特許異議申立
2021-700966
コード・ゴム複合体及び空気入りタイヤ
- 審判番号
- 2021-700966
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-151449
- 登録番号
- 6855699
- 請求日
- 2021年10月07日
- 審決日
- 2023年03月31日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友ゴム工業株式会社
- 【権利者代理人】住友 慎太郎
- 【権利者代理人】浦 重剛
- 【権利者代理人】苗村 潤
- 【権利者代理人】石原 幸信
- 【権利者代理人】市田 哲
- 【異議申立人】村川 明美
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 八木 誠
- 審判官 中村 則夫
- 分類
- P1651.121-YAA(B60C) / P1651.537-YAA(B60C) / P1651.831-YAA(B60C) / P1651.832-YAA(B60C) / P1651.851-YAA(B60C) / P1651.857-YAA(B60C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6855699号発明「コード・ゴム複合体及び空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6855699号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第6855699号の請求項に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6855699号の請求項1~3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年8月1日に出願され、令和3年3月22日に特許の設定登録がされ、同年4月7日に特許掲載公報が発行された。
そして、請求項1~3に係る特許についての、特許異議申立人村川明美(以下、「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年10月 7日 申立人より特許異議の申立て
同年12月22日付け 取消理由通知
令和4年 2月28日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年 3月29日付け 訂正拒絶理由通知
同年 4月15日 特許権者より意見書・手続補正書
同年 5月19日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 7月 4日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年 8月16日 申立人より意見書
同年 9月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年11月25日 特許権者より意見書・訂正請求書
なお、令和4年2月28日及び同年7月4日の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年7月4日の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(3)(なお、下線は訂正箇所である。)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であり」と記載されているのを、「下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であり(但し、スチールコードの外径Dが0.27~0.45mmのものを除く)」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記トッピングゴムの前記複素弾性率E*は、25MPa以下である請求項1記載のコード・ゴム複合体。」と記載されているのを、独立形式に改め、「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体であって、前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であり、前記トッピングゴムは、加硫後の複素弾性率E*が5MPa以上、20MPa以下を示すゴム組成物からなることを特徴とするコード・ゴム複合体。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2記載のコード・ゴム複合体をタイヤ構成部材として含むことを特徴とする空気入りタイヤ。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体をタイヤ構成部材として含む空気入りタイヤであって、前記コード・ゴム複合体は、一対のビード部間を跨ってのびるカーカスプライに隣接して配されたベルトプライであり、前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であり、前記トッピングゴムは、加硫後の複素弾性率E*が5MPa以上を示すゴム組成物からなることを特徴とする空気入りタイヤ(但し、前記カーカスプライと前記ベルトプライとの間にタイヤ周方向に対して80~90°の角度で埋設されたスチールコードからなるベルト補助層を設けた空気入りタイヤを除く)。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」に訂正する。
(4)一群の請求項
本件訂正は、一群の請求項〔1~3〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であり」との事項に「(但し、スチールコードの外径Dが0.27~0.45mmのものを除く)」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項1は、訂正前の請求項1の「スチールコード」から特定の外径のスチールコードを除くものであるから、新規事項を追加するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2を独立形式請求項にするものであり、さらに「複素弾性率E*」について上限値を「25MPa」から「20MPa」に限定することで数値範囲を狭めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とし、かつ、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項2は、願書に添付した明細書の【0037】の「スチールコード14とトッピングゴム13との接着性を効果的に向上させるために、トッピングゴム13の加硫時の複素弾性率E*は、より好ましくは5.5MPa以上であり、さらに好ましくは6MPa以上である。なお、トッピングゴム13の加硫時の複素弾性率E*が大きすぎても、トッピングゴム13の粘度が過度に高くなり、生産性が低下するおそれがある。このため、トッピングゴム13の加硫時の複素弾性率E*は、好ましくは25MPa以下、さらに好ましくは20MPa以下が望ましい。」に開示されているのは明らかであるから、新規事項を追加するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1を引用する請求項3を独立形式請求項にするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、訂正前の請求項3の「コード・ゴム複合体」との事項について、「前記コード・ゴム複合体は、一対のビード部間を跨ってのびるカーカスプライに隣接して配されたベルトプライであり」との事項を追加し、訂正前の請求項3の「吸気入りタイヤ」との事項に「(但し、前記カーカスプライと前記ベルトプライとの間にタイヤ周方向に対して80~90°の角度で埋設されたスチールコードからなるベルト補助層を設けた空気入りタイヤを除く)」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲を限定することも目的とするものであるところ、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、「「コード・ゴム複合体」」についての追加された上記事項は、本件特許の明細書の【0017】、【0020】等に開示されていると認められるから、新規事項を追加するものでもない。
(4)小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正後の本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体であって、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、
下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であり(但し、スチールコードの外径Dが0.27~0.45mmのものを除く)、
前記トッピングゴムは、加硫後の複素弾性率E*が5MPa以上を示すゴム組成物からなることを特徴とするコード・ゴム複合体。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数
【請求項2】
複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体であって、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、
下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であり、
前記トッピングゴムは、加硫後の複素弾性率E*が5MPa以上、20MPa以下を示すゴム組成物からなることを特徴とするコード・ゴム複合体。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数
【請求項3】
複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体をタイヤ構成部材として含む空気入りタイヤであって、
前記コード・ゴム複合体は、一対のビード部間を跨ってのびるカーカスプライに隣接して配されたベルトプライであり、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であり、
前記トッピングゴムは、加硫後の複素弾性率E*が5MPa以上を示すゴム組成物からなることを特徴とする空気入りタイヤ(但し、前記カーカスプライと前記ベルトプライとの間にタイヤ周方向に対して80~90°の角度で埋設されたスチールコードからなるベルト補助層を設けた空気入りタイヤを除く)。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~3に係る特許に対して、令和4年9月28日付けで当審が通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
[取消理由2]
本件特許の下記請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、この出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
引用文献1:特開2012-254668号公報(申立人が提出した甲第1号証)
[取消理由と請求項及び引用文献等の関係]
○取消理由2
請求項 1、3
引用文献 1
第5 当審の判断
1 引用文献1の記載事項等
(1)記載事項
引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車用空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、耐久性を高度に維持すると共に、転がり抵抗を低減することを可能にした乗用車用空気入りラジアルタイヤに関する。」
「【0003】
転がり抵抗を低減する手段の一つとしてタイヤの軽量化が挙げられ、具体的には、ベルト層に使用されているベルトコードの構成を見直すことが行われている。例えば、ベルトコードとして、複数本のフィラメントを撚り合わせたコードではなく、モノフィラメントからなるコードを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようにベルトコードを単線化した場合、ベルト層の薄肉化が可能になるため、タイヤを軽量化し、転がり抵抗の低減を図ることが出来る。
【0004】
しかしながら、モノフィラメントからなるスチールコードは、曲げに対する耐疲労性が悪いため、このようなコードをベルト層に用いた場合、転がり抵抗を低減することは出来るものの、空気入りタイヤとして充分な耐久性を得ることが出来ないと云う問題があった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述する問題点を解決するもので、ベルトコードを単線化した場合であっても、タイヤ耐久性を維持すると共に、転がり抵抗を低減することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。」
「【0015】
本発明においては、ベルト層を構成するコートコンパウンドは20℃における動的弾性率E’が15MPa以下であり、かつ60℃におけるtanδが0.15以下であるゴム組成物から構成することが好ましい。トレッド部に2層のベルト層と1層のベルト補助層からなる3層構造のベルト部を形成した場合、ベルト部の剛性に対するコードコンパウンドの寄与が低下するため、ベルト層には柔らかくて発熱性が低いコートコンパウンドを使用することが出来る。それにより、ベルト層の発熱を抑えて耐久性を更に改善することが出来る。
【0016】
尚、20℃における動的弾性率E’とは、粘弾性スペクトロメータ?(東洋精機製作所製)を使用して、温度20℃、周波数20Hz、初期歪10%、動歪±2%の条件で測定されるものである。また、60℃におけるtanδとは、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所製)を使用して、温度60℃、周波数20Hz、初期歪10%、動歪±2%の条件で測定されるものである。」
「【0019】
図1,2は、本発明の実施形態からなる乗用車用空気入りラジアルタイヤ(以下「タイヤ」と称する。)を示す。また、図3,4は、図1,2のタイヤのカーカス層4、ベルト層10、及びベルト補助層20を抽出してタイヤ赤道面CLから一方の側のみを展開して示す。
【0020】
図1,2において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間には1層のカーカス層4が装架され、これらカーカス層4の端部がビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返されている。ビードコア5の外周側にはゴムからなる断面三角形状のビードフィラー6が配置されている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には、2層のベルト層10(11,12)がタイヤ全周に亘って配置されている。このベルト層10(11,12)は、図3,4に示すように、スチールコードからなるベルトコード10a(11a,12a)をゴム中に埋設して構成される。このベルトコード10a(11a,12a)はタイヤ周方向に対して低角度で傾斜しており、その傾斜角度θ1は15°~45°である。また、これらベルトコード11a,12aは層間で互いに交差するように配置されている。
【0021】
また、ベルトコード10a(11a,12a)は、直径0.27mm~0.45mmの無撚りのスチールモノフィラメントから構成されている。このようにベルト層10を構成するベルトコード10aの直径を小さく設定することでベルト層10のゲージを薄くして転がり抵抗を低減することが出来る。尚、無撚りのスチールモノフィラメントとしては、基本的にくせ無しのものを用いるが、くせ付きのものを用いても構わない。
【0022】
このように構成された空気入りタイヤにおいて、カーカス層4とベルト層10との間には、ベルト補助層20が配置されている。このベルト補助層20は、図3,4に示すように、スチールコードからなるベルト補助コード20aをゴム中に埋設して構成される。このベルト補助コード20aは、タイヤ周方向に対して高角度で傾斜しており、その傾斜角度θ2は80°~90°、好ましくは87°~90°である。このようにベルト補助層20を設けることで、ベルトコード10aの座屈を抑制して、モノフィラメント化に伴い低減する曲げに対する耐疲労性を補うことが出来る。その結果として、転がり抵抗の低減とタイヤの耐久性の改善を両立することが出来る。
・・・
【0024】
ベルトコード10aの直径が0.27mmより小さいと耐久性を維持するためにコードの打ち込み密度を高くする必要があり、その結果、接着性が低下しエッジセパレーション耐久性が低下する。ベルトコード10aの直径が0.45mmより大きいと、ベルト層10の薄ゲージ化の効果が不充分になるうえ、コードの曲げに対する疲労性が低下してベルト折れ耐久性が悪化する。
ベルト補助コード20aの傾斜角度θ2が80°より小さいと、ベルト部の幅方向の剛性が不充分になるため操縦安定性が低下する。」
「【0036】
本発明において、ベルト層10を構成するベルトコード10aは互いに引き揃えられた状態で配置される。ベルトコード10aは、例えば、図5(a)に示すように子午線断面においてタイヤ幅方向に均等に配置されても良いが、好ましくは、図5(b)に示すように子午線断面においてタイヤ幅方向に並んだ2~5本(図中では3本)の束を単位としてベルト層10中に配設されていることが好ましい。」
「【0042】
具体的には、ベルト層10を構成するコートコンパウンドの20℃における動的弾性率E’が15MPa以下であり、かつ60℃におけるtanδが0.15以下であることが好ましい。コートコンパウンドの20℃における動的弾性率E’が15MPaより大きいと、ベルト層10の発熱を低減することが出来ず、耐久性を向上する効果が充分に得られない。コートコンパウンドの60℃におけるtanδが0.15より大きいと、ベルト層10の発熱を低減することが出来ず、耐久性を向上する効果が充分に得られない。」
「【0044】
タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤにおいて、ベルト層について、ベルト層の層数、ベルトコードの配置、構造、強度、打ち込み量、打ち込み本数、直径、20℃における動的弾性率E’及び60℃におけるtanδをそれぞれ表1~3に示すように設定し、ベルト補助層について、ベルト補助層の有無、配置、ベルト補助コードの構造、角度、ベルト補助層の配置形態、層幅、位置Pとの重なりの有無、及びベルト補強コードの打ち込み本数をそれぞれ表1~3に示すように設定した従来例1~2、比較例1~4、実施例1~18の24種類の試験タイヤを製作した。」
「【0056】
【表3】
[図:0001399316000001.jpg]
」
図1
[図:0001399316000002.jpg]
(2)引用文献1の記載から認められること
ア 【0015】、【0020】、【0021】及び【0036】の記載によれば、ベルト層10は、互いに引きそろえられた状態で配置され、直径0.27mm~0.45mmの無撚りのスチールモノフィラメントから構成される、複数のベルトコード10aと、ベルトコード10aが埋設されるゴム組成物から構成されることが認められる。
イ 【0044】及び【0056】の表3の記載によれば、実施例13では、ベルトコードの打ち込み本数は84.0本/50mm、ベルトコードの直径は0.32mm、ベルト層のゴム組成物の20℃における動的弾性率E’は20MPaであることが認められ、実施例14では、ベルトコードの打ち込み本数は87.0本/50mm、ベルトコードの直径は0.32mm、ベルト層のゴム組成物の20℃における動的弾性率E’は20MPaであることが認められる。
ウ タイヤは、未加硫のゴムによって成形し、その後加硫を行うことで製品化することは、例示するまでもない技術常識であることを勘案すると、ベルト層10は、未加硫のゴム組成物にベルトコード10aを埋設して成形され、その後加硫を行うことで得られるものであることは明らかであり、ゴムの弾性は加硫により得られるという技術常識を勘案すると、ベルト層10のゴム組成物の動的弾性率E’は加硫後のものであることも明らかである。
エ 【0020】及び【0022】の記載によれば、左右一対のビード部3、3間に装架されるカーカス層4の外周側にベルト層10が配置され、カーカス層4とベルト層10との間には、タイヤ周方向に対して80°~90°の角度のスチールコードからなるベルト補助コード20aをゴム中に埋設して構成されるベルト補助層20が配置されることが認められる。
(3)引用発明
ア 上記(2)ア~ウを総合すると、引用文献1には、実施例13に関連して、以下の発明(以下、「引用発明1-1」という。)が開示されていると認められる。
「互いに引き揃えられた状態で配置され、無撚りのスチールモノフィラメントから構成される、複数のベルトコード10aと、ベルトコード10aが埋設される未加硫のゴム組成物から構成されるベルト層10であって、
ベルトコード10aの打ち込み本数は84.0本/50mm、ベルトコード10aの直径は0.32mmであり、加硫後のゴム組成物の20℃における動的弾性率E’は20MPaであるベルト層10。」
イ 上記(2)ア~ウを総合すると、引用文献1には、実施例14に関連して、以下の発明(以下、「引用発明1-2」という。)が開示されていると認められる。
「互いに引き揃えられた状態で配置され、無撚りのスチールモノフィラメントから構成される、複数のベルトコード10aと、ベルトコード10aが埋設される未加硫のゴム組成物から構成されるベルト層10であって、
ベルトコード10aの打ち込み本数は87.0本/50mm、ベルトコード10aの直径は0.32mmであり、加硫後のゴム組成物の20℃における動的弾性率E’は20MPaであるベルト層10。」
ウ 上記(2)ア~エを総合すると、引用文献1には、実施例13に関連して、以下の発明(以下、「引用発明1-3」という。)が開示されていると認められる。
「互いに引き揃えられた状態で配置され、無撚りのスチールモノフィラメントから構成される、複数のベルトコード10aと、ベルトコード10aが埋設される未加硫のゴム組成物から構成されるベルト層10を含む乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
左右一対のビード部3、3間に装架されるカーカス層4の外周側にベルト層10が配置され、カーカス層4とベルト層10との間には、タイヤ周方向に対して80°~90°の角度のスチールコードからなるベルト補助コード20aをゴム中に埋設して構成されるベルト補助層20が配置され、
ベルトコード10aの打ち込み本数は84.0本/50mm、ベルトコード10aの直径は0.32mmであり、加硫後のゴム組成物の20℃における動的弾性率E’は20MPaである乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」
エ 上記(2)ア~エを総合すると、引用文献1には、実施例14に関連して、以下の発明(以下、「引用発明1-4」という。)が開示されていると認められる。
「互いに引き揃えられた状態で配置され、無撚りのスチールモノフィラメントから構成される、複数のベルトコード10aと、ベルトコード10aが埋設される未加硫のゴム組成物から構成されるベルト層10を含む乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
左右一対のビード部3、3間に装架されるカーカス層4の外周側にベルト層10が配置され、カーカス層4とベルト層10との間には、タイヤ周方向に対して80°~90°の角度のスチールコードからなるベルト補助コード20aをゴム中に埋設して構成されるベルト補助層20が配置され、
ベルトコード10aの打ち込み本数は87.0本/50mm、ベルトコード10aの直径は0.32mmであり、加硫後のゴム組成物の20℃における動的弾性率E’は20MPaである乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」
2 対比・判断
(1)引用発明1-1を主引用発明とする場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 本件発明1と引用発明1-1とを対比すると、後者の「スチールモノフィラメント」は、その機能や構造からみて、前者の「1本のフィラメント」に相当し、以下同様に、「複数のベルトコード10a」は「複数本のスチールコード」に、「ゴム組成物」は「トッピングゴム」に、「ベルト層10」は「コード・ゴム複合体」に、「ベルトコード10aの打ち込み本数」は「コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」に、「ベルトコード10aの直径」は「スチールコードの外径」に、それぞれ相当する。
b 後者の「互いに引き揃えられた状態で配置され」る「複数のベルトコード10a」は、前者の「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体」に相当し、後者の「ベルトコード10aが埋設される未加硫のゴム組成物」は、前者の「前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴム」に相当するから、後者の「互いに引き揃えられた状態で配置され」る「複数のベルトコード10aと、ベルトコード10aが埋設される未加硫のゴム組成物から構成されるベルト層10」は、前者の「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体」に相当する。
c 後者の「スチールモノフィラメントから構成される」ことは、前者の「1本のフィラメントで構成され」ることに相当する。
d 後者において、(ベルトコード10aの直径)×π×(ベルトコード10aの打ち込み本数)=0.32×π×84.0≒0.32×3.14×84≒84.4>80となるから、後者の「ベルトコード10aの打ち込み本数は84.0本/50mm、ベルトコード10aの直径は0.32mmであ」ることは、前者の「下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であ」ること、及び、「S=D×π×E …(1) ここで、符号は以下のとおりである。 D:スチールコードの外径(mm) π:円周率 E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」に相当する。
以上によると、本件発明1と引用発明1-1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点1-1>
「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体であって、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、
下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であるコード・ゴム複合体。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」
<相違点1-1>
本件発明1では、スチールコードの外径Dが「0.27~0.45mmのものを除く」のに対し、引用発明1-1では、ベルトコード10aの直径は0.32mmである点。
<相違点1-2>
トッピングゴムについて、本件発明1では、加硫後の「複素弾性率E*が5MPa以上」であるのに対し、引用発明1-1では、加硫後の「20℃における動的弾性率E’は20MPa」である点。
(イ)相違点についての判断
相違点1-1について検討すると、引用文献1の【0024】には、ベルトコード10aの直径を0.27mmより小さくすること、及び、0.45mmより大きくすることに対して阻害要因がある旨記載されているから、引用発明1-1において、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ)小括
以上によれば、本件発明1は、相違点1-2を検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1-1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)引用発明1-3を主引用発明とする場合
ア 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と引用発明1-3とを対比すると、後者の「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」は、前者の「空気入りタイヤ」に相当し、以下同様に、「ベルト層10を含む乗用車用空気入りラジアルタイヤ」は「コード・ゴム複合体をタイヤ構成部材として含む空気入りタイヤ」に、「左右一対のビード部3、3間」は「一対のビード部間」に、「カーカス層4」は「カーカスプライ」に、「ベルト層10」は「ベルトプライ」にも、それぞれ相当する。
後者の「左右一対のビード部3、3間に装架されるカーカス層4の外周側にベルト層10が配置され」ることは、前者の「前記コード・ゴム複合体は、一対のビード部間を跨ってのびるカーカスプライに隣接して配されたベルトプライであ」ることと、「前記コード・ゴム複合体は、一対のビード部間を跨ってのびるカーカスプライに近接して配されたベルトプライであ」る点で共通する。
そして、上記ア(ア)も参照すれば、本件発明3と引用発明1-3の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点1-2>
「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体をタイヤ構成部材として含む空気入りタイヤであって、
前記コード・ゴム複合体は、一対のビード部間を跨ってのびるカーカスプライに近接して配されたベルトプライであり、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、
下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であるゴム組成物からなる空気入りタイヤ。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」
<相違点1-3>
トッピングゴムについて、本件発明3では、加硫後の「複素弾性率E*が5MPa以上」であるのに対し、引用発明1-3では、加硫後の「20℃における動的弾性率E’は20MPa」である点。
<相違点1-4>
本件発明3では、ベルトプライはカーカスプライに「隣接」して配され、「前記カーカスプライと前記ベルトプライとの間にタイヤ周方向に対して80~90°の角度で埋設されたスチールコードからなるベルト補助層を設けた」空気入りタイヤを「除く」のに対し、引用発明1-3では、「カーカス層4とベルト層10との間には、タイヤ周方向に対して80°~90°の角度のスチールコードからなるベルト補助コード20aをゴム中に埋設して構成されるベルト補助層20が配置される」点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点1-4から検討する。
引用文献1の【0022】、【0024】を参照すると、引用発明1-3では、ベルト補助層20を設けることが、転がり抵抗の低減とタイヤの耐久性の改善に寄与していると認められるから、引用発明1-3において、ベルト補助層20を削除することには、阻害要因があるといわざるを得ない。
よって、引用発明1-3において、相違点1-4に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないから、相違点1-3を検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明1-3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(3)引用発明1-2を主引用発明とする場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1-2とを対比する。上記(1)アと共通する点についてはそのまま採用する。
後者において、(ベルトコード10aの直径)×π×(ベルトコード10aの打ち込み本数)=0.32×π×87.0≒0.32×3.14×87≒87.4>80となるから、後者の「ベルトコード10aの打ち込み本数は87.0本/50mm、ベルトコード10aの直径は0.32mmであ」ることは、前者の「下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であ」ること、及び、「S=D×π×E …(1) ここで、符号は以下のとおりである。 D:スチールコードの外径(mm) π:円周率 E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」に相当する。
以上によると、本件発明1と引用発明1-2の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点2-1>
「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体であって、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、
下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であるコード・ゴム複合体。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」
<相違点2-1>
本件発明1では、スチールコードの外径Dが「0.27~0.45mmのものを除く」のに対し、引用発明1-2では、ベルトコード10aの直径は0.32mmである点。
<相違点2-2>
トッピングゴムについて、本件発明1では、加硫後の「複素弾性率E*が5MPa以上」であるのに対し、引用発明1-2では、加硫後の「20℃における動的弾性率E’は20MPa」である点。
(イ)相違点についての判断
相違点2-1、2-2はそれぞれ相違点1-1、1-2と実質的に同じであるから、上記(1)ア(イ)で説示したのと同様に、本件発明1は、引用発明1-2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(4)引用発明1-4を主引用発明とする場合
ア 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と引用発明1-4とを対比する。
上記(1)ア(ア)、(2)ア(ア)及び(3)ア(ア)を参照すれば、本件発明3と引用発明1-4の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点2-2>
「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体をタイヤ構成部材として含む空気入りタイヤであって、
前記コード・ゴム複合体は、一対のビード部間を跨ってのびるカーカスプライに隣接して配されたベルトプライであり、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、
下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であるゴム組成物からなることを特徴とする空気入りタイヤ。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」
<相違点2-3>
トッピングゴムについて、本件発明3では、加硫後の「複素弾性率E*が5MPa以上」であるのに対し、引用発明1-4では、加硫後の「20℃における動的弾性率E’は20MPa」である点。
<相違点2-4>
本件発明3では、「前記カーカスプライと前記ベルトプライとの間にタイヤ周方向に対して80~90°の角度で埋設されたスチールコードからなるベルト補助層を設けた」空気入りタイヤを「除く」のに対し、引用発明1-4では、「カーカス層4とベルト層10との間には、タイヤ周方向に対して80°~90°の角度のスチールコードからなるベルト補助コード20aをゴム中に埋設して構成されるベルト補助層20が配置される」点。
(イ)相違点についての判断
相違点2-4は、相違点1-4と実質的に同じであるから、上記(2)ア(イ)で説示したのと同様に、引用発明1-4において、相違点2-4に係る本件発明3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、相違点2-3を検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明1-4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない
第6 令和4年9月28日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の内容
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1~3に係る発明について、以下の(1)、(2)を主張する。
(1)申立理由1(進歩性)
請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(明確性要件)
請求項1~3に係る発明は不明確であるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。
2 当審の判断
(1)申立理由2(明確性要件)について
事案に鑑み、まず申立理由2から検討する。
申立人は、特許異議申立書(25~26ページ)において、請求項1に係る発明は、未加硫のトッピングゴムを必須の構成要件とし、加硫後のトッピングゴムの複素弾性率E*も構成要件として特定されている、すなわち、未加硫のトッピングゴムを含む物の発明でありながら、トッピングゴムの特性としては、加硫後の複素弾性率E*によって特定されるから、不明確であり、請求項1を引用する請求項2、3も不明確である旨主張する。
しかしながら、請求項1に係る発明は、未加硫のトッピングゴムを構成の1つとして含むコード・ゴム複合体であり、タイヤの製造工程における中間生成物であるであると認められるところ、通常、中間生成物であるコード・ゴム複合体としては流通せず、製品化されたタイヤの構成部材の一部として流通するものである。そうすると、製品化された状態で特定された特性についての構成、すなわち、加硫後のトッピングゴムの複素弾性率E*についての構成は、製品によって該構成を充足するか否かを判断できるから、何ら不明確なところはない。
よって、請求項1に係る発明は明確であり、同様に、請求項2、3に係る発明も明確である。
したがって、申立理由2は成り立たない。
(2)申立理由1(進歩性)について
ア 引用発明1-1を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明2と引用発明1-1とを対比する。
上記「第5 2(1)ア(ア)」を参照すると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点1>
「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体であって、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、
下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であるコード・ゴム複合体。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」
<相違点1>
トッピングゴムについて、本件発明2では、加硫後の「複素弾性率E*が5MPa以上、20MPa以下」であるのに対し、引用発明1-1では、加硫後の「20℃における動的弾性率E’は20MPa」である点。
(イ)相違点についての判断
複素弾性率E*は、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E’’を用いて、E*=E’+iE’’となり、損失正接は、tanδ=E’’/E’であるところ、引用発明1-1の「動的弾性率E’」は、その表記から、貯蔵弾性率であると認められる。
そして、複素弾性率E*の大きさは、|E*|=√(E’2+E’’2)=√(E’2+(E’tanδ)2)=|E’|√(1+tan2δ)>|E’|であるから、20℃における動的弾性率E’が20MPaである引用発明1-1の、20℃における複素弾性率は、20MPaより大きいのは明らかである。
ここで、複素弾性率E*は、温度によって変化するものであるところ、本件発明1では、複素弾性率E*は5MPa以上でと特定されるだけで、その温度条件は特定されていないが、本件明細書の【0035】を参照すると、これは30℃での計測に基づくものと理解できる。
一般に、ゴムの弾性率は、温度が上がれば小さくなり、温度が下がれば大きくなるという技術常識(例えば、村岡清繁、タイヤ用ゴムにとって粘弾性特性とは、日本ゴム協会誌、第74巻、第6号(2001年発行)、242~247ページの特に図3参照。)を勘案すると、引用発明1-1において、複素弾性率は、20℃から30℃にすると小さくなると認められる。しかしながら、小さくなるのとしてもどの程度であるのか不明であるから、引用発明1-1の30℃での複素弾性率は、5MPa以上であるとも20MPa以下であるとも認めることはできない。
そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であるといえる。
次に、タイヤにおける、スチールコードであるベースコードを被覆するトッピングゴムの70℃での複素弾性率について、 特開2009-126347号公報(【0016】、【0026】、【0028】、【0048】等参照。)には、6.0MPaとすることが記載され、特開2007-69890号公報(【0010】、【0012】、【0034】等参照。)には、5.0MPaとすることが記載され、特開2001-26669号公報(【0013】、【0014】等参照。)には、7.0MPa以上とすることが記載され、特開2011-98637号公報(【0017】、【0031】、【0035】、【0046】、表1等参照。)には、8.5MPaとすることが記載されているところ、一般に、ゴムの弾性率は温度が下がれば大きくなるという上記技術常識を勘案すると、タイヤにおいて、スチールコードであるベースコードを被覆するトッピングゴムの30℃での複素弾性率を5MPa以上とすることは、本件特許の出願前において、周知技術であると認められる。
しかしながら、 上記技術常識を勘案すると、タイヤにおいて、スチールコードであるベースコードを被覆するトッピングゴムの30℃での複素弾性率を20MPa以下とすることを、本件特許の出願前における周知技術であると認めるに足る証拠はない(甲第2~4号証によっても、当該周知技術は認められない。)。
してみれば、引用発明1-1において、加硫後のゴム組成物の30℃での複素弾性率を5MPa以上、20MPa以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ)小括
以上によれば、本件発明2は、引用発明1-1及び甲第2~4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
イ 引用発明1-2を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明2と引用発明1-2とを対比する。
上記「第5 2(1)ア(ア)」を参照すると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点2>
「複数本のスチールコードが、その長手方向を揃えて配列されたコード配列体と、前記コード配列体を被覆する未加硫のトッピングゴムとを含むコード・ゴム複合体であって、
前記スチールコードは、1本のフィラメントで構成され、
下記式(1)で定義される前記コード配列体の単位長手方向当たりのスチールコードの表面積パラメータSが80(mm)以上であるコード・ゴム複合体。
S=D×π×E …(1)
ここで、符号は以下の通りである。
D:スチールコードの外径(mm)
π:円周率
E:コード・ゴム複合体のスチールコードの長手方向と直交する向きの幅5cm当たりのスチールコードの打ち込み本数」
<相違点2>
トッピングゴムについて、本件発明2では、加硫後の「複素弾性率E*が5MPa以上、20MPa以下」であるのに対し、引用発明1-2では、加硫後の「20℃における動的弾性率E’は20MPa」である点。
(イ)相違点についての判断
相違点2は、相違点1と実質的に同じであるから、上記ア(イ)で説示したのと同様に、引用発明1-2において、相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ)小括
以上によれば、本件発明2は、引用発明1-2及び甲第2~4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、申立理由1は成り立たない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及びその証拠によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700966