特許異議申立
2016-700566
位相差フィルム
- 審判番号
- 2016-700566
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2010-284771
- 登録番号
- 特許第5834403号(P5834403)
- 請求日
- 2016年06月24日
- 審決日
- 2017年01月26日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱化学株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人あいち国際特許事務所
- 【異議申立人】星 正美
- 審判長/審判官
- 審判長 西村 仁志
- 審判官 清水 康司
- 審判官 樋口 信宏
- 分類
- P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B) / P1651.841-YAA(G02B) / P1651.851-YAA(G02B) / P1651.857-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5834403号発明「位相差フィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5834403号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし13〕について訂正することを認める。
特許第5834403号の請求項1,4,6,9ないし13に係る特許を維持する。
特許第5834403号の請求項2,3,5,7及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5834403号(請求項の数13。以下,「本件特許」という。)は,平成22年12月21日(優先権主張平成21年12月22日)に出願され,平成27年11月13日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対し,平成28年6月24日に特許異議申立人星正美により請求項1ないし13に係る特許について特許異議の申立てがされ,同年9月23日付けで特許権者に取消理由が通知され,特許権者により同年11月28日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,同年12月21日に異議申立人より意見書が提出された。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
(1)訂正前後の記載
本件訂正請求は,明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし13について訂正することを求めるものであるところ,一群の請求項〔1ないし13〕ごとに請求するものであるから,特許法120条の5第4項の規定に適合して請求されたものである。
しかるに,本件訂正前後の明細書及び特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
ア 本件訂正前の記載
(ア)明細書中の本件訂正に係る記載
「【0016】
・・・(中略)・・・[10]第2モノマー単位が,炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造であることを特徴とする[3]乃至[9]のいずれか1つに記載の位相差フィルム。」
「【0049】
・・・(中略)・・・具体的には,例えば,9,9-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン,1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセンなどがあげられる。」
「【0083】
・・・(中略)・・・得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO2,ヘキサン/酢酸エチル=50/50)で精製し,目的とする9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン4.2gを得た。」
「【0085】
9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン7.93gとジフェニルカーボネートを11.63g,及び触媒として,炭酸セシウム(0.2重量%水溶液)を0.066mLをそれぞれを反応容器に投入し,」
「【0090】
9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBHEACF20.28gに,DPCの使用量を8.48gに変えた以外は,製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。」
「【0092】
・・・(中略)・・・9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBCHDMCF28.99gに,DPCの使用量を8.48gに変えた以外は,製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。」
「【0099】
・・・(中略)・・・9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを,製造例6で得られたBCHDMCF20.05gとイソソルバイド5.67gに,DPCの使用量を17.61gに変えた以外は製造例3と同様にして重合を行い,ポリマーを得た。」
(イ)特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルムであって,前記高分子が正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第1モノマー単位と記す。)と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有し,第1モノマー単位のホモポリマーが下記式(1)を満足することを特徴とする位相差フィルム。
R1450/R1550 < 1 (1)
(式中,R1450は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R1550は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R1450とR1550は,同一サンプルを測定したものである。)
【請求項2】
第2モノマー単位と第1モノマー単位とが同一である請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
下記式(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
R1450/R1550 < R2450/R2550 (3)
(式中,R1450は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R1550は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R2450は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R2550は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R1450とR1550は,同一サンプルを測定したものであり,R2450とR2550は,同一サンプルを測定したものである。)
【請求項4】
下記式(4)を満足することを特徴とする請求項3に記載の位相差フィルム。
R2450/R2550 > 1 (4)
(式中,R2450は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R2550は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R2450とR2550は,同一サンプルを測定したものである。)
【請求項5】
下記式(2-1)を満足することを特徴とする請求項3または4に記載の位相差フィルム。
|Δn10|> |Δn20| (2-1)
(式中,|Δn10|及び|Δn20|は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値を表す。)
【請求項6】
下記式(2-2)を満足することを特徴とする請求項5に記載の位相差フィルム。
Δn10 > Δn20 > 0 (2-2)
(式中,Δn10及びΔn20は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折を表す。)
【請求項7】
下記式(2-3)を満足することを特徴とする請求項3に記載の位相差フィルム。
|Δn10|< |Δn20| (2-3)
(式中,|Δn10|及び|Δn20|は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値を表す。)
【請求項8】
下記式(2-4)を満足することを特徴とする請求項3または7に記載の位相差フィルム。
0 < Δn10 < Δn20 (2-4)
(式中,Δn10及びΔn20は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折を表す。)
【請求項9】
第2モノマー単位からなるホモポリマーが,下記式(5)を満足することを特徴とする請求項3乃至8のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
1 < R2450/R2550 < 1.1 (5)
(式中,R2450は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R2550は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R2450とR2550は,同一サンプルを測定したものである。)
【請求項10】
第2モノマー単位が,炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造であることを特徴とする請求項3乃至9のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項11】
高分子が,ポリエステル,ポリエステルカーボネート及びポリカーボネートのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の位相差フィルムを用いたことを特徴とする液晶パネル。
【請求項13】
請求項12に記載の液晶パネルを備えることを特徴とする画像表示装置。」
イ 本件訂正後の記載
(ア)明細書中の本件訂正に係る記載
「【0016】
・・・(中略)・・・[10]第2モノマー単位が,炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造であることを特徴とする[3]乃至[9]のいずれか1つに記載の位相差フィルム。」
「【0049】
・・・(中略)・・・具体的には,例えば,9,9-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン,1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセンなどがあげられる。」
「【0083】
・・・(中略)・・・得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO2,ヘキサン/酢酸エチル=50/50)で精製し,目的とする9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン4.2gを得た。」
「【0085】
9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン7.93gとジフェニルカーボネートを11.63g,及び触媒として,炭酸セシウム(0.2重量%水溶液)を0.066mLをそれぞれを反応容器に投入し,」
「【0090】
9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBHEACF20.28gに,DPCの使用量を8.48gに変えた以外は,製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。」
「【0092】
・・・(中略)・・・9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBCHDMCF28.99gに,DPCの使用量を8.48gに変えた以外は,製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。」
「【0099】
・・・(中略)・・・9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを,製造例6で得られたBCHDMCF20.05gとイソソルバイド5.67gに,DPCの使用量を17.61gに変えた以外は製造例3と同様にして重合を行い,ポリマーを得た。」
(イ)特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルムであって,前記高分子が正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第1モノマー単位と記す。)と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有し,第1モノマー単位のホモポリマーが下記式(1)を満足し,下記の式(3)を満足し,下記の式(2-1)を満足することを特徴とする位相差フィルム。
R1450/R1550 < 1 (1)
(式中,R1450は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R1550は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R1450とR1550は,同一サンプルを測定したものである。)
R1450/R1550 < R2450/R2550 (3)
(式中,R1450は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R1550は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R2450は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R2550は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R1450とR1550は,同一サンプルを測定したものであり,R2450とR2550は,同一サンプルを測定したものである。)
|Δn10|> |Δn20| (2-1)
(式中,|Δn10|及び|Δn20|は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値を表す。)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
下記式(4)を満足することを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
R2450/R2550 > 1 (4)
(式中,R2450は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R2550は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R2450とR2550は,同一サンプルを測定したものである。)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
下記式(2-2)を満足することを特徴とする請求項1又は4に記載の位相差フィルム。
Δn10 > Δn20 > 0 (2-2)
(式中,Δn10及びΔn20は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折を表す。)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
第2モノマー単位からなるホモポリマーが,下記式(5)を満足することを特徴とする請求項1,4,又は6に記載の位相差フィルム。
1 < R2450/R2550 < 1.1 (5)
(式中,R2450は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R2550は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R2450とR2550は,同一サンプルを測定したものである。)
【請求項10】
第2モノマー単位が,炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造であることを特徴とする請求項1,4,6,又は9に記載の位相差フィルム。
【請求項11】
高分子が,ポリエステル,ポリエステルカーボネート及びポリカーボネートのいずれかであることを特徴とする請求項1,4,6,9,又は10に記載の位相差フィルム。
【請求項12】
請求項1,4,6,9,10,又は11に記載の位相差フィルムを用いたことを特徴とする液晶パネル。
【請求項13】
請求項12に記載の液晶パネルを備えることを特徴とする画像表示装置。」
(2)訂正事項
本件訂正は,次の訂正事項からなる。
ア 訂正事項1
請求項1に「下記式(1)を満足する」とあるのを,「下記式(1)を満足し,下記の式(3)を満足し,下記の式(2-1)を満足する」に訂正し,請求項1の末尾に式(3)及びその定義,並びに式(2-1)及びその定義を追加する訂正を行うとともに,請求項2,3,5,7及び8を削除し,さらに,請求項4が引用する請求項を「請求項3」から「請求項1」に,請求項6が引用する請求項を「請求項5」から「請求項1又は4」に,請求項9が引用する請求項を「請求項3乃至8のいずれか1項」から「請求項1,4,又は6」に,請求項10が引用する請求項を「請求項3乃至9のいずれか1項」から「請求項1,4,6,又は9」に,請求項11が引用する請求項を「請求項1乃至10のいずれか1項」から「請求項1,4,6,9,又は10」に,請求項12が引用する請求項を「請求項1乃至11のいずれか1項」から「請求項1,4,6,9,10,又は11」に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項10に「炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造」とあるのを,「炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造」に訂正するとともに,明細書の【0016】に「炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造」とあるのを,「炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造」に訂正する。
ウ 訂正事項3
明細書の【0049】,【0083】,【0085】,【0090】,【0092】及び【0099】にそれぞれ「9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」とあるのを,「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」に訂正する。
2 訂正の目的の適否について
訂正事項1は,訂正前の請求項2,3,5,7及び8を削除する訂正と,訂正前の請求項3及び5に記載されていた事項を請求項1に繰り入れるとともに請求項6が引用する請求項の項番を1又は4とすることによって,削除しない請求項のうちの請求項1,4,9ないし13を限定する訂正と,これらの訂正に伴って各請求項が引用する請求項の項番を整合させる訂正とからなる訂正事項であるから,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当する。
また,訂正事項2は,請求項10に記載された発明特定事項における第2モノマーの構造についての選択肢から「炭素数4から22の鎖状構造」及び「ヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状構造」という選択肢を削除する訂正であり,当該訂正事項2によって,請求項10及び当該請求項10の記載を引用する形式で記載された請求項11ないし13に係る発明において,第2モノマーの構造が限定されることとなるから,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
さらに,訂正事項3は,明細書の【0084】に示された構造式等からみて「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」であることが明らかな「9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」という誤記を,正しい記載にする訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
したがって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1,2及び4号に掲げる事項を目的とするものである。
3 新規事項の追加の有無について
(1) 前記2で述べたとおり,訂正事項1は,訂正前の請求項3及び5に記載されていた事項を請求項1に繰り入れるとともに請求項6が引用する請求項の項番を1又は4とすることによって,削除しない請求項のうちの請求項1,4,9ないし13を限定する訂正と,これらの訂正に伴って各請求項が引用する請求項の項番を整合させる訂正とからなるから,本件訂正前の願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(特許された時点での明細書,特許請求の範囲及び図面である。以下,本件訂正前の願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面を総称して「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(2) また,訂正事項2は,請求項10に記載された発明特定事項における第2モノマーの構造についての選択肢から「炭素数4から22の鎖状構造」及び「ヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状構造」という選択肢を削除する訂正であるから,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(3) さらに,訂正事項3は誤記の訂正を目的とするものであるから,当該訂正事項3による新規事項の追加の有無の判断の基準明細書は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」といい,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面を総称して「当初明細書等」という。)となるところ,訂正事項3による訂正後の「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」については,当初明細書の【0084】に構造式によって示されているから,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4) したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について
訂正事項1ないし3が,いずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
5 小括
前記2ないし4のとおりであって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1,2及び4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし13〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る発明
前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」,「本件特許発明4」,「本件特許発明6」,「本件特許発明9」ないし「本件特許発明13」という。)は,それぞれ,前記第2 1(1)イ(イ)において,本件訂正後の特許請求の範囲の記載として示した請求項1,4,6,9ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
2 平成28年9月23日付けで通知された取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし13に係る特許に対して平成28年9月23日付けで通知された取消理由は,概略次のとおりである。なお,取消理由1ないし3で引用された甲第1号証及び甲第2号証は,それぞれ中国特許出願公開第101470212号明細書及び特開2002-14234号公報である。
(1)取消理由1
本件特許の請求項1ないし4,7ないし9,12,13に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であるか,又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。
(2)取消理由2
本件特許の請求項1ないし4,7ないし13に係る発明は,甲第2号証に記載された発明と同一であるか,又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。
(3)取消理由3
本件特許の請求項1ないし4,7ないし9,12,13に係る発明は,甲1及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。
(4)取消理由4
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は,次のアないしウの点で,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条4号に該当する。
ア 「第1モノマー単位」に関する明確性要件違反
特許明細書の【0049】には,請求項1に記載された「第1モノマー単位」として「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」を例示しているが,当該化合物は反応性のヒドロキシ基を持たないので,モノマーとして機能し得ないと考えられるところ,当該特許明細書の記載を参酌すると,請求項1に記載された「モノマー単位」なる用語が如何なるものを包含する概念であるのか,明確に特定できない。
したがって,本件特許の請求項1に係る発明,及び当該請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし13に係る発明は明確でない。
イ 請求項10ないし13に係る発明に関するサポート要件違反
本件特許の請求項10には,「第2モノマー単位が,炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造である」との発明特定事項が記載されているが,第2モノマー単位がヘテロ原子を含む鎖状構造である場合に,当該鎖状構造の炭素数の上限が20である点は,特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって,本件特許の請求項10に係る発明,及び当該請求項10の記載を引用する形式で記載された請求項11ないし13に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。
ウ 請求項10ないし13に係る発明に関する明確性要件違反
本件特許の請求項10には,「第2モノマー単位が,炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造である」と記載されているが,「または」と「もしくは」の使い方が不自然であるため,当該記載が指し示す内容を明確に特定し難い。
したがって,本件特許の請求項10に係る発明,及び当該請求項10の記載を引用する形式で記載された請求項11ないし13に係る発明は明確でない。
3 引用例
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証(中国特許出願公開第101470212号明細書。以下,「甲1」という。)は,本件特許の優先権主張の日(以下,「本件特許の優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には次の記載がある。(日本語訳に付した下線は,後述する「甲1発明」の認定に特に関連する箇所を示す。)
(ア) 「
・・・(中略)・・・
」(2ページ1行ないし5ページ14行)
[日本語訳]
「請求項1.式(A)で表される基及び重合性基を含む化合物を重合してなる光学フィルム。
-Ga-Da-Ar-Db-Gb- (A)
式中,Arは芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する2価の基を表し,該2価の基中の芳香環に含まれるπ電子の数Nπは,12以上である;Da及びDbは,それぞれ独立に,単結合,-CO-O-,-O-CO-,-C(=S)-O-,-O-C(=S)-,-CR1R2-,-CR1R2-CR3R4-,-O-CR1R2-,-CR1R2-O-,-CR1R2-O-CR3R4-,-CR1R2-O-CO-,-O-CO-CR1R2-,-CR1R2-O-CO-CR3R4-,-CR1R2-CO-O-CR3R4-,-NR1-CR2R3-,-CR2R3-NR1-,-CO-NR1-,又はNR1-CO-を表し,R1,R2,R3及びR4は,それぞれ独立に,水素原子,フッ素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す;Ga及びGbは,それぞれ独立に,2価の脂環式炭化水素基を表し,該脂環式炭化水素基は,ハロゲン原子,炭素数1~4のアルキル基,炭素数1~4のフルオロアルキル基,炭素数1~4のアルコキシ基,シアノ基又はニトロ基で置換されていてもよく,該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は,-O-,-S-又は-NH-に置換されていてもよい。
・・・(中略)・・・
請求項12.波長550nmにおける位相差値Re(550)が113~163nmである請求項1記載の光学フィルム。」
(イ) 「
」(11ページ1ないし末行。なお,イメージは1行として数える。以下同様。)
[日本語訳]
「光学フィルム
技術分野
本発明は,光学フィルムに関するものである。
背景技術
フラットパネルディスプレイ(FPD)中に使用されている偏光板,位相差板などの光学フィルムの部品。光学フィルムとして,溶剤中に重合性化合物を溶解して得た溶液を支持基材上に塗布した後,重合して得た光学フィルムを列挙できる。
他方で,提供された波長λnmの光の光学フィルムの位相差(Re(λ))は,複屈折率△nとフィルムの厚みdの積によって決定(Re(λ)= △n×d)されることは既に知られている。このほか,波長分散特性は通常,波長λnmのところの位相差値Re(λ)で550nmのところの位相差値Re(550)を除した値(Re(λ)/Re(550))で表示され,(Re(λ)/Re(550))が1に近い波長の範囲,[Re(450)/Re(550)]<1かつ,[Re(650)/Re(550)]>1の示す逆波長分散性の波長範囲において,同様の偏光変換を行い得ることが知られている。
SID Sysposium Digest of Technical Papers,2006年37巻1673ページにおいて,重合性化合物として,下記の式が示す化合物(LC242)が公開されている。
発明の内容
本発明は以下の内容を提供する。
[1]式(A)で表される基及び重合性基を含む化合物を重合してなる光学フィルム。
-Ga-Da-Ar-Db-Gb- (A)」
(ウ) 「
」(21ページ22行ないし22ページ16行)
[日本語訳]
「発明を実施するための最良の形態
本発明の光学フィルムは下記の化合物(以下,化合物(A)という。)を重合して得られるものであり,下記の式(A)に示される基及び少なくとも1つの重合性基を含有する化合物である。
-Ga-Da-Ar-Db-Gb- (A)
(式中,Arは芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する2価の基を表し,該2価の基中の芳香環に含まれるπ電子の数Nπは12以上である。Da及びDbは,それぞれ独立に,単結合,-CO-O-,-O-CO-,-C(=S)-O-,-O-C(=S)-,-CR1R2-,-CR1R2-CR3R4-,-O-CR1R2-,-CR1R2-O-,-CR1R2-O-CR3R4-,-CR1R2-O-CO-,-O-CO-CR1R2-,-CR1R2-O-CO-CR3R4-,-CR1R2-CO-O-CR3R4-,-NR1-CR2R3-,-CR2R3-NR1-,-CO-NR1-,又はNR1-CO-を表し,R1,R2,R3及びR4は,それぞれ独立に,水素原子,フッ素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Ga及びGbは,それぞれ独立に,2価の脂環式炭化水素基を表し,該脂環式炭化水素基は,ハロゲン原子,炭素数1~4のアルキル基,炭素数1~4のフルオロアルキル基,炭素数1~4のアルコキシ基,シアノ基又はニトロ基で置換されていてもよく,該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は,-O-,-S-又は-NH-に置換されていてもよい。)
本発明のうち,いわゆる「光学フィルム」とは,光を透過でき,光学的機能を持つフィルムをいう。いわゆる「光学的機能」とは,屈折,複屈折などを意味する。光学フィルムの一種である位相差フィルムは,直線偏光を円偏光や楕円偏光に変換したり,逆に円偏光又は楕円偏光を直線偏光に変換したりするために用いられる。
本発明の光学フィルムは,上記の式(A)で表される基を持つことにより,広い波長の範囲において,同様の偏光変換を行うことができる。このほか,光学フィルムの中の式(A)で表される基の含有量を調整することで,光学フィルムの波長分散特性を調整することができる。」
(エ) 「
」(39ページ12ないし14行)
[日本語訳]
「上記の式(A)が示す基以外に,化合物(A)には更に少なくとも1つの重合性基がある。化合物(A)は好ましくは2~4個の重合性基を持ち,得られる光学膜の膜の硬度の観点から,好ましくは2個の重合性基を持つ。」
(オ) 「
」(81ページ1ないし4行)
[日本語訳]
「本発明の光学フィルムの波長分散特性は,光学フィルムにおける化合物(A)に由来する構造単位の含有量によって,任意に決定することができる。光学フィルムにおける構造単位の中で化合物(A)に由来する構造単位の含有量を増加させると,よりフラットな波長分散特性,さらには逆波長分散特性を示す。」
(カ) 「
」(83ページ8ないし20行)
[日本語訳]
「支持基材の上に,化合物(A)を含有する混合溶液を塗布し,乾燥すると,未重合フィルムが得られる。未重合フィルムがネマチック相などの液晶相を示す場合,得られる光学フィルムは,モノドメイン配向による複屈折性を有する。未重合フィルムは0~120℃程度,好ましくは,25~80℃の低温で配向することから,配向膜として上記に例示したような耐熱性に関して必ずしも十分ではない支持基材を用いることができる。また,配向後さらに30~10℃程度に冷却しても結晶化することがないため,取扱いが容易である。
混合溶液の塗布量や濃度を適宜調整することにより,所望の位相差を与えるように膜厚を調製することができる。化合物(A)の量が一定である混合溶液の場合,得られる光学フィルムの位相差値(リタデーション値,Re(λ))は,式(7)のように決定されることから,所望のRe(λ)を得るためには,膜厚dを調整すればよい。
Re(λ)=d×Δn(λ) (7)
(式中,Re(λ)は,波長λnmにおける位相差値を表し,dは膜厚を表し,Δn(λ)は波長λnmにおける複屈折率を表す。)」
(キ) 「
・・・(中略)・・・
」(85ページ22行ないし87ページ4行)
[日本語訳]
「未重合フィルムを重合し,硬化させることにより化合物(A)の配向性が固定化されたフィルム,すなわち重合フィルムとなる。したがってフィルムの平面方向に屈折率変化が小さく,フィルムの法線方向に屈折率変化が大きい重合フィルムを製造することができる。
・・・(中略)・・・
支持基材を剥離して,配向膜と光学フィルムとからなるフィルムを得ることができる。さらに,配向膜を剥離して,光学フィルムを得ることができる。
かくして得られた光学フィルムは,透明性に優れ,様々なディスプレイ用フィルムとして使用される。形成される層の厚みは,上記のとおり,得られる光学フィルムの位相差値によって,異なるものである。本発明では,上記厚みは,0.1~10μmであることが好ましく,光弾性を小さくする点で0.5~3μmであることがさらに好ましい。
配向膜を用いて複屈折性を有する場合には,位相差値としては,通常50~500nm程度であり,好ましくは100~300nmである。
このような薄膜でより広い波長域において一様の偏光変換が可能なフィルムは,すべての液晶パネルや有機ELなどのFPDにおいて,光学補償フィルムとして用いることができる。
本発明の光学フィルムを広帯域λ/4板又はλ/2板として使用するためには,化合物(A)に由来する構造単位の含有量を適宜選択する。λ/4板の場合には,得られる光学フィルムのRe(550)を113~163nm,好ましくは135~140nm,特に好ましくは約137.5nm程度に膜厚を調整すればよく,λ/2板の場合には,得られる光学フィルムのRe(550)を250~300nm,好ましくは273~277nm,特に好ましくは約275nm程度となるように,膜厚を調整すればよい。
本発明の光学フィルムをVA(Vertical Alingment)モード用光学フィルムとして使用するためには,化合物(A)に由来する構造単位の含有量を適宜,選択する。Re(550)を好ましくは40~100nm,より好ましくは60~80nm程度となるように膜厚を調整すればよい。
本発明の光学フィルムは,アンチリフレクション(AR)フィルムなどの反射防止フィルム,偏光フィルム,位相差フィルム,楕円偏光フィルム,視野角拡大フィルム又は透過型液晶ディスプレイの視野角補償用光学補償フィルムなどに利用することができる。」
(ク) 「
」(99ページ17及び18行。日本語訳省略。)
(ケ) 「
・・・(中略)・・・
・・・(中略)・・・
」(139ページ15行ないし143ページ11行)
[日本語訳]
「さらに,表3中,「%」は溶液中の含有量を示している。「L1」はBASF社から市販されているLC242を示し,「Irg907」はチバ・スペシャルティケミカルズ社製のIRGACURE907を示し,「Irg819」はチバ・スペシャルティケミカルズ社製のIRGACURE819を示す。さらに,「L2」はBYK-Chemie Japan社製のBYK361Nを示す。
[表3]
・・・(中略)・・・
実施例37
ガラス基板にポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型,和光純薬工業株式会社製)の2重量%水溶液を塗布した後,加熱乾燥後,厚さ89nmの膜を得た。得られた膜の表面にラビング処理を施した後,ラビング処理を施した面に,上記表3中に記載の組成の塗布液をスピンコート法により塗布した。80℃ホットプレート上で1分間乾燥した後,さらに210℃で1分間乾燥させた。得られた未重合フィルムを190℃に加熱しながら1200mJ/cm2の紫外線を照射して,膜厚2.43μmの光学フィルムを作製した。
・・・(中略)・・・
<光学特性の測定>
作製した光学フィルムの位相差値を,測定機(KOBRA-WR,王子計測機器社製)を用いて450nm~700nmの波長範囲で測定し,装置に付随するプログラムを用いて,波長450nmの位相差値Re(450),波長550nmの位相差値Re(550),及び650nmの位相差値Re(650)を算出した。結果を表4に示す。
[表4]
」
イ 甲1に記載された発明
前記ア(ケ)の表3から,実施例37に係る光学フィルムの製造に用いる塗布液が,化合物(A)として,前記ア(ク)に示された式(v-1)で表される化合物を30%と,光重合開始剤としてチバ・スペシャルティケミカルズ社製のIRGACURE819を3%と,レベリング剤としてBYK-Chemie Japan社製のBYK361Nを1%と,残部が溶剤であるクロロホルムとからなるものであることを把握でき,前記ア(ケ)の表4から,実施例37に係る光学フィルムのRe(550),Re(450)/Re(550),Re(650)/Re(550)及び複屈折率がそれぞれ124.7nm,0.848,1.033及び0.056であることを看取できるから,前記ア(ア)ないし(ケ)の記載から,甲1に,実施例37に対応する発明として,次の発明が記載されていると認められる。
「ガラス基板にポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型,和光純薬工業株式会社製)の2重量%水溶液を塗布した後,加熱乾燥して,得られた厚さ89nmの膜の表面にラビング処理を施した後,ラビング処理を施した面に,下記組成の塗布液をスピンコート法により塗布し,80℃ホットプレート上で1分間乾燥した後,さらに210℃で1分間乾燥して,得られた未重合フィルムを190℃に加熱しながら1200mJ/cm2の紫外線を照射することにより得られた,膜厚2.43μmの光学フィルムであって,
Re(550)が124.7nmであり,Re(450)/Re(550)が0.848であり,Re(650)/Re(550)が1.033であり,複屈折率が0.056である,
光学フィルム。
[塗布液の組成]
下記式(v-1)で表される化合物 30%
IRGACURE819 3%
(チバ・スペシャルティケミカルズ社製光重合開始剤)
BYK361N 1%
(BYK-Chemie Japan社製レベリング剤)
クロロホルム 残部
[式(v-1)]
」(以下,「甲1発明」という。)
(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証(特開2002-14234号公報。以下,「甲2」という。)は,本件特許の優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲2には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲2発明」の認定に特に関連する箇所を示す。)
(ア) 「【請求項1】 互いに相溶しうる少なくとも2種類のポリマーA及びポリマーBの混合比を調整し該混合物をフィルムに成形する位相差フィルムの製造方法であって,ポリマーAを位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)と,ポリマーBを位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)との差が0.05以上であるポリマーAとポリマーBを用いることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。(ただし,R(450)及びR(550)はそれぞれ測定光波長450nm,550nmで測定した位相差フィルムの該フィルム面内における位相差である)。
【請求項2】 ポリマーAは,該ポリマーA単独で位相差フィルムを成形したとき,下記式(1)を満足するものである,請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
R(450)/R(550)<1 (1)
(ただし,R(450)及びR(550)の定義は上記に同じである。)
【請求項3】 ポリマーBは,該ポリマーB単独で位相差フィルムを成形したとき,下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。
R(450)/R(550)≧1 (2)
(ただし,R(450)及びR(550)の定義は上記に同じである。)
【請求項4】 ポリマーA及びBが芳香族ポリエステルポリマーであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。」
(イ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,位相差フィルムの製造方法に関する。さらに詳しくは,位相差が所望の波長分散特性(波長依存性)をもつような位相差フィルムを生産性よく製造する方法に関する。かかる位相差フィルムは,例えば液晶表示装置,記録装置に用いられる光ピックアップ,光記録媒体等の光学装置,発光素子,光演算素子,光通信素子,タッチパネルに好適に用いられる。
【0002】
【従来の技術】一般に,位相差フィルムは,液晶表示装置等の表示装置に用いられ,色補償,視野角拡大,反射防止等の機能を有している。この位相差フィルムの材料としては,一般にビスフェノールAを重縮合したポリカーボネートや,ポリエーテルサルフォン,ポリサルフォン,ポリビニールアルコール,ノルボルネン樹脂の熱可塑性ポリマーが用いられている。
・・・(中略)・・・
【0016】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主たる目的は,位相差の波長分散特性を容易に,かつ高度に制御する位相差フィルムの製造方法を提供することにある。
・・・(中略)・・・
【0019】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために鋭意検討したところ,少なくとも2種類の位相差波長分散の大きく異なる相溶性の高分子を混合し,その混合比率を制御することにより,位相差波長分散を制御し,生産性良く,所望の位相差波長分散特性を有する位相差フィルムを製造する方法を見出した。
【0020】すなわち本発明は,次の通りのものである。
1.互いに相溶しうる少なくとも2種類のポリマーA及びポリマーBの混合比を調整し該混合物をフィルムに成形する位相差フィルムの製造方法であって,ポリマーAを位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)と,ポリマーBを位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)との差が0.05以上であるポリマーAとポリマーBを用いることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。(ただし,R(450)及びR(550)はそれぞれ測定光波長450nm,550nmで測定した位相差フィルムの該フィルム面内における位相差である)。」
(ウ) 「【0024】
【発明の実施の形態】本発明においては,互いに相溶するものであって,かつ位相差フィルムとしたときの位相差波長分散が異なる少なくとも2種類のポリマーA及びポリマーBを混合することを特徴とする位相差フィルムの製造方法に関し,ポリマーA及びBをそれぞれ位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)の差が0.05以上であるとする。つまり,ポリマーA単独で形成された位相差フィルム(位相差フィルムA)における位相差の波長分散と,ポリマーB単独で形成された位相差フィルム(位相差フィルムB)における位相差の波長分散特性は異なり,位相差フィルムAのR(450)/R(550)の値と位相差フィルムBのR(450)/R(550)の値との差が少なくとも0.05である。例えば,2種類のポリマーを混合する場合,一方のポリマーからなる位相差フィルムと他方のポリマーからなる位相差フィルムの位相差波長分散が異なっており,実施例でも詳細述べるが,例えば,両者の光学異方性が同じで前者のR(450)/R(550)が1.05で後者がR(450)/R(550)が0.25であった場合,それらを混ぜることによりその混合比に応じて0.25~1.05まで任意の位相差波長分散を有する位相差フィルムを得ることが出来る。通常の位相差フィルムを製造する方法ではこのような方法は取られておらず,任意の位相差波長分散を得ようとした場合には,先述したように異なる位相差波長分散を有するポリマーを多数保有するという極めて生産性の悪い方法を取らざるを得ない。しかし,本発明の方法によれば,例えばわずか2種類のポリマーを保有し製造工程でそれらの量を制御して混合する工程を有するだけで多数の位相差波長分散を有する位相差フィルムを得ることが出来るのである。上記具体例は2種類のポリマーを混合させる例であったが,2種類以上であっても良い。
・・・(中略)・・・
【0032】ポリマーAとBは光学異方性が異なっていても(つまり正と負の組み合わせ)よく,同じであってもよい。この場合は,例えば,両者が正,または両者負である場合を指す。
・・・(中略)・・・
【0039】特に,ポリマーA,Bの光学異方性が同じ場合には,両者の位相差波長分散R(450)/R(550)のそれぞれの差は0.1以上が好ましく0.15以上であることがより好ましく,0.2以上であることがさらにより好ましい。先に述べたように,これはこの差が大きいほど位相差フィルムの位相差波長分散を制御する範囲が広がることを意味しているからである。ポリマーAとBの光学異方性が正と負の場合には符号が異なるのでこの限りではない。正と負の場合には,両者の位相差波長分散の差を広く取らなくても,両者の混合比により広い範囲の波長分散を有する位相差フィルムを製造することが可能である。
・・・(中略)・・・
【0042】本発明に用いられる具体的なポリマーとしては,お互いに相溶するものであって,上記条件を満足していれば特に限定はないが,耐熱性に優れ,光学性能が良好で,フィルム形成能を有し,溶融押し出し法や溶液キャスト法により製膜ができる熱可塑性ポリマーから選択するのが好ましい。かかる熱可塑性ポリマーとしては,例えば芳香族ポリエステルポリマー,ポリオレフィン,ポリエーテル,ポリスルホン,ポリエーテルスルホンを挙げることができる。この中で,ポリアリレート,ポリエステル,ポリカーボネート等の芳香族ポリエステルポリマーが耐熱性,フィルム形成性,光学特性が良好である。中でもポリカーボネートは透明性,耐熱性,製膜性,生産性の点でより優れており好ましい。ポリマーA,Bは,上記熱可塑性ポリマーの中で同種のポリマーの組み合わせが,特に相溶性に優れるので好都合である。」
(エ) 「【0096】
【化9】
【0097】[合成例1,2(ポリマーボネート(注:誤記であり,正しくは「ポリカーボネート」と認められる。)共重合体の製造)]攪拌機,温度計及び還流冷却器を備えた反応槽に,水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込んだ。これに上記構造を有するモノマー[A]と[B]を表1に示す所定のモル比で溶解させ,少量のハイドロサルファイトを加え反応液とした。次にこれにメチレンクロライドを加えた。反応液の温度は20℃であった。この中にホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに,p-tert-ブチルフェノールを加えて乳化させた後,トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させた。得られた反応液から有機相を分取した。分取液より塩化メチレンを蒸発させることによりポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。
【0098】得られた2つの共重合体(共重合体1,2)をそれぞれメチレンクロライドに溶解させ,固形分濃度20重量%の溶液組成物を調整した。この溶液組成物をステンレス上に流延し,ついで15℃から除々に昇温させながら加熱し,ステンレスから剥がしさらに乾燥させてキャストフィルムを作製した。このとき得られたフィルムは,R値が10nm以下であった。また該フィルムはメチレンクロライドを0.9重量%含んでいた。
【0099】つづいて,このフィルムを,コポリマーのガラス転移点温度付近で1.3倍に一軸延伸して位相差フィルムを得た。これらの位相差フィルムの特性を表1にまとめた。
【0100】
【表1】
【0101】[実施例1~5(位相差フィルムの製造)]上記合成例で製造したコポリマー1,2を,表2に記載の所定の混合比率(重量部)でメチレンクロライドに溶解させ,固形分濃度20重量%の溶液組成物を調製した。この溶液組成物をステンレス上に流延し,15℃から除々に昇温させながら加熱し,ステンレスから剥がしさらに乾燥させてキャストフィルムを作製した。このとき得られたフィルムは,R値が10nm以下であった。また該フィルムはメチレンクロライドを1重量%含んでいた。
【0102】つづいて,このフィルムをコポリマーのガラス転移点温度付近で1.8倍に一軸延伸することにより位相差フィルム1~5を得た。これらの位相差フィルムの特性を表2にまとめた。表2中のB含有比率は,コポリマー1と2の混合物全体に占めるモノマー単位Bの割合(モル%)である。
【0103】
【表2】
」
イ 甲2に記載された発明
前記ア(ア)ないし(エ)の記載から,甲2に,実施例2に対応する発明として,次の発明が記載されていると認められる。
「ポリカーボネート共重合体1とポリカーボネート共重合体2とを78.3:21.7という混合比率(重量部)でメチレンクロライドに溶解させることで,固形分濃度20重量%の溶液組成物を調製し,当該溶液組成物をステンレス上に流延し,15℃から除々に昇温させながら加熱し,ステンレスから剥がしさらに乾燥させてキャストフィルムを作製し,当該キャストフィルムをガラス転移点温度付近で1.8倍に一軸延伸することにより得られた位相差フィルム2であって,
R(450)が308.6nmであり,R(550)が321.5nmであり,R(650)が324.7nmであり,R(450)/R(550)は0.96であり,R(650)/R(550)は1.01であり,光学異方性が正であり,
前記ポリカーボネート共重合体1は,攪拌機,温度計及び還流冷却器を備えた反応槽に,水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込み,これに下記構造を有するモノマーAとモノマーBを30:70というモル比で溶解させ,少量のハイドロサルファイトを加え反応液とし,次にこれにメチレンクロライドを加え,この中にホスゲンを約60分かけて吹き込み,さらに,p-tert-ブチルフェノールを加えて乳化させた後,トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させ,得られた反応液から有機相を分取し,分取液より塩化メチレンを蒸発させることにより得られる共重合体であり,当該ポリカーボネート共重合体1からなるキャストフィルムを1.3倍に一軸延伸することにより得られる位相差フィルムのR(450)は12.5nmであり,R(550)は50.1nmであり,R(650)は63.1nmであり,R(450)/R(550)は0.25であり,R(650)/R(550)は1.26であり,光学異方性が正であり,
前記ポリカーボネート共重合体2は,前記モノマーAと前記モノマーBのモル比を70:30に変更する以外は前記ポリカーボネート共重合体1と同様にして得られる共重合体であり,当該ポリカーボネート共重合体2からなる1.3倍に一軸延伸することにより得られた位相差フィルムのR(450)は377.7nmであり,R(550)は356.3nmであり,R(650)は342.0nmであり,R(450)/R(550)は1.06であり,R(650)/R(550)は0.96であり,光学異方性が正である,
位相差フィルム2。
[モノマーA及びモノマーBの構造]
」(以下,「甲2発明」という。)
4 取消理由1についての判断
取消理由1の対象とされたのは,本件訂正前の請求項1ないし4,7ないし9,12,13に係る発明であるところ(特許異議申立人が,取消理由1に対応する理由(特許異議申立書11ページ4行ないし14ページ4行。)で特許異議の申し立てをした請求項も同じである。),請求項2,3,7及び8については,本件訂正により削除されたから,取消理由1の対象となる本件訂正後の請求項は,請求項1,4,9,12及び13である。
そこで,本件特許発明1,4,9,12及び13について,取消理由1の成否を検討する。
(1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 甲1発明は,Re(550)が124.7nmである光学フィルムであるところ,甲1の「本発明の光学フィルムを広帯域λ/4板・・・(中略)・・・として使用するためには,化合物(A)に由来する構造単位の含有量を適宜選択する。λ/4板の場合には,得られる光学フィルムのRe(550)を113~163nm・・・(中略)・・・程度に膜厚を調整すればよく,」(86ページ19ないし23行。前記3(1)ア(キ)を参照。)という記載から,甲1発明が位相差フィルムの一種であるλ/4板として使用するよう設計されたものであることは明らかであるから,甲1発明を「位相差フィルム」ということができる。
また,甲1発明は,ラビング処理を施した厚さ89nmの膜すなわち配向膜によって,「式(v-1)で表される化合物」を配向させ,紫外線の照射によって当該「式(v-1)で表される化合物」を重合させたものであるところ,「式(v-1)で表される化合物」を重合させたものはセルロース系高分子には該当しないから,甲1発明を「高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルム」ということができる。
さらに,甲1発明において,支持基材であるガラス基板と,配向膜である厚さ89nmの膜とを剥離して,光学フィルム単独のフィルムとすることは,甲1の「支持基材を剥離して,・・・(中略)・・・さらに,配向膜を剥離して,光学フィルムを得ることができる。」(86ページ10及び11行。前記3(1)ア(キ)を参照。)という記載からみて,甲1に記載されたも同然の事項であるから,甲1発明を「一枚」の光学フィルムということができる。
以上によれば,甲1発明は,「一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルム」であるという本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。
(イ) 甲1発明は,「式(v-1)で表される化合物」を重合させたもの(以下,「液晶ポリマー」という。)からなるところ,当該「液晶ポリマー」が本件特許発明1の「高分子」に,「式(v-1)で表される化合物」が本件特許発明1の「第1モノマー単位」及び「第2モノマー単位」にそれぞれ相当する。
そして,「式(v-1)で表される化合物」の固有複屈折がゼロでないこと,すなわち,正又は負の値を有することは,式(v-1)が示す構造が棒状液晶化合物であることから,自明である。
したがって,甲1発明の「液晶ポリマー」は,「正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第1モノマー単位と記す。)と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有」するという本件特許発明1の「高分子」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。
(ウ) 甲1発明は,「式(v-1)で表される化合物」単独の重合体すなわちホモポリマーからなるところ,甲1発明のRe(450)/Re(550)が0.848であるから,「式(v-1)で表される化合物」のホモポリマーのRe(450)/Re(550)は0.848であり,本件特許発明1の「R1450/R1550 < 1」なる式(1)を満足する。
したがって,甲1発明の「式(v-1)で表される化合物」は,「ホモポリマーが式(1)を満足」するという本件特許発明1の「第1モノマー単位」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)に照らせば,本件特許発明1と甲1発明は,
「一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルムであって,前記高分子が正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第1モノマー単位と記す。)と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有し,第1モノマー単位のホモポリマーが下記式(1)を満足することを特徴とする位相差フィルム。
R1450/R1550 < 1 (1)
(式中,R1450は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R1550は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R1450とR1550は,同一サンプルを測定したものである。)」
である点で一致し,次の点で相違する。
相違点1:
本件特許発明1の「高分子」を構成する「第1モノマー単位」及び「第2モノマー単位」は,それらのホモポリマーが,「R1450/R1550 < R2450/R2550」なる「式(3)」と,「|Δn10|> |Δn20|」なる「式(2-1)」とを満足するような関係にあるのに対して,
甲1発明の「液晶ポリマー」は「式(v-1)で表される化合物」のホモポリマーであることから,甲1発明における「第1モノマー単位」及び「第2モノマー単位」は,ホモポリマーが「R1450/R1550 = R2450/R2550」及び「|Δn10|= |Δn20|」の関係にあり,「式(3)」及び「式(2-1)」のいずれも満足しない点。
イ 判断
(ア)新規性欠如について
本件特許発明1と甲1発明の間に,相違点1がある以上,本件特許発明1は甲1発明と同一発明とはいえない。
(イ)進歩性欠如について
甲1には,甲1発明の材質として,各ホモポリマーが「式(3)」及び「式(2-1)」を満足する関係にある「第1のモノマー単位」及び「第2のモノマー単位」を含む高分子を用いること(相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項)については,記載も示唆もない。
したがって,本件特許発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件特許発明4,9,12及び13について
本件特許発明4,9,12及び13と甲1発明とを対比すると,少なくとも,前記(1)ア(エ)で認定した相違点1で相違する。
したがって,前記(1)イ(ア)及び(イ)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明4,9,12及び13は,いずれも,甲1発明と同一発明ではなく,かつ,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)小括
前記(1)及び(2)のとおりであるから,取消理由1によって,本件特許の請求項1,4,9,12及び13に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由2についての判断
取消理由2の対象とされたのは,本件訂正前の請求項1ないし4,7ないし13に係る発明であるところ(特許異議申立人が,取消理由2に対応する理由(特許異議申立書14ページ5行ないし17ページ4行。)で特許異議の申し立てをした請求項も同じである。),請求項2,3,7及び8については,本件訂正により削除されたから,取消理由2の対象となる本件訂正後の請求項は,請求項1,4,9ないし13である。
そこで,本件特許発明1,4,9ないし13について,取消理由2の成否を検討する。
(1)本件特許発明1について
ア 甲2発明の「モノマーA」(いわゆる「ビスフェノールA」)は,当該モノマーAからなるホモポリマーが正の屈折率異方性を有し,R450/R550が1.08となるものであり,「モノマーB」(いわゆる「ビスクレゾールフルオレン」)は,当該モノマーBからなるホモポリマーが負の屈折率異方性を有し,R450/R550が1.14となるものであるところ(各モノマーの屈折率異方性及びR450/R550については,本件特許の訂正明細書の【0005】に「特許文献4」として記載された国際公開第00/26705号の明細書38ページの〔A〕の構造式,39ページの〔G〕の構造式,及び40ページの表3を参照。),本件特許の訂正明細書の「上記説明は二成分に関するが,三成分以上でも上記の考え方は成立する。例えば,第1モノマー単位の規定に該当する成分が複数ある場合には,複数成分の複屈折率値及び複屈折分散値等を体積分率等で補正して複数成分を一成分と見なし,第2モノマー単位も同様に補正して一成分と見なして最終的に第1モノマー単位と第2モノマー単位との組み合わせに変換し,上記式(a)以下の考察の考え方を適用することが可能である。・・・(中略)・・・共重合体どうしの高分子ブレンドでも,上述した考察の考え方を同様に適用することができる。即ち,この場合には,高分子ブレンドの成分高分子を構成するモノマー単位に分けて,その高分子ブレンドをそれぞれのモノマー単位からなる単独重合体の集合体と見なし,この集合体を第1モノマーの規定を満足する単独重合体の群からなる成分Aと負の異方性を有する単独重合体の群からなる成分Bとの組合せと見なして,上記の考察を適用すればよい。」(【0044】,【0045】)との記載に照らせば,甲2発明の「モノマーA」及び「モノマーB」のうちの一方が,本件特許発明1の「第1のモノマー単位」に相当し,他方が本件特許発明1の「第2のモノマー単位」に相当するから,本件特許発明1と甲2発明とは,次の点で相違し,その余の点で一致する。
相違点2:
本件特許発明1の「第1モノマー単位」及び「第2モノマー単位」は,同じ符号の固有複屈折を有するのに対して,
甲2発明の「モノマーA」及び「モノマーB」は,異なる符号の固有複屈折を有する点。
相違点3:
本件特許発明1の「第1モノマー単位」は,そのホモポリマーが「R1450/R1550 < 1」なる「式(1)」を満足するのに対して,
甲2発明の「モノマーA」及び「モノマーB」は,それらのホモポリマーの「R1450/R1550」がそれぞれ1.08及び1.14であって,いずれも「式(1)」を満足しない点。
イ 判断
(ア)新規性欠如について
本件特許発明1と甲2発明の間に,相違点2及び相違点3がある以上,本件特許発明1は甲2発明と同一発明とはいえない。
(イ)進歩性欠如について
甲2には,甲2発明の材質として,モノマーA及びモノマーBの一方に代えて,他方のモノマーと同じ符号の固有複屈折を有するとともに,そのホモポリマーが「R1450/R1550 < 1」なる「式(1)」を満足するようなモノマーを用いること(相違点2及び相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項)については,記載も示唆もない。
したがって,本件特許発明1は,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件特許発明4,9ないし13について
本件特許発明4,9ないし13と甲2発明とを対比すると,少なくとも,前記(1)アで認定した相違点2及び3で相違する。
したがって,前記(1)イ(ア)及び(イ)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明4,9ないし13は,いずれも,甲2発明と同一発明ではなく,かつ,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)小括
前記(1)及び(2)のとおりであるから,取消理由2によって,本件特許の請求項1,4,9ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
6 取消理由3についての判断
取消理由3の対象とされたのは,本件訂正前の請求項1ないし4,7ないし9,12,13に係る発明であるところ(特許異議申立人が,取消理由2に対応する理由(特許異議申立書17ページ5行ないし18ページ23行。)で特許異議の申し立てをした請求項も同じである。),請求項2,3,7及び8については,本件訂正により削除されたから,取消理由3の対象となる本件訂正後の請求項は,請求項1,4,9,12及び13である。
そこで,本件特許発明1,4,9,12及び13について,取消理由3の成否を検討すると,甲1及び甲2のいずれにも,本件特許発明1,4,9,12及び13の発明特定事項である「正又は負の固有複屈折を有する第1モノマー単位と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するとともに第1モノマー単位とは異なる第2モノマー単位を含有し,第1モノマー単位のホモポリマーが『R1450/R1550 < 1』なる式(1)を満足する」点については記載も示唆もない。
したがって,本件特許発明1,4,9,12及び13は,いずれも,甲1発明及び甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって,取消理由3によって,本件特許の請求項1,4,9,12及び13に係る特許を取り消すことはできない。
7 取消理由4についての判断
(1)「第1モノマー単位」に関する明確性要件違反について
本件訂正によって,特許明細書中の「9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」との記載は,反応性のヒドロキシ基を有する「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」に訂正されたから,本件特許の明細書(訂正明細書)を参酌しても,本件訂正後の各請求項に記載された「モノマー単位」なる用語がモノマーとして機能し得ないものを包含しているとはいえなくなった。
したがって,この点において,本件特許の請求項1,4,6,9ないし13が,明確性要件に違反するとはいえない。
(2)請求項10ないし13に係る発明に関するサポート要件違反について
本件特許の明細書(訂正明細書)の【0056】には,「これらの中でも,炭素数4から22の環状構造,またはヘテロ原子を含む炭素数4から22の環状構造を有するものが好ましく,特には複数の環を有するものが好ましい。」との記載が存在し,当該記載中の「ヘテロ原子を含む環状構造」の好ましい炭素数についての説明は,「ヘテロ原子を含む環状構造」の炭素数が「4ないし22」という範囲内のいずれの値であっても好ましいことを説明するものと解するのが相当である。
しかるに,本件訂正後の請求項10には,「ヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造」と記載されているが,前記明細書中の記載に照らせば,当該請求項10記載の「4から20」という範囲内の炭素数はいずれの値も,好ましい炭素数として,明細書に開示されているということになる。
したがって,この点において,本件特許の請求項10ないし13が,サポート要件に違反するとはいえない。
(3)請求項10ないし13に係る発明に関する明確性要件違反について
本件訂正によって,請求項10中には「または」及び「もしくは」が混在する記載が存在しなくなったため,請求項10の記載が指し示す内容が明確に特定し難いとはいえなくなった。
したがって,この点において,本件特許の請求項10ないし13が,明確性要件に違反するとはいえない。
(4)小括
前記(1)ないし(3)のとおりであるから,取消理由4によって,本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
8 特許異議申立人の主張について
特許異議申立書に記載された特許異議申立理由のうち,取消理由通知で取り上げなかった理由はない。
なお,特許異議申立人は,平成28年12月21日に提出した意見書において,本件訂正後の請求項1には,式(3)及び式(2-1)についての要件が記載されており,当該要件は,第1モノマー単位と第2モノマー単位とが異なるものである必要があるにもかかわらず,「第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。」とも記載されていることから,明確性要件に違反する旨主張する。
しかしながら,本件訂正後の請求項1において,たとえ,第2モノマー単位について「第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。」と規定されているとしても,式(3)及び式(2-1)を満足するとの要件によって,第2モノマー単位が第1モノマー単位と同一のものは,本件特許発明1の技術的範囲から除外されていることは明らかなのであって,この点に関して本件特許発明1が不明確であるとはいえない。
このような事情は,本件訂正後の請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項4,6,9ないし13についても同様である。
したがって,当該特許異議申立人の主張は採用できない。
第4 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2,3,5,7及び8に係る特許は,訂正により削除されたため,本件特許の請求項2,3,5,7及び8に対して,特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-700566