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特許異議申立

2021-701160

混合液

審判番号
2021-701160
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-566010
登録番号
6887067
請求日
2021年12月08日
審決日
2023年04月07日
公報発行日
2023年07月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日本製紙株式会社
  • 【権利者代理人】藤本 芳洋
  • 【異議申立人】高橋 和秀
  • 【異議申立人】田中 理紗
審判長/審判官
  • 審判長 細井 龍史
  • 審判官 杉江 渉
  • 審判官 海老原 えい子
分類
P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L) / P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6887067号発明「混合液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6887067号の特許請求の範囲を令和4年11月29日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6887067号の請求項2~4に係る特許に対する申立てを却下する。 特許第6887067号の請求項1、5~7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6887067号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、令和2年6月17日を国際出願日(優先権主張 令和1年7月3日 日本国、令和2年1月27日 日本国)とする特許出願(特願2020-566010号)であって、令和3年5月19日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年6月16日である。)。 その後、令和3年12月8日に、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議申立人である高橋和秀(以下、「申立人A」という。)から、また、令和3年12月16日に、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議申立人である田中理沙(以下、「申立人B」という。)から、それぞれ特許異議の申立てがなされた。 1 特許異議申立て以降の経緯 本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。 令和4年 3月31日付け:取消理由通知 同年 6月 6日 :訂正請求、意見書(特許権者)の提出 同年 同月30日付け:通知(申立人A及び申立人B宛て) 同年 7月22日 :意見書(申立人A)の提出 同年 8月 5日 :意見書(申立人B)の提出 同年 9月30日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年11月29日 :訂正請求、意見書(特許権者)の提出 同年12月12日付け:通知(申立人A及び申立人B宛て) 令和5年 1月17日 :意見書(申立人A)の提出 なお、令和4年12月12日付け通知書に対し、申立人Bからの応答はなかった。 また、令和4年11月29日付けの訂正請求がされたことにより、令和4年6月6日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。 2 証拠方法 (1)申立人Aが提出した証拠方法 申立人Aが、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。 甲第1号証:特開2018-90454号公報 甲第2号証:特開2011-57567号公報 (以下、申立人Aが提出した上記甲第1号証、甲第2号証を「甲1A」、「甲2A」という。) (2)申立人Bが提出した証拠方法 ア 特許異議申立書に添付して提出した証拠方法 申立人Bが、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。 甲第1号証:特開2015-227517号公報 甲第2号証:特開2019-65264号公報 甲第2号証の1:三洋化成工業株式会社「Product Line 商品リスト 塗料 インキ用商品版」、2017年5月8日(https://www.sanyo-chemical.co.jp/wp/wp-content/uploads/2019/09/list_paintink..pdf#page=3) 甲第2号証の2:セルロースナノファイバー関連サンプル提供企業一覧<部素材産業-CNF研究会(近畿経済産業局(地独)京都市産業技術研究所)調べ>(http://tc-kyoto.or.jp/2017/04/2904_CNFSample3rd.pdf) 甲第2号証の3:第一工業製薬株式会社「セルロースナノファイバー レオクリスタR(当審注:「R」を丸囲み)」(https://www.dks-web.co.jp/pdf/catalog/rheocrysta.pdf#page=) 甲第3号証:特開2017-117695号公報 甲第4号証:特開2018-127626号公報 甲第4号証の1:BASF社「Technical Information「Dispex R(当審注:「R」を丸囲み)AA4040(old:Dispex R(当審注:「R」を丸囲み)A40」、2012年11月(https://mychem.ir/uploads/tds/27019.pdf) イ 令和4年8月5日付け意見書に添付して提出した証拠方法 申立人Bが、令和4年8月5日付け意見書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。 甲第5号証:紙パルプ技術協会、「紙パルプ技術便覧」、1992年1月30日(第5版発行)、第592~597頁 甲第6号証:特開2017-106012号公報 甲第7号証:特開2017-36217号公報 甲第8号証:特開2017-218493号公報 (以下、申立人Bが提出した上記甲第1号証~甲第8号証を「甲1B」~「甲8B」という。) 第2 本件訂正の内容 令和4年11月29日付けの訂正請求の趣旨は「特許第6887067号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものである。 請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲を「本件明細書等」という。訂正事項5~7の訂正事項については、当審で下線を付与した。) 1 訂正の内容 (1)各訂正事項について ア 訂正事項1について 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「以下の(1)~(3)を含有する混合液。 (1)分散剤 (2)アニオン変性セルロースナノファイバー (3)フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」と記載されているのを 「以下の(1)~(3) (1)分散剤として、カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液であって、 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である混合液。」に訂正する。 イ 訂正事項2について 訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。 ウ 訂正事項3について 訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。 エ 訂正事項4について 訂正前の特許請求の範囲の請求項4を削除する。 オ 訂正事項5について 訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「前記酸化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量が、0.4~1.0 mmol/gである請求項4記載の混合液。」と記載されているのを 「前記酸化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量が、0.4~1.0 mmol/gである請求項1記載の混合液。」に訂正する。 カ 訂正事項6について 訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「前記アニオン変性セルロースナノファイバーの添加量が、濃度0.1質量%以上である請求項1~5の何れか一項に記載の混合液。」と記載されているのを 「前記アニオン変性セルロースナノファイバーの添加量が、濃度0.1質量%以上である請求項1または5に記載の混合液。」に訂正する。 キ 訂正事項7 訂正前の特許請求の範囲の請求項7に「72時間静置した後の離水率が、1%未満である請求項1~6の何れか一項に記載の混合液。」と記載されているのを 「72時間静置した後の離水率が、1%未満である請求項1、5または6の何れか一項に記載の混合液。」に訂正する。 (2)一群の請求項 訂正事項1に係る訂正前の請求項1について、請求項2~7は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 よって、本件訂正は一群の請求項に対してされたものである。 2 判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における、(a)「(1)分散剤」について「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」に、(b)「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」について「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」に、(c)「(3)フィラー」について「無機系フィラー」に、さらに、(d)「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」と「(1)分散剤」の配合割合について「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である」とそれぞれ特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 (a)訂正事項1による訂正における請求項1の「(1)分散剤」について「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」に特定する訂正は、本件明細書の段落【0011】の「分散剤としては、本発明の効果を奏する限り特に制限なく用いることができ、例えば、カルボン酸系、・・・、ポリエーテル系、・・・など、いずれの低分子・高分子化合物も用いることができる」、段落【0012】の「分散剤として、アニオン性の高分子化合物を用いる場合は、カルボキシ基、・・・、リン酸基、・・・などの官能基を有する高分子化合物を用いることができ」る、さらに、段落【0015】の「ポリエーテル系の化合物としては、・・・、ポリエーテルアミン等が挙げられ」るとの記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。 (b)次に、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」について「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」に特定する訂正のうち、下限の「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上」である「酸化セルロースナノファイバー」とすることは、本件明細書の段落【0017】の「セルロースナノファイバーは、・・・、あるいは、アニオン変性したセルロース(カルボキシル化したセルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)、・・・などの化学変性により得られた変性セルロースを解繊することによって得ることができる」、段落【0022】の「アニオン変性により導入される官能基としては、カルボキシ基、・・・が挙げられる。中でも、・・・、カルボキシ基がより好ましい」、段落【0023】の「カルボキシル化の際には、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシ基の量が0.2~1.55mmol/gとなるように調整することが好まし」いとの記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。また、上限の「1.2mmol/g未満である」とすることは、本件明細書には「1.2mmol/g未満である」ことは記載されていないものの、令和4年3月31日付け取消理由通知書及び令和4年9月30日付け取消理由通知書(決定の予告)において引用した甲1A(特開2018-90454号公報)の段落【0031】の「上記アニオン変性されたセルロースを含有するセルロース繊維(B)においては、該セルロースは、該セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基の少なくとも一部が選択的に酸化変性されて・・・カルボキシル基のいずれかとなったものである。カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)は、1.2~2.5mmol/gの範囲であり、好ましくは1.5~2.0mmol/gの範囲である」の「カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)は、1.2~2.5mmol/g」の範囲を除くものであるから、新たな技術的事項を導入するものとはいえず、新規事項の追加に該当しない。 (c)次に、「(3)フィラー」について「無機系フィラー」と特定する訂正は、本件明細書の段落【0055】の「本発明に用いるフィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラーのいずれでもよい」との記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。 (d)さらに、「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」と「(1)分散剤」の配合割合を「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である」と特定する訂正については、本件明細書の段落【0016】に「本発明の混合液に対する分散剤の添加量は、フィラーを充分に分散可能な量を添加すればよく、フィラー100質量部に対して0.01~25質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい」と「分散剤」の量について「フィラー100質量部に対して0.01~25質量部」と連続した範囲が記載され、段落【0054】に「本発明の混合液に対するセルロースナノファイバーの添加量は、・・・この観点から混合液中のCNFの固形分濃度は0.01~5質量%が好ましく、濃度0.1~0.5質量%がより好ましい」と「混合液に対するセルロースナノファイバーの添加量」について連続した範囲が記載され、本件明細書の実施例の段落【0084】の【表1】の実施例1~16の「セルロースナノファイバー」の「添加濃度」と「分散剤」の「添加濃度」の値に着目し、「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」と「(1)分散剤」の配合割合を確認すると、下限値として、実施例3には1/20(=0.01%/0.2%)のものが、上限値として、実施例2には1/1(=0.1%/0.1%)のものが記載されているから、新規事項の追加に該当しない。 そして、訂正事項1によるいずれの訂正も、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。 ウ 令和5年1月17日付け意見書における申立人Aの主張について 令和5年1月17日付け意見書において、申立人Aは、(a)「特許権者は、訂正事項1において、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」と記載されているのを、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」に訂正した。そして、この訂正事項のうち、カルボキシ基の量の訂正の根拠について、・・・カルボキシ基の量の範囲の上限について、本件明細書には、・・・「1.2mmol/g末満」とすることは記載されていない」点、(b)「特許権者は、訂正事項1において、「混合液」を「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である混合液」に訂正した。そして、この訂正事項のうち、「1/20~1/1」の数値範囲について、・・・本件明細書には、アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する分散剤の添加量の比(以下、分散剤/CNFの比という。)について何ら記載されておらず、「1/20~1/1」との数値範囲は、上記のように【表1】からセルロースナノファイバーの添加濃度と分散剤の添加濃度を読み取り、それらの比を計算することによってはじめて導き出されるものである。すなわち、本件明細書には、分散剤/CNFの比について、その数値範囲が記載されていないだけでなく、そのような比を取るとの技術的意義も何ら記載されていないため、上記の1/20と1/1は、ある連続的な数値範囲の上限、下限等の境界値として記載されているとは認められず、新たな技術的事項を導入するものであることは明らかである」と主張している。 上記主張(a)及び(b)については、上記「2 判断」「(1)訂正事項1について」「イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更」で述べたとおりであり、新たな技術的事項を導入するものとまではいえない。 したがって、申立人Aの上記主張を採用することはできない。 (2)訂正事項2~4について ア 訂正の目的 訂正事項2~4による訂正は本件訂正前の請求項2~4を削除するものであるから、訂正事項2~3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項2~4による訂正は、単に特許請求の範囲を削除するものであるから、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (3)訂正事項5~7について ア 訂正の目的 訂正事項5~7による訂正は、上記の訂正事項2~4による訂正前の請求項2~4の削除に合わせて、本件訂正前の請求項5~7において、引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項5~7は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1~7による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 特許請求の範囲の記載 上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6887067号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7の以下のとおりのものである(以下、請求項1~7に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ともいう。本件の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】 以下の(1)~(3) (1)分散剤として、カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液であって、 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である混合液。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 前記酸化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量が、0.4~1.0 mmol/gである請求項1記載の混合液。 【請求項6】 前記アニオン変性セルロースナノファイバーの添加量が、濃度0.1質量%以上である請求項1または5に記載の混合液。 【請求項7】 72時間静置した後の離水率が、1%未満である請求項1、5または6の何れか一項に記載の混合液。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 取消理由及び異議申立の概要は、以下のとおりである。 なお、以下の記載において、本件特許の設定登録時の請求項1~7に記載された発明は「本件訂正前の本件発明1~7」といい、令和4年6月6日付け訂正請求書により訂正された請求項1~7に記載された発明は「令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1~7」といい、令和4年11月29日付けの訂正請求書により訂正された請求項1~5に記載された発明は、上記「第3 特許請求の範囲の記載」に記載したとおり、「本件発明1~7」ないしは「訂正後の本件発明1~7」という。本件の願書に添付した明細書については、いずれの訂正請求においても訂正されていないので、以下においても「本件明細書」という。 1 取消理由通知の概要 (1)令和4年3月31日付けの取消理由通知で通知した取消理由について 当審が令和4年3月31日付けの取消理由通知で通知した取消理由(以下「取消理由1」ということがある。)の概要は、以下に示すとおりである。 ア 取消理由1A(新規性) (ア)本件訂正前の本件発明1~4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由1A-1」という。)。 (イ)本件訂正前の本件発明1~4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由1A-2」という。)。 (ウ)本件訂正前の本件発明1~3、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Bに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由1A-3」という。)。 (エ)本件訂正前の本件発明1~2、4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Bに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由1A-4」という。)。 イ 取消理由1B(進歩性) (ア)本件訂正前の本件発明1~4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Aに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由1B-1」という。)。 (イ)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Aに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由1B-2」という。)。 (ウ)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由1B-3」という。)。 (エ)本件訂正前の本件発明1~2、4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由1B-4」という。)。 ウ 取消理由1C(サポート要件) 本件訂正前の本件発明1~7の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、後記「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)について」「ア 取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)の概要」「(ア)取消理由1Cの概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1~7についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (2)令和4年9月30日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について 当審が令和4年9月30日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由(以下「取消理由2」ということがある。)の概要は、以下に示すとおりである。 ア 取消理由2A(新規性) (ア)令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Bに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由2A-3」という。)。 イ 取消理由2B(進歩性) (ア)令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1、4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Aに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由2B-1」という。)。 (イ)令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1、4~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Aに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由2B-2」という。)。 (ウ)令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1、4~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由2B-3」という。)。 ウ 取消理由2C(サポート要件) 令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1、6~7の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)について」「ア 取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)の概要」「(イ)取消理由2Cの概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1、6~7についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 エ 取消理由2D(明確性) 令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1、4~7の記載は、後記「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由2D(明確性)について」「ア 取消理由2D(明確性)の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1、4~7についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 2 特許異議申立理由の概要 (1)申立人Aによる特許異議申立理由の概要 申立人Aによる特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。 ア 申立理由A1(新規性) (ア)本件訂正前の本件発明1~4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由A1-1」という。)。 (イ)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由A1-2」という。)。 イ 申立理由A2(進歩性) (ア)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Aに記載された発明及び甲2Aに記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由A2-1」という。)。 (イ)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Aに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「取消理由A2-2」という。)。 ウ 申立理由A3(サポート要件) 本件訂正前の本件発明1~7の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、後記「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)について」「ア 取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)の概要」「(ウ)申立理由A3の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1~7についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立人Bによる特許異議申立理由の概要 申立人Bによる特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。 ア 申立理由B1(新規性) (ア)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Bに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1-1」という。)。 (イ)本件訂正前の本件発明1~2、4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Bに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1-2」という。)。 (ウ)本件訂正前の本件発明1~4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3Bに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1-3」という。)。 (エ)本件訂正前の本件発明1~4、6~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4Bに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1-4」という。)。 イ 申立理由B2(進歩性) (ア)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B2-1」という。)。 (イ)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B2-2」という。)。 (ウ)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B2-3」という。)。 (エ)本件訂正前の本件発明1~7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B2-4」という。)。 ウ 申立理由B3(サポート要件) 本件訂正前の本件発明1~7の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、後記「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)について」「ア 取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)の概要」「(エ)申立理由B3の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1~7についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 エ 申立理由B4(実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明は、後記「第5 当審の判断」「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(3)申立理由B4(実施可能要件)について」「ア 申立理由B4(実施可能要件)の概要」に記載した点で、本件訂正前の本件発明1~7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の本件発明1~7についての特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 特許異議の申立ての審理対象である請求項1~7のうち、上記「第2 本件訂正の内容」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項2~4は、本件訂正により削除されているので、請求項2~4についての申立てを却下する。 当審は、当審が通知した取消理由1A~1C、2A~2C及び申立人Aがした申立理由A1~A3、申立人Bがした申立理由B1~B4によっては、いずれも、本件発明1、5~7に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 なお、取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3は、いずれもサポート要件に関するものであって同じ趣旨もしくは関連するものであるので、以下「1 取消理由について」「(2)取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)について」において、併せて検討する。 取消理由1A-1、1B-1、2B-1と申立理由A1-1、A2-1は、いずれも甲1Aを主引用例とする新規性、進歩性の理由に関するものであるから、以下「1 取消理由について」「(3)取消理由1A-1、1B-1、2B-1及び申立理由A1-1、A2-2(甲1Aを主引用例とする新規性、進歩性)について」において、併せて検討する。 取消理由1A-2、1B-2、2B-2と申立理由A1-2、A2-2は、いずれも甲2Aを主引用例とする新規性、進歩性の理由に関するものであるから、以下「1 取消理由について」「(4)取消理由1A-2、1B-2、2B-2及び申立理由A1-2、A2-2(甲2Aを主引用例とする新規性、進歩性)について」において、併せて検討する。 取消理由1A-3、1B-3、2B-3、2B-3と申立理由B1-1、B2-1は、いずれも甲1Bを主引用例とする新規性、進歩性の理由に関するものであるから、以下「1 取消理由について」「(5)取消理由1A-3、1B-3、2A-3、2B-3及び申立理由B1-1、B2-1(甲1Bを主引用例とする新規性、進歩性)について」において、併せて検討する。 取消理由1A-4、1B-4と申立理由B1-2、B2-2は、いずれも甲2Bを主引用例とする新規性、進歩性の理由に関するものであるから、以下「1 取消理由について」「(6)取消理由1A-4、1B-4及び申立理由B1-2、B2-2(甲2Bを主引用例とする新規性、進歩性)について」において、併せて検討する。 申立理由B1-3とB2-3は、いずれも甲3Bを主引用例とする新規性、進歩性の理由に関するものであるから、以下「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(1)申立理由B1-3、B2-3(甲3Bを主引用例とする新規性、進歩性)について」において、併せて検討する。 申立理由B1-4とB2-4は、いずれも甲4Bを主引用例とする新規性、進歩性の理由に関するものであるから、以下「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(2)申立理由B1-4、B2-4(甲4Bを主引用例とする新規性、進歩性)について」において、併せて検討する。 以下、事案に鑑みて、最初に取消理由2D(明確性)を検討した後、次に、取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)を検討し、その後、上記の各甲号証を主引用例とする新規性・進歩性の理由について検討する。 1 取消理由について (1)取消理由2D(明確性)について ア 取消理由2D(明確性)の概要 取消理由2Dの概要は、以下のとおりである。 令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1の「(1)分散剤としてのカルボキシ酸基を有するアニオン性高分子化合物」の「カルボキシ酸基」について、どのような官能基を意図しているのか不明確である。本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明4~7についても、上記同様の理由で、その記載は不明確である。 イ 判断 本件訂正により、「カルボキシ酸基」の記載が、本件明細書の段落【0012】、段落【0023】等に記載されている「カルボキシ基」の記載に訂正がされ、すなわち「カルボン酸基(-COOH基)」であることが明らかなものとなり、明確な記載となった。 ウ まとめ 取消理由2Dは本件訂正により解消されたので、取消理由2Dは理由がないものとなった。 (2)取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)について ア 取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)の概要 (ア)取消理由1Cの概要 取消理由1Cの概要は、以下のとおりである。 (a)本件訂正前の本件発明1の「分散剤」について、本件明細書の段落【0011】に「分散剤」については、本件明細書の段落【0011】に「分散剤としては、本発明の効果を奏する限り特に制限なく用いることができ、例えば、カルボン酸系、ウレタン系、アクリル樹脂系、ポリエーテル系、ポリエステル系、脂肪酸系など、いずれの低分子・高分子化合物も用いることができる」、「また、アニオン性、カチオン性、ノニオン性の種類についても、いずれの種類でも用いることができる」と記載されており、膨大な種類が存在するところ、本件明細書の実施例において、本件発明の上記課題を解決できることを確認した「分散剤」は、「分散剤」として段落【0080】~【0082】に記載された7種の「カルボン酸基」または「リン酸基」を有する「アニオン性高分子化合物」及び「ポリエーテルアミン」を用いたのみである。 そうすると、「分散剤」について特定のない本件発明1について、本件明細書の実施例等の記載から、あらゆる「分散剤」を用いても本件発明の課題を解決できることを直ちに認識できるとはいえない。 本件訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~7も同様である。 (b)本件訂正前の本件発明1の「アニオン変性セルロースナノファイバー」について、本件明細書の段落【0022】には「アニオン変性により導入される官能基としては、カルボキシ基、カルボキシメチル基、スルホン基、リン酸エステル基、ニトロ基が挙げられる」と記載されており、「スルホン基」、「ニトロ基」により「アニオン変性」することも記載されているところ、本件明細書の実施例において、本件発明の上記課題を解決できることを確認しているのは、段落【0070】~【0072】に記載された特定のTEMPO酸化により製造された3つの「アニオン変性セルロースナノファイバー」を用いたのみである。 「分散剤」の「分散安定性」の作用は、分散の対象となる「フィラー」の表面状態と、「分散剤」として機能する「分散剤」や「アニオン変性セルロースナノファイバー」との相互作用に基づくものであるといえる。 そうすると、「アニオン変性セルロースナノファイバー」について十分な特定のない本件訂正前の本件発明1について、本件明細書の実施例等の記載から、あらゆる「アニオン変性セルロースナノファイバー」を用いても本件発明の課題を解決できることを直ちに認識できるとはいえない。 本件訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~3、6~7も同様である。 (c)本件訂正前の本件発明1の「フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」について、本件明細書の段落【0055】には、「本発明に用いるフィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラーのいずれでもよい。粒子状、扁平状、繊維状などの形状も問わない」と記載され、段落【0056】~【0057】には、「無機系フィラー」、「有機系フィラー」について多様なものが例示されているところ、本件明細書の実施例において、本件発明の上記課題を解決できることを確認しているのは、段落【0083】に記載された「カオリン」、「炭酸カルシウム」、3種の「マイカ」である「無機フィラー」を用いたのみである。 「分散剤」の「分散安定性」の作用は、分散の対象となる「フィラー」の表面状態と、「分散剤」として機能する「分散剤」や「アニオン変性セルロースナノファイバー」との相互作用に基づくものであるといえる。 そうすると、「フィラー」について十分な特定のない本件訂正前の本件発明1について、本件明細書の実施例等の記載から、「コロダイルシリカ」を除くあらゆる「フィラー」を用いても本件発明の課題を解決できることを直ちに認識できるとはいえない。 本件訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~7も同様である。 (イ)取消理由2Cの概要 取消理由2Cの概要は、以下のとおりである。 令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」について、「カルボキシ基の量が0.2~1.55mmol/gの酸化セルロースナノファイバー」、「カルボキシメチル置換度が0.01~0.50のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー」及び「リン酸基置換度が0.001~0.40であるリン酸エステル化セルロースナノファイバー」の3つの「アニオン変性セルロースナノファイバー」を発明特定事項としているところ、本件明細書の実施例1~16において、本件発明の上記課題を解決したことを確認しているのは、「カルボキシ基の量が0.2~1.55mmol/gの酸化セルロースナノファイバー」のみであり、「カルボキシメチル置換度が0.01~0.50のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー」及び「リン酸基置換度が0.001~0.40であるリン酸エステル化セルロースナノファイバー」については、本願発明の上記課題を解決できることを具体的に確認していない。 そして、「カルボキシメチル置換度が0.01~0.50のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー」については「カルボキシメチル置換度」で特定され、その範囲も「0.01~0.50」と、「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基」の量も桁も異なるものであり、「カルボキシ基の量が0.2~1.55mmol/gの酸化セルロースナノファイバー」と本件発明の課題である「フィラーの分散安定性」において同等である判断できる技術常識や根拠があるとはいえない。また、「リン酸基置換度が0.001~0.40であるリン酸エステル化セルロースナノファイバー」についても、「リン酸基置換度」で特定され、その範囲も「0.001~0.40」と「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基」の量と桁も異なり、また、その範囲もより広いものであり、「カルボキシ基の量が0.2~1.55mmol/gの酸化セルロースナノファイバー」と本件発明の課題である「フィラーの分散安定性」において同等である判断できる技術常識や根拠があるとはいえない。 そうすると、「カルボキシメチル置換度が0.01~0.50のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー」や「リン酸基置換度が0.001~0.40であるリン酸エステル化セルロースナノファイバー」を用いた場合であっても、「カルボキシ基の量が0.2~1.55mmol/gの酸化セルロースナノファイバー」を用いた場合と同様に、本件発明の課題を解決できるとは、当業者であっても、直ちに認識できるとはいえない。 令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1を直接的又は間接的に引用し、「アニオン変性セルロースナノファイバー」について「カルボキシ基の量が0.2~1.55mmol/gの酸化セルロースナノファイバー」に特定しない本件発明6~7「アニオン変性セルロースナノファイバー」についても同様である。 (ウ)申立理由A3の概要 申立理由A3の概要は、以下のとおりである。 (a)本件訂正前の本件発明1には、フィラーについて「フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」との記載があるのみであり、コロイダルシリカを除くほかには特に限定されていない。 本件明細書において、上記課題を解決するものとして具体例により示されているのは、段落【0084】の【表1】の通り、フィラーとして無機系フィラーである「カオリン」、「炭酸カルシウム」及び「マイカ」を用いた例のみであり、有機系フィラーを用いた具体例は記載されていない。無機系フィラーと有機系フィラーとでは、分散剤に対する相互作用が異なることは明らかであるため、有機系フィラーを用いた場合に、本件特許発明の課題を解決できることを認識できるとはいえない。本件訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~7も同様である。 (b)本件訂正前の本件発明1では、「分散剤」についても「(1)分散剤」との包括的な記載があるのみであり、そのため、分散剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性なども包含される。しかしながら、本件特許明細書において、上記課題を解決するものとして具体例により示されているのは、段落【0084】の【表1】の通り、分散剤としてポリカルボン酸、カルボキシメチルセルロース、ポリエーテルアミン、卜リポリリン酸、ポリエーテルリン酸エステルであり、カチオン性の分散剤を用いた具体例は記載されていない。カチオン性の分散剤の場合、セルロースナノファイバーがアニオン変性であることから、両者の相互作用により分散剤としての機能を発揮できず、フィラーの分散安定性を阻害すると考えられ、アニオン性の分散剤を用いた場合のように本件特許発明の課題を解決できることを認識できるとはいえない。本件訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明4~7も同様である。 (エ)申立理由B3の概要 申立理由B3の概要は、以下のとおりである。 (a)本件訂正前の本件発明1は、セルロースナノファイバーと分散剤を併用することにより、フィラーの凝集を抑え沈降を防止する効果を得ることができるというものである (段落【0009】、【0089】等)。本件訂正前の本件発明1において、フィラーはコロイダルシリカを除くことが特定されるのみであって、あらゆる種類のフィラーを含み、無機系フィラーであっても有機系フィラーであってもよいことが本件明細書には記載されている(段落【0055】)。また、分散剤の種類についても本件発明1において 何ら特定はなく、いずれの種類であっても使用できることが本件明細書には記載されている(段落【0011】)。 これに対し、本件明細書の実施例は、CNFと分散剤の併用効果を示すものであるが、特定粒径の特定製品であるカオリン、炭酸カルシウム、及びマイカに対 し、特定の種類の分散剤を特定割合で使用した結果、分散剤を使用しない比較例よりも分散安定性に優れるという結果を示すに過ぎない。 したがって、当業者といえども、これらの実施例に基づき、本件発明1においてはあらゆる種類、大きさ、及び表面電荷を有するフィラーに対し、いかなる分散剤を組み合わせても、実施例と同等の併用効果が奏されるとは、到底推認することはできない。 (b)本件発明1は「アニオン性セルロースナノファイバー」によりフィラーの分散安定性を向上させるというものであり、本件明細書にはアニオン変性のためにカルボキシ基、カルボキシメチル基、スルホン基、リン酸エステル基、ニトロ基等を導入すればよいことが記載されている(段落【0022】)。しかし、そのアニオン性基の種類、及び変性の程度により、CNFによる分散効果が変動することは当業者の技術常識であるところ、この点、本件発明1においては何ら特定されていない。本件明細書の実施例では、カルボキシ基量が0.42~1.51mmol/gのカルボキシ変性CNFを用いた効果が、該CNF使用しなかった比較例との対比において示されているに過ぎない。ここで、アニオン性の官能基の種類が異なれば、その価数も異なるため、効果を奏するに必要な官能基量(mmol/g)についても、官能基の種類ごとに相違することは当然である。 したがって、当業者といえども、これらの特定の条件付きの実施例に基づき、本件発明1においてはあらゆる種類及び変性度のアニオン変性CNFを用いた場合であっても、実施例で示されると同等の併用効果を奏するとは、到底推認することはできない。 イ 判断 (ア)本件発明の課題について 本件発明の課題は、本件明細書の段落【0007】の記載からみて、「フィラーの分散安定性に優れるセルロースナノファイバーを含有する混合液を提供する」ことであるといえる。 (イ)判断 本件訂正により、本件発明1における「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」について「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」のみに特定され、令和4年6月6日付けで訂正された本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」について、「カルボキシメチル置換度が0.01~0.50のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー」及び「リン酸基置換度が0.001~0.40であるリン酸エステル化セルロースナノファイバー」とする態様については削除された。 したがって、上記取消理由2Cについては、本件訂正により解消されたといえる。 また、本件訂正により、本件発明1における「(1)分散剤」については「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」に特定され、「(3)フィラー」については「無機系フィラー」に特定され、さらに、(d)「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」と「(1)分散剤」の配合割合について「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である」と特定された。 そして、本件明細書の段落【0061】~【0089】の実施例においては、実施例1~16として、「(1)分散剤」として段落【0080】~【0082】に記載された7種の「カルボン酸基」または「リン酸基」を有する「アニオン性高分子化合物」及び「ポリエーテルアミン」のいずれかを用い、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」として段落【0070】~【0072】に記載された「カルボキシ基量」が「0.75mmol/g」、「1.51mmol/g」、「0.42mmol/g」のTEMPO酸化により製造された3つのいずれかの「アニオン変性セルロースナノファイバー」を用い、「フィラー」として「無機系フィラー」である「カオリン」、「炭酸カルシウム」、粒径の異なる3種の「マイカ」のいずれかを用い、本件発明の上記課題を解決したことが確認されており、本件訂正後の本件発明1の「混合液」であれば、当業者が本件発明の上記課題を解決できると認識し得るものになったといえる。 したがって、上記取消理由1C(a)~(c)、申立理由A3(a)~(b)及び申立理由B3(a)~(b)についても、本件訂正により解消されたといえる。 ウ まとめ 以上のとおり、取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3は、本件訂正により解消されたので、理由がないものとなったといえる。 (3)取消理由1A-1、1B-1、2B-1及び申立理由A1-1、A2-1(甲1Aを主引用例とする新規性、進歩性)について ア 甲1Aに記載された発明について 甲1Aの段落【0075】~【0109】の実施例における実施例2に着目すると、甲1Aには、 「無機材料(A)としてアルミナ(Al2O3)(Al-160SG-4、昭和電工社製)100gと、 分散剤(D)としてA-6114(カルボン酸系共重合体アンモニウム塩、東亞合成社製)0.2g、 含有するセルロース繊維の数平均繊維径は4nmであり、カルボキシル基の含有量は1.97mmol/gであるセルロース水分散体(B1)12.5g(セルロース繊維(B)の固形分として0.25g)、及び、 水(C)として脱イオン水32.5g を混合した混合液」の発明(以下「甲1A発明1」という。)が記載されているといえる。 同様に、実施例5に着目すると、 「無機材料(A)としてアルミナ(Al2O3)(Al-160SG-4、昭和電工社製)100gと、 分散剤(D)としてA-6114(カルボン酸系共重合体アンモニウム塩、東亞合成社製)0.2g、 含有するセルロース繊維の数平均繊維径は4nmであり、カルボキシル基の含有量は1.97mmol/gであるセルロース水分散体(B2)12.5g(セルロース繊維(B)の固形分として0.25g)、及び 水(C)として脱イオン水32.5g を混合した混合液」の発明(以下「甲1A発明2」という。)が記載されているといえる。 同様に、実施例6に着目すると、 「無機材料(A)としてアルミナ(Al2O3)(Al-160SG-4、昭和電工社製)100gと、 分散剤(D)としてA-6114(カルボン酸系共重合体アンモニウム塩、東亞合成社製)0.2g、 含有するセルロース繊維の数平均繊維径は10nmであり、カルボキシル基の含有量は1.86mmol/gであるセルロース水分散体(B3)12.5g(セルロース繊維(B)の固形分として0.25g)、及び、 水(C)として脱イオン水27.5g を混合した混合液」の発明(以下「甲1A発明3」という。)が記載されているといえる。 同様に、実施例7に着目すると、 「無機材料(A)としてアルミナ(Al2O3)(Al-160SG-4、昭和電工社製)100gと、 分散剤(D)としてA-6114(カルボン酸系共重合体アンモニウム塩、東亞合成社製)0.2g、 含有するセルロース繊維の数平均繊維径は4nmであり、カルボキシル基の含有量は1.97mmol/gであるセルロース水分散体(B1)12.5g(セルロース繊維(B)の固形分として0.25g)、及び、 水(C)として脱イオン水27.5g を混合した混合液」の発明(以下「甲1A発明4」という。)が記載されているといえる。 同様に、実施例8に着目すると、 「無機材料(A)としてアルミナ(Al2O3)(Al-160SG-4、昭和電工社製)100gと、 分散剤(D)としてA-6114(カルボン酸系共重合体アンモニウム塩、東亞合成社製)0.2g、 含有するセルロース繊維の数平均繊維径は12nmであり、カルボキシル基の含有量は1.79mmol/gであるセルロース水分散体(B4)12.5g(セルロース繊維(B)の固形分として0.25g)、及び、 水(C)として脱イオン水26.5g を混合した混合液」の発明(以下「甲1A発明5」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 a 本件発明1と甲1A発明1との対比 まず、本件発明1と甲1A発明1とを対比する。 甲1A発明1の「A-6114(カルボン酸系共重合体アンモニウム塩、東亞合成社製)」は、本件明細書の段落【0011】~【0013】の記載からみて、本件発明1の「分散剤」としての「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物」に相当するといえる。 甲1A発明1の「含有するセルロース繊維の数平均繊維径は4nmであり、カルボキシル基の含有量は1.97mmol/gであるセルロース水分散体(B1)」の「セルロース繊維」は、本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」と、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」である限りにおいて一致する。 甲1A発明1の「無機材料(A)としてアルミナ(Al2O3)(Al-160SG-4、昭和電工社製)」は、本件発明1の「(3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」に相当する。 甲1A発明1の「含有するセルロース繊維の数平均繊維径は4nmであり、カルボキシル基の含有量は1.97mmol/gであるセルロース水分散体(B1)12.5g(セルロース繊維(B)の固形分として0.25g)」の「固形分量」は「0.25g」であり、また、「A-6114(カルボン酸系共重合体アンモニウム塩、東亞合成社製)」の量は「0.2g」であるから、「含有するセルロース繊維」の「固形分量」に対する「A-6114(カルボン酸系共重合体アンモニウム塩、東亞合成社製)」の添加量は、1/1.25(=0.2/0.25)であり、本件発明1と同様に、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1」であるといえる。 そうすると、本件発明1と甲1A発明1とは、 「以下の(1)~(3) (1)分散剤として、カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、酸化セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液であって、 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である混合液。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1A:「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基の量」について、本件発明1では「0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満」であるのに対し、甲1A発明1では、「1.97mmol/g」である点。 b 本件発明1と甲1A発明2~5との対比 本件発明1と甲1A発明2~5とを、上記「a 本件発明1と甲1A発明1との対比」での検討を踏まえて行う。 甲1A発明2の「セルロース繊維の数平均繊維径は4nmであり、カルボキシル基の含有量は1.97mmol/gであるセルロース水分散体(B2)」、甲1A発明3の「含有するセルロース繊維の数平均繊維径は10nmであり、カルボキシル基の含有量は1.86mmol/gであるセルロース水分散体(B3)」、甲1A発明4の「含有するセルロース繊維の数平均繊維径は4nmであり、カルボキシル基の含有量は1.97mmol/gであるセルロース水分散体(B1)」、甲1A発明5の「含有するセルロース繊維の数平均繊維径は12nmであり、カルボキシル基の含有量は1.79mmol/gであるセルロース水分散体(B4)」は、いずれも本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1A発明2~5とは、甲1発明A1と同様に、 「以下の(1)~(3) (1)分散剤として、カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、酸化セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液であって、 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である混合液。」 である点で一致し、上記相違点1Aと同じく「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基の量」の点で相違する。 (イ)判断 上記相違点1Aについて、検討する。 相違点1Aは、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基の量」についての実質的な相違点であることから、本件発明1は、甲1Aに記載された発明であるとはいえない。 次に、相違点1Aについて、甲1Aから容易に想到し得たかについて検討する。 甲1Aの段落【0031】には、以下の事項が記載されている。 「上記アニオン変性されたセルロースを含有するセルロース繊維(B)においては、該セルロースは、該セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基の少なくとも一部が選択的に酸化変性されてアルデヒド基、ケトン基およびカルボキシル基のいずれかとなったものである。 カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)は、1.2~2.5mmol/gの範囲であり、好ましくは1.5~2.0mmol/gの範囲である。 カルボキシル基量が小さ過ぎると、セルロース繊維(B)の沈降や凝集を生じる場合があり、カルボキシル基量が大き過ぎると、水溶性が強くなり過ぎるおそれがある。 これに対し、カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)は、1.2~2.5mmol/gの範囲であることによって、セルロース繊維(B)の沈降や凝集を抑制することができ、また、水溶性が強くなり過ぎることも抑制し得る。」 すなわち、甲1Aには、「アニオン変性されたセルロースを含有するセルロース繊維(B)」の「カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)」について「1.2~2.5mmol/gの範囲」とした上で、「カルボキシル基量が小さ過ぎると、セルロース繊維(B)の沈降や凝集を生じる場合」があることが記載されており、当該記載をみた当業者であれば、「アニオン変性されたセルロースを含有するセルロース繊維(B)」の「カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)」を「1.2未満」とすることを動機付けることはできず、むしろ阻害要因になるといえる。 したがって、相違点1Aについて、甲1Aの記載から動機付けることはできない。 (ウ)令和5年1月17日付け意見書における申立人Aの主張について 令和5年1月17日付け意見書において、申立人Aは、「甲1Aの【0031】には、「カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)は、1.2~2.5mmol/gの範囲であり、好ましくは1.5~2.0mmol/gの範囲である。カルボキシル基量が小さ過ぎると、セルロース繊維(B)の沈降や凝集を生じる場合があり、カルボキシル基量が大き過ぎると、水溶性が強くなり過ぎるおそれがある。」と記載されているが、あくまでカルボキシ基量が小さ過ぎると不具合があると記載されているだけであって、1.2~2.5mmol/gを下回ると直ちに不具合があるとは記載されていない。よって、カルボキシ基量を1.2mmol/g未満に調整すること、特に1.2mmol/gを若干下回る程度の値に設定することに阻害要因があるとはいえない」と主張している。 しかしながら、甲1Aには、「カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)は、1.2~2.5mmol/gの範囲」(段落【0031】)と記載されていることから、この記載をみた当業者は、「カルボキシル基量」をわざわざ1.2mmol/g未満にしようと動機付けられることはないと解される。 したがって、申立人Aの上記主張を採用することはできない。 (エ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1Aに記載された発明であるとはいえず、また、甲1Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 ウ 本件発明5~7について 本件発明5~7は、本件発明1を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明5~7は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲1Aに記載された発明であるとはいえず、また、甲1Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ 取消理由1A-1、1B-1、2B-1及び申立理由A1-1、A2-1(甲1Aを主引用例とする新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、取消理由1A-1、1B-1、2B-1及び申立理由A1-1、A2-1は理由がない。 (4)取消理由1A-2、1B-2、2B-2及び申立理由A1-2、A2-2(甲2Aを主引用例とする新規性、進歩性)について ア 甲2Aに記載された発明について 甲2Aの段落【0060】~【0116】の実施例における実施例33に着目すると、甲2Aには、 「カルボキシル基量が1.98mmol/g、数平均繊維径が6nmのセルロース繊維T3を0.90部(固形分換算量)、 有機ベントナイトを10.00部、 カルボキシメチルセルロースを1.00部 水を88.10部 を配合した混合物」の発明(以下「甲2A発明」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2A発明とを対比する。 甲2A発明の「混合物」は、「水」が100部中88.10部配合されるものであるから、本件発明1と同様に「混合液」であるといえる。 甲2A発明の「混合物」中に「1.00部」配合される「カルボキシメチルセルロース」は、本件明細書の段落【0012】~【0013】の「分散剤として、アニオン性の高分子化合物を用いる場合は、カルボキシ基、・・・などの官能基を有する高分子化合物を用いることができ・・・。・・・カルボキシ基を有する高分子化合物としては、・・・、カルボキシメチルセルロース、・・・等が例示される」、段落【0016】の「本発明の混合液に対する分散剤の添加量は、フィラーを充分に分散可能な量を添加すればよく、フィラー100質量部に対して0.01~25質量部が好ましく・・・」の記載からみて、本件発明1の「(1)分散剤」としての「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物」に相当するといえる。 甲2A発明の「カルボキシル基量が1.98mmol/g、数平均繊維径が6nmのセルロース繊維T3」は、甲2Aの段落【0062】~【0064】の記載からみて、「TEMPO」を用いた酸化により「アニオン変性」されたものであり、「酸化セルロースナノファイバー」であるといえるから、本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」と、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」である限りにおいて一致する。 甲2A発明の「有機ベントナイト」は、本件明細書の段落【0055】~【0056】の「本発明に用いるフィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラーのいずれでもよい。・・・無機系フィラーとして、・・・ベントナイト・・・などが挙げられる」の記載からみて、「フィラー」であるといえるから、本件発明1の「(3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」と、「フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」である限りにおいて一致する。 甲2A発明の「カルボキシル基量が1.98mmol/g、数平均繊維径が6nmのセルロース繊維T3」の「固形分換算量」は「0.90部」であり、また、「カルボキシメチルセルロース」の量は「1.00部」であるから、「セルロース繊維T3」の「固形分量」に対する「カルボキシメチルセルロース」の添加量は、1.1/1(=1.00/0.90)となる。 そうすると、本件発明1と甲2A発明とは、 「以下の(1)~(3) (1)分散剤として、カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物 (2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、酸化セルロースナノファイバー (3)フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2A-1:「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基の量」について、本件発明1では「0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満」であるのに対し、甲2A発明では、「1.98mmol/g」である点。 相違点2A-2:「フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」について、本件発明1では「無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」であるのに対し、甲2A発明では「有機ベントナイト」である点。 相違点2A-3:「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」について、本件発明1では「1/20~1/1」であるのに対して、甲2A発明では「1.1/1」である点。 (イ)判断 上記相違点2A-1~2A-3について併せて検討する。 相違点2A-1~相違点2A-3は、それぞれ:「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基の量」、「フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」、「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」についての実質的な相違点であることから、本件発明1は、甲2Aに記載された発明であるとはいえない。 次に、相違点2A-1~相違点2A-3について、甲2Aから容易に想到し得たかについて検討する。 まず、相違点2A-1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基の量」について、甲2Aの段落【0024】には、「・・・上記特定のセルロース繊維(A成分)のカルボキシル基量は0.6~2.2mmol/gであり、分散安定性の点から、0.6~2.0mmol/gの範囲が好ましい」ことが記載され、段落【0062】~【0086】の実施例においては、「カルボキシル基量が1.00mmol/g、数平均繊維径が7nmのセルロース繊維T1」、「カルボキシル基量が0.75mmol/g、数平均繊維径が7nmのセルロース繊維T2」を作製したことも記載されている。 相違点2A-2の「フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」に相当する「疎水性固体(B成分)」について、甲2Aの段落【0033】~【0036】には、亜鉛末、アトマイズ青銅粉、アトマイズ鉄粉、アルミニウム粉、鋳物粉、鉄粉、電解銅粉、電解鉄粉、還元銅粉、活性アルミナ、アルミナ、ジルコニア、蛙目粘土、カオリナイト、カオリン、珪藻土、ゼオライト、マイカ、カオリンクレー、滑石、炭酸カルシウム等、本件明細書の段落【0055】に例示される「無機系フィラー」と同じものも記載されており、甲2Aの実施例の段落【0104】~【0107】には、実施例で具体的に用いた「疎水性固体(B成分)」として、「シリコーン処理アルミニウム粉」、「二硫化モリブデン」、「カーボンブラック」が記載されている。 また、相違点2A-3の「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」について、甲2Aには直接的な記載はなく、「カルボキシメチルセルロース」について、甲2Aの段落【0114】には「<水溶性高分子類> カルボキシメチルセルロース(CMC)」と記載され、段落【0042】に「任意成分は、つぎの通りである。すなわち、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等の界面活性剤類;・・・天然水溶性高分子、合成水溶性高分子、セルロース誘導体、アクリル系ポリマー等の水溶性高分子類・・・等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる」と、「任意成分」として記載されているのみであるが、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」の含有割合について、段落【0054】には「本発明の疎水性固体含有水系組成物における上記特定のセルロース繊維(A成分)の含有割合は、疎水性固体含有水系組成物全体の0.1~10.0重量%の範囲が好ましく、特に好ましくは0.2~5.0重量%の範囲である」ことが記載されている。 上述のとおり、各相違点2A-1~相違点2A-3それぞれについて、甲2Aには、本件発明1の態様に変更し得ることは一応記載されているとはいえる。 しかしながら、甲2A発明は、甲2Aの段落【0060】~【0116】の実施例1~41のうち、本件発明1の「(1)・・・カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」である「カルボキシメチルセルロース」を含む唯一の実施例である実施例33の態様であり、上述のとおり、甲2Aには、「カルボキシメチルセルロース」について段落【0044】に「任意成分」として記載されているのみであり、「分散剤」としての作用・機能を意図することも、その配合可能な範囲についても一切記載されていない。 そうすると、甲2A発明の具体的な態様において、「フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」について「有機ベントナイト」から「無機系フィラー」に変更した上で、「セルロース繊維(A成分)」の「カルボキシル基量」を「1.98mmol/g」から「0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満」にまで減じ、さらに、「混合物」中の「セルロース繊維(A成分)」の固形分量に対する「カルボキシメチルセルロース」の量を減じることまで積極的に動機付けることまではできず、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 そして、「混合液」の「分散安定性」の作用は、分散の対象となる「フィラー」の表面状態と、「分散剤」として機能する「分散剤」や「アニオン変性セルロースナノファイバー」との相互作用に基づくものであるところ、本件発明1において特定される「(1)分散剤」、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」、「(3)無機系フィラー」を含む「混合液」は、上記「(2)取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)について」「イ 判断」でも述べたとおり、本件明細書の段落【0061】~【0089】の実施例において、「離水率」、「粒子径の分散安定性」に優れることを具体的に確認された範囲内のものといえる。 したがって、相違点2A-1~相違点2A-3について併せて考慮すると、甲2Aの記載から動機付けることはできない。 (ウ)令和5年1月17日付け意見書における申立人Aの主張について 令和5年1月17日付け意見書において、申立人Aは、「甲2Aの【0054】には「本発明の疎水性固体含有水系組成物における上記特定のセルロース繊維(A成分)の含有割合は、疎水性固体含有水系組成物全体の0.1~10.0重量%の範囲が好ましく、特に好ましくは0.2~5.0重量%の範囲である。そして、本発明の疎水性固体含有水系組成物の粘度を高くしたい場合や、組成物をゲル状やクリーム状に仕上げたい場合には、上記セルロース繊維(A成分)の添加量を多くすることで対応でき、」と記載されている。甲2A発明として着目された甲2Aの【0102】の「実施例33」では「セルロース繊維T3」が「0.90部」であり、「カルボキシメチルセルロース」が「1.00部」であるところ、上記【0054】の記載に基づき、疎水性固体含有水系組成物の粘度を高くするためにセルロース繊維の添加量を多くすることは当業者が容易に想到し得ることである。すなわち、セルロース繊維の含有割合が0.90重量%である実施例33において、その含有割合を上記の特に好ましい範囲(0.2~5.0重量%)内で高くして、分散剤/CNFの比を1/1~1/5(ここで、5.0重量%の場合に1/5となる。)とすることは当業者が容易に想到し得ることである)」と主張している。 申立人Aの主張するとおり、甲1Bの段落【0055】の記載から、甲1B発明において、「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」を「1/20~1/1」の範囲とし得たとしても、本件発明1と甲1B発明1、2の相違点ではそれだけでなく、相違点1B-1もあり、上記「(イ)判断」で述べたとおり、甲1B発明1及び甲1B発明2の具体的な態様において、「セルロース誘導体」について「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のアニオン変性セルロース(カルボキシメチル基を導入したセルロース)」からその種類を変更して甲1Bの段落【0053】記載の「0.5~2.0mmol/gである」「酸化(カルボキシル化)セルロース」のナノファイバーとした上で、その「カルボキシ基の量」を、「0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満」に特定し、「ガスバリア層用塗工液B」中の「セルロース誘導体」の固形分量に対する「ポリアクリル酸ソーダ」の添加量を「1/50」から「1/20~1/1」に大きく変更することまで、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 したがって、申立人Aの上記主張をそのまま採用することはできない。 (エ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲2Aに記載された発明であるとはいえず、また、甲2Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 ウ 本件発明5~7について 本件発明5~7は、本件発明1を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明5~7は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲2Aに記載された発明であるとはいえず、また、甲2Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ 取消理由1A-2、1B-2、2B-2及び申立理由A1-2、A2-2(甲2Aを主引用例とする新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、取消理由1A-2、1B-2、2B-2及び申立理由A1-2、A2-2は理由がない。 (5)取消理由1A-3、1B-3、2A-3、2B-3及び申立理由B1-1、B2-1(甲1Bを主引用例とする新規性、進歩性)について ア 甲1Bに記載された発明について 甲1Bの段落【0066】~【0070】の実施例における実施例1に着目すると、甲1Bには、 「顔料である大粒径エンジニアードカオリン(イメリス社製バリサーフHX 粒子径9.0μm アスペクト比100)に、分散剤としてポリアクリル酸ソーダを、前記顔料100質量部に対して0.2部添加し、セリエミキサーで分散して固形分濃度55%とした顔料スラリー液、 クラレポリビニルアルコール117を濃度10%となるようクッカーにて蒸煮した、ポリビニルアルコール液、 グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のアニオン変性セルロース(カルボキシメチル基を導入したセルロース)を1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で3回処理して得た、アニオン変性セルロースナノファイバー(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)分散液、 を顔料、セルロースナノファイバー、ポリビニルアルコールの順に100/10/90質量部(固形分)となるよう添加して得た、ガスバリア層用塗工液B」の発明(以下「甲1B発明1」という。)が記載されているといえる。 また、同様に、甲1Bの実施例5に着目すると、甲1Bには、 「顔料であるマイカ(トピー工業株式会社製NTS-10、アスペクト比1000、粒子径12μm)に、分散剤としてポリアクリル酸ソーダを、前記顔料100質量部に対して0.2部添加し、セリエミキサーで分散して固形分濃度55%とした顔料スラリー液、 クラレポリビニルアルコール117を濃度10%となるようクッカーにて蒸煮した、ポリビニルアルコール液、 グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のアニオン変性セルロース(カルボキシメチル基を導入したセルロース)を1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で3回処理して得た、アニオン変性セルロースナノファイバー(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)分散液、 を顔料、セルロースナノファイバー、ポリビニルアルコールの順に100/10/90質量部(固形分)となるよう添加して得た、ガスバリア層用塗工液B」の発明(以下「甲1B発明2」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 a 本件発明1と甲1B発明1との対比 まず、本件発明1と甲1B発明1とを対比する。 甲1B発明1の「ポリアクリル酸ソーダ」は、本件発明1の「(1)分散剤」としての「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物」に相当する。 甲1B発明1の「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のアニオン変性セルロース(カルボキシメチル基を導入したセルロース)を1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で3回処理して得た、アニオン変性セルロースナノファイバー(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)」は、本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」と、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーである限りにおいて一致する。 甲1B発明1の「顔料である大粒径エンジニアードカオリン(イメリス社製バリサーフHX 粒子径9.0μm アスペクト比100)」は、本件発明1の「(3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」に相当する。 甲1B発明1の「ガスバリア層用塗工液B」には、「顔料、セルロースナノファイバー、ポリビニルアルコールの順に100/10/90質量部(固形分)」を含むものであり、「ポリアクリル酸ソーダ」は「顔料100質量部に対して0.2部添加」されたものであるから、「アニオン変性セルロースナノファイバー(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)」の「固形分量」に対する「ポリアクリル酸ソーダ」の添加量は、1/50(=0.2/10)となる。 そうすると、本件発明1と甲1B発明1とは、 「以下の(1)~(3) (1)分散剤としてのカルボキシ酸基を有するアニオン性高分子化合物 (2)アニオン変性セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1B-1:「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」について、本件発明1では「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」であるのに対し、甲1B発明では、「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のアニオン変性セルロース(カルボキシメチル基を導入したセルロース)を1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で3回処理して得た、アニオン変性セルロースナノファイバー(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)」である点。 相違点1B-2:「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」について、本件発明1では「1/20~1/1」であるのに対して、甲1B発明1では「1/50」である点。 b 本件発明1と甲1B発明2との対比 本件発明1と甲1B発明2とを、上記「a 本件発明1と甲1B発明1との対比」での検討を踏まえて行う。 甲1B発明2の「マイカ(トピー工業株式会社製NTS-10、アスペクト比1000、粒子径12μm)」は、本件発明1の「(3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1B発明2とは、甲1B発明1と同様に、 「以下の(1)~(3) (1)分散剤としてのカルボキシ酸基を有するアニオン性高分子化合物 (2)アニオン変性セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液」 である点で一致し、上記相違点1B-1及び相違点1B-2と同じく「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」及び「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」の点で相違する。 (イ)判断 上記相違点1B-1及び相違点1B-2について併せて検討する。 相違点1B-1~相違点1B-2は、それぞれ「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」の種類及び「カルボキシ基の量」、「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」についての実質的な相違点であることから、本件発明1は、甲1Bに記載された発明であるとはいえない。 次に、相違点1B-1~相違点1B-2について、甲1Bから容易に想到し得たかについて検討する。 まず、相違点1B-1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」の種類及び「カルボキシ基量」について、甲1Bの段落【0051】には「本発明において、セルロース誘導体とは、セルロースを出発原料とするフィルム上になった場合にガスバリア性を有する材料であり、カルボキシメチルセルロース及びその塩、アニオン変性(カルボキシメチル化、カルボキシル化)したセルロースナノファイバーなどを例示することができる」こと、段落【0053】には「本発明において、カルボキシルメチル化セルロースナノファイバーのカルボキシメチル基の置換度はグルコース単位当たりの0.01~0.50であることが好ましく、0.05~0.3であることがより好ましい。また、酸化(カルボキシル化)セルロースのカルボキシル基量は、セルロースの絶乾質量に対して、0.5~2.0mmol/gであることが好ましい」ことが記載されている。 また、相違点1B-2の「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」について、甲1Bには直接的な記載はなく、「分散剤」については段落【0061】に「本発明において、ガスバリア層には、バインダー樹脂、顔料の他、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、染料、蛍光染料等の通常使用される各種助剤を使用することができる」とのみ記載され、「分散剤」の含有量については記載されていないが、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」である「セルロース誘導体」の含有量について段落【0055】には「ガスバリア層に含有される、ポリビニルアルコールに対するセルロース誘導体との配合比率は、ポリビニルアルコール/セルロース誘導体=99/1~50/50(質量部)であることが好ましい」こと、段落【0056】には「ガスバリア層に含有される顔料に対するポリビニルアルコール及びセルロース誘導体の配合比率が、顔料/ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体=5/95~50/50(質量部)であることが好ましい」こと、すなわち、「顔料」と「セルロース誘導体」の配合比率も幅広い範囲とすることは記載されている。 上述のとおり、各相違点1B-1及び相違点1B-2それぞれについて、甲1Bには、本件発明1の態様に変更し得ることは一応は記載されているとはいえる。 しかしながら、甲1B発明1及び甲1B発明2は、「酸化セルロースナノファイバー」とは異なる「カルボキシメチル化セルロースナノファイバー」を用いるものであり、また、「分散剤」である「ポリアクリル酸ソーダ」についてどの程度配合し得るかについては、甲1Bの一般的記載には何ら記載されていない。 そうすると、甲1B発明1及び甲1B発明2の具体的な態様において、「セルロース誘導体」について「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のアニオン変性セルロース(カルボキシメチル基を導入したセルロース)」からその種類を変更して甲1Bの段落【0053】記載の「0.5~2.0mmol/gである」「酸化(カルボキシル化)セルロース」のナノファイバーとした上で、その「カルボキシ基の量」を、「0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満」に特定し、「ガスバリア層用塗工液B」中の「セルロース誘導体」の固形分量に対する「ポリアクリル酸ソーダ」の添加量を「1/50」から「1/20~1/1」に大きく変更することまで、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 そして、「混合液」の「分散安定性」の作用は、分散の対象となる「フィラー」の表面状態と、「分散剤」として機能する「分散剤」や「アニオン変性セルロースナノファイバー」との相互作用に基づくものであるところ、本件発明1において特定される「(1)分散剤」、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」、「(3)無機系フィラー」を含む「混合液」は、上記「(2)取消理由1C、取消理由2C、申立理由A3及び申立理由B3(サポート要件)について」「イ 判断」でも述べたとおり、本件明細書の段落【0061】~【0089】の実施例において、「離水率」、「粒子径の分散安定性」に優れることを具体的に確認された範囲内のものといえる。 したがって、相違点1B-1及び相違点1B-2について併せて考慮すると、甲1Bの記載から動機付けることはできない。 (ウ)令和5年1月17日付け意見書における申立人Aの主張について 令和5年1月17日付け意見書において、申立人Aは、「甲1Bの【0055】には「本発明において、ガスバリア層に含有される、ポリビニルアルコールに対するセルロース誘導体との配合比率は、ポリビニルアルコール/セルロース誘導体=99/1~50/50(質量部)であることが好ましい。」と記載されている。甲1B発明1、2として着目された甲1Bの【0069】の「実施例1」及び「実施例5」では、顔料/セルロース誘導体/ポリビニルアルコールの質量比が「100/10/90」であり、ここで、セルロース誘導体/ポリビニルアルコールの質量比を【0055】の記載に基づいて変更し、セルロース誘導体/ポリビニルアルコール=1/99にすると、顔料/セルロース誘導体/ポリビニルアルコール=100/1/99となる。甲1B発明1,2において、分散剤である「ポリアクリル酸ソーダ」は顔料100質量部に対して0.2質量部含まれるため、ポリアクリル酸ソーダ/セルロース誘導体の比は0.2/1 (=1/5)であり、本件特許発明1の分散剤/ CNFの比「1/20~1/1」の範囲内である。このように、甲1Bには、分散剤であるポリアクリル酸ソーダとアニオン変性セルロースナノファイバーであるセルロース誘導体との質量比を「1/20~1/1」の範囲に変更することが示唆されているといえる」と主張している。 申立人Aの主張するとおり、甲1Bの段落【0055】の記載から、甲1B発明において、「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」を「1/20~1/1」の範囲とし得たとしても、本件発明1と甲1B発明1、2の相違点ではそれだけでなく、相違点1B-1もあり、上記「(イ)判断」で述べたとおり、甲1B発明1及び甲1B発明2の具体的な態様において、「セルロース誘導体」について「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のアニオン変性セルロース(カルボキシメチル基を導入したセルロース)」からその種類も変更し「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」とした上で、「ガスバリア層用塗工液B」中の「セルロース誘導体」の固形分量に対する「ポリアクリル酸ソーダ」の添加量を「1/50」から「1/20~1/1」に大きく変更することまで、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 したがって、申立人Aの上記主張をそのまま採用することはできない。 (エ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲1Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 ウ 本件発明5~7について 本件発明5~7は、本件発明1を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明5~7は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲1Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲1Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ 取消理由1A-3、1B-3、2A-3、2B-3及び申立理由B1-1、B2-1(甲1Bを主引用例とする新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、取消理由1A-3、1B-3、2A-3、2B-3及び申立理由B1-1、B2-1は理由がない。 (6)取消理由1A-4、1B-4及び申立理由B1-2、B2-2(甲2Bを主引用例とする新規性、進歩性)について ア 甲2Bに記載された発明について 甲2Bの段落【0029】~【0042】の実施例における実施例2に着目すると、甲2Bには、 「ウレタン樹脂バインダー(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」) 5.92質量%、 球状のシリカエアロゲル(平均粒子径10μm、比表面積700m2/g、細孔容積4ml/g) 13.39質量% セルロースナノファイバー(第一工業製薬(株)製「レオクリスタ(登録商標)l-2SX」) 0.13質量% 水 80.56質量% とを添加して撹拌し、調整した塗料」の発明(以下「甲2B発明1」という。)が記載されているといえる。 同様に、実施例4に着目すると、甲2Bには、 「ウレタン樹脂バインダー(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」) 5.48質量%、 球状のシリカエアロゲル(平均粒子径10μm、比表面積700m2/g、細孔容積4ml/g) 12.40質量% セルロースナノファイバー(第一工業製薬(株)製「レオクリスタ(登録商標)l-2SX」) 0.27質量% 水 81.86質量% とを添加して撹拌し、調整した塗料」の発明(以下「甲2B発明2」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 a 本件発明1と甲2B発明1との対比 まず、本件発明1と甲2B発明1とを対比する。 甲2B発明1の「セルロースナノファイバー(第一工業製薬(株)製「レオクリスタ(登録商標)」は、甲第2号証の2の第2頁の最左段及び甲第2号証の3の第2頁の「第一工業製薬のCNF「レオクリスタ」」の記載からみて、「TEMPO酸化法により製造されるCNF」であることから、本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」と、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーとしての酸化セルロースナノファイバー」である限りにおいて一致する。 甲2B発明1の「球状のシリカエアロゲル(平均粒子径10μm、比表面積700m2/g、細孔容積4ml/g)」は、本件発明1の「(3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」に相当する。 また、甲2B発明1の「塗料」は、その成分からみて液体であることは明らかであるから、本件発明1と同様に「混合液」であるといえる。 そうすると、本件発明1と甲2B発明1とは、 「 以下の(2)~(3) (2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、酸化セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2B-1:「混合液」中に、本件発明1では「(1)分散剤として、カルボキシ酸基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」を含むのに対し、甲2B発明1では、「ウレタン樹脂バインダー(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」)」を含むものの、そのような「(1)分散剤」を含まない点。 相違点2B-2:「アニオン変性セルロースナノファイバー」としての「酸化セルロースナノファイバー」の「カルボキシ基の量」について、本件発明1では「0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満」であるのに対し、甲2B発明1では明らかでない点。 相違点2B-3:「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」について、本件発明1では「1/20~1/1」であるのに対して、甲2B発明1では、本件発明1に特定される「分散剤」を含んでいない点。 b 本件発明1と甲2B発明2との対比 本件発明1と甲2B発明2とを、上記「a 本件発明1と甲2B発明1との対比」での検討を踏まえて行うと、 本件発明1と甲1B発明2とは、甲1B発明1と同様に、 「以下の(2)~(3) (2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、酸化セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液」 である点で一致し、上記相違点2B-1~相違点2B-3と同じ点で相違する。 (イ)判断 上記相違点2B-1について検討する。 相違点2B-1は、それぞれ「(1)分散剤」の有無についての実質的な相違点である。仮に、甲2B発明1~2の「ウレタン樹脂バインダー(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」)」を本件明細書の段落【0011】の「分散剤としては、本発明の効果を奏する限り特に制限なく用いることができ、例えば、・・・、ウレタン系、・・・など、いずれの低分子・高分子化合物も用いることができる」との記載から「分散剤」であると解しても、甲2B発明1~2の「ウレタン樹脂バインダー(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」)」は「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」であるとはいえないから、相違点2B-1は、実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は、甲2Bに記載された発明であるとはいえない。 次に、相違点2B-1について、甲2Bから容易に想到し得たかについて検討する。 甲2Bには、段落【0024】には「本発明の断熱材用塗料は、シリカエアロゲル、水溶性バインダー、およびナノファイバーと、必要に応じて添加剤と、を水に分散させて調製すればよい」と、必要に応じて「添加剤」を加えてもよいことが記載されているものの、「(1)分散剤としてのカルボキシ酸基を有するアニオン性高分子化合物またはリン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」を添加することまでは記載されていない。むしろ、段落【0024】~【0025】の「シリカエアロゲルの分散性を考慮すると、以下の手順を採用することが望ましい。まず、水溶性バインダーが水に分散した分散液に、ナノファイバーが水に分散した分散液を添加して撹拌する。そこに、シリカエアロゲルの粉末を添加して撹拌する。親水性のナノファイバーを先に投入しておくと、それがシリカエアロゲルに絡み合うことで水とのなじみ性を良くすることができ、シリカエアロゲルの分散性を向上させることができる」との記載からは、「水溶性バインダー」、「ナノファイバー」、「シリカエアロゲル」以外の成分、特に「分散剤」を添加することは意図していないとも解される。 したがって、相違点2B-1について、甲2Bの記載から動機付けることはできない。 また、甲1Bには、上記「(5)取消理由1A-3、1B-3、2A-3、2B-3及び申立理由B1-1、B2-1(甲1Bを主引用例とする新規性、進歩性)について」「ア 甲1Bに記載された発明について」で述べたとおり、「ガスバリア層用塗工液B」において、「分散剤」として「ポリアクリル酸ソーダ」を配合することが記載されているものの、甲2B発明1~2は「断熱材用塗料」に係るものであるのに対し(甲2Bの特許請求の範囲の請求項1~4等を参照)、甲1Bに記載された発明は「紙製バリア包装材料」に係るものであり(甲1Bの特許請求の範囲の請求項1~6等を参照)、両者は用途が大きく異なるものである。 そうすると、甲1Bに、「分散剤」として「ポリアクリル酸ソーダ」を配合することが記載されているとしても、甲2B発明1~2の具体的な態様において、「ポリアクリル酸ソーダ」を添加することを動機づけることもできない。 したがって、本件発明1は、甲2Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲2Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲2Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 ウ 本件発明5~7について 本件発明5~7は、本件発明1を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明5~7は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲2Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲2Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 エ 取消理由1A-4、1B-4及び申立理由B1-2、B2-2(甲2Bを主引用例とする新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、取消理由1A-4、1B-4及び申立理由B1-2、B2-2は理由がない。 2 特許異議申立書に記載された申立理由のうち取消理由に採用されなかった理由について 申立理由A1-1~A1-2(新規性)、申立理由A2-1~A2-2(進歩性)、申立理由A3(サポート要件)、申立理由B1-1~B1-2(新規性)、申立理由B2-1~B2-2(進歩性)、申立理由B3(サポート要件)については、上記「1 取消理由について」において検討されたので、以下、申立理由B1-3~B1-4(新規性)、申立理由B2-3~B2-4(進歩性)、申立理由B4(実施可能要件)について検討を行う。 また、上述したとおり、申立理由B1-3とB2-3は、いずれも甲3Bを主引用例とする新規性、進歩性の理由に関するものであるから、以下「2 申立理由について」「(1)申立理由B1-3、B2-3(甲3Bを主引用例とする新規性、進歩性)について」において併せて検討し、申立理由B1-4とB2-4は、いずれも甲4Bを主引用例とする新規性、進歩性の理由に関するものであるから、以下「2 申立理由について」「(2)申立理由B1-4、B2-4(甲4Bを主引用例とする新規性、進歩性)について」において併せて検討する。 (1)申立理由B1-3、B2-3(甲3Bを主引用例とする新規性、進歩性)について ア 甲3Bに記載された発明について 甲3Bの段落【0120】~【0171】における実施例の実施例1に着目すると、甲3Bには、 「シリカ微粒子(富士シリシア化学(株)製、サイリシア310、粒子径:1.4μm)100gに分散媒として水51gを加え、T.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で3000rpmにて15分間撹拌し、その後、固形分濃度が2質量%の微細繊維状セルロース1(化学的処理方法:リン酸化、置換基量:1.60mmol/g、平均重合度:440)の懸濁液50g(微細繊維状セルロース1の固形分1gと水49gの懸濁液)を加え、ディスパーザーでさらに1時間撹拌して得た、シリカ微粒子50質量%、分散媒100質量部(上記分散媒51g+水49g)に対する微細繊維状セルロースの固形分濃度が1質量部の電池用セパレータ塗液」の発明(以下「甲3B発明」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3B発明とを対比する。 甲3B発明の「微細繊維状セルロース1(化学的処理方法:リン酸化、置換基量:1.60mmol/g、平均重合度:440)」は、本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」と、「(2)アニオン変性セルロース」である限りにおいて一致する。 甲3B発明の「シリカ微粒子(富士シリシア化学(株)製、サイリシア310、粒子径:1.4μm)」は、本件発明1の「(3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」に相当する。 また、甲3B発明の「電池用セパレータ塗液」は、その成分からみて液体であることは明らかであるから、本件発明1と同様に「混合液」であるといえる。 そうすると、本件発明1と甲2B発明1とは、 「 以下の(2)~(3) (2)アニオン変性セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点3B-1:「混合液」中に、本件発明1では「(1)分散剤として、カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」を含むのに対し、甲3B発明では、そのような「(1)分散剤」を含まない点。 相違点3B-2:「アニオン変性セルロースナノファイバー」について、本件発明1では「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」であるのに対し、甲3B発明1では「微細繊維状セルロース1(化学的処理方法:リン酸化、置換基量:1.60mmol/g、平均重合度:440)」である点。 相違点3B-3:「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」について、本件発明1では「1/20~1/1」であるのに対して、甲2B発明1では、本件発明1に特定される「分散剤」を含んでいない点。 (イ)判断 上記相違点3B-2について検討する。 上記相違点3B-2は、「アニオン変性セルロースナノファイバー」の種類についての実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲3Bに記載された発明であるとはいえない。 次に、相違点3B-2について、甲3Bから容易に想到し得たかについて検討する。 甲3Bには、「微細繊維状セルロース」について、段落【0040】には、「微細繊維状セルロースは、置換基を有するものであることが好ましく、置換基はアニオン基であることが好ましい。アニオン基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基及びスルホン基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。すなわち、本発明で用いられる微細繊維状セルロースはリン酸化セルロースであることが好ましい」と記載され、すなわち、「微細繊維状セルロース」として「アニオン基」である「カルボキシル基」及び「リン酸基」の「置換基」を有するものを用いることができることは記載されているものの、「リン酸化セルロースが好ましい」とされている。また、甲3Bの実施例においては、段落【0121】~【0132】には、実施例用の「微細繊維状セルロース」として、「リン酸化」されたもの、比較例用のものとして「TEMPO酸化」されたものが用いられ、段落【0169】~【0170】の実施例1~17と比較例1、4の評価結果からは、「微細繊維状セルロース」「リン酸化」されたものを用いた実施例1~17は、「TEMPO酸化」されたものを用いた比較例1、4に比べて「微粒子分散性」が優れるものとなることが示されている。 そうすると、甲3Bの実施例、比較例をも参照した当業者であれば、甲3B発明において、「微細繊維状セルロース1(化学的処理方法:リン酸化、置換基量:1.60mmol/g、平均重合度:440)」に代えて、「TEMPO酸化」されたものを用いることについて積極的に動機付けられることはないと解される。また、仮に、「TEMPO酸化」された「酸化セルロースナノファイバー」を用いることについて動機付けられたとしても、「酸化セルロースナノファイバー」について「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満」とすることまでも、動機付けられるとはいえない。 したがって、相違点3B-2について、甲3Bの記載から動機付けることはできない。 また、甲1Bにも、甲3B発明において、「微細繊維状セルロース1(化学的処理方法:リン酸化、置換基量:1.60mmol/g、平均重合度:440)」に代えて、「TEMPO酸化」されたものを用いることについて積極的に動機付けられることはないと解される。 したがって、相違点3B-2について、甲3B及び甲1Bの記載からも動機付けることはできない。 (ウ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲3Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲3Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 ウ 本件発明5~7について 本件発明5~7は、本件発明1を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明5~7は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲3Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲3Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ 申立理由B1-3、B2-3(甲3Bを主引用例とする新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、申立理由B1-3、B2-3は理由がない。 (2)申立理由B1-4、B2-4(甲4Bを主引用例とする新規性、進歩性)について ア 甲4Bに記載された発明について 甲4Bの段落【0059】~【0073】の実施例における【0060】の【表1】の「処方物A」に着目すると、甲4Bには、 「アルミナで被覆したルチル顔料(TiO2含有率:94%)10質量% 0.7μmのd50を持つリファイニングカオリン 10質量% 2.6μmのd50を持つCaCO3 18質量% 9μmのd50を持つタルク 6質量% MFC(2%のマイクロフィブリル化セルロース、8%mp同時処理CaCO3) 5質量% ナトロゾル(Natrosol)250MR(2%ヒドロキシエチルセルロース水溶液) 15質量% 脱泡剤(ディスペライア(Dispelair)CF24)0.3質量% 分散剤(ディスペックス(Dispex)A40及び10%カルゴン(Calgon) 0.85質量% 殺生物剤(アクチシド(Acticide)BX(N))0.2質量% pH調整剤(アンモニア 0.880) 0.05質量% バインダ(PVAラテックス) 14質量% レオロジー調整剤(1:2に希釈されたアクリゾル(Acrysol)TT935) 2.25質量% 水 8.35質量% 総量 100 の塗料処方物A」 の発明(以下「甲4B発明」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲4B発明とを対比する。 甲4B発明の「分散剤(ディスペックス(Dispex)A40)」は、甲4の1の第1頁からみて、アクリル酸ポリマーのアンモニウム水溶液であるといえるから、本件発明1の「分散剤」としての「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物」に相当するといえる。 甲4B発明の「MFC(2%のマイクロフィブリル化セルロース」は、本件発明1の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーとして、カルボキシ基の量がカルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」と、「セルロースナノファイバー」である限りにおいて一致する。 甲1A発明1の「アルミナで被覆したルチル顔料(TiO2含有率:94%)」、「0.7μmのd50を持つリファイニングカオリン」、「2.6μmのd50を持つCaCO3」及び「9μmのd50を持つタルク」は、本件発明1の「(3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く)」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲4B発明とは、 「以下の(1)~(3) (1)分散剤として、カルボキシ酸基を有するアニオン性高分子化合物 (2)セルロースナノファイバー (3)無機系フィラー(ただし、コロイダルシリカを除く) を含有する混合液」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点4B-1:「(2)セルロースナノファイバー」について、本件発明1では「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」であるのに対し、甲4B発明では「MFC(2%のマイクロフィブリル化セルロース」である点。 相違点4B-2:「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量」について、本件発明1では「1/20~1/1」であるのに対して、甲4B発明では、明らかでない点。 (イ)判断 上記相違点4B-1について、検討する。 相違点4B-1は、「セルロースナノファイバー」の種類についての実質的な相違点であることから、本件発明1は、甲4Bに記載された発明であるとはいえないから、本件発明1は、甲4Bに記載された発明であるとはいえない。 次に、相違点4B-1について、甲4Bから容易に想到し得たかについて検討する。 甲4Bの段落【0011】~【0012】、【0014】~【0020】、【0022】~【0028】には、「マイクロフィブリル化セルロース」及び「セルロースを含む繊維状支持体」について記載されているものの、「マイクロフィブリル化セルロース」として「アニオン変性」したものを用いることさえ記載されておらず、「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」を用いることについて記載も示唆もされていない。 さらに、甲1Bにも、甲4B発明において、「マイクロフィブリル化セルロース」として「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」を用いることについて動機付ける記載はない。 したがって、本件発明1は、甲4B発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 (ウ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲4Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲4Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 ウ 本件発明5~7について 本件発明5~7は、本件発明1を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明5~7は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲4Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲4Bに記載された発明及び甲1Bに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ 申立理由B1-4、B2-4(甲4Bを主引用例とする新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、申立理由B1-4、B2-4も理由がない。 (3)申立理由B4(実施可能要件)について ア 申立理由B4(実施可能要件)の概要 申立理由B4の概要は、以下のとおりである。 本件訂正前の本件発明1~7では、分散剤、アニオン変性CNF、及びフィラーが非常に広範であって、発明の効果を奏するために必要であるそれらの組み合わせについて何ら特定されていない。 そうすると、構成に基づく効果の予測が困難な当該技術分野において、本件明細書に具体的に記載された実施例の混合液以外の混合液について、所期の効果を奏する本件訂正前の本件発明1~7を製造するためには、当業者の過度の試行錯誤が必要であると言わざるを得ない。 イ 判断 (ア)特許法第36条第4項第1号の判断手法について 特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 (イ)判断 本件訂正により、本件発明1における「(1)分散剤」については「カルボキシ基を有するアニオン性高分子化合物、リン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」に特定され、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」について「カルボキシ基の量が0.2mmol/g以上1.2mmol/g未満である酸化セルロースナノファイバー」のみに特定され、「(3)フィラー」については「無機系フィラー」に特定され、さらに、(d)「混合液」中の「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」と「(1)分散剤」の配合割合について「(2)アニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量に対する(1)分散剤の添加量が1/20~1/1である」と特定された。 そして、本件明細書の段落【0013】~【0015】には「カルボキシ酸基を有するアニオン性高分子化合物またはリン酸基を有するアニオン性高分子化合物またはポリエーテルアミンから選ばれる少なくとも1種」の「分散剤」の具体例が示され、段落【0023】~【0036】には「酸化セルロースナノファイバー」の製造方法等について記載され、段落【0055】には「無機系フィラー」の具体例が示されている。 さらに、本件明細書の段落【0061】~【0089】の実施例においては、実施例1~16として、「(1)分散剤」として段落【0080】~【0082】に記載された7種の「カルボン酸基」または「リン酸基」を有する「アニオン性高分子化合物」及び「ポリエーテルアミン」のいずれかを用い、「(2)アニオン変性セルロースナノファイバー」として段落【0070】~【0072】に記載された「カルボキシ基量」が「0.75mmol/g」、「1.51mmol/g」、「0.42mmol/g」のTEMPO酸化により製造された3つのいずれかの「アニオン変性セルロースナノファイバー」を用い、「フィラー」として「無機系フィラー」である「カオリン」、「炭酸カルシウム」、粒径の異なる3種の「マイカ」のいずれかを用いた例も示されている。 そうすると、本件明細書には、本件発明1の「混合液」自体について、当業者が過度の試行錯誤なく製造できるように、具体的に記載されているといえる。 また、本件発明1を引用する本件発明5~7についても同様である。 ウ まとめ 以上のとおり、申立理由B4(実施可能要件)も理由がない。 第6 むすび 特許第6887067号の特許請求の範囲を令和4年11月29日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6887067号の請求項2~4に係る特許に対する申立てを却下する。 当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1、5-7に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件発明1、5-7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-701160

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