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特許拒絶査定不服審判

2023-009037

燃料電池用触媒層および燃料電池

審判番号
2023-009037
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-562069
請求日
2023年06月01日
審決日
2024年06月20日
公報発行日
2024年09月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】パナソニックIPマネジメント株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人河崎特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 井上 信一
  • 審判官 須原 宏光
  • 審判官 岩間 直純
分類
P18 .121-Z (H01M) / P18 .113-Z (H01M) / P18 .572-Z (H01M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-562069「燃料電池用触媒層および燃料電池」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月 4日国際公開、WO2019/131707〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年12月26日(優先権主張 2017年12月28日)を国際出願日とする出願であって、その手続の概略は以下のとおりである。 令和 4年 9月29日付け:拒絶理由通知 令和 4年11月22日 :意見書、手続補正書の提出 令和 5年 3月16日付け:拒絶査定(原査定) 令和 5年 6月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和5年6月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年6月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正による特許請求の範囲の記載 本件補正による特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正発明」という。)の記載は、次のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。 「【請求項1】 繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備え、厚みが均一な燃料電池用触媒層であって、 前記繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜しており、かつ、前記繊維状導電部材の長さ方向は、平均的に第1方向を向いており、 前記繊維状導電部材の長さLfと、前記触媒層の厚みTとが、関係式:Lf/T≦3を満たし、 前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、 前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下である、燃料電池用触媒層。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、令和4年11月22日にされた手続補正により補正された次のとおりである。 「【請求項1】 繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備え、厚みが均一な燃料電池用触媒層であって、 前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜しており、かつ、前記繊維状導電部材の長さ方向は、平均的に第1方向を向いており、前記繊維状導電部材の長さLfと、前記触媒層の厚みTとが、関係式:Lf/T≦3を満たす、燃料電池用触媒層。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「燃料電池用触媒層」について、「前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下である」ことの限定を付加するものである。 上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記「1(1)」に記載したとおりのものである。 (2)引用文献及びその記載事項 ア 原査定の拒絶の理由に引用された、特開2014-154350号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。(下線は当審で付与した。) 「【0008】 (3)本発明の他の形態によれば、燃料電池の製造方法が提供される。この燃料電池の製造方法は、触媒を担持済みのカーボンナノチューブをアイオノマーで被覆した上で突出させて配向した基板に電解質膜を加熱ロールプレスして、前記カーボンナノチューブが前記電解質膜の膜面から傾斜して配向して前記アイオノマーにて保持されるよう前記カーボンナノチューブを前記基板から前記電解質膜の前記膜面に転写し、前記電解質膜の各膜面に電極を形成する工程(1)と、前記形成済みの電極にガス拡散層を接合する工程(2)とを備え、前記工程(1)では、前記電解質膜の一方の膜面に前記カーボンナノチューブを傾斜して配向させて転写した後に、前記電解質膜の他方の膜面に前記カーボンナノチューブを傾斜して配向させて転写する際に、前記一方の膜面の側に既に転写済みの前記カーボンナノチューブが前記電解質膜の膜面の側から前記ガス拡散層に向け延びる傾斜方向と略同方向となるように、前記他方の膜面に前記カーボンナノチューブを傾斜させて前記基板から転写する。上記形態の燃料電池の製造方法によれば、加熱ロールプレスによるカーボンナノチューブの傾斜およびその転写と、電極へのガス拡散層の接合という簡便な工程にて、一方の電極と他方の電極とで個別にカーボンナノチューブを傾斜配向させた上で、一方の電極におけるカーボンナノチューブと他方の電極におけるカーボンナノチューブとを、電解質膜の膜面の側からガス拡散層に向けて延びる傾斜方向が略同方向となるように揃えて、それぞれ傾斜させた燃料電池を容易に製造できる。しかも、その製造した燃料電池では、電解質膜とガス拡散層とのズレを効果的に抑制できる。」 「【0012】 以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき説明する。図1は本発明の実施形態としての燃料電池100の概略構成を示す説明図、図2は図1におけるA部を拡大して模式的に示す説明図である。燃料電池100は、膜電極接合体10をアノード側およびカソード側のガス拡散層15、16で挟持した上で、アノード側セパレーター20、および、カソード側セパレーター30で挟持することによって構成されている。 【0013】 膜電極接合体10は、プロトン伝導性を有する電解質膜12の両面に、電極触媒層としてのアノード13とカソード14を接合することによって構成されている。電解質膜12は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード13およびカソード14は、例えば白金、あるいは白金合金等の触媒を担持したカーボンナノチューブ40をアイオノマー(電解質樹脂)で保持した電極触媒層であり、電解質膜12と共に膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。通常、アイオノマーは、電解質膜12と同質の固体高分子材料である高分子電解質樹脂(例えばフッ素系樹脂)であり、その有するイオン交換基によりプロトン伝導性を有する。本実施形態のアノード13は、触媒担持済みのカーボンナノチューブ40を電解質膜12の膜面に傾斜させて配向し、隣接するカーボンナノチューブ40を傾斜したままアイオノマー42にて保持して形成されている。カソード14も同様であるが、アノード13におけるカーボンナノチューブ40は、カソード14においてカーボンナノチューブ40が電解質膜12の膜面の側からガス拡散層16に向けて延びる傾斜方向と略同方向となるように、アノード13における電解質膜12の膜面の側からガス拡散層15に向けて傾斜して延びている。図3はアノード13とカソード14を構成するカーボンナノチューブ40の傾斜の様子を示す説明図である。図示するように、カーボンナノチューブ40は、アノード13およびカソード14において、燃料電池100の面方向における長辺方向に沿って傾斜している。アノード13とカソード14の形成の様子については、後述する。」 「【0017】 カーボンナノチューブ40を配向済みの基板を準備するに当たっては、カーボンナノチューブ40を垂直に配向済みの基板を購入すれば良いほか、次のように製造しても良い。この手順は図5に示されており、シリコン製の基板kpの上面に、カーボンナノチューブ40の成長核となる鉄触媒を、スパッタリング等によってほぼ均一に付着させ、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、基板kpに、カーボンナノチューブ40を、基板表面に対して垂直に配向するとともに、波型形状にて成長させる(ステップS110)。ここで、「垂直に配向した」とは、厳密に垂直に配向している必要はなく、例えば、基板kpの表面とカーボンナノチューブ40の根元と先端とを結ぶ直線とのなす角度が90・10・の範囲内であってもよい。予め基板kpにカーボンナノチューブを成長させるための成長核(例えば、鉄触媒)を高密度に形成しておくことによって、基板kpには、基板表面に対してほぼ垂直に配向し、隣接するカーボンナノチューブ同士が互いに接触する密度で、ブラシ状のカーボンナノチューブが成長する。なお、本実施形態では、カーボンナノチューブ40の成長条件を制御することによって、カーボンナノチューブ40の波型形状における波長が、0.5~1.8(μm)となるように成長させるものとした。なお、カーボンナノチューブ40を直線状に延びるよう、成長させるようにしてもよい。 【0018】 次に、ブラシ状に成長させたカーボンナノチューブ40の全面に白金塩溶液を滴下して、乾燥・焼成還元することによって、カーボンナノチューブ40に触媒金属としての白金(Pt)を担持させる(ステップS120)。その後、白金担持済みのカーボンナノチューブ40に、アイオノマー分散溶液(例えば、ナフィオン分散溶液(「ナフィオン」は、登録商標))を滴下して、乾燥させることによって、白金を担持したカーボンナノチューブ40の表面をアイオノマー(電解質)によって被覆する(ステップS130)。以上の工程によって、カーボンナノチューブ40を配向済みの基板kpの準備が完了する。 【0019】 続く電極転写では、図6に示すように、アイオノマーにて被覆済みで白金についても担持済みのカーボンナノチューブ40が垂直配向したシート状の基板kpと、シート状の電解質膜12とを加熱ロールプレスに処する。基板kpは、カーボンナノチューブ40を垂直配向したまま、第1群加熱駆動ローラー200と第1群加熱従動ローラー202との間に送られる。電解質膜12は、バックフィルムBFに形成された状態で、バックフィルムBFと共に、第1群加熱駆動ローラー200と第1群加熱従動ローラー202との間に送られる。第1群加熱駆動ローラー200は、電解質膜12を加熱しながら基板kpの側に押し付けるので、基板kpに垂直配向されていたカーボンナノチューブ40は、電解質膜12に対して傾斜する。第1群加熱駆動ローラー200は、カーボンナノチューブ40を被覆していたアイオノマー42をも加熱するので、このアイオノマー42は、一旦溶融し、下流側の案内ローラー210、212に達する間において、カーボンナノチューブ40を傾斜させたまま保持する。カーボンナノチューブ40の傾斜は、第1群加熱駆動ローラー200と第1群加熱従動ローラー202とによる押圧の状況により定まり、本実施形態では、電解質膜12の膜面に対してカーボンナノチューブ40がなす角(傾斜角)が30~80度となるようにした。」 「【0022】 案内ローラー242では、基板kpは水平搬送され、案内ローラー240では、電解質膜12は基板kpから引き剥がされるよう搬送されるので、カーボンナノチューブ40は、基板kpから離れて電解質膜12に傾斜した状態で転写される。これにより、電解質膜12は、その各膜面にカーボンナノチューブ40を傾斜転写して備えることになり、図示しない膜切断装置において、膜電極接合体10が得られる。こうして得られた膜電極接合体10は、図4に示したステップS300にて、ガス拡散層15とガス拡散層16とがホットプレスにて接合され、MEGAを構成する。このMEGAは、アノード側セパレーター20とカソード側セパレーター30とで挟持されて、燃料電池100が得られる。」 図1 [図:0001413896000001.jpg] 図2 [図:0001413896000002.jpg] 図3 [図:0001413896000003.jpg] 図4 [図:0001413896000004.jpg] 図5 [図:0001413896000005.jpg] 図6 [図:0001413896000006.jpg] イ 上記記載から、燃料電池100の電極触媒層に着目すると、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。 ・アノード13とカソード14は電極触媒層であるので(【0013】)、【0012】、【0013】及び【0022】によれば、燃料電池100の電極触媒層に関して、次の事項が記載されている。 電解質膜12の両面に電極触媒層を接合することによって構成されている膜電極接合体10を(【0013】)、アノード側およびカソード側のガス拡散層15、16で挟持した上で、アノード側セパレーター20およびカソード側セパレーター30で挟持することによって構成されている燃料電池100の電極触媒層(【0012】)。 ・図5より、触媒(Pt)は粒子状であることが見て取れる。また、カーボンナノチューブ40は、基板kpに直線状に延びるよう成長させたものである(【0017】)。したがって、【0013】の記載より、電極触媒層は、粒子状の触媒を担持して直線状に延びたカーボンナノチューブ40を保持していることが読み取れる。 ・アノード13とカソード14は電極触媒層であるから、【0013】の記載より、電極触媒層は、カーボンナノチューブ40を電解質膜12の膜面に傾斜させて配向していること、及び、カーボンナノチューブ40は、電極触媒層において、燃料電池100の面方向における長辺方向に沿って傾斜していることが読み取れる。 ・電解質膜12の膜面に対してカーボンナノチューブ40がなす角(傾斜角)が30~80度である。(【0019】) ・膜電極接合体10は、ガス拡散層15とガス拡散層16とがホットプレスにて接合しているので(【0022】)、膜電極接合体10において電解質膜12の両面に接合した電極触媒層は、厚みが均一にプレスされることは明らかである。 ・燃料電池100の製造方法が、触媒を担持済みのカーボンナノチューブをアイオノマーで被覆した上で突出させて配向した基板に電解質膜を加熱ロールプレスして、前記カーボンナノチューブが前記電解質膜の膜面から傾斜して配向して前記アイオノマーにて保持されるよう前記カーボンナノチューブを前記基板から前記電解質膜の前記膜面に転写し、前記電解質膜の各膜面に電極(電極触媒層)を形成する工程(1)と、前記形成済みの電極(電極触媒層)にガス拡散層を接合する工程(2)とを備えていること(【0008】)、及び、図2の記載より、電極触媒層のカーボンナノチューブ40は、電解質膜12とガス拡散層15、16に接合している。 ウ 上記技術事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「電解質膜12の両面に電極触媒層を接合することによって構成されている膜電極接合体10を、アノード側およびカソード側のガス拡散層15、16で挟持した上で、アノード側セパレーター20およびカソード側セパレーター30で挟持することによって構成されている燃料電池100の電極触媒層であって、 電極触媒層は、粒子状の触媒を担持して直線状に延びたカーボンナノチューブ40を保持して、カーボンナノチューブ40を電解質膜12の膜面に傾斜させて配向し、 カーボンナノチューブ40は、電極触媒層において、燃料電池100の面方向における長辺方向に沿って傾斜しており、 電解質膜12の膜面に対してカーボンナノチューブ40がなす角(傾斜角)が30~80度であり、 電極触媒層は厚みが均一であり、 電極触媒層のカーボンナノチューブ40は、電解質膜12とガス拡散層15、16に接合している、 燃料電池100の電極触媒層。」 (3)引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明の「カーボンナノチューブ40」、「粒子状の触媒」は、それぞれ、本件補正発明の「繊維状導電部材」、「触媒粒子」に相当する。 そして、引用発明は「電極触媒層は厚みが均一」であるから、「粒子状の触媒を担持して直線状に延びたカーボンナノチューブ40を保持し」た「燃料電池100の電極触媒層」は、本件補正発明の「繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備え、厚みが均一な燃料電池用触媒層」に相当する。 イ 引用発明の「電極触媒層」は「カーボンナノチューブ40を電解質膜12の膜面に傾斜させて配向し」「保持して」いるので、「カーボンナノチューブ40」は「電極触媒層」の面方向に対して傾斜している。このことは、本件補正発明の「前記繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜して」いることに相当する。 ウ 本願明細書に「【0019】 まず、膜電極接合体100(図4参照)からガス拡散層を取り外して、触媒層120のガス拡散層側の第1主面120Xを露出させる。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、第1主面120Xを撮影する。 【0020】 得られたSEM画像を用いて、触媒層120の第1主面120Xにおいてガス流路と対向する領域であって、例えば20本以上の繊維状導電部材121が確認できる領域R1(50μm×50μm)を任意に決める。領域R1内の確認可能な繊維状導電部材121を任意に10本選び出す。10本の繊維状導電部材121に対して、観察できる長さの中間地点C1における接線L1を引く。 【0021】 上記において、3つの領域R1を、互いに重複しないように決めて、それぞれ同様に、10本の接線L1を得る。得られた合計30本の接線L1の向きを平均化し、平均化した向きを第1方向とし、平均化した向き(第1方向)に延びる直線を第1基準線BL1とする。」と記載されているように、第1方向は、触媒層の面方向において、繊維状導電部材の接線の向きを平均化した方向である。 そして、引用発明の「カーボンナノチューブ40は、電極触媒層において、燃料電池100の面方向における長辺方向に沿って傾斜して」いるので、「カーボンナノチューブ40」は「電極触媒層」の面方向において、カーボンナノチューブ40の長さ方向が平均的に長辺方向を向いている、すなわち、カーボンナノチューブ40の接線方向は長辺方向であるともいえるものである。 そうすると、引用発明の「カーボンナノチューブ40は、電極触媒層において、燃料電池100の面方向における長辺方向に沿って傾斜して」いることは、本件補正発明の「前記繊維状導電部材の長さ方向は、平均的に第1方向を向いて」いることに相当する。 エ 引用発明の「直線状に延びた」「電極触媒層のカーボンナノチューブ40は、電解質膜12とガス拡散層15、16に接合し」「電解質膜12の膜面に対してカーボンナノチューブ40がなす角(傾斜角)が30~80度」であるから、「カーボンナノチューブ40」の長さは、「電極触媒層12」の厚さの約1.02倍(1/sin80°)~約2倍(1/sin30°)である。このことは、本件補正発明における「繊維状導電部材の長さLf」と「触媒層の厚みT」との「関係式:Lf/T≦3」を満たしている。 オ 燃料電池用触媒層について、本件補正発明は「前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下である」のに、引用発明はそのような特定がない点で相違する。 上記アないしオによれば、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。 (一致点) 「繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備え、厚みが均一な燃料電池用触媒層であって、 前記繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜しており、かつ、前記繊維状導電部材の長さ方向は、平均的に第1方向を向いており、 前記繊維状導電部材の長さLfと、前記触媒層の厚みTとが、関係式:Lf/T≦3を満たす、燃料電池用触媒層。」 (相違点) 燃料電池用触媒層について、本件補正発明は「前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下である」のに、引用発明はそのような特定がない点。 (4)相違点についての判断 燃料電池の触媒層おいて、粒子状導電部材を繊維状導電部材とともに用いる技術は周知である(例えば、特開2016-126869号公報(【0020】、図1(b))、特開2009-81064号公報(【0033】、図2)、特開2008-243453号公報(【0022】、図1))。さらに、上記特開2016-126869号公報は、繊維状導電部材(担体炭素材料(CNF))および粒子状導電部材(導電助剤炭素材料)の合計100質量部に対して、粒子状導電部材の含有量を20~42質量部にすることが記載されている(【0057】、表1)。 ここで、引用発明の「燃料電池100の電極触媒層」は、カーボンナノチューブ40(繊維状導電部材)を用いるものであるから、上記周知技術を適用して、「電極触媒層」をカーボンナノチューブ40に加えてさらに粒子状導電部材を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 また、繊維状導電部材および粒子状導電部材の合計100質量部に対する、粒子状導電部材の含有量として5質量部以上40質量部以下の範囲内の値を選択することは、上記特開2016-126869号公報に粒子状導電部材の含有量を20~42質量部にすることが記載されているように、繊維状導電部材及び粒子状導電部材を備える触媒層において普通のことであるといえる。そうすると、粒子状導電部材の含有量を5質量部以上40質量部以下にすることは、引用発明に上記周知技術を適用する際に、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化にすぎない。 したがって、引用発明に周知技術を適用し、上記相違点に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。 よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)請求人の主張について 請求人は審判請求書において「引用文献1の[0017]には、『・・予め基板kpにカーボンナノチューブを成長させるための成長核(例えば、鉄触媒)を高密度に形成しておくことによって、基板kpには、基板表面に対してほぼ垂直に配向し、隣接するカーボンナノチューブ同士が互いに接触する密度で、ブラシ状のカーボンナノチューブが成長する。・・』と記載されています(図5参照)。ここで、『基板表面に対してほぼ垂直に配向し、隣接するカーボンナノチューブ同士が互いに接触する密度で、ブラシ状のカーボンナノチューブが成長』した基板を用いる場合、粒子状導電部材を併用することは動機づけられないと思量します。隣接するカーボンナノチューブ同士が互いに接触する密度でブラシ状に成長している中に、粒子状導電部材を混在させることは困難であると考えられるからです。」と主に主張している。(審判請求書3頁10~20行) しかしながら、引用文献1は、カーボンナノチューブ40に、アイオノマー分散溶液を滴下して、カーボンナノチューブ40の表面をアイオノマー(電解質)によって被覆することが記載されており(【0018】)、引用発明の「カーボンナノチューブ40」は、その間に粒子状導電部材を混在させることが困難なほど密集しているとまではいえないものである。 したがって、上記主張は採用できない。 (6)本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年11月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(2)」に記載したとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 請求項1に係る発明に対する原査定の拒絶の理由1(特許法第29条第1項第3号)の概略は次のとおりである。 この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 1.特開2014-154350号公報 3 引用文献及びその記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由]2(2)」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記「第2の[理由]2」で検討した本件補正発明から、「前記触媒層は、更に、粒子状導電部材を備え、前記触媒層中の前記粒子状導電部材の含有量は、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下である」に係る限定事項(上記相違点に係る事項)が削除されたものである。 そうすると、上記「第2[理由]2(3)」に記載したとおり、本願発明と引用発明は、 「繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備え、厚みが均一な燃料電池用触媒層であって、 前記繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜しており、かつ、前記繊維状導電部材の長さ方向は、平均的に第1方向を向いており、前記繊維状導電部材の長さLfと、前記触媒層の厚みTとが、関係式:Lf/T≦3を満たす、燃料電池用触媒層。」の点で一致し、相違するところがない。 したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明である。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-009037

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