2022-016885
免疫チェックポイント阻害剤を使用する癌の処置法
- 審判番号
- 2022-016885
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-501155外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年10月21日
- 審決日
- 2024年12月16日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
- 【請求人代理人】山尾 憲人
- 【請求人代理人】冨田 憲史
- 【請求人代理人】笹倉 真奈美
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 8項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、2016年(平成28年)7月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年7月14日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
同年 9月 8日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月17日付け :拒絶査定
(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
(「請求の理由」の内容を補正するもの)
同年10月 2日 :意見書の提出
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)陽性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)由来腫瘍を罹患した対象を処置するための、ニボルマブを含む組成物であって、ニボルマブは対象に約240mg、ほぼ2週に1回の用量、または約480mg、ほぼ4週に1回の用量で投与されるものであり、対象はHPV陽性と同定されるものである、組成物。」
第3 拒絶の理由
令和6年4月24日付け拒絶理由通知書において当審が通知した拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。
なお、当該拒絶理由通知書の「引用例等一覧」の項には、引用例1について、以下の記載がされている。
「1.TANGUY Y. SEIWERT,ANTITUMOR ACTIVITY AND SAFETY OF PEMBROLIZUMAB IN PATIENTS (PTS) WITH ADVANCED SQUAMOUS 以下備考,ASCO MEETING ABSTRACTS [ONLINE],2015年05月29日,LBA6008,http://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/jco.2015.33.18_suppl.lba600,CELL CARCINOMA OF THE HEAD AND NECK (SCCHN): PRELIMINARY RESULTS FROM KEYNOTE-012 EXPANSION COHORT」(下線は当審合議体が付した。)
上記URLで特定されたウェブサイトには、「Antitumor activity and safety of pembrolizumab in patients (pts) with advanced squamous cell carcinoma of the head and neck (SCCHN): Preliminary results from KEYNOTE-012 expansion cohort.」とのタイトルが付されているところ、上記下線部の「以下備考」とは、タイトルの一部を末尾に記載したことを示していることは明らかである。
このため、当該拒絶理由通知における引用例等一覧の記載を適切な表記となるように正した上で、拒絶理由の概要を示す。
この出願の請求項1~13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例1~3に記載された事項並びに周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用例等一覧>
1.TANGUY Y. SEIWERT,ANTITUMOR ACTIVITY AND SAFETY OF PEMBROLIZUMAB IN PATIENTS (PTS) WITH ADVANCED SQUAMOUS CELL CARCINOMA OF THE HEAD AND NECK (SCCHN): PRELIMINARY RESULTS FROM KEYNOTE-012 EXPANSION COHORT,ASCO MEETING ABSTRACTS [ONLINE],2015年05月29日,LBA6008,http://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/jco.2015.33.18_suppl.lba6008
2.DAN P. ZANDBERG,THE ROLE OF THE PD-L1:PD-1 PATHWAY IN SQUAMOUS CELL CARCINOMA OF THE HEAD AND NECK,ORAL ONCOLOGY,英国,2014年05月10日,VOL:50, NR:7,PAGE(S):627 - 632,http://dx.doi.org/10.1016/j.oraloncology. 2014.04.003
3.Trial of Nivolumab vs Therapy of Investigator's Choice in Recurrent or Metastatic Head and Neck Carcinoma (CheckMate 141),ClinicalTrials.gov.archive,2015年07月07日,NCT02105636,https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT02105636?V_31=View#StudyPageTop
第4 当審の判断
1.引用例に記載された事項
当審の拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用例1~3には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付したものであり、原文が外国語であるものについては合議体による訳文にて示している。
(1)引用例1に記載された事項
ア(全文)
「背景:ペムブロリズマブ(MK-3475)は、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体であり、それにより、腫瘍特異的なエフェクターT細胞の活性を促進する。KEYNOTE012(NCT01848834)は、以前、PD-L1陽性腫瘍の多い再発・転移性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の患者への2週間毎に10 mg/kgのペムブロリズマブが20%の奏効率で臨床活性を示した。今回、KEYNOTE012の大規模SCCHN拡大コホートについて、バイオマーカーの状態に関係なく、3週間ごとの固定用量で報告する。方法:PD-L1の発現やHPV状態に無関係に、進行性SCCHNの患者は、3週間ごとに200mgの固定用量のペムブロリズマブのIV投与を受けた。患者は8週間ごとにX線画像で評価された。主要エンドポイントは、治験責任医師の評価による全奏効率(ORR)(RECIST 1.1)であった。副次的目標は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)であった。有害事象はCTCAE v4に従って評価された。PD-L1は免疫組織化学によってさかのぼって評価された。・・・結論:ペムブロリズマブの3週間毎に200mgの投与は、再発・転移性SCCHN患者において、忍容性が良好であり、臨床的に意義のある18.2%の全奏効率(ORR)を示した。」
(2)引用例2に記載された事項
ア(タイトル)
「頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)におけるPD-L1:PD-1経路の役割」
イ(629頁右欄14~22行)
「口腔咽頭SCCHNの病因におけるHPVの重要性が認識されていることから、現在、数名の研究者がPD-L1の発現とHPVの状態との相関を求めている。3つの独立した研究により、HPV陽性患者では陰性患者に比べてPD-L1の発現が高いことが明らかにされている・・・。後者の2つの研究は、統計的評価に十分なサンプルサイズを有しており(それぞれ181と64)、HPV陽性腫瘍で発現が高いという強い傾向が認められた。」
ウ(629頁右欄下から11~最終行)
「SCCHNでは、HPV陽性及びHPV陰性腫瘍の双方で、エフェクターT細胞上にPD-1が発現するものの、その発現の程度は、HPV陽性患者において増加しているようである。・・・これらのデータは、エフェクターT細胞上のPD-1の発現が、HPV陽性疾患において、生物学的関連性を有し、特に重要な役割を果たしているかもしれないことを示唆する。」
(3)引用例3に記載された事項
ア(「研究の特定」の項)
「正式なタイトル:プラチナ製剤不応の再発・転移性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)を対象に、ニボルマブと治験責任医師が選択した治療法を比較するオープンラベル無作為化第3相臨床試験」
イ(「治療群と治療」の項)
「疾患の進行まで、2週間に一度、ニボルマブ3mg/kgの静脈注射(IV)溶液を注入」
2.引用例1に記載された発明
前記1.(1)アから、引用例1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「進行性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の患者を処置するための、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体であるペムブロリズマブを含む組成物であって、ペムブロリズマブは患者に3週間ごとに200mgの用量で投与される組成物」
3.本願発明について
(1)対比
本願発明と引用発明1を対比する。
本願発明のニボルマブが、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体であることは周知の事項であるところ(要すれば、本願明細書の段落【0003】、【0004】参照)、引用発明1の「PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体であるペムブロリズマブ」と、本願発明の「ニボルマブ」は、少なくとも「PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体」である点で共通する。
また、「腫瘍」の内、悪性のものが「癌(悪性腫瘍)」と呼ばれることは、文献を示すまでもなく周知の事項であって、本願明細書の段落【0029】には、「“癌”は、体内の異常細胞の非制御の増殖により特徴付けられる種々の疾患の広い群をいう。非制御の細胞分裂および増殖は、近隣組織に浸潤し、リンパ系または血流を介して体の遠隔部位に転移もできる、悪性腫瘍の形成に至る。」ことが記載され、「由来」とは「物事がそれを起源とするところ。」を意味するところ、「頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)由来腫瘍」は、「頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)」自体を明らかに含むものである。そうすると、引用発明1の「進行性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の患者」と、本願発明の「ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)陽性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)由来腫瘍を罹患した対象」は、少なくとも「頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)由来腫瘍を罹患した対象」で共通する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)由来腫瘍を罹患した対象を処置するための、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体を含む組成物」
の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
本願発明においては、「PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体」がニボルマブであり、対象に約240mg、ほぼ2週に1回の用量、または約480mg、ほぼ4週に1回の用量で投与されるのに対し、引用発明1においては、同抗体がペムブロリズマブであり、3週間ごとに200mgの用量で投与される点。
<相違点2>
本願発明においては、頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)由来腫瘍が「ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)陽性」であり、「対象がHPV陽性と同定される」ことが特定されているのに対し、引用発明1においては、SCCHN由来腫瘍がHPV陽性であることは特定されていない点。
(2)検討
ア 相違点1について
引用例3には、再発・転移性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の患者に、3mg/kgのニボルマブを2週間に一度注入すること(前記1.(3)ア及びイ)が記載されている。ここで、「3mg/kgのニボルマブを2週間に一度注入」することは、ヒト成人男性の平均体重が60~80kgであるとして換算すると、約180~240mgのニボルマブを2週間に一度注入することと同義である。
そして、前記3.(1)で説示したように、ニボルマブが、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害する代表的なヒト化モノクローナル抗体であることは、当該分野における周知技術であり、医薬を投与するに際し投与量を検討することは、当然行われるものであることから、引用発明1において、引用例3の記載に基づいて、ペムブロリズマブに代えて、同じくPD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害する作用を有する代表的な抗体であるニボルマブを用いると共に、その投与量や投与頻度を引用例3に記載される投与量及び投与頻度の近傍で最適化して、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
イ 相違点2について
前記1.(1)アのとおり、引用例1には、大規模SCCHN拡大コホート試験結果について、HPV状態毎の全奏効率(ORR)に関する記載はないものの、PD-L1の発現やHPV状態といったバイオマーカーの状態に無関係に行われた大規模SCCHN拡大コホートにおいて、「ペムブロリズマブの3週間毎に200mgの投与は、再発・転移性SCCHN患者において、忍容性が良好であり、臨床的に意義のある18.2%の全奏効率(ORR)を示した」ことが記載されており、当該大規模SCCHN拡大コホートの背景技術として、先行して行われた研究において、「PD-L1陽性腫瘍の多い再発・転移性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の患者への2週間毎に10mg/kgのペムブロリズマブが20%の奏効率で臨床活性を示した」ことが記載されている。
また、頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)、PD-L1及びPD-1並びにHPV状態の関係について、引用例2には、「頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)におけるPD-L1:PD-1経路の役割」と題し、「口腔咽頭SCCHNの病因におけるHPVの重要性が認識されている」との背景のもと、「HPV陽性患者では陰性患者に比べてPD-L1の発現が高く」、「HPV陽性腫瘍で発現が高いという強い傾向が認められた」ことや、「SCCHNでは、HPV陽性及びHPV陰性腫瘍の双方で、エフェクターT細胞上にPD-1が発現するものの、その発現の程度は、HPV陽性患者において増加しているようであ」ることが記載され、SCCHN患者におけるHPV状態と、SCCHNの腫瘍細胞におけるPD-L1発現及びエフェクターT細胞上のPD-1発現との間に相関関係が存在することが示され、加えて、「エフェクターT細胞上のPD-1の発現が、HPV陽性疾患において、生物学的関連性を有し、特に重要な役割を果たしているかもしれないことを示唆する」ことが記載されており(前記1.(2)イ及びウ)、かかる記載に接した当業者であれば、PD-1とそのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するモノクローナル抗体の投与は、HPV陰性SCCHN患者よりも、腫瘍細胞におけるPD-L1及びエフェクターT細胞上のPD-1が高発現しているHPV陽性のSCCHN患者において、奏効するとむしろ自然に解し得る。そうすると、医薬の分野において、治療が有効な患者を選択して処置することは、当然に考慮すべき事項であるところ、引用発明1において、処置対象の頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)由来腫瘍を「ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)陽性」とすること、そして、対象について「HPV陽性と同定」して、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
ウ 本願発明の効果について
本願発明の構成が奏する効果につき、本願明細書には、実施例1に、HPV陽性SCCHN由来腫瘍を罹患した対象に「ニホルブマブ単剤療法(2週間毎IVによる240mg均一用量)」の治験を実施することは現在形で記載されているものの、実際に当該治験を実施して得られた治療効果を示す具体的な結果は記載されておらず、本願明細書の記載からでは、ニホルマブを、本願発明が適用対象とする「HPV陽性SCCHN由来腫瘍を罹患した対象」という特定の患者群に対して、「約240mg、ほぼ2週間に1回の用量、または約480mg、ほぼ4週に1回の用量で投与される」という特定の用法・用量で適用したことにより奏される効果を確認することはできない。
他方、前記イにおいて説示したとおり、引用例1には、PD-L1の発現やHPV状態といったバイオマーカーの状態に無関係に行われた大規模SCCHN拡大コホートにおいて、「ペムブロリズマブの3週間毎に200mgの投与は、再発・転移性SCCHN患者において、忍容性が良好であり、臨床的に優位性のある18.2%の全奏効率(ORR)を示した」ことや、当該大規模SCCHN拡大コホートの先行研究において、PD-L1陽性腫瘍の多い再発・転移性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の患者で、ペムブロリズマブが20%の奏効率で臨床活性を示したことが記載されており、引用例2には、SCCHN患者におけるHPV状態と、SCCHNの腫瘍細胞におけるPD-L1発現又はエフェクターT細胞上のPD-1発現との間に相関関係が存在することや、エフェクターT細胞上のPD-1の発現が、HPV陽性疾患において、生物学的関連性を有し、特に重要な役割を果たしているかもしれない旨が記載されている。
そうしてみると、引用例1に記載の上記先行研究及び大規模SCCHN拡大コホートの結果や、引用例2に記載の上記知見を踏まえ、腫瘍細胞におけるPD-L1及びエフェクターT細胞上のPD-1が高発現しているHPV陽性のSCCHN患者において、ペムブロリズマブの投与により治療効果が得られることは、当業者が当然に期待することであるから、ペムブロリズマブと同様、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害する作用を有する代表的な抗体であるニボルマブを、引用例3に記載されるような用法用量で用いた場合についても、同様に治療効果が得られることは、当業者であれば予測し得たことである。
そして、本願明細書には、上述のとおり、ニボルマブを適用する対象患者群として、「HPV陽性SCCHN由来腫瘍を罹患した対象」を選択し、特定用法・用量で適用する治験計画や主目標等が記載されるものの、その治療効果を示す実施例等の具体的な記載はなされていないのであるから、HPV陽性の患者を選択し、本願発明の構成に係る用法・用量で投与した場合に、HPV陰性の患者と比較して当業者が期待する以上の特に優れた効果を奏する等、当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものであるとすることもできない。
したがって、本願発明の効果が、引用例1~3に記載の上記知見に基づき、本願発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものとは認められない。
エ 請求人の主張について
(ア)請求人の主張
折りたたみ中(クリックで表示)
請求人は、令和6年10月2日受付の意見書(II.出願人の意見)において、以下の点を述べ、本願発明の進歩性を主張している。
a.「引用例1にHPV陽性患者への適用を示唆する記載はなく、引用例2を組み合わせて引用することは不適切であると思料します。・・・、引用例2とその引用文献はいずれもニボルマブに言及していません。むしろ、引用例2は放射線療法や化学療法などのニボルマブ以外の治療への応答性について述べております。」
b.「本願出願時の当業者は、引用例2の記載からHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者がニボルマブにどのように応答するか予想することはできず、ましてや、陰性の患者よりもニボルマブに応答しやすいことを予想できません。
さらに、引用例3を参照しても、本願発明の組成物がHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者の処置に有効であると当業者が予測する理由はありません。・・・。しかしながら、引用例3はHPV陽性SCCHNの処置を教示も示唆もしないため、引用発明1に対して引用例3の用量用法を適用するとHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者群に対して有利な効果を奏するとは予想されません。
一方、HPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者群に対する本願発明の組成物の効果は明細書の記載から十分に理解されます。本願の明細書には、HPV陽性SCCHN由来腫瘍を罹患した対象に対して特定の用量用法でニボルマブを投与する治験計画が記載されております。ヒトの患者に対する臨床試験は、動物や健常なヒトに対する試験によりその治療法が患者に対して有効であると判断される場合に行われるものですので、本願明細書に記載の治験計画は単なるアイディアやガイダンスではなく、当業者はその記載から本願発明の効果を理解できます。さらに、その効果は、原審の審査過程で令和4年2月1日に提出した意見書に添付した参考資料1により、実際に確認されております。」
(イ)検討
上記主張について検討する。
a.請求人の主張(ア)aについて
引用例1には、大規模SCCHN拡大コホートに先行して行われた研究において、「PD-L1陽性腫瘍の多い再発・転移性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の患者への2週間毎に10 mg/kgのペムブロリズマブが20%の奏効率で臨床活性を示した」こと、上記大規模SCCHN拡大コホートは、バイオマーカーの状態に関係なく行われ、具体的には、PD-L1の発現やHPV状態に無関係に、進行性SCCHNの患者にペムブロリズマブが投与されたこと、ペムブロリズマブが「PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体であ」ることが記載されている(前記1.(1)ア)。
引用例2は、「頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)におけるPD-L1:PD-1経路の役割」とのタイトルが付された学術論文であって(前記1.(2)ア)、引用例2には、「HPV陽性患者では陰性患者に比べてPD-L1の発現が高く」、「HPV陽性腫瘍で発現が高いという強い傾向が認められた」ことや、「SCCHNでは、HPV陽性及びHPV陰性腫瘍の双方で、エフェクターT細胞上にPD-1が発現するものの、その発現の程度は、HPV陽性患者において増加しているようであ」ることが記載されており(前記1.(2)イ及びウ)、SCCHN患者におけるHPV状態と、SCCHNの腫瘍細胞におけるPD-L1発現又はエフェクターT細胞上のPD-1発現との間に相関関係が存在することが示されている。
そうしてみると、引用例1及び2は、いずれもSCCHNの治療に関する技術文献であって、技術分野が関連することは明らかであり、また、引用例1及び2は、SCCHNの治療におけるPD-1とそのリガンドの役割を明らかにしようとする点で、課題も共通するものであるところ、当業者が、引用例1及び2に記載の知見を組み合わせてみることは、むしろ自然なことであり、引用例1にHPV陽性患者への適用を示唆する記載はないからといって、属する技術分野も課題も共通する引用例1と引用例2を、組み合わせることが不適切である旨の請求人の上記主張(ア)aは、採用することができない。
b.請求人の主張(ア)bについて
請求人は、前記(ア)bのとおり、本願発明の効果について、(A)引用例2はニボルマブについて言及していないことから、本願出願時の当業者は、引用例2の記載からHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者がニボルマブにどのように応答するか予測できず、さらに、引用例3を参酌しても、本願発明の組成物が当該患者の処置に有効であると当業者が予測する理由はないこと(以下「効果A」という。)、(B)HPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者が、HPV陰性の患者よりもニボルマブに応答しやすいことを当業者は予想できないこと(以下「効果B」という)、(C)引用例3はHPV陽性SCCHNの処置を教示も示唆もしないため、引用発明1に対して引用例3の用法用量を適用するとHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者群に対して有利な効果を奏するとは予想されないこと(以下「効果C」という)を挙げて、これらの効果は、本願明細書に記載の治験計画から当業者が理解できるものであり、原審の審査過程で令和4年2月1日に提出した意見書に添付した参考資料1(以下「参考資料1」という。)により、実際に確認されている旨を主張する。
以下、これらの効果について検討する。
(a)効果Aについて
本願明細書の発明の詳細な説明には、HPV陽性SCCHN由来腫瘍等を罹患した対象にニボルマブを投与する治験計画や主目標等が記載されるものの、当該対象におけるニボルマブの治療効果を示す実施例等の具体的な記載がなされていないところ、本願明細書の記載に基づき、本願発明の組成物を本願発明において特定された用法・用量で用いた場合に、HPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者に対して実際に有効であることについて当業者が理解することができるとはいえず、効果Aに関する主張は、そもそも本願明細書の記載に基づかないものである。
この点、請求人は、「ヒトの患者に対する臨床試験は、動物や健常なヒトに対する試験によりその治療法が患者に対して有効であると判断される場合に行われるものですので、本願明細書に記載の治験計画は単なるアイディアやガイダンスではなく、当業者はその記載から本願発明の効果を理解できます。」との主張をしているものの、本願明細書には、当該動物や健常なヒトに対する試験結果についても何ら記載されていないところ、ヒトの患者に対する臨床試験の結果を推論するための客観的な証拠が示されているとはいえず、単に、ヒトの患者に対する臨床試験が、動物や健常なヒトに対する試験結果に基づき、治療が有効であるとの見通しの下で通常行われるとの一般的な事情のみから、本願発明がHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者に対して有効であるとの効果を実際に奏することを当業者が推論可能とは認められない。
上記のとおりであるから、参考資料1において、本願発明の組成物がHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者の処置に有効であることが確認されていたとしても、かかる効果は、本願明細書に記載したものでも、本願明細書の記載から推論できるものともいえないことから、当該参考資料1を採用して、本願発明の効果を認めることは相当でない。
仮に、上記参考資料1を参酌したとしても、本願発明の組成物がHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者の処置に有効であることについては、前記ウにおいて説示したとおり、引用例1~3に記載の知見に基づき、当業者が予測し得ることであり、本願発明が、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するとも認められない。
(b)効果Bについて
本願出願時の請求項1~37には「HPV陽性SCCHN由来腫瘍を有する対象の処置法」が、同請求項41~77には「HPV陰性SCCHN由来腫瘍を有する対象の処置法」が記載されており、本願明細書の発明の詳細な説明には、「HPV陽性SCCHN由来腫瘍」と「HPV陰性SCCHN由来腫瘍」が、並列的に記載されるのみであって、HPV状態とニボルマブへの応答性の関係について記載した部分は見当たらず(段落【0005】~【0015】、【0029】、【0057】~【0062】、【0126】、【0142】及び【0149】、【図1】)、実施例には、HPV陽性患者における治療効果とHPV陰性患者における治療効果を対比し得るような、これら患者におけるニボルマブの治療効果が具体的に記載されていないところ、本願明細書の記載から、「HPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者が、HPV陰性の患者よりもニボルマブに応答しやすい」(下線は、当審が引いた。)ことを理解できるとはいえず、効果Bに関する主張は、本願明細書の記載に基づかないものである。
また、上記(a)において説示したのと同様、本願明細書の治験計画に関する記載のみから、本願発明が、HPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者が、HPV陰性の患者よりもニボルマブに応答しやすいとの効果を奏することを当業者が推論可能とは認められない。
上記のとおりであるから、参考資料1において、HPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者が、HPV陰性の患者よりもニボルマブに応答しやすいことが確認されていたとしても、かかる効果は、本願明細書に記載したものでも、本願明細書の記載から推論できるものともいえないことから、当該参考資料1を採用して、本願発明の効果を認めることは相当でない。
仮に、上記参考資料1を参酌したとしても、ニボルマブは、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との相互作用を阻害して、その抗腫瘍作用を奏するものであるところ、PD-1及びPD-L1の発現の多いHPV陽性SCCHN由来腫瘍を有する患者が、これらの発現が少ないHPV陰性SCCHN由来腫瘍を有する患者に比べて、ニボルマブに応答しやすいことは、当業者が予測し得る範囲を超えるものとは認められない。
(c)効果Cについて
請求人は、令和6年10月2日受付の意見書において「引用例3はHPV陽性SCCHNの処置を教示も示唆もしないため、引用発明1に対して引用例3の用量用法を適用するとHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者群に対して有利な効果を奏するとは予想されません。」との主張をしているところ、当該「有利な効果」とは、本願発明の組成物によるHPV陽性SCCHN由来腫瘍の患者群に対する治療効果が、HPV陰性SCCHN由来腫瘍の患者群に対する治療効果よりも高いこと意味するものと認められる。
しかしながら、HPV陽性患者に対する治療効果が、HPV陰性患者に対する治療効果よりも高いことが、本願明細書の記載から理解できないことは、前記(b)で説示したとおりであるところ、かかる効果Cに関する主張は、本願明細書の記載に基づかないものであり、採用できない。
オ 小括
よって、本願の請求項1に係る発明は、引用発明1及び引用例1~3に記載された事項並びに周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2022-016885