2021-701113
金属フォームの製造方法
- 審判番号
- 2021-701113
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-571220外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6881830
- 請求日
- 2021年11月30日
- 審決日
- 2022年06月29日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】渡部 崇
- 【異議申立人】大澤 豊
- 分類
- P1651.121-Y (B22F) / P1651.537-Y (B22F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 8項目
第1 手続の経緯
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特許6881830号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願(特願2019-571220号)は、2018年(平成30年)7月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年7月6日、韓国)を国際出願日とする出願であって、令和3年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年6月2日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年11月30日に、その請求項1~11(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である大澤豊(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和 4年 2月 7日付け 取消理由通知
同年 4月28日 特許権者との電話による応対
同年 5月17日付け 意見書(特許権者)
第2 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明は、それぞれ、その願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりものである(なお、本件特許の請求項1~11に係る発明を、以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明11」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)。
「【請求項1】第1金属粉末、第1バインダー、及び第1分散剤からなる第1スラリーを用いて第1金属フォーム前駆体を形成するステップと、第2金属粉末、第2バインダー、及び第2分散剤からなり、前記第1スラリーとは異なる組成を有する第2スラリーを用いて前記第1金属フォーム前駆体上に第2金属フォーム前駆体を形成するステップと、前記第1金属フォーム前駆体及び前記第2金属フォーム前駆体を焼結するステップと、を含み、続きを表示(全26行)前記第1分散剤及び前記第2分散剤は、アルコールであることを特徴とする、金属フォームの製造方法。【請求項2】前記第1スラリーは、第1金属粉末100重量部に対して1~500重量部の第1バインダー、及び前記第1バインダー100重量部に対して10~3,000重量部の第1分散剤を含み、前記第2スラリーは、第2金属粉末100重量部に対して1~500重量部の第2バインダー、及び前記第2バインダー100重量部に対して10~3,000重量部の第2分散剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の金属フォームの製造方法。【請求項3】前記第1金属粉末または前記第2金属粉末は、平均粒径が0.1μm~200μmの範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属フォームの製造方法。【請求項4】前記第1バインダーまたは前記第2バインダーは、アルキルセルロース、ポリアルキレンカーボネート又はポリビニルアルコール系バインダーであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の金属フォームの製造方法。【請求項5】前記第1金属フォーム前駆体及び前記第2金属フォーム前駆体は、フィルム又はシート状に形成されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の金属フォームの製造方法。【請求項6】焼結は、500℃~2000℃の範囲内の温度で行うことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の金属フォームの製造方法。【請求項7】前記第1金属フォーム前駆体と前記第2金属フォーム前駆体は、互いに接して形成されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の金属フォームの製造方法。【請求項8】前記第1スラリー中の第1金属粉末の重量割合(A)と前記第2スラリー中の第2金属粉末の重量割合(B)の割合(A/B)が0.1~20の範囲内であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の金属フォームの製造方法。【請求項9】前記第1スラリー中の第1バインダーの第1金属粉末100重量部に対する重量部(C)と前記第2スラリー中の第2バインダーの第2金属粉末100重量部に対する重量部(D)の割合(C/D)が0.01~20の範囲内であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の金属フォームの製造方法。【請求項10】前記第1スラリー中の第1分散剤の第1金属粉末100重量部に対する重量部(E)と前記第2スラリー中内(当審注:「第2スラリー中」の誤記と解される。)の第2分散剤の第2金属粉末100重量部に対する重量部(F)の割合(E/F)が0.01~20の範囲内であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の金属フォームの製造方法。【請求項11】前記第2金属フォーム前駆体を基準として前記第2金属フォーム前駆体の重力方向に前記第1金属フォーム前駆体が存在することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の金属フォームの製造方法。」
2 異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第4号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~11に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(進歩性)
ア 申立理由1-1
本件発明1~11は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証、及び甲第3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
イ 申立理由1-2
本件発明1~11は、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
以下のア~ウのとおり、本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載された「本出願は、金属フォームの気孔サイズ及び気孔度などの特性を自由に制御することができ、従来は製造が難しかったフィルム又はシート状、特に、薄い厚さのフィルム又はシート状にも金属フォームを製造することができ、機械的強度などその他物性も優れた金属フォームを製造することができる方法を提供することを一つの目的とする。また、本出願では、単一金属フォームの内部で気孔特性が変化するように制御できる製造方法を提供することをまた一つの目的とする。」(段落【0004】)との課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものでない。
したがって、本件発明1~11について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
ア 本件発明が有する構成要件のいずれにより、「金属フォームの気孔サイズ及び気孔度などの特性を自由に制御することができ、従来は製造が難しかったフィルム又はシート状、特に、薄い厚さのフィルム又はシート状にも金属フォームを製造することができ、機械的強度などその他物性も優れた金属フォームを製造することができる方法を提供する」という課題を解決しているかが認識し難く、また、発明の詳細な説明の実施例1~3からは、第1金属粉末が銅(Cu)粉末であり、第2金属粉末がCu粉末又はニッケル(Ni)粉末であり、かつ、それらの各平均粒径が約10~20μm程度である場合に、金属フォームの気孔度を制御できると推察されるのみであり、本件発明において、第1金属粉末、及び第2金属粉末が、Cu若しくはNi粉末以外の金属粉末であり、かつ、各平均粒径が約10~20μmである場合(当審注:「各平均粒径が約10~20μm以外である場合」の誤記と解される。)には、金属フォームの気孔度を制御できるか不明である(当審注:「第1金属粉末、及び第2金属粉末が、Cu若しくはNi粉末以外の金属粉末であるか、又は、第1金属粉末、及び第2金属粉末の各平均粒径が約10~20μm以外である場合には、金属フォームの気孔度を制御できるか不明である。」との主旨を示唆する主張と認められる。)。
イ 発明の詳細な説明の実施例1~3では、得られた金属フォームの機械的強度(引張強度)が測定されておらず、本件発明の規定からは少なくとも機械的強度が優れた金属フォームを提供することができるか不明である。
ウ 本件発明が有する構成要件のいずれにより、「単一金属フォームの内部で気孔特性が変化するように制御できる製造方法を提供する」との課題を解決しているかが認識し難い。また、発明の詳細な説明の実施例1~3からは、第1金属粉末がCu粉末であり、第2金属粉末がCu粉末又はNi粉末であり、それらの各平均粒径が約10~20μm程度である場合に、単一金属フォームの内部で気孔特性が変化するように制御できているものと推察されるのみであり、本件発明において、第1金属粉末、及び第2金属粉末が、Cu粉末若しくはNi粉末以外の金属粉末であるか、又は各平均粒径が約10~20μm程度の範囲外である場合に、単一金属フォームの内部で気孔特性が変化するように制御できるか不明である。
(3)申立理由3(明確性要件)
以下のア及びイのとおり、本件発明1、3は、明確でない。
また、このことは、本件発明1、3のいずれかを直接的又は間接的に引用する本件発明2~11についても同様である。
したがって、本件発明1~11について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同発明に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
ア 申立理由3-1
本件発明1は、「第1金属フォーム前駆体」及び「第2金属フォーム前駆体」を作製するためのプロセスが具体的に規定されておらず、「第1金属フォーム前駆体」及び「第2金属フォーム前駆体」が、いかなる形態であるものかを特定することができないから、明確でない。
イ 申立理由3-2(取消理由Aとして採用)
本件発明3に記載の「前記第1金属粉末または前記第2金属粉末は、平均粒径が0.1μm~200μmの範囲内である」について、発明の詳細な説明には、平均粒径を測定するための具体的な測定方法や測定装置が記載されていないため、本件特許の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を参酌しても、「平均粒径」の意味内容を理解することができない。
<証拠方法>
3 取消理由の概要
請求項3~11に係る特許に対し、当審が申立理由3-2を採用して、令和 4年 2月 7日付けで特許権者に通知した取消理由Aは、次のとおりである。
取消理由A(明確性要件)
本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項3には、「前記第1金属粉末または前記第2金属粉末は、平均粒径が0.1μm~200μmの範囲内であること」と記載されている。
一方、本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明には、「平均粒径」について、「前記金属粉末(Metal powder)のサイズも目的とする気孔度や気孔サイズなどを考慮して選択されるものであって、特に制限されるものではないが、例えば、前記金属粉末の平均粒径は、約0.1μm~約200μmの範囲内にあってもよい」ことが記載され(段落【0016】)、「上記で金属粉末の平均粒径は、公知の粒度分析方式によって求められ、例えば、前記平均粒径は、いわゆるD50粒径であってもよい。」ことが記載されている(段落【0017】)。また、実施例1~3では、金属粉末として、平均粒径(D50粒径)が約10~20μm程度である銅粉末やニッケル粉末を用いることも記載されている(段落【0065】~【0067】)。
ここで、「平均粒径」の測定方法には、レーザー回折法、投影法、沈降法、電気抵抗法、電子顕微鏡法、比表面積法、篩通過法等が挙げられる。また、測定方法によっては、個数基準、面積基準、体積基準という異なる基準を用いて測定することが可能であり、これら3種のうちいずれの基準を採用して測定するかによって、「平均粒径」が異なることが技術常識といえる(必要であれば、荒川正文、粒度測定入門、粉体工学会誌、1980年、Vol17、No.6、p.299-307参照)。また、粉末の分野においては、「粒子径(代表径)は、測定原理に対応して定義されているように、粒径測定法と密接に関係していることが認められ、測定方法が決まれば代表径が定まるという関係にある。したがって、明細書中に平均粒子径の定義(算出方法)を記載するか、又はその測定方法に関する記載があれば、特定の数値範囲に属する平均粒子径のものを示すものとして、その特定に欠けるところはない」(知財高裁平成20年(ネ)第10013号判決)といえる。
しかしながら、上記のとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明には、「平均粒径」が「いわゆるD50粒径」であるという記載以上の測定方法及び基準についての記載はないし、粉末の分野において、「平均粒径」の測定に際し、特定の測定方法及び基準を採用するという共通の認識があるとも認められない。そうすると、請求項3で特定されている「平均粒径」がいかなる測定方法及び基準を用いたものを意味しているのか不明である。
したがって、本件特許の請求項3及び請求項3を引用する請求項4~11の記載は、本件発明3~11について、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件特許の請求項3~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満足していない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
4 取消理由についての当審の判断
当審は、令和 4年 5月17日に提出された意見書における特許権者の主張を踏まえて検討した結果、上記3の取消理由Aは解消したと判断したところ、その理由は以下のとおりである。
(1)平均粒径の意味について
本件明細書等には、「平均粒径」が「いわゆるD50粒径」であるという記載以上の測定方法及び基準についての記載はない。しかしながら、令和 4年 5月17日提出の意見書における「金属粉末の平均粒径(D50粒径)は、ISO-13320規格に準拠してMalvern社のMASTERSIZER3000装置でレーザー回折法を利用して測定しました。その原理は、周知のように、溶媒中の分散された金属粉末により入射されたレーザーが散乱するようになり、散乱されるレーザーの強度と方向性は、金属粉末の大きさによって変わるものであるから、これをMie理論を用いて分析し、分析を通じて分散された金属粉末と同一の体積を有した球の直径への換算を通じて分布度を求め、分布度の中間値であるD50値(体積基準粒度分布曲線において体積累積量の50%に該当する粒径)を求め、それを平均粒径とするものです。上記のような測定方法は、当業者、すなわち、金属フォームを製造する技術者にとっては、きわめて一般的な測定方法です。」との特許権者による主張を参酌すれば、本件発明3における「平均粒径」とは、「ISO-13320規格に準拠してMalvern社のMASTERSIZER3000装置でレーザー回折法を利用して測定」されたD50粒径(体積基準粒度分布曲線において体積累積量の50%に該当する粒径)であって、「金属フォームを製造する技術者にとっては、きわめて一般的な測定方法」により測定されたものと理解することができるものである。
してみれば、本件発明3における「平均粒径」の意味は、第三者に不測の不利益を与えるほどに明確でないとまではいえない。
以上のことから、本件発明3の「平均粒径」の意味は明確である。
(2)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第37ページ第4-23行において、本件特許の明細書に、平均粒径の「測定方法」、「粒度分析の方法」及び「測定装置の名称」が記載されていないことに基づき、平均粒径の意味が不明確であると主張している。しかしながら、本件発明3の「平均粒径」が、上記(1)で説明されるとおりのD50粒径と理解できるとの前提に立てば、申立人の上記主張は、本件発明3における「平均粒径」の意味が明確であるとの当審の判断を左右するものとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許の請求項3及び請求項3を引用する請求項4-11の記載は、本件発明3~11について、特許を受けようとする発明が明確であるから、同発明に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
5 取消理由としなかった異議申立理由について
(1)申立理由1(進歩性)について
ア 各甲号証の記載、及び甲号証に記載された発明
(ア)甲第1号証の記載、及び甲第1号証に記載された発明
a 甲第1号証の記載
本件特許についての出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2007-151805号公報)には、「医療用デバイスおよび医療用デバイスの表面改質方法」について、以下の記載がある(下線は当審が付与。以下同じ。)。
(a)「【0007】本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、生体組織との優れた結合性を有する医療用デバイス表面改質用部材である金属性多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を、高い接合強度でもって医療用デバイス本体の表面に接合することができることにより、生体組織との結合性に優れた医療用デバイスを提供することを目的とする。また、前記金属製多孔体を、様々な表面形状を有する医療用デバイス本体の表面に容易に接合することができる医療用デバイスの表面改質方法を提供することを目的とする。」
(b)「【0009】本発明の第二の態様は、金属粉を含有するスラリーをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより金属製多孔質薄板を製造しておき、該金属製多孔質薄板を多層化することにより金属製多孔体を製造し、該金属製多孔体を、医療用デバイス本体の少なくとも一部の表面形状に沿わせるように変形させて接合することを特徴とする医療用デバイスの表面改質方法である。さらに、前記金属製多孔質薄板は、金属粉と発泡剤を含有するスラリーをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含むことが好ましい。また、本発明においては、前記スラリーをドクターブレード法によりシート状に成形することが好ましい。また、本発明においては、前記接合は拡散接合であることが好ましい。」
(c)「【0014】本発明における金属製多孔質薄板は、金属粉を含有するスラリーを成形、加工することにより製造される。スラリー(以下、スラリーSということがある。)は、少なくとも金属粉を含有し、好ましくは発泡剤、水溶性樹脂バインダーおよび水を含有し、必要に応じて可塑剤や有機溶媒などのその他の成分を含有する。【0015】・・・金属粉はスラリーSの主原料であり、その含有量は、スラリーS中、30~80質量%であることが好ましい。より好ましくは、後述する金属製多孔質薄板を製造する工程において、発泡プロセスが無い場合は50~80質量%であり、発泡プロセスが有る場合は40~70質量%である。該範囲であれば、金属製多孔質薄板の最終形状(開孔径、空隙率、厚み等)の制御が容易であり、また金属の種類やスラリーS中の他の成分(発泡剤など)とのバランスをとることができる。」
(d)「【0018】また、前記スラリーSは、水溶性樹脂バインダーを含有することが好ましい。水溶性樹脂バインダーを含有することにより、金属製多孔質薄板の骨格がより良好に形成される。水溶性樹脂バインダーとしては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール等が好ましく用いられる。これら水溶性樹脂バインダーは、1種を単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。また、前記スラリーSは、水を含有することも好ましい。その他の成分としては、必要に応じて、例えばグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等の可塑剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の有機溶媒等を用いることができる。」
(e)「【0023】・・・本発明に用いられる金属製多孔質薄板は、上記のように空隙率が高いが、高い強度を有するものである。これは、図1に示すように、金属製多孔質薄板が、金属粉同士が気孔25aの表面に連続的に焼結されることにより、中実構造の金属製の骨格が形成されるためであると考えられる。さらに、このことにより、本金属製多孔質薄板は、高い強度とともに良好な変形性も兼ね備える。これにより、本金属製多孔質薄板は、医療用デバイス本体の表面形状に沿うように変形させやすく、医療用デバイス本体との密着性が高まることにより、強固に接合することができる。」
(f)「【0032】図3に、金属製多孔質薄板を製造する方法の一例を示す。この図においては、ドクターブレード法が用いられており、また、発泡プロセスを有する例が示されている。スラリーSは、少なくとも金属粉を含有するスラリーであり、好ましくは発泡剤、水溶性樹脂バインダーおよび水を用い、必要に応じて可塑剤や有機溶媒などのその他の成分を含有する。そして、このスラリーSを薄くシート状に成形する。この成形方法としては、所望とするシート状に成形可能であれば特に制限されるものではなく、中でもドクターブレード法を用いることが好ましい。例えば、図3に示すグリーンシート製造装置10を用いることにより、前記スラリーSを薄くシート状に成形することができる。」
(g)「【0034】・・・図4は、二層の金属製多孔質薄板からなる金属製多孔体を形成する方法の一例を示した図である。グリーンシート製造装置10において、まず、スラリーSが貯蔵されたホッパー11から、キャリアシート12上にスラリーSが供給され、移動するキャリアシート12とドクターブレード14との間で延ばされ、第一スラリー層S1が成形される。続きを表示(全11行)次に、第一スラリー層S1の上に、配合割合等が異なるスラリーSaがホッパー11aから供給される。そして、ドクターブレード14aにより、所要の厚さの第二スラリー層S2が第一スラリー層S1上に成形される。・・・【0035】次いで、成形されたスラリーSは、さらにキャリアシート12によって搬送され、加熱処理が行われる。図3においては、発泡槽15および加熱炉16を順次通過する。・・・このようにして、キャリアシート12上に形成された発泡体を、加熱炉16において、そのまま大気中や不活性ガス雰囲気中などで、100℃以下の温度により水分を乾燥させることによって成形体(以下、グリーンシートGということがある。)が形成される。【0036】このグリーンシートGを、キャリアシート12から剥離し、350~600℃の温度範囲で、1~10時間程度保持して、発泡孔構造を維持したままスラリーS中に含有される金属粉以外の成分を分解脱脂し、金属粉が凝集した骨格から形成される多孔質金属脱脂体とし、さらに非酸化性雰囲気中で、1100~1350℃の温度範囲で、1~10時間程度保持することにより、金属粉どうしが焼結した金属製多孔質焼結シートが得られる。」
b 甲第1号証に記載された発明
(a) 上記a(g)に摘記した記載のとおり、甲第1号証には、「グリーンシート製造装置10において、まず、スラリーSが貯蔵されたホッパー11から、キャリアシート12上にスラリーSが供給され、移動するキャリアシート12とドクターブレード14との間で延ばされ、第一スラリー層S1が成形される。次に、第一スラリー層S1の上に、配合割合等が異なるスラリーSaがホッパー11aから供給される。そして、ドクターブレード14aにより、所要の厚さの第二スラリー層S2が第一スラリー層S1上に成形される。」(段落【0034】)と記載されている。
(b) そして、上記a(b)、(c)及び(f)に摘記した記載から、甲第1号証記載の上記スラリーは、少なくとも主原料として金属粉を含有するものであり、また上記(b)及び(f)に摘記した記載から、グリーンシート製造装置10において、ドクターブレード14、14aにより成形された上記第一スラリー層S1、及び第二スラリー層S2は、いずれも「シート状」の態様を有すると理解することができる。
(c) 加えて、上記a(g)に摘記した記載から、甲第1号証には、成形された上記第一スラリー層S1、及び上記第二スラリー層S2を含むスラリーSから、発泡槽15により3次元網目状の骨格を形成し、加熱炉16により乾燥し、更に分解脱脂して多孔質金属脱脂体とした後、非酸化性雰囲気中、1100~1350℃の温度範囲で1~10時間程度保持することにより、金属粉どうしが焼結した金属製多孔質焼結シートとすることが記載されている。
(d) これらの記載と、上記a(a)~(g)に摘記した記載からみて、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「少なくとも主原料として金属粉を含有するスラリーSがキャリアシート12上に供給され、移動するキャリアシート12とドクターブレード14との間で延ばされ、シート状の第一スラリー層S1が成形され、次に、第一スラリー層S1の上に、前記スラリーSとは配合割合が異なるスラリーSaが供給され、ドクターブレード14aにより、所要の厚さのシート状である第二スラリー層S2が第一スラリー層S1上に成形され、成形された上記第一スラリー層S1及び上記第二スラリー層S2を含むスラリーSにから、発泡槽15により3次元網目状の骨格を形成し、加熱炉16により乾燥し、更に分解脱脂して多孔質金属脱脂体とした後、非酸化性雰囲気中、1100~1350℃の温度範囲で1~10時間程度保持することにより、金属粉どうしが焼結した金属製多孔質焼結シートとすることを含む、金属製多孔体を形成する方法。」(以下、「甲1発明」という。)
(イ)甲第2号証の記載、及び甲第2号証に記載された発明
a 甲第2号証の記載
本件特許についての出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2014-65968号公報)には、「多孔質チタン薄膜およびその製造方法」について、以下の記載がある。
(a)「【0012】・・・本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、40μm以下、空隙率1~65%の多孔質チタン薄膜を安価に製造する方法を提供するものである。【課題を解決するための手段】【0013】本発明の多孔質チタン薄膜の製造方法は、以下の(a)、(b)、(c)、(d)の工程を含むプロセスにより、厚さ40μm以下、空隙率1~65%の多孔質チタン薄膜を製造することを特徴とする。(a)基材上に、水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末を含むチタン原料、バインダー成分、溶剤成分を含むペースト状組成物を塗工・成膜後、溶剤成分を揮発させる乾燥させ乾燥成形体を得る成形体製造工程(b)乾燥成形体を基材から剥離する剥離工程(c)剥離した乾燥成形体を加熱し、バインダー成分を除去する脱バインダー工程(d)脱バインダー後の乾燥成形体を700℃~1100℃にて焼結し、多孔質チタン薄膜を得る焼結工程」
(b)「【0026】また、チタン原料として、多孔質チタン薄膜の空隙率、膜厚を調整するために、金属チタン粉末と水素化チタン粉末の混合粉末を用いることができる。金属チタン粉末の粒径は、最大粒径が20μm以下、平均粒径が10~15μmの微細粉が好ましい。金属チタン粉末と水素化チタン粉末の混合比率は、任意に設定することが可能であるが、金属チタン粉末及び水素化チタン粉末の混合物中の水素化チタン粉の割合が質量比で0.1~100%であることが好ましい。さらに好ましくは、後述する脱水素工程における脱水素のしやすさの点から、0.1~30%であり、さらに好ましくは、0.1~10%である。」
(c)「【0030】なお、上記の最大粒径、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製LA-300)によって求めたものである。【0031】バインダー成分は、メチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、エチルセルロース系、アクリル系、ポリビニルブチラール系など、溶剤成分は、水、エタノール、トルエン、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。また、必要に応じて、可塑材(グリセリン、エチレングリコール)や界面活性材(アルキルベンゼンスルホン酸塩)、発泡剤(炭酸水素アンモニウム)をペースト状組成物へ添加しても良い。」
(d)「【0033】多孔質チタン薄膜の空隙率は、上記のチタン原料の粒径、チタン原料の種類、バインダーや発泡剤等の成分と添加量、後述する焼結温度により調整することができる。」
(e)「【0036】塗工・成膜方法としては、ドクターブレード法などの粘性組成物を基材上に直接塗工し成膜する方法、リップコーティング法などの粘性組成物を基材上に押出しながら塗工し成膜する方法、オフセット印刷、グラビア印刷などの粘性組成物を転写塗工し成膜する方法のいずれの方法を利用してもよい。例えば、リエアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、スロットダイコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カーテンコーター、カレンダコーター、押出コーター、バーコーター等を用いることができる。中でも、連続的に成膜と乾燥を実施することができるドクターブレード法が好ましい。」
(f)「【0061】[実施例1]最大粒径が8μm、平均粒径が5μm、酸素含有量0.22%、炭素含有量0.004%のTiH2粉に、ポリビニルブチラール、イソプロピルアルコールを混合し、粘度が1200mPa・Sになるよう調整し、ペースト状組成物を作製した。このペースト状組成物を、スロットダイヘッド式コーティングマシーンでPETシートにコーティングし、成形体を作製した。このとき、ペーストの吐出量とPETの走行速度を調整して、成形体厚みが30μmになるように調整した。また、成形体は150℃で乾燥処理を行い、成形体に含まれるイソプロピルアルコールは完全に除去し、乾燥成形体を得た。」
b 甲第2号証に記載された発明
(a) 上記a(a)に摘記した記載のとおり、甲第2号証には、「多孔質チタン薄膜の製造方法」として、「(a)基材上に、水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末を含むチタン原料、バインダー成分、溶剤成分を含むペースト状組成物を塗工・成膜後、溶剤成分を揮発させる乾燥させ乾燥成形体を得る成形体製造工程」、「(b)乾燥成形体を基材から剥離する剥離工程」、「(c)剥離した乾燥成形体を加熱し、バインダー成分を除去する脱バインダー工程」及び「(d)脱バインダー後の乾燥成形体を700℃~1100℃にて焼結し、多孔質チタン薄膜を得る焼結工程」が記載されている。
(b) また、上記a(c)に摘記した記載のとおり、甲第2号証には、上記溶剤成分として、「水、エタノール、トルエン、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール、シクロヘキサン、メチルエチルケトン」を用いることができることも記載されている。
(c) これら(a)及び(b)の記載事項と、上記a(a)~(f)に摘記した記載からみて、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「(a)基材上に、水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末を含むチタン原料、バインダー成分、溶剤成分を含むペースト状組成物を塗工・成膜後、溶剤成分を揮発させる乾燥させ乾燥成形体を得る成形体製造工程と、(b)乾燥成形体を基材から剥離する剥離工程と、(c)剥離した乾燥成形体を加熱し、バインダー成分を除去する脱バインダー工程と、(d)脱バインダー後の乾燥成形体を700℃~1100℃にて焼結し、多孔質チタン薄膜を得る焼結工程と、を含む多孔質チタン薄膜の製造方法であって、前記溶剤成分として、水、エタノール、トルエン、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール、シクロヘキサン又はメチルエチルケトンのいずれかを用いる、多孔質チタン薄膜の製造方法。」(以下「甲2発明」という。)
(ウ)甲第3号証の記載
本件特許についての出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特表2008-506523号公報)には、「特に内燃機関の排ガスシステムにおける粒子フィルタのためのフィルタ構造体の少なくとも1つの領域を製造するための方法」について、以下の記載がある。
a「【0010】
したがって本発明の課題は、冒頭で述べた形式の方法を改良して、正確に規定された特性を有する、担持構造体を使用せずに廉価に製造することができるフィルタ装置を提供することである。」
b「【0023】
さらに、微細なまたは粗大な焼結金属粉末をそれぞれ異なって含有しているシートは、完成したフィルタシートの細孔構造に影響を及ぼすために互いに組み合わせることができる。焼結時には、粗大な粉末と微細な粉末とが、互いに異なるように結合しがちである。同様に多大な影響を、シートのいわゆるグリーン密度は有している。すなわち粒子がどの程度密に互いに接していて、どの程度迅速に、どの程度良好に互いに結合するのかが重要である。2つのシートを互いに積層することも可能である。2つのシートの一方のシートは、その組成に基づき特に良好に構造化することができ、他方のシートは機械的に特に安定している。これによって、製造プロセスにおける確実な処理が可能になる。このことは、シート製造において使用された有機体、すなわち使用されたポリマバインダおよび可塑化を促進する添加剤等により規定される。」
c「【0035】
既述したように、シートの機械的な安定性は、適切なジオメトリを介して改善することができる。したがって、たとえば高い表面積を有すると同時に高い機械的な安定性を有する焼結金属シートが、以下に記載した「ワッフル型構造」を製造することによって製造可能である。
【0036】
まず、約50~60μm、有利には53μmの粒度を有する焼結金属粉末26と、約2~8重量%のアクリレートバインダと、たとえばブチルアセテートまたはアルコール30のような揮発性の有機質の溶剤とを装置32によって処理し、ドクタブレード法により処理することのできるスラリ34を形成する。このスラリ34は、薄膜ドクタブレード装置36によって100~500μm、有利には450μmよりも厚い焼結金属グリーンシート38に加工される。続いてこのシートはたとえば、図8に示した圧印加工板56によって構造化される。このためには、工具は約80℃に加熱され、グリーンシート38が挿入され、工具が圧力下で閉じられる。工具の開放後に、グリーンシート38は再び取り出され、今や圧印加工板の構造を受け取ったことになる。続いて素材は炉44内で焼結される。この場合、3次元的に構造化されたシート38のジオメトリは完全に維持されたままである。この工具の場合、規定のシート38の代わりに別のジオメトリ(ビレット、大まかに分割された板、平板等)の焼結金属粉末を、熱塑性的な化合物58として使用することも可能である。
【0037】
以下の例には、勾配のあるグリーンシートもしくは多層シートの使用により、高い表面積を有する焼結金属シートの製造例が記してある。
【0038】
たとえば、50μmの粒度を有する焼結金属粉末26と、約2~8重量%のアクリレートバインダと、たとえばブチルアセテートまたはアルコール30のような揮発性の有機質の溶剤とを装置32によって処理し、ドクタブレード法により処理することのできるスラリ34をまず形成する。このスラリ34は、薄膜ドクタブレード装置36によって、100~500μm、有利には200μmよりも薄い厚さの焼結金属グリーンシート38に加工される。同様に、たとえば30μmと80μmとの粒度を有する粉末によっても実施される。
【0039】
別のグリーンシートの変化形は、より高い有機物割合(たとえば6~20重量%のアクリルバインダ)を有するシート組成体であるか、または焼結プロセスにおいて完全に揮発する孔を形成する添加剤を含んだシートである。それぞれ異なる層厚さを有するシートも、たとえば、規定された粉末混合物(密な単峰性または二峰性または三峰性の粒度分布)または異なる粉末タイプ(たとえば球状の、丸味を帯びた粉末タイプ、非規則的な滴状の粉末タイプ、フレーク状の粉末タイプ等)のシート製造時の使用と同様に可能な変化形である。
【0040】
このようなシート変化形38は、種々異なる形式で互いに組み合わされて多層グリーンシート39を形成することができる。したがって、適切な焼結プロフィールにより、焼結されたフィルタシート46のポロシティおよび表面特性が適切に調整され得るか、もしくは規定され得る。したがって、たとえば種々異なるシートの変化形の積層により、焼結後に、マクロ細孔の面とミクロ細孔の面とを有するフィルタシートが得られるか、またはそれぞれ異なるグリーン密度のシートを使用する際、焼結後に、極めて著しい表面粗さを有するフィルタシートが得られる。なぜならば、比較的僅かなグリーン密度を有する面は、焼結時に不均一に収縮し、多孔性の表面構造が形成されるからである。どちらの場合も、勾配のあるポロシティと高い表面積とを有する焼結金属シートが得られる。」
(エ)甲第4号証の記載
本件特許についての出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開平10-251711号公報)には、「多孔質体の製造方法」について、以下の記載がある。
a「【0009】従って、本発明の多孔質体の製造方法は、焼結可能な原料粉末、水溶性樹脂結合剤及び界面活性剤を含む発泡性スラリーを板状に複層成形し、この複層成形体を乾燥、焼成することを特徴とする多孔質体の製造方法を提供する。」
b「【0020】これらの第1スラリー溜21に第1発泡性スラリーS1を入れ、第2スラリー溜22には第1発泡性スラリーS1と異なる組成の第2発泡性スラリーS2を入れる。スチールベルト1を搬送させると、第1発泡性スラリーS1は、第1ドクターブレード25とスチールベルト1の間隙から押し出されて所定の厚さを持った第1段板状成形体4-1に成形され、この第1段板状成形体4-1はスチールベルト1に運ばれて第2スラリー溜22の第2発泡性スラリーS2の下を移動し、第2ドクターブレード26と第1成形体4-1との間隙から押し出されてくる第2段成形体4-2が第1段成形体4-1の上に積層され、これにより2段の複層成形体4Aが得られる。上記発泡性スラリーは、もともと粘度が高く、また、ドクターブレードにより板状成形体となるときにある程度発泡し粘度が上昇するため、積層した成形体とその下の成形体とはほとんど混合せず、複層成形体となる。」
イ 申立理由1-1(進歩性;甲第1号証を主引用例とした場合)について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比・判断
a 対比
(a)甲1発明の「金属製多孔体を形成する方法」であることは、本件発明1の「金属フォームの製造方法」であることに相当する。
(b)甲1発明の「スラリーSがキャリアシート12上に供給され、移動するキャリアシート12とドクターブレード14との間で延ばされ、シート状の第一スラリー層S1が成形され、」は、本件発明1の「第1スラリーを用いて第1金属フォーム前駆体を形成するステップ」に相当する。また、甲1発明のスラリーSが「少なくとも主原料として金属粉を含有する」点は、本件発明1の第1スラリーが「第1金属粉末」を含む点と共通する。
(c)甲1発明の「次に、第一スラリー層S1の上に、前記スラリーSとは配合割合が異なるスラリーSaが供給され、ドクターブレード14aにより、所要の厚さのシート状である第二スラリー層S2が第一スラリー層S1上に成形され、」は、前記スラリーSaが「スラリーSとは配合割合」、すなわち組成「が異なる」ことが特定されたものであるから、本件発明1の「前記第1スラリーとは異なる組成を有する第2スラリーを用いて前記第1金属フォーム前駆体上に第2金属フォーム前駆体を形成するステップ」に相当する。
(d)甲1発明の、成形された上記第一スラリー層S1及び上記第二スラリー層S2を含むスラリーSから、発泡槽15により3次元網目状の骨格を形成し、加熱炉16により乾燥し、更に分解脱脂して多孔質金属脱脂体とした後、「非酸化性雰囲気中、1100~1350℃の温度範囲で1~10時間程度保持することにより、金属粉どうしが焼結した金属製多孔質焼結シートとする」ことは、前記第一スラリー層S1及び第二スラリー層S2を含むスラリーSが「金属粉どうしが焼結した金属製多孔質焼結シート」となるよう焼結することを含むことは明らかであるから、本件発明1の「前記第1金属フォーム前駆体及び前記第2金属フォーム前駆体を焼結するステップ」を含む点に相当する。
(e)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「第1金属粉末を含む第1スラリーを用いて第1金属フォーム前駆体を形成するステップと、前記第1スラリーとは異なる組成を有する第2スラリーを用いて前記第1金属フォーム前駆体上に第2金属フォーム前駆体を形成するステップと、前記第1金属フォーム前駆体及び前記第2金属フォーム前駆体を焼結するステップと、を含む、金属フォームの製造方法。」
(f)一方、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、前記第1スラリーが、「第1金属粉末、第1バインダー、及び第1分散剤からなる」ことが特定され、かつ、「前記第1分散剤・・・は、アルコールである」と特定されており、すなわち、第1スラリーが、第1金属粉末、第1バインダー及び第1分散剤であるアルコールからなることが特定されているのに対し、甲1発明のスラリーSは、「少なくとも主原料として金属粉を含有する」ものであり、第1金属粉末、第1バインダー、及び第1分散剤であるアルコールからなるものか不明な点。
<相違点2>
本件発明1は、第2スラリーが、「第2金属粉末、第2バインダー、及び第2分散剤からなり、」と特定され、かつ、「・・・前記第2分散剤は、アルコールである」と特定されており、すなわち、第2スラリーが、第2金属粉末、第2バインダー及び第2分散剤であるアルコールからなることが特定されているのに対し、甲1発明のスラリーSaは、「スラリーSとは配合割合が異なる」ものであるが、第2金属粉末、第2バインダー、及び第2分散剤であるアルコールからなるものか不明な点。
b相違点についての判断
事案に鑑みて、まず上記<相違点1>について、以下検討する。
(a)本件発明1の第1スラリーは、第1金属粉末、第1バインダー及び第1分散剤であるアルコールのみからなるものと解される。
これに対し、甲第1号証には、スラリーSに含有させる金属粉以外の好ましい成分として、水溶性樹脂バインダー及び水が記載されており、また、必要に応じて含有させることができるその他の成分として、メタノール、エタノール、及びイソパノール等の有機溶媒(以下「アルコール系有機溶媒」という。)が記載されている(段落【0018】)。
しかしながら、甲第1号証の記載を参照しても、上記スラリーSを形成するにあたり、好ましい含有成分として挙げられた水溶性樹脂バインダー及び水から、水を除いて水溶性樹脂バインダーのみを採用し、その上で、必要に応じて含有させることができるその他の成分として挙げられたに過ぎない上記アルコール系有機溶媒も採用して、上記スラリーSを、金属粉、水溶性樹脂バインダー、分散剤であるアルコール系有機溶媒のみからなるものとする動機付けを見いだせない。
(b)甲第2号証には、水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末を含むチタン原料と、バインダー成分と、溶剤成分と、を含むペースト状組成物の乾燥成形体を得た後、当該乾燥成形体を焼結して多孔質チタン薄膜を得ることを含む、多孔質チタン薄膜の製造方法が記載されている(段落【0013】)。
また、甲第2号証には、「多孔質チタン薄膜の空隙率は、上記のチタン原料の粒径、チタン原料の種類、バインダーや発泡剤等の成分と添加量、後述する焼結温度により調整することができる。」(段落【0033】)との事項、及び「溶剤成分は、水、エタノール、トルエン、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。」(段落【0031】)との事項も記載されている。
しかしながら、甲第2号証には、上記ペースト状組成物として、水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末を含むチタン原料、バインダー成分、及びアルコールのみからなるものが好ましいことが記載されておらず、またアルコールを上記ペースト状組成物の分散剤として用いることも記載されていない。
(c)甲第3号証には、焼結金属粉末と、アクリレートバインダと、揮発性の有機質の溶剤と、を含むスラリをグリーンシートに加工した後、別のグリーンシートと積層して多層グリーンシートを形成し、当該多層グリーンシートを焼結して焼結金属シートを製造する方法が記載されている(段落【0035】-【0040】)。
また、甲第3号証には、上記揮発性の有機質の溶剤としてブチルアセテートまたはアルコールを用いることも記載されている(段落【0036】、【0038】)。
しかしながら、甲第3号証には、上記スラリとして、焼結金属粉末、アクリレートバインダ、及びアルコールのみからなるものが好ましいことが記載されておらず、またアルコールを上記スラリの分散剤として用いることも記載されていない。
(d)そして、甲第2号証及び甲第3号証の記載を参照しても、甲1発明において、スラリーSを金属粉、バインダー及び分散剤であるアルコールのみからなるものとする動機付けを見いだせない。
(e)申立人の主張について
この点、申立人は、特許異議申立書の第17ページ第12行~第18ページ第1行において、甲第2号証及び甲第3号証には、成形後、焼結して金属フォームを製造可能なスラリーを金属粉末、バインダ、及び溶剤であるアルコールの3成分から構成できることが記載されていることから、甲1発明におけるスラリーSを金属粉、バインダー、及び第1分散剤であるアルコールからなるものとすることが当業者にとって容易であるとの主旨の主張をしている。
しかしながら、上記b(b)及び(c)で検討したように、甲第2号証及び甲第3号証には、スラリーを金属粉末、バインダー、及び分散剤であるアルコールのみから構成することが好ましいことは記載されていない。そして、このような甲第2号証及び甲第3号証の記載から、甲1発明においてスラリーSを形成するにあたり、好ましい含有成分として挙げられた水溶性樹脂バインダー及び水のうち、水溶性樹脂バインダーのみを採用し、その上で、必要に応じて含有させることができるその他の成分として挙げられたに過ぎない上記アルコール系有機溶媒も採用して、上記スラリーSを、金属粉、水溶性樹脂バインダー、分散剤であるアルコール系有機溶媒のみからなるものとすることが動機付けられるとはいえない。
(f)小括
以上によれば、甲1発明において、スラリーSを金属粉、バインダー及び分散剤であるアルコールからなるものとすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)本件発明2~11について
本件発明2~11は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~11についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立理由1-2(進歩性;甲第2号証を主引用例とした場合)について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比・判断
a 対比
(a)甲2発明の「多孔質チタン薄膜の製造方法」は、本件発明1の「金属フォームの製造方法」であることに相当する。
(b)甲2発明の「(a)基材上に、水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末を含むチタン原料、バインダー成分、溶剤成分を含むペースト状組成物を塗工・成膜後、溶剤成分を揮発させる乾燥させ乾燥成形体を得る成形体製造工程と、(b)乾燥成形体を基材から剥離する剥離工程と、(c)剥離した乾燥成形体を加熱し、バインダー成分を除去する脱バインダー工程」は、本件発明1の「第1スラリーを用いて第1金属フォーム前駆体を形成するステップ」に相当する。
また、甲2発明のペースト状組成物が、「水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末を含むチタン原料」を含む点は、本件発明1の第1スラリーが「第1金属粉末」を含む点と共通する。
(c)甲2発明の「(d)脱バインダー後の乾燥成形体を700℃~1100℃にて焼結し、多孔質チタン薄膜を得る焼結工程」は、本件発明1の「前記第1金属フォーム前駆体」を焼結するステップ」に相当する。
(d)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「第1金属粉末を含む第1スラリーを用いて第1金属フォーム前駆体を形成するステップと、前記第1金属フォーム前駆体を焼結するステップと、を含む、金属フォームの製造方法。」
(e)一方、本件発明1と甲2発明とは、次の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1は、前記第1スラリーが、「第1金属粉末、第1バインダー、及び第1分散剤からなる」ことが特定され、かつ、「前記第1分散剤・・・は、アルコールである」と特定されており、すなわち、第1スラリーが、第1金属粉末、第1バインダー及び第1分散剤であるアルコールからなることが特定されているのに対し、甲2発明のスラリーSは、「水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末を含むチタン原料、バインダー成分、溶剤成分を含」み、「前記溶剤成分として、水、エタノール、トルエン、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール、シクロヘキサン又はメチルエチルケトンのいずれかを用いる」ものであるが、第1金属粉末、第1バインダー、及び第1分散剤であるアルコールからなるものか不明な点。
<相違点4>
本件発明1は、「第2金属粉末、第2バインダー、及び第2分散剤からなり、前記第1スラリーとは異なる組成を有する第2スラリーを用いて前記第1金属フォーム前駆体上に第2金属フォーム前駆体を形成するステップ」と、「前記第1金属フォーム前駆体及び前記第2金属フォーム前駆体を焼結するステップ」と、を含み、かつ、「前記第2分散剤は、アルコールである」ことが特定されているのに対し、甲2発明は、そのように特定されていない点。
b 相違点についての判断
事案に鑑みて、まず上記<相違点3>について、以下検討する。
(a)本件発明1の第1スラリーは、第1金属粉末、第1バインダー及び第1分散剤であるアルコールのみからなるものと解される。
これに対し、甲第2号証には、ペースト状組成物に含有させる前記溶剤成分として、水、エタノール、トルエン、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール、シクロヘキサン又はメチルエチルケトンのいずれかを用いること(段落【0031】)、及び「[実施例1] 最大粒径が8μm、平均粒径が5μm、酸素含有量0.22%、炭素含有量0.004%のTiH2粉に、ポリビニルブチラール、イソプロピルアルコールを混合し、粘度が1200mPa・Sになるよう調整し、ペースト状組成物を作製した。」(段落【0061】)との事項、及び、「多孔質チタン薄膜の空隙率は、上記のチタン原料の粒径、チタン原料の種類、バインダーや発泡剤等の成分と添加量、後述する焼結温度により調整することができる。」(段落【0033】)との事項が記載されており、多孔質チタン薄膜の空隙率を調整することが可能なペースト状組成物の配合に、水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末、バインダー成分、及びイソプロピルアルコール(イソプロパノール)を用いたこと、及び、溶剤成分として上記イソプロパノールのほか、エタノール及びターピネオールを用いることが開示されている。
しかしながら、甲第2号証には、上記ペースト状組成物として、水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末、バインダー成分、及び分散剤であるアルコールのみからなるものが好ましいことは記載されていない。
(b)してみれば、甲第2号証の記載を参照しても、ペースト状組成物を水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末、バインダー成分、及び分散剤であるアルコールのみからなるものとする動機付けを見いだせない。
(c)また、甲第1号証についてはイ(ア)b(a)において、また甲第3号証については同イ(ア)b(c)において、それぞれ検討したのと同様に、甲第1号証及び甲第3号証の記載、更には、甲第4号証の記載を参照しても、甲2発明において、ペースト状組成物を水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末、バインダー成分、及び分散剤であるアルコールのみからなるものとする動機付けを見いだせない。
(d)申立人の主張
この点について、申立人は、特許異議申立書の第27ページ第32行~第28ページ第4行において、甲2発明で溶剤成分に「・・・エタノール、・・・イソプロパノール、ターピネオール」が用いられる点が、本件発明1の「前記第1分散剤・・・は、アルコールである」点に一致すると述べている。
しかしながら、甲2発明の溶剤成分は、「水、エタノール、トルエン、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール、シクロヘキサン又はメチルエチルケトンのいずれか」であって、エタノール、イソプロパノール、ターピネオールに特定されているわけではないから、この点において本件発明1と甲2発明の両者は相違する。
そして、上記(a)、(b)で検討したとおり、甲第2号証を参酌しても、ペースト状組成物を水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末、バインダー成分、及び分散剤であるアルコールのみからなるものとする動機付けを見いだすことはできないから、甲2発明において、第1金属粉末、第1バインダー及び分散剤であるアルコールのみからなるものとすることが当業者に容易であったということはできない。
(e)小括
以上によれば、甲2発明において、ペースト状組成物を水素化チタン粉末または脱水素チタン粉末、第1バインダー、及び第1分散剤であるアルコールのみからなるものとすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)本件発明2~11について
本件発明2~11は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~11についても同様に、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証、及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 申立理由1(進歩性)のまとめ
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由2(サポート要件)について
ア 本件発明の解決しようとする課題について
本件の発明の詳細な説明の段落【0004】の記載からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「金属フォームの気孔サイズ及び気孔度などの特性を自由に制御することができ、従来は製造が難しかったフィルム又はシート状、特に、薄い厚さのフィルム又はシート状にも金属フォームを製造することができ、機械的強度などその他物性も優れた金属フォームを製造することができる方法を提供すること」、又は「単一金属フォームの内部で気孔特性が変化するように制御できる製造方法を提供すること」にあると認められる。
イ 本件発明1の金属フォームの製造方法について
本件発明1は、第1スラリーとして「第1金属粉末、第1バインダー、及び第1分散剤からなる」限り、任意の組成を有するスラリーを用いることができ、また第2スラリーとして「第2金属粉末、第2バインダー、及び第2分散剤からなり、前記第1スラリーとは異なる組成を有する」限り、任意のスラリーを用いることができる金属フォームの製造方法である。
そして、本件の発明の詳細な説明の段落【0009】に「適用できる金属粉末の例は、目的によって決まることで、特に制限されるものではない・・・」と記載され、また段落【0016】に「前記金属粉末(Metal powder)のサイズも目的とする気孔度や気孔サイズなどを考慮して選択されるものであって、特に制限されるものではない・・・前記平均粒径は、目的とする金属フォームの形態、例えば、金属フォームの厚さや気孔度などを考慮して適切な範囲を選択することができる。」と記載されているように、本件発明1の第1金属粉末及び第2金属粉末の各性状(構成材料及び平均粒径)は、目的とする金属フォームの気孔度や気孔サイズに応じて任意に選択可能なものである。また、本件の発明の詳細な説明の段落【0052】の「焼結の条件は、適用された金属前駆体の状態、例えば、金属粉末の種類及び量やバインダーや分散剤の種類及び量などを考慮して、金属粉末が連結されて多孔性構造体が形成されながら前記バインダー及び分散剤などが除去されるように制御でき、具体的な条件は特に制限されない。」との記載も併せて考慮すれば、本件発明1は、第1金属粉末及び第2金属粉末の「種類及び量」などを考慮した「焼結するステップ」を行うことにより、上記第1金属粉末及び第2金属粉末が連結されてなる、第1金属粉末及び第2金属粉末の各性状に応じた多孔性構造体の金属フォームを製造することができる方法といえ、この点において、上記アで説示した「単一金属フォームの内部で気孔特性が変化するように制御できる製造方法を提供する」との課題を解決することのできる製造方法であると認められる。
ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第34ページ第22行(4-3)~第36ページ第31行において、本件発明1がどの構成要件から課題を解決できるかが当業者にとって認識し難く、不明であるとの主張に加え、発明の詳細な説明の実施例1~3からでは、第1スラリーに用いる第1金属粉末、及び第2スラリーに用いる第2金属粉末が、Cu粉末若しくはNi粉末以外の金属粉末であるか、又は各平均粒径が約10~20μm程度の範囲外である場合に、単一金属フォームの内部で気孔特性が変化するように制御できるか不明であるとの主旨を示唆する主張をしている。
しかしながら、上記イで検討したように、本件発明1は、目的とする金属フォームの気孔度や気孔サイズに応じて任意に選択した第1金属粉末及び第2金属粉末を焼結し、当該第1金属粉末及び第2金属粉末の各性状に応じた上記多孔性構造体の金属フォームを製造することにより、上記アで説示した「単一金属フォームの内部で気孔特性が変化するように制御できる製造方法を提供する」との課題を解決するものであって、当該課題の解決にあたり、第1金属粉末及び第2金属粉末が特定の構成材料からなることや、同第1金属粉末及び第2金属粉末の平均粒径が特定の大きさであることを要しないものといえるから、上記申立人の主張は採用しない。
エ 小括
以上より、本件発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~11は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
オ まとめ
以上のとおり、本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
したがって、申立理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由3-1(明確性要件)について
ア 発明の詳細な説明の記載
本件の発明の詳細な説明には、金属フォーム前駆体について以下の事項が記載されている。
(ア)「【0007】・・・本出願で用語「金属フォーム前駆体」は、前記焼結などのように金属フォームを形成するために行う工程を経る前の構造体、すなわち、金属フォームが生成される前の構造体を意味する。また、前記金属フォーム前駆体は、多孔性金属フォーム前駆体と呼ばれるとしても、必ずしもそれ自体で多孔性である必要はなく、最終的に多孔性の金属構造体である金属フォームを形成することができるものであれば、便宜上、多孔性金属フォーム前駆体と呼ばれることがある。」
(イ)「【0029】上記のようなスラリーを用いて前記金属フォーム前駆体を形成する方式は、特に制限されない。金属フォームの製造分野では、金属フォーム前駆体を形成するための多様な方式が公知されており、本出願ではこのような方式が全て適用できる。例えば、前記金属フォーム前駆体は、適正なテンプレート(template)に前記スラリーを維持するか、あるいはスラリーを適正な方式でコーティングして前記金属フォーム前駆体を形成することができる。」
(ウ)「【0046】必要に応じて、前記金属フォーム前駆体の形成過程では適切な乾燥工程を行うことができる。例えば、上述したコーティングなどの方式でスラリーを成形した後に一定時間乾燥して金属フォーム前駆体を形成してもよい。前記乾燥は、複数の金属フォーム前駆体を形成するときに各前駆体の形成段階以後ごとに行うこともでき、・・・前記乾燥の条件は特別な制限がなく、例えば、スラリー中に含まれた溶媒が目的とするレベルに除去されるレベルで制御できる。例えば、前記乾燥は、成形されたスラリーを約50℃~250℃、約70℃~180℃又は約90℃~150℃の範囲内の温度で適正時間の間維持して行うことができる。乾燥時間も適正範囲で選択できる。」
イ 本件発明1の「第1金属フォーム前駆体」及び「第2金属フォーム前駆体」の意味について
上記ア(ア)~(ウ)に摘記した記載から、本件発明1の「第1金属フォーム前駆体」及び「第2金属フォーム前駆体」は、「焼結などのように金属フォームを形成するために行う工程を経る前の構造体、すなわち、金属フォームが生成される前の構造体」を意味し、具体的な例として、「適正なテンプレート(template)に前記スラリーを維持するか、あるいはスラリーを適正な方式でコーティングして」形成されたものであって、その形成過程において必要に応じて適切な乾燥工程を経たものと明確に理解することができる。
ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第36ページ第32行(4-4)~第37ページ第3行において、「第1金属フォーム前駆体」及び「第2金属フォーム前駆体」が、いかなる形態であるか不明確であると主張している。
しかしながら、本件発明の「第1金属フォーム前駆体」及び「第2金属フォーム前駆体」の技術的意味は、上記イに示されたとおり明確に理解することができるから、当該申立人の主張は採用しない。
エ 小括
以上より、本件発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~11は、明確であるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。
オ まとめ
したがって、申立理由3-1(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701113