特許異議申立
2022-700003
ポリ塩化ビニル樹脂組成物
- 審判番号
- 2022-700003
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-080921
- 登録番号
- 6898381
- 請求日
- 2022年01月05日
- 審決日
- 2022年10月24日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】花王株式会社
- 【権利者代理人】細田 芳徳
- 【異議申立人】小早川 安子
- 【異議申立人】小早川 政一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 蔵野 雅昭
- 審判官 藤代 亮
- 審判官 藤井 勲
- 分類
- P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6898381号発明「ポリ塩化ビニル樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6898381号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第6898381号の請求項1~3に係る特許を維持する。
特許第6898381号の請求項4に係る特許に対する本件の異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6898381号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成27年3月30日を出願日とする特願2015-068807号の一部を、平成31年4月22日に特願2019-080921号として新たに特許出願されたものであって、令和3年6月14日に特許権の設定登録がされ、令和3年7月7日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~4に係る特許に対し、令和4年1月5日に小早川安子及び小早川政一郎(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和4年 5月 9日付け 取消理由通知
同年 7月 6日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 8月22日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、特許異議申立人は、令和4年8月22日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和4年7月6日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6898381号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものであって、本件訂正の内容は、次の訂正事項1~2からなるものである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ポリ塩化ビニル樹脂、微細セルロース繊維の改質物、及び可塑剤を含有してなるポリ塩化ビニル樹脂組成物であって、微細セルロース繊維の改質物が、微細セルロース繊維のカルボキシ基に炭化水素基、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合郭、又はPO重合部がイオン結合を介して導入されたものである、ポリ塩化ビニル樹脂組成物。」と記載されているのを、「ポリ塩化ビニル樹脂、微細セルロース繊維の改質物、及び可塑剤を含有してなるポリ塩化ビニル樹脂組成物であって、微細セルロース繊維の改質物が、微細セルロース繊維のカルボキシ基に炭化水素基、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部、又はPO重合部がイオン結合を介して導入されたものであり、可塑剤の含有量が、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下である、ポリ塩化ビニル樹脂組成物。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~3も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の段落0110の「本発明の樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、得られる樹脂組成物の機械的強度、高温下での強度、低温下での柔軟性、成形性を向上させる観点から、好ましくは15質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは45質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは55質量部以上であり、微細セルロース繊維複合体等を含有させ、機械的強度を維持する観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは65質量部以下である。」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載の「可塑剤」の含有量を「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下である」に限定するものである。
そうすると、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」ともいう。)に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、特許請求の範囲の減縮によって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)独立特許要件について
本件特許異議申立てについては、全ての請求項が特許異議申立ての対象とされているので、訂正事項1~2のいずれについても、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項(独立特許要件)は適用されない。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用する関係にあり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
そうすると、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1~2による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1~2による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件訂正により訂正された請求項1~4に係る発明(以下、「本1発明」~「本4発明」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂、微細セルロース繊維の改質物、及び可塑剤を含有してなるポリ塩化ビニル樹脂組成物であって、微細セルロース繊維の改質物が、微細セルロース繊維のカルボキシ基に炭化水素基、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部、又はPO重合部がイオン結合を介して導入されたものであり、可塑剤の含有量が、ポリ塩ビニル樹脂100量部に対して30質量部以上200質量部以下である、ポリ塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
EO/PO共重合部中のPOの含有率が、1モル%以上である、請求項1記載のポリ塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
EO/PO共重合部の分子量が、500以上5000以下である、請求項1又は2記載のポリ塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】(削除)」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
当審が令和4年5月9日付けで通知した取消理由は解消したと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 取消理由の概要
取消理由は、次の理由1からなるものである。
理由1(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
本1~本4発明のポリ塩化ビニル樹脂組成物において、可塑剤の配合割合をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して30質量部より減少させていき可塑剤を含まない場合に近づけた場合には、「貯蔵弾性率(MPa、-30℃)」の値は3200を超えると予測され、その結果、本1発明の課題を解決できたと認識できない蓋然性が極めて高いということができる。
よって、本件特許の請求項1~4に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
2 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号の判断手法について
取消理由の「1 特許法第36条第6項第1号について」にて説示したとおり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)判断
上記(1)の観点に立って検討するに、上記第3のとおり、本件訂正による訂正後の請求項1~3の範囲は、可塑剤の配合量に関し「ポリ塩ビニル樹脂100量部に対して30質量部以上200質量部以下」のものに限定されたところ、本件特許明細書段落【0110】の「本発明の樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、得られる樹脂組成物の機械的強度、高温下での強度、低温下での柔軟性、成形性を向上させる観点から、好ましくは15質量部以上、より好ましくは30質量部以上、・・・、微細セルロース繊維複合体等を含有させ、機械的強度を維持する観点から、好ましくは200質量部以下、・・・。」なる記載と【表2】の実施例5(ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して可塑剤を30質量部含有するものであり、微細セルロース繊維の改質物はアミド結合を有するものであるが、イオン結合のものと同等の効果を奏すると認められるものである。)が100℃およびマイナス30℃における貯蔵弾性率(MPa)並びに破断伸度(%)について優れると認められる数値であることから、本1~本3発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題である「高温下においても優れた強度を維持することに加えて低温下では柔軟性が損なわれず、かつ、伸縮性にも優れるポリ塩化ビニル樹脂組成物を提供すること」(本件特許明細書【0006】、【0007】)を解決できると認識できる範囲のものであると解される。
したがって、取消理由1によって、本1~本3発明に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。
第5 特許異議申立ての理由について
1 特許異議申立ての理由
特許異議申立人が主張する取消理由は、以下のとおりである。
<申立理由1-ア>
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由1-イ>
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由2>
本件特許発明1~4は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
2 申立理由1-アについて
(1)理由1-アの概要(特許異議申立書17~20頁、「(4-1)申立ての理由1(実施可能要件、サポート要件)」の「ア 実施可能要件」項)
申立理由1-アは、要するに、本件発明は、本件特許の課題を解決することが当業者であっても理解できない範囲を含むものであるから、実施可能ではないというものである。
(2)特許法第36条第4項第1号の判断手法について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の、いわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
(3)当審の判断
まず、特許法第36条第4項第1号は、上記(2)にて説示したとおり、明細書の発明の詳細な説明の記載について「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めているのであって、仮にその発明がその課題を解決することができないものであるとしても、実施可能要件違反とは関係がない。
したがって、特許異議申立人の上記申立理由1-アにおける主張は、採用できるものではない。
次に、上記(2)の観点に立って、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすか否かを検討するに、本件特許の明細書の段落【0012】にはポリ塩化ビニル樹脂の種類について具体的に記載され、同【0013】~【0018】には微細セルロース繊維の改質物の原料である微細セルロース繊維の平均繊維径、カルボキシ基含有量、平均アスペクト比および結晶度について記載され、同【0019】には微細セルロース繊維の改質物は修飾基を有するアミンをイオン結合及び/又はアミド結合により得られることが記載され、同【0020】~【0099】には導入する炭化水素基、EO/PO共重合部又はPO重合部の具体的な構造やそれらをイオン結合又はアミン結合により導入するための具体的な方法が記載され、同【0100】~【0104】には可塑剤の種類について具体的に記載され、同【0105】~【0112】には各成分の含有量が記載され、同【0113】には樹脂組成物を公知の混練機等を用いて調製できることが記載され、同【0114】~【0117】には樹脂組成物を成形体にして日用雑貨、家電部品、自動車部品等各種用途に用いることができることが記載されており、更に実施例17~20として本1~本3発明の具体的態様である樹脂組成物が具体的な製造工程とともに記載されているところ、本1~本3発明に係る樹脂組成物を作り、かつ、該樹脂組成物を使用するための記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものと解される。
以上より、本件発明に係る特許は、申立理由1-アによって取り消すべきものとすることはできない。
3 申立理由1-イについて
(1)申立理由1-イの概要(特許異議申立書17~20頁、「(4-1)申立ての理由1(実施可能要件、サポート要件)」の「イ サポート要件」項)
申立理由1-イは、要するに、(i)可塑剤が60質量部配合された実施例17~21のみをもって、可塑剤の含有量が所定値未満の場合に本件発明の課題を解決し得るのか、仮にイオン結合ではなくアミド結合の例を可塑剤の含有量について本件発明に当てはめて参照できるとしても、可塑剤の含有量(30質量%)未満である場合に本件発明の課題を解決し得るのかが、当業者であっても理解できず、また、(ii)微細セルロース繊維のカルボキシル基に導入されたプロピル基、ドデシル基、及びEO/PO共重合部の割合(修飾率)は特に組成物の高温下での強度向上に寄与するものであり、所定量以上のカルボキシ基を含みつつ修飾率が所定値以上であることを必要とすることは当然であるところ、特定のカルボキシル基含有量と特定の修飾率を満たす実施例よりも含有量及び修飾率が低いものである場合の本件発明については本件発明の課題を解決することが当業者であっても理解できない、というものである。
(2)当審の判断
ア 可塑剤の配合量に関する判断
可塑剤の配合量に関する上記(i)については、上記「第4 取消理由通知書に記載した取消理由について」の「2 当審の判断」にて説示したとおり、「ポリ塩ビニル樹脂100量部に対して30質量部以上200質量部以下」のものに限定された本1~本3発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題である「高温下においても優れた強度を維持することに加えて低温下では柔軟性が損なわれず、かつ、伸縮性にも優れるポリ塩化ビニル樹脂組成物を提供すること」(本件特許明細書【0006】、【0007】)を解決できると認識できる範囲のものであると解される。
したがって、本件発明に係る特許は、申立理由1-イの上記(i)の点
によって取り消すべきものとすることはできない。
イ カルボキシル基含有量および修飾率に関する判断
次に、カルボキシル基含有量および修飾率に関する上記(ii)について検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】には、本件発明の課題を解決する手段に関し、「ポリ塩化ビニル樹脂に可塑剤と微細セルロース繊維を配合したところ、低温下で良好な柔軟性を示しながらも高温下での強度にも優れるものとなり、また、伸縮性にも優れることが判明した。その詳細な理由は不明であるが、比較的熱に強い微細セルロース繊維を配合することで、繊維同士が絡まり合い強度を発現するため高温領域での強度を向上させ、可塑剤が塩化ビニルのポリマー分子間に割り込んで分子間の接近を妨げるため分子間の距離が広がることで低温下での柔軟性を保持し、また、微細セルロース繊維と可塑剤の相乗効果で、高い伸縮性が得られると推察される。」と記載されている。
また、ポリ塩化ビニル樹脂、可塑剤およびカルボキシ基が修飾されていない微細セルロース繊維を含有する実施例11を参照すると、修飾率がゼロの微細セルロース繊維を含む組成物であっても、100℃およびマイナス30℃における貯蔵弾性率(MPa)が各々26および305であり、かつ破断伸度(%)が66となり、段落【0134】、【0135】にて示された、優れているとするための数値(100℃およびマイナス30℃における貯蔵弾性率(MPa)が各々4以上、3200以下、破断伸度50%以上)を満たすものとなっている。
そうすると、上記【0010】の記載および実施例11を参照した当業者であれば、高温下での強度向上はポリ塩化ビニル樹脂に比べて熱に強い微細セルロース繊維を配合することで達成され、カルボキシ基の含有量や修飾率は高温下での強度向上に大きく寄与するものではなく、また修飾率がゼロの微細セルロース繊維を含む組成物であっても本件発明の課題を解決できることが理解できるといえるから、本1~本3発明において微細セルロース繊維の改質物における修飾率や修飾基の導入に必要なカルボキシ基の含有量が特定されていないことをもって、本件発明の課題を解決できない範囲を含んでいるものとは認められない。
したがって、本件発明に係る特許は、申立理由1-イの上記(ii)の点
によって取り消すべきものとすることはできない。
ウ 申立理由1-イのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、申立理由1-イによって取り消すべきものとすることはできない。
4 申立理由2について
(1)申立理由2の概要(特許異議申立書20~31頁「(4-1)申立ての理由2」項)
申立理由2は、要するに、主たる証拠を甲1(特開2014-34616号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証))、それ以外の証拠を各々甲2(特開2015-935号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証))、甲3(特開平8-157422号公報(特許異議申立人が提出した甲第3号証))、甲4(特開2010-168409号公報(特許異議申立人が提出した甲第4号証))および甲5(ポリエーテル鎖を有するアミン化合物の商品情報 URL: https://www.tomoe.co.jp/chemical/products/detail.php?id=25QU050(特許異議申立人が提出した甲第5号証))とし、本件発明1~4は、いずれも、甲1~甲5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである、というものである。
(2)当審の判断
ア 甲1に記載されている事項
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審による。
「【請求項1】
微細セルロース繊維に炭化水素基がアミド結合を介して結合してなる微細セルロース繊維複合体と、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂とを含有する樹脂組成物。
・・・
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、前記微細セルロース繊維複合体と前記樹脂とを混合して均一混合物を得、該均一混合物を任意の形状に成形する工程を有する、樹脂組成物の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの繊維径をもった微細セルロース繊維を含有し、高い機械的強度を有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の機械的強度等を向上させる目的で、樹脂に、ナノサイズの繊維径をもった微細セルロース繊維を配合することが広く行われている。しかし、微細セルロース繊維は親水性繊維であるため、疎水性の樹脂に配合されると該樹脂中で凝集し、均一に分散されないため、目的の機械的強度の向上を達成できないという課題がある。そこで、微細セルロース繊維を表面修飾等により改質して疎水化し、疎水性の樹脂中で均一分散可能にすることが行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂中に微細セルロース繊維が均一分散され、該熱可塑性樹脂の機械的強度が向上されたセルロース繊維含有樹脂材料の製造方法として、平均繊維径2~200nmの表面処理されたセルロース繊維と有機溶媒と第一の熱可塑性樹脂とを混合後、第一の熱可塑性樹脂より分子量が大きい第二の熱可塑性樹脂を更に混合する方法が記載されている。また特許文献1には、この表面処理されたセルロース繊維の例として、セルロース繊維の水酸基を酸、アルコール類、酸無水物等の修飾剤により化学修飾したもの、あるいは2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(以下、TEMPOとも表記する)等のN-オキシル化合物の存在下、セルロース繊維を酸化剤で酸化処理したもの等が挙げられている。後者のTEMPO触媒を用いたセルロース繊維の酸化処理では、セルロースの構成モノマー単位であるグルコピラノース環中のC6位の一級水酸基のみが選択的に酸化され、アルデヒドを経由してカルボキシ基まで酸化される。
【0004】
また特許文献2には、樹脂との密着性が改善された微細セルロース繊維として、分子中にエステル化されたウロン酸残基を有し、かつセルロースI型結晶構造を有する微細セルロースエステル繊維が記載されている。特許文献2によれば、この微細セルロースエステル繊維は、TEMPO触媒を用いたセルロース繊維の酸化処理を経て得られた、カルボキシ基を含有する親水性の微細セルロース繊維の分散体に、有機オニウム化合物を含む溶液を添加することにより、該微細セルロース繊維表面のカルボン酸アルカリ金属と該有機オニウム化合物の有機オニウムイオンとのイオン交換を行って、該微細セルロース繊維を疎水化(親油化)し、更に、この疎水化された微細セルロース繊維にアルキル化剤を反応させてエステル化を行うことにより得られるとされている。
【0005】
また特許文献3には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の疎水性の樹脂と疎水化された微細セルロース繊維とを含む、機械的強度に優れた樹脂組成物が記載されている。この疎水化された微細セルロース繊維は、TEMPO触媒を用いたセルロース繊維の酸化処理を経て得られた、カルボキシ基を含有する親水性の微細セルロース繊維の分散体に、有機カチオン性物質を添加・攪拌することにより得られるもので、該微細セルロース繊維表面のカルボン酸基の水素イオンは、疎水性の有機カチオンにイオン交換されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-265357号公報
【特許文献2】特開2010-59571号公報
【特許文献3】特開2011-47084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂の機械的強度の向上等を目的として、特許文献1又は3の記載に従って、親水性から疎水性に改質された微細セルロース繊維を樹脂に配合して樹脂組成物を製造した場合、該樹脂が、意図せずに該樹脂本来の色とは異なった色に着色されてしまい、得られた樹脂組成物が意図しない色を呈するという問題があった。このような、含有されている樹脂本来の色とは異なった色の樹脂組成物は、用途が限定されてしまい汎用性に劣る。特許文献1~3には、斯かる樹脂の着色の問題について言及がなく、斯かる問題を解決し得る手段は未だ提供されていない。
【0008】
従って本発明の課題は、微細セルロース繊維と樹脂とを含有し、実用上十分な機械的強度を有し、該樹脂の着色が少ない樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、TEMPO触媒を用いたセルロース繊維の酸化処理を経て得られた、カルボキシ基を含有する親水性の微細セルロース繊維の特性(高結晶性、高アスペクト比を有する等)に着目し、斯かる特性を活かして樹脂の機械的強度を効果的に向上し得る方法について種々検討した結果、該微細セルロース繊維の表面を選択的に疎水化することにより、該微細セルロース繊維の結晶性の低下やそれに起因する機械的強度向上効果の低下が避けられるとの知見を得、更に検討した結果、該微細セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシ基を選択的にアミド化することにより、該微細セルロース繊維に固有の結晶構造を維持しつつその繊維表面を選択的に疎水化し、樹脂との相溶性を向上させることができることを知見した。また、斯かるアミド化反応により得られた微細セルロース繊維複合体と特定の樹脂との併用により、該樹脂の着色を効果的に抑制しつつその機械的強度を効果的に向上し得ることも知見した。」
「【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0089】
〔実施例1〕
(1)微細セルロース繊維の製造
針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加した。pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化を120分行った後に滴下を停止し、カルボキシ基含有セルロース繊維を得た。イオン交換水を用いてカルボキシ基含有セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、得られたカルボキシ基含有セルロース繊維100gをイオン交換水7592gに分散させ、高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-25005、(株)スギノマシン製)を用いて、吐出圧力245MPaの条件で2回処理を行った。その操作によって繊維の微細化処理を行い、微細セルロース繊維の分散液を得た。分散液の固形分濃度は1.3質量%であった。この微細セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は200、カルボキシ基含有量は1.4mmol/gであった。
【0090】
(2)微細セルロース繊維複合体の製造
ビーカーに前記微細セルロース繊維の分散液4088.75g(固形分濃度1.3質量%)とイオン交換水4085gとを加えて、固形分濃度0.5質量%の微細セルロース繊維分散液とし、メカニカルスターラーにて室温下、3時間攪拌した。続いて、この微細セルロース繊維分散液に1M塩酸水溶液を245g仕込み、室温下で1晩反応させた。反応終了後、アセトンで再沈し、ろ過、その後、アセトン/イオン交換水にて洗浄を行い、塩酸及び塩を除去した。最後にアセトンを加えろ過し、アセトンに微細セルロース繊維が膨潤した状態のアセトン含有酸型微細セルロース繊維(固形分濃度5.0質量%)を得た。【0091】 次いでメカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、前記アセトン含有酸型微細セルロース繊維509.16g(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)を仕込み、イソプロピルアルコール5000gを加えて、固形分濃度0.5質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、マグネティックスターラーにて室温下、1時間攪拌した。続いて、プロピルアミン5.45g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基3molに相当)、DMT-MM26.38gを仕込んで溶解させた後、室温下で1晩反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、メタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応のプロピルアミン及びDMT-MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にプロピル基がアミド結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を調製した。
【0092】
(3)樹脂粒子の準備
ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)を用いた。
【0093】
(4)微細セルロース繊維複合体/樹脂粒子のエマルションの調製
前記(2)で得られた微細セルロース繊維複合体をイオン交換水で固形分濃度0.5%の分散液とし、該分散液100gと、前記(3)で準備したポリエチレン樹脂エマルション8gとをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合した。これによって、目的とするエマルションを得た。
【0094】
(5)樹脂改質用添加剤の製造
前記(4)で得られたエマルションを凍結乾燥して、樹脂改質用添加剤を得た。得られた樹脂改質用添加剤における微細セルロース繊維複合体のセルロース含有量は20質量%、前記ポリエチレン樹脂エマルション由来のポリエチレンの含有量は80質量%であった。
【0095】
(6)樹脂組成物の製造
前記(5)で得られた樹脂改質用添加剤と高密度ポリエチレン樹脂(HDPE、商品名:ノバテックHD HB338RE、日本ポリエチレン(株)製)を、混練機(ラボプラストミル、東洋精機(株)製)を用いて溶融混練した。HDPE28質量部に対して、得られた樹脂改質用添加剤を2.4質量部、接着剤として接着性樹脂(アドテックスDH4200、日本ポリエチレン(株)製)2質量部加えて、150℃で10分間、回転数70rpmで混練した。得られた混練物を、プレス機(ラボプレスP2-30T、東洋精機(株)製)を用いて、160℃、0.5MPaで3分間、20MPaで1分間にわたり熱プレスし、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスした。これによって厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0096】
〔実施例2〕
メカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、実施例1で得られたアセトン含有酸型微細セルロース繊維93.02g(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)を仕込み、t-ブチルアルコール800gを加えて、固形分濃度0.5質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、室温下で1時間攪拌した。続いて、ヘキシルアミン1.46g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基3molに相当)、DMT-MM4.12gを仕込んで溶解させた後、60℃、4時間反応を行った。その後、更にヘキシルアミン1.46g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基3molに相当)、DMT-MM4.12gを仕込み、60℃、4時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、エタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応のヘキシルアミン及びDMT-MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にヘキシル基がアミド結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を調製した。この微細セルロース繊維複合体を用い、実施例1の前記(3)~(6)の手順に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0097】
〔実施例3〕
メカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、実施例1で得られたアセトン含有酸型微細セルロース繊維79.29g(固形分濃度を5.0質量%から3.3質量%に調整したもの)を仕込み、イソプロピルアルコール800gを加えて、固形分濃度0.3質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、室温下で1時間攪拌した。続いて、ドデシルアミン1.19g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基2molに相当)、DMT-MM1.78gを仕込んで溶解させた後、50℃、4時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、エタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応のドデシルアミン及びDMT-MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にドデシル基がアミド結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を調製した。この微細セルロース繊維複合体を用い、実施例1の前記(3)~(6)の手順に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、樹脂改質用添加剤を0.8質量部用いた。
【0098】
〔実施例4〕
メカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、実施例1で得られたアセトン含有酸型微細セルロース繊維(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)488.80gを仕込み、t-ブチルアルコール4800g加えて、固形分濃度0.5質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、室温下、1時間攪拌した。続いて、オクタデシルアミン17.50g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基2molに相当)、DMT-MM17.97gを仕込み溶解を確認し、55℃、6時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、メタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応オクタデシルアミン、DMT-MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にオクタデシル基がアミド結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を調製した。この微細セルロース繊維複合体を用い、実施例1の前記(3)~(6)の手順に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、樹脂改質用添加剤を0.8質量部用いた。
【0099】
〔実施例5〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維複合体をイオン交換水で固形分濃度0.5質量%の分散液とし、該分散液100gとポリ塩化ビニル樹脂(ビニブランHD-057、日信化学工業株式会社製、固形分濃度13質量%)190.4g、ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)99gをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合し、エマルションを得た。このエマルション40gをポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物をプレス機(ラボプレスP2-30T、東洋精機(株)製)を用いて、200℃、0.5MPaで3分間、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスした。これによって厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0100】
〔実施例6〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維複合体をイオン交換水で固形分濃度0.5質量%の分散液とし、該分散液100gとポリアミド樹脂(セポルジョンPA200、住友精化株式会社製、固形分濃度40質量%)61.9g、ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度40質量%)99gをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合し、エマルションを得た。このエマルション40gをポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物をプレス機(ラボプレスP2-30T、東洋精機(株)製)を用いて、180℃、0.5MPaで3分間、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスした。これによって厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0101】
〔実施例7〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維複合体をイオン交換水で固形分濃度0.5質量%の分散液とし、該分散液100gとポリカーボネート樹脂(S―3000FN、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、粉末状)24.8g、ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度40質量%)99gをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合し、エマルションを得た。このエマルション40gをポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物をプレス機(ラボプレスP2-30T、東洋精機(株)製)を用いて、200℃、0.5MPaで3分間、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスした。これによって厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0102】
〔比較例1〕
微細セルロース繊維複合体を用いず、ポリエチレン樹脂エマルションだけを、実施例1と同様にして凍結乾燥して乾燥物を得た。この乾燥物を用い、実施例1の前記「(6)樹脂組成物の製造」に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、前記乾燥物を1.9質量部用いた。
【0103】
〔比較例2〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維をアミド化せずにそのまま用いて、実施例1と同様にして凍結乾燥して乾燥物を得た。この乾燥物を用い、実施例1の前記「(6)樹脂組成物の製造」に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、前記乾燥物を2.6質量部用いた。
【0104】
〔比較例3〕
ビーカーに実施例1で得られたアセトン含有酸型微細セルロース繊維22.72g(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)を仕込み、イソプロピルアルコール133g、イオン交換水67gを加えて、固形分濃度0.5%質量のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、マグネチックスターラーにて室温下、1時間攪拌した。続いて、オクタデシルアミン1.86gを仕込み、溶解を確認後、室温下、12時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、エタノールにて洗浄を行い、未反応のオクタデシルアミンを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にオクタデシル基がイオン結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を得た。この微細セルロース繊維複合体を用い、実施例1の前記(3)~(6)の手順に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、樹脂改質用添加剤を0.8質量部用いた。
【0105】
〔比較例4〕
微細セルロース繊維複合体を用いずに、ポリ塩化ビニル樹脂(ビニブランHD-057、日信化学工業株式会社製、固形分濃度13質量%)とポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)だけを実施例5と同様に混合した後、ポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物を実施例5と同様に冷却プレスして、厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0106】
〔比較例5〕
微細セルロース繊維複合体を用いずに、ポリアミド樹脂(セポルジョンPA200、住友精化株式会社製、固形分濃度40質量%)とポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)だけを実施例6と同様に混合した後、ポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物を実施例6と同様に冷却プレスして、厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0107】
〔比較例6〕
微細セルロース繊維複合体を用いずに、ポリカーボネート樹脂(セポルジョンPA200、住友精化株式会社製、固形分濃度40質量%)とポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)だけを実施例7と同様に混合した後、ポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物を実施例7と同様に冷却プレスして、厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0108】
〔評価〕
実施例及び比較例のサンプル(樹脂組成物)について、引張弾性率及びYi値をそれぞれ下記方法により測定した。その結果を、各樹脂組成物の組成等と併せて、下記表1及び2に示す。
【0109】
<樹脂組成物の引張弾性率の測定方法>
下記の通り、樹脂組成物の形態(厚さ)に応じて、引張弾性率の測定方法は異なる。但し、測定方法の違いにかかわらず、引張弾性率が高いほど、機械的強度に優れ、高評価となる。
実施例1~4及び比較例1~3(シート状の樹脂組成物の厚さ0.5mm)
引張圧縮試験機((株)オリエンテック社製 RTA-500)を用いて複合成形体の引張弾性率、引張降伏強度及び破断伸度をそれぞれ測定した。JIS K-6251に規定される1号ダンベルで打ち抜いたサンプルを支点間距離80mmでセットし、クロスヘッド速度30mm/minで測定した。
実施例5~7及び比較例4~6(シート状の樹脂組成物の厚さ0.1mm)
引張圧縮試験機((株)オリエンテック社製 RTA-500)を用いて複合成形体の引張弾性率、引張降伏強度及び破断伸度をそれぞれ測定した。JIS K-6251に規定される2号ダンベルで打ち抜いたサンプルを支点間距離60mmでセットし、クロスヘッド速度30mm/minで測定した。
【0110】
<Yi値の測定方法>
分光測色計(CM-2500d、コニカミノルタ(株)製)を用いて、シート状の樹脂組成物の黄色度(Yi値)を測定した。ASTM E313-73に準拠し、光源として標準イルミナントD65を用い、測定径φ8mm、観察視野10℃、UV100%、SCI/SCE同時測定で行った。SCIの値をYi値とした。Yi値が小さいほど、着色度が少なく、高評価となる。
【0111】
【表1】
[図:0001393996000001.jpg]
【0112】
【表2】
[図:0001393996000002.jpg]
【0113】
実施例1~4は、それぞれ、炭化水素基がアミド結合を介して結合してなる微細セルロース繊維複合体と高密度ポリエチレンとを含む樹脂組成物であるところ、微細セルロース繊維を含まない比較例1(実施例1~4のベースポリマーに相当)、及び炭化水素基を持たない微細セルロース繊維を含む比較例2それぞれと比べて、引張弾性率が向上している。この引張弾性率の向上効果は、炭化水素基の導入によって疎水化された微細セルロース繊維が樹脂中に均一分散した結果であると考えられる。特に、実施例4は、アミド結合によってオクタデシル基が導入された微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)を含む樹脂組成物であるところ、0.5質量%という僅かな微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)の含有量ながら、比較例1の1.15倍(=1015/883)の高い引張弾性率の向上が確認された。この実施例4の引張弾性率1015MPaは、イオン結合によって同様にオクタデシル基が導入された微細セルロース繊維を含む比較例3に比べても高い値であり、このことから、微細セルロース繊維に導入される炭化水素基の結合様式として、アミド結合が有効であることがわかる。また、比較例2及び3は、これらのベースポリマーに相当する比較例1に比べて、引張弾性率は向上したものの、着色の度合いであるYi値も同時に著しく大きくなった。一方実施例1~4のYi値は低い値に留まった。実施例1~4のYi値が比較的低い理由は、アミド結合を有する微細セルロース繊維複合体の高い熱安定性によるものであると考えられる。
【0114】
実施例5~7は、それぞれ、アミド結合によってプロピル基が導入された微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)と、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリカーボネート系樹脂の何れか1種とを含む樹脂組成物である。微細セルロース繊維を含まない比較例4~6(実施例5~7のベースポリマーに相当)に比べて、引張弾性率は向上した。Yi値は比較例4~6に比べて上昇したものの、比較例2及び3に比べて小さいことから、アミド結合によって炭化水素基が導入された微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)を用いることによってYi値の上昇が抑えられたと考えられる。Yi値は25以下であれば実用上問題ないレベルである。」
イ 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
セルロースナノファイバーと、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂とを含有する樹脂組成物の製造方法であって、
(A)天然セルロース繊維をN-オキシル化合物存在下で酸化して得られたセルロースナノファイバーと、分散媒と、アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーとの混合物を得る工程、
(B)前記混合物から分散媒を除去してゲル状体を得る工程、及び
(C)前記ゲル状体中のアクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーを重合反応に付す工程、を有するセルロースナノファイバーを含む樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーからセルロースナノファイバー複合体を得た後に、該セルロースナノファイバー複合体と、前記分散媒と、前記アクリル酸系モノマー又は前記メタクリル酸系モノマーとの混合物を得る請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーに、アミド結合を介して炭化水素基を結合させて、前記セルロースナノファイバー複合体を得る請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーに、イオン結合を介して炭化水素基を結合させて、前記セルロースナノファイバー複合体を得る請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記分散媒として水を用いる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記分散媒として有機溶媒を用いる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
得られる樹脂組成物に占める前記セルロースナノファイバーの割合を、0.1質量%以上50質量%以下とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記重合反応としてラジカル重合反応を用い、
前記(A)ないし(C)のいずれかの工程において熱重合開始剤又は活性エネルギー線重合開始剤を添加する請求項1ないし7のいずれか一項に記載の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス代替の透明プラスチック基板として、柔軟性と透明性をもち、かつ耐熱性、高ガラス転移点、低線熱膨張係数を併せ持つ透明耐熱樹脂が求められている。そのような材料としては、例えば透明ポリイミドやポリエーテルスルホンなどのスーパーエンジニアリングプラスチックが知られている。しかし、それら材料は線熱膨張係数が高く、ガラス代替の材料としては十分とは言えない。また、価格が高く、工業製品として経済的に見合わない。
【0003】
ところで、天然セルロース繊維をN-オキシル化合物存在下で酸化して得られたセルロースナノファイバーを樹脂と混合して樹脂組成物となし、該樹脂の特性を高める試みが種々なされている。例えば本出願人は先に、セルロースナノファイバーと、天然樹脂又は合成樹脂のエマルジョンとを含む樹脂組成物を提案した(特許文献1参照)。特許文献2には、低線膨張係数及び高透明性を有するセルロース複合材料を得ることを目的として、平均繊維径が100nm以下であり、芳香環含有置換基で修飾されたセルロースI型結晶構造を有する修飾セルロース繊維と樹脂とを複合化することが記載されている。特許文献3には、低線膨張係数及び高透明性を有する樹脂組成物を得ることを目的として、直径が4~1000nmであるセルロースナノファイバーと有機性カチオン化合物とからなる有機化繊維を、疎水性の樹脂に含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-197122号公報
【特許文献2】特開2011-16995号公報
【特許文献3】特開2011-47084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来知られている方法ではセルロースナノファイバーを樹脂中に十分に分散させることが容易でない。また、樹脂の特性を向上させるためには、比較的多量のセルロースナノファイバーが必要である。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セルロースナノファイバーと、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂とを含有する樹脂組成物の製造方法であって、
(A)天然セルロース繊維をN-オキシル化合物存在下で酸化して得られたセルロースナノファイバーと、分散媒と、アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーとの混合物を得る工程、
(B)前記混合物から分散媒を除去してゲル状体を得る工程、及び
(C)前記ゲル状体中のアクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーを重合反応に付す工程、を有するセルロースナノファイバーを含む樹脂組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低線熱膨張係数、高光透過率及び高耐熱性を有する、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物を容易に製造することができる。」
「【0027】
(A)の工程において用いられるセルロースナノファイバー複合体は、セルロース主鎖の側鎖として炭化水素基を有している。炭化水素基は前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に対してアミド結合を介してセルロース主鎖に結合しているか、イオン結合を介してセルロース主鎖に結合している。
【0028】
以下、炭化水素基がアミド結合を介してセルロース主鎖に結合しているセルロースナノファイバー複合体(以下、「アミド結合セルロースナノファイバー複合体」とも言う。)について説明する。炭化水素基としては、例えば、炭素数1の炭化水素基、又は炭素数2~30の飽和若しくは不飽和の、直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基は、後述するように、セルロースナノファイバー複合体の製造時に原料として用いられる第1級アミン、第2級アミン若しくは第3級アミン又は第4級アンモニウム化合物由来のものである。
具体例として以下の炭化水素基が挙げられる。
・炭素数1の炭化水素基:メチル基。
・炭素数2~30の飽和の、直鎖状の炭化水素基:エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基。
・炭素数2~30の不飽和の、直鎖状の炭化水素基:オレイル基、ミリストレイル基、パルミトレイル基、リノレイル基、リノレニル基、エイコサニル基。
・炭素数2~30の飽和の、分岐状の炭化水素基:イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、イソへキシル基、2-ヘキシル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基。」
「【0030】
また前記炭化水素基の他にも、ヒドロキシエチル基及びヒドロキシプロピル基など親水基を有する炭化水素基や、エチレングリコール及びプロピレングリコールなどのポリエーテル鎖や、ラクチド及びカプロラクトンなどのポリエステル鎖を有する炭化水素基も、本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体においてアミド結合を介して結合する炭化水素基として、好適に用いられる。」
「【0032】
アミド結合セルロースナノファイバー複合体は、好ましくは、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバーの該カルボキシル基をアミド化することで得られる。この場合、セルロースナノファイバー複合体中のカルボキシル基のすべてがアミド化されていても良く、あるいはカルボキシル基がアミド化されずに残存していても良い。更にカルボキシル基が第1~3級アミン塩化又は第4級アンモニウム塩化された状態で残存していても良い。本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量は、好ましくは0mmol/g以上、更に好ましくは0.2mmol/g以上、そして、好ましくは2.9mmol/g以下、更に好ましくは1mmol/g以下、特に好ましくは0.8mmol/g以下である。より具体的には、好ましくは0mmol/g以上2.9mmol/g以下、更に好ましくは0mmol/g以上1mmol/g以下、特に好ましくは0.2mmol/g以上0.8mmol/g以下である。セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量は、次のようにして測定される。」
「【0034】
(A)の工程で用いるアミド結合セルロースナノファイバー複合体は、好ましくは、セルロースナノファイバーに、炭化水素基を有する第1級アミン化合物又は第2級アミン化合物(以下、これらを総称して「アミン化合物」とも言う。)を、アミド結合を介して結合させることで得ることができる。
【0035】
使用されるアミン化合物は、製造目的物であるセルロースナノファイバー複合体において、アミド結合を介して結合する炭化水素基を構成するものである。第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン等のモノアルキルアミンが挙げられる。第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジオクタデシルアミン等のジアルキルアミンが挙げられる。」
「【0038】
次に、炭化水素基がイオン結合を介してセルロース主鎖に結合しているセルロースナノファイバー複合体(以下、「イオン結合セルロースナノファイバー複合体」とも言う。)について説明する。イオン結合とは、カルボキシル基によって負に帯電したセルロースナノファイバーが、正に帯電した炭化水素基を有する分子と静電引力によって結合した状態を意味する。炭化水素基としては、例えば、炭素数1の炭化水素基、又は炭素数2~30の飽和若しくは不飽和の、直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基は、後述するように、セルロースナノファイバー複合体の製造時に原料として用いられる第1級アミン、第2級アミン若しくは第3級アミン又は第4級アンモニウム化合物由来のものである。したがって、イオン結合とは実質的に、セルロースナノファイバーのカルボキシル基が第1~3級アミン塩又は第4級アンモニウム塩の構造になることを意味する。炭化水素基の具体例としては、先に述べた第1級アミン及び第2級アミンを用いたアミド結合セルロースナノファイバー複合体における炭化水素基と同様のものが挙げられる。また、第3級アミン、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジラウリルモノメチルアミン等のトリアルキルアミンに含まれる炭化水素基が挙げられる。更に、第4級アンモニウム化合物、例えば、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ステアリルアンモニウムイオン等のモノアルキルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン等のトリアルキルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、トリメチルステアリルアンモニウムイオン等のトリアルキルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムイオン等のトリアルキルアリールアンモニウムイオンなどの第4級アンモニウムイオンを含む化合物に含まれる炭化水素基が挙げられる。」
「【0040】
また前記炭化水素基の他にも、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基など親水基を有する炭化水素基や、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリエーテル鎖や、ラクチド、カプロラクトンなどのポリエステル鎖を有する炭化水素基も、本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体においてイオン結合を介して結合する炭化水素基として、好適に用いられる。」
「【0042】イオン結合セルロースナノファイバー複合体はセルロースナノファイバーに対して、アミン化合物又は第4級アンモニウム化合物を反応させることで得られる。セルロースナノファイバーのカルボキシル基に対して、前記アミン化合物又は第4級アンモニウム化合物は等モル量反応する。したがって、炭化水素基の平均結合量は次式により算出される。次式において、「反応に供するセルロースナノファイバー質量」、「反応に供するアミン化合物又は第4級アンモニウム化合物質量」とは、後述するセルロースナノファイバーに炭化水素基を導入する方法において、両者を混合するときの質量を意味する。ただし、炭化水素基の平均結合量の値は炭化水素基導入前のセルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量以上の値にはならない。
炭化水素基の結合量(mmol/g)=反応に供するアミン化合物又は第4級アンモニウム化合物質量(g)/アミン化合物又は第4級アンモニウム化合物の分子量(g/mol)/ 反応に供するセルロースナノファイバー質量(g)×103
【0043】
イオン結合セルロースナノファイバー複合体は、好ましくは、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバーの該カルボキシル基をアミン塩化又は第4級アンモニウム塩化することで得られる。この場合、セルロースナノファイバー複合体中のカルボキシル基のすべてがアミン塩化又は第4級アンモニウム塩化されていても良く、あるいはカルボキシル基がアミン塩化又は第4級アンモニウム塩化されずに残存していても構わない。本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量は、好ましくは0mmol/g以上、更に好ましくは0.2mmol/g以上、そして、好ましくは2.9mmol/g以下、更に好ましくは1mmol/g以下、特に好ましくは0.8mmol/g以下である。より具体的には、好ましくは0mmol/g以上2.9mmol/g以下、更に好ましくは0mmol/g以上1mmol/g以下、特に好ましくは0.2mmol/g以上0.8mmol/g以下である。セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量は、次のようにして測定される。」
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 炭素数が9、10及び11の脂肪族アルコールの混合物(以下「C9-11アルコール」といい、また個々の成分である炭素数が9の脂肪族アルコール、炭素数が10の脂肪族アルコール、及び炭素数が11の脂肪族アルコールを、それぞれ「C9アルコール」、「C10アルコール」及び「C11アルコール」という)であって、該混合物中のC9アルコール、C10アルコール及びC11アルコールの組成比(混合物の全量を100とし、C9アルコール/C10アルコール/C11アルコールの重量組成比として表示、以下「C9-11アルコール組成比」という)が、(5~20)/(85~50)/(10~30)の範囲にあるもののフタル酸ジエステルからなることを特徴とするエステル組成物。
・・・
【請求項3】 塩化ビニル系樹脂と該樹脂100重量部に対し、請求項1または2に記載のエステル組成物10~200重量部とを配合してなる塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】 塩化ビニル系樹脂と該樹脂100重量部に対し、請求項1または2に記載のエステル組成物30~100重量部、安定剤0.1~10重量部、及び滑剤0.1~2重量部とを配合してなる電線被覆用塩化ビニル系樹脂組成物。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、塩化ビニル系樹脂用の耐熱性、耐寒性、及び加工性の優れたフタル酸系エステル組成物、及びこれを可塑剤として塩化ビニル系樹脂に混合してなる塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】塩化ビニル系樹脂の可塑剤としては、フタル酸ジエステル、脂肪族二塩基酸ジエステル、ポリエステル、燐酸エステル、エポキシ可塑剤等の種々の化合物が使用されている。これらの可塑剤は目的に応じ、単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いられているが、中でも、フタル酸ジエステル、特にフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(以下「DOP」と記す)が、可塑化効率、熱安定性、耐寒性等の諸物性が好適範囲にあり、多く使用されている。
【0003】軟質塩化ビニル系樹脂成形品の使用範囲の拡大・高度化に伴い、さらに良好な耐久性が要求されることが多くなってきており、特に、電線分野では機器の小型化により電線の細線化が進み、被覆層も薄くなっている。そのため、被覆層にも従来以上の耐久性、即ち耐熱老化性、低揮発性と、薄い被覆層でも十分絶縁が可能なように、高い体積抵抗率が要求されるようになっている。
【0004】このような、耐熱老化性を改良した可塑剤として、DOPよりも揮発性が低いフタル酸ジイソノニル(以下「DiNP」と記す)、フタル酸ジイソデシル(以下「DiDP」と記す)、及びフタル酸ジウンデシル(以下「DUP」と記す)が用いられている。また、得られる軟質塩化ビニル系樹脂シートの強度や耐寒性を改良した可塑剤として、2-プロピルヘプタノールとフタル酸とのジエステル(以下「DPHP」と記す)が、例えば特開平4-106146号公報において提案されている。」
「【0013】本発明のエステル組成物は、通常、可塑剤として塩化ビニル系樹脂100重量部に対して10~200重量部、好ましくは15~150重量部配合して、塩化ビニル系樹脂組成物として使用される。エステル組成物の配合割合が10重量部未満では、耐寒性、成形加工性改良等の効果が発現されず、また200重量部を超えるとブリード現象(可塑剤が成形品の表面へ滲み出す現象)が起こり易く、べたつきとか汚れの付着とかが発生することが多い。」
エ 甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
(a)成分として、塩化ビニル系樹脂 100質量部、
(b)成分として、(b-1)ひまし油脂肪酸の非グリセリン系エステルおよび(b-2)フタル酸エステル系可塑剤;脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;トリメリット酸エステル系可塑剤;および高分子ポリエステル系可塑剤からなる群から選択される少なくとも1種の可塑剤 30~150質量部、および
(c)安定剤1~4質量部を含有し、
前記(b-1)成分および(b-2)成分の合計量を100質量%とした場合、前記(b-1)成分が80~30質量%であり、前記(b-2)成分が20~70質量%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。」
「【0008】
本発明の目的は、非石油由来率が高く、カーボンニュートラル思想に基づく環境対応型であり、かつ、とくに耐寒性、熱老化性、耐ブリード性に優れる塩化ビニル系樹脂組成物を提供することにある。」
「【0031】
本発明において、(b)成分は、耐寒性、耐熱老化性、耐ブリード性の観点から、(a)塩化ビニル系樹脂 100質量部に対し、30~150質量部配合される。さらに好ましい(b)成分の配合割合は、(a)塩化ビニル系樹脂 100質量部に対し、30~120質量部であり、とくに好ましくは30~95質量部である。」
オ 甲5に記載された事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001393996000003.jpg]
[図:0001393996000004.jpg]
」
カ 甲1に記載された発明
上記アの甲1の記載において、実施例5に着目すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用い、TEMPOとしては、市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98質量%)を用い、次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用い、臭化ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いて、まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行い、酸化を120分行った後に滴下を停止し、カルボキシ基含有セルロース繊維を得た後にイオン交換水を用いてカルボキシ基含有セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った後、得られたカルボキシ基含有セルロース繊維100gをイオン交換水7592gに分散させ、高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-25005、(株)スギノマシン製)を用いて、吐出圧力245MPaの条件で2回処理を行うことによって繊維の微細化処理を行い、得られた微細セルロース繊維の分散液4088.75g(固形分濃度1.3質量%)を、
ビーカーにイオン交換水4085gと共に加えて、固形分濃度0.5質量%の微細セルロース繊維分散液とし、メカニカルスターラーにて室温下、3時間攪拌し、続いて、この微細セルロース繊維分散液に1M塩酸水溶液を245g仕込み、室温下で1晩反応させ、反応終了後、アセトンで再沈し、ろ過、その後、アセトン/イオン交換水にて洗浄を行い、塩酸及び塩を除去し、最後にアセトンを加えろ過し、アセトンに微細セルロース繊維が膨潤した状態のアセトン含有酸型微細セルロース繊維(固形分濃度5.0質量%)を得て、
次いでメカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、前記アセトン含有酸型微細セルロース繊維509.16g(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)を仕込み、イソプロピルアルコール5000gを加えて、固形分濃度0.5質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、マグネティックスターラーにて室温下、1時間攪拌し、続いて、プロピルアミン5.45g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基3molに相当)、DMT-MM26.38gを仕込んで溶解させた後、室温下で1晩反応を行い、反応終了後、ろ過し、その後、メタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応のプロピルアミン及びDMT-MMを除去し、最後にアセトンを加えろ過して調製した、微細セルロース繊維にプロピル基がアミド結合を介して結合した微細セルロース繊維複合体を、
イオン交換水で固形分濃度0.5質量%の分散液とし、該分散液100gとポリ塩化ビニル樹脂(ビニブランHD-057、日信化学工業株式会社製、固形分濃度13質量%)190.4g、ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)99gをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合し、エマルションを得た後に、このエマルション40gをポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得て、この乾燥物をプレス機(ラボプレスP2-30T、東洋精機(株)製)を用いて、200℃、0.5MPaで3分間、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスすることによって得られた厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物」
キ 本1発明について
(ア) 本1発明と甲1発明の対比
甲1発明の「プロピル基がアミド結合を介して結合した微細セルロース繊維複合体」は、微細セルロース繊維のカルボキシ基にプロピルアミンを反応させて得られたものであるところ、本1発明の「微細セルロース繊維の改質物」と「微細セルロース繊維の改質物が、微細セルロース繊維のカルボキシ基に炭化水素基、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部、又はPO重合部が導入されたもの」である点に限り一致する。 甲1発明の「樹脂組成物」は、ポリ塩化ビニル樹脂を含むものであるところ、本1発明の「ポリ塩化ビニル樹脂組成物」に相当するといえる。
以上によれば、本1発明と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ポリ塩化ビニル樹脂、微細セルロース繊維の改質物を含有してなるポリ塩化ビニル樹脂組成物であって、微細セルロース繊維の改質物が、微細セルロース繊維のカルボキシ基に炭化水素基、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部、又はPO重合部が導入されたものである、ポリ塩化ビニル樹脂組成物。」
<相違点1>
本1発明は、「可塑剤」を含有し、かつ該「可塑剤」の含有量について「ポリ塩ビニル樹脂100量部に対して30質量部以上200質量部以下である」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点
<相違点2>
「微細セルロース繊維の改質物」における「微細セルロース繊維のカルボキシ基」への「炭化水素基、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部、又はPO重合部」の導入を介する結合について、本1発明は「イオン結合」と特定されているのに対し、甲1発明は「アミド結合」である点
(イ) 相違点について
事案に鑑み、相違点2についてまず検討する。
甲1には、「該微細セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシ基を選択的にアミド化することにより、該微細セルロース繊維に固有の結晶構造を維持しつつその繊維表面を選択的に疎水化し、樹脂との相溶性を向上させることができることを知見した。また、斯かるアミド化反応により得られた微細セルロース繊維複合体と特定の樹脂との併用により、該樹脂の着色を効果的に抑制しつつその機械的強度を効果的に向上し得ることも知見した。」(段落【0009】)、「実施例4の引張弾性率1015MPaは、イオン結合によって同様にオクタデシル基が導入された微細セルロース繊維を含む比較例3に比べても高い値であり、このことから、微細セルロース繊維に導入される炭化水素基の結合様式として、アミド結合が有効であることがわかる。」(段落【0113】)との記載があり、これらの記載から、甲1発明は微細セルロース繊維複合体(微細セルロースの改質物)における炭化水素基がアミド結合を介して結合していることを前提とする発明であると理解できる。
そうすると、甲1に接して上記の点を理解した当業者が、甲1発明においてその前提である炭化水素基がアミド結合を介して結合している点について、アミド結合を介したものとは異なり、甲1発明の課題を解決できないことが明らかである「イオン結合」を介して炭化水素基が結合された微細セルロース繊維の改質物を用いることを着想することは強く阻害されるといえる。
また、上記イを参照すると、甲2には、微細セルロース繊維にアミド結合又はイオン結合を介して炭化水素基を結合することが記載されているといえるが、あくまでも混合する対象の樹脂はメタクリル樹脂またはアクリル樹脂であって、当該樹脂に対して低線熱膨張係数、高光透過率、高耐熱性の向上を目的として配合するものであり、ポリ塩化ビニルに配合する記載はない。 更に、甲2にはアミド結合よりもイオン結合の方が優れる事に関する記載も示唆もないところ、イオン結合ではなくアミド結合を採用することを前提としている甲1に接した当業者が、単にアミド結合とイオン結合が同等の効果を奏するものとして開示されているといえる甲2の記載に基づいてイオン結合にしてみる動機も存在しない。
また、甲3~5に関し上記ウ~オを参照しても、甲3~5にはそもそも樹脂組成物に配合する微細セルロース繊維について記載も示唆もないところ、甲1に接した当業者が微細セルロース繊維に関して甲3~5の記載を参照する動機も存在しない。
したがって、当業者が、甲1発明において、相違点2に係る構成を備えるものとすることを動機づけられることはないと認められる。
(ウ) 効果について
本1発明は、相違点1、2に係る構成を備えることとあいまって、常温において良好な機械的強度を示すだけでなく、高温下で強度が低下することなく、また、低温下では柔軟性が失われずに、かつ、伸縮性にも優れるポリ塩化ビニル樹脂組成物となる効果を奏するものである。
(エ) 本1発明についての小括
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本1発明は、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載されている事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
ク 本2~本3発明について
本2~本3発明は、いずれも本1発明を直接または間接的に引用し、さらに限定した発明に該当するが、上記のとおり、本1発明は、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載されている事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないものであるから、同様の理由により、本2~本3発明も、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載されている事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
ケ 申立理由2についての小括
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、申立理由2によって取り消すべきものとすることはできない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1~本3発明に係る特許を取り消すことができず、他に本1~本3発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項4は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700003