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特許異議申立

2020-700552

積層体およびその製造方法および使用方法ならびにガラス基板積層用ポリイミド前駆体溶液

審判番号
2020-700552
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-570696
登録番号
6661552
請求日
2020年08月04日
審決日
2022年01月31日
公報発行日
2022年05月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ユニチカ株式会社
  • 【権利者代理人】山尾 憲人
  • 【権利者代理人】鮫島 睦
  • 【権利者代理人】北原 康廣
  • 【異議申立人】嶋崎 孝明
審判長/審判官
  • 審判長 井上 茂夫
  • 審判官 藤原 直欣
  • 審判官 藤井 眞吾
分類
P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6661552号発明「積層体およびその製造方法および使用方法ならびにガラス基板積層用ポリイミド前駆体溶液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6661552号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3、5〕、4、6、7、8について訂正することを認める。 特許第6661552号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6661552号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)1月21日(優先権主張 平成27年1月22日)を国際出願日とする特許出願であって、令和2年2月14日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報発行日:同年3月11日)。 本件特許異議の申立てに係る主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年 8月 4日 : 特許異議申立人 嶋崎孝明(以下「申立人」という。)による本件特許の請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て 同年11月13日付け: 取消理由通知書 令和3年 1月 8日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 2月26日 : 申立人による意見書の提出 同年 3月24日付け: 取消理由通知書(決定の予告) 同年 5月27日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 8月 2日 : 申立人による意見書の提出 なお、特許権者が令和3年1月8日に提出した訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正 1 訂正の内容 令和3年5月27日に提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という)による訂正(以下「本件訂正」という)の内容は以下のとおりである。 なお、訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「ガラス基板と、このガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなる積層体であって、前記フィラの熱膨張係数が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体。」とあるのを、 「ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理してポリイミド被膜を形成し、このポリイミド被膜の表面に電子素子を形成後、最後にポリイミド被膜をガラス基板から剥離することにより、フレキシブル基板とする、フレキシブル基板の製造に用いられる積層体であって、前記積層体は、ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、5も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、 「前記ポリイミド被膜中のフィラ含有量が、ポリイミド被膜の全質量に対し、5~50質量%である、請求項1に記載の積層体。」とあるのを、 「前記フィラ含有ポリイミド層中のフィラ含有量が、フィラ含有ポリイミド層の全質量に対し、5~50質量%である、請求項1に記載の積層体。」 に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、5も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 ア 訂正事項3-1 特許請求の範囲の請求項4に、 「フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めたうえで、 「ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。」 に訂正する。 イ 訂正事項3-2 特許請求の範囲の請求項4に、 「フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、独立形式に改めたうえで、 「ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、 前記フィラ含有ポリイミド層中のフィラ含有量が、フィラ含有ポリイミド層の全質量に対し、5~50質量%であり、 フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。」 と記載し、新たに請求項6とする。 ウ 訂正事項3-3 特許請求の範囲の請求項4に、 「フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。」とあるうち、引用する請求項3のうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改めたうえで、 「ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、 前記フィラが、カーボン粒子、セラミック粒子およびシリコン粒子からなる群から選択される1種以上のフィラであり、 フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。」 と記載し、新たに請求項7とする。 エ 訂正事項3-4 特許請求の範囲の請求項4に、 「フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。」とあるうち、引用する請求項3のうち請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、独立形式に改めたうえで、 「ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、 前記フィラ含有ポリイミド層中のフィラ含有量が、フィラ含有ポリイミド層の全質量に対し、5~50質量%であり、 前記フィラが、カーボン粒子、セラミック粒子およびシリコン粒子からなる群から選択される1種以上のフィラであり、 フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。」 と記載し、新たに請求項8とする。 2 一群の請求項 本件訂正は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接又は間接に引用する請求項2~5について訂正することを求めるものであるから、一群の請求項に対して請求されたものであり、訂正後の請求項1~8は一群の請求項である。 そして、特許権者は、本件訂正後の請求項4、請求項6~8については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。 3 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、「積層体」を限定する訂正事項1-1及び「フィラ」を限定する訂正事項1-2からなる。 ア 訂正事項1-1について 訂正事項1-1は、「ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理してポリイミド被膜を形成し、このポリイミド被膜の表面に電子素子を形成後、最後にポリイミド被膜をガラス基板から剥離することにより、フレキシブル基板とする、フレキシブル基板の製造に用いられる積層体」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)には、次の記載がある。 ・「【0006】 このようなポリイミド被膜が積層されたガラス基板においては、ガラス基板をキャリア用の基板として利用する場合、ポリイミド被膜の表面に電子素子を形成後、最後にポリイミド被膜をガラス基板から剥離することにより、フレキシブル基板とすることができる。」 ・「【0029】 [積層体の製造方法] 本発明の積層体の製造方法は、フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層(層-1)を形成することを特徴とする。フィラ含有ポリイミド前駆体溶液は、特定フィラを含有するガラス基板積層用ポリイミド前駆体溶液のことである。」 ・「【0036】 また例えば、ポリイミド被膜が層-1および層-2からなる多層構造を有する場合、当該ポリイミド被膜をガラス基板上に形成するには、先ず、PAA-Fをガラス板上に塗布、乾燥する。次に、この被膜(層-1)上に、PAA-Sを塗布、乾燥して層-2を形成後、一括して熱硬化する。」 ・「【0039】 [用途] 前記のようにして得られた本発明の積層体は、ポリイミド被膜の表面に電子素子を形成後、当該ポリイミド被膜をガラス基板から容易に剥離することができるので、電子デバイスの製造に有用である。」 以上の記載からすると、訂正事項1-1は、新規事項を追加するものではない。 また、訂正事項1-1は、発明特定事項を直列的に付加するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 訂正事項1-2について 訂正事項1-2は、本件訂正前の請求項1において「前記フィラの熱膨張係数が10ppm/℃以下」とされていたところ、「前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下」であって「ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30重量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する」ものであることを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書等には次の記載がある。 ・「【0026】 フィラのCTE値については、 R.E. Taylor, CINDAS Data Series on Materials Properties, Thermal Expansion of Solids, Vol 1-4, ASM International, 1998、Welding, Brazing, and Soldering, Vol 6, ASM Handbook, ASM International, 1993等の文献値を参照することができるが、フィラのCTEが10ppm/℃以下かどうかは、以下のような方法によって判定することもできる。すなわち、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定される。逆に、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTEを上回れば、そのフィラはCTEが10ppm/℃超と判定される。例えば、銅、銀等の金属粒子はCTEが10ppm/℃を超えており、本発明の積層体のフィラとして用いることはできない。」 この記載からすれば、訂正事項1-2は、新規事項を追加するものではない。 また、訂正事項1-2は、発明特定事項を直列的に付加するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項2において「前記ポリイミド被膜中のフィラ含有量が、ポリイミド被膜の全質量に対し、5~50質量%である」とされていたものを、「前記フィラ含有ポリイミド層中のフィラ含有量が、フィラ含有ポリイミド層の全質量に対し、5~50質量%である」と訂正することで、「ポリイミド被膜」のうちの「フィラ含有ポリイミド層」における「フィラ含有量」であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書等の段落【0027】には、次の記載がある。 ・「【0027】 特定フィラの平均粒径範囲は、0.01~2μm程度とすることが好ましい。ここで平均粒径はレーザー回折法で測定した体積基準の測定値をいう。特定フィラの粒子形状は、不定形状、球状、角状、線状等制限はないが、不定形状が好ましい。特定フィラの含有量は、ポリイミド被膜の全質量に対し、5~50質量%とすることが好ましく、10~40質量%とすることがより好ましく、20~30質量%とすることが更に好ましい。このようにすることにより、ポリイミド被膜のCTEをさらに充分に低減化できるとともに、さらに良好な剥離性を確保することができる。特定フィラの含有量の基準「ポリイミド被膜の全質量」とは、ポリイミド被膜が単層構造の場合は「当該単層構造のポリイミド被膜を構成するフィラ含有ポリイミド層(層-1)の全質量」のことであり、ポリイミド被膜が多層構造の場合は「当該多層構造のポリイミド被膜を構成するフィラ含有ポリイミド層(層-1)の全質量」のことである。」 この記載からすれば、訂正事項2は、新規事項を追加するものではない。 訂正事項2は、また、発明特定事項を直列的に付加するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3に係る本件訂正前の請求項4の記載には、請求項1の記載を引用するもの、請求項1及び2の記載を引用するもの、請求項1及び3の記載を引用するもの、並びに請求項1、2及び3の記載を引用するものが含まれるところ、訂正事項3-1により、本件訂正前の請求項4の記載を請求項1の記載を引用するものに、訂正事項3-2により、本件訂正前の請求項4の記載を請求項1及び2の記載を引用するものに、訂正事項3-3により、本件訂正前の請求項4の記載を請求項1及び3の記載を引用するものに、訂正事項3-4により、本件訂正前の請求項4の記載を請求項1、2及び3の記載を引用するものに、それぞれ限定するものである。 そして、訂正事項3-1~3-4は、いずれも、「ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、」なる発明特定事項(以下「発明特定事項a」という)を付加し、「ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30重量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。」なる発明特定事項(以下「発明特定事項b」という)を付加するものである。 (ア)訂正事項3-1~3-4は、いずれも、本件訂正前の請求項4の記載における請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改める訂正であるから、他の請求項を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。 また、訂正事項3-1~3-4により付加される発明特定事項aが本件訂正前の請求項4に記載された積層体の製造方法を限定するものであることは明らかであるし、また、発明特定事項bの付加も、既に訂正事項1-2について述べたように、特許請求の範囲の減縮に当たるものであるから訂正事項3-1~3-4は、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。 (イ)訂正事項3-1、訂正事項3-3は、いずれも、請求項1に関する訂正事項1-1及び1-2について上記(1)ア(イ)及び上記(1)イ(イ)での説示を踏まえれば、新規事項を追加するものではないし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正事項3-2、訂正事項3-4は、いずれも、さらに請求項2に関する訂正事項2について上記(2)での説示も踏まえれば、新規事項を追加するものではないし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、本件訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~3,5〕、4,6,7,8について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~8は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された、次のとおりのものである(以下これら特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明をそれぞれ「本件発明1」等という)。 なお、請求項1、4、6~8に記載された「ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。」という発明特定事項は、「前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、」という発明特定事項を説明、定義付けるものであり、そこでの比較の基準となる「CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜」とは、本件特許明細書等の段落【0016】の記載にしたがって5質量%以下の(任意の)フィラが含有されるとしても、「ポリイミド被膜」全体として「CTEが10~20ppm/℃」であればよいことを意味することが明らかであって、本件各訂正発明が「CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下」の「フィラ」を用いるものであることが明らかである。 「【請求項1】 ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理してポリイミド被膜を形成し、このポリイミド被膜の表面に電子素子を形成後、最後にポリイミド被膜をガラス基板から剥離することにより、フレキシブル基板とする、フレキシブル基板の製造に用いられる積層体であって、前記積層体は、ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。 【請求項2】 前記フィラ含有ポリイミド層中のフィラ含有量が、フィラ含有ポリイミド層の全質量に対し、5~50質量%である、請求項1に記載の積層体。 【請求項3】 前記フィラが、カーボン粒子、セラミック粒子およびシリコン粒子からなる群から選択される1種以上のフィラである、請求項1または2に記載の積層体。 【請求項4】 ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。 【請求項5】 請求項1~3のいずれかに記載の積層体を電子デバイスの製造に用いることを特徴とする積層体の使用方法。 【請求項6】 ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、 前記フィラ含有ポリイミド層中のフィラ含有量が、フィラ含有ポリイミド層の全質量に対し、5~50質量%であり、 フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。 【請求項7】 ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、 前記フィラが、カーボン粒子、セラミック粒子およびシリコン粒子からなる群から選択される1種以上のフィラであり、 フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。 【請求項8】 ガラス基板と、ガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなり、前記フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり、前記ポリイミド被膜が、前記フィラ含有ポリイミド層、および当該フィラ含有ポリイミド層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含むことを特徴とする積層体の製造方法であって、 前記フィラ含有ポリイミド層中のフィラ含有量が、フィラ含有ポリイミド層の全質量に対し、5~50質量%であり、 前記フィラが、カーボン粒子、セラミック粒子およびシリコン粒子からなる群から選択される1種以上のフィラであり、 フィラ含有ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理することにより、フィラ含有ポリイミド層を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。 ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30質量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する。」 第4 取消理由の概要 本件訂正前の本件特許の請求項1~3、5に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。 本件特許の請求項1~3、5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明と同一であるか、下記の甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件特許の請求項1~3、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 記 甲第1号証:特許第5224011号公報 甲第2号証:特開平7-252370号公報 甲第3号証:特開昭58-145419号公報 甲第4号証:特開昭61-296034号公報 甲第5号証:特開平7-292105号公報 甲第6号証:産業技術総合研究所 計量標準総合センター 物質計測標準研究部門 熱物性標準研究グループ、“熱膨張率 2.熱膨張率の測定方法”、[online]、[令和2年7月14日出力日]、産業技術総合研究所、インターネット<URL:https://unit.aist.go.jp/mcml/rg-tp/research/l/index-2.html> 第5 当審の判断 1 証拠の記載 (1)甲第1号証について ア 甲第1号証には、次の記載がある。 なお、甲第1号証等の証拠を以下「甲1」等と略記し、甲1等に記載された事項を「甲1記載事項」などという。 (ア)「【請求項1】 少なくとも支持体とポリイミドフィルムとから構成されてなる積層体の製造方法であって、 前記ポリイミドフィルムとして、少なくとも前記支持体に対向させる面にプラズマ処理が施されたフィルムを用い、前記支持体と前記ポリイミドフィルムとが対向する面の少なくとも一方にカップリング剤処理を施してカップリング処理層を形成し、次いでカップリング処理層の一部に不活性化処理を施して所定のパターンを形成した後、前記支持体と前記ポリイミドフィルムとを重ね合わせて加圧加熱処理することを特徴とする積層体の製造方法。 【請求項2】 前記不活性化処理として、ブラスト処理、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、コロナ処理、活性放射線照射処理、活性ガス処理および薬液処理からなる群より選択される少なくとも1種を行う請求項1に記載の積層体の製造方法。 ・・・・・ 【請求項9】 支持体とポリイミドフィルムとがカップリング処理層を介して積層されてなる積層体であって、前記支持体と前記ポリイミドフィルムとの間の剥離強度が異なる良好接着部分と易剥離部分とを有しており、該良好接着部分と該易剥離部分とが所定のパターンを形成していることを特徴とする積層体。 ・・・・・ 【請求項12】 ポリイミドフィルム上にデバイスが形成されてなる構造体を製造する方法であって、支持体とポリイミドフィルムとを有する請求項9~11のいずれかに記載の積層体を用いることとし、該積層体のポリイミドフィルム上にデバイスを形成した後、前記積層体の易剥離部分のポリイミドフィルムに切り込みを入れて該ポリイミドフィルムを前記支持体から剥離することを特徴とするデバイス構造体の製造方法。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、ポリイミドフィルムと無機物からなる支持体(以下単に「支持体」と称することもある)とから構成されてなる積層体の製造方法に関するものである。詳しくは、本発明は、ポリイミドフィルムを支持体となる無機基板に一時的ないし半永久的に貼り合わせた積層体を製造する方法に関し、かかる積層体は、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など、薄膜からなり且つ微細な加工が必要となるデバイスをポリイミドフィルム表面に形成する際に有用である。さらに詳しくは、本発明にかかる積層体は、耐熱性と絶縁性に優れた薄いポリイミドフィルムと、それとほぼ同程度の線膨張係数を有する無機物(例えば、ガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属板から選ばれた1種)からなる支持体との積層体であって、精緻な回路をマウントできる、寸法安定性と耐熱性と絶縁性に優れた積層体である。よって、本発明は、このような積層体、その製造方法、および該積層体を利用したデバイス構造体の製造方法に関する。」 (ウ)「【0005】 また、半導体薄膜のなかでも、線膨張係数が3ppm/℃程度と非常に小さいSiの薄膜を高分子フィルム上に形成する場合、フィルムと薄膜との間の線膨張係数の差が大きいと、薄膜中に応力が溜まり、性能の劣化や反りないし剥がれを招く原因になるという問題もある。特に薄膜形成プロセス中に高温が加わると、温度変化の間にフィルムと薄膜の間の線膨張係数の差に起因する応力が大きくなる。」 (エ)「【0016】 本発明の製造方法で得られる積層体は、支持体(ガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属等)の一面と、ポリイミドフィルムの一面とが、接着剤層を介することなく貼り合わされた積層体であって、あらかじめ決めたパターンによって支持体とポリイミドフィルムの接着剥離強度が異なる良好接着部分と易剥離部分とに分かれているので、ポリイミドフィルムの上にデバイスを作製した後、易剥離部分のポリイミドフィルムに切り込みを入れて剥離することによって、容易にデバイス付きのポリイミドフィルムを得ることができる。 本発明によれば、絶縁性で可撓性、耐熱性を兼ね備えた薄いポリイミドフィルムに回路などを形成できる。さらに電子部品を搭載して電子デバイスを作製する時に、薄いポリイミドフィルムであっても、寸法安定性に優れた支持体に積層され固定されていることで精密な位置決めができ、多層に薄膜作製、回路形成など行なうことができる。しかも本発明の積層体は、プロセス中には熱が加わっても剥がれず、デバイス作製後に必要に応じてこの支持体から剥がす際にも、ポリイミドフィルムと支持体との剥離がスムースに実施できる。さらに本発明の積層体は、プロセス通過過程において剥離することのない剥離強度を有する積層体であるため、従来の電子デバイス作製プロセスをそのまま使うことが可能である。特に、ポリイミドフィルム上にデバイスを作製するに際しては、ポリイミドフィルムの表面特性から、密着性に優れ、平滑性にも優れるので、安定的に精度よくデバイス作製を実施することができる。このように、本発明の積層体は、絶縁性で可撓性、耐熱性を兼ね備えた、薄いポリイミドフィルムに回路などを形成した電子デバイス作製などに極めて有意義である。」 (オ)「【発明を実施するための形態】 【0023】 (積層体の製造方法) 本発明の積層体の製造方法は、少なくとも支持体とポリイミドフィルムとを用いて、これらから構成される積層体を製造する方法である。 【0024】 <支持体> 本発明における支持体は、無機物からなり基板として用いることのできる板状のものであればよく、例えば、ガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属等を主体としているもの、および、これらガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属の複合体として、これらを積層したもの、これらが分散されているもの、これらの繊維が含有されているものなどが挙げられる。」 (カ)「【0048】 ポリイミドフィルムにおいては、ハンドリング性および生産性を確保する為、フィルムを構成するポリイミド中に滑材(粒子)を添加・含有させて、ポリイミドフィルム表面に微細な凹凸を付与して滑り性を確保することが好ましい。 前記滑材(粒子)とは、無機物からなる微粒子であり、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭素化物、金属酸塩、リン酸塩、炭酸塩、タルク、マイカ、クレイ、その他粘土鉱物、等からなる粒子を用いることができる。好ましくは、酸化珪素、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、ガラスフィラーなどの金属酸化物、リン酸塩、炭酸塩を用いることができる。滑材は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。 ・・・・・ 【0050】 前記滑材の添加量は、ポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対する添加量として、0.05~50質量%であり、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.20~1.0質量%である。滑材の添加量が少なすぎると滑材添加の効果が期待し難く、滑り性の確保がそれほどなくポリイミドフィルム製造に支障をきたす場合があり、多すぎると、フィルムの表面凹凸が大きくなり過ぎて、滑り性の確保が見られても平滑性の低下を招いたり、ポリイミドフィルムの破断強度や破断伸度の低下を招いたり、CTEの上昇を招くなどの課題を招く虞がある。 ・・・・・ 【0052】 多層のポリイミドフィルムは、例えば、ポリアミド酸溶液(ポリイミドの前駆体溶液)として、滑材(好ましくは平均粒子径0.05~2.5μm程度)をポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対して0.05質量%~50質量%(好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.20~1.0質量%)含有したものと、滑材を含有しないか又はその含有量が少量(好ましくはポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対して0.3質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下)である2つのポリアミド酸溶液を用いて製造することが好ましい。 多層ポリイミドフィルムの多層化(積層)方法は、両層の密着に問題が生じなければ、特に限定されるものではなく、かつ接着剤層などを介することなく密着するものであればよい。例えば、i)一方のポリイミドフィルムを作製後、このポリイミドフィルム上に他方のポリアミド酸溶液を連続的に塗布してイミド化する方法、ii)一方のポリアミド酸溶液を流延しポリアミド酸フィルムを作製後このポリアミド酸フィルム上に他方のポリアミド酸溶液を連続的に塗布した後、イミド化する方法、iii)共押し出しによる方法、iv)滑材を含有しないか又はその含有量が少量であるポリアミド酸溶液で形成したフィルムの上に、滑材を多く含有するポリアミド酸溶液をスプレーコート、Tダイ塗工などで塗布してイミド化する方法などが挙げられる。好ましくは、上記i)や上記ii)の方法がよい。」 (キ)「【0054】 前記ポリイミドフィルムには、少なくとも前記支持体に対向させる面に、プラズマ処理を施しておくことが重要である。プラズマ処理を施すことにより、ポリイミドフィルム表面は官能基が存在する状態(いわゆる活性化した状態)に改質され、支持体に対する良好な接着が可能になる。 ・・・・・ 【0057】 プラズマ処理の持つ効果としては、上述した表面官能基の付加、およびこれに伴う接触角の変化、接着性の向上、表面汚染の除去などのほか、デスミアと呼ばれる、加工に伴う不規則形状物の除去などの表面のエッチング効果がある。特に高分子とセラミックではエッチングされやすさが全く異なる為、セラミックに比べて結合エネルギーの低い高分子のみが選択的にエッチングされることになる。このため、エッチング作用のあるガス種や放電条件では、選択的に高分子のみがエッチングされて滑材(粒子、フィラーともいう)を露出させるという作用も生じる。 ・・・・・ 「【0060】 前記プラズマ処理を施したポリイミドフィルムには、プラズマ処理の後に酸処理を施すことが好ましい。滑材(粒子)を含有したポリイミドフィルム表面では、滑材は表面付近で凸形状を形成していても、その表面にはごく薄いポリイミド層が存在する。ポリイミドは酸に対する耐性が強い為、極薄い層でもポリイミドが滑材表面にあると、酸処理を施した際に酸は滑材表面と直接接することはなく酸によって侵食されないが、プラズマ処理によるエッチング効果により選択的に高分子(ポリイミド)のみがエッチングされた後では、酸は滑材表面と直接接するため、適切な酸の種類を選んで酸処理を行えば、ごく短時間で滑材のみの溶解除去を行うことができ、クレーターが形成される。 このクレーターは、プラズマ処理によってポリイミドフィルム表面から露出した滑材が酸によって溶出された残部と考えられ、単なる凹みではなく、その縁部が盛り上がった状態の窪みである。参考として、図4に、クレーター部を示すAFM像を、図5に、図4に示すクレーター部の直線部分における断面像を、図6に、クレーター部を含むAFM像(10μm四方)を示す。クレーターの縁部分は、中に滑材粒子が内包された状態の突起に比較して柔らかく、ポリイミドフィルムと支持体とを加圧密着させる際に比較的弱い力で変形する。滑材を内包した突起は変形しがたく、ポリイミドフィルムと支持体との密着を阻害するが、滑材部分をこのようなクレーター様の形状にすることにより、ポリイミドフィルムと支持体との密着性が高まり、ポリイミドフィルムと支持体との剥離強度をより向上させることができる。」 (ク)「【0083】 <加圧加熱処理> 本発明の積層体の製造方法においては、前記エッチングの後、前記支持体と前記ポリイミドフィルムとを重ね合わせて加圧加熱処理する。これにより、支持体とポリイミドフィルムとを接着させることができる。 また一般に、支持体とポリイミドフィルムとの積層体を得る方法としては、支持体の上にポリイミドワニス(上述したポリアミド酸溶液)を直接塗布しイミド化させて製膜する方法も考えられるが、本発明では、ポリイミドをフィルム化した後、支持体に積層する。これは、ポリアミド酸溶液を支持体上で加熱してイミド化すると、例えば、支持体にもよるが同心円状の膜厚分布ができやすくなったり、ポリイミドフィルムの表と裏の状態(熱の伝わり方等)が異なるために反りや支持体からの浮きがあるフィルムになりやすいのに対して、予めフィルム化しておけば、これらの問題を回避できるからである。さらに、支持体にフィルムを重ね合わせるようにすることで、後述する加圧加熱処理を行い得る範囲において、重ね合わせる前にフィルムにデバイス(回路等)を形成しておくことも可能になる。」 (ケ)「【0116】 <ポリイミドフィルムの評価:ロール巻取り性> 長尺状のポリイミドフィルムを巻取りロ-ル(心棒の外径:15cm)に2m/分の速度で巻取る際に、皺が生じず円滑に巻取りが可能である場合を「○」、部分的に皺が発生する場合を「△」、皺が発生したり、ロ-ルに巻きついて円滑に巻取りができない場合を「×」と評価した。 【0117】 <ポリイミドフィルムの評価:反り度> 得られたポリイミドフィルムから、50mm×50mmの正方形を切り出し、フィルム試験片とした。フィルム試験片を切り出すに際しては、正方形の各辺がフィルムの長手方向および幅方向と一致するようにし、かつ正方形の中心がフィルムの幅方向において(a)中央、(b)左端から全幅長の1/3に当たる点、(c)右端から全幅長の1/3に当たる点、に位置するように、3箇所から切り出した。 上記フィルム試験片(a)~(c)をそれぞれ平面上に凹状となるように静置し、四隅の平面からの距離(h1、h2、h3、h4:単位mm)を測定して、その平均値を反り量(mm)とした。この反り量を試験片の各頂点から中心までの距離(35.36mm)で除して百分率(%)で表わしたもの(100×(反り量(mm))/35.36)を反り度(%)とし、フィルム試験片(a)~(c)の反り度を平均して求めた。 <ポリイミドフィルムの評価:カール度> ポリイミドフィルムの反り度の測定に用いたのと同様のフィルム試験片(a)~(c)に250℃のドライオーブンにて30分間熱処理を施し、その後、熱処理後のフィルムについて上記と同様に反り度を測定し、熱処理後のフィルムの反り度(%)をカール度とした。 ・・・・・ 【0125】 <剥離後のフィルム反り度> 積層体のUV照射部に切り込みを入れてポリイミドフィルムを支持体から剥離し、剥離したポリイミドフィルムの中央部分から50mm×50mmの正方形を切り出してフィルム試験片とし、該試験片の反り度(%)を上記ポリイミドフィルムの反り度と同様にして測定し、剥離後のフィルム反り度とした。」 (コ)「【0128】 〔製造例1~2〕 (ポリアミド酸溶液A1~A2の調製) 窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール223質量部と、N,N-ジメチルアセトアミド4416質量部とを加えて完全に溶解させ、次いで、ピロメリット酸二無水物217質量部とともに、滑材としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST30」)とをシリカ(滑材)が表1記載の添加量(ポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量に対する質量%)になるように加え、25℃の反応温度で24時間攪拌して、褐色で粘調なポリアミド酸溶液A1~A2を得た。 【0129】 【表1】 [図:0001384021000001.jpg] 」 (サ)「【0135】 《フィルム作製例1》 ポリアミド酸溶液A1を、製膜支持体としてのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(東洋紡績株式会社製「A-4100」)の無滑材面上に、表4中「(b層)厚さ」として示す乾燥膜厚となるようにコンマコーターを用いてコーティングし、110℃にて5分間乾燥した後、PET製フィルムとともに(PET製フィルムから剥がさずに)単層ポリアミド酸フィルムを巻き取った。 製膜支持体のPET製フィルムとともに巻き取られた単層ポリアミド酸フィルムを製膜機の巻きだし部に取り付け、ポリアミド酸溶液A2を、表4中「(a層)厚さ」として示す乾燥膜厚となるように、コンマコーターを用いて単層ポリアミド酸フィルム面にコーティングし、110℃にて20分間乾燥して、製膜支持体のPET製フィルム上に2層構成の多層ポリアミド酸フィルムを得た。 【0136】 次に、得られた2層構成の多層ポリアミド酸フィルムを製膜支持体のPET製フィルムから剥離し、3つの熱処理ゾーンを有するピンテンターに通し、一段目150℃×2分、2段目220℃×2分、3段目475℃×4分間の熱処理を行い、500mm幅にスリットして、多層構造のポリイミドフィルム1を得た。なお、熱処理後、剥離可能な非ポリイミド保護フィルムとして、片面に微粘着層を備えたPETフィルム(保護フィルムA)をa層側(本実施例ではポリアミド酸溶液A2側)にラミネートしてから巻き取った。得られたポリイミドフィルムの特性を表4に示す。 ・・・・・ 【0138】 《フィルム作製例3》 ポリアミド酸溶液A1とA2の塗布順番を入れ替える(すなわち、b層をポリアミド酸溶液A2で形成し、a層をポリアミド酸溶液A1で形成する)とともに、ポリアミド酸溶液A1、A2の塗布量を、それぞれ表4に示す乾燥膜厚となるように変更したこと以外は、フィルム作製例1と同様にして、ポリイミドフィルム3を得た。得られたポリイミドフィルムの特性を表4に示す。 【0139】 《フィルム作製例4》 ポリアミド酸溶液A1、A2の塗布量を、それぞれ表4に示す乾燥膜厚となるように変更したこと以外は、フィルム作製例1と同様にして、ポリイミドフィルム4を得た。得られたポリイミドフィルムの特性を表4に示す。 ・・・・・ 【0146】 【表4】 [図:0001384021000002.jpg] 」 (シ)「【0148】 《フィルム処理例1~4》 フィルム1~4に対し、各ポリイミドフィルムの滑材を含有していないポリイミド側(ポリアミド酸溶液A2で形成された層側)の面に真空プラズマ処理を施した。真空プラズマ処理としては、平行平板型の電極を使ったRIEモード、RFプラズマによる処理を採用し、真空チャンバー内にO2ガスを導入し、13.56MHzの高周波電力を導入するようにし、処理時間は3分間とした。得られた処理後の各ポリイミドフィルムの特性を表6に示す。なお、ここで得られた処理後の各ポリイミドフィルムには、酸処理(HF処理)を施していないので、クレーターは観察されなかった。 【0149】 《フィルム処理例5~7》 フィルム3~5に対し、各ポリイミドフィルムの滑材を含有しているポリイミド側(ポリアミド酸溶液A1で形成された層側)の面に真空プラズマ処理を施し、続いて同面を酸処理した後、風乾し、110℃のホットプレート上に1時間載置することにより脱水処理を行った。真空プラズマ処理としては、平行平板型の電極を使ったRIEモード、RFプラズマによる処理を採用し、真空チャンバー内にO2ガスを導入し、13.54MHzの高周波電力を導入するようにし、処理時間は3分間とした。続く酸処理は、10質量%のHF水溶液中に1分間浸漬した後、洗浄し、乾燥することにより行った。得られた処理後の各ポリイミドフィルムの特性を表7に示す。 ・・・・・ 【0152】 【表6】 [図:0001384021000003.jpg] 【0153】 【表7】 [図:0001384021000004.jpg] 」 (ス)「【0155】 (実施例1~4) 窒素置換したグローブボックス内で窒素ガスを流しながら、シランカップリング剤(SC剤)である3-アミノプロピルトリメトキシシランをイソプロピルアルコールによって0.5質量%に希釈した後、無機物からなる支持体(基板)として予め別途洗浄、乾燥しておいたガラス(コーニング社製「コーニングEAGLE XG」;100mm×100mm×0.7mm厚)をスピンコーターに設置して、シランカップリング剤(SC剤)を回転中央部に滴下させて500rpmにて回転させ、次いで2000rpmにて回転させることにより支持体全面を濡らした状態として塗布した後に、乾燥状態とした。これをクリーンベンチ内に載置した110℃に加熱したホットプレート上で1分間加熱して、厚さ11nmのカップリング処理層を備えたカップリング剤処理済支持体を得た。 【0156】 次に、上記で得たカップリング処理層を備えた支持体のカップリング処理層面に、70mm×70mm(□70mm)のパターンに切り抜いたポリイミドフィルムをマスクとして載置し、積層体の周辺15mmずつを残して70mm×70mm(□70mm)の範囲内にUV照射処理を行った。 なお、UV照射は、ランテクニカルサービス株式会社製のUV/O3洗浄改質装置(「SKB1102N-01」)とUVランプ(「SE-1103G05」)とを用い、該UVランプから3cm程度離れた距離から4分間行った。照射時にはUV/O3洗浄改質装置内には特別な気体は入れず、UV照射は、大気雰囲気、室温で行った。なお、UVランプは185nm(不活性化処理を促進するオゾンを発生させうる短波長)と254nmの波長の輝線を出しており、このとき照度は20mW/cm2程度(照度計(「ORC UV-M03AUV」)にて254nmの波長で測定)であった。 【0157】 次に、UV照射処理後の支持体のカップリング剤処理・UV照射処理面と、フィルム処理例1~4で得られた処理後のポリイミドフィルムの各処理面(本実施例1~4ではポリアミド酸溶液A2で形成された層側の面)とが対向するように重ね合わせ、ロータリーポンプにて10+2Pa以下の真空度とし300℃で10MPaの圧力にて10分間真空プレスすることにより加圧加熱処理を行い、本発明の積層体を得た。 得られた積層体の評価結果を表9に示す。 なお、別途、上記で得たカップリング処理層を備えた支持体のカップリング剤処理面と、フィルム処理例1~4で得られた処理後のポリイミドフィルムの各処理面(本実施例1~4ではポリアミド酸溶液A2で形成された層側の面)とが対向するように重ね合わせ、上記と同様の真空プレスにより加圧加熱処理を行い、UV未照射部の剥離強度測定用サンプルを作製した。 ・・・・・ 【0159】 (実施例6~15) 支持体と重ね合わせるフィルム処理後のポリイミドフィルムとして処理例5~14で得られた処理後ポリイミドフィルムを用い、カップリング剤処理済ガラスのカップリング剤処理面と、各処理後ポリイミドフィルムの各処理面とが対向するように重ね合わせたこと以外、実施例1と同様にして、本発明の積層体を得た。 得られた積層体の評価結果を表10、表11に示す。 ・・・・・ 【0162】 【表9】 [図:0001384021000005.jpg] 【0163】 【表10】 [図:0001384021000006.jpg] 」 イ 上記(ア)~(ス)を踏まえ、特に実施例3、4に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「ポリイミドフィルムを不活性化処理が施されて所定のパターンが形成されたカップリング処理層を介して支持体と重ね合わせて加圧加熱処理し、このポリイミドフィルムの上にデバイスを作製した後、ポリイミドフィルムを支持体から剥離することによりデバイス付きのポリイミドフィルムとする、デバイス付きのポリイミドフィルムの製造に用いられる積層体であって、前記積層体は、支持体たるガラス板とポリイミドフィルムを含み、 ポリイミドフィルムは、滑材(粒子)として無機物からなる微粒子であるシリカをポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対して0.4質量%含有したポリアミド酸溶液で形成された層と、滑材(粒子)を含有しないポリアミド酸溶液で形成された層からなる層を含む、積層体。」 (2) 甲2について 甲2には、次の記載がある。 「【0017】平均粒径1000nm以下の無機粒子としては、・・・その理由は、シリカは、容易に入手できる粒子の中で最も熱膨張係数が低い(0.55 ppm/℃)からである。・・・」 (3) 甲3について 甲3には、次の記載がある。 「実施例1,比較実施例1 4.4’ジアミノジフエニルエーテル26重量部を脱水したジメチルアセドアミド231部に溶解させ15℃で攪拌下に粉末状のピロメリツト酸二無水物28.4部を徐々に添加した。添加とともに系の粘度が上昇し添加終了後さらに1時間攪拌を続けたところイミド閉環率がほとんど0であるポリアミド酸が得られ,30℃にてηinh=1.5,溶液粘度1300ボイズを示す原液が得られた。この原液中のポリマ濃度は19%である。次にこの原液を150μの間隙を有するドクタナイフでガラス板上へ均一に流延し,・・・」(4ページ左下欄下から6行~右下欄6行) (4) 甲4について 甲4には、次の記載がある。 「つぎに、このポリイミド前駆体溶液をガラス板,ステンレス板,アルミニウム板,銅板等の平滑な平板上に流延して皮膜を形成し、加熱によりこの皮膜から徐々に溶媒を除去してポリイミド前駆体皮膜を形成する。」(4ページ右下欄12~16行) (5) 甲5について 甲5には、次の記載がある。 「【0068】本発明のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を・・・本発明におけるポリイミドフィルムの製造方法としては、本ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のワニスをガラスプレート上に塗布した後、加熱してイミド化する方法、直接ポリイミド粉を加熱、加圧することによりフィルム状にする手法、あるいは有機溶媒に溶かし、脱溶剤することによりフィルム状にする手法が可能である。すなわち、従来公知の手法を用いて、フィルム状もしくは粉末状のポリイミドを得ることができる。」 2 本件発明について (1)本件発明1 ア 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア)甲1発明(以下「後者」ということがある)の「ポリイミドフィルム」と本件発明1(以下「前者」ということがある)の「ポリイミド被膜」は、「ポリイミド製の層」である点で一致する。 後者の「デバイス」、「デバイス付きのポリイミドフィルム」は、それぞれ、前者の「電子素子」、「フレキシブル基板」に相当する。 後者の「支持体」は、「ガラス板」であるから、前者の「ガラス基板」に相当する。 そうすると、後者の「ポリイミドフィルムを不活性化処理が施されて所定のパターンが形成されたカップリング処理層を介して支持体と重ね合わせて加圧加熱処理し、このポリイミドフィルムの上にデバイスを作製した後、ポリイミドフィルムを支持体から剥離することによりデバイス付きのポリイミドフィルムとする、デバイス付きのポリイミドフィルムの製造に用いられる積層体」と前者の「ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理してポリイミド被膜を形成し、このポリイミド被膜の表面に電子素子を形成後、最後にポリイミド被膜をガラス基板から剥離することにより、フレキシブル基板とする、フレキシブル基板の製造に用いられる積層体」は、「ポリイミド製の層の表面に電子素子を形成後、ポリイミド製の層をガラス基板から剥離することにより、フレキシブル基板とする、フレキシブル基板の製造に用いられる積層体」である点で一致する。 (イ)後者の「滑剤(粒子)」、「無機物からなる微粒子であるシリカ」は、いずれも、前者の「フィラ」に相当する。 (ウ)前者における「フィラ含有ポリイミド層」、「フィラ非含有ポリイミド層」については、本件特許明細書等に定義があり、それによれば、それぞれ、「ポリイミド層の全質量に対し、フィラ含有量が5質量%以上であるポリイミド層」、「フィラ含有量が5質量%以下であるポリイミド層」である(段落【0016】)。 このことを踏まえると、後者の「ポリイミドフィルム」のうち、「滑材(粒子)としてシリカをポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対して0.4質量%含有したポリアミド酸溶液で形成された層」と前者の「フィラ含有ポリイミド層」は、「フィラが含まれているポリイミド層」である限りで一致する。また、後者の「滑材を含有しないポリアミド酸溶液で形成された層」は、前者の「フィラ非含有ポリイミド層」に相当する。 そうすると、後者の「ガラス板」と「ポリイミドフィルム」を含む「積層体」と、前者の「ガラス基板と、このガラス基板上に形成されたフィラ含有ポリイミド層を含むポリイミド被膜とからなる積層体」は、「ガラス基板と、このガラス基板上に形成されたフィラが含まれているポリイミド層を含むポリイミド製の層とからなる積層体」である点で一致する。 以上を踏まえると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> ポリイミド製の層の表面に電子素子を形成後、ポリイミド製の層をガラス基板から剥離することにより、フレキシブル基板とする、フレキシブル基板の製造に用いられる積層体であって、前記積層体は、ガラス基板と、このガラス基板上に形成されたフィラが含まれているポリイミド層を含むポリイミド製の層とからなる積層体であって、前記ポリイミド製の層が、前記フィラが含まれているポリイミド層、および当該フィラが含まれている層上に形成されたフィラ非含有ポリイミド層を含む積層体。 <相違点1> フレキシブル基板の製造について、本件発明1では「ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理してポリイミド被膜を形成し、このポリイミド被膜の表面に電子素子を形成後、最後にポリイミド被膜をガラス基板から剥離することにより、フレキシブル基板とする」ものであるのに対して、甲1発明では「ポリイミドフィルムを不活性化処理が施されて所定のパターンが形成されたカップリング処理層を介して支持体と重ね合わせて加圧加熱処理し、このポリイミドフィルムの上にデバイスを作製した後、ポリイミドフィルムを支持体から剥離する」ものであって、「ポリイミド製の層」が本件発明1では「ポリイミド被膜」であるのに対して甲1発明では「ポリイミドフィルム」である点。 <相違点2> 「フィラが含まれているポリイミド層」について、本件発明1では「フィラ含有ポリイミド層」であるのに対して、甲1発明では「滑材(粒子)としてシリカをポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対して0.4質量%含有したポリアミド酸溶液で形成された層」、すなわち、「フィラを0.4質量%含有したポリイミド層」である点。 <相違点3> 本件発明1は、「フィラの熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下であり」、「ここで、フィラのCTEは、CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30重量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下であれば、そのフィラはCTEが10ppm/℃以下と判定する」ものであるのに対して、甲1発明では、シリカの熱膨張係数(CTE)が明示されていない点。 イ 相違点についての検討 (ア)相違点1 甲1発明を開示する甲1には、その段落【0083】に「また一般に、支持体とポリイミドフィルムとの積層体を得る方法としては、支持体の上にポリイミドワニス(上述したポリアミド酸溶液)を直接塗布しイミド化させて製膜する方法も考えられるが、本発明では、ポリイミドをフィルム化した後、支持体に積層する。これは、ポリアミド酸溶液を支持体上で加熱してイミド化すると、例えば、支持体にもよるが同心円状の膜厚分布ができやすくなったり、ポリイミドフィルムの表と裏の状態(熱の伝わり方等)が異なるために反りや支持体からの浮きがあるフィルムになりやすいのに対して、予めフィルム化しておけば、これらの問題を回避できるからである。」(上記1(1)ア(ク)参照)と記載されており、甲1発明を本件発明1のように「ポリイミド前駆体溶液をガラス基板上に塗布、乾燥し、熱処理してポリイミド被膜を形成し、このポリイミド被膜の表面に電子素子を形成後、最後にポリイミド被膜をガラス基板から剥離する」ような製造に適用することは、想定されないことというべきである。 そうすると、甲1発明において、支持体たるガラス板と別個に形成される「ポリイミドフィルム」を「ポリイミド前駆体溶液を」「ガラス基板上に」「塗布、乾燥し、熱処理して」形成される「ポリイミド被膜」に構成変更することは、当業者に動機付けられることではない。 したがって、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明に基づいて当業者が容易に採用し得たこととはいえない。 (イ)相違点2及び3 a 相違点2及び3は、「フィラ」に関するものであるが、本件発明1における「フィラ」を含有させることの技術的な意義は、ポリイミド被膜全体としてのCTEを充分低くしてそれをガラス基板から剥離した際にカールしにくいものとすることにある(特許明細書等の段落【0012】等)。 これに対して、甲1発明で「シリカ」等の“滑材”を含有させることの技術的な意義は、ポリイミドフィルム表面に微細な凹凸を付与して滑り性を確保することにある(上記1(1)ア(カ)参照))。 すなわち、甲1発明における「シリカ」の技術的な意義は、本件発明1の「フィラ」とは異なるものである。 また、ポリイミドの層中の「フィラ」あるいは「シリカ」の含有量についてみると、本件発明1と甲1発明とで明らかに異なっている。 ところで、甲1発明を開示する甲1には、“滑材”含有量についての次のような記載が存在する(上記1(1)ア(カ)参照))。 ・「【0050】 前記滑材の添加量は、ポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対する添加量として、0.05~50質量%であり、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.20~1.0質量%である。滑材の添加量が少なすぎると滑材添加の効果が期待し難く、滑り性の確保がそれほどなくポリイミドフィルム製造に支障をきたす場合があり、多すぎると、フィルムの表面凹凸が大きくなり過ぎて、滑り性の確保が見られても平滑性の低下を招いたり、ポリイミドフィルムの破断強度や破断伸度の低下を招いたり、CTEの上昇を招くなどの課題を招く虞がある。」 この「0.05~50質量%」という数値範囲は、「5%以上」という範囲を含むものではあるが、とりわけCTEとの関係で多すぎることが好ましくないとの認識が示されていることに着目すべきである。そして、好ましい数値範囲として0.1~3質量%、より好ましい数値範囲として0.20~1.0質量%が示されており、上記記載全体としては、滑材の含有量を明らかに「5%」よりも少なくすることが指向されているとみるべきである。 b フィラのCTEについて、何らかの計測手法により10ppm/℃よりも十分小さい値とされたものについては、「CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30重量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較」すれば「フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下」である蓋然性が高いといえる。別の言い方をすれば、既にCTEが10ppm/℃よりも十分小さい値であることが判明しているフィラについては、あえてそのような比較に及ばなくても、「CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30重量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較し、フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下」であると扱うことが可能であると考えられる。 c 以上を踏まえれば、甲1発明における「シリカ」の熱膨張係数(CTE)が甲2に記載されるように0.55ppm/℃である(上記1(2))であると理解したとすると、この値は、10ppm/℃よりも十分小さいものであるから、甲1発明の「シリカ」が「CTEが10~20ppm/℃のフィラ非含有のポリイミド被膜と、このポリイミド被膜に、被膜質量に対し30重量%のフィラを含有したポリイミド被膜とのCTEを比較」すれば「フィラ含有ポリイミド被膜のCTEが、フィラ非含有ポリイミド被膜のCTE以下」である蓋然性が高いといえるが、それでも、甲1発明の「滑材(粒子)としてシリカをポリアミド酸溶液中のポリマー固形分に対して0.4質量%含有したポリアミド酸溶液で形成された層」におけるシリカの含有量を「5%以上」とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 そうすると、既に述べたように、本件発明1でいう「フィラ含有ポリイミド層」とは本件特許明細書等で定義されているように「ポリイミド層の全質量に対し、フィラ含有量が5質量%以上であるポリイミド層」であるから(段落【0016】)、甲1発明に基づいてフィラに関係する上記相違点2及び3に係る本件発明1の発明特定事項を共に当業者が容易に採用し得たということはできない。 (ウ)したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、あるいは、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。甲第2号証以下の他の証拠方法を考慮しても、この判断が変わるものではない。 (2)本件発明2、3及び5について 本件発明2、3及び5は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、それに他の発明特定事項を付加したものといえるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、あるいは、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものということはできない。 したがって、本件の請求項2、3及び5に係る特許を取り消すことはできない。 第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1 新規性・進歩性について (1)新規性 本件発明4、6~8は、いずれも本件発明1の発明特定事項を実質的に全て含み、それに他の発明特定事項を付加したものといえるから、本件発明1と同様に、上記相違点1~3の点で甲1発明と相違し、当該相違点は実質的なものであるから、本件発明4、6~8は、甲1発明とはいえない。 (2)進歩性 本件発明4、6~8は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を実質的に全て含み、それに他の発明特定事項を付加したものといえるから、本件発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものということはできない。 2 明確性(特許法第36条第6項第2号)について (1)申立人は、「熱膨張係数」の測定方法には複数種類があり、測定方法によって得られる「熱膨張係数」が異なることは技術常識(甲6)であるところ、請求項1の記載では測定方法が不明であるから、「フィラの熱膨張係数」を特定することができない旨、及び、請求項2の「ポリイミド被膜の全質量」は、請求項2が引用する請求項1に記載された「フィラ含有ポリイミド層」のみであるとも、「フィラ含有ポリイミド層」と「フィラ非含有ポリイミド層」の両方を合わせた「ポリイミド被膜」であるとも解され、請求項2の「前記ポリイミド被膜中のフィラ含有量」について、「5~50質量%」を算出するための分母が不明である旨について、主張する。 しかし、本件訂正により、本件発明1~8は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたフィラの低熱膨張係数に係るCTEの判定に係る事項を特定して限定したものとなり、且つ、本件発明2は、「ポリイミド被膜」のうちの「フィラ含有ポリイミド層」における「フィラ含有量」であることを特定したことから、本件発明1~8は明確である。 3 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について 申立人は、「熱膨張係数」の測定方法には複数種類があり、測定方法によって得られる「熱膨張係数」が異なることは技術常識(甲6)であるところ、「熱膨張係数」の測定方法が不明であるから、当業者といえども、本件発明を実施することができない旨の主張をしている。 しかし、本件訂正により、本件発明1~8において特定されたフィラの低熱膨張係数に係るCTEの判定に係る事項は、本件特許明細書の【0052】に記載されており、本件発明の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。 4 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について 申立人は、請求項2について、「ポリイミド被膜の全質量」として、「フィラ含有ポリイミド層」と「フィラ非含有ポリイミド層」の両方を合わせた「ポリイミド被膜」を含む本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものでない旨の主張をしているが、上記2でも述べたとおり、訂正により、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 第7 むすび 以上のとおり、本件請求項1~8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700552

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