特許異議申立
2021-701146
乳化物
- 審判番号
- 2021-701146
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-173197
- 登録番号
- 6883312
- 請求日
- 2021年12月06日
- 審決日
- 2023年02月20日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社東洋新薬
- 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】平松 由紀子
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 【異議申立人】中嶋 美奈子
- 審判長/審判官
- 審判長 岡崎 美穂
- 審判官 井上 典之
- 審判官 馬場 亮人
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6883312号発明「乳化物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6883312号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第6883312号の請求項1及び4に係る特許を維持する。
特許第6883312号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6883312号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2016-173197号)は、平成28年9月5日の特許出願であって、令和3年5月12日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数:4)、同年6月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1~4に係る特許に対して、
・令和3年12月6日に、特許異議申立人 平松由紀子 (以下「申立人
A」という。)により特許異議の申立てがされ、
・令和3年12月6日に、特許異議申立人 田中眞喜子 (以下「申立人
B」という。)により特許異議の申立てがされ、
・令和3年12月8日に、特許異議申立人 中嶋美奈子 (以下「申立人
C」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和4年 3月25日付け:取消理由通知(特許権者宛て)
同年 5月27日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 6月 6日付け:訂正請求があった旨の通知(申立人A、B、
C宛て)
同年 7月 5日 :意見書の提出(申立人B)
同年 8月 5日付け:訂正拒絶理由通知(特許権者宛て)
同年 同月30日 :手続補正書及び意見書の提出(特許権者)
なお、申立人A及びCは、令和4年6月6日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正請求書の補正及びその適否
令和4年8月30日提出の手続補正書による補正の内容は、同年5月27日提出の訂正請求書による訂正事項1~11のうち、訂正事項4及び5について、それぞれ特許請求の範囲の請求項2及び3を削除する訂正事項に変更し、訂正事項6について、請求項4の引用先から請求項2及び3を削除する訂正に変更し、訂正事項7~11を削除するものであるから、当該補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
なお、上記手続補正書第1頁の下から第5行に記載の「訂正事項3」、同頁下から第4行に記載の「訂正事項4」、同頁下から第3行に記載の「訂正事項5」、及び、同頁下から第1行に記載の「訂正事項6」は、同第2頁~第3頁における補正後の訂正事項の記載内容からみて、それぞれ、「訂正事項4」、「訂正事項5」、「訂正事項6」、及び、「訂正事項7」の明らかな誤記と認める。(下線は、いずれも当審合議体が付したものである。)
したがって、上記補正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第131条の2第1項の規定に適合するから、当該補正を認める。
2 訂正の内容
令和4年8月30日提出の手続補正書により補正された、同年5月27日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下の訂正事項1~6のとおりである(下線部は、訂正箇所又は訂正事項の補正箇所を示す。)。
なお、上記訂正事項1~6に係る訂正前の請求項1~4について、請求項4は、請求項1~3の記載を引用するものであって、訂正事項1~3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、請求項4において引用されている請求項2及び3は、訂正事項4及び5により削除されるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項1~4についてされたものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」
とあるのを、
「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である、乳化物」
とあるのを、
「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(A)成分が1.5~5質量%であり、(C)成分が10~30質量%であり、塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる乳化物」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「(ただし、平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するものを除く)。」
とあるのを、以下のように訂正する。
「(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
請求項1の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4の引用先から請求項2及び3を削除する。
すなわち、特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化物」
とあるのを、
「請求項1に記載の乳化物」
と訂正する。
3 訂正事項についての訂正要件の判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、請求項1に記載されている「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」を、これに包含される「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」に具体的に特定し、さらに限定するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、請求項1の上記訂正に連動する請求項4の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項1における「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」について、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0016】には、「本発明に用いることができるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、・・・、ジステアリン酸ポリグリセリル-10、・・・等が挙げられる。これらの中でも、使用感が良好である点で、ジステアリン酸ポリグリセリル-10を用いることが特に好ましい。」と記載されており、同明細書の【0048】~【0049】【表1】には、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」として「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を使用した化粧料(O/W型乳化物)の実施例1~4、6~8も記載されている。(摘記における下線は、当審合議体が付したものである。以下同じ。)
そうすると、訂正事項1による訂正は、明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項1についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、請求項1に記載されている「乳化物」について、配合量が特定されていない(A)成分及び(C)成分の配合量を、それぞれ「(A)成分が1.5~5質量%」及び「(C)成分が10~30質量%」と特定し限定するとともに、乳化物の性状を「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」と特定し限定するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、請求項1の上記訂正に連動する請求項4の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項2における「(A)成分が1.5~5質量%」について、本件明細書の【0015】には、「乳化物の全量に対して、(A)成分の配合量の下限値は、例えば、・・・、1.5質量%以上、・・・であってもよい。これらの中でも、安定性のよい乳化物が得られる点で、1.5質量%以上が好ましく、・・・。また、乳化物の全量に対して、(A)成分の配合量の上限値は、例えば、・・・、5質量%以下、・・・であってもよい。これらの中でも、界面活性剤による皮膚刺激性が少ない点で、・・・、5質量%以下がさらに好ましく、・・・。」と記載されている。
また、訂正事項2における「(C)成分が10~30質量%」について、本件明細書の【0035】には、「(C)成分の配合量(合計量)の下限値は、乳化物の全量に対して、・・・。(C)成分の配合量の下限値は、・・・、10質量%以上、・・・であってもよい。・・・。また、(B)成分の配合量の上限値は特に限定されないが、例えば、・・・、30質量%以下、・・・であってもよい。これらの中でも、特に使用感が良好である点で、・・・、30質量%以下がさらに好ましく、・・・。」と記載されている。
そして、訂正事項2における「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」について、本件明細書の【0001】には、「本発明は、皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になることを特徴とする乳化物に関する。」と記載され、同明細書の【0040】には、「本発明における乳化物は、皮膚上で延伸する前は、液状又は乳液状である。・・・。これらの中でも、皮膚上で延伸する際にクリーム化した実感が得られやすい点で、・・・。」との記載があり、同明細書の【0043】には、「本発明の乳化物が「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になる」現象は、皮膚表面に存在する電解質が乳化物に作用し、乳化物の流動性が急激に減少することに起因すると考えられる。・・・、本発明においては、1)実際に乳化物を皮膚へ塗布し延伸することによってクリーム化する、又は、2)上記のように、乳化物に対してクエン酸Na水溶液を添加して撹拌することにより乳化物の流動性が実質的になくなる、という2つの条件のいずれかを満たせば、「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になる」乳化物であるとみなす。」と記載されている。
さらに、本件明細書の【0048】~【0049】【表1】及び【0050】~【0055】には、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」の配合量が「1.5~5質量%」の範囲内であり、「(C)低級アルコール」に該当する成分の量が「10~30質量%」の範囲内である化粧料(O/W型乳化物)の実施例1~4、6~8が記載されており、これらの化粧料が皮膚上で延伸した際にクリーム化したことも記載されている。
そうすると、訂正事項2による訂正は、明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項2についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、請求項1に記載の「乳化物」から、同項に記載した事項の表現を残したままで、「ただし、」として除外する対象に、取消理由通知において新規性・進歩性欠如の主引例の1つとされた甲C10(特開2003-300898号公報)に記載の「冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」を追加するものであるから、当該「乳化物」を限定するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、請求項1の上記訂正に連動する請求項4の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、請求項1に記載の「乳化物」から、同項に記載した事項の表現を残したままで、「ただし、」として除外する対象に、「冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」を追加するものであり、本件明細書の【0048】~【0049】【表1】に記載された各実施例の乳化物には、「冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」に該当するものはないことから、当該特定の事項を除外することによって、訂正前の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項3についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、請求項2を削除するものにすぎないから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえないことは明らかであり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(5) 訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、請求項3を削除するものにすぎないから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえないことは明らかであり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(6) 訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、請求項4が請求項1~3のいずれか1項を引用するものであるところ、訂正事項4及び訂正事項5によって、請求項2及び請求項3が削除されるのに伴い、請求項4が請求項1のみを引用するものとし、引用する請求項の数を減少させる訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項6による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(7) 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、訂正前のすべての請求項である請求項1~4に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正事項1~6による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものではあるが、訂正後の請求項1~4に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
4 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、令和4年8月30日提出の手続補正書により補正された、同年5月27日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件特許に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の請求項1~4(以下、請求項の番号順に「本件請求項1」等という。)の記載は、令和4年8月30日提出の手続補正書により補正された、同年5月27日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次のとおりのものであり、本件請求項1~4に係る発明を、以下、請求項の番号順に「本件発明1」等といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。なお、下線は本件訂正による訂正箇所である。
「【請求項1】
(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(A)成分が1.5~5質量%であり、(C)成分が10~30質量%であり、塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
化粧料であることを特徴とする、請求項1に記載の乳化物。」
第4 当審において通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~4に係る発明の特許について、当審において令和4年3月25日付けの取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
[取消理由1](新規性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の下記の請求項に係る発明についての特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[取消理由2](進歩性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、 本件特許の下記の請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[取消理由3](サポート要件)
本件特許の下記の請求項に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
記(引用文献については引用文献一覧参照)
1 甲A1を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲A1
2 甲A2を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 2、4
・引用文献 甲A2
3 甲A3を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 2、4
・引用文献 甲A3
4 甲A4を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、3、4
・引用文献 甲A4
5 甲B1を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1~4
・引用文献 甲B1
6 甲B2を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 2、4
・引用文献 甲B2
7 甲B3を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1~4
・引用文献 甲B3
8 甲B4を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 2~4
・引用文献 甲B4
9 甲B5を主引例とする進歩性の欠如
・請求項 1、3、4
・引用文献 甲B5
10 甲C1を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1~4
・引用文献 甲C1
11 甲C2を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、2、4
・引用文献 甲C2
12 甲C3を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲C3
13 甲C4を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲C4
14 甲C5を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲C5
15 甲C6を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲C6
16 甲C7を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲C7
17 甲C8を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1
・引用文献 甲C8
18 甲C9を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲C9
19 甲C10を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、2、4
・引用文献 甲C10
20 甲C11を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1
・引用文献 甲C11
21 甲C12を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲C12
22 甲C13を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 2、4
・引用文献 甲C13
23 甲C14を主引例とする新規性・進歩性の欠如
・請求項 1、4
・引用文献 甲C14
24 サポート要件違反
・請求項 1~4
本件発明1~4は、課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載したものでない。
<引用文献一覧>
甲A1 特開2014-114289号公報
(申立人Aが提出した甲第1号証)
甲A2 特開2005-41830号公報
(申立人Aが提出した甲第2号証)
甲A3 特開2006-347950号公報
(申立人Aが提出した甲第3号証)
甲A4 特開2014-73991号公報
(申立人Aが提出した甲第4号証)
甲B1 国際公開第2015/033757号
(申立人Bが提出した甲第1号証)
甲B2 特開2002-114631号公報
(申立人Bが提出した甲第2号証)
甲B3 特開2006-282568号公報
(申立人Bが提出した甲第3号証)
甲B4 特開2007-291035号公報
(申立人Bが提出した甲第4号証)
甲B5 特開平09-151112号公報
(申立人Bが提出した甲第5号証)
甲C1 特開2008-266252号公報
(申立人Cが提出した甲第1号証)
甲C2 特開2016-74660号公報
(申立人Cが提出した甲第2号証)
甲C3 特開2013-53146号公報
(申立人Cが提出した甲第3号証)
甲C4 特開2016-104730号公報
(申立人Cが提出した甲第4号証)
甲C5 国際公開第2011/052674号
(申立人Cが提出した甲第5号証)
甲C6 特開2007-126438号公報
(申立人Cが提出した甲第6号証)
甲C7 特開2004-182720号公報
(申立人Cが提出した甲第7号証)
甲C8 特開2012-31068号公報
(申立人Cが提出した甲第8号証)
甲C9 特開2013-199443号公報
(申立人Cが提出した甲第9号証)
甲C10 特開2003-300898号公報
(申立人Cが提出した甲第10号証)
甲C11 国際公開第2014/051115号
(申立人Cが提出した甲第11号証)
甲C12 特開2007-326829号公報
(申立人Cが提出した甲第12号証)
甲C13 特開2004-238354号公報
(申立人Cが提出した甲第13号証)
甲C14 特開2009-234971号公報
(申立人Cが提出した甲第14号証)
第5 取消理由についての当審の判断
当審合議体は、本件訂正後の請求項1及び4に係る発明の特許は、上記取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠によっては、取り消すことはできないものと判断する。
その理由の詳細は、以下のとおりである。
1 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
(1) 甲A1を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲A1
ア 甲A1に記載された発明
甲A1の【0068】「処方例14」の記載からみて、甲A1には次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。また、甲A1の【0051】には、処方例中の%は、質量%を意味することが記載されている。(当審注:下線は当審合議体が付した。以下、他の引用文献について摘記した事項及び認定した発明における下線も同様である。)
<<甲A1発明>>
「以下のA、B、Cの各成分を含有する乳液。
A.
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 1.0質量%
テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール 0.5質量%
モノステアリン酸ソルビタン 1.0質量%
ステアリン酸 0.5質量%
ベヘニルアルコール 0.5質量%
ミツロウ 0.5質量%
スクワラン 10.0質量%
トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル 10.0質量%
デカオレイン酸デカグリセリル 3.0質量%
1,3-ブチレングリコール 7.0質量%
メチルパラベン 0.1質量%
2-メチルパルミチン酸L-カルニチン塩酸塩 0.3質量%
B.
キサンタンガム 0.04質量%
カルボキシビニルポリマー 0.08質量%
精製水 残分
C.
トリエタノールアミン 0.05質量%
精製水 4.95質量%」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比する。
甲A1発明における「乳液」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲A1発明における「デカオレイン酸デカグリセリル3.0質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。(当審注:記号「(A)」は本件発明との対応を示すために便宜的に付したものである。以下、記号「(B)」及び「(C)」も同様であり、他の引用文献との対比でも同様である。)
甲A1発明における「ステアリン酸0.5質量%」は、本件発明1における「(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び・・・から選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲A1発明における「1,3-ブチレングリコール7.0質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当する。
甲A1発明において、「1,3-ブチレングリコール」の「ステアリン酸」に対する質量比は14(=(7.0質量%/0.5質量%)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
そして、甲A1発明は、
「(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの」
及び
「(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」
に該当するものではない。(当審注:記号「(1)」及び「(2)」は、本件発明との対応を示すために便宜的に付したものである。以下、他の引用文献に記載された発明との対比でも同様であり、重複する説示を簡略化するため、上記各記号の後に記載された組成物の態様を、それぞれ「態様(1)」及び「態様(2)」と表記することがある。)
そうすると、本件発明1と甲A1発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲A1発明では「デカオレイン酸デカグリセリル」であり、その配合量が「3.0質量%」である点。
<相違点2>
「(C)成分」の配合量が、本件発明1では「10~30質量%」であるのに対し、甲A1発明では「7.0質量%」である点。
<相違点3>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲A1発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1~3についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と「デカオレイン酸デカグリセリル」は、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量が異なるから、相違点2は実質的な相違点である。
相違点3に関し、甲A1には、甲A1発明に係る乳液が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲A1発明に係る乳液がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点3は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲A1に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1~3の容易想到性について
甲A1発明は、「カルニチン誘導体またはカルニチン誘導体の塩の単体での性能と比べて、効果、保存安定性等の製剤性能が向上した化粧料または皮膚外用剤を提供すること」を解決すべき課題とし(【0004】)、当該課題を解決する手段を、「下記一般式(1)で表されるカルニチン誘導体および/または下記式(2)で示されるカルニチン誘導体の塩、並びに効果促進剤、を含有する化粧料または皮膚外用剤」(【0005】。式は省略。)とした、具体的な処方例の1つである。
甲A1には、上記「効果促進剤」の選択肢の1つとして「界面活性剤」が記載されており(【請求項1】及び【0049】)、【請求項11】には、当該「界面活性剤」の選択肢として列記された膨大な数の化合物群の中に、「デカオレイン酸ポリグリセリル-10」(当審注:「デカオレイン酸デカグリセリル」と同義である。)とともに「ジステアリン酸ポリグリセリル-6、同10」等が「ポリグリセリン脂肪酸エステル」の例として挙げられている。
しかしながら、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲A1発明の乳液において、
・多数の含有成分の中から、特に「デカオレイン酸デカグリセリル」について、これに代えて又は追加して「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・「7.0質量%」の量の「1,3-ブチレングリコール」を、場合により他の低級アルコールも併せて「10~30質量%」の量とし、
・他の成分の量比も含めて、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲A1の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
本件明細書の【0012】には、【発明の効果】として、「本発明によれば、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を配合し、配合量を特定の範囲に調製することにより、皮膚に塗布して延伸するとクリーム状となり、かつ使用感の良好な乳化物を得ることができる。」と記載されており、【0048】~【0049】【表1】及び【0050】~【0055】には、本件発明1の(A)成分~(C)成分に係る条件を全て満たす実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)が、皮膚上で延伸した際に乳化物がクリーム化したこと、塗布時のみずみずしさ及びべたつき感、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)、延伸後のべたつき感、ぬめり感及びさっぱり感の点で、良好であったことを示す官能評価の結果が記載されている。
このような本件発明1の優れた効果は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲A1の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲A1に記載された発明であるとはいえず、また、甲A1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲A1に記載された発明であるとはいえず、また、甲A1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲A1に記載された発明であるとはいえず、また、甲A1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) 甲A2を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 2、4
・引用文献 甲A2
取消理由通知書で指摘した甲A2を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項2に係る発明及び同請求項2を引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2は削除され、請求項4の引用先からは請求項2が削除されたため、甲A2を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由は、理由がないものとなったことが明らかである。
(3) 甲A3を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 2、4
・引用文献 甲A3
取消理由通知書で指摘した甲A3を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項2に係る発明、及び同請求項2を引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2は削除され、請求項4の引用先からは請求項2が削除されたため、甲A3を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由は、理由がないものとなったことが明らかである。
(4) 甲A4を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、3、4
・引用文献 甲A4
取消理由通知書で指摘した甲A4を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項1に係る発明、同請求項3に係る発明、及び、同請求項1又は3を引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項3は削除され、請求項4の引用先からは請求項3が削除されたため、甲A4を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項3に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由のうち、請求項3を引用する部分については、理由がないものとなったことが明らかである。
以下、本件発明1及び4について、甲A4を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由について検討する。
ア 甲A4に記載された発明
甲A4の【0055】~【0056】「処方例3」の記載からみて、甲A4には次の発明(以下「甲A4発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲A4発明>>
「アルキル変性カルボキシビニルポリマー 0.2質量%
1,3-ブチレングリコール 3質量%
ジプロピレングリコール 3質量%
グリセリン 4質量%
キサンタンガム 0.08質量%
POEメチルグルコシド 1質量%
ポリエチレングリコール400 0.5質量%
ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム 0.1質量%
ステアリン酸グリセリル 0.3質量%
ステアリン酸ポリグリセリル 1.7質量%
ベヘニルアルコール 0.6質量%
バチルアルコール 0.5質量%
ジメチコン 5質量%
メドウフォーム油 3質量%
マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル 1質量%
ネオペンタン酸イソステアリル 2質量%
水酸化カリウム 0.435質量%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1質量%
アスコルビン酸2-グルコシド 2質量%
クエン酸 0.02質量%
クエン酸ナトリウム 0.2質量%
1,2-ペンタンジオール 2質量%
ローズマリーエキス 0.5質量%
精製水 残余
を含有する乳液。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲A4発明とを対比する。
甲A4発明における「乳液」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲A4発明における「ステアリン酸ポリグリセリル1.7質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲A4発明における「ステアリン酸グリセリル0.3質量%」は、本件発明1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」に相当する。
甲A4発明における「1,3-ブチレングリコール3質量%」、「グリセリン 4質量%」及び「1,2-ペンタンジオール 2質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当する。
甲A4発明において、「1,3-ブチレングリコール」、「グリセリン」及び「1,2-ペンタンジオール」の合計量の、「ステアリン酸グリセリル」の量に対する重量比は、30(=(3+4+2)/0.3)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲A4発明の乳液は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲A4発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲A4発明では「ステアリン酸ポリグリセリル」であり、その配合量が「1.7質量%」である点。
<相違点2>
「(B)成分」の配合量が、本件発明1では「0.5質量%以上」であるのに対し、甲A4発明では「0.3質量%」である点。
<相違点3>
「(C)成分」の配合量が、本件発明1では「10~30質量%」であるのに対し、甲A4発明では「9質量%」である点。
<相違点4>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲A4発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1~4についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と「ステアリン酸ポリグリセリル」は、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2及び3に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量が異なるから、相違点2及び3は実質的な相違点である。
相違点4に関し、甲A4には、甲A4発明に係る乳液が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲A4発明に係る乳液がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点4は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲A4に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1~4の容易想到性について
甲A4発明は、「電解質を含む水中油型乳化組成物であって、乳化安定性が高く、低温保管時の粘度上昇が少なく、使用性(容器からの出しやすさ)に優れた水中油型乳化組成物を提供すること」を解決すべき課題とし(【0006】)、当該課題を解決する手段を、
「(1)次の成分(A)~(G)を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物。
(A):ポリグリセリン脂肪酸エステル
(B):グリセリン脂肪酸エステル及び/又はソルビタン脂肪酸エステル
(C):ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩
(D):油剤
(E):水溶性高分子
(F):水
(G):電解質」
(【0007】)とした、具体的な処方例の1つである。
甲A4には、上記「(A):ポリグリセリン脂肪酸エステル」の例として列記された多数の化合物群の中に「ジステアリン酸デカグリセリル」(当審注:「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と同義である。)も挙げられているが、「モノステアリン酸デカグリセリル」(「ステアリン酸グリセリル-10」)が好ましいものとされている(【0010】)。
そして、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲A4発明の乳液において、
・多数の含有成分のうち、特に「ステアリン酸ポリグリセリル」について、これに代えて又は追加して「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・「0.3質量%」の量の「ステアリン酸グリセリル」を「0.5質量%以上」に増加させ、
・「1,3-ブチレングリコール」、「グリセリン」及び「1,2-ペンタンジオール」の合計量を、場合により他の低級アルコールも併せて、「9質量%」から「10~30質量%」に増加させ、
・他の成分の量比も含めて、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲A4の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲A4の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲A4に記載された発明であるとはいえず、また、甲A4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲A4に記載された発明であるとはいえず、また、甲A4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲A4に記載された発明であるとはいえず、また、甲A4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5) 甲B1を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1~4
・引用文献 甲B1
取消理由通知書で指摘した甲B1を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項1に係る発明、同請求項2に係る発明、同請求項3に係る発明、及び、同請求項1~3のいずれかを引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2及び3は削除され、請求項4の引用先からは請求項2及び3が削除されたため、甲A4を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2及び3に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由のうち、請求項2又は3を引用する部分については、理由がないものとなったことが明らかである。
以下、本件発明1及び4について、甲B1を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由について検討する。
ア 甲B1に記載された発明
甲B1の[0088]、[0093][表4]「実施例1」の記載からみて、甲B1には次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲B1発明>>
「ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル 0.5質量%
トリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリン
0.7質量%
ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 3質量%
水添ポリデセン 4質量%
ジメチコン 5質量%
セタノール 0.3質量%
カルボマー 0.14質量%
精製水 74.998質量%
ペンチレングリコール 3.5質量%
グリセリン 5質量%
ステアリン酸ポリグリセリル-10 0.8質量%
ジステアリン酸ポリグリセリル-10 0.2質量%
ステアリン酸グリセリル(SE) 0.75質量%
水添レシチン 0.2質量%
ステアリン酸 0.5質量%
フェノキシエタノール 0.2質量%
メチルパラベン 0.1質量%
エチルパラベン 0.05質量%
水酸化カリウム 0.057質量%
EDTA-2Na 0.005質量%
を含有する乳液。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲B1発明とを対比する。
甲B1発明における「乳液」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲B1発明における「ジステアリン酸ポリグリセリル-100.2質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」に相当する。
甲B1発明における「ステアリン酸 0.5質量%」及び「ステアリン酸グリセリル(SE) 0.75質量%」は、本件発明1における「(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲B1発明における「ペンチレングリコール 3.5質量%」及び「グリセリン5質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当する。
甲B1発明において、「ペンチレングリコール」及び「グリセリン」の合計量の、「ステアリン酸」及び「ステアリン酸グリセリル(SE)」の合計量に対する重量比は、6.8(=(3.5+5)/(0.5+0.75))であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲B1発明の乳液は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲B1発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)成分」の配合量が、本件発明1では「1.5~5質量%」であるのに対し、甲B1発明では「0.2質量%」である点。
<相違点2>
「(C)成分」の配合量が、本件発明1では「10~30質量%」であるのに対し、甲B1発明では「8.5質量%」である点。
<相違点3>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲B1発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1~3についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1及び2に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量が異なることから、相違点1及び2は実質的な相違点である。
相違点3に関し、甲B1には、甲B1発明に係る乳液が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲B1発明に係る乳液がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点3は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲B1に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1~3の容易想到性について
甲B1発明は、解決すべき課題を、
「保湿性が高く、肌の滑らかさを改善させ、肌へのツヤ感が良好であり、肌に塗布した際にコクがあり、べたつきが少ないにもかかわらず、指への付着性も高い皮膚外用組成物を提供する」([0006])
こととし、当該課題を解決する手段を、
「水酸基価が10以上200未満である油剤と、水酸基価が10未満である油剤とを、水溶性増粘剤と水と共に含有すること」
とし([0007])、その態様を、
「[1]下記成分(A)~(D)を含有することを特徴とする皮膚外用
組成物;
・成分(A):水酸基価が10以上200未満であるエステル化合物、
・成分(B):水酸基価が10未満であるエステル化合物、炭化水素油、
及びシリコーン油からなる群より選択される1種又は2種以上の油剤、
・成分(C):水溶性増粘剤、
・成分(D):水」
([0008])とした、具体的な処方例の1つである。
甲B1には、上記[1]の皮膚外用組成物における追加の成分として、
「[4]さらに、成分(E)として多価アルコールを含有する」こと、
「[5]前記成分(E)を、皮膚外用組成物の総質量に対し、1~50質量%含有する」こと、
「[6]さらに、成分(F)として界面活性剤を含有する」こと、及び、
「[7]前記成分(F)を、皮膚外用組成物の総質量に対し、0.01~15質量%含有する」こと、
が記載されており([0008])、上記「成分(E)」である「多価アルコール」の好ましい例として「ペンチレングリコール」や「グリセリン」等が挙げられており([0034])、「多価アルコール」の特に好ましい含有量が「5~30質量%」([0035])である旨が記載され、上記「成分(F)」である「界面活性剤」の例として列記された化合物に、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」とともに、「ステアリン酸グリセリル」、「ステアリン酸ポリグリセリル-10」も、より好ましいものとして挙げられており([0036]及び[0040])、「界面活性剤」のさらに好ましい含有量として「0.1~8質量%」([0042])が記載されている。
しかしながら、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲B1発明の乳液において、
・多数の含有成分の中で、「界面活性剤」に該当する複数の成分(「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」の他にも、「ステアリン酸ポリグリセリル-10」、「ステアリン酸グリセリル(SE)」及び「ステアリン酸」が該当する。)のうち、特に「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」の量のみを「0.2質量%」から7.5倍以上の「1.5~5質量%」に大幅に増加させ、
・「ペンチレングリコール」及び「グリセリン」の量について、それぞれ「3.5質量%」及び「5質量%」であるところ、場合により他の低級アルコールも併せて合計で「10~30質量%」に増加させ、
・他の成分の量比も含めて、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲B1の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとことであるとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲B1の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 申立人Bの主張について
a 申立人Bの主張の概要
申立人Bは、令和4年7月5日提出の意見書において、令和4年8月30日提出の手続補正書による補正前の令和4年5月27日提出の訂正請求書により訂正請求された本件特許の請求項1~4に係る発明が、甲B1を主引例として新規性・進歩性が欠如することについて、概略、次の(a)~(c)の主張をしている。
なお、当該請求項1に係る発明の特定事項と本件発明1の特定事項は全く同じであるところ、以下では、便宜的に当該請求項1~4に係る発明を総称して「本件訂正発明」という。
(a) (A)成分及び(C)成分の量は、実質的な相違点でないか、当業者
が適宜設計する事項であること
甲B1の[0040]及び[0042]には、本件訂正発明に係る(A)成分について「ジステアリン酸ポリグリセリル-10がより好ましい」と記載されており、その量についても「0.1~8質量%がさらに好ましい」と記載されている。
また、甲B1の[0034]及び[0035]には、本件訂正発明に係る(C)成分に関し、「ペンチレングリコール、グリセリン、・・・又はこれらの混合物がより好ましい」と記載されており、その量についても「5~30質量%であることが特に好ましい」と記載されている。
このように、本件訂正発明の各成分量は、甲B1において特に好ましい範囲として想定された程度の量であり、また、本分野における成分の使用量としても極めてありふれた量である(例えば、甲B4発明では(A)成分(ジステアリン酸デカグリセリル)の量が3質量%、(C)成分(グリセリン、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール)の合計量が16質量%で使用されている)。
してみると、本件訂正発明で規定する、(A)成分の量を「1.5~5質量%」とすること、及び(C)成分の量を「10~30質量%」とすることについても、甲B1に開示されているに等しい事項であり、実質的な相違点ではない。
或いは、仮に、これらを実質的な相違点とみたとしても、好適な範囲内で成分量を変更することは、当業者が適宜設計する事項に過ぎない。
(b) 「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことは実質的な
相違点ではないこと
「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことは、甲B1に開示されている乳液等が製品として当り前に備えている特性であって、これは証拠を示すまでもなく自明の事項である。
また、同様の組成の乳化物が、このような規定の有無により物として変化する訳でもないし、そもそも「液状」や「クリーム状」が具体的に如何なるものを指すかも明確ではない(どこまでが液状でどこからがクリーム状かという明確な基準は存在しない)。
したがって、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という規定は、本件訂正発明に係る組成であれば当然に備える一般的な特徴を説明したにものにすぎず、この記載がないからといって実質的な相違点とはならない。
(c) 「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という効果は、
(A)成分及び(C)成分の量の数値範囲と関連性がないこと
仮に、本件訂正発明と甲B1発明との成分量が相違するとみた場合には、数値範囲以外に相違点はないから、このような数値限定発明に進歩性が認められるためには、当該数値範囲であることに効果の顕著性が認められる必要がある。しかし、本件明細書の記載からは、そのような効果の顕著性は認められない。
即ち、本件明細書に記載の実施例・比較例においては、
・(A)成分:1.6質量%と(C)成分:22質量%の組合せ
(実施例1)
・(A)成分:3質量%と(C)成分:21質量%の組合せ
(実施例2~8、比較例2~3)
・(A)成分:3質量%と(C)成分:2.1質量%の組合せ
(比較例4)
しか開示されておらず、(A)成分の量を「1.5~5質量%」という数値範囲にすることや(C)成分の量を「10~30質量%」という数値範囲にすることの技術的意義は何ら示されていない。
特に、本件訂正発明で規定する数値範囲内の組合せの比較例2((A)成分:3質量%と(C)成分:21質量%)であってもクリーム化しないとの評価や、本件訂正発明で規定する数値範囲を大きく外れた比較例4((A)成分:3質量%と(C)成分:2.1質量%)であってもクリーム化するとの評価からは、「クリーム状になる」という効果が、本件訂正発明で規定する(A)成分と(C)成分の数値範囲とすることによる効果とみることはできず、数値範囲と効果との関連性はない。
b 申立人Bの主張に対する当審の判断
申立人Bの上記a(a)~(c)の主張は、以下のとおり、いずれも理由がないものであり、採用することはできない。
(a) 申立人Bの主張(a)について
上記(イ)aで説示したとおり、相違点1及び2は、それぞれ本件発明1の乳化物を構成する必須成分である(A)成分及び(C)成分の配合量が異なるというものであるから、実質的な相違点である。
また、上記(イ)bで説示したとおり、甲B1には、皮膚外用組成物の追加の成分として、「多価アルコール」を好ましくは「5~30質量%」含有すること、「界面活性剤」をさらに好ましくは「0.1~8質量%」含有することが記載されており、好ましい界面活性剤の一つに「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」が挙げられているが、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を単独で「0.1~8質量%」含有するものとすることは、記載されていないから、申立人の上記主張(a)は、甲B1の記載の適切な認定に基づくものではない。
そして、上記(イ)bで説示したように、甲B1発明の乳液における多数の含有成分の中で、「界面活性剤」に該当する複数の成分のうち、特に「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」の量のみを「0.2質量%」から「1.5~5質量%」に大幅に増加させたうえで、「ペンチレングリコール」及び「グリセリン」の量についても、場合により他の低級アルコールも併せて合計で「10~30質量%」に増加させ、さらに、他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、申立人Bの上記主張(a)は採用できない。
(b) 申立人Bの主張(b)について
甲B1発明の乳液は、本件発明1とは組成が異なっており(相違点1及び2)、乳液等の製品が、一般的に「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という特性を有するといった技術常識が本件特許の出願時に存在したとは認められないし、甲B1発明の組成の乳液が上記特性を有することが自明であると認めるに足る根拠も見出せないところ、申立人は甲B1発明の乳液が上記特性を有することを客観的に確認できるような試験データ等の証拠を何ら提示していない。
そして、本件発明1における「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という相違点3に係る特定事項は、(A)成分~(C)成分及びそれら以外の成分の量比も含め、乳化物が満たすべき条件を規定しているものであると認められるから、相違点3は実質的な相違点である。
さらに、本件明細書の【0043】には、本発明の乳化物が「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になる」現象についての説明が記載されており、皮膚上でクリーム化する乳化物であることは、電解質を含む溶液を乳化物へ添加し撹拌することによって確認できることが記載され、「具体的には、乳化物1重量部に対して、20%クエン酸Na水溶液を0.1重量部添加し、スパーテル等を用いて30秒程度撹拌する。撹拌後、乳化物の流動性が実質的になくなった場合(流動性がほとんどなく、クリーム状とみなせる場合を含む)、乳化物は皮膚上で「クリーム状になる」(クリーム化する)と本発明では定義する。」という、具体的な確認方法に基づいた定義も記載されている。
したがって、申立人Bの上記主張(b)は採用できない。
(c) 申立人Bの主張(c)について
本件発明1の効果に関し、上記(1)イ(ウ)で認定したように、本件明細書の【0012】には、「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状となり、かつ使用感の良好な乳化物を得ることができる」ことが記載されており、同【0048】~【0049】【表1】、【0050】~【0055】には、本件発明1の(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の条件を全て満たす実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)が、皮膚上で延伸した際に乳化物がクリーム化したこと、塗布時のみずみずしさ及びべたつき感、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)、延伸後のべたつき感、ぬめり感及びさっぱり感の点で、良好であったことを示す官能評価の結果が記載されている。
ここでいう「延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)」は、本件明細書の【0004】に記載された、「特許文献1に記載の乳化物は、高級アルコールや脂肪酸等の成分を高配合しなければ塗布時にクリーム化しない。・・・。また、皮膚上で液状からクリーム状に乳化物が変化しても、使用者はその変化に気付かないことが多く、剤形が変化することによる驚きや感動を与えられないという問題があった。」(当審注:「特許文献1」は同【0005】に記載の「特開平9-151112号公報」であり、後述する甲B5と同じ文献である。)との背景技術の説明も参照すると、単に乳化物が延伸時にクリーム化するだけでなく、そのことを乳化物を皮膚に適用した者が実感できる、という効果であると認められる。
そして、本件明細書の上記【表1】の記載によれば、上記実施例1~4、6~8の化粧料について、いずれもクリーム化「する」とされており、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)の官能評価は、実施例1、4、6では最高の「7:非常に良好」、実施例7では「6:良好」、実施例2、3では「5:やや良好」、実施例8では「4:普通」とされている。
その一方で、比較例2の化粧料は、(A)成分及び(C)成分の量は本件発明1の条件を満たすが、(B)成分の量は「0.1質量%」であり「0.5質量%以上」という本件発明1の条件を満たさず、クリーム化「しない」とされている。また、比較例4の化粧料は、(A)成分及び(B)成分の量は本件発明1の条件を満たすが、(C)成分の量は「2.1質量%」であり「10~30質量%」との本件発明1の条件を満たしておらず、(C)成分/(B)成分の値は、「4.2」であり、「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との本件発明1の条件も満たさないところ、クリーム化は「する」ものの、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)の官能評価は「3:やや悪い」とされている。
これらの本件明細書の記載に接した当業者ならば、本件発明1で規定する(A)成分~(C)成分に係る条件の充足と延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)との対応関係を理解することができるといえる。
したがって、申立人Bの上記主張(c)は採用できない。
(オ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲B1に記載された発明であるとはいえず、また、甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲B1に記載された発明であるとはいえず、また、甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲B1に記載された発明であるとはいえず、また、甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6) 甲B2を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 2、4
・引用文献 甲B2
取消理由通知書で指摘した甲B2を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項2に係る発明及び同請求項2を引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2は削除され、請求項4の引用先からは請求項2が削除されたため、甲B2を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由は、理由がないものとなったことが明らかである。
(7) 甲B3を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1~4
・引用文献 甲B3
取消理由通知書で指摘した甲B3を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項1に係る発明、同請求項2に係る発明、同請求項3に係る発明、及び、同請求項1~3のいずれかを引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2及び3は削除され、請求項4の引用先からは請求項2及び3が削除されたため、甲B3を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2及び3に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由のうち、請求項2又は3を引用する部分については、理由がないものとなったことが明らかである。
以下、本件発明1及び4について、甲B3を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由について検討する。
ア 甲B3に記載された発明
甲B3の【0045】「処方例6」の記載からみて、甲B3には次の発明(以下「甲B3発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲B3発明>>
「1.SILIPHOS 0.1質量%
2.モノイソステアリン酸デカグリセリル(HLB12) 2.0質量%
3.グリセリン 10.0質量%
4.1,3-ブチレングリコ-ル 8.0質量%
5.1,2-ペンタンジオ-ル 1.0質量%
6.流動パラフィン 8.0質量%
7.シリコーン 5.0質量%
8.トリ2-エチルへキサン酸グリセリル 5.0質量%
9.イソステアリン酸 1.5質量%
10.ベヘニルアルコール 0.5質量%
11.キサンタンガム 0.3質量%
12.アラビアゴム 0.2質量%
13.タルク 3.0質量%
14.二酸化チタン 5.0質量%
15.ベンガラ 0.5質量%
16.黄酸化鉄 1.4質量%
17.黒酸化鉄 0.5質量%
18.精製水 残余
を含有する乳化型ファンデーション。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲B3発明とを対比する。
甲B3発明における「乳化型ファンデーション」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲B3発明における「モノイソステアリン酸デカグリセリル(HLB12) 2.0質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲B3発明における「イソステアリン酸1.5質量%」は、本件発明1における「(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び・・・から選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲B3発明における「グリセリン10.0質量%」、「1,3-ブチレングリコール 8.0質量%」及び「1,2-ペンタンジオール 1.0質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当し、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲B3発明において、「グリセリン」、「1,3-ブチレングリコール」及び「1,2-ペンタンジオール」の合計量の、「イソステアリン酸」に対する重量比は、12.7(=(10.0+8.0+1.0)/1.5)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲B3発明の乳化型ファンデーションは、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲B3発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲B3発明では「モノイソステアリン酸デカグリセリル(HLB12)」であり、その配合量が「2.0質量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲B3発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と「モノイソステアリン酸デカグリセリル(HLB12)」は、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲B3には、甲B3発明に係る乳化型ファンデーションが「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲B3発明に係る乳化型ファンデーションがそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点3は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲B3に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲B3発明は、「シリマリンあるいはその構成成分であるシリビン、イソシリビン、シリジアニン、シリクリスチンを溶解あるいは可溶化した状態で安定に配合した皮膚外用剤、乳化組成物、化粧料を提供すること」を解決すべき課題とし(【0006】)、当該課題を解決する手段を、「シリマリン、シリビン、イソシリビン、シリジアニン、シリクリスチンからなる群から選択される1種又は2種以上とリン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリンを含有する皮膚外用剤」とすることを主な構成とした(【0007】)、具体的な処方例の1つである。
甲B3には、用いられる上記「ポリグリセリン脂肪酸エステル」の例として、「モノステアリン酸デカグリセリル」とともに、「ジステアリン酸デカグリセリル」(当審注:「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と同義である。)も含めた多数の化合物が列記されている(【0015】)。
しかしながら、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲B3発明の乳化型ファンデーションにおいて、
・多数の含有成分の中で、特に「モノイソステアリン酸デカグリセリル(HLB12)」について、これに代えて又は追加して「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件(相違点2の構成)を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲B3の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲B3の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲B3に記載された発明であるとはいえず、また、甲B3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲B3に記載された発明であるとはいえず、また、甲B3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲B3に記載された発明であるとはいえず、また、甲B3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8) 甲B4を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 2~4
・引用文献 甲B4
取消理由通知書で指摘した甲B4を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項2に係る発明、同請求項3に係る発明、及び、同請求項2又は3のいずれかを引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2及び3は削除され、請求項4の引用先からは請求項2及び3が削除されたため、甲B4を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2及び3に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由のうち、請求項2又は3を引用する部分については、理由がないものとなったことが明らかである。
(9) 甲B5を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、3、4
・引用文献 甲B5
取消理由通知書で指摘した甲B5を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項1に係る発明、同請求項3に係る発明、及び、同請求項1又は3のいずれかを引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項3は削除され、請求項4の引用先からは請求項3が削除されたため、甲B5を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項3に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由のうち、請求項3を引用する部分については、理由がないものとなったことが明らかである。
以下、本件発明1及び4について、甲B5を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由について検討する。
ア 甲B5に記載された事項
甲B5には、以下の事項が記載されている。
・摘記B5ア
「【請求項1】 親水性の非イオン性界面活性剤を含有するエマルション組成物において、ずり速度に対して不可逆的な粘度の上昇を付与する力を「クリーム化力」として表し、以下のように規定した時、
炭素数14~24の高級アルコール 5
炭素数12~24の脂肪酸 2
炭素数10~24のα-ヒドロキシ脂肪酸 2
炭素数12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステル 3
炭素数14~24の高級アルコールのグリセリルモノエーテル 4
クリーム化力と重量百分率(%)で表した配合量との積の和が6以上となるように、上記成分の1種又は2種以上を配合することを特徴とする微細エマルション組成物。」
・摘記B5イ
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】・・・本発明においては、液状又は乳液状を呈しながら、皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になり、しかも良好な延展性及び保湿性を有し、さらに安定性及び安全性に優れる微細エマルション組成物を得ることを目的とした。・・・。
【0007】
【課題を解決するための手段】・・・上記の課題を解決するにあたり、親水性の非イオン性界面活性剤を少量含有する乳化系において、乳化助剤の配合を検討した。まず、本発明において要求される性質である、皮膚上で延伸することにより得られるクリーム化は、ずり速度を一定の割合により増していった時に、あるずり速度以上で粘度が増加する現象として捉えることができる。乳化助剤として用いられる物質のうち、前記のような性質を乳化系に付与するものを検索したところ、表1に示すものが好ましいことがわかった。そしてこれら乳化助剤について、前記のクリーム化する性質の付与における寄与率を、それぞれ表1に示す「クリーム化力」で表した時、クリーム化力と重量百分率で表した配合量との積の和が6以上になるように配合することにより、非常に良好な結果が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【表1】
[図:0001397167000001.jpg]
」
・摘記B5ウ
「【0009】本発明において用いる親水性の非イオン性界面活性剤としては、HLB値が8.0以上のものが好ましく、たとえば、ポリオキシエチレン(6E.O.)ソルビタンモノステアリン酸エステル,ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタンモノラウリン酸エステル,ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタンモノステアリン酸エステル等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン(6E.O.)ソルビトールモノラウリン酸エステル,ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビトールモノラウリン酸エステル,ポリオキシエチレン(6E.O.)ソルビトールテトラオレイン酸エステル等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エスエル類、ヘキサグリセリルモノラウリン酸エステル,ヘキサグリセリルモノミリスチン酸エステル,デカグリセリルモノラウリン酸エステル,デカグリセリルモノイソステアリン酸エステル等のポリグリセリル脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン(10E.O.)グリセリルモノステアリン酸エステル,ポリオキシエチレン(15E.O.)グリセリルモノステアリン酸エステル,ポリオキシエチレン(5E.O.)グリセリルモノオレイン酸エステル,ポリオキシエチレン(15E.O.)グリセリルモノオレイン酸エステル等のグリセリル脂肪酸エステルの酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレン(6E.O.)モノラウリン酸エステル,ポリオキシエチレン(10E.O)モノラウリン酸エステル,ポリオキシエチレン(20E.O.)トリステアリン酸エステル等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン(21E.O.)ラウリルエーテル,ポリオキシエチレン(10E.O.)セチルエーテル,ポリオキシエチレン(15E.O.)オレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン(10E.O.)ノニルフェニルエーテル,ポリオキシエチレン(15E.O.)オクチルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン(40E.O.)ヒマシ油,ポリオキシエチレン(50E.O.)硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレン(10E.O.)ステアリルアミン,ポリオキシエチレン(10E.O.)ステリン酸アミド等のポリオキシエチレンアルキルアミド及び脂肪酸アミド類、ショ糖ラウリン酸エステル,ショ糖ミリスチン酸エステル糖のショ糖脂肪酸エステル類などが挙げられ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。配合量としては、0.1~10.0重量%程度が適当である。」
・摘記B5エ
「【0016】本発明における微細エマルション組成物において、油相にはさらに酢酸トコフェロール等の抗酸化剤、紫外線吸収剤など油溶性の添加成分を加えることができ、水相にもアスコルビン酸等の水溶性ビタミン類、アミノ酸,多価アルコール,ムコ多糖類,コラーゲン等の保湿剤、防腐剤などを添加することができる。」
・摘記B5オ
「【0023】[実施例1] (重量%)
(1)流動パラフィン 7.0
(2)グリセリルモノステアリルエーテル 1.5
(3)ステアリン酸 0.8
(4)グリセリルモノステアリン酸エステル 0.3
(5)ポリオキシエチレン(10E.O.)モノステアリン酸エステル 3.5
(6)1,3-ブチレングリコール 10.0
(7)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(8)香料 0.1
(9)精製水 76.7
製法:(1)~(5)の油相成分を混合,均一化して75℃に加熱する。これにあらかじめ混合,均一化して75℃に加熱した(6),(7),(9)を攪拌しながら徐々に添加して乳化し、冷却後40℃にて(8)を添加する。
・・・
【0026】・・・。粘度は、化粧品原料基準の一般試験法の中の粘度測定法第2法に従い、3号ローターを用いて1分間6回転で1分後の粘度を測定した。・・・。保存安定性は各試料を25℃で3カ月間保存し、エマルションの状態を観察して、「○;透明性及び状態の変化を認めない」,「△;濁度の増加が認められる」,「×;濁度の増加が顕著であるか、相分離が認められる」として評価した。・・・。皮膚に塗布した際のクリーム化性は、実施例及び比較例の各試料を皮膚に塗布して延伸し、クリーム状に変化する状況を観察して、「○;延伸により速やかに粘度の適度な上昇が認められ、良好なクリーム状となる」,「△;粘度の上昇及びクリーム状への変化を認めるにはかなりの延伸時間を要する」,「×;延伸により粘度の上昇,クリーム状への変化を認めない」として評価した。」
・摘記B5カ
「【0029】
[実施例4] 保湿液 (重量%)
(1)ホホバ油 5.0
(2)2-ヒドロキシカプリン酸 0.5
(3)2-ヒドロキシパルミチン酸 0.5
(4)2-ヒドロキシアラキン酸 0.5
(5)グリセリルモノミリスチン酸エスエル 1.5
(6)デカグリセリルモノラウリン酸エステル 2.0
(7)ソルビトール 3.0
(8)1,3-ブチレングリコール 5.0
(9)ヒアルロン酸ナトリウム 0.2
(10)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(11)香料 0.1
(12)精製水 81.6
製法:(1)~(6)の油相成分を混合,均一とし、75℃に加熱する。一方、(7),(8),(10),(12)の水相成分を混合し、加熱して均一とし75℃に保つ。これを前記油相成分に攪拌しながら徐々に添加して乳化し、冷却後40℃にて(9),(11)を添加,混合する。
・・・
【0034】実施例3~8について、・・・、25℃における保存安定性及びクリーム化性も上記の方法により評価した。また、同時に男女パネラー各20名を1群とし、各実施例をブラインドにて使用させて、その際のしっとり感,延展性及び皮膚刺激感について官能評価を行わせた。しっとり感については「ある;5点」,「ややある;4点」,「どちらともいえない;3点」,「ややない;2点」,「ない;1点」、延展性については「良好;5点」,「やや良好;4点」,「普通;3点」,「やや悪い;2点」,「悪い;1点」、皮膚刺激感としては、「非常に感じる;4点」,「感じる;3点」,「少し感じる;2点」,「微妙に感じる;1点」,「感じない;0点」として点数化し、20名の平均値を求めた。以上の結果は表7及び表8に示した。
【0035】
【表7】
[図:0001397167000002.jpg]
【表8】
[図:0001397167000003.jpg]
表7より、本発明の実施例はいずれも平均粒子径がほぼ260~390nmの微細なエマルションであることが示され、粘度も1,800cps以下と低く、良好な保存安定性及びクリーム化性が認められていた。また表8より、皮膚上に使用した際、良好なしっとり感と延展性が得られることが示される。皮膚刺激感については、実施例6及び実施例7でわずかに刺激感が認められたものの、概ね皮膚刺激性の低いことが示された。
【0036】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明により、液状又は乳液状を呈しながら、皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になり、しかも良好な延展性及び保湿性を有し、さらに安定性及び安全性に優れる微細エマルション組成物を得ることができた。・・・。」
イ 甲B5に記載された発明
甲B5には、特に摘記B5カ「実施例4」の記載からみて、次の発明(以下「甲B5発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲B5発明>>
「(1)ホホバ油 5.0重量%
(2)2-ヒドロキシカプリン酸 0.5重量%
(3)2-ヒドロキシパルミチン酸 0.5重量%
(4)2-ヒドロキシアラキン酸 0.5重量%
(5)グリセリルモノミリスチン酸エスエル 1.5重量%
(6)デカグリセリルモノラウリン酸エステル 2.0重量%
(7)ソルビトール 3.0重量%
(8)1,3-ブチレングリコール 5.0重量%
(9)ヒアルロン酸ナトリウム 0.2重量%
(10)パラオキシ安息香酸メチル 0.1重量%
(11)香料 0.1重量%
(12)精製水 81.6重量%
を含有し、液状又は乳液状を呈しながら、皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になる、保湿液。」
ウ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲B5発明とを対比する。
甲B5発明の「保湿液」は、乳化して調製されたものであるから(摘記B5カ)、本件発明1の「乳化物」に相当し、甲B5発明の保湿液が「液状又は乳液状を呈しながら、皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になる」ことは、本件発明1の乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことに相当する。
甲B5発明における「デカグリセリルモノラウリン酸エステル2.0重量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲B5発明における「グリセリルモノミリスチン酸エスエル1.5重量%」は、本件発明1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲B5発明における「1,3-ブチレングリコール 5.0重量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当する。
甲B5発明の保湿液は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲B5発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲B5発明では「デカグリセリルモノラウリン酸エステル」であり、その配合量が「2.0重量%」である点。
<相違点2>
「(C)成分」の配合量が、本件発明1では「10~30質量%」であるのに対し、甲B5発明では「5.0重量%」である点。
<相違点3>
本件発明1は、「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)」であることが特定されているのに対し、甲B5発明では、(C)成分は(B)成分の3.3倍(=5.0/1.5)の量(重量比)である点。
(イ) 相違点1~3についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と「デカグリセリルモノラウリン酸エステル」は、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2及び3に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量比が異なることから、相違点2及び3は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲B5に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1~3の容易想到性について
(a) 甲B5発明の課題及びその解決手段
甲B5発明は、「液状又は乳液状を呈しながら、皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になり、しかも良好な延展性及び保湿性を有し、さらに安定性及び安全性に優れる微細エマルション組成物を得ること」を解決すべき課題とし(摘記B5イ【0006】)、当該課題を解決する手段を、親水性の非イオン性界面活性剤を含有する乳化系に配合する乳化助剤について、独自の「クリーム化力」なる数値により規定・分類して、当該クリーム化力と重量百分率(%)で表した配合量との積の和が6以上となるように配合した微細エマルション組成物(摘記B5ア【請求項1】、摘記B5イ【0007】)とした、具体的な処方例の1つである。
(b) 相違点1について
甲B5には、上記「親水性の非イオン性界面活性剤」の例として、多くの化合物が列記されており、その中には「ポリグリセリン脂肪酸エステル」である「デカグリセリルモノラウリン酸エステル」等も挙げられているが(摘記B5ウ【0009】)、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」は例示されていないし、甲B5の記載全体をみても、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を用いることを示唆するような記載は見出せない。
そうすると、具体的な処方例である甲B5発明の保湿液が含有する多数の成分の中から、特に「デカグリセリルモノラウリン酸エステル」について、これに代えて又は追加して、甲B5に例示もされていない別の化合物である「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合する動機付けがあるとはいえない。
(c) 相違点2及び3について
甲B5には、微細エマルション組成物の水相に添加することができる任意追加成分として、本件発明1の(C)成分に該当する「多価アルコール」が例示されているが(摘記甲5エ【0016】)、その配合量の一般的な説明は記載されておらず、本件発明1の(B)成分に該当する「グリセリルモノミリスチン酸エスエル」等の乳化助剤との関係における量・比についても、特に規定されていない。
むしろ、上記(a)で説示したように、甲B5発明は、乳化助剤について、クリーム化力と配合量との積の和が6以上となるように配合することを特徴とするものであり、甲B5には、当該乳化助剤に、本件発明1の(B)成分に該当する「グリセリルモノミリスチン酸エスエル」等の「炭素数12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステル」(クリーム化力は「3」である)が含まれ得ることが記載されているから(摘記B5ア【請求項1】、摘記B5イ【0007】)、本件発明1の(B)成分に該当する成分の配合量を多く配合し、これに対する本件発明1の(C)成分に該当する成分の配合割合を相対的に低いものとすることが示されているといえる。
そうすると、甲B5には、当該「多価アルコール」に該当する「1,3-ブチレングリコール」を10.0重量%配合した微細エマルション組成物の処方例も記載されているものの(摘記B5オ【0023】[実施例1])、これと別の処方例([実施例4])である甲B5発明の保湿液について、
・「1,3-ブチレングリコール」の配合量を「5.0重量%」から2倍以上の「10~30質量%」に増加させ、或いは、他の低級アルコールも併せて「10~30質量%」の配合量とし、かつ、
・「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)」という条件を満たすように、
組成を変更する動機付けがあるとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(5)イ(エ)b(c)で説示したように、甲B5は、本件明細書の【0003】~【0005】に【先行技術文献】として記載された【特許文献1】と同じ文献であり、同【0004】には、「特許文献1に記載の乳化物は、高級アルコールや脂肪酸等の成分を高配合しなければ塗布時にクリーム化しない。これらの成分はべたつきの原因となるため、良好な使用感を得られないという問題があった。また、皮膚上で液状からクリーム状に乳化物が変化しても、使用者はその変化に気付かないことが多く、剤形が変化することによる驚きや感動を与えられないという問題があった。」と記載されており、甲B5発明が幾つかの問題を有していたことが示されている。
そして、本件明細書の【0021】には、特許文献1(すなわち甲B5)では、「(B)成分を高配合」しなければ、具体的には、「クリーム化力と配合量との積の和」が「6以上」でなければ、「塗布時にクリーム化する乳化物を得られない」のに対して、「本発明によれば、クリーム化力と配合量との積の和が6未満の場合であっても、クリーム化する乳化物を得ることができる」ことが記載されており、同【0053】には、実施例2~5、7、8の化粧料(O/W型乳化物)について、「クリーム化力と配合量との積の和が3以下であるにもかかわらず、クリーム化した。このように、本発明は特許文献1とは異なり、クリーム化力と配合量との積の和が6未満であってもクリーム化する。」と記載されている。
さらに、上記(1)イ(ウ)で認定したように、本件発明1は、優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好であるという効果を奏するものであるのに対して、本件明細書の【0054】には、比較例3では、(B)成分の量が多く、(C)成分が(B)成分の5倍未満の量となり、延伸後にべたつき感やぬめり感を生じ、さっぱりとした使用感が得られなかったこと、比較例4では、(C)成分の量が少なく、(C)成分が(B)成分の5倍未満の量となり、延伸時に乳化物がクリーム化したという実感が十分に得られなかったことが記載されている。
このような本件発明1の優れた効果は、本件発明1における(B)成分に該当する乳化助剤を「クリーム化力と配合量との積の和が6以上となるように配合」することを必須とする甲B5の記載から、当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲B5に記載された発明であるとはいえず、また、甲B5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記ウで説示したとおり、本件発明1は、甲B5に記載された発明であるとはいえず、また、甲B5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲B5に記載された発明であるとはいえず、また、甲B5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(10) 甲C1を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1~4
・引用文献 甲C1
取消理由通知書で指摘した甲C1を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項1に係る発明、同請求項2に係る発明、同請求項3に係る発明、及び、同請求項1~3のいずれかを引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2及び3は削除され、請求項4の引用先からは請求項2及び3が削除されたため、甲C1を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2及び3に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由のうち、請求項2又は3を引用する部分については、理由がないものとなったことが明らかである。
以下、本件発明1及び4について、甲C1を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由について検討する。
ア 甲C1に記載された事項
甲C1には、以下の事項が記載されている。
・摘記C1ア
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、・・・、製剤の保存安定性に優れるとともに、塗布時の皮膚上での上滑りや水っぽさがなく、皮膚上での延展性に優れ、更には、延展時にクリームのような抵抗感のある良好な使用感(以下、コクのある使用感と称す。)を有する乳液状皮膚化粧料を提供することを課題とする。」
・摘記C1イ
「【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、
〔1〕(A)水膨潤性粘土鉱物、(B)アミノ酸系界面活性剤、(C)増粘性高分子および(D)ポリオキシエチレン脂肪酸および/又は(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含有してなる乳液状皮膚化粧料、
・・・
に関する。」
・摘記C1ウ
「【発明の効果】
【0009】
本発明の乳液状皮膚化粧料は、乳液状の形態を維持するという製剤の保存安定性に優れた効果を奏する。また、塗布時の皮膚上での上滑りや水っぽさがなく、使用感に優れた効果を奏する。更には、皮膚上での延展性に優れるとともに、延展時にはコクのある使用感を有するという効果を奏する。」
・摘記C1エ
「【0011】
・・・。好適な(A)成分としては、保存安定性の観点および延展時の使用感に優れる観点から、・・・、中でも、ベントナイトを用いることがより好ましい。
・・・
【0013】
(A)成分の含有量は、所望の効果が付与されるのであれば特に限定されないが、通常、塗布時の皮膚上での上滑りや水っぽさを抑制し、延展時にコクのある使用感を付与する観点から、組成物中、0.01重量%以上が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上である。・・・。」
・摘記C1オ
「【0014】
(B)成分のアミノ酸系界面活性剤としては、例えば、N-アシルサルコシン塩、N-アシルグルタミン酸塩、・・・、N-アシルグリシン塩などが挙げられる。・・・。
【0015】
具体的には、・・・などのN-アシルサルコシン塩;ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルグルタミン酸トリエタノールアミン、ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、ミリストイルグルタミン酸カリウム、ステアロイルグルタミン酸カリウム、ステアロイルグルタミン酸ニナトリウム、ココイルグルタミン酸カリウム、ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸トリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸・硬化牛脂脂肪酸アシルグルタミン酸ナトリウムなどのN-アシルグルタミン酸塩;・・・などのN-アシルグリシン塩などを例示することができる。・・・。
【0016】
(B)成分の含有量は、所望の効果が付与されるのであれば特に限定されないが、通常、(A)成分による増粘を抑制する観点から、組成物中、0.01重量%以上が好ましく、より好ましくは0.05重量%以上である。・・・。
【0017】
また、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量は、(A)成分による増粘を抑制する観点から、下記不等式
(A)成分の含有量 ≧ (B)成分の含有量
を満たし調製されることが好ましい。これにより、優れた保存安定性を付与できるとともに、延展時にコクのある使用感を付与することに有利となる。」
・摘記C1カ
「【0018】
(C)増粘性高分子としては、水溶性を有する天然増粘性高分子、・・・などが挙げられる。・・・。好適な(C)成分としては、塗布時の皮膚上での上滑りや水っぽさを抑制する観点から、天然増粘性高分子を用いることが好ましく、中でも、キサンタンガムを用いることがより好ましい。
【0019】
(C)成分の含有量は、所望の効果が付与されるのであれば特に限定されないが、通常、保存安定性を向上させる観点および塗布時の皮膚上での上滑りや水っぽさを抑制する観点から、・・・。また、延展時の使用感の悪化を抑制する観点から、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下であることが望ましい。・・・。」
・摘記C1キ
「【0020】
(D)成分のポリオキシエチレン脂肪酸の具体例としては、例えば、・・・、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、・・・などを例示することができる。
【0021】
また、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、・・・;モノラウリン酸ポリグリセリル、モノミリスチン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリルなどのポリグリセリン脂肪酸エステルなどを例示することができる。これら成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組合せて用いることもできる。
【0022】
(D)成分の含有量は、所望の効果が付与されるのであれば特に限定されないが、通常、保存安定性の観点から、組成物中、0.01重量%以上が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上である。また、乳液状の形態を維持する観点から、3重量%以下が好ましく、より好ましくは2重量%以下である。これらの観点から、(D)成分の含有量は、組成物中、0.01~3重量%が好ましく、より好ましくは0.1~2重量%である。」
・摘記C1ク
「【0023】
更に、本発明の乳液状皮膚化粧料には、(E)脂肪酸を含有させることができる。・・・。好適な(E)成分としては、延展時のコクのある使用感を向上させる観点から、炭素数12~22の高級脂肪酸を用いるのが好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸がより好ましく用いられる。
【0024】
(E)成分の含有量は、・・・、通常、延展時のコクのある使用感を向上させる観点から、組成物中、0.01重量%以上が好ましく、より好ましくは0.05重量%以上である。また、延展時の使用感の悪化を抑制する観点から、2重量%以下が好ましく、より好ましくは1重量%以下である。・・・。」
・摘記C1ケ
「【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。尚、配合量は、特記しない限り「重量%」を表す。
【0029】
(試料の調製1)
表1および表2に記した組成に従い、実施例1~4および比較例1~4の各試料を常法に準じて調製し、下記評価に供した。結果をそれぞれ表1および表2に併記する。尚、評価はすべて、23℃、湿度60%の恒温恒湿の一定条件下で実施した。
・・・
【0033】
(試験例3:塗布時の使用性の評価)
実施例および比較例の各試料を専門パネル10名に使用させ、塗布直後の皮膚上での上滑りおよび水っぽさについて、下記基準に従って官能評価した。
【0034】
<皮膚上での上滑りの評価基準>
○:10名中8名以上が皮膚上での上滑りがないと回答
△:10名中4~7名が皮膚上での上滑りがないと回答
×:10名中3名以下が皮膚上での上滑りがないと回答
【0035】
<水っぽさの評価基準>
○:10名中8名以上が水っぽさがないと回答
△:10名中4~7名が水っぽさがないと回答
×:10名中3名以下が水っぽさがないと回答
【0036】
(試験例4:延展時の使用性の評価)
上記同専門パネル10名により、試験例3の評価後、肌上に伸ばしてもらい、延展性および使用感について、下記基準に従って官能評価した。
【0037】
<延展性の評価基準>
○:10名中8名以上が延展性に優れると回答
△:10名中4~7名が延展性に優れると回答
×:10名中3名以下が延展性に優れると回答
【0038】
<使用感の評価基準>
○:10名中8名以上がコクのある使用感であると回答
△:10名中4~7名がコクのある使用感であると回答
×:10名中3名以下がコクのある使用感であると回答
【0039】
【表1】
[図:0001397167000004.jpg]
【表2】
[図:0001397167000005.jpg]
【0041】
表1および表2に示された結果から、各実施例の乳液状皮膚化粧料は、各比較例のものと対比して、乳液状の形態を維持しており、優れた製剤の保存安定性を有していることが分かる。また、塗布時の皮膚上での上滑りや水っぽさがなく、延展性に優れていることが分かる。ここで、実施例1および比較例1の粘弾性試験結果を図1および図2に示す。これらの試験結果図より、比較例1と対比して本発明(実施例1)の乳液状皮膚化粧料では、ずり応力がかかることで粘度が上昇していることが分かる。即ち、実施例1のような粘度挙動が本発明の特有の効果である、水っぽい使用感とならず、コクのある使用感をもたらす要因であることが分かる。」
イ 甲C1に記載された発明
甲C1の【0007】、【0009】、【0028】~【0039】【表1】の「実施例3」及び【0041】の記載からみて、甲C1には次の発明(以下「甲C1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲C1の【0028】の記載から、実施例3の配合量は重量%で示されていると理解できる。
<<甲C1発明>>
「ベントナイト 0.5重量%
N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウム 0.1重量%
キサンタンガム 0.2重量%
モノステアリン酸ポリエチレングリコール 0.3重量%
ジステアリン酸ポリグリセリル 0.7重量%
ステアリン酸 0.5重量%
流動パラフィン 10.0重量%
メチルポリシロキサン 1.0重量%
グリセリン 10.0重量%
ジプロピレングリコール 10.0重量%
1,2-オクタンジオール 0.2重量%
精製水 残部
を含有する、延展時にクリームのような抵抗感のある良好な使用感(コクのある使用感)を有する、乳液状皮膚化粧料。」
ウ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C1発明とを対比する。
甲C1発明における「乳液状皮膚化粧料」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C1発明の乳液状皮膚化粧料が「延展時にクリームのような抵抗感のある良好な使用感(コクのある使用感)を有する」ことは、ずり応力がかかることで粘度が上昇することによるものとされているから(摘記C1ク【0041】)、本件発明1の乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことに相当するものといえる。
甲C1発明における「ジステアリン酸ポリグリセリル0.7重量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル」である点で共通している。
甲C1発明における「ステアリン酸0.5重量%」は、本件発明1における「(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び・・・から選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C1発明における「グリセリン10重量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」であり、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C1発明において、「グリセリン」の「ステアリン酸」に対する重量比は、20(=10.0/0.5)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C1発明の乳液状皮膚化粧料は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C1発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル」が、本件発明1では、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」に特定されているのに対し、甲C1発明では、「グリセリル」単位の結合数が不明である点。
<相違点2>
「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル」の配合量が、本件発明1では、「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C1発明では、「0.7重量%」である点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、甲C1には、上記(D)成分の「ポリオキシエチレン脂肪酸」及び「(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル」のうち、前者の選択肢の1つとして「モノステアリン酸ポリエチレングリコール」が記載されており(摘記C1キ【0020】)、後者の選択肢の1つとして「ジステアリン酸ポリグリセリル」が記載されているが(摘記C1キ【0021】)、甲C1の記載全体を精査しても、その「グリセリル」単位の結合数を推認できるような根拠は見出せないから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量が異なるから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C1に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
(a) 甲C1発明の課題及び解決手段
甲C1発明は、製剤の保存安定性に優れるとともに、塗布時の皮膚上での上滑りや水っぽさがなく、皮膚上での延展性に優れ、更には、延展時にクリームのような抵抗感のある良好な使用感(コクのある使用感)を有する乳液状皮膚化粧料を提供すること、を解決すべき課題とし(摘記C1ア【0007】)、当該課題を解決する手段を、「(A)水膨潤性粘土鉱物、(B)アミノ酸系界面活性剤、(C)増粘性高分子および(D)ポリオキシエチレン脂肪酸および/又は(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含有してなる乳液状皮膚化粧料」(摘記C1イ【0008】)とした、具体的な処方例の1つである。
そして、甲C1の記載事項(特に、摘記C1エ~摘記C1ケ)からみて、甲C1発明の乳液状皮膚化粧料における「延展時にクリームのような抵抗感のある良好な使用感(コクのある使用感)」の性状ないし効果には、
・(A)成分の水膨潤性粘土鉱物(ベントナイト)の含有量
・(B)成分のアミノ酸系界面活性剤(N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウム)の含有量
・(C)成分の増粘性高分子(キサンタンガム)の含有量
・(D)成分のポリオキシエチレン脂肪酸(モノステアリン酸ポリエチレングリコール)及び(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル(ジステアリン酸ポリグリセリル)の含有量
・(E)成分の脂肪酸(ステアリン酸)の含有量
の全ての構成の組み合わせが、寄与し影響しているものと認められる。
(b) 相違点1について
乳化化粧料に配合される「ジステアリン酸ポリグリセリル」として、「グリセリル」単位の結合数が「10」(デカ)のものは広く知られているから(要すれば、甲A1の【請求項11】、甲A4の【0010】、甲B1の[0040]、甲B3の【0015】、甲B4の【0036】[処方例3]、甲C2の【0027】、【0072】【表2】「実施例1」、甲C6の【0033】~【0034】、甲C7の【0027】、甲C8の【0017】、甲C12の【0053】「NIKKOL Decaglyn 2-SV」、甲C13の【0014】を参照)、甲C1の記載に接した当業者が、甲C1発明を実施するにあたり、「ジステアリン酸ポリグリセリル」として「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を用いることは、容易になし得たことであるといえる。
(c) 相違点2について
甲C1には、上記(D)成分の含有量は、保存安定性の観点及び乳液状の形態を維持する観点から、より好ましくは「0.1~2重量%」であることが記載されており(摘記C1キ【0022】)、当該含有量の範囲は、本件発明1における(A)成分の配合量「1.5~5質量%」の範囲と部分的に重複している。
しかしながら、甲C1には、甲C1発明を認定する根拠とした実施例3を含め、上記(D)成分の含有量が上記「1.5~5質量%」の条件を満たすような乳液状皮膚化粧料の実施例や処方例は1つも記載されていない。
そして、保存安定性、塗布時の皮膚上での感触や延展性、延展時の使用感等の観点の課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲C1発明の乳液状皮膚化粧料において、上記(a)で説示した「延展時にクリームのような抵抗感のある良好な使用感(コクのある使用感)」の性状ないし効果に寄与し影響する多数の成分の配合量の中で、特に「ジステアリン酸ポリグリセリル」の配合量のみを、「0.7質量%」から2倍以上の「1.5~5質量%」に大幅に増加させたうえで、さらに、他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件を満たすような組成とすることは、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、甲C1の記載から当業者が容易になし得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
本件発明1で特定する各成分とそれらの量比とすることにより得られる、上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点はについては、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C1の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C1に記載された発明であるとはいえず、また、甲C1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記ウで説示したとおり、本件発明1は、甲C1に記載された発明であるとはいえず、また、甲C1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C1に記載された発明であるとはいえず、また、甲C1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(11) 甲C2を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、2、4
・引用文献 甲C2
取消理由通知書で指摘した甲C2を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項1に係る発明、同請求項2に係る発明、及び、同請求項1又は2のいずれかを引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2は削除され、請求項4の引用先からは請求項2が削除されたため、甲C2を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由は、理由がないものとなったことが明らかである。
以下、本件発明1及び4について、甲C2を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由について検討する。
ア 甲C2に記載された発明
甲C2の【0079】~【0080】「実施例13」の記載からみて、甲C2には次の発明(以下「甲C2発明」という。)が記載されていると認められる。なお、【0055】の記載から、実施例13の「%」は「質量%」を意味すると解される。
<<甲C2発明>>
「1.イソノナン酸イソトリデシル 15.8質量%
2.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 5.0質量%
3.ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 2.0質量%
4.トリ(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル 0.5質量%
5.ベヘニルアルコール 1.0質量%
6.セスキイソステアリン酸ソルビタン(HLB:4.5) 0.5質量%
7.ステアリン酸グリセリル(SE)(HLB:11.6) 0.7質量%
8.ジステアリン酸ポリグリセリル-10(HLB:9.5)0.5質量%
9.カルボマー 0.1質量%
10.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー 0.1質量%
11.キサンタンガム(2%aq) 2.0質量%
12.イソステアリン酸PEG-20ソルビタン(HLB:15.0)
1.5質量%
13.トリエタノールアミン 0.2質量%
14.1,3-ブチレングリコール 5.0質量%
15.エタノール 5.0質量%
16.酸化チタン水分散体I 25.0質量%
17.精製水 35.1質量%
を含有する日焼け止めO/Wクリーム」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C2発明とを対比する。
甲C1発明における「日焼け止めO/Wクリーム」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C2発明における「ジステアリン酸ポリグリセリル-10(HLB:9.5)0.5質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」に相当する。
甲C2発明における「ステアリン酸グリセリル(SE)(HLB:11.6)0.7質量%」は、本件発明1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C2発明における「1,3-ブチレングリコール5.0質量%」及び「エタノール 5.0質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当し、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C2発明において、「1,3-ブチレングリコール」及び「エタノール」の、「ステアリン酸グリセリル(SE)」に対する重量比は、14.3(=(5.0+5.0)/0.7)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C2発明の日焼け止めO/Wクリームは、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C2発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)成分」の配合量が、本件発明1では「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C2発明では「0.5質量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C2発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量が異なることから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C2には、甲C2発明に係るO/Wクリームが「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C2発明に係るO/Wクリームがそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C2に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲C2発明は、「最外層を疎水化処理した微粒子無機粉末を安定に水相に存在させることで、感触が良く、汗や水に強く、かつ、長期保存においても安定な水溶性高分子増粘剤を含む水中油型乳化化粧料、及び、その製造方法を提供すること」を解決すべき課題とし(【0010】)、当該課題を解決する手段を、
「疎水性有機表面処理された微粒子無機粉体(A)、
HLBが9.5以下であるポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステルから選択される少なくとも一種の界面活性剤(B)、並びに、
少なくとも一種の水溶性高分子及び/又は水膨潤性高分子からなる水系増粘剤(C)
を含有することを特徴とする水中油型乳化化粧料」
とした(【0011】)、具体的な処方例の1つである。
甲C2には、上記「界面活性剤(B)」の例の1つとして「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」が挙げられており(【0025】)、当該「界面活性剤(B)」の配合量について、0.1~3質量%がより好ましいことが記載されている(【0029】)。
しかしながら、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲C2発明のO/Wクリームにおいて、
・多数の含有成分のうち、特に「ジステアリン酸ポリグリセリル-10(HLB:9.5)」の量のみを「0.5質量%」から3倍以上の「1.5~5質量%」に大幅に増加させ、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C2の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとことであるとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C2の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C2に記載された発明であるとはいえず、また、甲C2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C2に記載された発明であるとはいえず、また、甲C2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C2に記載された発明であるとはいえず、また、甲C2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(12) 甲C3を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C3
ア 甲C3に記載された発明
甲C3の【0073】~【0075】【表6】「実施例34」の記載からみて、甲C3には次の発明(以下「甲C3発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲C3発明>>
「N-(ヘキサデシロキシヒドロキシプロピル)-N-ヒドロキシエチル
ヘキサデカナミド 1.80質量%
セタノール 0.60質量%
グリセリンモノベヘン酸エステル 1.80質量%
N-ステアロイル-L-グルタミン酸 0.58質量%
L-アルギニン 0.32質量%
スクワラン 5質量%
メチルポリシロキサン 5質量%
ジイソステアリン酸ジグリセリル 1質量%
グリセリン 20質量%
1,3-ブチレングリコ-ル 5質量%
カルボキシビニルポリマー 0.1質量%
水酸化カリウム 0.05質量%
パラオキシ安息香酸メチル 0.4質量%
香料 0.02質量%
水 バランス
を含有する水中油型乳化組成物。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C3発明を対比する。
甲C3発明における「水中油型乳化組成物」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C3発明における「ジイソステアリン酸ジグリセリル1質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通する。
甲C3発明における「グリセリンモノベヘン酸エステル1.80質量%」は、本件発明1の「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C3発明における「グリセリン20質量%」及び「1,3-ブチレングリコール 5質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当し、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C3発明において、「グリセリン」及び「1,3-ブチレングリコール」の、「グリセリンモノベヘン酸エステル」に対する重量比は、13.9(=(20+5)/1.80)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C3発明の水中油型乳化組成物は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C3発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C3発明では、「ジイソステアリン酸ジグリセリル」であり、配合量が「1質量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C3発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と「ジイソステアリン酸ジグリセリル」は、構造が異なる別の化合物であり、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量も異なることから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C3には、甲C3発明に係る乳化組成物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C3発明に係る乳化組成物がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C3に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲C3発明は、「セラミドを安定に含有し、保湿効果が高く、しかも、きしみ感が抑制され、使用感に優れた乳化組成物」の提供を解決すべき課題とし(【0005】)、当該課題を解決する手段を、
「次の成分(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F):
(A)炭素数10~24の直鎖脂肪酸を由来とするグリセリンモノ脂肪酸エステル、
(B)炭素数10~24の高級アルコール、
(C)セラミド類、
(D)アニオン界面活性剤、
(E)IOBが0.2~0.85の分岐の脂肪酸エステルであって、ヒドロキシル基を有する分岐の脂肪酸エステル及びアミノ基を有する分岐の脂肪酸エステルから選ばれる極性油、
(F)水
を含有し、成分(A)、(B)、(C)及び酸に換算した成分(D)の含有量と、成分(E)の含有量の質量割合((A)+(B)+(C)+(D))/(E)が、1.2~25である乳化組成物」
とした(【0007】)、具体的な処方例の1つである。
甲C3には、上記「成分(E)」について、「ジイソステアリン酸ジグリセリル(IOB=0.42)」等が例示されており、成分(C)の結晶化を防止し、きしみ感を抑制する点から、その含有量は、0.2質量%以上がさらに好ましく、3質量%以下がさらに好ましい旨が記載されているが(【0035】~【0037】)、乳化組成物に配合し得る成分として「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」は例示すら記載されていない。
そして、セラミドを安定に含有し、保湿効果が高く、きしみ感を抑制し、使用感を優れたものとする観点から上記課題を解決するための具体的な処方として調製された、特定の組成を有する甲C3発明の乳化組成物において、
・含有成分の1つである「ジイソステアリン酸ジグリセリル(IOB=0.42)」に代えて、或いは、これに追加して、甲C3に例示すら記載されていない「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を含有するものとし、その量を「1.5~5質量%」とし、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C3の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとことであるとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C3の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C3に記載された発明であるとはいえず、また、甲C3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C3に記載された発明であるとはいえず、また、甲C3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C3に記載された発明であるとはいえず、また、甲C3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(13) 甲C4を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C4
ア 甲C4に記載された発明
甲C4の【0100】~【0101】、【0116】、【0120】【表8】「実施例26」~【0122】の記載からみて、甲C4には、次の発明(以下「甲C4発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲C4全体にわたり、成分が質量割合で特定されているから、表8の数値も、各成分が質量割合、すなわち、質量%で特定されているものと解される。
<<甲C4発明>>
「グリセリンモノベヘン酸エステル 0.6質量%
セチルアルコール 0.6質量%
疑似型セラミド 1.5質量%
セラミドIII 0.3質量%
フィトスフィンゴシン 0.5質量%
グルタミン酸 10質量%
グリセリン 10質量%
メチルグルセス-20 1質量%
ブチレングリコール 2質量%
アラントイン 0.3質量%
メチルパラベン 0.2質量%
水 バランス
ユーカリ葉抽出液 0.3質量%
アスナロ枝抽出液 1質量%
メチルセルロース 0.4質量%
寒天 0.2質量%
水添ポリブテン 8質量%
スクワラン 3質量%
イソノナン酸イソトリデシル 0.1質量%
セレシン 1質量%
パルミチン酸デキストリン 0.3質量%
シクロメチコン 3質量%
ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2 1質量%
ソルビタン脂肪酸エステル活性剤 3質量%
香料 適量
を含有する、O/W/O型皮膚外用剤。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C4発明とを対比する。
甲C4発明における「O/W/O型皮膚外用剤」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C4発明における「ジイソステアリン酸ポリグリセリル-21質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通する。
甲C4発明における「グリセリンモノベヘン酸エステル0.6質量%」は、本件発明1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C4発明における「グリセリン10質量%」及び「ブチレングリコール 2質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当し、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C4発明において、「グリセリン」及び「ブチレングリコール」の、「グリセリンモノベヘン酸エステル」に対する重量比は、20(=(10+2)/0.6)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C4発明のO/W/O型皮膚外用剤は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C4発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C4発明では、「ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2」であり、配合量が「1質量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C4発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と「ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2」は、構造が異なる別の化合物であり、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量も異なることから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C4には、甲C4発明に係るO/W/O型皮膚外用剤が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C4発明に係るO/W/O型皮膚外用剤がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C4に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲C4発明は、「低温保存時のセラミド類の結晶化が抑制されてセラミド類が安定に配合されているとともに、乳化安定性に優れ、皮膚外用剤を皮膚に適用した場合に、あつみ感、皮膚を保護する感じおよびなめらか感があるとともにきしみ感がなく、しっとり感が持続する感じを与えるO/W/O型皮膚外用剤を提供する」ことを解決すべき課題とし(【0006】)、当該課題を解決する手段を、
「次の成分(A)、(B)、(C)および(D):
(A)炭素数12~26のグリセリンモノ脂肪酸エステル、
(B)炭素数10~22のアルコール、
(C)セラミド類、
(D)スフィンゴシン塩およびイオン性界面活性剤からなる群から選択される一または二以上の化合物
を含むO/W/O型皮膚外用剤であって、
当該O/W/O型皮膚外用剤中の前記成分(A)、(B)および(C)の合計に対する前記成分(C)の質量割合である((C)/((A)+(B)+(C)))が、0.4以上1.0未満であって、
当該O/W/O型皮膚外用剤中の前記成分(A)、(B)および(C)の合計に対する前記成分(D)の質量割合である((D)/((A)+(B)+(C)))が、0より大きく0.5以下である、O/W/O型皮膚外用剤」
とした(【0007】)、具体的な処方例の1つである。
甲C4には、上記「成分(A)」以外に、適宜配合し得る非イオン性界面活性剤の1つとして、「ポリグリセリン脂肪酸エステル」が挙げられており(【0076】~【0077】)、その好ましい例として、「ジグリセリン脂肪酸エステル」が挙げられているが(【0086】)、甲C4には、上記「O/W/O型皮膚外用剤」に配合する成分として「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」は例示すら記載されていない。
そして、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された、特定の組成を有する甲C4発明のO/W/O型皮膚外用剤において、
・含有成分の1つである「ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2」に代えて、或いは、これに追加して、甲C4に例示すら記載されていない「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を含有するものとして、その量を「1.5~5質量%」とし、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C4の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとことであるとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C4の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C4に記載された発明であるとはいえず、また、甲C4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C4に記載された発明であるとはいえず、また、甲C4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C4に記載された発明であるとはいえず、また、甲C4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(14) 甲C5を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C5
ア 甲C5に記載された発明
甲C5の[0074]、[0124]~[0126][表11]「実施例11」の記載からみて、甲C5には次の発明(以下「甲C5発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲C5発明>>
「ポリグリセリン脂肪酸エステルA(平均重合度6のポリグリセリンとカプリル酸との反応混合物) 8.00重量%
トリポリヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル 3.00重量%
パラメトキシケイ皮酸エチルヘキシル 2.00重量%
イソステアリン酸 1.00重量%
ジメチコン 6.00重量%
シクロメチコン 6.00重量%
セチルジメチコンコポリオール 1.00重量%
PEG-10ジメチコン 1.00重量%
プロピルパラベン 0.10重量%
タルク 2.70重量%
酸化チタン 8.40重量%
酸化鉄(黄) 0.60重量%
酸化鉄(赤) 0.18重量%
酸化鉄(黒) 0.12重量%
1,3-BG 10.00重量%
グリセリン 2.00重量%
メチルパラベン 0.1重量%
塩化ナトリウム 1.00重量%
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 1.00重量%
水 46.80重量%
を含有するW/O乳化型ファンデーション。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C5発明とを対比する。
甲C5発明における「W/O乳化型ファンデーション」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C5発明における「ポリグリセリン脂肪酸エステルA(平均重合度6のポリグリセリンとカプリル酸との反応混合物) 8.00重量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通する。
甲C5発明における「イソステアリン酸1.00重量%」は、本件発明1における「(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び・・・から選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C5発明における「1,3-BG10.00重量%」及び「グリセリン 2.00質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当し、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C5発明において、「1,3-BG」及び「グリセリン」の、「イソステアリン酸」に対する重量比は、12(=(10.00+2.00)/1.00)であるから、本件発明1の「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C5発明のW/O乳化型ファンデーションは、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C5発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C5発明では、「ポリグリセリン脂肪酸エステルA(平均重合度6のポリグリセリンとカプリル酸との反応混合物)」であり、配合量が「8.00重量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C5発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と「ポリグリセリン脂肪酸エステルA(平均重合度6のポリグリセリンとカプリル酸との反応混合物)」は、構造が異なる別の化合物であり、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量も異なることから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C5には、甲C5発明に係るW/O乳化型ファンデーションが「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C5発明に係るW/O乳化型ファンデーションがそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C5に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲C5発明は、「非常に優れた使用感及び感触を有する化粧料、低粘度であっても乳化の経時安定性に優れた化粧料、及び、使用時は軽い振とうにより容易に均一に分散し、使用後は容易に元の油層と水層とに分かれて安定である二層分離型化粧料に好適に用いることができる化粧料用組成物を提供すること」を解決すべき課題とし([0013])、当該課題を解決する手段を、
「平均重合度4~100のポリグリセリンと、炭素数2~18の脂肪酸とのエステルで、かつ水酸基価が、15mgKOH/g以下であり、20℃における比重が0.96~1.15であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する化粧料用組成物」
とした([0014])、具体的な処方例の1つである。
甲C5には、上記「ポリグリセリン脂肪酸エステル」について、構成するポリグリセリンの平均重合度が、4~10であることがより好ましく、6であることが最も好ましい旨([0018])、構成する好ましい脂肪酸として、ステアリン酸の例示もあるが、カプリル酸が最も好ましい旨([0019])が記載されており、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」の明示的な記載はない。
そして、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された、特定の組成を有する甲C5発明のW/O乳化型ファンデーションにおいて、
・多数の含有成分のうち、敢えて好ましいとされる「ポリグリセリン脂肪酸エステルA(平均重合度6のポリグリセリンとカプリル酸との反応混合物)」を、具体的な例示すらない「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」に変更したうえで、その配合量を「8.00重量%」から「1.5~5質量%」に減少させ、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C5の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとことであるとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C5の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C5に記載された発明であるとはいえず、また、甲C5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C5に記載された発明であるとはいえず、また、甲C5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C5に記載された発明であるとはいえず、また、甲C5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(15) 甲C6を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C6
ア 甲C6に記載された発明
甲C6の【0105】~【0107】【表3】「実施例17」の記載からみて、甲C6には次の発明(以下「甲C6発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲C6発明>>
「ステアリン酸グリセリル 1.0質量%
硬化なたね油アルコール 4.2質量%
イソノナン酸イソノニル 6.0質量%
スクワラン 9.6質量%
ミリスチン酸オクチルドデシル 4.8質量%
モノステアリン酸ポリ(10)グリセリル 2.0質量%
プロピルパラベン 0.1質量%
キサンタンガム 0.1質量%
dl-α-トコフェロールジメチルグリシンエステル 1.0質量%
1,3-BG 4.8質量%
グリセリン 4.8質量%
クエン酸3Na 0.4質量%
精製水 61.2質量%
を含有するクリーム。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C6発明とを対比する。
甲C6発明における「クリーム」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C6発明における「モノステアリン酸ポリ(10)グリセリル2.0質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲C6発明における「ステアリン酸グリセリル1.0質量%」は、本件発明1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C6発明における「1,3-BG4.8重量%」及び「グリセリン 4.8質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当する。
甲C6発明において、「1,3-BG」及び「グリセリン」の、「ステアリン酸グリセリル」に対する重量比は、9.6(=(4.8+4.8)/1.00)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C6発明のクリームは、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C6発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C6発明では「モノステアリン酸ポリ(10)グリセリル」であり、その配合量が「2.0質量%」である点。
<相違点2>
「(C)成分」の配合量が、本件発明1では「10~30質量%」であるのに対し、甲C6発明では「9.6質量%」である点。
<相違点3>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C6発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1~3についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と「モノステアリン酸ポリ(10)グリセリル」は、構造が異なる別の化合物であることから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量が異なるから、相違点2は実質的な相違点である。
相違点3に関し、甲C6には、甲C6発明に係るクリームが「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C6発明に係るクリームがそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C6に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1~3の容易想到性について
甲C6発明は、「製剤保存中に生じる粘度の低下などを防止し、保存安定性に優れた、トコフェロールグリシンエステル誘導体を含有する乳化皮膚外用剤を提供すること」を解決すべき課題とし(【0005】)、当該課題を解決する手段を、
「下記一般式(1)(当審注:式の摘記は省略する。)で示されるトコフェロールグリシンエステル誘導体を0.03~25質量%の範囲で含有し、かつ、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびデキストリン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪酸エステルを0.05~25質量%の範囲で含有することを特徴とする乳化皮膚外用剤。」
とした(【0008】~【0010】)、具体的な処方例の1つである。
甲C6には、上記「ポリグリセリン脂肪酸エステル」として、「ジステアリン酸ポリ(6~10)グリセリル」の例示もあるが(【0034】)、これらは好ましい例に含まれておらず、「モノステアリン酸ポリ(10)グリセリル」等がより好ましい例とされている(【0035】)。
そして、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された、特定の組成を有する甲C6発明のクリームにおいて、
・多数の含有成分のうち、敢えて好ましいとされる「モノステアリン酸ポリ(10)グリセリル」について、これ代えて又は追加して、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・「1,3-BG」及び「グリセリン」の合計量を、場合により他の低級アルコールも併せて、「9.6質量%」から「10~30質量%」に増加させ、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C6の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとことであるとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C6の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C6に記載された発明であるとはいえず、また、甲C6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C6に記載された発明であるとはいえず、また、甲C6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C6に記載された発明であるとはいえず、また、甲C6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(16) 甲C7を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C7
ア 甲C7に記載された発明
甲C7の【0039】~【0040】【表1】「実施例4」の記載からみて、甲C7には次の発明(以下「甲C7発明」という。)が記載されていると認められる。なお、【0020】の記載から、【表1】の「%」は「質量%」を意味すると解される。
<<甲C7発明>>
「モノステアリン酸グリセリル 1.0質量%
モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン 1.0質量%
セタノール 3.0質量%
流動パラフィン 20.0質量%
N-ステアロイルメチルタウリンナトリウム 1.0質量%
グリセリン 5.0質量%
1,3-ブチレングリコール 10.0質量%
精製水 残量
L-アスコルビン酸リン酸マグネシウム 2.0質量%
チタン・酸化チタン焼結物 20.0質量%
スルホコハク酸ジオクチルナトリウム 1.0質量%
モノオレイン酸デカグリセリル(HLB:12.0) 2.5質量%
ペンタオレイン酸デカグリセリル(HLB:3.5) 0.5質量%
を含む混合物を乳化して得られるクリーム状パック料。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C7発明とを対比する。
甲C7発明における「クリーム状パック料」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C7発明における「モノオレイン酸デカグリセリル(HLB:12.0) 2.5質量%」及び「ペンタオレイン酸デカグリセリル(HLB:3.5)0.5質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲C7発明における「モノステアリン酸グリセリル1.0質量%」は、本件発明1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C7発明の「グリセリン5.0質量%」及び「1,3-ブチレングリコール 10.0質量%」は、本件発明1の「(C)低級アルコール」に相当し、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C7発明において、「グリセリン」及び「1,3-ブチレングリコール」の、「モノステアリン酸グリセリル」に対する重量比は、15(=(5.0+10.0)/1.0)であるから、本件発明1の「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C7発明のクリーム状パック料は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C7発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C7発明では「モノオレイン酸デカグリセリル(HLB:12.0)」及び「ペンタオレイン酸デカグリセリル(HLB:3.5)」であり、それらの配合量が「2.5質量%」及び「0.5質量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C7発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「モノオレイン酸デカグリセリル(HLB:12.0)」及び「ペンタオレイン酸デカグリセリル(HLB:3.5)」とは、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C7には、甲C7発明に係るクリーム状パック料が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C7発明に係るクリーム状パック料がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C7に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲C7発明は、「水中に粉体を良好に分散することにより、化粧料塗布時の伸び広がりが良好であり、且つ、経時存安定性に優れる化粧料」を提供することを解決すべき課題とし(【0006】)、当該課題を解決する手段を、「次の成分(a)~(d);
(a)粉体
(b)スルホコハク酸ジオクチルナトリウム
(c)ポリグリセリン脂肪酸エステル
(d)水
を含有すること化粧料」とすることを主な構成とした(【0007】)、具体的な処方例の1つである。
甲C7には、上記「成分(c)」の「ポリグリセリン脂肪酸エステル」について、「HLB値9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル」及び「HLB値7.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル」の二種以上を組み合わせて用いることにより、経時的な分散安定性が特に優れた化粧料を得ることができる旨が記載され(【0026】)、「HLB値9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル」の例として、「モノオレイン酸デカグリセリル」とともに、「ジステアリン酸デカグリセリル」(当審注:「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と同義である。)も含む複数の化合物が列記されており(【0027】)、「HLB値7.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル」の例として、「ペンタオレイン酸デカグリセリル」を含む多数の化合物が列記されている(【0028】)。また、上記「成分(c)」の含有量は、「0.01~3%」がより好ましいことが記載されている(【0029】)。
しかしながら、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲C7発明のクリーム状パック料において、
・多数の含有成分の中で、特に「モノオレイン酸デカグリセリル(HLB:12.0)」について、これに代えて又は追加して、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C7の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C7の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C7に記載された発明であるとはいえず、また、甲C7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C7に記載された発明であるとはいえず、また、甲C7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C7に記載された発明であるとはいえず、また、甲C7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(17) 甲C8を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C8
ア 甲C8に記載された発明
甲C8の【0043】「実施例6」の記載からみて、甲C8には次の発明(以下「甲C8発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲C8発明>>
「(a)ウフェナマート 5.0質量%
アラントイン 0.5質量%
パンテノール 1.0質量%
塩酸ピリドキシン 0.1質量%
(g)スクワラン 5.0質量%
(g)シリコーン油 2.0質量%
(g)トリイソオクタン酸グリセリン 3.0質量%
(b)モノステアリン酸ヘキサグリセリル 0.5質量%
(b)モノリノール酸デカグリセリル 2.0質量%
(c)ジステアリン酸グリセリル 1.0質量%
(g)マイクロクリスタリンワックス 0.5質量%
(d)ステアリン酸 1.0質量%
エチルパラベン 0.1質量%
ブチルパラベン 0.1質量%
グリセリン 5.0質量%
1,3ブチレングリコール 6.0質量%
コラーゲン 0.1質量%
(f)キサンタンガム 0.3質量%
(f)ヒドロキシプロピルセルロース 0.05質量%
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1質量%
(e)水酸化ナトリウム 0.05質量%
(h)水 残余
を含有する湿疹皮膚炎用クリーム。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C8発明とを対比する。
甲C8発明における「湿疹皮膚炎用クリーム」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C8発明における「モノステアリン酸ヘキサグリセリル 0.5質量%」及び「モノリノール酸デカグリセリル 2.0質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲C8発明における「ステアリン酸1.0質量%」は、本件発明1における「(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び・・・から選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C8発明における「グリセリン5.0質量%」、「1,3ブチレングリコール 6.0質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」であり、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C8発明において、「グリセリン」及び「1,3ブチレングリコール」の、「ステアリン酸」に対する重量比は、11(=(5.0+6.0)/1.0)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C8発明の湿疹皮膚炎用クリームは、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C8発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C8発明では「モノステアリン酸ヘキサグリセリル」及び「モノリノール酸デカグリセリル」であり、それらの配合量が「0.5質量%」及び「2.0質量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C8発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「モノステアリン酸ヘキサグリセリル」及び「モノリノール酸デカグリセリル」とは、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C8には、甲C8発明に係る湿疹皮膚炎用クリームが「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C8発明に係る湿疹皮膚炎用クリームがそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C8に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲C8発明は、「乳化粒子を微細化することなく、微細化に伴う欠点を取り除いた通常の大きさの乳化粒子を有する水中油型乳化組成物において、ウフェナマートを安定に配合できて、かつ、皮膚上に塗布する際の使用感にも優れるウフェナマート含有皮膚外用剤を提供すること」を解決すべき課題とし(【0010】)、当該課題を解決する手段を、
「下記成分(a)~(h)を含有することを特徴とする、水中油型乳化組成物からなるウフェナマート含有皮膚外用剤:
(a)ウフェナマート
(b)ポリグリセリン脂肪酸エステル
(c)グリセリン脂肪酸エステル
(d)高級脂肪酸
(e)高級脂肪酸を中和する塩基
(f)水溶性高分子
(g)油分
(h)水」
とすることを主な構成とした(【0011】)、具体的な処方例の1つである。
甲C8には、上記「(b)ポリグリセリン脂肪酸エステル」の好ましい例として、「モノステアリン酸ヘキサグリセリル」及び「モノリノール酸デカグリセリル」とともに、「ジステアリン酸デカグリセリル」(当審注:「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と同義である。)が挙げられており(【0017】)。また、上記「(b)ポリグリセリン脂肪酸エステル」の配合量は、「0.1~5%」がさらに好ましいことが記載されている(【0018】)。
しかしながら、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲C8発明の湿疹皮膚炎用クリームにおいて、
・多数の含有成分の中で、特に「モノステアリン酸ヘキサグリセリル」及び「モノリノール酸デカグリセリル」について、これに代えて又は追加して、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C8の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C8の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C8に記載された発明であるとはいえず、また、甲C8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
上記取消理由通知書においては、本件発明4について、甲C8を主引例とする新規性・進歩性の欠如を指摘しなかったが、本件特許の請求項4に係る発明について、申立人Cにより甲C8を主引例とする新規性・進歩性の欠如を理由とする特許異議の申立てがされていることから、便宜のため、ここで併せて当審の判断を示す。
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C8に記載された発明であるとはいえず、また、甲C8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C8に記載された発明であるとはいえず、また、甲C8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(18) 甲C9を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C9
ア 甲C9に記載された発明
甲C9の【0075】~【0076】【表3】「処方例1」の記載からみて、甲C9には次の発明(以下「甲C9発明」という。)が記載されていると認められる。。
<<甲C9発明>>
「グリセリン 5質量%
1,3-ブチレングリコール 5質量%
ジプロピレングリコール 5質量%
1,2-ペンタンジオール 0.15質量%
1,2-ヘキサンジオール 0.15質量%
オクトキシグリセリン 0.2質量%
エタノール 3質量%
モノステアリン酸デカグリセリル 1.5質量%
モノステアリン酸グリセリル 0.5質量%
ジステアリン酸ポリオキシエチレングリコール(150E.O.)
0.15質量%
パラメトキシケイヒ酸2-エチルヘキシル 3質量%
オクトクリレン 0.5質量%
シクロテトラシロキサン 5質量%
ステアリン酸 1.5質量%
ベヘニルアルコール 0.8質量%
イソノナン酸イソトリデシル 1.5質量%
シア脂 4質量%
オクテニルコハク酸トウモロコシデンプンAl 3質量%
EDTA-2Na 0.05質量%
カルボマー 0.2質量%
中和剤 適量
精製水 残部
を含む水中油型乳化組成物(化粧料)。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C9発明とを対比する。
甲C9発明における「水中油型乳化組成物(化粧料)」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C9発明の「モノステアリン酸デカグリセリル1.5質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲C9発明における「ステアリン酸1.5質量%」及び「モノステアリン酸グリセリル 0.5質量%」は、本件発明1における「(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C9発明における「グリセリン5質量%」、「1,3-ブチレングリコール 5質量%」、「1,2-ペンタンジオール 0.15質量%」及び「エタノール 3質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」であり、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C9発明において、「グリセリン」、「1,3-ブチレングリコール」、「1,2-ペンタンジオール」及び「エタノール」の、「ステアリン酸」及び「モノステアリン酸グリセリル」に対する重量比は、6.6=(5+5+0.15+3)/(1.5+0.5))であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C9発明の水中油型乳化組成物(化粧料)は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C9発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C9発明では「モノステアリン酸デカグリセリル」であり、その配合量が「1.5質量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C9発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「モノステアリン酸デカグリセリル」とは、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C9には、甲C9発明に係る水中油型乳化組成物(化粧料)が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C9発明に係る水中油型乳化組成物(化粧料)がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C9に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲C9発明は、「紫外線防御効果を有し、塗布時の馴染みに優れ、塗布後のべたつきが少なく、かつ塗布後に組成物が接触物に付着し難く、更に油溶性紫外線吸収剤を含むにもかかわらず安定性に優れている水中油型乳化組成物を提供すること」を解決すべき課題とし(【0011】)、当該課題を解決する手段を、
「水中油型の乳化組成物であって、油溶性紫外線吸収剤と、融点が30℃以上、45℃以下である極性油脂と、25℃で固体である高級アルコール及び25℃で固体である高級脂肪酸の内の少なくとも1種の成分とを含む、水中油型乳化組成物」
とすることを主な構成とした(【0012】)、具体的な処方例の1つである。
そして、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲C9発明の水中油型乳化組成物(化粧料)において、
・多数の含有成分の中で、特に「モノオレイン酸デカグリセリル」について、これに代えて又は追加して、甲C9に記載も示唆もされていない「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・他の成分の量比も含め、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」との条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C9の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C9の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C9に記載された発明であるとはいえず、また、甲C9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C9に記載された発明であるとはいえず、また、甲C9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C9に記載された発明であるとはいえず、また、甲C9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(19) 甲C10を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、2、4
・引用文献 甲C10
取消理由通知書で指摘した甲C10を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項1に係る発明、同請求項2に係る発明、及び、同請求項1又は2のいずれかを引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2は削除され、請求項4の引用先からは請求項2が削除されたため、甲C10を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由は、理由がないものとなったことが明らかである。
以下、本件発明1及び4について、甲C10を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由について検討する。
ア 甲C10に記載された発明
甲C10の【0038】「実施例4」からみて、甲C10には次の発明(以下「甲C10発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲C10発明>>
「(1)ジステアリン酸ポリグリセリル 2.50重量%
(2)トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル 8.00重量%
(3)水素添加大豆リン脂質 0.50重量%
(4)親油型モノステアリン酸グリセリン 0.50重量%
(5)ベヘニルアルコール 0.50重量%
(6)冬虫夏草の超臨界流体抽出物 0.20重量%
(7)グリセリン 7.50重量%
(8)精製水 残量
(9)キサンタンガム 0.40重量%
(10)エタノール 8.00重量%
を含む混合物を乳化して得られた美容液。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C10発明とを対比する。
甲C10発明における「美容液」は、乳化して得られたものであるから、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C10発明における「ジステアリン酸ポリグリセリル2.50重量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル」である点で共通し、「(A)成分が1.5~5質量%」との条件を満たしている。
甲C10発明における「親油型モノステアリン酸グリセリン0.50重量%」は、本件発明1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C10発明における「グリセリン7.50重量%」及び「エタノール8.00 重量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」であり、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C10発明において、「グリセリン」及び「エタノール」の、「親油型モノステアリン酸グリセリン」に対する重量比は、31(=(7.50+8.00)/0.5)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C10発明の美容液は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」には該当しないが、「冬虫夏草の超臨界流体抽出物」を含有するものであって、甲C10の請求項1に記載された「冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」の具体的な処方例であると認められるところ、本件発明1の「乳化物」は、「(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」を除くものとされている。
そうすると、本件発明1と甲C10発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(A)成分が1.5~5質量%であり、(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。)。」
<相違点1>
「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル」が、本件発明1では、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」に特定されているのに対し、甲C10発明では、「グリセリル」単位の結合数が不明である点。
<相違点2>
本件発明1は、乳化物が「(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」を「除く」ものとされているのに対し、甲C10発明は、乳化して得られた美容液が「冬虫夏草の超臨界流体抽出物」を含むものである点。
<相違点3>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C10発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1~3についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、甲C10には、甲C10発明の認定の根拠とした「実施例4」以外には、「ジステアリン酸ポリグリセリル」についての記載は全くなく、甲C10の記載全体を精査しても、その「グリセリル」単位の結合数を推認できるような根拠は見出せないから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C10発明は、本件発明1の乳化物が「除く」としている「(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」の有効成分に該当する「冬虫夏草の超臨界流体抽出物」を含有するものであるから、相違点2は実質的な相違点である。
相違点3に関し、甲C10には、甲C10発明に係る美容液が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C10発明に係る美容液がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点3は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C10に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1の容易想到性について
乳化化粧料に配合される「ジステアリン酸ポリグリセリル」として、「グリセリル」単位の結合数が「10」(デカ)のものは広く知られているから(上記(10)ウ(イ)b(b)を参照)、甲C10の記載に接した当業者が、甲C10発明を実施するにあたり、「ジステアリン酸ポリグリセリル」として「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を用いることは、容易になし得たことであるといえる。
c 相違点2の容易想到性について
甲C10発明の美容液は、甲C10の請求項1に記載された「冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」の具体的な処方例であると認められるところ、甲C10発明の美容液に含まれる「冬虫夏草の超臨界流体抽出物」は、当該「真皮線維芽細胞増殖促進剤」の有効成分に該当するから、甲C10発明の美容液を「(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤」を「除く」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
d 相違点3の容易想到性について
甲C10発明の美容液において、多数の含有成分の量比を調整し、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすることは、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C10の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C10の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C10に記載された発明であるとはいえず、また、甲C10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C10に記載された発明であるとはいえず、また、甲C10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C10に記載された発明であるとはいえず、また、甲C10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(20) 甲C11を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C11
ア 甲C11に記載された発明
甲C11の[0133]~[0134]、[0141][表1]「比較例3」の記載からみて、甲C11には次の発明(以下「甲C11発明」という。)が記載されていると認められる。なお、[0128]の記載から、[表1]中の「部」は質量部を意味すると理解される。
<<甲C11発明>>
「合計100.0質量部中
リコピン 0.17質量部
ココナードMT 13.1質量部
ミックストコフェロール 0.64質量部
ジグリセリンモノステアレート 0.28質量部
イソステアリン酸 0.85000質量部
オレイン酸デカグリセリル 10.0質量部
グリセリン 45.0質量部
水 30.0質量部
を含有するエマルション組成物」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C11発明とを対比する。
甲C11発明における「エマルション組成物」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C11発明における「ジグリセリンモノステアレート0.28質量部」及び「オレイン酸デカグリセリル 10.0質量部」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲C11発明における「イソステアリン酸0.85000質量部」は、本件発明1における「(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び・・・から選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C11発明における「グリセリン 45.0質量部」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当する。
甲C11発明において、「グリセリン」の、「イソステアリン酸」に対する重量比は、53(=45.0/0.85)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C11発明のエマルション組成物は、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C11発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C11発明では「ジグリセリンモノステアレート」及び「オレイン酸デカグリセリル」であり、それらの配合量が「0.28質量部」及び「10.0質量部」である点。
<相違点2>
「(C)成分」の配合量が、本件発明1では「10~30質量%」であるのに対し、甲C11発明では「45.0質量部」である点。
<相違点3>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C11発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1~3についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「ジグリセリンモノステアレート」及び「オレイン酸デカグリセリル」とは、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量が異なるから、相違点2は実質的な相違点である。
相違点3に関し、甲C11には、甲C11発明に係るエマルション組成物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C11発明に係るエマルション組成物がそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点3は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C11に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1~3の容易想到性について
甲C11発明は、「加熱処理に対して乳化状態が安定に維持され、かつ保存安定性に優れたカロチノイド含有水中油型エマルション組成物を提供すること」を解決すべき課題とし([0005])、当該課題を解決する手段を、
「カロチノイドと、カロチノイドに対して質量比で0.001倍量~2倍量の総炭素数12以上の高級脂肪酸と、総炭素数12以上の高級脂肪酸以外の界面活性剤と、を含有し、エマルション粒子の平均粒子径が120nm以下であるカロチノイド含有水中油型エマルション組成物」
とすることを主な構成とした([0006])、具体的な処方例の1つである。
甲C11には、上記「総炭素数12以上の高級脂肪酸以外の界面活性剤」の例の1つとして、「デカグリセリンモノオレイン酸エステル」(当審注:「オレイン酸デカグリセリル」と同義である。)が挙げられ([0049])、エマルション粒子に含まれる成分の一つの「他の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル」の例として、「モノステアリン酸ジグリセリル」(当審注:「ジグリセリンモノステアレート」と同義である。)が挙げられているが([0061])、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」は例示されていないし、甲C11の記載全体をみても、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を用いることを示唆するような記載は見出せない。
そして、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲C11発明のエマルション組成物において、
・その成分のうち、特に「ジグリセリンモノステアレート」及び「オレイン酸デカグリセリル」について、これに代えて又は追加して、甲C11に記載も示唆もされていない「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・「グリセリン」の配合量を「45.0質量部」から「10~30質量%」に減少させ、
・他の成分の量比も含めて、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C11の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C11の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C11に記載された発明であるとはいえず、また、甲C11に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
上記取消理由通知書においては、本件発明4について、甲C11を主引例とする新規性・進歩性の欠如を指摘しなかったが、本件特許の請求項4に係る発明について、申立人Cにより甲C11を主引例とする新規性・進歩性の欠如を理由とする特許異議の申立てがされていることから、便宜のため、ここで併せて当審の判断を示す。
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C11に記載された発明であるとはいえず、また、甲C11に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C11に記載された発明であるとはいえず、また、甲C11に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(21) 甲C12を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C12
ア 甲C12に記載された発明
甲C12の【0084】~【0089】「実施例3」の記載からみて、甲C12には次の発明(以下「甲C12発明」という。)が記載されていると認められる。
<<甲C12発明>>
「(1)ヘマトコッカス藻色素(アスタキサンチン類含有率20質量%)
(ASTOTS-S:武田紙器(株)製) 5.0質量%
(2)オリーブオイル 0.2質量%
(3)ラジカル捕捉剤 1.2質量%
(4)オレイン酸モノグリセリド 2.0質量%
(エキセルO-95R:花王(株)製)
(5)グリセリン 47.39質量%
(6)H2O 37.0質量%
(7)ショ糖ラウリン酸エステル 1.2質量%
(リョート-シュガーエステルL-1695:三菱化学フーズ(株)製)
(8)ラウリン酸ポリグリセリル-10 3.0質量%
(NIKKOLDecaglyn 1-L:日光ケミカルズ(株)製)
(9)レシオンP(大豆レシチン:理研ビタミン(株)製) 3.0質量%
(10)防腐剤(メチルパラベン) 0.01質量%
を含有する高濃度エマルジョン」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C12発明とを対比する。
甲C12発明における「高濃度エマルジョン」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C12発明における「ラウリン酸ポリグリセリル-103.0質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲C12発明における「オレイン酸モノグリセリド2.0質量%」は、本件発明1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C12発明における「グリセリン47.39質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」に相当する。
甲C12発明において、「グリセリン」の「オレイン酸モノグリセリド」に対する重量比は23.7(=47.39/2.0)であるから、本件発明1の「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C12発明の高濃度エマルジョンは、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C12発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C12発明では「ラウリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「3.0質量%」である点。
<相違点2>
「(C)成分」の配合量が、本件発明1では「10~30質量%」であるのに対し、甲C12発明では「47.39質量%」である点。
<相違点3>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C12発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1~3についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「ラウリン酸ポリグリセリル-10」とは、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、本件発明1の乳化物を構成する必須成分の配合量が異なるから、相違点2は実質的な相違点である。
相違点3に関し、甲C12には、甲C12発明に係る高濃度エマルジョンが「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C12発明に係る高濃度エマルジョンがそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点3は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C12に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1~3の容易想到性について
甲C12発明は、「エマルジョン粒子径の保存経時安定性を維持しつつ、カロチノイド色素を高い安定性で保存する、カロチノイド色素を含有するエマルジョン組成物を提供すること」を解決すべき課題とし(【0006】)、当該課題を解決する手段を、
「平均粒子径が1nm以上200nm未満の範囲のエマルジョン組成物であって、少なくとも1種のカロチノイド色素を含有する油状成分を含み、かつ、少なくとも1種のラジカル捕捉剤を含有することを特徴とするエマルジョン組成物」
とすることを主な構成とした(【0009】)、具体的な処方例の1つである。
甲C12には、上記エマルジョン組成物に配合し得る乳化剤の1種のポリグリセリン脂肪酸エステルの例として、「デカグリセリンモノラウリン酸エステル」(当審注:「ラウリン酸ポリグリセリル-10」と同義である。)とともに、市販品の「NIKKOL Decaglyn 2-SV」が挙げられており(【0053】)、当該「NIKKOL Decaglyn 2-SV」は「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」である(要すれば、甲C2の【0072】【表2】「実施例1」を参照。)
しかしながら、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲C12発明の高濃度エマルションにおいて、
・複数成分のうち、特に「ラウリン酸ポリグリセリル-10」について、これに代えて又は追加して、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・「グリセリン」の配合量を「47.39質量%」から「10~30質量%」に減少させ、
・他の成分の量比も含めて、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C12の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C12の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C12に記載された発明であるとはいえず、また、甲C12に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C12に記載された発明であるとはいえず、また、甲C12に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C12に記載された発明であるとはいえず、また、甲C12に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(22) 甲C13を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 2、4
・引用文献 甲C13
取消理由通知書で指摘した甲C13を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由は、本件訂正前の請求項2に係る発明、及び、同請求項2を引用する同請求項4に係る発明を対象とするものであった。
しかし、本件訂正により、請求項2は削除され、請求項4の引用先からは請求項2が削除されたため、甲C13を主引例とする新規性・進歩性の欠如の取消理由のうち、請求項2に係る特許を対象としたものは、その対象が存在しないものとなり、また、請求項4に係る特許を対象とした取消理由は、理由がないものとなったことが明らかである。
(23) 甲C14を主引例とする新規性・進歩性の欠如について
・請求項 1、4
・引用文献 甲C14
ア 甲C14に記載された発明
甲C14の【0041】~【0043】「実施例3」の記載からみて、甲C14には次の発明(以下「甲C14発明」という。)が記載されていると認められる。なお、【0013】の記載からみて、実施例3における「%」は「質量%」を意味すると理解される。
<<甲C14発明>>
「1.グリセリン 9.0質量%
2.1,3-ブチレングリコール 8.0質量%
3.ショ糖ステアリン酸エステル(HLB=15) 4.0質量%
4.モノステアリン酸デカグリセリル(HLB=12) 1.0質量%
5.モノステアリン酸グリセリル 0.5質量%
6.流動パラフィン 20.0質量%
7.ワセリン 5.0質量%
8.パラフィン 10.0質量%
9.ポリエチレンワックス 10.0質量%
10.精製水 残部
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2質量%
12.エタノール 5.0質量%
13.香料 適量
を含有するハンドクリーム。」
イ 本件発明1の新規性・進歩性について
(ア) 対比
本件発明1と甲C14発明とを対比する。
甲C14発明における「ハンドクリーム」は、本件発明1における「乳化物」に相当する。
甲C14発明における「モノステアリン酸デカグリセリル(HLB=12)1.0質量%」は、本件発明1における「(A)ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」である点で共通している。
甲C14発明における「モノステアリン酸グリセリル0.5質量%」は、本件発明 1における「(B)・・・及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上」であり、「(B)成分が0.5質量%以上」であることに相当する。
甲C14発明における「グリセリン9.0質量%」、「1,3-ブチレングリコール 8.0質量%」及び「エタノール 5.0質量%」は、本件発明1における「(C)低級アルコール」であり、「(C)成分が10~30質量%」との条件を満たしている。
甲C14発明において、「グリセリン」、「1,3-ブチレングリコール」及び「エタノール」の、「モノステアリン酸グリセリル」に対する重量比は、44(=(9.0+8.0+5.0)/0.5)であるから、本件発明1における「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との条件を満たしている。
甲C14発明のハンドクリームは、上記(1)イ(ア)で定義した「態様(1)」及び「態様(2)」に該当するものではない。
そうすると、本件発明1と甲C14発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数C12~24の脂肪酸及び炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルから選ばれる1種以上、
並びに(C)低級アルコールを含む、乳化物であって、
(B)成分が0.5質量%以上であり、
(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)であり、
(C)成分が10~30質量%である、
乳化物(ただし、以下(1)及び(2)を除く。
(1)平均分子量500~10,000のイヌリンに炭素数4~30のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて、前記イヌリン内の水酸基を、構成フルクトース1残基あたり0.001~1の範囲にある置換度(DS)で置換することを特徴とするアルキルグリセリルエーテル化イヌリンを含有するもの。
(2)冬虫夏草を超臨界流体又は亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞増殖促進剤。)。」
<相違点1>
「(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル」が、本件発明1では「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」であり、その配合量が「1.5~5質量%」であるのに対し、甲C14発明では「モノステアリン酸デカグリセリル(HLB=12)」であり、その配合量が「1.0質量%」である点。
<相違点2>
乳化物が、本件発明1では、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」とされているのに対し、甲C14発明では、そのような特定がされていない点。
(イ) 相違点1及び2についての判断
a 実質的な相違点であることについて
相違点1に関し、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」と、「モノステアリン酸デカグリセリル(HLB=12)」とは、構造が異なる別の化合物であるから、相違点1は実質的な相違点である。
相違点2に関し、甲C14には、甲C14発明に係るハンドクリームが「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」ことを確認できるような記載は見出せないし、甲C14発明に係るハンドクリームがそのような性状になると推認し得る根拠となるような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲C14に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点1及び2の容易想到性について
甲C14発明は、「ハリ感に優れる化粧料として固形油を多量に含有しながら、経時安定性にも優れる水中油型乳化化粧料」を提供することを解決すべき課題とし(【0006】)、当該課題を解決する手段を、
「次の成分(a)~(c);
(a)HLBが11以上17以下のショ糖脂肪酸エステル
(b)HLBが12以上15.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル
(c)融点60℃以上の油脂、ロウ、炭化水素から選ばれる固形油を一種又は二種以上を含有し、成分(c)が全油性成分中に5~70質量%であることを特徴とする水中油型乳化化粧料」
とすることを主な構成とした(【0008】)、具体的な処方例の1つである。
甲C14には、上記「HLBが12以上15.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル」の例として、「モノステアリン酸デカグリセリル(HLB=12)」が挙げられているが、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」は例示されていないし、甲C14の記載全体をみても、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を用いることを示唆するような記載は見出せない。
そして、上記課題を解決するための具体的な処方として調製された特定の組成を有する甲C14発明のハンドクリームにおいて、
・複数成分のうち、特に「モノステアリン酸デカグリセリル(HLB=12)」について、これに代えて又は追加して、甲C14に記載も示唆もされていない「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.5~5質量%」の範囲で配合し、
・他の成分の量比も含めて、乳化物が「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という条件を満たすような組成とすること、
は、乳化物の当該性状について何ら触れるところがない甲C14の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 本件発明1の効果について
上記(1)イ(ウ)で認定したような本件発明1の優れた効果、特に、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)が良好である点は、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、甲C14の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲C14に記載された発明であるとはいえず、また、甲C14に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明4の新規性・進歩性について
本件発明4は、本件発明1の乳化物が化粧料であることを特定したものである。
そして、上記イで説示したとおり、本件発明1は、甲C14に記載された発明であるとはいえず、また、甲C14に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1をさらに特定した本件発明4も、甲C14に記載された発明であるとはいえず、また、甲C14に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(24) 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1及び4は、甲A1、甲A4、甲B1、甲B3、甲B5、甲C1~甲C12又は甲C14に記載された発明であるとはいえず、また、これらの甲号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1及び4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、取消理由1又は2によって取り消すことはできない。
2 取消理由3(サポート要件)について
(1) 本件発明の課題について
上記第3で摘記した本件請求項1及び4の記載、並びに、本件明細書(特に【0006】)の記載からみて、本件発明1及び4が解決すべき課題は、「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になり、使用感の良好な乳化物を提供すること」であると認められる。
そして、本件明細書の【0007】には、上記の課題に対し、特定の成分((A)成分、(B)成分及び(C)成分)を組み合わせて配合し、それらの配合量を特定の範囲とすることによって、塗布時にクリーム化し、使用感の良好な乳化物が得られることを見出した旨が記載されている。
(2) 各成分及びそれらの量比の技術的意義について
ア (A)成分について
本件明細書の【0014】には、(A)成分は、非イオン性界面活性剤であり、使用感が良好である点で「ポリグリセリン脂肪酸エステル」を用いることが特に好ましいことが記載されており、同【0015】には、乳化物の全量に対する(A)成分の配合量について、下限値は、安定性のよい乳化物が得られる点で、「1.5質量%以上」が好ましく、上限値は、界面活性剤による皮膚刺激性が少ない点で、「5質量%以下」がさらに好ましいことが記載されている。同【0015】には、使用感が良好である点で、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を用いることが特に好ましいことが記載されている。
イ (B)成分について
本件明細書の【0020】には、(B)成分として、少量を配合するだけで皮膚上で延伸するとクリーム化する乳化物を得ることができ、かつ使用感が良好である点で、「炭素数C12~24の脂肪酸」又は「炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステル」を用いることが特に好ましいことが記載されている。
同【0021】には、先行技術文献として引用した「特許文献1」(当審注:甲5と同じ文献)においては、(B)成分を高配合しなければ、塗布時にクリーム化する乳化物を得られず、具体的には次のように各成分について「クリーム化力」を規定した場合:
・炭素数C12~24の脂肪酸 クリーム化力 2
・炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステル クリーム化力 3
・炭素数14~24の高級アルコール クリーム化力 5
・炭素数10~24のα-ヒドロキシ脂肪酸 クリーム化力 2
・炭素数14~24の高級アルコールのグリセリルモノエーテル
クリーム化力 4
各成分のクリーム化力と、百分率で表した各成分の配合量(%)との積の和(以下、「クリーム化力と配合量との積の和」)が6以上でなければ、塗布時にクリーム化する乳化物を得られないのに対し、本発明では、クリーム化力と配合量との積の和が6未満の場合であっても、クリーム化する乳化物を得ることができることが記載されている。
そして、同【0025】には、乳化物の全量に対する(B)成分の合計の配合量について、下限値は、安定性のよい乳化物が得られる点で、「0.5質量%以上」が最も好ましく、上限値は、使用感が良好である点で、5質量%以下が好ましいことが記載されている。
同【0026】には、使用できる上記「炭素数C12~24の脂肪酸」が列記されており、その中でも、配合量が少なくてもクリーム化する乳化物を得られ、使用感が良好である点で、「ステアリン酸」が特に好ましいことが記載されている。
同【0028】には、使用できる上記「炭素数C12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステル」が列記されており、その中でも、配合量が少なくてもクリーム化する乳化物を得られ、使用感が良好である点で、「モノステアリン酸グリセリル」(「ステアリン酸グリセリル」)が特に好ましいことが記載されている。
ウ (C)成分について
本件明細書の【0033】~【0034】には、(C)成分である「低級アルコール」として使用できるものが例示されており、使用感が良好である点で、多価の低級アルコールを用いることが特に好ましく、その例として、「グリセリン」、「1,3-ブチレングリコール」、「プロパンジオール」及び「ペンチレングリコール」等が挙げられることが記載されている。
同【0035】には、乳化物の全量に対する(C)成分の合計の配合量について、下限値として、「10質量%以上」等が例示されており、特に使用感が良好である点で、11質量%以上が好ましく、上限値として、特に使用感が良好である点で、「30質量%以下」がさらに好ましいことが記載されている。
同【0036】には、(C)成分の合計量は、(B)成分の合計量の5倍以上(重量比)であることが記載され、5倍未満の場合、(B)成分に起因するべたつき感等を(C)成分によって打ち消すことができず、又は、皮膚上で延伸する際に液状からクリーム状に乳化物が変化したという実感を得られにくくなり、使用者に驚きや感動を与えることができないことが記載されている。
(3) 実施例・比較例の記載に基づく課題解決の認識について
本件明細書の【0048】~【0049】【表1】、【0050】~【0055】には、本件発明1の(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の条件を全て満たす実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)が、皮膚上で延伸した際に乳化物がクリーム化したこと、塗布時のみずみずしさ及びべたつき感、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)、延伸後のべたつき感、ぬめり感及びさっぱり感の点で、良好であったことを示す官能評価の結果が記載されている。
具体的な成分・組成としては、実施例2~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)では、(A)成分として、共通して「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「3質量%」、(B)成分として、「ステアリン酸」を「0.5質量%」(実施例2、7、8)、又は、「ステアリン酸グリセリル」を「0.5質量%」(実施例3)、「1質量%」(実施例4)若しくは「4質量%」(実施例6)、(C)成分として、共通して、「1,3-ブチレングリコール」を「8質量%」、「プロパンジオール」を「8質量%」及び「グリセリン」を「5質量%」((C)成分合計で「21質量%」)含有し、(C)成分/(B)成分の重量比が、「42」(実施例2~3、7~8)、「21」(実施例4)又は「5.3」(実施例6)である乳化物が調製されている。
実施例1の化粧料(O/W型乳化物)では、(A)成分として、「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を「1.6質量%」、(B)成分として、「ステアリン酸」を「0.5質量%」と「ステアリン酸グリセリル」を「1質量%」((B)成分合計で「1.5質量%」)、(C)成分として、「1,3-ブチレングリコール」を「8質量%」、「プロパンジオール」を「8質量%」、「グリセリン」を「5質量%」及び「ペンチレングリコール」を「1質量%」((C)成分合計で「22質量%」)含有し、(C)成分/(B)成分の重量比が「14.7」(=22/1.5)である乳化物が調製されている。(当審注:表中においては、「ベヘニルアルコール1質量%」及び「水添ナタネ油アルコール 0.3質量%」も(B)成分として記載されているが、本件訂正により、これらは本件発明の(B)成分に含まれないものとなった。)
したがって、当該記載に接した当業者は、これらの実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)については、上記(1)で認定した課題を解決できるものと認識し得るといえる。
(4) 特許請求の範囲の記載と課題解決の対応関係について
上記1(5)イ(エ)b(c)で説示したように、上記実施例における官能評価の「延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)」は、単に乳化物が延伸時にクリーム化するだけでなく、そのことを乳化物を皮膚に適用した者が実感できる、という効果であると認められるところ、本件明細書の上記【表1】の記載によれば、上記実施例1~4、6~8の化粧料については、いずれもクリーム化「する」とされており、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)の官能評価は、実施例1、4、6では、最高の「7:非常に良好」、実施例7では、「6:良好」、実施例2、3では、「5:やや良好」、実施例8では、「4:普通」とされている。
これに対し、比較例2の化粧料は、(A)成分及び(C)成分の量は本件発明1の条件を満たすが、(B)成分の量は「0.1質量%」であり「0.5質量%以上」という本件発明1の条件を満たさず、クリーム化「しない」とされている。また、比較例4の化粧料は、(A)成分及び(B)成分の量は本件発明1の条件を満たすが、(C)成分の量は「2.1質量%」であり「10~30質量%」との本件発明1の条件を満たしておらず、(C)成分/(B)成分の値は、「4.2」であり、「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)である」との本件発明1の条件も満たさないところ、クリーム化は「する」ものの、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)の官能評価は「3:やや悪い」とされている。
これらの本件明細書の実施例と比較例の記載、及び、上記(2)で確認した本件発明の各成分及びそれらの量比の技術的意義の記載に接した当業者であれば、本件請求項1で規定する(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の条件を充足することにより、延伸時のクリーム感(乳化物がクリーム化した実感)を発揮することも含めて、上記(1)で認定した課題を解決し得ることを理解することができるといえる。
なお、当業者であれば、本件明細書に記載された実施例及び比較例の記載を参考にして、上記実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)以外にも、上記(1)で認定した課題を解決できる本件発明1及び4の乳化物を認識し得るといえる。
(5) 取消理由3(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1及び4は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
よって、本件特許の請求項1及び4に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、特許法第113条第4号に該当するものでないから、取消理由3によって取り消すことはできない。
第6 特許異議の申立ての理由について
1 特許異議の申立ての理由の概要
(1) 申立人Aによる特許異議の申立ての理由の概要
申立人Aは、証拠方法として、上記第4の<引用文献一覧>に記載した、甲A1~甲A4(いずれも主引用例)を提出し、以下に概要を示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)A1~A4を主張している。なお、申立人Aが提出した特許異議申立書の記載には、特許法の規定の引用が正確でない点が含まれているため、当審合議体が適切な表記に修正した。
[申立理由A1](新規性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由A2](進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由A3](サポート要件)
本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由A4](明確性)
本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 申立人Bによる特許異議の申立ての理由の概要
申立人Bは、証拠方法として、上記第4の<引用文献一覧>に記載した、甲B1~甲B5(いずれも主引用例)を提出し、以下に概要を示す申立理由B1~B4を主張している。なお、申立人Bが提出した特許異議申立書の記載には、特許法の規定の引用が正確でない点が含まれているため、当審合議体が適切な表記に修正した。
[申立理由B1](新規性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由B2](進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由B3](実施可能要件)
本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由B4](サポート要件)
本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 申立人Cによる特許異議の申立ての理由の概要
申立人Cは、証拠方法として、上記第4の<引用文献一覧>に記載した、甲C1~甲C14(いずれも主引用例)を提出し、以下に概要を示す申立理由C1~C3を主張している。なお、申立人Cが提出した特許異議申立書の記載には、特許法の規定の引用が正確でない点が含まれているため、当審合議体が適切な表記に修正した。
[申立理由C1](新規性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由C2](進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由C3](サポート要件)
本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由通知で採用しなかった申立理由について
上記1(1)~(3)において概要を示した申立理由A1~A4、B1~B4及びC1~C3のうち、申立理由A1、A2、B1、B2、C1及びC2については、本件訂正によって削除された請求項2及び3に係る発明の特許を対象とした部分を除き、上記第5で当審の判断を示した取消理由1及び2の検討において、全ての甲号証を主引用例とした場合の本件発明1及び4の新規性及び進歩性について判断しており、申立人A~Cが主張する複数の甲号証の記載の組み合わせについても検討している。
なお、申立人A~Cが主張する各甲号証から認定した引用発明には、当審において各甲号証から認定した引用発明とは、異なる記載箇所を根拠としたものも含まれているが、それらは、各甲号証の複数の記載事項を、本件発明の構成に合わせて、上位概念化したり、繋ぎ合わせたり、各甲号証に記載の課題の解決のために必須の手段を捨象したりしたものであるため、採用できない。
また、上記申立理由A1~A3、B1~B4及びC1~C3のうち、申立理由A3、A4、B3、B4及びC3には、取消理由通知において採用しなかった理由が含まれているが、当審合議体は、本件訂正後の請求項1及び4に係る発明の特許は、これら取消理由通知で採用しなかった申立理由によっても、取り消すことはできないものと判断する。
その理由の詳細は、以下のとおりである。
(1) 申立理由A3及びA4について
ア 申立人Aの主張
申立人Aは、申立理由A3及びA4について、概略、次のように主張している。
(ア) 乳化物の性状が特定されていないこと(A3-1)
本件発明は、「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になり、使用感の良好な乳化物を提供すること」を課題としているところ、乳化物においては、水相と油相との容積比の違いや、本件発明の(A)成分以外の界面活性剤を含む場合に、粘度が変化することは、本件特許の出願時の技術常識であり、また、本件明細書には「本発明における乳化物は、皮膚上で延伸する前は、液状又は乳液状である。」(【0040】)と記載されているが、本件発明は、乳化物が液状、乳液状、クリーム状のいずれの性状であるか特定されていない。
そうすると、本件発明の乳化物は、その水相の容積比が高いことにより、皮膚に塗布し延伸しても液状又は乳液状のままである乳化物や、(A)成分以外の界面活性剤を含むことにより、塗布前からクリーム状である乳化物が含まれる。
したがって、本件特許の請求項1~4の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。
(イ) (A)成分の拡張・一般化ができないこと(A3-2)
本件発明1、3は、(A)成分として「ポリグリセリン脂肪酸エステル」との特定事項を有するが、本件明細書には、(A)成分として「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を用いた実施例しか開示されておらず、「ポリグリセリン脂肪酸エステル」に含まれる界面活性剤でも、化合物が異なれば乳化性能がことなることが技術常識であるから、実施例で用いられた「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」を、本件発明1、3の「ポリグリセリン脂肪酸エステル」にまで、拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件特許の請求項1、3及び4の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。
(ウ) 請求項間で(B)成分の範囲が異なること(A4-1)
本件発明1と、本件発明2、3とでは、(B)成分の範囲が異なるため、同一の乳化物でも、本件発明1の範囲内、かつ、本件発明2、3の範囲外となる場合があり、当該乳化物が「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になる」のか不明である。
そして、そのために、(B)成分として特定の油分を含むことと、(C)成分が(B)成分の5倍以上含まれることが、どのような技術的意義を有するのか理解することができない。
したがって、本件発明1~4は明確でない。
(エ) ペンチレングリコールの技術的意義が不明であること(A4-2)
本件発明3は、(C)成分としてペンチレングリコールを含むことを特定事項としているが、本件明細書に記載の実施例1の乳化物のみがペンチレングリコールを含み、ペンチレングリコールを含まない他の実施例及び比較例とは、(B)成分等の配合が異なるため、ペンチレングリコールが奏する効果を見出すことはできないから、ペンチレングリコールを含むことの技術的意義が不明である。
したがって、本件発明3は明確でない。
イ 申立理由A3及びA4についての当審の判断
(ア) 申立人Aの主張(ア)(A3-1)について
本件訂正により、本件発明1の乳化物は、「塗布前に液状であり、延伸後にクリーム状になる」という性状が特定されたため、申立人Aの上記主張(ア)(A3-1)は、理由がない。
(イ) 申立人Aの主張(イ)(A3-2)について
本件訂正により、本件発明1における(A)成分は「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」に特定されたため、申立人Aの上記主張(イ)(A3-2)は、理由がない。
(ウ) 申立人Aの主張(ウ)(A4-1)について
本件訂正により、請求項2及び請求項3は削除されたため、申立人Aの上記主張(ウ)(A4-1)は、理由がない。
(エ) 申立人Aの主張(エ)(A4-2)について
本件訂正により、請求項3は削除されたため、申立人Aの上記主張(エ)(A4-2)は、理由がない。
(2) 申立理由B3及びB4について
ア 申立人Bの主張
申立人Bは、申立理由B3及びB4について、概略、次のように主張している。
(ア) 所定のクリーム化力と配合量との積の和が6未満の乳化物の開示が
不十分であること(B3・B4)
本件明細書に記載された特許文献1(甲B5)では、所定のクリーム化力と配合量との積の和を6以上とすることが好ましいとされているところ、本件明細書の【0021】には、「本発明によれば、クリーム化力と配合量との積の和が6未満の場合であっても、クリーム化する乳化物を得ることができる。」と記載されている。
しかし、本件明細書において、所定のクリーム化力と配合量の積の和が6未満の乳化物として具体的に開示されているのは、実施例2~5、7~8の乳化物のみであり、当該開示内容から請求項全体に渡って所望の課題を解決できるとは理解できず、本件発明を実施するには過度の試行錯誤を要する。
したがって、本件発明1~4は、実施可能要件及びサポート要件を欠いている。
イ 申立理由B3及びB4についての当審の判断
上記ア(ア)の申立人Bの主張は、本件発明の解決すべき課題を、所定のクリーム化力と配合量の積の和が6未満の乳化物を提供することであるとし、本件発明の実施にも、当該数値が6未満の乳化物を製造し使用できることが前提であるとするものと解されるが、上記第5の2(1)で説示したように、本件発明は、「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になり、使用感の良好な乳化物を提供すること」を解決すべき課題とするものであると認められ、所定のクリーム化力と配合量の積の和が6未満の乳化物とすることを必須とするものではない。
したがって、申立人Bの上記主張は、本件発明について適切でない課題や前提を必須とする認定に基づいたものであり、理由がない。
(3) 申立理由C3について
ア 申立人Cの主張
申立人Cは、申立理由C3について、概略、次のように主張している。
(ア) 本件発明の構成を具備する乳化物が皮膚上で延伸する前にクリーム状
であること(C3-1)
本件発明は、「皮膚に塗布して延伸するとクリーム状になり、使用感の良好な乳化物を提供すること」を課題とするものであるところ、甲C2~甲C13には、本件発明1~4の構成要件を具備する乳化物が記載されており、その中には、皮膚上で延伸する前にクリーム状であるものもあるため、本件発明の構成要件を具備しているだけでは、本件発明の上記の課題を解決できないことは明らかである。
したがって、本件発明1~4は、サポート要件を欠いている。
(イ) 実施例以外に課題を解決できるとはいえないこと(C3-2)
本件発明のうち、具体的な実施例として作用効果が確認されているのは、本件明細書の実施例の表1の組成物のみであり、本件明細書全体の記載及び本件特許出願時の技術常識に照らしても、本件発明の全ての範囲において、本件発明の作用効果が得られるとは認められない。
したがって、本件発明1~4は、サポート要件を欠いている。
(ウ) ジステアリン酸ポリグリセリル-10以外のポリグリセリン脂肪酸
エステルで同様の作用効果が得られるとはいえないこと(C3-3)
ポリグリセリン脂肪酸エステルには、HLBが異なる多数の化合物が含まれるため、実施例において、ジステアリン酸ポリグリセリル-10を1.6質量%又は3質量%含有することにより、本件発明の課題を解決できたとしても、他のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合及び異なる含有量とした場合にまで、拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件発明1は、サポート要件を欠いている。
(エ) 実施例以外の(B)成分では同様の作用効果が得られるとはいえない
こと(C3-4)
炭素数C12~24の脂肪酸には、油剤への溶解度等が異なるものが多数含まれ、炭素数12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルには、HLBが異なる化合物が多数含まれるため、実施例において、ステアリン酸及び/又はステアリン酸グリセリルを特定の量で含有することにより、本件発明の課題を解決できたとしても、他の炭素数C12~24の脂肪酸及び/又は炭素数12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルを用いた場合や、異なる含有量とした場合にまで、拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件発明1~4は、サポート要件を欠いている。
(オ) 実施例以外の(C)成分の含有量では同様の作用効果が得られるとは
いえないこと(C3-5)
低級アルコールは、他の成分(特に界面活性剤)に対する溶解能が異なり、組成物中の含有量により、組成物の粘度等が異なることは技術常識であるから、実施例の組成物の(C)成分の含有量で本件発明の課題を解決できたとしても、異なる含有量まで、拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件発明1~4は、サポート要件を欠いている。
(カ) 実施例以外の(C)/(B)の重量比では同様の作用効果が得られる
とはいえないこと(C3-6)
(C)成分/(B)成分の重量比の違いにより、組成物中の(B)成分の溶解度が変わり、それに伴って、べたつきやクリーム状に乳化物が変化した実感等の使用感が異なるのは技術常識であるから、実施例の組成物の(C)成分/(B)成分の重量比で本件発明の課題を解決できたとしても、異なる重量比まで、拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件発明1~4は、サポート要件を欠いている。
イ 申立理由C3についての当審の判断
(ア) 申立人Cの主張(ア)(C3-1)について
上記第5の1(10)~(22)で説示したとおり、本件訂正によって、本件発明1及び4の乳化物は、甲C2~甲C13に記載されたものでないものとなったから、申立人の上記主張(ア)(C3-1)は、理由がない。
(イ) 申立人Cの主張(イ)(C3-2)について
上記第5の2で説示したとおり、本件明細書には、本件発明の課題を解決できる実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)が記載されているとともに、本件発明の(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の技術的意義も記載されているから、本件請求項1で規定する(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の条件を充足することによって、本件発明の課題を解決し得ることを理解することができるし、当業者ならば、本件明細書に記載された実施例及び比較例の記載を参考にして、上記実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)以外にも、本件発明の課題を解決できる本件発明1及び4の乳化物を認識し得るといえる。
したがって、申立人Cの上記主張(イ)(C3-2)は、理由がない。
(ウ) 申立人Cの主張(ウ)(C3-3)について
本件訂正により、本件発明1の(A)成分は「ジステアリン酸ポリグリセリル-10」に特定され、その配合量も「1.5~5質量%」に特定されたため、申立人Cの上記主張(ウ)(C3-3)は、理由がない。
(エ) 申立人Cの主張(エ)(C3-4)について
上記第5の2で説示したとおり、本件明細書には、本件発明の課題を解決できる実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)が記載されているとともに、本件発明の(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の技術的意義も記載されているから、本件請求項1で規定する(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の条件を充足することによって、本件発明の課題を解決し得ることを理解することができるし、当業者ならば、本件明細書に記載された実施例及び比較例の記載を参考にして、(B)成分として、ステアリン酸以外の炭素数12~24の脂肪酸及び/又はステアリン酸グリセリル以外の炭素数12~24の脂肪酸のグリセリルモノエステルを用いる場合に、それらの油剤への溶解度やHLB等の性質に応じて適切な配合量を設定し得るといえる。
したがって、申立人Cの上記主張(エ)(C3-4)は、理由がない。
(オ) 申立人Cの主張(オ)(C3-5)について
本件訂正により、本件発明1の(C)成分の量は「10~30質量%」に特定されたから、申立人Cの上記主張(オ)(C3-5)は、理由がない。
(カ) 申立人の主張(カ)(C3-6)について
上記第5の2で説示したとおり、本件明細書には、本件発明の課題を解決できる実施例1~4、6~8の化粧料(O/W型乳化物)が記載されているとともに、本件発明の(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の技術的意義も記載されているから、本件請求項1で規定する(A)成分~(C)成分及びそれらの量比の条件を充足することによって、本件発明の課題を解決し得ることを理解することができるし、当業者ならば、本件明細書に記載された実施例及び比較例の記載を参考に、使用する(C)成分及び(B)成分の種類に応じて、それらの配合量を「(C)成分が(B)成分の5倍以上の量(重量比)」の条件を満たすように設定し得るといえる。
したがって、申立人Cの上記主張(カ)(C3-6)は、理由がない。
3 取消理由通知で採用しなかった申立理由についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1及び4に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、また、発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項第1に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当するものでないから、申立理由A3、A4、B3、B4又はC3によって取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、本件訂正請求は、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。そして、取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠、並びに/又は、申立人A~Cによる特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1及び4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、その他に本件特許の請求項1及び4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項2及び3は、本件訂正により削除された。これにより、異議申立人A~Cによる本件特許の請求項2及び3に係る発明の特許についての特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、本件特許の請求項2及び3に係る発明の特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-701146