特許拒絶査定不服審判
2023-009038
燃料電池用触媒層、膜電極接合体および燃料電池
- 審判番号
- 2023-009038
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-562071
- 請求日
- 2023年06月01日
- 審決日
- 2024年06月24日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人河崎特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 岩間 直純
- 分類
- P18 .121-Z (H01M) / P18 .113-Z (H01M) / P18 .572-Z (H01M) / P18 .57 -Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-562071「燃料電池用触媒層、膜電極接合体および燃料電池」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月 4日国際公開、WO2019/131709〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年12月26日(優先権主張 2017年12月28日、2018年3月20日、2018年3月23日)を国際出願日とする出願であって、その手続の概略は以下のとおりである。
令和 4年 9月29日付け:拒絶理由通知
令和 4年12月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和 5年 3月16日付け:拒絶査定(原査定)
令和 5年 6月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年6月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年6月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正による特許請求の範囲の記載
本件補正による特許請求の範囲の請求項1、3、12及び20の記載は、次のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記触媒層の厚さTは、20μm以下であり、
前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、
前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であり、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜している、燃料電池用触媒層。」
「【請求項3】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記触媒層の厚さTは、20μm以下であり、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
0.25≦L/T≦1.0
を満たす、燃料電池用触媒層。」
「【請求項12】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記触媒層の厚さTは、20μm以下であり、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
0.25≦L/T≦1.0
を満たす、燃料電池用触媒層。」
「【請求項20】
電解質膜と、前記電解質膜を挟む一対の電極と、を備え、
前記一対の電極は、それぞれ、前記電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備え、
前記一対の電極の少なくとも一方の前記触媒層は、第1繊維状導電部材と触媒粒子とを含み、
前記第1繊維状導電部材の長さL1と、前記触媒層の厚さT1とが、関係式:
L1/T1≦3
を満たし、
前記触媒層の厚さT1は、20μm以下であり、
前記第1繊維状導電部材の長さL1と、前記触媒層の厚みT1とが、関係式:
0.25≦L1/T1≦1.0
を満たす、膜電極接合体。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1、3、10、12、18及び20の記載は、令和4年12月1日にされた手続補正により補正された次のとおりである。
「【請求項1】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜している、燃料電池用触媒層。」
「【請求項3】
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
0.25≦L/T≦1.0
を満たす、請求項1または2に記載の燃料電池用触媒層。」
「【請求項10】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜しており、
前記触媒粒子は、コア部と、シェル部と、を備える第1粒子を含み、
前記シェル部は、前記コア部を覆うとともに前記コア部と異なる成分を含む、燃料電池用触媒層。」
「【請求項12】
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
0.25≦L/T≦1.0
を満たす、請求項10または11に記載の燃料電池用触媒層。」
「【請求項18】
電解質膜と、前記電解質膜を挟む一対の電極と、を備え、
前記一対の電極は、それぞれ、前記電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備え、
前記一対の電極の少なくとも一方の前記触媒層は、第1繊維状導電部材と触媒粒子とを含み、
前記第1繊維状導電部材の長さL1と、前記触媒層の厚さT1とが、関係式:
L1/T1≦3
を満たし、
前記第1繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜しており、
前記一対の電極の前記少なくとも一方の前記ガス拡散層は、導電性材料と高分子樹脂とを含む多孔質層で構成されている、膜電極接合体。」
「【請求項20】
前記第1繊維状導電部材の長さL1と、前記触媒層の厚みT1とが、関係式:
0.25≦L1/T1≦1.0
を満たす、請求項18または19に記載の膜電極接合体。」
2 補正の適否
(1)請求項1に対する補正について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「燃料電池用触媒層」について、「前記触媒層の厚さTは、20μm以下であり、前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であり」との限定を付加するものである。
上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(1)」の「【請求項1】」に記載したとおりのものである。
イ 引用文献及びその記載事項
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、特開2014-154350号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)
「【0008】
(3)本発明の他の形態によれば、燃料電池の製造方法が提供される。この燃料電池の製造方法は、触媒を担持済みのカーボンナノチューブをアイオノマーで被覆した上で突出させて配向した基板に電解質膜を加熱ロールプレスして、前記カーボンナノチューブが前記電解質膜の膜面から傾斜して配向して前記アイオノマーにて保持されるよう前記カーボンナノチューブを前記基板から前記電解質膜の前記膜面に転写し、前記電解質膜の各膜面に電極を形成する工程(1)と、前記形成済みの電極にガス拡散層を接合する工程(2)とを備え、前記工程(1)では、前記電解質膜の一方の膜面に前記カーボンナノチューブを傾斜して配向させて転写した後に、前記電解質膜の他方の膜面に前記カーボンナノチューブを傾斜して配向させて転写する際に、前記一方の膜面の側に既に転写済みの前記カーボンナノチューブが前記電解質膜の膜面の側から前記ガス拡散層に向け延びる傾斜方向と略同方向となるように、前記他方の膜面に前記カーボンナノチューブを傾斜させて前記基板から転写する。上記形態の燃料電池の製造方法によれば、加熱ロールプレスによるカーボンナノチューブの傾斜およびその転写と、電極へのガス拡散層の接合という簡便な工程にて、一方の電極と他方の電極とで個別にカーボンナノチューブを傾斜配向させた上で、一方の電極におけるカーボンナノチューブと他方の電極におけるカーボンナノチューブとを、電解質膜の膜面の側からガス拡散層に向けて延びる傾斜方向が略同方向となるように揃えて、それぞれ傾斜させた燃料電池を容易に製造できる。しかも、その製造した燃料電池では、電解質膜とガス拡散層とのズレを効果的に抑制できる。」
「【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき説明する。図1は本発明の実施形態としての燃料電池100の概略構成を示す説明図、図2は図1におけるA部を拡大して模式的に示す説明図である。燃料電池100は、膜電極接合体10をアノード側およびカソード側のガス拡散層15、16で挟持した上で、アノード側セパレーター20、および、カソード側セパレーター30で挟持することによって構成されている。
【0013】
膜電極接合体10は、プロトン伝導性を有する電解質膜12の両面に、電極触媒層としてのアノード13とカソード14を接合することによって構成されている。電解質膜12は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード13およびカソード14は、例えば白金、あるいは白金合金等の触媒を担持したカーボンナノチューブ40をアイオノマー(電解質樹脂)で保持した電極触媒層であり、電解質膜12と共に膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。通常、アイオノマーは、電解質膜12と同質の固体高分子材料である高分子電解質樹脂(例えばフッ素系樹脂)であり、その有するイオン交換基によりプロトン伝導性を有する。本実施形態のアノード13は、触媒担持済みのカーボンナノチューブ40を電解質膜12の膜面に傾斜させて配向し、隣接するカーボンナノチューブ40を傾斜したままアイオノマー42にて保持して形成されている。カソード14も同様であるが、アノード13におけるカーボンナノチューブ40は、カソード14においてカーボンナノチューブ40が電解質膜12の膜面の側からガス拡散層16に向けて延びる傾斜方向と略同方向となるように、アノード13における電解質膜12の膜面の側からガス拡散層15に向けて傾斜して延びている。図3はアノード13とカソード14を構成するカーボンナノチューブ40の傾斜の様子を示す説明図である。図示するように、カーボンナノチューブ40は、アノード13およびカソード14において、燃料電池100の面方向における長辺方向に沿って傾斜している。アノード13とカソード14の形成の様子については、後述する。」
「【0017】
カーボンナノチューブ40を配向済みの基板を準備するに当たっては、カーボンナノチューブ40を垂直に配向済みの基板を購入すれば良いほか、次のように製造しても良い。この手順は図5に示されており、シリコン製の基板kpの上面に、カーボンナノチューブ40の成長核となる鉄触媒を、スパッタリング等によってほぼ均一に付着させ、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、基板kpに、カーボンナノチューブ40を、基板表面に対して垂直に配向するとともに、波型形状にて成長させる(ステップS110)。ここで、「垂直に配向した」とは、厳密に垂直に配向している必要はなく、例えば、基板kpの表面とカーボンナノチューブ40の根元と先端とを結ぶ直線とのなす角度が90・10・の範囲内であってもよい。予め基板kpにカーボンナノチューブを成長させるための成長核(例えば、鉄触媒)を高密度に形成しておくことによって、基板kpには、基板表面に対してほぼ垂直に配向し、隣接するカーボンナノチューブ同士が互いに接触する密度で、ブラシ状のカーボンナノチューブが成長する。なお、本実施形態では、カーボンナノチューブ40の成長条件を制御することによって、カーボンナノチューブ40の波型形状における波長が、0.5~1.8(μm)となるように成長させるものとした。なお、カーボンナノチューブ40を直線状に延びるよう、成長させるようにしてもよい。
【0018】
次に、ブラシ状に成長させたカーボンナノチューブ40の全面に白金塩溶液を滴下して、乾燥・焼成還元することによって、カーボンナノチューブ40に触媒金属としての白金(Pt)を担持させる(ステップS120)。その後、白金担持済みのカーボンナノチューブ40に、アイオノマー分散溶液(例えば、ナフィオン分散溶液(「ナフィオン」は、登録商標))を滴下して、乾燥させることによって、白金を担持したカーボンナノチューブ40の表面をアイオノマー(電解質)によって被覆する(ステップS130)。以上の工程によって、カーボンナノチューブ40を配向済みの基板kpの準備が完了する。
【0019】
続く電極転写では、図6に示すように、アイオノマーにて被覆済みで白金についても担持済みのカーボンナノチューブ40が垂直配向したシート状の基板kpと、シート状の電解質膜12とを加熱ロールプレスに処する。基板kpは、カーボンナノチューブ40を垂直配向したまま、第1群加熱駆動ローラー200と第1群加熱従動ローラー202との間に送られる。電解質膜12は、バックフィルムBFに形成された状態で、バックフィルムBFと共に、第1群加熱駆動ローラー200と第1群加熱従動ローラー202との間に送られる。第1群加熱駆動ローラー200は、電解質膜12を加熱しながら基板kpの側に押し付けるので、基板kpに垂直配向されていたカーボンナノチューブ40は、電解質膜12に対して傾斜する。第1群加熱駆動ローラー200は、カーボンナノチューブ40を被覆していたアイオノマー42をも加熱するので、このアイオノマー42は、一旦溶融し、下流側の案内ローラー210、212に達する間において、カーボンナノチューブ40を傾斜させたまま保持する。カーボンナノチューブ40の傾斜は、第1群加熱駆動ローラー200と第1群加熱従動ローラー202とによる押圧の状況により定まり、本実施形態では、電解質膜12の膜面に対してカーボンナノチューブ40がなす角(傾斜角)が30~80度となるようにした。」
図1
[図:0001413897000001.jpg]
図2
[図:0001413897000002.jpg]
図3
[図:0001413897000003.jpg]
図4
[図:0001413897000004.jpg]
図5
[図:0001413897000005.jpg]
図6
[図:0001413897000006.jpg]
(イ)上記記載から、燃料電池100の電極触媒層に着目すると、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
・アノード13とカソード14は電極触媒層であるので(【0013】)、【0012】及び【0013】によれば、燃料電池100の電極触媒層に関して、次の事項が記載されている。
電解質膜12の両面に電極触媒層を接合することによって構成されている膜電極接合体10を(【0013】)、アノード側およびカソード側のガス拡散層15、16で挟持した上で、アノード側セパレーター20、および、カソード側セパレーター30で挟持した燃料電池100の電極触媒層(【0012】)。
・図5より、触媒(Pt)は粒子状であることが見て取れる。また、カーボンナノチューブ40は、基板kpに直線状に延びるよう成長させたものである(【0017】)。したがって、【0013】の記載より、電極触媒層は、粒子状の触媒を担持して直線状に延びたカーボンナノチューブ40を保持していることが読み取れる。
・アノード13とカソード14は電極触媒層であるから、【0013】の記載より、電極触媒層は、カーボンナノチューブ40を電解質膜12の膜面に傾斜させて配向していることが読み取れる。
・電解質膜12の膜面に対してカーボンナノチューブ40がなす角(傾斜角)が30~80度である。(【0019】)
・燃料電池100の製造方法が、触媒を担持済みのカーボンナノチューブをアイオノマーで被覆した上で突出させて配向した基板に電解質膜を加熱ロールプレスして、前記カーボンナノチューブが前記電解質膜の膜面から傾斜して配向して前記アイオノマーにて保持されるよう前記カーボンナノチューブを前記基板から前記電解質膜の前記膜面に転写し、前記電解質膜の各膜面に電極(電極触媒層)を形成する工程(1)と、前記形成済みの電極(電極触媒層)にガス拡散層を接合する工程(2)とを備えていること(【0008】)、及び、図2の記載より、電極触媒層のカーボンナノチューブ40は、電解質膜12とガス拡散層15、16に接合している。
(ウ)上記技術事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「電解質膜12の両面に電極触媒層を接合することによって構成されている膜電極接合体10を、アノード側およびカソード側のガス拡散層15、16で挟持した上で、アノード側セパレーター20およびカソード側セパレーター30で挟持することによって構成されている燃料電池100の電極触媒層であって、
電極触媒層は、粒子状の触媒を担持して直線状に延びたカーボンナノチューブ40を保持して、カーボンナノチューブ40を電解質膜12の膜面に傾斜させて配向し、
電解質膜12の膜面に対してカーボンナノチューブ40がなす角(傾斜角)が30~80度であり、
電極触媒層のカーボンナノチューブ40は、電解質膜12とガス拡散層15、16に接合している、
燃料電池100の電極触媒層。」
ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明の「カーボンナノチューブ40」、「粒子状の触媒」は、それぞれ、本件補正発明の「繊維状導電部材」、「触媒粒子」に相当する。
したがって、引用発明の「粒子状の触媒を担持して直線状に延びたカーボンナノチューブ40を保持し」た「燃料電池100の電極触媒層」は、本件補正発明の「繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層」に相当する。
(イ)引用発明の「直線状に延びた」「電極触媒層のカーボンナノチューブ40は、電解質膜12とガス拡散層15、16に接合し」「電解質膜12の膜面に対してカーボンナノチューブ40がなす角(傾斜角)が30~80度」であるから、「カーボンナノチューブ40」の長さは、「電極触媒層12」の厚さの約1.02倍(1/sin80°)~約2倍(1/sin30°)である。このことは、本件補正発明における「繊維状導電部材の長さL」と「燃料電池用触媒層の厚みT」との「関係式:L/T≦3」を満たしている。
(ウ)引用発明の「電極触媒層」は「カーボンナノチューブ40を電解質膜12の膜面に傾斜させて配向し」「保持して」いるので、「カーボンナノチューブ40」は「電極触媒層」の面方向に対して傾斜している。このことは、本件補正発明の「前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜して」いることに相当する。
(エ)燃料電池用触媒層について、
本件補正発明は「前記触媒層の厚さTは、20μm以下であ」るのに対して、引用発明はそのような特定がない点、及び、
本件補正発明は「前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下である」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
上記(ア)ないし(エ)によれば、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜している、燃料電池用触媒層。」
(相違点1)
燃料電池用触媒層について、本件補正発明は「前記触媒層の厚さTは、20μm以下であ」るのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点2)
燃料電池用触媒層について、本件補正発明は「前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下である」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。
エ 相違点についての判断
相違点1について
燃料電池において、触媒層の厚さを20μm以下にすることは通常行われていることである(例えば、特開2006-156366号公報(【0036】、図1)、特開2006-85930号公報(【0104】、図1)、特開2010-113949号公報(【0009】、図1))。
そうすると、引用発明において「電極触媒層」の厚さを20μm以下にすることは、燃料電池の大きさや発電量などを考慮して当業者が適宜なし得る単なる設計的事項である。また、その数値も格別なものといえない。
したがって、上記相違点1に係る構成は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。
相違点2について
燃料電池の触媒層において、粒子状導電部材を繊維状導電部材とともに用いる技術は周知である(例えば、特開2016-126869号公報(【0020】、図1(b))、特開2009-81064号公報(【0033】、図2)、特開2008-243453号公報(【0022】、図1))。さらに、上記特開2016-126869号公報は、繊維状導電部材(担体炭素材料(CNF))および粒子状導電部材(導電助剤炭素材料)の合計100質量部に対して、粒子状導電部材の含有量を20~42質量部にすることが記載されている(【0057】、表1)。
ここで、引用発明の「燃料電池100の電極触媒層」は、カーボンナノチューブ40(繊維状導電部材)を用いるものであるから、上記周知技術を適用して、「電極触媒層」をカーボンナノチューブ40に加えてさらに粒子状導電部材を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、繊維状導電部材および粒子状導電部材の合計100質量部に対して、粒子状導電部材の含有量として5質量部以上40質量部以下の範囲内の値を選択することは、上記特開2016-126869号公報に粒子状導電部材の含有量を20~42質量部にすることが記載されているように、繊維状導電部材及び粒子状導電部材を備える触媒層において普通のことであるといえる。そうすると、粒子状導電部材の含有量を5質量部以上40質量部以下にすることは、引用発明に上記周知技術を適用する際に、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化にすぎない。
したがって、引用発明に周知技術を適用し、上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 請求人の主張について
請求人は審判請求書において「引用文献1の[0017]には、『・・予め基板kpにカーボンナノチューブを成長させるための成長核(例えば、鉄触媒)を高密度に形成しておくことによって、基板kpには、基板表面に対してほぼ垂直に配向し、隣接するカーボンナノチューブ同士が互いに接触する密度で、ブラシ状のカーボンナノチューブが成長する。・・』と記載されています(図5参照)。ここで、『基板表面に対してほぼ垂直に配向し、隣接するカーボンナノチューブ同士が互いに接触する密度で、ブラシ状のカーボンナノチューブが成長』した基板を用いる場合、粒子状導電部材を併用することは動機づけられないと思量します。隣接するカーボンナノチューブ同士が互いに接触する密度でブラシ状に成長している中に、粒子状導電部材を混在させることは困難であると考えられるからです。」と主に主張している。(審判請求書6頁26~7頁6行)
しかしながら、引用文献1は、カーボンナノチューブ40に、アイオノマー分散溶液を滴下して、カーボンナノチューブ40の表面をアイオノマー(電解質)によって被覆することが記載されており(【0018】)、引用発明の「カーボンナノチューブ40」は、その間に粒子状導電部材を混在させることが困難なほど密集しているとまではいえないものである。
したがって、上記主張は採用できない。
カ 小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(2)請求項3に対する補正について
本件補正前の請求項1を引用する請求項3を、独立形式にして書き下すと以下のようになる。
「【請求項3】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
0.25≦L/T≦1.0
を満たし、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜している、燃料電池用触媒層。」
そうすると、本件補正は、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「燃料電池用触媒層」について、「前記触媒層の厚さTは、20μm以下であり」との限定を付加するとともに、「前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜している」ことを削除するものである。
ここで、「前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜している」ことを削除する補正は、本件補正前の請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項を削除して特許請求の範囲を拡張するものである。
よって、本件補正は、補正前の請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものといえないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
そして、本件補正の上記補正事項が、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかの事項を目的とするものでないことは、明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
(3)請求項12に対する補正について
本件補正前の請求項10を引用する請求項12を、独立形式にして書き下すと以下のようになる。
「【請求項12】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
0.25≦L/T≦1.0
を満たし、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜しており、
前記触媒粒子は、コア部と、シェル部と、を備える第1粒子を含み、
前記シェル部は、前記コア部を覆うとともに前記コア部と異なる成分を含む、燃料電池用触媒層。」
そうすると、本件補正は、本件補正前の請求項12に記載された発明を特定するために必要な事項である「燃料電池用触媒層」について、「前記触媒層の厚さTは、20μm以下であり」との限定を付加するとともに、「前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜しており、前記触媒粒子は、コア部と、シェル部と、を備える第1粒子を含み、前記シェル部は、前記コア部を覆うとともに前記コア部と異なる成分を含む」ことを削除するものである。
ここで、「前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜しており、前記触媒粒子は、コア部と、シェル部と、を備える第1粒子を含み、前記シェル部は、前記コア部を覆うとともに前記コア部と異なる成分を含む」ことを削除する補正は、本件補正前の請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項を削除して特許請求の範囲を拡張するものである。
よって、本件補正は、補正前の請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものといえないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
そして、本件補正の上記補正事項が、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかの事項を目的とするものでないことは、明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
(4)請求項20に対する補正について
本件補正前の請求項18を引用する請求項20を、独立形式にして書き下すと以下のようになる。
「【請求項20】
電解質膜と、前記電解質膜を挟む一対の電極と、を備え、
前記一対の電極は、それぞれ、前記電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備え、
前記一対の電極の少なくとも一方の前記触媒層は、第1繊維状導電部材と触媒粒子とを含み、
前記第1繊維状導電部材の長さL1と、前記触媒層の厚さT1とが、関係式:
L1/T1≦3
を満たし、
前記第1繊維状導電部材の長さL1と、前記触媒層の厚みT1とが、関係式:
0.25≦L1/T1≦1.0
を満たし、
前記第1繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜しており、
前記一対の電極の前記少なくとも一方の前記ガス拡散層は、導電性材料と高分子樹脂とを含む多孔質層で構成されている、膜電極接合体。」
そうすると、本件補正は、本件補正前の請求項20に記載された発明を特定するために必要な事項である「燃料電池用触媒層」について、「前記触媒層の厚さT1は、20μm以下であり」との限定を付加するとともに、「前記第1繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜しており、前記一対の電極の前記少なくとも一方の前記ガス拡散層は、導電性材料と高分子樹脂とを含む多孔質層で構成されている」ことを削除するものである。
ここで、「前記第1繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜しており、前記一対の電極の前記少なくとも一方の前記ガス拡散層は、導電性材料と高分子樹脂とを含む多孔質層で構成されている」ことを削除する補正は、本件補正前の請求項20に記載した発明を特定するために必要な事項を削除して特許請求の範囲を拡張するものである。
よって、本件補正は、補正前の請求項20に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものといえないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
そして、本件補正の上記補正事項が、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかの事項を目的とするものでないことは、明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
(5)本件補正についてのむすび
本件補正について、上記(1)ないし(4)のとおりである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年12月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし28に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(2)」に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
請求項1に係る発明に対する原査定の拒絶の理由1(特許法第29条第1項第3号)の概略は次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
1.特開2014-154350号公報
3 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由]2(1)イ」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記「第2の[理由]2(1)」で検討した本件補正発明から、「前記触媒層の厚さTは、20μm以下であり、前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であり」に係る限定事項(上記相違点1及び2に係る事項)が削除されたものである。
そうすると、上記「第2[理由]2(1)ウ」に記載したとおり、本願発明と引用発明は、
「繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜している、燃料電池用触媒層。」の点で一致し、相違するところがない。
したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明である。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-009038