ、高摺動性と高耐久性が両立できるとの優れた効果(本件特許明細書の【0016】)を奏する。
(ク) 特許異議申立書における特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、
甲第2号証には、熱可塑性樹脂と、平均繊維径が1000nm以下のセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された、ワイパーモーターギアやコピー機用ギアなどの樹脂成形体の射出成形方法が記載されている(特許異議申立書15頁6~8行)、
甲第3号証には、表面処理されていない未変性のセルロースナノファイバー/ポリアミド11複合材料について、せん断速度1s-1の時の粘度が4.0×104でPa・sあるとともに、せん断速度10s-1の時の粘度が1.0×104Pa・sであることが記載され、この記載から、本件特許公報の段落【0260】を参照してチキソトロピーインデックスを計算するとその値は4.0となり、この4.0という値は請求項1に係る本件特許発明において規定される範囲内のものである(同15頁9~12行)、
甲第4号証の図8の記載から、変性CNF10%/PA6についてチキソトロピーインデックスを計算すると、その値は6.6~10程度となり、甲第3号証の表面処理されていない未変成のセルロースナノファイバーについての4.0という値と大差はなく、しかも請求項1に係る本件特許発明の2~10という範囲に含まれている(同16頁4~11行)、
よって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証に記載された発明あるいは甲第4号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(同16頁1~3行、12~14行)、と主張する。
しかしながら、上記5(1)ウ(ク)で述べた理由と同様な理由により、特許異議申立人の特許異議申立書における上記主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
(2) 本件特許発明2~9について
ア 本件特許発明2と、引用発明2とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点2-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明2は、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
イ 本件特許発明4と、引用発明2とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点2-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明4は、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
ウ 本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであり、本件特許発明5~9は、本件特許発明1、本件特許発明2、本件特許発明3又は本件特許発明4の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであるから、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明3、5~9は、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
(3) 本件特許発明10~11について
ア 本件特許発明10と、引用樹脂組成物発明2とを対比すると、両者は、少なくとも(相違点2-1-1)と同じ点で相違する。
してみると、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明10は、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
イ 本件特許発明11は、本件特許発明10の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであるから、上記(1)ウで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明11は、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
第5 むすび
本件特許発明1~11は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~11を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700690