特許異議申立
2022-700064
薬液、基板の処理方法
- 審判番号
- 2022-700064
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-564601
- 登録番号
- 6916306
- 請求日
- 2022年01月26日
- 審決日
- 2022年10月07日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士フイルム株式会社
- 【権利者代理人】伊東 秀明
- 【権利者代理人】三橋 史生
- 【異議申立人】河井 清悦
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 恩田 春香
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L) / P1651.536-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6916306号発明「薬液、基板の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6916306号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~22〕について訂正することを認める。
特許第6916306号の請求項1~22に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6916306号の請求項1~22に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)12月19日(優先権主張 平成30年1月12日)を国際出願日として出願され、令和3年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年8月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年1月26日に特許異議申立人河井清悦により特許異議の申立てがされ、当審は、同年4月26日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年6月27日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)に対して、特許異議申立人河井清悦に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人河井清悦は応答しなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「である、薬液。」とあるのを、「である、薬液であって、前記過ヨウ素酸類の含有量が、前記薬液全質量に対して、40.0質量%以下であり、pHが8.0以下である、薬液。」と訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~22も同様に訂正する。)。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1~22〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1のうち、過ヨウ素酸類の含有量を、薬液全質量に対して、40.0質量%以下へと限定する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1のうち、薬液のpHを8.0以下へと限定する訂正も、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1の「前記過ヨウ素酸類の含有量が、前記薬液全質量に対して、40.0質量%以下であり」の訂正は、願書に添付した明細書の段落【0015】に基づくものである。
訂正事項1の「pHが8.0以下である」の訂正は。願書に添付した明細書の段落【0091】に記載の表1中の実施例A23及びA29などに基づくものである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項を概念的により下位の内容とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
3 小括
上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~22〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~22に係る発明(以下、順にそれぞれ「本件発明1」~「本件発明22」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~22に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
基板上の遷移金属含有物を除去するために用いられる薬液であって、
過ヨウ素酸及びその塩からなる群から選択される1種以上の過ヨウ素酸類と、
IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物と、を含み、
前記アニオンを含む化合物の含有量が、前記薬液全質量に対して、5質量ppb~1質量%である、薬液であって、
前記過ヨウ素酸類の含有量が、前記薬液全質量に対して、40.0質量%以下であり、
pHが8.0以下である、薬液。
【請求項2】
前記過ヨウ素酸類が、オルト過ヨウ素酸、オルト過ヨウ素酸の塩、メタ過ヨウ素酸、及び、メタ過ヨウ素酸の塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の薬液。
【請求項3】
前記過ヨウ素酸類の含有量が、前記薬液全質量に対して、37.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の薬液。
【請求項4】
前記過ヨウ素酸類の含有量が、前記薬液全質量に対して、2.0~8.0質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項5】
前記過ヨウ素酸類の含有量に対する、前記アニオンを含む化合物の含有量の比が、1×100~1×108である、請求項1~4のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項6】
前記アニオンを含む化合物が、ヨウ素酸、テトラメチルアンモニウムヨウ素酸、テトラエチルアンモニウムヨウ素酸、テトラブチルアンモニウムヨウ素酸、ヨウ素酸アンモニウム、ヨウ化水素、テトラメチルアンモニウムヨウ化物、テトラエチルアンモニウムヨウ化物、テトラブチルアンモニウムヨウ化物、ヨウ化アンモニウム、及び、三ヨウ化窒素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項7】
前記アニオンを含む化合物が、水素カチオン、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、及び、テトラブチルアンモニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項8】
前記遷移金属含有物が、Ru、Ti、Ta、Co、Cr、Hf、Os、Pt、Ni、Mn、Cu、Zr、Mo、La、W、及び、Irからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項9】
前記遷移金属含有物が、Ru含有物を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項10】
更に、pH調整剤を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項11】
前記pH調整剤が、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、テトラブチルアンモニウム水酸化物、アンモニア水、水溶性アミン、硫酸、塩酸、酢酸、硝酸、フッ酸、過塩素酸、及び、次亜塩素酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項10に記載の薬液。
【請求項12】
前記pH調整剤が、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、テトラブチルアンモニウム水酸化物、アンモニア水、及び、水溶性アミンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項10又は11項に記載の薬液。
【請求項13】
pHが8.0未満である、請求項1~12のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項14】
pHが2.5~5.0である、請求項1~13のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の薬液を用いて、基板上の遷移金属含有物を除去する工程Aを有する、基板の処理方法。
【請求項16】
前記遷移金属含有物が、Ru含有物を含む、請求項15に記載の基板の処理方法。
【請求項17】
前記工程Aが、前記薬液を用いて基板上に配置された遷移金属含有配線をリセスエッチング処理する工程A1、前記薬液を用いて遷移金属含有膜が配置された基板の外縁部の前記遷移金属含有膜を除去する工程A2、前記薬液を用いて遷移金属含有膜が配置された基板の裏面に付着する遷移金属含有物を除去する工程A3、前記薬液を用いてドライエッチング後の基板上の遷移金属含有物を除去する工程A4、又は、前記薬液を用いて化学的機械的研磨処理後の基板上の遷移金属含有物を除去する工程A5である、請求項15又は16に記載の基板の処理方法。
【請求項18】
前記工程Aが、前記工程A1であり、
前記工程A1の後、更に、フッ酸と過酸化水素水との混合液、硫酸と過酸化水素水との混合液、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、及び、塩酸と過酸化水素水との混合液からなる群から選択される溶液を用いて、前記工程A1で得られた前記基板を処理する工程Bを有する、請求項17に記載の基板の処理方法。
【請求項19】
前記工程A1と前記工程Bとを交互に繰り返し行う、請求項18に記載の基板の処理方法。
【請求項20】
前記工程Aの後、更に、リンス液を用いて、前記工程Aで得られた前記基板に対してリンス処理を行う工程Cを有する、請求項15~17のいずれか1項に記載の基板の処理方法。
【請求項21】
前記リンス液が、フッ酸、塩酸、過酸化水素水、フッ酸と過酸化水素水との混合液、硫酸と過酸化水素水との混合液、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、塩酸と過酸化水素水との混合液、二酸化炭素水、オゾン水、水素水、クエン酸水溶液、硫酸、アンモニア水、イソプロピルアルコール、次亜塩素酸水溶液、王水、超純水、硝酸、過塩素酸、シュウ酸水溶液、及び、オルト過ヨウ素酸水溶液からなる群から選択される溶液である、請求項20に記載の基板の処理方法。
【請求項22】
前記薬液の温度が20~75℃である、請求項15~21のいずれか1項に記載の基板の処理方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~22に係る特許に対して、当審が令和4年4月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 当審の判断
●理由1(特許法第36条第6項第1号)について
理由1は、具体的には、「本件発明1には、薬液が含む「過ヨウ素酸類」の含有量が、「薬液全質量に対して、40.0質量%以下」ではなく、例えば、「50.0質量%」である場合や、「薬液」のpHが、「8.0未満」ではなく、例えば、「11.0」である場合も含まれるから、その場合は、本件発明1の課題を解決することはできないので、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
したがって、請求項1において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっている。」というものである。
この点について、上記訂正事項1により、薬液が含む「過ヨウ素酸類」の含有量が、「薬液全質量に対して、40.0質量%以下」に限定され、「薬液」のpHが、「8.0以下」に限定された。これにより、本件発明1は、本件発明1の課題を解決することができる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)・第29条第2項(進歩性)について
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)について
特許異議申立人河井清悦は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1~4、6~17、22に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内において頒布された特開2001-240985号公報(以下、「甲第1号証」という。)または特開2002-16053号公報(以下、「甲第2号証」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない旨を主張する。
(2)特許法第29条第2項(進歩性)について
特許異議申立人河井清悦は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1~22に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明及び技術常識並びに周知技術(甲第3号証~甲第7号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨を主張する。
<甲号証一覧>
1.甲第1号証:特開2001-240985号公報
2.甲第2号証:特開2002-16053号公報
3.甲第3号証:特開平11-293478号公報
4.甲第4号証:特開平11-293477号公報
5.甲第5号証:特開平07-268657号公報
6.甲第6号証:特表2007-508692号公報
7.甲第7号証:国際公開第2013/147046号
(3)甲号証の記載と引用発明等
ア 甲第1号証の記載と甲1発明
(ア)甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は合議体が付加した。以下同じ。)。
「【請求項13】固体表面に供給され、該固体表面のエッチング処理を行なわせる処理液であって、少なくとも前記固体表面に酸素原子を供与する酸化剤を含んでなり、該酸化剤の酸化還元電位が前記固体表面の酸化還元電位よりも高いことを特徴とする処理液。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固体表面のエッチング処理及びその処理液に係わり、更にはこれらを用いた電子デバイスの製造方法に関する。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、酸化剤の満たすべき条件は、処理すべき固体の酸化還元電位に比較して、使用する酸化剤の酸化還元電位が高いことである。即ち、従来例である銅のエッチングの場合を例に取れば、化学便覧改訂4版基礎編II(以下文献1と呼ぶ)に記載されているように、Cu2+/Cuの酸化還元電位が0.340V(標準水素電極基準:以下電位はすべて標準水素電極基準)であるので、ヘキサシアノ鉄(III)イオン(酸化還元電位:0.361V)やペルオキソ二硫酸イオン(酸化還元電位:1.96V)によって銅の酸化が促進されるが、ヘキサシアノクロム(III)イオン(酸化還元電位:-1.14V)では銅の酸化反応は起きないことになる。
【0007】従って、最近の半導体デバイスの高集積化や高速化等の進展に伴って使用される金属、例えばルテニウムなどの貴金属のエッチング処理についても上記の電気化学的反応を考慮しなければならない。
【0008】しかしながら、従来一般的に使用されてきた過酸化水素水は、ルテニウム等の貴金属の溶解に対して用いることは不可能である。即ち、過酸化水素はルテニウムの酸化還元電位より十分に高い酸化還元電位(H2O2/H2OのpH=0での酸化還元電位:1.763V;文献1による)を有するにもかかわらず、過酸化水素水を用いた処理液ではルテニウムに対して十分なエッチング速度を得ることができない。
【0009】更にまた、従来、銅や鉄等のエッチングに良く用いられてきた、ペルオキソ二硫酸塩や硝酸を含む薬液を用いても、ルテニウム等の貴金属に対して十分なエッチング速度を確保することが困難である。
【0010】かかる背景に鑑み、半導体デバイスの製造プロセスにおいては、上記した貴金属に対して十分なエッチング速度を有する処理液の開発が広く望まれており、この実現によって、優れた性能を発揮する半導体デバイスの出現が通信、情報、画像表示等の産業分野の発展に大きく貢献する。」
「【0011】
【課題を解決するための手段】例えば、白金属の貴金属元素であるルテニウムは極めて酸化されにくいとされ、その酸化処理には酸化力の強い、即ち酸化還元電位の高い酸化剤を用いる必要がある。
・・・
【0022】溶解すべき金属はルテニウムに限定されるものではなく、例えばオスミウムなどの貴金属においても全く同様に考えることが出来る。そして、これらの貴金属の溶解に適した酸化剤は酸素原子供与性の酸化剤を含むものであって、これらに該当するものとして、次亜塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、次亜臭素酸イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、過臭素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン、亜ヨウ素酸イオン、ヨウ素酸イオン、過マンガン酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン等のイオンおよび過ヨウ素酸の何れかを含有するものであれば良い。
【0023】ところで、過ヨウ素酸を含む処理液とは、少なくとも+7価のヨウ素からなるイオン(I(OH)6+、IO4-、H4IO6-、H3IO62-など)またはオルト過ヨウ素酸(H5IO6)のうち何れかを含む処理液を指す。そして、上記した過ヨウ素酸の濃度とは、処理液に含まれる+7価のヨウ素からなるイオン及びオルト過ヨウ素酸の濃度の総和を指す。
【0024】上記の酸化剤の中で、ひとつの例として過ヨウ素酸を含む処理液をある条件下で用いると更に効率良くルテニウムまたはオスミウムを溶解させることが可能である。即ち、過ヨウ素酸を含む処理液のpHが2以上10以下、更に望ましくは4以上8以下で、かつ処理液に含まれる過ヨウ素酸の濃度が0.01mol/L以上であるとき、工業的規模で電子デバイス等の製造を行う上で十分なスループットを確保することが可能である。
【0025】そして一般には、オルト過ヨウ素酸としてアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンが十分に低濃度である、若しくはアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含まないものを用いることができるので、これらを利用した処理液を半導体製造工程に適用することが可能である。」
「【0026】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を、図面を用いて詳細に説明する。
【0027】本実施例が適用される対象物質は、特に限定されるものではないが、例えばルテニウムまたはオスミウムを含有する物質を挙げることができる。また、その対象物質の形状については、膜状、粒子状、その他複雑な構造を有するものであって、特に制限されない。
【0028】また、酸化剤の濃度や処理条件(加熱温度、攪拌方法等)についてはその詳細を以下の実施例の中で詳細に例示するが、その要旨を越えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】(第1の実施例)貴金属の代表例としてルテニウム金属を用い、種々のイオンを含む酸化剤に対するエッチング効果を検討し、その結果を表1に纏めた。
【0030】エッチングは良く知られた方法を用いて実施した。即ち、シリコンウエーハ(30×40mm)上にルテニウム薄膜(膜厚200nm)を通常のスパッタリング法を用いて形成し、そのルテニウム薄膜の一部にホトレジスト膜を良く知られた方法で塗布・ベークした後、このウエーハを室温にて酸化剤を含む溶液に約1分~30分間浸漬させる。その後、十分に水洗洗浄してからホトレジスト膜を良く知られた方法で除去した後、ルテニウム薄膜の表面に形成されたエッチング段差を一般に使用される触針式段差計を用いて計測した。尚、膜厚計測は上記の方法に限らず、例えば蛍光X線を用いた方法であっても何ら差し支えない。
【0031】
[図:0001393090000001.jpg]
【0032】この結果からも明らかのように、過酸化水素水、ペルオキソ二硫酸イオン、硝酸、ヨウ素を含む酸化剤を用いた場合にはルテニウム薄膜の溶解は殆ど認められないが、次亜塩素酸、臭素酸、及び過ヨウ素酸を用いた場合にはルテニウム薄膜の著しいエッチングが認められた。これらの酸化剤はいずれも下記の反応において、酸素原子を放出する。
【0033】
ClO- → Cl- + (O) (数2)
BrO3- → Br- +3(O) (数3)
IO4- → IO3- +(O) (数4)
H4IO6- → IO3- + 2H2O+(O) (数5)
一方、ルテニウム金属の酸化に十分な酸化還元電位を有する酸化剤であってもルテニウム金属のエッチングが殆ど確認できないものがある。例えば、前記したペルオキソ二硫酸の反応は(数1)に示すように、また、ヨウ素は下記の反応式からもわかるように、酸素原子を放出しない。
【0034】
I2 + 2e- → 2I- (数6)
従って、ルテニウム金属と結合すべき酸素原子が上記した酸化剤から供給されないので、ルテニウム金属のエッチング反応が進行しない、または通常の方法では確認されないほどエッチング反応が遅いと結論される。」
(イ)甲1発明
a 上記(ア)の記載事項から、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されている。
(a)甲第1号証には、ルテニウムを含有する物質をエッチングするための酸化剤を含む処理液に関して記載されていること(【請求項13】、【0001】、【0026】)。
(b)シリコンウエーハ上に、ルテニウム薄膜を形成し、このウェーハを室温にて当該酸化剤を含む溶液に浸漬させて、ルテニウム薄膜をエッチングすること(【0030】)。
(c)酸化剤は、過ヨウ素酸を含有し、過ヨウ素酸を含む処理液を、pHが4以上8以下で、かつ処理液に含まれる過ヨウ素酸の濃度が0.01mol/L以上である条件で用いること(【0022】、【0024】)。
(d)酸化剤として、過ヨウ素酸イオンを含む酸化剤を用いた場合にはルテニウム薄膜の著しいエッチングが認められ、この酸化剤は、「IO4- → IO3- +(O) (数4)」、「H4IO6- → IO3- + 2H2O+(O) (数5)」の反応において、酸素原子を放出するものであること(【0031】、【0032】、【0033】)。
b 上記aによれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が、記載されていると認められる。
「ルテニウムを含有する物質をエッチングするための酸化剤を含む処理液であって、
シリコンウエーハ上に形成されたルテニウム薄膜をエッチングするものであり、
酸化剤として過ヨウ素酸を含有し、
pHが4以上8以下で、かつ過ヨウ素酸の濃度が0.01mol/L以上である条件で用いられ、
酸化剤は、「IO4- → IO3- +(O) (数4)」、「H4IO6- → IO3- + 2H2O+(O) (数5)」の反応において、酸素原子を放出するものである、処理液。」
イ 甲第2号証の記載と甲2発明
(ア)甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項3】 以下の工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法;
(a)半導体基板上に遷移金属含有膜を堆積する工程、
(b)前記遷移金属含有膜をオルト過ヨウ素酸および硝酸を有する溶液によってパターニングすることにより所定の電極配線を形成する工程。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体装置の製造技術に関し、例えばルテニウム(Ru)等のような遷移金属膜をパターニングする工程を有する半導体装置の製造方法に適用して有効な技術に関するものである。」
「【0022】また、本発明は、前記ハロゲン化オキソ酸を有する溶液が、オルト過ヨウ素酸を有する溶液とするものである。
【0023】また、本発明は、前記ハロゲン化オキソ酸を有する溶液が、オルト過ヨウ素酸および硝酸を有する溶液とするものである。
・・・
【0026】また、本発明は、前記遷移金属が、ルテニウムとするものである。」
「【0048】(実施の形態1)本発明の技術思想は、遷移金属含有膜をハロゲン化オキソ酸を有する溶液によってパターニングすることにより所定の電極配線を形成する技術である。
【0049】まず、本実施の形態の説明の前に、本発明の経緯および上記溶液の組成等について説明する。本発明者らは、1G(ギガ)ビットDRAM(Dynamic Random Access Memory)のキャパシタ電極としてルテニウム等のような白金族金属(遷移金属)を用いるにあたり、ルテニウムの汚染除去を目的とした洗浄液の開発を行った。しかし、本発明者らは、半導体装置の製造プロセスで一般的に用いられている洗浄液は、ルテニウム等のような白金族金属を溶解させることが困難であることを見出した。
【0050】図1は、半導体製造プロセスで使用されている各種洗浄液によるルテニウムのエッチングレートを示している。試料は、膜厚100nmのルテニウム膜を堆積した3cm×4cm角のシリコンチップを使用し、1分間当たりにエッチングされるRu膜の厚さを測定した。図示のように、いずれの洗浄液を使用した場合も、ルテニウムのエッチングレートは0.1nm/分以下であった。なお、0.1nm/分は、ここで使用した機器の測定限界値である。この結果から、半導体製造プロセスで使用されている既知の洗浄液では、ルテニウムを除去できないことが判る。
【0051】ここで、ルテニウムの溶解メカニズムについて説明する。ルテニウム膜を除去するためには、ルテニウムを溶解することのできる薬液を用いる必要があるが、ルテニウムを溶解するためには、ルテニウムを酸化させる必要がある。ルテニウムの酸化反応は、次式に示すとおりであり、
Ru+4H2O→RuO4+8H++8e-(pH=0)
Ru+8OH-→RuO4+4H2O+8e-(pH=14)
このとき必要な酸化還元電位(E)は、酸性水溶液(pH=0)中で1.13V、アルカリ性水溶液(pH=14)中で0.30Vである。従って、ルテニウムを酸化させるためには、酸性水溶液中で1.13V以上、またはアルカリ性水溶液中で0.30V以上の酸化還元電位を持った酸化剤が必要である。
【0052】図2は、上記の値より大きい酸化還元電位を持った各種酸化剤(ヨウ素を除く)の所定濃度におけるルテニウムのエッチングレートを示している。なお、使用した試料およびエッチングレートの測定方法は、前記図1と同じである。
【0053】図示のように、ここでは酸性で大きいエッチングレートを示す酸化剤は、オルト過ヨウ素酸(H5IO6)のみである。また、アルカリ性で大きいエッチングレートを示す酸化剤は、次亜塩素酸、メタ過ヨウ素酸およびオルト過ヨウ素酸の3種である。しかし、アルカリ性で大きいエッチングレートを示す酸化剤のうち、次亜塩素酸およびメタ過ヨウ素酸は、ナトリウム(Na)のようなアルカリ金属の塩であるため、アルカリ金属による汚染を嫌う半導体製造プロセスでは使用できない。従って、これらの酸化剤のうち、ルテニウム膜の洗浄液として使用できる酸化剤は、実質的にオルト過ヨウ素酸のみといえる。酸性で使用される酸化剤の利点としては、アルカリ性で使用される酸化剤と異なり、溶質との間で塩を生成することがない点が挙げられる。
【0054】図3は、各種濃度のオルト過ヨウ素酸水溶液(温度60℃)とルテニウムのエッチングレート(nm/min)との関係を示すグラフである。図示のように、ルテニウムのエッチングレートはオルト過ヨウ素酸の濃度の増加に伴い増加することが判る。従って、オルト過ヨウ素酸水溶液をルテニウム膜の洗浄液として使用する場合は、オルト過ヨウ素酸の濃度を約10wt%~飽和濃度の範囲とすればよい。
【0055】また、本発明者は、上記オルト過ヨウ素酸水溶液に硝酸を混合することによって、Ruのエッチングレートがさらに大きくなるという知見を得た。
【0056】図4は、濃度47wt%のオルト過ヨウ素酸水溶液に硝酸を添加した水溶液(温度60℃)を使ってルテニウムをエッチングしたときの硝酸濃度とエッチングレートとの関係を示すグラフである(試料は前記図1で使用したものと同じ)。図示のように、硝酸濃度が~2mol/lの範囲では、硝酸の添加量にほぼ比例してルテニウムのエッチングレートが増加した。
・・・
【0059】このことから、ルテニウム膜の洗浄液として、オルト過ヨウ素酸と硝酸とを含んだ水溶液を使う場合は、オルト過ヨウ素酸濃度および硝酸濃度がそれぞれ20wt%~40wt%の範囲、好ましくはオルト過ヨウ素酸濃度および硝酸濃度がそれぞれ25wt%~35wt%の範囲の水溶液を使うことにより、洗浄液の濃度変化によるルテニウムのエッチングレートの変動を抑制することができ、プロセスマージンを広く取ることが可能となる。すなわち、上記濃度範囲のオルト過ヨウ素酸+硝酸混合水溶液を使用することが好ましい。
【0060】オルト過ヨウ素酸水溶液に硝酸を混合することによって、ルテニウムのエッチングレートが大きくなる理由は、次のようであると推定される。すなわち、オルト過ヨウ素酸(H5IO6)は、水溶液中で次式で示される電離平衡状態にある。
【0061】H5IO6 ⇔ H4IO6-+H+
H4IO6- ⇔ H3IO62-+H+
H3IO62- ⇔ H2IO63-+H+
H4IO6- ⇔ IO4-+H2O
2H3 IO62- ⇔ H2I2O104-+2H2O
水溶液中に含まれるこれらの分子やイオン種のうち、ルテニウムを酸化する能力を備えているのはオルト過ヨウ素酸(H5IO6)のみである。このオルト過ヨウ素酸水溶液に硝酸を加えると、水溶液中には硝酸に由来するプロトン(H+)の濃度が高くなるために、上記の平衡が左辺側に進む。その結果、ルテニウムを酸化することのできるオルト過ヨウ素酸(H5IO6)の濃度が高くなり、ルテニウムのエッチングレートが大きくなるものと推定される。
【0062】従って、硝酸に限らず上記の平衡を左辺側に進めるような酸を添加することにより、ルテニウムのエッチングレートを大きくすることができる。例えば図7は、オルト過ヨウ素酸水溶液に市販の各種酸を添加した場合のルテニウムのエッチングレートの変化を示している。図示のように、硝酸だけでなく酢酸やリン酸を添加した場合でもルテニウムのエッチングレートが大きくなることが分かる。
【0063】ルテニウムのエッチングレートを大きくする酸としては、例えば上記酢酸やHギ酸(COOH)に代表されるカルボン酸;フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)などのハロゲン化水素酸;塩素酸(HClO3)、過塩素酸(HClO4)、臭素酸(HBrO3)、過臭素酸(HBrO4)などのハロゲン化オキソ酸;・・・などの6族元素水素化物;・・・などの硫黄のオキソ酸;・・・などのポリリン酸、・・・などのリンのオキソ酸;・・・などを例示することができる。なお、硫酸の添加ではルテニウムのエッチングレートは低下する。塩酸は、塩素発生等の不都合が生じる。過酸化水素はヨウ素析出等の不都合が生じる。また、オルト過ヨウ素酸の単体またはそれに硝酸を添加した溶液を洗浄液として使用することにより、ルテニウムのエッチングレートを大幅に向上させることが可能なことについては、例えば本発明者による特願平11-245143号公報(平成11年8月31日出願)に詳細に記載されている。
【0064】また、本発明者らの新たな研究結果によれば、図8に示すように、オルト過ヨウ素酸と硝酸とを用いた溶液は、例えばルテニウムシリサイド(RuSi;ルテニウムとシリコンとの化合物)、多結晶シリコン、シリコン、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(Si3N4やプラズマSiN)および窒化チタン(TiN)等のような半導体装置を構成するルテニウム以外の多くの材料をほとんど溶解しないことが確認された。図8は、例えば60℃に加温したオルト過ヨウ素酸(濃度30wt%)と硝酸(濃度30wt%)の混合水溶液を用いた場合であり、ルテニウムシリサイド、多結晶シリコン、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン(Si3N4やプラズマSiN)および窒化チタン等の溶解速度が、例えば0.1nm/min以下に対して、ルテニウムの選択比を2000以上も得ることができた。
【0065】そこで、上記したオルト過ヨウ素酸と硝酸とを用いた溶液を、ルテニウム汚染除去液として用いる他、半導体装置の電極配線を形成するルテニウム電極配線の微細加工(パターニング)用のエッチング液として用いた。これにより、ルテニウムをドライエッチング法によってパターニングするのに比べて、以下の効果が得られる。
【0066】すなわち、異方性ドライエッチングでは除去できないような微細な部分にわたってルテニウムを等方的に除去することができるので、ルテニウムのパターニングを良好に行うことが可能となる。また、ルテニウムのパターニングに際して、ルテニウムを他の構成材料に対して選択的にエッチング除去できるので、他の部分にダメージを与えたり、除去してしまったりすることなく、ルテニウムのパターニングを良好に行うことが可能となる。これらにより、半導体装置の歩留まりを向上させることが可能となる。また、半導体装置の信頼性を向上させることが可能となる。さらに、損傷低減による素子特性の向上を図ることができ、半導体装置の性能を向上させることが可能となる。
【0067】また、ルテニウムを異方性ドライエッチング処理でパターニングする場合よりも速くパターニングすることが可能となる。また、ルテニウムを異方性ドライエッチング処理でパターニングする場合よりも製造工程の簡略化が可能となる。これらにより、半導体装置の製造上のスループットを向上させることが可能となる。また、ルテニウムを異方性ドライエッチング処理でパターニングする場合よりも安くパターニングすることが可能となる。したがって、半導体装置の製造コストを低減することが可能となる。」
(イ)甲2発明
a 上記(ア)の記載事項から、甲第2号証には、次の技術的事項が記載されている。
(a)甲第2号証には、半導体基板上に堆積されたルテニウム膜をパターニングするエッチング液に関して記載されていること(【請求項3】、【0001】、【0050】)。
(b)ルテニウムを溶解するためには、酸化剤が必要であり、使用できる酸化剤は、酸性で大きいエッチングレートを示す酸化剤であるオルト過ヨウ素酸のみであること(【0051】、【0053】)。
(c)オルト過ヨウ素酸水溶液に硝酸を混合することによって、Ruのエッチングレートがさらに大きくなること(【請求項3】,【0055】、【0060】)。
(d)硝酸に限らず、例えば、上記酢酸やHギ酸(COOH)に代表されるカルボン酸;フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)などのハロゲン化水素酸;塩素酸(HClO3)、過塩素酸(HClO4)、臭素酸(HBrO3)、過臭素酸(HBrO4)などのハロゲン化オキソ酸;6族元素水素化物;硫黄のオキソ酸;ポリリン酸、リンのオキソ酸などを添加することにより、ルテニウムのエッチングレートを大きくすることができること(【0062】、【0063】)。
b 上記aによれば、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が、記載されている。
「半導体基板上に堆積されたルテニウム膜をパターニングするエッチング液であって、
ルテニウムを溶解するためには、酸化剤として、酸性で大きいエッチングレートを示すオルト過ヨウ素酸を使用し、
オルト過ヨウ素酸水溶液に硝酸を混合することによって、Ruのエッチングレートがさらに大きくなり、
硝酸に限らず、例えば、上記酢酸やHギ酸(COOH)に代表されるカルボン酸;フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)などのハロゲン化水素酸;塩素酸(HClO3)、過塩素酸(HClO4)、臭素酸(HBrO3)、過臭素酸(HBrO4)などのハロゲン化オキソ酸;6族元素水素化物;硫黄のオキソ酸;ポリリン酸、リンのオキソ酸などを添加することにより、ルテニウムのエッチングレートを大きくすることができる、エッチング液。」
(4)本件発明1と甲1発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「処理液」、「シリコンウェーハ」、「ルテニウムを含有する物質」、「エッチングする」、「過ヨウ素酸」は、それぞれ本件発明1の「薬液」、「基板」、「遷移金属含有物」、「除去する」、「過ヨウ素酸」から「選択される1種以上の過ヨウ素酸類」に相当する。
したがって、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「過ヨウ素酸及びその塩からなる群から選択される1種以上の過ヨウ素酸類と、IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物と」、を含み、「前記アニオンを含む化合物の含有量が、前記薬液全質量に対して、5質量ppb~1質量%である」であるのに対し、甲1発明は、「酸化剤として過ヨウ素酸を含有し」、「酸化剤は、「IO4- → IO3- +(O) (数4)」、「H4IO6- → IO3- + 2H2O+(O) (数5)」の反応において、酸素原子を放出するもの」であるものの、アニオンを含む化合物を含むこと、及び、そのアニオンを含む化合物の処理液全質量に対する濃度は特定されていない点。
<相違点2>
過ヨウ素酸類の含有量について、本件発明1は、「前記過ヨウ素酸類の含有量が、前記薬液全質量に対して、40.0質量%以下」であるものの、甲1発明では、「過ヨウ素酸の濃度が0.01mol/L以上である条件で用いられ」るものであり、本件発明1のような特定はなされていない点。
イ まず、上記相違点1について、検討する。
(ア)甲1発明は、「酸化剤として過ヨウ素酸を含有し」、「酸化剤は、「IO4- → IO3- +(O) (数4)」、「H4IO6- → IO3- + 2H2O+(O) (数5)」の反応において、酸素原子を放出するもの」であるところ、「IO4- 」や「H4IO6- 」を含み、また、反応において、「IO3- 」を含むものの、「IO4- 」や「IO3- 」はアニオン(陰イオン)であり、アニオンを含む化合物ではない。また、甲1発明では、アニオンを含む化合物の含有量(濃度)についても特定されていない。
したがって、相違点1は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(イ)甲第1号証には、「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」について、記載も示唆もされていない。
また、酸化剤としての過ヨウ素酸としてを含み、ルテニウムを含有する物質をエッチングするための酸化剤を含む処理液において、該過ヨウ素酸に加え、更に、「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」を含むものとすることは、技術常識でもない。
更に、甲第3号証~甲第7号証のいずれにも、過ヨウ素酸類と、「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」と、を含む薬液は、記載されていない。
したがって、技術常識及び周知技術(甲第3号証~甲第7号証)に基づき、甲1発明において、「過ヨウ素酸」に加え、更に、「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」を含むものとする動機付けは当業者にはなく、更に、アニオンを含む化合物の含有量を上記相違点1に係る本件発明1の構成とする動機付けも当業者にはない。
よって、甲1発明において、技術常識及び周知技術(甲第3号証~甲第7号証)に基づいて、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに技術常識及び周知技術(甲第3号証~甲第7号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明1と甲2発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「エッチング液」、「半導体基板」、「ルテニウム膜」、「溶解する」、「オルト過ヨウ素酸」は、それぞれ本件発明1の「薬液」、「基板」、「遷移金属含有物」、「除去する」、「過ヨウ素酸」から「選択される1種以上の過ヨウ素酸類」に相当する。
したがって、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1は、「過ヨウ素酸及びその塩からなる群から選択される1種以上の過ヨウ素酸類と、IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物と」、を含み、「前記アニオンを含む化合物の含有量が、前記薬液全質量に対して、5質量ppb~1質量%である」であるのに対し、甲2発明は、「オルト過ヨウ素酸を使用し、オルト過ヨウ素酸水溶液に硝酸を混合することによって、Ruのエッチングレートがさらに大きくなり、硝酸に限らず、例えば、上記酢酸やHギ酸(COOH)に代表されるカルボン酸;フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)などのハロゲン化水素酸;塩素酸(HClO3)、過塩素酸(HClO4)、臭素酸(HBrO3)、過臭素酸(HBrO4)などのハロゲン化オキソ酸;6族元素水素化物;硫黄のオキソ酸;ポリリン酸、リンのオキソ酸などを添加することにより、ルテニウムのエッチングレートを大きくすることができる」ものの、「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」を含むこと、及び、そのアニオンを含む化合物のエッチング液全質量に対する濃度は特定されていない点。
<相違点4>
過ヨウ素酸類の含有量について、本件発明1は、「前記過ヨウ素酸類の含有量が、前記薬液全質量に対して、40.0質量%以下」であるものの、甲2発明では、「過ヨウ素酸の濃度が0.01mol/L以上である条件で用いられ」るものであり、本件発明1のような特定はなされていない点。
<相違点5>
本件発明1では、「pHが8.0以下である」に対し、甲2発明では、「酸性で大きいエッチングレートを示すオルト過ヨウ素酸を使用」するものの、pHについては特定されていない点。
イ まず、上記相違点3について、検討する。
(ア)甲2発明は、「酸化剤」として、「オルト過ヨウ素酸」を使用し、「硝酸を混合」、ないし、「硝酸に限らず、例えば、酢酸やHギ酸(COOH)に代表されるカルボン酸;フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)などのハロゲン化水素酸;塩素酸(HClO3)、過塩素酸(HClO4)、臭素酸(HBrO3)、過臭素酸(HBrO4)などのハロゲン化オキソ酸;6族元素水素化物;硫黄のオキソ酸;ポリリン酸、リンのオキソ酸などを添加する」ものであり、「オルト過ヨウ素酸」に混合ないし添加する化合物として、「硝酸」、及び「酢酸やHギ酸(COOH)に代表されるカルボン酸;フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)などのハロゲン化水素酸;塩素酸(HClO3)、過塩素酸(HClO4)、臭素酸(HBrO3)、過臭素酸(HBrO4)などのハロゲン化オキソ酸;6族元素水素化物;硫黄のオキソ酸;ポリリン酸、リンのオキソ酸など」が列記されており、「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」との特定はなされていない。また、甲2発明では、アニオンを含む化合物の含有量(濃度)についても特定されていない。
したがって、相違点3は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。
(イ)上記(ア)のとおり、甲2発明は、「オルト過ヨウ素酸」に混合ないし添加する化合物として、「硝酸」、及び「酢酸やHギ酸(COOH)に代表されるカルボン酸;フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)などのハロゲン化水素酸;塩素酸(HClO3)、過塩素酸(HClO4)、臭素酸(HBrO3)、過臭素酸(HBrO4)などのハロゲン化オキソ酸;6族元素水素化物;硫黄のオキソ酸;ポリリン酸、リンのオキソ酸など」が列記されている。
これらの化合物のうち、「ヨウ化水素(HI)」が唯一、本件発明1の「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」に該当するものである。また、「ハロゲン化オキソ酸」であって、ハロゲンがヨウ素である、メタ過ヨウ素酸(HIO4)やオルト過ヨウ素酸(H5IO6)も本件発明1の「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」に該当する。
一方、酸化剤として、オルト過ヨウ素酸を使用し、半導体基板上に堆積されたルテニウム膜をパターニングするエッチング液において、該オルト過ヨウ素酸に加え、更に、「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」を含むものとすることは、技術常識ではない。
また、甲第3号証~甲第7号証のいずれにも、過ヨウ素酸類と、「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」と、を含むエッチング液は、記載されていない。
したがって、技術常識及び甲第3号証~甲第7号証に記載された技術的事項に基づき、甲2発明において、「オルト過ヨウ素酸」に混合ないし添加する化合物として、硝酸やその他の多数列記された化合物から、「ヨウ化水素(HI)」を選択する、あるいは、「ハロゲン化オキソ酸」を選択し、更に、ハロゲンとしてヨウ素を選択し、メタ過ヨウ素酸(HIO4)やオルト過ヨウ素酸(H5IO6)を混合ないし添加する化合物として採用する動機付けは当業者にはなく、更に、当該化合物の含有量を上記相違点3に係る本件発明1の構成とする動機付けも当業者にはない。
よって、甲2発明において、技術常識及び周知技術(甲第3号証~甲第7号証)に基づいて、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
以上のとおりであるから、相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明並びに技術常識及び周知技術(甲第3号証~甲第7号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)よって、特許異議申立人河井清悦の上記(1)及び(2)の主張は、採用することができない。
2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
特許異議申立人河井清悦は、特許異議申立書90~92ページにおいて、訂正前の請求項1~22に係る発明に関し、「本件特許明細書の実施例では、薬液について、pHが0~8.0、過ヨウ素酸類の含有量が0.1~37.0である場合のみが記載されているに過ぎない。」(91ページ)、「請求項1の薬液として、限定のないpHおよび過ヨウ素酸類の含有量について、如何なるpHおよび過ヨウ素酸類の含有量とすればよいのか、合理的に推測することは困難であり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものと思量する。・・・、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」(92ページ)と主張する。
しかしながら、本件発明1~22に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0080】~【0115】には、実施例について説明されており、段落【0091】の表1には、実施例A1~実施例A31が示され、当業者であればその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たす。
したがって、特許異議申立人河井清悦の主張は、採用することができない。
3 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
特許異議申立人河井清悦は、特許異議申立書92~93ページにおいて、請求項1は、「過ヨウ素酸及びその塩からなる群から選択される1種以上の過ヨウ素酸類と、IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物と、を含み、」という発明特定事項を有しているが、「アニオンを含む化合物」は、上記の「過ヨウ素酸類」とは別に添加されたものであるのか、過ヨウ素酸類から生じたものを含むのか、不明確である旨を主張する。
しかしながら、過ヨウ素酸類から生じるIO3-などは、「アニオンを含む化合物」ではなく、また、本件特許明細書の段落【0016】、【0018】~【0021】、【0048】、【0081】~【0083】等の「特定化合物」に関する記載を参照すれば、請求項1に記載された「IO3-、I-、及び、I3-からなる群から選択される1種以上のアニオンを含む化合物」は、上記記載における「特定化合物」が対応することは明らかである。
したがって、請求項1において、「アニオンを含む化合物」は、上記の「過ヨウ素酸類」とは別に添加されたものであることは、明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす。
よって、特許異議申立人河井清悦の主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700064