2021-700924
光学シートおよび光学部品
- 審判番号
- 2021-700924
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-070702外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6852746
- 請求日
- 2021年09月24日
- 審決日
- 2022年08月08日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友ベークライト株式会社
- 【権利者代理人】増田 達哉
- 【権利者代理人】朝比 一夫
- 【異議申立人】岡本 敏夫
- 分類
- P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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特許第6852746号(請求項の数6。以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年9月29日を出願日とする特願2017-192231号の一部を新たな特許出願として平成31年4月2日に分割出願したものであって、令和3年3月15日にその特許権の設定登録がされ、令和3年3月31日に特許掲載公報が発行されたものである。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和3年9月24日に、特許異議申立人 岡本 敏夫(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。
その後になされた手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年3月28日付け訂正請求書であって、令和4年4月20日付け手続補正書で補正された訂正請求書でなされた訂正を、以下「本件訂正」といい、その内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である、請求項1~請求項6についてなされたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「 前記ポリカーボネートは、粘度平均分子量Mvが23000以上27500以下のものであり、」を「 前記ポリカーボネートは、粘度平均分子量Mvが24000以上27500以下のものであり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
明細書の段落番号【0007】について、
「 前記ポリカーボネートは、粘度平均分子量Mvが23000以上27500以下のものであり、」を「 前記ポリカーボネートは、粘度平均分子量Mvが24000以上27500以下のものであり、」に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、請求項1に記載された「前記ポリカーボネート」の「粘度平均分子量Mv」について、「23000以上27500以下」を「24000以上27500以下」に限定する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0040】には、「ポリカーボネート」の「粘度平均分子量Mv」を「24000以上」とすることが記載されているから、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、前記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。
そうすると、訂正事項2は、特許法120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
上記アに照らせば、訂正事項2によって、新規事項が追加されることはない。したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正の適否の小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、訂正要件を満たす。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを認める。
また、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の明細書の段落番号【0007】について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正は上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~6に係る発明(以下、「本件訂正発明1」~「本件訂正発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
[本件訂正発明1]
「 ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型のポリカーボネートを主材として、350nm以上740nm以下の波長域の光のうち、特定の波長の光を吸収する光吸収剤を含む特定波長吸収層を有し、前記光吸収剤は、420nm以上780nm以下の波長域に最大吸収波長を有し、前記特定波長吸収層中の前記光吸収剤の含有量は、0.001wt%以上5wt%以下であり、前記ポリカーボネートは、粘度平均分子量Mvが24000以上27500以下のものであり、吸水率が0.04%以上0.15%以下のものであり、JIS K7210に準拠して測定されるメルトフローレートが3g/10min以上30g/10min以下のものであることを特徴とする光学シート。」
[本件訂正発明2]
「 前記ポリカーボネートの融点をT1とし、前記光吸収剤の融点をT2としたとき、T1<T2を満足する請求項1に記載の光学シート。」
[本件訂正発明3]
「 前記特定波長吸収層は、延伸度が10%以下のものである請求項1または2に記載の光学シート。」
[本件訂正発明4]
「 前記特定波長吸収層は、100nm以上420nm以下の波長域の光を吸収する紫外線吸収剤をさらに含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学シート。」
[本件訂正発明5]
「 前記特定波長吸収層中の前記紫外線吸収剤の含有量は、0.05wt%以上8wt%以下である請求項4に記載の光学シート。」
[本件訂正発明6]
「 基材と、前記基材に積層され、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学シートと、を備えることを特徴とする光学部品。」
第4 取消理由及び証拠
1 取消理由
令和4年1月14日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由は、概略、次のとおりのものである。
理由3:(進歩性)本件特許の請求項1~請求項6に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(当合議体注:甲1及び甲5は、主引用例である。また、甲2~4、6は参考文献である。)
2 その他の参考資料について
特許異議申立人は、上記の他、令和4年6月10日提出の意見書に添付して、以下の参考資料を提出した。
第5 取消理由1(明確性要件違反)に対する当審の判断
本件訂正発明1は、「光学シート」を構成する「特定波長吸収層」の「主材」である「ポリカーボネート」について、「吸水率が0.04%以上0.15%以下のものであ」ることを発明特定事項とするものである。ここで、「吸水率」という用語につき特許請求の範囲に定義がないため、発明の詳細な説明の記載を参照すると、【0043】には、「本明細書中での吸水率は、アクアトラック3E(ブラベンダー社製)にて測定した値とされる。」と記載されている。
また、当該記載の直前の段落の【0042】には、「ポリカーボネートは、吸水率が、0.02%以上0.2%以下のものであるのが好ましく、0.04%以上0.15%以下のものであるのがより好ましい。これにより、溶融状態のポリカーボネートと光吸収剤とを十分に混合した状態で押出し成形を行うことができる。よって、光吸収剤が過剰に凝集するのを防止することができる。」と記載されている。
ここで、ポリカーボネートに係る技術分野における出願時の技術常識についてみると、例えば、異議申立書に添付された甲3及び甲4には、それぞれ、ポリカーボネートの「吸水率」が水を含む雰囲気下で経時変化することが示されており、当該技術分野における「吸水率」は水をどの程度含んでいるかの意味で用いられていることがわかる。
この点、特許権者は、令和4年3月28日提出の意見書の第3頁7~12行において、「吸水率は、含水率の意味であり、測定時の温度や湿度は問わず、光学シートの製造時におけるポリカーボネートに実際に含まれている水の比率である。
すなわち、吸水率とは、光学シートの製造時におけるポリカーボネートの質量(水の質量を含む)をC、前記ポリカーボネートに含まれる水の質量をAとしたとき、A/C×100(%)で表される。」と主張し、かかる主張は、ポリカーボネートに係る技術分野における上記技術常識と符合する。
そうすると、「吸水率」という用語につき、発明の詳細な説明の記載を参照し、出願時の技術常識を考慮すれば、「光学シートの製造時におけるポリカーボネートに実際に含まれている水の比率」と解釈することができ、これにより当該「吸収率」及びその他本件所定の値により特定される「ポリカーボネート」を明確に把握できるので、本件訂正発明1に係る特許請求の記載は、明確であるといえる。
特許異議申立人は、令和4年6月10日提出の意見書の第2頁第13~17行において、「「光学シートの製造時」について、光学シートの製造工程の中のどの段階を意味するか規定されていません。「光学シートの製造時」であっても、製造ラインに投入する際のポリカーボネートの水の質量と、押出成形されたときのポリカーボネートの水の質量が異なること明らかです。」と主張する。
しかしながら、そもそも、本件訂正発明1は、「光吸収剤が凝集するのを防止するとともに、十分な強度を有する光学シートおよび光学部品を提供すること」(【0006】)を解決しようとする課題としてなされた発明であって、【0042】には、「溶融状態のポリカーボネートと光吸収剤とを十分に混合した状態で押出し成形を行」って、「光吸収剤が過剰に凝集するのを防止」することを目的として「吸水率」を調整することが記載されているのであるから、「吸水率」が、出発材料、すなわち、「製造ラインに投入する際のポリカーボネート」の「吸水率」であることは明らかであり、この点は、上述した本件訂正発明1の明確性を左右しない。
したがって、本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は明確である。本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2~6について同様である。
第6 取消理由2,3(新規性欠如・進歩性欠如)に対する当審の判断
1 甲号証の記載及び引用発明
(1)甲1の記載
甲1には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】2種類以上の染料を含む透明な熱可塑性樹脂であり、一つの染料(a)は、ポリカーボネート樹脂に50ppmの濃度で配合して厚さ3mmに成形されたシートで測定した分光光線透過率が750nmでは40%以下であり且つ850nmでは80%以上であり、他の一つの染料(b)は、上記と同様に調製されたシートで測定した分光光線透過率が650nmでは40%以下であり且つ850nmでは80%以上であり、熱可塑性樹脂中の染料(a)の濃度が5~500重量ppm、染料(b)の濃度が50~3000重量ppmであることを特徴とする光ビーコンフィルター用樹脂組成物。・・・中略・・・【請求項5】シボ加工された金型を使用し、請求項1~4の何れかに記載の樹脂組成物を射出成形して成ることを特徴とする光ビーコンフィルター。」
イ 「【技術分野】【0001】本発明は光ビーコンフィルター用組成物に関する。【背景技術】【0002】近年、各種の車両情報通信システム(VICS)について検討され、その1つとして、目には見えない近赤外線を使用し、車載機との双方向通信を行う光ビーコンがある。光ビーコンを使用したVICSの場合、一般道路に設置した光ビーコンから、VICS対応の車載機(カーナビ等)へ交通情報などが提供される。斯かる光ビーコンの実用化には、誤動作防止の観点から、可視光の遮光性および近赤外線の透過性に優れる近赤外線吸収フィルター、具体的には870nmのレーザーを選択的に透過させるフィルターが必要とされている。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】【0005】本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、赤外線レーザーの分光光線透過率が高く、且つ、可視光線の分光光線透過率が低く、成形加工時のガス発生を抑えた、光ビーコンフィルター用樹脂組成物および光ビーコンフィルターを提供することにある。【0006】すなわち、本発明の第1の要旨は、2種類以上の染料を含む透明な熱可塑性樹脂であり、一つの染料(a)は、ポリカーボネート樹脂に50ppmの濃度で配合して厚さ3mmに成形されたシートで測定した分光光線透過率が750nmでは40%以下であり且つ850nmでは80%以上であり、他の一つの染料(b)は、上記と同様に調製されたシートで測定した分光光線透過率が650nmでは40%以下であり且つ850nmでは80%以上であり、熱可塑性樹脂中の染料(a)の濃度が5~500重量ppm、染料(b)の濃度が50~3000重量ppmであることを特徴とする光ビーコンフィルター用樹脂組成物に存する。そして、本発明の第2の要旨は、シボ加工された金型を使用し、上記の樹脂組成物を射出成形して成ることを特徴とする光ビーコンフィルターに存する。【発明の効果】【0007】本発明によれば、赤外線レーザーの分光光線透過率が高く、且つ、可視光線の分光光線透過率が低く、機械的性質、熱的性質、電気的性質、耐候性に優れ、成形加工時のガス発生をおさえた、光ビーコンフィルターに有用な樹脂組成物が提供される。」
エ 「【発明を実施するための最良の形態】・・・中略・・・【0020】本発明で使用する一つの染料(a)は、ポリカーボネート樹脂に50ppmの濃度で配合して厚さ3mmに成形されたシートで測定した分光光線透過率が750nmでは40%以下であり且つ850nmでは80%以上である。続きを表示(全21行)【0021】上記の染料(a)の具体例としては、例えば、日本化薬社製のアントラキノン系化合物「KAYASORB IR-750」(商品名)がある。この染料の上記と同様にシートで測定した分光光線透過率チャートは図1に示す通りであり、公表されたデータによれば、融点は194℃付近、最大吸収波長は755nm(24mg/L,DMF)、有効吸収波長域は650~800nm、分子吸光係数(ε)は17,500である。また、アビシア社製の赤外線吸収剤「アビシア800PN」(商品名)も好適に使用することが出来る。「アビシア800PN」の前記と同様にシートで測定した分光光線透過率チャートは図2に示す通りである。更に、H.W.SANDS社製の「SDB7611」(商品名)も好適に使用することが出来る。この染料の分光光線透過率チャートの特徴は上記の各染料と同じであり、公表されたデータによれば、融点は253℃、最大吸収波長は780nm(MeOH)、分子吸光係数(ε)は3.0×105である。【0022】本発明で使用する他の一つの染料(b)は、前記と同様に調製されたシートで測定した分光光線透過率が650nmでは40%以下であり且つ850nmでは80%以上(好ましくは90%以上)である。斯かる染料の分光光線透過率は、実際的には750nmにおいても80%以上(好ましくは90%以上)である。【0023】上記の染料(b)の具体例としては、例えば、三菱化学社製の「ダイヤレジンブルー-H3G」(商品名)がある。この染料の前記と同様にシートで測定した分光光線透過率チャートは図3に示す通りであり、公表されたデータによれば、融点は300℃、分解温度は355℃である。また、住友カラー社製の「スミプラストシアニンブルーLBGN-2」(商品名)も好適に使用することが出来る。この染料の前記と同様にシートで測定した分光光線透過率チャートは図4に示す通りである。・・・中略・・・【0027】本発明の好ましい態様においては、ポリカーボネート樹脂に50ppmの濃度で配合して厚さ3mmに成形されたシートで測定した分光光線透過率が550nmでは65%以下であり且つ850nmでは90%以上である染料(c)を組み合わせることが出来る。斯かる染料の分光光線透過率は、実際的には750nm及び650nmにおいても80%以上(好ましくは90%以上)である。【0028】上記の染料(c)の具体例としては、例えば、三菱化学社製の「ダイヤレジンレッドHS」(商品名)がある。この染料の上記と同様にシートで測定した分光光線透過率チャートは図5に示す通りである。また、バイエル社製の「クイクロレックスViolet3R」(商品名)も好適に使用することが出来る。この染料の前記と同様にシートで測定した分光光線透過率は図6に示すである。更に、バイエル社製の「クイクロレックスYELLOW-6G」(商品名)も好適に使用することが出来る。この染料の前記と同様にシートで測定した分光光線透過率は図7に示すである。・・・中略・・・【0035】光ビーコンフィルターの厚さは通常1~3mmであり、その形状は、組み込まれる態様などにより、平板状、湾曲板状などに形成される。また、質感を出すためにシボ加工が施されることがある。本発明において、シボ加工は、化学エッチング等の一般的なシボ加工方法を採用することが出来、更に、ブラスト処理を組み合わせることもできるが、特に、シボ加工された金型を使用して成形する方法は、簡便であり、外観良好なシボ加工成形体が得られる点で好ましい。・・・中略・・・【0037】本発明によれば、厚さ3mmに成形されたシートで測定した分光光線透過率が350nm~750nmでは5%以下であり且つ870nmでは70%以上であるビーコンフィルター用樹脂組成物を実現することが可能である。」
オ 「【実施例】【0038】以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例においては次の表1に記載の原材料を使用した。また、物性評価は後述の記載の様に行った。【0039】続きを表示(全17行)【表1】[図:0001390561000001.jpg]【0040】(1)分光光線透過率:射出成形機(日本製鋼所製「J-50EP」)を使用し、280℃で厚さ3mmのプレートを通常成形した。分光光度計(島津製作所製「UV-3100PC」)を使用し、JIS-K7361に準拠し、上記の成形品(プレート)の分光光線透過率を測定した。染料単体の分光光線透過率は、ポリカーボネート樹脂に各染料を50ppmの濃度で配合して厚さ3mmに成形されたシートで測定した分光光線透過率からポリカーボネート樹脂のみの分光光線透過率を引いた値を使用した。表2に分光光線透過率の測定結果を示す。また、実施例1~5及び比較例1~3において得られたプレートの可視領域(350~750nm)の分光光線透過率は、350、450、550、650、750nmの分光光線透過率の平均値とした。・・・中略・・・【0044】実施例1~5及び比較例1~3:表3~4に示す配合処方で、原料を秤量し、タンブラーによって20分混合した後、40mmφ単軸押出機を使用し、シリンダー温度260℃でペレット化した。得られたペレットを使用し、射出成形機にて、シリンダー温度280℃で3mm厚さのプレートを成形し、前記の評価を行った。結果を表3~4に示す。【0045】【表3】[図:0001390561000002.jpg]」
カ 「【図面の簡単な説明】【0047】【図1】本発明で使用する染料(a-1)の光光線透過率チャート【図2】本発明で使用する染料(a-3)の分光光線透過率チャート【図3】本発明で使用する染料(b-1)の分光光線透過率チャート【図4】本発明で使用する染料(b-2)の分光光線透過率チャート【図5】本発明で使用する染料(c-1)の分光光線透過率チャート【図6】本発明で使用する染料(c-2)の分光光線透過率チャート【図7】本発明で使用する染料(c-3)の分光光線透過率チャート」
キ 「【図1】[図:0001390561000003.jpg]」
ク 「【図3】[図:0001390561000004.jpg]」
ケ 「【図5】[図:0001390561000005.jpg]」
(2)甲1発明
甲1の請求項1を引用する請求項5には、「シボ加工された金型を使用し、請求項1・・・中略・・・に記載の樹脂組成物を射出成形して成る光ビーコンフィルター。」が記載されている。
また、甲1の【0038】を参照すると、甲1に記載の発明は実施例により更に詳細に説明されている。よって、甲1の請求項1の樹脂組成物を具現化した例の1つが、甲1の実施例1の樹脂組成物であるといえる。
そして、甲1の【0044】~【0045】【表3】には、実施例1の樹脂組成物の配合処方が記載されており、配合された原材料は、同【0038】~【0039】【表1】に記載されている。また、実施例1で用いた染料は、染料(a-1)、染料(b-1)、染料(c-1)であるところ、これらの染料の分光光線透過率チャートは、同【0047】によると、図1、図3、図5として記載されている。そして、当該分光光線透過率チャートの測定条件は、甲1の【0020】~【0023】、【0027】~【0028】に記載されている。
そうしてみると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「シボ加工された金型を使用し、樹脂組成物を射出成形して成る光ビーコンフィルターであって、前記樹脂組成物は、2種類以上の染料を含む透明な熱可塑性樹脂であり、一つの染料(a)は、ポリカーボネート樹脂に50ppmの濃度で配合して厚さ3mmに成形されたシートで測定した分光光線透過率が750nmでは40%以下であり且つ850nmでは80%以上であり、他の一つの染料(b)は、上記と同様に調製されたシートで測定した分光光線透過率が650nmでは40%以下であり且つ850nmでは80%以上であり、熱可塑性樹脂中の染料(a)の濃度が5~500重量ppm、染料(b)の濃度が50~3000重量ppmである光ビーコンフィルター用樹脂組成物であり、前記光ビーコンフィルター用樹脂組成物は、下記に記載の原材料を使用し、続きを表示(全24行)染料(a-1)、(b-1)、(c-1)の、ポリカーボネート樹脂に50ppmの濃度で配合して厚さ3mmに成形されたシートで測定した分光光線透過率チャートは、それぞれ下記のチャートであり、下記に示す配合処方で、原料を秤量したものである、光ビーコンフィルター。(原材料)PC樹脂 :三菱エンジニアリングプラスチック社製「S-3000F」(粘度平均分子量23,000)染料(a-1):日本触媒社製「IR-750」染料(b-1):三菱化学社製「ダイヤレジンブルーH3G」染料(c-1):三菱化学社製「ダイヤレジンレッドHS」(配合処方)PC樹脂 :100重量部染料(a-1):0.005重量部染料(b-1):0.1重量部染料(c-1):0.1重量部(染料(a-1)の分光光線透過率チャート)[図:0001390561000006.jpg](染料(b-1)の分光光線透過率チャート)[図:0001390561000007.jpg](染料(c-1)の分光光線透過率チャート)[図:0001390561000008.jpg]」
(3)甲5の記載
ア 「【請求項1】透明性樹脂(A)100重量部と、下記構造式で表されるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)0.0001~0.01重量部とを含有することを特徴とする眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。【化1】[図:0001390561000009.jpg]・・・中略・・・【請求項7】請求項1ないし6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズ。」
イ 「【技術分野】【0001】本発明は、眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物及びこの眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズに関するものである。詳しくは、ハイコントラストで、赤色の識別性能に優れる眼鏡レンズを提供し得る眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物と、この眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズに関する。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】【0008】本発明は、良好なハイコントラスト性と、優れた耐候性、耐久性を兼備し、更には紫外線吸収機能、色調コントロール機能にも優れた眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物と、この眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズを提供することを課題とする。【課題を解決するための手段】続きを表示(全23行)【0009】本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料を配合することにより、ハイコントラスト性を改善することができ、しかも、このテトラアザポルフィリン化合物系染料を配合した場合には、他の染料を配合した場合に比べて、耐候性、耐久性にも優れたものとなることを見出した。【0010】本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。【0011】[1] 透明性樹脂(A)100重量部と、下記構造式で表されるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)0.0001~0.01重量部とを含有することを特徴とする眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。【0012】【化1】[図:0001390561000010.jpg]【0013】[2] 前記透明性樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする[1]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。・・・中略・・・【0018】[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズ。【発明の効果】【0019】本発明によれば、特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を用いることにより、ハイコントラスト性を改善し、赤色を明確に識別することができる眼鏡レンズを提供することができる。しかも、このテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)は、耐候性に優れるため、樹脂組成物の耐候性、耐久性を高めることができ、その光学性能を長期に亘り持続させることができる。【0020】本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物において、透明性樹脂(A)としては、特に芳香族ポリカーボネート樹脂が、透明性、耐衝撃性等の面で好ましい(請求項2)。」
エ 「【発明を実施するための形態】・・・中略・・・【0094】[2] 眼鏡レンズ本発明の眼鏡レンズは、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形して本発明の眼鏡レンズを製造するための成形方法には特に制限はないが、金型を用いた射出成形法が好ましい。その他、射出圧縮成形、押出圧縮成形、シート成形により成形することもできる。」
オ 「【実施例】【0096】以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。【0097】続きを表示(全55行)[使用樹脂及び添加剤]<透明性樹脂(A)>a-1:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンE-2000F」(粘度平均分子量[Mv]=28000)a-2:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンS-3000F」(粘度平均分子量[Mv]=23000)a-3:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンH-4000F」(粘度平均分子量[Mv]=16000)a-4:アクリル樹脂 三菱レイヨン社製「アクリペット VH-001」【0098】<テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)>b-1:三井化学社製「DP-319」(本発明例)b-2:山田化学社製「TAP-18」(比較例)【0099】【化4】[図:0001390561000011.jpg]【0100】<紫外線吸収剤(C)>c-1:Ciba社製「チヌビン326」(2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール、最大吸収波長=353nm)c-2:シプロ化成社製「シーソーブ709」(2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、最大吸収波長=343nm)【0101】<染料(D)>d-1:有本化学社製「プラストオレンジ8150(Solvent Orange 60)」(ペリノン系、最大吸収波長=450nm)d-2:有本化学社製「プラストレッド8370(Solvent Red 179)」(ペリノン系、最大吸収波長=480nm)【0102】<安定剤(E)>e-1:ADEKA社製「アデカスタブ2112」(トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト)e-2:Ciba社製「イルガノックス1010」(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])【0103】<その他染料(F)>f-1:ランクセス社製「マクロレックス BlueRR(Solvent Blue 97)」(アンスラキノン系、最大吸収波長=630nm)f-2:ランクセス社製「マクロレックス Violet3R(Solvent Violet 36)」(アンスラキノン系、最大吸収波長=560nm)【0104】[実施方法](1)樹脂組成物の製法各材料を表1,2に示す重量比で配合し、タンブラーを用いてよく混合した。なお、混合に際し、(B)成分、(D)成分及び(F)成分については、予め粉体の透明性樹脂で100重量倍に薄めてマスターバッチを作成した後に混合した。得られた混合物を、田辺プラスチックス機械工業社製「VS40」を用いて280℃で溶融混練し、水中にストランド状に押し出し、切断してペレットとした。【0105】(2)試験片の成形<プレートの成形>(1)で得られたペレットを120℃で4時間乾燥した後、日本製鋼所社製「J55」を用い、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル1分で射出成形した。金型は80mm×40mm×(厚み2mmと1mm)の2段プレートを用いた。この試験片を用いて、分光光線透過率の測定と、耐候性試験、及び色相測定、赤色の鮮明度の評価を行った。<ISO試験片の成形>(1)で得られたペレットを120℃で4時間乾燥した後、住友重機械工業社製「SG75」を用い、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル1分で射出成形した。金型はISOのタイプAのダンベル片2個取り金型を用いた。試験片の厚みは3mmである。この試験片を用いて、衝撃強度の評価を行った。・・・中略・・・【0111】[実施例1~12、比較例1~3、参考例1,2]実施例1~12、比較例1~3、及び参考例1,2の樹脂組成物配合と、評価結果を表1,2に示す。また、実施例1~3,5~12、比較例1~3、及び参考例1,2における分光光線透過率の測定チャートを図1~13に示す。【0112】【表1】[図:0001390561000012.jpg]」
(4)甲5発明
甲5の請求項1を引用する請求項7には、「請求項1・・・に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズ」が記載されている。
また、甲5の【0096】を参照すると、甲5に記載の発明は実施例により更に詳細に説明されている。よって、甲5の請求項1の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を具現化した例の1つが、甲5の実施例9の樹脂組成物であるといえる。
そして、甲5の【0104】を参照すると、同【0112】【表1】には、実施例9の樹脂組成物の各材料の重量比が記載されており、使用樹脂及び添加剤の詳細は、同【0097】~【0102】に記載されている。
そうしてみると、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「透明性樹脂(A)100重量部と、下記構造式【化1】で表されるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)0.0001~0.01重量部とを含有する眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズであって、前記眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物は、下記に記載の使用樹脂及び添加剤を使用し、下記に示す重量比で各材料を配合したものである、続きを表示(全29行)眼鏡レンズ。【化1】[図:0001390561000013.jpg][使用樹脂及び添加剤]<透明性樹脂(A)>a-2:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンS-3000F」(粘度平均分子量[Mv]=23000)<テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)>b-1:三井化学社製「DP-319」(本発明例)[図:0001390561000014.jpg]<紫外線吸収剤(C)>c-1:Ciba社製「チヌビン326」(2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール、最大吸収波長=353nm)<染料(D)>d-1:有本化学社製「プラストオレンジ8150(Solvent Orange 60)」(ペリノン系、最大吸収波長=450nm)d-2:有本化学社製「プラストレッド8370(Solvent Red 179)」(ペリノン系、最大吸収波長=480nm)<安定剤(E)>e-1:ADEKA社製「アデカスタブ2112」(トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト)e-2:Ciba社製「イルガノックス1010」(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])[樹脂組成物配合]a‐2:100重量部b-1:0.001重量部c-1:0.3重量部d-1:0.01重量部d-2:0.007重量部e-1:0.05重量部e-2:0.05重量部」
2 甲1を主引用文献とした場合
(1)対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。
ア ポリカーボネート
甲1発明の「三菱エンジニアリングプラスチック社製「S-3000F」」について検討すると、参考としての特開2012-214795号公報の【0154】には、「三菱瓦斯化学社製ユーピロン(登録商標)S-3000(ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂)」と記載されている。
異議申立書の第20頁第14~17行によると、「S-3000F」は「S-3000」のフレーク(F)形態である。また、異議申立人が令和4年6月10日に提出した意見書の第10頁第1~5行の「ユーピロンシリーズは、三菱瓦斯化学株式会社により販売されている時期およびその子会社である三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社により販売されている時期の両方があります。しかしながら、同じ品番の樹脂は、同じものであると思量します。」という記載によると、甲1発明の「三菱エンジニアリングプラスチック社製「S-3000F」」は、「三菱瓦斯化学社製ユーピロン(登録商標)S-3000(ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂)」と同じ樹脂であるといえる。
したがって、甲1発明の「三菱エンジニアリングプラスチック社製「S-3000F」」は、特開2012-214795号公報の「三菱瓦斯化学社製ユーピロン(登録商標)S-3000(ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂)」と同じく、「ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂」であるので、本件訂正発明1の「ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型のポリカーボネート」に相当する。
また、甲1発明の「三菱エンジニアリングプラスチック社製「S-3000F」」は、甲1発明の組成の全体を100.2005質量部としたときに100質量部含まれているから、本件訂正発明1の「主材」に相当する。
イ 光吸収剤
甲1発明の「染料(a-1)」、「染料(b-1)」、「染料(c-1)」のいずれか一つ、又はこれらの染料の任意の組み合わせは、本件訂正発明1の「光吸収剤」に相当する。
「染料(a-1)」、「染料(b-1)」、「染料(c-1)」のいずれか一つ、又はこれらの染料の任意の組み合わせは、これらの分光光線透過率チャートによると、本件訂正発明1の「350nm以上740nm以下の波長域の光のうち、特定の波長の光を吸収する」ことは明らかである。
ウ 特定波長吸収層
上記アとイによれば、甲1発明の「光ビーコンフィルター」は、本件訂正発明1の「ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型のポリカーボネートを主材として、350nm以上740nm以下の波長域の光のうち、特定の波長の光を吸収する光吸収剤を含む特定波長吸収層」からなる「光ビーコンフィルター」であるといえる。
エ 光吸収剤の最大吸収波長
甲1発明の「染料(a-1)」、「染料(b-1)」、「染料(c-1)」のいずれか一つ、又はこれらの染料の任意の組み合わせは、これらの分光光線透過率チャートによると、本件訂正発明1の「420nm以上780nm以下の波長域に最大吸収波長を有し」という条件を満たすことは明らかである。
オ 光吸収剤の含有量
甲1発明の「染料(a-1)」、「染料(b-1)」、「染料(c-1)」のいずれか一つ、又はこれらの染料の任意の組み合わせは、本件訂正発明1の「特定波長吸収層中の前記光吸収剤の含有量は、0.001wt%以上5wt%以下であり」という条件を満たす。
カ 光学
甲1発明の「光ビーコンフィルター」は、本件訂正発明1の「光学シート」のうち「光学」物品である点で共通する。
(2)一致点及び相違点
本件訂正発明1と甲1発明は、下記アの点で一致し、下記イの点で相違する。
ア 一致点
「ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型のポリカーボネートを主材として、350nm以上740nm以下の波長域の光のうち、特定の波長の光を吸収する光吸収剤を含む特定波長吸収層を有し、前記光吸収剤は、420nm以上780nm以下の波長域に最大吸収波長を有し、前記特定波長吸収層中の前記光吸収剤の含有量は、0.001wt%以上5wt%以下である、光学物品。」
イ 相違点
相違点1
本件訂正発明1が、「光学シート」であるのに対し、甲1発明は、「光ビーコンフィルター」である点。
相違点2
本件訂正発明1は、「特定波長吸収層」に主材として含まれる「ポリカーボネート」が、
「粘度平均分子量がMv24000以上27500以下のものであり」、「吸水率0.04%以上0.15%以下のものであり」、「JIS K7210に準拠して測定されるメルトフローレートが3g/10min以上30g/10min以下のものである」もの」であるのに対し、甲1発明において用いられる「ポリカーボネート」が、これらの値を満たすか否か不明である点。
(3)判断
ア 相違点1について検討する。
本件訂正発明1は、「光学シート」に係る発明であって、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載を参照すると、基材に積層されて光学部品を構成することができ(請求項6)、具体的態様として、眼鏡やサングラス、サンバイザー等に貼付して用いられるものである(【0002】、実施形態)。そして、かかる光学シートにおいて、従来、染料の凝集の防止と高い強度との両立が困難であったところ、本件所定のポリカーボネートと光吸収剤の組み合わせを採用することにより、光吸収剤が凝集するのを防止するとともに、十分な強度を有する光学シートを提供した点に、技術的意義を有するものである。
他方、甲1発明は、「光ビーコンフィルター」に係る発明であって、「光ビーコンフィルター」という用途、【0035】の「光ビーコンフィルターの厚さは通常1~3mmであり、その形状は、組み込まれる態様などにより、平板状、湾曲板状などに形成される」との記載、及び、【0040】における「成形品(プレート)」との記載からみて、「板状」であることは明らかである。
ここで、「シート」に係る技術用語の意味について、本件出願時の技術常識を参照すると、マグロ―ヒル科学技術用語大辞典(株式会社日刊工業新聞社、2001年5月31日改訂第3版2刷発行、第733頁)によると、「シート」の意味として、「フィルムと類似した形態の材料.ただし、厚さ0.25mm以上のもの.」と記載されている。
加えて、日本標準産業分類(総務省、平成26年4月1日施行、令和4年7月13日検索、https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/02toukatsu01_03000044.html)における「大分類E-製造業」(総務省、平成26年4月1日施行、令和4年7月13日検索、https://www.soumu.go.jp/main_content/000290724.pdf)の「1822 プラスチックシート製造業」には、「シートとは,厚さが0.2ミリメートル以上で軟質製のものをいう。」と記載されている。
上記の記載から把握される技術常識を踏まえると、「光ビーコンフィルター」は、「板状」であることから、「フィルムと類似した形態の材料」ではなく、「組み込まれる態様などにより、・・・・湾曲板状などに形成」されるのであるから「軟質」であるともいえないから、「シート」であるとはいえない。
また、本件の発明の詳細な説明には、「シート」という用語について、上述の技術常識から把握される通常の意味と異なる明示の定義が置かれているわけでもなく、「光学シート」が、「光ビーコンフィルター」等の光学物品を広く包含する旨の記載もない。
したがって、本件訂正発明1と甲1発明は、そもそも用途が異なるうえ、その形状も、前者が「シート」状、後者が「板状」である点で異なり、技術思想として別異のものである。
そして、甲1には、「光ビーコンフィルター」を「光学シート」として用いることは記載も示唆もされていないし、「光ビーコンフィルター」に求められる形状、構造や、強度は、当然に、当該用途に適したものであるはずであるから、引用発明の「光ビーコンフィルター」を、「シート」状とし、「光学シート」とする動機づけは無いといわざるを得ない。
イ 相違点2について検討する。
前記アにおいても述べたとおり、本件訂正発明1は、成形時における光吸収剤の凝集を防止し、かつ、十分な強度を確保すべく、本件所定の粘度平均分子量、吸水率、メルトフローレートを有する「ポリカーボネート」を選択したものである。他方、甲1には、光吸収剤との混合を十分なものとするために適切なカーボネートを選択しようとする課題の認識がされておらず、かえって、「粘度平均分子量」につき、本件所定の「24000以上27500以下」を明らかに満たさない例しか記載されていないのであるから、甲1発明において、相違点2に係る本件所定の値を満たすポリカーボネートを採用することは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
ウ 効果
本件訂正発明1は、上記相違点1,2に係る構成を有することにより、「光学シート」において、「光吸収剤が凝集するのを防止するとともに、十分な強度を有する」(本件明細書【0038】)という有利な効果を有するものである。
特許異議申立人は、令和4年6月10日提出の意見書の第3頁下から2行~最終行において、「ポリカーボネートの粘度平均分子量が高くなれば、強度が高くなることは、例を挙げるまでもなく、周知の事項です。」と主張する。
しかしながら、仮に、強度を向上させるために粘度平均分子量を向上させることが周知であったとしても、光学シートに求められる強度を保持しつつ、光吸収剤が凝集するのを防止するために「24000以上27500以下」の粘度平均分子量とすることが周知技術であるという証拠は提示されていない。
したがって、異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(4)小括
本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものであるところ、本件訂正発明2~6も、同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 甲5を主引用文献とした場合
(1)対比
本件訂正発明1と甲5発明を対比する。
ア ポリカーボネート
甲5発明の「a-2:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンS-3000F」(粘度平均分子量[Mv]=23000)」は、上記「2(2)ア」と同様に、本件訂正発明1の「ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型のポリカーボネート」に相当する。
また、甲5発明の「a-2:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンS-3000F」(粘度平均分子量[Mv]=23000)」は、甲5発明の組成の全体を100.418質量部としたときに100質量部含まれているから、本件訂正発明1の「主材」に相当する。
イ 光吸収剤
甲5発明の「染料(D)」における「d-1:有本化学社製「プラストオレンジ8150(Solvent Orange 60)」(ペリノン系、最大吸収波長=450nm)」、「d-2:有本化学社製「プラストレッド8370(Solvent Red 179)」(ペリノン系、最大吸収波長=480nm)」は、いずれも、本件訂正発明1の「350nm以上740nm以下の波長域の光のうち、特定の波長の光を吸収する」「光吸収剤」に相当する。
ウ 特定波長吸収層
上記アとイによれば、甲5発明の「眼鏡レンズ」は、本件訂正発明1の「ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型のポリカーボネートを主材として、350nm以上740nm以下の波長域の光のうち、特定の波長の光を吸収する光吸収剤を含む特定波長吸収層」からなる「眼鏡レンズ」であるといえる。
エ 光吸収剤の最大吸収波長
甲5発明の「d-1:有本化学社製「プラストオレンジ8150(Solvent Orange 60)」(ペリノン系、最大吸収波長=450nm)」、「d-2:有本化学社製「プラストレッド8370(Solvent Red 179)」(ペリノン系、最大吸収波長=480nm)」は、いずれも、本件訂正発明1の「420nm以上780nm以下の波長域に最大吸収波長を有し」という条件を満たす。
オ 光吸収剤の含有量
甲5発明の「d-1:有本化学社製「プラストオレンジ8150(Solvent Orange 60)」(ペリノン系、最大吸収波長=450nm)」、「d-2:有本化学社製「プラストレッド8370(Solvent Red 179)」(ペリノン系、最大吸収波長=480nm)」は、いずれも、本件訂正発明1の「特定波長吸収層中の前記光吸収剤の含有量は、0.001wt%以上5wt%以下であり」という条件を満たす。
カ 光学
甲5発明の「眼鏡レンズ」は、本件訂正発明1の「光学シート」のうち「光学」物品である点で共通する。
(2)一致点及び相違点
本件訂正発明1と甲5発明は、下記アの点で一致し、下記イの点で相違する。
ア 一致点
「ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型のポリカーボネートを主材として、350nm以上740nm以下の波長域の光のうち、特定の波長の光を吸収する光吸収剤を含む特定波長吸収層を有し、前記光吸収剤は、420nm以上780nm以下の波長域に最大吸収波長を有し、前記特定波長吸収層中の前記光吸収剤の含有量は、0.001wt%以上5wt%以下である、光学物品。」
イ 相違点
相違点3
本件訂正発明1は、「光学シート」であるのに対し、甲5発明は「眼鏡レンズ」である点。
相違点4
本件訂正発明1は、「特定波長吸収層」に主材として含まれる「ポリカーボネート」が、
「粘度平均分子量がMv24000以上27500以下のものであり」、「吸水率0.04%以上0.15%以下のものであり」、「JIS K7210に準拠して測定されるメルトフローレートが3g/10min以上30g/10min以下のものである」もの」であるのに対し、甲5発明において用いられる「ポリカーボネート」が、これらの値を満たすか否か不明である点。
(3)判断
ア 相違点3について検討する。
本件訂正発明1は、「光学シート」に係る発明であって、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載を参照すると、基材に積層されて光学部品を構成することができ(請求項6)、具体的態様として、眼鏡やサングラス、サンバイザー等に貼付して用いられるものである(【0002】、実施形態)。
他方、甲5発明は「眼鏡レンズ」に係る発明であって、上記2(3)に記載した技術常識を踏まえれば、「眼鏡レンズ」は、「フィルムと類似した形態の材料」でも「軟質」でもないのであるから、「光学シート」であるとはいえず、そもそも、本件訂正発明1と甲5発明とは技術思想として別異のものである。
また、甲5の実施例に記載の「試験片」としての「プレート」(【0105】)は、「板」であって「シート」ではないし、甲5のその他の箇所を参照しても、甲5には、「光学シート」とすることが記載も示唆もされていない。
また、「眼鏡レンズ」に求められる形状、構造や、強度は、当然に、当該用途に適したものであるはずであるから、引用発明の「眼鏡レンズ」を、「シート」状とし、「光学シート」とする動機づけは無いといわざるを得ない。
イ 相違点4について検討する。
本件訂正発明1は、成形時における光吸収剤の凝集を防止し、かつ、十分な強度を確保すべく、本件所定の粘度平均分子量、吸水率、メルトフローレートを有する「ポリカーボネート」を選択したものである。他方、甲5には、光吸収剤との混合を十分なものとするために適切なカーボネートを選択しようとする課題の認識すらされていないのであるから、「ポリカーボネート」のうち、本件所定の値を満たすものを選択しようとする動機付けはなく、甲5発明において、相違点2に係る本件所定の値を満たすポリカーボネートを採用することは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
異議申立人は、異議申立書の第32頁第4~8行において甲5の実施例9、11、12を指摘し、かつ、令和4年6月10日提出の意見書の第4頁第10~13行において甲5の実施例8、10を指摘している。
しかし、甲5の実施例9の替わりに、甲5の実施例8、10、11、12のいずれかに基づいて甲5発明を認定したとしても、相違点3の判断は上記と同様である。
(4)小括
本件訂正発明1は、甲5に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1の構成を全て具備する。そうすると、本件訂正発明2~6も、同様に、甲5に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものはい。
第7 異議申立人の意見書のその他の主張について
異議申立人は、令和4年6月10日提出の意見書の第11頁10行以降において、「(3)適切な取消理由を構成することが一見して明らかである理由について(新規性および進歩性)」と題する主張を、当該意見書に添付して提出した参考資料4及び参考資料3に基づいて主張する。
また、異議申立人は、同第20頁下から3行以降において、「(4)適切な取消理由を構成することが一見して明らかである理由について(明確性)」と題する主張を、当該意見書に添付して提出した参考資料1~参考資料3に基づいて主張する。
しかし、これらの主張は、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由に係るものではなく、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合に係るものともいえず、かつ、実質的に新たな理由を主張するものといえるため、採用しない。
第8 むすび
以上によれば、取消理由通知書に係る取消理由及び特許異議申立書に係る特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1~6についての特許を取り消すことはできない。また、本件訂正発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700924