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特許異議申立

2021-701188

分子状水素を含む腎臓疾患の腎機能改善のための組成物

審判番号
2021-701188
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-035995
登録番号
6890353
請求日
2021年12月15日
審決日
2023年10月31日
公報発行日
2024年02月22日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】MiZ株式会社
  • 【権利者代理人】山本 修
  • 【権利者代理人】宮前 徹
  • 【権利者代理人】松尾 淳一
  • 【権利者代理人】寺地 拓己
  • 【権利者代理人】宮脇 薫
  • 【異議申立人】宮崎 周子
審判長/審判官
  • 審判長 藤原 浩子
  • 審判官 渕野 留香
  • 審判官 田中 耕一郎
分類
P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6890353号発明「分子状水素を含む腎臓疾患の腎機能改善のための組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6890353号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 特許第6890353号の請求項1、2、6に係る特許を維持する。 特許第6890353号の請求項3~5、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6890353号(以下「本件特許」という。)は、令和2年3月3日に出願され(特願2020-35995号、優先権主張 平成31年3月26日、日本国)、令和3年5月27日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年6月18日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和3年12月15日に、本件請求項1~7に係る特許に対し、特許異議申立人 宮崎周子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。 以降の手続の経緯の概要は次のとおりである。 令和4年 3月17日付け 取消理由通知 同年 5月23日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 同年 6月20日 意見書の提出(申立人) 同年 8月31日付け 取消理由通知(1回目の決定の予告) 同年11月 4日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 令和5年 2月 8日 意見書の提出(申立人) 同年 3月30日付け 取消理由通知(2回目の決定の予告) 同年 6月 2日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 同年 7月19日 意見書の提出(申立人) なお、令和4年5月23日及び同年11月4日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否についての判断 1 請求の趣旨及び訂正の内容 (1)請求の趣旨 令和5年6月2日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求は、「特許第6890353号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。 そして、上記訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (2)訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含む組成物であって、 ヒトの吸入によって投与され、 ヒトの糖尿病由来および/または高血圧由来の腎臓疾患を改善するための組成物。」と記載されているのを、 「腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含むヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 前記分子状水素を2体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体であり、 ヒトの吸入によって投与され、 前記腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、 前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善することを特徴とする組成物。」に訂正する。 また、請求項1を引用する請求項6も同様に訂正することになる。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、 「前記腎臓疾患の改善が、急性または慢性の腎炎の改善、腎不全の改善、および/または、ネフローゼ症候群の改善である、請求項1に記載の組成物。」と記載されているのを、 「腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含むヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 分子状水素を4体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体であり、 ヒトの吸入によって投与され、 前記腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、 前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善することを特徴とする組成物。」に訂正する。 また、請求項2を引用する請求項6も同様に訂正することになる。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に、 「組成物が分子状水素をゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下含む気体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。」と記載されているのを、 「組成物が分子状水素を4体積%より大きく、かつ10体積%以下含む気体である、請求項1または2のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 キ 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 なお、本件訂正は、訂正前の請求項1~7についてのものであるところ、訂正前の請求項2~7は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1~7は、一群の請求項である。 そして、訂正事項1~7は、一群の請求項1~7に対するものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 請求項1についての訂正事項1は、(i)訂正前の請求項1の「腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含む組成物」について、「分子状水素」の含有量が「2体積%以上かつ18.5体積%以下」であること、及び、組成物の形態が「気体」であることを限定するとともに、(ii)訂正前の請求項1に記載の組成物の用途が「ヒトの糖尿病由来および/または高血圧由来の腎臓疾患を改善するため」のものであったのを、「高血圧由来の腎臓疾患を改善するため」の用途を削除し、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善する」用途を「腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善すること」として、組成物の用途を限定するものであるから、これら(i)及び(ii)の点の訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ そして、上記(i)の点に関し、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0041】には、「本発明の組成物の有効成分である「水素」は分子状水素であり」と記載され、また、【0042】には、「本発明の組成物の好ましい形態は、有効量の分子状水素と空気もしくは酸素を含む気体であるか、或いは有効量の分子状水素を溶存して含む生体適合性液体・・・である。これらはそれぞれ、「水素含有気体」、「水素溶存液体」と称する。」と、さらに、【0043】には、「水素含有気体は、好ましくは、分子状水素を含む空気又は、分子状水素と酸素ガス・・・を含む混合ガスである。水素含有気体の水素濃度は、ゼロ(0)より大きく、かつ約18.5体積%以下、例えば約0.1~約18.5体積%であり、例えば・・・例えば2~10体積%、・・・4~10体積%・・・などである。」と記載されているから、上記(i)の点の訂正は、新規事項の追加に該当しない。 上記(ii)の点に関し、訂正前の請求項2には、「腎臓疾患の改善」が「腎不全の改善」であることが記載され、さらに、本件明細書の【0061】には、「本発明は・・・分子状水素を含む本発明の組成物を、腎臓疾患(例えば・・・腎不全・・・)をもつヒト患者に投与し、該患者において腎臓疾患を改善(もしくは腎臓疾患による機能低下を改善)する、例えば・・・浮腫を改善することなどを含む、腎臓疾患を改善する方法を提供する。」と記載されているし、また、実施例2において、糖尿病から腎不全になった患者が、水素吸入開始から1か月後から、透析後の浮腫が軽減したことが記載されているから、上記(ii)の点の訂正も新規事項の追加に該当しない。 ウ 訂正前の請求項1を引用する請求項6についても同様である。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2は、訂正前の請求項2は請求項1を引用していたところ、請求項1との引用関係を解消し、独立形式とするとともに、(i)「分子状水素」の含有量が「4体積%以上かつ18.5体積%以下」であること、及び、組成物の形態が「気体」であることを限定し、(ii)組成物の用途を、上記(1)の訂正事項1と同様に、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善する」用途であって、「腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善すること」として、組成物の用途を限定するものであるから、訂正事項2による訂正は、「請求項間の引用関係の解消」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ そして、上記(i)及び(ii)の点の訂正は、上記(1)イで記載したと同様の理由により新規事項の追加に該当しないし、また、独立形式とする訂正が新規事項の追加に該当しないことは当然である。 ウ 訂正前の請求項2を引用する請求項6についても同様である。 (3)訂正事項3~5及び7について 請求項3~5及び7についての訂正事項3~5及び7は、それぞれ、訂正前の請求項3~5及び7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 そして、訂正事項3~5及び7は、いずれも、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項6について 訂正事項6による訂正は、(i)分子状水素を含む気体について、訂正前の請求項6に「分子状水素をゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下含む気体」と記載されていたのを、「分子状水素を4体積%より大きく、かつ10体積%以下含む気体」とする訂正及び、(ii)訂正前の請求項6に「請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物」と記載されていたのを、「請求項1または2のいずれか1項に記載の組成物」とする訂正を含むものである。 そして、上記(i)の点の訂正は、気体に含まれる分子状水素の濃度をより狭い範囲に限定する訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 そして、本件明細書の【0041】~【0043】には、上記(1)イで指摘したとおりの記載があり、本件明細書には、「分子状水素を4体積%より大きく、かつ10体積%以下含む気体」である「組成物」が記載されているから、上記(i)の点の訂正は、新規事項の追加に該当しない。 上記(ii)の点の訂正は、訂正前の請求項6が「請求項1~5のいずれか1項」を引用するものであったのを、訂正事項3~5及び7で請求項3~5及び7が削除されたことに伴い、引用する請求項からこれら削除された請求項を除いて、「請求項1または2」を引用するものに訂正するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるし、また、引用請求項を減らすものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものでもある。そして、上記(ii)の点の訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)独立特許要件について 特許異議申立ては、訂正前の全ての請求項1~7についてされているので、訂正事項1~7に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、請求項1~7についての本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1、2及び6に係る発明は、令和5年6月2日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2及び6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 なお、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲においては、下線が引かれているが、以下においては記載を省略した。 また、請求項3~5及び7は、本件訂正により削除されたので、掲載を省略する。 「【請求項1】 腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含むヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 前記分子状水素を2体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体であり、 ヒトの吸入によって投与され、 前記腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、 前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善することを特徴とする組成物。」 「【請求項2】 腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含むヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 分子状水素を4体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体であり、 ヒトの吸入によって投与され、 前記腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、 前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善することを特徴とする組成物。」 「【請求項6】 組成物が分子状水素を4体積%より大きく、かつ10体積%以下含む気体である、請求項1または2のいずれか1項に記載の組成物。」 (以下、請求項の項番に応じて「本件発明1」等といい、本件発明1、2及び6をあわせて「本件発明」ということがある。) 第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書(2回目の決定の予告)に記載した取消理由の概要 1 特許異議申立書に記載された申立理由 申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」ともいう。)において、特許権の設定登録時の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由として、概略以下の申立理由1~4を主張している。また、証拠方法として、申立書に添付して以下に甲1~甲5として記載した甲第1号証~甲第5号証を提出した。また、意見書に添付して以下の参考資料1~3を提出した。 <申立理由1:明確性要件違反> 請求項1~7に係る特許は、以下の(1)及び(2)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。(申立書p.9~10の「イ(ア)」) (1)請求項1の、「腎臓疾患に対する有効成分として」、「ヒトの吸入によって投与され」及び「ヒトの糖尿病由来および/または高血圧由来の腎臓疾患を改善する」は、それぞれ、分子状水素の「配合目的」、組成物の「作用・効果」及び「使用(投与)方法」に関する事項であり、これらの記載事項からは、物の発明として、組成物のどのような構造が特定されるのかが不明瞭であり、請求項1に係る発明は明確でない。請求項1を引用する請求項2~7にも同様の記載不備がある。 (2)請求項7は、物の発明に係る請求項にその物の「製造方法」が記載されている場合に該当するため、明確でない。 <申立理由2:サポート要件違反> 請求項1~7に係る特許は、以下の(3)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。(申立書p.10~12の「イ(イ)」) (3)本件明細書の【0011】の記載によれば、請求項1~7が解決しようとする課題は、「腎臓疾患の腎機能を改善するための組成物を提供すること」であるところ、課題を解決し得る組成物として本件明細書の発明の詳細な説明において具体的に記載されている組成物は、実施例1及び2の、水素濃度が約5%以上の組成物(濃度6~7.5体積%あるいは約5体積%で水素を含有する水素含有気体)のみであるし、他の発明の詳細な説明の記載を考慮しても、約4体積%以上の分子状水素濃度が必要であるといえる。そして、これより低濃度の分子水素を含有する気体(例えば0.1~3体積%の分子状水素濃度)が上記の課題を解決できることは、当業者は認識できるとはいえず、また、本件特許の出願時において技術常識であったことを示す証拠もないから、請求項1~7に係る発明について、サポート要件を満たすとはいえない。 <申立理由3:新規性欠如> 請求項1、6に係る発明は、以下の各甲号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下に、合議体が付した申立理由番号、主引例である甲号証番号、対象請求項の順に示す。申立理由4についても同様。)(申立書p.16~18の「エ(ア)」) ・申立理由3-1:甲1(請求項1) ・申立理由3-2:甲2(請求項1) ・申立理由3-3:甲3(請求項1、6) ・申立理由3-4:甲4(請求項1、6) ・申立理由3-5:甲5(請求項1、6) <申立理由4:進歩性欠如> 請求項1~7に係る発明は、以下の各甲号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。(申立書p.18~36の「エ(イ)」) ・申立理由4-1:甲1(主引例)及び甲3~5(副引例(周知技術))(請求項1~7) ・申立理由4-2:甲2(主引例)及び甲3~5(副引例(周知技術))(請求項1~7) ・申立理由4-3:甲3(主引例)及び甲1~2(副引例(周知技術))(請求項1~7) ・申立理由4-4:甲4(主引例)及び甲1~2(副引例(周知技術))(請求項1~7) ・申立理由4-5:甲5(主引例)及び甲1~2(副引例(周知技術))(請求項1~7) <申立人による証拠方法> ●申立書に添付して提出されたもの ・甲1:李静ら,28-P4PM-136 分子状水素含有水投与による2型糖尿病腎症への影響,第24回日本医療薬学会年会・講演要旨集 新時代を拓く医療薬学フロンティア,450頁,第24回日本医療薬学会事務局,発行日:平成26年8月25日 ・甲2:牛田貴文ら,MW-10-3 ラット妊娠高血圧腎症モデルにおける分子状水素の治療的効果の検討,日本産科婦人科学会雑誌,第67巻第2号,第67回学術講演会抄録,514(S-280)頁,公益社団法人日本産科婦人科学会,発行日:平成27年2月1日 ・甲3:基礎老化研究,2011年,Vol.35,No.1,p.1~8 ・甲4:Cancer Chemother Pharmacol.,2009年,Vol.64,p.753~761 (DOI:10.1007/s00280-008-0924-2) (https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html) ・甲5:Nephron Exp Nephrol,2014年,Vol.128,p.116~122(DOI:10.1159/000369068) ●令和4年6月20日付けの意見書に添付して提出されたもの ・参考資料1:「MiZ株式会社」のホームページ(http://mhga.jp/)(https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&Q=&esrc=s&source=web&cd=&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwiozs6H2LD4AhUQBaYKHQyGA6YQFnoECAsQAQ&url=http%3A%2F%2Fmhga.jp%2F&usg=A0vVawlYBfehd09wYxwlBrmGIaQL) ●令和5年2月8日付けの意見書に添付して提出されたもの ・参考資料2:医療法人社団望星会望星病院理事・院長 北岡 建樹、最終更新日時:2001年5月3日付けの「透析患者のための医学入門講座 5」のインターネット記事(http://www.toujin.jp/html/kikanshi/kouenkai/igaku_kouza5.htm) ・参考資料3:甲南医療センター 副院長 藤森 明、2016年6月3日付けの「透析療法の基礎知識 ドライウエイトの設定」のインターネット記事(https://dialysis.medipress.jp/disease-and-cure/dialysis-basic/3) 2 取消理由通知(2回目の決定の予告)の概要 令和4年11月4日提出の訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項1、3及び6に係る発明に対して、当審が令和5年3月30日付けで特許権者に通知した取消理由通知(2回目の決定の予告)の概要は、以下のとおりである。 <取消理由A(明確性要件違反)> 本件特許は、特許請求の範囲の記載(請求項3及び6)が、以下の(A)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (A)請求項1の「慢性の腎炎」である「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患」は、「糖尿病性腎炎」であるところ、請求項1を引用する請求項3には、「糖尿病性腎炎」以外に、種々の腎炎が記載されている。そして、「糖尿病性腎症」は、糖尿病が原因でない腎臓疾患と区別されることが本件特許の出願時の技術常識である(周知文献1)から、請求項3の記載は、請求項1に含まれない腎炎を記載している点で、請求項3が引用する請求項1の記載と技術的に整合していないから、請求項3に係る発明は明確ではない。 請求項3を引用する請求項6についての本件発明6も同様に明確ではない。 <取消理由B(サポート要件違反)> 本件特許は、特許請求の範囲の記載(請求項1、3及び6)が、以下の(B)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (B)請求項1、3、6に係る発明が解決しようとする課題は、請求項1、3、6の記載及び発明の詳細な説明の【0011】~【0013】の記載によれば、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患である慢性の腎炎を改善し、浮腫を改善するための組成物を提供すること」であると認められる。 そして、本件特許の出願時の技術常識(周知文献1)を参酌するに、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例1の記載からは、分子状水素の吸入(水素ガスの吸入)により腎臓疾患の腎機能の改善が行えることは理解できないし、また、実施例2の記載からは、本件特許の出願時の技術常識(参考資料2及び3)を参酌して、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全に罹患し、血液透析でも症状の改善が見られず、歩行が困難な腎不全の患者が、水素濃度約5%の水素ガスの吸入により歩行できるようになり、また、透析の後に出た浮腫が改善したことは理解できるが、当該歩行の改善や透析による浮腫の改善が慢性的な腎炎の改善、つまり、「慢性の腎炎」の改善によるものであることは理解できない。 したがって、請求項1に係る発明について、サポート要件を満足するとはいえない。 請求項3及び6に係る発明についても同様である。 なお、申立理由とこれまでに通知した取消理由との関係は以下のとおりである。 ・令和4年3月17日付けの取消理由通知における取消理由2(サポート要件違反)は、申立理由2(サポート要件違反)における具体的な申立理由を含むものである。また、1回目の決定の予告の取消理由4及び上記2回目の決定の予告の取消理由B(いずれも、サポート要件違反)は、申立理由2(サポート要件違反)と、具体的な申立理由は異なるが、同じサポート要件違反についてのものである。 ・令和4年3月17日付けの取消理由通知における、取消理由1(明確性要件違反)は申立理由1(2)に相当する。 ・令和4年3月17日付けの取消理由通知及び1回目の決定の予告における、取消理由3-1(甲1を主引例とする進歩性欠如)及び取消理由3-2(甲2を主引例とする進歩性欠如)は、それぞれ、申立理由4-1及び申立理由4-2に相当する。 そして、当該取消理由通知及び1回目の決定の予告の取消理由3-1及び3-2においては、申立理由4-1及び4-2で申立人が提示した証拠(甲3~5)に加えて、本件特許の出願時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として、合議体は、職権探知により、以下の引用文献3、4、A、B、参考資料D及び周知文献1、2を提示した。 ) ・引用文献3:腎と透析,2017年6月,Vol.82,No.6,p.827~832 ・引用文献4:Oxidative Medicine and Cellular Longevity(2012),Vol.2012,p.1~11,DOI:10.1155/2012/353152 ・引用文献A:特開2017-36482号公報 ・引用文献B:特開2014-34710号公報 ・参考資料D:深井有著「水素分子はかなりすごい 生命科学と医療効果の最前線」、2017年初版第1刷発行、(株)光文社、p.61 ・周知文献1:日本語版総監修 福島雅典「メルクマニュアル 第18版 日本語版」、2007年初版第3刷発行、日経BP社、p.2120~2121、2123、2129~2133、2314~2316、2331~2332 ・周知文献2:特開2015-205866号公報(本件特許の審査段階における引用文献D) したがって、本件訂正後の請求項1、2及び6についての取消理由通知及び1回目の決定の予告における取消理由は、2回目の決定の予告における取消理由又は申立理由に含まれるから、この異議の決定の結論を導くには、2回目の決定の予告における取消理由及び申立理由について検討すれば足りる。 第5 取消理由通知(2回目の決定の予告)についての合議体の判断(申立理由2についての判断を含む) 第5-1 取消理由A(明確性要件違反)について 本件訂正により、訂正前の請求項3~5、7は削除されたことから、以下は、2回目の決定の予告における取消理由の対象となっていた請求項3、6のうち、本件訂正後に存在する請求項6についての合議体の判断を記載している。 ・請求項6について 取消理由Aは、本件訂正前の請求項6が引用する請求項3の記載が、請求項3が引用する請求項1の記載とが整合していないことに起因する記載不備についてのものであるところ、本件訂正により、訂正前の請求項3は削除された。そして、本件訂正後の請求項6には、本件訂正後の請求項1と整合しない記載は存在しない。 したがって、本件発明6は明確であり、取消理由Aには理由がない。 第5-2 取消理由B(サポート要件違反)及び申立理由2について ・請求項1、2、6について 本件訂正により、訂正前の請求項3~5、7が削除され、2回目の決定の予告における取消理由Bの対象となっていた請求項1、3、6のうち、本決定においては、削除されていない請求項1及び6についてのサポート要件違反についての判断を示す必要があること、申立理由2は、特許権の設定登録時の請求項1~7を対象としており、本決定において、削除されていない請求項1、2及び6についてのサポート要件違反についての判断を示す必要があることに鑑み、以下においては、本件訂正後の請求項1、2及び6について、取消理由B及び申立理由2についての合議体の判断をまとめて記載した。 1 本件明細書の発明の詳細な説明の記載 本件明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、【技術分野】(【0001】)、【背景技術】(【0002】~【0007】)、【発明の概要】(【0011】、【0012】、【0015】)、【発明を実施するための形態】(【0020】、【0022】、【0024】~【0026】、【0029】~【0035】、【0039】、【0041】~【0044】、【0063】)、【実施例】(【0069】~【0072】の実施例1、及び【0073】~【0075】の実施例2)に関し、2回目の決定の予告の「第5-2」「1 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載」において摘記したとおりの記載がある。 また、【0061】には、「本発明は・・・分子状水素を含む本発明の組成物を、腎臓疾患(例えば・・・腎不全・・・)をもつヒト患者に投与し、該患者において腎臓疾患を改善(もしくは腎臓疾患による機能低下を改善)する、例えば・・・浮腫を改善することなどを含む、腎臓疾患を改善する方法を提供する。」と記載されている。 さらに、2回目の決定の予告においての摘記した実施例2の記載を再掲すると以下のとおりである。 「【0073】 [実施例2] <分子状水素吸入による腎不全患者の症状改善> 65歳の女性は、糖尿病から腎不全になり、2006年から血液透析を受けている。20数種類の薬剤を使用してきたが症状の改善は認められず、歩行困難の症状もあった。 【0074】 このため、2019年9月から水素ガス吸入を開始した。具体的には、水素発生装置(使用機種:MiZ株式会社製、Jobs-α(水素濃度:約5%、その他のガス:空気)、水素ガス発生量:200ml/分)を用いて、1日あたり吸入時間3~4時間吸入した。 【0075】 水素吸入開始10日後から歩行ができるようになり、また、水素吸入開始から1か月後から、通常は透析の後に浮腫が出て体が重くなる感覚があったが、浮腫も軽減し身体が楽になった。明らかに、水素吸入による改善効果が認められた。」 (上記の下線は、合議体が付した。以下、この決定において同様である。) 2 サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するといえるためには、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載や示唆により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである必要がある。 3 本件発明が解決しようとする課題 本件発明が解決しようとする課題は、請求項1、2及び6の記載及び発明の詳細な説明の【0011】~【0013】及び【0015】の記載によれば、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するための組成物を提供すること」であると認められる。 4 本件発明1についてのサポート要件の判断(取消理由B及び申立理由2) 特許請求の範囲に記載された発明(本件発明1)について、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、発明の詳細な説明の記載や示唆により、当業者が、本件発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるかについて検討する。 (1)発明の詳細な説明の一般記載について 上記1の、【技術分野】、【背景技術】、【発明の概要】、【発明を実施するための形態】で指摘した段落の記載、特に、【0043】の「水素含有気体は、好ましくは、分子状水素を含む空気又は、分子状水素と酸素ガス・・・を含む混合ガスである。水素含有気体の水素濃度は、ゼロ(0)より大きく、かつ約18.5体積%以下、例えば約0.1~約18.5体積%であり、例えば・・・例えば2~10体積%、・・・4~10体積%・・・などである。」なる記載、及び【0061】の「本発明は・・・分子状水素を含む本発明の組成物を、腎臓疾患(例えば・・・腎不全・・・)をもつヒト患者に投与し、該患者において腎臓疾患を改善(もしくは腎臓疾患による機能低下を改善)する、例えば・・・浮腫を改善すること・・・を含む、腎臓疾患を改善する方法を提供する。」なる記載によれば、発明の詳細な説明には、請求項1に記載される「分子状水素を2体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体」である本件発明1の組成物を「吸入によって」「ヒト」に「投与」することで、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫」が「改善」できることについての一般的記載がされている。 (2)発明の詳細な説明の実施例2の記載について ア 発明の詳細な説明の記載の「実施例2」には、上記1で摘記した記載があり、実施例2には、糖尿病から腎不全になり、2006年から血液透析を受け、20数種類の薬剤を使用してきたが症状の改善は認められず、歩行困難の症状もある重篤な状態の1人の患者は、2019年9月から水素ガス吸入(水素濃度:約5%)を1日あたり吸入時間3~4時間吸入したところ、水素吸入開始10日後から歩行ができるようになり、また、水素吸入開始1か月後から、通常は透析の後に浮腫が出て体が重くなる感覚があったが、浮腫も軽減し身体が楽になったことが示されている。 イ すなわち、実施例2の記載によれば、糖尿病由来の腎臓疾患であって、腎不全になっており、2006年から2019年まで13年にわたって血液透析を受けていても症状の改善が見られず、歩行が困難な腎不全の患者が、「請求項1の所定の組成物」に相当する水素濃度約5体積%の水素ガスを吸入したところ、「透析の後に出た浮腫が改善」したことが理解できる。 ウ ここで、本件特許の出願時、腎不全の状態であり、かつ、血液透析が必要な患者は、血液透析で除水しなければ「浮腫」が生じている状態であることは技術常識であった(必要なら、申立人が提出した参考資料2及び参考資料3参照)。 エ そうすると、かかる本件特許の出願時の技術常識を踏まえるに、当業者は、実施例2の患者は、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全に罹患し、血液透析をしなければ浮腫が生じる患者であり、腎不全により生じる浮腫の改善のために血液透析を行っているにもかかわらず症状が改善しなかった患者であること、当該患者に約5体積%の水素ガスを含む気体を吸入投与させたところ浮腫が改善できたことが理解できる。 (3)上記のとおり、実施例2の記載から、当業者は、糖尿病由来の腎不全の症状である浮腫の改善効果が、吸入投与された水素ガスにより発揮されたと理解するといえるし、当業者は、吸入する水素ガスの濃度が5体積%より低い場合であっても、より吸入時間や吸入期間を延ばすことで、浮腫改善効果が奏されると認識すると解され、上記(1)の一般記載も併せ見れば、当業者は、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、発明の詳細な説明の記載から、水素濃度が2体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体である本件発明1の組成物により、ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善することができ、本件発明が解決しようとする課題を解決できることを認識できるといえる。 したがって、本件発明1について、サポート要件を満たすといえる。 5 本件発明2についてのサポート要件の判断(申立理由2) 分子状水素を含む組成物について、本件発明1では「分子状水素を2体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体」と特定されているのに対して、本件発明2では「分子状水素を4体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体」と特定されている点以外は、本件発明1と2は同じ発明特定事項を有する発明であって、本件発明2は、実質的に、本件発明1をさらに限定した発明に相当するものである。 そうすると、上記4で本件発明1について検討したものと同様の理由によって、当業者は、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、発明の詳細な説明の記載から、水素濃度が4体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体である本件発明2の組成物により、ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善することができ、本件発明が解決しようとする課題を解決できることを認識できるといえる。 したがって、本件発明2についても、サポート要件を満たすといえる。 6 本件発明6についてのサポート要件の判断(取消理由B及び申立理由2) 本件発明6は、本件発明1又は2において、分子状水素を含む組成物について、「分子状水素を4体積%より大きく、かつ10体積%以下含む気体」に限定した発明に相当する。 そうすると、上記4及び5で本件発明1及び2について検討したものと同様の理由によって、当業者は、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、発明の詳細な説明の記載から、水素濃度が4体積%より大きく、かつ10体積%以下含む気体である本件発明6の組成物により、ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善することができ、本件発明が解決しようとする課題を解決できることを認識できるといえる。 したがって、本件発明6についても、サポート要件を満たすといえる。 7 令和5年7月19日提出の意見書における申立人の主張について ア 申立人は、上記意見書において、本件明細書の実施例2では、「水素ガス吸入」を開始した際の「血液透析」や「20種類の薬剤」の有無や変更等の情報は不明であり、「水素ガス吸入」だけが追加されたか不明であるし(意見書の項目3(1))、「水素濃度:約5%」の実施例2の記載から、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、本件発明1の「2体積%」の分子状水素を含む組成物の吸入により腎不全の症状の浮腫が改善できることを当業者は、認識できない(項目3(2))から、本件発明はサポート要件を満足しない旨主張する。 イ(ア) しかしながら、実施例2の記載から、当業者は、実施例2の患者が糖尿病から腎不全になった患者であり、水素ガス吸入開始までの間、血液透析を受け、20数種類の薬剤を使用してきているにもかかわらず症状の改善が認められなかった患者であることが理解でき、水素ガス吸入開始時点においても、当然に血液透析と薬剤の使用は継続されていたと解されるところ、実施例2には、水素ガス吸入を開始することで浮腫の症状が改善したことが記載されているのであるし、実施例2において、水素ガスの吸入以外に、浮腫の改善に影響を与えると思われるような、従来と異なる特別の処置が行なわれたと解するべき特段の事情があるとも認められない。 したがって、意見書の項目3(1)の申立人の主張は採用できない。 (イ) また、項目3(2)の申立人の主張に関し、上記4で説示したとおり、実施例2の記載から、当業者は、糖尿病由来の腎不全の症状である浮腫の改善効果が、吸入投与された水素ガスにより発揮されたと理解するといえるし、当業者は、吸入する水素ガスの濃度が本件発明1で特定される下限値の「2体積%」のように、実施例2の5体積%より低い場合であっても、より吸入時間や吸入期間を延ばすことで、浮腫改善効果が奏されると認識すると解される。 したがって、意見書の項目3(2)の申立人の主張も採用できない。 ウ 以上のとおり、申立人の主張には理由がない。 8 まとめ よって、取消理由B及び申立理由2には理由がないから、請求項1、2及び6に係る本件特許について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできない。 第6 取消理由通知(2回目の決定の予告)において採用しなかった申立理由についての当審の判断 取消理由通知(2回目の決定の予告)において採用しなかった、上記第4の1の申立理由1~4のうち、上記第5-2ですでに検討した申立理由2を除く申立理由であって、本件訂正により削除されていない請求項1、2及び6についての申立理由は、申立理由1(1)、3、4であるので、以下検討する。 なお、申立理由3、4には、それぞれ、甲1~5を主引例とする申立理由3-1~3-5、申立理由4-1~4-5がある。また、申立理由1(2)は、削除された請求項7についてのものであるから、検討を要しない。 1 申立理由1(1)(明確性要件違反)について 申立理由1(1)は上記第4の1に記載したとおりである。そして、申立人は、本件訂正後の請求項1、2及び6に関し、請求項の「腎臓疾患に対する有効成分として」、「ヒトの吸入によって投与され」及び「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善する」なる記載からは、物の発明として、組成物のどのような構造が特定されるのかが不明瞭である旨主張する。 しかしながら、請求項1には、「腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含む」「組成物」について「分子状水素を2体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体」であることが特定されており、組成物の組成が明確に記載されているし、組成物が「ヒトの吸入によって投与され」るとの特定、及び、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するための」組成物であるとの特定は、組成物の用法や用途を特定するものであるから、そのような用途発明として、本件発明1は明確である。 請求項1の水素濃度がさらに限定された発明に相当する本件発明2及び6についても同様に明確である。 よって、申立理由1(1)には理由がない。 2 申立理由3-1及び申立理由4-1(甲1を主引例とする新規性及び進歩性欠如)について (1)甲1の記載及び甲1発明 甲1には、1回目の決定の予告の第5-2 1(1)に摘記したとおりの記載がある。 そして、当該摘記した記載によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲1発明> 「分子状水素含有水であって、2型糖尿病患者に飲用により投与される、患者の平均NAGを減少させ、2型糖尿病患者の腎障害を軽減するための分子状水素含有水。」 (合議体注:NAGは、尿中尿細管酵素であるN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(N-acetyl-β-D-glucosaminidase)のことで、腎臓疾患の1つである尿細管障害マーカーとして知られ、尿細管障害により上昇するが、糸球体障害により増加する糸球体性蛋白尿自体に尿細管障害性があることから、糖尿病性腎症や急性・慢性腎炎、ネフローゼ症候群といった糸球体が障害される疾患でも上昇することが知られている(例えば、日本内科学会雑誌,2008年,第97巻第5号p.971~978のp.972右欄~p.973の右欄末行(「1)尿細管障害マーカー」の項目)参照。)。 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、1回目の決定の予告の第5-2の3(1)における対比を踏まえるに、両発明は以下の点で一致し、以下の相違点1-1及び2-1で相違する。 なお、新規性欠如・進歩性欠如の申立理由の主引例が甲1~5であることから、理解を容易にするために、この決定においては、1番目の相違点については、甲1については「相違点1-1」、甲2については「相違点1-2」のように、ハイフンの左側の数字が相違点の順序、右側の数字が甲号証の番号と一致するように相違点を表記した。以下同様である。 <一致点> 腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含むヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 ヒトに投与される、 組成物。 <相違点1-1> 腎臓疾患の改善ための組成物が、本件発明1では、「腎不全の症状の改善であり、前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善する」ためのものであるのに対し、甲1発明では、「患者の平均NAGを減少させ、2型糖尿病患者の腎障害を軽減するため」のものである点。 <相違点2-1> 本件発明1では、組成物が「分子状水素を2体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体」であり、「吸入」により投与されるものであるのに対し、甲1発明では、「分子状水素含有水」であり、「飲用」により投与されるものである点。 イ 新規性についての判断 上記相違点1-1及び2-1が実質的な相違点であることは明らかであるから、これらの相違点で甲1発明と相違する本件発明1について、甲1発明(甲1に記載された発明)であるということはできない。 ウ 進歩性についての判断 (ア) 相違点1-1及び2-1についてまとめて検討する。 甲1には、甲1発明の分子状水素含有水を、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することについて記載も示唆もされていないし、2型糖尿病患者の平均NAGを減少させ、腎障害を軽減する作用を有する薬剤であれば、必ず糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善する作用を有するとの本件特許の優先日当時の技術常識があったとも認められない。 また、申立人が提出した甲2~5及び参考資料1~3、並びに、合議体が職権探知により本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した引用文献3、4、A、B、参考資料D及び周知文献1、2のいずれにも、分子状水素含有水又は分子状水素を含有する気体を、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを動機付けるような記載はないし、分子状水素を含有する水又は気体により、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善することが、本件特許の優先日当時の技術常識であったともいえない。 そうすると、甲1発明の分子状水素含有水に代えて、分子状水素を含有する気体を使用し、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえないから、当業者は、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した文献からも、甲1発明を、相違点1-1及び2-1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。 なお、甲2の記載内容については、1回目の決定の予告の第5-3の1(1)に記載のとおりであるし、甲3~5、引用文献3、4、A、B、参考資料D、周知文献1、2及び参考資料1の記載内容は、それぞれ、同第5-2の2(1)~(11)に記載のとおりである。また、参考資料2及び3には、2回目の決定の予告の第5-2の4(2)キ(ウ)で記載したとおり、腎不全の状態であり、かつ、血液透析が必要な患者は、血液透析で除水しなければ「浮腫」が生じている状態であることが技術常識であることが示されているのみである。 (イ) 本件発明の効果に関し、本件明細書には、上記第5-2の1に記載するとおりの記載(2回目の決定の予告の第5-2の1で摘記した記載を含む)があり、本件明細書の当該記載、特に実施例2及び【0061】の記載によれば、本件発明で特定される濃度の分子状水素を含む気体を吸入することで、糖尿病から腎不全になり、血液透析を受け複数種類の薬剤を使用しても症状の改善がみられなかった患者の透析後の浮腫が改善(軽減)したことが理解できる。 そして、この効果は、甲1を含め、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が提示したいずれの文献からも、当業者が予測できない効果である。 (ウ) そうすると、本件発明1について、甲1発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、独立形式で記載された発明ではあるが、本件発明1の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明2についても、上記(2)で本件発明1について記載したと同様の理由によって、甲1発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4)本件発明6について 本件発明6は、本件発明1又は2の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明6についても、上記(2)及び(3)で本件発明1及び2について記載したと同様の理由によって、甲1発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (5)小括 以上のとおりであるから、申立理由3-1及び申立理由4-1には理由がない。 3 申立理由3-2及び申立理由4-2(甲2を主引例とする新規性及び進歩性欠如)について (1)甲2の記載及び甲2発明 甲2には、1回目の決定の予告の第5-3の1(1)に摘記したとおりの記載がある。 そして、当該摘記した記載によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲2発明> 「分子状水素を含有する飽和水素水(HW)であって、飲用により、ラット妊娠高血圧症候群モデルにおける妊娠高血圧腎症を改善するための飽和水素水。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「分子状水素」が甲2発明における妊娠高血圧腎症を改善するための飽和水素水の「有効成分」であることは明らかであるし、本件発明1の「ヒト」も甲2発明の「ラット妊娠高血圧腎症モデル」も「被検体」であるといえる。 そうすると、両発明は以下の点で一致し、以下の相違点1-2及び2-2で相違する。 <一致点> 腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含む被検体の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 被検体に投与される、 組成物。 <相違点1-2> 被検体の腎臓疾患の改善ための組成物が、本件発明1では、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するため」の組成物であって、「前記腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善する」ためのものであるのに対し、甲2発明では、「ラット妊娠高血圧症候群モデルにおける妊娠高血圧腎症を改善するため」のものである点。 <相違点2-2> 本件発明1では、組成物が「分子状水素を2体積%以上かつ18.5体積%以下含む気体」であり、「吸入」により投与されるものであるのに対し、甲2発明では、「分子状水素を含有する飽和水素水」であり、「飲用」により投与されるものである点。 イ 新規性についての判断 上記相違点1-2及び2-2が実質的な相違点であることは明らかであるから、これらの相違点で甲2発明と相違する本件発明1について、甲2発明(甲2に記載された発明)であるということはできない。 ウ 進歩性についての判断 (ア) 相違点1-2及び2-2についてまとめて検討する。 甲2には、甲2発明の分子状水素を含有する飽和水素水を、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することについて記載も示唆もされていないし、妊娠高血圧症候群モデルにおける妊娠高血圧腎症を改善する作用を有する薬剤であれば、必ず糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善する作用を有するとの本件特許の優先日当時の技術常識があったとも認められない。 また、申立人が提出した甲1、3~5及び参考資料1~3、並びに、合議体が職権探知により本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した引用文献3、4、A、B、参考資料D及び周知文献1、2のいずれにも、分子状水素含有(飽和水素)水又は分子状水素を含有する気体を、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを動機付けるような記載はないし、分子状水素を含有する水又は気体により、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善することが、本件特許の優先日当時の技術常識であったともいえない。 そうすると、甲2発明の飽和水素水に代えて分子状水素を含有する気体を使用し、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえないから、当業者は、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した文献からも、甲2発明を、相違点1-2及び2-2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。 (イ) 本件発明の効果に関し、本件明細書には、上記第5-2の1に記載するとおりの記載(2回目の決定の予告の第5-2の1で摘記した記載を含む)があり、本件明細書の当該記載、特に実施例2及び【0061】の記載によれば、本件発明で特定される濃度の分子状水素を含む気体を吸入することで、糖尿病から腎不全になり、血液透析を受け複数種類の薬剤を使用しても症状の改善がみられなかった患者の透析後の浮腫が改善(軽減)したことが理解できる。 そして、この効果は、甲2を含め、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が提示したいずれの文献からも、当業者が予測できない効果である。 (ウ) そうすると、本件発明1について、甲2発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、独立形式で記載された発明ではあるが、本件発明1の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明2についても、上記(2)ウで本件発明1について記載したと同様の理由によって、甲2発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4)本件発明6について 本件発明6は、本件発明1又は2の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明6についても、上記(2)ウ及び(3)で本件発明1及び2について記載したと同様の理由によって、甲2発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (5)小括 以上のとおりであるから、申立理由3-2及び申立理由4-2には理由がない。 4 申立理由3-3及び申立理由4-3(甲3を主引例とする新規性及び進歩性欠如)について 申立理由3-3及び4-3は、上記第4の1に記載したとおりであり、申立理由3-3(新規性欠如)については、請求項2はその対象とはされていないが、請求項1又は2を引用する請求項6について新規性欠如の申立てがなされていることから、以下においては、便宜上、請求項2についての新規性についても判断を示した。 同様の理由で、以下の5(申立理由3-4及び申立理由4-4)及び6(申立理由3-5及び申立理由4-5)についても、便宜上、請求項2についての新規性の判断も示した。 (1)甲3の記載及び甲3発明 甲3には、1回目の決定の予告の第5-2の2(1)に摘記したとおりの記載がある。 そして、当該摘記した記載、特に、摘記甲3cの記載によれば、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲3発明> 「1%水素ガスであって、当該ガス下で飼育することにより、マウスにおける、抗がん剤シスプラチンによって誘発される腎機能異常による生存率の低下を抑制するための、1%水素ガス。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「1%水素ガス」は、本件発明1の「分子状水素を含む」「組成物」であって、「前記分子状水素を含む気体」に相当するといえるし、甲3発明においては、マウスが「ガス下で飼育」されることから、「1%水素ガス」が「吸入によって投与」されているといえる。 また、甲3発明の「抗がん剤シスプラチンによって誘発される腎機能異常」は「生存率の低下」を起こすレベルのものであり、これは本件発明1の「腎臓疾患」に相当するといえるし、甲3発明の「1%水素ガス」が、甲3発明の「抗がん剤シスプラチンによって誘発される腎機能異常による生存率の低下」のための「有効成分」であることは明らかである。 さらに、本件発明1の「ヒト」も甲3発明の「マウス」も「被検体」であるといえる。 そうすると、両発明は以下の点で一致し、以下の相違点1-3及び2-3で相違する。 <一致点> 腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含む被検体の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 分子状水素を含む気体であり、 被検体の吸入によって投与される、 腎臓疾患を改善するための組成物。 <相違点1-3> 被検体の腎臓疾患を改善するための組成物が、本件発明1では、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するため」の組成物であって、「前記腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善する」ためのものであるのに対し、甲3発明では、「マウスにおける、抗がん剤シスプラチンによって誘発される腎機能異常による生存率の低下を抑制するため」のものである点。 <相違点2-3> 本件発明1では、分子状水素を含む気体が、分子状水素を「2体積%以上かつ18.5体積%以下」含む気体であるのに対し、甲3発明では、「1体積%」含む気体である点。 イ 新規性についての判断 上記相違点1-3及び2-3が実質的な相違点であることは明らかであるから、これらの相違点で甲3発明と相違する本件発明1について、甲3発明(甲3に記載された発明)であるということはできない。 ウ 進歩性についての判断 (ア) 相違点1-3に関し、甲3には、甲3発明の水素ガスを、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することについて記載も示唆もされていないし、抗がん剤シスプラチンによって誘発される腎機能異常による生存率の低下を抑制できる薬剤であれば、必ず糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善する作用を有するとの本件特許の優先日当時の技術常識があったとも認められない。 また、申立人が提出した甲1、2、4、5及び参考資料1~3、並びに、合議体が職権探知により本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した引用文献3、4、A、B、参考資料D及び周知文献1、2のいずれにも、分子状水素を含有する気体(水素ガス)を、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを動機付けるような記載はないし、分子状水素を含有する気体により、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善することが本件特許の優先日当時の技術常識であったともいえない。 そうすると、甲3発明の水素ガスを、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえないから、相違点2-3について検討するまでもなく、当業者は、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した文献からも、甲3発明を、本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。 (イ) 本件発明の効果に関し、本件明細書には、上記第5-2の1に記載するとおりの記載(2回目の決定の予告の第5-2の1で摘記した記載を含む)があり、本件明細書の当該記載、特に実施例2及び【0061】の記載によれば、本件発明で特定される濃度の分子状水素を含む気体を吸入することで、糖尿病から腎不全になり、血液透析を受け複数種類の薬剤を使用しても症状の改善がみられなかった患者の透析後の浮腫が改善(軽減)したことが理解できる。 そして、この効果は、甲3を含め、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が提示したいずれの文献からも、当業者が予測できない効果である。 (ウ) そうすると、本件発明1について、甲3発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、独立形式で記載された発明ではあるが、本件発明1の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明2についても、上記(2)で本件発明1について記載したと同様の理由によって、甲3発明であるということはできないし、また、甲3発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4)本件発明6について 本件発明6は、本件発明1又は2の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明6についても、上記(2)及び(3)で本件発明1及び2について記載したと同様の理由によって、甲3発明であるということはできないし、また、甲3発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (5)小括 以上のとおりであるから、申立理由3-3及び申立理由4-3には理由がない。 5 申立理由3-4及び申立理由4-4(甲4を主引例とする新規性及び進歩性欠如)について (1)甲4の記載及び甲4発明 甲4には、1回目の決定の予告の第5-2の2(2)に摘記したとおりの記載がある。なお、甲4は外国語で記載された文献であり、1回目の決定の予告の第5-2の2(2)における摘記は、合議体の訳による。 そして、当該摘記した記載、特に、摘記甲4aの記載によれば、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲4発明> 「水素ガス(空気中1%のH2)であって、吸入により投与され、抗がん剤シスプラチンによって誘発される担癌マウスの腎毒性を改善するための水素ガス。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「水素ガス(空気中1%のH2)」は、本件発明1の「分子状水素を含む」「組成物」であって、「前記分子状水素を含む気体」に相当するといえるし、甲4発明の「抗がん剤シスプラチンによって誘発される担癌マウスの腎毒性」は、本件発明1の「腎臓疾患」に相当するといえる。また、甲4発明の「水素ガス」が、甲4発明の「抗がん剤シスプラチンによって誘発される担癌マウスの腎毒性を改善」するための「有効成分」であることは明らかである。 さらに、本件発明1の「ヒト」も甲4発明の「マウス」も「被検体」であるといえる。 そうすると、両発明は以下の点で一致し、以下の相違点1-4及び2-4で相違する。 <一致点> 腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含む被検体の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 分子状水素を含む気体であり、 被検体の吸入によって投与される、 腎臓疾患を改善するための組成物。 <相違点1-4> 被検体の腎臓疾患を改善するための組成物が、本件発明1では、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するため」の組成物であって、「前記腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善する」ためのものであるのに対し、甲4発明では、「抗がん剤シスプラチンによって誘発される担癌マウスの腎毒性を改善するため」のものである点。 <相違点2-4> 本件発明1では、分子状水素を含む気体が、分子状水素を「2体積%以上かつ18.5体積%以下」含む気体であるのに対し、甲4発明では、「1体積%」含む気体である点。 イ 新規性についての判断 上記相違点1-4及び2-4が実質的な相違点であることは明らかであるから、これらの相違点で甲4発明と相違する本件発明1について、甲4発明(甲4に記載された発明)であるということはできない。 ウ 進歩性についての判断 (ア) 相違点1-4に関し、甲4には、甲4発明の水素ガスを、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することについて記載も示唆もされていないし、抗がん剤シスプラチンによって誘発される担癌マウスの腎毒性を改善できる薬剤であれば、必ず糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善する作用を有するとの本件特許の優先日当時の技術常識があったとも認められない。 また、申立人が提出した甲1~3、5及び参考資料1~3、並びに、合議体が職権探知により本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した引用文献3、4、A、B、参考資料D及び周知文献1、2のいずれにも、分子状水素を含有する気体(水素ガス)を、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを動機付けるような記載はないし、分子状水素を含有する気体により、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善することが本件特許の優先日当時の技術常識であったともいえない。 そうすると、甲4発明の水素ガスを、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえないから、相違点2-4について検討するまでもなく、当業者は、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した文献からも、甲4発明を、本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。 (イ) 本件発明の効果に関し、本件明細書には、上記第5-2の1に記載するとおりの記載(2回目の決定の予告の第5-2の1で摘記した記載を含む)があり、本件明細書の当該記載、特に実施例2及び【0061】の記載によれば、本件発明で特定される濃度の分子状水素を含む気体を吸入することで、糖尿病から腎不全になり、血液透析を受け複数種類の薬剤を使用しても症状の改善がみられなかった患者の透析後の浮腫が改善(軽減)したことが理解できる。 そして、この効果は、甲4を含め、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が提示したいずれの文献からも、当業者が予測できない効果である。 (ウ) そうすると、本件発明1について、甲4発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、独立形式で記載された発明ではあるが、本件発明1の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明2についても、上記(2)で本件発明1について記載したと同様の理由によって、甲4発明であるということはできないし、また、甲4発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4)本件発明6について 本件発明6は、本件発明1又は2の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明6についても、上記(2)及び(3)で本件発明1及び2について記載したと同様の理由によって、甲4発明であるということはできないし、また、甲4発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (5)小括 以上のとおりであるから、申立理由3-4及び申立理由4-4には理由がない。 6 申立理由3-5及び申立理由4-5(甲5を主引例とする新規性及び進歩性欠如)について (1)甲5の記載及び甲5発明 甲5には、1回目の決定の予告の第5-2の2(3)に摘記したとおりの記載がある。また、甲5の「Materials and Methods」の項目(117頁左欄下から2~1行)には、「水素ガス(H2ガス)は、1.29%のH2、26.1%のO2、72.61%のN2」と記載されている。 なお、甲5は外国語で記載された文献であるので、1回目の決定の予告の第5-2の2(3)の摘記及び上記117頁の摘記は、合議体の訳による。 そして、当該摘記した記載によれば、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲5発明> 「1.29%のH2、26.1%のO2、72.61%のN2で構成された水素ガスであって、吸入により投与され、造影剤誘発性急性腎障害(CIAKI)ラットモデルにおける、造影剤誘発性急性腎障害(CIAKI)を改善するための水素ガス。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「1.29%のH2、26.1%のO2、72.61%のN2で構成された水素ガス」は、本件発明1の「分子状水素を含む」「組成物」であって、「前記分子状水素を含む気体」に相当するといえるし、甲5発明の「造影剤誘発性急性腎障害(CIAKI)」は、本件発明1の「腎臓疾患」に相当するといえるし、甲5発明の「水素ガス」が、甲5発明の「造影剤誘発性急性腎障害(CIAKI)を改善」するための「有効成分」であることは明らかである。 さらに、本件発明1の「ヒト」も甲5発明の「ラット」も「被検体」であるといえる。 そうすると、両発明は以下の点で一致し、以下の相違点1-5及び2-5で相違する。 <一致点> 腎臓疾患に対する有効成分として分子状水素を含む被検体の腎臓疾患を改善するための組成物であって、 分子状水素を含む気体であり、 被検体の吸入によって投与される、 腎臓疾患を改善するための組成物。 <相違点1-5> 被検体の腎臓疾患を改善するための組成物が、本件発明1では、「ヒトの糖尿病由来の腎臓疾患を改善するため」の組成物であって、「前記腎臓疾患の改善が、腎不全の症状の改善であり、前記腎不全の症状の改善が、浮腫を改善する」ためのものであるのに対し、甲5発明では、「造影剤誘発性急性腎障害(CIAKI)ラットモデルにおける、造影剤誘発性急性腎障害(CIAKI)を改善するため」のものである点。 <相違点2-5> 本件発明1では、分子状水素を含む気体が、分子状水素を「2体積%以上かつ18.5体積%以下」含む気体であるのに対し、甲5発明では、「1.29体積%」含む気体である点。 イ 新規性についての判断 上記相違点1-5及び2-5が実質的な相違点であることは明らかであるから、これらの相違点で甲5発明と相違する本件発明1について、甲5発明(甲5に記載された発明)であるということはできない。 ウ 進歩性についての判断 (ア) 相違点1-5に関し、甲5には、甲5発明の水素ガスを、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することについて記載も示唆もされていないし、造影剤誘発性急性腎障害(CIAKI)ラットモデルにおける、造影剤誘発性急性腎障害(CIAKI)を改善できる薬剤であれば、必ず糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善する作用を有するとの本件特許の優先日当時の技術常識があったとも認められない。 また、申立人が提出した甲1~4及び参考資料1~3、並びに、合議体が職権探知により本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した引用文献3、4、A、B、参考資料D及び周知文献1、2のいずれにも、分子状水素を含有する気体(水素ガス)を、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを動機付けるような記載はないし、分子状水素を含有する気体により、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善することが本件特許の優先日当時の技術常識であったともいえない。 そうすると、甲5発明の水素ガスを、糖尿病由来の腎臓疾患である腎不全の症状である浮腫を改善するために使用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえないから、相違点2-5について検討するまでもなく、当業者は、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術を示す文献として提示した文献からも、甲5発明を、本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。 (イ) 本件発明の効果に関し、本件明細書には、上記第5-2の1に記載するとおりの記載(2回目の決定の予告の第5-2の1で摘記した記載を含む)があり、本件明細書の当該記載、特に実施例2及び【0061】の記載によれば、本件発明で特定される濃度の分子状水素を含む気体を吸入することで、糖尿病から腎不全になり、血液透析を受け複数種類の薬剤を使用しても症状の改善がみられなかった患者の透析後の浮腫が改善(軽減)したことが理解できる。 そして、この効果は、甲5を含め、申立人が提出したいずれの証拠及び合議体が提示したいずれの文献からも、当業者が予測できない効果である。 (ウ) そうすると、本件発明1について、甲5発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、独立形式で記載された発明ではあるが、本件発明1の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明2についても、上記(2)で本件発明1について記載したと同様の理由によって、甲5発明であるということはできないし、また、甲5発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4)本件発明6について 本件発明6は、本件発明1又は2の気体である組成物において、気体中の分子状水素の含有割合をさらに限定した発明に相当する。 そうすると、本件発明6についても、上記(2)及び(3)で本件発明1及び2について記載したと同様の理由によって、甲5発明であるということはできないし、また、甲5発明並びに申立人が提出した証拠及び本件特許の優先日当時の技術常識あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (5)小括 以上のとおりであるから、申立理由3-5及び申立理由4-5には理由がない。 7 まとめ 以上のとおり、申立理由1(1)には理由がなく、請求項1、2及び6に係る本件特許について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできない。また、申立理由3及び4には理由がなく、請求項1及び6に係る本件特許について、本件発明1及び6が同法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものということはできないし、請求項1、2及び6に係る本件特許について、本件発明1、2及び6が同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということもできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、令和5年3月30日付け取消理由通知(2回目の決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1、2及び6についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正後の請求項1、2及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項3~5及び7に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項3~5及び7が本件訂正により削除され、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-701188

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