特許拒絶査定不服審判
2022-005829
電池用非水電解液及びリチウム二次電池
- 審判番号
- 2022-005829
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-537572外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年04月18日
- 審決日
- 2023年07月13日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .113-WZ (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-537572「電池用非水電解液及びリチウム二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月28日国際公開、WO2019/039346〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
理 由
1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)8月13日(優先権主張平成29年8月24日 日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
令和 2年11月26日付け:拒絶理由通知
令和 3年 1月29日 :意見書の提出
令和 3年 6月 1日付け:拒絶理由通知
令和 3年 8月10日 :意見書の提出
令和 4年 1月11日付け:拒絶査定
令和 4年 4月18日 :審判請求書の提出
令和 5年 2月13日付け:拒絶理由通知(当審)
令和 5年 4月17日 :意見書、手続補正書の提出
2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和5年4月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「下記式(1)で表されるホウ素化合物からなる添加剤Aと、
前記添加剤Aよりも還元分解電位が低い化合物からなる添加剤Bと、
を含有し、
前記添加剤Bが、
ビニルエチレンカーボネート、1,3-プロペンスルトン、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-プロピル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、ジフルオロリン酸リチウム、リン酸トリストリメチルシリル、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、オルトフルオロトルエン、(パーフルオロヘキシル)エチレン、スクシノニトリル、アジポニトリル、メタンスルホニルフルオリド、及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種からなるか、
4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオランとビニレンカーボネートとの組み合わせであるか、又は、
1,3-プロペンスルトンとビニレンカーボネートとの組み合わせである、
電池用非水電解液。
[図:0001401098000001.jpg]
【化1】
〔式(1)中、nは、1~5の整数を表す。M+は、Li+イオン又はH+イオンを表す。nが2~5の整数である場合、複数のM+は、同一であっても異なっていてもよい。〕」
3 令和5年2月13日付け拒絶理由通知の概要
令和5年2月13日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1または引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1または引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項1ないし11
・引用文献1または引用文献2
<引用文献等一覧>
1.特開2008-135382号公報
2.特開2016-51600号公報
4 引用文献1、引用発明等
(1)引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【請求項25】
正極および負極と共に電解液を備えた二次電池であって、
前記負極はケイ素もしくはスズの単体または化合物のうちの少なくとも一種を含み、
前記電解液はホウ酸塩を含むことを特徴とする二次電池。
【請求項26】
前記ホウ酸塩がメタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウムまたは四フッ化ホウ酸リチウムであることを特徴とする請求項25に記載の二次電池。
・・・(中略)・・・。
【請求項42】
前記電解液が、不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物を、0.01質量%~10質量%の割合でさらに含有することを特徴とする請求項25に記載の二次電池。」
「【0004】
しかしながら、負極活物質としてケイ素やスズ系材料を用いた場合にはサイクルが進むにつれ活性の高い活物質面が現れ、電解液が分解されてしまう問題がなお残存しており、更なる改善が望まれていた。本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、充放電効率を向上させるとともに、サイクル特性に優れた負極および二次電池を提供することにある。
・・・(省略)・・・。
【0006】
本発明の負極によれば、ケイ素もしくはスズの単体または化合物のうちの少なくとも一方を含む負極活物質粒子の表面にオキソ酸塩を含む被膜を形成することで、電池の容量を向上しつつ、電解液の分解を抑制することができる。よって、この負極を用いた二次電池によれば、放電容量維持率を向上させ、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0007】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
≪第1の実施の形態-第1の二次電池≫
図1は本発明の第1の実施の形態に係る第1の二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池はいわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して積層し巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケルのめっきがされた鉄により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、電解液が注入され、セパレータ23に含浸されている。また、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12、13がそれぞれ配置されている。」
「【0021】
本発明の負極および二次電池は、上述した負極活物質粒子の表面上の少なくとも一部に、オキソ酸塩を含む被膜を有する。より具体的には、負極活物質粒子は、少なくとも電解液と接する領域に、オキソ酸塩を含む被膜を有する。これにより、電解液の分解を抑制することができる。これは、負極活物質粒子の表面のオキソ酸塩と、電解液中の電解質塩とが、初充電時に電気化学的反応を起こすことにより、保護膜が形成されるためと考えられる。この保護膜は、リチウムイオンを効率よく透過でき、かつ電解液の分解を抑制することができる安定な膜であり、電極を保護するものと考えられる。その結果、電池のサイクル特性を向上させることができる。
なお、オキソ酸塩を含む被膜は負極活物質粒子の表面全体に形成されていてもよい。
【0022】
オキソ酸塩としては、縮合酸塩などが挙げられる。より具体的には、オキソ酸塩としては、例えば、ホウ酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩などが挙げられる。
たとえばホウ酸塩の例としては、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)などの他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物などが挙げられ、好ましくは四ホウ酸リチウムまたはメタホウ酸リチウムが挙げられる。
・・・(中略)・・・。
【0023】
負極活物質粒子の表面にオキソ酸塩を含む被膜を形成する手法としては、上記のオキソ酸塩の水溶液や極性溶媒溶液を用い、上述の負極集電体22Aに負極活物質層22Bを設けた後に、これを塗布法、浸漬法、ディップコーティング法などの液相法、または蒸着法、スパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition )法などの気相法によって処理する方法が挙げられる。また、後述する電解液中にホウ酸塩を添加しても被膜を形成することが可能である。中でも、オキソ酸塩を含む被膜を形成する手法としては、液相法が好ましい。オキソ酸塩を含む被膜が負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って被覆しやすいからである」
「【0035】
(電解質)
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、液状の溶媒、例えば有機溶剤などの非水溶媒と、この非水溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。本発明の二次電池においては、さらに、ホウ酸塩を含有することを特徴とする。これによっても、上述と同様に負極活物質粒子の表面上にホウ酸塩を含む被膜が形成され、電池のサイクル特性を向上させることができる。なお、ホウ酸塩を含んだ電解液は、上述のように負極活物質粒子の表面にオキソ酸塩を含む被膜を形成した負極を備えた電池においても、適用することができる。
【0036】
ホウ酸塩としては、例えば、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、四ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、四ホウ酸テトラエチルアンモニウム、メタホウ酸テトラエチルアンモニウム等が挙げられ、特に四ホウ酸リチウム、メタホウ酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムが好ましい。これらのホウ酸塩は1種以上を混合して用いてもよい。また、ホウ酸塩の電解液中の含有量は0.01質量%~5質量%の範囲内が好ましく、0.1質量%~3質量%の範囲内がより好ましい。かかる範囲内であれば、より特性を向上することができる。
「【0046】
また、溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含んでいるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。この不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどである。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。中でも、不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレンを含んでいるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。特に、溶媒が上記したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルやハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルを含む場合に、更に不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含んでいれば、高い効果が得られる。
・・・(中略)・・・。
【0064】
上述のように、溶媒および電解質塩と共にホウ酸塩を含んだ電解液によれば、ホウ酸塩を含んでいない場合と比較して、ホウ酸塩を含む被膜が電極に形成されやすくなる。これにより、電解液溶媒の分解反応が抑制されるため、電池などの電気化学デバイスにおいてサイクル特性を向上させることができる。また、電解液中におけるホウ酸塩の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であれば、より特性向上を図ることができる。
特に、溶媒が上記式(1)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルや上記式(2)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルを含み、更に炭酸ビニレンなどの不飽和結合を有する炭酸エステルを含んでいれば、より特性向上を図ることができる。また、電解質塩が六フッ化リン酸リチウムなどを含み、更に上記式(3)~(6)に示した化合物を含んでいれば、より特性向上を図ることができる。」
「【0106】
<ホウ酸塩含有電解液による被膜形成>
(実施例8-1~8-10)
図9に示したようなコイン型の二次電池を作製した。この二次電池は、正極51と、負極52とを電解液を含浸させたセパレータ53を介して積層し、外装缶54と外装カップ55との間に挟み、ガスケット56を介してかしめたものである。
まず、炭酸リチウム(Li2CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とをLi2CO3:CoCO3=0.5:1のモル比で混合し、空気中において900℃で5時間焼成して正極活物質としてのリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2)を得た。次いで、このリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電材としてグラファイト6質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤を調製したのち、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとした。続いて、この正極合剤スラリーを厚み20μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体51Aに均一に塗布して乾燥させたのち圧縮成型して正極活物質層51Bを形成した。そののち、直径15.5mmのペレットに打ち抜き、正極51を作製した。
また、厚み10μmの銅箔よりなる負極集電体52Aに、電子ビーム蒸着法によりケイ素を蒸着して負極活物質層52Bを形成したのち、直径16mmのペレットに打ち抜いて、負極52を作製した。
次いで、作製した正極51と負極52とを微多孔性ポリプロピレンフィルムよりなるセパレータ53を介して外装缶54に載置し、その上から電解液を注入して、外装カップ55を被せてかしめることにより密閉し、実施例8-1~8-10の二次電池を作製した。電解液には、溶媒、電解質塩、および縮合酸塩として表8に示した化合物を用いた。
なお、電解質塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )の他に、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)またはリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)を用いた。実施例8-10では、四フッ化ホウ酸リチウムの濃度を0.05mol/kgとした。
【0107】
比較例8-1として、四ホウ酸リチウムを添加しなかったことを除き、他は実施例8-1と同様にして二次電池を作製した。実施例8-4に対する比較例8-2として、同じ電解液溶媒であるが四ホウ酸リチウムを添加しなかったことを除き、他は実施例8-4と同様にして二次電池を作製した。実施例8-10に対する比較例8-3として、同じ電解液溶媒であるが四フッ化ホウ酸リチウムを添加しなかったことを除き、他は実施例8-10と同様にして二次電池を作製した。
・・・(中略)・・・。
【0109】
【表8】
[図:0001401098000002.jpg]
」(当審注:【表8】の「実施例8-6」の「ホウ酸塩」の「種類」として表記されている「Li2B1O7」は、「Li2B4O7」の誤記と認める。)
「【0111】
(実施例9-1~9-9)
負極を下記のように作製した以外は実施例8-1~8-9と同様に、コイン型の二次電池を作製した。
まず、負極活物質として、平均粒径が1μmのケイ素粉末90質量%と、結着材としてポリフッ化ビニリデン10質量%とを混合し、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとした。続いて、この負極合剤スラリーを厚み18μmの銅箔よりなる負極集電体52Aに均一に塗布して乾燥させ加圧したのち、真空雰囲気下において、400℃で12時間加熱することにより、負極活物質層52Bを形成し、直径16mmのペレットに打ち抜いて、負極52を作製した。
この負極52を用い、他は実施例8-1~8-9と同様にして実施例9-1~9-9の二次電池を作製した。
比較例9-1として、四ホウ酸リチウムを添加しなかったことを除き、他は実施例9-1と同様にして二次電池を作製した。実施例9-4に対する比較例9-2として、同じ電解液溶媒であるが四ホウ酸リチウムを添加しなかったことを除き、他は実施例9-4と同様にして二次電池を作製した。
作製した実施例9-1~9-9および比較例9-1、9-2の二次電池について、実施例1-1と同様にして、TOF?SIMSおよびサイクル特性を調べた。結果を表9に示す。
【0112】
【表9】
[図:0001401098000003.jpg]
」
「【0114】
(実施例10-1~10-9)
負極を下記のように作製した以外は実施例8-1~8-9と同様に、コイン型の二次電池を作製した。
負極活物質としてSnCoC含有材料80質量部と、導電材としてグラファイト11質量部およびアセチレンブラック1質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン8質量部とを混合し、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとした。続いて、この負極合剤スラリーを厚み10μmの銅箔よりなる負極集電体52Aに均一に塗布して乾燥させたのち圧縮成型して負極活物質層52Bを形成し、直径16mmのペレットに打ち抜いた。
なお、SnCoC含有材料は、スズ・コバルト・インジウム合金粉末と、炭素粉末とを混合し、メカノケミカル反応を利用して合成した。得られたSnCoC含有材料について組成の分析を行ったところ、スズの含有量は48質量%、コバルトの含有量は23質量%、炭素の含有量は20質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合Co/(Sn+Co)は32.4質量%であった。なお、炭素の含有量は、炭素・硫黄分析装置により測定し、スズおよびコバルトの含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析により測定した。また、得られたSnCoC含有材料についてX線回折を行ったところ、回折角2θ=20°~50°の間に、回折角2θが1.0°以上の広い半値幅を有する回折ピークが観察された。更に、このSnCoC含有材料についてXPSを行ったところ、図10に示したようにピークP1が得られた。ピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、ピークP2よりも低エネルギー側にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。このピークP3は、284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、SnCoC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
この負極52を用い、電解液には、溶媒、電解質塩、および縮合酸塩として表10に示した化合物を用いて、他は実施例8-1と同様にして二次電池を作製した。
比較例10-1として、四ホウ酸リチウムを添加しなかったことを除き、他は実施例10-1と同様にして二次電池を作製した。実施例10-4に対する比較例10-2として、同じ電解液溶媒であるが四ホウ酸リチウムを添加しなかったことを除き、他は実施例10-4と同様にして二次電池を作製した。
作製した実施例10-1~10-9および比較例10-1、10-2の二次電池について、実施例1-1と同様にして、TOF-SIMSおよびサイクル特性を調べた。結果を表10に示す。
【0115】
【表10】
[図:0001401098000004.jpg]
」
(2)引用文献1の上記記載によれば、次の事項が記載されている。
ア 【請求項25】、段落【0007】、同【0035】によれば、引用文献1には、二次電池用の電解液が記載されているといえる。
また、同【0035】によれば、電解液は、非水溶媒と電解質とを含む。
イ 【請求項26】、段落【0035】、【0036】によれば、引用文献1の【請求項25】に記載された二次電池の電解液は、ホウ酸塩として四ホウ酸リチウム(Li2B4O7 )を含有する。
ウ 【請求項42】、段落【0046】によれば、引用文献1の【請求項25】に記載された二次電池の電解液には、不飽和結合を有する環状炭酸エステルとして炭酸ビニルエチレンを含有する。
(3)上記アないしウによれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「非水溶媒と電解質とを含む二次電池用の電解液であって、
ホウ酸塩として四ホウ酸リチウムを含有し、
不飽和結合を有する環状炭酸エステルとして炭酸ビニルエチレンを含有する、
電解液。」
5 対比・判断
(1)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)本願発明の「式(1)で表されるホウ素化合物からなる添加剤A」に関し、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0026】
式(1)で表されるホウ素化合物としては、
三ホウ酸リチウム(還元分解電位2.1V、nが1であり、M+がLi+イオンである化合物)、
四ホウ酸リチウム(還元分解電位2.1V、nが2であり、2つのM+がLi+イオンである化合物)、
五ホウ酸リチウム(還元分解電位2.2V、nが3であり、3つのM+がLi+イオンである化合物)、
六ホウ酸リチウム(還元分解電位2.2V、nが4であり、4つのM+がLi+イオンである化合物)、
七ホウ酸リチウム(還元分解電位2.3V、nが5であり、5つのM+がLi+イオンである化合物)、等が挙げられる。」
上記段落【0026】の記載からすれば、本願発明の「式(1)で表されるホウ素化合物からなる添加剤A」には「四ホウ酸リチウム」が含まれるから、引用発明の「四ホウ酸リチウム」は本願発明の「式(1)で表されるホウ素化合物からなる添加剤A」に含まれる。
(イ)本願発明の「添加剤B」は、「ビニルエチレンカーボネート、1,3-プロペンスルトン、・・・からなる群から選択される少なくとも1種」からなり、「ビニルエチレンカーボネート」は炭酸ビニルエチレンであるから、引用発明の「炭酸ビニルエチレン」は、本願発明の「添加剤B」に含まれる。
ただし、添加剤Bに関し、本願発明は「添加剤Aよりも還元分解電位が低い化合物」からなるのに対し、引用発明にはその旨特定されていない点で相違する。
(ウ)引用発明の「二次電池用の電解液」は「非水溶媒」を含むことから、非水電解液であるといえ、本願発明の「電池用非水電解液」に相当する。
イ 上記(ア)ないし(ウ)によれば、本願発明と引用発明との一致点、及び、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「下記式(1)で表されるホウ素化合物からなる添加剤Aと、
添加剤Bと、
を含有し、
前記添加剤Bが、
ビニルエチレンカーボネートからなる、
電池用非水電解液。
[図:0001401098000005.jpg]
【化1】
〔式(1)中、nは、1~5の整数を表す。M+は、Li+イオン又はH+イオンを表す。nが2~5の整数である場合、複数のM+は、同一であっても異なっていてもよい。〕」
(相違点)
添加剤Bに関し、本願発明は「添加剤Aよりも還元分解電位が低い化合物」からなるのに対し、引用発明にはその旨特定されていない点。
(2)相違点に対する判断
上記「(1)ア(ア)」で述べたように、本願明細書の段落【0026】によれば、本願発明の「添加剤A」には「四ホウ酸リチウム」が含まれる。また、本願発明の「添加剤B」は、「添加剤Aよりも還元分解電位が低い化合物」として「ビニルエチレンカーボネート、1,3-プロペンスルトン、・・・からなる群から選択される少なくとも1種」からなる。
そして、引用発明の「ホウ酸塩」は、本願発明の「添加剤A」として挙げられた「四ホウ酸リチウム」であり、引用発明の「不飽和結合を有する環状炭酸エステル」は、本願発明の「添加剤B」の1種である「ビニルエチレンカーボネート」、即ち、炭酸ビニルエチレンであるから、本願明細書の段落【0020】に記載の方法により測定した場合には、引用発明の「炭酸ビニルエチレン」は「四ホウ酸リチウム」よりも還元分解電位が低いといえ、本願発明でいう還元分解電位が低い化合物であると認められる。
そうすると、上記相違点は実質的な相違ではない。
(3)まとめ
以上から、本願発明と引用発明との間に相違するところはなく、本願発明は引用文献1に記載された発明である。
6 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、令和5年4月17日提出の意見書において以下の点のとおり主張する。
「引用文献1において、炭酸ビニルエチレン及びプロペンスルトンは、引用文献1中における膨大な数の任意成分の具体例の中の一部に過ぎず、引用文献1において、炭酸ビニルエチレン及びプロペンスルトンを用いた実施例は一切存在しません。
従いまして、引用文献1において、同文献の請求項1における「オキソ酸塩」の具体例のうちの一つであるLi2B4O7と、任意成分の具体例のうちの一部である、炭酸ビニルエチレン又はプロペンスルトンと、の組み合わせは、一切把握されません。」(3頁38ないし45行を参照)
(2)審判請求人の上記主張について検討する。
引用文献1の【請求項25】、【請求項26】、段落【0035】及び【0036】によれば、引用文献1には、電解液に、四ホウ酸リチウム、メタホウ酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムのいずれかからなるホウ酸塩を含有させることにより、負極活物質粒子の表面上にホウ酸塩を含む被膜を形成し、電池のサイクル特性を向上させることが記載され、【請求項42】、段落【0046】によれば、該電解液に、更に炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンからなる不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含ませることでより高い効果を得ることが記載されている。また、引用文献1の段落【0106】ないし【0115】、【表8】ないし【表10】には、「VC」(炭酸ビニレン)を含有する電解液溶媒に、ホウ酸塩として「Li2B4O7」(四ホウ酸リチウム)を添加する実施例8-6、9-6、10-6も記載されている。
してみると、引用文献1には、【請求項25】、【請求項26】及び【請求項42】に係るホウ酸塩と不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物を含む電解液として、メタホウ酸リチウムと炭酸ビニレン、メタホウ酸リチウムと炭酸ビニルエチレン、四ホウ酸リチウムと炭酸ビニレン、四ホウ酸リチウムと炭酸ビニルエチレン、四フッ化ホウ酸リチウムと炭酸ビニレン、四フッ化ホウ酸リチウムと炭酸ビニルエチレン、のそれぞれを含む6種類の電解液が記載されているといえるから、「四ホウ酸リチウム」と「炭酸ビニルエチレン」との組み合わせは、膨大な数の中の具体例の組み合わせとまではいえず、引用文献1に接した当業者であれば、引用文献1の記載から「ホウ酸塩として四ホウ酸リチウムを含有し、不飽和結合を有する環状炭酸エステルとして炭酸ビニルエチレンを含有する」引用発明を容易に把握し得ることは明らかである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-005829