2021-701223
インバータ装置
- 審判番号
- 2021-701223
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-122107外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6894181
- 請求日
- 2021年12月21日
- 審決日
- 2022年12月09日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイキン工業株式会社
- 【権利者代理人】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
- 【異議申立人】角田 朗
- 分類
- P1651.121-YAA(H02M) / P1651.536-YAA(H02M) / P1651.537-YAA(H02M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
1 手続の経緯
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特許第6894181号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成27年6月17日に出願され、令和3年6月7日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年12月21日に特許異議申立人角田 朗(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年2月25日付けで取消理由を通知し、特許権者は、令和4年5月16日に意見書を提出した。その後、当審は、令和4年6月29日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である令和4年9月2日に意見書を提出するとともに訂正の請求を行った。
なお、当審は、特許法第120条の5第5項の規定に基づき、申立人に対して相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人は、指定期間内に意見書を提出しなかった。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
令和4年9月2日の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内である、」
と記載されているのを、
「 前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内であって、前記シャント抵抗(31)の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内である、」
に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項について
訂正事項1は、訂正前のインバータ装置に設けられているシャント抵抗(31)について、その両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0057】(4-1)検証実験1図3は、検証実験1用の導電パターン50の概念図である。図3において、検証実験1用のプリント基板40には、互いに絶縁された第1導電パターン部51と第2導電パターン部52とがプリントされている。第2導電パターン部52は形状及び面積ともに一定の長方形に設定されている。【0058】続きを表示(全28行)第1導電パターン部51は、一定寸法の長辺L及び一定寸法の短辺d1から成る長方形の第1右側膨出領域511と、一定寸法の長辺L及び可変寸法の短辺d2から成る長方形の第1左側膨出領域512とを有している。【0059】第1左側膨出領域512の可変寸法の短辺d2は、0→[0.2×d1]→[0.4×d1]→[0.6×d1]→[0.8×d1]→[d1]→[1.2×d1]→[1.4×d1]→[1.6×d1]→[1.8×d1]→[2×d1]のように変更することができる。【0060】(4-2)検証実験2図4は、検証実験2用の導電パターン50の概念図である。図4において、検証実験2用のプリント基板40には、互いに絶縁された第1導電パターン部51と第2導電パターン部52とがプリントされている。第2導電パターン部52は形状及び面積ともに一定の長方形に設定されている。【0061】第1導電パターン部51は、一定寸法の下底Lb、一定寸法の上底La及び一定寸法の高さd1から成る台形状の第1右側膨出領域511と、一定寸法の下底Lb、一定寸法の上底La及び可変寸法の高さd2から成る台形状の第1左側膨出領域512とを有している。【0062】第1左側膨出領域512の可変寸法の高さd2は、第1検証実験と同様に、0→[0.2×d1]→[0.4×d1]→[0.6×d1]→[0.8×d1]→[d1]→[1.2×d1]→[1.4×d1]→[1.6×d1]→[1.8×d1]→[2×d1]のように変更することができる。【0063】(4-3)検証実験3図5は、検証実験3用の導電パターン50の概念図である。図5において、検証実験3用のプリント基板40には、互いに絶縁された第1導電パターン部51と第2導電パターン部52とがプリントされている。第2導電パターン部52は形状及び面積ともに一定の長方形に設定されている。【0064】第1導電パターン部51は、一定寸法の下底Lb、一定寸法の上底[Lb-La]及び一定寸法の高さd1から成る台形状の第1右側膨出領域511と、一定寸法の下底Lb、一定寸法の上底[Lb-La]及び可変寸法の高さd2から成る台形状の第1左側膨出領域512を有している。【0065】第1左側膨出領域512の可変寸法の高さd2は、第1検証実験及び第2検証実験と同様に、0→[0.2×d1]→[0.4×d1]→[0.6×d1]→[0.8×d1]→[d1]→[1.2×d1]→[1.4×d1]→[1.6×d1]→[1.8×d1]→[2×d1]のように変更することができる。【0066】(4-4)実験結果図6は、図3、図4、及び図5について寸法d2毎に、第1端子41と第2端子42と間に微小電流を流したときのシャント抵抗31の両端に発生する電圧の変動率を表わしたグラフである。図6において、横軸は寸法d2、縦軸はシャント抵抗31両端の電圧変動率を示している。ここで、電圧変動率は、d1=d2のときの電圧値を基準値とし、寸法d2毎にn回測定し、n個の測定値について基準値からの増減値を百分率換算した後、それらから二乗平均誤差として算出されたものである。したがって、d1=d2のとき電圧変動率は0である。【0067】図6に示すように、第1左側膨出領域512のd2が増加して、第1右側膨出領域511のd1に近づくほどシャント抵抗31両端の電圧変動率は低下し、他方、d2>d1の範囲では電圧変動率は0.5%を少し上回る値に漸近する傾向を示している。【0068】実使用上の電圧変動率の許容範囲は0.5%以内であるので、それを満たすのはd2=[0.6×d1]~[1.6×d1]の範囲である。」
上記記載によれば、長方形の第1左側膨出領域512の短辺d2の値を、長方形の第1右側膨出領域511の短辺d1に対して、[0.6×d1]~[1.6×d1]の範囲とすることによって、電圧変動率が0.5%以内となる実験結果(検証実験1)、及び、台形の第1左側膨出領域512の高さd2の値を、台形の第1右側膨出領域511の高さd1に対して、[0.6×d1]~[1.6×d1]の範囲とすることによって、電圧変動率が0.5%以内となる実験結果(検証実験2、3)が示されており、ここで、d1は、第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に比例する値であり、また、d2は、第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)に比例する値であるから、この実験結果に基づけば、「前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内であって、前記シャント抵抗(31)の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内である」発明が記載されているといえる。したがって、「前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内であって、前記シャント抵抗(31)の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内である」ことは、本件特許明細書に記載されたものであるから、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。
そして、訂正事項1は、上記のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正前の請求項2~6は、請求項1を直接または間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~6〕に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
3 訂正後の本件発明
上記2で検討したとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」~「本件発明6」などといい、まとめて「本件発明」という。なお、下線は、訂正箇所について特許権者が付したものである。)。
「【請求項1】整流部(21)から供給される直流電圧をインバータ(25)で交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置であって、前記整流部(21)と前記インバータ(25)とを接続する直流リンク(801,802)に設けられるシャント抵抗(31)と、前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)と、続きを表示(全41行)前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)と、前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51)、及び前記シャント抵抗(31)と前記第2端子(42)とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)と、を備え、前記第1端子(41)から前記シャント抵抗(31)を臨む位置から視た前記第1導電パターン部(51)は、前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第1端子(41)の右側端及び左側端とを繋いだ第1中央領域(510)と、前記第1中央領域(510)よりも右側方にはみ出る第1右側膨出領域(511)と、前記第1中央領域(510)よりも左側方にはみ出る第1左側膨出領域(512)と、を含み、前記第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内であって、前記シャント抵抗(31)の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内である、インバータ装置(20)。【請求項2】前記シャント抵抗(31)から前記第2端子(42)を臨む位置から視た前記第2導電パターン部(52)は、前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第2端子(42)の右側端及び左側端とを繋いだ第2中央領域(520)と、前記第2中央領域(520)よりも右側方にはみ出る第2右側膨出領域(521)と、前記第2中央領域(520)よりも左側方にはみ出る第2左側膨出領域(522)と、を含み、前記第2右側膨出領域(521)の面積(SB1)に対する前記第2左側膨出領域(522)の面積(SB2)の比率(SB2/SB1)が0.6~1.6の範囲内である、請求項1に記載のインバータ装置(20)。【請求項3】前記第1導電パターン部(51)及び/又は前記第2導電パターン部(52)には、前記シャント抵抗(31)へ流れる電流及び/又は前記シャント抵抗(31)から流れる電流の方向を矯正する電流矯正手段(53)が設けられている、請求項1又は請求項2に記載のインバータ装置(20)。【請求項4】前記第1導電パターン部(51)に、前記シャント抵抗(31)へ流れる電流の方向を矯正する電流矯正手段(53)が設けられており、前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)と前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)とが異なり、且つ、前記シャント抵抗(31)の右側端を基準とした前記第1右側膨出領域(511)の膨出距離(d1)と、前記シャント抵抗(31)の左側端を基準とした前記第1左側膨出領域(512)の膨出距離(d2)とが異なるとき、前記電流矯正手段(53)は、前記第1右側膨出領域(511)及び前記第1左側膨出領域(512)のうち前記面積が大きく且つ前記膨出距離の大きい側に設けられる、請求項1に記載のインバータ装置(20)。【請求項5】前記第2導電パターン部(52)に前記シャント抵抗(31)から流れる電流の方向を矯正する電流矯正手段(53)が設けられており、前記第2右側膨出領域(521)の面積(SB1)と前記第2左側膨出領域(522)の面積(SB2)とが異なり、且つ、前記シャント抵抗(31)の右側端を基準とした前記第2右側膨出領域(521)の膨出距離と、前記シャント抵抗(31)の左側端を基準とした前記第2左側膨出領域(522)の膨出距離とが異なるとき、前記電流矯正手段(53)は、前記第2右側膨出領域(521)及び前記第2左側膨出領域(522)のうち前記面積が大きく且つ前記膨出距離の大きい側に設けられる、請求項2に記載のインバータ装置(20)。【請求項6】前記シャント抵抗(31)は、並列に接続された複数の抵抗群(31a,31b)である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインバータ装置。」
4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和4年2月25日付け、及び令和4年6月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア (明確性)請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
イ (実施可能要件)請求項1~6に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
ウ (サポート要件)請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
ア 特許法第36条第6項第2号について
(ア)当審の通知した取消理由
当審は、令和4年2月25日付けの取消理由通知において、以下の取消理由を通知した。
●理由1(明確性)について
本件特許の請求項1には、「シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)」、「シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)」と記載されているが、一般的に「端子」とは丸端子又はタブ端子といったネジ又はオスメス端子による結合部を有するものを意味するのであって、半導体素子のピン足が挿入される穴は、一般的には「端子」とは呼ばない。
本件特許明細書には、例えば図2において、白丸が3つ記載されている領域を「第1端子41」、「第2端子42」と呼称しているが、その構造は明確ではなく、上記した一般的な「端子」のことであるのか否かが明確ではない。
したがって、本件特許の請求項1における「第1端子」及び「第2端子」がどのようなものを意味するのかが不明確であり、本件特許の請求項1の記載は不明確である。
また、請求項1の従属項である請求項2-6は、請求項1を引用しているので、上記した請求項1と同様の理由で不明確である。
(イ)特許権者の意見書における釈明
特許権者は、令和4年5月16日に提出した意見書において、以下のとおり主張している。
「(3-1)理由1について○理由1を有しない根拠取消理由通知では、本件特許の請求項1における「第1端子」及び「第2端子」の構造が明確でなく、どのようなものを意味するのか不明確であり、本件特許の請求項1の記載は不明確であると判断されています。しかしながら、本件特許の請求項1における「第1端子」及び「第2端子」がどのようなものを意味するのか明確であることは、以下の証拠により明らかです。続きを表示(全20行)○証拠日本大百科全書の「端子」の解説によれば、「一般に電気回路において入力または出力を構成する点をいう。」と記載されています。本願請求項1では、第1端子については「前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)と、」のように記載され、第2端子については「前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)と、」のように記載されています。その記載から、第1端子(41)および第2端子(42)が、第1端子(41)からシャント抵抗(31)経て第2端子(42)に到る電気回路の入力または出力を構成しており、当該日本大百科全書に解説されている「端子」の範囲内です。また、第1端子41は、シャント抵抗(31)へ電流を流すものであれば、その構造は当業者が実使用に応じて合理的に決定するものです。同様に、第2端子42は、シャント抵抗(31)からの電流が流れものであれば、その構造は当業者が実使用に応じて合理的に決定するものです。さらに、図2の第1端子41および第2端子42の具体的構造が記載されていなくても、当業者は、電気回路において入力または出力を構成する点であることを理解することができます。さらなる具体的証拠として、乙第1号証(特開2014-056951の段落【0003】には、「例えばモータからコンデンサに流れる電流値をシャント抵抗(12)で検出する場合などでは、モータ駆動用パワーモジュールやコンデンサのような部品のレイアウトなどの制約から、図13に示すように、例えばモータ駆動用パワーモジュールに接続されるパターン(52)内の電流発生箇所(52a)と例えばコンデンサに接続されるパターン(53)内の電流流入箇所(53a)とがシャント抵抗(12)を挟んで斜め方向に配置される」という記載があり、さらに同段落【0033】には、「基板(14)の右端部側の主回路パターン(16)は、シャント抵抗(12)よりも広い面積に形成されると共に、三相モータ(4)のU相、V相、W相に接続されて三相モータ(4)のU相電流(iu)、V相電流(iv)、W相電流(iw)が流れ込む箇所、換言すれば主回路パターン(16)上のU相電流発生箇所(16u)、V相電流発生箇所(16v)、W相電流発生箇所(16w)が形成され、これらの電流発生箇所は主回路パターン(16)の図中右端部上側に偏った配置となっている。一方、基板(14)の左端部側の主回路パターン(17)も、シャント抵抗(12)よりも広い面積に形成されると共に、電解コンデンサ(C)に電流が流入する電流流入箇所(Cdcn)が形成され、この電流発生箇所(16u)は主回路パターン(17)の図中左端部下側に偏った配置となっている。この電流発生側の主回路パターン(16)及び電流流入側の主回路パターン(17)において、そのシャント抵抗(12)に対する位置関係や電流発生箇所(16u)~(16w)、電流流入箇所(Cdcn)の位置関係は、何れも三相モータ(4)駆動用のパワーモジュールや電解コンデンサ(C)のレイアウトなどの制約から制限されるものである。」と記載されています。(下線は出願人にて付したものです。)つまり、主回路パターン(16)上の電流発生箇所(16u,16v,16w)にモータ駆動用のパワーモジュールのリードが接続されることは明らかです。また、主回路パターン(17)上の電流流入箇所(Cdcn)に電解コンデンサのリードが接続されることは明らかです。また、本件特許の段落【0034】には、「シャント抵抗31は、・・・コンデンサ22aの負側出力端子側に接続されている。」と記載されています。それゆえ、本件特許において、図2の第1端子41にはモータ駆動用のパワーモジュールのリードが接続され、図2の第2端子42にはコンデンサのリードが接続され、電流が流れることは当業者にとって常識の範囲です。したがって、請求項1に係る発明は明確です。以上のとおり、本件特許の請求項1における「第1端子」及び「第2端子」がどのようなものを意味するのか明確であり、本件特許の請求項1の記載は明確です。また、請求項1の従属項である請求項2-6は、上記の請求項1を引用していますので、上記した請求項1と同様に明確です。」(意見書6頁1行~8頁4行)
(ウ)判断
上記釈明により、本件発明1の「前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)」とは、電気回路において、「前記シャント抵抗(31)へ電流を流す」点であって、具体的には、プリント基板(40)に形成され、モータ駆動用のパワーモジュールのリードが接続される点のことであることが明確となり、また、本件発明1の「前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)」とは、電気回路において、「前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる」点であって、具体的には、プリント基板(40)に形成され、コンデンサのリードが接続される点のことであることが明確となった。
したがって、本件発明1は明確であり、本件発明1を直接または間接に引用する本件発明2~6も明確であるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。
イ 特許法第36条第4項第1号について
(ア)当審の通知した取消理由
当審は、令和4年2月25日付けの取消理由通知において、以下の取消理由を通知した。
●理由2(実施可能要件)について
本件特許明細書には、図3~図5の3種類の導電パターンを用いた検証実験により図6のような実験結果が得られることが記載されている。
上記検証実験で使用する図3~図5の導電パターンには3つの端子を有する第1端子41からシャント抵抗31を介して3つの端子を有する第2端子42に向けて電流が流れている。
これらの端子が実際の回路上でどのような接続をされるかは本件特許明細書に記載がなく不明である・・・
・・・本件特許明細書の検証実験の結果は、第1右側膨出領域と第1左側膨出領域の面積比だけでなく、その他の様々な条件によって変化するものと認められるところ、そうした条件について本願明細書には何も説明されていないことから、本件特許明細書の検証実験は、「前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内である」ことを特定するだけで所望の効果が得られることについて、十分な検証がなされているとはいえない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内である」ことを特定するだけで所望の効果を得ることができる発明(請求項1に係る発明)について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
また、請求項1の従属項である請求項2-6に記載された内容を加味しても、上記した理由が解消されるものではない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2-6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(イ)特許権者の意見書における釈明
特許権者は、令和4年5月16日に提出した意見書において、以下のとおり主張している。
「(3-2)理由2について○理由2を有しない根拠(i)取消理由通知では、第1端子41および第2端子42が実際の回路上でどのような接続をされるかは本件特許明細書に記載がなく不明であり、請求項1に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないと判断されています。しかしながら、第1端子41および第2端子42が実際の回路上でどのような接続をされるかは、以下の証拠により明らかです。続きを表示(全28行)○証拠請求項1には、「前記整流部(21)と前記インバータ(25)とを接続する直流リンク(801,802)に設けられるシャント抵抗(31)と、」のように記載されており、また、本願特許の図1を見ても、シャント抵抗(31)が整流部(21)とインバータ(25)とを接続する直流リンク(801,802)に接続されていることは明白です。そして、明細書の段落【0034】には、「電流検出部24は、シャント抵抗31の両端の電圧を増幅させるオペアンプを用いた増幅回路で構成されている。シャント抵抗31は、並列接続された2つの抵抗31a,31bがコンデンサ22a及びインバータ25の間であって且つコンデンサ22aの負側出力端子側に接続されている。電流検出部24は、モータ71の起動後、モータ71に流れるモータ電流Imを検出する。」と記載されています。したがって、当業者ならば、シャント抵抗31がコンデンサ22a及びインバータ25の間でモータ電流Imを検出するために、第1端子41と第2端子42をコンデンサ22a及びインバータ25の間に接続することは明らかです。したがって、第1端子41および第2端子42が実際の回路上でどのように接続されるかは本件特許明細書の段落【0034】および図1の記載事項により十分に明確です。(ii)取消理由通知では、・端子の位置を入れ替えると電流経路が変化し、導電パターンの電流分布が変化する、・端子の数が変化すると電流経路が変化して電流分布が変化する、・多層基板では、各層のパターンの相互誘電や寄生キャパシタといった結合の影響を受けるため、各層のパターンの配置関係によっても検証結果が変わる、など様々な条件によって変化するものと認められるところ、そうした条件について本願明細書には何も説明されていないことから、請求項1に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないと判断されています。しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであることは、以下の証拠により明らかです。〇証拠乙第2号証は、シャント抵抗31に流れる電流波形を示す波形図です。本願では、スイッチ素子Q3a,Q3b,Q4a,Q4b,Q5a,Q5bのオン・オフが順次切り換わるので、シャント抵抗31に流れる電流波形は、波形図の上段の「全波波形」のようになります。波形図の下段には、当該「全波波形」の[ ]部分の「拡大波形」を記載しています。上記「拡大波形」は、各スイッチ素子が所定のオン・オフ状態になったときに現れ、且つ一定周期で現れます。これは、第1端子41と第2端子42とが、取消理由通知の「参考図6」のような接続がなされても同様です。例えば、現実にはありえませんが、第1端子41と第2端子42とが、運転途中に「参考図6」のような接続状態へ瞬時に切り換えられたと仮定しても、上記全波波形に変化はありません。また、取消理由通知の「参考図7」のような電流が流れたとしても、スイッチ素子のオン・オフがスイッチング周期に応じて順次切り換わるので、「参考図7」のような流れは継続されません。本願において、経済的合理性を考えれば、端子とシャント抵抗との間が中央領域だけで接続され、左右の膨出領域がない状態が理想状態です。この理想状態において、取消理由通知の参考図7のように、第1端子41の3つの端子(2)(当審注:原文の丸付きの数字は、括弧付きの数字で表記した。以下同様。)および(3)それぞれから第2端子42の端子(5)および(6)に電流がながれようとも、或いは、取消理由通知の参考図8のように第1端子41の3つの端子(2)および(3)それぞれから第2端子42の端子(6)および(5)に電流が流れようとも、この理想状態においては、シャント抵抗31に流れる電流の波形は、乙第2号証の矩形波と変わらず、仮に変わっていてもノイズ(矩形波の太線部分)に隠れて識別することができない程度です。つまり、電圧変動率の最大許容値0.5%からみれば無視することができる程度です。ところが、中央領域の左右に右膨出領域および左膨出領域を設けると、電流が右膨出領域および左膨出領域に広がってからシャント抵抗31に入り込むので、シャント抵抗31内の電流分布が乱れ、矩形波が上下に変動するので、左右の膨出領域をある程度規制しなければ、電圧変動率の最大許容値0.5%に収めることができなくなります。したがって、端子の接続形態が変わったことにより波形に変化があったとしても、波形が上下に極僅かにシフトする程度であり、それによる変動率への影響は左右の膨出領域の比率を変更されたときの変動率に比べれば無視することができる範囲です。なお、多層基板各層のパターンの相互誘導や寄生キャパシタといった結合の影響は、本願発明とは別次元の問題であり、当業者ならば、相互誘導や寄生キャパシタの問題を解決したパターン設計をした上で、「シャント抵抗31の両端に発生する電圧の変動率」に取り組むので、多層基板各層のパターンの相互誘導や寄生キャパシタといった結合の影響は無視することができます。また、端子の位置、数、および基板の各層のパターンを含めた仕様は、一旦、決定されれば運転中に変わるものではありません。さらに、端子の位置、数、および基板の各層のパターンを異ならせた仕様を想定し、その仕様に応じた電流変動が生じたとしても、本願発明は電流の変動量の範囲を規定しているのではなく、第1右側膨出領域の面積(SA1)に対する第1左側膨出領域の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)に対するシャント抵抗両端の電圧変動率で規定しております。つまり、取消理由通知の参考図7、8および9におけるシャント抵抗を流れる電流の分布が異なるためにシャント抵抗両端の電圧が異なっていると仮定しても、参考図7、8および9におけるd1=d2のときの電圧変動率は0であり、d1=d2のときの電圧値を基準とすれば、比率(SA2/SA1)に対する電圧変動率は参考図7、8および9において同じ傾向を示します。したがって、端子の位置、数、および基板の各層のパターンを含めた仕様によってシャント抵抗を流れる電流の分布が異なり、シャント抵抗両端の電圧が異なっていても、比率(SA2/SA1)に対する電圧変動率が同じ傾向を示すことは、当業者ならば容易に理解することができます。以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、且つ、当業者が請求項2-6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものです。」(意見書8頁5行~11頁18行)
(ウ)判断
a まず、「第1端子41および第2端子42が実際の回路上でどのような接続をされるかは本件特許明細書に記載がな」いという点について検討する。
上記ア(ウ)で検討したように、特許権者の意見書における釈明によれば、本件発明1の「第1端子(41)」には、モータ駆動用のパワーモジュールのリードが接続されるものである。
そうすると、モータ駆動用のパワーモジュールのU相、V相、W相のリードが、第1端子41の3つの孔のうちのいずれかの孔に接続されるものであるところ、いずれの相のリードがいずれの孔に接続されたとしても、U相、V相、W相の各スイッチ素子のオン・オフは、スイッチング周期に応じて同様に切り換わるものであるから、各相のリードに流れる電流を合わせた電流分布についてみれば、どの相のリードをどの位置の孔に接続しても差異はないものと認められる。
また、「第2端子(42)」には、コンデンサのリードが接続されるものであるから、第2端子42の3つの孔に接続される各リードは同じコンデンサのリードであり、この場合、仮に孔の数が変更されても、接続される複数のリードはいずれも同じコンデンサのリードであるから、孔の数が変わることによって電流分布が大きく変化するものとも認められない。
b また、甲第4号証ないし甲第6号証の記載から、多層基板では各層のパターンの相互誘導や寄生キャパシタといった結合の影響を受けることが想定されるところ、仮に各層のパターンの配置関係によって検証実験の結果が変わることがあったとしても、本件発明1には、多層基板であるとの限定はなく、片面基板の構成も含むものと認められるから、多層基板における結合の影響についての説明が記載されていないからといって、直ちに、本件発明1を実施することができないとはいえない。
c 上記a、bのことから、第1端子41および第2端子42が実際の回路上でどのような接続をされるかは明確であって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
d 小括
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1、および本件発明1を直接または間接に引用する本件発明2~6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものである。
ウ 特許法第36条第6項第1号について
(ア)当審の通知した取消理由
当審は、令和4年2月25日付け、及び令和4年6月29日付けの取消理由通知において、以下の取消理由を通知した。
a 令和4年2月25日付けの取消理由通知
●理由3(サポート要件)について
(1)本件特許明細書には、「図6は、図3、図4、及び図5について寸法d2毎に、第1端子41と第2端子42と間に微小電流を流したときのシャント抵抗31の両端に発生する電圧の変動率を表わしたグラフである。」(【0066】)と記載され、図3~図5の検証実験に関する実験結果として唯一図6を示しているだけで、図3~図5のそれぞれの検証実験に個別に対応する電圧変動率のグラフは示されていない。
そうすると、図6のグラフは、図3の検証実験、図4の検証実験、及び図5の検証実験のいずれにも直接対応したものとなっておらず、その結果、図6のグラフに直接対応する検証実験は、本件特許明細書に記載されていない。
そして、本件特許の請求項1は、図6のグラフから「膨出領域の面積の比率が0.6~1.6の範囲内」であることを読み取ってその範囲を発明特定事項としたものであるから、図6のグラフに基づいて特定される請求項1に係る発明に対応する検証実験も本件特許明細書に記載されているものとはいえない。
そうすると、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
(2)本件特許明細書には、膨出領域の形状として、図3~図5の3種類の形状で行った検証実験が記載されているだけであるが、膨出領域がどのような形状の場合であっても、単に膨出領域の面積比だけでシャント抵抗両端の電圧変動率が決定されるものではないことは、例えば、本件特許明細書の以下の記載からも明らかである。
ア「影響を与えない領域」について
本件特許明細書には、
「【0051】なお、第2左側膨出領域522は、第2中央領域よりも左側方にはみ出るという意味では、図2のハッチングが施されていない領域522xを含むように思えるが、この領域522xは第2端子42から視て、シャント抵抗31よりも遠くに位置しており、シャント抵抗31から第2端子42に流れる電流値に対して、影響を与えない領域といえるので、第2左側膨出領域522に含めていない。」
と記載されている。(下線は当審で付したものである。以下同様。)
当該記載によれば、図2の例にあっては、「影響を与えない領域」の面積を膨出領域の面積として算入するかどうかに応じて、膨出領域の面積比が0.6~1.6の範囲であるか否かが変わり得ることは明らかである。
イ「導電パターンの輪郭形状」や「スリットの有無」について
本件特許明細書には、
「【0078】(6)変形例図7は、変形例に係る導電パターン50の平面図である。図7において、プリント基板40には、第1導電パターン部51及び第2導電パターン部52に電流矯正手段としてのスリット53が設けられており、それ以外は図2のプリント基板と同じである。したがって、ここでは、スリット53の機能についてのみ説明する。【0079】続きを表示(全15行)スリット53は、シャント抵抗31の電極近傍に設けられ、シャント抵抗31直近での電流経路の広がりが抑制する。【0080】本変形例では、スリット53は、第1端子41から視てシャント抵抗31の右側端に沿って設けられている。それによってシャント抵抗31に繋がる導電パターン50の幅をシャント抵抗31に近づくほど狭くして、シャント抵抗31の直近でシャント抵抗31の幅に揃えることによって、電流経路の広がりを抑制している。【0081】それゆえ、シャント抵抗31を流れる電流の分布の均一化を導電パターン50の輪郭形状だけではなし得ない微調整をスリット53によって実現することができる。【0082】他方、第1左側膨出領域512は、図7に示すように第1端子41から視てシャント抵抗31の直近で、シャント抵抗31の左側端に揃えられているので、スリット53を設けるまでもなく、電流経路の広がりを抑制している。【0083】また、図3、図4及び図5に示す第1導電パターン部51にスリット53を設けるとすれば、第1右側膨出領域511の面積SA1と第1左側膨出領域512の面積SA2とが異なり、且つ、シャント抵抗31の右側端を基準とした第1右側膨出領域511の膨出距離(d1に相当)と、シャント抵抗31の左側端を基準とした第1左側膨出領域512の膨出距離(d2に相当)とが異なるとき、スリット53は、第1右側膨出領域511及び第1左側膨出領域512のうち面積が大きく且つ膨出距離の大きい側に設けられるべきである。【0084】なぜなら、かかる部分は電流経路が広がり易いからである。シャント抵抗31を流れる電流の分布の均一化を導電パターンの輪郭形状だけでは調整できないときに、このスリット53を設けることによって微調整することができる。」
と記載されている。
当該記載によれば、「導電パターンの輪郭形状」や「スリットの有無」によって「シャント抵抗を流れる電流の分布」は変化することが読み取れる。
上記アに基づけば、本件特許発明が、その課題を解決するものであるためには、膨出領域には含めないこととする「影響を与えない領域」を特定し、面積の算出から除外することが、請求項に明確に記載されていることを要するといえ、さらにその上で、発明の詳細な説明には、当該「影響を与えない領域」をどのように特定するのかについて、明確かつ十分に開示されていることを要するというべきである。
また、上記イに基づけば、「シャント抵抗を流れる電流の分布」に影響を与える「導電パターンの輪郭形状」や「スリットの有無」が請求項に明確に記載されていることを要するといえ、さらにその上で、発明の詳細な説明には、当該「導電パターンの輪郭形状」や「スリットの有無」に基づく「シャント抵抗を流れる電流の分布」への影響をどのように特定するのかについて、明確かつ十分に開示されていることを要するというべきである。
そうすると、出願時の技術常識に照らしても、膨出領域の面積比の算定に必須である「影響を与えない領域」や、「シャント抵抗を流れる電流の分布」に影響を与える「導電パターンの輪郭形状」や「スリットの有無」について、何も特定されておらず、単に、「前記第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内である」なる事項のみにより特定された本件特許の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(3)以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
また、請求項1の従属項である請求項2-6に記載された内容を加味しても、上記した理由が解消されるものではないから、本件特許の請求項2-6に係る発明も、発明の詳細な説明に記載したものでない。
b 令和4年6月29日付けの取消理由通知
●理由1(サポート要件)について
(1)本件特許明細書には、膨出領域の面積比とシャント抵抗両端の電圧変動率との関係について、以下のとおり記載されている。
ア 「【0066】(4-4)実験結果図6は、図3、図4、及び図5について寸法d2毎に、第1端子41と第2端子42と間に微小電流を流したときのシャント抵抗31の両端に発生する電圧の変動率を表わしたグラフである。図6において、横軸は寸法d2、縦軸はシャント抵抗31両端の電圧変動率を示している。ここで、電圧変動率は、d1=d2のときの電圧値を基準値とし、寸法d2毎にn回測定し、n個の測定値について基準値からの増減値を百分率換算した後、それらから二乗平均誤差として算出されたものである。したがって、d1=d2のとき電圧変動率は0である。【0067】図6に示すように、第1左側膨出領域512のd2が増加して、第1右側膨出領域511のd1に近づくほどシャント抵抗31両端の電圧変動率は低下し、他方、d2>d1の範囲では電圧変動率は0.5%を少し上回る値に漸近する傾向を示している。【0068】実使用上の電圧変動率の許容範囲は0.5%以内であるので、それを満たすのはd2=[0.6×d1]~[1.6×d1]の範囲である。」
イ 上記アに基づけば、本件特許発明が、その課題を解決するものであるためには、d1/d2の比、すなわち面積比が0.6~1.6であって、シャント抵抗両端の電圧変動率が0.5%以内であることを要するといえ、さらにその上で、発明の詳細な説明には、当該「d1/d2の比、すなわち面積比が0.6~1.6であって、シャント抵抗両端の電圧変動率が0.5%以内であること」をどのように特定するのかについて、明確かつ十分に開示されていることを要するというべきである。
そうすると、出願時の技術常識に照らしても、単に、「前記第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内である」なる事項のみにより特定された本件特許の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
また、請求項1の従属項である請求項2-6に記載された内容を加味しても、上記した理由が解消されるものではないから、本件特許の請求項2-6に係る発明も、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(イ)特許権者の意見書における釈明
特許権者は、令和4年9月2日に提出した意見書において、以下のとおり主張している。
「(4)本件特許発明が上記取消理由を有していない理由の説明●理由1(サポート要件)について取消理由通知書では、本件特許の発明の詳細な説明の段落[0066]、[0067]および[0068]の記載に基づけば、「本願特許発明が、その課題を解決するものであるためには、d1/d2の比、すなわち面積比が0.6~1.6であって、シャント抵抗両端の電圧変動率が0.5%以内であることを要するといえ、さらにその上で、発明の詳細な説明には、当該「d1/d2の比、すなわち面積比が0.6~1.0であって、シャント抵抗両端の電圧変動率が0.5%以内であること」をどのように特定するのかについて、明確に十分に開示されていることを要するというべきである」との認定がなされています。本件特許明細書では、本件特許発明の「シャント抵抗を流れる電流の分布のバラツキを抑制して電流検出の精度を向上させる」という課題を達成するために、段落[0052]~[0072]に記載の検証実験1、検証実験2、検証実験3およびそれらの結果に基づき、「第1右側膨出領域の面積に対する第1左側膨出領域の面積の比率が0.6~1.6の範囲内」とすることによって、シャント抵抗両端の電圧変動率が実使用上の電圧変動率の許容範囲である0.5%以内に抑制されることを立証しています。但し、取消理由通知書では、訂正前の請求項1が、「第1右側膨出領域の面積に対する第1左側膨出領域の面積の比率が0.6~1.6の範囲内であるという条件を満たすが、シャント抵抗両端の電圧変動率が実使用上の電圧変動率の許容範囲である0.5%以内ではない」ものまでも包含する記載となっている、と認定されたものと思料します。訂正後の請求項1に係る発明(以下、本願発明1という。)では、「前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内であって、前記シャント抵抗(31)の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内である、」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における「第1右側膨出領域の面積に対する第1左側膨出領域の面積の比率が0.6~1.6の範囲内」という条件を、「シャント抵抗の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内」という条件で具体的に特定しています。これによって、「第1右側膨出領域の面積に対する第1左側膨出領域の面積の比率が0.6~1.6の範囲内であるという条件を満たすが、シャント抵抗両端の電圧変動率が実使用上の電圧変動率の許容範囲である0.5%以内ではない」ものまでも包含するという不備は解消されています。このように、訂正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、明細書及び図面の記載によりサポートされています。また、訂正後の請求項1に係る発明の特徴を全て具備する請求項2~6に係る発明それぞれついても、同様に、明細書及び図面の記載によりサポートされています。」(意見書2頁5行~3頁12行)
(ウ)判断
令和4年9月2日の訂正請求書による訂正により、本件発明1の「インバータ装置(20)」は、「前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内であって、前記シャント抵抗(31)の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内である」ものに訂正された。
その結果、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものとなり、また、本件発明1を直接または間接に引用する本件発明2~6も、発明の詳細な説明に記載したものとなった。
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。
5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人は、以下に示す甲第1号証~甲第3号証(以下「甲1」~「甲3」等という。)を提出し、訂正前の本件発明1、6は、甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張する。
<引用文献等一覧>
アプリケーションマニュアル 6MBP15VR*060-50(2013年7月3日)
(2)引用文献
ア 甲1
(ア)甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。
a 「[図:0001395192000001.jpg]」(第4-2頁)
b 「[図:0001395192000002.jpg]」(第5-2頁)
c 「[図:0001395192000003.jpg]」(第5-6頁)
(イ)甲1発明
甲1の上記記載について検討する。
a 上記(ア)aの表4-1の“U、V、M:インバータの出力端子です。モーター負荷に接続します。”との記載および上記(ア)bの応用回路例1の記載から、甲1には、“直流電圧をインバータで交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置”が記載されていることが読み取れる。
b 上記(ア)aの表4-1の記載および上記(ア)cの図.5-4の推奨プリント基板配線イメージの記載から、甲1には、“N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子は、主電源(-)入力端子であり、各相の電流を観測するために、これらの端子とパワーGND間にシャント抵抗SRが接続され”ることが記載されている。
c 上記(ア)cの(2)パワー入力部の(C)の記載、および上記(ア)cの図.5-4の推奨プリント基板配線イメージの記載から、甲1には、“パワーGNDとCOM端子からの配線は、1点グランドでシャント抵抗SRに接続され”ることが記載されている。
d 上記(ア)cの図.5-4の推奨プリント基板配線イメージの記載から、“N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子とシャント抵抗SRとは、プリント基板配線で接続され”ることが読み取れる。
e 上記(ア)cの図.5-4の推奨プリント基板配線イメージの記載から、“シャント抵抗SRとパワーGNDとの間は、プリント基板配線で接続され”ることが読み取れる。
f 上記a~eのことから、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「直流電圧をインバータで交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置であって、N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子は、主電源(-)入力端子であり、各相の電流を観測するために、これらの端子とパワーGND間にシャント抵抗SRが接続され、パワーGNDとCOM端子からの配線は、1点グランドでシャント抵抗SRに接続され、N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子とシャント抵抗SRとは、プリント基板配線で接続され、シャント抵抗SRとパワーGNDとの間は、プリント基板配線で接続されるインバータ装置。」
イ 甲2
(ア)甲2の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
甲2には以下の記載がある。
「【0067】このような構成を有する整流部32は、商用電源91から入力される交流電圧Vacを整流し、これを平滑コンデンサ33に供給する。【0068】(2-1-2)平滑コンデンサ平滑コンデンサ33は、一端が整流部32の正側出力端子に接続され、他端が整流部32の負側出力端子に接続されている。平滑コンデンサ33は、整流部32によって整流された電圧を平滑する。平滑された電圧は、リップルの低い直流電圧Vdcであり、平滑コンデンサ33の後段、すなわち出力側に接続されたインバータ38に印加される。このコンデンサの他端側が、後述する切換部35などの基準電位(以下GNDと略す)となる。」
上記記載から、甲2には、「整流部32は、商用電源91から入力される交流電圧Vacを整流し、これを平滑コンデンサ33に供給し、平滑コンデンサ33は、整流部32によって整流された電圧を平滑し、平滑された電圧は、インバータ38に印加される。」との事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
ウ 甲3
(ア)甲3の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
甲3には以下の記載がある。
「【技術分野】【0001】本発明は電流検出に用いられる抵抗器の実装構造に関する。【背景技術】【0002】電池の充放電電流を監視し、電池の充放電電流を制御する等の目的で電流検出用抵抗器が使用される。電流検出用抵抗器は、監視対象電流の経路に挿入され、該電流によって抵抗器両端に生じる電圧を検出し、既知の抵抗値から電流を検出する。このような用途では、例えば10mΩ以下の低抵抗値の電流検出用抵抗器が用いられる場合があるが、さらなる低抵抗値の要求に対して、電流検出用抵抗器15a,15bを配線パターン11a、11b間に複数並列に実装することがある(図1参照)。【0003】係る用途に好適な電流検出用抵抗器として、特許文献1に記載の構造が知られている。このような構造の抵抗器であって、例えば0.2mΩ程度の低抵抗値の電流検出用抵抗器を2個並列に接続することで、0.1mΩ程度の合成抵抗値とすることができる。」
上記記載から、甲3には、「監視対象電流の経路に挿入され、該電流によって抵抗器両端に生じる電圧を検出し、既知の抵抗値から電流を検出する電流検出用抵抗器において、電流検出用抵抗器の低抵抗値の要求に対して、電流検出用抵抗器15a,15bを配線パターン11a、11b間に複数並列に実装すること。」との事項(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
(3)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「直流電圧」、「インバータ」、「交流電圧」、「誘導性負荷」、及び「インバータ装置」は、それぞれ、本件発明1の「直流電圧」、「インバータ(25)」、「交流電圧」、「誘導性負荷」、及び「インバータ装置」に相当するから、甲1発明の「直流電圧をインバータで交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置」と本件発明1の「整流部(21)から供給される直流電圧をインバータ(25)で交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置」とは、後記する点で相違するものの、「直流電圧をインバータ(25)で交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置」である点で共通する。
イ 甲1発明の「シャント抵抗SR」は、各相の電流を観測するための抵抗であるから、本件発明1の「シャント抵抗(31)」に相当する。
甲1発明の「N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子」は、インバータの「主電源(-)入力端子であり」、これらの端子と「パワーGND」とを接続する部分は、本件発明1の「直流リンク(802)」に相当する部分であるから、甲1発明の「各相の電流を観測するために、これらの端子(N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子)とパワーGND間」に接続される「シャント抵抗SR」と本件発明1の「前記整流部(21)と前記インバータ(25)とを接続する直流リンク(801,802)に設けられるシャント抵抗(31)」とは、後記する点で相違するものの、「直流リンク(802)に設けられるシャント抵抗(31)」である点で共通する。
ウ 甲1発明の「N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子」は、「シャント抵抗」を介して「パワーGND」へ電流を流す「端子」であるから、本件発明1の「前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)」に相当する。
エ 甲1発明は、「シャント抵抗SRとパワーGNDとの間は、プリント基板配線で接続される」ものであるから、プリント基板配線には、“シャント抵抗SRからの電流が流れる部分”が存在しており、当該“部分”と本件発明1の「前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる第2端子(42)」とは、後記する点で相違するものの、「前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる部分」である点で共通する。
オ 甲1発明は、「N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子とシャント抵抗SRとは、プリント基板配線で接続され」るものであるから、甲1発明は、本件発明1の「前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51)」「が形成されたプリント基板(40)」に相当する構成を有しているといえる。
また、甲1発明は、「シャント抵抗SRとパワーGNDとの間は、プリント基板配線で接続される」ものであるから、上記エの検討も踏まえると、甲1発明の「プリント基板配線」と本件発明1の「前記シャント抵抗(31)と前記第2端子(42)とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)」とは、「前記シャント抵抗(31)と前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる部分とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)」である点で共通する。
したがって、甲1発明と本件発明1の「前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51)、及び前記シャント抵抗(31)と前記第2端子(42)とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)」とは、後記する点で相違するものの、「前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51)、及び前記シャント抵抗(31)と前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる部分とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)」である点で共通する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、次の一致及び相違点を有する。
<一致点>
直流電圧をインバータ(25)で交流電圧に変換して誘導性負荷に印加するインバータ装置であって、
直流リンク(802)に設けられるシャント抵抗(31)と、
前記シャント抵抗(31)へ電流を流す第1端子(41)と、
前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる部分と、
前記シャント抵抗(31)と前記第1端子(41)とを結ぶ第1導電パターン部(51)、及び前記シャント抵抗(31)と前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる部分とを結ぶ第2導電パターン部(52)を含む導電パターン(50)が形成されたプリント基板(40)とを備える
インバータ装置。
<相違点1>
本件発明1の「直流電圧」は、「整流部(21)から供給される」のに対して、甲1発明はそのような特定を有していない点。
<相違点2>
本件発明1の「直流リンク」は、「前記整流部(21)と前記インバータ(25)とを接続する」ものであるのに対して、甲1発明はそのような特定を有していない点。
<相違点3>
「前記シャント抵抗(31)からの電流が流れる部分」が、本件発明1では、「第2端子(42)」であるのに対して、甲1発明はそのような特定を有していない点。
<相違点4>
本件発明1は、「前記第1端子(41)から前記シャント抵抗(31)を臨む位置から視た前記第1導電パターン部(51)は、
前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第1端子(41)の右側端及び左側端とを繋いだ第1中央領域(510)と、
前記第1中央領域(510)よりも右側方にはみ出る第1右側膨出領域(511)と、
前記第1中央領域(510)よりも左側方にはみ出る第1左側膨出領域(512)と、
を含み、
前記第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、
前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内であ」るのに対して、甲1発明はそのような特定を有していない点。
<相違点5>
本件発明1は、「前記シャント抵抗(31)の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内である」のに対して、甲1発明はそのような特定を有していない点。
(4)判断
ア 事案に鑑み、相違点4、5についてまとめて検討する。
甲1発明は、「N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子」と「シャント抵抗SR」とを接続する「プリント基板配線」を備えているものの、当該「プリント基板配線」の形状について、甲1には具体的な説明はなく、図面の説明に「推奨プリント基板配線のイメージ」との記載がある程度であるから、甲1は、「N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子」と「シャント抵抗SR」とを接続する「プリント基板配線」について、その形状や大きさ、或いはN(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子の配置位置に関して、何ら具体的に特定されたものではなく、単に、配線のイメージを描画したに過ぎないものである。
また、甲1発明は、シャント抵抗SRの両端に発生する電圧については何らの記載もなく、当該電圧を、予め設定された基準値に対して0.5%以内の変動率となるようにすることについても、甲1には何ら記載も示唆もされていない。
また、インバータ装置において、電流を測定するためのシャント抵抗の両端に発生する電圧を、予め設定された基準値に対して0.5%以内の変動率となるようにすることが、当該技術分野における技術常識であったともいえない。
また、甲2記載事項および甲3記載事項を参酌しても、上記の点が技術常識であるとはいえない。
そうすると、単なる配線イメージである甲1の記載から、「プリント基板配線」の形状や大きさを特定し、また、N(U)端子、N(V)端子及びN(W)端子の位置を特定し、さらには、シャント抵抗SRの配置位置やその大きさを特定して、
「前記第1端子(41)から前記シャント抵抗(31)を臨む位置から視た前記第1導電パターン部(51)は、前記シャント抵抗(31)の右側端及び左側端と前記第1端子(41)の右側端及び左側端とを繋いだ第1中央領域(510)と、前記第1中央領域(510)よりも右側方にはみ出る第1右側膨出領域(511)と、前記第1中央領域(510)よりも左側方にはみ出る第1左側膨出領域(512)と、を含み、前記第1右側膨出領域(511)および前記第1左側膨出領域(512)の面積が異なり、前記第1右側膨出領域(511)の面積(SA1)に対する前記第1左側膨出領域(512)の面積(SA2)の比率(SA2/SA1)が0.6~1.6の範囲内であ」るように構成し、そのような構成をとることで、「前記シャント抵抗(31)の両端に発生する電圧の、予め設定された基準値に対する変動率が0.5%以内である」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
イ 上記アのとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2記載事項および甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接に引用し、さらに限定したものであるから、同様に、甲1発明、甲2記載事項および甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701223