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特許異議申立

2021-701240

光学カモフラージュフィルター

審判番号
2021-701240
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-538196
登録番号
6895443
請求日
2021年12月24日
審決日
2022年12月16日
公報発行日
2023年03月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
  • 【権利者代理人】藤井 憲
  • 【権利者代理人】野村 和歌子
  • 【権利者代理人】佃 誠玄
  • 【権利者代理人】浅村 敬一
  • 【権利者代理人】赤澤 太朗
  • 【異議申立人】山下 武志
審判長/審判官
  • 審判長 里村 利光
  • 審判官 石附 直弥
  • 審判官 関根 洋之
分類
P1651.841-YAA(G02B) / P1651.851-YAA(G02B) / P1651.853-YAA(G02B) / P1651.855-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B) / P1651.536-YAA(G02B) / P1651.111-YAA(G02B) / P1651.112-YAA(G02B) / P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第29条、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6895443号発明「光学カモフラージュフィルター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6895443号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを認める。 特許第6895443号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6895443号(請求項の数4。以下「本件特許」という。)についての出願(特願2018-538196号)は、2016年(平成28年)5月6日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2016年1月21日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和3年6月9日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月30日に特許掲載公報が発行された。 本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和3年12月24日に、特許異議申立人 山下 武志(以下「特許異議申立人」という。)から、本件特許の請求項1~請求項4に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた(異議2021-701240号、以下「本件事件」という。)。 本件事件についての、その後の手続等の経緯は、以下のとおりである。 令和4年 3月30日付け: 取消理由通知書 令和4年 6月16日 : 訂正請求書の提出 令和4年 6月16日 : 意見書(特許権者)の提出 令和4年 8月 2日 : 意見書(特許異議申立人)の提出 第2 本件訂正請求について 令和4年6月16日にされた訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。 1 訂正の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、「特許第6895443号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項を含むものである。なお、下線は訂正された箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する光学フィルターであって、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」と記載されているのを、「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する光学フィルターであって、当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」と記載されているのを、「前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」と記載されているのを、「前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長咆囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」と記載されているのを、「前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、」に訂正する。 3 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 (ア)近赤外透過率 訂正前の請求項1に係る発明は、「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する光学フィルターであって、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」という発明特定事項を有していた。 しかしながら、当該発明特定事項の「近赤外センサ」は、訂正前の請求項1に係る発明が備える構成であるのか否かが定かでなかった。また、その結果として、「近赤外センサにより感知され得る赤外透過率」が一義的に定まるものでなく、また、「近赤外センサ」と「受光器」との関係も定かではなかった。 まず、訂正前の請求項1における「近赤外パターン」を検討する。本件特許明細書(【0071】)を参照すると、当該「近赤外パターン」とは、「パターン64は、相対的により大きいQRコード、又は相対的により大きなフットプリントを有する他のインダイシアを含み得る。」とされる「「近赤外パターン64」(【0071】)を意味すると理解される。すなわち、そうすると、上記「近赤外パターン」とは、「QRコード」等によって変調を受けた近赤外光のパターンと理解される。 「近赤外パターン」についての上記理解を前提とすれば、訂正前の「当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率」の本来の意味は、単に「光学フィルター」が有する「近赤外透過率」のことであることは明らかである。 さらに、本件特許明細書の【0009】、【0010】、【0060】には、「光学フィルター」の「近赤外透過率」について、「830~900nmにおいて50%より大きい近赤外透過率」と記載されている。 そうすると、訂正事項1のうち「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」に関する訂正は、「当該光学フィルターを通」じた「近赤外パターン」の「近赤外透過率」を、「近赤外センサ」という用語の代わりに、「光学フィルター」が有する「赤外透過率」を用いて特定する訂正であって、訂正前の「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する光学フィルターであって、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率」の意味を、本件特許明細書に記載されていた「光学フィルター」の「近赤外透過率」の具体的数値を用いて定量的に言い換えたものといえる。 よって、訂正事項1による「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、」に関する訂正は、訂正前の請求項1の「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する光学フィルターであって、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」という発明特定事項の本来の意を明らかにすることを目的とした訂正といえる。 (イ)可視透過率 他方、訂正事項1による訂正は、「且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率」という訂正を含むところ、「可視透過率」に関する当該訂正は、「光学フィルター」を「380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率」を有するものに減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮であることが明らかである。 (ウ)小括 したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」及び同法同条同項但し書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。 イ 新規事項 (ア)近赤外透過率 上記アのとおり、訂正事項1による「近赤外透過率」に関する訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の本来の意を明らかにする訂正であることが、本件特許明細書の記載全体から見て明らかである。 (イ)可視透過率 本件特許明細書の【0009】、【0010】、【0060】などには、「光学フィルターは、380~800nmにおいて0.1%未満の可視透過率を有し」と記載されている。 (ウ)小括 したがって、訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 ウ 拡張又は変更 上記ア及びイに照らせば、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (2)訂正事項2~4について ア 訂正の目的 訂正事項2~4よる訂正は、訂正事項1による訂正と同様に、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」及び同法同条同項但し書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。 イ 新規事項 訂正事項2~4による訂正は、訂正事項1による訂正と同様に、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 ウ 拡張又は変更 訂正事項2~4による訂正は、訂正事項1による訂正と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (3)特許異議申立人の主張について ア 訂正の目的について 特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(3~6頁)の3-1.ウ(ア)において、「「明瞭でない記載の釈明」に該当しない」と主張する。 しかし、上記(1)ア(ア)に記載のとおり、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、」に関する当該訂正は、訂正前の「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する光学フィルターであって、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」という発明特定事項の本来の意を明らかにする訂正であることが、本件特許明細書の記載全体から見て明らかである。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 イ 新規事項、拡張又は変更 特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(6~11頁)の3-1.ウ(イ)~(エ)において、「「実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更すること」に該当するか、又は「願書に添付した明細書、特許請求の咆囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること」に該当しない」と主張する。 しかし、上記(1)ア(ア)に示したとおり、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、」に関する当該訂正は、訂正前の「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する光学フィルターであって、当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」という発明特定事項の本来の意を明らかにする訂正であるので、上記(1)ア(イ)に記載のとおり新規事項は追加されておらず、また、上記(1)ア(ウ)に記載のとおり拡張又は変更もされていない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (4)小括 訂正事項1~4に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったことから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明4」という。また、請求項1~4に係る発明を、「本件特許発明」と総称する。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「【請求項1】 発光器又は受光器の一方又は両方と、 前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する光学フィルターであって、当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、前記光学フィルターは波長選択性散乱層を含み、前記波長選択性散乱層は0.9未満の近赤外散乱比を有し、前記近赤外散乱比は、平均可視散乱に対する平均近赤外散乱の比であり、前記波長選択性散乱層は、0.5より大きい可視反射ヘイズ率を有し、前記可視反射ヘイズ率は、平均可視全反射率に対する平均可視拡散反射率の比率である、光学フィルタと、を含むシステム。 【請求項2】 発光器又は受光器の一方又は両方に隣接して光学フィルターを配置する工程を含む方法であって、前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、波長選択性散乱層を含み、前記波長選択性散乱層は0.9未満の近赤外散乱比を有し、前記近赤外散乱比は、平均可視散乱に対する平均近赤外散乱の比であり、前記波長選択性散乱層は、0.5より大きい可視反射ヘイズ率を有し、前記可視反射ヘイズ率は、平均可視全反射率に対する平均可視拡散反射率の比率である、方法。 【請求項3】 光学フィルターを備える物品であって、前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、波長選択性散乱層を含み、前記波長選択性散乱層は0.9未満の近赤外散乱比を有し、前記近赤外散乱比は、平均可視散乱に対する平均近赤外散乱の比であり、前記波長選択性散乱層は、0.5より大きい可視反射ヘイズ率を有し、前記可視反射ヘイズ率は、平均可視全反射率に対する平均可視拡散反射率の比率である、物品。 【請求項4】 光学フィルターを備える物品であって、前記光学フィルターは、当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、波長選択性散乱層を含み、前記波長選択性散乱層が60%未満の平均近赤外散乱を有し、前記波長選択性散乱層が、10%より大きい平均可視散乱を有し、全可視反射率と拡散可視反射率との差が20%未満である、物品。」 第4 取消しの理由及び証拠 特許権者に対して、当合議体が令和4年3月30日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由の概要は、下記のとおりである。 理由1:(明確性)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、本件出願は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 したがって、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 理由2:(サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 理由3:(委任省令要件、実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本件特許の請求項1~4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 理由4:(新規性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、公然知られた発明、公然実施された発明、あるいは、頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項1号、2号又は3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 理由5:(進歩性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、公然知られた発明、公然実施された発明、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 ・甲1:「令和3年第112号 証拠保全に関する事実実験公正証書」、作成者:池袋公証役場公証人 上田哲、作成日:令和3年11月16日 ・甲2:「分析/試験結果報告書 光学部材の測定」(案件番号:185237)、株式会社UBE科学分析センター、報告日:2021年12月10日 ・甲3:「NTTドコモホームページ」、「ARROWS NX F-02G サポート情報」、株式会社NTTドコモ、[令和3年11月18日検索]、インターネット<URL:https://www.nttdocomo.co.jp/support/product/f02g/> ・甲4:「ライブドアニュース」、「ドコモが人気機種の生産を終了 在庫数減少で白ロムの値段が高騰」、[令和3年11月18日検索]、インターネット<URL:http://news.livedoor.com/article/detail/10558382/> ・甲5:「ニトフロン」のカタログ、日東電工株式会社、2009年9月発行 ・甲6:「東海光学株式会社ホームページ」、「カラーIRウィンドウ/ホワイトIRウィンドウ」、東海光学株式会社、[令和3年11月18日検索]、インターネット<URL:https://www.tokaioptical.com/jp/product14/> ・甲7:特許第4122010号公報 ・甲8:「High Performance Laser Mirrors & Optical Filters 高性能レーザーミラー/光学フィルター製品カタログ」、東海光学株式会社 ・甲9:「東海光学株式会社ホームページ」、「会社沿革」、東海光学株式会社、[令和3年11月18日検索]、インターネット<URL:https://www.tokaiopt.co.jp/company/history/> ・甲10:特開2002-116318号公報 ・甲11:特開2004-198617号公報 ・甲12:特開2010-243436号公報 ・引用文献1:「NTTdocomo F-02G ARROWS NX クイックスタートガイド」、株式会社NTTドコモ、2014年10月発行[令和4年3月14日検索]、インターネット<URL:https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/support/manual/F-02G_J_OP_01.pdf> 第5 当合議体の判断(記載要件) 1 明確性要件 (1)近赤外センサ 本件特許発明は、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」との発明特定事項を有している。そうすると、本件特許発明における「近赤外透過率」は「近赤外センサ」を用いずに定義されているから「近赤外透過率」が、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」という特定によって明確に把握できる。 また、本件特許発明は、「近赤外センサ」という発明特定事項を有していないので、「近赤外センサ」を備えないことも明確である。 (2)特許異議申立人の主張について ア 近赤外透過率 特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(11~12頁)の3-2.アにおいて、「訂正後の請求項1~4における「近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」の意味として、少なくとも以下の3パターンが考えられるところ、いずれの意味であるかが明確ではない。そもそも、特許第6895443号明細書には、「830~900nmの波長範囲の近赤外透過率」の測定方法に関する記載はない。 (i)830~900nmの波長範囲の少なくとも1点において、透過率が50%よりも大きい。 (ii)830~900nmの波長範囲の全てにおいて、透過率が50%よりも大きい。 (iii)830~900nmの波長範囲の透過率の平均値が50%よりも大きい。」と主張する。 特許異議申立人の上記主張を検討する。 本件特許発明は発光器のみを含む態様が想定されているところ、その「光学フィルター」は、830~900nmの波長範囲のうち任意の発光する発光器からの光を「光学フィルター」が受ける場合も想定されていると考えられる。ここで、「近赤外光を比較的高い透明度で透過させ」(本件特許明細書の【0040】)るという「光学フィルター」の目的に照らせば、本件特許発明の「近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」の意味として、「830~900nmの波長範囲」のいずれかの波長で「透過率」が「50%よりも大き」くない態様を許容する、上記(i)及び(iii)の意味を採用することは、本件特許発明の目的に照らして合理的な解釈とはいえない。 よって、本件特許発明の「近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」という発明特定事項は、上記(ii)の意味であることが明確である。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 イ 可視透過率 特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(11~12頁)の3-2.アにおいて、「訂正後の請求項1~4における「380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視光透過率」の意味として、少なくとも以下の3パターンが考えられるところ、いずれの意味であるかが明確ではない。そもそも、特許第6895443号明細書には、「380~800nmの波長範囲の可視光透過率」の測定方法に関する記載はない。 (iv)380~800nmの波長範囲の少なくとも1点において、透過率が0.1%未満である。 (v)380~800nmの波長範囲の全てにおいて、透過率が0.1%未満である。 (vi)380~800nmの波長範囲の透過率の平均値が0.1%末満である。」と主張する。 特許異議申立人の上記主張を検討する。 本件特許明細書の【0037】を参照すると、本件特許発明において「可視透過率」を規定する目的は、「可視波長による望ましくない光学干渉を防止」するとともに、「視覚に対してカモフラージュ」することであるといえる。当該目的に照らして「380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率」の意味を検討すると、380~800nmの波長範囲の特定の波長のみの透過率が0.1%未満であった場合、透過率が0.1%未満でない波長の光により視覚できることになるため、「視覚に対してカモフラージュ」するという目的を果たせなくなる。そうすると、「380~800nmの波長範囲」のいずれかの波長で「透過率」が「0.1%未満」でなくてもよいとする、上記(iv)及び(vi)の意味と解するのは、本件特許発明の目的に照らして自然な解釈ではない。 よって、本件特許発明の「380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率」という発明特定事項は、上記(v)の意味であることが明確である。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 ウ 光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率 特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(12~16頁)の3-2.イにおいて、「「当該光学フィルターは、830~900nmにおいて50%より大きい近赤外透過率を有する」と、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」とは同じ意味であるのかどうか全くわからない。」と主張する。 しかしながら、上記「第2」3(1)ア(ア)のとおり、「近赤外パターン」とは、変調を受けた近赤外光のパターンである。「近赤外パターン」が異なっていたとしても、それは形状が異なるのみであるから、光学特性は変化しない。そうすると、「830~900nmにおいて50%より大きい近赤外透過率を有する」「光学フィルター」と、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大き」い「光学フィルター」とは、「光学フィルター」の「近赤外透過率」として何ら異ならないことは明らかである。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (3)小括 本件特許発明は明確である。 2 サポート要件 (1)本件特許発明が解決しようとする課題 本願発明の課題に関し、本件特許明細書の【0037】には、「周囲電磁放射源は、特定の波長の、又は特定の光源からの光を受光するように構成された受光器、あるいは特定の波長の光を発光するように構成された発光器と干渉し得る。例えば、可視波長は、例えば、受光器内又は発光器内のノイズを増大させることによって、近赤外波長の受光、感知、又は透過に干渉し得る。電磁放射源も意図せずに明らかにされ得る。例えば、近赤外波長のみを発光するように構成された発光器によって発光された光は視認可能ではないが、発光を担う装置又は構造体、例えば発光器の筐体が視認可能になり得る。カモフラージュ技術は、所望の近赤外波長の透過の阻止、干渉、又は減少を不必要に生じさせ得るため、発光器のマスキング、隠蔽、又はその他の仕方のカモフラージュは課題を提示し得る。本開示の諸例に係る光学フィルターは、可視波長による望ましくない光学干渉を防止し、あるいは電磁放射源を視覚からカモフラージュし、その一方で、所望の近赤外波長が発光器によって透過されること、又は受光器によって受光されることを少なくとも部分的に可能にし、あるいはその一方で、比較的高い透明度による近赤外波長の透過を可能にするために用いられ得る。」と記載されている。また、同【0038】には、「例えば、近赤外波長を受光又は感知するよう動作する受光器は可視波長から遮蔽され、可視波長によって生じ得る近赤外波長の受光又は感知との干渉を防止することができる。近赤外波長を透過するよう動作する光透過体は、可視波長を散乱させることによって、視覚に対してカモフラージュされ得る。例えば、散乱された可視波長は、近赤外波長の透過を妨げることなく、光透過体の存在を隠蔽することができる。」、同【0040】には、「本開示による例示的なシステム及び物品は、近赤外光を比較的高い透明度で透過させ、その一方で、例えば可視波長を選択的に散乱又は反射させることによって可視波長の透過を減少させる例示的な波長選択性散乱層を含む例示的な光学物品を含み得る。」と記載されている。 これらの記載より、本件特許発明の課題は、近赤外波長に含まれる情報を提供しつつ、可視波長を選択的に散乱又は反射させることによって、可視波長による望ましくない光学干渉を防止し、電磁放射源や受光器を隠蔽又はカモフラージュすることができる光学フィルターを含むシステム、方法、又は物品を提供することであると認められる。 (2)本件特許明細書の発明の詳細な説明 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記課題の解決に関連する記載として、以下の記載がある。 ア 本開示による例示的なシステムおよび物品に関し 「【0040】 ・・・中略・・・本開示による例示的なシステム及び物品は、近赤外光を比較的高い透明度で透過させ、その一方で、例えば可視波長を選択的に散乱又は反射させることによって可視波長の透過を減少させる例示的な波長選択性散乱層を含む例示的な光学物品を含み得る。」 イ 近赤外散乱比及び可視反射ヘイズ率の具体的数値に関し 「【0042】 波長選択性散乱層14は、可視光を選択的に散乱させ、近赤外光を透過させる。諸例では、波長選択性散乱層は、約0.9未満、約0.8未満、約0.7未満、約0.6未満、又は約0.5未満の近赤外散乱比を有し得る。近赤外散乱比は、平均可視散乱に対する平均近赤外散乱の比である。・・・中略・・・例えば、波長選択性散乱層14は、約0.5より大きい、又は約0.7より大きい、又は約0.9より大きい可視反射ヘイズ率を有し得る。可視反射ヘイズ率は、平均可視全反射率に対する平均可視拡散反射率の比率である。」 ウ 平均近赤外散乱及び平均可視散乱に関し 「【0046】 ・・・中略・・・諸例では、波長選択性散乱層14は、60%未満、又は40%未満の平均近赤外散乱を有し得る。諸例では、波長選択性散乱層は、10%より大きい、又は25%より大きい、又は58%より大きい平均可視散乱を有し得る。」 エ 可視透過率及び近赤外透過率の具体的数値に関し 「【0060】 諸例では、例示的な物品10i~10kは、380~800nmにおいて0.1%未満の可視透過率を有し、830~900nmにおいて50%より大きい近赤外透過率を有し得る。」 オ 近赤外パターンに関し 「【0071】 図3A~図3Dは、例示的な光学フィルターと、視認可能なパターン及び不可視の近赤外パターンを表示する電子ディスプレイとを含む例示的なシステムの概念図である。・・・中略・・・一例では、電子ディスプレイ60は、ディスプレイ60の背後に隠蔽されたそれぞれの可視及び近赤外発光器によって放射された可視及び近赤外光パターンを同時に表示する能力を有し得る。電子ディスプレイ60は、以上において図1A~図1Eを参照して説明された例示的な光学フィルターで被覆されていてもよい。例えば、電子ディスプレイ60は、図3Bに示すように、視認可能であるパターン62と不可視の近赤外パターン64とを同時に表示し得る。・・・中略・・・パターン64は、相対的により大きいQRコード、又は相対的により大きなフットプリントを有する他のインダイシアを含み得る。・・・中略・・・図3Aにおいて見られるように、パターン62のみが視認可能であり、パターン64は、近赤外波長において比較的高い透明度で提示されている一方で、視覚に対して不可視のままとなり得る。それゆえ、近赤外波長を感知する能力を有するカメラは、十分な解像度で、例えば、パターン64内に包含され得る情報を復号するのに十分な解像度で、パターン64を感知することができる。・・・中略・・・それゆえ、例示的な光学フィルターは、高透明度の近赤外透過を有するカモフラージュをもたらし得る。」 (3)課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲 ア 判断基準 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認定できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。 イ 本件特許発明1~3について 本件特許発明1~3について、上記判断基準に照らして本件特許明細書の発明の詳細な説明を検討すると、上記(2)ア、イ、エ及びオに示したとおり、上記(1)の課題を解決するための手段は、「近赤外光を比較的高い透明度で透過させ、その一方で、例えば可視波長を選択的に散乱又は反射させることによって可視波長の透過を減少させる例示的な波長選択性散乱層を含む」(【0040】)ことであって、「波長選択性散乱層」は「0.9未満」の「近赤外散乱比」(【0042】)であって「0.5より大きい」「可視反射ヘイズ率」(【0042】)を有し、かつ、「光学フィルター」は、「可視透過率」を「380~800nmにおいて0.1%未満」(【0060】)、かつ、「近赤外透過率」を「830~900nmにおいて50%より大きい」(【0060】)とし、当該「近赤外透過率」は、「光学フィルター」を通じた「近赤外パターン」(【0071】)の「近赤外透過率」とすることであると当業者は認識する。 以上勘案すると、上記課題を解決するための手段を具備する本件特許発明1~3は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものと理解される。 ウ 本件特許発明4について 本件特許発明4について、上記判断基準に照らして本件特許明細書の発明の詳細な説明を検討すると、上記(2)ア、ウ、エ及びオに示したとおり、上記(1)の課題を解決するための手段は、「近赤外光を比較的高い透明度で透過させ、その一方で、例えば可視波長を選択的に散乱又は反射させることによって可視波長の透過を減少させる例示的な波長選択性散乱層を含む」(【0040】)ことであって、「波長選択性散乱層」は「60%未満」の「平均近赤外散乱」(【0046】)であって「10%より大きい」「平均可視散乱」(【0046】)を有し、かつ、「光学フィルター」は、「可視透過率」を「380~800nmにおいて0.1%未満」(【0060】)、かつ、「近赤外透過率」を「830~900nmにおいて50%より大きい」(【0060】)とし、当該「近赤外透過率」は、「光学フィルター」を通じた「近赤外パターン」(【0071】)の「近赤外透過率」とすることであると当業者は認識する。 以上勘案すると、上記課題を解決するための手段を具備する本件特許発明4は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものと理解される。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(16~19頁)の3-3.において、「「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視光透過率を有し、」に関し、特許第6895443号明細書には、その具体例に関する記載がない。例えば、特許第6895443号明細書には、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの830~900nmの透過率」及び「光学フィルターの380~800nmの波長範囲における可視光透過率」を測定したデータはない。」と主張する。 特許異議申立人の上記主張は、要するに、本件特許発明が実施例に基づいていないからサポート要件違反に該当するというものであるが、本件特許発明は、たとえ実施例以外の態様であっても、前述したとおり、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (5)小括 本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。 3 委任省令要件及び実施可能要件 (1)委任省令要件 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、上記2(1)に示した本件特許発明の課題に対して、上記2(2)に示したとおり、本件特許発明が備える構成に基づいて、可視波長を選択的に散乱又は反射させ、電磁放射源や受光器の隠蔽又はカモフラージュができることが記載されている。 特に、「前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有」する場合は、可視光透過率が高くないから、電磁放射源や受光器を隠蔽又はカモフラージュできることが理解できる。 そうすると、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が発明の詳細な説明に記載されているといえる。 (2)実施可能要件 ア 本件特許の発明の詳細な説明及び図面の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、本件特許発明の数値範囲のものを実施するための記載として、以下の記載がある。 (ア)ヘイズに関し 「【0039】 ・・・中略・・・透明基板上に拡散コーティングがコーティングされる場合には、それは、その下にある要素を隠すために、より高いヘイズを有し得る。」 「【0042】 ・・・中略・・・可視反射ヘイズ率は、平均可視全反射率に対する平均可視拡散反射率の比率である。」 (イ)レイリー散乱に関し 「【0045】 諸例では、複数の粒子の平均粒径、第1の屈折率、及び第2の屈折率は、下記の図15の線82の下の領域から選択される。それゆえ、波長選択性散乱層14の近赤外散乱比は0.2未満になり得る。・・・中略・・・例えば、領域は、10nm、又は30nm、又は50nmを超える粒径、あるいはレイリー散乱が発現又は支配し得る粒径よりも大きい粒径のみを含み得る。」 「【0226】 実施例12 図15は、媒体と、媒体中に分散された複数の粒子とを含む光学フィルターについての、近赤外散乱比を粒径及び屈折率差の関数として示すチャートである。モデルを用いて、近赤外散乱比に対する、粒径、及び媒体と粒子との屈折率の差の影響を評価し、図15にモデルの結果が提示されている。X軸は屈折率の差(媒体-粒子)を表し、Y軸は粒径(μm単位)を表す。等高線は、0.2、0.4、0.6、0.8、1、1.2、1.4、1.6、及び1.8などの異なる散乱比を表す。それゆえ、曲線82は0.2の近赤外散乱比を表す。曲線84は0.4の近赤外散乱比を表す。曲線86は0.6の近赤外散乱比を表す。曲線88は0.8の近赤外散乱比を表す。」 「【図15】 [図:0001395193000001.jpg] 」 (ウ)ミー散乱に関し 「【0225】 実施例11 図14は、粒径の異なる粒子を含む光学フィルターについての散乱効率対波長を示す、ミー散乱の結果を表すチャートである。媒体中に分散された粒子を含む光学フィルターのために、媒体中に分散された粒子の粒径、及び媒体と粒子との屈折率の差の関数としての散乱効率のための、ミー散乱に基づくモデルを用意した。媒体の屈折率を1.5に設定し、散乱粒子の屈折率を1.0に設定することにより、モデルを評価した。粒径を0.2μmから1.0μmまで0.1μmの刻みで変化させた(左から右への曲線)。」 「【図14】 [図:0001395193000002.jpg] 」 (エ)可視透過率、近赤外透過率及び可視反射率に関し 「【0049】 図1Bは、例示的な物品10bの横断面図を示す。物品10bは、基板12と、波長選択性散乱層14と、反射層16とを含み得る。・・・中略・・・諸例では、物品10bは可視光の50%未満を反射し、近赤外光の50%超を透過させることができる。諸例では、反射層16は、例えば選択された波長のみを反射する波長選択性であり得る。反射層16は、多層光学フィルム、ダイクロイック反射体、干渉フィルム、無機多層積層体、金属誘電体積層体、研磨された基板、ミラー、反射型偏光子、又は反射金属若しくはガラス表面などの反射表面を含み得る。諸例では、物品10bは、反射層と波長選択性散乱層14との間、又は波長選択性散乱層14の上方の、又は物品10b内の任意の層に隣接して位置する染料層(図示せず)を含み得る。染料層は、反射層16の可視反射を低減するように、近赤外において透過性又は透明であり得、かつ、可視においてニュートラルであり得るスペクトル選択性染料を含み得る。」 「【0053】 図1Fは、例示的な物品10fの横断面図を示す。物品10fは、基板12と、波長選択性散乱層14と、反射層16と、波長選択性吸収層34とを含み得る。・・・中略・・・いくつかの例では、波長選択性吸収層34は、可視透過率よりも高い赤外透過率を有する任意の好適な染料又は顔料を、例えば、可視波長を実質的に吸収する一方で、近赤外波長を透過する近赤外黒色インクを含み得る。」 「【0057】 いくつかの例では、図1Hに示すように、例示的な物品10hは、波長選択性散乱層14と波長選択性吸収層34との間に配置された波長選択性反射層16を含み得る。波長選択性吸収層34は、全近赤外透過率を実質的に低減することなく、物品10hの主表面の全域にわたって全可視反射率を一様に低減することができる。」 (オ)実施例1に関し 「【0214】 実施例1 様々なサンプル光学フィルムのための光学特性を決定した。後述のようにサンプル光学フィルムS01~S34を調製した。サンプルS01~S33の各々について、分光計(Lambda 900、PerkinElmer)を積分球とともに用いて拡散及び鏡面反射率を取得することで、可視散乱、近赤外散乱、全可視反射率、及び拡散可視反射率を測定した。結果を表1に示す。提示された反射率値は、SPIN(鏡面含む、若しくは全)反射率、及びSPEX(鏡面除く、若しくは拡散)反射率を含む。各サンプルフィルムで被覆された近接センサの感度を決定し、「機能せず」、「機能」、「良」、及び「優良」のうちの1つとして分類した。ヘイズ計(Haze-gard Plus、BYK-Gardner)を用いて、サンプルS01~S34について、透過率、ヘイズ、及び透明度を決定した。結果を表2に示す。 【0215】 サンプルS01~S03はULIフィルムであり、サンプルS02は高ヘイズ高透明度ULIフィルムを含むものであった。サンプルS01は、Silquest A-174 75nmシラン粒子(Momentive)を、60%wt比のペンタエリスリトールトリアクリレートモノマー(SR444、Sartomer)、及び2.5%のIrgacure184(Ciba Specialty Chemicals Company、High Point N.C)と組み合わせることによって調製し、10μmのコーティング厚さに到達した。・・・中略・・・ 【表1】 [図:0001395193000003.jpg] 【表2】 [図:0001395193000004.jpg] 」 イ 散乱についての技術常識 レイリー散乱は、短波長の光ほど散乱されやすいという波長依存性を有する散乱であり、ミー散乱は波長依存性のない散乱であって、前者の散乱は光の波長より十分小さい粒子等による散乱であって、後者の散乱は光の波長と同程度の大きさの粒子等による散乱であることは、光学分野の技術常識である。 ウ 判断 (ア)本件特許発明1~3について 本件特許発明1~3について、上記アに摘記した本件特許明細書の発明の詳細な説明を検討すると、まず、「波長選択性散乱層」が「0.9未満の近赤外散乱比を有し」かつ「0.5より大きい可視反射ヘイズ率を有」するためには、可視散乱を近赤外散乱よりも高める必要があるところ、上記イの技術常識を心得た当業者であれば例えば、「波長選択性散乱層」に使用する粒子の粒径を適宜調節すればよいことを理解できる。加えて、「波長選択性散乱層」に適宜の粒子を用いることで「0.9未満の近赤外散乱比を有し」かつ「0.5より大きい可視反射ヘイズ率を有」する「波長選択性散乱層」を製造できることは、上記ア(オ)に示した実施例1からも当業者は理解する。さらに、その場合に、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し」という透過率特性に至らない場合は、上記ア(エ)に示した「波長選択性吸収層34」、「染料層」又は「波長選択性反射層16」を適宜用いて当該透過率特性を調節すればよいことも、当業者であれば理解できることである。 以上総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~3を実施するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とするものではない。 (イ)本件特許発明4について 本件特許発明4について、上記アに摘記した本件特許明細書の発明の詳細な説明を検討すると、「波長選択性散乱層」が「60%未満の平均近赤外散乱を有し」かつ「10%より大きい平均可視散乱を有」するためには、上記(ア)と同様の理由により、それに応じた粒径の粒子を採用すればよいことを当業者が理解する。加えて、「波長選択性散乱層」に適宜の粒子を用いることで「60%未満の平均近赤外散乱を有し」かつ「10%より大きい平均可視散乱を有」する「波長選択性散乱層」を製造できることは、上記ア(オ)に示した実施例1からも当業者は理解する。 さらに、その場合に、「全可視反射率と拡散可視反射率との差が20%未満」とならないか、又は、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し」という透過率特性に至らない場合は、上記ア(エ)に示した「波長選択性吸収層34」、「染料層」又は「波長選択性反射層16」を適宜用いて当該透過率特性を調節すればよいことも、当業者であれば理解できることである。 以上総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明4を実施するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とするものではない。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(16~17頁)の3-3.アにおいて、「「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視光透過率を有し、」に関し、特許第6895443号明細書には、その具体例に関する記載がない。例えば、特許第6895443号明細書には、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの830~900nmの透過率」及び「光学フィルターの380~800nmの波長範囲における可視光透過率」を測定したデータはない。・・・中略・・・請求項1~4を得るために過度の試行錯誤を必要とするものである。」と主張する。 特許異議申立人の主張は、要するに、本件特許発明の実施例が記載されていないから実施可能要件違反に該当するというものであるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、たとえ実施例に明示的に記載がなくても、上記(2)のとおり、本件特許発明を実施するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とするものではないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 また、特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(17~19頁)の3-3.イにおいて、「特許権者による上記主張は、取消理由3における上記議論とは関係がない。」と主張するが、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、上記(1)のとおり、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載され、上記(2)のとおり、本件特許発明を実施するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とするものではないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (4)小括 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 第6 当合議体の判断(新規性及び進歩性) 1 申立人が提出した各証拠に記載された事項 (1)甲1の記載 申立人が提出した甲1には、次の事項が記載されている。 「 [図:0001395193000005.jpg] [図:0001395193000006.jpg] [図:0001395193000007.jpg] [図:0001395193000008.jpg] [図:0001395193000009.jpg] [図:0001395193000010.jpg] [図:0001395193000011.jpg] [図:0001395193000012.jpg] [図:0001395193000013.jpg] [図:0001395193000014.jpg] [図:0001395193000015.jpg] [図:0001395193000016.jpg] [図:0001395193000017.jpg] [図:0001395193000018.jpg] [図:0001395193000019.jpg] 」 (2)甲2の記載 申立人が提出した甲2には、次の事項が記載されている。 「 [図:0001395193000020.jpg] [図:0001395193000021.jpg] [図:0001395193000022.jpg] [図:0001395193000023.jpg] [図:0001395193000024.jpg] ・・・中略・・・ [図:0001395193000025.jpg] ・・・中略・・・ [図:0001395193000026.jpg] ・・・後略・・・」 (3)甲3の記載 申立人が提出した甲3の第1頁には、次の事項が記載されている。 「 [図:0001395193000027.jpg] 」 (4)甲4の記載 申立人が提出した甲4の第1頁には、次の事項が記載されている。 「 [図:0001395193000028.jpg] 」 2 引用文献1に記載された事項 当合議体が職権で発見した引用文献1の第25~26頁には、次の事項が記載されている。 「 [図:0001395193000029.jpg] [図:0001395193000030.jpg] 」 3 甲1製品発明又は甲1方法発明を主引用発明とした場合 (1)甲1製品発明及び甲1方法発明 ア 公知性又は公然実施性について 甲3には、「ARROWS NX F-02G」(以下「甲1製品」という。)は、2014年11月19日に発売されたものであることが記載されており、また、甲4には、2015年9月6日付けのホームページに、甲1製品は、生産が既に終了しているスマートフォンであることが記載されている。 してみると、本件特許の優先日である2016年1月21日よりも前に、甲1製品は日本国内で製造又は販売されていたものと推認される。 よって、「ARROWS NX F-02G」は、本件特許の優先日前に公然知られた発明又は公然実施された製品であると認められる。 イ 甲1製品発明の認定 甲1の第2頁「1」、第4頁「4」には、「サンプルA」として、「F-02G」と記載されているスマートフォンから外した背面カバー上部右側に配置されていたフィルム(サイズ7mm×13mm程度)(甲1の写真(1)~(5)(当合議体柱:原文の(1)は丸付き数字の1、(5)は丸付き数字の5である。))を、封筒に入れ、UBE科学分析センターに送付したことが記載されている。ここで、甲1の上記摘記箇所の記載より、「F-02G」と記載されているスマートフォンは、「ARROWS NX F-02G」であると認められる。 また、甲2(第3/18頁、第4/18頁)には、株式会社UBE科学分析センターが行った、サンプルAの紫外・可視・近赤外領域(350~2000nm)における拡散透過率測定(全光線透過光、直線透過光除去)および拡散反射率測定(全光線反射率、鏡面反射光除去)の結果が記載されている。「1698-6172-8886」である送り状の番号が、甲1(第4頁「4」及び第15頁(18)(当合議体柱:原文の(18)は丸付き数字の18である。))と甲2(第2/18頁)で同一であるので、甲2の当該サンプルAは、上記甲1で送付されたサンプルAと同一のものであると認められる。 そして、甲1~2の記載によれば、スマートフォンである「ARROWS NX F-02G」の背面カバーの上部に備えられているサンプルAの「フィルム」は、可視光領域を400~700nm、近赤外光領域を700~2000nmとした場合の各光線の平均透過率および反射率として、可視光の拡散透過(全光線)10%、近赤外光の拡散透過(全光線)71%、可視光の拡散透過(直線透過光除去)8%、近赤外光の拡散透過(直線透過光除去)46%、可視光の拡散反射(鏡面反射光除去)73%、近赤外光の拡散反射(鏡面反射光除去)13%、可視光の拡散反射(全光線)84%のものであり、「サンプルAの拡散透過率(全光線)スペクトル」は甲2の第4/18頁に記載のとおりであると認められる。 また、このような特性を有することから、当該「フィルム」は、光学フィルムであり、波長選択性の散乱層であると認められる。 さらに、引用文献1第25~26頁の記載と甲1の写真(1)~(4)(当合議体柱:原文の(1)は丸付き数字の1、(4)は丸付き数字の4である。)を照らし合わせると、当該「フィルム」が配置される位置は、「赤外線ポート」に対応する位置であることが理解され、また、当該「フィルム」は、近赤外センサにより感知され得る透過率を有するものであるといえる。 以上総合すると、甲1~2及び引用文献1の上記記載から把握される、「ARROWS NX F-02G」の発明は、次のとおりのものである(以下「甲1製品発明」という。)。 「 赤外線ポートに対応する位置に配置される光学フィルターであって、 当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、前記光学フィルターは波長選択性散乱層を含み、 前記波長選択性散乱層は、可視光領域を400~700nm、近赤外光領域を700~2000nmとした場合の各光線の平均透過率および反射率として、可視光の拡散透過(全光線)10%、近赤外光の拡散透過(全光線)71%、可視光の拡散透過(直線透過光除去)8%、近赤外光の拡散透過(直線透過光除去)46%、可視光の拡散反射(鏡面反射光除去)73%、近赤外光の拡散反射(鏡面反射光除去)13%、可視光の拡散反射(全光線)84%のものであり、 光学フィルターの拡散透過率(全光線)スペクトルが以下のとおりである、 光学フィルターを含むスマートフォン。 (拡散透過率(全光線)スペクトル) [図:0001395193000031.jpg] 」 ウ 甲1方法発明の認定 甲1~2において、「ARROWS NX F-02G」の「光学フィルター」を配置する工程について記載はないものの、「ARROWS NX F-02G」の製造過程(方法)において、発光器又は受光器の一方又は両方に隣接して「光学フィルター」を配置する工程を含むことは自明である。 上記記載より把握される、甲1製品発明の製造方法の発明を、甲1方法発明とする。 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1製品発明とを対比する。 (ア)光学フィルター 甲1製品発明の「光学フィルター」は、本件特許発明1の「光学フィルター」に相当する。 (イ)近赤外透過率 甲1製品発明における「光学フィルター」の「拡散透過率(全光線)スペクトル」のうち830nm~900nmの波長範囲の透過率は、本件特許発明1の「830~900nmの波長範囲」における「近赤外透過率」に相当する。 そうすると、甲1製品発明は、本件特許発明1の「近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」という要件を満たす。 (ウ)可視透過率 甲1製品発明における「光学フィルター」の「拡散透過率(全光線)スペクトル」のうち380nm~800nmの波長範囲の透過率は、本件特許発明1の「380~800nmの波長範囲」における「可視透過率」に相当する。 そうすると、甲1製品発明は、本件特許発明1の「前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し」という要件を満たさない。 (エ)波長選択性散乱層 甲1製品発明の「光学フィルター」に含まれる「波長選択性散乱層」は、本件特許発明1の「光学フィルター」に含まれる「波長選択性散乱層」に相当する。 (オ)近赤外散乱比 甲1製品発明の「波長選択性散乱層」における「可視光の拡散透過(直線透過光除去)」と「可視光の拡散反射(鏡面反射光除去)」は、可視光領域を400~700nmとした場合の平均透過率及び反射率である。そうすると、甲1製品発明の「波長選択性散乱層」における「可視光の拡散透過(直線透過光除去)」と「可視光の拡散反射(鏡面反射光除去)」の和は、本件特許発明1の「波長選択性散乱層」における「平均可視散乱」に相当する。 また、甲1製品発明の「波長選択性散乱層」における「近赤外光の拡散透過(直線透過光除去)」と「近赤外光の拡散反射(鏡面反射光除去)」は、近赤外光領域を700~2000nmとした場合の平均透過率及び反射率である。そうすると、甲1製品発明の「波長選択性散乱層」における「近赤外光の拡散透過(直線透過光除去)」と「近赤外光の拡散反射(鏡面反射光除去)」の和は、本件特許発明1の「波長選択性散乱層」における「平均近赤外散乱」に相当する。 上記より、甲1製品発明の「波長選択性散乱層」における「可視光の拡散透過(直線透過光除去)」と「可視光の拡散反射(鏡面反射光除去)」の和は81%(=8%+73%)であり、「近赤外光の拡散透過(直線透過光除去)」と「近赤外光の拡散反射(鏡面反射光除去)」の和は59%(=46%+13%)であるから、「近赤外散乱比」は、0.73(=59/81)である(当合議体注:小数第3位を四捨五入している。以下、同様である。)。 よって、甲1製品発明の「波長選択性散乱層」は、本件特許発明1の「前記波長選択性散乱層は0.9未満の近赤外散乱比を有し、前記近赤外散乱比は、平均可視散乱に対する平均近赤外散乱の比であり」という要件を満たす。 (カ)可視反射ヘイズ率 甲1製品発明の「波長選択性散乱層」は、「可視光の拡散反射(鏡面反射光除去)73%」かつ「可視光の拡散反射(全光線)84%」であるから、「平均可視全反射率に対する平均可視拡散反射率の比率である」「可視反射ヘイズ率」は、0.87(=73/84)である。 よって、甲1製品発明の「波長選択性散乱層」は、本件特許発明1の「前記波長選択性散乱層は、0.5より大きい可視反射ヘイズ率を有し、前記可視反射ヘイズ率は、平均可視全反射率に対する平均可視拡散反射率の比率である」という要件を満たす。 (キ)システム 甲1製品発明の「スマートフォン」は、本件特許発明1の「システム」に相当する。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明1と甲1製品発明とを対比すると、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違又は一応相違する。 (ア)一致点 「光学フィルターであって、近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、前記光学フィルターは波長選択性散乱層を含み、前記波長選択性散乱層は0.9未満の近赤外散乱比を有し、前記近赤外散乱比は、平均可視散乱に対する平均近赤外散乱の比であり、前記波長選択性散乱層は、0.5より大きい可視反射ヘイズ率を有し、前記可視反射ヘイズ率は、平均可視全反射率に対する平均可視拡散反射率の比率である、光学フィルタ、を含むシステム。」 (イ)相違点 (相違点1) 本件特許発明1においては、「発光器又は受光器の一方又は両方」を含んでおり、「光学フィルター」が「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する」のに対し、甲1製品発明においては、「発光器又は受光器の一方又は両方」を含むものであるか否かが定かではなく、「光学フィルター」が「前記発光器又は前記受光器の一方又は両方に隣接する」か否かも定かではない点。 (相違点2) 「近赤外透過率」が、本件特許発明1は、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率」であるのに対し、甲1製品発明は、「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率」であるか否かが定かではない点。 (相違点3) 「380~800nmの波長範囲にお」ける「光学フィルター」が有する「可視透過率」が、本件特許発明1は「0.1%未満」であるのに対し、甲1製品発明は「0.1%未満」ではない点。 ウ 判断 事案に鑑み、相違点3を検討する。 本件特許発明1の課題は、上記「第5」2(1)に示したとおり、「近赤外波長に含まれる情報を提供しつつ、可視波長を選択的に散乱又は反射させることによって、可視波長による望ましくない光学干渉を防止し、電磁放射源や受光器を隠蔽又はカモフラージュすることができる光学フィルターを含むシステム」を提供するものであると認められる。そして、本件特許発明1は、「可視波長による望ましくない光学干渉を防止し、電磁放射源や受光器を隠蔽又はカモフラージュする」ために、「380~800nmの波長範囲にお」ける「光学フィルター」が有する「可視透過率」を「0.1%未満」としたものである。 しかしながら、甲1製品発明においては、「可視波長による望ましくない光学干渉を防止し、電磁放射源や受光器を隠蔽又はカモフラージュする」という課題は見いだせず、特許異議申立人が提出した他の甲号証に記載された技術的事項を考慮したとしても、当該課題の解決を期待できるものとして、「380~800nmの波長範囲にお」ける「光学フィルター」が有する「可視透過率」を「0.1%未満」とすることが容易であるとはいえない。 したがって、甲1製品発明において、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものではない。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和4年8月2日提出の意見書(19~20頁)の3-4.において、「訂正事項1~4による訂正後の発明特定事項「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視光透過率を有し、」は不明確であるので、当該発明特定事項は、新規性及び進歩性の判断において対比の対象から除かれるべきである。」と主張する。 しかしながら、当該発明特定事項は、上記「第5」1のとおり明確であるため、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 また、特許異議申立人は、同意見書の同箇所において、「「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく、且つ、前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視光透過率を有し、」は、「当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」の本来の意味であるから、請求項1~4に実質的な変更はないため、取消理由通知書における取消理由4及び5は、維持されるべきである。」と主張する。 上記主張について検討するに、本件訂正請求前の請求項1における「当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」の本来の意味が「当該光学フィルターを通じた近赤外パターンの近赤外透過率が830~900nmの波長範囲において50%より大きく」であることは上記「第2」3(1)ア(ア)に述べたとおりである。しかしながら、「前記光学フィルターは380~800nmの波長範囲において0.1%未満の可視透過率を有し、」という訂正は、「当該光学フィルターを通して近赤外パターンが近赤外センサにより感知され得る赤外透過率を有し、」の本来の意味ではなく、上記「第2」3(1)ア(イ)に示したとおり、特許請求の範囲の減縮であって、本件訂正請求によって本来の意味が明確になったのであるから、少なくとも新規性及び進歩性の判断の対象から当該訂正事項にかかる構成が除外されるべき理由はない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 オ 本件特許発明1についての小括 本件特許発明1は、甲1製品発明ではないため、公然知られた発明であるか又は公然実施された発明ではない。 また、相違点1~2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、公然知られた発明又は公然実施された発明である甲1製品発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)本件特許発明2~4 本件特許発明2と甲1方法発明とを対比すると、両者は、上記(2)の相違点3と同様の相違点で少なくとも相違し、相違点に対する判断も上記(2)と同様である。 また、本件特許発明3~4と甲1製品発明とを対比すると、両者は、上記(2)の相違点3と同様の相違点で少なくとも相違し、相違点に対する判断も上記(2)と同様である。 そうすると、上記(2)と同様に、本件特許発明2~4は、公然知られた発明であるか又は公然実施された発明ではない。また、本件特許発明2~4は、公然知られた発明又は公然実施された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 4 甲2製品発明を主引用発明とした場合 「Nitto NITOFLON Films」の品番「No.900UL」である「フィルムB」を備える「電子部品」の発明(甲1~2及び5参照。)を、「甲2製品発明」とする。また、甲2製品発明の製造方法の発明を、「甲2方法発明」とする。 主引用発明を、甲1製品発明から甲2製品発明に替えて、本件特許発明1、3~4と対比したとしても、これらの主引用発明と本件特許発明とは、上記3(2)の相違点3と同様の相違点で少なくとも相違し、相違点に対する判断も上記3と同様である。 また、主引用発明を、甲1方法発明から甲2方法発明に替えて、本件特許発明2と対比したとしても、事情は変わらない。 そうすると、本件特許発明1~4は、公然知られた発明でも公然実施された発明でもない。また、本件特許発明1~4は、公然知られた発明又は公然実施された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 5 甲3製品発明を主引用発明とした場合 「CIF-020001-95」である「フィルムC」を赤外線窓に利用した「携帯電話機」(甲1~2及び6~9参照。)の発明を、「甲3製品発明」とする。また、「CIF-020001-95」を用いた甲3製品発明(携帯電話機)の製造方法においては、発光器又は受光器の一方又は両方に隣接して光学フィルターを配置する工程を含むことは自明である。そこで、上記工程を含む、「CIF-020001-95」を用いた携帯電話機の製造方法の発明を、甲3方法発明とする。 主引用発明を、甲1製品発明から甲3?製品発明に替えて、本件特許発明1、3~4と対比したとしても、上記3(2)の相違点3と同様の相違点で少なくとも相違し、相違点に対する判断も上記3と同様である。 また、主引用発明を、甲1方法発明から甲2方法発明に替えて、本件特許発明2と対比したとしても、事情は変わらない。 そうすると、本件特許発明1~4は、公然知られた発明でも公然実施された発明でもない。また、本件特許発明1~4は、公然知られた発明又は公然実施された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 6 甲10を主引用文献とした場合 甲10の【請求項1】、【0004】~【0006】等には、「赤外線透過率が80%以上」の「赤外線透過膜」が記載されており、その実施例1として、黒い色材(色材層)の赤外線透過率100%、可視光透過率が23%のものが開示されている(【0021】~【0023】、【0029】【表1】)。甲10の上記摘記箇所の記載から把握される「赤外線透過膜」の発明を、「甲10透過膜発明」とする。また、甲10透過膜発明の製造方法の発明を、「甲10方法発明」とする。 主引用発明を、甲1製品発明から甲10透過膜発明に替えて、本件特許発明1、3~4と対比したとしても、上記3(2)の相違点3と同様の相違点で少なくとも相違し、相違点に対する判断も上記3と同様である。 また、主引用発明を、甲1方法発明から甲10方法発明に替えて、本件特許発明2と対比したとしても、事情は変わらない。 そうすると、本件特許発明1~4は、甲10に記載された発明でない。また、本件特許発明1~4は、甲10に記載された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 7 甲11を主引用文献とした場合 甲11(【請求項1】、【請求項11】、【請求項15】、【0001】~【0007】、【0016】、【0021】、【0034】~【0035】、【0044】~【0046】、【0059】等を参照。)から理解される「赤外線センサユニット」の発明を、「甲11ユニット発明」とする。また、甲11ユニット発明の製造方法の発明を、「甲11方法発明」とする。 主引用発明を、甲1製品発明から甲11ユニット発明に替えて、本件特許発明1、3~4と対比したとしても、上記3(2)の相違点3と同様の相違点で少なくとも相違し、相違点に対する判断も上記3と同様である。 また、主引用発明を、甲1方法発明から甲11方法発明に替えて、本件特許発明2と対比したとしても、事情は変わらない。 そうすると、本件特許発明1~4は、甲11に記載された発明でない。また、本件特許発明1~4は、甲11に記載された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 8 甲12を主引用文献とした場合 甲12(【請求項1】、【0003】~【0006】、【0008】、【0032】、【図1】等を参照。)の実施の形態2から理解される「赤外線センサ機器」の発明を、「甲12機器発明」とする。また、甲12機器発明の製造方法の発明を、「甲12方法発明」とする。 主引用発明を、甲1製品発明から甲12機器発明に替えて、本件特許発明1、3~4と対比したとしても、上記3(2)の相違点3と同様の相違点で少なくとも相違し、相違点に対する判断も上記3と同様である。 また、主引用発明を、甲1方法発明から甲12方法発明に替えて、本件特許発明2と対比したとしても、事情は変わらない。 そうすると、本件特許発明1~4は、甲12に記載された発明でない。また、本件特許発明1~4は、甲12に記載された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第7 むすび 請求項1~4に係る特許は、いずれも、令和4年3月30日付け取消理由通知書に記載した取消しの理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-701240

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  • 2024-700799異議申立 / 2025-03-24 / 訂正認容可撓性ハードコート
    同じ当事者: スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
  • 2023-700055異議申立 / 2024-08-30 / 訂正認容スペクトル選択性光制御フィルム
    同じ当事者: スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
  • 2022-700633異議申立 / 2024-07-30 / 訂正認容改善された耐食性を備えた構造用接着剤
    同じ当事者: スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
  • 2023-700846異議申立 / 2024-06-18 / 維持乗物外装用装飾フィルム
    同じ当事者: スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
  • 2022-700727異議申立 / 2023-06-13 / 訂正認容受動中継装置、マイクロ波ネットワーク、及び中継装置を設計する方法
    同じ当事者: スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,902件(111・G02B、112・G02B、113・G02B ほか)
  • 2016-700879異議申立 / 2017-08-09 / 請求成立(取消)光拡散フィルムおよびその製造方法、光拡散性偏光板、ならびに液晶表示装置
    共通の審決分類: 113・G02B、121・G02B、536・G02B、537・G02B ほか1件
  • 2016-700566異議申立 / 2017-01-26 / 訂正認容位相差フィルム
    共通の審決分類: 113・G02B、121・G02B、537・G02B、841・G02B ほか1件
  • 2020-800013無効審判 / 2023-09-29 / 請求不成立印刷された再帰反射シート
    共通の審決分類: 121・G02B、537・G02B、851・G02B、853・G02B ほか1件
  • 2025-700999異議申立 / 2026-02-16 / 維持光学フィルムおよび画像表示装置
    共通の審決分類: 113・G02B、121・G02B、536・G02B、537・G02B
  • 2024-701111異議申立 / 2026-01-27 / 維持反射防止フィルム、偏光板およびディスプレイ装置
    共通の審決分類: 113・G02B、121・G02B、536・G02B、537・G02B

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