特許異議申立
2021-701124
光学系および光学機器
- 審判番号
- 2021-701124
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-558855外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6881604
- 請求日
- 2021年12月01日
- 審決日
- 2023年05月01日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 分類
- P1652.121-ZAA(G02B) / P1652.536-ZAA(G02B) / P1652.537-ZAA(G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法113条2号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6881604号発明「光学系および光学機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6881604号の明細書、特許請求の範囲を令和4年6月3日付け手続補正書により補正された訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、6~9〕について訂正することを認める。
特許第6881604号の請求項2、6、7及び9に係る特許を取り消す。
特許第6881604号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6881604号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)12月15日を国際出願日とするものであって、令和3年5月10日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月2日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。
令和 3年12月 1日 :特許異議申立人奥野宏美(以下「申立人」という。)による請求項2,6~9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 4年 1月28日付け:取消理由通知書(以下「第1次取消理由通知書」という。)
令和 4年 4月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 4年 6月 3日 :手続補正書(以下、この手続補正書により補正された訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)
令和 4年 7月19日 :申立人による意見書の提出
令和 4年 8月31日付け:取消理由通知書(決定の予告)(以下「第1次決定予告」という。)
令和 4年11月 4日 :特許権者による意見書の提出
令和 4年12月28日付け:取消理由通知書(決定の予告)(以下「第2次決定予告」という。)
令和 5年 3月 7日 :特許権者による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所として当審が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔2、6~9〕に対して請求されている。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔2、6~9〕に対して請求されている。
(1)訂正事項1
請求項2に「以下の条件式を満足する正レンズ」と記載されているのを、「以下の条件式を満足するガラスレンズからなる正レンズ」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項6、7、9も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
請求項8を削除する。
(3)訂正事項3
請求項9に「請求項1~8」と記載されているのを、「請求項1~7」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許の願書に添付した明細書の【0005】に記載された「以下の条件式を満足する正レンズ」を、「以下の条件式を満足するガラスレンズからなる正レンズ」に訂正する。
2 訂正事項の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「正レンズ」を「ガラスレンズからなる」ことに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号所定の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件訂正前の請求項8には、「前記正レンズは、ガラスレンズである」ことが記載されているから、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項1は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であるから、当該訂正事項には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
オ 小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号所定の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件訂正前の請求項8を削除することによって新たな技術的事項が導入されることはないから、訂正事項2は、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項2は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であるから、当該訂正事項には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
オ 小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項9が引用する請求項を「1~8」から「1~7」に削減するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号所定の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件訂正前の請求項9が引用する請求項を削減することによって新たな技術的事項が導入されることはないから、訂正事項3は、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項3は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であるから、当該訂正事項には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
オ 小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正事項1に係る訂正に伴い、本件特許の願書に添付した明細書の【0005】の記載を本件訂正後の請求項1の記載に整合させるために行う訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号所定の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
上記(1)イと同様の理由で、訂正事項4は、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項4は、上記アのとおり明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、当該訂正事項には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
オ 小括
よって、訂正事項4は、訂正要件を満たす。
3 訂正の適否の小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、本件訂正には、同条第9項において準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、令和4年6月3日付け手続補正書により補正された訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、6~9〕について訂正することを認める。
第3 取消理由の概要
本件訂正後の請求項2、6、7及び9に係る発明(なお、請求項8は本件訂正により削除された。)についての特許に対して、第2次決定予告に示された取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、以下、証拠番号を示す際は、「第」及び「号証」を省く。
1 実施可能要件違反
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正後の請求項2、6、7及び9に係る光学系又は光学装置を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、よって、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 進歩性欠如
本件訂正後の請求項2、6、7及び9に係る発明は、乙4(「SCHOTT OPTICAL GLASS」の抜粋、ショット社)に記載された発明(乙4発明)及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第4 当審の判断
当審は、上記第3の1(実施可能要件違反)の理由及び上記第3の2(進歩性欠如)の理由により、本件訂正後の請求項2、6、7及び9に記載された発明に係る特許を取り消すべきものと判断する。
1 本件訂正発明の認定
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項2、6~9に係る発明(以下「本件訂正発明2」、「本件訂正発明6」~「本件訂正発明9」といい、これらの発明(ただし、削除された請求項に係る本件訂正発明8を除く。)を総称して、「本件訂正発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2、6~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線は訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、独立項に係る本件訂正発明2において特定された4つの条件式を、以下、順に、「条件式(1)」~「条件式(4)」というとともに、これらを総称して「本件各条件式」ということにし、下記の認定にはその内容をも付加している。ここで、当該「条件式(1)」~「条件式(4)」の文言は、本件特許の願書に添付された本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)においても使用されているところ、両者の間には異なる部分が存在する。しかしながら、前者が後者よりも減縮された関係にあることから、本件訂正発明2に対しても、当該「条件式(1)」~「条件式(4)」の文言を、本件訂正明細書等に倣って採用することとした。
[本件訂正発明2]
「開口絞りと、前記開口絞りより像側に配置された以下の条件式を満足するガラスレンズからなる正レンズとを有する光学系。
ndP2+(0.01425×νdP2)<2.07 ・・・(1)
23.5<νdP2<35.0 ・・・(2)
0.702<θgFP2+(0.00316×νdP2) ・・・(3)
1.86<ndP2+(0.00787×νdP2) ・・・(4)
但し、ndP2:前記正レンズのd線に対する屈折率
νdP2:前記正レンズのd線を基準とするアッベ数
θgFP2:前記正レンズの部分分散比であり、前記正レンズのg線に対する屈折率をngP2とし、前記正レンズのF線に対する屈折率をnFP2とし、前記正レンズのC線に対する屈折率をnCP2としたとき、次式で定義される
θgFP2=(ngP2-nFP2)/(nFP2-nCP2)」
[本件訂正発明6]
「前記正レンズは、以下の条件式を満足する請求項1~5のいずれか一項に記載の光学系。
DP2>0.80
但し、DP2:前記正レンズの光軸上の厚さ[mm]」
[本件訂正発明7]
「最も像側に配置された像側レンズを有し、
前記開口絞りが前記像側レンズより物体側に配置され、
前記像側レンズより物体側で、前記正レンズが前記開口絞りより像側に配置される請求項1~6のいずれか一項に記載の光学系。」
[本件訂正発明8]
(削除)
[本件訂正発明9]
「請求項1~7のいずれか一項に記載の光学系を備えて構成される光学機器。」
2 実施可能要件違反の判断
(1)本件訂正明細書等の記載
本件訂正明細書等には、次の記載がある。
ア 「【技術分野】」、
「本発明は、光学系および光学機器に関する。」(【0001】)
イ 「【背景技術】」、
「近年、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置に用いられる撮像素子は、高画素化が進んでいる。このような撮像素子を用いた撮像装置に設けられる撮影レンズは、球面収差、コマ収差等の基準収差(単一波長の収差)に加え、白色光源において像の色にじみがないように色収差も良好に補正された、高い解像力を有するレンズであることが望まれている。特に、色収差の補正においては、1次の色消しに加え、2次スペクトルが良好に補正されていることが望ましい。色収差の補正の手段として、例えば、異常分散性を有する樹脂材料を用いる方法(例えば、特許文献1を参照)が知られている。このように、近年の撮像素子の高画素化に伴い、諸収差が良好に補正された撮影レンズが望まれている。」(【0002】)
ウ 「【発明の概要】」、
「第2の態様に係る光学系は、開口絞りと、前記開口絞りより像側に配置された以下の条件式を満足するガラスレンズからなる正レンズとを有する。
ndP2+(0.01425×νdP2)<2.07
23.5<νdP2<35.0
0.702<θgFP2+(0.00316×νdP2)
1.86<ndP2+(0.00787×νdP2)
但し、ndP2:前記正レンズのd線に対する屈折率
νdP2:前記正レンズのd線を基準とするアッベ数
θgFP2:前記正レンズの部分分散比であり、前記正レンズのg線に対する屈折率をngP2とし、前記正レンズのF線に対する屈折率をnFP2とし、前記正レンズのC線に対する屈折率をnCP2としたとき、次式で定義される
θgFP2=(ngP2-nFP2)/(nFP2-nCP2)」(【0005】)
エ 「【発明を実施するための形態】」、
「以下、本実施形態に係る光学系および光学機器について図を参照して説明する。まず、本実施形態に係る光学系を備えたカメラ(光学機器)を図17に基づいて説明する。このカメラ1は、図17に示すように撮影レンズ2として本実施形態に係る光学系を備えたデジタルカメラである。カメラ1において、不図示の物体(被写体)からの光は、撮影レンズ2で集光されて、撮像素子3へ到達する。これにより被写体からの光は、当該撮像素子3によって撮像されて、被写体画像として不図示のメモリに記録される。このようにして、撮影者はカメラ1による被写体の撮影を行うことができる。なお、このカメラは、ミラーレスカメラでも、クイックリターンミラーを有した一眼レフタイプのカメラであっても良い。」(【0008】)、
「本実施形態に係る光学系(撮影レンズ)LSの一例としての光学系LS(1)は、図1に示すように、開口絞りSと、開口絞りSより像側に配置された以下の条件式(1)~(3)を満足する正レンズ(L22)とを有している。」(【0009】)、
「ndP2+(0.01425×νdP2)<2.12 ・・・(1)
18.0<νdP2<35.0 ・・・(2)
0.702<θgFP2+(0.00316×νdP2) ・・・(3)
但し、ndP2:正レンズのd線に対する屈折率
νdP2:正レンズのd線を基準とするアッベ数
θgFP2:正レンズの部分分散比であり、正レンズのg線に対する屈折率をngP2とし、正レンズのF線に対する屈折率をnFP2とし、正レンズのC線に対する屈折率をnCP2としたとき、次式で定義される
θgFP2=(ngP2-nFP2)/(nFP2-nCP2)
なお、正レンズのd線を基準とするアッベ数νdP2は、次式で定義される
νdP2=(ndP2-1)/(nFP2-nCP2)」(【0010】)、
「本実施形態によれば、色収差の補正において、1次の色消しに加え、2次スペクトルが良好に補正された光学系、およびこの光学系を備えた光学機器を得ることが可能になる。本実施形態に係る光学系LSは、図3に示す光学系LS(2)でも良く、図5に示す光学系LS(3)でも良く、図7に示す光学系LS(4)でも良く、図9に示す光学系LS(5)でも良い。また、本実施形態に係る光学系LSは、図11に示す光学系LS(6)でも良く、図13に示す光学系LS(7)でも良く、図15に示す光学系LS(8)でも良い。」(【0011】)、
「条件式(1)は、正レンズのd線に対する屈折率とd線を基準とするアッベ数の適切な関係を規定するものである。条件式(1)を満足することで、球面収差、コマ収差等の基準収差の補正と、1次の色収差の補正(色消し)を良好に行うことができる。」(【0012】)、
「条件式(1)の対応値が上限値を上回ると、例えばペッツバール和が小さくなることで、像面湾曲の補正が困難になるため、好ましくない。条件式(1)の上限値を2.11に設定することで、本実施形態の効果をより確実なものとすることができる。本実施形態の効果をさらに確実にするために、条件式(1)の上限値を、2.10、2.09、2.08、2.07、さらに2.06とすることが好ましい。」(【0013】)、
「条件式(2)は、正レンズのd線を基準とするアッベ数の適切な範囲を規定するものである。条件式(2)を満足することで、球面収差、コマ収差等の基準収差の補正と、1次の色収差の補正(色消し)を良好に行うことができる。」(【0014】)、
「条件式(2)の対応値が上限値を上回ると、例えば、開口絞りSより像側の部分群において軸上色収差の補正が困難となるため、好ましくない。条件式(2)の上限値を32.5に設定することで、本実施形態の効果をより確実なものとすることができる。本実施形態の効果をさらに確実にするために、条件式(2)の上限値を、32.0、31.5、31.0、30.5、30.0、さらに29.5とすることが好ましい。」(【0015】)、
「条件式(2)の対応値が下限値を下回ると、例えば、開口絞りSより像側の部分群において軸上色収差の補正が困難となるため、好ましくない。条件式(2)の下限値を20.0に設定することで、本実施形態の効果をより確実なものとすることができる。本実施形態の効果をさらに確実にするために、条件式(2)の下限値を、23.0、23.5、24.0、24.5、25.0、25.5、26.0、26.5、27.0、27.5、さらに27.7とすることが好ましい。」(【0016】)、
「条件式(3)は、正レンズの異常分散性を適切に規定するものである。条件式(3)を満足することで、色収差の補正において、1次の色消しに加え、2次スペクトルを良好に補正することができる。」(【0017】)、
「条件式(3)の対応値が下限値を下回ると、正レンズの異常分散性が小さくなるため、色収差の補正が困難となる。条件式(3)の下限値を0.704に設定することで、本実施形態の効果をより確実なものとすることができる。本実施形態の効果をさらに確実にするために、条件式(3)の下限値を、0.708、0.710、0.712、さらに0.715とすることが好ましい。」(【0018】)、
「本実施形態の光学系において、正レンズは、以下の条件式(4)を満足することが望ましい。
1.83<ndP2+(0.00787×νdP2) ・・・(4)」(【0019】)、
「条件式(4)は、正レンズのd線に対する屈折率とd線を基準とするアッベ数の適切な関係を規定するものである。条件式(4)を満足することで、球面収差、コマ収差等の基準収差の補正と、1次の色収差の補正(色消し)を良好に行うことができる。」(【0020】)、
「条件式(4)の対応値が下限値を下回ると、例えば正レンズの屈折率が小さくなることで、基準収差、特に球面収差の補正が困難になるため、好ましくない。条件式(4)の下限値を1.84に設定することで、本実施形態の効果をより確実なものとすることができる。本実施形態の効果をさらに確実にするために、条件式(4)の下限値を、1.85、さらに1.86とすることが好ましい。」(【0021】)、
「本実施形態の光学系において、正レンズは、以下の条件式(5)を満足することが望ましい。
DP2>0.80 ・・・(5)
但し、DP2:正レンズの光軸上の厚さ[mm]」(【0028】)、
「条件式(5)は、正レンズの光軸上の厚さの適切な範囲を規定するものである。条件式(5)を満足することで、コマ収差、色収差(軸状色収差および倍率色収差)等の諸収差を良好に補正することができる。」(【0029】)、
「条件式(5)の対応値が下限値を下回ると、コマ収差、色収差(軸状色収差および倍率色収差)等の諸収差を補正することが困難になり、好ましくない。条件式(5)の下限値を0.90に設定することで、本実施形態の効果をより確実なものとすることができる。本実施形態の効果をさらに確実にするために、条件式(5)の下限値を、1.00、1.10、1.20、さらに1.30とすることが好ましい。」(【0030】)、
「本実施形態の光学系は、最も像側に配置された像側レンズを有し、開口絞りSが像側レンズより物体側に配置され、像側レンズより物体側で、正レンズが開口絞りSより像側に配置されることが望ましい。これにより、コマ収差、色収差(軸状色収差および倍率色収差)等の諸収差を良好に補正することができる。」(【0031】)、
「本実施形態の光学系において、正レンズは、ガラスレンズであることが望ましい。これにより、材料が樹脂である場合と比較して、経年変化に強く、温度変化等の環境変化に強いレンズを得ることができる。」(【0032】)
オ 「【実施例】」、
「以下、本実施形態の実施例に係る光学系LSを図面に基づいて説明する。・・・」(【0042】)、
「(第1実施例)
第1実施例について、図1~図2および表1を用いて説明する。・・・」(【0056】)、
「・・・本実施例では、第2レンズ群G2の正メニスカスレンズL27が像側レンズに該当し、第2レンズ群G2の正メニスカスレンズL22が条件式(1)~(3)等を満足する正レンズに該当する。・・・」(【0058】)、
「(表1)
・・・
[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd θgF
・・・
14 71.7000 1.3000 1.659398 26.87 0.6323
15 165.1470 1.0000 1.672700 32.19
・・・
[条件式対応値]
条件式(1)
ndP2+(0.01425×νdP2)=2.042
条件式(2),(2-1),(2-2)
νdP2=26.87
条件式(3)
θgFP2+(0.00316×νdP2)=0.7172
条件式(4),(4-1),(4-2)
ndP2+(0.00787×νdP2)=1.871
・・・」(【0060】)、
「(第3実施例)
第3実施例について、図5~図6並びに表3を用いて説明する。・・・」(【0071】)、
「・・・本実施例では、第3レンズ群G3の正レンズL34が条件式(1)~(3)等を満足する正レンズに該当する。・・・」(【0074】)、
「(表3)
・・・
[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd θgF
・・・
21 86.42750 4.549 1.65940 26.87 0.6327
22 -29.47240 D22(可変)
・・・
[条件式対応値]
条件式(1)
ndP2+(0.01425×νdP2)=2.042
条件式(2),(2-1),(2-2)
νdP2=26.87
条件式(3)
θgFP2+(0.00316×νdP2)=0.7176
条件式(4),(4-1),(4-2)
ndP2+(0.00787×νdP2)=1.871
・・・」(【0077】)、
「(第4実施例)
第4実施例について、図7~図8および表4を用いて説明する。・・・」(【0079】)、
「・・・本実施例では、第3レンズ群G3の正レンズL31が条件式(1)~(3)等を満足する正レンズに該当する。・・・」(【0082】)、
「(表4)
・・・
[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd θgF
・・・
15 25.10727 4.79424 1.659398 26.87 0.6327
16 -47.2953 0.53134
・・・
[条件式対応値]
条件式(1)
ndP2+(0.01425×νdP2)=2.042
条件式(2),(2-1),(2-2)
νdP2=26.87
条件式(3)
θgFP2+(0.00316×νdP2)=0.7176
条件式(4),(4-1),(4-2)
ndP2+(0.00787×νdP2)=1.871
・・・」(【0086】)、
「(第5実施例)
第5実施例について、図9~図10および表5を用いて説明する。・・・」(【0088】)、
「・・・本実施例では、第5レンズ群G5の正メニスカスレンズL56が像側レンズに該当し、第5レンズ群G5の正レンズL52が条件式(1)~(3)等を満足する正レンズに該当する。」(【0093】)、
「(表5)
・・・
[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd θgF
・・・
33 105.9950 3.3500 1.659398 26.84 0.632
34 -69.1861 1.6000 1.593190 67.90 0.544
・・・
[条件式対応値]
条件式(1)
ndP2+(0.01425×νdP2)=2.042
条件式(2),(2-1),(2-2)
νdP2=26.84
条件式(3)
θgFP2+(0.00316×νdP2)=0.7168
条件式(4),(4-1),(4-2)
ndP2+(0.00787×νdP2)=1.871
・・・」(【0095】)、
「(第6実施例)
第6実施例について、図11~図12および表6を用いて説明する。・・・」
(【0097】)、
「・・・本実施例では、第4レンズ群G4の正メニスカスレンズL43が条件式(1)~(3)等を満足する正レンズに該当する。」(【0101】)、
「(表6)
・・・
[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd θgF
・・・
26 -104.05170 2.300 1.65940 26.87 0.633
27 -44.45510 1.000 1.83481 42.73 0.565
・・・
[条件式対応値]
条件式(1)
ndP2+(0.01425×νdP2)=2.042
条件式(2),(2-1),(2-2)
νdP2=26.87
条件式(3)
θgFP2+(0.00316×νdP2)=0.7179
条件式(4),(4-1),(4-2)
ndP2+(0.00787×νdP2)=1.871
・・・」(【0104】)、
「(第7実施例)
第7実施例について、図13~図14および表7を用いて説明する。・・・」
(【0106】)、
「・・・本実施例では、第3レンズ群G3の負メニスカスレンズL45が像側レンズに該当し、第3レンズ群G3の正メニスカスレンズL39が条件式(1)~(3)等を満足する正レンズに該当する。」(【0109】)、
「(表7)
・・・
[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd θgF
・・・
34 -212.6904 6.2000 1.659398 26.84 0.632
35 -34.5457 1.6000 1.850000 27.03 0.609
・・・
[条件式対応値]
条件式(1)
ndP2+(0.01425×νdP2)=2.042
条件式(2),(2-1),(2-2)
νdP2=26.84
条件式(3)
θgFP2+(0.00316×νdP2)=0.7168
条件式(4),(4-1),(4-2)
ndP2+(0.00787×νdP2)=1.871
・・・」(【0112】)
(2)本件訂正発明の技術的特徴
ア 上記(1)によれば、本件訂正発明は、次の技術的特徴を有するものと認められる。なお、上記1のとおり、本件訂正発明2において特定された条件式を、順に、「条件式(1)」~「条件式(4)」と表現している。
(ア)本発明は、光学系および光学機器に関する。(【0001】)
(イ)高画素化が進んだ撮像素子を用いた撮像装置(デジタルカメラやビデオカメラ等)に設けられる撮影レンズは、球面収差、コマ収差等の基準収差(単一波長の収差)に加え、白色光源において像の色にじみがないように色収差も良好に補正された、高い解像力を有するレンズであることが望まれている。特に、色収差の補正においては、1次の色消しに加え、2次スペクトルが良好に補正されていることが望ましいところ、色収差の補正の手段として、例えば、異常分散性を有する樹脂材料を用いる方法が知られている。(【0002】)
(ウ)本発明に係る光学系は、開口絞りと、前記開口絞りより像側に配置された以下の条件式を満足するガラスレンズからなる正レンズとを有する。
ndP2+(0.01425×νdP2)<2.07 ・・・(1)
23.5<νdP2<35.0 ・・・(2)
0.702<θgFP2+(0.00316×νdP2) ・・・(3)
1.86<ndP2+(0.00787×νdP2) ・・・(4)
但し、ndP2:前記正レンズのd線に対する屈折率
νdP2:前記正レンズのd線を基準とするアッベ数
θgFP2:前記正レンズの部分分散比である。(【0005】)
(エ)条件式(1)を満足することで、球面収差、コマ収差等の基準収差の補正と、1次の色収差の補正(色消し)を良好に行うことができるという効果をさらに確実にすることができる。条件式(1)の対応値が上限値を上回ると、例えばペッツバール和が小さくなることで、像面湾曲の補正が困難になるため、好ましくない。(【0012】・【0013】)
(オ)条件式(2)を満足することで、球面収差、コマ収差等の基準収差の補正と、1次の色収差の補正(色消し)を良好に行うことができるという効果をさらに確実にすることができる。条件式(2)の対応値が上限値を上回ると、例えば、開口絞りSより像側の部分群において軸上色収差の補正が困難となるため、好ましくない。また、条件式(2)の対応値が下限値を下回ると、例えば、開口絞りSより像側の部分群において軸上色収差の補正が困難となるため、好ましくない。(【0014】~【0016】)
(カ)条件式(3)は、正レンズの異常分散性を適切に規定するものであり、条件式(3)を満足することで、色収差の補正において、1次の色消しに加え、2次スペクトルを良好に補正することができる。条件式(3)の対応値が下限値を下回ると、正レンズの異常分散性が小さくなるため、色収差の補正が困難となる。(【0017】・【0018】)
(キ)条件式(4)を満足することで、球面収差、コマ収差等の基準収差の補正と、1次の色収差の補正(色消し)を良好に行うことができるという効果をさらに確実にすることができる。条件式(4)の対応値が下限値を下回ると、例えば正レンズの屈折率が小さくなることで、基準収差、特に球面収差の補正が困難になるため、好ましくない。(【0020】・【0021】)
(ク)正レンズがガラスレンズであることにより、材料が樹脂である場合と比較して、経年変化に強く、温度変化等の環境変化に強いレンズを得ることができる。(【0032】)
(ケ)実施例には、条件式(1)~(4)を満足する材料について、d線に対する屈折率ndP2、d線を基準とするアッベ数νdP2及び部分分散比θgFP2を(ndP2,νdP2,θgFP2)として表現すると、(1.659398,26.87,0.6323)、(1.65940,26.87,0.6327)、(1.659398,26.84,0.632)、(1.65940,26.87,0.633)、の4種類の材料が記載されている。そして、これらの材料の上記各特性は、本件各条件式を満足する特性 に係る領域の概ね中央付近に存在する。(【0060】・【0077】・【0086】・【0095】・【0103】・【0112】)
(コ)本件訂正明細書等には、条件式(1)~(4)を満足する材料の製造方法及び入手方法についての記載がない。
イ 上記アによれば、本件訂正発明の技術的意義は、球面収差、コマ収差等の基準収差(単一波長の収差)に加え、色収差の補正について、1次の色消しに加え、2次スペクトルが良好に補正されていることが望ましいという課題(上記ア(イ))を解決するために、開口絞りより像側に配置されたガラスレンズからなる正レンズに対して本件各条件式を満足する材料(以下「本件特性充足ガラス材料」といい、本件各条件式を満足する特性を「本件特性」という。)を用いる(同(ウ))ことによって、球面収差、コマ収差等の基準収差の補正と、1次の色収差の補正(色消し)、2次スペクトルを良好に補正できる(同(エ)~(キ))ということにあると認められる。
(3)光学ガラスのd線に対する屈折率(以下「nd」ということがある。)、d線を基準とするアッベ数(以下「νd」ということがある。)及び部分分散比(以下「θgF」ということがある。)の技術水準
本件訂正発明は、上記(2)イによれば、開口絞りに対して特定の側に存在する特定の符号の屈折力を有するガラスレンズに対して、条件式(1)~(4)を満足する光学的特性を備える本件特性充足ガラス材料を用いることを特定するものである。
ア そこで、市販されている光学ガラスの光学的特性を把握するために、以下の技術水準を認定する。
(ア)株式会社オハラ(光学ガラス分野の代表的な製造会社の一つである。)が2021年12月時点で提供する光学ガラスについて、その特性を示すダイアグラムを、同社のウェブサイト(https://www.ohara-inc.co.jp/product/catalog/)から入手すると、以下のとおりである。なお、後記a及びbにおける「nd」、「νd」及び「θg,F」は、それぞれ、nd、νd及びθgFに相当すると認められる。
a nd-νdダイアグラム(https://www.ohara-inc.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/hp_nd-vd_202112.pdf)
[図:0001401592000001.jpg]
b θg,F-νdダイアグラム(https://www.ohara-inc.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/hp_thetagF-vd_202112.pdf)
[図:0001401592000002.jpg]
(イ)ドイツのショット社が1972年6月までに発行した「SCHOTT OPTICAL GLASS」と題するカタログ(乙4)によれば、「TiF6」及び「TiSF1」と称する光学ガラスが存在し、その物性値並びに条件式(1)、(3)及び(4)の数式の値は以下のとおりであると認められる。
a TiF6(乙4の第10葉の左の表)
nd:1.616501
νd:30.97
ng-nF:0.012382
nF-nC:0.019904
θgF:0.622086(=(ng-nF)/(nF-nC))
条件式(1)の左辺の値=2.0578
条件式(3)の右辺の値=0.7199
条件式(4)の右辺の値=1.8602
b TiSF1(乙4の第11葉の左の表)
nd:1.673393
νd:28.90
ng-nF:0.014196
nF-nC:0.023304
θgF:0.609166(=(ng-nF)/(nF-nC))
条件式(1)の左辺の値=2.0852
条件式(3)の右辺の値=0.7005
条件式(4)の右辺の値=1.9008
イ また、市販されている光学レンズには、nd及びνdに製造上の公差が存在しており、その大きさは、±0.5%であると認められる(乙7、乙8の[0032])。
(4)判断
ア 本件訂正発明2で特定された本件特性充足ガラス材料は、いわゆる異常分散性を有する(上記(2)ア(カ))から、一般に、たやすく製造できるとはいいがたいものである。
他方、上記(3)ア(イ)で認定したTiF6(nd=1.616501、νd=30.97、θgF=0.622086)は、有効数字を考慮しなければ、本件各条件式を満足するものであるし、有効数字を考慮しても、製造上の公差(上記(3)イ)を踏まえれば、本件各条件式を満足すると認められる。そのため、TiF6は、本件特性充足ガラス材料であるということができ、この点は、特許権者も主張するとおりである。
しかしながら、TiF6に係る上記各特性は、本件特性に係る領域の概ね中央付近に存在する本件訂正発明の実施例に係る各特性(上記(2)ア(ケ))とは異なり、当該領域の隅付近に存在するところ、TiF6以外の本件特性充足ガラス材料が本件特許の出願時において市販されていたという証拠はない。この点、上記(3)ア(ア)によれば、株式会社オハラが提供する光学ガラスに係るダイアグラムには、本件特許の出願後である2021年12月の時点においてさえ、本件特性充足ガラス材料が存在していない。さらにいえば、上記ダイアグラムには、TiF6を除き、本件特性充足ガラス材料に近い光学的特性を有するものすら存在しないのであり、より具体的には、本件特性充足ガラス材料は、条件式(2)を満足するアッベ数の範囲において、その屈折率が、上記光学ガラスのものよりも、相当程度小さくなっている。
このように、本件特性充足ガラス材料は、本件特性に係る領域の隅付近に存在する特性を有するTiF6であればともかく、当業者が、製造できるものとはいえないし、本件特許の出願時に入手できるものともいえないところ、そうであるにもかかわらず、本件訂正明細書等には、本件特性充足ガラス材料が、d線に対する屈折率、d線を基準とするアッベ数及び部分分散比の具体的数値のみをもって4種類記載されているにとどまり(上記(2)ア(ケ))、これらの具体的数値に係る本件特性充足ガラス材料を当業者がどのようにして製造又は入手するのかについての事項が記載されておらず(上記同(コ))、これらの具体的数値以外の光学的特性を備える本件特性充足ガラス材料についての上記事項も同様に記載されていない(同(コ))。
したがって、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時における技術常識に基づいて、本件特性充足ガラス材料を製造ないし入手できるとはいえず、そうである以上、本件訂正発明2に係る光学系を製造することができるともいえない。
本件訂正発明2に従属する本件訂正発明6、7及び9に係る光学系又は光学機器についても同様である。
イ これに対し、特許権者は、乙4~22を提出した上で、次のとおり主張するが、いずれも失当である。
乙4:「SCHOTT OPTICAL GLASS」と題するカタログの抜粋、ショット社
乙5:「写真レンズハンドブック」の抜粋、写真工業出版社、昭和53年2月15日
乙6:ショット社のレンズデータを示すnd-νd図及びθgF-νd図
乙7:「光学ガラス2022年版」の抜粋、SCHOTT社
乙8:国際公開第2015/004926号
乙9:特開2011-195370号公報
乙10:特開昭52-25812号公報
乙11:特開2004-161598号公報
乙12:国際公開第2004/110942号
乙13:特開2010-60612号公報
乙14:特開2008-191293号公報
乙15:特開2017-49572号公報
乙16:乙13~15に記載された硝材を示すnd-νd図及びθgF-νd図
乙17:特開2005-53743号公報
乙18:「ガラスレンズの製造技術」、精密工学会誌、2004、Vol.70、No.5、p.619~p.623
乙19:レンズデータを示すnd-νd図及びθgF-νd図
乙20:「FD270のご紹介」、HOYAグループオプティクス事業部のニュースリリース、2020年12月4日
乙21:特開2021-50125号公報
乙22:レンズデータを示すnd-νd図及びθgF-νd図
(ア)特許権者は、公知の光学ガラスには、TiF6に加えてTiSF1も存在するところ、TiSF1は本件特性充足ガラス材料ではないけれども、TiF6及びTiSF1は、本件特性で特定される範囲を挟むような位置関係(乙6のnd-νd図及びθgF-νd図を参照。後掲する。)に存在し、TiSF1においてSiO2を多くすると、TiF6の方に移動したガラス材料を製造することができるから、本件特性充足ガラス材料を製造することができる旨主張する。そして、特許権者は、TiSF1においてSiO2を多くすると、TiF6の方に移動したガラス材料を製造できる根拠として、(i)TiF6とTiSF1は、SF-F-LLF-KF-K系列(以下「SF等系列」という。)の領域近くに当該領域と並んでほぼ平行な位置関係にあること(乙5の図1を参照。後掲する。)、(ii)SF等系列のガラス材料は、SiO2-PbO-R2O系であり、主にPbOとSiO2を置換することにより、PbOが多いとSFの方向へ、SiO2が多いとKFの方向へと変化すること(乙5)、(iii)上記(i)及び(ii)を考慮すれば、TiSFにおいてSiO2を多くすると、乙5の図1におけるKFの方向、つまり、TiF6の方に移動したガラス材料を製造できること、を挙げる。
[乙6のnd-νd図]
[図:0001401592000003.jpg]
[乙6のθgF-νd図]
[図:0001401592000004.jpg]
[乙5の図1]
[図:0001401592000005.jpg]
a しかしながら、TiF6及びTiSF1の各ガラス材料は、SF等系列に属するのではなく、むしろ、SiO2-TiO2-KF系からなるTiF系列に属すると解される(乙5の第45頁左欄末行~右欄1行)ことから、当該各ガラス材料が、SF等系列の領域近くに当該領域と並んでほぼ平行な位置関係にあるからといって、SF等系列と同様のメカニズムをもって変化するものであるとはいえず、よって、SiO2を多くするとKFの方向へと変化するともいえない。
仮にこの点を措き、TiSF1においてSiO2を多くすることによってTiF6の方に移動したガラス材料を製造できるとしても、次の2点が問題となる。すなわち、第1に、nd-νd図上においてそれが可能であるとしても、θgF-νd図上においてまでそれが直ちに可能なのかは明らかではない。また、第2に、特許権者が主張する調整によっては、TiF系列の範囲内における調整が可能であるにとどまり、その系列の範囲を超えた調整は困難であるといえるのであり、このことは、乙6のnd-νd図及びθgF-νd図におけるTiF6とTiSF1とを接続した線状の領域が本件特性に係る範囲の中央付近から外れていることからみて明らかである。
b さらに、特許権者は、乙17に記載された実施例2、3及び10に係る光学ガラス材料が、条件式(1)の上限に近い特性を有するとともに条件式(2)~(4)を満足する材料であるとした上で、このことに上記のTiF6及びTiSF1の存在を考え合わせると、当業者であれば、本件特性充足ガラス材料を製造できる旨主張し、乙17の上記各実施例に係る光学材料が上記のような本件各条件式との関係を有するといえる根拠として、乙17には、θgFが記載されていないものの、nd及びνdが記載されているとともに光学ガラス材料の材料組成及び構成比率が記載されていることから、それを光学ガラスレンズの一般的な製造技術(乙18)に基づいて再現すれば、θgFを測定することができ、そのことから、本件各条件式との関係が分かることを挙げる。
しかしながら、本件訂正明細書等の記載には、乙17を当業者が発見するに至る示唆を見いだせない。すなわち、乙17にはθgFが記載されていないことから、当業者は、乙17の存在を認識するに至ること自体に、過度の試行錯誤を有するといえる。換言すれば、乙17が、実施可能要件充足性の判断資料となる技術常識を構成する資料であるとは認めることができない。
仮にこの点を措くとしても、再現実験の信頼性には疑問があり、具体的には、再現実験値(実験値)が、実験例2では、乙17記載の値(公報値)と相当近接している一方で、実施例3及び10では、乙17記載の値と相当程度離れており、よって、少なくとも実施例3及び10の再現性には疑問を入れる余地がある(乙19の1/2を参照。後掲する。)。さらに、特許権者は、nd、νd及びθgFの調整方法としていくつか主張するものの、この調整方法が乙17に記載された光学ガラスの系列にも妥当するのかの立証がないし、実際に、本件特性ガラス充足材料が再現性をもって製造されたことの立証もない。加えて、TiF6及びTiSF1の系列は、上記aのとおり、TiF系列であって、SiO2-TiO2-KF系からなると解されるところ、乙17に記載された光学ガラスは、少なくともKFが含まれていないことから、TiF系列ではないのであり、よって、TiF6及びTiSF1の存在を考え合わせたとしても、本件特性に至るとはいえない。
[乙19の1/2]
[図:0001401592000006.jpg]
(イ)特許権者は、乙9~12に記載された高屈折率高分散ガラス材料において、ガラス材料を構成する組成成分の量を調整することにより、当業者は、本件特性充足ガラス材料を製造できる旨主張する。
a しかしながら、乙9に具体的に記載されたガラス材料は、いずれも、条件式(1)及び(3)を満たしていないものであり、しかも、nd-νd図上において占める範囲が、条件式(1)の上限よりも相当程度上のみとなっており、本件特性に係る領域を挟むようにもなっていない(下図参照。)。
[図:0001401592000007.jpg]
そして、特許権者が主張する調整の手法は、上記(ア)bの説示と同様の理由で、乙9に記載された光学ガラスの系列にも妥当するのかの立証がないし、実際に、本件特性ガラス充足材料が再現性をもって製造されたことの立証もない。
そうすると、乙9に具体的に記載されたガラス材料に対して調整を行うとしても、本件特性に至ると認めることはできない。
b また、乙10~12に記載された具体的なガラス材料は、そもそもθgFの値が不明であるから、上記(ア)bの説示と同様の理由で、乙10~12が、実施可能要件充足性の判断資料となる技術常識を構成する資料であると認めることができない。
さらに、これらは、条件式(1)を満たしていないものであり、しかも、nd-νd図上において占める範囲が、条件式(1)の上限よりも相当程度上のみとなっており、本件特性に係る領域を挟むようにもなっていない(下図参照。)。
[図:0001401592000008.jpg]
[図:0001401592000009.jpg]
[図:0001401592000010.jpg]
そして、特許権者が主張する調整の手法は、上記(ア)bで説示と同様の理由で、乙10~12に記載された光学ガラスの系列にも妥当するのかの立証がない。
そうすると、乙10~12に具体的に記載されたガラス材料に対して調整を行うとしても、本件特性に至ると認めることはできない。
(ウ)特許権者は、乙13~15に記載されたガラス材料を構成する組成成分の量を調整することにより、当業者は、本件特性充足ガラス材料を製造できる旨主張する。
しかしながら、これらのガラス材料は、nd、νd及びθgFの値が記載されているものの、その具体的な組成が不明であることから、本件特許に係る出願時において製造ないし入手できたのかすら不明であるし、それを措くとしても、具体的な組成が不明である以上、どのように調整してよいかも不明と言わざるを得ない。
ウ 以上によれば、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特性充足ガラス材料について、TiF6に係る数値範囲を除き、実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると評価することができない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明2、6、7及び9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(5)実施可能要件違反の判断の小括
以上のとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3 進歩性欠如の判断
(1)乙4に記載された発明の認定
ア 本件特許に係る出願前である1972年6月までに頒布された刊行物である乙4には、次の記載がある。
(ア)「SCHOTT OPTICAL GLASS」(表紙)
(当審訳)「ショット 光学ガラス」
(イ)第10葉の左表
[図:0001401592000011.jpg]
イ 光学ガラスをレンズにした上で、光学系に用いることは例示するまでもなく技術常識であるから、乙4には、TiF6からなるレンズを有する光学系が記載されているに等しいと認められる。
ウ 上記ア及びイによれば、乙4には、次の発明(以下「乙4発明」という。)が記載されていると認められる。
「光学ガラスTiF6からなるレンズを有する光学系。
TiF6の特性は次のとおりである。
nd:1.616501
νd:30.97
ng-nF:0.012382
nF-nC:0.019904。」
(2)本件訂正発明2について
ア 本件訂正発明2と乙4発明との対比
乙4発明の「光学系」は、本件訂正発明2の「光学系」に相当する。
乙4発明の「光学ガラスTiF6からなるレンズ」は、本件訂正発明2の「ガラスレンズ」に相当する。また、乙4発明の「光学ガラスTiF6からなるレンズ」と本件訂正発明2の「正レンズ」とは、「レンズ」である点で一致する。
乙4発明の「光学ガラスTiF6からなるレンズ」は、上記2(3)ア(イ)によれば、条件式(1)~(3)を満足するが、条件式(4)の右辺の値が1.8602であるので、有効数字を考慮すると、条件式(4)の下限である1.86を超えているといえるのか不明である。
イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明2と乙4発明とは、次の一致点で一致し、相違点で一応相違するか又は相違する。なお、「ndP2」などの「P2」の添え字は、「正レンズ」の「正」を意味すると解されることから、以下、省略して表記している。
[一致点]
「以下の条件式を満足するガラスレンズを有する光学系。
nd+(0.01425×νd)<2.07 ・・・(1)
23.5<νd<35.0 ・・・(2)
0.702<θgF+(0.00316×νd) ・・・(3)
但し、nd:前記レンズのd線に対する屈折率
νd:前記レンズのd線を基準とするアッベ数
θgF:前記レンズの部分分散比であり、前記レンズのg線に対する屈折率をngとし、前記レンズのF線に対する屈折率をnFとし、前記レンズのC線に対する屈折率をnCとしたとき、次式で定義される
θgF=(ng-nF)/(nF-nC)」
[相違点1]
「ガラスレンズ」を有する「光学系」が、本件訂正発明2は、開口絞りと、前記開口絞りより像側に配置された当該ガラスレンズからなる正レンズとを有するのに対し、乙4発明は、そうではない点。
[相違点2]
「ガラスレンズ」が、本件訂正発明2は、条件式(4)を満たしているのに対し、乙4発明は、そうであるのか不明である点。
ここで、条件式(4)は、「1.86<nd+(0.00787×νd)」である。
ウ 相違点の判断
(ア)相違点1について
光学系の技術分野において、1次の色補正に加えて2次スペクトルの補正をすることは例示するまでもなく周知の課題であって、その課題を、異常分散材料を用いたレンズと他のレンズとを組み合わせるようにして解決することも技術常識であるところ、この点に照らせば、乙4発明で用いられているTiF6がこのような意味での異常分散材料であることは、当業者であれば当然に認識することであるといえる。そして、当該技術分野において、開口絞りが存在し、その物体側及び像側の双方に、正負の少なくとも一方のレンズが存在する光学系は、慣用されているものである。
そうすると、乙4発明から出発した当業者は、「光学ガラスTiF6からなるレンズ」が上記課題を解決するためのレンズであることを認識しつつ、乙4発明に係る光学系を具体化するといえる。そして、乙4発明の光学系として相違点1に係る本件訂正発明2の構成のものを用いることは、上記の慣用された光学系の存在及び上記の異常分散材料に係る技術常識に照らせば、当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきである。
(イ)相違点2について
上記アで説示したとおり、乙4発明の「TiF6からなるレンズ」は、条件式(4)の右辺の値が1.8602であるので、相違点2は実質的でないといえるし、仮にそうはいえないとしても、上記2(3)イで認定したνdの製造上の公差(±0.5%)を考慮すれば、やはり、相違点2は実質的でないといえる。
(ウ)本件訂正発明2の効果について
本件訂正発明2の効果は、その構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものとはいえない。
(エ)特許権者の主張について
特許権者は、本件訂正発明2に係る構成とすることにより、1次の色消しに加え、2次スペクトルが良好に補正された光学系を得ることができるといった格別の効果を奏する旨主張する。しかしながら、上記(ア)で認定したとおり、光学系の技術分野において、1次の色補正に加えて2次スペクトルの補正をすることは例示するまでもなく周知の課題であって、その課題を異常分散材料を用いたレンズと他のレンズとを組み合わせるようにして解決することも技術常識であるのであり、そうである以上、当業者は、TiF6がこのような意味での異常分散材料であることを当然に認識できるといえるから、上記の効果は、当業者が予測できることである。そして、上記の効果が、本件訂正発明2に係るガラスレンズについて、これを正又は負のいずれのレンズにするかや、開口絞りに対して配置される位置を物体側又は像側のいずれにするかに関係するとはいえないのであり、このことは、異常分散材料を用いて1次の色補正に加えて2次スペクトルの補正をする原理が、結局のところ、他の光学要素との組合せによって色補正を行う際における調整の自由度としてθgFを含めるのにあることからみても明らかである(なお、後記4(2)イにおいて、申立人が主張するサポート要件違反の申立理由に理由がないことも、本件訂正発明の課題解決原理をこのように理解することに起因している。また、当該課題解決原理をこのように理解することは、本件特許異議申立事件と同時に特許庁に係属している異議2021-701122、同701123及び同701125の各事件に係る特許発明が、本件訂正発明2と同じ条件式を満たすガラスレンズを用いて、これを正又は負とするか、これを開口絞りに対して配置する位置を物体側又は像側にするかについてのみ異ならせたものであることからみても、首肯できる。)。
エ 小括
したがって、本件訂正発明2は、乙4発明並びに慣用技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件訂正発明6について
ア 本件訂正発明6と乙4発明との対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明6と乙4発明とを対比すると、上記(2)と同様に対比して、両者は、上記(2)イで認定した一致点で一致し、相違点1及び2のほか、次の点で相違する。
[相違点3]
本件訂正発明6は、「前記正レンズが、以下の条件式を満足する
D1>0.80
但し、D1:前記正レンズの光軸上の厚さ[mm]」のに対し、乙4発明は、そうではない点。
イ 相違点の判断
相違点1及び2の判断は、本件訂正発明2でしたのと同様である。
相違点3について、乙4発明の「TiF6からレンズ」は異常分散性を有するものである以上、ある程度の厚さが求められることが当然であるし、光軸上の厚さとして、当該相違点に係る本件訂正発明6で特定された程度の厚さは、通常のものである。そうすると、相違点3に係る本件訂正発明6の構成は、当業者が適宜設定し得た程度のことにすぎない。
相違点3に係る本件訂正発明6の効果として、本件訂正明細書等の【0029】及び【0030】には、条件式(5)を満足することで、コマ収差、色収差(軸状色収差および倍率色収差)等の諸収差を良好に補正することができる旨記載されているものの、上記(2)ウ(エ)に説示したところに照らせば、当業者にとって予測し得る程度の事項にすぎない。
ウ 小括
したがって、本件訂正発明6は、乙4発明並びに慣用技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件訂正発明7について
ア 本件訂正発明7と乙4発明との対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明7と乙4発明とを対比すると、上記(2)と同様に対比して、両者は、次の一致点で一致し、相違点2のほか、次の点で相違する。
[一致点]
「以下の条件式を満足するガラスレンズを有する光学系。
nd+(0.01425×νd)<2.07 ・・・(1)
23.5<νd<35.0 ・・・(2)
0.702<θgF+(0.00316×νd) ・・・(3)
但し、nd:前記レンズのd線に対する屈折率
νd:前記レンズのd線を基準とするアッベ数
θgF:前記レンズの部分分散比であり、前記レンズのg線に対する屈折率をngとし、前記レンズのF線に対する屈折率をnFとし、前記レンズのC線に対する屈折率をnCとしたとき、次式で定義される
θgF=(ng-nF)/(nF-nC)」
[相違点4]
「ガラスレンズ」を有する「光学系」が、本件訂正発明7は、開口絞りと、前記開口絞りより像側に配置された当該ガラスレンズからなる正レンズとを有し、さらに、最も像側に配置された像側レンズを有し、前記開口絞りが前記像側レンズより物体側に配置され、前記像側レンズより物体側で、前記正レンズが前記開口絞りより像側に配置されるのに対し、乙4発明は、そうではない点。
イ 相違点の判断
相違点2の判断は、本件訂正発明2でしたのと同様である。
相違点4について、光学系の技術分野において、開口絞りが存在し、その物体側及び像側の双方に、正負の少なくとも一方のレンズを含む2枚のレンズが存在する光学系は、慣用されているものである。
そうすると、相違点1の判断においてした説示と同様の理由で、乙4発明の光学系として相違点4に係る本件訂正発明7の構成のものを用いることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。
そして、本件訂正発明7の効果は、乙4発明並びに慣用技術及び技術常識に基づいて当業者が予測し得たものにすぎない。
ウ 小括
したがって、本件訂正発明7は、乙4発明並びに慣用技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件訂正発明9について
ア 本件訂正発明9と乙4発明との対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明9と乙4発明とを対比すると、上記(2)と同様に対比して、両者は、上記(2)イで認定した一致点で一致し、相違点1及び2のほか、次の点で相違する。
[相違点5]
本件訂正発明9は、光学系を備えて構成される光学機器であるのに対し、乙4発明は、光学系である点。
イ 相違点の判断
相違点1及び2の判断は、本件訂正発明2でしたのと同様である。
相違点5について、光学系を光学機器に用いることは当然のことにすぎない。
ウ 小括
したがって、本件訂正発明9は、乙4発明並びに慣用技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)進歩性欠如の判断の小括
このように、本件訂正発明2、6、7及び9は、乙4発明並びに慣用技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 第2次決定予告において採用しなかった特許異議申立理由及び取消理由についての判断
(1)第1次取消理由通知について
第1次取消理由通知書は、本件特許の登録時における請求項2、6、7及び9に係る発明が甲3(特開2009-249591号公報)又は甲4(特開2017-90710号公報)に記載された発明に基づき進歩性を欠如する旨の取消理由を通知したが、本件訂正により、本件訂正発明が上記通知の対象外である登録時の請求項8に係る発明に限定されたことになったため、当該取消理由は解消した。
(2)特許異議申立理由について
ア 明確性要件違反
申立人は、本件訂正発明の「前記開口絞りより像側に配置された以下の条件式を満足するガラスレンズからなる正レンズ」の記載が明確でない旨主張し、その根拠として、「前記開口絞りより像側に配置された」「ガラスレンズからなる正レンズ」に該当するレンズが複数ある場合に、どのレンズが「以下の条件式」を満足するのかが、請求項の記載からは不明であることを挙げる。
しかしながら、該当するレンズが複数ある場合は、そのうちいずれかのレンズが「以下の条件式」を満足すれば足りると解することができるし、本件訂正明細書等の記載をみても、その理解に反する記載はない。
よって、本件訂正発明の上記記載は明確である。
イ サポート要件違反
申立人は、本件訂正発明の「開口絞りと、前記開口絞りより像側に配置された以下の条件式を満足するガラスレンズからなる正レンズとを有する」という曖昧で具体性のない記載では、本件訂正明細書等の実施例に記載された光学系の構成を超える範囲の構成を含んでいる旨主張するが、本件訂正発明の課題解決原理が、異常分散材料を用いて1次の色補正に加えて2次スペクトルの補正をする原理が、結局のところ、他の光学要素との組合せによって色補正を行う際における調整の自由度としてθgFを含められるようにするのにあることからみて、本件訂正発明の記載は、サポート要件を満たしているといえる。
ウ 進歩性欠如
申立人は、本件訂正発明が、甲1又は2を主引例とするとともに甲3~5のいずれかを副引例とすると進歩性を欠如する旨主張するので検討する。
ここで、申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲1:特開2013-171165号公報
甲2:特開2014-21309号公報
甲3:特開2009-249591号公報
甲4:特開2017-90710号公報
甲5:特開2003-104752号公報
(ア)甲1に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如
a 甲1発明の認定
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1(特開2013-171165号公報)には、実施例4に係るズームレンズについて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下の諸元を有するズームレンズ。
[図:0001401592000012.jpg]
」
b 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「10(絞り)」に係る光学要素が本件訂正発明2の「開口絞り」に相当し、甲1発明の「15」と「16」に係る光学要素が本件訂正発明2でいう条件式(2)を満足し、「開口絞りより像側に配置された」ものである。
よって、本件訂正発明2と甲1発明とは、
「開口絞りと、前記開口絞りより像側に配置された以下の条件式として条件式(2)を満足する正レンズとを有する光学系。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
正レンズが、本件訂正発明2は、条件式(1)、(3)及び(4)を満足するガラスレンズであるのに対し、甲1発明は、そうではない点。
c 相違点の判断
甲1発明は、具体的なズームレンズに係るものであるところ、「15」と「16」に係る光学要素として相違点に係る構成のガラスレンズとすることについて、甲1には記載も示唆もない。
これに対し、申立人は、条件式(1)、(3)及び(4)を満足する又はこれと同視できるレンズ及びレンズ材料が甲3の実施例5-4、甲4のTiO225%(メタ)アクリル化合物2混合体、及び、甲5の【0037】・表2に開示されている旨主張するが、甲3及び4のものは樹脂材料を用いているのであってガラス材料を用いていないし、甲5のものは条件式を満たしていないから、これらの証拠を考慮したとしても、相違点に係る構成には至らない。
申立人は、甲1に記載された他の実施例のズームレンズに係る発明を主引用発明とする旨の主張もするが、上記と同じ相違点を有する以上、上記の判断を左右するものはない。
よって、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明及び甲3~5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
d 本件訂正発明6、7及び9について
これらの発明は、本件訂正発明2を限定したものであるから、上記と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲3~5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)甲2に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如
甲2に記載された発明についても、本件訂正発明2とは、少なくとも、本件訂正発明2と甲1発明との相違点(上記(ア)b)において相違するが、上記(ア)cと同様の理由で、本件訂正発明2、6、7及び9は、甲2に記載された発明及び甲3~5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 小括
よって、上記の特許異議申立理由によっては、本件訂正発明2、6、7及び9についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件訂正発明2、6、7及び9についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、当該各発明についての特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正発明2、6、7及び9についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、当該各発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
請求項8は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、当該請求項8に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701124